(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法及び応用
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20240920BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01W1/10 P
G01W1/00 Z
(21)【出願番号】P 2024083398
(22)【出願日】2024-05-22
【審査請求日】2024-05-22
(31)【優先権主張番号】202310981626.4
(32)【優先日】2023-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524194355
【氏名又は名称】交通運輸部天津水運工程科学研究所
【氏名又は名称原語表記】TIANJIN RESEARCH INSTITUTE FOR WATER TRANSPORT ENGINEERING, M.O.T.
【住所又は居所原語表記】No. 37, Xingang No.2 Road, Tanggu Area, Tianjin 300456, China
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】周 俊偉
(72)【発明者】
【氏名】馬 殿光
(72)【発明者】
【氏名】孔 憲衛
(72)【発明者】
【氏名】段 宇
(72)【発明者】
【氏名】張 磊
(72)【発明者】
【氏名】干 偉東
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲い▼
(72)【発明者】
【氏名】王 晨陽
(72)【発明者】
【氏名】李 暁松
(72)【発明者】
【氏名】紀 超
(72)【発明者】
【氏名】李 笑晨
(72)【発明者】
【氏名】張 玉倩
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-237732(JP,A)
【文献】特表2021-531449(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112329257(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108874936(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/10
G01W 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法であって、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式を含み、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式を採用して、流域の瞬間単位図を計算し、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式は、
であり、
式中、Q(t)は流域の瞬間単位図であり、Qは計算される表面流出であり、T
p、C
3は瞬間単位図のパラメータであり、T
pは洪水ピークディレイタイム、C
3は形状係数であり、exp()は指数関数を表し、Gamma()はガンマ関数を表す、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法を応用する短期洪水予報方法であって、以下のステップS1~S5を含み、
S1:流域の水文資料を収集し、
S2:洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式を用い、
S3:洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図を期間単位図に変換し、
S4:流域の歴史資料に従って、期間単位図のパラメータT
p、C
3を校正し、
S5:推定された期間単位図を用いて、短期洪水予報を行う、ことを特徴とする短期洪水予報方法。
【請求項3】
ステップS1では、単位図洪水予報に必要な流域の水文資料を収集し、前記流域の水文資料は、流域面積F、歴史洪水の時系列、正味雨量系列、実測された表面流出量系列を含む、ことを特徴とする請求項2に記載の短期洪水予報方法。
【請求項4】
ステップS3では、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図を期間単位図に変換することは、以下のステップS31~S33を含み、
S31では、瞬間単位図の時間tに関する積分を計算し、
ここで、S(t)は、流域瞬間単位図の時間に関する積分関数であり、Q(τ)は流域の瞬間単位図であり、τは積分の時間変数であり、
を得、
式中、S(t)は、流域の瞬間単位図の時間に関する積分関数であり、C
3は形状係数であり、T
pは洪水ピークディレイタイムであり、2パラメータのガンマ関数は上側不完全ガンマ関数であり、
