(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】免疫賦活作用を有する組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/17 20160101AFI20240920BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240920BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240920BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 36/48 20060101ALI20240920BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20240920BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20240920BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20240920BHJP
【FI】
A23L33/17
A61K38/02
A61P37/04
A61P43/00 107
A61K36/48
A23K20/147
A23K10/30
A23K20/163
(21)【出願番号】P 2022579323
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2021016478
(87)【国際公開番号】W WO2022168341
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2024-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2021016501
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000116943
【氏名又は名称】旭松食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】石黒 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】田中 沙智
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-140396(JP,A)
【文献】石黒貴寛,凍り豆腐の脂質代謝・糖質代謝改善効果とそのメカニズム,日本食品科学工学会誌 JOURNAL OF THE JAPANESE SOCIETY FOR FOOD SCIENCE AND TECHNOLOGY,日本,公益社団法人日本食品科学工業会,2018年10月15日,第65巻 第10号,pp.488-492
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A61K、A61P、A23K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍り豆腐タンパク質由来のレジスタントプロテインからなる免疫賦活材。
【請求項2】
凍り豆腐タンパク質由来のレジスタントプロテインからなる免疫細胞のインターフェロンガンマ産生誘導材。
【請求項3】
大豆タンパク質由来のレジスタントプロテインからなる免疫細胞のインターフェロンガンマ産生誘導材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫賦活作用を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫は、病原体や毒素、異物などを非自己と認識し、排除する生体防御機構である。ヒトなどの高等動物では、多種のタンパク質(サイトカイン)や免疫細胞から構成される高度なシステムが存在している。
【0003】
この免疫システムは、食生活の乱れや加齢、ストレスといった要因で低下することがある。
【0004】
一方で、食品成分の中には免疫システムを制御するものが存在している。いわゆるプロバイオティクスとして認知されている乳酸菌(非特許文献1)やプレバイオティクスである野沢菜不溶性画分(非特許文献2)やβグルカン(非特許文献3)に免疫賦活作用があることが報告されている。
【0005】
