IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人放射線医学総合研究所の特許一覧

特許7557784超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置
<>
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図1
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図2
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図3
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図4
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図5
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図6
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図7
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図8
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図9
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図10
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図11
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図12
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図13
  • 特許-超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20240920BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20240920BHJP
   H05H 7/04 20060101ALI20240920BHJP
   H05H 13/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01F6/06 110
A61N5/10 H
H05H7/04
H05H13/04 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021048690
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147449
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 茂貴
(72)【発明者】
【氏名】折笠 朝文
(72)【発明者】
【氏名】水島 康太
(72)【発明者】
【氏名】岩田 佳之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 康志
(72)【発明者】
【氏名】藤本 哲也
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-301992(JP,A)
【文献】特開2013-206635(JP,A)
【文献】特開2010-118457(JP,A)
【文献】特開2011-72717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
A61N 5/10
H05H 7/04
H05H 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に巻き回された超電導線材の1周巻き回された部分を1つのターンとしたときに、複数の前記ターンで形成された少なくとも1つの超電導コイルを備え、
前記超電導コイルは、管状を成す管状構造部の外周面に沿う形状を成し、
前記ターンは、前記管状構造部の軸方向に沿って延びるコイル長手部を有し、
前記コイル長手部の配置形態が、主磁場を発生させる主磁場発生領域と補正用の磁場を発生させる磁場補正領域とで互いに異なっている、
超電導コイル装置。
【請求項2】
前記管状構造部の側面視で、前記コイル長手部の前記磁場補正領域の部分が前記管状構造部の周方向に変位されている、
請求項1に記載の超電導コイル装置。
