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  • 特許-口中速崩壊性固形食品及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】口中速崩壊性固形食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/34 20060101AFI20240920BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240920BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A23G3/34 101
A23L5/00 D
A61K9/20
A61K47/36
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023042216
(22)【出願日】2023-03-16
(62)【分割の表示】P 2022543964の分割
【原出願日】2021-08-17
(65)【公開番号】P2023078297
(43)【公開日】2023-06-06
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2020138257
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390020189
【氏名又は名称】ユーハ味覚糖株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505302742
【氏名又は名称】株式会社夢実耕望
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】松川 泰治
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
(72)【発明者】
【氏名】久保田 史
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-342128(JP,A)
【文献】特開2016-056137(JP,A)
【文献】特開2000-095674(JP,A)
【文献】特開平08-291051(JP,A)
【文献】特開平11-137208(JP,A)
【文献】特開2011-092071(JP,A)
【文献】特開2001-131091(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0034302(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 3/34
A23L 5/00
A61K 9/20 - 47/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質と結合剤液とを含む原料を用いて、原料顆粒を得るための造粒工程と、
前記原料顆粒を乾燥させて乾燥顆粒を得るための第1の乾燥工程と、
前記乾燥顆粒を圧縮し固形圧縮物を得るための圧縮工程と、
前記固形圧縮物を加湿し、加湿圧縮物を得るための加湿工程と、
前記加湿圧縮物を乾燥させ、乾燥圧縮物を得るための第2の乾燥工程と、を含み、
前記原料顆粒は、粒径分布の中心値で代表される粒径(d)が0.5mm以上1.5mm以下であり、長さ(t)が0.75mm以上7.5mm以下であり、アスペクト比(t/d)が1.5以上5以下であり、硬度が1gf以上10gf以下である水溶性成分を90質量%以上含む固形食品の製造方法であって、
前記水溶性成分は、前記固形食品の質量を100質量%としたときに、糖質を60質量%以上含み、
前記結合剤液は、粘度が80mPa・s以上1×10mPa・s以下の溶液であり、
前記圧縮工程は、前記乾燥顆粒と、前記乾燥顆粒の重量の0.1%以上5%以下の重量の滑沢剤とを混合したものを10kgf/cm以上300kgf/cm以下の圧縮力で圧縮し、固形圧縮物を得るための工程であり、
