(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】塗工用ダイおよび塗工装置
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20240920BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240920BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B05C5/02
B05C11/10
H01M4/04 A
(21)【出願番号】P 2023061909
(22)【出願日】2023-04-06
(62)【分割の表示】P 2020562929の分割
【原出願日】2019-11-20
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2018242383
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】北條 怜明
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-229343(JP,A)
【文献】特開2015-188852(JP,A)
【文献】特表平06-508571(JP,A)
【文献】特開2016-073951(JP,A)
【文献】国際公開第2006/094834(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/02
B05C 11/10
H01M 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗工体に塗料を塗布する塗工用ダイであって、
前記塗料を一時的に溜めるマニホールドと、
外部から前記マニホールドに前記塗料を供給する供給口と、
前記マニホールド内の前記塗料を前記被塗工体に向けて吐出する吐出口と、
前記供給口と前記マニホールドとを接続する供給路と、
前記マニホールドと前記吐出口とを接続する吐出路と、を備え、
前記マニホールド、前記吐出路および前記吐出口は、
第2方向に比べて第1方向に長く、
前記第1方向は、前記吐出口からの前記塗料の吐出方向と交わる方向であり、前記第2方向は、前記吐出方向および前記第1方向と交わる方向であり、
前記供給路と前記吐出路とは、前記マニホールドを挟んで配置されるとともに、前
記第2方向に互いにずれて前記マニホールドに接続さ
れ、
前記第2方向から見たときの前記マニホールドの輪郭は、前記吐出路が接続される第1輪郭部と、前記第1輪郭部と対向する第2輪郭部と、を有し、
前記第2輪郭部は、前記第1方向における端部領域に、前記マニホールドの前記第1方向の末端に向かうにつれて前記第1輪郭部に近づくように傾斜する第1テーパ部を有する、
塗工用ダイ。
【請求項2】
前記第1方向における前記吐出路の長さは、前記第1方向における前記マニホールドの長さ以上である、請求項1に記載の塗工用ダイ。
【請求項3】
前記第1方向における前記吐出口の長さは、前記第1方向における前記マニホールドの長さ以上である、請求項1または2に記載の塗工用ダイ。
【請求項4】
前記供給路は、前記マニホールドに対して前記塗料を前記吐出方向に放出する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の塗工用ダイ。
【請求項5】
前記供給路は、前記吐出方向における前記マニホールドの後方側の面に接続される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の塗工用ダイ。
【請求項6】
前記マニホールドにおける前記供給路との接続部から前記末端までの前記第1方向の寸法を1としたとき、前記第1方向における前記第1テーパ部の寸法比率は0.4以下である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の塗工用ダイ。
【請求項7】
前記第1方向から見たときの前記マニホールドの輪郭は、少なくとも前記供給路の延長線と交わる領域に、前記マニホールドの中心から離れる方向に凸の湾曲部を有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の塗工用ダイ。
【請求項8】
前記寸法比率は0.125以上である、請求項6に記載の塗工用ダイ。
