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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】スリットダイ及びそれを備えた塗工装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/02 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B05C5/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020091423
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021186707
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲也
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-089871(JP,A)
【文献】特開2002-370057(JP,A)
【文献】TWM577762(TW,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00-21/00
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗液を基材に対して幅方向に均一に塗布するためのスリットダイであって、
前記幅方向に延び、前記塗液を該幅方向に広げるメインマニホールドと、
前記メインマニホールドよりも幅狭で、該メインマニホールドから流入した前記塗液を前記基材に塗布するスリットと、を備え、
前記メインマニホールドは、前記幅方向における両端部に、該幅方向において前記スリットと重ならない部分である非重なり部をそれぞれ有し、
前記メインマニホールドは、前記塗液が流入する第1流入部が、前記非重なり部にそれぞれ設けられ、
前記スリットダイは、
前記幅方向に延び、前記塗液を該幅方向に広げるサブマニホールドと、
前記サブマニホールドと前記メインマニホールドとを接続し、前記塗液を該サブマニホールドから該メインマニホールドに流す接続通路と、をさらに備え、
前記接続通路は、前記各第1流入部に接続した第1接続通路を含み、
前記接続通路を流れる前記塗液の大部分は、前記第1接続通路を流れる、スリットダイ。
【請求項2】
請求項1において、
前記メインマニホールドの断面積は、前記幅方向における中央部の方が、前記非重なり部よりも小さい、スリットダイ。
【請求項3】
請求項1又は2において
記サブマニホールドは、前記塗液が流入する第2流入部が、1つのみ設けられている、スリットダイ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つにおいて、
前記接続通路は、前記メインマニホールドの前記幅方向における中央部に接続した第2接続通路をさらに含み、
前記第2接続通路の断面積は、前記第1接続通路各々の断面積よりも小さい、スリットダイ。
【請求項5】
請求項4において、
前記スリットは、スペーサを介して互いに接合された2つのブロックの隙間からなり、
前記第2接続通路は、前記スペーサに形成された切り欠きからなる、スリットダイ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つにおいて、
前記各第1流入部は、前記幅方向における全体が、前記各非重なり部に含まれている、スリットダイ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つにおいて、
前記接続通路は、前記第1接続通路のみを含む、スリットダイ。
【請求項8】
塗液を基材に対して幅方向に均一に塗布するためのスリットダイであって、
前記幅方向に延び、前記塗液を該幅方向に広げるメインマニホールドと、
前記メインマニホールドよりも幅狭で、該メインマニホールドから流入した前記塗液を前記基材に塗布するスリットと、を備え、
前記メインマニホールドは、前記幅方向における両端部に、該幅方向において前記スリットと重ならない部分である非重なり部をそれぞれ有し、
前記メインマニホールドは、前記塗液が流入する第1流入部が、前記非重なり部にそれぞれ設けられ、
前記メインマニホールドの断面積は、前記幅方向における中央部の方が、前記非重なり部よりも小さい、スリットダイ。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか1つに記載のスリットダイと、