前記加湿工程は、前記固形圧縮物の重量の0.5%以上3%以下の重量の水分を、前記固形圧縮物に含ませ加湿圧縮物を得るための工程である、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記固形食品が、栄養補助食品、サプリメント、又は菓子である、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記固形食品が、面粗さが20μm以上400μm以下である栄養補助食品である、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記固形食品の空隙率は、17%以上35%以下である、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記固形食品は、口腔内速崩壊測定装置を用いた崩壊試験により、5秒以上65秒以下で崩壊する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,口腔内で迅速に崩壊する固形食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開WO2018/229894号パンフレットには,ぶどう様食感を有する菓子が記載されている。この菓子は,ゲル組成物の固化物とそれを被覆するコラーゲンケーシングを含む。このゲル組成物を含む菓子は,口腔内で迅速に解けない。
【0003】
錠剤は,口腔内で崩壊することが意図されていないので,口腔内で迅速に溶けない。このため,錠剤は,その表面に塗布されている矯味剤の味がする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2018/229894号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は,運搬中に十分な強度を維持しながら,口腔内で迅速に崩壊する固形食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は,例えば,所定量の水溶性糖質を含む固形食品において,所定範囲の空隙率を有するようにすることで,解決できる。
【0007】
この明細書の最初の発明は,水溶性成分を90質量%以上含む固形食品に関する。
固形食品の質量を100質量%としたときに,固形食品は,水溶性成分である糖質を60質量%以上含む。そして,固形食品の空隙率は,17%以上35%以下である。
これにより,この固形食品は,口腔内速崩壊測定装置を用いた崩壊試験により,5秒以上65秒以下で崩壊する。
【0008】
固形食品の例は,栄養補助食品である。
【0009】
糖質は,25℃の水への溶解度が20g/100g HO以上300g/100g HO以下である糖類及び糖アルコールのいずれか又は両方を,固形食品の質量を100質量%としたときに,60質量%以上含むものが好ましい。糖質はエリスリトールを,固形食品の質量を100質量%としたときに,30質量%以上含むものが好ましい。
【0010】
固形食品は,体積が0.5cm以上10cm以下であり,厚みが2mm以上であるものが好ましい。
【0011】
固形食品は,面粗さが5μm以上500μm以下であるものが好ましい。
【0012】
この明細書の上記とは別の発明は,固形食品の製造方法に関する。この方法は,造粒工程と,第1の乾燥工程と,圧縮工程と,加湿工程と,第2の乾燥工程と,を含む。
造粒工程は,糖質と結合剤液とを含む原料を用いて,原料顆粒を得るための工程である。糖質及び結合剤液以外の成分の例は機能性成分である。
第1の乾燥工程は,原料顆粒を10℃以上60℃以下の環境下で乾燥させて乾燥顆粒を得るための工程である。
圧縮工程は,乾燥顆粒を圧縮し固形圧縮物を得るための工程である。
加湿工程は,固形圧縮物を加湿し,加湿圧縮物を得るための工程である。
第2の乾燥工程は,加湿圧縮物を10℃以上60℃以下の環境下で乾燥させ,乾燥圧縮物を得るための工程である。
この方法で得られる固形食品は,先に説明したいずれかの固形食品である。
具体的には,固形食品は,水溶性成分を90質量%以上含む固形食品であって,水溶性成分は,固形食品の質量を100質量%としたときに,糖質を60質量%以上含む,固形食品である。
【0013】
結合剤液は,粘度が10mPa・s以上1×10mPa・s以下の溶液であり,原料中の糖質の重量を結合剤液の重量で除した重量比が,8以上20以下であるものが好ましい。
【0014】
原料顆粒は,粒径分布の中心値で代表される粒径(d)が0.5mm以上1.5mm以下であり,長さ(t)が0.75mm以上7.5mm以下であり,アスペクト比(t/d)が1.5以上5以下であるものが好ましい。