S32では、2つのS曲線を減算することで、期間単位図
を得、
ここで、U(Δt,t)は期間単位図であり、Δtは時間間隔であり、S(t)は、流域の瞬間単位図の時間に関する積分関数であり、S(Δt,t)は時間軸でΔt遅延するS曲線であり、
を得、
式中、U(Δt,t)は期間単位図であり、Gamma()はガンマ関数を表し、T
p、C
3は瞬間単位図のパラメータであり、T
pは洪水ピークディレイタイム、C
3は形状係数であり、Δtは時間間隔であり、max()は最大値を求める関数であり、
S33では、特に、流域面積がF、単位がkm
2、時間間隔がΔt、単位がh、正味雨が10mmである単位図の場合、
式中、q(Δt,t)は10mm正味雨に対応する単位図であり、Fは流域面積であり、Δtは時間間隔であり、U(Δt,t)は期間単位図である、
ことを特徴とする請求項3に記載の短期洪水予報方法。
【請求項5】
ステップS4では、流域の歴史資料に基づいて、期間単位図のパラメータT
p、C
3を校正することは、以下の校正プロセスを含み、
各期間の正味雨量を10mmで除算し、正味雨10mmの期間単位図を乗じて、この期間の正味雨量に対応する流出過程を得、
各期間の正味雨量で生成される流出過程を時間軸上で前後に順序付け、時間軸上で各流出過程を重ね合わせて洪水シミュレーション結果を得、式は次のとおりであり、
ここで、Q
c,iはi番目の期間番号の歴史洪水シミュレーション結果であり、r
jはj番目の期間の正味雨量であり、iはシミュレーションの期間番号であり、jは単位図計算の期間番号であり、且つ1≦j≦i、q(Δt,t)は10mm正味雨に対応する単位図であり、Δtは時間間隔である、
ことを特徴とする請求項4に記載の短期洪水予報方法。
【請求項6】
ステップS4では、パラメータ校正は、歴史洪水シミュレーション誤差が最小である原則を採用して、単位図のパラメータT
p及びC
3を確定し、パラメータ校正プロセスでは、パラメータ校正アルゴリズムを使用し、パラメータ校正アルゴリズムは、トラバース法又は試行錯誤法又はSCE-UA法である、
ことを特徴とする請求項5に記載の短期洪水予報方法。
【請求項7】
ステップS5では、推定された期間単位図を用いて、短期洪水予報を行うことは、以下の内容を含み、
推定された期間単位図を用いて、短期洪水予報を行うとき、各期間の正味雨量を10mmで除算し、正味雨10mmの期間単位図を乗じて、この期間の正味雨量に対応する流出過程を得、
各期間の正味雨量で生成される流出過程を時間軸上で前後に順序付け、時間軸上で各流出過程を重ね合わせて洪水予報結果を得、式は次のとおりであり、
ここで、Q
c,iはi番目の期間番号の洪水予報結果であり、r
jはj番目の期間の正味雨量であり、iは予報の期間番号であり、jは単位図計算の期間番号であり、且つ1≦j≦i、q(Δt,t)は10mm正味雨に対応する単位図であり、Δtは時間間隔である、
ことを特徴とする請求項5に記載の短期洪水予報方法。
【請求項8】
電子装置であって、
プロセッサと、プロセッサに通信可能に接続され、前記プロセッサによって実行可能な命令を記憶するためのメモリとを含み、前記プロセッサは、上記の請求項2~7のいずれか一項に記載の短期洪水予報方法を実行するために使用される、
ことを特徴とする電子装置。
【請求項9】
サーバーであって、
少なくとも1つのプロセッサと、前記プロセッサに通信可能に接続されるメモリとを含み、前記メモリには、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令が記憶され、前記命令が前記プロセッサによって実行されることによって、前記少なくとも1つのプロセッサは、請求項2~7のいずれか一項に記載の短期洪水予報方法を実行する、
ことを特徴とするサーバー。
【請求項10】
コンピュータプログラムを記憶しているコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されると、請求項2~7のいずれか一項に記載の短期洪水予報方法が実現される、ことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水利工事数値計算の技術分野に関し、特に洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
流域出口での流量プロセスは、洪水予測の注目の重要な対象であり、高精度の河川水力学的モデルの計算における重要な入力パラメータでもある。短期洪水予測に流域単位図を使用することは、現在一般的に使用されている技術的手段である。流域単位図の定義は次のように表すことができる。任意の具体的な流域について、単位期間内に均一に分布した単位正味雨量によって形成される流域出口ステーションでの表面流出ハイドログラフを単位図と呼ぶ。流域単位図は概念的なブラックボックスモデルであり、その適用は倍数比例と重ね合わせの原理に準拠している。
洪水ピークディレイタイム:超過降雨量の中心からピーク流量(または具体的にはハイドログラフ)までの遅延時間。
形状係数:瞬時単位ハイドログラフの形状を決定する係数である。
