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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/06 20060101AFI20240920BHJP
   H01F 30/12 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H02M7/06 U
H01F30/12 C
H01F30/12 N
H01F30/12 T
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020180815
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071713
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000124591
【氏名又は名称】河村電器産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】雪田 和人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰訓
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-163033(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0148900(US,A1)
【文献】特開2018-050465(JP,A)
【文献】特開2005-354755(JP,A)
【文献】特開2020-198776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/06
H01F 30/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧3相電力を多相変圧器を使用して低圧交流電力に変換し、変換された前記低圧交流電力を全波整流回路を使用して直流電力に変換する電力変換装置であって、
前記多相変圧器が、1次側巻線を構成する第1巻線と、2次側巻線を構成する第2~第5巻線の4つの異なる3相の位相を生成する巻線とを有する12相変圧器であり、
前記第2~第5巻線は何れもスター結線されて、前記第1~第5巻線は共通する鉄心に巻回されて成り、
前記第2巻線及び前記第3巻線の中性点同士が連結されている一方、
前記第4巻線及び前記第5巻線は、前記第3巻線の途中の共通する所定の位置から分岐して、前記第3巻線の0.71倍の巻数で形成され、
前記第2~第5巻線のそれぞれが異なる位相の3相電圧を出力し、12相の交流電圧を出力することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記2次側巻線の前記中性点は、避雷器を介して接地されて成ることを特徴とする請求項記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記全波整流回路の出力に、2つのDC/DCコンバータが並列に接続され、前記DC/DCコンバータの互いの出力を連携させて接地極に対して正負同一の電圧を出力するバイポーラ電源を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記全波整流回路の出力線は、10kΩ~50kΩの抵抗素子を介して接地されて成ることを特徴とする請求項1又は2記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記抵抗素子に流れる電流を監視して、電流値が所定の範囲を外れたら異常発生信号を出力する電流監視部と、
前記異常発生信号を受けて報知動作する報知部とを有することを特徴とする請求項記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記多相変圧器の一次側に遮断器を有し、