【0015】
原料顆粒は,硬度が1gf以上10gf以下であるものが好ましい。
【0016】
圧縮工程は,乾燥顆粒と,乾燥顆粒の重量の0.1%以上5%以下の重量の滑沢剤とを混合したものを10kgf/cm以上300kgf/cm以下の圧縮力で圧縮し,固形圧縮物を得るための工程であるものが好ましい。
【0017】
加湿工程は,固形圧縮物の重量の0.5%以上3%以下の重量の水分を,固形圧縮物に含ませ加湿圧縮物を得るための工程であるものが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
この明細書に記載される発明によれば,運搬中に十分な強度を維持しながら,口腔内で迅速に崩壊する固形食品及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は,固形食品の製造工程例を示すフローチャートである。
図2図2は圧縮力を87kgf/cmとして得られた固形食品(実施例)の表面を示す図面に代わる写真である。
図3図3は圧縮力を566kgf/cmとして得られた固形食品(比較例)の表面を示す図面に代わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0021】
この明細書の最初の発明は,固形食品に関する。固形食品は,常温にて固形状である食品を意味する。固形食品の例は,栄養補助食品,サプリメント,菓子,保存食,非常食,及び調味料である。固形食品は通常経口にて直接摂取するものであることが好ましい。固形食品は,溶媒(例えば水)に溶解させて摂取するものであってもよい。固形食品は,機能性成分を含むものが好ましい。固形食品は,医薬や薬剤であってもよいし,医薬部外品であってもよい。
【0022】
固形食品は,固形食品を100質量%としたときに,水溶性成分を90質量%以上含む。水溶性成分を90質量%以上含むことで,口腔内に入れた際のざらざら感を軽減できる。水溶性成分は,常温(25℃)において,水に溶解する成分を意味する。水溶性成分の例は,水溶性の糖質である。糖質の例は,糖類,オリゴ糖,多糖類及び糖アルコールである。糖類は,単糖及び二糖類を含む。固形食品の質量を100質量%としたときに,固形食品は,水溶性成分である糖質を60質量%以上含む。水溶性成分には,水に溶けるものの他,乳化状態のものや最大径が10ミクロン以下の不溶性微粒子のものも含んでもよい。水溶性成分には,口の中でざらざら感がない成分が含まれてもよい。
【0023】
水溶性の糖質は,25℃の水への溶解度が20g/100g HO以上300g/100g HO以下が好ましく,20g/100g HO以上250g/100g HO以下でもよく,50g/100g HO以上200g/100g HO以下でもよい。そのような糖の例は,ブドウ糖,ガラクトース,マンノース,フルクトース,ラクトース(乳糖),スクロース,マルトース,エリスリトール,パラチノース,キシリトール,ソルビトール,及び還元パラチノースの1種又は2種以上の混合糖である。実施例3により示された通り,乳糖を主な糖質とする固形食品は,口中でざらざら感が残る場合があるので,乳糖以外の糖質を主成分とするものや乳糖を含まないものが好ましい。また,ソルビトールは,溶解性が高く,成形が容易ではない。このため,ソルビトール以外の糖質を主成分とするものやソルビトールを含まないものが好ましい。
【0024】
固形食品は,上記の水溶性の糖質である糖類及び糖アルコールのいずれか又は両方を,固形食品の質量を100質量%としたときに,60質量%以上(又は70質量%以上,80質量%以上,90質量%以上)含むものが好ましい。固形食品は,固形食品の質量を100質量%としたときに,エリスリトールを,30質量%以上(又は40質量%以上,50質量%以上,60質量%以上,70質量%以上,80質量%以上,90質量%以上)含むものが好ましい。実施例により実証された通り,エリスリトールを主な糖質として含むものは,成形性や溶解性に優れる。
【0025】