【請求項3】
前記コイル長手部の前記磁場補正領域の部分が前記超電導コイルの内周側に変位されている、
請求項1または請求項2に記載の超電導コイル装置。
【請求項4】
前記コイル長手部の端部が前記磁場補正領域の部分となっている、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超電導コイル装置。
【請求項5】
前記ターンは、前記コイル長手部から前記管状構造部の周方向に沿って延びるコイル端部を有し、
前記磁場補正領域は、少なくとも前記コイル端部で発生する不要な磁場成分を打ち消す磁場を発生させる、
請求項4に記載の超電導コイル装置。
【請求項6】
前記主磁場発生領域と前記磁場補正領域との間に遷移領域が設けられ、前記コイル長手部の前記遷移領域の部分が、前記コイル長手部の前記主磁場発生領域および前記磁場補正領域の部分に対して傾いている、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の超電導コイル装置。
【請求項7】
少なくとも2つの前記超電導コイルが前記管状構造部の径方向に積層されており、
第1層の前記超電導コイルの前記遷移領域の寸法と第2層の前記超電導コイルの前記遷移領域の寸法が互いに異なっている、
請求項6に記載の超電導コイル装置。
【請求項8】
前記管状構造部は、一定の曲率で曲がっているとともに断面視で楕円形状を成している、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の超電導コイル装置。
【請求項9】
複数の前記超電導コイルにより形成され、二極磁場を発生させる超電導二極コイルと、
複数の前記超電導コイルにより形成され、四極磁場を発生させる超電導四極コイルと、
を備え、
前記超電導二極コイルと前記超電導四極コイルとが互いに同軸に配置されている、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の超電導コイル装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の超電導コイル装置を備え、
複数の前記超電導コイル装置により粒子線ビームを加速するビーム軌道が形成される、
超電導加速器。
【請求項11】
請求項10に記載の超電導加速器を備え、
前記超電導加速器により前記粒子線ビームを加速し、前記粒子線ビームを患部に照射して治療を行う、
粒子線治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導技術に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素イオンなどの粒子線ビームを、患者の病巣組織(がん)に照射して、治療を行う粒子線治療技術が注目されている。この粒子線治療技術によれば、正常組織にダメージを与えず、病巣組織のみをピンポイントで死滅させることができる。そのため、手術または投薬治療などに比べて患者への負担が少なく、治療後の社会復帰の早期化も期待できる。体内の深い位置にあるがん細胞を治療するためには、粒子線ビームを加速する必要がある。一般的に粒子線ビームを加速する装置は、大きく二種類に分類される。ひとつは直線状に加速装置を配置する線形加速器である。もうひとつはビーム軌道を曲げる偏向装置を円形状に配置するとともに、円軌道の一部に加速装置を配置する円形加速器である。特に、炭素または陽子などの重い粒子を用いる場合には、ビーム生成直後の低エネルギー帯の加速を線形加速器で行い、高エネルギー帯の加速を円形加速器で行う方式が一般的である。
【0003】
粒子線ビームを周回させながら加速する円形加速器は、粒子線ビームの外形を制御する四極電磁石、ビーム軌道を曲げる偏向電磁石およびビーム軌道のズレを補正するステアリング電磁石などを順次配列することで構成される。このような加速器において、周回させる粒子の質量またはエネルギーが増大されると、磁気剛性(磁場による曲げ難さ)が増大されるため、ビーム軌道半径が大きくなる。その結果、装置全体が大型化してしまう。装置が大型であると建屋などの付帯設備も大型になってしまい、都市部などの設置範囲に制限がある場所に装置を導入できない。また、装置の大型化を抑制するためには、偏向電磁石が発生する磁場強度を大きくする必要がある。一般的な偏向電磁石では、鉄心の磁気飽和の影響で1.5Tを超える磁場を発生させることが困難である。そこで、高磁場化が可能であり、かつ円形加速器の小型化が可能である超電導技術を偏向電磁石に適用することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-144521号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】“Field Computation for Accelerator Magnets” Stephan Russenschuck WiLEY-VCH