前記遮断器は、前記異常発生信号を受けて遮断動作することを特徴とする請求項記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧交流電力を低圧交流電力に変換した後、直流電力を生成する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧交流電力から直流電力を生成する場合、従来は高圧受電設備において高圧を低圧に変換した後、AC/DCコンバータにより直流を生成する構成が広く採用されている。例えば、特許文献1では、IGBTを使用したコンバータ回路を用いて直流を生成した。
また、AC/DCコンバータを使用しない構成として多相変圧器を使用する構成がある。例えば、特許文献2では、2次側にスター結線した巻線とデルタ結線した巻線を設けた6相変圧器を使用して、生成された6相電圧を全波整流して直流電力を生成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-163839号公報
【文献】特開2008-295155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、AC/DCコンバータを使用して直流を生成する場合、高周波スイッチングノイズが発生し、周囲の電子機器、通信機器に悪影響を与える問題があった。また、コンバータ回路には高耐圧の半導体素子が必要であり、コスト高であったし維持管理が面倒であった。
また、多相変圧器を使用する構成は、高周波ノイズの発生はないが、各相それぞれ独立した巻線であるためコアを小さくできず、変圧器が大型なものとなっていた。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、高電圧を低電圧に変換する際に多相変圧器を使用することで、AC/DCコンバータを使用せずに直流電力の生成を可能とし、更に多相変圧器の小型化が可能な電力変換装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する為に、請求項1の発明は、高圧3相電力を多相変圧器を使用して低圧交流電力に変換し、変換された低圧交流電力を全波整流回路を使用して直流電力に変換する電力変換装置であって、多相変圧器が、1次側巻線を構成する第1巻線と、2次側巻線を構成する第2~第5巻線の4つの異なる3相の位相を生成する巻線とを有する12相変圧器であり、第2~第5巻線は何れもスター結線されて、第1~第5巻線は共通する鉄心に巻回されて成り、第2巻線及び第3巻線の中性点同士が連結されている一方、第4巻線及び第5巻線は、第3巻線の途中の共通する所定の位置から分岐して、第3巻線の0.71倍の巻数で形成され、第2~第5巻線のそれぞれが異なる位相の3相電圧を出力し、12相の交流電圧を出力することを特徴とする。
この構成によれば、12相の多相の低圧交流電力を生成して全波整流回路により直流変換して直流電力を生成するため、リップルの小さい直流を生成でき、高周波で切り替え動作するAC/DCコンバータを使用することなく安定した直流電力の生成が可能となる。
加えて、2次側を構成する4つの巻線のうち、第4巻線と第5巻線は、第3巻線の途中から分岐して形成されるため、それぞれの一部巻線を第3巻線に肩代わりさせることができ、各相を単独で巻回形成するより巻回数を削減できる。よって、多相変圧器を小型化できる。
【0008】
請求項2の発明は、請求項に記載の構成において、2次側巻線の中性点は、避雷器を介して接地されて成ることを特徴とする。
この構成によれば、多相変圧器の2次側巻線の中性点を避雷器を介して接地することで、1つの避雷器のみで2次側電路の被雷に対して落雷被害を最小限に留めることができる。
【0009】
請求項の発明は、請求項1又は2に記載の構成において、全波整流回路の出力に、2つのDC/DCコンバータが並列に接続され、DC/DCコンバータの互いの出力を連携させて接地極に対して正負同一の電圧を出力するバイポーラ電源を形成したことを特徴とする。
この構成によれば、バイポーラ電源を備えるため、負荷を選ばずどのような直流負荷であっても電力を供給できる。
【0010】
請求項の発明は、請求項1又は2に記載の構成において、全波整流回路の出力線は、10kΩ~50kΩの抵抗素子を介して接地されて成ることを特徴とする。
この構成によれば、直流電力出力側で漏電や感電等の電路異常が発生した場合に、抵抗素子により漏電電流を抑制でき、被害を抑制できる。
【0011】
