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特許7557774太陽電池モジュールの異常判定システムおよび太陽電池モジュールの異常判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】太陽電池モジュールの異常判定システムおよび太陽電池モジュールの異常判定方法
(51)【国際特許分類】
   H02S 50/10 20140101AFI20240920BHJP
   G01M 11/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H02S50/10
G01M11/00 T
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020216691
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102138
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖之
(72)【発明者】
【氏名】宇賀神 直人
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/122105(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/118608(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105954616(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02S 50/00-50/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュールを構成する直列接続された複数の太陽電池セルのそれぞれの異常の有無を判定する太陽電池モジュールの異常判定システムであって、
判定対象の太陽電池セルに対する入射光の照射状態を、少なくとも第1照射状態と、前記第1照射状態よりも前記判定対象の太陽電池セルの短絡電流が大きい状態である第2照射状態とに制御する照射状態制御部と、
前記判定対象の太陽電池セルに対して前記入射光とは異なる変調光を照射する変調光照射部と、
前記判定対象の太陽電池セルに対する前記変調光の照射に伴う前記太陽電池モジュールの出力電流の微小変化を検出し、検出結果を位相検波部出力として出力する位相検波部と、
前記第1照射状態の位相検波部出力と前記第2照射状態の位相検波部出力との比を算出する比算出部と、
前記比算出部によって算出された比と、予め設定された閾値とを比較する比較部とを備える、
太陽電池モジュールの異常判定システム。
【請求項2】
前記第1照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を減少させる制御が行われている状態であり、
前記第2照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を増加させる制御が行われている状態である、
請求項1に記載の太陽電池モジュールの異常判定システム。
【請求項3】
前記第1照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を減少させる制御、および、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を増加させる制御のいずれもが行われていない状態であり、
前記第2照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を増加させる制御が行われている状態である、
請求項1に記載の太陽電池モジュールの異常判定システム。
【請求項4】
前記第1照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を減少させる制御が行われている状態であり、
前記第2照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を減少させる制御、および、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を増加させる制御のいずれもが行われていない状態である、
請求項1に記載の太陽電池モジュールの異常判定システム。
【請求項5】
太陽電池モジュールを構成する直列接続された複数の太陽電池セルのそれぞれの異常の有無を判定する太陽電池モジュールの異常判定方法であって、
判定対象の太陽電池セルに対する入射光の照射状態を、少なくとも第1照射状態と、前記第1照射状態よりも前記判定対象の太陽電池セルの短絡電流が大きい状態である第2照射状態とに制御する照射状態制御ステップと、
前記判定対象の太陽電池セルに対して前記入射光とは異なる変調光を照射する変調光照射ステップと、
前記判定対象の太陽電池セルに対する前記変調光の照射に伴う前記太陽電池モジュールの出力電流の微小変化を検出し、検出結果を位相検波部出力として出力する位相検波ステップと、
前記第1照射状態の位相検波部出力と前記第2照射状態の位相検波部出力との比を算出する比算出ステップと、
前記比算出ステップにおいて算出された比と、予め設定された閾値とを比較する比較ステップとを備える、
太陽電池モジュールの異常判定方法。
【請求項6】
前記変調光照射ステップには、
前記第1照射状態に制御されている時に前記判定対象の太陽電池セルに対して前記変調光を照射する第1照射状態変調光照射ステップと、
前記第2照射状態に制御されている時に前記判定対象の太陽電池セルに対して前記変調光を照射する第2照射状態変調光照射ステップとが含まれ、
前記位相検波ステップには、
前記第1照射状態に制御されている時に前記判定対象の太陽電池セルに対する前記変調光の照射に伴う前記太陽電池モジュールの出力電流の微小変化の検出結果を前記第1照射状態の位相検波部出力として出力する第1照射状態位相検波ステップと、
前記第2照射状態に制御されている時に前記判定対象の太陽電池セルに対する前記変調光の照射に伴う前記太陽電池モジュールの出力電流の微小変化の検出結果を前記第2照射状態の位相検波部出力として出力する第2照射状態位相検波ステップとが含まれる、
請求項5に記載の太陽電池モジュールの異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールの異常判定システムおよび太陽電池モジュールの異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、直列接続された複数の太陽電池セルのうちの、どの太陽電池セルが異常状態であるかを正確に判定することができる太陽電池モジュールの異常判定システムおよび方法が知られている(特許文献1を参照)。
また、従来から、太陽電池モジュールを構成する複数の太陽電池セルのうちの1つの太陽電池セルが(部分的に)遮光された状態で、その太陽電池セルに変調光を照射すると共に、太陽電池モジュールの出力電流の微小変化を検出し、その太陽電池セルが(部分的に)遮光された状態で、他の太陽電池セルのそれぞれに変調光を照射すると共に、太陽電池モジュールの出力電流の微小変化を検出する太陽電池セル動作電圧推定システムが知られている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6712816号公報
【文献】国際公開第2020/122105号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献2に記載された技術を有効に利用する条件として、太陽電池モジュールを構成する太陽電池セルが同程度の並列抵抗成分を持つことが重要であると考え、特許文献2に記載された技術に基づく太陽電池セルの電圧測定前には、各太陽電池セルの並列抵抗成分の評価が必要であると考えた。
