(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】樹脂構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G10K11/16 130
(21)【出願番号】P 2020097295
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】紺田 哲史
(72)【発明者】
【氏名】小谷 友規
(72)【発明者】
【氏名】中村 将啓
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-168476(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0178615(US,A1)
【文献】特開2020-051410(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0103139(US,A1)
【文献】特開2006-276209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00-13/00
E04B 1/62-1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性樹脂を主成分とする樹脂構造体であって、
前記樹脂構造体は、複数の面を有し、
前記樹脂構造体の内部には、長尺状の微細空間が
複数本形成されており、
少なくともひとつの前記長尺状の微細空間の一方の端部は、前記複数の面のうちの第1の面に形成された第1の開口であ
り、
複数本の前記微細空間は、互いに交わることなく、三次元的に蛇行して立体交差している、
樹脂構造体。
【請求項2】
前記長尺状の微細空間は、経路の途中で分岐することのない一本路の空間路である、
請求項1に記載の樹脂構造体。
【請求項3】
前記微細空間の経路の途中に、所定形状の複数の空間室が断続的に形成されている、
請求項1
又は2に記載の樹脂構造体。
【請求項4】
前記所定形状は、球状、立方体状及び三角錐状の群の中から選ばれる少なくとも一つを含む、
請求項
3に記載の樹脂構造体。
【請求項5】
前記空間室内には、揺動可能に樹脂体が配置されている、
請求
項3又は
4に記載の樹脂構造体。
【請求項6】
前記微細空間の他方の端部は、前記複数の面のうちの前記第1の面とは異なる第2の面に形成された第2の開口である、
請求項1~
5のいずれか1項に記載の樹脂構造体。
【請求項7】
前記微細空間の他方の端部は、前記樹脂構造体の内部に位置する閉塞部である、
請求項1~
5のいずれか1項に記載の樹脂構造体。
【請求項8】
前記微細空間は、複数本であり、
複数本の前記微細空間の各々の前記第1の開口は、前記第1の面のみに形成されている、
請求項
7に記載の樹脂構造体。
【請求項9】
前記微細空間の最大径は、前記微細空間の延在方向を垂直線とする任意の断面において、2mm
以下である、
請求項1~
8のいずれか1項に記載の樹脂構造体。
【請求項10】
前記樹脂構造体は、板状であり、
前記第1の面は、前記樹脂構造体の厚み方向を垂直線とする面である、
請求項1~
9のいずれか1項に記載の樹脂構造体。
【請求項11】
前記樹脂構造体は、吸音部材である、
請求項1~
10のいずれか1項に記載の樹脂構造体。
【請求項12】
前記樹脂構造体は、3Dプリンタにより形成されている、
請求項1~
11のいずれか1項に記載の樹脂構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音部材等として用いることができる樹脂構造体等に関する。
【背景技術】
【0002】
音を吸収する吸音の機能を有する吸音部材が知られている。吸音部材としては、多孔質構造を有するものが多数提案されている。例えば、特許文献1には、アクリル樹脂からなる樹脂膜と樹脂膜の背面側に積層される多孔質体層とを備える吸音材が開示されている。また、特許文献2には、音波を受けて振動する複数の糸状部と複数の糸状部を架橋する複数の弾性部とを有する吸音構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-3827号公報
