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特許7557841樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板
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  • 特許-樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20240920BHJP
   C08F 290/12 20060101ALI20240920BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240920BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240920BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240920BHJP
   B32B 25/14 20060101ALI20240920BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08F290/06
C08F290/12
C08F2/44 C
C08J5/24 CER
C08J5/24 CEZ
B32B27/30 B
B32B25/14
H05K1/03 610H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022164869
(22)【出願日】2022-10-13
(62)【分割の表示】P 2019502475の分割
【原出願日】2017-12-25
(65)【公開番号】P2023001134
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2017039725
(32)【優先日】2017-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100174827
【弁理士】
【氏名又は名称】治下 正志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宏典
(72)【発明者】
【氏名】藤原 弘明
(72)【発明者】
【氏名】津田 康介
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/132929(WO,A1)
【文献】特開2007-051225(JP,A)
【文献】特開2008-248141(JP,A)
【文献】国際公開第2005/073264(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0275377(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F290、299
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される基を末端に有する変性ポリフェニレンエーテルと、
炭素-炭素不飽和二重結合及びマレイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種を分子末端のみに2つ以上有するラジカル重合性化合物と、
芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位が、全繰り返し単位に対して、0~2モル%であるスチレン系熱可塑性エラストマーと、
有機過酸化物とを含有し、
前記スチレン系熱可塑性エラストマーが、水添メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体、及び、水添メチルスチレン(エチレン/エチレンプロピレン)メチルスチレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテルと前記ラジカル重合性化合物と前記スチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、30~80質量部であり、
前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテルと前記ラジカル重合性化合物と前記スチレン系熱可塑性エラストマーとの合計100質量部に対して、5~50質量部であることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】

[式(1)中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。]
【請求項2】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、前記芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位のうちの、分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位が、全繰り返し単位に対して、0~2モル%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合が、ビニレン基である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ラジカル重合性化合物は、アリル基、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、及びマレイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種を分子末端のみに2つ以上有するラジカル重合性化合物である請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記変性ポリフェニレンエーテルは、重量平均分子量が500~3000であり、分子末端に上記式(1)で表される基を1分子当たり平均1~5個有する請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、重量平均分子量が10000~300000である請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量及び前記ラジカル重合性化合物の含有量の合計と、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量との比が、質量比で、50:50~95:5である請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを備えることを特徴とするプリプレグ。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、支持フィルムとを備えることを特徴とする樹脂付きフィルム。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金属箔とを備えることを特徴とする樹脂付き金属箔。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備えることを特徴とする金属張積層板。
【請求項12】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、配線とを備えることを特徴とする配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器は、情報処理量の増大に伴い、搭載される半導体デバイスの高集積化、配線の高密度化、及び多層化等の実装技術が急速に進展している。各種電子機器において用いられる配線板の基材を構成するための基板材料には、信号の伝送速度を高め、信号伝送時の損失を低減させるために、誘電率及び誘電正接が低いことが求められる。
【0003】
ポリフェニレンエーテル(PPE)は、誘電率や誘電正接が低い等の誘電特性に優れ、MHz帯からGHz帯という高周波数帯(高周波領域)においても誘電率や誘電正接等の誘電特性が優れていることが知られている。このため、ポリフェニレンエーテルは、例えば、高周波用成形材料として用いられることが検討されている。より具体的には、高周波数帯を利用する電子機器に備えられる配線板の基材を構成するための基板材料等に好ましく用いられる。
【0004】
また、配線板の基材を構成するための基板材料としては、誘電特性を高めるために、エラストマー等を含有する樹脂組成物が用いられることがある。このようなエラストマーを含有する樹脂組成物としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載の樹脂組成物が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、ポリフェニレンエーテル骨格を有する所定のビニル化合物と、スチレン系熱可塑性エラストマー等の、重量平均分子量が10000以上の高分子量体を必須成分として含有する硬化性樹脂組成物が記載されている。特許文献1によれば、硬化性フィルムにした際にタック性がなく、低誘電率、低誘電正接で、耐熱性に優れた硬化物を与えることができる旨が開示されている。
【0006】
特許文献2には、ポリフェニレンエーテル骨格を有する所定のビニル化合物と、二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマーと、t-ブチルハイドロキノン等の重合禁止剤や酸化防止剤を含有する硬化性樹脂組成物が記載されている。特許文献2によれば、低誘電率、低誘電正接で、耐熱性に優れた硬化物を与えることができる旨が開示されている。
【0007】
一方で、近年、車載のミリ波レーダー用途等では、配線板に実装されるチップの発熱が問題なっている。また、接合温度(ジャンクション温度)で100℃を超えるような高温下にさらされることから、配線板に、高温下での、電気特性の安定性も求められるようになってきている。このことから、配線板の基材としては、例えば、誘電特性に対する熱的劣化が発生しにくいことが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-83364号公報
【文献】特開2007-191681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、誘電特性に優れ、さらに、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した硬化物が得られる樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面は、下記式(1)で表される基を末端に有する変性ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合及びマレイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種を分子末端のみに2つ以上有するラジカル重合性化合物と、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位が、全繰り返し単位に対して、10モル%未満であるスチレン系熱可塑性エラストマーと、有機過酸化物とを含有する樹脂組成物である。
【0011】
【化1】