これらの食品成分による免疫賦活効果はインターフェロンγを介した効果であると報告されている。インターフェロンとは、病原体や腫瘍細胞などの異物に反応して免疫細胞が分泌するサイトカインの一種であり、免疫系および炎症の調節などの働きをしている。インターフェロンγは活性化されたT細胞およびNK細胞で産生され、白血球を感染局所に集め炎症を強化する。またマクロファージの貪食作用を強める働きがある。総じて、インターフェロンγ産生の増加は免疫力の向上に繋がると理解されている。
【0006】
野沢菜不溶性画分やβグルカンは食物繊維としても注目されている。食物繊維は、1日18~20g以上の摂取が推奨されている栄養成分の一つである。近年、食物繊維が腸内細菌に作用して様々な健康効果をもたらすことを示す、多様な研究成果が得られている。
【0007】
国際食品規格委員会(コーデックス委員会)の栄養・特殊用途食品部会(CCNFSDU)によれば、食物繊維は、「小腸において消化、吸収されない重合度10以上の多糖類であり、食品中にもともと存在する可食性のもの、物理的、酵素的、化学的処理により得られたもの及び合成されたものとし、重合度3から9の多糖類の取り扱いについては各国の判断に委ねる」と定義される。
【0008】
食物繊維が腸内細菌に及ぼす前述の作用には、多糖類のみならず、上部消化管で消化されなかった他の食品成分残渣も、深く寄与していることが分かってきている。
【0009】
しかし、前述のCCNFSDUによる「食物繊維」の定義には、これらの多糖類以外の成分は含まれないことになる。
【0010】
こうした観点から、食物繊維学会では、多糖類以外の成分も含む広義の食物繊維を包含する概念として、「ルミナコイド」という用語を提唱している。食物繊維学会によれば、ルミナコイドは、「ヒトの小腸内で消化・吸収されにくく、消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分」と定義される。
【0011】
斯かる「ルミナコイド」の概念に包含される成分は、大きく非でんぷん系成分とでんぷん系成分とに分類される。非でんぷん系成分は、CCNFSDUの定義による狭義の「食物繊維」の他、少糖類、糖アルコール、レジスタントプロテイン、その他に分類される。一方、でんぷん系成分は、レジスタントスターチとレジスタントマルトデキストリンとに分類される。
【0012】
これらの「ルミナコイド」成分の中でも特に注目されるのが、非でんぷん系成分のうちタンパク質成分又はタンパク質複合体成分を指す「レジスタントプロテイン」である。
【0013】
レジスタントプロテインとしては、大豆高分子量タンパク質画分(HMF)や大豆レジスタントプロテイン(SRP)等の大豆由来タンパク質、そば由来タンパク質、絹由来タンパク質、酒粕由来タンパク質等が知られている。
【0014】
こうした知見から、レジスタントプロテインは、健康増進作用を備えた飲食品や医薬品として、種々の用途への応用が期待されている。
【0015】
しかし、その詳細な作用効果については、未だ不明な点も多く、実用化に向けてその作用の更なる解明や増強が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【文献】小川智美、西村禎一.プロバイオティクスの免疫調節作用.日本食品微生物学会雑誌 2013; 30: 1-14
【文献】Yamamoto K, Furuya K, Yamada K, Takahashi F, Hamajima C, Tanaka S. Enhancement of natural killer activity and IFN-γ production in an IL-12-dependent manner by a Brassica rapa L. Biosci Biotechnol Biochem 2018; 82: 654-668
【文献】Javmen A, Nemeikaite A, Bratchikov M, Grigiskis S, Grigas F, Jonauskiene I, et al. β-Glucan from Saccharomyces cerevisiae induces IFN-γ production in vivo in BALB/c mice. In vivo 2015; 29: 359-364
【文献】西村直道,三田由紀,櫻井麻衣子,山本達郎,太田徹. 大豆たん白質難消化性画分による大腸内フローラの変動解析.大豆たん白質研究 2007; 10: 48-54
【文献】加藤範久. 消化管で作用する疾病予防成分に関する栄養学的研究. 日本栄養・食糧学会誌 2012; 65: 253-260