前記塗液を前記スリットダイに供給する供給手段と、を備えた、塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スリットダイ及びそれを備えた塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばロールtoロール法によって搬送されるウェブ(基材)に塗膜を形成する方法として、スリットダイを用いた塗工方法が知られている。スリットダイは、マニホールドによって塗液を幅方向に広げて、スリットから塗液をウェブ(基材)に対して幅方向に均一に塗布する。スリットダイに関して、種々の発明が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示のTダイ(スリットダイ)には、マニホールドへの塗液の供給口が複数設けられている。これにより、供給口が1つの場合に比較して、幅方向における吐出量分布が良好な塗膜を基材に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-128805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に係るスリットダイでは、塗工が長時間に及ぶ場合、マニホールドにおける幅方向の両端部に塗液の滞留が発生し、塗液の固形分が沈降してしまうことがあった。塗液の沈降は、幅方向における吐出量分布の悪化や、沈降物がスリットへ流出することによるスジ状の塗工ムラの発生等の原因となり、好ましくない。
【0006】
特に、マニホールド幅よりもスリット幅(塗工幅)を狭くする場合、マニホールドの幅方向両端部におけるスリットと重ならない部分において、塗液の滞留が発生し、塗液の固形分が沈降しやすい。
【0007】
本開示は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的とするところは、スリット幅がマニホールド幅よりも狭いスリットダイにおいて、マニホールドの幅方向両端部における塗液の沈降を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るスリットダイは、塗液を基材に対して幅方向に均一に塗布するためのスリットダイであって、上記幅方向に延び、上記塗液を上記幅方向に広げるメインマニホールドと、上記メインマニホールドよりも幅狭で、上記メインマニホールドから流入した上記塗液を上記基材に塗布するスリットと、を備え、上記メインマニホールドは、上記幅方向における両端部に、上記幅方向において上記スリットと重ならない部分である非重なり部をそれぞれ有し、上記メインマニホールドは、上記塗液が流入する第1流入部が、上記非重なり部にそれぞれ設けられている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、スリット幅がマニホールド幅よりも狭いスリットダイにおいて、マニホールドの幅方向両端部における塗液の沈降を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の第1の実施形態に係るスリットダイを備えた塗工装置を模式的に示す図である。
図2図2は、第1の実施形態に係るスリットダイの正面断面図である。
図3図3は、第1の実施形態に係るスリットダイの平面断面図である。
図4図4は、第2の実施形態に係るスリットダイの平面断面図である。
図5図5は、第3の実施形態に係るスリットダイの正面断面図である。
図6図6は、第3の実施形態に係るスリットダイの平面断面図である。
図7図7は、第3の実施形態に係るスリットダイの側面断面図である。
図8図8は、第4の実施形態に係るスリットダイの平面断面図である。
図9図9は、第5の実施形態に係るスリットダイの正面断面図である。
図10図10は、第5の実施形態に係るスリットダイの平面断面図ある。
図11図11は、第5の実施形態に係るスリットダイの側面断面図である。
図12図12は、その他の実施形態に係るスリットダイの平面断面図である。
図13図13は、比較例に係るスリットダイの平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物あるいはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本開示の第1の実施形態に係る塗工装置1を模式的に示す。塗工装置1は、基材に対して所定幅の塗膜を形成するためのものである。本実施形態では、基材として、ロールtoロール法によって連続搬送されるウェブ2を例示する。ウェブ2は、長尺の帯状に形成されており、ロール3に巻き掛けられている。
【0013】
塗工装置1は、スリットダイ10を備える。スリットダイ10は、塗液をウェブ2に対して幅方向(図1においてBで示す)に均一に塗布するためのものである。幅方向は、ウェブ2の長手方向すなわちウェブ2の搬送方向(図1においてAで示す)に対して、直交する方向をいう。
【0014】
スリットダイ10の吐出口11は、ロール3の外周面に対して所定の距離だけ離れて対向している。ロール3を回転させながら、すなわちウェブ2を連続搬送しながら、スリットダイ10の吐出口11から塗液を吐出することによって、ウェブ2に所定幅の塗膜が形成される。塗工装置1によって塗膜が形成されたウェブ2は、乾燥炉(図示せず)で乾燥される。乾燥炉において、塗膜内に含まれる揮発成分が除去される。