式(1)中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、誘電特性に優れ、さらに、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した硬化物が得られる樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグの一例を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る金属張積層板の一例を示す概略断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る配線板の一例を示す概略断面図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る樹脂付き金属箔の一例を示す概略断面図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る樹脂付きフィルムの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特許文献1及び特許文献2に記載の硬化性樹脂組成物を用いた場合、高温下での、電気特性の低下を充分に抑制できなかった。このことは、まず、前記硬化性樹脂組成物に含まれるビニル化合物が、ポリフェニレンエーテル骨格の末端に、ビニルベンジル基等の芳香環とメチレン基を介して結合されているが、このメチレン基が、熱により酸化されやすいことによると考えられる。また、前記硬化性樹脂組成物に含まれる高分子量体として、水添されていないスチレン系熱可塑性エラストマーを用いた場合には、このエラストマーの構造に含まれる1,2-ビニル結合やビニレン結合のα位炭素部分も熱により酸化されやすく、高温下において、電気特性を劣化させてしまう。
【0015】
さらに、特許文献2に記載されているように、t-ブチルハイドロキノン等の重合禁止剤や酸化防止剤を含有すると、ワニスでの保存安定性を高めることができるとしても、高温下において、電気特性を劣化させてしまう。このことは、ビニル化合物のようなラジカル重合系での硬化反応では、酸化防止剤の添加効果が低下してしまい、硬化物においての酸化防止効果を充分に発揮できなくなるためと考えられる。
【0016】
本発明者等は、種々検討した結果、誘電特性に優れ、さらに、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した硬化物が得られる樹脂組成物を提供するといった上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。なお、ここで、誘電特性に優れるとは、誘電率が低いことや誘電正接が低いことを言い、特に誘電正接が低いことを指す。また、誘電特性に対する熱的劣化とは、硬化物を加熱することにより、誘電率が高くなることや誘電正接が高くなることを言い、特に、加熱により誘電正接が高くなることを指す。
【0017】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0018】
本実施形態に係る樹脂組成物は、下記式(1)で表される基を末端に有する変性ポリフェニレンエーテルと、ラジカル重合性化合物と、スチレン系熱可塑性エラストマーと、有機過酸化物とを含有する。
【0019】
まず、本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテルは、下記式(1)で表される基を末端に有するポリフェニレンエーテルであれば、特に限定されない。
【0020】
【化2】
【0021】
式(1)中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。また、前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0022】
また、前記式(1)で表される基としては、例えば、アクリレート基、及びメタクリレート基等が挙げられる。
【0023】
また、本実施形態に係る変性ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有しており、例えば、下記式(2)で表される繰り返し単位を分子中に有していることが好ましい。
【0024】
【化3】
【0025】
また、式(2)において、mは、1~50を示す。また、R~Rは、それぞれ独立している。すなわち、R~Rは、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R~Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0026】
~Rにおいて、挙げられた各官能基としては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
【0027】
アルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0028】
また、アルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及び3-ブテニル基等が挙げられる。
【0029】
また、アルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、例えば、エチニル基、及びプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
【0030】
また、アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0031】
また、アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びクロトノイル基等が挙げられる。
【0032】
また、アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、プロピオロイル基等が挙げられる。
【0033】
また、本実施形態に係る変性ポリフェニレンエーテルとしては、例えば、下記式(3)又は下記式(4)で表されるポリフェニレンエーテルの末端に、前記式(1)で表される基を有するものが挙げられる。前記変性ポリフェニレンエーテルとしては、具体的には、下記式(5)又は下記式(6)で表される変性ポリフェニレンエーテルが挙げられる。
【0034】
【化4】
【0035】
【化5】
【0036】
【化6】
【0037】
【化7】
【0038】
式(3)~式(6)中、s,tは、例えば、sとtとの合計値が、1~30となるものであることが好ましい。また、sが、0~20であることが好ましく、tが、0~20であることが好ましい。すなわち、sは、0~20を示し、tは、0~20を示し、sとtとの合計は、1~30を示すことが好ましい。また、Yは、炭素数1~3のアルキレン基又は直接結合を示し、また、このアルキレン基としては、例えば、ジメチルメチレン基等が挙げられる。また、式(5)及び式(6)中、Rは、上記式(1)のRと同様であり、水素原子又はアルキル基を示す。また、前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0039】
本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。具体的には、500~5000であることが好ましく、800~4000であることがより好ましく、1000~3000であることがさらに好ましい。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。また、変性ポリフェニレンエーテルが、式(2)で表される繰り返し単位を分子中に有している場合、mは、変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量がこのような範囲内になるような数値であることが好ましい。具体的には、mは、1~50であることが好ましい。
【0040】
変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量がこのような範囲内であると、ポリフェニレンエーテルの有する優れた誘電特性を有し、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものとなる。このことは、以下のことによると考えられる。通常のポリフェニレンエーテルでは、その重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。この点、本実施形態に係る変性ポリフェニレンエーテルは、前記式(1)で表される基を末端に有するので、硬化物の耐熱性が充分に高いものが得られると考えられる。また、変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、成形性にも優れると考えられる。よって、このような変性ポリフェニレンエーテルは、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものが得られると考えられる。
【0041】
また、本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテルにおける、変性ポリフェニレンエーテル1分子当たりの、分子末端に有する、前記式(1)で表される基の平均個数(末端官能基数)は、特に限定されない。具体的には、1~5個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1.5~3個であることがさらに好ましい。この末端官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。すなわち、このような変性ポリフェニレンエーテルを用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼性の高いプリント配線板が得られにくいという成形性の問題が生じるおそれがあった。
【0042】
なお、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数は、変性ポリフェニレンエーテル1モル中に存在する全ての変性ポリフェニレンエーテルの1分子あたりの、前記式(1)で表される基の平均値を表した数値等が挙げられる。この末端官能基数は、例えば、得られた変性ポリフェニレンエーテルに残存する水酸基数を測定して、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。そして、変性ポリフェニレンエーテルに残存する水酸基数の測定方法は、変性ポリフェニレンエーテルの溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加し、その混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0043】
また、本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度は、特に限定されない。具体的には、0.03~0.12dl/gであることが好ましく、0.04~0.11dl/gであることがより好ましく、0.06~0.095dl/gであることがさらに好ましい。この固有粘度が低すぎると、分子量が低い傾向があり、低誘電率や低誘電正接等の低誘電性が得られにくい傾向がある。また、固有粘度が高すぎると、粘度が高く、充分な流動性が得られず、硬化物の成形性が低下する傾向がある。よって、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度が上記範囲内であれば、優れた、硬化物の耐熱性及び成形性を実現できる。