【文献】Lu YC, Yeh WC, Ohashi PS. LPS/TLR4 signal transduction pathway. Cytokine 2008; 42: 145-151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的の一つは、免疫賦活するための新規な及び/又は改善された手段の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、レジスタントプロテインの作用を解明・増強すべく鋭意検討した結果、レジスタントプロテインには、免疫細胞のインターフェロンγ産生を誘導するという、これまで知られていない免疫賦活作用が存在することを見出し、本発明を完成させた。
【0019】
即ち、本発明は例えば以下の態様を提供する。
【0020】
[1]
免疫賦活作用のある、レジスタントプロテインを含む組成物。
【0021】
[2]
前記免疫賦活作用が免疫細胞のインターフェロンガンマ産生誘導である、[1]の組成物。
【0022】
[3]
前記免疫細胞が脾臓細胞である、[1]または[2]の組成物。
【0023】
[4]
免疫賦活作用のある、レジスタントプロテインを含む飲食品。
【0024】
[5]
免疫賦活作用のある、レジスタントプロテインを含む動物用飼料。
【0025】
[6]
免疫賦活作用のある、レジスタントプロテインを含む医薬品。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、免疫賦活するための新規な及び/又は改善された手段を提供することができる。レジスタントプロテインを用いることで、新規な及び/又は改善された免疫賦活作用が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】レジスタントプロテインおよびレジスタントプロテインを構成するアミノ酸混合物共存下で免疫細胞を培養後の上清インターフェロン-γ(IFN-γ)濃度を示すグラフである。
【
図2】無添加区、リポポリサッカライド(LPS)添加区、レジスタントプロテイン添加区それぞれにつきPolymyxin B共存下(PB(+))および非共存下(PB(-))で免疫細胞を培養後の上清インターフェロン-γ(IFN-γ)濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について実施形態に基づき説明するが、本発明はこれらの形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において、任意の改変を加えて実施することが可能である。
【0029】
[概要]
本発明者らは、所定の脂質代謝改善効果が知られているレジスタントプロテインについて、種々の検討を行った。その結果として意外にも、これまで知られていない免疫賦活作用も有することを見出した。本発明は、斯かる本発明者等の意外な知見に基づくものである。
【0030】
即ち、本発明の一側面は、レジスタントプロテインを含む組成物に関する。この組成物は、免疫賦活のための使用が意図される。
【0031】
[レジスタントプロテイン]
本発明において「レジスタントプロテイン」とは、前述のように、「ルミナコイド」の概念に包含される非でんぷん系成分のうち、特にタンパク質成分又はタンパク質複合体成分を意味する。本発明において「ルミナコイド」とは、前述の食物繊維学会の定義に従い、「ヒトの小腸内で消化・吸収されにくく、消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分」と定義される。
【0032】
レジスタントプロテインとしては、大豆、そば、絹、酒粕等の各種原料に由来するタンパク質が挙げられる。これらは何れも本発明に使用可能であるが、中でも大豆由来タンパク質が好ましい。
【0033】
大豆由来のレジスタントプロテインとしては、大豆そのものに由来するタンパク質と、大豆加工品に由来するタンパク質とが挙げられるが、何れも本発明に使用可能である。大豆加工品としては、豆腐、凍り豆腐、豆乳、大豆粉、大豆肉、大豆シリアル、大豆タンパク質(SPI)等が挙げられるが、何れであってもよい。大豆由来のレジスタントプロテインの具体例としては、大豆高分子量タンパク質画分(HMF)、大豆レジスタントプロテイン(SRP)等が挙げられるが、本発明では何れを使用することも可能である。
【0034】
レジスタントプロテインとしては、前記の各種原料から単離・精製したものを用いてもよいが、レジスタントプロテインを含む前記の各種原料又はその加工品をそのまま用いてもよい。
【0035】
特に、本発明の組成物を飲食品とする場合は、レジスタントプロテインを含む各種原料又はその加工品の多くは飲食品又は食材の形態であるので、これらをそのまま用いることが有利である。
【0036】