請求項の発明は、請求項に記載の構成において、抵抗素子に流れる電流を監視して、電流値が所定の範囲を外れたら異常発生信号を出力する電流監視部と、異常発生信号を受けて報知動作する報知部とを有することを特徴とする。
この構成によれば、直流電路に地絡等の電路異常が発生したら、抵抗素子に流れる電流が変化するため、その変化から電路異常を検知して報知部が報知動作する。よって電路異常の発生を認識でき対処し易い。
【0012】
請求項の発明は、請求項に記載の構成において、多相変圧器の一次側に遮断器を有し、遮断器は、異常発生信号を受けて遮断動作することを特徴とする。
この構成によれば、直流電路に地絡事故等の電路異常が発生したら、多相変圧器の入力電路が遮断される。よって、直流電路に異常が発生したら速やかに安全な状態を確保できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、6相或いは12相の多相の低圧交流電力を生成して全波整流回路により直流変換して直流電力を生成するため、リップルの小さい直流を生成でき、高周波で切り替え動作するコンバータを使用することなく安定した直流電力の生成が可能となる。よって、高周波スイッチングによるノイズが発生することがない。
加えて、6相変圧器、12相変圧器の双方とも、従来より巻回数を削減でき、多相変圧器の小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る電力変換装置の一例を示す概略構成図である。
図2】多相変圧器を12相変圧器とした電力変換装置の構成図である。(高抵抗)
図3】直流出力をバイポーラ出力とした電力変換装置の構成図である。
図4】12相変圧器の構成図である。
図5図4に示す12相変圧器のベクトル説明図である。
図6図4に示す12相変圧器の2次側の位相説明図である。
図7図6に示す第2巻線のR1-T1端子間の出力が負荷に印加される様子を示す説明図である。
図8図6に示す第2巻線のR1端子と第4巻線のT3端子の間の出力が負荷に印加される様子を示す説明図である。
図9図6に示す第2巻線のR1端子と第3巻線のR2端子の間の出力が負荷に印加される様子を示す説明図である。
図10図4に示す12相変圧器の第3巻線から第4巻線及び第5巻線を引き出す位置を示すベクトル図である。
図11】12相変圧器を使用した電力変換装置において、直流電路が被雷した場合の雷電流の流れを示す回路説明図である。
図12】12相変圧器を使用した電力変換装置において、直流電路で地絡が発生した場合の地絡電流の流れを示す回路説明図である。
図13】異常検知機構を備えた電力変換装置の構成図である。
図14】電力変換装置の他の例を示し、直流出力に自家発電による他の直流電力を加えた構成図である。
図15】電力変換装置の外観を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
図16】多相変圧器を6相変圧器とした電力変換装置の構成図である。
図17】6相変圧器の構成図である。
図18】6相変圧器が生成する電圧のベクトル図であり、(a)は第2巻線、第3巻線のそれぞれの相電圧、(b)は第2巻線の相間電圧と第2巻線及び第3巻線の間の同一相の線間電圧の関係を示している。
図19】6相変圧器の出力波形図である。
図20】6相変圧器を使用した電力変換装置において、直流電路が被雷した場合の雷電流の流れを示す回路説明図である。
図21】6相変圧器を使用した電力変換装置において、直流電路に地絡が発生した場合の地絡電流の流れを示す回路説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に係る電力変換装置の一例を示す概略構成図であり、高圧受電設備に組み込んだ状態を示している。電力変換装置1は、高圧受電設備を収容するキュービクル等に収容され、高圧交流負荷開閉器(LBS)2を介して高圧引き込み線が接続される多相変圧器3、多相変圧器3の出力を整流する整流回路4を備えている。
電力変換装置1は、高圧3相電源10から受電した6600Vの高圧3相交流電力を、380V等の特定電圧の低圧交流電力に変換し、変換した電力を直流に変換して出力する。
【0016】
