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特許7557795キャパシタ用電極およびその製造方法ならびにキャパシタ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】キャパシタ用電極およびその製造方法ならびにキャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/36 20130101AFI20240920BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240920BHJP
【FI】
H01G11/36
H01G11/86
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022552107
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035426
(87)【国際公開番号】W WO2022065493
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020162312
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020162633
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】信森 千穂
(72)【発明者】
【氏名】江崎 賢一
(72)【発明者】
【氏名】石本 仁
【審査官】多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109516451(CN,A)
【文献】特表2018-523623(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105819885(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108483428(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107500280(CN,A)
【文献】特表2016-535456(JP,A)
【文献】特表2019-530957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/36
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と、
前記導電性基材と電気的に接続され、酸素含有率が2.6質量%未満であり、かつ三次元構造を有するフレーク状のカーボンと、
を含み、
前記三次元構造が、縮れ構造もしくは折りたたみ構造を有し、
水銀ポロシメータで測定されるLog微分細孔容積分布が、0.3μm以上、6μm以下の範囲に最大ピークを有し、
0.25μm以上、1.5μm以下の範囲の微分細孔容積の積算値は2cm/g・logμmを超えている、キャパシタ用電極。
【請求項2】
前記カーボンにおけるグラフェンシートの平均積層数が、10層以下である、請求項1に記載のキャパシタ用電極。
【請求項3】
前記グラフェンシート同士の層間距離がランダムに変化している、請求項2に記載のキャパシタ用電極。
【請求項4】
前記カーボンのX線回折プロファイルは、002面に帰属される回折ピークP1を有し、かつ前記回折ピークP1よりも高角側にアモルファス相に帰属されるハローパターンを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のキャパシタ用電極。
【請求項5】
前記X線回折プロファイルから算出される前記カーボンの002面の面間距離が、0.338nm以上である、請求項4に記載のキャパシタ用電極。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のキャパシタ用電極を備えるキャパシタ。
【請求項7】
酸化グラフェンを含む水分散液を調製する工程と、
前記水分散液中の前記酸化グラフェンから第1カーボンを生成させる工程と、
前記第1カーボンから第2カーボンを生成させる工程と、
前記第2カーボンを導電性基材と接続させてキャパシタ用電極を得る工程と、
を含み、
前記第2カーボンを生成させる工程が、前記第1カーボンを、非酸化性雰囲気中で、1000℃以上の温度で加熱することを含み、
前記第1カーボンが、酸素含有率が5質量%以上であり、かつ三次元構造を有するフレーク状のカーボンであり、
前記第2カーボンが、酸素含有率が2.6質量%未満であり、かつ三次元構造を有するフレーク状のカーボンであり、前記三次元構造が、縮れ構造もしくは折りたたみ構造を有し、水銀ポロシメータで測定されるLog微分細孔容積分布が、0.3μm以上、6μm以下の範囲に最大ピークを有し、0.25μm以上、1.5μm以下の範囲の微分細孔容積の積算値は2cm/g・logμmを超えている、キャパシタ用電極の製造方法。
【請求項8】
前記第1カーボンを生成させる工程が、前記水分散液を150℃以上の温度で加熱する水熱処理によりゲル状生成物を得ることを含む、請求項7に記載のキャパシタ用電極の製造方法。
【請求項9】
前記第1カーボンを生成させる工程が、更に、前記ゲル状生成物を還元剤と接触させることを含む、請求項8に記載のキャパシタ用電極の製造方法。
【請求項10】
更に、前記ゲル状生成物を凍結乾燥させる工程を含む、請求項8または9に記載のキャパシタ用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタ用電極およびその製造方法ならびにキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、理論的な比表面積が約2600m/gであり、かつ導電性を有するため、キャパシタ用電極材料として有望である。
【0003】
特許文献1は、グラフェンを含む電極を有し、前記グラフェンは、炭素原子の組成は、X線光電子分光法による測定で90原子%以上98原子%未満であり、酸素原子の組成は、X線光電子分光法による測定で2原子%以上10原子%未満であり、前記炭素原子の有する結合のうち、炭素原子間でsp2結合を形成している結合の割合は、X線光電子分光法による測定で50%以上80%以下であり、抵抗率が、2.0×10-2Ω・cm以下であることを特徴とする電極を提案している。
【0004】
