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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】故障検出装置およびレーザ加工システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240920BHJP
【FI】
B23K26/00 Q
B23K26/00 M
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022507282
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2021009886
(87)【国際公開番号】W WO2021182582
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2024-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2020043819
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 諒
【審査官】齋藤 健児
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/059249(WO,A1)
【文献】特表2015-513069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工レーザ光を出射する加工レーザ光源と、
検出レーザ光を出射する検出レーザ光源と、
前記検出レーザ光の第2の部分光および前記加工レーザ光を伝送する一方、入射端の近傍にモードストリッパ部が、出射端の近傍に別のモードストリッパ部がそれぞれ設けられた光ファイバと、
前記第2の部分光および前記加工レーザ光を前記光ファイバの入射端に集光する集光レンズと、
前記集光レンズの近傍に配置された第2の受光器と、
前記モードストリッパ部の近傍に配置され、前記モードストリッパ部から放出された光の強度を測定する第3の受光器と、
前記別のモードストリッパ部の近傍に配置され、前記別のモードストリッパ部から放出された光の強度を測定する第4の受光器と、
前記光ファイバの出射端に接続され、前記第2の部分光および前記加工レーザ光を被加工体に向けて出射するレーザヘッドと、
前記レーザヘッドの内部に配置された第5の受光器と、
少なくとも前記第2~第5の受光器で測定された光の強度の相対比およびそれらの時間変化に基づいて、前記光ファイバ、前記集光レンズ、前記レーザヘッドおよび前記被加工体の加工状態のいずれかに不具合があるか否かを判定する判定部と、を備えた、
故障検出装置。
【請求項2】
前記判定部は、少なくとも前記第2~第5の受光器で測定された光の強度の相対比およびそれらの時間変化に基づいて、前記不具合の予兆を判定する、
請求項1に記載の故障検出装置。
【請求項3】
前記光ファイバは、光導波路である第1のコアを軸心に有するとともに、断面視でリング状の光導波路である第2のコアが、前記第1のコアと同軸にかつ前記第1のコアの外周側に所定の間隔をあけて設けられている、
請求項1または2に記載の故障検出装置。
【請求項4】
前記検出レーザ光の第1の部分光の強度を測定する第1の受光器をさらに備え、
前記判定部は、前記第1~第5の受光器で測定された光の強度の相対比およびそれらの時間変化に基づいて、前記不具合および前記不具合の予兆を判定し、
さらに、前記第1の受光器で測定された光の強度およびその時間変化に基づいて、前記検出レーザ光が所定の出力になっているか否かを判断する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項5】
前記第1の受光器は、前記加工レーザ光と同じ波長の光の受光感度よりも前記検出レーザ光と同じ波長の光の受光感度が高くなるように設定されている、
請求項4に記載の故障検出装置。
【請求項6】
前記第2の受光器および前記第3の受光器で測定された光の強度およびその時間変化に基づいて、前記加工レーザ光および前記検出レーザ光と前記光ファイバとのカップリング効率が低下する予兆を判定する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項7】
前記第4の受光器および第5の受光器で測定された光の強度およびそれらの時間変化に基づいて、前記被加工体からの反射戻り光の増加または前記レーザヘッドの内部の光学部品の汚れあるいは前記光ファイバの焼損や断線に起因した前記不具合および前記不具合の予兆を判定する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項8】
前記加工レーザ光の部分光の強度を測定する第6の受光器をさらに備え、
前記判定部は、少なくとも前記第2~第6の受光器で測定された光の強度の相対比およびそれらの時間変化に基づいて、前記不具合および前記不具合の予兆を判定し、
さらに、前記第6の受光器で測定された光の強度およびその時間変化に基づいて、前記加工レーザ光が所定の出力になっているか否かを判断する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項9】
前記加工レーザ光と前記検出レーザ光とが同時に出射された状態で、少なくとも前記第2~第5の受光器で光の強度が測定され、
前記判定部は、当該測定された光の強度の相対比およびそれらの時間変化に基づいて、前記不具合および前記不具合の予兆の有無を判定する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の前記故障検出装置と、
前記故障検出装置を制御する制御部と、を備えた、
レーザ加工システム。
【請求項11】
前記判定部が、前記光ファイバおよび前記被加工体の加工状態のいずれかに不具合があると判定した場合、
前記制御部は、前記故障検出装置のうち、少なくとも前記加工レーザ光源および前記検出レーザ光源を停止する、
請求項10に記載のレーザ加工システム。
【請求項12】
前記判定部が、前記光ファイバ、前記集光レンズ、前記レーザヘッドおよび前記被加工体の加工状態のいずれかに不具合の予兆が発生していると判定した場合、
前記制御部は、前記判定部で判定された判定結果を報知するか、または、記憶部に保存するか、あるいはその両方を実行する、
請求項10または11に記載のレーザ加工システム。
【請求項13】
前記制御部は、前記判定部で判定された判定結果に基づいて前記加工レーザ光の出力を補正するか、または、メンテナンス箇所およびメンテナンス時期を報知するか、あるいはその両方を実行する、