【文献】特開2015-215428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な構造によって吸音等の機能を有する樹脂構造体等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る樹脂構造体の一態様は、光硬化性樹脂を主成分とする樹脂構造体であって、前記樹脂構造体は、複数の面を有し、前記樹脂構造体の内部には、長尺状の微細空間が1本以上形成されており、前記長尺状の微細空間の一方の端部は、前記複数の面のうちの第1の面に形成された第1の開口である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新規な構造によって吸音等の機能を有する樹脂構造体等を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態に係る樹脂構造体の外観斜視図である。
【
図2】実施の形態に係る樹脂構造体の内部に存在する微細空間全体を模式的に示す図である
【
図3】実施の形態に係る樹脂構造体における微細空間を模式的に示す図である。
【
図4】実施の形態に係る樹脂構造体の作用効果を説明するための図である。
【
図5】実施の形態に係る樹脂構造体の吸音性能を検証する実験の様子を示す図である。
【
図6】変形例1に係る微細空間の構成を模式的に示す図である。
【
図7】変形例1に係る微細空間の作用効果を説明するための図である。
【
図8】変形例1に係る微細空間の他の構成を示す図である。
【
図9】変形例2に係る微細空間を模式的に示す図である。
【
図10】変形例3に係る微細空間の構成を模式的に示す図である。
【
図11】変形例4に係る微細空間の構成を模式的に示す図である。
【
図12】変形例4に係る微細空間の他の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態等は、一例であって本発明を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0009】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0010】
(実施の形態)
まず、実施の形態に係る樹脂構造体1の構成について、
図1~
図3を用いて説明する。
図1は、実施の形態に係る樹脂構造体1の外観斜視図である。
図2は、同樹脂構造体1の内部に存在する微細空間2全体を模式的に示す図である。なお、
図2は、イメージ図であり、
図2において、微細空間2は正確に図示されていない。また、
図3は、同樹脂構造体1における微細空間2を模式的に示す図である。なお、
図3において、(a)は、同樹脂構造体1の一部を模式的に示す平面図であり、(b)は、(a)のIIIb-IIIb線に沿って切断したときの1本の微細空間2の経路の断面を模式的に示す図である。
【0011】
図1に示される樹脂構造体1は、光硬化性樹脂を主成分とする樹脂基体である。樹脂構造体1を構成する光硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化性樹脂を用いることができる。なお、樹脂構造体1には、顔料又は染料等の添加剤が含まれていてもよい。これにより、着色された樹脂構造体1を得ることができる。また、樹脂構造体1は、透光性を有していてもよいし、透光性を有していなくてもよい。
【0012】
樹脂構造体1は、複数の面を有する構造体である。樹脂構造体1の複数の面は、樹脂構造体1の外形形状により規定される樹脂構造体1の外表面である。
図1に示すように、本実施の形態において、樹脂構造体1は、例えば、板状(シート状)の板状部材であるので、少なくとも第1の主面1aと第1の主面1aに背向する第2の主面1bとを有する。つまり、第1の主面1aは、樹脂構造体1の複数の面のうちの第1の面であり、第2の主面1bは、樹脂構造体1の複数の面のうちの第1の面とは異なる第2の面である。第1の主面1a及び第2の主面1bは、樹脂構造体1の厚み方向を垂直線とする面である。本実施の形態において、樹脂構造体1の厚さは、全領域においてほぼ一定であるので、第1の主面1aと第2の主面1bとは平行な面である。樹脂構造体1の厚さは、例えば、1mm以上10cm以下であるが、これに限らない。本実施の形態において、樹脂構造体1の厚さは、5mmである。
【0013】