【請求項9】
前記吐出方向から見たときの前記マニホールドの輪郭は、前記第2方向において互いに対向する第3輪郭部および第4輪郭部を有し、
前記第3輪郭部および前記第4輪郭部の少なくとも一方と、前記マニホールドにおける前記吐出路との接続部とは、前記第2方向に互いにずれており、前記第1方向における端部領域に、前記マニホールドの前記第1方向の末端に向かうにつれて前記マニホールドにおける前記吐出路との接続部に近づくように傾斜する第2テーパ部を有する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の塗工用ダイ。
【請求項10】
前記マニホールドにおける前記供給路との接続部から前記末端までの前記第1方向の寸法を1としたとき、前記第1方向における前記第2テーパ部の寸法比率は0.4以下である請求項9に記載の塗工用ダイ。
【請求項11】
前記供給路は、前記第1方向における前記マニホールドの中央に接続され、
前記第1テーパ部は、前記第1方向における前記マニホールドの両端に配置される、請求項6または8に記載の塗工用ダイ。
【請求項12】
前記被塗工体は、二次電池の集電体であり、
前記塗料は、二次電池の電極スラリーである、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の塗工用ダイ。
【請求項13】
被塗工体に塗料を塗布する請求項1乃至12のいずれか1項に記載の塗工用ダイと、
前記塗工用ダイへ前記塗料を供給する供給装置と、を備える、塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工用ダイおよび塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)等の普及にともない、二次電池の出荷が増えている。特にリチウムイオン二次電池の出荷が増えている。一般的な二次電池は、正極板、負極板、セパレータおよび電解液を主な構成要素とする。正極板や負極板といった電極板は、金属箔からなる集電体の表面に、電極活物質が積層された構造を有する。
【0003】
従来、このような電極板の製造方法として、活物質および溶媒を混合した電極スラリーを吐出するダイと、ダイへの電極スラリーの供給および非供給を切り替える間欠バルブと、を備えた間欠塗工装置を用いて、長尺の金属箔の表面に電極スラリーを間欠的に塗布する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-108678号公報
【文献】特開平9-109229号公報
【文献】特開2018-69529号公報
【文献】特開平9-225990号公報
【発明の概要】
【0005】
近年、二次電池の性能向上の一環として、物性の異なる活物質が数多く開発されている。電極スラリーを作製する際は、活物質の物性に合わせて、最適な分散剤やバインダー、溶媒等が選択される。例えば、正極の場合、活物質の性状から溶剤系が主流である。一方、負極の場合、環境負荷の低減や低コスト化、電池の性能向上等の観点から、水系化が進んでいる。一般に水系の負極スラリーを作製する際には、スラリーの粘度調整と活物質の分散性向上とを目的として、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤が用いられる。
【0006】
増粘剤の中には、温度等の環境条件により機能が低下しやすいものがあった。したがって、水系の負極スラリーでは、活物質が沈降しやすい傾向があった。また、活物質は電極スラリー中でバインダーや添加剤とともに固体粒子を構成しているが、一般に電極スラリーの溶媒に対してこの固体粒子の比重は大きい。このため、負極スラリーだけでなく正極スラリーにおいても活物質は沈降しやすかった。
【0007】
塗工用ダイでは、マニホールド内のスラリーが滞留する領域において活物質が沈降しやすかった。マニホールド内に活物質が沈降して固形化すると、これが異物となって塗料の均一な塗布を阻害し得る。このような塗布の阻害は、塗膜の厚みムラや、局所的な未塗布部(スジ)の発生につながり得る。また、沈降した活物質が時間の経過により変質して本来の性質を消失した後、再びスラリー中に分散されて集電板に塗布されるおそれがある。この場合、二次電池の性能低下につながり得る。また、マニホールド内に沈降した活物質を除去することは容易でないため、塗工装置のメンテナンス性が低下してしまう。このため、マニホールド内での活物質の沈降を極力抑制することが望まれる。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、塗工用ダイのマニホールド内での活物質の沈降を抑制する技術を提供することにある。
