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特許7557731蒸気発生体、蒸気発生装置及び蒸気発生体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】蒸気発生体、蒸気発生装置及び蒸気発生体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06F 75/14 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
D06F75/14 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023538454
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2022028043
(87)【国際公開番号】W WO2023008253
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2021125224
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】村田 敦史
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-516746(JP,A)
【文献】特開2011-131141(JP,A)
【文献】特開平08-200168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 75/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マーキング面を表面の一部に有する蒸気発生体であって、
前記マーキング面は、当該マーキング面以外の領域と比べて、ライデンフロスト現象が発生する最低温度が5℃以上高く、
前記マーキング面には、
所定方向に沿って、複数の凹部と複数の凸部とがそれぞれ交互に所定のピッチで平面状に配置された凹凸構造と、
前記所定のピッチ以上の幅を有する溝とが形成されており、
前記凹凸構造は前記溝内に形成されている
蒸気発生体。
【請求項2】
前記溝は、断面視V字状に切り欠かれた溝である、
請求項1に記載の蒸気発生体。
【請求項3】
前記凹部の深さdと、幅w2との関係は、深さd/幅w2≦1である、
請求項1または2に記載の蒸気発生体。
【請求項4】
前記凹凸構造は、前記領域に比べて光吸収率が高い
請求項1または2に記載の蒸気発生体。
【請求項5】
前記凹凸構造は、水接触角が60°以下の親水面をなす
請求項1または2に記載の蒸気発生体。
【請求項6】
金属からなる
請求項1または2に記載の蒸気発生体。
【請求項7】
前記溝は、レーザ加工によって形成されている
請求項1または2に記載の蒸気発生体。
【請求項8】
前記凹凸構造は、レーザ加工によって形成されている
請求項1または2に記載の蒸気発生体。
【請求項9】
前記マーキング面において前記溝の外方にも前記凹凸構造が形成されている
請求項1または2に記載の蒸気発生体。
【請求項10】
請求項1または2に記載の蒸気発生体で形成された蒸気室を有する
蒸気発生装置。
【請求項11】
基材の表面の一部にマーキング面を形成する際に、
前記基材の表面の一部に対して、少なくとも1つの溝を形成し、
前記溝内に対して、所定方向に沿って複数の凹部と複数の凸部とがそれぞれ交互に、前記溝の幅よりも小さいピッチで平面状に配置されるように、レーザ加工を施して凹凸構造を形成し、
前記マーキング面は、当該マーキング面以外の領域と比べて、ライデンフロスト現象が発生する最低温度が5℃以上高い
蒸気発生体の製造方法。
【請求項12】
前記溝は、断面視V字状に切り欠かれた溝である、
請求項11に記載の蒸気発生体の製造方法。
【請求項13】
前記凹部の深さdと、幅w2との関係は、深さd/幅w2≦1である、
請求項11または12に記載の蒸気発生体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気発生体、蒸気発生装置及び蒸気発生体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アイロンなどのような蒸気発生装置においては、蒸気室内に水を供給し、蒸気室内で水を加熱することで蒸気を発生するようになっている。ところで、蒸気室で発生した蒸気は、蒸気室内面と水との間に介在して絶縁層を形成するので、水の蒸発を遅らせてしまうおそれがある(ライデンフロスト現象)。このライデンフロスト現象による蒸発の遅延を抑制するために、蒸気室内の表面に、蒸発性能を高めるコーティング層が施された蒸気発生装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5666302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、コーティング層によって蒸発性能を高める場合、そのコーティング層が剥離してしまい、意図する性能が発揮できないおそれがある。また、製造時においてコーティング処理が人体に悪影響もおそれもある。さらに、コーティング処理では、コーティング層に塗りムラが生じ、蒸発性能が均等に発揮できない可能性もある。