請求項12に記載のレーザ加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバを有する故障検出装置およびレーザ加工システムに関し、とりわけ高出力の加工レーザ光を伝送する光ファイバを有する故障検出装置およびレーザ加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイレクト・ダイオード・レーザ(DDL)光源等からの高出力の加工レーザ光を、光ファイバを介して加工ヘッドまで伝送し、集光および照射することにより、被加工材(ワーク)を溶接、溶断穿孔などするレーザ加工システムが広く用いられている。こうした光ファイバは、加工レーザ光を伝送している間に光ファイバが断線すると、加工レーザ光の出力エネルギが大きいため、光ファイバの被膜樹脂等をはじめ周辺装置に損傷を与える虞がある。したがって、高出力の加工レーザ光を利用するレーザ加工システムには、一般に、レーザ光を伝送する光ファイバの断線を検出するための装置が設けられている。
【0003】
高出力のレーザ光を伝送する光ファイバの断線を検出するための装置は、これまでにも数多く提案されている。従来技術に係る断線検出装置として、例えば、レーザ光を伝送する光ファイバに沿って配置された被覆電線を用いて閉回路を構成し、光ファイバの断線時に生じる熱により閉回路が断線(オープン)または短絡(ショート)したことを電気的に検出することにより、光ファイバの断線を検出するものが提案されている。
【0004】
さらに別の断線検出装置は、被覆電線に代わって、ガスを循環させるチューブを光ファイバに沿って配置し、循環させるガスの流量をモニタし、循環ガスの流量が変化したとき、光ファイバの断線を判断するものも提案されている。
【0005】
別の断線検出装置は、被加工材を加工するためのレーザ光(加工レーザ光)を光ファイバにより伝送させるレーザ加工システムにおいて、光ファイバに入射および出射される加工レーザ光のそれぞれの光強度(出力強度)をモニタする一対の光検出器を備え、各光検出器で測定された加工レーザ光の光強度の差異または相対値の変化に基づいて、光ファイバの断線または光ファイバによるエネルギ損失を検出するものも利用されている。
【0006】
より具体的には、特許文献1の記載の光ファイバ破断検出装置は、被加工材を加工するための高エネルギの加工レーザ光を伝送する光ファイバと、光ファイバの入射端および出射端の近傍に一対の受光器と、これら受光器の出力を比較して光ファイバの破断を検出する検出部とを備える。
【0007】
また、特許文献2の記載のレーザ伝送用光ファイバ装置は、同様に、被加工材を加工するためのパワーレーザ光を伝送する光ファイバと、光ファイバの出射端の近傍に配置された可視光選択反射手段と、光ファイバの入射端の近傍に配置され、パワーレーザ光および可視光選択反射手段で選択された可視光を受光する受光検出器とを備える。この可視光は、光ファイバの断線等に起因して光ファイバの被覆材が燃焼して生じるものである。そしてレーザ伝送用光ファイバ装置は、パワーレーザ光および可視光の光強度を比較することにより、光ファイバの断線等の異常を検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-038751号公報
【文献】特開平07-266067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、被覆電線またはガス循環用チューブを用いた断線検出装置においては、光ファイバが断線していなくても、光ファイバとは別体の被覆電線の閉回路が断線もしくは短絡し、または循環ガスの流量が変化したとき、光ファイバが断線したものと誤検出する場合がある。例えば、被覆電線を用いた断線検出装置において、閉回路を構成する一対の被覆電線が光ファイバとの摩擦により剥離すると、被膜電線の一対の芯線が接触(短絡)し、断線検出機能が動作することがある。
【0010】
また、特許文献1および特許文献2に記載の技術は、いずれも被加工材を加工するための高出力レーザを断線検出に利用する。具体的には、光ファイバに入射および出射される加工レーザ光(特許文献1)、または光ファイバに入射されるパワーレーザ光および光ファイバから出射される可視光(特許文献2)を比較して、光ファイバの断線を検出する。しかし、被加工材を加工するためのレーザ光(加工レーザ光)の出力強度は、レーザ光源装置の動作状態または使用時間等に起因して変動して、光ファイバの透過率が実質的に変化しやすい。そのため、加工レーザ光を伝送する光ファイバそのものを用いて、その光ファイバの伝送損失等を検出することは困難となり、誤検出等を招く虞がある。
【0011】
また、加工レーザ光(特許文献1)および被覆材が燃焼して生じる可視光(特許文献2)は、一般に、波長帯域が広く、これらの波長および光ファイバの組成(光ファイバを構成するガラス分子の密度)に依存して光ファイバ内で生じるレイリー散乱光(光の波長よりも小さいサイズの粒子による光の散乱現象により発生する散乱光)と干渉しやすく、加工レーザ光または可視光が安定せず、同様に誤検出等を招くことがある。
【0012】
また、光ファイバを有するレーザ加工システムを用いてレーザ加工を行う場合、光ファイバ自体も含めて加工システムの内部や被加工体で発生する不具合を適切に検出可能な構成は、特許文献1、2には具体的に開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示に係る態様は、故障検出装置に関し、この故障検出装置は、加工レーザ光を出射する加工レーザ光源と、検出レーザ光を出射する検出レーザ光源と、前記検出レーザ光の第2の部分光および前記加工レーザ光を伝送する一方、入射端の近傍にモードストリッパ部が、出射端の近傍に別のモードストリッパ部がそれぞれ設けられた光ファイバと、前記第2の部分光および前記加工レーザ光を前記光ファイバの入射端に集光する集光レンズと、前記集光レンズの近傍に配置された第2の受光器と、前記モードストリッパ部の近傍に配置され、前記モードストリッパ部から放出された光の強度を測定する第3の受光器と、前記別のモードストリッパ部の近傍に配置され、前記別のモードストリッパ部から放出された光の強度を測定する第4の受光器と、前記光ファイバの出射端に接続され、前記第2の部分光および前記加工レーザ光を被加工体に向けて出射するレーザヘッドと、前記レーザヘッドの内部に配置された第5の受光器と、少なくとも前記第2~第5の受光器で測定された光の強度の相対比およびそれらの時間変化に基づいて、前記光ファイバ、前記集光レンズ、前記レーザヘッドおよび前記被加工体の加工状態のいずれかに不具合があるか否かを判定する判定部と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係る故障検出装置は、光ファイバの断線やその他のレーザ加工システムの不具合を高い信頼性で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施の形態に係る故障検出装置の概略的構成を示すブロック図である。