固形食品は,機能性成分を含むものが好ましい。固形食品の質量を100質量%としたときに,機能性成分は0.1質量%以上35質量%以下であることが好ましく,0.1質量%以上10質量%以下でもよく,0.1質量%以上1質量%以下でもよく,1質量%以上5質量%以下でもよい。機能性成分の例は,ビタミン類,ミネラル類,乳酸菌,アミノ酸,ペプチド,タンパク質,脂質,核酸,抗酸化物質,香料,及び各種の有効成分である。固形食品が機能性成分を含むものは,固形食品が口腔内で迅速に崩壊するため,口腔内で機能性成分の濃度を高めることができ,口腔内における機能性成分の吸収率を高められるので,即効性が期待される。そのような例は,ビタミン類である。また,機能性成分を含む物は,口腔乾燥症やシェーグレン症候群といった口腔内の渇きに関する機能性食品として特に有効である。
【0026】
固形食品の空隙率は,17%以上35%以下である。これにより,この固形食品は,口腔内速崩壊測定装置を用いた崩壊試験により,5秒以上65秒以下で崩壊する。この固形食品は,基本的には運搬段階では崩壊せずに,口腔内で迅速に崩壊することが期待される。このため,上記の通り水溶性の糖質を多く含みつつ,適切な範囲の空隙率を有する。空隙率は,固形食品が含有する糖質の種類や割合を考慮して,適宜調整すればよい。空隙率は,17.5%以上34.5%以下でもよく,17.5%以上26%以下でもよく,25%以上27%以下でもよく,24.5%以上26.5%以下でもよく,30%以上34.5%以下でもよい。
【0027】
固形食品の形状は任意である。固形食品の形状の例は,角を取った円柱状(タブレット状),角を取った四角柱状,球状,楕円球状,及び角を取った多角柱状である。固形食品は,体積が0.5cm以上10cm以下であり,厚みが2mm以上であるものが好ましい。固形食品の体積は,1cm以上5cm以下でもよいし.1cm以上40cm以下でもよいし.0.5cm以上4cm以下でもよいし.3cm以上10cm以下でもよいし.4cm以上10cm以下でもよいし.5cm以上10cm以下でもよい。厚みは,固形食品を床に置いたときに最も安定性が高い置き方をした際の高さを厚みとすればよい。固形食品の厚みは,上記の体積を考慮して適切な厚さとすればよい。固形食品の厚みの例は,2mm以上であり,3mm以上でもよく,5mm以上でもよく,1cm以上でもよい。また,厚みは,3mm以下でもよく,5mm以下でもよく,1cm以下でもよく,2cm以下でもよい。
【0028】
固形食品ひとつ当たりの重量は,適宜調整すればよい。固形食品ひとつ当たりの重量の例は,0.1g以上10g以下であり,0.5g以上5g以下でもよいし,1g以上5g以下でもよい。
【0029】
固形食品の面粗さは,5μm以上500μm以下であるものが好ましく,20μm以上400μm以下でもよく,50μm以上450μm以下でもよく,100μm以上3500μm以下でもよく,150μm以上300μm以下でもよい。面粗さは,例えば,ISO 25178に規定される面粗さに基づいて求めればよい。面粗さが小さいと,表面積が小さくなり,固形食品が崩壊しにくい。一方,面粗さが大きいと,成形性に優れず,崩壊しやすい。
【0030】
本発明の固形食品は,口腔内速崩壊測定装置を用いた崩壊試験により,5秒以上65秒以下で崩壊する。これは口腔内を模した試験であり,健常人の口腔内において,固形食品が5秒以上65秒以下で崩壊することを意味する。崩壊とは,所定の大きさ以下の塊になるまでを意味する。崩壊時間の好ましい例は,7秒以上65秒以下であり,10秒以上65秒以下が好ましく,60秒以下が好ましく,55秒以下が好ましく,40秒以下が好ましく,35秒以下が好ましく,30秒以下が好ましい。糖質の量や空隙率,機能性成分の量,及び成型方法を調整することで,崩壊時間を調整できる。通常の崩壊剤を含む錠剤は,多くの水分を介して溶解する。このため錠剤を口腔内で溶解させるためには多量の水分が必要となり,のどの渇きを惹き起こす。一方,本発明の固形食品は,少量の水分(唾液)により,迅速に崩壊するので,のどの渇きを惹き起こさない。また,固形食品が香料を含む場合,口腔内で迅速に香料が溶け出すので,迅速に香りが広がることとなる。
【0031】
この明細書の上記とは別の発明は,固形食品の製造方法に関する。
図1は,固形食品の製造工程例を示すフローチャートである。
図1に示される通り,この方法は,造粒工程(S101)と,第1の乾燥工程(S102)と,圧縮工程(S103)と,加湿工程(S104)と,第2の乾燥工程(S105)と,を含む。この方法で得られる固形食品は,先に説明したいずれかの固形食品である。
具体的には,固形食品は,水溶性成分を90質量%以上含む固形食品であって,水溶性成分は,固形食品の質量を100質量%としたときに,糖質を60質量%以上含む,固形食品である。