【0005】
そこで、本発明は、コーティング層を設けなくとも、蒸発性能の低下を抑制できる蒸気発生体等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る蒸気発生体は、マーキング面を表面の一部に有する蒸気発生体であって、前記マーキング面は、当該マーキング面以外の領域と比べて、ライデンフロスト現象が発生する最低温度が5℃以上高く、前記マーキング面には、所定方向に沿って、複数の凹部と複数の凸部とがそれぞれ交互に所定のピッチで平面状に配置された凹凸構造と、前記所定のピッチ以上の幅を有する溝とが形成されており、前記凹凸構造は前記溝内に形成されている。
【0007】
本発明の一態様に係る蒸気発生装置は、上記蒸気発生体で形成された蒸気室を有する。
【0008】
本発明の一態様に係る蒸気発生体の製造方法は、基材の表面の一部にマーキング面を形成する際に、前記基材の表面の一部に対して、少なくとも1つの溝を形成し、前記溝内に対して、所定方向に沿って複数の凹部と複数の凸部とがそれぞれ交互に、前記溝の幅よりも小さいピッチで平面状に配置されるように、レーザ加工を施して凹凸構造を形成し、前記マーキング面は、当該マーキング面以外の領域と比べて、ライデンフロスト現象が発生する最低温度が5℃以上高い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コーティング層を設けなくとも、蒸発性能の低下を抑制できる蒸気発生体等を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る蒸気発生体としてのアイロンを示す斜視図である。
図2】実施の形態1に係るベース部の上面図である。
図3】実施の形態1に係る内底面の複数の溝を示す平面図である。
図4】実施の形態1に係る内底面の複数の溝を示す断面図である。
図5】実施の形態1に係る複数の凹部と複数の凸部とを拡大して示す断面図である。
図6】実施の形態2に係る内底面を示す平面図である。
図7】実施の形態3に係るベース部の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本発明の実施の形態に係る蒸気発生体などについて図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、工程、工程の順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0012】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0013】
また、本明細書において、平行又は直交などの要素間の関係性を示す用語及び正方形又は長方形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0014】
(実施の形態1)
[蒸気発生装置]
まず、実施の形態1に係る蒸気発生装置について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、実施の形態1に係る蒸気発生体としての衣類用のアイロン100を示す斜視図である。図1に示すように、アイロン100は、図示しないヒータが埋設されたベース部110と、ユーザにより把握されるグリップ部120と、グリップ部120とベース部110との間に配置され、水を貯留するタンク部130とを有している。
【0015】
ベース部110の外底面は、衣類等を押し広げる掛け面であり、蒸気が噴出される複数の噴出口(図示省略)を有している。ベース部110は、比較的熱伝導率の高い金属(例えばアルミニウム)から形成されている。
【0016】
図2は、実施の形態1に係るベース部110の上面図である。図2に示すように、ベース部110の天面には、Y軸方向の中央部からY軸プラス方向の先端部にかけて凹状の蒸気室111が形成されている。蒸気室111は、各噴出口と連通しており、当該蒸気室111にタンク部130から水が供給されるようになっている。蒸気室111に水が供給されると、蒸気室111内でヒータからの熱を受けて加熱され、蒸気が発生する。この蒸気は、複数の噴出口から噴出する。このように、ベース部110は、蒸気を発生させる蒸気発生体の一例である。
【0017】
蒸気室111は、内底面112と、内底面112を囲む内側面113とを有している。蒸気室111に供給された水は、内底面112及び内側面113からヒータの熱を受けて蒸発することになる。このため、内底面112及び内側面113は、水を加熱する加熱面である。内底面112の全面には、製造時の後処理により、複数の溝114が形成されている。内底面112は、この後処理によりベース部110における他の領域とは視認性が異なっているので、後処理が施されたか否かを検査工程で目視にて確認しやすくなっている。このため、内底面112は、ベース部110における他の領域とは視認性が異なるマーキング面とも言える。内底面112は、コーティング層等が積層されておらず、ベース部110の基材が全体的に露出している。
【0018】
[マーキング面]