そこで、本発明は、太陽電池モジュール内の直列接続された太陽電池セルの並列抵抗成分の異常の有無を判定することができる太陽電池モジュールの異常判定システムおよび太陽電池モジュールの異常判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、太陽電池モジュールを構成する直列接続された複数の太陽電池セルのそれぞれの異常の有無を判定する太陽電池モジュールの異常判定システムであって、判定対象の太陽電池セルに対する入射光の照射状態を、少なくとも第1照射状態と、前記第1照射状態よりも前記判定対象の太陽電池セルの短絡電流が大きい状態である第2照射状態とに制御する照射状態制御部と、前記判定対象の太陽電池セルに対して前記入射光とは異なる変調光を照射する変調光照射部と、前記判定対象の太陽電池セルに対する前記変調光の照射に伴う前記太陽電池モジュールの出力電流の微小変化を検出し、検出結果を位相検波部出力として出力する位相検波部と、前記第1照射状態の位相検波部出力と前記第2照射状態の位相検波部出力との比を算出する比算出部と、前記比算出部によって算出された比と、予め設定された閾値とを比較する比較部とを備える、太陽電池モジュールの異常判定システムである。
【0006】
本発明の一態様の太陽電池モジュールの異常判定システムでは、前記第1照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を減少させる制御が行われている状態であり、前記第2照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を増加させる制御が行われている状態であってもよい。
【0007】
本発明の一態様の太陽電池モジュールの異常判定システムでは、前記第1照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を減少させる制御、および、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を増加させる制御のいずれもが行われていない状態であり、前記第2照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を増加させる制御が行われている状態であってもよい。
【0008】
本発明の一態様の太陽電池モジュールの異常判定システムでは、前記第1照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を減少させる制御が行われている状態であり、前記第2照射状態は、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を減少させる制御、および、前記判定対象の太陽電池セルに対して照射される前記入射光を増加させる制御のいずれもが行われていない状態であってもよい。
【0009】
本発明の一態様は、太陽電池モジュールを構成する直列接続された複数の太陽電池セルのそれぞれの異常の有無を判定する太陽電池モジュールの異常判定方法であって、判定対象の太陽電池セルに対する入射光の照射状態を、少なくとも第1照射状態と、前記第1照射状態よりも前記判定対象の太陽電池セルの短絡電流が大きい状態である第2照射状態とに制御する照射状態制御ステップと、前記判定対象の太陽電池セルに対して前記入射光とは異なる変調光を照射する変調光照射ステップと、前記判定対象の太陽電池セルに対する前記変調光の照射に伴う前記太陽電池モジュールの出力電流の微小変化を検出し、検出結果を位相検波部出力として出力する位相検波ステップと、前記第1照射状態の位相検波部出力と前記第2照射状態の位相検波部出力との比を算出する比算出ステップと、前記比算出ステップにおいて算出された比と、予め設定された閾値とを比較する比較ステップとを備える、太陽電池モジュールの異常判定方法である。
【0010】
本発明の一態様の太陽電池モジュールの異常判定方法では、前記変調光照射ステップには、前記第1照射状態に制御されている時に前記判定対象の太陽電池セルに対して前記変調光を照射する第1照射状態変調光照射ステップと、前記第2照射状態に制御されている時に前記判定対象の太陽電池セルに対して前記変調光を照射する第2照射状態変調光照射ステップとが含まれ、前記位相検波ステップには、前記第1照射状態に制御されている時に前記判定対象の太陽電池セルに対する前記変調光の照射に伴う前記太陽電池モジュールの出力電流の微小変化の検出結果を前記第1照射状態の位相検波部出力として出力する第1照射状態位相検波ステップと、前記第2照射状態に制御されている時に前記判定対象の太陽電池セルに対する前記変調光の照射に伴う前記太陽電池モジュールの出力電流の微小変化の検出結果を前記第2照射状態の位相検波部出力として出力する第2照射状態位相検波ステップとが含まれてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、太陽電池モジュール内の直列接続された太陽電池セルの並列抵抗成分の異常の有無を判定することができる太陽電池モジュールの異常判定システムおよび太陽電池モジュールの異常判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】特許文献1の図10に相当する図である。
図2図1に示す太陽電池セルの動作の定性的原理を説明するためのI-V曲線の一例を示す図である。
図3】m個の太陽電池セルで構成される太陽電池モジュールの等価回路を示す図である。
図4】実際の太陽電池セルの等価回路の定数のうち「セル1」の並列抵抗成分Rsh1だけを変化させた場合の比(△Iphi/Σ△Iphi)の「セル1」の電圧依存性の数値シミュレーション結果を示す図である。
図5】太陽電池モジュール内の高い並列抵抗成分を有する正常な太陽電池セルに対してマスク減光およびライト増光を適用することによって得られる正常な太陽電池セルの動作電圧を説明するための図である。
図6】太陽電池モジュール内の低い並列抵抗成分を有する不良(異常)な太陽電池セルに対してマスク減光およびライト増光を適用することによって得られる不良な太陽電池セルの動作電圧を説明するための図である。
図7】第1実施形態の太陽電池モジュールの異常判定システムの構成の一例を示す図である。
図8】第1実施形態の太陽電池モジュールの異常判定システムにおいて実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図9】実施例の実験装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の太陽電池モジュールの異常判定システムおよび太陽電池モジュールの異常判定方法の実施形態を説明する前に、本発明の太陽電池モジュールの異常判定システムの動作原理などについて説明する。
【0014】
図1は特許文献1の図10に相当する図である。
図1に示すシステムでは、発電中の太陽電池モジュールM内のある太陽電池セルC3だけへ、太陽電池セルC3の動作電圧が変化しない程度の弱い変調光MLが照射される。変調光MLとの同期信号は、太陽電池セルC3の動作電圧に応じて、太陽電池モジュールMの出力電流にごく小さく混入する。そこで、太陽電池モジュールMの出力電流に混入するごく小さな同期信号は、太陽電池モジュールMに接続された配線に電気的に非接触な交流電流クランプセンサとロックインアンプを用いることによって抽出される。
【0015】
図2図1に示す太陽電池セルC3の動作の定性的原理を説明するためのI-V曲線の一例を示す図である。詳細には、図2は小林、金須、「変調光によるモジュール内セル電圧の非接触推定におけるセル電圧検量線の提案」、電気学会論文誌B、Vol.140、No.1、pp.14-24(2020)の図1に相当する図である。図2において、横軸は太陽電池セルC3(図1参照)の動作電圧を示しており、縦軸は太陽電池モジュールM(図1参照)の出力電流を示している。
図2に示すように、太陽電池セルC3の動作電圧が低下し負電圧の絶対値が大きくなる(図2の左側部分)ほど、I-V曲線の傾きは小さくなる。太陽電池セルC3に照射される変調光ML由来の微小光発生電流が一定振幅(図2に「△Iph」で示す)であるとき、I-V曲線の傾きの逆数に比例して太陽電池セルC3内の電圧変化(図2に「Large△v」および「Small△v」で示す)、つまり変調光との同期信号の振幅が増加する。この太陽電池セルC3内の電圧変化の増加に応じて太陽電池モジュールMの出力電流の微小変化△Iも増加し、ロックインアンプで抽出した同期信号の振幅から太陽電池セルC3の動作電圧を推定することができる。
【0016】