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の加速器用の超電導コイルでは、鞍型コイルが一般的である。従来技術では、均一な磁場を発生させるため、つまり、高次多極成分を低くするために、コイル端部で超電導線材同士の間にスペーサ(隙間)を設けている。そのため、コイル端部が延長されてしまい、超電導コイルが大型化してしまうという課題がある。
【0007】
また、従来技術では、コイル端部に生じる不正磁場を打ち消すために、補正用コイルを追加する方法もある。この方法でも主コイルの外側に補正用コイルを重ねる必要があるため、径方向、軸方向、または、その両方向に超電導コイルが大型化してしまうという課題がある。
【0008】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、超電導コイル装置の小型化を図ることができる超電導技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係る超電導コイル装置は、環状に巻き回された超電導線材の1周巻き回された部分を1つのターンとしたときに、複数の前記ターンで形成された少なくとも1つの超電導コイルを備え、前記超電導コイルは、管状を成す管状構造部の外周面に沿う形状を成し、前記ターンは、前記管状構造部の軸方向に沿って延びるコイル長手部を有し、前記コイル長手部の配置形態が、主磁場を発生させる主磁場発生領域と補正用の磁場を発生させる磁場補正領域とで互いに異なっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態により、超電導コイル装置の小型化を図ることができる超電導技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の粒子線治療装置を示す概念図。
図2】円形加速器を示す平面図。
図3】第1層の超電導コイルを示す平面図。
図4】第1層の超電導コイルを示す側面図。
図5図4のV-V断面図。
図6図4のVI-VI断面図。
図7】第2層の超電導コイルを示す平面図。
図8】第2層の超電導コイルを示す側面図。
図9図8のIX-IX断面図。
図10図8のX-X断面図。
図11】第1層と第2層の超電導コイルを重ね合わせた状態を示す平面図。
図12】第1層と第2層の超電導コイルを重ね合わせた状態を示す側面図。
図13】変形例の超電導コイルを示す分解斜視図。
図14】従来の超電導コイルを示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、超電導コイル装置、超電導加速器および粒子線治療装置の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1の符号1は、本実施形態の粒子線治療装置である。この粒子線治療装置1は、粒子線ビームBを加速し、この粒子線ビームBをターゲットである患部Tに照射して治療を行うビーム照射装置である。
【0014】
粒子線治療装置1は、荷電粒子、例えば、負パイ中間子、陽子、ヘリウムイオン、炭素イオン、ネオンイオン、シリコンイオン、またはアルゴンイオンを治療照射用の粒子線ビームBとして用いる。
【0015】
粒子線治療装置1は、ビーム発生装置2と、ビーム加速装置3と、ビーム輸送装置4と、ビーム照射装置5と、これらの装置を繋いで粒子線ビームBが通過する真空ダクト6とを備える。
【0016】
真空ダクト6は、その内部が真空状態に維持されている。この真空ダクト6の内部を粒子線ビームBが通過することで、粒子線ビームBと空気との散乱によるビームロスを抑制している。この真空ダクト6は、患者の患部Tの位置の直前まで続いている。真空ダクト6を通過した粒子線ビームBは、患者の患部Tに照射される。
【0017】
ビーム発生装置2は、粒子線ビームBを発生させる装置である。例えば、電磁波またはレーザーなどを用いて生成したイオンを引き出す装置である。
【0018】