特許文献2は、金属箔からなる第1の集電体と、フエノール樹脂よりなる活性炭を主に含有し、0.6μm以下の表面粗さと0.5g/cm3~0.7g/cm3の電極密度とを有して、前記第1の集電体上に設けられた第1の分極性電極層と、金属箔からなる第2の集電体と、フエノール樹脂よりなる活性炭を主に含有し、0.6μm以下の表面粗さと0.5g/cm3~0.7g/cm3の電極密度とを有して、前記第2の集電体上に設けられ、前記第1の分極性電極層に対向する第2の分極性電極層と、前記第1の分極性電極層と前記第2の分極性電極層との間に設けられた絶縁性のセパレータと、前記第1の分極性電極層と前記第2の分極性電極層とに含浸された駆動用電解液とを備えた電気二重層キャパシタを提案している。
【0005】
特許文献3は、導電性を有する基材と、前記基材と電気的に接続され、イオンの吸脱着が可能な第1炭素材で構成された複数の炭素粒子を含むとともに、内部に空隙が設けられた電極部と、を備え、前記空隙は、直径が0.2μm以上、1.0μm以下である第1空隙と、直径が0.05μm以上、0.2μm未満である第2空隙とを含み、前記電極部の単位重量あたりの前記第1空隙の容積の総和、前記第2空隙の容積の総和、前記電極部の体積をそれぞれVA、VB、Mと定義すると、(VA×VA)/(VB×M)の値が0.022より大きい、キャパシタ用電極を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-134706号公報
【文献】国際公開第2007/023664号パンフレット
【文献】国際公開第2014/073190号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法に沿って作製した電極をキャパシタに利用しても、初期容量は大きいものの、時間あたりの容量劣化が大きく、初期容量と信頼性との間にはトレードオフの関係性が認められる。
【0008】
また、特許文献2、3のキャパシタは、電極に活性炭を使用している。活性炭は表面官能基の量が多く、高電圧が印加された状態で長期間に亘って信頼性を維持するのには限界がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、導電性基材と、前記導電性基材と電気的に接続され、酸素含有率が5質量%未満であり、かつ三次元構造を有するフレーク状のカーボンと、を含む、キャパシタ用電極に関する。
【0010】
本発明の別の側面は、導電性基材と、前記導電性基材と電気的に接続され、かつ三次元構造を有するフレーク状のカーボンと、を含み、水銀ポロシメータで測定されるLog微分細孔容積分布が、0.3μm以上、6μm以下の範囲に最大ピークを有する、キャパシタ用電極に関する。
【0011】
本発明の更に別の側面は、上記キャパシタ用電極を備えるキャパシタに関する。
【0012】
本発明の更に別の側面は、酸化グラフェンを含む水分散液を調製する工程と、前記水分散液中の前記酸化グラフェンから第1カーボンを生成させる工程と、前記第1カーボンから第2カーボンを生成させる工程と、前記第2カーボンを導電性基材と接続させる工程と、を含み、前記第1カーボンが、酸素含有率が5質量%以上であり、かつ三次元構造を有するフレーク状のカーボンであり、前記第2カーボンが、酸素含有率が5質量%未満であり、かつ三次元構造を有するフレーク状のカーボンである、キャパシタ用電極の製造方法に関する。
【0013】
本発明の更に別の側面は、酸化グラフェンを含む水分散液を調製する工程と、前記水分散液中の前記酸化グラフェンから第1カーボンを生成させる工程と、前記第1カーボンから第2カーボンを生成させる工程と、前記第2カーボンを導電性基材と接続させてキャパシタ用電極を得る工程と、を含み、前記第1カーボンが、三次元構造を有するフレーク状のカーボンであり、前記キャパシタ用電極の水銀ポロシメータで測定されるLog微分細孔容積分布が0.3μm以上、6μm以下の範囲に最大ピークを有する、キャパシタ用電極の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、信頼性の高いキャパシタ用電極およびキャパシタを得ることができる。
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る電気二重層キャパシタの一部切り欠き斜視図である。
図2A】実施例1で得られたキセロゲルの電子顕微鏡(TEM)写真である。
図2B図2Aの一部の拡大TEM写真である。
図3A】活物質の熱処理温度と、酸素含有率との関係を示す図である。
図3B】活物質の熱処理温度と、Log微分細孔容積分布との関係を示す図である。
図4】酸素含有率もしくはLog微分細孔容積分布の異なる活物質を用いた電極を具備するキャパシタ(実施例1、2、3、比較例1、2)の信頼性試験(60℃/2.8V)の結果を示す図である。
図5】実施例3のキャパシタの別の信頼性試験(60℃/2.8V、60℃/3.0V)の結果を示す図である。
図6A】活物質の酸素含有率と、信頼性試験300時間後の容量維持率(60℃/2.8V)との関係を示す図である。
図6B】活物質の熱処理温度と細孔径0.25~1.5μmの微分細孔容積の積算値との関係を示す図である。
図7A】活物質の酸素含有率と、信頼性試験300時間後の抵抗増加率(60℃/2.8V)との関係を示す図である。
図7B】活物質の酸素含有率と、細孔径0.25~1.5μmの微分細孔容積の積算値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、キャパシタとは、例えば、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスを意味し、キャパシタ用電極は、これらのデバイスの電極として適用される。蓄電デバイスは、一対の電極と電解液とを備えている。電極は活物質を含む。
【0017】
活物質は、イオンをドープおよび脱ドープすることで容量を発現する。イオンの活物質へのドープとは、活物質へのイオンの吸着、活物質によるイオンの吸蔵、活物質とイオンとの化学的相互作用などを含む概念である。また、イオンの活物質からの脱ドープとは、活物質からのイオンの脱着、活物質からのイオンの放出、活物質とイオンとの化学的相互作用の解除などを含む概念である。ただし、ここでは、イオンの活物質へのドープとは、主に活物質へのイオンの吸着をいい、イオンの活物質からの脱ドープとは、主に活物質からのイオンの脱着をいう。活物質にイオンが吸着すると電気二重層が形成され、容量を発現する。すなわち、キャパシタ用電極は、主に分極性電極を意味するが、分極性電極の性質を有しつつファラデー反応も容量に寄与する電極であってもよい。