【0009】
本発明のある態様は、塗工用ダイである。当該塗工用ダイは、被塗工体に塗料を塗布する塗工用ダイであって、塗料を一時的に溜めるマニホールドと、外部からマニホールドに塗料を供給する供給口と、マニホールド内の塗料を被塗工体に向けて吐出する吐出口と、供給口とマニホールドとを接続する供給路と、マニホールドと吐出口とを接続する吐出路と、を備える。マニホールド、吐出路および吐出口は、吐出口からの塗料の吐出方向と交わる第1方向に長い。吐出方向および第1方向と交わる第2方向から見たときのマニホールドの輪郭は、吐出路が接続される第1輪郭部と、第1輪郭部と対向する第2輪郭部と、を有する。第2輪郭部は、第1方向における端部領域に、マニホールドの第1方向の末端に向かうにつれて第1輪郭部に近づくように傾斜する第1テーパ部を有する。マニホールドにおける供給路との接続部から末端までの第1方向の寸法を1としたとき、第1方向における第1テーパ部の寸法比率は0.4以下である。
【0010】
本発明の他の態様は、塗工装置である。当該塗工装置は、被塗工体に塗料を塗布する上記態様の塗工用ダイと、塗工用ダイへ塗料を供給する供給装置と、を備える。
【0011】
以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【0012】
本発明によれば、塗工用ダイのマニホールド内での活物質の沈降を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】第2方向から見たマニホールドの輪郭を示す模式図である。
【
図4】第1テーパ部の寸法比率と、流速ばらつき、滞留領域比率、滞留領域比率の低減度、および滞留領域比率の変化率のそれぞれとの関係を示す図である。
【
図5】第1テーパ部の寸法比率と、流速ばらつき、滞留領域比率、滞留領域比率の低減度、および滞留領域比率の変化率のそれぞれとの関係を示す図である。
【
図6】第1方向から見たマニホールドの輪郭を示す模式図である。
【
図7】吐出方向から見たマニホールドの輪郭を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0015】
図1は、実施の形態に係る塗工装置の模式図である。塗工装置1は、塗工用ダイ2と、供給装置3と、を備える。
【0016】
塗工用ダイ2は、被塗工体16に塗料18を塗布する器具である。本実施の形態に係る塗工装置1は、二次電池の電極板を製造するために用いられる。二次電池の電極板は、集電体に電極スラリーを塗布して乾燥させたシート状の電極素材である。したがって本実施の形態では、被塗工体16は、二次電池の集電体であり、塗料18は、二次電池の電極スラリーである。集電体は、例えば金属箔である。電極スラリーは、例えば正極活物質または負極活物質と、溶媒等との混合物である。一般的なリチウムイオン二次電池の場合、正極の電極板は、アルミ箔上に、コバルト酸リチウムやリン酸鉄リチウム等の正極活物質を含むスラリーが塗布されて作製される。また、負極の電極板は、銅箔上に、黒鉛等の負極活物質を含むスラリーが塗布されて作製される。
【0017】
塗工用ダイ2は、吐出口32がバックアップロール20の周面と所定の間隔をあけて対向するように配置される。被塗工体16は、バックアップロール20の回転によって、バックアップロール20と吐出口32とが対向する位置に連続的に搬送される。
【0018】
供給装置3は、塗工用ダイ2へ塗料18を供給する装置である。供給装置3は、間欠バルブ4と、タンク6と、ポンプ8と、送り管路10と、戻し管路12と、ダイ供給管路14と、を備える。
【0019】
塗工用ダイ2には、ダイ供給管路14を介して間欠バルブ4が接続される。ダイ供給管路14は、一端が塗工用ダイ2の供給口30に接続され、他端が間欠バルブ4に接続される。間欠バルブ4は、塗工用ダイ2への塗料18の供給と非供給とを切り替える部材である。塗工装置1は、塗料18が塗工用ダイ2に供給されている間、塗工用ダイ2から被塗工体16に塗料18を吐出することができる。間欠バルブ4には、送り管路10および戻し管路12を介してタンク6が接続される。