次に、マーキング面の詳細について説明する。ここでは、マーキング面の一例として内底面112を例示して説明する。図2では、内底面112の一部を拡大したものを円C1内に示している。円C1内に示すように、内底面112には、Y軸方向に延在する複数の溝114が、X軸方向に配列されている。つまり、複数の溝114はストライプ状に形成されている。各溝114の幅Wはミリメートルオーダー以下であり、それぞれ均等である。
【0019】
図3は、実施の形態1に係る内底面112の複数の溝114を示す平面図である。図4は、実施の形態1に係る内底面112の複数の溝114を示す断面図である。
【0020】
各溝114は、断面視V字状に切り欠かれた溝である。内底面112において、各溝114の外方の領域を外方領域115とする。各外方領域115は平坦な平面である。各溝114の内表面には、微細な凹凸構造30が形成されている。図3では、ドットハッチングで凹凸構造30を表現している。図4では、溝114の内表面の一部を拡大したものを円C2内に示している。
【0021】
凹凸構造30は、平面視においてマトリクス状に配置された複数の凹部31を有している。凹部31は平面視において略正方形状である。所定方向において複数の凹部31の間の部分が凸部32をなす。凸部32は、全体的に見ると格子状であり連続しているために一つの凸部32と言えるが、所定方向のみで見ると各凹部31に分断されるために複数の凸部32と言える。つまり、縦方向においても、横方向においても、複数の凹部31と複数の凸部32とが所定のピッチで交互に配列されている。
【0022】
図5は、実施の形態1に係る複数の凹部31と複数の凸部32とを拡大して示す断面図である。具体的には、図5は、図4におけるV-V線を含む切断面を見た断面図である。
【0023】
図5に示すように、複数の凹部31と複数の凸部32とは所定のピッチで平面状に配列されている。所定方向における凸部32の幅w2と、凹部31の幅w1との合計が所定のピッチ(p=w1+w2)である。所定のピッチpと、幅w1、w2とを一定の関係を満たすように設定しておくことで、凹凸構造30からなる面(各溝114の内表面)を親水面とすることができる。具体的には、各溝114の内表面に対する水接触角を60°以下とすることができる。
【0024】
例えば、幅w2/幅w1≧0.5とし、所定のピッチpを1μm以上、1000μm以下とすれば、各溝114の内表面に対する水接触角を60°以下とすることが可能である。所定のピッチpは、各溝114の幅Wよりも小さい。さらに、凹部31の深さdと、幅w2との関係は、深さd/幅w2≦1であれば、凸部32の強度を高めることができ、凸部32が損傷してしまうことを抑制することが可能である。このように、蒸気室111の内底面112が親水面を有しているので、内底面112上を水が濡れ広がりやすくなり、蒸気室111内での蒸発を促進することが可能である。
【0025】
ここで、加熱時においては、蒸気室111の内底面112が瞬時に高温化するので、ライデンフロスト現象が発生する可能性が高い。具体的には、内底面112で水が瞬時に高温化に晒されると、水と内底面112との間に蒸発気体が生じる。この蒸発気体は水のさらなる蒸発を阻害する。本実施の形態では、複数の溝114と各溝114内の凹凸構造30とにより蒸発気体を水の直下から逃がすことができる。このため内底面112では、ライデンフロスト現象が発生する最低温度が他の領域(例えばベース部110における蒸気室111以外の領域)よりも5℃以上高くなっている。つまり、ライデンフロスト現象が発生しにくくなっているので、ベース部110の蒸発性能の低下が抑制されている。なお、複数の溝114及び凹凸構造30の設置個数及びレイアウトなどを調整すれば、ライデンフロスト現象が発生する最低温度を10℃以上高くすることも可能である。この場合には、ライデンフロスト現象がより発生しにくくなっているので、ベース部110の蒸発性能の低下をより確実に抑制することが可能である。
【0026】
[蒸気発生体の製造方法]
次に、蒸気発生体であるベース部110の製造方法について説明する。
【0027】
まず、ダイカストによりベース部110となる基材を成形する。基材は、ダイカスト以外の成形方法により成形されていてもよい。他の成形方法としては鋳造、鍛造、切削加工、プレス加工、金属3Dプリンティング方法などが挙げられる。また、基材は、レーザ加工が可能であれば、如何なる材料から形成されていてもよい。レーザ加工可能な材料としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金などの金属や、セラミック等が挙げられる。
【0028】
成形後の基材には、蒸気室111が形成されているので、その蒸気室111の内底面112に後処理を施す。具体的には内底面112にレーザ加工を施すことで複数の溝114を形成する。このとき、レーザを照射するレーザ照射装置からは、短パルスレーザが蒸気室111の内底面に照射される。短パルスレーザのパルス幅はナノ秒以下が好ましい。レーザの出力を所定値以上とすれば、溝114を形成すると同時に、微細な凹凸構造30も形成することが可能である。この場合、溝114が断面視V字状となる。
【0029】