図2図2は、光ファイバおよびその接続部の概略的構成を示す図である。
図3図3は、図2のIII-III線での断面模式図である。
図4図4は、レーザ加工システムおよび故障検出装置の各種不具合、およびその予兆と第1~第5の光検出器からの測定信号との関係を示す図である。
図5図5は、レーザ加工システムおよび故障検出装置の各種不具合と被加工体の加工品質との関係を示す図である。
図6図6は、変形例に係る故障検出装置の概略的構成を示すブロック図である。
図7図7は、レーザ加工システムおよび故障検出装置の各種不具合、およびその予兆と第1~第6の光検出器からの測定信号との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本開示の概略的構成を説明する。本開示の態様に係る故障検出装置は、加工レーザ光を出射する加工レーザ光源と、検出レーザ光を出射する検出レーザ光源と、検出レーザ光の第1の部分光の強度を測定する第1の受光器と、検出レーザ光の第2の部分光および加工レーザ光を伝送する一方、入射端の近傍にモードストリッパ部が、出射端の近傍に別のモードストリッパ部がそれぞれ設けられた光ファイバと、光ファイバの出射端に接続され、第2の部分光および加工レーザ光を被加工体に向けて出射するレーザヘッドと、を備える。さらに、第2の部分光および加工レーザ光を光ファイバの入射端に集光する集光レンズと、集光レンズの近傍に配置された第2の受光器と、モードストリッパ部の近傍に配置された第3の受光器と、別のモードストリッパ部の近傍に配置された第4の受光器と、レーザヘッドの内部に配置された第5の受光器と、少なくとも第2~第5の受光器で測定された光の強度の相対比およびそれらの時間変化に基づいて、光ファイバ、集光レンズ、レーザヘッドおよび被加工体の加工状態のいずれかに不具合があるか否かを判定する判定部と、を備える。
【0017】
この態様に係る故障検出装置は、前述の構成を備えることで、故障検出装置およびこれを備えるレーザ加工システムやレーザ加工で発生する不具合およびそれらの予兆の有無や種類を適切に判定できる。また、故障検出装置やレーザ加工システムの不具合箇所を適切な時期にメンテナンスしたり、事前にレーザ加工システムを停止させたりして被加工体の加工品質を維持することができる。
【0018】
次に、添付図面を参照して本開示に係る故障検出装置の実施形態を以下説明する。各実施形態の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(たとえば「左側」および「右側」等)を適宜用いるが、これは説明のためのものであって、これらの用語は本開示を限定するものでない。なお、各図面において、故障検出装置の各構成部品の電気的な接続を実線で示し、各構成部品(光源等)からの各レーザ光の進行方向を直線矢印で示す。また、各図面の直線矢印は、各レーザ光を明確にするために、これらの光軸をずらして図示するが、実際には各レーザ光は、光ファイバ内において同一の光軸上に伝送されるものである。
【0019】
[実施の形態]
図1~5を参照しながら、本開示に係る故障検出装置1の実施の形態を説明する。図1は、本実施の形態に係る故障検出装置1の概略的構成を示すブロック図である。図2は、光ファイバ70およびその接続部の概略的構成を示す図である。図3は、図2のIII-III線での断面模式図である。
【0020】
実施の形態に係る故障検出装置1は、図1に示すように、概略、加工レーザ光源10と、検出レーザ光源20と、光ファイバ70と、第1~第5の光検出器100,110,120,130,140(受光器)と、レーザヘッド80と、第1の筐体160と、不具合判定部(判定部)50と、を備える。本実施の形態に係るレーザ加工システムは、故障検出装置1と、システム制御部60と、第1の収容室16と、第2の収容室18とを有する。第1の収容室16は、加工レーザ光源10、検出レーザ光源20、第1の筐体160、第1の光検出器100、および、不具合判定部50を収容する。また、第1の筐体160は、ハーフミラー12、集光レンズ36、および第2の光検出器110を収容する。またさらに第3の光検出器120を間接的に収容する。
【0021】
なお、ここで、間接的に収納するとは、第3の光検出器120が、光ファイバ70の端部が取り付けられる筒状のコネクタ部161に配置された後に、第1の筐体160に間接的に取り付けられていることを示している。言い換えると、光ファイバ70に端部にコネクタ部161に第3の光検出器120が内蔵されて配置されており、この光ファイバ70のコネクタ部161を第1の筐体160に対して取り付ける構造である。
【0022】
加工レーザ光源10は、被加工材(ワーク、図示せず)を加工するための任意の高出力の加工レーザ光Lを出射する。加工は、例えば、溶接、溶断および穿孔である。加工レーザ光源10は、例えばピーク波長が長く、波長帯域が広く(975nm±20nm)、出力強度が数kWオーダ(~10W)の加工レーザ光Lを出射するダイレクト・ダイオード・レーザ(DDL)光源であってもよい。加工レーザ光Lは、図示のように、加工レーザ光Lの光軸に対して45度の向きに配置されたハーフミラー12で反射し、光ファイバ70に配向(案内)される。ハーフミラー12は、加工レーザ光Lの上記波長帯域の光を実質的に全反射させ、後述の検出レーザ光L等のより波長の短い光を実質的に全透過させるものであることが好ましい。
【0023】
検出レーザ光源20は、検出レーザ光Lを出射する。検出レーザ光源20は、例えば加工レーザ光Lに比してピーク波長が短く、波長帯域が狭く(600nm±5nm)、出力強度が数百ミリW(~1W)の検出レーザ光Lを出射するヘリウムネオン(He-Ne)レーザ光源または半導体レーザ光源であってもよい。
【0024】
なお、第1の光検出器100は、検出レーザ光源20の光出射部の近傍であって、検出レーザ光Lの光路の近傍に配置されている。第2の光検出器110は、集光レンズ36と光ファイバ70の入射端72との間であって、加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lの光路の近傍に配置されている。第3の光検出器120は、第1の筐体160に設けられた筒状のコネクタ部161の内部であって、光ファイバ70のモードストリッパ部78(図2参照)の近傍に配置されている。このうち、第1の光検出器100は、検出レーザ光Lの第1の部分光LD1の光強度を測定し、測定された信号P10を不具合判定部50に供給する。つまり、第1の光検出器100は、検出レーザ光Lが所定の出力になっているか否かを判断するために設けられている。
【0025】