【0044】
なお、ここでの固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、例えば、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計で測定した値等である。この粘度計としては、例えば、Schott社製のAVS500 Visco System等が挙げられる。
【0045】
また、本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテルの合成方法は、前記式(1)で表される基を末端に有する変性ポリフェニレンエーテルを合成できれば、特に限定されない。
【0046】
本実施形態で用いられるラジカル重合性化合物としては、炭素-炭素不飽和二重結合及びマレイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種を分子末端のみに2つ以上有するラジカル重合性化合物であれば、特に限定されない。すなわち、このラジカル重合性化合物は、炭素-炭素不飽和二重結合及びマレイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種を分子末端のみに2つ以上有し、分子末端以外の分子中に、ビニレン基等の炭素-炭素不飽和二重結合を有さないラジカル重合性化合物である。また、この炭素-炭素不飽和二重結合としては、例えば、アリル基、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、及びマレイミド基に含まれる二重結合等が挙げられる。すなわち、前記ラジカル重合性化合物は、アリル基、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、及びマレイミド基等の官能基を分子末端にのみ2つ以上有するラジカル重合性化合物等が挙げられる。前記ラジカル重合性化合物は、前記官能基が、前記変性ポリフェニレンエーテルと反応して、架橋を形成させて、硬化させることができるものであればよい。また、本実施形態に係る樹脂組成物には、前記ラジカル重合性化合物を含んでいれば、前記ラジカル重合性化合物以外のラジカル重合性化合物を含んでいてもよい。
【0047】
前記ラジカル重合性化合物は、具体的には、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等の、分子末端のみにアリル基を2個以上有する多官能アリル化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)等の、分子末端のみにメタクリル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、分子末端のみにアクリル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、分子中にビニルベンジル基を有するジビニルベンゼン(DVB)等のビニルベンジル化合物、及び分子末端のみにマレイミド基を2個以上有する多官能マレイミド化合物等が挙げられる。また、ラジカル重合性化合物は、上記例示したラジカル重合性化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
また、前記ラジカル重合性化合物は、重量平均分子量が100~5000であることが好ましく、100~4000であることがより好ましく、100~3000であることがさらに好ましい。ラジカル重合性化合物の重量平均分子量が低すぎると、ラジカル重合性化合物が樹脂組成物の配合成分系から揮発しやすくなるおそれがある。また、ラジカル重合性化合物の重量平均分子量が高すぎると、樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、ラジカル重合性化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物が得られる。このことは、変性ポリフェニレンエーテルとの反応により、架橋を好適に形成することができるためと考えられる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0049】
また、前記ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合性化合物1分子当たりの、アリル基、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、及びマレイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の平均個数(末端官能基数)は、上記のように、2個以上であり、2~20個であることが好ましく、2~18個であることがより好ましい。この末端官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。
【0050】
なお、ここでの末端官能基数は、使用するラジカル重合性化合物の製品の規格値からわかる。ここでの末端官能基数としては、具体的には、例えば、ラジカル重合性化合物1モル中に存在する全てのラジカル重合性化合物の1分子あたりの、アリル基、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、及びマレイミド基の平均値を表した数値等が挙げられる。
【0051】
本実施形態で用いるスチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位が、全繰り返し単位に対して、10モル%未満であるスチレン系熱可塑性エラストマーであれば、特に限定されない。すなわち、前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、前記スチレン系熱可塑性エラストマー1モル中に含まれる芳香環を除く炭素-炭素不飽和二重結合のモル数で表した場合、10モル%未満であるスチレン系熱可塑性エラストマーであれば、特に限定されない。この炭素-炭素不飽和二重結合の存在モル比率(全存在比率)の計算方法として、例えば、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位が、全繰り返し単位に対する割合を求める方法で計算できる。前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位が、全繰り返し単位に対して、10モル%未満であるが、0~5モル%以下であることが好ましく、0~2モル%以下であることがより好ましい。また、前記スチレン系熱可塑性エラストマーに含まれる、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合は少なければ少ないほど好ましいので、前記比率は、0モル%であることがさらに好ましい。
【0052】
また、前記スチレン系熱可塑性エラストマーに含まれる炭素-炭素不飽和二重結合は、分子末端に存在する炭素-炭素不飽和二重結合だけではなく、分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合も含む。すなわち、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位としては、分子末端に存在する炭素-炭素不飽和二重結合と分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合とを含む。そして、前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合の中でも、分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合が少ないほうが、誘電特性に対する熱的劣化の発生を抑制する点から好ましい。具体的には、前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、前記芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位のうちの、分子鎖に含まれる炭素-炭素二重結合を有する繰り返し単位が、全繰り返し単位に対して、3モル%未満であることが好ましく、0~2モル%以下であることが好ましく、0~1モル%以下であることがより好ましい。このような分子鎖中の炭素-炭素不飽和二重結合の存在比率(分子鎖内存在比率)が上記範囲内であるスチレン系熱可塑性エラストマーを用いれば、誘電特性に対する熱的劣化の発生をより抑制することができる。また、前記芳香環以外の分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合としては、例えば、ビニレン基等が挙げられる。
【0053】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、水添スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられ、より具体的には、炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率が、全繰り返し単位に対して、10モル%未満となるように、水素添加(水添)したスチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。また、前記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、水添メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体、水添メチルスチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)メチルスチレン共重合体、水添スチレンイソプレン共重合体、水添スチレンイソプレンスチレン共重合体、水添スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体、及び水添スチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)スチレン共重合体等が挙げられる。また、前記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、上記例示したものを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
また、水添メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体としては、例えば、下記式(7)~(9)に示す繰り返し単位を分子内に有し、a:b:cが29:42:29であるもの等が挙げられる。この水添メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体は、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位が含まれておらず、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率は、0モル%である。