大豆由来レジスタントプロテインの場合を例にすると、これを含む飲食品又は食材としては、豆腐、凍り豆腐、豆乳、大豆タンパク質(SPI)、大豆粉、大豆肉、大豆シリアル等の一次加工品や、これらを含む乳製品、乳代替品、シリアル、加工肉、練り物、サプリメント等の二次加工品等を例示することができる。
【0037】
レジスタントプロテインの定量法としては、食物繊維のように規格化された定量法は存在しないものの、それに準拠する方式によって定量化することができる。例えば、測定対象となる試料が主に脂質及びタンパク質のみからなり、炭水化物等の他の成分を殆ど含まない試料の場合は、試料を脱脂処理した後、胃消化酵素及び腸消化酵素で順次処理し、処理後の残存物をタンパク質成分として定量化し、これをレジスタントプロテインの量とすることができる。また、測定対象となる試料が脂質及びタンパク質に加えて、他の非消化性・難消化性成分(例えばCCNFSDUの定義による狭義の「食物繊維」等)も含む試料の場合には、前述の手法により胃消化酵素及び腸消化酵素で処理した後、残存物中のタンパク質成分量を公知のタンパク質定量法(例えばケルダール法やデュマ法等)で測定し、これをレジスタントプロテインの量とすることができる。
【0038】
例として、大豆由来レジスタントプロテインの定量化の場合、HMF及びSRPについてそれぞれ独自の定量法が知られている。これらは何れを用いてもよいが、特にSRPの定量法は、実際に消化酵素を用いる方法であることから、非消化性・難消化性のタンパク質成分であるレジスタントプロテインの定量法としてより好ましい。SRPの定量法は、生体の消化条件に近い条件下で、試料を脱脂処理した後、ペプシン(胃消化酵素)及びパンクレアチン(腸消化酵素)で順次処理し、残存物をレジスタントプロテインとする方法である。測定対象となる試料が豆腐や分離大豆タンパク質等の場合、その成分は主に脂質及びタンパク質であり、炭水化物等の他の成分は殆ど含まれないため、前記の酵素処理で得られた残存物の量が、そのままレジスタントプロテインの含量となる。一方、他の非消化性・難消化性成分も含む試料の場合には、前記の酵素処理で得られた残存物中のタンパク質成分量を公知のタンパク質定量法で測定し、これをレジスタントプロテインの量とすればよい。
【0039】
SRPの定量法の詳細は、非特許文献4に記載されているが、具体的には、例えば、次の手順で実施することができる。
【0040】
測定対象となる試料を脱脂処理した後、3gを坪量し、30mLの純水を加えて懸濁させる。この懸濁液を塩酸でpH1.9に調整し、ペプシン0.03gを加え、37℃で5時間作用させる。次に、この懸濁液を水酸化ナトリウムでpH7.2に調整し、パンクレアチン0.09gを加え、37℃で14時間作用させる。その後、80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、処理後に残存する沈殿物を遠心分離で回収し、その質量を測定してレジスタントプロテイン量とする。
【0041】
処理前試料の質量に対する処理後残存物の質量(即ちレジスタントプロテイン量)の比率を求め、試料中のレジスタントプロテインの含有率とする。
【0042】
もし、試料中に他の非消化性・難消化性成分(狭義の「食物繊維」等)も含まれる場合には、前記の酵素処理で得られた残存物中のタンパク質成分をケルダール法やデュマ法等の公知の方法で定量し、これを用いて試料中のレジスタントプロテインの含有率を求める。
【0043】
[組成物]
本発明の組成物は、前述のレジスタントプロテインを含有する。レジスタントプロテインの含有量は、限定されるものではなく、用途等に応じて適宜調整すればよい。
【0044】
本発明の組成物の形態は、特に制限されるものではなく、固体、半固体、溶液、懸濁液、分散液等、任意の形態とすることができる。斯かる組成物の形態は、組成物の用途等に応じて適宜選択することが可能である。
【0045】
本発明の組成物の摂取量は用途、種類、摂取する個体の種、症状、年齢、性別等に応じて、適宜適切なものを選択すればよい。
【0046】
本発明の組成物の摂取頻度は、限定されないものの、1回の摂取でもよいが、一例によれば、例えば、通常、週に0.5回以上、又は1回以上、又は2回以上、また、例えば、通常、週に21回以下、又は14回以下、又は7回以下の頻度で摂取することができ、例えば、通常1週間以上、又は2週間以上、又は4週間以上の期間にわたり、適用することもできる。また、都度摂取するものであっても、継続的に摂取するものであっても、例えば、数か月の間隔を空け、年に数回断続的に摂取するものであってもよい。
【0047】
[用途]
本発明の組成物は、免疫賦活作用向上のために利用される。レジスタントプロテインによってインターフェロンγ産生が誘導され、免疫賦活作用が期待できる。斯かる知見は、従来のレジスタントプロテインに関する知見からは教示も示唆もされない、新規且つ意外な知見である。