第2の光検出器110は、集光レンズ36を透過した加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lの第2の部分光LD2のうち、所定の光路から外れた光の光強度を測定する。また、第2の光検出器110は、被加工体で反射され、レーザヘッド80と光ファイバ70とを通って第1の筐体160の内部に戻ってきた戻り光のうち、集光レンズ36で反射された光の光強度を測定する。第2の光検出器110で測定された信号P11は不具合判定部50に供給される。なお、第2の光検出器110は、加工レーザ光Lと同じ波長の光の受光感度よりも検出レーザ光Lと同じ波長の光の受光感度が高くなるように設定されている。例えば、第2の光検出器110を半導体材料で構成する場合は、半導体材料を適切に設定することで、上記のように受光感度を設定できる。また、第2の光検出器110の受光面またはその近傍に、バンドパルフィルタを配置して、上記のように受光感度を設定してもよい。第2の光検出器110は、主として、集光レンズ36の汚れや後で述べるファイバ焼損が発生しているか否かを判断するために設けられている。なお、第3の光検出器120については後で述べる。
【0026】
なお、本実施の形態における第2の部分光LD2は、検出レーザ光Lから第1の光検出器100に入射された第1の部分光LD1を除き、かつ光ファイバ70に入射される光成分である。検出レーザ光Lの第1の部分光LD1を第1の光検出器100に入射させるために、検出レーザ光源20とハーフミラー12との間に別のハーフミラー(図示せず)を配置し、これを用いて検出レーザ光Lを第1の部分光LD1と第2の部分光LD2に分割してもよい。
【0027】
レーザヘッド80は、第2の筐体82を有しており、第2の筐体82は第2の収容室18に相当する。第2の筐体82は、コリメーションレンズ84、集光レンズ86、保護ガラス88、第4の光検出器130、および第5の光検出器140を収容する。第4の光検出器130は、第2の筐体82に設けられた筒状のコネクタ部821の内部であって、光ファイバ70のモードストリッパ部78(図2参照)の近傍に配置されている。第5の光検出器140は、第2の筐体82の内部であって、コネクタ部821が設けられた側に配置されている。第5の光検出器140は、被加工体で反射されレーザヘッド80の内部に入射された加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lの第2の部分光LD2の戻り光のうち、所定の光路から外れた光の光強度を測定する。また、第5の光検出器140は、レーザヘッド80の内部の光学部品、例えば、保護ガラス88で反射された加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lの第2の部分光LD2の戻り光の光強度を測定する。第5の光検出器140で測定された信号P14は不具合判定部50に供給される。第5の光検出器140は、主として、レーザヘッド80の内部の光学部品の汚れの有無等を判断するために設けられている。なお、第4の光検出器130については後で述べる。
【0028】
光ファイバ70は、第1の筐体160と第2の筐体82とを物理的および光学的に接続する。コリメーションレンズ84は、加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lの第2の部分光を平行光に変換し、集光レンズ86は、コリメーションレンズ84を透過した加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lの第2の部分光LD2を被加工体に向けて集光する。保護ガラス88は、加工レーザ光Lの照射により、被加工体から発生するヒュームやスパッタ等が第2の筐体82の内部に入り込むのを防止する。
【0029】
[光ファイバおよびその接続部の構成]
図2に示すように、光ファイバ70の入射端72および出射端74には、それぞれエンドキャップ76が設けられている。エンドキャップ76は、円柱状の石英ガラスで構成されている。エンドキャップ76は、光ファイバ70の入射端72および出射端74にそれぞれ融着接続されている。
【0030】
エンドキャップ76の外径は、後で述べる光ファイバ70の第2のクラッド70dの外径よりも大きい。エンドキャップ76は、光ファイバ70の入射端72および出射端74における加工レーザ光Lのエネルギ密度を下げ、光ファイバ70の入射端72および出射端74の損傷をそれぞれ抑えることができる。
【0031】
光ファイバ70の出射側の端部は、第2の筐体82に設けられたコネクタ部821の内部に収容されている。コネクタ部821の内部に収容された光ファイバ70は、一部の被覆部70e(図3参照)が除去されて露出した第2のクラッド70dに、モードストリッパ部78が設けられている。
【0032】
また、光ファイバ70の入射側の端部は、コネクタ部161の内部に収容されており、コネクタ部161の内部に収容された光ファイバ70は、一部の被覆部70e(図3参照)が除去されて露出した第2のクラッド70dに、前述のモードストリッパ部78が設けられている。なお、コネクタ部161およびコネクタ部821には、図示しない水冷機構がそれぞれ設けられ、内部に収容された光ファイバ70を冷却している。
【0033】
モードストリッパ部78は、第2のクラッド70dに入射された加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lを第2のクラッド70dの外部に放出して除去するものである。モードストリッパ部78は、例えば、第2のクラッド70dの外周面にエッチング処理を施すことで形成される。
【0034】
第4の光検出器130は、第2のクラッド70dに入射された加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lの第2の部分光LD2、またはこれらの戻り光のうち、光ファイバ70の出射側に設けられたモードストリッパ部78から放出された光の光強度を測定し、測定された信号P13を不具合判定部50に供給する。
【0035】
第3の光検出器120は、第2のクラッド70dに入射された加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lの第2の部分光LD2のうち、光ファイバ70の入射側に設けられたモードストリッパ部78から放出された光の光強度を主に測定し、測定された信号P12を不具合判定部50に供給する。
【0036】
図3に示すように、光ファイバ70は、それぞれが光導波路である第1のコア70aおよび第2のコア70cと第1のクラッド70bおよび第2のクラッド70dとを少なくとも有しており、第2のクラッド70dの外周面が遮光性の被覆部70eで覆われている。
【0037】