【0003】
しかしながら、従来意味での流域単位図を推定することは困難であり、単位図の定義に基づいて多くの制約条件が設定されることがよくあり(例えば、単位図がまず増加し、その後減少する、単位図と時間軸とによって囲まれる面積が流域の降水量に等しい、単位図上の値がすべてゼロ以上である、など)、分析法、試行錯誤法、最小二乗法、線形法などの最適化アルゴリズムを使用して解かれる。それでも、推定された単位図の中には依然としてジグザグの形状をしているものがあり、これは一般的な自然法則に準拠していない。別の方法は、Nash瞬間単位図の式を適用することであるが、Nash瞬間単位図の本質は、流域を、直列の同じ調整効果と貯留効果を持つ n 個の線形貯水池に見なすことである。これは数学的には成功したが、物理的な概念の観点からは非常に突飛なものであり、Nash瞬間単位図のパラメータ(即ちnとK)が直観的な物理的説明を持たないという事実も生じた。
【発明の概要】
【0004】
これを鑑みて、本発明は洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法及び応用を提案することを目的とする。この流域単位図モデルは簡単で実用的であり、モデルのパラメータは明確な物理的意味を持っているため、従来の流域単位図を推定する困難と、Nash瞬間単位図のパラメータの物理的意味が不明確であるという困難を克服し、流域の洪水予報に解決策を提供する。
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の技術的解決策は以下のように実施される。
【0006】
洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法であって、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式を含み、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式を採用して、流域の瞬間単位図を計算し、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式は、
であり、
式中、Q(t)は流域の瞬間単位図であり、Qは計算される表面流出であり、T
p、C
3は瞬間単位図のパラメータであり、T
pは洪水ピークディレイタイム、C
3は形状係数であり、exp()は指数関数を表し、Gamma()はガンマ関数を表す。
【0007】
さらに、以下のステップを含む。
S1:流域の水文資料を収集し、
S2:洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式を用い、
S3:洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図を期間単位図に変換し、
S4:流域の歴史資料に従って、期間単位図のパラメータTp、C3を校正し、
S5:推定された期間単位図を用いて、短期洪水予報を行う。
【0008】
さらに、ステップS1では、単位図洪水予報に必要な流域の水文資料を収集し、前記流域の水文資料は、流域面積F、歴史洪水の時系列、正味雨量系列、実測された表面流出量系列を含む。
【0009】
さらに、ステップS3では、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図を期間単位図に変換することは、以下のステップS31~S33を含み、
S31では、瞬間単位図の時間tに関する積分を計算し、
ここで、S(t)は、流域瞬間単位図の時間に関する積分関数であり、Q(τ)は流域の瞬間単位図であり、τは積分の時間変数であり、
を得、
式中、S(t)は、流域の瞬間単位図の時間に関する積分関数であり、C
3は形状係数であり、T
pは洪水ピークディレイタイムであり、2パラメータのガンマ関数は上側不完全ガンマ関数であり、
S32では、2つのS曲線を減算することで、期間単位図
を得、
ここで、U(Δt,t)は期間単位図であり、Δtは時間間隔であり、S(t)は、流域の瞬間単位図の時間に関する積分関数であり、S(Δt,t)は時間軸でΔt遅延するS曲線であり、
を得、
式中、U(Δt,t)は期間単位図であり、Gamma()はガンマ関数を表し、T
p、C
3は瞬間単位図のパラメータであり、T
pは洪水ピークディレイタイム、C
3は形状係数であり、Δtは時間間隔であり、max()は最大値を求める関数であり、
S33では、特に、流域面積がF、単位がkm
2、時間間隔がΔt、単位がh、正味雨が10mmである単位図の場合、
式中、q(Δt,t)は10mm正味雨に対応する単位図であり、Fは流域面積であり、Δtは時間間隔であり、U(Δt,t)は期間単位図である。
【0010】
さらに、ステップS4では、流域の歴史資料に基づいて期間単位図のパラメータT
p、C
3を校正することは、以下の校正プロセスを含み、
各期間の正味雨量を10mmで除算し、正味雨10mmの期間単位図を乗じて、この期間の正味雨量に対応する流出過程を得、