【0055】
また、水添スチレンイソプレンスチレン共重合体としては、例えば、下記式(10)~(12)、(14)~(16)に示す繰り返し単位を分子内に有し、d:e:f:h:i:jが20:4:3:19:5:49であるもの等が挙げられる。この水添スチレンイソプレンスチレン共重合体は、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率(全存在比率)は、全繰り返し単位に対して、7モル%[=(4+3)/(20+4+3+19+5+49)×100]である。また、この水添スチレンイソプレンスチレン共重合体は、芳香環以外の分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率(分子鎖内存在比率)は、全繰り返し単位に対して、4モル%[=4/(20+4+3+19+5+49)×100]である。
【0056】
また、水添スチレン(エチレンブチレン)スチレン共重合体としては、例えば、下記式(8)~(10)、(17)、(18)に示す繰り返し単位を分子内に有し、b:c:d:k:lが51:28:18:2:1であるもの等が挙げられる。この水添スチレンイソプレンスチレン共重合体は、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率(全存在比率)は、全繰り返し単位に対して、3モル%[=(2+1)/(51+28+18+2+1)×100]である。また、この水添スチレンイソプレンスチレン共重合体は、芳香環以外の分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率(分子鎖内存在比率)は、全繰り返し単位に対して、2モル%[=2/(51+28+18+2+1)×100]である。
【0057】
また、この水添スチレンイソプレンスチレン共重合体は、例えば、下記式(10)~(13)に示す繰り返し単位を分子内に有するスチレンイソプレンスチレン共重合体を水素添加して得られるもの等が挙げられる。なお、下記式(10)~(13)に示す繰り返し単位を分子内に有するスチレンイソプレンスチレン共重合体の場合、例えば、d:e:f:gが21:20:10:49であれば、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率は、全繰り返し単位に対して、79モル%[=(20+10+49)/(21+20+10+49)×100]であって、10モル%を超えるものである。
【0058】
【化8】
【0059】
【化9】
【0060】
【化10】
【0061】
【化11】
【0062】
【化12】
【0063】
【化13】
【0064】
【化14】
【0065】
【化15】
【0066】
【化16】
【0067】
【化17】
【0068】
【化18】
【0069】
【化19】
【0070】
また、前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、重量平均分子量が10000~300000であることが好ましく、50000~250000であることがより好ましく、60000~200000であることがさらに好ましい。前記スチレン系熱可塑性エラストマーの分子量が小さすぎると、硬化物のガラス転移温度が低下したり、硬化物の耐熱性が低くなる傾向がある。また、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの分子量が大きすぎると、樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量が上記範囲内であると、ガラス転移温度及び耐熱性により優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生をより抑制することができる。
【0071】
また、前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量は、前記変性ポリフェニレンエーテルと前記ラジカル重合性化合物と前記スチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、20~80質量部であることが好ましく、30~70質量部であることがより好ましい。
【0072】
また、前記ラジカル重合性化合物の含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテルと前記ラジカル重合性化合物と前記スチレン系エラストマーとの合計100質量部に対して、10~50質量部であることが好ましく、20~40質量部であることがより好ましい。
【0073】
前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量及び前記ラジカル重合性化合物の含有量は、どちらか一方が少なすぎても多すぎても、好適な硬化物が得られにくい傾向がある。具体的には、前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量と前記ラジカル重合性化合物の含有量との比が、質量比で、50:50~90:10であることが好ましい。前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量が少なすぎると、ポリフェニレンエーテルの有する優れた誘電特性を充分に発揮できない傾向がある。また、前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量が多すぎると、硬化物のガラス転移温度が低くなる傾向がある。よって、前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量及び前記ラジカル重合性化合物の含有量が、それぞれ上記範囲内であると、前記変性ポリフェニレンエーテルと前記ラジカル重合性化合物との硬化反応が好適に進行し、誘電特性に優れ、ガラス転移温度の高い硬化物が得られる。
【0074】
また、前記スチレン系エラストマーの含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテルと前記ラジカル重合性化合物と前記スチレン系エラストマーとの合計100質量部に対して、5~60質量部であることが好ましく、5~50質量部であることがより好ましい。すなわち、前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量及び前記ラジカル重合性化合物の含有量の合計と、前記スチレン系エラストマーの含有量との比が、質量比で40:60~95:5であることが好ましく、50:50~95:5であることが好ましい。前記スチレン系エラストマーの含有量が少なすぎると、誘電特性を高める効果を充分に奏することができない傾向がある。また、前記スチレン系エラストマーの含有量が多すぎると、樹脂組成物の粘度が高くなり、繊維質基材等への含浸性が低下する傾向がある。また、前記スチレン系エラストマーは、上述したように、炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率が低いので、上記範囲の含有量であっても、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制することができる。さらに、前記スチレン系エラストマーは、芳香環以外の分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合、例えば、ビニレン基を有する繰り返し単位の含有比率が低いことで、誘電特性に対する熱的劣化の発生をより抑制することができる。よって、前記スチレン系エラストマーの含有量が上記範囲内であれば、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した硬化物が得られ、さらに、繊維質基材等への含浸性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0075】
本実施形態で用いる有機過酸化物は、特に限定されない。前記有機過酸化物は、前記変性ポリフェニレンエーテルと前記ラジカル重合性化合物との硬化反応を促進させることができる。前記有機過酸化物としては、例えば、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、及びアゾビスイソブチロニトリルが挙げられる。前記有機過酸化物としては、ジアルキル系の有機過酸化物が反応開始温度の観点から好ましく、上記例示の中でも、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンが好ましく用いられる。α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、反応開始温度が比較的に高いため、プリプレグ乾燥時等の硬化する必要がない時点での硬化反応の促進を抑制することができる。この硬化反応の抑制により、樹脂組成物の保存性の低下を抑制することができる。さらに、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、揮発性が低いため、プリプレグ乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。また、前記有機過酸化物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
また、前記有機過酸化物の含有量は、前記変性ポリフェニレンエーテルと前記ラジカル重合性化合物と前記スチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.5~2質量部であることがより好ましい。前記有機過酸化物の含有量が少なすぎると、前記有機過酸化物を含有した効果を充分に発揮できない傾向がある。また、前記有機過酸化物の含有量が多すぎると、得られた硬化物の誘電特性や耐熱性が悪影響を受ける傾向がある。
【0077】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、難燃剤を含有してもよい。難燃剤によって、樹脂組成物の硬化物の難燃性を高めることができる。前記難燃剤は、特に限定されない。具体的には、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を使用する分野では、例えば、融点が300℃以上のエチレンジペンタブロモベンゼン、エチレンビステトラブロモイミド、デカブロモジフェニルオキサイド、及びテトラデカブロモジフェノキシベンゼンが好ましい。ハロゲン系難燃剤を使用することにより、高温時におけるハロゲンの脱離が抑制でき、耐熱性の低下を抑制できると考えられる。また、ハロゲンフリーが要求される分野では、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤、及びホスフィン酸塩系難燃剤が挙げられる。リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、ジキシレニルホスフェートの縮合リン酸エステルが挙げられる。ホスファゼン系難燃剤の具体例としては、フェノキシホスファゼンが挙げられる。ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤の具体例としては、キシリレンビスジフェニルホスフィンオキサイドが挙げられる。ホスフィン酸塩系難燃剤の具体例としては、例えば、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩のホスフィン酸金属塩が挙げられる。前記難燃剤としては、例示した各難燃剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