【0018】
本明細書では、酸素含有率が5質量%以上であり、かつ三次元構造を有するフレーク状のカーボンを第1カーボンとも称し、酸素含有率が5質量%未満(好ましくは酸素含有率が2.6質量%未満)であり、かつ三次元構造を有するフレーク状のカーボンを第2カーボンとも称する。もしくは、水銀ポロシメータで測定されるLog微分細孔容積分布が0.3μmより小さい範囲に最大ピークを有するキャパシタ用電極を形成し得る三次元構造を有するフレーク状のカーボンを第1カーボンと称することもあり、水銀ポロシメータで測定されるLog微分細孔容積分布が0.3μm以上、6μm以下の範囲に最大ピークを有するキャパシタ用電極を形成し得る三次元構造を有するフレーク状のカーボンを第2カーボンと称することもある。フレーク状のカーボンとは、主に還元型酸化グラフェンのようなグラフェン類縁体を意味する。また、第1カーボンと第2カーボンをまとめて活物質と称したり、これらを区別することなくカーボンと称したりすることもある。
【0019】
グラフェンとは、炭素原子1個分の厚さを有するグラフェンシートを最小単位とするカーボン材料であり、通常は複数のグラフェンシートが積層された積層体を構成している。以下、グラフェンをグラフェンシート積層体とも称する。グラフェンシートとは、炭素原子1個分の厚さを有するsp2結合炭素で構成された集合体もしくは分子であり、シート状に広がるハニカム状の格子構造を有している。
【0020】
一般的なグラフェンは、通常、平坦なシート状の形態を有している。一方、第1カーボンおよび第2カーボンは、グラフェン類縁体であり、平坦なシート状ではなく、層構造の乱れ(もしくは層間距離の乱れ)を有する(もしくは、三次元構造を有する)様々な形態のグラフェンシート積層体である。
【0021】
第1カーボンは、例えば、酸化グラフェンを含む水分散液を調製する工程(i)と、水分散液中の酸化グラフェンから第1カーボンを生成させる工程(ii)とを含む製造方法により得ることができる。また、第2カーボンは、更に、第1カーボンから第2カーボンを生成させる工程(iii)を含む製造方法により得ることができる。
【0022】
酸化グラフェン(以下、「GO」とも称する。)は、グラフェンシートに酸素含有基が結合した構造を有する。酸素含有基は、主にグラフェンシート積層体のエッジ面に結合していると考えられる。酸素含有基は、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等の親水性基である。酸化グラフェン(GO)は、一般に水等の極性溶媒に対する分散性を有する。酸化グラフェン(GO)は、sp3結合炭素を含むため、一般に絶縁性を有する。
【0023】
酸化グラフェン(GO)を還元することで、還元型酸化グラフェン(以下、「rGO」とも称する。)が得られる。還元型酸化グラフェン(rGO)は、導電性を有するグラフェン類縁体である。第1カーボンおよび第2カーボンは、互いに酸素含有率が異なる還元型酸化グラフェン(rGO)、もしくは互いにLog微分細孔容積分布が異なる還元型酸化グラフェン(rGO)と言い換えてもよい。ただし、第1カーボンおよび第2カーボンは、本明細書で述べる第1カーボンもしくは第2カーボンの特徴を有すればよく、必ずしも還元型酸化グラフェン(rGO)の範疇に包含されることが証明される必要はない。
【0024】
(A)キャパシタ用電極
本実施形態に係るキャパシタ用電極は、導電性基材と、導電性基材と電気的に接続された第2カーボンとを含む。第2カーボンは、上記のように、酸素含有率が5質量%未満(好ましくは酸素含有率が2.6質量%未満)であり、かつ三次元構造を有するフレーク状のカーボンである。キャパシタ用電極は、上記のように、水銀ポロシメータで測定されるLog微分細孔容積分布が0.3μm以上、6μm以下の範囲に最大ピークを有してもよい。
【0025】
導電性基材は、例えば、金属製であり、集電体として機能する。第2カーボンは、集電体に担持された電極層に活物質として含まれている。すなわち、キャパシタ用電極は、具体的には、例えば金属製の集電体と、集電体に担持され、かつ第2カーボンを含む電極層とを具備する。
【0026】
(a)第2カーボン
第2カーボンは、酸素含有率が5質量%未満(好ましくは酸素含有率が2.6質量%未満)であり、かつ三次元構造を有するフレーク状のカーボンである。第2カーボンは、水銀ポロシメータで測定されるLog微分細孔容積分布が0.3μm以上、6μm以下の範囲に最大ピークを有するキャパシタ用電極を形成し得る三次元構造を有するフレーク状のカーボンであってもよい。三次元構造とは、主に、フレーク状の粒子内に形成されたミクロな三次元構造(すなわち微細構造)を意味する。三次元構造を有することで、平坦なシート状のグラフェンに比べてグラフェンシート同士の重なりが顕著に抑制され、第2カーボンの表面積を有効に活用し得るようになる。三次元構造を有するグラフェンシート積層体の主面(主に002面(ベーサル面))には、複数の隆起部もしくは複数の窪み部が形成されている。このような三次元構造により、グラフェンシート間の距離が適切に制御され、グラフェンシート同士の重なりが効果的に低減される。
【0027】
第2カーボンにおけるグラフェンシート積層体の平均積層数は、例えば10層以下であり、5層以下であってもよい。グラフェンシート積層体は、炭素原子1個分の厚さを有する最小単位のグラフェンシート(すなわち単層シート)に近づくほど望ましい。
【0028】
平均積層数は、X線回折プロファイルの002面(ベーサル面)に帰属される回折ピークから算出される面間距離(d002)から推算される層数とすればよい(例えば、日本物理学会2015年秋季大会 概要集p1014)。或いは、グラフェンの電子顕微鏡(SEM等)写真から得られる推定値であればよい。例えば、グラフェンのSEM写真のスケールと、グラフェンシートの002面(ベーサル面)の面間距離からグラフェンシートの積層数を推定できる。例えば、任意の20個のグラフェンシート積層体を選択し、それぞれの積層数を推定し、最大側から5番目までの数値と、最小側から5番目までの数値とを省き、中間の10個の数値の平均値を平均積層数とすればよい。
【0029】