【0048】
[飲食品、動物用飼料]
本発明の他の一側面は、レジスタントプロテインを含む飲食品、動物用飼料に関する。飲食品の形態としたものを「本発明の飲食品」とも称す。また、飲食品のうち、特に動物用の飲食品を「本発明の動物用飼料」とも称す。
【0049】
本発明の飲食品、動物用飼料は、レジスタントプロテインによってインターフェロンγ産生が誘導され、免疫賦活作用が期待できることから免疫賦活作用向上のために利用される。
【0050】
本発明の飲食品は、限定されるものではないが、保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品等)であってもよく、その場合種々の態様による免疫賦活作用向上を用途とする保健機能食品であることが好ましい。本発明の飲食品が、動物を対象とする飼料の場合も、その用途は任意であるが、免疫賦活作用向上を用途とする飼料であることが好ましい。
【0051】
本発明の飲食品の形態や種類は任意であり、レジスタントプロテインによる免疫賦活作用向上という所望の効果が発揮される限りにおいて、限定されない。具体的に、飲食品の形態としては、固形、半固形、液状(溶液、懸濁液、分散液、相分離液等)の何れであってもよい。また、飲食品の種類としては、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、アルコール飲料、精製水等の飲料、バター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等のスプレッド類、マヨネーズ、ショートニング、クリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープ又はソース類、ベーカリー類(パン、パイ、ケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー等)、菓子(ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット等)、栄養補助食品(丸剤、錠剤、ゼリー剤又はカプセル剤等の形態を有するサプリメント、グラノーラ様シリアル、グラノーラ様スネークバー、シリアルバー)等が挙げられるが、何れの形態であってもよい。また、通常の飲食品の他、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル、顆粒、ドリンク、ゲル、シロップ、経管経腸栄養用流動食等の各種形態が挙げられる。
【0052】
本発明の飲食品は、レジスタントプロテインによる所望の効果を実質的に妨げない限りにおいて、更に1種又は2種以上の他の任意の成分を含有していてもよい。斯かる他の成分としては、制限されるものではないが、例えばビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類、生薬等の活性成分や、種々の医薬添加剤、例えば各種の食品担体、賦形剤、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、風味剤、結着剤、崩壊剤等が挙げられる。これらの成分は、何れか1種を単独で使用してもよく、何れか2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0053】
本発明の飲食品における活性成分(レジスタントプロテイン)の含有量は、免疫賦活作用という所望の効果が発揮される限りにおいて限定されず、任意の量とすることができる。具体的な活性成分量は、本発明の飲食品の成分組成、用途、種類、摂食対象等に応じて、適宜適切なものを選択すればよい。
【0054】
本発明の飲食品の製法としては、限定されるものではないが、活性成分(レジスタントプロテイン)を、任意により用いられる1種又は2種以上の他の成分と共に、公知の食品製造法に従って混合及び調理することにより製造できる。具体的な製法は、本発明の飲食品の成分組成、用途、摂食対象、種類等に応じて、適宜適切なものを選択すればよい。或いは、既存の飲食品に活性成分を配合することにより、本発明の飲食品を製造することもできる。
【0055】
本発明の動物用飼料の詳細は、上述した本発明の飲食品の詳細と概ね同様であり、前述した本発明の飲食品の各種条件を適宜適用して実施することができる。
【0056】
[医薬品]
本発明の他の一側面は、レジスタントプロテインを含む医薬品に関する。医薬品の形態としたものを「本発明の医薬品」とも称す。
【0057】
本発明の医薬品は、レジスタントプロテインによってインターフェロンγ産生が誘導され、免疫賦活作用が期待できることから免疫賦活作用向上のために利用される。