また、本実施の形態に係る樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、例えば、シランカップリング剤、消泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、滑剤、及び無機充填材等の添加剤をさらに含んでもよい。特に、シランカップリング剤については、金属箔との接着や樹脂同士の接着の向上のため好適に用いられ、炭素-炭素不飽和二重結合を有するカップリング剤が好ましい。
【0079】
また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いることによって、以下のように、プリプレグ、金属張積層板、及び配線板を得ることができる。
【0080】
図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグ1の一例を示す概略断面図である。
【0081】
本実施形態に係るプリプレグ1は、図1に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、繊維質基材3とを備える。このプリプレグ1としては、前記半硬化物2の中に繊維質基材3が存在するものが挙げられる。すなわち、このプリプレグ1は、前記半硬化物2と、前記半硬化物2の中に存在する繊維質基材3とを備える。
【0082】
なお、前記半硬化物とは、前記樹脂組成物を、さらに硬化しうる程度に途中まで硬化された状態のものである。すなわち、前記半硬化物は、前記樹脂組成物を半硬化した状態の(Bステージ化された)ものである。例えば、前記樹脂組成物は、加熱すると、最初、粘度が徐々に低下し、その後、硬化が開始し、粘度が徐々に上昇する。このような場合、半硬化としては、粘度が上昇し始めてから、完全に硬化する前の間の状態等が挙げられる。
【0083】
また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いて得られるプリプレグとしては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を備えるものであってもよいし、また、前記樹脂組成物を硬化させる前のものを備えるものであってもよい。すなわち、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよい。具体的には、例えば、前記樹脂組成物の中に繊維質基材が存在するもの等が挙げられる。
【0084】
プリプレグを製造する際には、プリプレグを形成するための基材である繊維質基材3に含浸するために、樹脂組成物2は、ワニス状に調製されて用いられることが多い。すなわち、樹脂組成物2は、通常、ワニス状に調製された樹脂ワニスであることが多い。このような樹脂ワニスは、例えば、以下のようにして調製される。
【0085】
まず、変性ポリフェニレンエーテル、ラジカル重合性化合物、スチレン系熱可塑性エラストマー、及び有機過酸化物等の、有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。また、スチレン系熱可塑性エラストマーを有機溶媒に溶解させた後、ラジカル重合性化合物、変性ポリフェニレンエーテルの順に溶解させるのが、ワニス粘度を調整する上で好ましい。その後、必要に応じて用いられる、有機溶媒に溶解しない成分、例えば、無機充填材等を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の組成物が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、変性ポリフェニレンエーテル、ラジカル重合性化合物、スチレン系熱可塑性エラストマー、及び有機過酸化物等を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、トルエンやメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。
【0086】
プリプレグ1を製造する方法としては、例えば、樹脂組成物2、例えば、ワニス状に調製された樹脂組成物2を繊維質基材3に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。
【0087】
プリプレグ1を製造する際に用いられる繊維質基材3として、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特に偏平処理加工したガラスクロスが好ましい。偏平処理加工として、具体的には、例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧してヤーンを偏平に圧縮する方法が挙げられる。なお、一般的に使用される繊維質基材の厚さは、例えば、0.02mm以上、0.3mm以下である。
【0088】
樹脂組成物2は、繊維質基材3へ、浸漬及び塗布等によって含浸される。必要に応じて複数回繰り返して含浸することも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂組成物を用いて含浸を繰り返すことにより、最終的に希望とする組成及び含浸量に調整することも可能である。
【0089】
樹脂組成物2が含浸された繊維質基材3は、所望の加熱条件、例えば、80℃以上、180℃以下で1分間以上、10分間以下加熱される。加熱によって、半硬化状態(Bステージ)のプリプレグ1が得られる。
【0090】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制したものである。このため、この樹脂組成物を用いて得られたプリプレグは、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制したものである。そして、このプリプレグは、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した金属張積層板を製造することができるプリプレグである。
【0091】
図2は、本発明の実施形態に係る金属張積層板11の一例を示す概略断面図である。
【0092】
金属張積層板11は、図2に示すように、図1に示したプリプレグ1の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12とともに積層される金属箔13とから構成されている。すなわち、金属張積層板11は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12の上に、金属箔13を有する。また、金属張積層板11は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12に接合された金属箔13とを有する。また、金属張積層板11は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12の上に設けられた金属箔13とを有する。
【0093】
プリプレグ1を用いて金属張積層板11を作製する方法として、プリプレグ1を1枚又は複数枚重ね、さらに、その上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔13を重ね、金属箔13およびプリプレグ1を加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層板11を作製する方法が挙げられる。すなわち、金属張積層板11は、プリプレグ1に金属箔13を積層して、加熱加圧成形して得られる。また、加熱加圧条件は、製造する金属張積層板11の厚みやプリプレグ1の組成物の種類等により適宜設定することができる。例えば、温度を150~210℃、圧力を1.5~5MPa、時間を60~150分間とすることができる。
【0094】
また、金属張積層板11は、プリプレグ1を用いずに、ワニス状の樹脂組成物を金属箔13の上に形成し、加熱加圧することにより作製されてもよい。
【0095】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制したものである。このため、この樹脂組成物を用いて得られた金属張積層板は、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制したものである。そして、この金属張積層板は、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した配線板を製造することができる金属張積層板である。
【0096】
図3は、本発明の実施形態に係る配線板21の一例を示す概略断面図である。
【0097】
本実施形態に係る配線板21は、図3に示すように、図1に示したプリプレグ1を硬化して用いられる絶縁層12と、絶縁層12ともに積層され、金属箔13を部分的に除去して形成された配線14とから構成されている。すなわち、前記配線板21は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12の上に、配線14を有する。また、前記配線板21は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12に接合された配線14とを有する。また、前記配線板21は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12の上に設けられた配線14とを有する。
【0098】
そして、作製された金属張積層板11の表面の金属箔13をエッチング加工等して配線形成をすることによって、絶縁層12の表面に回路として配線が設けられた配線板21が得られる。すなわち、配線板21は、金属張積層板11の表面の金属箔13を部分的に除去することにより回路形成して得られる。配線板21は、誘電特性優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した絶縁層12を有する。
【0099】
このような配線板は、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した配線板である。
【0100】
図4は、本実施の形態に係る樹脂付き金属箔31の一例を示す概略断面図である。
【0101】
本実施形態に係る樹脂付き金属箔31は、図4に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む絶縁層32と、金属箔13とを備える。この樹脂付き金属箔31は、前記絶縁層32の表面上に金属箔13を有する。すなわち、この樹脂付き金属箔31は、前記絶縁層32と、前記絶縁層32とともに積層される金属箔13とを備える。また、前記樹脂付き金属箔31は、前記絶縁層32と前記金属箔13との間に、他の層を備えていてもよい。
【0102】