図2に示すI-V曲線の傾きは太陽電池セルC3の微分抵抗に相当し、ロックインアンプ出力△Iphの大きさが太陽電池セルC3の微分抵抗に比例する。そこで、特許文献2に記載された技術では、太陽電池モジュールM内のセル電圧(太陽電池セルC1~C5の動作電圧)を定量的に推定するために、すべての太陽電池セルC1~C5のそれぞれに変調光が照射される時のロックインアンプ出力△Iphを測定した後、セル電圧(動作電圧)を推定したい太陽電池セルi(太陽電池セルC1~C5のいずれか)に変調光が照射される時のロックインアンプ出力△Iphiと、すべての太陽電池セルC1~C5のそれぞれに変調光が照射される時のロックインアンプ出力△Iphの和(Σ△Iphi)との比(△Iphi/Σ△Iphi)が用いられる。比(△Iphi/Σ△Iphi)の値が小さい場合には、太陽電池セルiのセル電圧(動作電圧)の値が大きいと推定される。
この比(△Iphi/Σ△Iphi)は、ロックインアンプ出力△Iphの代わりに、各太陽電池セルC1~C5の微分抵抗を用いて表すこともできる。事前に各太陽電池セルC1~C5の等価回路の定数を測定しておけば、任意のセル電圧(太陽電池セルC1~C5のいずれかの動作電圧)における比(△Iphi/Σ△Iphi)の値を数値シミュレーションにより得ることができる。
そこで、本発明者は、小林、金須、「変調光によるモジュール内セル電圧の非接触推定におけるセル電圧検量線の提案」、電気学会論文誌B、Vol.140、No.1、pp.14-24(2020)において、太陽電池セルの等価回路に含まれる並列抵抗成分(図3に「Rsh1」、「Rsh2」で示す)によって比(△Iphi/Σ△Iphi)が受ける影響を検証した。
【0017】
図3はm個の太陽電池セルで構成される太陽電池モジュールの等価回路を示す図である。詳細には、図3は小林、金須、「変調光によるモジュール内セル電圧の非接触推定におけるセル電圧検量線の提案」、電気学会論文誌B、Vol.140、No.1、pp.14-24(2020)の図3(a)に相当する図である。図3において、左端の太陽電池セルを「セル1」と称し、他の残りの太陽電池セル((m-1)個の太陽電池セル)を合成して1個の太陽電池セルで表し「セル2」と称することにする。この仮定でも明らかに一般性を失わない。
図4は実際の太陽電池セルの等価回路の定数のうち「セル1」の並列抵抗成分Rsh1だけを変化させた場合の比(△Iphi/Σ△Iphi)の「セル1」の電圧依存性の数値シミュレーション結果を示す図である。詳細には、図4は小林、金須、「変調光によるモジュール内セル電圧の非接触推定におけるセル電圧検量線の提案」、電気学会論文誌B、Vol.140、No.1、pp.14-24(2020)の図7に相当する図である。図4において、縦軸は比(△Iphi/Σ△Iphi)を示しており、横軸はセル電圧を示している。
図4に示す数値シミュレーションでは、並列抵抗成分Rsh1=Rsh2=2.3kΩを標準とした。その結果、図4に示すように、並列抵抗成分Rsh1が標準の並列抵抗成分Rsh2(=2.3kΩ)より小さい場合には、「セル1」の電圧vが同じであっても、比(△Iphi/Σ△Iphi)の値は、並列抵抗成分Rsh1が標準の並列抵抗成分Rsh2(=2.3kΩ)と等しい場合よりも小さくなることがわかった。逆に、並列抵抗成分Rsh1が標準の並列抵抗成分Rsh2(=2.3kΩ)より大きい場合には、「セル1」の電圧vが0V付近において比(△Iphi/Σ△Iphi)の値が1に飽和することがわかった。つまり、測定対象の太陽電池セルの並列抵抗成分の影響を比(△Iphi/Σ△Iphi)の値が受ける傾向にある。
これにより、上述したように、本発明者は、特許文献2に記載された技術を有効に利用する条件として、太陽電池モジュールを構成する太陽電池セルが同程度の並列抵抗成分を持つことが重要であり、特許文献2に記載された技術に基づく太陽電池セルの電圧測定前には、各太陽電池セルの並列抵抗成分の評価が必要であると考えた。
【0018】
ここで、実際の太陽電池モジュールにおける劣化現象を顧みると、太陽電池モジュール内の高電圧部位に由来するPotential Induced Degradation(PID)現象や、製造不良などに由来する太陽電池セルの電流漏れ欠陥に由来する太陽電池セルの並列抵抗成分の低下がある。PID現象は正常な太陽電池モジュールを長期間利用した場合における劣化原因として注目を集めており、PID現象による劣化部位の検出方法として、検査モジュールを配線から切り離して暗箱中で電流注入して発光分布を観察するElectro-Luminescence(EL)法が実用化されている。ところが、EL法を用いる場合には、太陽電池モジュールの発電を止める必要があり、検査自体の負担が非常に大きいため、別法による改善が望まれる。
【0019】
そこで、本発明者は、特許文献1に記載された技術および特許文献2に記載された技術において用いられている位相検波部(ロックインアンプ)の測定信号(出力信号)△Iを利用することによって、太陽電池モジュールM内の各太陽電池セルC1~C5の並列抵抗成分を推定することを試みた。
【0020】
[原理]
本発明の太陽電池モジュールの異常判定システムおよび太陽電池モジュールの異常判定方法では、特許文献1に記載された技術および特許文献2に記載された技術と同様に、太陽電池モジュールM内の測定対象(詳細には、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象)の太陽電池セルのみに変調光を当てながら、位相検波部(ロックインアンプ)によって、太陽電池モジュールMの出力信号から変調光と同期している測定対象の太陽電池セル由来の信号を抽出する。
本発明の太陽電池モジュールの異常判定システムおよび太陽電池モジュールの異常判定方法において行われる新しい点は、測定対象の太陽電池セルのみに対する入射光の部分遮光(例えば、測定対象の太陽電池セルにマスクを貼り付けることによって測定対象の太陽電池セルに照射される入射光を減少させること(マスク減光)等)、測定対象の太陽電池セルに対する入射光の部分増光(例えば、ライトなどの定常光照射を行うことによって測定対象の太陽電池セルに照射される入射光を増加させること(ライト増光)等)によって、測定対象の太陽電池セルの動作電圧を変化させる点である。
マスク減光を測定対象の太陽電池セルに適用すると、マスク減光が測定対象の太陽電池セルに適用される前よりも、測定対象の太陽電池セルの短絡電流Iscが減少し、I-V曲線が縦軸の負方向(図5および図6の下向き)に平行移動する。逆に、ライト増光が測定対象の太陽電池セルに適用されると、ライト増光が測定対象の太陽電池セルに適用される前よりも、測定対象の太陽電池セルの短絡電流Iscが増加し、I-V曲線が縦軸の正方向(図5および図6の上向き)に平行移動する。
【0021】
図5は太陽電池モジュールM内の高い並列抵抗成分を有する正常な太陽電池セルに対してマスク減光およびライト増光を適用することによって得られる正常な太陽電池セルの動作電圧を説明するための図である。
図5では、m個の太陽電池セルで構成される太陽電池モジュールMのうち、測定対象の太陽電池セル(正常な太陽電池セル)を「セル1」で表す。図5において、横軸は「セル1」の動作電圧vを示しており、縦軸は太陽電池モジュールMの出力電流Iを示している。太陽電池モジュールMは太陽電池セルをすべて直列接続しているため、セル1を含めてどの太陽電池セルにも等しい出力電流Iが流れている。
太陽電池モジュールMの動作電圧Vのときの「セル1」の動作電圧vは、図5に示す作図法から以下のとおりに概算できる。簡単のため、各太陽電池セルの開放電圧(通常状態(マスク遮光およびライト増光のいずれもが適用されていない状態)の「セル1」の開放電圧)をvocとする。
【0022】
高い並列抵抗成分を有する正常な太陽電池セル(「セル1」)に対してマスク減光が適用された場合、I-V曲線は、図5に示す「マスクによりIsc(短絡電流)が減少したセル1の曲線」になる。「セル1」の動作電圧vは、図5に示す「マスクによりIscが減少したセル1の曲線」と「モジュール内のm-1個のセルの合成曲線」との交点によって表される。つまり、「セル1」の動作電圧vは、下記の式(1)によって表される。また、図5に示すように、その交点における「マスクによりIscが減少したセル1の曲線」の傾きは水平に近い(つまり、傾きが略ゼロである)。「セル1」の微分抵抗は、その傾きの逆数に相当し、非常に大きい。その交点における縦軸の値は、「マスクにより減少したIsc」を表している。
【0023】
【数1】
【0024】
