IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-検出方法 図1
  • 特許-検出方法 図2
  • 特許-検出方法 図3
  • 特許-検出方法 図4
  • 特許-検出方法 図5
  • 特許-検出方法 図6
  • 特許-検出方法 図7
  • 特許-検出方法 図8
  • 特許-検出方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240920BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N33/543 541Z
G01N33/543 575
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021527501
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2020020654
(87)【国際公開番号】W WO2020255641
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019114499
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】有本 聡
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0190732(US,A1)
【文献】特開2015-109826(JP,A)
【文献】特表2000-508574(JP,A)
【文献】特開2011-196859(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128209(WO,A1)
【文献】特表2004-503758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00
G01N 33/48-33/98
G01N 21/62-21/83
C12Q 1/00-1/70
C12M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質と、前記標的物質に特異的に結合する性質を有する物質で修飾された誘電体粒子とを結合させて複合体を形成し、
前記複合体を形成している誘電体粒子である結合粒子と前記複合体を形成していない誘電体粒子である未結合粒子とに液体中で誘電泳動を作用させ、
前記結合粒子及び前記未結合粒子の前記誘電泳動による動きの違いに基づいて、前記複合体に含まれる標的物質を検出する、
検出方法であって、
前記液体中に回転電場を生成することにより、前記結合粒子及び前記未結合粒子に前記誘電泳動を作用させ、
前記結合粒子は、前記誘電泳動により円軌道を描いて移動し、
前記未結合粒子は、前記誘電泳動により前記未結合粒子の中心位置を通る軸回りに回転する、
検出方法。
【請求項2】
前記誘電体粒子は、蛍光物質を含み、
前記標的物質の検出では、前記液体内に励起光を照射して、前記結合粒子及び前記未結合粒子の各々に含まれる蛍光物質が発する蛍光を検出する、
請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記標的物質の検出では、
前記液体内を経時的に撮影し、
撮影で得られた動画像を処理することにより前記液体内の前記結合粒子の動きと前記未結合粒子の動きとを判別する、
請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記動きの違いを、撮像素子を用いて得られる動画像に基づいて判別する、
請求項1に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウイルス等の標的物質を検出するための検出方法及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、近接場を用いて、微小な標的物質を高感度に検出する光学的検出方法等が提供されている。例えば、特許文献1では、標的物質と磁性粒子及び蛍光粒子との結合によって形成された結合体を近接場が形成された検出板の表面から遠ざける方向に移動させる第1の磁場の印加によって生じる光信号の低減等を計測することで標的物質が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/187744号