また、前記絶縁層32としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、前記樹脂組成物を硬化させる前のものを含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、金属箔とを備えるであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む絶縁層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔であってもよい。また、前記絶縁層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0103】
また、金属箔としては、樹脂付き金属箔及び金属張積層板に用いられる金属箔を限定なく用いることができる。金属箔としては、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられる。
【0104】
樹脂付き金属箔31は、例えば、上記ワニス状の樹脂組成物を金属箔13上に塗布し、加熱することにより製造される。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、金属箔13上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、80℃以上、180℃以下、1分以上、10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の絶縁層32として、金属箔13上に形成される。
【0105】
このような樹脂付き金属箔は、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した樹脂付き金属箔である。また、このような樹脂付き金属箔は、配線板を製造する際に用いることができる。例えば、配線板の上に積層することによって、多層の配線板を製造することができる。このような樹脂付き金属箔を用いて得られた配線板としては、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した配線板が得られる。
【0106】
図5は、本実施の形態に係る樹脂付きフィルム41の一例を示す概略断面図である。
【0107】
本実施形態に係る樹脂付きフィルム41は、図5に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む絶縁層42と、支持フィルム43とを備える。この樹脂付きフィルム41は、前記絶縁層42の表面上に支持フィルム43を有する。すなわち、この樹脂付きフィルム41は、前記絶縁層42と、前記絶縁層42とともに積層される支持フィルム43とを備える。また、前記樹脂付きフィルム41は、前記絶縁層42と前記支持フィルム43との間に、他の層を備えていてもよい。
【0108】
また、前記絶縁層42としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、前記樹脂組成物を硬化させる前のものを含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂付きフィルムは、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む絶縁層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムであってもよい。また、前記絶縁層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0109】
また、支持フィルム43としては、樹脂付きフィルムに用いられる支持フィルムを限定なく用いることができる。支持フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、及びポリエチレンテレフタレートフィルム等が挙げられる。
【0110】
樹脂付きフィルム41は、例えば、上記ワニス状の樹脂組成物を支持フィルム43上に塗布し、加熱することにより製造される。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、支持フィルム43上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、80℃以上、180℃以下、1分以上、10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の絶縁層42として、支持フィルム43上に形成される。
【0111】
このような樹脂付きフィルムは、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した樹脂付きフィルムである。また、このような樹脂付きフィルムは、配線板を製造する際に用いることができる。例えば、配線板の上に積層した後に、支持フィルムを剥離したり、支持フィルムを剥離した後、配線板の上に積層することによって、多層の配線板を製造することができる。このような樹脂付きフィルムを用いて得られた配線板としては、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した配線板が得られる。
【0112】
本明細書は、上述したように、様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0113】
本発明の一局面は、下記式(1)で表される基を末端に有する変性ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合及びマレイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種を分子末端のみに2つ以上有するラジカル重合性化合物と、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位が、全繰り返し単位に対して、10モル%未満であるスチレン系熱可塑性エラストマーと、有機過酸化物とを含有する樹脂組成物である。
【0114】
【化20】
【0115】
式(1)中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。
【0116】
このような構成によれば、誘電特性に優れ、さらに、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した硬化物が得られる樹脂組成物を提供することができる。
【0117】
このことは、以下のことによると考えられる。まず、前記樹脂組成物は、前記変性ポリフェニレンエーテルを前記ラジカル重合性化合物で架橋することで、ポリフェニレンエーテルの有する優れた誘電特性を維持した硬化物が得られると考えられる。また、前記スチレン系熱可塑性エラストマーを含有することによって、誘電特性により優れた硬化物が得られる樹脂組成物になると考えられる。また、前記ラジカル重合性化合物は、炭素-炭素不飽和二重結合及びマレイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種を分子末端のみに2つ以上有するラジカル重合性化合物を含む。このようなラジカル重合性化合物は、前記変性ポリフェニレンエーテルの架橋に寄与する二重結合以外の二重結合の含有量が少ないと考えられる。また、前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位が、全繰り返し単位に対して、10モル%未満であるので、前記スチレン系熱可塑性エラストマーも、二重結合の含有量が少ないと考えられる。二重結合は、熱によって、特にそのα位炭素に結合された水素がラジカルにより引き抜かれ、極性をもつカルボニル基等に酸化されることで、誘電特性等の電気特性の劣化の原因になると考えられる。前記樹脂組成物は、このような二重結合の含有量が少ないので、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制することができると考えられる。これらのことから、前記樹脂組成物は、誘電特性に優れ、さらに、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した硬化物が得られると考えられる。
【0118】
また、前記樹脂組成物において、前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、前記芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位のうちの、分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位が、全繰り返し単位に対して、3モル%未満であることが好ましい。
【0119】
このような構成によれば、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生をより抑制することができる。
【0120】
また、前記分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位が、全繰り返し単位に対して、3モル%未満である樹脂組成物において、前記分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合が、例えば、ビニレン基であることが挙げられる。すなわち、前記樹脂組成物において、前記分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合としてのビニレン基を有する繰り返し単位が、上記のように、全繰り返し単位に対して、3モル%未満であることがより好ましい。
【0121】
前記樹脂組成物において、前記スチレン系熱可塑性エラストマーに含まれるビニレン基が多いほど、誘電特性に対する熱的劣化がより発生しやすい。このため、前記分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合としてのビニレン基を有する繰り返し単位が、上記のように、全繰り返し単位に対して、3モル%未満であると、誘電特性に対する熱的劣化をより抑制できる。よって、上記のような構成によれば、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生をより抑制することができる。
【0122】
また、前記樹脂組成物において、前記ラジカル重合性化合物は、アリル基、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、及びマレイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種を分子末端のみに2つ以上有するラジカル重合性化合物であることが好ましい。
【0123】
このような構成によれば、誘電特性により優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生をより抑制することができる。
【0124】
また、前記樹脂組成物において、前記変性ポリフェニレンエーテルは、重量平均分子量が500~3000であり、分子末端に上記式(1)で表される基を1分子当たり平均1~5個有することが好ましい。
【0125】
このような構成によれば、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制し、さらに、硬化物の耐熱性を高めることができる。
【0126】
また、前記樹脂組成物において、前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、重量平均分子量が10000~300000であることが好ましい。