また、樹脂構造体1は、平面視形状が矩形状で薄板状の樹脂板である。なお、樹脂構造体1の平面視形状は、矩形状に限るものではなく、矩形状以外の多角形状であってもよいし、円形状又は楕円形状であってもよいし、その他の任意の所定の形状であってもよい。本実施の形態において、樹脂構造体1の平面視形状は、縦の長さが150mmで、横の長さが100mmの長方形であるが、樹脂構造体1の縦横サイズは、これに限るものではない。例えば、樹脂構造体1の縦横サイズは、数十cmではなく、数cmから数mの範囲とすることができる。なお、本実施の形態において、樹脂構造体1は、湾曲していない平板であるが、湾曲する湾曲板であってもよい。
【0014】
図2及び
図3に示すように、樹脂構造体1の内部には、長尺状の微細空間2が1本以上形成されている。1本の微細空間2は、樹脂構造体1の内部に連続する空間からなる管状の空間路である。具体的には、1本の微細空間2は、樹脂構造体1を構成する樹脂によって周囲が囲まれており、トンネル状に形成されている。なお、微細空間2内には、空気等の気体が存在する。本実施の形態では、微細空間2内に空気が存在している。
【0015】
微細空間2は、三次元的に蛇行している。つまり、微細空間2は、上下方向、左右方向、前後方向及び斜め方向を含むあらゆる任意の方向に曲がるようにして蛇行している。例えば、微細空間2は、曲線状に曲がるように湾曲して滑らかにカーブするように形成されたた曲線部を1つ以上有している。また、微細空間2は、曲線部だけではなく、直線状に形成された直線部を含んでいてもよい。この場合、微細空間2は、直線部同士が折れ曲がるように構成されていてもよい。例えば、微細空間2は、直角に折れ曲がるように構成された屈曲部を有していてもよいし、90度以外の角度(鋭角、鈍角いずれでもよい)で折れ曲がるように構成された屈曲部を含んでいてもよい。このように、三次元的に蛇行する微細空間2は、曲線部だけではなく、1つ以上の直線部を含んでいてもよい。なお、三次元的に蛇行する微細空間は、1つ以上の曲線部のみで構成されていてもよいし、1つ以上の直線部のみで構成されていてもよい。本実施の形態において、微細空間2は、例えば、長いひものように曲がりくねった状態で形成されている。1本の微細空間2は、複数回蛇行しているとよい。
【0016】
本実施の形態において、微細空間2は、複数本である。つまり、樹脂構造体1の内部には、複数本の微細空間2が形成されている。具体的には、
図2に示すように、複数本の微細空間2は、互いに交わることなく三次元的に無秩序に形成されている。より具体的には、樹脂構造体1の内部には無数の微細空間2が密集して存在しているが、無数の微細空間2は、交点を持って互いに連結することなく各々が異なった態様で三次元的に蛇行して立体交差しており、毛細血管のように入り組んで絡み合った状態で樹脂構造体1の内部に密な状態で存在している。
【0017】
なお、複数本の微細空間2の中には、長尺状ではなく長さが短い微細空間2が存在していてもよいし、その他の任意の形状の微細空間2が含まれていてもよい。少なくとも、樹脂構造体1全体における複数本の微細空間2の中には、三次元的に蛇行する長尺状の微細空間2が1つ以上存在していればよい。
【0018】
複数本の微細空間2の長さは、互いに異なっていてもよい。この場合、全ての微細空間2の長さが互いに異なっていてもよいが、樹脂構造体1全体における複数本の微細空間2の中には、同じ長さの微細空間2が含まれていてもよい。
【0019】
微細空間2の長さは、少なくとも樹脂構造体1の厚さ以上であるとよい。また、樹脂構造体1の平面視形状が矩形状である場合、複数本の微細空間2の中には、樹脂構造体1の縦の長さ以上の長さの微細空間2及び/又は樹脂構造体1の横の長さ以上の長さの微細空間2が含まれていてもよい。この場合、全数の50%以上、より好ましくは80%以上の数の微細空間2について、各微細空間2の長さが、樹脂構造体1の縦の長さ以上であるとよく、さらには、樹脂構造体1の横の長さ以上になっているとよい。なお、樹脂構造体1全体における複数本の微細空間2には、樹脂構造体1の厚さ未満の長さの微細空間2が含まれていてもよい。
【0020】
各微細空間2の断面サイズは、特に、限定されるものではないが、微細空間2の延在方向(管軸方向)を垂直線とする任意の断面における微細空間2の最大径は、例えば2mmであり、微細空間2の延在方向を垂直線とする任意の断面における微細空間2の最小径は、例えば10μmである。つまり、各微細空間2の断面サイズは、10μm以上2000μm(=2mm)以下であるとよい。なお、各微細空間2の断面サイズは、2000μmを超えていてもよい。
【0021】