高い並列抵抗成分を有する正常な太陽電池セル(「セル1」)に対してライト増光が適用された場合、I-V曲線は、図5に示す「ライトによりIsc(短絡電流)が増加したセル1の曲線」になる。「セル1」の動作電圧vは、図5に示す「ライトによりIscが増加したセル1の曲線」と「モジュール内のm-1個のセルの合成曲線」との交点によって表される。つまり、「セル1」の動作電圧vは、下記の式(2)によって表される。また、図5に示すように、その交点における「ライトによりIscが増加したセル1の曲線」の傾きは非常に大きい。「セル1」の微分抵抗は、その傾きの逆数に相当し、非常に小さい。「モジュール内のm-1個のセルの合成曲線」と縦軸(「セル1」の動作電圧vがゼロ)との交点における縦軸の値は、「マスクなしでのIsc」を表している。「ライトによりIsc(短絡電流)が増加したセル1の曲線」の水平部分における縦軸の値は、「ライトにより増加したIsc」を表している。
【0025】
【数2】
【0026】
図5に示すように、マスク減光時の「セル1」の微分抵抗(非常に大きい)とライト増光時の「セル1」の微分抵抗(非常に小さい)との比rは非常に大きくなる。
太陽電池モジュールMの動作電圧Vは太陽電池モジュールMの外部で容易に測定できるので、上述したように、マスク減光とライト増光とを「セル1」に適用することにより「セル1」の動作電圧vを容易に推定することができる。
【0027】
図6は太陽電池モジュールM内の低い並列抵抗成分を有する不良(異常)な太陽電池セルに対してマスク減光およびライト増光を適用することによって得られる不良な太陽電池セルの動作電圧を説明するための図である。
図6では、m個の太陽電池セルで構成される太陽電池モジュールMのうち、測定対象の太陽電池セル(不良な太陽電池セル)を「セル1」で表す。図6において、横軸は「セル1」の動作電圧vを示しており、縦軸は太陽電池モジュールMの出力電流Iを示している。太陽電池モジュールMは太陽電池セルをすべて直列接続しているため、セル1を含めてどの太陽電池セルにも等しい出力電流Iが流れている。
太陽電池モジュールMの動作電圧Vのときの「セル1」の動作電圧vは、図6に示す作図法から以下のとおりに概算できる。
【0028】
低い並列抵抗成分を有する不良な太陽電池セル(「セル1」)に対してマスク減光が適用された場合、I-V曲線は、図6に示す「マスクによりIsc(短絡電流)が減少したセル1の曲線」になる。「セル1」の動作電圧vは、図6に示す「マスクによりIscが減少したセル1の曲線」と「モジュール内のm-1個のセルの合成曲線」との交点によって表される。つまり、「セル1」の動作電圧vは、下記の式(3)によって表される。また、図6に示すように、その交点における「マスクによりIscが減少したセル1の曲線」の傾きはゼロより大きい。「セル1」の微分抵抗は、その傾きの逆数に相当し、小さい。
「モジュール内のm-1個のセルの合成曲線」と縦軸(「セル1」の動作電圧vがゼロ)との交点における縦軸の値は、「マスクなしでのIsc」を表している。「マスクによりIsc(短絡電流)が減少したセル1の曲線」と縦軸(「セル1」の動作電圧vがゼロ)との交点における縦軸の値は、「マスクにより減少したIsc」を表している。
【0029】
【数3】
【0030】
低い並列抵抗成分を有する不良な太陽電池セル(「セル1」)に対してライト増光が適用された場合、I-V曲線は、図6に示す「ライトによりIsc(短絡電流)が増加したセル1の曲線」になる。「セル1」の動作電圧vは、図6に示す「ライトによりIscが増加したセル1の曲線」と「モジュール内のm-1個のセルの合成曲線」との交点によって表される。つまり、「セル1」の動作電圧vは、下記の式(4)によって表される。また、図6に示すように、その交点における「ライトによりIscが増加したセル1の曲線」の傾きは、ゼロより大きく、上述した「マスクによりIscが減少したセル1の曲線」と「モジュール内のm-1個のセルの合成曲線」との交点における「マスクによりIscが減少したセル1の曲線」の傾きと同程度である。「セル1」の微分抵抗は、その傾きの逆数に相当し、小さい。
つまり、低い並列抵抗成分を有する不良な「セル1」に対してライト増光が適用された場合の「セル1」の微分抵抗は、その「セル1」に対してマスク減光が適用された場合の「セル1」の微分抵抗と同程度になる。
「ライトによりIscが増加したセル1の曲線」と縦軸(「セル1」の動作電圧vがゼロ)との交点における縦軸の値は、「ライトにより増加したIsc」を表している。
【0031】
【数4】
【0032】
図6に示すように、マスク減光時の「セル1」の微分抵抗(小さい)とライト増光時の「セル1」の微分抵抗(小さい)との比rの値は、概略「1」なる。
低い並列抵抗成分を有する不良な太陽電池セルにおいても、マスク減光とライト増光とが適用される太陽電池セルの動作電圧が変化するが、高い並列抵抗成分を有する正常な太陽電池セルよりも動作電圧の変化する範囲が小さくなる。
【0033】
以上から、太陽電池モジュールM内の直列接続された複数の太陽電池セルのそれぞれの並列抵抗成分が正常であるか、あるいは、正常よりも低く不良(異常)であるかを推定するためには、例えばマスク減光を適用した場合の太陽電池セルの微分抵抗と、例えばライト増光を適用した場合の太陽電池セルの微分抵抗との比rが、所定の閾値以上であるか否かを確認すればよいことを本発明者は見い出した。
また、本発明者は、例えばマスク減光を適用した場合の太陽電池セルの微分抵抗と、例えばライト増光を適用した場合の太陽電池セルの微分抵抗との比rの値が、所定の閾値以上であるか否かを確認するためには、例えばマスク減光を異常の有無の判定対象の太陽電池セルに適用した場合における位相検波部出力(例えばロックインアンプの出力)の値と、例えばライト増光を異常の有無の判定対象の太陽電池セルに適用した場合における位相検波部出力(例えばロックインアンプの出力)の値との比が、予め設定された閾値以上であるか否かを確認すればよいことを見い出した。
つまり、本発明者は、例えばマスク減光を異常の有無の判定対象の太陽電池セルに適用した場合における位相検波部出力(例えばロックインアンプの出力)の値と、例えばライト増光を異常の有無の判定対象の太陽電池セルに適用した場合における位相検波部出力(例えばロックインアンプの出力)の値との比と、予め設定された閾値とを比較することによって、太陽電池モジュールM内の直列接続された複数の太陽電池セルのそれぞれの並列抵抗成分が正常であるか、あるいは、正常よりも低い不良(異常)であるかを推定できることを見い出した。
【0034】
[第1実施形態]
以下、本発明の太陽電池モジュールの異常判定システムおよび太陽電池モジュールの異常判定方法の実施形態について説明する。
図7は第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1の構成の一例を示す図である。
図7に示す例では、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1が、太陽電池モジュールMに適用される。太陽電池モジュールMは、直列接続された複数の太陽電池セルC1、C2、C3、C4、C5によって構成されている。太陽電池モジュールMは、負荷抵抗RLに接続されている。
図7に示す例では、太陽電池モジュールMが5個の太陽電池セルC1、C2、C3、C4、C5によって構成されているが、他の例では、太陽電池モジュールMが、直列接続された、5個以外の任意の個数(m個(mは2以上の整数))の太陽電池セルによって構成されていてもよい。
【0035】
図7に示す例では、太陽電池モジュールMの異常判定システム1が、太陽電池セルC1、C2、C3、C4、C5のそれぞれの並列抵抗成分の異常の有無を判定することができる。太陽電池モジュールMの異常判定システム1は、照射状態制御部1Aと、変調光照射部11と、位相検波部12と、交流電流クランプセンサ13と、判定部1Bとを備えている。
照射状態制御部1Aは、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セル(図7に示す例では、太陽電池セルC3)に対する入射光の照射状態を、少なくとも第1照射状態と、第1照射状態よりも太陽電池セルC3の短絡電流が大きい状態である第2照射状態とに制御する。