図2は、多相変圧器3に12相変圧器3aを使用して、低圧12相の電圧を出力し、4つの3相全波整流回路を備えた整流回路4により1組の直流出力を生成する構成を示している。尚、5は直流電路M1に設けられた地絡保護回路を示し、2本の出力線から成る直流電路M1は、それぞれ10kΩ~50kΩの抵抗素子Rrを介して接地されている。
【0017】
図3は、直流出力の他の構成を示し、バイポーラ出力とした構成図である。整流回路4により生成した直流出力に対して、図3に示すように2つのDC/DCコンバータ7(第1コンバータ7a、第2コンバータ7b)を並列に配置し、これら2つの出力を組み合わせることで、バイポーラ電源として使用することができる。
ここでは、第1コンバータ7a、第2コンバータ7b共に380V出力とし、第1コンバータの0V端子と第2コンバータの380V端子を接続すれば、+380V/-380Vの直流電力を出力できる構成を示している。
このように、バイポーラ電源を備えることができ、負荷を選ばずどのような直流負荷であっても電力を供給できる。
【0018】
尚、この2つのコンバータ7を接続せず、独立に使用しても良く、その場合何れか一方を100V出力とすれば、380V出力と100V出力の2種類の直流電力を出力できる。
【0019】
図4図10は、12相変圧器3aの具体的構成を示す説明図であり、以下これらの図を参照して12相変圧器3aを具体的に説明する。
図4は構成図を示している。図4に示すように、12相変圧器3aは、1次側巻線L1を構成する第1巻線11、2次側巻線L2を構成する4つの巻線(第2巻線12、第3巻線13、第4巻線14、第5巻線15)を備えている。
何れの巻線も、入力される3相電力に対応する3つの巻回部(11a~11c、12a~12c、13a~13c、14a~14c、15a~15c)を有している。
【0020】
第1巻線11はデルタ結線され、3つの端子(Rin、Sin、Tin)に高圧の3相交流電力が接続される。
第2~第5巻線12,13,14,15は、全てスター結線されている(但し、後述するように、第4巻線14、第5巻線15は完全な形でのスター結線でなない)。以下、3相をR相、S相、T相として説明する。尚、第1巻線11はスター結線であっても良い。
【0021】
12相変圧器3aの2次側は、第2巻線12の出力端子R1,S1,T1、第3巻線13の出力端子R2,S2,T2、第4巻線14の出力端子R3,S3,T3、第5巻線15の出力端子R4,S4,T4を有し、全12端子を備えている。
第2巻線12と第3巻線13のスター結線された中性点Q同士は連結され、第3巻線13は第2巻線12に対して極性が反転するよう鉄心8に巻回されている。また、第4巻線14と第5巻線15は、第3巻線13の途中の同一点から分岐して形成され、第4巻線14と第5巻線15とは、第3巻線13の中性点Qを兼用している。
【0022】
第4巻線14、第5巻線15は具体的に以下のように鉄心8に巻回されている。まず、第4巻線14の各相は次のように巻回されている。
R相巻線14aは、第3巻線13のR相巻線13aの途中から分岐して引き出され、1次側S相と共通の脚部鉄心8bに巻回されている。そして、先端が出力端子R3である。
S相巻線14bは、第3巻線13のS相巻線13bの途中から分岐して引き出され、第1巻線11のT相(或いは第2巻線12のT相)と共通の脚部鉄心8cに巻回されている。そして、先端が出力端子S3である。
またT相巻線14cは、第3巻線13のT相巻線13cの途中から分岐して引き出され、1次側R相と共通の脚部鉄心8aに巻回されている。そして、先端が出力端子T3である。
【0023】
第5巻線15の各相は次のように巻回されている。R相巻線15aは、第4巻線14と同一部位である第3巻線13のR相巻線13aの途中から分岐して引き出され、第1巻線11のT相(或いは第2巻線12のT相)と共通の脚部鉄心8cに巻回されている。そして、先端が出力端子R4である。
S相巻線15bは、第4巻線14と同一部位である第3巻線13のS相巻線13bの途中から分岐して引き出され、第1巻線11のR相(或いは第2巻線12のR相)と共通の脚部鉄心8aに巻回されている。そして、先端が出力端子S4である。
またT相巻線15cは、第4巻線14と同一部位である第3巻線13のT相巻線13cの途中から分岐して引き出され、第1巻線11のS相(或いは第2巻線12のS相)と共通の脚部鉄心8bに巻回されている。そして、先端が出力端子T4である。
【0024】