【0020】
タンク6は、塗料18を貯留する。送り管路10には、ポンプ8が設けられ、ポンプ8の駆動によりタンク6から間欠バルブ4に塗料18が送られる。間欠バルブ4は、タンク6から供給される塗料18をダイ供給管路14を介して塗工用ダイ2に供給する。あるいは、間欠バルブ4は、タンク6から供給される塗料18を戻し管路12を介してタンク6に戻す。
【0021】
間欠バルブ4が塗工用ダイ2に塗料18を供給することで、塗工用ダイ2から塗料18を吐出して被塗工体16に塗料18の塗布部18aを形成することができる。また、間欠バルブ4がタンク6に塗料18を戻すことで、塗工用ダイ2からの塗料18の吐出を停止して被塗工体16に塗料18の未塗布部16aを形成することができる。つまり、間欠バルブ4によって、被塗工体16に対して塗料18を間欠塗工することができる。未塗布部16aは、電極のセンターリードの貼り付け等に用いられる。なお、塗工装置1が実施する塗工は、間欠塗工に限定されない。
【0022】
図2は、塗工用ダイ2の分解斜視図である。塗工用ダイ2は、マニホールド28と、供給口30と、吐出口32と、供給路34と、吐出路36と、を備える。マニホールド28は、塗料18を一時的に溜める空間である。供給口30は、塗工用ダイ2の外部、つまり供給装置3からマニホールド28に塗料18を供給するための開口である。吐出口32は、マニホールド28内の塗料18を被塗工体16に向けて吐出するための開口である。供給路34は、供給口30とマニホールド28とを接続する流路である。吐出路36は、マニホールド28と吐出口32とを接続する流路である。本実施の形態において、供給路34は、第1方向Yにおけるマニホールド28の中央に接続されている(
図3も参照)。
【0023】
本実施の形態の塗工用ダイ2は、第1ブロック22と、スペーサ24と、第2ブロック26とがこの順に積層された構造を有する。第1ブロック22は、扁平な略直方体状の部材であり、一方の主表面が第2ブロック26側を向くように配置される。第1ブロック22は、第2ブロック26側を向く主表面の中央部に凹部27を有する。凹部27は、マニホールド28を構成する。凹部27、言い換えればマニホールド28は、第1方向Yに長い長尺状である。
【0024】
第1方向Yは、吐出口32からの塗料18の吐出方向Xと交わる方向である。また、吐出方向Xおよび第1方向Yと交わる方向を第2方向Zとする。本実施の形態において、吐出方向X、第1方向Yおよび第2方向Zはそれぞれ垂直に交わる。また、吐出方向Xおよび第1方向Yはともに水平に延びる方向であり、第2方向Zは垂直方向である。また、第1ブロック22、スペーサ24および第2ブロック26は、第2方向Zに積層されている。
【0025】
第1ブロック22の外側面には、供給口30が設けられる。供給口30には、ダイ供給管路14が接続される。また、第1ブロック22は、供給口30と凹部27とを連通する貫通孔33を有する。貫通孔33は、供給路34を構成する。また、第1ブロック22は、凹部27の第1方向Yに延びる一方の長辺側に、吐出方向Xに延出する第1突出部38を有する。第1突出部38は、第1方向Yに長く、第2ブロック26側の主表面と面一になるように配置される。
【0026】
スペーサ24は、第2方向Zから見て凹部27の第1突出部38側を除く三方を囲う略U字状の板材である。スペーサ24は、第2方向Zから見て凹部27と重なる範囲および凹部27から第1突出部38の先端までの範囲に、切り欠き部40を有する。また、スペーサ24は、第1方向Yにおいて切り欠き部40を挟むように配置される一対の腕部42を有する。一対の腕部42は、切り欠き部40における凹部27から第1突出部38の先端までの領域を形成する。
【0027】
第2ブロック26は、第1ブロック22と同様に扁平な略直方体状の部材であり、一方の主表面が第1ブロック22側を向くように配置される。第2ブロック26の主表面には、凹部27が設けられていない。また、第2ブロック26は、第2方向Zにおいて第1突出部38と重なる位置に、吐出方向Xに延出する第2突出部44を有する。第2突出部44は、第1方向Yに長く、第1ブロック22側の主表面と面一になるように配置される。
【0028】