第2カーボンにおけるグラフェンシート同士の層間距離(すなわち、ベーサル面間距離)は、ランダムに変化していてもよい。層間距離のランダムな変化は、第2カーボンの結晶性が低いことを意味する。第2カーボンの積層構造の乱れが大きいほど、層間距離の変化も顕著になる。
【0030】
第2カーボンは、三次元構造として、例えば、縮れ構造もしくは折りたたみ構造してもよい。このとき、個々のグラフェンシート積層体は、自身が微細な多孔質構造(microporous structure)を有し得る。よって、第2カーボンの表面近傍におけるイオンの拡散がより良好になる。縮れ構造や折りたたみ構造の存在は、第2カーボンの電子顕微鏡(SEM、TEM等)写真により確認することができる。
【0031】
縮れ構造とは、例えば、ランダムに形成された複数の襞(ひだ)状の隆起部と窪み部とを有する構造であればよい。また、折りたたみ構造とは、一枚のグラフェンシート積層体が部分的に複数回折りたたまれた折りたたみ部を有する構造であり、縮れ構造の範疇に含まれる。折りたたみ部に形成される隆起部の高さもしくは窪み部の深さは、その構造を有するグラフェンシート積層体のカーボン部分の厚みよりも大きくてよく、カーボン部分の厚みの2倍以上であってもよい。
【0032】
第2カーボンのX線回折プロファイルは、通常、002面に帰属される回折ピークP1を有する。グラフェンシート同士の重なりが大きく、第2カーボンの結晶性が高くなるほど、回折ピークP1はシャープになる。
【0033】
一方、第2カーボンが三次元構造を有する場合、回折ピークP1はブロードになり、複数のピークに波形分離できるようになる。第2カーボンのX線回折プロファイルの回折ピークP1よりも高角側には、アモルファス相に帰属されるハローパターンが観測されてもよい。
【0034】
X線回折プロファイルから算出される第2カーボンの002面の面間距離(d002)は、例えば0.338nm(3.38Å)以上であればよい。d002は、2θ=26.38°付近の領域に観測される回折ピークを波形分離し、各成分についてd002を算出し、その平均として算出される。第2カーボンの002面の距離(d002)は、好ましくは0.340nm(3.40Å)以上であり、0.360nm(3.60Å)以上がより好ましく、0.370nm(3.70Å)以上が更に好ましい。
【0035】
第2カーボンを用いて形成されるキャパシタ用電極の水銀ポロシメータで測定されるLog微分細孔容積分布は、0.5μm以上、4μm以下の範囲に最大ピークを有してもよく、0.6μm以上、2μm以下の範囲に最大ピークを有してもよく、0.7μm以上、2μm以下の範囲に最大ピークを有してもよい。この場合、キャパシタ用電極は、ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔をバランスよく階層的に具備するため、イオン拡散性が向上し、低抵抗で信頼性の高いキャパシタ用電極になる。このようなLog微分細孔容積分布は、例えば、第2カーボンに含まれる酸素含有基の含有量を制御することにより達成される。
【0036】
第2カーボンの酸素含有率は5質量%未満であり、4質量%以下でもよく、3質量%以下でもよく、2.6質量%未満が望ましく、2質量%以下、もしくは1.5質量%以下でもよい。酸素含有率が5質量%未満にまで減少すると、キャパシタの信頼性が顕著に向上する。
【0037】
酸素含有基の含有量が顕著に低減し、第2カーボンの酸素含有率が低減すると、第2カーボンを用いて形成されるキャパシタ用電極のLog微分細孔容積分布は顕著に変化する。その結果、キャパシタの信頼性が向上する。
【0038】
ここで、キャパシタの信頼性は、例えば、60℃程度の高温で所定電圧をキャパシタに定常的に印加するフロート充電試験により評価できる。フロート充電を継続的に行い、初期に対する所定時間後のキャパシタの容量維持率、抵抗増加率などによりキャパシタの信頼性を判断できる。容量維持率が高く、抵抗増加率が小さいほど、信頼性が高い。
【0039】
酸化グラフェン(GO)を完全に還元することは困難であり、通常の還元型酸化グラフェン(rGO)の酸素含有率は5質量%以上である。これに対し、第2カーボンの酸素含有率は5質量%未満にまで低減できる理由は、第1カーボンから第2カーボンを生成させる際の条件が適正化されていることに加え、第1カーボンが第2カーボンと同様に、上記のような三次元構造を有することも酸素含有基の低減されやすさに関連するものと考えられる。
【0040】
第2カーボンの酸素含有率が5質量%未満のときにキャパシタの信頼性が向上する理由として、また、キャパシタ用電極の水銀ポロシメータで測定されるLog微分細孔容積分布が0.3μm以上、6μm以下の範囲に最大ピークを有するときにキャパシタの信頼性が向上する理由として、主に以下の点が考えられる。
第1に、酸素含有率の低減は酸素含有基の低減を意味する。酸素含有基が低減することで、酸素含有基と電解液成分との酸化還元反応に基づく疑似容量が低減する。疑似容量は、初期容量の増大に寄与するが、劣化を促進することにも寄与するため、疑似容量が小さいほど、信頼性は向上する。
第2に、酸素含有基が低減することで、酸素含有基と電解液成分との酸化還元反応により生成する反応物が減少する。このような反応物は、電極の細孔を塞ぎ、イオンの拡散性を低下させるとともに、イオンの吸着サイトを低減させる。よって、反応物が多いほど、抵抗増加率が大きくなり、容量維持率が低くなる。逆に、反応物が少ないほど、抵抗増加率が小さくなり、容量維持率が高くなり、信頼性が向上する。
【0041】
第3に、酸素含有基が減少することで、第2カーボンの空隙容積が増大する。よって、低温でのキャパシタの充放電特性が向上することも期待される。主にエッジ面に存在する酸素含有基が減少することで、イオン拡散に関わる障壁が顕著に低減し、第2カーボンを含む電極内部の空隙容積が増大する。イオン拡散に関わる障壁が顕著に低減することで、低温におけるイオン拡散が円滑になり、低温でのキャパシタの充放電特性が向上することも期待される。
【0042】
イオンの拡散性は、マクロ孔の容積に影響される。中でも、細孔径0.2μm以上、1.5μm以下、更には0.25μm以上、1.5μm以下の範囲のマクロ孔がイオン拡散性に大きく影響すると考えられる。キャパシタ用電極の水銀ポロシメータで測定される0.2μm以上、1.5μm以下、更には0.25μm以上、1.5μm以下の範囲の微分細孔容積の積算値は、例えば1cm3/g・logμm以上であってもよく、1.5cm3/g・logμm以上であってもよく、2cm3/g・logμm以上であってもよい。この場合、キャパシタの信頼性や低温特性が顕著に向上する。