一例として、各微細空間2は、断面形状が円形の円管状の空間路であり、微細空間2の内径は、延在方向(管軸方向)で一定になっている。本実施の形態において、樹脂構造体1における全ての微細空間2は、断面の内径が1mmで一定の円管状に形成されている。なお、各微細空間2の断面サイズ及び断面形状は、一定なくてもよい。また、樹脂構造体1における複数本の微細空間2には、断面サイズ及び断面形状が互いに異なる複数本の微細空間2が含まれていてもよい。
【0022】
図1及び
図3に示すように、長尺状の微細空間2の一方の端部は、第1の開口2aである。微細空間2の一方の端部である第1の開口2aは、樹脂構造体1の第1の主面1a(第1の面)に形成されている。つまり、微細空間2の一方の端部は、第1の開口2aとして第1の主面1aに接続されている。
【0023】
複数本の微細空間2の中には、他方の端部が第2の開口2bである微細空間2が含まれている。つまり、
図3に示すように、複数本の微細空間2の中には、一方の端部と他方の端部との両方が樹脂構造体1の表面で開口している微細空間2が含まれている。
【0024】
この場合、複数本の微細空間2の中には、微細空間2の他方の端部である第2の開口2bが樹脂構造体1の第2の主面1b(第2の面)に形成された微細空間2が含まれている。つまり、この微細空間2の他方の端部は、第2の開口2bとして第2の主面1bに接続されている。
【0025】
このように、複数本の微細空間2の中には、樹脂構造体1の第1の主面1aから第2の主面1bまで一続きで連続的に形成された微細空間2が含まれている。本実施の形態において、微細空間2は、経路の途中で分岐することのない1本道の空間路である。
【0026】
なお、複数本の微細空間2の中には、第1の開口2a及び第2の開口2bの一方又は両方が樹脂構造体1の第1の主面1a及び第2の主面1b以外の面に形成された微細空間2が含まれていてもよい。逆に、全ての微細空間2の第1の開口2a及び第2の開口2bが樹脂構造体1の第1の主面1a及び第2の主面1bの2つの面のみに形成されていてもよい。
【0027】
微細空間2の第1の開口2a及び第2の開口2bの各々の形状は、一例として、円形であるが、
図1に示すように、複数本の微細空間2の中には、第1の開口2a及び第2の開口2bの各々の形状が円形でない微細空間2が含まれていてもよい。これは、微細空間2が円管状であっても、複数本の微細空間2の中には、微細空間2の管軸方向と第1の主面1a又は第2の主面1bとのなす角度が90°ではなく微細空間2が第1の主面1a又は第2の主面1bに対して斜めに接続されるものが存在していたり、第1の主面1a又は第2の主面1bが三次元的に無秩序に蛇行して形成された複数本の微細空間2が内部に含む樹脂部材を切断したときのような切断面になったりしているからである。なお、
図1の第1の主面1aに図示されている線画は、基本的には第1の開口2aの開口形状を示している。
【0028】
図1に示される構造を有する樹脂構造体1は、例えば、3Dプリンタによって形成することができる。3Dプリンタは、モデルとなる所定の三次元形状を有する作製対象を表す三次元コンピュータデータを使用して、光硬化性樹脂を積層していくことで、所定の三次元形状を有する作製対象(立体物)を製造することができる。したがって、3Dプリンタを用いることで、
図1及び
図3に示されるように、内部に複数本の長尺状の微細空間2が三次元的に無秩序に蛇行して複雑に入り組んだ状態で存在する樹脂構造体1であっても、容易に作製することができる。3Dプリンタを用いた製造方法としては、例えば、液漕光重合法又はインクジェット法(材料噴射法)等がある。
【0029】
例えば、3Dプリンタを用いて液漕光重合法により樹脂構造体1を作製する場合、紫外線硬化性樹脂からなる液体樹脂に紫外光(例えばUVレーザ光)を照射して液状樹脂を1層ごとに硬化させて複数の樹脂層を積層していくことで、立体物の樹脂構造体1を作製することができる。
【0030】
次に、本実施の形態に係る樹脂構造体1の作用効果について、
図4を用いて説明する。
図4は、実施の形態に係る樹脂構造体1の作用効果を説明するための図である。
【0031】
本実施の形態に係る樹脂構造体1は、新規な構造によって種々の機能を発揮し得る。本実施の形態に係る樹脂構造体1は、新規な構造として、光硬化性樹脂を主成分とする樹脂構造体1の内部に形成された長尺状の微細空間2を有する。そして、この長尺状の微細空間2の一方の端部である第1の開口2aは、樹脂構造体1の第1の主面1aに形成されている。
【0032】