ビーム加速装置3は、ビーム発生装置2の下流側に設けられている。このビーム加速装置3は、粒子線ビームBを所定のエネルギーに成るまで加速する装置である。このビーム加速装置3は、例えば、前段加速器と後段加速器の2段で構成される。前段加速器としては、ドリフトチューブリニアック(DTL)または高周波四重極型線形加速器(RFQ)で構成される線形加速器7が用いられる。後段加速器としては、シンクロトロンまたはサイクロトロンで構成される円形加速器8が用いられる。線形加速器7と円形加速器8により、粒子線ビームBのビーム軌道が形成される。
【0019】
ビーム輸送装置4は、ビーム加速装置3の下流側に設けられている。このビーム輸送装置4は、加速された粒子線ビームBを被照射物である患者の患部Tまで輸送する装置である。真空ダクト6を軸として、偏向装置、集束・発散装置、六極装置、ビーム軌道補正装置、およびその制御装置などで構成される。
【0020】
ビーム照射装置5は、ビーム輸送装置4の下流に設けられている。このビーム照射装置5は、ビーム輸送装置4を通過した所定のエネルギーの粒子線ビームBが患者の患部Tの設定された照射点に正しく入射されるように、粒子線ビームBのビーム軌道を制御するとともに、患部Tにおける粒子線ビームBの照射位置および照射線量を監視する。
【0021】
なお、ビーム加速装置3とビーム輸送装置4には、高磁場化が可能であり、かつ小型化が可能である超電導技術が用いられている。本実施形態では、超電導技術の適用例として、ビーム加速装置3の円形加速器8を例示する。つまり、本実施形態の粒子線治療装置1は、超電導加速器としての円形加速器8を備えている。この円形加速器8により、粒子線ビームBを加速するビーム軌道の少なくとも一部が形成される。
【0022】
図2に示すように、本実施形態の超電導加速器としての円形加速器8は、平面視で環状(略円形状)に配置された真空ダクト6に沿って構築される。この円形加速器8は、入射装置9と、出射装置10と、偏向装置11と、集束・発散装置12と、六極装置13と、加速力印加装置14を備える。
【0023】
円形加速器8は、線形加速器7から入射装置9を介して入射された粒子線ビームBの軌道を偏向装置11で曲げることで、粒子線ビームBを真空ダクト6に沿って周回させる。集束・発散装置12および六極装置13を用いることで、粒子線ビームBを安定的に周回させる。
【0024】
また、粒子線ビームBが円形加速器8のビーム軌道を周回するときに、加速力印加装置14により加速力が粒子線ビームBに印加される。そして、粒子線ビームBが所定のエネルギーまで加速され、この加速された粒子線ビームBが、出射装置10から出射されて患部Tに到達する。
【0025】
円形加速器8において、偏向装置11は、磁場により粒子線ビームBを偏向しているが、周回させる粒子の質量またはエネルギーが増大されると、磁気剛性(磁場による曲げ難さ)が増大されるため、ビーム軌道半径が大きくなる。その結果、円形加速器8が全体的に大型化してしまう。この円形加速器8の大型化を抑制するためには、偏向装置11が発生する磁場強度を大きくする必要がある。本実施形態では、偏向装置11に超電導技術を適用することで高磁場化が可能となり、円形加速器8を小型化することができる。
【0026】
ここで、超電導線材は、NbTi、NbSn、NbAl、MgBなどの低温超電導体、BiSrCaCu10線材、REB線材などの高温超電導体で構成される。
【0027】
なお、「REB」の「RE」は、希土類元素(例えば、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ホルミニウム(Ho)、サマリウム(Sm)など)およびイットリウム元素の少なくともいずれかを意味している。また、「B」はバリウム(Ba)を意味している。また、「C」は銅(Cu)を意味している。また、「O」は酸素(O)を意味している。
【0028】
なお、低温超電導体を用いた場合は、低温超電導体が延性を有するため、容易に曲面を形成することが可能となる。一方、高温超電導体を用いた場合は、高温で超電導状態が発現するために冷却負荷が軽減され、運転効率が向上する。
【0029】
次に、従来の一般的な超電導コイル80について図14を用いて説明する。超電導コイル80は、円筒形状を成す管状構造部81の側面に設けられている。この超電導コイル80は、超電導線材が巻き回された複数の導体部82を備える。それぞれの導体部82は、コイル長手部83とコイル端部84に分けられている。コイル長手部83では、導体部82同士の周方向の間隔が一定でなく、その距離によって超電導コイル80の中心部のビーム通過領域に所望の磁場分布が生じる。
【0030】
ここで、一般的な超電導コイル80で発生させる磁場に対応する電流密度分布について説明する。管状構造部81の断面視において、管状構造部81の周方向の所定の位置を中心軸の角度θで表す。