スペーサ24は、第1ブロック22の主表面と第2ブロック26の主表面とで挟まれる。第1ブロック22、スペーサ24および第2ブロック26が積層されることで、マニホールド28、吐出路36および吐出口32が形成される。つまり、第1ブロック22の凹部27と、スペーサ24の切り欠き部40における凹部27と重なる領域と、第2ブロック26の主表面における凹部27と重なる領域とで、マニホールド28が形成される。また、第1ブロック22の第1突出部38と、スペーサ24の腕部42と、第2ブロック26の第2突出部44とで、吐出路36および吐出口32が形成される。吐出路36および吐出口32は、第1方向Yに長い長尺状である。一対の腕部42の第1方向Yの間隔を調整することで、吐出口32の第1方向Yの寸法および塗布部18aの幅を変更することができる。
【0029】
供給装置3から送られる塗料18は、供給口30から塗工用ダイ2の内部に入り、供給路34を通過してマニホールド28に流入する。塗料18は、マニホールド28に一時的に溜められた後に、吐出路36を経由して吐出口32に至り、吐出口32から吐出される。マニホールド28は、供給路34や吐出路36よりも容積の大きい空間である。塗料18をマニホールド28に一旦溜めた後に吐出口32に送ることで、塗料18の吐出安定性を高めることができる。
【0030】
図3は、第2方向Zから見たマニホールド28の輪郭を示す模式図である。
図3では、説明の便宜上、マニホールド28以外の部分を破線で図示している。第2方向Zから見たマニホールド28の輪郭は、吐出方向Xおよび第1方向Yを含むXY平面にマニホールド28を投影したときのマニホールド28の外形に相当する。
【0031】
第2方向Zから見たときのマニホールド28の輪郭は、吐出路36が接続される第1輪郭部46と、第1輪郭部46と対向する第2輪郭部48と、を有する。第1輪郭部46と第2輪郭部48とは、吐出方向Xに並ぶ。第2輪郭部48は、第1方向Yにおける端部領域に、マニホールド28の第1方向Yの末端28aに向かうにつれて第1輪郭部46に近づくように傾斜する第1テーパ部48aを有する。つまり、第1テーパ部48aは、末端28aに向かうにつれて吐出方向Xで吐出路36に近づくように傾斜する。本実施の形態では、第1方向Yにおける端部領域は、マニホールド28の末端28aを含む領域である。したがって、第1テーパ部48aの一端はマニホールド28の末端28aに位置する。また本実施の形態では、第1テーパ部48aは、第1方向Yにおけるマニホールド28の両端に配置されている。
【0032】
マニホールド28における供給路34との接続部34aから末端28aまでの第1方向Yの寸法を1としたとき、第1方向Yにおける第1テーパ部48aの寸法比率mは0.4以下である。つまり、接続部34aから末端28aまでの第1方向長さに対する第1テーパ部48aの第1方向長さの割合、言い換えれば接続部34aから末端28aまでの範囲において第1テーパ部48aが占める割合は、40%以下である。したがって、第1テーパ部48aは、供給路34と第1方向Yに所定の間隔をあけて配置される。接続部34aは、例えば供給路34のマニホールド28に接続される端部における、第1方向Yの中心点である。
【0033】
第1テーパ部48aの寸法比率mは、マニホールド28の末端28aから接続部34aまでの第1方向Yの寸法Lに対する、第1テーパ部48aの第1方向Yの寸法Lmの比率であり、式(1)に基づいて算出される。
【0034】
式(1):m=Lm/L
m=0であるときのマニホールド28は、第1テーパ部48aが設けられないマニホールド、つまり従来のマニホールドに相当する。
【0035】
図4および
図5は、第1テーパ部48aの寸法比率mと、流速ばらつき、滞留領域比率、滞留領域比率の低減度、および滞留領域比率の変化率のそれぞれとの関係を示す図である。
【0036】
流速ばらつきΔV(m)は、各寸法比率mの第1テーパ部48aを有する塗工用ダイ2における、吐出口32での塗料18の流速のばらつきである。吐出口32は第1方向Yに長いため、第1方向Yの各部位において流速にばらつきが生じ得る。流速ばらつきΔV(m)は、式(2)に基づいて算出される。
【0037】
式(2):ΔV(m)=(V
max-V
min)/V
ave
式(2)において、V
maxは吐出口32において流速が最大の部位における流速値であり、V
minは吐出口32において流速が最小の部位における流速値であり、V
aveは吐出口32全体における流速の平均値である。流速ばらつきΔV(m)は、流体解析ソフトウェアを用いた流体シミュレーションの結果から算出することができる。流体解析ソフトウェアとしては、例えばANSYS社の汎用流体解析ソフトウェアANSYS Fluent(R14)等を用いることができる。なお、