以下、このような構造の樹脂構造体1が有する機能の一つとして、吸音機能について説明する。吸音機能を有する樹脂構造体1は、吸音部材として利用される。吸音部材としての樹脂構造体1は、空気中に伝わる音の振動を熱エネルギーに変換させることで音を減衰させることができる。
【0033】
具体的には、樹脂構造体1が配置された空間で発生した音は、この空間中を伝わって樹脂構造体1に到達する。このとき、空気中に伝わる音が樹脂構造体1の第1の主面1aに到達した場合、第1の主面1aに到達した音は、第1の開口2aから微細空間2内に進入する。
【0034】
この場合、
図4に示すように、微細空間2に内を進入した音(音エネルギー)は、微細空間2の内壁で衝突を繰り返しながら微細空間2の奥に進行することになる。このとき、微細空間2内を進行する音の一部は、微細空間2の内壁に衝突するたびに樹脂構造体1で熱に変換されるとともに、微細空間2内を進行する音の他の一部は、微細空間2中に存在する空気により熱に変換され続ける。つまり、微細空間2内を進行する音は、対空気及び対材料(樹脂構造体1)で熱に変換される。このように、第1の開口2aから微細空間2内に進入した音(音エネルギー)は、微細空間2内を進行するにつれて熱(熱エネルギー)に変換されて減衰する。これにより、樹脂構造体1に到達した音を樹脂構造体1で吸収することができる。なお、第1の開口2aから微細空間2内に進入する音だけではなく、第2の開口2bから微細空間2内に進入する音についても同様の原理で減衰させることができる。
【0035】
また、微細空間2内を進行する音は、空気に対する熱変換効率よりも材料(樹脂構造体1)に対する熱変換効率の方が高い。このため、本実施の形態のように、微細空間2が三次元的に蛇行していることで、微細空間2内を進行する音が微細空間2の内壁に衝突する回数や確率が高くなるので、微細空間2内を進行する音を効率良く熱に変換することができる。つまり、微細空間2が三次元的に蛇行していることで、樹脂構造体1の吸音性能を向上させることができる。
【0036】
この場合、微細空間2内を進行する音が微細空間2の内壁に衝突する回数を多くしたり微細空間2の内壁に衝突する確率を高めたりするために、1本の微細空間2における蛇行回数は、できるだけ多い方がよい。このため、1本の微細空間2は、少なくとも複数回蛇行しているとよい。つまり、樹脂構造体1の吸音性能を高めるとの観点では、1本の微細空間2の蛇行回数(微細空間2に形成される曲線部又は屈曲部の数)は、1回ではなく、複数回であるとよい。この場合、1本の微細空間2における蛇行回数は、樹脂構造体1のサイズにもよるが、3回以上であるとよく、より好ましくは5回以上、さらにより好ましくは10回以上、さらに20回以上であってもよい。
【0037】
しかも、本実施の形態に係る樹脂構造体1では、複数本の微細空間2が三次元的に蛇行しているだけではなく、複数本の微細空間2が互いに交わることなく三次元的に無秩序に形成されている。
【0038】
仮に複数本の微細空間2が互いに交わっていると、この交わっている部分で一方の微細空間2内を伝わる音が他方の微細空間2の方に移動してしまうおそれがある。この場合、一方の微細空間2の第1の開口2aから進入した音が、この一方の微細空間2の第2の開口2bに向かわずに、他方の微細空間2の第1の開口2a又は第2の開口2bに向かうことになり、出口となる開口が近づいてしまうおそれがある。この結果、一方の微細空間2の第1の開口2aから樹脂構造体1に進入した音が、一方の微細空間2の第2の開口2bまでの所望の長さの空間路を経由せずに、他方の微細空間2の第1の開口2a又は第2の開口2b(つまり、近づいてしまった出口)から外部に出てしまうおそれがある。
【0039】
これに対して、複数本の微細空間2が互いに交わることなく三次元的に無秩序に形成されていることで、微細空間2の第1の開口2aから樹脂構造体1に進入した音は、所望の長さで連続する長尺状の当該微細空間2内を進行することになる。これにより、樹脂構造体1の吸音性能をさらに向上させることができる。
【0040】
また、本実施の形態に係る樹脂構造体1では、微細空間2の他方の端部は、第2の主面1bに形成された第2の開口2bである。
【0041】
この構成により、第1の主面1aに形成された第1の開口2aから微細空間2内に進入した音が仮に微細空間2を通過して第2の主面1bに形成された第2の開口2bから樹脂構造体1の外部に漏れ出たとしても、第2の主面1bが第1の主面1aとは異なる面であるので、第1の主面1a側に位置するユーザは、樹脂構造体1から漏れ出た音を感じにくい。つまり、ユーザに対する吸音効果を発揮することができる。