【0031】
例えば、均一な磁場である二極磁場を発生させたい場合は、電流密度分布がcosθの関数に近い形となるようにコイル長手部83の導体部82を配置する。同様に、四極磁場を発生させたい場合は、電流密度分布がcos2θの関数に近い形となるようにコイル長手部83の導体部82を配置する。六極磁場を発生させたい場合は、cos3θの関数に近い形となるようにコイル長手部83の導体部82を配置する。八極磁場を発生させたい場合は、cos4θの関数に近い形となるようにコイル長手部83の導体部82を配置する。
【0032】
コイル端部84は、コイル端部84を形成する導体部82がビーム通過領域を物理的に遮らないようにするために、管状構造部81の表面に沿う立体的な形状となっている。そのため、このコイル端部84は、管状構造部81の側面から上面にかけて徐々に導体が推移する形状となる。
【0033】
このコイル端部84では、コイル長手部83で生じる電流密度分布とは異なる電流密度分布が生じてしまう。そのため、所望の磁場分布から乱れた誤差磁場(不要な磁場成分)が発生してしまう。例えば、二極磁場を発生させたい場合において、コイル端部84では、導体部82がθ=0度の位置からθ=90度の位置に変化する。このとき、cosθの電流密度分布に対して、cos2θまたはcos3θなどの電流密度分布が重ね合わされた形となる。そのため、負の六極磁場(六極成分)などが発生してしまう。
【0034】
従来技術では、この負の六極磁場を抑えるために、スペーサ85(隙間)をコイル端部84に設けている。そして、θ=0度近傍の位置に設けられる導体部82を維持することで、正の六極磁場を発生させて、所望の均一な磁場を得ている。しかし、この方法では、コイル端部84を延長することになるため、超電導コイル80の全体の寸法が長くなってしまい、円形加速器8の全体が大型化してしまう。そこで、本実施形態では、超電導線材を適切に配置することで、所望の均一な磁場を得るようにし、かつ超電導コイル80の小型化を図るようにしている。
【0035】
次に、本実施形態の超電導加速器としての円形加速器8が備える超電導コイル装置20について図3から図12を用いて説明する。なお、超電導コイル装置20において、粒子線ビームBが通過する軸方向(軸心Cが延びる方向)をX方向としたときに、超電導コイル装置20をY方向から見たときの状態を側面図とし、超電導コイル装置20をZ方向から見たときの状態を平面図(上面図)として説明する。この超電導コイル装置20は、重力の影響を受ける装置ではないので、上下の区別は無いが、便宜上、Z方向を超電導コイル装置20の上方向として説明する。
【0036】
まず、図9に示すように、本実施形態の超電導コイル装置20は、2層構造になっている。この超電導コイル装置20には、最も内周に配置され、管状を成す第1層目の管状構造部21と、この第1層目の管状構造部21の外周に配置され、管状を成す第2層目の管状構造部22とが設けられている。これらの管状構造部21,22は、軸心Cを中心として同心円状に配置されている。つまり、互いに同軸に配置されている。
【0037】
図3から図6に示すように、超電導コイル装置20は、第1層の管状構造部21の上下に設けられた2つの超電導コイル23を備える。図7から図10に示すように、超電導コイル装置20は、第2層の管状構造部22の上下に設けられた2つの超電導コイル24を備える。つまり、少なくとも2つの超電導コイル23,24が管状構造部21,22の径方向に積層されている。これらの超電導コイル23,24により粒子線ビームBの通過領域Pに磁場を発生させることができる。
【0038】
図9に示すように、それぞれの層の管状構造部21,22の上半分に2つの超電導コイル23,24の層が設けられているとともに、それぞれの層の管状構造部21,22の下半分に2つの超電導コイル23,24の層が設けられている(図4および図8参照)。
【0039】
それぞれの超電導コイル23,24は、管状構造部21,22の外周面に沿う形状を成している。管状構造部21,22は、超電導コイル23,24を支持する部材である。最も内側にある第1層の管状構造部21が超電導コイル装置20の軸心Cに配置されている。この第1層の管状構造部21が真空ダクト6の一部を形成している。なお、この管状構造部21は、真空ダクト6と別部材であっても良い。つまり、管状構造部21の内部に真空ダクト6が設けられても良い。
【0040】