図5では、流速ばらつきΔV(m)を百分率(単位:%)で表している。
【0038】
滞留領域比率R(m)は、各寸法比率mの第1テーパ部48aを有する塗工用ダイ2における、マニホールド28の全容積Rに対するマニホールド28内の滞留領域の容積r(m)の比率である。滞留領域比率R(m)は、式(3)に基づいて算出される。
【0039】
式(3):R(m)=r(m)/R
滞留領域は、塗料18の流速が吐出口32における平均流速V
aveに対して0.1%以下の値となる領域である。本発明者は、流速が少なくとも0.1%以下となったときにマニホールド28内に活物質が沈降して固形化することを確認している。滞留領域の容積r(m)は、流体解析ソフトウェアを用いた流体シミュレーションの結果から算出することができる。なお、
図5では、滞留領域比率R(m)を百分率(単位:%)で表している。
【0040】
滞留領域比率の低減度α(m)は、第1テーパ部48aを有しないマニホールド(m=0)における滞留領域比率R(0)に対する、各寸法比率mの第1テーパ部48aを有するマニホールドにおける滞留領域比率R(m)の変化の割合である。つまり、滞留領域比率の低減度α(m)は、第1テーパ部48aによる滞留領域の低減効果を示す指標である。滞留領域比率の低減度α(m)(単位:%)は式(4)に基づいて算出される。
【0041】
式(4):α(m)=-[1-R(m)/R(0)]×100
滞留領域比率の変化率θ(m)は、第1テーパ部48aの寸法比率mが、滞留領域比率R(m)の変化に与える影響を示す指標である。滞留領域比率の変化率θ(m)(単位:°)は、式(5)および式(6)に基づいて算出される。
【0042】
式(5):ε(m)=[ΔR(m)/R(0)]/Δm
式(6):θ(m)=arctan(ε(m))
式(5)において、Δmは、第1テーパ部48aを有しないマニホールドの寸法比率m(m=0)に対する寸法比率mの変化量であり、実質的にmそのものである。ΔR(m)は、滞留領域比率R(0)と滞留領域比率R(m)との差である。なお、Δmの上限と、滞留領域比率の変化率θ(m)の上限とを揃えるために、変化率θ(m)の上限が1となるよう各数値を換算している。
【0043】
図4および
図5に示されるように、第1テーパ部48aの寸法比率mがいずれであっても、第1テーパ部48aを設けることで、第1テーパ部48aを設けない場合(m=0)に比べて滞留領域比率R(m)が低減している。このことから、第1テーパ部48aにより、マニホールド28内での活物質の沈降を抑制できることが理解される。なお、塗料18の流速は、第1方向Yにおけるマニホールド28の中央部よりも端部において低下しやすく、端部に滞留領域が生じる傾向にある。
【0044】
また、寸法比率mが大きくなるにつれて、滞留領域比率R(m)は小さくなっていく。したがって、滞留領域の低減という観点のみからすれば、第1テーパ部48aの延在範囲は広いほど好ましい。しかしながら、寸法比率mが0.4を超える第1テーパ部48aを設けた場合の流速ばらつきΔV(m)は、第1テーパ部48aを設けない場合の流速ばらつきΔV(0)を上回る。流速ばらつきΔV(m)が大きくなれば、塗布部18aの厚みが不均一になるおそれが高まる。このため、本実施の形態に係る塗工装置1では、第1テーパ部48aの寸法比率mを0.4以下に設定して、流速ばらつきΔV(m)の増大を抑制している。
【0045】
また、好ましくは、第1テーパ部48aの寸法比率mは0.125以上である。上述のとおり、寸法比率mの大きさによらず第1テーパ部48aによって滞留領域を減少させることができるため、寸法比率mの下限は0超(0<m)である。一方で、
図4および
図5に示すように、寸法比率mが0.125以上のとき、滞留領域比率の低減度α(m)が-80%を超えている。つまり、寸法比率mを0.125以上とすることで、第1テーパ部48aを設けない場合に対して滞留領域を80%以上減少させることができる。本発明者は、滞留領域の80%以上の減少が塗布部18aの厚みの均一化に効果的であることを確認している。
【0046】
図6は、第1方向Yから見たマニホールド28の輪郭を示す模式図である。
図6では、説明の便宜上、マニホールド28以外の部分を破線で図示している。第1方向Yから見たマニホールド28の輪郭は、吐出方向Xおよび第2方向Zを含むXZ平面にマニホールド28を投影したときのマニホールド28の外形に相当する。