【0043】
Log微分細孔容積分布は、第2カーボンを用いて作製された電極の状態で測定される。測定対象となる細孔の細孔径は、0.01μm(10nm)のメソ孔から10μmのマクロ孔の範囲であればよい。
【0044】
三次元構造を有するフレーク状のカーボンである第2カーボンは、ミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔をバランスよく階層的に具備する。細孔バランスの良い第2カーボンは、電極層を圧延するときに良好な弾性を示し、圧延応力に対する反力により圧延後も粒子が変形もしくは破壊されず、元の形状を維持しやすい。そのため、粒子間に十分な大きさの空隙を確保しやすいと考えられる。また、キャパシタ用電極の空隙の状態は、電極層を形成するためのスラリーにおける活物質粒子の分散性に影響される。第2カーボンは分散性に優れ、活物質の凝集体の大きさのばらつきが小さく、凝集体間の隙間の大きさが電極層内で均一になるものと考えられる。
【0045】
Log微分細孔容積分布は、例えば、JIS R1655:2003に準拠した「ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法」に準拠して、水銀ポロシメータを用いて測定すればよい。水銀ポロシメータでは、低圧状態の中で電極の試料内の細孔へ水銀を流入させて大きな径の細孔を計測した後、高圧状態において水銀を細孔のより深い箇所へ浸透させていく。低圧状態は真空ポンプで50μmHg程度まで減圧する。試料に水銀を流入させる方法として、一例として、試料を収容するとともに水銀の流入孔を有するセルを用いる。試料は一例として、本実施例と同様に形成された集電体と電極層とを有する電極の電極層を有する部分を20mm×50mmのサイズで切り抜いて準備する。高圧状態では約230MPaまで加圧して試料へ水銀の圧入を行う。キャパシタから切り出した電極を用いて測定する場合は、電極を揮発性の高い溶媒(例えばジメチルカーボネート)に浸漬させ、0.1MPa未満の減圧下で洗浄し、0.1MPa未満の減圧下で2時間以上乾燥させる。乾燥は、例えば常温下で行えばよい。
【0046】
第2カーボンの酸素含有率は、元素分析の手法で測定できる。例えばJIS M8813:2004に準拠して、直接定量法(附属書9)もしくは差数法(附属書5)により求めることができる。例えば、酸素含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(例えば、株式会社堀場製作所製のEGMA-830型)を用いて測定してもよい。この場合、試料中の酸素は全て一酸化炭素に変換され、放出される一酸化炭素を検出する。標準試料を用いて作成した検量線から、試料の酸素含有量を算出する。
【0047】
(b)第1カーボン
第1カーボンは、第2カーボンの前駆体であり、三次元構造を有するフレーク状のカーボンである。第1カーボンの酸素含有率は5質量%以上でもよい。第1カーボンを、非酸化性雰囲気中で700℃以上の温度で加熱することにより、第2カーボンが得られる。第1カーボンは、酸素含有率は、例えば、10~50質量%であればよく、20~40質量%でもよく、30~40質量%でもよい。第1カーボンは、酸素含有量が異なる点以外、基本的には、第2カーボンと同様の三次元構造を有する。
【0048】
すなわち、第1カーボンは、フレーク状の粒子内に形成されたミクロな三次元構造を有する。三次元構造を有するグラフェンシート積層体の主面(主に002面(ベーサル面))には、複数の隆起部もしくは複数の窪み部が形成されていてもよい。第1カーボンは、三次元構造として、第2カーボンについて説明した縮れ構造もしくは折りたたみ構造してもよい。
【0049】
第1カーボンにおけるグラフェンシート積層体の平均積層数は、例えば10層以下であり、5層以下であってもよい。また、第1カーボンにおけるグラフェンシート同士の層間距離(すなわち、ベーサル面間距離)は、ランダムに変化していてもよい。
【0050】
第1カーボンのX線回折プロファイルは、002面に帰属される回折ピークP1を有するとともに、回折ピークP1よりも高角側にアモルファス相に帰属されるハローパターンが観測されてもよい。X線回折プロファイルから算出される第1カーボンの002面の面間距離(d002)は、例えば0.338nm(3.38Å)以上であればよく、好ましくは0.340nm(3.40Å)以上であり、0.360nm(3.60Å)以上でもよく、0.370nm(3.70Å)以上でもよい。
【0051】
(c)結着剤
キャパシタ用電極には、結着剤を含ませてもよい。結着剤は、第2カーボンを電極層に成形する際に、第2カーボン同士の結合や、第2カーボンと集電体との結合を補助する役割を有する。
【0052】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)等のフッ素樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアセテート等の水溶性樹脂等を用い得る。
【0053】
(d)第3成分
電極層は、第2カーボン以外に、例えば活性炭のような他の活物質を含んでもよい。また、電極層は、カーボンナノチューブ(CNT)などの炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粒子を含んでもよい。ただし、高容量と高い信頼性とを両立する観点から、第2カーボンが電極層の50質量%以上を構成することが望ましく、65質量%以上を構成することがより好ましい。
【0054】
(e)集電体
集電体には、金属箔、金属多孔体などを用い得る。集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、ステンレス、白金等を用い得る。これらの金属を主成分とする合金を用いてもよい。金属箔は、プレーン箔でもよいが、エッチング等により粗面化を施した箔、プラズマ処理を施した箔等であってもよい。金属多孔体は、例えば三次元網目構造を有する。
【0055】
金属多孔体の単位面積あたりの質量は、例えば500g/m以下でもよく、150g/m以下でもよい。金属多孔体の空隙率は、例えば80体積%~98体積%であればよく、90体積%~98体積%でもよい。
【0056】
金属多孔体の空隙の平均孔径は、例えば50μm以上、1000μm以下であればよく、400μm以上、900μm以下でもよく、450μm以上、850μm以下でもよい。