図5は2次側巻線L2の個々の巻線のベクトル説明図であり、第2巻線12のR1相を基準に各相を示している。この図5に示すように、第2巻線12の3相の巻線12a,12b,12cは、入力される3相電力と同様にそれぞれ120度の位相差を有する電圧を出力端子R1,S1,T1から出力する。
そして第3巻線13の各巻線13a,13b,13cの位相は、この第2巻線12に対して上述したように正反対の極性を示し、出力端子R2,S2,T2の位相は、第2巻線12のR1,S1,T1の各相に対して180度の位相差を有している。尚、第2巻線12に対する第3巻線13の巻回数は、0.73倍(√3-1倍)となっている。
【0025】
また第4巻線14の第3巻線13から引き出した巻線14a,14b,14cの各出力端子R3,S3,T3の位相は、第2巻線12の各相と同位相の電圧を発生する。更に、第5巻線15の第3巻線13から引き出した巻線15a,15b,15cの各出力端子R4,S4,T4の位相は、第4巻線14と同様に第2巻線12の対応する各相の出力端子R1,S1,T1と同位相の電圧を発生する。
【0026】
図6は2次側の位相説明図で、第2巻線12のR1端子の位相に対する第3巻線13,第4巻線14,第5巻線15の出力位相を示している。
図6に示すように、第2巻線12のR1端子とT1端子間の電圧絶対値及び位相に対して、第2巻線12のR1端子と第4巻線14のT3端子間の電圧絶対値は等しく、位相は15度遅れている。また、第2巻線12のR1端子と第3巻線13のR2端子間の電圧絶対値は等しく、位相は30度遅れている。更に、第2巻線12のR1端子と第5巻線15のS4端子間の電圧絶対値は等しく、位相は45度遅れている。
【0027】
図7図9は、図6に示す特定の相間電圧が負荷(直流グリッド)6に印加される様子を示す説明図であり、12相変圧器3aの出力電圧(ベクトルで示す)が整流回路4で整流されて負荷6に印加される様子を示している。
図7は第2巻線12のR1-T1端子間の出力が負荷6に印加される様子を示し、図8は第2巻線12のR1端子と第4巻線14のT3端子の間の出力が負荷6に印加される様子を示し、図9は第2巻線12のR1端子と第3巻線13のR2端子の間の出力が負荷6に印加される様子を示している。
このように、絶対値が等しい各相間電圧が整流されて負荷6に印加される。
【0028】
そして、このような各相の関係は、第2巻線12のS1端子の位相に対する第3巻線13,第4巻線14,第5巻線15の出力位相、第2巻線12のT1端子の位相に対する第3巻線13,第4巻線14,第5巻線15の出力位相も同様であり、絶対値が等しい相間電圧が生成されて負荷6に印加される。
【0029】
図10は、第3巻線13から第4巻線14及び第5巻線15を引き出す位置を示すベクトル説明図であり、以下このベクトル図を参照して第4巻線14、第5巻線15を引き出す位置Xを具体的に説明する。尚、E1(Q-R1間の電圧)は第2巻線12の出力電圧を示している。
図10に示すR1-T3間の電圧(A+B)を200Vとすると、R1-R2間の電圧も同様に200Vであり、電圧E1は200/√3=115.4Vとなる。
そして、 電圧A=電圧B/tan15°
また 電圧A=電圧B×3.723
であるため、電圧A=200-電圧Bを加味すると、
電圧A=200/(1+tan15°)=157.73V
となる。
【0030】
よって、
電圧B=200-電圧A=200-157.73=42.27V
R1-X間の電圧=A/cos15°=163.3V
R2-X間の電圧=(R1-R2間の電圧)-(R1-X間の電圧)=36.7V
となり、
Q-X間の電圧=(R1-X間の電圧)-(R1-Q間の電圧)
=163.3-115.46=47.83V
Q-R2間の電圧=200-(R1-Q間の電圧)
=200-115.46=84.54V
となる。
尚、電圧B=200-電圧A=42.27V
X-T3間の電圧=電圧B×√2=59.77V となる。
【0031】
これらの結果から、
(Q-X間の電圧)/(Q-R2間の電圧)=47.83/84.54=0.565
即ち、位置Xは、中性点(Q点)から56.5%の位置となる。
尚、2次側の各巻線を巻数比をみると、
第2巻線:第3巻線:第4巻線:第5巻線=1:0.73:0.52:0.52
となっている。
【0032】