第1のコア70aは、断面視で円形状であり、光ファイバ70の軸心に配置されている。第1のクラッド70bは、第1のコア70aの外周面に接して、第1のコア70aと同軸に配置されており、断面視でリング状である。第2のコア70cは、第1のクラッド70bの外周面に接して、第1のコア70aと同軸に配置されており、断面視でリング状である。第2のクラッド70dは、第2のコア70cの外周面に接して、第1のコア70aと同軸に配置されており、断面視でリング状である。
【0038】
第1のコア70aおよび第2のコア70cと第1のクラッド70bおよび第2のクラッド70dとは、いずれも石英からなる。ただし、第1のクラッド70bの屈折率は、第1のコア70aおよび第2のコア70cのそれぞれの屈折率よりも低くなるように設定されている。また、第2のクラッド70dの屈折率は、第2のコア70cの屈折率よりも低くなるように設定されている。つまり、光ファイバ70は、いわゆるマルチコアファイバである。複数のレーザ光源からのレーザ光を結合して加工レーザ光Lとする場合に、加工レーザ光Lのビームプロファイルが大きく拡がることがある。光ファイバ70をマルチコアファイバとすることで、加工レーザ光Lのビームプロファイルを変更した場合にも、確実にレーザヘッド80に加工レーザ光Lを導光できる。
【0039】
[レーザ加工システムおよび故障検出装置の不具合と不具合の予兆の診断について]
故障検出装置1は、第1~第5の光検出器110,120,130,140で測定された測定信号P10~P14の相対比、また、それぞれの信号の時間変化をモニタする。さらに、不具合判定部50でモニタ結果を診断し、かつレーザ加工システムおよび故障検出装置1やレーザ加工で発生する不具合(光ファイバ70、集光レンズ36、レーザヘッド80、加工レーザ光源10等のレーザ加工システムや故障検出装置1の内部および被加工体の加工状態のいずれかに不具合があるか否か等)およびそれらの相互関係(少なくとも第2~第5の光検出器110,120,130,140で測定された光の強度の相対比およびそれらの時間変化に基づいて)を考慮し、予兆の有無や種類を判定する。このことにより、不具合箇所を適切な時期にメンテナンスしたり、事前にシステムを停止させたりして被加工体の加工品質を維持することができる。
【0040】
図4は、レーザ加工システムおよび故障検出装置1の各種不具合、およびその予兆と第1~第5の光検出器100,110,120,130,140からの測定信号との関係を示す図である。図5は、レーザ加工システムおよび故障検出装置1の各種不具合と被加工体の加工品質との関係を示す図である。なお、本実施の形態において、加工レーザ光源10から加工レーザ光Lを、検出レーザ光源20から検出レーザ光Lを、それぞれ同時に出射させた状態(on状態)で、レーザ加工システムおよび故障検出装置1の各種不具合やレーザ加工の不具合の有無や種類等を判定、診断する。また、図4に示す例では、各診断項目が正常である場合、測定信号P10~P14のそれぞれの値を「1」と設定している。また、不具合がある場合の測定信号P10~P14は、正常時の値を基準とした相対値である。
【0041】
なお、得られた測定信号P10~P14は、レーザ照射開始からの経過時間および後で示す診断項目や予兆パターンやエラーパターンと関連付けられて、図示しない記憶部に履歴として保存される。このとき、システム制御部60からの命令により、測定信号P10~P14が記憶部に保存されるようにしてもよい。
【0042】
図4,5に示す例では、不具合に関する診断項目(以下、単に項目という)として7種類の項目を挙げている。以下、各項目について説明する。なお、本実施の形態において、「エラー」とは、安全上、または、被加工体の加工品質上において、レーザ加工システムおよび故障検出装置1、特に加工レーザ光源10と検出レーザ光源20とを緊急停止させるレベルの不具合である。実際に不具合判定部50でエラーと判定された場合は、システム制御部60が、少なくとも加工レーザ光源10と検出レーザ光源20を停止させる。「予兆」とは、レーザ加工システムおよび故障検出装置1を停止させるまでには至らないものの、そのまま放置しておくとエラーが発生するおそれのある不具合である。また、図4において、検出パターンの番号が検出段階のエラーの記載でのエラーの後に続く番号に一致する。検出パターンが複数存在する場合は、それぞれ異なる原因により不具合が発生している場合であり、エラーの出方も複数パターン存在する。また、検出段階での予兆として、予兆の後に続くアルファベット文字は、図5に示す項目Noおよび発生前の予兆パターンでの予兆の後に続くアルファベット文字に一致し、対応する。予兆の検出(判定)前に測定信号の値の数字の増加が続く場合は、数字が大きいほど、不具合の程度が予兆のレベルに近いことを示している。またさらに、予兆の検出(判定)後に測定信号の値の数字の増加が続く場合は、数字が大きいほど、不具合の程度がエラーのレベルに近いことを示している。また、図5において、重要度とは、レーザ加工システムおよび故障検出装置1自体への影響、あるいは被加工体の加工品質への影響の度合いを示し、数字が小さい方が、これらの影響の度合いがより大きいことを示している。
【0043】
<A:被加工体からの反射光 大>
図4,5に示す項目No.Aは、被加工体からの反射光の強度が所定以上に大きくなっている不具合に対応している。図4,5に示すように、例えば、この項目No.Aにおける各予兆(予兆D、予兆G、予兆H)は、それぞれ項目No.D,G,Hにそれぞれ主に起因(対応)する不具合が発生していることを示している。例えば、被加工体からの反射光の強度が大きくなると、反射光が光ファイバ70を介して第1の筐体160の内部に戻ってくる光量も大きくなる。戻り光が集光レンズ36で反射されると、第2の光検出器110での受光量が大きくなり、予兆Dが発生したと判定される。この予兆パターンは、集光レンズ36の汚れに対応するパターンである。また、入射側のモードストリッパ部78からの漏れ光が大きくなると、第3の光検出器120での受光量が大きくなり、予兆Gが発生したと判定される。この予兆パターンは、加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lと光ファイバ70とのカップリング効率低下に対応するパターンである。また、被加工体からの反射光の強度が大きくなるとともに、被加工体の表面での散乱が大きくなると、例えば、第5の光検出器140での受光量が小さくなり、予兆Hが発生したと判定される。この予兆パターンは、加工レーザ光源10の出力低下に対応するパターンである。
【0044】