【0032】
造粒工程(S101)は,糖質と結合剤液とを含む原料を用いて,原料顆粒を得るための工程である。糖質及び結合剤液以外の成分の例は機能性成分である。
結合剤液の例は,粘度が10mPa・s以上1×10mPa・s以下の溶液であり,粘度が10mPa・s以上5×10mPa・s以下でもよく,粘度が10mPa・s以上1×10mPa・s以下でもよく,粘度が1×10mPa・s以上5×10mPa・s以下でもよく,粘度が1×10mPa・s以上1×10mPa・s以下でもよい。結合剤液を構成する結合剤(例えば粉末のもの)の例は,エチルセルロース,ヒプロメロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース(HPC)のいずれか又は2種以上の混合物である。これらの中では,ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)が好ましい。原料中の糖質の重量を結合剤液の重量で除した重量比は,8以上20以下であるものが好ましく,10以上20以下でもよく,15以上20以下でもよく,8以上15以下でもよく,10以上15以下でもよい。
【0033】
原料顆粒は,粒径分布の中心値で代表される粒径(d)が0.5mm以上1.5mm以下であり,長さ(t)が0.75mm以上7.5mm以下であり,アスペクト比(t/d)が1.5以上5以下であるものが好ましい。原料顆粒は,硬度が1gf以上10gf以下であるものが好ましく,3gf以上10gf以下でもよいし,3gf以上6gf以下でもよいし, 5gf以上10gf以下でもよい。
【0034】
造粒工程(S101)は,原料顆粒の形状をある一定の範囲内のものにする方法が好ましい。具体的な方法の例は,押出造粒である。原料顆粒の形状を例えば柱状のものにそろえることで,低い圧縮力で固形圧縮物を得ることができるようになり,空隙を分散させることができる。通常の造粒物を圧縮成形すると小さな空隙が分散するのに対して,ある程度大きな顆粒に揃えることで,低圧縮力で成形することができて,成形物中の空隙率が大きくなるだけではなく,空隙を分散させないで大きな空隙の塊にすることができる。さらに,顆粒の強度を高めることで,成形機に投入されるまでに顆粒が壊れないで形状を維持して空隙を埋めることを防止し,さらに圧縮課程の初期段階で壊れて空隙が減少するのを防できる。成形物の硬度付与については,後述するように,原料は水溶性成分が大部分を占めるので,加湿して乾燥することで成形物表面の一部を溶かして実用的な強度を確保できる。
【0035】
圧縮成形機で汎用されている打錠機の場合,成形物の重量は臼に充填する粉や顆粒の体積に依存する。本発明では,顆粒の形状を揃えることで空隙率を確保することが好ましく,空隙率の至適範囲が狭いことから,顆粒の充填重量の変動を小さくすることが好ましい。顆粒の充填重量の変動を小さくするには,顆粒の大きさを揃え,且つ,顆粒の大きさが臼よりも小さくすることが有効である。したがって,臼の開口部(顆粒を取り込み面)の長さと顆粒の粒子径の比が3:1を超えないようにするのが望ましい。例として,直径15mmの円形の臼に充填する顆粒の長さは5mm以下にするのが望ましい。顆粒の長さが1mmの場合,顆粒の粒径と長さの比であるアスペクト比の例は5である。好ましくは顆粒の長さが3mm以下で,このときのアスペクト比は3である。重量変動を小さくする場合,顆粒の長さを粒径に近付けるのが望ましいが,顆粒の大きさ自体が小さくなり過ぎると成形物中の空隙の確保が困難になることから,最低でも顆粒の長径と短径が同じであるアスペクト比1以上が好ましい。安定して成形物中の空隙を確保する際の顆粒形状や大きさは,長径が臼孔の開口部の口径の1/3以下であり,顆粒のアスペクト比が1~5,好ましくは1.5~5である。
【0036】
造粒で得た顆粒が成形機に投入されるまでは形状を維持することが好ましい。さらに,成形機での圧縮課程の初期段階で壊れてしまうと空隙の確保が出来なくなるが,圧縮課程の終了時には壊れていないと成形物自体が固くならない。したがって,顆粒には至適の硬さを有することが好ましく,硬さの付与には造粒時に添加する水溶性高分子の結合剤液の粘度が重要である。顆粒の硬度が1~10gfであることが望ましく,この硬さを得るために添加する結合剤液の粘度は10~1000mPa・sである。
【0037】