【0042】
ここで、本実施の形態に係る樹脂構造体1の吸音性能を検証する実験を行ったので、その実験について
図5を用いて説明する。
図5は、実施の形態に係る樹脂構造体1の吸音性能を検証する実験の様子を示す図である。
【0043】
本実験で用いた樹脂構造体1のテストピースは、
図1及び
図2に示される構造を有する樹脂構造体1を3Dプリンタを用いて液漕光重合法によって作製したものである。また、作製した樹脂構造体1のサイズは、縦の長さが100mmで横の長さが100mmの平面視が矩形状のものであり、厚さが5mmのものと10mmのものとの2つを準備した。
【0044】
そして、上面のみに開口を有する肉厚5mmステンレス製の立方体形状の筐体10の底面にスピーカ20を配置し、上記樹脂構造体1のテストピースを筐体10の開口を塞ぐように設置し、樹脂構造体1のすぐ上でスピーカ20の音が聞こえるか否かをユーザの耳により確認した。なお、スピーカ20から樹脂構造体1までの距離は、230mmとし、スピーカ20の音量は、40dbとした。
【0045】
その結果、厚さが5mmの樹脂構造体1の場合も厚さが10mmの樹脂構造体1の場合もスピーカ20の音が聞こえなかった。つまり、樹脂構造体1によってスピーカ20の音が吸収されて消音することができた。このように、本実施の形態に係る樹脂構造体1は、優れた吸音機能を有する。
【0046】
(変形例)
以上、本発明に係る樹脂構造体1について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0047】
例えば、
図1及び
図2に示される樹脂構造体1における複数本の微細空間2の中には、
図6に示すように、微細空間2Aの経路の途中に所定形状の複数の空間室3が断続的に形成された微細空間2Aが含まれていてもよい。
図6は、変形例1に係る微細空間2Aの構成を模式的に示す図である。
【0048】
空間室3は、微細空間2Aの一部であり、隣り合う2つの空間室3の間の微細空間2Aと連続している。また、空間室3は、隣り合う2つの空間室3の間の微細空間2Aの最大径よりも大きい外径を有する。空間室3は、微細空間2Aの一部が部分的に拡大した形状になっている。空間室3の所定形状は、例えば、球状、立方体状及び三角錐状の群の中から選ばれる少なくとも一つを含むとよい。なお、
図6には、球状、立方体状及び三角錐状の3種類の空間室3が形成された微細空間2Aが示されているが、1本の微細空間2Aには、1種類のみの空間室3又は2種類のみの空間室3が形成されたものであってもよい。また、空間室3の形状は、球状、立方体状及び三角錐状以外の形状であってもよく、この場合、微細空間2Aは、4種類以上の空間室3が形成されたものであってもよい。
【0049】
このように、経路の途中に複数の空間室3が断続的に形成された微細空間2Aが存在することで、
図7に示すように、空間室3が形成されていない場合と比べて、微細空間2Aに進入した音が微細空間2Aの内壁に衝突する回数や確率が高くなるので、微細空間2A内を進行する音を効率良く熱に変換することができる。したがって、樹脂構造体1の吸音性能を向上させることができる。
【0050】
特に、空間室3の所定形状が、球状、立方体状及び三角錐状の群の中から選ばれる少なくとも一つにすることで、空間室3内に進入した音が次の空間室3との間の微細空間2Aに進行することを抑制できるので、樹脂構造体1に進入した音を効果的に熱に変換することができる。したがって、樹脂構造体1の吸音性能を一層向上させることができる。
【0051】
また、
図8に示すように、微細空間2Aに形成された空間室3内には、揺動可能に樹脂体4が配置されている。つまり、樹脂体4は、独立した構造体で空間室3に内包されており、空間室3内において動くことができる。樹脂体4は、紫外線硬化性樹脂等の光硬化性樹脂によって構成されている。本実施の形態において、樹脂体4は、3Dプリンタによって樹脂構造体1を作製する際に形成されるので、樹脂体4と樹脂構造体1とは同じ光硬化性樹脂によって構成されている。
【0052】
樹脂体4は、例えば球状の粒体である。樹脂体4は、当該樹脂体4が配置された空間室3内のみで移動可能である。つまり、樹脂体4は、当該樹脂体4が配置された空間室3内に留まっており、この空間室3に連結される管状の微細空間2Aには移動することができない。したがって、例えば、樹脂体4が球状である場合、樹脂体4の外径は、微細空間2Aの内径よりも大きくなっている。なお、樹脂体4の形状は、球状に限らない。また、1つの空間室3には、複数の樹脂体4が設けられていてもよい。