【0057】
(B)キャパシタ用電極の製造方法
次に、キャパシタ用電極の製造方法の一例について説明する。
(i)分散液調製工程
まず、第1カーボン原料を含む水分散液を調製する。水分散液には、第1カーボン原料および水以外に、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の分散剤等を含ませてもよい。第1カーボン原料とは、第1カーボンの前駆体であり、ここでは酸化グラフェンを用いる。酸化グラフェンは、例えば、グラファイトの酸化を経由してグラファイトから単層または多層の状態で剥離生成する。
【0058】
グラファイトの酸化は、例えば、水中で酸化剤を用いて行い得る。酸化剤には、硫酸、過マンガン酸カリウム、クロム酸、重クロム酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、過酸化物、過硫酸塩、有機過酸などを用い得る。水には水溶性溶媒を添加してもよい。水溶性溶媒としては、アルコール類、アセトンなどのケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが例示できる。水中での酸化反応により、酸化グラフェンの水分散液が生成する。
【0059】
酸化グラフェンの酸素含有率は、例えば10~60質量%であればよく、20~50質量%でもよく、30~50質量%でもよい。
【0060】
(ii)第1カーボン生成工程
次に、水分散液中の酸化グラフェンから第1カーボン(すなわち、還元型酸化グラフェン)を生成させる工程の一例について説明する。
【0061】
<第1還元工程>
酸化グラフェンを含む水分散液中で酸化グラフェンを還元することにより第1カーボンが生成する。還元方法としては、例えば水熱処理が好ましい。例えば、水分散液をオートクレーブに封入して水熱処理することにより、ゲル状生成物を生成させればよい。水熱処理の温度は、例えば、150℃以上、好ましくは170℃以上、200℃以下でもよい。
【0062】
<第2還元工程>
水熱処理だけでも、三次元構造を有するフレーク状の第1カーボンを得ることは可能であるが、還元を更に進行させるために、ゲル状生成物を還元剤と接触させてもよい。還元剤としては、例えば、金属ヒドリド類、ボロヒドリド類、ボラン類、ヒドラジンもしくはヒドラジド類、アスコルビン酸類、チオグリコール酸類、システイン類、亜硫酸類、チオ硫酸類、亜ジチオン酸類などが例示できる。例えば、アスコルビン酸ナトリウムのような水溶性の還元剤を含む水溶液にゲル状生成物を浸漬すればよい。水溶液の温度は、例えば20~110℃であればよく、40~100℃でもよく、50~100℃でもよい。還元剤の使用量は、還元剤の種類、第1カーボン原料(酸化グラフェン)の酸素含有量、ゲル状生成物量などに応じて適宜調整すればよい。
【0063】
<凍結乾燥工程>
その後、ゲル状生成物を凍結乾燥(フリーズドライ)させてもよい。凍結乾燥によれば、第1カーボンの三次元構造が高度に維持された状態の乾燥ゲル(キセロゲル)を得ることができる。凍結乾燥は、例えば-50℃~0℃、好ましくは-50℃~-20℃で、100Pa以下、更には1Pa以下の減圧下で行えばよい。
【0064】
(iii)第2カーボン生成工程(第3還元工程)
次に、第1カーボンを非酸化性雰囲気中で700℃以上の温度で加熱することにより第2カーボンが生成する。
【0065】
非酸化性雰囲気は、減圧雰囲気(例えば0.1MPa以下(好ましくは10Pa以下))、還元雰囲気(例えば0.01MPa以下の水素雰囲気)、不活性ガス雰囲気(例えばN、Ar、Ne、Heなどの流通雰囲気)などであってもよい。
【0066】
非酸化性雰囲気中での加熱温度は、800℃以上でもよく、900℃以上でもよく、1000℃以上でもよく、1200℃以上でもよい。ただし、生成する第2カーボンの酸素含有率の低減には限界がある。生産コストを考慮すると、非酸化性雰囲気中での加熱温度は、1800℃以下でもよく、1400℃以下でもよく、1200℃以下でもよい。温度範囲を規定する場合、これらの上限と下限は任意に組み合わせてよい。温度範囲は、例えば、1000℃~1800℃でもよい。
【0067】
非酸化性雰囲気中での加熱時間は、加熱条件、処理される第1カーボン量によって適宜選択されるが、例えば、0.5~5時間程度であってもよい。
【0068】
(iv)電極化工程
例えば、第2カーボンを結着剤とともに水等の分散媒に分散させてスラリーを調製する。得られたスラリーを導電性基材(集電体)に塗布し、塗膜を乾燥することで、集電体に担持された電極層が形成され、キャパシタ用電極が得られる。その後、電極層を圧延してもよい。このような電極層内の第2カーボンは、導電性基材(集電体)と電気的に接続された状態となる。
【0069】
(C)キャパシタ
次に、上記キャパシタ用電極を第1電極および第2電極として備えるキャパシタの一例について説明する。図1は、電気二重層キャパシタ10の一部切り欠き斜視図である。
【0070】
図示例の電気二重層キャパシタ10は、捲回型のキャパシタ素子1を具備する。キャパシタ素子1は、それぞれシート状の第1電極2と第2電極3とをセパレータ4を介して捲回して構成されている。第1電極2および第2電極3は、それぞれ金属製の第1集電体、第2集電体と、その表面に担持された第1電極層、第2電極層を有し、イオンを吸着および脱着することで容量を発現する。第1、第2集電体には、例えば、アルミニウム箔が用いられる。集電体の表面は、エッチングなどの手法によって粗面化してもよい。セパレータ4には、例えば、セルロースを主成分とする不織布が用いられる。第1電極2および第2電極3には、それぞれ引出部材としてリード線5a、5bが接続されている。キャパシタ素子1は、電解液(図示なし)とともに円筒型の外装ケース6に収容されている。外装ケース6の材質は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮などの金属であればよい。外装ケース6の開口は、封口部材7によって封止されている。リード線5a、5bは、封口部材7を貫通するように外部に導出されている。封口部材7には、例えば、ブチルゴムなどのゴム材が用いられる。
【0071】
電極層は、活物質を必須成分として含み、結着剤、導電助剤などを任意成分として含み得る。活物質は、既に述べた特徴を有する第2カーボンを含む。電極層は、例えば、活物質、結着剤(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC))などを水とともに混練機で練合して得られるスラリーを集電体の表面に塗布し、塗膜を乾燥し、圧延することで得られる。