【0058】
本発明の医薬品は、限定されるものではないが、種々の態様による免疫賦活作用を用途とする医薬品であることが好ましい。
【0059】
本発明の医薬品は、活性成分(レジスタントプロテイン)による所望の効果を実質的に妨げない限りにおいて、更に1種又は2種以上の他の任意の成分を含有していてもよい。斯かる他の成分としては、制限されるものではないが、例えば各種の医薬活性成分や、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類、生薬等の薬効成分、更には医薬的に許容可能な種々の医薬添加剤、例えば各種の医薬担体、賦形剤、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、風味剤、結着剤、崩壊剤等が挙げられる。これらの成分は、何れか1種を単独で使用してもよく、何れか2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0060】
本発明の医薬品における各活性成分(レジスタントプロテイン)の含有量は、免疫賦活作用という所望の効果が発揮される限りにおいて限定されず、任意の量とすることができる。具体的な活性成分量は、本発明の医薬品の成分組成、用途、投与対象、投与経路、剤形、投薬レジメン等に応じて、適宜適切なものを選択すればよい。
【0061】
本発明の医薬品の剤型としては、限定されるものではないが、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤、吸入剤、経皮製剤、坐剤等の経腸製剤、点滴剤、注射剤等の非経口剤などが挙げられる。なお、液剤や懸濁剤等の液体製剤の場合は、服用直前に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形態であってもよい。また、錠剤や顆粒剤等の場合は、その表面が周知の方法によって被覆されていてもよい。また、注射剤の場合は、必要に応じて溶解補助剤を含む滅菌蒸留水又は滅菌生理食塩水の溶液の形態であってもよい。具体的な剤形は、本発明の医薬品の成分組成、用途、投与対象、投与経路、投薬レジメン等に応じて、適宜適切なものを選択すればよい。
【0062】
本発明の医薬品の製法としては、限定されるものではないが、活性成分(レジスタントプロテイン)を、任意により用いられる1種又は2種以上の他の成分と共に、公知の製剤法に従って混合及び製剤することにより製造することができる。本発明の医薬品の具体的な製法は、本発明の医薬品の成分組成、用途、投与対象、投与経路、剤形、投薬レジメン等に応じて、適宜適切なものを選択すればよい。
【0063】
本発明の医薬品の投与経路は限定されないが、免疫賦活作用という所望の効果が充分に発揮される投与経路とすることが好ましい。例としては、経口投与や経腸投与(経管投与、腸内注入投与等)が挙げられる。具体的な投与経路は、本発明の医薬品の成分組成、用途、投与対象、剤形、投薬レジメン等に応じて、適宜適切なものを選択すればよい。
【0064】
本発明の医薬品の投薬レジメンも、限定されるものではなく、本発明の医薬品の成分組成、用途、投与対象、剤形、投与経路等に応じて、適宜適切なものを選択すればよい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
[材料及び方法]
<レジスタントプロテインの調製>
凍り豆腐タンパク質は、凍り豆腐の粉末からソックスレー抽出機(E-816,Buchi)を使用し、ヘキサン:2-プロパノール(3:2)溶媒にて脱脂した粉末を風乾させることで調製した。凍り豆腐タンパク質を約8倍量の水に分散した後,塩酸でpHを1.9に調整後、水の量がタンパク質の10倍になるように加え、さらに基質重量の1質量%にあたる量のぺプシン(Sigma)を添加した。37℃で5時間反応後、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.2とし、元の基質重量の3%にあたる量のパンクレアチン(和光純薬)を加えて、37℃で14時間反応させた。その後、80℃で10分間処理して酵素失活させた。次に、塩酸でpHを4.5とし、3000×gで15分間遠心分離し、沈殿を回収した。得られた沈殿を水への分散と遠心分離を3回繰り返し、最終的に得られた沈殿物を凍結乾燥したものをレジスタントプロテインとした。
【0067】
以下、このようにして調製したレジスタントプロテインを「本実施例のレジスタントプロテイン」という。
【0068】
<各物質のインタ-フェロンγ(IFN-γ)産生誘導能の測定>