【0053】
空間室3内に配置された揺動可能な樹脂体4は、空間室3内で振動することができる。したがって、揺動可能な樹脂体4を空間室3内に配置することで、空間室3に進入した音エネルギーは、対空気及び対材料(樹脂構造体1)で熱エネルギーに変換されるだけではなく、樹脂体4による振動エネルギーにも変換される。これにより、空間室3内に樹脂体4を配置することで、空間室3内に樹脂体4を配置しない場合と比べて、樹脂構造体1の吸音性能を一層向上させることができる。
【0054】
また、上記実施の形態において、微細空間2の両端部はいずれも開口であったが、これに限らない。例えば、微細空間2の両端部のいずれか一方が開口しておらず閉塞していてもよい。具体的には、樹脂構造体1の複数本の微細空間2には、
図9に示すように、一方の端部が第1の開口2aで、他方の端部が樹脂構造体1の内部に位置する閉塞部2cとなっている微細空間2Bが含まれていてもよい。
図9は、変形例2に係る微細空間2Bの構成を模式的に示す図である。
図9において、(a)は、同微細空間2Bが形成された樹脂構造体の平面図であり、(b)は、(a)のIXb-IXb線に沿って切断したときの1本の微細空間2Bの経路の断面を模式的に示す図である。
【0055】
図9に示すように、一方の端部が第1の開口2aで、他方の端部が閉塞部2cである微細空間2Bを形成することで、第1の開口2aから微細空間2Bに進入した音が微細空間2Bの他方の端部から樹脂構造体1から外部に漏れ出ることを防止することができる。これにより、ユーザに対する吸音効果を向上させることができる。
【0056】
この場合、他方の端部に閉塞部2cが形成された微細空間2Bが複数本存在する場合、複数本の微細空間2Bの各々の一方の端部である第1の開口2aは、樹脂構造体1の第1の主面1aのみに形成されているとよい。
【0057】
これにより、樹脂構造体1の第1の主面1a以外の表面に存在する微細空間2の開口を減らすことができる。例えば、樹脂構造体1の第2の主面1bに存在する微細空間2の開口を減らすことができる。したがって、第1の開口2aから微細空間2及び2Bから進入した音が第2の主面1b側から外部に漏れ出ることを抑制できるので、第2の主面1b側に位置するユーザに対する吸音効果を向上させることができる。
【0058】
さらに、樹脂構造体1に存在する全ての微細空間2を閉塞部2cが形成された微細空間2Bとし、全ての微細空間2Bの第1の開口2aを樹脂構造体1の第1の主面1aのみに形成するとよい。
【0059】
これにより、樹脂構造体1の第1の主面1a以外の表面には微細空間2Bの開口が存在しなくなる。例えば、樹脂構造体1の第2の主面1bには、微細空間2Bの開口が存在しなくなる。したがって、第1の開口2aから微細空間2Bから進入した音が第2の主面1b側から外部に漏れ出ることが無くなるので、第2の主面1b側に位置するユーザに対する吸音効果を一層向上させることができる。しかも、第2の主面1bに微細空間2Bの開口が存在しないので、第2の主面1bの意匠性を向上させることもできる。
【0060】
また、上記実施の形態において、微細空間2の第1の開口2a及び第2の開口2bは、樹脂構造体1の異なる面に形成されていたが、これに限らない。例えば、微細空間2の両端部の開口が樹脂構造体1の同じ面に形成されていてもよい。具体的には、樹脂構造体1の複数本の微細空間2には、
図10に示すように、一方の端部の第1の開口2aと他方の端部の第2の開口2bの両方が樹脂構造体1の第1の主面1aに形成された微細空間2Cが含まれていてもよい。
図10は、変形例3に係る微細空間2Cの構成を模式的に示す図である。
図10において、(a)は、同微細空間2Cが形成された樹脂構造体の平面図であり、(b)は、(a)のXb-Xb線に沿って切断したときの1本の微細空間2Cの経路の断面を模式的に示す図である。
【0061】
これにより、樹脂構造体1の第2の主面1bに存在する微細空間2の開口を減らすことができるので、第1の主面1aに形成された第1の開口2a及び第2の開口2bから微細空間2及び2Cから進入した音が第2の主面1b側から外部に漏れ出ることを抑制できる。したがって、第2の主面1b側に位置するユーザに対する吸音効果を向上させることができる。
【0062】