【0015】
塗工装置1は、供給手段としてのポンプ4を備える。ポンプ4は、塗液をスリットダイ10の供給口12に供給する。本実施形態において、スリットダイ10には、2つの供給口12が設けられている。
【0016】
吐出口11は、スリットダイ10におけるウェブ2に近い側(以下、「前側」という)に設けられている。供給口12は、スリットダイ10におけるウェブ2から遠い側(以下、「後側」という)に設けられている。
【0017】
スリットダイ10の構成について、詳細に説明する。図2,3は本実施形態に係るスリットダイ10を示し、図2はII-II線における正面断面図、図3はIII-III線における平面断面図である。
【0018】
図2に示すように、スリットダイ10は、2つのブロックとして、上ブロック13と、下ブロック14と、を有する。上ブロック13と下ブロック14とは、スペーサ15を介して、互いに接合されている。スペーサ15の厚みは、例えば1mm以下である。
【0019】
図3に示すように、スペーサ15は、上ブロック13と下ブロック14との間において、後側の幅方向全部分15a及び前側の幅方向両側部分15bに介在しており、前側の幅方向中央部分には介在していない。これにより、前側の幅方向中央部分において、上ブロック13と下ブロック14との隙間からなるスリット16が形成される。スリット16の前端部は、吐出口11を構成している。
【0020】
スリット16の厚みは、スペーサ15の厚みに略一致する。スリット16の幅方向は、ウェブ2の幅方向に一致する。スリット16の幅寸法B1は、吐出口11から塗布される塗液の塗工幅であり、ウェブ2に形成される塗膜の幅寸法に略一致する。
【0021】
図2,3に示すように、スリットダイ10は、メインマニホールド17を備える。メインマニホールド17は、下ブロック14における上ブロック13側に臨む面に形成された凹部からなる。メインマニホールド17は、スリット16より後側を幅方向に延びており、例えば横断面半円状(図2参照)に形成されている。メインマニホールド17は、下ブロック14の幅方向両側の側壁部を貫通していない。図3に示すように、メインマニホールド17は、スペーサ15で覆われておらず、上ブロック13側に臨んでいる。
【0022】
図3に示すように、スリット16は、メインマニホールド17よりも幅狭である。換言すると、スリット16の幅寸法B1は、メインマニホールド17の幅寸法B2よりも小さい。すなわち、メインマニホールド17は、幅方向両端部17aに、幅方向においてスリット16と重ならない部分24(以下、「非重なり部24」という)をそれぞれ有する。
【0023】
メインマニホールド17は、2つの第1流入部19を有する。具体的には、メインマニホールド17は、第1流入部19が、非重なり部24(幅方向両端部17a)にそれぞれ設けられている。各第1流入部19は、幅方向における全体が、メインマニホールド17の各非重なり部24に含まれている。各第1流入部19は、例えば、メインマニホールド17の壁部に空けられた流入口で構成されている。
【0024】
下ブロック14の後壁部には、2つの供給口12が開口している。図3に示すように、各供給口12は、幅方向に互いに並んでいる。各供給口12からは、供給路18が前方に延びている。各供給路18は、メインマニホールド17の各第1流入部19に接続している。
【0025】
塗工装置1の動作について説明する。ポンプ4によって圧送された塗液は、スリットダイ10における2つの供給口12に供給され、2つの供給路18を経由して、メインマニホールド17における2つの非重なり部24に設けられた2つの第1流入部19から、メインマニホールド17内に流入する。メインマニホールド17内に流入した塗液は、幅方向に広げられて、メインマニホールド17内を幅方向に行き亘り、スリット16に流入する。
【0026】
メインマニホールド17からスリット16に流入した塗液は、吐出口11から吐出されて、ウェブ2に対して幅方向に均一に塗布される。これにより、ウェブ2に所定幅の塗膜が形成される。
【0027】
ここで、上述したように、メインマニホールド17における非重なり部24は、幅方向においてスリット16に重なっていない。このため、塗液は、非重なり部24において、メインマニホールド17からスリット16へ流出しにくい。すなわち、塗液が非重なり部24において滞留しやすくなるので、塗液の固形分が非重なり部24において沈降しやすくなる。塗液の沈降は、幅方向における吐出量分布の悪化や、沈降物がスリット16へ流出することによるスジ状の塗工ムラの発生等の原因となり、好ましくない。
【0028】
そこで、本実施形態では、メインマニホールド17の非重なり部24各々に第1流入部19を設けることによって、非重なり部24における塗液の流動を促している。これにより、メインマニホールド17の非重なり部24において塗液が滞留することを抑制することができるので、非重なり部24において塗液の固形分が沈降することを抑制することができる。したがって、幅方向における吐出量分布を良好にしたり、スジ状の塗工ムラが発生することを抑制したりすることができる。