図4に示すように、それぞれの予兆が検出された後に発生するエラーパターンは、それぞれ異なるが、いずれの場合も、エラーが発生すると被加工体の加工品質が極端に低下してしまう。このため、予兆が発生した時点で、例えば、システム制御部60から図示しない表示部に予兆の発生およびそのパターンを画像で表示させるか、音声で報知させるか、あるいはその両方を実行させるようにする。このことにより、故障検出装置1およびレーザ加工システムにおけるメンテナンス時期やメンテナンス箇所を適切に加工作業者等に指示できる。また、予兆H(加工レーザ光源10の出力低下)が検出された場合は、加工レーザ光源10の出力電流値を調整して、加工レーザ光Lの出力値を設定値に補正するメンテナンスを行うこともできる。この場合、システム制御部60にパワーフィードバック機能を持たせることで、加工レーザ光Lの出力値を自動補正してもよい。
【0045】
<B:ファイバ焼損>
図4,5に示す項目No.Bは、光ファイバ70に焼損が生じている不具合に対応している。第1のコア70aおよび/または第2のコア70cを通らずに、第1のクラッド70bおよび/または第2のクラッド70dを通過する光量が多くなり過ぎると、光ファイバ70が発熱、焼損して光が伝送できなくなる。図4,5に示すように、この予兆として項目No.C,Gにそれぞれ対応する不具合が発生していることが多い。例えば、検出パターン1として示すように、レーザヘッド80の内部の光学部品、代表的には、保護ガラス88の汚れがひどくなると、保護ガラス88で加工レーザ光Lや検出レーザ光Lが反射され、光ファイバ70に戻り光として入射される。この戻り光の強度が大きくなると、例えば、第1および第2の光検出器100,110や第4および第5の光検出器130,140での受光量が大きくなり、予兆Cが発生したと判定される。この予兆パターンは、レーザヘッド80の内部の光学部品の汚れに対応するパターンである。また、検出パターン2として示すように、加工レーザ光Lの光軸ずれなどが発生し、光ファイバ70のクラッド70bおよびクラッド70dを通過する光量が多くなると、第3の光検出器120での受光量が大きくなり、カップリング効率低下に対応するパターン(予兆G)が検出される。なお、予兆パターンは、特定の光検出器での測定信号の正常時からの変化で判断している。よって、たとえば項目No.A(被加工体からの反射光大)に対応する予兆Gと項目No.B(ファイバ焼損)に対応する予兆Gとで、測定信号P10~P14間の相対値が若干異なっていても、予兆パターンの判定自体には影響を与えない。以降に示す例でも同様である。
【0046】
また、項目No.B(ファイバ焼損)の検出パターン1において、予兆Cが検出された後、ファイバ焼損に至るまでには、以下の2段階の予兆パターンがさらに検出される可能性がある。まず、光ファイバ70の出射側に配置される第4および第5の光検出器130,140の測定信号P13,P14がそれぞれ大きく上昇するパターン(予兆1)が検出される。このパターンは、後で述べる項目No.Eの予兆Bに対応する。予兆1は、保護ガラス88等、レーザヘッド80の内部の光学部品での反射戻り光の強度が大きくなっていることを意味している。この状態が続くと、光ファイバ70の出射側で焼損が起こり、光ファイバ70が断線し、加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lが伝送できなくなるおそれを示す予兆パターン(予兆2)が検出される。このパターンは、項目No.E,FのエラーE1、F1に対応する。この場合、光ファイバ70の出射側に配置される第4および第5の光検出器130,140では加工レーザ光Lや検出レーザ光LDによる光が受光されず、測定信号P13,P14はそれぞれゼロとなる。予兆2が検出される状態が続くと、ファイバヒューズ現象により、入射側まで光ファイバ70が焼けてしまい、最終的にエラー(項目No.BのエラーB1)が検出される。ファイバ焼損が起こると、被加工体に加工レーザ光Lが照射できず、被加工体のレーザ加工が不能となる。なお、ファイバヒューズ現象は、高出力のレーザ光の入射により、光ファイバに発生した光放電(輝点)がそのファイバを破壊しながら光源側に向かって伝搬する現象をいう。
【0047】
一方、項目No.B(ファイバ焼損)の検出パターン2において、予兆パターンG(カップリング効率低下)が検出された後、エラー(項目No.B(ファイバ焼損)のエラーB2)が検出される場合は、光ファイバ70の入射側で結合損失や伝達損失が増加し、その結果、入射側で光ファイバ70が発熱して、焼損が起こったことを意味している。このように、ファイバ焼損が起こる箇所やモードに応じて、測定信号P10~P14の時間変化や、これらに関連付けられる予兆パターンやエラーパターンは異なってくる。よって、項目No.Bに関するエラーが検出された場合、加工作業者は、測定信号P10~P14の履歴から、エラーの発生要因を容易に分析することができる。このことにより、レーザ加工システムや故障検出装置1のメンテナンスや復旧作業を迅速かつ的確に行うことができ、ダウンタイムの削減およびメンテナンスコストの低減が図れる。
【0048】
なお、本実施の形態によれば、これ以外の項目でも、エラーの発生要因の分析が容易になることは言うまでもない。例えば、項目No.A(被加工体からの反射光大)に関して言えば、エラーに至るまでに複数種類の予兆パターン(予兆D、予兆G、予兆H)が検出できることで、メンテナンスや確認作業が必要な箇所を容易に特定できる。また、例えば、故障検出装置1に第1の光検出器100と第2の光検出器110のみが配置された構成だと、第2の光検出器110から出力される測定信号P11の増減からでは、不具合の種類が特定できない。例えば、測定信号P11の増加が、集光レンズ36の汚れによるもの(項目No.D)か、光ファイバ70のカップリング効率低下よるもの(項目No.G)か、あるいは、被加工体からの反射光の増加によるもの(項目No.A)かが判別できないからである。特に、本実施の形態における光ファイバ70のようなマルチコアファイバでは、被加工体からの反射光が容易に第1の筐体160まで戻ってくる。このため、前述した不具合の種類を判別するのはさらに困難となる。また、加工レーザ光Lの出力は非常に大きいため、その変動も大きく、第2の光検出器110で加工レーザ光Lに起因する成分を受光した場合、測定信号P11がすぐに飽和して、測定精度が上がらなかった。
【0049】
一方、本実施の形態によれば、測定信号P10~P14の相対比やこれらの時間変化等から、不具合の種類やその発生箇所等を容易に特定できる。特に、第2の光検出器110の受光感度を前述のように設定しているため、測定信号P11に含まれる検出レーザ光Lに起因する成分の割合が大きくなっている。したがって、検出レーザ光Lに起因する成分の割合を大きくすることにより測定信号P11の飽和が抑制され、測定精度が向上する。これらのことにより、レーザ加工システムや故障検出装置1のダウンタイムの削減およびメンテナンスコストの低減が図れる。
【0050】
<C:レーザヘッド80内の光学部品汚れ>