さらに、樹脂構造体1に存在する全ての微細空間2を、第1の開口2a及び第2の開口2bの両方が第1の主面1aに形成された微細空間2Cとし、全ての微細空間2Cの第1の開口2a及び第2の開口2bを樹脂構造体1の第1の主面1aのみに形成するとよい。
【0063】
これにより、樹脂構造体1の第1の主面1a以外の表面には微細空間2Cの開口が存在しなくなる。例えば、樹脂構造体1の第2の主面1bには、微細空間2Cの開口が存在しなくなる。したがって、第1の開口2a及び第2の開口2bの一方から微細空間2Cから進入した音は、第1の開口2a及び第2の開口2bの他方から微細空間2Cの外部に漏れ出ることはあっても、第2の主面1b側から外部に漏れ出ることが無くなるので、第2の主面1b側に位置するユーザに対する吸音効果を一層向上させることができる。しかも、第2の主面1bに微細空間2Cの開口が存在しないので、第2の主面1bの意匠性を向上させることもできる。なお、
図10では、微細空間2Cの第1の開口2a及び第2の開口2bの両方を第1の主面1aに形成する場合について図示したが、微細空間2Cの第1の開口2a及び第2の開口2bの両方を第2の主面1bに形成してもよい。
【0064】
また、上記実施の形態における微細空間2は、分岐することのない1本道の空間路であったが、これに限らない。例えば、樹脂構造体1の複数本の微細空間2には、
図11に示すように、経路の途中で分岐する分岐路を有する微細空間2Dが含まれていてもよい。具体的には、微細空間2Dの一方の端部を第1の主面1aに形成された1つの第1の開口2aとし、微細空間2Dの他方の端部を第2の主面1bに形成された複数の第2の開口2bとすることができる。この場合、他方の端部を開口にするのではなく、
図12に示される微細空間2Eのように、複数の他方の端部の1つ以上又は全部を樹脂構造体1の内部に位置する閉塞部2cとしてもよい。
【0065】
また、上記実施の形態では、樹脂構造体1に到達した音は、微細空間2の一方の端部である第1の開口2aから微細空間2内に進入する場合について説明したが、これに限らない。具体的には、樹脂構造体1に到達した音は、微細空間2の他方の端部である第2の開口2bから微細空間2内に進入してもよい。つまり、各微細空間2において、一方の端部である第1の開口2aを音の入口としてもよいし、他方の端部である第2の開口2bを音の入口としてもよい。すなわち、音の入口となる開口は、樹脂構造体1の第1の主面1aに形成された第1の開口2aであってもよいし、第2の主面1bに形成された第2の開口2bであってもよい。
【0066】
また、各微細空間2において、一方の端部を第1の開口2aとし、他方の端部を第2の開口2bとしたが、これに限らない。具体的には、各微細空間2において、一方の端部を第2の開口2bとし、他方の端部を第1の開口2aとしてもよい。
【0067】
また、上記実施の形態において、微細空間2には空気等の気体が存在していたが、これに限らない。例えば、微細空間2には、水等の液体が存在していてもよい。
【0068】
また、以上の樹脂構造体1を吸音部材として用いる場合、樹脂構造体1は、壁等の建築構造物又は防音機能が要求される製品として利用することができる。例えば、本発明は、吸音部材である樹脂構造体1を備える建築構造物又は製品等であってもよい。
【0069】
なお、樹脂構造体1は、吸音部材以外の用途に用いられてもよい。例えば、樹脂構造体1は、フィルタとして用いられてもよい。つまり、樹脂構造体1は、吸音機能以外に、液体又は気体をフィルタリングするフィルタ機能を有していてもよい。
【0070】
また、樹脂構造体1は、吸音機能及びフィルタ機能以外の機能を有していてもよい。例えば、透明な樹脂構造体1の微細空間2に着色された液体を流すことで模様が変化する機能を有する樹脂構造体1とすることもできる。この場合、樹脂構造体1は、模様が変化する意匠部材又は演出部材等として利用することができる。
【0071】
その他、上記の実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、又は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で上記の実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 樹脂構造体
1a 第1の主面(第1の面)
1b 第2の主面(第2の面
2、2A、2B、2C、2D、2E 微細空間
2a 第1の開口
2b 第2の開口
2c 閉塞部
3 空間室
4 樹脂体