【0072】
電解液は、溶媒と、溶媒に溶解させたイオン性物質(例えば有機塩)との混合物であればよい。溶媒は、非水溶媒でもよく、イオン性液体でもよい。電解液におけるイオン性物質の濃度は、例えば、0.5~2.0mol/Lであればよい。
【0073】
非水溶媒としては、高沸点溶媒が好ましい。例えば、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類、プロピレンカーボネートなどのカーボネート類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール類、スルホランなどの環状スルホン類、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類、酢酸メチルなどのエステル類、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、ホルムアルデヒドなどを用いることができる。
【0074】
有機塩とは、アニオンおよびカチオンの少なくとも一方が有機物を含む塩である。カチオンが有機物を含む有機塩としては、例えば、4級アンモニウム塩が挙げられる。アニオン(もしくは両イオン)が有機物を含む有機塩としては、例えば、マレイン酸トリメチルアミン、ボロジサリチル酸トリエチルアミン、フタル酸エチルジメチルアミン、フタル酸モノ1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム、フタル酸モノ1,3-ジメチル-2-エチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。
【0075】
アニオンは、耐電圧特性を向上させる観点から、フッ素原子を含むことが好ましく、例えばBF および/またはPF が用いられる。好ましい有機塩として、具体的には、エチルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボレートのようなテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。
【0076】
上記実施形態では、捲回型キャパシタについて説明したが、本発明の適用範囲は上記に限定されず、他構造のキャパシタ、例えば、積層型あるいはコイン型のキャパシタにも適用し得る。
【0077】
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0078】
<実験例1>
第1カーボン原料である酸化グラフェンを1質量%含む水分散液を180℃で6時間、水熱処理して、ゲル状生成物を得た(第1還元工程)。
【0079】
引き続き、ゲル状生成物を還元剤であるアスコルビン酸ナトリウム水溶液(アスコルビン酸ナトリウム濃度1.0mol/L)に浸漬し、100℃に加熱して2時間保持し、カーボンを十分に還元した(第2還元工程)。
【0080】
その後、ゲル状生成物を-20℃で100Paの減圧下で凍結乾燥(フリーズドライ)させて、キセロゲル(すなわち、第1カーボン)を得た。キセロゲルの酸素含有率を測定したところ、23質量%であった。また、キセロゲルのX線回折測定を行ったところ、002面に帰属される回折ピークP1よりも高角側にアモルファス相に帰属されるブロードなハローパターンが観測され、縮れ構造もしくは折りたたみ構造の存在が示された。得られたX線回折プロファイルを分析して、グラフェンのd002を求めたところ、約0.34nm以上であることが確認された。
【0081】
図2Aに、キセロゲルのTEM写真を示す。図2Aより、第1カーボンが三次元構造を有するフレーク状の粒子を含むことが理解できる。TEM像には、ランダムに形成された複数の襞状の隆起部と窪み部とを有する縮れ構造もしくは折りたたみ構造が見られる。折りたたみ部に形成されている隆起部の高さもしくは窪み部の深さは、カーボン部分の厚みよりも十分に大きく、少なくともカーボン部分の厚みの2倍以上を有している。また、図2Bは、図2Aの一部の拡大TEM写真である。拡大写真からはグラフェンシート積層体のベーサル面が粒子表面に多く存在し、エッジ面の露出が少ないことが確認できる。
【0082】
<実験例2~8>
次に、キセロゲルを窒素流通下で400℃(実験例2)、600℃(実験例3)、700℃(実験例4)、800℃(実験例5)、900℃(実験例6)、1000℃(実験例7)、1200℃(実験例8)、1500℃(実験例9)、1800℃(実験例10)で、それぞれ10分~2時間加熱する熱処理(第3還元工程)を行った。その後、得られたカーボンの酸素含有率を測定した。実験例4では酸素含有率が5質量%未満であり、実験例8では0.4質量%未満であった。一方、実験例2の酸素含有率は、約18質量%であった。図3Aに、熱処理温度と、酸素含有率との関係を示す。図3Aより、酸素含有率が5質量%未満の第2カーボンを得るには、700℃以上での熱処理が必要であることが理解できる。また、1000℃以上での熱処理を行うことで、酸素含有率を更に顕著に低減できることが理解できる。
【0083】
各熱処理後のカーボンをTEMで観察したところ、熱処理前と同様の三次元構造を有するフレーク状の粒子であることが確認できた。また、各熱処理後のカーボンのX線回折測定を行ったところ、002面に帰属される回折ピークP1を中心にブロードに広がるアモルファス相に帰属されるハローパターンが観測され、縮れ構造もしくは折りたたみ構造の存在が示された。更に、得られたX線回折プロファイルを分析して、グラフェンのd002を求めたところ、熱処理前よりも若干小さい値へシフトすることが確認された。これはベーサル面方向の秩序(π-π結合)の回復によるものと推測される。
【0084】
《実施例1~3》
定格電圧2.5Vの捲回型の電気二重層キャパシタ(Φ18mm×L(長さ)70mm)を作製した。以下に、電気二重層キャパシタの具体的な製造方法について説明する。
【0085】
実施例1、実施例2および実施例3では、それぞれ実験例4(700℃で熱処理)、実験例7(1000℃で熱処理)および実験例8(1200℃で熱処理)で得られた酸素含有率が5質量%未満の第2カーボンを活物質として用い、キャパシタ用電極を作製した。具体的には、第2カーボン100質量部と、結着剤であるCMC10質量部とを、適量の水に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを厚み30μmのAl箔からなる集電体に塗布し、塗膜を110℃で真空乾燥し、圧延して、電極層を形成し、キャパシタ用電極を得た。