ここで、レーザが照射されることで、複数の溝114内には微細な凹凸構造30が形成されるため、各溝114以外の領域と比べると光吸収率は高くなる。これは、以下の種々の要因があるものと考えられる。例えば、1)レーザが照射されることにより、基材の表面が炭化し、濃色化する。2)レーザが照射されることにより、基材の表面の分子密度が高まり、凝縮されて濃色化する。3)レーザが照射されることにより、基材の表面で金属酸化物の不純物準位が形成され濃色化する。現時点では、いずれの要因の信憑性が高いかは不明であるが、結果的にレーザ加工によって各溝114の内表面は、他の領域と比べて濃色化され、光吸収率が高くなっている。したがって、蒸気室111の内底面112がマーキング面となる。このように基材に後処理が施されることでベース部110が製造される。なお、蒸気室111の内底面112を分析することにより、当該内底面112がレーザ加工によって形成されていることを特定することは可能である。
【0030】
[効果など]
以上のように、(1)本実施の形態に係る蒸気発生体(ベース部110)は、マーキング面(内底面112)を表面の一部に有している。内底面112は、当該内底面112以外の領域と比べて、ライデンフロスト現象が発生する最低温度が5℃以上高い。内底面112には、所定方向に沿って、複数の凹部31と複数の凸部32とがそれぞれ交互に所定のピッチで平面状に配置された凹凸構造30と、所定のピッチp以上の幅Wを有する溝114とが形成されている。凹凸構造30は溝114内に形成されている。
【0031】
また、本実施の形態に係る蒸気発生装置(アイロン100)は、上記ベース部110で形成された蒸気室111を有している。
【0032】
また、本実施の形態に係る蒸気発生体の製造方法は、基材の表面の一部にマーキング面(内底面112)を形成する際に、基材の表面の一部に対して、少なくとも1つの溝114を形成し、溝114内に対して、所定方向に沿って複数の凹部31と複数の凸部32とがそれぞれ交互に、溝114の幅Wよりも小さいピッチpで平面状に配置されるように、レーザ加工を施して凹凸構造30を形成し、内底面112は、当該内底面112以外の領域と比べて、ライデンフロスト現象が発生する最低温度が5℃以上高い。
【0033】
これらのように、ベース部110の内底面112では、ライデンフロスト現象が発生する最低温度が他の領域と比べて5℃以上低いために、蒸発性能の低下を抑制することができる。これは、各溝114及びその溝114内に形成された凹凸構造30を起因とするものであるが、各溝114及び凹凸構造30は、内底面112を直接的に刻むことで形成されたものである。つまり、コーティング層を内底面112に設けなくとも、蒸発性能の低下が抑制されている。このように、本実施の形態によれば、コーティング層を設けなくとも、蒸発性能の低下を抑制することが可能である。
【0034】
(2)(1)に記載の蒸気発生体において、凹凸構造30は、内底面112以外の領域と比べて光吸収率が高い。
【0035】
これによれば、内底面112は、凹凸構造30によって前記領域との視認性が異なっている。このため、凹凸構造30を形成するための後処理が施されたか否かを検査工程で目視にて確認しやすくすることができる。
【0036】
(3)(1)または(2)に記載の蒸気発生体において、凹凸構造30は、水接触角が60℃以下の親水面である。
【0037】
これによれば、凹凸構造30が親水面であるので、内底面112上での水の濡れ広がりやすさを高めることができる。これにより、蒸気室111内での蒸発を促進することが可能である。
【0038】
(4)(1)~(3)に記載の蒸気発生体において、ベース部110は金属からなる。
【0039】
これによれば、ベース部110が金属から形成されているので、ベース部110の硬度が高められる。したがって、溝114及び凹凸構造30が摩耗しにくくなり、蒸発性能を長期的に安定して発揮することができる。
【0040】
(5)(1)~(4)のいずれか一項に記載の蒸気発生体において、溝114は、レーザ加工によって形成されている。
【0041】
これによれば溝114がレーザ加工によって形成されているので、環境に影響を及ぼしやすい有機材料等を用いなくとも溝114を形成できる。
【0042】
(6)(1)~(5)のいずれか一項に記載の蒸気発生体において、凹凸構造30は、レーザ加工によって形成されている。
【0043】
これによれば凹凸構造30がレーザ加工によって形成されているので、環境に影響を及ぼしやすい有機材料等を用いなくとも凹凸構造30を形成できる。
【0044】
溝114が断面視V字形状であり、その内表面に凹凸構造30が形成されているので、レーザ加工により一括して溝114及び凹凸構造30を一括して形成することができる。これにより、製造効率を高めることができる。
【0045】
[実施例]
次に、実施の形態1に係る実施例について説明する。本実施例では、アルミニウム合金からなる板材を試験片として2つ用いる。第一試験片は、その表面にレーザ加工が施され複数の溝114が形成されている。つまり、第一試験片の表面はマーキング面である。レーザ加工では、0.43Wのパルスレーザがパルス幅12psで第一試験片に照射される。このとき、マーキング面において一つの溝114の幅Wは30μmであり、溝114の深さは0.8μmである。
【0046】
第二試験片は、その表面にレーザ加工が施されていない。つまり、第二試験片の表面は平坦な未加工面である。
【0047】