【0029】
特に、電池電極の製造においては、品種の切り替えによって塗工幅(スリット幅)を変化させる場合が多いので、本実施形態に係るスリットダイ10を適用することは有効である。
【0030】
さらに、本実施形態では、各第1流入部19の幅方向における全体がメインマニホールド17の各非重なり部24に含まれているので、より確実に、非重なり部24における塗液の滞留を抑制して、非重なり部24における塗液の固形分の沈降を抑制することができる。
【0031】
以上の通り、本実施形態によれば、スリット16の幅がメインマニホールド17の幅よりも狭いスリットダイ10において、メインマニホールド17の幅方向両端部17a(非重なり部24)における塗液の沈降を抑制することができる。
【0032】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係るスリットダイ10について、図4を参照しながら説明する。以下の説明において、上記実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0033】
本実施形態では、メインマニホールド17の断面積は、幅方向中央部17bの方が、非重なり部24各々よりも小さい。ここでいう断面積は、幅方向(メインマニホールド17における塗液の広がり方向)に直交する断面の断面積である。具体的には、メインマニホールド17の後側の縦壁部には、幅方向中央部17bにおいて、幅方向外側から幅方向中央側に向かうに従って前側に突出するテーパ部17cが設けられている。テーパ部17cを設けることによって、メインマニホールド17の幅方向中央部17bにおける前後幅(前後方向の幅、幅方向に直交する水平方向の幅)が小さくなって、断面積が絞られている。
【0034】
ここで、メインマニホールド17の非重なり部24に設けられた第1流入部19は、幅方向中央部17bから離れて位置する。このため、塗液は、第1流入部19から幅方向中央部17bに至るまでの圧損等によって、幅方向中央部17bにおいて、やや流れにくくなる。すなわち、幅方向中央部17bにおいて、塗液の沈降が発生する可能性がある。
【0035】
そこで、本実施形態では、メインマニホールド17の後側の縦壁部にテーパ部17cを設けて幅方向中央部17bの断面積を絞ることによって、幅方向中央部17bを幅方向に流れる塗液の流速を、速くすることとした。これにより、メインマニホールド17の非重なり部24だけでなく幅方向中央部17bにおいても、塗液の沈降を抑制することができる。
【0036】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係るスリットダイ10について、図5~7を参照しながら説明する。以下の説明において、上記実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0037】
本実施形態では、スリットダイ10は、サブマニホールド20と、接続通路21と、をさらに備える。サブマニホールド20は、下ブロック14における上ブロック13側に臨む面に形成された凹部からなる。サブマニホールド20は、メインマニホールド17よりも後側を幅方向に延びており、例えば横断面半円状(図5参照)に形成されている。サブマニホールド20は、下ブロック14の幅方向両側の側壁部を貫通していない。図6に示すように、サブマニホールド20は、スペーサ15で覆われている。サブマニホールド20の幅寸法とメインマニホールド17の幅寸法とは、互いに同じであることが好ましい。
【0038】
図6に示すように、サブマニホールド20には、第2流入部22が1つのみ設けられている。具体的には、第2流入部22は、サブマニホールド20の幅方向中央部20bに設けられている。第2流入部22は、例えば、サブマニホールド20の壁部に空けられた流入口で構成されている。
【0039】
また、本実施形態では、上記実施形態とは異なり、図6に示すように、下ブロック14の後壁部には、供給口12が1つのみ開口している(図1の二点鎖線も参照)。供給口12は、幅方向中央部に位置する。供給口12からは、供給路18が前方に延びている。供給路18は、サブマニホールド20の第2流入部22に接続されている。
【0040】
接続通路21は、サブマニホールド20とメインマニホールド17とを接続している。本実施形態では、接続通路21は、2つの第1接続通路21aを含む。ここで、サブマニホールド20の幅方向両端部20a各々には、流出部23が設けられている(図6参照)。各流出部23は、例えば、サブマニホールド20の壁部に空けられた流出口で構成されている。各第1接続通路21aは、サブマニホールド20の各流出部23に接続するとともに、メインマニホールド17の各第1流入部19に接続している。
【0041】