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、標的物質を介さずに磁性粒子と蛍光粒子とが結合する非特異吸着によって形成された結合体も蛍光を発しながら移動するため、標的物質を含む結合体と区別することが難しい。その結果、標的物質を含まない結合体によって標的物質が誤って検出される偽陽性が生じて検出精度が低下する。
【0005】
そこで、本開示は、非特異吸着による偽陽性を低減し、標的物質の検出精度を向上させることができる標的物質の検出する技術を提供する。
【0006】
本開示の一態様に係る検出方法は、標的物質と、前記標的物質に特異的に結合する性質を有する物質で修飾された誘電体粒子とを結合させて複合体を形成し、前記複合体を形成している誘電体粒子である結合粒子と前記複合体を形成していない誘電体粒子である未結合粒子とに液体中で誘電泳動を作用させ、前記結合粒子及び前記未結合粒子の前記誘電泳動による動きの違いに基づいて、前記複合体に含まれる標的物質を検出する、検出方法であって、前記液体中に回転電場を生成することにより、前記結合粒子及び前記未結合粒子に前記誘電泳動を作用させ、前記結合粒子は、前記誘電泳動により円軌道を描いて移動し、前記未結合粒子は、前記誘電泳動により前記未結合粒子の中心位置を通る軸回りに回転する
【0007】
なお、この包括的又は具体的な態様は、システム、装置、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能な記録媒体で実現されてもよく、装置、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、例えばCD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)等の不揮発性の記録媒体を含む。
【0008】
本開示によれば、非特異吸着による偽陽性を低減し、標的物質の検出精度を向上させることができる。本開示の一態様における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に係る検出装置の構成図
図2図2は、実施の形態における第1基板上の第1電極セットの構成図
図3図3は、実施の形態における第2基板上の第2電極セットの構成図
図4図4は、実施の形態において第1基板及び第2基板を平面視したときの第1電極セット及び第2電極セットの投影図
図5図5は、実施の形態に係る検出方法を示すフローチャート
図6図6は、実施の形態における複合体の形成プロセスを示す図
図7図7は、実施の形態における回転電場を示す図
図8図8は、実施の形態における複合体の動きを示す図
図9図9は、実施の形態における未結合粒子の動きを示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0011】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する場合がある。
【0012】
また、以下において、平行及び垂直などの要素間の関係性を示す用語、及び、矩形状などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味を表すのではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する。
【0013】
また、以下において、標的物質を検出するとは、標的物質を見つけ出して標的物質の存在を確認することに加えて、標的物質の量(例えば数又は濃度等)又はその範囲を測定することを含む。
【0014】
(実施の形態)
本実施の形態では、誘電泳動(DEP:Dielectrophoresis)を引き起こす電場が生成された液体内における結合粒子と未結合粒子との動きの差異に基づいて、複合体に含まれる標的物質が検出される。
【0015】
誘電泳動とは、不均一な電場にさらされた誘電体粒子に力が働く現象である。この力は、粒子の帯電を要求しない。
【0016】
標的物質とは、検出の対象となる物質であり、例えば病原性タンパク質等の分子、ウイルス(外殻タンパク質等)、又は、細菌(多糖等)などである。標的物質は、被検物あるいは検出対象物と呼ばれる場合もある。
【0017】
以下に、誘電泳動を用いた標的物質の検出を実現する検出装置及び検出方法の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0018】
[検出装置100の構成]
まず、検出装置100の構成について図1を参照しながら説明する。図1は、実施の形態に係る検出装置100の構成図である。図1に示すように、検出装置100は、誘電泳動器110と、電源120と、光源130と、検出器140と、を備える。