詳細には、照射状態制御部1Aは、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3の受光面の一部にマスクを配置する(例えば貼り付ける)ことによって(つまり、マスク遮光を適用することによって)、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第1照射状態にする。すなわち、第1照射状態は、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対して照射される入射光を減少させる制御が行われている状態である。
また、照射状態制御部1Aは、太陽電池セルC3の受光面に対して太陽光以外の光(例えばLEDライトの照射光)を照射することによって(つまり、ライト増光を適用することによって)、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態にする。すなわち、第2照射状態は、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対して照射される入射光を増加させる制御が行われている状態である。
【0036】
他の例では、照射状態制御部1Aが、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3の受光面の一部に網(図示せず)を貼り付けることによって、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第1照射状態にしてもよい。
更に他の例では、照射状態制御部1Aが、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3の受光面への太陽光の照射を遮る遮光物(図示せず)を配置することによって、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第1照射状態にしてもよい。
【0037】
また、他の例では、照射状態制御部1Aが、LEDライト以外の光源の照射光(例えばレーザー光)を太陽電池セルC3の受光面に照射することによって、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態にしてもよい。
【0038】
図7に示す例では、変調光照射部11が、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3の受光面に対して上述した入射光(つまり、太陽光およびLEDライト等の照射光)とは異なる変調光MLを照射する。変調光照射部11は、レーザ光照射部111と、ライトチョッパ部112と、チョッパ制御部113と、リフレクタ114と、フィルタ115とを備えている。レーザ光照射部111は、例えばHe-Neレーザのようなレーザ光を照射する。
図7に示す例では、上述したように、変調光照射部11がレーザ光照射部111を備えているが、他の例では、変調光照射部11が、レーザ光以外の光を照射する照射部を備えていてもよい。
【0039】
図7に示す例では、ライトチョッパ部112が、レーザ光照射部111から照射されたレーザ光を所定の位相(周波数)の変調光MLに変調する。チョッパ制御部113は、ライトチョッパ部112を制御する。また、チョッパ制御部113は、ライトチョッパ部112によって変調された変調光MLの位相(周波数)を示す参照信号RSを出力する。フィルタ115は、ライトチョッパ部112によって変調された変調光MLを減光する。フィルタ115は、例えばND(Neutral Density)フィルタである。リフレクタ114は、フィルタ115によって減光された変調光MLを反射する。リフレクタ114によって反射された変調光MLは、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に照射される。
図7に示す例では、リフレクタ114によって反射された変調光MLが太陽電池セルC3に照射されるが、他の例では、代わりに、リフレクタ114によって反射された変調光MLが、太陽電池セルC3以外の太陽電池セルC1、C2、C4、C5のいずれか(ただし、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セル)に照射されてもよい。
図7に示す例では、レーザ光照射部111と太陽電池モジュールMとの間において、ライトチョッパ部112、フィルタ115およびリフレクタ114が、ライトチョッパ部112、フィルタ115、リフレクタ114の順に配列されている。他の例では、代わりに、ライトチョッパ部112、フィルタ115およびリフレクタ114の配列の順序を異ならせてもよい。
【0040】
図7に示す例では、位相検波部12が、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対する変調光MLの照射に伴う太陽電池モジュールMの出力電流の微小変化を検出する。更に、位相検波部12は、その検出結果を位相検波部出力として出力する。位相検波部12は、ロックインアンプ12aを備えている。
ロックインアンプ12aは、太陽電池モジュールMに接続された配線に対して電気的に非接触な交流電流クランプセンサ13に接続されている。すなわち、位相検波部12は、交流電流クランプセンサ13およびロックインアンプ12aを介して、太陽電池モジュールMの出力電流の微小変化を検出する。
ロックインアンプ12aには、チョッパ制御部113から出力された参照信号RSが入力される。つまり、ロックインアンプ12aに入力される参照信号RSは、変調光照射部11から並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に照射される変調光MLの位相(周波数)を示す。
ロックインアンプ12aの出力(位相検波部出力)は、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対する変調光MLの照射に伴う太陽電池モジュールMの出力電流の微小変化の検出結果を示す。
【0041】
判定部1Bは、判定対象の太陽電池セルC3が並列抵抗成分の異常を有しているか否かを判定する。判定部1Bは、位相検波部出力取得部1B1と、比算出部1B2と、比較部1B3とを備えている。
位相検波部出力取得部1B1は、位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)を取得する。詳細には、位相検波部出力取得部1B1は、照射状態制御部1Aが並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第1照射状態に制御している時に、第1照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)を取得する。また、位相検波部出力取得部1B1は、照射状態制御部1Aが並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態に制御している時に、第2照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)を取得する。
比算出部1B2は、位相検波部出力取得部1B1によって取得された第1照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)と第2照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)との比を算出する。
比較部1B3は、比算出部1B2によって算出された第1照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)と第2照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)との比と、予め設定された閾値とを比較する。
【0042】
第1照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)と第2照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)との比が、予め設定された閾値以上である場合に、判定部1Bは、判定対象の太陽電池セルC3が並列抵抗成分の異常を有していないと判定する(つまり、判定対象の太陽電池セルC3の並列抵抗成分が正常であると判定する)。一方、第1照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)と第2照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)との比が、予め設定された閾値未満である場合に、判定部1Bは、判定対象の太陽電池セルC3が並列抵抗成分の異常を有していると判定する(詳細には、判定対象の太陽電池セルC3の並列抵抗成分が異常に低いと判定する)。