【0127】
このような構成によれば、誘電特性により優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生をより抑制することができる。
【0128】
また、前記樹脂組成物において、前記スチレン系熱可塑性エラストマーが、水添メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体、水添メチルスチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)メチルスチレン共重合体、水添スチレンイソプレン共重合体、水添スチレンイソプレンスチレン共重合体、水添スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体、及び水添スチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)スチレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0129】
このような構成によれば、誘電特性により優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生をより抑制することができる。
【0130】
また、前記樹脂組成物において、前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量及び前記ラジカル重合性化合物の含有量の合計と、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量との比が、質量比で、50:50~95:5であることが好ましい。
【0131】
このような構成によれば、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した硬化物が得られ、さらに、繊維質基材等への含浸性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0132】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを備えるプリプレグである。
【0133】
このような構成によれば、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制したプリプレグが得られる。
【0134】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムである。
【0135】
このような構成によれば、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した樹脂付きフィルムが得られる。
【0136】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔である。
【0137】
このような構成によれば、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した樹脂付き金属箔が得られる。
【0138】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備える金属張積層板である。
【0139】
このような構成によれば、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した金属張積層板が得られる。
【0140】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、配線とを備える配線板である。
【0141】
このような構成によれば、誘電特性に優れ、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した配線板が得られる。
【0142】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0143】
[実施例1~8、及び比較例1~6]
本実施例において、樹脂組成物を調製する際に用いる各成分について説明する。
【0144】
(ポリフェニレンエーテル化合物:PPE成分)
変性PPE-1:ポリフェニレンエーテルの末端水酸基をメタクリル基で変性した変性ポリフェニレンエーテル(式(5)に示す構造を有し、式(5)中、Rがメチル基であり、Yがジメチルメチレン基である変性ポリフェニレンエーテル化合物、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA9000、重量平均分子量Mw1700、末端官能基数1.8個)
変性PPE-2:
ポリフェニレンエーテルとクロロメチルスチレン(ビニルベンジルクロライド)とを反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテルである。
【0145】
具体的には、以下のように反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテルである。
【0146】
まず、温度調節器、攪拌装置、冷却設備、及び滴下ロートを備えた1リットルの3つ口フラスコに、ポリフェニレンエーテル(SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA90、末端水酸基数2個、重量平均分子量Mw1700)200g、p-クロロメチルスチレンとm-クロロメチルスチレンとの質量比が50:50の混合物(東京化成工業株式会社製のクロロメチルスチレン:CMS)30g、相間移動触媒として、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド1.227g、及びトルエン400gを仕込み、攪拌した。そして、ポリフェニレンエーテル、クロロメチルスチレン、及びテトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイドが、トルエンに溶解するまで攪拌した。その際、徐々に加熱し、最終的に液温が75℃になるまで加熱した。そして、その溶液に、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム20g/水20g)を20分間かけて、滴下した。その後、さらに、75℃で4時間攪拌した。次に、10質量%の塩酸でフラスコの内容物を中和した後、多量のメタノールを投入した。そうすることによって、フラスコ内の液体に沈殿物を生じさせた。すなわち、フラスコ内の反応液に含まれる生成物を再沈させた。そして、この沈殿物をろ過によって取り出し、メタノールと水との質量比が80:20の混合液で3回洗浄した後、減圧下、80℃で3時間乾燥させた。
【0147】
得られた固体を、H-NMR(400MHz、CDCl、TMS)で分析した。NMRを測定した結果、5~7ppmにビニルベンジル基(エテニルベンジル基)に由来するピークが確認された。これにより、得られた固体が、分子末端に、前記置換基としてビニルベンジル基(エテニルベンジル基)を分子中に有する変性ポリフェニレンエーテルであることが確認できた。この得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物は、具体的には、エテニルベンジル化されたポリフェニレンエーテルであることが確認できた。
【0148】
また、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数を、以下のようにして測定した。
【0149】
まず、変性ポリフェニレンエーテルを正確に秤量した。その際の重量を、X(mg)とする。そして、この秤量した変性ポリフェニレンエーテルを、25mLの塩化メチレンに溶解させ、その溶液に、10質量%のテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)のエタノール溶液(TEAH:エタノール(体積比)=15:85)を100μL添加した後、UV分光光度計(株式会社島津製作所製のUV-1600)を用いて、318nmの吸光度(Abs)を測定した。そして、その測定結果から、下記式を用いて、変性ポリフェニレンエーテルの末端水酸基数を算出した。
【0150】
残存OH量(μmol/g)=[(25×Abs)/(ε×OPL×X)]×10
ここで、εは、吸光係数を示し、4700L/mol・cmである。また、OPLは、セル光路長であり、1cmである。
【0151】
そして、その算出された変性ポリフェニレンエーテルの残存OH量(末端水酸基数)は、ほぼゼロであることから、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基が、ほぼ変性されていることがわかった。このことから、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数からの減少分は、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数であることがわかった。すなわち、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数が、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数であることがわかった。つまり、末端官能基数が、2個であった。
【0152】
また、変性ポリフェニレンエーテルの、25℃の塩化メチレン中で固有粘度(IV)を測定した。具体的には、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)を、変性ポリフェニレンエーテルの、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計(Schott社製のAVS500 Visco System)で測定した。その結果、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)は、0.086dl/gであった。
【0153】
また、変性ポリフェニレンエーテルの分子量分布を、GPCを用いて、測定した。そして、その得られた分子量分布から、重量平均分子量(Mw)を算出した。その結果、Mwは、1900であった。
【0154】
(ラジカル重合性化合物)
TAIC:トリアリルイソシアヌレート(炭素-炭素不飽和二重結合を分子末端のみに有するラジカル重合性化合物、日本化成株式会社製のTAIC、重量平均分子量Mw249、末端官能基数3個)
DVB:ジビニルベンゼン(炭素-炭素不飽和二重結合を分子末端のみに有するラジカル重合性化合物、新日鐵住金株式会社製のDVB-810、分子量130、末端官能基数2個)
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート(炭素-炭素不飽和二重結合を分子末端のみに有するラジカル重合性化合物、新中村化学工業株式会社製のTMPT、分子量338、末端官能基数3個)
BMI-2300:ポリフェニルメタンマレイミド(マレイミド基を分子末端のみに有するラジカル重合性化合物、大和化成工業株式会社製のBMI-2300、分子量670、末端官能基数3個)
BMI-TMH:トリメチルヘキサンビスマレイミド(マレイミド基を分子末端のみに有するラジカル重合性化合物、大和化成工業株式会社製のBMI-TMH、分子量318、末端官能基数2個)
