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特許7557850脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/04 20060101AFI20240920BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C07H15/04 A
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020094792
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021187783
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-01-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター「戦略的イノベーション創造プログラム(スマートバイオ産業・農業基盤技術)/研究領域:3A(非可食部化学品化)/アグリバイオ・スマート化学生産システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】廣森 浩祐
(72)【発明者】
【氏名】前田 直輝
(72)【発明者】
【氏名】笹山 知嶺
(72)【発明者】
【氏名】北川 尚美
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭47-024532(JP,A)
【文献】特開昭63-010740(JP,A)
【文献】特開平08-188578(JP,A)
【文献】D'ALONZO, D. et al.,The Journal of Organic Chemistry,2008年,Vol. 73,pp. 5636-5639
【文献】FURSTNER, A. et al.,Journal of the American Chemical Society,2003年,Vol. 125,pp. 13132-13142
【文献】HAQUE, M. E. et al.,Chemical and Pharmaceutical Bulletin,1985年,Vol. 33,pp. 2243-2255
【文献】MATSUSHITA, Y. et al.,Tetrahedron Letters,1997年,Vol. 38,pp. 8709-8712
【文献】Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1,1987年,pp. 1613-1621
【文献】化学便覧 応用化学編,第7版,丸善出版株式会社,2014年,第367~368頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
化学書資料館
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルドースの1,6-アンヒドロ構造を含む単糖若しくは二糖の分子内脱水糖脂肪族炭化水素のアルコール化合物とを、陽イオン交換体の存在下かつ無溶媒下で、付加反応させる、脂肪族グリコシド化合物の製造方法。
【請求項2】
前記分子内脱水糖がレボグルコサンである、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アルコール化合物を構成する炭素原子数が1~22である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記脂肪族炭化水素が飽和脂肪族炭化水素である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記脂肪族炭化水素のアルコール化合物及び前記分子内脱水糖の混合物と、前記陽イオン交換体とを接触させる、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合物を回分法又は連続法で前記陽イオン交換体と接触させる、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記混合物が、前記脂肪族炭化水素のアルコール化合物に前記分子内脱水糖の少なくとも一部を溶解させた混合液である、請求項5又は6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキルグルコシド等の、脂肪族炭化水素基が糖にグリコシド結合した脂肪族グリコシド化合物は、親水基として糖骨格を持つ天然原料由来の非イオン性界面活性剤として好適である。脂肪族グリコシド化合物は、一般的な非イオン性界面活性剤に比べ、より高い起泡性を示す。また、蛋白質や肌に対して低刺激性であり、使用後も分解されやすいため、安全性や環境適合性も高い。そのため、洗顔剤やシャンプー、食器用洗剤など、幅広い製品に用いられている。
脂肪族グリコシド化合物の工業的な合成方法(製造方法)としては、糖(例えばグルコース)と高級アルコールを酸触媒存在下で反応させる直接法、又は、糖を予めブタノールのような低級アルコールと反応させてグリコシドを一旦合成し、次いで高級アルコールとのアルコール交換反応を行う間接法がある。いずれの合成方法においても、酸触媒として均相酸(例えば、無機酸又は有機酸等のブレンステッド酸)を用いて、100℃以上の高温、減圧下で副生する水又は低級アルコールを除去しながら反応させることで、反応率を高めている。
しかし、従来の合成方法では、糖の重合反応等の副反応も進行(糖同士の縮合反応による多糖が副生)して、反応生成物が褐色化するなど色の劣化(着色)が問題となっている。また、糖の分解反応も生起する。更に直接法ではグリコシド結合の形成位置(水酸基)が異なる副生物も生成することがあり、反応生成物の純度低下も問題となる。これらの問題に加え、従来の合成方法では反応混合物中から、未反応物、更には副生物を除去する精製工程の負荷も大きい。
この中で多糖の副生については、この副生物を低減できる直接法として、乳化剤及び酸触媒の存在下、糖と高級アルコールとを反応させるアルキルグリコシドの製造方法において、糖として糖水溶液を用い、かつ乳化剤としてアルキルペントシドを含むアルキルグリコシドを用いる製造方法が特許文献1に提案されている。
【0003】
一方、脂肪族炭化水素基が糖にエステル結合した糖脂肪酸エステル化合物も、親水基としての糖骨格と親油基としての脂肪族炭化水素基とを有し、非イオン性界面活性剤等として用いられている。このような糖脂肪酸エステル化合物の合成方法としては、脂肪族グリコシド化合物と同様に、糖と脂肪族カルボン酸とを酸触媒存在下で反応させる直接法、又は、糖と脂肪酸エステルを用いてエステル交換反応を行う間接法が知られている。この直接法に関連してしては、糖脂肪酸エステル化合物を合成する技術ではないが、特許文献2に記載の製造方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-125474号公報