超電導コイル23,24は、超電導線材が環状に巻き回されて形成されている。例えば、超電導線材の1周巻き回された部分を1つのターン25,26としたときに、複数のターン25,26で1つの超電導コイル23,24が形成されている。理解を助けるために、図3では、3つのターン25で1つの超電導コイル23が形成されているように図示している。図7では、5つのターン26で1つの超電導コイル24が形成されているように図示している。実際には、数十から数百のターン25,26で1つの超電導コイル23,24が形成される。
【0041】
第1層の管状構造部21よりも、第2層の管状構造部22の方が大きな外周面を有するため、第1層の超電導コイル23よりも第2層の超電導コイル24の方が、多くのターン26を配置することができる。
【0042】
なお、超電導コイル装置20は、例えば、円形加速器8の偏向装置11(図2)に適用される。偏向装置11には、一定の曲率で曲がっている真空ダクト6が設けられている。そのため、実際の超電導コイル装置20に用いられる管状構造部21,22も一定の曲率で曲がっている部材である。しかし、図3図4図7図8図11図12では、理解を助けるために、管状構造部21,22が直線状を成す部材として図示している。また、管状構造部21,22の軸心Cについても、実際は一定の曲率で曲がっているが、直線として図示している。
【0043】
図5図6図9図10に示すように、管状構造部21,22は、断面視で楕円形状を成している。例えば、管状構造部21,22がY方向に曲がっている場合において、それぞれの管状構造部21,22は、Z方向の直径よりもY方向の直径が大きい楕円形状を成す。つまり、管状構造部21,22は、曲がる方向に対して直径が大きくなる楕円形状を成している。このようにすれば、超電導コイル装置20が、粒子線ビームBが曲がる方向に適した磁場を発生させることができる。
【0044】
図4および図8に示すように、超電導コイル23,24において、それぞれのターン25,26は、管状構造部21,22の軸方向(X方向)に沿って直線状に延びるコイル長手部27,28と、コイル長手部27,28から管状構造部21,22の周方向に沿って延びるコイル端部29,30とを有している。
【0045】
本実施形態では、管状構造部21,22の側面視で、それぞれのターン25,26におけるコイル長手部27,28とコイル端部29,30との境界を示す境界線L1,L2が、管状構造部21,22の周方向に延びる基準線Kに対して傾いている。例えば、第1層の超電導コイル23の境界線L1と第2層の超電導コイル24の境界線L2とが基準線Kに対して互いに同じ向きに傾いている。
【0046】
図3および図7に示すように、超電導コイル23,24のターン25,26は、超電導コイル23,24の外周側から内周側に行くに従いコイル長手部27,28が短くなっている。そのため、境界線L1,L2が基準線Kに対して傾くようになる。このようにすれば、それぞれの層の超電導コイル23,24のコイル長手部27,28が、その端部で発生させる磁場の態様を変化させることができる。
【0047】
図3および図7に示すように、本実施形態では、コイル長手部27,28が設けられた領域が、主磁場発生領域51A,52Aと遷移領域51B,52Bと磁場補正領域51C,52Cとに分けられている。
【0048】
主磁場発生領域51A,52Aは、超電導コイル23,24で主たる磁場を発生させる領域である。この主磁場発生領域51A,52Aは、管状構造部21,22の軸方向(X方向)において、コイル長手部27,28の中央の部分となっている。
【0049】
磁場補正領域51C,52Cは、超電導コイル23,24の端部近傍で補正用の磁場を発生させる領域である。この磁場補正領域51C,52Cは、管状構造部21,22の軸方向(X方向)において、コイル長手部27,28の端部に設けられている。この磁場補正領域51C,52Cにより、コイル長手部27,28の端部が発生させる磁場を補正することができる。
【0050】
遷移領域51B,52Bは、主磁場発生領域51A,52Aと磁場補正領域51C,52Cとの間に設けられた領域である。この遷移領域51B,52Bにより、主磁場発生領域51A,52Aの端部から磁場補正領域51C,52Cまで、磁場を滑らかに連続するように遷移させることができる。
【0051】
コイル長手部27,28は、ベース部27A,28Aとテーパ部27B,28Bとオフセット部27C,28Cとを有する。ベース部27A,28Aは、主磁場発生領域51A,52Aに対応する部分である。テーパ部27B,28Bは、遷移領域51B,52Bに対応する部分である。オフセット部27C,28Cは、磁場補正領域51C,52Cに対応する部分である。
【0052】