図7に示すように、各第1接続通路21aは、下ブロック14における上ブロック13側に臨む面に形成された凹部からなる。第1接続通路21aは、サブマニホールド20とメインマニホールド17との間を前後方向に延びており、例えば横断面矩形状に形成されている。図5に示すように、各第1接続通路21aは、サブマニホールド20側(後側)からメインマニホールド17側(前側)にかけて下方に傾斜している。
【0042】
本実施形態では、ポンプ4によって圧送された塗液は、スリットダイ10における1つの供給口12に供給され、1つの供給路18を経由して、サブマニホールド20の幅方向中央部20bに設けられた1つの第2流入部22からサブマニホールド20内に流入する。サブマニホールド20内に流入した塗液は、幅方向に広げられて、サブマニホールド20内を幅方向に行き亘り、幅方向両端部20aに設けられた2つの流出部23から、2つの第1接続通路21aに流入する。2つの第1接続通路21aに流入した塗液は、サブマニホールド20側からメインマニホールド17側に流れ、メインマニホールド17における2つの非重なり部24に設けられた2つの第1流入部19から、メインマニホールド17内に流入する。以降の塗液の流れは、上記実施形態と同じである。
【0043】
本実施形態では、メインマニホールド17よりも上流側(後側)に、第2流入部22を1つのみ有するサブマニホールド20を設けることによって、ポンプ4に連通する供給口12の個数を1つにすることができる。これにより、ポンプ4とスリットダイ10とを接続する配管の構成を簡素化することができる。
【0044】
(第4の実施形態)
第4の実施形態に係るスリットダイ10について、図8を参照しながら説明する。以下の説明において、上記実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0045】
本実施形態は、第2の実施形態と第3の実施形態とを組み合わせたものであり、メインマニホールド17の幅方向中央部17bにテーパ部17cを設けるとともに、サブマニホールド20と2つの第1接続通路21aとを備えている。
【0046】
本実施形態によれば、第2の実施形態及び第3の実施形態の両方の効果を併せて実現することができる。すなわち、メインマニホールド17の幅方向中央部17bにおける塗液の沈降の抑制、及びポンプ4とスリットダイ10とを接続する配管構成の簡素化を、併せて実現することができる。
【0047】
(第5の実施形態)
第5の実施形態に係るスリットダイ10について、図9~11を参照しながら説明する。以下の説明において、上記実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0048】
本実施形態では、接続通路21は、2つの第1接続通路21aに加えて、1つの第2接続通路21bをさらに含む。第2接続通路21bは、サブマニホールド20の幅方向中央部20bに接続するとともに、メインマニホールド17の幅方向中央部17bに接続している。
【0049】
本実施形態では、図10に示すように、スペーサ15の幅方向中央部において、サブマニホールド20の直上からメインマニホールド17に至る部分には、切り欠き15cが形成されている。第2接続通路21bは、スペーサ15の切り欠き15cからなる。第2接続通路21b(切り欠き15c)は、サブマニホールド20の幅方向中央部20bの直上からメインマニホールド17まで前後方向に延びており、例えば横断面矩形状(図11参照)に形成されている。
【0050】
図11において、d1は第1接続通路21aの深さ寸法、d2は第2接続通路21bの深さ寸法である。ここでいう深さ寸法は、上下方向の高さ寸法をいう。なお、図11では、第2接続通路21bを強調して示すため、深さ寸法d2を実際よりも大きめに図示している。第2接続通路21bの深さ寸法d2は、スペーサ15の厚み寸法に略一致しており、例えば1mm以下である。一方、各第1接続通路21aの深さ寸法d1は、例えば数mm~数十mmである。すなわち、第2接続通路21bの深さ寸法d2は、各第1接続通路21aの深さ寸法d1に比べて、かなり小さい。これにより、第2接続通路21bの断面積は、第1接続通路21a各々の断面積よりも小さくなっている。
【0051】
本実施形態では、ポンプ4によって圧送された塗液は、スリットダイ10における1つの供給口12に供給され、1つの供給路18を経由して、サブマニホールド20における1つの第2流入部22からサブマニホールド20内に流入する。サブマニホールド20内に流入した塗液は、幅方向に広げられて、サブマニホールド20内を幅方向に行き亘り、幅方向両端部20aに設けられた2つの流出部23及び幅方向中央部20bの直上から、2つの第1接続通路21a及び1つの第2接続通路21bに流入する。これら接続通路21a,21bに流入した塗液は、サブマニホールド20側からメインマニホールド17側に流れ、メインマニホールド17における2つの非重なり部24に設けられた2つの第1流入部19及び幅方向中央部17bの直上から、メインマニホールド17内に流入する。以降の塗液の流れは、上記実施形態と同じである。
【0052】