【0043】
位相検波部出力取得部1B1が第1照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)を適切に取得するためには、正常な太陽電池セルに対する、図5に示す「マスクによりIscが減少したセル1の曲線」と「モジュール内のm-1個のセルの合成曲線」との交点が、「モジュール内のm-1個のセルの合成曲線」の傾きが大きい部分に存在する必要がある。すなわち、十分な面積のマスクを用いてマスク減光(マスク遮光)を行う必要がある。
【0044】
また、位相検波部出力取得部1B1が第2照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)を適切に取得するためには、図5および図6に示す「ライトによりIscが増加したセル1の曲線」の傾きが小さい部分または傾きが略ゼロの部分の殆どが、「モジュール内のm-1個のセルの合成曲線」の傾きが略ゼロの部分よりも、縦軸の正側(図5および図6の上側)に位置する必要がある。つまり、図5および図6に示す「ライトにより増加したIsc」が「マスクなしでのIsc」より大きい必要がある。
照射状態制御部1Aは、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セル(図7に示す例では、太陽電池セルC3)に対する入射光の照射状態を第1照射状態にする制御、および、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルに対する入射光の照射状態を第2照射状態にする制御のどちらを先に行ってもよい。
【0045】
比較部1B3による比較に用いられる閾値は、別法(例えば上述したEL法)を利用して確認された正常な並列抵抗成分を有する複数の太陽電池セルのみによって構成される太陽電池モジュールと、低い並列抵抗成分を有する異常な太陽電池セルを含む太陽電池モジュールとを用いることによって予め設定される。
【0046】
並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態にするために照射状態制御部1Aによって利用される太陽光以外の光(例えばLEDライトの照射光)は、太陽電池セルC3によって吸収されて発電電流が出力される波長を有する必要がある。
【0047】
第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1の一例では、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態にするために照射状態制御部1Aによって照射される光が、LEDライトの定常光であるが、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1の他の例では、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態にするために照射状態制御部1Aによって照射される光が、定常光ではなく、変調光であってもよい。ただし、この変調光の位相(周波数)は、変調光照射部11によって照射される変調光MLの位相(周波数)とは異なる値に設定される。
【0048】
太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態にするために照射状態制御部1Aによって照射される光の照射面積および単位面積当たりの照射強度は、図5および図6に示す「ライトにより増加したIsc」が「マスクなしでのIsc」より大きくなるように設定される。
【0049】
第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1の一例では、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態にするために照射状態制御部1Aによって照射される光が、他の太陽電池セルC1、C2、C4、C5に照射されないように、照射状態制御部1Aによって照射される光の指向性は設定される。具体的には、照射状態制御部1Aによって照射される光として、レーザ光が用いられる。
【0050】
第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1の他の例では、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態にするために照射状態制御部1Aによって照射される光が、他の太陽電池セルC1、C2、C4、C5のいずれかに照射されてもよい。照射状態制御部1Aによって照射される光が、他の太陽電池セルC1、C2、C4、C5のいずれかに照射される場合(つまり、他の太陽電池セルC1、C2、C4、C5のいずれかに漏れて照射される場合)であっても、照射状態制御部1Aによる光の照射に伴う太陽電池セルC3の短絡電流Iscの増加量が、照射状態制御部1Aによる光の照射に伴う太陽電池セルC1、C2、C4、C5のそれぞれの短絡電流Iscの増加量よりも大きければ、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1によって太陽電池セルC3の並列抵抗成分の異常の有無を判定することができる。
【0051】
図8は第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図8に示す例では、ステップS1A1において、照射状態制御部1Aが、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セル(例えば太陽電池セルC3)に対する入射光の照射状態を第1照射状態に制御する。例えば、照射状態制御部1Aは、太陽電池セルC3の受光面の一部にマスクを配置することによって、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第1照射状態にする。
次いで、ステップS11Aでは、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態が照射状態制御部1Aによって第1照射状態に制御されている状態で(例えばマスクが太陽電池セルC3の受光面の一部に配置されている状態で)、変調光照射部11が、太陽電池セルC3の受光面に対して変調光MLを照射する。
次いで、ステップS12Aでは、位相検波部12が、第1照射状態における太陽電池セルC3に対する変調光MLの照射に伴う太陽電池モジュールMの出力電流の微小変化を検出する。更に、位相検波部12は、その検出結果を第1照射状態の位相検波部出力として出力する。
次いで、ステップS1B11では、位相検波部出力取得部1B1が、ステップS12Aにおいて位相検波部12によって出力された第1照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)を取得する。
【0052】
また、ステップS1A2では、照射状態制御部1Aが、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を、第1照射状態よりも太陽電池セルC3の短絡電流が大きい状態である第2照射状態に制御する。例えば、照射状態制御部1Aは、太陽電池セルC3の受光面に対して変調光MLおよび太陽光とは異なる光(例えばLEDライトの照射光)を照射することによって、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態にする。
次いで、ステップS11Bでは、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態が照射状態制御部1Aによって第2照射状態に制御されている状態で(例えばLEDライトの照射光が太陽電池セルC3の受光面に照射されている状態で)、変調光照射部11が、太陽電池セルC3の受光面に対して変調光MLを照射する。
次いで、ステップS12Bでは、位相検波部12が、第2照射状態における太陽電池セルC3に対する変調光MLの照射に伴う太陽電池モジュールMの出力電流の微小変化を検出する。更に、位相検波部12は、その検出結果を第2照射状態の位相検波部出力として出力する。