本実施形態では、コイル長手部27,28のターン25,26の配置形態が、主磁場発生領域51A,52Aと遷移領域51B,52Bと磁場補正領域51C,52Cとで互いに異なっている。
【0053】
例えば、図4および図8に示すように、管状構造部21,22の側面視で、コイル長手部27,28のオフセット部27C,28Cが管状構造部21,22の周方向に変位されている。図3および図7に示すように、管状構造部21,22の平面視で、オフセット部27C,28Cが超電導コイル23,24の内周側に変位されている。このようにすれば、磁場補正領域51C,52Cで発生する磁場を、主磁場発生領域51A,52Aで発生する磁場と異なる態様にすることができる。
【0054】
図5および図6に示すように、管状構造部21の断面視で、第1層のベース部27Aが設けられている範囲R1とオフセット部27Cが設けられている範囲R2とが異なっている。オフセット部27Cは、ベース部27Aよりも上方位置または下方位置にずれて(オフセットされて)配置されている。
【0055】
図9および図10に示すように、管状構造部22の断面視で、第2層のベース部28Aが設けられている範囲R3とオフセット部28Cが設けられている範囲R4とが異なっている。オフセット部28Cは、ベース部28Aよりも上方位置または下方位置にずれて(オフセットされて)配置されている。
【0056】
また、第1層のベース部27Aが設けられている範囲R1と第2層のベース部28Aが設けられている範囲R3とが異なっている。さらに、第1層のオフセット部27Cが設けられている範囲R2と第2層のオフセット部28Cが設けられている範囲R4とが異なっている。
【0057】
磁場補正領域51C,52Cは、少なくともコイル端部29,30で発生する強い誤差磁場を打ち消す磁場を発生させる。このようにすれば、コイル端部29,30の幅(X方向の長さ)を縮小した場合に、コイル端部29,30で発生する誤差磁場を打ち消すことができる。このように、コイル端部29,30を短くして、誤差磁場の小さな超電導コイル23,24を得ることができる。
【0058】
なお、磁場補正領域51C,52Cで生じさせる磁場は、誤差磁場を打ち消すだけでなく、超電導コイル23,24に要求される磁場分布から所定の磁場としても良い。例えば、磁場補正領域51C,52Cで生じさせる磁場で、主磁場発生領域51A,52Aで発生する主磁場を補強しても良いし、ビーム光学上、最適な高次多極成分を重畳するようにしても良い。また、重畳する高次多極成分は、コイル端部に限らない任意の場所でも良く、コイル上流側、下流側で異なる高次多極成分を加えても良い。
【0059】
また、図4および図8に示すように、管状構造部21,22の側面視で、それぞれのコイル長手部27,28のテーパ部27B,28Bが、ベース部27A,28Aおよびオフセット部27C,28Cに対して傾いている。このようにすれば、主磁場発生領域51A,52Aから磁場補正領域51C,52Cまで滑らかに連続する磁場を形成することができる。
【0060】
図11および図12に示すように、第1層の超電導コイル23の遷移領域51Bの軸方向(X方向)の寸法と、第2層の超電導コイル24の遷移領域52Bの軸方向の寸法が互いに異なっている。例えば、第1層の遷移領域51Bの軸方向の寸法よりも、第2層の遷移領域52Bの軸方向の寸法が大きくなっている。このようにすれば、第1層の超電導コイル23と第2層の超電導コイル24とで適切な磁場を形成することができる。なお、第1層の磁場補正領域51Cの軸方向(X方向)の寸法と、第2層の磁場補正領域52Cの軸方向の寸法も互いに異なっている。
【0061】
本実施形態の超電導コイル装置20は、超電導コイル23,24の端部の近傍で、所望の磁場分布から乱れた誤差磁場(不要な磁場成分)が発生してしまうことを抑制することができる。例えば、第1層の超電導コイル23の端部の誤差磁場を、第2層の超電導コイル24の端部が発生させる磁場で打ち消すことができる。
【0062】
本実施形態では、コイル端部29,30で、それぞれのターン25,26(超電導線材)を密に配置することができる。そのため、コイル端部29,30の幅(X方向の長さ)を縮小させることができる。
【0063】
また、複数の超電導コイル23,24が管状構造部21,22の径方向に積層されていることで、管状構造部21,22の断面視で、周方向に多くのターン25,26(超電導線材)を配置することができる。そのため、より強い磁場を発生させることができる。なお、管状構造部21,22の径方向に積層されるに連れて、外周長が拡大されるため、内層(第1層)よりも外層(第2層)の方が、より多くのターン26を配置させることができる。少ない層数で多くのターン25,26を配置することで、強い磁場を発生せることができる。