各期間の正味雨量で生成される流出過程を時間軸上で前後に順序付け、時間軸上で各流出過程を重ね合わせて洪水シミュレーション結果を得、式は次のとおりであり、
ここで、Q
c,iはi番目の期間番号の歴史洪水シミュレーション結果であり、r
jはj番目の期間の正味雨量であり、iはシミュレーションの期間番号であり、jは単位図計算の期間番号であり、且つ1≦j≦i、q(Δt,t)は10mm正味雨に対応する単位図であり、Δtは時間間隔である。
【0011】
さらに、ステップS4では、パラメータ校正は、歴史洪水シミュレーション誤差が最小である原則を採用して、単位図のパラメータTp及びC3を確定し、パラメータ校正プロセスでは、パラメータ校正アルゴリズムを使用し、パラメータ校正アルゴリズムは、トラバース法又は試行錯誤法又はSCE-UA法である。
【0012】
さらに、ステップS5では、推定された期間単位図を用いて、短期洪水予報を行うことは、以下の内容を含む。
【0013】
推定された期間単位図を用いて、短期洪水予報を行うとき、各期間の正味雨量を10mmで除算し、正味雨10mmの期間単位図を乗じて、この期間の正味雨量に対応する流出過程を得、
各期間の正味雨量で生成される流出過程を時間軸上で前後に順序付け、時間軸上で各流出過程を重ね合わせて洪水予報結果を得、式は次のとおりであり、
ここで、Q
c,iはi番目の期間番号の洪水予報結果であり、r
jはj番目の期間の正味雨量であり、iは予報の期間番号であり、jは単位図計算の期間番号であり、且つ1≦j≦i、q(Δt,t)は10mm正味雨に対応する単位図であり、Δtは時間間隔である。
【0014】
さらに、電子装置であって、プロセッサと、プロセッサに通信可能に接続され、前記プロセッサによって実行可能な命令を記憶するためのメモリとを含み、前記プロセッサは、上記の短期洪水予報方法を実行するために使用される。
【0015】
さらに、サーバーであって、少なくとも1つのプロセッサと、前記プロセッサに通信可能に接続されるメモリとを含み、前記メモリには、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令が記憶され、前記命令が前記プロセッサによって実行されることによって、前記少なくとも1つのプロセッサは、上記の短期洪水予報方法を実行する。
【0016】
さらに、コンピュータプログラムを記憶しているコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されると、上記の短期洪水予報方法が実現される。
【0017】
従来技術と比較して、本発明に記載の洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法及び応用は以下の利点を有する。
(1)本発明は、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法及び応用について説明する。本発明によって提案される洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式は、パラメータTp、C3の値に関わらず、以下の特徴を有する。時間軸と囲む面積は1と等しい。関数の形態はまず増加し、次に減少する。これは単峰性関数である。t≧0の範囲内では、関数の値はすべて0以上である。上記の性質により、関数は単位図の幾つかの基本定義に自然に準拠できる。従来の単位図の推定における多くの困難を回避し、パラメータを迅速に校正でき、この単位図法の校正、計算効率を高める。
【0018】
(2)本発明は、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法及び応用について説明する。本方法の関数ピーク値はt=Tpに現れる、即ち、Tpは流域洪水ピークディレイタイムを直感的に表す。実際の応用では、非常に少ない水文資料を用いて、パラメータTpのおおよその範囲を確定することができる。
【0019】
(3)本発明は、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法及び応用について説明する。Nash瞬間単位図と比較して、関数ピーク値が現れる時間は、パラメータTpによってのみ決定され、Tpが確定された後、関数の形状はパラメータC3によって決定される。物理的な意味が明確であるため、提案される方法のパラメータ校正及び応用普及が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の一部を構成する図面は、本発明のさらなる理解を提供するために使用され、本発明の例示的な実施例及びその説明は、本発明を説明するために使用され、本発明の不適切な制限を構成するものではない。図面では、
【
図1】本発明の実施例による洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式の関数グラフの模式図である。
【
図2】本発明の実施例による、パラメータC
3が確定されると、提案される瞬間単位図のパラメータT
pと関数結果との関係の模式図である。