次いで、ステップS1B12では、位相検波部出力取得部1B1が、ステップS12Bにおいて位相検波部12によって出力された第2照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)を取得する。
【0053】
次いで、ステップS1B2では、比算出部1B2が、ステップS1B11において取得された第1照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)と、ステップS1B12において取得された第2照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)との比を算出する。
次いで、ステップS1B3では、比較部1B3が、ステップS1B2において算出された第1照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)と第2照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)との比と、予め設定された閾値とを比較する。
判定部1Bは、第1照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)と第2照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)との比が、予め設定された閾値以上である場合に、判定対象の太陽電池セルC3が並列抵抗成分の異常を有していないと判定し、第1照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)と第2照射状態の位相検波部出力(ロックインアンプ12aの出力)との比が、予め設定された閾値未満である場合に、判定対象の太陽電池セルC3が並列抵抗成分の異常を有していると判定する。
【0054】
上述したように、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1によれば、太陽電池モジュールM内の直列接続された太陽電池セルC1、C2、C3、C4、C5の並列抵抗成分の異常の有無を判定することができる。
【0055】
[第2実施形態]
以下、本発明の太陽電池モジュールの異常判定システムおよび太陽電池モジュールの異常判定方法の第2実施形態について説明する。
第2実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1と同様に構成されている。従って、第2実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1と同様の効果を奏することができる。
【0056】
上述したように、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1では、照射状態制御部1Aが、例えば並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セル(例えば太陽電池セルC3)の受光面の一部にマスクを配置することによって(つまり、マスク遮光を適用することによって)、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第1照射状態にする。すなわち、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1では、第1照射状態が、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対して照射される入射光を減少させる制御が行われている状態である。
また、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1では、照射状態制御部1Aが、太陽電池セルC3の受光面に対して太陽光以外の光(例えばLEDライトの照射光)を照射することによって(つまり、ライト増光を適用することによって)、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態にする。すなわち、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1では、第2照射状態が、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対して照射される入射光を増加させる制御が行われている状態である。
【0057】
一方、第2実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1では、第1照射状態が、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セル(例えば太陽電池セルC3)に対して照射される入射光を減少させる制御、および、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対して照射される入射光を増加させる制御のいずれもが行われていない状態である。
また、第2実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1では、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1と同様に、第2照射状態が、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対して照射される入射光を増加させる制御が行われている状態である。
【0058】
[第3実施形態]
以下、本発明の太陽電池モジュールの異常判定システムおよび太陽電池モジュールの異常判定方法の第3実施形態について説明する。
第3実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1と同様に構成されている。従って、第3実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1と同様の効果を奏することができる。
【0059】
第3実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1では、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1と同様に、第1照射状態が、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セル(例えば太陽電池セルC3)に対して照射される入射光を減少させる制御が行われている状態である。例えば、照射状態制御部1Aは、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3の受光面の一部にマスクを配置することによって(つまり、マスク遮光を適用することによって)、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第1照射状態にする。
上述したように、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1では、照射状態制御部1Aが、太陽電池セルC3の受光面に対して太陽光以外の光(例えばLEDライトの照射光)を照射することによって(つまり、ライト増光を適用することによって)、太陽電池セルC3に対する入射光の照射状態を第2照射状態にする。すなわち、第1実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1では、第2照射状態が、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対して照射される入射光を増加させる制御が行われている状態である。
一方、第3実施形態の太陽電池モジュールMの異常判定システム1では、第2照射状態が、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セル(例えば太陽電池セルC3)に対して照射される入射光を減少させる制御、および、並列抵抗成分の異常の有無の判定対象の太陽電池セルC3に対して照射される入射光を増加させる制御のいずれもが行われていない状態である。
【実施例
【0060】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0061】
図9は実施例の実験装置の構成を示す図である。
実施例の実験は、図9に示す実験装置を用いて行った。詳細は下記箇条書きのとおりである。