【0019】
誘電泳動器110は、複合体を形成している誘電体粒子である結合粒子と複合体を形成していない誘電体粒子である未結合粒子とに液体中で誘電泳動を作用させる。ここでは、誘電泳動器110は、誘電泳動により結合粒子と未結合粒子とで異なる動きを生じさせる。なお、図1には、誘電泳動器110の断面が表されている。
【0020】
複合体とは、標的物質と、標的物質に特異的に結合する性質を有する物質で修飾された誘電体粒子との結合体である。つまり、複合体では、標的物質に特異的に結合する性質を有する物質を介して、標的物質と誘電体粒子とが結合されている。
【0021】
誘電体粒子とは、印加された電場によって分極することができる粒子である。本実施の形態では、誘電体粒子は、蛍光物質を含む。なお、誘電体粒子は、蛍光物質を含む粒子であっても、蛍光物質を含まない粒子であってもよい。例えば、誘電体粒子としては、ポリスチレンなどの樹脂粒子、ガラス粒子等が用いられる。誘電体粒子の粒径は、例えば、100~1000ナノメートル程度である。
【0022】
標的物質と特異的に結合する性質を有する物質(以下、特異的結合物質と呼ぶ)とは、標的物質と特異的に結合可能な物質である。標的物質に対する特異的結合物質の組み合わせの例としては、抗原に対する抗体、基質又は補酵素に対する酵素、ホルモンに対するレセプタ、抗体に対するプロテインA又はプロテインG、ビオチンに対するアビジン類、カルシウムに対するカルモジュリン、糖に対するレクチン等が挙げられる。
【0023】
結合粒子とは、複合体を形成している誘電体粒子であり、特異的結合物質を介して標的物質に結合している誘電体粒子である。結合粒子又は複合体は、バインド成分とも呼ばれる。
【0024】
未結合粒子とは、複合体を形成していない誘電体粒子であり、標的物質に結合していない誘電体粒子である。未結合粒子は、フリー成分又は遊離成分とも呼ばれる。
【0025】
ここで、誘電泳動器110の内部構成について説明する。図1に示すように、誘電泳動器110は、第1基板111と、スペーサ112と、第2基板113と、を備える。
【0026】
第1基板111は、電源120から交流電圧が印加される第1電極セット1111を有する。第1基板111としては、例えばITO(Indium tin oxide)ガラス基板を用いることができる。なお、第1電極セット1111の詳細については、図2を用いて後述する。
【0027】
スペーサ112は、貫通孔が形成されたシート状の部材であり、第1基板111と第2基板113との間に配置される。スペーサ112としては、例えばポリエステルフィルムを用いることができる。スペーサ112の厚みは、例えば約10マイクロメートルである。スペーサ112の貫通孔によって第1基板111及び第2基板113の間に流路1121が形成される。流路1121には、複合体と未結合粒子とを含み得るサンプル液10が導入される。
【0028】
第2基板113は、電源120から交流電圧が印加される第2電極セット1131を有する。第2基板113としては、例えばITOガラス基板を用いることができる。なお、第2電極セット1131の詳細については、図3を用いて後述する。
【0029】
また、第2基板113には、流路1121に繋がる供給孔1134及び排出孔1135が形成されている。サンプル液10は、供給孔1134を介して流路1121に供給され、排出孔1135を介して流路1121から排出される。
【0030】
電源120は、交流電源であり、第1基板111の第1電極セット1111及び第2基板113の第2電極セット1131に交流電圧を印加する。電源120は、交流電圧を供給できればどのような電源であってもよく、特定の電源に限定されない。また、交流電圧は外部電源から供給されてもよく、この場合、電源120は、検出装置100に含まれなくてもよい。
【0031】
光源130は、流路1121内のサンプル液10に励起光131を照射する。励起光131は、サンプル液10中の誘電体粒子に照射される。本実施の形態では、誘電体粒子に蛍光物質が含まれるので、励起光131によって蛍光物質が励起され、蛍光物質から蛍光132が発せられる。
【0032】
光源130には、公知の技術を特に限定することなく利用することができる。例えば半導体レーザ、ガスレーザ等のレーザを光源130として用いることができる。光源130から照射される励起光131の波長としては、ウイルスに含まれる物質と相互作用が小さい波長(例えば400ナノメートル~2000ナノメートル)が用いられてもよい。さらには、励起光131の波長としては、半導体レーザが利用できる波長(例えば600ナノメートル~850ナノメートル)が用いられてもよい。