このように、2次側を構成する第2~第5の4つの巻線のうち、第4巻線14と第5巻線15は、第3巻線13の途中の中性点から56.5%の位置から分岐させるため、2分の1を超える領域で肩代わりさせることができ、各相を単独で巻回形成するより巻回数を削減できる。よって、多相変圧器を小型化できる。
そして、第3巻線13による出力電圧は、第2巻線12の出力位相に対して180度反転した位相の電圧となり、第4巻線14による出力電圧の位相は、第2巻線12の同一相の出力に対して15度の位相差を生成する。更に、第5巻線15による出力電圧の位相は、第2巻線12の同一相の出力に対して15度の位相差を生成するし、第4巻線14に対して第2巻線12の同一相を挟んで30度の位相差を生成する。結果、12相の電圧を生成する。
また、12相の多相の低圧交流電力を生成して整流回路4により全波整流して直流電力を生成するため、リップルの小さい直流を生成でき、高周波で切り替え動作するAC/DCコンバータを使用することなく安定した直流電力の生成が可能となる。よって、高周波スイッチングによるノイズが発生することがない。
【0033】
図11は、直流電路M1が被雷した場合の落雷電流(雷サージ)Itの流れを示している。但し、12相変圧器3aは図5に示す2次側巻線L2のベクトル図で示している。また、P1は被雷点、17は12相変圧器3aの出力を開閉する開閉器、18は負荷6を直流電路M1から開放する開閉装置、20は12相変圧器3aの2次側中性点Qの接地線に設けられた避雷器(SPD)である。
図11に示すように直流電路M1が被雷したら、その雷サージItは整流回路4、12相変圧器3a、避雷器20を介し大地に流れ出る。
尚、被雷の極性が逆極性であったら、雷サージItはこの逆の経路を通って(整流回路4では逆極性のダイオードを通って)流れる。
【0034】
このように、直流電路M1に被雷があると、整流回路4、変圧器3を介して避雷器20に雷サージItを流すことができ、変圧器3の2次側を雷被害から保護することができる。また、12相変圧器3aは、2次側巻線L2が共通する中性点Qを有し、この中性点Qの1ヶ所を避雷器20を介して接地することで、1つの避雷器20のみで被雷対策を実施することができる。
【0035】
図12は、直流電路M1で地絡が発生した場合の地絡電流Igの流れを示す回路説明図である。P2は地絡点を示している。
図12に示すように、地絡電流Igは大地から地絡保護回路5を介して他方の直流電路M1へ流れ、その後整流回路4、変圧器3を経由して地絡した直流電路M1に流れる。このとき、地絡保護回路5の抵抗素子Rrにより電流が制限される。
このように、地絡電流Igが地絡保護回路5の抵抗素子Rrで制限されるため、直流電力出力側で漏電や感電等の電路異常が発生した場合に、抵抗素子Rrにより漏電電流を抑制でき、被害を抑制できる。
【0036】
図13は、地絡を検知する異常検知機構を備えた電力変換装置1の変更例を示している。ここでは、地絡保護回路5の抵抗素子Rrに流れる電流を検出して、電路の状態を監視している。多相変圧器3、整流回路4等は上記形態と同様であるが、多相変圧器3の一次側に遮断器30を配置し、この遮断器30を遮断動作させる電流監視部31を備えている点が上記形態とは相違している。以下、相違点を説明する。
【0037】
電流監視部31は、地絡保護回路5の抵抗素子Rrに流れる電流を計測し、電流の変化を監視している。また、報知部31aを有すると共に、遮断器30と信号線32で接続され、遮断器30を遮断操作する。
地絡保護回路5の抵抗素子Rrには、正常時一定の電流が流れている。例えば、直流電路に380Vの電圧が通電されている場合、抵抗素子Rrが10kΩであれば、38mAが常時流れており、この電流を電流監視部31は監視している。この電流が所定の範囲を外れたら(例えば10mA以下になったら)、異常発生(地絡事故発生)と判断して報知部31aから警報が発せられる。同時に異常発生信号が遮断器30に対して出力され、遮断器30が遮断動作する。
【0038】
このように、直流電路M1に地絡等の電路異常が発生したら、抵抗素子Rrに流れる電流が変化するため、その変化から電路異常を検知して報知部31aが報知動作する。よって電路異常の発生を認識でき対処し易い。