【0064】
なお、それぞれの層で、ターン25,26(超電導線材)の数が変わると、コイル端部29,30の幅(X方向の長さ)が変わり、コイル端部29,30で生じる誤差磁場も異なってくる。そこで、それぞれの層における磁場補正領域51C,52Cのターン25,26の配置形態、遷移領域51B,52Bの位置および長さを変えることで、それぞれの層に適した磁場補正が可能となる。そのため、コイル端部29,30を短くして、誤差磁場の小さな超電導コイル23,24を得ることができる。なお、磁場補正領域51C,52Cの位置および長さを変えることでも、それぞれの層に適した磁場補正が可能となる。
【0065】
次に、変形例の超電導コイル装置40について図13を用いて説明する。図13の分解斜視図では、理解を助けるために、管状構造部の図示を省略し、超電導コイル23,24の配置形態のみを図示している。
【0066】
変形例の超電導コイル装置40は、第1層に設けられ、四極磁場を発生させる2つの超電導四極コイル41と、第2層に設けられ、二極磁場を発生させる1つの超電導二極コイル42とを備える。
【0067】
1つの超電導四極コイル41は、4つの超電導コイル23により形成されている。そして、2つの超電導四極コイル41が軸方向(X方向)に並んで配置されている。
【0068】
また、1つの超電導二極コイル42は、2つの超電導コイル24により形成されている。そして、この超電導二極コイル42と超電導四極コイル41とが互いに同軸に配置されている。
【0069】
変形例の超電導コイル装置40は、超電導二極コイル42で生じる二極磁場と、超電導四極コイル41で生じる四極磁場とで粒子線ビームBを適切に制御することができる。
【0070】
なお、前述の実施形態では、管状構造部21,22が断面視で楕円形状を成しているが、その他の態様であっても良い。例えば、管状構造部21,22が断面視で真円形状を成しても良いし、長円形状を成しても良い。
【0071】
なお、前述の実施形態では、管状構造部21,22は、曲がる方向に対して直径が大きくなる楕円形状を成しているが、その他の態様であっても良い。例えば、管状構造部21,22は、曲がる方向に対して直径が小さくなる楕円形状を成しても良い。
【0072】
なお、前述の実施形態では、第1層の超電導コイル23の境界線L1と第2層の超電導コイル24の境界線L2とが基準線Kに対して互いに同じ向きに傾いているが、その他の態様であっても良い。例えば、第1層の超電導コイル24の境界線L1と第2層の超電導コイル24の境界線L2とが基準線Kに対して互いに逆向きに傾いても良い。このようにすれば、第1層の超電導コイル23の端部で生じる磁場と第2層の超電導コイル24の端部で生じる磁場とが互いに異なる形態となる。
【0073】
以上説明した実施形態によれば、コイル長手部の配置形態が、主磁場を発生させる主磁場発生領域と補正用の磁場を発生させる磁場補正領域とで互いに異なっていることにより、超電導コイル装置の小型化を図ることができる。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0075】
1…粒子線治療装置、2…ビーム発生装置、3…ビーム加速装置、4…ビーム輸送装置、5…ビーム照射装置、6…真空ダクト、7…線形加速器、8…円形加速器、9…入射装置、10…出射装置、11…偏向装置、12…集束・発散装置、13…六極装置、14…加速力印加装置、20…超電導コイル装置、21…第1層の管状構造部、22…第2層の管状構造部、23…第1層の超電導コイル、24…第2層の超電導コイル、25…第1層のターン、26…第2層のターン、27…第1層のコイル長手部、27A…ベース部、27B…テーパ部、27C…オフセット部、28…第2層のコイル長手部、28A…ベース部、28B…テーパ部、28C…オフセット部、29…第1層のコイル端部、30…第2層のコイル端部、40…超電導コイル装置、41…超電導四極コイル、42…超電導二極コイル、51A…主磁場発生領域、51B…遷移領域、51C…磁場補正領域、52A…主磁場発生領域、52B…遷移領域、52C…磁場補正領域、80…超電導コイル、81…管状構造部、82…導体部、83…コイル長手部、84…コイル端部、85…スペーサ、B…粒子線ビーム、C…軸心、K…基準線、L1,L2…境界線、P…通過領域、R1,R2,R3,R4…範囲、T…患部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14