第1の乾燥工程(S102)は,原料顆粒を10℃以上60℃以下の環境下で乾燥させて乾燥顆粒を得るための工程である。温度や乾燥時間は適宜調整すればよい。このように低温において乾燥させるため,機能性成分の機能を損なうことなく乾燥顆粒を得ることができる。乾燥温度の好ましい例は,20℃以上60℃以下であり,25℃以上60℃以下でもよく,30℃以上55℃以下でもよく,25℃以上50℃以下でもよい。乾燥時間の例は,10分以上2日以下であり,1時間以上1日以下でもよいし,2時間以上15時間以下でもよいし,3時間以上12時間以下でもよいし,4時間以上8時間以下でもよい。
【0038】
圧縮工程(S103)は,乾燥顆粒を圧縮し固形圧縮物を得るための工程である。 圧縮工程は,乾燥顆粒と,乾燥顆粒の重量の0.1%以上5%以下の重量の滑沢剤とを混合したものを10kgf/cm以上300kgf/cm以下の圧縮力で圧縮し,固形圧縮物を得るための工程であるものが好ましい。
【0039】
加湿工程(S104)は,固形圧縮物を加湿し,加湿圧縮物を得るための工程である。加湿工程は,固形圧縮物の重量の0.5%以上3%以下の重量の水分を,固形圧縮物に含ませ加湿圧縮物を得るための工程であるものが好ましい。加湿率が増すと成形物の強度は増すが,口中の崩壊時間も増すことから,加湿率を調整することが望ましい。口中の速溶時間が60秒以下にする加湿率は3%以下であり,30秒以下にする加湿率は2%以下である。加湿率0.5%以上で実用的な硬度2kgf以上が得られることから,加湿率(重量)は0.5~3%,好ましくは0.5~2%,さらに好ましくは0.5~1%である。このように水分が少ない状況において成形するため,機能性成分の機能を損なう事態を効果的に防止できる。加湿工程は,高温多湿環境において行うことが好ましい。加湿工程の温度の例は,40℃以上100℃以下であり,50℃以上90℃以下でもよく,60℃以上90℃以下でもよく,40℃以上80℃以下でもよいし,50℃以上75℃以下でもよい。加湿工程の湿度の例は,40%RH以上100%RH以下であり,50%RH以上90%RH以下でもよく,60%RH以上90%RH以下でもよく,40%RH以上80%RH以下でもよいし,50%RH以上75%RH以下でもよい。加湿時間は湿度などにより適宜調整すればよい。加湿時間の例は,1秒以上1時間以下であり,2秒以上10分以下でもよいし,3秒以上5分以下でもよいし,5秒以上3分以下でもよいし,5秒以上1分でもよい。
【0040】
第2の乾燥工程(S105)は,加湿圧縮物を10℃以上60℃以下の環境下で乾燥させ,乾燥圧縮物を得るための工程である。温度や乾燥時間は適宜調整すればよい。乾燥温度の好ましい例は,20℃以上60℃以下であり,25℃以上60℃以下でもよく,30℃以上55℃以下でもよく,25℃以上50℃以下でもよい。乾燥時間の例は,10分以上2日以下であり,1時間以上1日以下でもよいし,2時間以上15時間以下でもよいし,3時間以上12時間以下でもよいし,4時間以上8時間以下でもよい。
【0041】
得られた乾燥圧縮物をそのまま固形食品としてもよい。また,得られた乾燥圧縮物を加熱殺菌して,包装し,固形食品としてもよい。
【実施例
【0042】
試験例1
顆粒の強度試験(n=5)
JIS Z8841に準拠し,岡田精工株式会社製 粒子硬度測定装置 NEW GRANOを使用して,5μm/sの速度で破断端子を顆粒に押しつけて,破断したときの荷重を測定した。
【0043】
試験例2
顆粒のアスペクト比(長さ/粒径)の測定(n=10)
KEYENCE株式会社製 マイクロスコープ VHX-970F(50倍)を使用して,長さ(短径)と長径を測定し,アスペクト比を算出した。
【0044】
試験例3
成形物の空隙率の測定(n=3)
成形物の空隙率を下記の式から算出した。
成形物の空隙率 (%) =((成形物の体積―粉の体積)/成形物の体積)×100
成形物の体積は,寸法の測定値から算出した。粉の体積は,密度計micromeritics製AccuPyc 1330での粒子密度と重量の測定値から算出した。
【0045】
試験例4
成形物の強度試験(n=5)
JIS Z8841に準拠し,岡田精工株式会社製 ロードセル式錠剤硬度計 PC-30を使用して,0.5mm/sの速度で破断端子を成形物に押しつけて,破断したときの荷重を測定した。
【0046】
試験例5
成形物の崩壊試験(n=3)