【
図3】本発明の実施例による、パラメータT
pが確定されると、提案される瞬間単位図のパラメータC
3と関数結果との関係の模式図である。
【
図4】本発明の実施例による、2つのS曲線を減算することによって得られた期間単位図の曲線の模式図である。
【
図5】本発明の実施例によるパラメータ校正プロセスにおける評価指標NSEの等値線の模式図である。
【
図6】本発明の実施例によるパラメータ校正後の最適な結果の模式図である。
【
図7】本発明の実施例による校正により得られた期間単位図の模式図である。
【
図8】本発明の実施例による、推定された期間単位図を用いて短期洪水予報を行う模式図である。
【
図9】本発明の実施例に係る短期洪水予報方法のプロセス模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
なお、矛盾がない場合、本発明の実施例及び実施例における特徴は互いに組み合わせることができる。
【0022】
本発明の説明では、「中心」、「縦方向」、「横方向」、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」、「垂直」、「水平」、「頂」、「底」、「内」、「外」などの用語で示される方位又は位置関係は、図面で示される方位又は位置関係に基づいた、本発明の説明の便宜および説明の簡略化のためのものに過ぎず、提案された装置又は部品が必ず特定の方位を有し特定の方位で構造及び操作されることを指示又は示唆するものではないため、本発明を制限するものではないと理解されるべきある。また、「第1」、「第2」などの技術用語は、説明の目的でのみ使用され、相対的な重要性を指示したり示唆したり、あるいは示される技術的特徴の数を暗黙的に示したりするものとして理解することができない。それにより、「第1」及び「第2」により限定される特徴は、明示的に又は暗黙的に、1つ又は複数の該特徴を含むことができる。本発明の説明では、特に明記されていない限り、「複数」の意味は、2つ以上である。
【0023】
なお、本発明の説明では、特に明確に規定及び限定されていない限り、「取り付け」、「連結」、「接続」という用語は広い意味で理解する必要がある。例えば、固定接続、取り外し可能な接続、又は一体型接続の場合がある。機械的接続又は電気的接続の場合がある。直接連結、中間媒体を介した間接的連結、又は2つの素子の内部連通の場合がある。当業者にとって、本発明における上記の用語の具体的な意味は、具体的な状況に応じて理解することができる。
【0024】
以下では、添付の図面及び実施例を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
【0025】
図1~
図9に示すように、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法であって、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式を含み、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式を採用して、流域の瞬間単位図を計算し、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式は、
式中、Q(t)は流域の瞬間単位図であり、Qは計算される表面流出であり、T
p、C
3は瞬間単位図のパラメータであり、T
pは洪水ピークディレイタイム、C
3は形状係数であり、exp()は指数関数を表し、Gamma()はガンマ関数を表す。
【0026】
図9に示すように、本発明の好ましい実施形態では、上記の洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法を用いる、以下のステップS1~S5を含む短期洪水予報方法を提案する。
S1:流域の水文資料を収集する。
単位図洪水予報に必要な流域の水文資料を収集し、前記流域の水文資料は、流域面積F、歴史洪水の時系列、正味雨量系列、実測された表面流出量系列を含む。
【0027】
S2:洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式を用いる。
流域の瞬間単位図は次のように表すことができると仮定し:
式中、Q(t)は流域の瞬間単位図であり、Qは計算される表面流出であり、T
p、C
3は瞬間単位図のパラメータであり、T
pは洪水ピークディレイタイム、C
3は形状係数であり、exp()は指数関数を表し、Gamma()はガンマ関数を表す。
【0028】
S3:洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図を期間単位図に変換する。
瞬間単位図の時間tに関する積分を計算し、
ここで、S(t)は、流域瞬間単位図の時間に関する積分関数(S曲線とも呼ばれる)であり、Q(τ)は流域の瞬間単位図であり、τは積分の時間変数であり、
を得、
式中、S(t)は、流域の瞬間単位図の時間に関する積分関数(S曲線とも呼ばれる)であり、C