図4,5に示す項目No.Cは、レーザヘッド80内の光学部品、例えば、保護ガラス88に汚れが生じている不具合に対応している。例えば、被加工体への加工レーザ光Lの照射時に発生するヒュームやスパッタ等が保護ガラス88に所定量以上付着したとする。この場合、項目No.Bのファイバ焼損で説明したように、光ファイバ70への反射戻り光の影響で、第1および第2の光検出器100,110や第4および第5の光検出器130,140での受光量が大きくなり、予兆C(レーザヘッド80内の光学部品汚れ)が検出される。
【0051】
<D:集光レンズ36の汚れ>
図4,5に示す項目No.Dは、集光レンズ36に汚れが生じている不具合に対応している。この場合、前述したように、第2の光検出器110での受光量が主に変化して、大きくなり、予兆Dが検出される。
【0052】
<E,F:ファイバ断線>
図4,5に示す項目No.E,Fは、光ファイバ70に断線が生じた不具合に対応している。このうち、項目No.Fは、光ファイバ70の機械的な折れ曲がり不良に対応し、項目No.Eは、光ファイバ70の折れ曲がりも含めて、光伝送が不能な状態に対応している。図4,5に示すように、項目No.Eのファイバ断線(光伝送不可)のエラーE1は、項目No.Bのファイバ焼損の検出パターン1における予兆2に対応している。また、項目No.Eの予兆Bは、項目No.Bのファイバ焼損の検出パターン1における予兆1に対応している。また、項目No.Eの予兆Cは項目No.Cのレーザヘッド80内の光学部品汚れに対応している。したがって、項目No.Eのファイバ断線(光伝送不可)のエラーE1の予兆として前述の予兆B(ファイバ焼損)、または予兆C(レーザヘッド80内の光学部品汚れ)、予兆B(ファイバ焼損)が続けて発生することが多い。つまり、項目No.EのエラーE1の前段階(予兆)として、保護ガラス88等、レーザヘッド80の内部の光学部品での反射戻り光の強度(測定信号P13、P14)が時間を追って大きくなる現象が見られる。なお、図4において、項目No.Eのファイバ断線(光伝送不可)の予兆Bを項目No.Bのファイバ焼損の検出パターン1における予兆1に対応するパターンとしている。また、項目No.Fのファイバ断線(機械的折曲り)のエラーF1は、項目No.Eのファイバ断線(光伝送不可)のエラーE1と同じであるが、この項目No.Fのファイバ断線(機械的折曲り)の場合は、予兆無しにいきなりエラーが発生することが多い。例えば、光ファイバ70に他の物体が急激に接触して折れ曲がる場合等である。
【0053】
項目No.E,Fに関してエラーE1、F1が検出されることは、光ファイバ70からレーザヘッド80に加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lのいずれも出射されなくなることを意味しており、非常に深刻である。また、図4から明らかなように、項目No.Bのファイバ焼損の検出パターン1に関するエラーに先立って、予兆2として項目No.E,Fに関するエラーE1、F1が検出される。よって、これらの項目に関しては、予兆パターンとその変化に関して、特に注意深くチェックし、ファイバ断線を未然に防ぐことが必要となる。また、断線が検出されたら速やかにレーザ加工システムの稼働を停止して、不具合の原因を取り除くことが必要となる。
【0054】
<G:カップリング効率低下>
図4,5に示す項目No.Gは、加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lの光ファイバ70へのカップリング効率の低下に対応している。例えば、加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lの光軸と光ファイバ70の軸線との位置ずれ等により、カップリング効率が低下する。この場合、例えば、光ファイバ70の入射端72で加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lが反射されて、第2の光検出器110での受光量が大きくなり、予兆D(集光レンズ36の汚れ)が検出される。さらにこの状態が続くと、光ファイバ70の入射側のモードストリッパ部78から漏れ出す光量が増加し、第3の光検出器120での測定信号P12が大きくなる。また、これに応じて、光ファイバ70の出射側に伝送される光量が小さくなる。つまり、第4および第5の光検出器130,140での測定信号P13,P14が小さくなる。この状態が予兆G(カップリング効率の低下)として検出される。
【0055】
<H:加工レーザ光源10の出力低下>
図4,5に示す項目No.Hは、加工レーザ光源10の出力低下に対応している。例えば、何らかの理由で加工レーザ光源10の出力電流値が低下し、加工レーザ光Lの光量が低下する。この場合、検出レーザ光Lの第1の部分光LD1を検出する第1の光検出器100での測定信号P10は変化しない。一方、加工レーザ光Lの光量低下に伴い、加工レーザ光源10から遠い光検出器ほど測定信号が小さくなる。図4に示す例では、第3~第5の光検出器120,130,140での測定信号P12,P13,P14が小さくなり、予兆H(加工レーザ光源10の出力低下)として検出される。
【0056】
なお、項目No.C,D,G,Hに関する不具合は、レーザ加工システムや故障検出装置1に直ちに重大な故障を発生させるわけではない。しかし、前述したように、この状態が続くと加工箇所での溶け込み不足が生じるおそれがある。このため、予兆C,D,G,Hのいずれかが検出された時点で、システム制御部60を介して画像または音声あるいはその両方で、不具合判定部50での判定結果および加工作業者にメンテナンスが必要な箇所や時期を報知するのが好ましい。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態の故障検出装置1によれば、所定時刻における単一の光検出器のみの測定信号で不具合を検出するのではなく、所定の位置にそれぞれ配置された複数の光検出器で同時かつ経時的に測定された複数の測定信号を時間変化もあわせてモニタすることで、光ファイバ70、集光レンズ36、レーザヘッド80、加工レーザ光源10等のレーザ加工システムや故障検出装置1の内部および被加工体の加工状態のいずれかに不具合があるか否か等の不具合の発生およびその原因を多面的に不具合判定部50にて判断することが可能となる。
【0058】
また、故障検出装置1およびレーザ加工システムには複数の不具合が発生することが良くある。本実施の形態によれば、複数の不具合が発生しても、これらを見落とすことが少ない。このことにより、無駄なメンテナンス作業や再度のエラーの発生を未然に防止することができる。また、加工作業者等は、複数の不具合がある場合、目立った1つの不具合のみに着目する傾向がある。しかし、これでは、深刻な故障につながる予兆を見落とすことが多い。一方、本実施の形態によれば、不具合の発生に関し、経時変化等の時間的な要因や故障検出装置1およびレーザ加工システムの空間的な配置も考慮して、データの収集、分析が可能となるため、深刻な故障につながる予兆を見落とすことなく、深刻な故障の発生を未然に防止することができる。