【0033】
なお、光源130は、検出装置100に含まれなくてもよい。例えば、2次元画像において誘電体粒子が認識可能なほど大きい場合には、誘電体粒子に蛍光物質が含まれなくてもよく、この場合、誘電体粒子に励起光が照射されなくてもよい。
【0034】
検出器140は、結合粒子及び未結合粒子の誘電泳動による動きの違いに基づいて、複合体に含まれる標的物質を検出する。具体的には、検出器140は、撮像素子(イメージセンサ)141と、画像処理回路142と、を備える。
【0035】
撮像素子(イメージセンサ)141は、例えばCCD(Charge-coupled device)イメージセンサ及びCMOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)イメージセンサ等である。イメージセンサ141は、サンプル液10内を経時的に撮影する。具体的には、イメージセンサ141は、誘電泳動器110によって誘電泳動が結合粒子及び未結合粒子に作用しているときに、サンプル液10内の結合粒子及び未結合粒子の動画像を撮影する。ここでは、イメージセンサ141は、誘電体粒子に含まれる蛍光物質から発せられた蛍光を撮影する。
【0036】
画像処理回路142は、イメージセンサ141から得られる動画像を処理することにより結合粒子の動きと未結合粒子の動きとを判別する。そして、画像処理回路142は、判別された結合粒子の動きに基づいて、複合体に含まれる標的物質を検出する。
【0037】
なお、画像処理回路142は、専用の電子回路によって実現されてもよいし、プロセッサ及びインストラクションが格納されたメモリによって実現されてもよい。インストラクションが実行されたときに、プロセッサは、動画像から標的物質を検出する。
【0038】
なお、検出装置100は、光源130と誘電泳動器110との間、及び/又は、誘電泳動器110とイメージセンサ141との間に、光学レンズ及び/又は光学フィルタを備えてもよい。例えば、光源130からの励起光131を遮断し、かつ、蛍光物質が発した蛍光132を通過させることができるロングパスフィルタが、誘電泳動器110とイメージセンサ141との間に設置されてもよい。
【0039】
[第1基板111上の第1電極セット1111の形状及び配置]
次に、第1基板111上の第1電極セット1111の形状及び配置について、図2を参照しながら説明する。図2は、実施の形態における第1基板111上の第1電極セット1111の構成図である。具体的には、図2は、図1の第1基板111の拡大平面図である。
【0040】
図2に示すように、第1電極セット1111は、第1基板111に形成されたくし形電極(Interdigitated array electrodes)であり、第1電極1112と第2電極1113とを有する。第1電極1112及び第2電極1113の各々は、電源120と電気的に接続されている。
【0041】
第1電極1112は、第1方向(図2では右向き)に延びる3つの第1指部1112aを有する。第1指部1112aの各々の幅は、例えば、約10マイクロメートルである。また、隣り合う第1指部1112aの間のギャップは、例えば、約20マイクロメートルである。
【0042】
第2電極1113の形状及びサイズは、第1電極1112の形状及びサイズと実質的に同一である。第2電極1113は、第1方向と逆向きの第2方向(図2では左向き)に延びる3つの第2指部1113aを有する。隣り合う第2指部1113aの間には、第1電極1112の第1指部1112aが延びている。
【0043】
このような第1電極1112及び第2電極1113に第1交流電圧121及び第2交流電圧122がそれぞれ印加される。第1交流電圧121と第2交流電圧122との位相差としては、例えば180度を用いることができる。
【0044】
[第2基板113上の第2電極セット1131の形状及び配置]
次に、第2基板113上の第2電極セット1131の形状及び配置について、図3を参照しながら説明する。図3は、実施の形態における第2基板113上の第2電極セット1131の構成図である。
【0045】
図3に示すように、第2電極セット1131は、第2基板113に形成されたくし形電極であり、第3電極1132と第4電極1133とを有する。第3電極1132及び第4電極1133の各々は、電源120と電気的に接続されている。
【0046】
第3電極1132の形状及びサイズは、第1電極1112の形状及びサイズと実質的に同一である。第3電極1132は、第1方向又は第2方向に垂直な第3方向(図2では上向き)に延びる3つの第3指部1132aを有する。