【0062】
・ソーラーシミュレータ:50Hz交流電源で駆動するLEDライト(Sunway製SW-GL100ED56W×2個、SW-GL050ED48W×2個、SW-GL030ED35W×4個)
・太陽電池モジュール:正常と見なせる5個の同等な多結晶Siセル(中国製、セル寸法16mm×63mm、標準条件で短絡電流250mA、開放電圧0.6V、FF約0.65)を直列接続。
・太陽電池モジュールの負荷抵抗R≒0Ω
・太陽電池モジュール内のセル2またはセル3を不良セルに模擬するとき、抵抗Rsh≒40Ωを並列接続。この抵抗Rshの接続により中等度のPID現象による不良セルを模擬できると事前実験で確認済。
・太陽電池モジュールと負荷抵抗Rと直列に32回巻きコイルを接続。
・電流クランプセンサ:日置電機製、型番9675、出力電圧0.1V/A
・2位相ロックインアンプ:NF回路設計ブロック製LI-575。感度は1mV、時定数はτ=1.25s
・変調光の光源:He-Neレーザ(JDSU製NOVETTE、発振波長633nm、ランダム偏光0.5mW)。330Hzの光チョッパ(NF回路設計ブロック製、型番5584A)でデューティ比50%で変調し、吸収型NDフィルタ(光学濃度1.0)で変調光強度を調整。
・ロックインアンプ出力と実際のセル電圧の同時記録のため、データロガー(キーエンス製NR-600と同アナログ計測ユニットNR-HA08)を使用。サンプリング周期0.1msで測定時間5sで記録した各値の時間平均値で実験結果を解析。
【0063】
[実施例1]
マスク減光とライト増光のないモジュール内で並列抵抗のない正常セルのうち低電圧(-0.596V)であるセル2について、マスク減光とライト増光を施した場合の実際のセル電圧とロックインアンプ出力は表1のとおりである。表1はモジュール内での低電圧の正常セルに対するマスク減光とライト増光の効果を示している。並列抵抗のない正常なセル2の電圧は、マスク減光により-1.863Vと低下し、ライト増光により0.373Vに増加した。これは図5で説明する挙動に相当している。並列抵抗のない正常なセル2のロックインアンプ出力について、マスク減光とライト増光での出力値の比は4.44と高い。
【0064】
【表1】
【0065】
次に、表1で正常であったセル2について、並列抵抗40Ωを付けて不良模擬セルとした。不良模擬セル2についてマスク減光とライト増光を施した場合の実際のセル電圧とロックインアンプ出力は表2のとおりである。表2はモジュール内での低電圧の不良模擬セルに対するマスク減光とライト増光の効果を示している。並列抵抗40Ωを付けた不良模擬セル2の電圧は、マスク減光により-0.938Vと低下し、ライト増光により0.116Vに増加したが、これは表1と比べて変化が小さい。これは図6で説明する挙動に相当している。並列抵抗40Ωを付けた不良模擬セル2のロックインアンプ出力について、マスク減光とライト増光での出力値の比は1.73と低い。
【0066】
【表2】
【0067】
これより、変調光の照射対象セルに対するマスク減光とライト増光でのロックインアンプ出力値の比の値について、変調光の照射対象セルの並列抵抗成分が高ければ比の値が高く、逆に並列抵抗成分が低くければ比の値が1に近いことを利用して照射対象セルの並列抵抗成分の良否を推定できること意味している。
【0068】
[実施例2]
さらに、セル2に隣接するセル3に並列抵抗40Ωを付けてセル3を不良模擬セルとした。並列抵抗のないセル2は正常のままであるが、隣接セル3が不良であっても正常なセル2の並列抵抗成分の良否を推定できるかを検討し表3にまとめた。表3は隣接セルが不良である場合における低電圧の正常セルに対するマスク減光とライト増光の効果を示している。正常なセル2の電圧は、マスク減光により-1.802Vと低下し、ライト増光により0.369Vに増加した。正常なセル2のロックインアンプ出力について、マスク減光とライト増光での出力値の比は6.18と高い。つまり、隣接するセルが不良であっても、変調光の照射対象セルの並列抵抗成分の良否を推定できることを意味している。
【0069】
【表3】
【0070】
[実施例3]
マスク減光とライト増光のないモジュール内で並列抵抗のない正常セルのうち高電圧(0.349V)であるセル3について、マスク減光とライト増光を施した場合の実際のセル電圧とロックインアンプ出力は表4のとおりである。表4はモジュール内で高電圧の正常セルに対するマスク減光とライト増光の効果を示している。並列抵抗のない正常なセル3の電圧は、マスク減光により-1.864Vと低下し、ライト増光により0.390Vに増加した。これは図5で説明する挙動に相当している。並列抵抗のない正常なセル3のロックインアンプ出力について、マスク減光とライト増光での出力値の比は7.93と高い。
【0071】
【表4】
【0072】
次に、表4で正常であったセル3について、並列抵抗40Ωを付けて不良模擬セルとした。不良模擬セル3についてマスク減光とライト増光を施した場合の実際のセル電圧とロックインアンプ出力は表5のとおりである。表5はモジュール内で高電圧の不良模擬セルに対するマスク減光とライト増光の効果を示している。並列抵抗40Ωを付けた不良模擬セル3の電圧は、マスク減光により-0.884Vと低下し、ライト増光により0.231Vに増加したが、これは表4と比べて変化が小さい。これは図6で説明する挙動に相当している。並列抵抗40Ωを付けた不良模擬セル3のロックインアンプ出力について、マスク減光とライト増光での出力値の比は1.47と低い。
【0073】
【表5】
【0074】
この結果と実施例1を合わせると、正常時のセル電圧に関わらず、変調光の照射対象セルに対するマスク減光とライト増光でのロックインアンプ出力値の比の値について、変調光の照射対象セルの並列抵抗成分が高ければ比の値が高く、逆に並列抵抗成分が低くければ比の値が1に近いことを利用して照射対象セルの並列抵抗成分の良否を推定できること意味している。
【0075】
[実施例4]
さらに、セル3に隣接するセル2に並列抵抗40Ωを付けてセル2を不良模擬セルとした。並列抵抗のないセル3は正常のままであるが、隣接セル2が不良であっても正常なセル3の並列抵抗成分の良否を推定できるかを検討し表6にまとめた。表6は隣接セルが不良である場合における高電圧の正常セルに対するマスク減光とライト増光の効果を示している。正常なセル2の電圧は、マスク減光により-1.799Vと低下し、ライト増光により0.380Vに増加した。正常なセル3のロックインアンプ出力について、マスク減光とライト増光での出力値の比は5.70と高い。
【0076】
【表6】
【0077】
この結果と実施例2を合わせると、正常時のセル電圧に関わらず、隣接するセルが不良であっても、変調光の照射対象セルの並列抵抗成分の良否を推定できることを意味している。
【0078】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。上述した各実施形態および各例に記載の構成を組み合わせてもよい。
【0079】
なお、上記の実施形態における太陽電池モジュールMの異常判定システム1の全部または一部は、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、メモリおよびマイクロプロセッサにより実現させるものであってもよい。
なお、太陽電池モジュールMの異常判定システム1の全部または一部は、メモリおよびCPU(中央演算装置)により構成され、各システムが備える各部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
なお、太陽電池モジュールMの異常判定システム1の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【符号の説明】
【0080】
1…異常判定システム、11…変調光照射部、111…レーザ光照射部、112…ライトチョッパ部、113…チョッパ制御部、114…リフレクタ、115…フィルタ、12…位相検波部、12a…ロックインアンプ、13…交流電流クランプセンサ、1A…照射状態制御部、1B…判定部、1B1…位相検波部出力取得部、1B2…比算出部、1B3…比較部、M…太陽電池モジュール、C1、C2、C3、C4、C5…太陽電池セル、RL…負荷抵抗
図1
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図9