【0059】
また、第3の光検出器120は、光ファイバ70の入射端72の近傍に設けられたモードストリッパ部78から放出された光の強度を測定する。第2の光検出器110および第3の光検出器120で測定された光の強度およびその時間変化に基づいて、不具合判定部50は、加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lと光ファイバ70とのカップリング効率が低下する予兆D、Gを判定することができる。具体的には、図4に示すように、レーザ加工システムの動作中に、第2の光検出器110の測定信号P11および第3の光検出器120の測定信号P12の少なくとも一方が正常な場合(=1)より増加した場合に、加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lと光ファイバ70とのカップリング効率が低下する予兆が発生したと判定する。
【0060】
第4の光検出器130は、光ファイバ70の出射端74の近傍に設けられたモードストリッパ部78から放出された光の強度を測定する。第4の光検出器130および第5の光検出器140で測定された光の強度およびそれらの時間変化に基づいて、不具合判定部50は、加工システムおよび故障検出装置1の各種不具合、およびその予兆を判定することができる。特に、第4の光検出器130の測定信号P13と第5の光検出器140の測定信号P14との両方を用いることで、被加工体からの反射戻り光の増加に起因する不具合およびその予兆の発生の有無を確実に判定することができる。また、レーザヘッド80の内部の光学部品の汚れに起因する不具合およびその予兆の発生の有無を確実に判定することができる。光ファイバ70の断線や焼損に起因する不具合およびその予兆の発生の有無を確実に判定することができる。例えば、図4に示すように、第4の光検出器130の測定信号P13と第5の光検出器140の測定信号P14がそれぞれ正常な場合(=1)より低下した場合に、予兆G,Hが発生していると判定できる。特に、測定信号P13と測定信号P14がそれぞれ検出されない場合は、光ファイバ70の断線(エラーE1,F1)か、あるいは、光ファイバ70の焼損(エラーB1,B2)およびその予兆Cのいずれかが発生していると判定できる。測定信号P13と測定信号P14がそれぞれ正常な場合(=1)より増加した場合に、予兆CまたはエラーA1,A2のいずれかが発生していると判定できる。測定信号P13が正常な場合(=1)より増加する一方、測定信号P14が正常な場合(=1)より低下した場合に、エラーA3が発生していると判定できる。また、測定信号P13と測定信号P14との両方を用いることで、測定の信頼性を高め、ひいては前述した不具合やその予兆の判定精度を高めることができる。
【0061】
<変形例>
図6,7を参照しながら、本変形例に係る故障検出装置1を説明する。図6は、本変形例に係る故障検出装置1の概略的構成を示すブロック図である。図7は、レーザ加工システムおよび故障検出装置1の各種不具合、およびその予兆と第1~第6の光検出器100,110,120,130,140,150からの測定信号との関係を示す図である。
【0062】
本変形例に示す故障検出装置1は、第1の筐体160の内部に第6の光検出器(第6の受光器)150をさらに備える点で、図1に示す故障検出装置1と異なる。また、ハーフミラー12は、加工レーザ光Lの波長帯域の光の一部を透過させる。例えば、ハーフミラー12の0.数%~数%程度の光を透過させる。ハーフミラー12を透過した加工レーザ光Lの光路上に、第6の光検出器150が配置されている。つまり、第6の光検出器150は、加工レーザ光Lの部分光の強度を測定する。測定された強度に基づいて、加工レーザ光Lの出力を評価し、当該出力が設定された値になっているか否かを判断する。また、図6に示す例では、第6の光検出器150は、第1の筐体160の内部であって、加工レーザ光Lおよび検出レーザ光Lのそれぞれの光路の近傍に配置されている。このため、図7に示すように、第6の光検出器150は、被加工体やレーザヘッド80の内部の光学部品からの反射戻り光を検出しうる。よって、第6の光検出器150は、前述したエラーA1~A3を検出しうる。また、光ファイバ70の焼損に関する予兆CやエラーB1,B2を検出しうる。
【0063】
つまり、本変形例に係る故障検出装置1において、不具合判定部50は、少なくとも第2~第6の光検出器110,120,130,140,150で測定された光の強度の相対比およびそれらの時間変化に基づいて、レーザ加工システムおよび故障検出装置1の不具合やその予兆を判定する。好ましくは、不具合判定部50は、第1~第6の光検出器100,110,120,130,140,150で測定された光の強度の相対比およびそれらの時間変化に基づいて、レーザ加工システムおよび故障検出装置1の不具合を判定する。また、第6の光検出器150で測定された光の強度およびその時間変化に基づいて、加工レーザ光Lが所定の出力になっているか否かを判断する。第6の光検出器150を前述の位置に設けることにより、加工レーザ光Lの出力変化を直接的に検出できる。また、前述した予兆Hの判定精度を向上できる。
【0064】
なお、本開示の検出レーザ光源20は、加工箇所のティーチング用光源としても利用できる。例えば、レーザヘッド80の第2の筐体82を図示しないロボットアームに取り付けて、被加工体をレーザ加工する場合、被加工体に可視光である検出レーザ光Lを照射して、カメラ等で視認できるようにする。検出レーザ光Lが被加工体上で所定の軌跡を描くようにロボットアームの動作をティーチングする。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示は、高出力の加工レーザ光を伝送するレーザ加工システムにおける故障検出装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 故障検出装置
10 加工レーザ光源
12 ハーフミラー
20 検出レーザ光源
36 集光レンズ
50 不具合判定部(判定部)
60 システム制御部
70 光ファイバ
72 入射端
74 出射端
78 モードストリッパ部
80 レーザヘッド
82 第2の筐体
821 コネクタ部
84 コリメーションレンズ
86 集光レンズ
88 保護ガラス
100 第1の光検出器(受光器)
110 第2の光検出器(受光器)
120 第3の光検出器(受光器)
130 第4の光検出器(受光器)
140 第5の光検出器(受光器)
150 第6の光検出器(受光器)
160 第1の筐体
161 コネクタ部
加工レーザ光
検出レーザ光
D1 第1の部分光
D2 第2の部分光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7