上述したように、メインマニホールド17の非重なり部24に設けられた第1流入部19が幅方向中央部17bから離れて位置するので、塗液は、幅方向中央部17bにおいて、やや流れにくくなっており、沈降しやすい。そこで、本実施形態では、メインマニホールド17の幅方向中央部17bに第2接続通路21bを接続することによって、幅方向中央部17bにおける塗液の流動を促している。これにより、メインマニホールド17の非重なり部24だけでなく幅方向中央部17bにおいても、塗液の沈降を抑制することができる。
【0053】
さらに、第2接続通路21bの断面積を第1接続通路21a各々の断面積よりも小さくすることによって、第2接続通路21bを流れる塗液の流量を、各第1接続通路21aを流れる塗液の流量よりも、小さくすることができる。すなわち、塗液の大部分を各第1接続通路21aからメインマニホールド17の各非重なり部24に流すとともに、塗液のごく一部を第2接続通路21bからメインマニホールド17の幅方向中央部17bに流すことができる。これにより、塗液の大部分をメインマニホールド17の非重なり部24における塗液の沈降の抑制に寄与させるとともに、塗液のごく一部を幅方向中央部17bにおける塗液の沈降の抑制に寄与させることができる。
【0054】
また、第2接続通路21bが薄いスペーサ15に形成された切り欠き15cで構成されるので、断面積の小さな第2接続通路21bを簡単に作ることができる。
【0055】
(その他の実施形態)
以上、本開示を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【0056】
上記実施形態では、各第1流入部19の幅方向における全体がメインマニホールド17の非重なり部24に含まれているが(図3等参照)、図12に示すように、例えば各第1流入部19のうちの幅方向内側の一部分がメインマニホールド17における幅方向においてスリット16と重なる部分(重なり部)に多少含まれも差し支えない。すなわち、各第1流入部19のうちの少なくとも一部分が幅方向においてメインマニホールド17における非重なり部24に含まれていればよいのであって、図12に示すように、例えば各第1流入部19が幅方向において非重なり部24と重なり部とを跨るように設けられても差し支えない。
【0057】
上記実施形態では、メインマニホールド17、サブマニホールド20、第1接続通路21aは、下ブロック14における上ブロック13側に臨む面に形成された凹部で構成されるが、これに限定されず、例えば下ブロック14内に形成された空洞で構成されてもよく、例えば上ブロック13に形成されてもよい。
【0058】
上記実施形態では、スリットダイ10及び塗工装置1は、ロールtoロール法によって連続搬送されるウェブ2に対して塗液を塗布するために用いられるが、これに限定されない。スリットダイ10及び塗工装置1は、例えば、ステージ上に載置されたガラス基板に対して塗液を塗布するために用いられてもよい。
【0059】
第2,4の実施形態では、メインマニホールド17の幅方向中央部17bの断面積を絞るために、幅方向中央部17bの前後幅を小さくしているが、これに限定されない。例えば、メインマニホールド17の幅方向中央部17bの深さ(上下方向の高さ)を、非重なり部24の深さよりも浅くすることによって、幅方向中央部17bの断面積を絞ってもよい。
【0060】
第3~5の実施形態では、2つの第1接続通路21aは、互いに完全に独立した通路で構成されているが、これに限定されない。2つの第1接続通路21aは、例えば、サブマニホールド20の幅方向中央部20bに接続されてメインマニホールド17側に延びる主通路の途中から分岐する構成でもよい。
【0061】
第5の実施形態では、第2接続通路21bはスペーサ15に形成された切り欠き15cで構成されているが、これに限定されない。第2接続通路21bは、例えば下ブロック14における上ブロック13側に臨む面に形成された凹部で構成されてもよい。
【0062】
第5の実施形態では、第2接続通路21bの深さ寸法d2を各第1接続通路21aの深さ寸法d1に比べてかなり小さくすることによって、第2接続通路21bの断面積を、第1接続通路21a各々の断面積よりも小さくなるように調整しているが、これに限定されない。例えば、第2接続通路21bの横幅(図11における左右方向の幅)を狭くしたり、各第1接続通路21aの横幅を広くしたりすることによって、第2接続通路21bの断面積を、第1接続通路21a各々の断面積よりも小さくなるように調整してもよい。
【実施例
【0063】
(実施例1)
電池極板製造用の塗工装置1を用いた。ウェブ2として銅箔(厚み:10μm)を用いた。塗液としてのスラリーは、固形分として、黒鉛粉末を96質量%、カルボキシメチルセルロース(CMC)を2質量%、スチレンブタジエンゴム(SBR)を2質量%含んでおり、当該固形分に溶剤としての純水を混合した。
【0064】