MIR-3000:ビフェニルアラルキルマレイミド(マレイミド基を分子末端のみに有するラジカル重合性化合物、日本化薬株式会社製のMIR-3000、分子量、分子量875、末端官能基数3個)
スチレンブタジエンオリゴマー:スチレンブタジエンオリゴマー(分子末端以外に、炭素-炭素不飽和二重結合を分子内に有するラジカル重合性化合物、クレイバレー社製のRicon181、炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率:50モル%)
(スチレン系熱可塑性エラストマー)
V9827:水添メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体(株式会社クラレ製のセプトンV9827、上記式(7)~(9)に示す繰り返し単位を分子内に有し、a:b:cが29:42:29である共重合体、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率(全存在比率):0モル%、芳香環以外の分子鎖に含まれる炭素-炭素不飽和二重結合(ビニレン基)の含有比率(分子鎖内存在比率):0モル%、重量平均分子量:92000)
V9461:水添メチルスチレン(エチレン/エチレンプロピレン)メチルスチレン共重合体(株式会社クラレ製のセプトンV9461、全存在比率:0モル%、分子鎖内存在比率:0モル%、重量平均分子量:240000)
V9475:水添メチルスチレン(エチレン/エチレンプロピレン)メチルスチレン共重合体(株式会社クラレ製のセプトンV9475、全存在比率:0モル%、分子鎖内存在比率:0モル%、重量平均分子量:310000)
2002:水添スチレン(エチレンプロピレン)スチレン共重合体(株式会社クラレ製のセプトン2002、全存在比率:0モル%、分子鎖内存在比率:0モル%、重量平均分子量:54000)
H1041:水添スチレン(エチレンブチレン)スチレン共重合体(旭化成株式会社製のタフテックH1041、上記式(8)~(10)、(17)、(18)に示す繰り返し単位を分子内に有し、b:c:d:k:lが51:28:18:2:1である共重合体、全存在比率:3モル%、分子鎖内存在比率:2モル%、重量平均分子量:80000)
7125:水添スチレンイソプレンスチレン共重合体(株式会社クラレ製のハイブラー7125、上記式(10)~(12)、(14)~(16)に示す繰り返し単位を分子内に有し、d:e:f:h:i:jが20:4:3:19:5:49である共重合体、全存在比率:7モル%、分子鎖内存在比率:4モル%、重量平均分子量:100000)
5127:スチレンイソプレンスチレン共重合体(株式会社クラレ製のハイブラー5127、上記式(10)~(13)に示す繰り返し単位を分子内に有し、d:e:f:gが21:20:10:49である共重合体、全存在比率:79モル%、分子鎖内存在比率:20モル%、重量平均分子量:180000)
(有機過酸化物)
パーブチルP:1,3-ビス(ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油株式会社製のパーブチルP)
(酸化防止剤)
酸化防止剤:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール
【0155】
[調製方法]
まず、各成分を表1及び表2に記載の配合割合で、固形分濃度が60質量%となるように、トルエンに添加し、混合させた。その混合物を、60分間攪拌することによって、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)が得られた。
【0156】
次に、得られたワニスをガラスクロス(日東紡績株式会社製の♯2116タイプ)に含浸させた後、100~160℃で約2~8分間加熱乾燥することによりプリプレグを得た。その際、変性ポリフェニレンエーテル、及びラジカル重合性化合物等の、硬化反応により樹脂を構成する成分、及びスチレン系熱可塑性エラストマーの含有量(レジンコンテント)が約50質量%となるように調整した。
【0157】
そして、得られた各プリプレグを6枚重ねて、厚み35μmの銅箔に挟んで積層し、温度200℃、2時間、圧力3MPaの条件で加熱加圧することにより、厚み約0.8mmの評価基板を得た。
【0158】
上記のように調製された各プリプレグ及び評価基板を、以下に示す方法により評価を行った。
【0159】
[ガラス転移温度(Tg)]
セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性スペクトロメータ「DMS100」を用いて、プリプレグのTgを測定した。このとき、曲げモジュールで周波数を10Hzとして動的粘弾性測定(DMA)を行い、昇温速度5℃/分の条件で室温から280℃まで昇温した際のtanδが極大を示す温度をTgとした。
【0160】
[誘電特性(誘電正接)]
10GHzにおける評価基板の誘電正接を、空洞共振器摂動法で測定した。具体的には、ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製のN5230A)を用い、10GHzにおける評価基板の誘電正接を測定した。
【0161】
[誘電特性に対する熱的劣化性(誘電正接の耐熱劣化率)]
前記評価基板を、130℃で2000時間、加熱した。その後、上記と同様の方法で、評価基板の誘電正接を測定した。前記加熱前後の誘電正接の変化率(=加熱後に測定した誘電正接-加熱前に測定した誘電正接)/加熱前に測定した誘電正接×100)を、誘電正接の耐熱劣化率(%)として、算出した。
【0162】
上記各評価における結果は、表1及び表2に示す。
【0163】
【表1】
【0164】
【表2】
【0165】
表1及び表2からわかるように、前記式(1)で表される基を末端に有する変性ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合及びマレイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種を分子末端のみに2つ以上有するラジカル重合性化合物と、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率が10モル%未満であるスチレン系熱可塑性エラストマーと、有機過酸化物とを含有する樹脂組成物を用いた場合(実施例1~17)は、誘電特性に優れ、さらに、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した硬化物が得られることがわかる。
【0166】
具体的には、実施例1~17は、前記式(1)で表される基を末端に有する変性ポリフェニレンエーテル以外の変性ポリフェニレンエーテルを用いた場合(比較例1)と比較して、誘電正接の耐熱劣化率が低いことがわかる。
【0167】
また、実施例1~17は、前記スチレン系熱可塑性エラストマーを含有していない場合(比較例3,6)と比較して、誘電正接の耐熱劣化率が低いことがわかる。酸化防止剤を含有する比較例6であっても、誘電正接の耐熱劣化率が高かった。これらのことから、酸化防止剤を含有させても充分ではなく、前記スチレン系熱可塑性エラストマーを含有することが、誘電正接の耐熱劣化率を低下させることに寄与することがわかる。
【0168】
また、実施例1~17は、炭素-炭素不飽和二重結合及びマレイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種を分子末端のみに2つ以上有するラジカル重合性化合物ではない、分子末端以外の分子中に、炭素-炭素不飽和二重結合を有するラジカル重合性化合物を用いた場合(比較例2)と比較して、誘電正接の耐熱劣化性が低いことがわかる。このことから、分子末端以外の分子中に、炭素-炭素不飽和二重結合を有さないラジカル重合性化合物を含有することが、誘電正接の耐熱劣化率を低下させることに寄与することがわかる。
【0169】
また、実施例1~17は、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合を有する繰り返し単位の含有比率が10モル%以上のスチレン系熱可塑性エラストマーを用いた場合(比較例4)と比較して、誘電正接の耐熱劣化率が低いことがわかる。このことから、芳香環以外の炭素-炭素不飽和二重結合の少ないスチレン系熱可塑性エラストマーを含有することが、誘電正接の耐熱劣化率を低下させることに寄与することがわかる。
【0170】
また、形成されたプリプレグを目視で確認し、繊維質基材への樹脂組成物の含浸性について、目視で確認した。その結果、前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量及び前記ラジカル重合性化合物の含有量の合計と、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量との比が、質量比で、50:50~95:5である実施例1~5、7~12、及び14~17は、これより前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量の含有量が多い場合(実施例6)より、繊維質基材に樹脂組成物が好適に含浸されていることがわかった。このことから、前記変性ポリフェニレンエーテルの含有量及び前記ラジカル重合性化合物の含有量の合計と、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量との比が、質量比で、50:50~95:5であることが、含浸性の観点から、好ましいことがわかる。
【0171】
また、形成されたプリプレグを目視で確認し、繊維質基材への樹脂組成物の含浸性について、目視で確認した。その結果、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量が10000~300000である場合(実施例1、12、及び14~17)は、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量が300000を超える場合より、繊維質基材に樹脂組成物が好適に含浸されていることがわかった。このことから、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は、10000~300000であることが、含浸性の観点から、好ましいことがわかる。
【0172】
この出願は、2017年3月2日に出願された日本国特許出願特願2017-039725を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0173】
本発明を表現するために、上述において実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明によれば、誘電特性に優れ、さらに、誘電特性に対する熱的劣化の発生を充分に抑制した硬化物が得られる樹脂組成物が提供される。また、本発明によれば、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板が提供される。
【符号の説明】
【0175】
1 プリプレグ
2 樹脂組成物又は樹脂組成物の半硬化物
3 繊維質基材
11 金属張積層板
12 絶縁層
13 金属箔
14 配線
21 配線板
31 樹脂付き金属箔
32 絶縁層
41 樹脂付きフィルム
42 絶縁層
43 支持フィルム
図1
図2
図3
図4
図5