【0047】
第4電極1133の形状及びサイズは、第1電極1112の形状及びサイズと実質的に同一である。第4電極1133は、第3方向と逆向きの第4方向(図2では下向き)に延びる3つの第4指部1133aを有する。隣り合う第4指部1133aの間には、第3電極1132の3つの第3指部1132aのうちの1つが延びている。
【0048】
このような第3電極1132及び第4電極1133に第3交流電圧123及び第4交流電圧124がそれぞれ印加される。第3交流電圧123と第4交流電圧124との位相差としては、例えば180度を用いることができる。また、第1交流電圧121と第3交流電圧123との位相差、第3交流電圧123と第2交流電圧122との位相差、第2交流電圧122と第4交流電圧124との位相差、及び第4交流電圧124と第1交流電圧121との位相差としては、例えば90度を用いることができる。第1交流電圧121の位相を0度で表せば、第3交流電圧123の位相は90度で表され、第2交流電圧122の位相は180度で表され、第4交流電圧124の位相は270度で表される。印加される第1~第4交流電圧の周波数は、例えば、100~2000kHz程度である。
【0049】
[第1電極セット1111と第2電極セット1131との位置関係]
次に、第1電極セット1111と第2電極セット1131との位置関係について説明する。図4は、実施の形態において第1基板111及び第2基板113を平面視したときの第1電極セット1111及び第2電極セット1131の投影図である。
【0050】
第1基板111及び第2基板113は、スペーサ112を挟んで対向して配置されており、第1電極セット1111と第2電極セット1131とは平面視においてその一部が重なる。具体的には、図4に示すように、第1指部1112a及び第2指部1113aと、第3指部1132a及び第4指部1133aとは、平面視において複数の位置で直交する。その結果、流路1121には、平面視において第1指部1112a、第2指部1113a、第3指部1132a及び第4指部1133aによって囲まれた複数の電場領域1122が形成される。図4では、複数の電場領域1122の各々の形状は矩形状であるが、これに限定さない。また、第1指部1112a、第2指部1113a、第3指部1132a、第4指部1133aについては、それぞれ3つの場合で説明したが、これに限定されるものではなく、それぞれ2つ以上であればよい。
【0051】
[検出装置100を用いた検出方法]
以上のように構成された検出装置100を用いた標的物質の検出方法について、図5図9を参照しながら説明する。図5は、実施の形態に係る検出方法を示すフローチャートである。
【0052】
まず、標的物質と、標的物質に特異的に結合する物質で修飾された誘電体粒子とを結合させて複合体が形成される(S110)。ここで、複合体の形成プロセスについて、図6を参照しながら説明する。図6は、実施の形態における複合体13の形成プロセスを示す図である。
【0053】
図6では、まず、(a)に示すように、標的物質11を含むサンプル液10に、抗体修飾誘電体粒子12が混入される。抗体修飾誘電体粒子12は、蛍光物質を含む誘電体粒子12aが抗体12bで修飾されたものである。
【0054】
抗体12bは、標的物質11に特異的に結合する性質を有する物質の一例である。ここでは、抗体12bとして、VHH抗体が採用されているが、これに限定されない。標的物質11、誘電体粒子12a及び抗体12bのサイズは、それぞれ、約100ナノメートル、約300ナノメートル及び約5ナノメートルである。
【0055】
(a)のサンプル液10が所定温度下で所定時間静置された後には、(b)に示すように、抗原抗体反応により標的物質11と抗体修飾誘電体粒子12(以下、結合粒子15という)とが結合して複合体13が形成される。このとき、複合体13のサイズは、約700ナノメートルとなる。標的物質11と結合しなかった抗体修飾誘電体粒子12は、単独又は凝集した状態で未結合粒子14として残存する。
【0056】
なお、(b)に示す複合体13の構成は一例であり、これに限定されない。例えば、結合粒子15の数は、3つ以上であってもよい。また例えば、複合体13に含まれる標的物質11の数は、2つ以上であってもよい。
【0057】