3は形状係数であり、T
pは洪水ピークディレイタイムであり、2パラメータのガンマ関数は上側不完全ガンマ関数である。
【0029】
2つのS曲線を減算することで、期間単位図を得、
ここで、U(Δt,t)は期間単位図であり、Δtは時間間隔であり、S(t)は、流域の瞬間単位図の時間に関する積分関数であり、S(Δt,t)は時間軸でΔt遅延するS曲線であり、
を得、
式中、U(Δt,t)は期間単位図であり、Gamma()はガンマ関数を表し、T
p、C
3は瞬間単位図のパラメータであり、T
pは洪水ピークディレイタイム、C
3は形状係数であり、Δtは時間間隔であり、max()は最大値を求める関数である。
【0030】
特に、流域面積がF(km
2)、時間間隔がΔt(h)、正味雨10が(mm)である単位図の場合:
式中、q(Δt,t)は10mm正味雨に対応する単位図であり、Fは流域面積であり、Δtは時間間隔であり、U(Δt,t)は期間単位図である。
【0031】
S4:流域の歴史資料に従って、期間単位図のパラメータ(T
p、C
3)を校正する。
流域洪水予報の実際のニーズに従って、期間単位図の単位期間長Δtを確定し、パラメータT
p、C
3を与えると、本発明によって提案される期間単位図を用いて歴史洪水シミュレーションを実行することができる。具体的なプロセスは次のとおりである。各期間の正味雨量を10mmで除算し、正味雨10mmの期間単位図を乗じて、この期間の正味雨量に対応する流出過程を得、各正味雨量で生成される流出過程を時間軸上で前後に順序付け、時間軸上で各流出過程を重ね合わせて洪水予報結果を得る。式は、
ここで、Q
c,iはi番目の期間番号の歴史洪水シミュレーション結果であり、r
jはj番目の期間の正味雨量であり、iはシミュレーションの期間番号であり、jは単位図計算の期間番号であり、且つ1≦j≦i、q(Δt,t)は10mm正味雨に対応する単位図であり、Δtは時間間隔である。
【0032】
この方法のパラメータ校正は、歴史洪水シミュレーション誤差が最小である原則を採用して、単位図のパラメータTp及びC3を確定する。パラメータの具体的なプロセスは、任意の成熟したパラメータ校正アルゴリズムを使用することができる。推奨されるアルゴリズムには、トラバース法、試行錯誤法、SCE-UA法などがある。
【0033】
S5:推定された期間単位図を用いて、短期洪水予報を行う。
対応する期間単位図の単位期間長Δtを確定し、校正により最適なパラメータT
p、C
3を得た後、推定される期間単位図を用いて短期洪水予報を行うことができる。予報計算時、各期間の正味雨量を10mmで除算し、正味雨10mmの期間単位図を乗じて、この期間の正味雨量に対応する流出過程を得、各期間の正味雨量で生成される流出過程を時間軸上で前後に順序付け、時間軸上で各流出過程を重ね合わせて洪水予報結果を得る。式は
ここで、Q
c,iはi番目の期間番号の歴史洪水予報結果であり、r
jはj番目の期間の正味雨量であり、iは予報の期間番号であり、jは単位図計算の期間番号であり、且つ1≦j≦i、q(Δt,t)は10mm正味雨に対応する単位図であり、Δtは時間間隔である。
【0034】
式の導出プロセス:
S3の導出プロセスは次のとおりである。
瞬間単位図を期間単位図に変換するときは、S曲線を採用し、S曲線の定義に従って:
S曲線の表現式:
を得、
その積分後の表現式は
であり、
式中、2パラメータのガンマ関数は上側不完全ガンマ関数である。
【0035】
2つのS曲線を減算することで、期間単位図を得、
を得、
式中、max()は最大値を求める関数である。
【0036】
流域面積がF(km
2)、時間間隔がΔt(h)、正味雨10が(mm)である単位図の場合:
不完全ガンマ関数について、
Mathematicaでは、Gamma()は上側不完全ガンマ関数を表し、Matlabでは、gammainc(z,a)は正規化された下側不完全ガンマ関数を表す。
本発明の明細書における不完全ガンマ関数は、数学ソフトウェアMathematicaにおけるガンマ関数と一致しているので、数学ソフトウェアMatlabでこの方法を試す読者は、この違いに注意する必要がある。
【0037】
本発明の利点次のとおりである。
(1)本発明によって提案される洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式は、パラメータTp、C3の値に関わらず、以下の特徴を有する。時間軸と囲む面積は1と等しい。関数の形態はまず増加し、次に減少する。これは単峰性関数である。t≧0の範囲内では、関数の値はすべて0以上である。上記の性質により、関数は単位図の幾つかの基本定義に自然に準拠できる。従来の単位図の推定における多くの困難を回避し、パラメータを迅速に校正でき、この単位図法の校正、計算効率を高める。
【0038】
(2)関数ピーク値はt=Tpに現れる、即ち、Tpは流域の洪水ピークディレイタイムを直感的に表す。実際の応用では、非常に少ない水文資料を用いて、パラメータTpのおおよその範囲を確定することができる。
【0039】