第1の実施形態に係るスリットダイ10を用いた(図2,3参照)。メインマニホールド17の幅寸法B2を600mm、メインマニホールド17の断面積を6.3cm、スリット16の幅寸法B1を500mm、塗液の流量を10ml/secとして、48時間塗工を行って、電池極板を作製した。
【0065】
(実施例2)
第2の実施形態に係るスリットダイ10を用いた(図4参照)。メインマニホールド17の幅方向中央の断面積を3.5cm、メインマニホールド17の幅方向中央から50mm外側にずれた位置での断面積を6.3cmとなるように、テーパ形状(テーパ部17c)を設けた。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0066】
(実施例3)
第3の実施形態に係るスリットダイ10を用いた(図5~7参照)。サブマニホールド20の幅寸法を600mm、各第1接続通路21aの断面積を2.1cmとした。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0067】
(実施例4)
第4の実施形態に係るスリットダイ10を用いた(図8参照)。寸法等の条件は、実施例2及び実施例3と同じである。
【0068】
(実施例5)
第5の実施形態に係るスリットダイ10を用いた(図9~11参照)。第2接続通路21bの断面積を1.0cmとした。その他の条件は、実施例3と同じである。
(比較例)
従来技術に係るスリットダイ110を用いた(図13参照)。図13に示すように、スリットダイ110のメインマニホールド17には、塗液が流入する流入部119が幅方向中央部17bに1つのみ設けられている。スリットダイ110の後壁部には、1つの供給口12が設けられている。流入部119と供給口12とは、供給路18によって互いに連通している。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0069】
(評価)
実施例1~5及び比較例によって得られた電池極板の幅方向における吐出量分布を、以下のように測定して評価した。作製した電池極板を幅方向に沿って50mm間隔で10点、直径30mmのサイズで打ち抜いて、それぞれの重量を測った。10点の測定値を用いて、最大値と最小値との差を平均値で除した値を、幅方向における吐出量分布として算出した。算出結果を表1に示す。
【0070】
また、実施例1~5及び比較例に係るスリットダイ10(110)のメインマニホールド17における塗液の固形分の沈降を評価した。具体的には、塗工完了後のスリットダイ10(110)を分解して、メインマニホールド17における塗液の固形分の沈降の有無を観察した。沈降が発生していた場合、具体的にはスラリーを除去してもなお固形物が残った場合には、沈降している(残った)固形分(固形物)を丁寧に集めて、その重量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0071】
表1に示すように、実施例1~5では、比較例に対して、メインマニホールド17における塗液の固形分の沈降が抑制されている。本開示に係るスリットダイ10によって、メインマニホールド17の幅方向両端部17a(非重なり部24)における塗液の滞留を抑制したためである。
【0072】
実施例1と実施例2とを比較すると、実施例1ではメインマニホールド17の幅方向中央部17bに軽微な沈降が発生しているが、実施例2では沈降が発生していない。実施例2において、メインマニホールド17の幅方向中央の断面積を小さくして、幅方向中央部17bにおける塗液の沈降を抑制したためである。しかし、実施例2では、幅方向における吐出量分布が実施例1に比較して若干悪化している。すなわち、沈降の抑制と吐出量分布の向上とは、トレードオフの関係にあるといえる。
【0073】
実施例3と実施例4とを比較すると、実施例1と実施例2との比較と同様に、沈降の抑制と吐出量分布の向上とがトレードオフの関係になっている。
【0074】
実施例5では、メインマニホールド17の幅方向中央部17bに第2接続通路21bを接続することによって、沈降の抑制と吐出量分布の向上とを両立している。
【0075】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本開示は、スリットダイ及びそれを備えた塗工装置に適用できるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0077】
B 幅方向
B1 幅寸法
B2 幅寸法
1 塗工装置
2 ウェブ(基材)
4 ポンプ(供給手段)
10 スリットダイ
13 上ブロック(2つのブロック)
14 下ブロック(2つのブロック)
15 スペーサ
15c 切り欠き
16 スリット
17 メインマニホールド
17a 幅方向両端部
17b 幅方向中央部
19 第1流入部
20 サブマニホールド
21 接続通路
21a 第1接続通路
21b 第2接続通路
22 第2流入部
24 非重なり部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13