これらの試験片に対して水接触角測定と、霧化試験を行った。水接触角測定では、自動接触角計(DW-501、協和界面科学株式会社製)を用いた。イオン交換水からなる2μlの液滴を、第一試験片のマーキング面と第二試験片の未加工面とに形成し、形成から100ms後、300ms後、500ms後の水接触角を、上記装置により液滴法(動的接触角測定)にて測定した。これを各試験片で五回ずつ繰り返した。解析手法はθ/2法である。測定結果は以下の通りである。
【0048】
未加工面では、100ms後の水接触角が88.6±0.3°、300ms後の水接触角が88.4±1.4°、500ms後の水接触角が88.2±0.5°となった。これに対し、マーキング面では、100ms後の水接触角が14.9±0.3°、300ms後の水接触角が3.3±1.4°、500ms後の水接触角が1°未満(測定不可)となった。いずれの経過時間においても、マーキング面では、水接触角が60度以下となっていることがわかる。
【0049】
霧化試験では、第一試験片と第二試験片とをそれぞれ230°に熱し、第一試験片のマーキング面と第二試験片の未加工面とに0.2mlの水滴を滴下し、目視確認した。未加工面ではライデンフロスト現象の発生が見られたが、マーキング面ではライデンフロスト現象の発生が見られなかった。マーキング面では、ライデンフロスト現象の発生温度が未加工面よりも少なくとも30℃以上高くなっているものと推測される。
【0050】
(実施の形態2)
実施の形態1では、内底面112において各溝114内にのみ凹凸構造30が形成されている場合を例示した。この実施の形態2では、外方領域にも凹凸構造が形成されていてもよい。つまり、(7)(1)~(6)のいずれか一項に記載の蒸気発生体であって、マーキング面において溝114の外方にも凹凸構造が形成されている。図6は、実施の形態2に係る内底面112aを示す平面図である。具体的には、図6図3に対応する図である。図6に示すように、内底面112aにおいて各溝114a及び各外方領域115aには、それぞれ凹凸構造30a(図6においてドットハッチングで表現)が形成されている。
【0051】
これによれば、凹凸構造30aが各外方領域115aにも形成されているので、各外方領域115a上においてもライデンフロスト現象が発生する最低温度を、内底面112a以外の領域と比べても高くすることができる。したがって、各外方領域115aでの蒸発性能の低下も抑制されるので、ベース部全体での蒸発性能の低下をより抑制することが可能である。
【0052】
(実施の形態3)
実施の形態1では、複数の溝114がストライプ状に形成されている場合を例示した。しかしながら、複数の溝のレイアウトは如何様でもよい。図7は、実施の形態3に係るベース部110bの上面図である。具体的には図7図2に対応する図である。図7に示すように、実施の形態3に係る内底面112bには複数の溝114bが格子状に配置されていてもよい。
【0053】
(その他)
以上、本発明に係る蒸気発生体などについて、上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0054】
上記実施の形態では、複数の凹部31がマトリクス状に配列された凹凸構造30を例示した。しかしながら、複数の凹部が縞状に配列された凹凸構造であってもよい。また、凹部と凸部とは、所定のピッチで交互に配列されているのであれば、その平面視形状は如何様でもよい。
【0055】
上記実施の形態では、レーザ加工にて溝114を形成するのと同時に凹凸構造30が形成される場合を例示した。しかしながら、溝と凹凸構造とが別々に形成されてもよい。例えば、溝のみを形成できる程度の出力でレーザ加工を基材に施した後に、凹凸構造のみを形成できる程度の出力でレーザ加工を基材に施せばよい。また、切削加工、プレス加工またはダイカストなどで基材に溝を形成した後に、レーザ加工で凹凸構造を形成してもよい。
【0056】
上記実施の形態では、溝114が断面視V字状である場合を例示したが、溝の断面形状は如何様でもよい。例えば断面視矩形状、台形状などの溝であってもよい。
【0057】
上記実施の形態では、蒸気室111の内底面112がマーキング面である場合を例示した。しかしながら、蒸気室の加熱面であれば如何なる箇所をマーキング面としてもよい。具体的には、蒸気室の内側面もマーキング面としてもよい。つまり、蒸気室の内側面に対して、溝及び凹凸構造を形成してもよい。この場合、蒸気室の内側面においても、ライデンフロスト現象が発生する最低温度を他の領域と比べて5℃以上低くすることができ、蒸発性能の低下を抑制することができる。
【0058】
上記実施の形態では、蒸気発生装置として衣類用のアイロン100を例示した。しかし、蒸気発生装置は、水を蒸発させて蒸気を発生できる装置であれば如何様でもよい。その他の蒸気発生装置としては、例えばヘアアイロン、加湿器などが挙げられる。
【0059】
その他、実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
30、30a 凹凸構造
31 凹部
32 凸部
100 アイロン(蒸気発生装置)
110、110b ベース部(蒸気発生体)
111 蒸気室
112、112a、112b 内底面(マーキング面)
114、114a、114b 溝
115、115a 外方領域(溝の外方)
p ピッチ
W、w1、w2 幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7