岡田精工株式会社製 口腔内崩壊錠測定装置 トリコープテスタを使用して,一片が2.1mm角のメッシュを有する金属板2枚の間に成形物を置き,37℃の人工唾液を高さ80mmの位置から,6mL/minの一定速度で成形物に滴下し,成形物が壊れて残留物がなくなるのに要した時間を測定した。崩壊時間の検出は,成形物が壊れてメシュを有する金属板上に残留物がなくなり,上下の金属板の接触をセンサーで検知する機構である。人工唾液は,蒸留水1Lに塩化カリウム 1.47g,塩化ナトリウム 1.44g,ポリソルベート80を3g加えて溶かして得た。
【0047】
試験例6
成形物表面の形状評価(n=3)
KEYENCE株式会社製 ワンショット3D形状測定機 VR-5000を使用して,成形物表面のプロファイル計測により,基線からの谷の深さを測定し,ISO 25178に準拠し最大値で示した。
【実施例1】
【0048】
製造工程と特性値(顆粒の製造工程,圧縮成形工程,加湿・乾燥工程)
エリスリトール700g,L-アスコルビン酸300gをダルトン株式会社製 万能混合撹拌機5DMで3分間混合した後,7.5%HPC-L水溶液(粘度220mPa・s)46gを添加して,3分間混合した。混合した粉体を畑鐵工所株式会社製 円筒式造粒機HG-300V(孔径0.8mm)にて押し出し造粒した後,岡田精工株式会社製 通風式箱型乾燥機CDP-12-9.6WDSにて50℃で一晩,乾燥した。
乾燥して得られた顆粒を10mesh篩で通過させた後,顆粒の重量の1%に相当するステアリン酸カルシウムを添加して混合した。混合したものを岡田精工株式会社製 単発式打錠機 N-30Eで,直径15mm円形の杵を使用して成形物の目標重量1gとして,171kgf/cmの圧縮力で成形した。得られた圧縮成形物を70℃・80%RHの恒温恒湿器に10秒間おいて加湿(増加重量は1%)した後,通風式乾燥機内40℃で一晩乾燥して成形物を得た。
顆粒の直径は0.8mm,長さの平均は2.5mmで,アスペクトは3.1であり,顆粒硬度は4gfであった。成形物の直径は15mm,厚み5.02mm,体積0.86cmであり,硬度4.2kgf,空隙率23.2%,崩壊時間17秒であった。
【実施例2】
【0049】
圧縮力と空隙率,崩壊時間の関係
実施例1で得たステアリン酸カルシウム添加し混合済みの顆粒について,単発打錠機を使用し,圧縮力を変化させて製造した。得られた成形物を実施例1と同様に加湿した,乾燥した。得られた成形物の空隙率と崩壊時間の測定結果を表に示した。
結果より,圧縮力が増すにしたがい空隙率は減少し,崩壊時間は長くなったが,空隙率17.9%以上で崩壊時間は60秒以内であった。
【0050】
【表1】
【実施例3】
【0051】
VC10%添加系で糖類比較(圧縮力,空隙率を合わせる)
造粒工程において,糖アルコール・糖類900g,L-アスコルビン酸100gをとり,結合剤液として5%HPC-L水溶液(粘度80mPa・s)70gを添加した。圧縮成形工程では,空隙率が同程度になるように圧縮力で調整した。その他の操作条件は実施例1にしたがって得られた成形物(加湿・乾燥工程済み)の特性値の評価結果を表に示した。
結果より,試験した糖アルコール・糖類の崩壊時間は60秒以内であった。乳糖を使用した場合において,口中でのざらざら感が残り,食感の観点から乳糖の使用は好ましくない。
【0052】
【表2】
【実施例4】
【0053】
結合剤液の粘度(HPC-L,M)と顆粒硬度,成形物の特性
造粒工程において,エリスリトール900g,L-アスコルビン酸100gをとり,結合剤液中の水溶性高分子(HPC)の濃度や種類を変化させて造粒した。圧縮成形工程では,空隙率が同程度になるように圧縮力で調整した。その他の操作条件は実施例1にしたがって,得られた成形物(加湿・乾燥工程済み)の特性値の評価結果を表に示した。
結果より,結合剤液の粘度が高くなるにしたがって,得られる顆粒硬度は高くなり,圧縮後の成形物の硬度も高くなった。また,粘度調整にHPCの低粘度タイプ(HPC-L)と中粘度タイプ(HPC-M)を併用することが可能であり,同程度の顆粒や成形物が得られた。また,高粘度の結合剤液の調製では,HPC-Mの使用量を多くすることもできる。
水溶性成分が高い配合組成においても,水単独での造粒では脆い顆粒となり,この脆い顆粒を圧縮成形しても固まらず成形物は得られなかった。このことから,造粒時に水溶性高分子の結合剤(水溶液のものであり,結合剤液の粘度10mPa・s以上)が好ましい。