また、直流電路M1に地絡事故等の電路異常が発生したら、多相変圧器3の入力電路が遮断される。よって、直流電路M1に異常が発生したら速やかに安全な状態を確保できる。
【0039】
図14は、電力変換装置1の他の例を示し、直流出力に自家発電による他の直流電力を加えた構成を示している。
図14では、整流回路4が出力する直流電路M1に、太陽光発電電力23、風力発電電力25等の再生可能エネルギーによる発電電力、更にEV(Electric Vehicle)出力電力24、蓄電池電力26等を連携させている。
個々の電源が出力する電圧が異なる場合は、図14に示すように、複数の直流電源の電圧を同一の電圧に変更する多入力DC/DCコンバータ27を配置して、1出力にまとめることで、比較的大きな電力を必要とする直流負荷(直流グリッド)6に対して電力を良好に供給することが可能となる。
【0040】
尚、各電源が直流電路M1の出力電圧と同一電圧で出力されれば、多入力DC/DCコンバータ27は必要なくなり、整流回路4の出力電路である直流電路M1に直接接続することができる。
【0041】
図15は、電力変換装置1の外観図を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。図15において、34は多相変圧器3の前面に配置された開閉可能なパネル、18は直流電路M1を整流回路4から開放する開閉装置、35は交流/直流の電圧、電流等を表示する表示器である。尚、平面図は天板を外した状態を示している。
整流回路4、開閉装置18はパネル34の背部に配置され、表示器35はパネル34の前面に配置されている。
このように開閉できるパネル34の背部に開閉装置18、整流回路4を配置することで、整流回路4のメンテナンスがし易いし、開閉装置18の操作がし易くなる。
【0042】
図16は、電力変換装置1の他の例を示し、多相変圧器3を6相変圧器3bとした電力変換装置1の構成図である。上記図2に示す12相変圧器3aを使用した構成と同様に、地絡保護回路5、整流回路4を備えている。但し、整流回路4は、6相の交流電圧を整流すれば良いため、ダイオード数は半減している。
【0043】
図17は6相変圧器3bの具体的構成図であり、1次側巻線L1を構成する第1巻線41、2次側巻線L2を構成する第2巻線42及び第3巻線43の3つの巻線を有している。
何れも3相電力に対応するための3つの巻回部(41a~41c、42a~42c、43a~43c)を有し、スター結線されている。
【0044】
第1巻線41が高圧の3相電源のR相、S相、T相の各相が接続されるRin,Sin,Tinの3端子(1次側端子)を備えている。第2巻線42は3つの出力端子(2次側端子)R1,S1,T1を有し、第3巻線43は3つの出力端子(2次側端子)R2,S2,T2を有している。第2巻線42と第3巻線43のスター結線された中性点同士は連結されている。
尚、この中性点Qは後述するように避雷器20を介して接地されている。
【0045】
各巻線41,42,43の巻回部(41a~41c、42a~42c、43a~43c)は、この鉄心48の3本の脚にそれぞれ巻回されている。但し、第3巻線43は第2巻線42に比べて巻回数が少なく、第2巻線42と第3巻線43とは1:(√3-1)の比で巻回されている。具体的に、第3巻線43は第2巻線42に比べて約0.73倍の巻数で巻回されている。
【0046】
図18は、このように巻回した2次側の6端子に発生する電圧のベクトル図を示し、(a)は各相の電圧、(b)は線間電圧を示している。図18(a)に示すように、第2巻線42から出力される3相の電圧VR1、VS1、VT1、及び第3巻線43から出力される3相の電圧VR2,VS2,VT2は、それぞれ120度の位相差を有しているが、第3巻線43の出力は第2巻線42との巻線比に比例して小さい。そのため、出力される電圧が巻き数比に比例した大きさとなる。
【0047】
そして、線間(相間)電圧は、図18(b)に示すように、R1端子-S1端子間の電圧VS1-R1の位相に対して、S1端子-S2端子間の電圧VS1-S2(VS1+VS2)は30進相で発生し、且つ絶対値は等しい。また、S1端子-T1端子間の電圧VT1-S1の位相に対して、T1端子-T2端子間の電圧VT1-T2(VT1+VT2)は30進相で発生し、且つ絶対値は等しい。更に、T1端子-R1端子間の電圧VR1-T1の位相に対して、R1端子-R2端子間の電圧VR1-R2(VR1+VR2)は30進相で発生し、且つ絶対値は等しい。