ここで、図5のフローチャートの説明に戻る。次に、誘電泳動器110は、結合粒子15と未結合粒子14とに液体中で誘電泳動を作用させる(S120)。具体的には、第1電極セット1111及び第2電極セット1131に交流電圧が印加される。より具体的には、第1電極1112、第2電極1113、第3電極1132及び第4電極1133に第1交流電圧121、第2交流電圧122、第3交流電圧123及び第4交流電圧124がそれぞれ印加される。このとき、第1交流電圧121、第2交流電圧122、第3交流電圧123及び第4交流電圧124に位相差を設定することで、サンプル液10内に回転電場が生成される。
【0058】
ここで、回転電場及び誘電泳動について、図7図9を参照しながら説明する。図7は、実施の形態における回転電場1123を示す図である。図8は、実施の形態における複合体13の動きを示す図である。図9は、実施の形態における未結合粒子14の動きを示す図である。
【0059】
図7に示すように、第1指部1112a、第2指部1113a、第3指部1132a及び第4指部1133aで囲まれた複数の電場領域1122の各々には、平面視において時計回り又は反時計回りの回転電場1123が生成される。この回転電場1123によって電場領域1122内の結合粒子15及び未結合粒子14に誘電泳動が作用して、複合体13及び未結合粒子14が電場領域1122内で移動及び回転する。このとき、凝集状態の未結合粒子14は、誘電泳動によって複数の単独状態の未結合粒子14に分解される。
【0060】
標的物質11に2つの抗体修飾誘電体粒子12が結合して複合体13が形成された場合には、電場領域1122内の複合体13は、図8に示すように、電場領域1122の中心に移動し、当該中心を通る軸回りに回転する。このとき、複合体13を形成している2つの抗体修飾誘電体粒子12(つまり、2つの結合粒子15)の間の中間位置13cが電場領域1122の中心近傍に位置するので、結合粒子15は、それぞれ円軌道を描いて移動する。つまり、結合粒子15の各々は、当該結合粒子15から離れた軸回りに公転する。
【0061】
標的物質11に1つの抗体修飾誘電体粒子12が結合して複合体13が形成された場合には、複合体13を形成している1つの抗体修飾誘電体粒子12(つまり、1つの結合粒子15)の中心位置から標的物質11の中心位置の方へ変位した点が電場領域1122の中心近傍に位置し、1つの結合粒子15は、当該点を通る軸回りに回転する。この1つの結合粒子の場合と、後述する未結合粒子の場合とは、回転軸の位置の違いに基づく回転挙動の違いにより、区別することが可能である。
【0062】
電場領域1122内の未結合粒子14は、図9に示すように、電場領域1122の中心に移動し、当該中心を通る軸回りに回転する。このとき、未結合粒子14の中心位置14cが電場領域1122の中心近傍に位置するので未結合粒子14は自転する。つまり、未結合粒子14は、未結合粒子14の中心位置を通る軸回りに回転する。未結合粒子14が自転していることを確認するために、予め、誘電体粒子の表面の一部に蛍光物質が偏在するように構成したり、誘電体粒子表面の一部にマーカーとなる部分を設けておくことができる。
【0063】
ここで、図5のフローチャートの説明に戻る。最後に、検出器140は、結合粒子15及び未結合粒子14の誘電泳動による動きの違いに基づいて、複合体13に含まれる標的物質11を検出する(S130)。具体的には、イメージセンサ141は、サンプル液10内を経時的に撮影する。そして、画像処理回路142は、撮影で得られた動画像を処理することにより、サンプル液10内の結合粒子15の動きと未結合粒子14の動きとを判別する。
【0064】
より具体的には、画像処理回路142は、例えば動画像において、光点の円軌道の半径が閾値以上である場合に、当該光点に対応する抗体修飾誘電体粒子12を結合粒子15と判別する。一方、光点の円軌道の半径が閾値未満である場合、又は、光点が円軌道を描いていない場合に、画像処理回路142は、当該光点に対応する抗体修飾誘電体粒子12を未結合粒子14と判別する。
【0065】
[効果等]
以上のように、本実施の形態に係る検出装置100及び検出方法は、1つの標的物質11と、抗体12bで修飾された誘電体粒子12aとを結合させて複合体13を形成し、複合体13を形成している抗体修飾誘電体粒子12である結合粒子15と、複合体13を形成していない抗体修飾誘電体粒子12である未結合粒子14とにサンプル液10中で誘電泳動を作用させ、結合粒子15及び未結合粒子14の誘電泳動による動きの違いに基づいて、複合体13に含まれる標的物質11を検出する。
【0066】
これによれば、非特異吸着によって凝集した未結合粒子14を誘電泳動でバラバラに分解することができ、非特異吸着による偽陽性を低減することができる。また、誘電泳動では、磁力よりも速く複合体を動かすことができ、磁力を利用した標的物質11の検出よりも標的物質11の検出時間を短縮することができる。