【0047】
本実施の形態では、供給路34と吐出路36とは、吐出方向Xにおいてマニホールド28を挟んで配置されている。また、供給路34と吐出路36とは、第2方向Zに互いにずれてマニホールド28に接続されている。さらに本実施の形態では、供給口30および吐出口32が吐出方向Xにおいてマニホールド28を挟んで、且つ第2方向Zに互いにずれて配置されている。そして、供給路34は供給口30からマニホールド28に向かって吐出方向Xに対し平行に延び、吐出路36はマニホールド28から吐出口32に向かって吐出方向Xに対し平行に延びている。吐出口32および吐出路36は、供給口30および供給路34よりも第2ブロック26寄りに配置されている。
【0048】
第1方向Yから見たときのマニホールド28の輪郭は、少なくとも供給路34の延長線Oと交わる領域に、塗工用ダイ2の外側に向かって凸の湾曲部50を有する。つまり、湾曲部50は、第1方向Yから見たときのマニホールド28の中心から離れる方向に凸である。延長線Oは、マニホールド28と供給路34との接続部から吐出方向Xに対し平行に延びる仮想線である。マニホールド28の中心は、例えば第1方向Yから見たマニホールド28の形状の幾何中心である。湾曲部50を設けることで、供給路34からマニホールド28に流入する塗料18を、円滑に吐出路36に誘導することができる。これにより、塗料18の滞留、ひいては活物質の沈降を抑制することができる。本実施の形態では、凹部27の壁面全体が円弧状である。つまり、凹部27の壁面全体が湾曲部50を構成している。
【0049】
図7は、吐出方向Xから見たマニホールド28の輪郭を示す模式図である。
図7では、説明の便宜上、マニホールド28以外の部分を破線で図示している。吐出方向Xから見たマニホールド28の輪郭は、第1方向Yおよび第2方向Zを含むYZ平面にマニホールド28を投影したときのマニホールド28の外形に相当する。
【0050】
本実施の形態では、吐出方向Xから見たときのマニホールド28の輪郭は、第2方向Zにおいて互いに対向する第3輪郭部52および第4輪郭部54を有する。第3輪郭部52および第4輪郭部54は、第2方向Zに並ぶ。第3輪郭部52は凹部27の壁面で構成され、第4輪郭部54は第2ブロック26の主表面で構成される。第3輪郭部52と、マニホールド28における吐出路36との接続部56とは、第2方向Zに互いにずれている(
図6も参照)。
【0051】
第3輪郭部52は、第1方向Yにおける端部領域に、マニホールド28の第1方向Yの末端28aに向かうにつれて第2方向Zで接続部56に近づくように傾斜する第2テーパ部52aを有する。本実施の形態では、第2テーパ部52aは第1方向Yにおけるマニホールド28の両端に配置されている。第2テーパ部52aを設けることで、マニホールド28における第1方向Yの端部において、塗料18を円滑に吐出路36に誘導することができる。これにより、塗料18の滞留、ひいては活物質の沈降を抑制することができる。マニホールド28における供給路34との接続部34aから末端28aまでの第1方向Yの寸法を1としたとき、第1方向Yにおける第2テーパ部52aの寸法比率mは、好ましくは0.4以下であり、また好ましくは0.125以上である。
【0052】
本実施の形態のマニホールド28は、第1テーパ部48a、湾曲部50および第2テーパ部52aが組み合わさって得られる形状であって、円錐台を縦に割って横に寝かせた形状を第1方向Yの両端に有する。また、湾曲部50で構成される形状であって、円筒を縦に割って横に寝かせた形状を第1方向Yの中央に有する。また、マニホールド28の第1方向Yの末端28aの形状は、半円形状である。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態の塗工用ダイ2は、塗料18を一時的に溜めるマニホールド28と、外部からマニホールド28に塗料18を供給する供給口30と、マニホールド28内の塗料18を被塗工体16に向けて吐出する吐出口32と、供給口30とマニホールド28とを接続する供給路34と、マニホールド28と吐出口32とを接続する吐出路36と、を備える。
【0054】