【0048】
図19は、このように各巻線を巻回した変圧器3bの出力電圧波形を示し、この出力電圧は全波整流する整流回路4で整流され、12相の電圧波形から成る直流が生成され、リップルの小さい直流電圧を得ることができる。
【0049】
このように、第1巻線41に加えて、2次側の電圧を生成する第2巻線42及び第3巻線43もスター結線するため、生成する電圧を一定にし易い。そして、第3巻線43もスター結線されるため、従来のデルタ結線に比べて巻数を√3分の1減らすことができ、変圧器3bを小型にできる。
そして、第2巻線42から出力される線間電圧の位相に対して、第2巻線42と第3巻線43の同一相間の線間電圧は30度の位相差を有して発生するため、6相の電圧を生成できる。そして、全波整流することで30度位相がズレた全12相の波形を生成することができる。
よって、6相の多相の低圧交流電力を生成して整流回路4により全波整流して直流電力を生成することで、リップルの小さい直流を生成でき、高周波で切り替え動作するコンバータを使用することなく安定した直流電力の生成が可能となる。よって、高周波スイッチングによるノイズが発生することがない。
【0050】
図20は、この6相変圧器3bを使用した電力変換装置1の、直流電路M1が被雷した場合の落雷電流(雷サージ)Itの流れを示している。但し、6相変圧器3bは2次側巻線のみ示している。P1は被雷点、17は開閉装置、20は避雷器(SPD)であり、6相変圧器3bの中性点Qは避雷器20を介して接地されている。
図20に示すように直流電路M1が被雷したら、その雷サージItは整流回路4、6相変圧器3b、避雷器20を介し大地に流れ出る。
尚、被雷の極性が逆極性であったら、雷サージItはこの逆の経路を通って(整流回路4では逆極性のダイオードを通って)流れる。
【0051】
このように、直流電路M1に被雷があると、整流回路4、変圧器3を介して避雷器20に雷サージItを流すことができ、変圧器3の2次側を雷被害から保護することができる。また、6相変圧器3bの2次側巻線L2は共通する中性点Qを有しており、この中性点Qを避雷器20を介して接地することで、1つの避雷器20のみで2次側電路の被雷に対して落雷被害を最小限に留めることができる。
【0052】
図21は、6相変圧器3bを使用した上記構成の回路の直流電路M1で地絡が発生した場合の地絡電流Igの流れを示す回路説明図である。P2は地絡点を示している。
図21に示すように、地絡電流Igは大地から地絡保護回路5を介して他方の直流電路M1へ流れ、その後整流回路4、6相変圧器3bを経由して地絡した直流電路M1に流れる。このとき、地絡保護回路5の抵抗素子Rrにより電流が制限される。
このように、地絡電流Igが地絡保護回路5の抵抗素子Rrで制限されるため、感電事故等による被害を抑制できる。
【0053】
尚、この6相変圧器3bを使用した電力変換装置1においても、12相変圧器2aを使用した上記図3に示すように直流出力をバイポーラ電源とすることができるし、上記図13に示す構成のように、6相変圧器3bの1次側に遮断器を配置して、抵抗素子Rrの電流値が異常値を示したら、1次側の遮断器を遮断させても良い。
また、上記実施形態では、高圧交流電力を直流に変換する電力変換装置1を説明したが、需要家内に直流グリッドに加えて交流グリッドもある場合は、整流前の低圧交流電力の一部を分岐されて交流グリッドに供給することができる。
【符号の説明】
【0054】
1・・電力変換装置、3・・多相変圧器、3a・・12相変圧器、3b・・6相変圧器、4・・整流回路(全波整流回路)、5・・地絡保護回路、7・・DC/DCコンバータ、10・・高圧3相電源、11・・第1巻線、12・・第2巻線、13・・第3巻線、14・・第4巻線、15・・第5巻線、17・・開閉器、18・・開閉装置、20・・避雷器、30・・遮断器、31・・電流監視部、31a・・報知部、34・・パネル、41・・第1巻線、42・・第2巻線、43・・第3巻線、L1・・1次側巻線、L2・・2次側巻線、M1・・直流電路、Q・・中性点、Rr・・抵抗素子。
図1
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