【0086】
一対の電極を準備し、それぞれにリード線を接続し、セルロース製不織布のセパレータを介して捲回してキャパシタ素子を構成し、電解液とともに所定の外装ケースに収容し、封口部材で封口して、実施例1のキャパシタA1(700℃で熱処理)、実施例2のキャパシタA1(1000℃で熱処理)および実施例3のキャパシタA3(1200℃で熱処理)を完成させた。電解液には、エチルジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートを非水溶媒であるプロピレンカーボネートに1.0mol/L濃度で溶解させた溶液を用いた。その後、定格電圧2.5Vを印加しながら、60℃で6時間エージング処理を行った。
【0087】
《比較例1~2》
比較例1および2では、それぞれ実験例1(熱処理なし)および実験例2(400℃で熱処理)で得られた酸素含有率が5質量%を超えるカーボンを活物質として用い、実施例1、2と同様に、一対の電極を作製し、比較例1のキャパシタB1および比較例2のキャパシタB2を作製した。
【0088】
各キャパシタ(A1、A3、B1、B2)の電極のLog微分細孔容積分布を測定した。図3Bに、活物質の熱処理温度と、Log微分細孔容積分布との関係を示す。図3Bに示されるように、熱処理温度を行っていないB1および熱処理温度が400℃のB2と、熱処理温度が700℃以上のA1、A3とでは、Log微分細孔容積分布に大きな相違がある。また、A1、A3ではB1、B2に比べ、積算細孔容積が格段に増加している。
【0089】
A3のLog微分細孔容積分布は、概ね1μmに最大ピークを有し、0.2μm以上、1.5μm以下の範囲の微分細孔容積の積算値は2cm3/g・logμmを超えている。また、A1のLog微分細孔容積分布は、概ね0.8μmに最大ピークを有し、0.2μm以上、1.5μm以下の範囲の微分細孔容積の積算値は約1.8cm3/g・logμmである。よって、A1、A3のカーボンは第2カーボンに分類される。
【0090】
一方、B1のLog微分細孔容積分布は、0.2μm以下に最大ピークを有し、0.2μm以上、1.5μm以下の範囲の微分細孔容積の積算値はほぼゼロである。B2のLog微分細孔容積分布も0.2μm以下に最大ピークを有し、0.2μm以上、1.5μm以下の範囲の微分細孔容積の積算値は約0.6cm3/g・logμmである。B1、B2のカーボンは第1カーボンに分類される。
【0091】
[フロート充電試験(I)]
各キャパシタ(A1、A2、A3、B1、B2)の信頼性をフロート充電試験で評価した。すなわち、60℃で2.8Vの電圧をキャパシタに定常的に印加し、初期に対するキャパシタの容量維持率の変化を測定した。容量維持率とは、エージング後の初期容量を100%としたときの相対値である。
【0092】
図4に、各キャパシタ(A1、A2、A3、B1、B2)の容量維持率の変化(60℃/2.8V)を示す。図4より、酸素含有率が5質量%を超える第1カーボンを用いたキャパシタB1、B2の場合、容量維持率の低下が顕著である。一方、酸素含有率が5質量%未満である第2カーボンを用いたキャパシタA1、A3の場合、2500時間を超えても容量維持率が高レベルで維持され、長期的な信頼性が高いことが理解できる。中でも、酸素含有率が0.4質量%のキャパシタA3は、3500時間経過後も初期容量に近い容量を維持している。
【0093】
[フロート充電試験(II)]
フロート充電試験(I)で最も信頼性に優れていたキャパシタA3について、更に、60℃で3.0Vの電圧をキャパシタに定常的に印加するフロート充電試験を行い、初期に対するキャパシタの容量維持率の変化を測定した。
【0094】
図5に、2.8Vのときの容量維持率の変化と対比して、3.0Vのときの容量維持率の変化を示す。図5より、電圧を上げることで、更に良好な容量維持率が得られることが理解でき、キャパシタA3が耐圧性の点でも優れていることがわかる。このような、電圧を上昇させることによる容量維持率の向上は、例えば、活性炭を用いる一般的なキャパシタでは見られず、特異的な現象である。
【0095】
図6Aは、図4のデータを酸素含有率とフロート充電300時間経過後の容量維持率との関係に描き直した図である。図6Aによれば、活物質における酸素含有率が低減するのに従い、指数関数的に容量維持率が向上する傾向を示している。
【0096】
図6Bは、A1、A3、B1、B2における活物質の熱処理温度と、細孔径0.25~1.5μmの微分細孔容積の積算値との関係を示す図である。図6Aによれば、熱処理温度が高くなるのに従い、電極層における細孔径0.25~1.5μmのマクロ孔の容積が増大することがわかる。このことは、信頼性の向上に電極層におけるマクロ孔の容積の増大が大きく関連していることを示唆している。
【0097】
図7Aは、図4のデータを酸素含有率とフロート充電300時間経過後の抵抗増加率との関係に描き直した図である。図6によれば、活物質における酸素含有率が低減するのに従い、指数関数的に抵抗増加率が低減する傾向を示している。なお、抵抗増加率は、フロート充電300時間経過後の抵抗値のエージング後の初期抵抗値に対する割合である。抵抗値はIEC 62391-1に規定されている方法で測定すればよい。
【0098】
図7Bは、A1、A3、B1、B2における活物質の酸素含有率と、細孔径0.25~1.5μmの微分細孔容積の積算値との関係を示す図である。図7Bによれば、活物質における酸素含有率が低減するのに従い、電極層における細孔径0.25~1.5μmのマクロ孔の容積が増大することがわかる。このことは、電極層におけるマクロ孔の容積の増大に活物質の酸素含有率が関連していることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、信頼性の高いキャパシタ(例えば電気二重層キャパシタ)が得られる。
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0100】
1:キャパシタ素子、2:第1電極、3:第2電極、4:セパレータ、5a:第1リード線、5b:第2リード線、6:外装ケース、7:封口部材、10:キャパシタ
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B