【0067】
また、本実施の形態に係る検出装置100及び検出方法において、サンプル液10中に回転電場1123を生成することにより、結合粒子15及び未結合粒子14に誘電泳動を作用させる。
【0068】
これによれば、サンプル液10内に回転電場を生成することで、結合粒子15と未結合粒子14とで動きに違いを生むことができる。
【0069】
また、本実施の形態に係る検出装置100及び検出方法において、結合粒子15は、誘電泳動により円軌道を描いて移動し、未結合粒子14は、誘電泳動により未結合粒子14の中心を通る軸回りに回転する。
【0070】
これによれば、結合粒子15の円軌道を判別することで、複合体13に含まれる標的物質11を検出することができ、標的物質の検出精度を向上させることができる。
【0071】
また、本実施の形態に係る検出装置100及び検出方法において、誘電体粒子12aは、蛍光物質を含み、標的物質11の検出では、サンプル液10内に励起光131を照射して、結合粒子15及び未結合粒子14の各々に含まれる蛍光物質が発する蛍光を検出する。
【0072】
これによれば、誘電体粒子12aが小さい場合でも、蛍光132を検出することで結合粒子15及び未結合粒子14の動きを容易に判別することができ、標的物質の検出精度を向上させることができる。
【0073】
また、本実施の形態に係る検出装置100及び検出方法において、標的物質11の検出では、サンプル液10内を経時的に撮影し、撮影で得られた動画像を処理することによりサンプル液10内の結合粒子15の動きと未結合粒子14の動きとを判別する。
【0074】
これによれば、動画像において結合粒子15の動きと未結合粒子14の動きとを容易に判別することができ、標的物質の検出精度を向上させることができる。
【0075】
また、本実施の形態に係る検出装置100及び検出方法において、結合粒子15及び未結合粒子14の動きの違いを、撮像素子を用いて得られる動画像に基づいて判別する。
【0076】
(変形例)
以上、本開示の1つまたは複数の態様に係る検出装置及び検出方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものも、本開示の1つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0077】
例えば、上記実施の形態では、結合粒子15及び未結合粒子14に誘電泳動を作用させるために回転電場1123が用いられていたが、回転電場1123に限定されない。結合粒子15の動きと未結合粒子14の動きとに違いを生み出すことができる誘電泳動を作用できれば、どのような電場が用いられてもよい。
【0078】
また、上記実施の形態では、回転電場1123を生成するためにくし形電極が用いられていたが、回転電場1123のための電極は、これに限定されない。例えば、各電極の指部の数及び各電極の配置等は、図2図4の構成に限定されない。
【0079】
また、上記実施の形態では、第1基板111に第1電極セット1111が形成され、第2基板113に第2電極セット1131が形成されていたが、これに限定されない。例えば、第1基板111及び第2基板113の一方に、第1電極セット1111及び第2電極セット1131の両方が形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
インフルエンザウイルス等を検出する検出装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
10 サンプル液
11 標的物質
12 抗体修飾誘電体粒子
12a 誘電体粒子
12b 抗体
13 複合体
14 未結合粒子
100 検出装置
110 誘電泳動器
111 第1基板
112 スペーサ
113 第2基板
120 電源
121 第1交流電圧
122 第2交流電圧
123 第3交流電圧
124 第4交流電圧
130 光源
131 励起光
132 蛍光
140 検出器
141 イメージセンサ
142 画像処理回路
1111 第1電極セット
1112 第1電極
1112a 第1指部
1113 第2電極
1113a 第2指部
1121 流路
1122 電場領域
1123 回転電場
1131 第2電極セット
1132 第3電極
1132a 第3指部
1133 第4電極
1133a 第4指部
1134 供給孔
1135 排出孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9