脾臓細胞は6~8週齢のC57BL/6マウスより得た。マウスの脾臓細胞を単離し、その懸濁液を40 μmナイロン製セルストレーナー(BD Falcon)に通した。次に、赤血球を除去するため、0.83 %NH4Clを含む0.17 M Tris-HCl緩衝液(pH7.65)で細胞を処理した。脾臓細胞は10%FBSとペニシリン G (100 U/m)、ストレプトマイシン(100μg/mL)(Sigma)、2-Mercaptoethanolを含むRPMI-1640培地(Sigma)を加えて、10,000,000 cells/mLの濃度に再懸濁した。96well平底プレートに本実施例のレジスタントプロテイン、本実施例のレジスタントプロテインを構成するアミノ酸混合物、リポポリサッカライド(LPS:Sigma)、Polymyxin B(PB:Sigma、4 μg/mL)共存下および非共存下で脾臓細胞を500,000 cells/wellで播種し、37℃、5%CO2インキュベーター内にて48時間の培養を行った。その後、上清のIFN-γ濃度をELISAキット(eBioscience, San Diego, CA, USA)で測定し、IFN-γ産生誘導能の指標とした。
【0069】
[結果および考察]
[結果]
本実施例のレジスタントプロテインによるインターフェロンγ(IFN-γ)産生誘導能を測定するために、脾臓免疫細胞に対して本実施例のレジスタントプロテインを添加して培養した後に上清のIFN-γ濃度を測定した。その結果、本実施例のレジスタントプロテインの濃度依存的にIFN-γの濃度が高くなっている事が示された(
図1 左)。
【0070】
次に、本実施例のレジスタントプロテインを構成するアミノ酸を遊離の状態で混合したアミノ酸混合物についても同様に調べたところ、アミノ酸混合物については、IFN-γ産生誘導能は観察されなかった(
図1 右)。
【0071】
リポポリサッカライド(LPS)によるIFN-γの産生誘導能は、Polymyxin B(PB)の存在により殆ど抑制されたのに対して、本実施例のレジスタントプロテインによるIFN-γの産生誘導能は、PBの添加によっても約8割の産生能が残存していた(
図2)。
【0072】
[考察]
本実施例のレジスタントプロテインは、免疫細胞のインターフェロンγ(INF-γ)の産生を誘導した。このことから、本実施例のレジスタントプロテインを含む組成物、飲食品、動物用飼料、医薬品には、免疫賦活作用があることが期待される。
【0073】
レジスタントプロテインと免疫賦活との関係が考察されている例としてはセリシン(絹タンパク質)摂取による腸管免疫への影響がある。これは腸内細菌叢を介した効果であると考察されている(非特許文献5)。
【0074】
従って、本報告は、レジスタントプロテインが直接に免疫細胞に作用した結果を示す初めての例である。
【0075】
本願発明者は、レジスタントプロテインを構成するアミノ酸がその総体としてIFN-γ産生誘導するかどうかを確かめるために、レジスタントプロテインを構成するアミノ酸を遊離の状態でその割合に従って混合し、IFN-γ産生誘導能を測定した。
【0076】
図1に示したように遊離アミノ酸混合物はIFN-γ産生誘導能を持たなかったことから、本実施例のレジスタントプロテインがIFN-γ産生誘導能を発揮する鍵の1つとして、タンパク質としての高次構造を有していることがあることが考えられた。
【0077】
レジスタントプロテインはルミナコイドの定義にもあるように、消化されにくいことで腸管内においてもタンパク質の高次構造を保っていると考えられ、免疫細胞に対するIFN-γ産生誘導能を発揮することで、免疫賦活作用の向上に繋がっていると考えられる。
【0078】
食品成分中でIFN-γ産生誘導能を示す物質として良く知られた物にリポポリサッカライド(LPS)がある。このLPSによるIFN-γ産生誘導能はToll-like receptor4(TLR4)を介した作用であることが知られている(非特許文献6)。このため、LPSのIFN-γ産生誘導能はPolymyxin B(PB)の共存によって殆どが消失した(
図2)。
【0079】
その一方、本実施例のレジスタントプロテインにおいてはPBの共存によって有意なIFN-γ産生誘導能の減少は確認されたものの、その減少割合はLPSと比較して小さく、8割程度のIFN-γ産生誘導能が残存していた。
【0080】
また、野沢菜不溶性画分についてもPBの共存によってIFN-γ産生誘導能が50%以下に減少することが報告されている(非特許文献2)。
【0081】
以上のことから、本実施例のレジスタントプロテインによるIFN-γ産生誘導能の向上にはこれまでに良く知られているLPSや野沢菜不溶性画分とは異なり、TLR4を介する経路以外による部分も大きいことが考察される。