(3)Nash瞬間単位図と比較して、関数ピーク値が現れる時間は、パラメータTpによってのみ決定され、Tpが確定された後、関数の形状はパラメータC3によって決定される。物理的な意味が明確であるため、提案される方法のパラメータ校正及び応用普及が容易になる。
【0040】
実施例1
1)流域の水文資料を収集する。
中国水利水電出版社「水文予報(第4版)」の71ページにある計算例を例に挙げると、南河開峰谷ステーションが管理する流域の歴史洪水資料が収集され、流域面積、時間、期間正味雨量、実測された表面流出量が含まれる。流域面積は5239.02km2であり、他の資料は以下の表に示される。
【0041】
【0042】
2)洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式を用いる。
実施例のプロセスは、S2の説明と完全に一致するので、ここでは繰り返さない。
本発明によって提案される式を直観的に表示するために、
図1は、洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式の関数グラフを示す。
図2は、パラメータC
3が確定されると、提案される瞬間単位図のパラメータT
pと関数結果との関係を示す。
図3は、パラメータT
pが確定されると、提案される瞬間単位図のパラメータC
3と関数結果との関係を示す。
【0043】
3)洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図を期間単位図に変換する。
実施例のプロセスは、S3の説明と完全に一致するので、ここでは繰り返さない。
本発明によって提案される方法を直観的に表示するために、
図4は、期間単位図の曲線図を得るために2つのS曲線を減算することを示す。
【0044】
4)流域の歴史資料に従って、期間単位図のパラメータを校正する。
本実施例では、収集した資料に基づいて、単位図洪水予報の単位期間長Δt=6hを確定する。トラバース法を使用して単位図のパラメータT
p及びC
3に対してパラメータ最適化を行い、ナッシュ・サトクリフ効率係数(NSE)を使用してシミュレーションプロセスの優劣を評価する。即ち、与えられたT
p、C
3パラメータの最適化区間、最適化ステップサイズについて、すべて可能なパラメータの組み合わせをトラバースし、パラメータの組み合わせごとにシミュレーション結果のNSE値(NSE≦1)を計算する。NSE値が1に近づくほど、シミュレーション結果は観測に近づくことを意味する。NSEが最大のパラメータの組み合わせを最適なパラメータとして採用する。
本実施例では、パラメータT
pの最適化区間は1h≦T
p≦24hであり、最適化ステップサイズは1hであり、パラメータC
3の最適化区間は0.1≦C
3≦5であり、最適化ステップサイズは0.2である。上記の区間ですべてのパラメータの組み合わせに対してトラバース計算を行って、得られたNSE等値線図を
図5に示す。最大NSE=0.94最適パラメータは:T
p=9、C
3=1.1であり、最適パラメータの場合、歴史資料シミュレーション結果は
図6に示される。
【0045】
5)推定された期間単位図を用いて、短期洪水予報を行う。
校正により得られた最適パラメータを用いて、期間単位図を確定する。本実施例では、流域面積F=5239.02km
2、時間間隔はΔt=6hであり、一般に受け入れられている正味雨10mm単位図を採用して、
図7に示すような単位図を得る。
【0046】
将来的に流域に降雨が発生すると仮定した場合、期間正味雨量は下表のとおりである。
【0047】
【0048】
期間単位図を利用して短期洪水予報を行って、得られた結果は
図8に示される。
【0049】
上述は本発明の好適な実施形態に過ぎず、本発明はこれに限定されるものでなく、本発明の精神および原則内に属する限り、行われるすべての修正、同等の置き換え、改善などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
【要約】 (修正有)
【課題】洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく流域単位図のシミュレーション方法及び応用を提供する。
【解決手段】洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式を採用して、流域の瞬間単位図を計算する。洪水ピークディレイタイム及び形状係数に基づく瞬間単位図の式は、パラメータT
p、C
3の値に関わらず、以下の特徴を有する。時間軸と囲む面積は1と等しい。関数の形態はまず増加し、次に減少する。これは単峰性関数である。t≧0の範囲内、関数の値はすべて0以上である。上記の性質により、関数は単位図の幾つかの基本定義に自然に準拠できる。従来の単位図の推定における多くの困難を回避し、パラメータを迅速に校正でき、この単位図法の校正、計算効率を高め、Nash瞬間単位図と比較して、パラメータT
p、C
3は明確な物理的意義を有し、提案される方法のパラメータ校正及び応用普及を容易にする。
【選択図】
図9