マニホールド28、吐出路36および吐出口32は、吐出方向Xと交わる第1方向Yに長い。吐出方向Xおよび第1方向Yと交わる第2方向Zから見たときのマニホールド28の輪郭は、吐出路36が接続される第1輪郭部46と、第1輪郭部46と対向する第2輪郭部48と、を有する。第2輪郭部48は、第1方向Yにおける端部領域に、マニホールド28の第1方向Yの末端28aに向かうにつれて第1輪郭部46に近づくように傾斜する第1テーパ部48aを有する。マニホールド28における供給路34との接続部34aから末端28aまでの第1方向Yの寸法を1としたとき、第1方向Yにおける第1テーパ部48aの寸法比率mは0.4以下である。また、本実施の形態の塗工装置1は、上記構成を有する塗工用ダイ2と、塗工用ダイ2へ塗料18を供給する供給装置3と、を備える。
【0055】
このように、ストレートマニホールド型のTダイにおけるマニホールド28の長手方向の端部に第1テーパ部48aを設けることで、マニホールド28内での塗料18の滞留を抑制して、活物質の沈降を抑制することができる。この結果、塗布部18aの厚みの均一化を図ることができ、二次電池の性能を高めることができる。また、塗工装置1のメンテナンス性の低下を抑制することができる。
【0056】
また、本実施の形態では、第1テーパ部48aの寸法比率mは0.125以上である。これにより、滞留領域をより効果的に減少させることができ、活物質の沈降をより確実に抑制することができる。
【0057】
また、本実施の形態では、供給路34と吐出路36とは、マニホールド28を挟んで配置されるとともに、第2方向Zに互いにずれてマニホールド28に接続される。そして、第1方向Yから見たときのマニホールド28の輪郭は、少なくとも供給路34の延長線Oと交わる領域に、塗工用ダイ2の外側に向かって凸の湾曲部50を有する。これにより、活物質の沈降をより抑制することができる。
【0058】
また、本実施の形態において、吐出方向Xから見たときのマニホールド28の輪郭は、第2方向Zにおいて互いに対向する第3輪郭部52および第4輪郭部54を有する。第3輪郭部52と、マニホールド28における吐出路36との接続部56とは、第2方向Zに互いにずれており、第1方向Yにおける端部領域に、マニホールド28の第1方向Yの末端28aに向かうにつれて第2方向Zで接続部56に近づくように傾斜する第2テーパ部52aを有する。これにより、活物質の沈降をより抑制することができる。
【0059】
また、本実施の形態では、供給路34は第1方向Yにおけるマニホールド28の中央に接続され、第1テーパ部48aは第1方向Yにおけるマニホールド28の両端に配置される。これにより、マニホールド28のより広い範囲において、活物質の沈降を抑制することができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0061】
実施の形態では、第1ブロック22のみに凹部27が設けられているが、第2ブロック26にも凹部27が設けられてもよい。この場合、第1ブロック22の凹部27、スペーサ24の切り欠き部40および第2ブロック26の凹部27によって、マニホールド28が形成される。また、この場合、第2ブロック26の凹部27が湾曲部50を有してもよい。
【0062】
また、第2ブロック26が凹部27を有する場合、この凹部27の壁面が第4輪郭部54を構成する。したがって、第4輪郭部54と、マニホールド28における吐出路36との接続部56とは、第2方向Zに互いにずれる。この場合、第4輪郭部54は、第1方向Yにおける端部領域に、第1方向Yの末端28aに向かうにつれて第2方向Zで接続部56に近づくように傾斜する第2テーパ部を有してもよい。さらに、第2テーパ部は、第3輪郭部52と第4輪郭部54の両方に設けられてもよいし、いずれか一方のみに設けられてもよい。
【0063】
実施の形態では、供給路34は吐出方向Xに延びてマニホールド28に接続されているが、供給路34は第2方向Zに延びてマニホールド28に接続されてもよい。また、供給口30および供給路34は、第2ブロック26に設けられてもよい。また、第1テーパ部48aおよび第2テーパ部52aは、曲線状であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 塗工装置
2 塗工用ダイ
3 供給装置
28 マニホールド
30 供給口
32 吐出口
34 供給路
34a 接続部
36 吐出路
46 第1輪郭部
48 第2輪郭部
48a 第1テーパ部
50 湾曲部
52 第3輪郭部
52a 第2テーパ部
54 第4輪郭部