【0054】
【表3】
【実施例5】
【0055】
加湿の程度vs強度,崩壊時間
製造法は実施例1にしたがった。造粒工程において,エリスリトール900g,L-アスコルビン酸100gをとり,結合剤液として5%HPC-L水溶液70g(糖類/結合剤液比;12.9)を添加して造粒した後,乾燥した。圧縮成形工程では,圧縮力(115kgf/cm)と空隙率(25%)が同程度になるように条件を揃えた。得られた圧縮成形物を70℃・80%RHの恒温恒湿器内に置いて加湿して,一定時間毎に取り出した後,通風式乾燥機内40℃で一晩乾燥して成形物を製造した。成形物の加湿の前後の重量を測定して,増加した重量率を加湿率とした。
結果より,加湿率(加湿時間)の増加にともない,成形物の硬度と崩壊時間も増加した。加湿率3%以内で崩壊時間が60秒以内であった。実用的な成形物の硬度は3~6kgfであり,過剰な加湿は崩壊時間を遅延させてしまう。
【0056】
【表4】
【実施例6】
【0057】
糖類の併用による味の改善例(エリスリトール使用量30%)
造粒工程において,エリスリトール350g,ブドウ糖450g,L-アスコルビン酸200gをとり,結合剤液は5%HPC-L水溶液,70g(糖類/結合剤液比;11.4)を添加して造粒した後,乾燥した。得られた顆粒1%重量に相当するステアリン酸カルシウムを添加し,圧縮力120kgf/cmで圧縮成形した。得た成形物は,空隙率25%,硬度3.5kgf,崩壊時間19秒であり良好な特性値を示した。
糖類がエリスリトール単独の時よりもブドウ糖を併用することで甘味が増して,L-アスコルビン酸の酸味を緩和することができた。L-アスコルビン酸のように味の強い機能性成分について,糖類を組み合わることで味を調整(マスキング)することが可能である。
【実施例7】
【0058】
実生産規模での検証1
表に示した4種類の配合割合で20kgスケールの製造を行った。HPC-L,微粒二酸化ケイ素,香料,ステアリン酸カルシウムを除いた原料を岡田精工株式会社製 ニュースピードニーダー NSK-650 S型で3分間混合した後,HPC-L水溶液を添加して,3分間混合した。混合した粉体を畑鐵工所株式会社製 円筒式造粒機HG-300V(孔径0.8mm)にて押し出し造粒した後,岡田精工株式会社製 通風式箱型乾燥機CDP-12-9.6WDSにて50℃で一晩,乾燥した。
乾燥して得た顆粒を10mesh篩で通過させた後,香料と微粒二酸化ケイ素,ステアリン酸カルシウムを添加して混合した。混合したものを菊水製作所株式会社製 ロータリー式打錠機 LIBRA2(20rpm)で,直径15mm円形(面取り部スミカク形状)の杵を使用して成形物の目標重量1gとし,10分間連続的に打錠(圧縮成形)した。得た圧縮成形物を70℃・80%RHの恒温恒湿器に10秒間おいて加湿した後,通風式乾燥機内で40℃一晩乾燥して成形物を得た。
本発明の製造法において,試験した全ての配合組成で打錠障害は認められなく,割れ欠けなどの外観異常もなく連続製造ができた。
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【実施例8】
【0061】
実生産規模での検証2
実施例7での製造条件や特性値の評価結果は表に示したとおりである。
【0062】
【表7】
【実施例9】
【0063】
成形物の表面形状
実施例7に示した配合組成と製造法で得た「乳酸菌」と「鉄・葉酸」の成形物表面にある細孔の深さを試験例6の方法により測定した。別に,圧縮力を高めて得た成形物についても比較例として測定した。圧縮力,成形物の空隙率,崩壊時間,表面の細孔の深さの最大値を表にまとめた。
【0064】
【表8】
【0065】
代表例として,「乳酸菌」の成形物の表面写真(20倍)を例示した。図2は圧縮力を87kgf/cmとして得られた固形食品(実施例)の表面を示す図面に代わる写真である。図3は圧縮力を566kgf/cmとして得られた固形食品(比較例)の表面を示す図面に代わる写真である。図2及び図3より,圧縮力による,面の凸凹の状態や空隙の違いがわかり,低圧縮力では顆粒形状が残っていることがわかる。唾液で成形物が崩壊した後,速やかに顆粒が崩壊するため,圧縮力が小さいものの方が崩壊性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0066】
この発明は例えば食品産業において利用されうる。
図1
図2
図3