【文献】特開2013-159685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の製造方法は、バイオマス由来の糖水溶液をそのまま用いて、ポリグルコースの副生を低減しながらも、アルキルグリコシドを直接合成することができると記載されている。しかし、この製造方法において、ポリグルコースの副生量は、従来の合成方法に比べると低減できるものの、実際(表1)には5~22質量%までしか低減できず、改善の余地がある。しかも、非イオン性界面活性剤として使用するには精製工程を要する。また、特許文献2に記載の製造方法は、着色防止及び純度向上を実現するため、陰イオン交換樹脂を用いた後段処理工程(精製工程)を必須としており、この製造方法において糖を用いて糖脂肪酸エステル化合物を製造するにしても、やはり後段処理工程の実施という問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点を克服して、糖同士の縮合反応等の上記副反応を高度に抑制し、高転化率で高純度の脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物を、簡便なプロセスで製造できる方法を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、脂肪族グリコシド化合物及び糖脂肪酸エステル化合物の製造方法において、従来の合成方法のように脱水縮合反応又は交換反応ではなく、分子内脱水糖を用いて、酸触媒の存在下で、脂肪炭化水素のアルコール化合物若しくはカルボン酸化合物と接触させると、分子内脱水糖の環状エーテル構造と上記化合物とが付加反応(グリコシド反応又は開環付加反応)して、目的とする脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物を高い転化率で直接合成できることを見出した。しかも、これらの付加反応においては、分子内脱水糖の分解反応や縮合反応等、更には副生物の水酸基を反応点とする反応等の副反応の生起を効果的に抑えることができ、着色及び不純物混入を抑えた高純度の目的化合物を簡便なプロセスで製造できることを見出した。本発明者らはこの知見に基づき更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>分子内脱水糖と、脂肪族炭化水素のアルコール若しくはカルボン酸化合物とを、酸触媒の存在下で、付加反応させて、脂肪族グリコシド化合物若しくは糖脂肪酸エステル化合物を製造する方法。
<2>前記酸触媒が固体酸触媒である、<1>に記載の製造方法。
<3>前記固体酸触媒が陽イオン交換体である、<2>に記載の製造方法。
<4>前記分子内脱水糖が、環状構造における1位の炭素原子に結合する水酸基を含む2つの水酸基から水分子が脱離した分子内脱水反応物である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の製造方法。
<5>前記分子内脱水糖がアルドースの分子内脱水糖である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の製造方法。
<6>前記分子内脱水糖がレボグルコサンである、<1>~<5>のいずれか1項に記載の製造方法。
<7>前記アルコール若しくはカルボン酸化合物を構成する炭素原子数が1~22である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の製造方法。
<8>前記脂肪族炭化水素が飽和脂肪族炭化水素である、<1>~<7>のいずれか1項に記載の製造方法。
<9>前記脂肪族炭化水素のアルコール若しくはカルボン酸化合物及び前記分子内脱水糖の混合物と、前記酸触媒とを接触させる、<1>~<8>のいずれか1項に記載の製造方法。
<10>前記混合物を回分法又は連続法で前記酸触媒と接触させる、<9>に記載の製造方法。
<11>前記混合物が、前記脂肪族炭化水素のアルコール若しくはカルボン酸化合物に分子内脱水糖の少なくとも一部を溶解させた混合液である、<9>又は<10>に記載の製造方法。
【0009】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の、脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物の製造方法は、糖同士の縮合反応等の上記副反応を抑制して高純度の脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物を、高い分子内脱水糖の転化率で、しかも比較的簡便なプロセスで、製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の、脂肪族グリコシド化合物の製造方法及び糖脂肪酸エステル化合物の製造方法(以下、単に本発明の製造方法ということがある。)は、分子内脱水糖と付加反応させる化合物(反応物)によって、脂肪族グリコシド化合物の製造方法(以下、単に本発明のグリコシド製造方法ということがある。)と、糖脂肪酸エステル化合物の製造方法(以下、単に本発明の糖エステル製造方法ということがある。)とを包含する。
本発明の製造方法における反応スキームの一例として、分子内脱水糖としてレボグルコサン(LG)を用いた各製造方法の反応スキームを以下に示す。スキーム1においてRは脂肪族炭化水素基を示し、スキーム2においてRは水素原子又は脂肪族炭化水素を示す。
【0012】
【化1】
【0013】
まず、本発明の製造方法に用いる原料化合物について説明する。
(分子内脱水糖)
本発明の製造方法に用いる分子内脱水糖は、糖であって分子内で脱水しているもの(アンヒドロ糖ともいう。)をいう。
【0014】
分子内脱水糖を導く糖としては、特に制限されず、各種の糖を用いることができ、単糖、オリゴ糖、多糖等のいずれでもよい。本発明は、上述のように、糖の分解反応や縮合反応、更には副生物の水酸基を反応点とする反応等の副反応の生起を効果的に抑制できる。そのため、本発明は、ケトースだけではなく、従来純度低下を招きやすかったアルドースを用いることもできる。
単糖としては、特に制限されないが、例えば、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース等のアルドペントース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等のアルドヘキソースが挙げられる。オリゴ糖としては、特に制限されないが、例えば、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類が挙げられる。多糖としては、特に制限されないが、例えば、ヘミセルロース、イヌリン、デキストリン、デキストラン、キシラン、デンプン、加水分解デンプン等が挙げられる。
分子内脱水糖を導く糖としては、反応性の観点から、単糖が好ましく、なかでも、ペントース又はヘキソースが好ましく、ヘキソースがより好ましく、生成物を好適な非イオン性界面活性剤等として用いる場合には、グルコースが更に好ましい。分子内脱水糖を導く糖としては、本発明の特徴を活用(作用効果を効果的に実現)できる点で、アルドースを用いることが好ましい。
【0015】
分子内脱水糖としては、上記糖から水分子が分子内で脱離した化合物であればよく、1分子の糖から脱離する水分子の数は特に制限されないが通常1分子である。
1分子の糖から脱水する水分子は、糖が有する水酸基のうちいずれの水酸基から脱離してもよく、適宜に選択される。本発明では、反応性の点で、更には、従来の製造方法では抑制できない上記副反応の生起を効果的に抑制して高純度の目的化合物を製造できる点で、糖の環状構造における1位の炭素原子に結合する水酸基を含む2つの水酸基から水分子が脱離した分子内脱水反応物(1,n-アンヒドロ糖:nは糖の環状構造における水酸基が結合する炭素原子の位置を示し、例えば2、3、4又は6である。)であることが好ましい。この場合、他の水酸基は、特に制限されないが、反応性の点で、糖の環状構造における6位の炭素原子に結合する水酸基であること(1,6-アンヒドロ糖)が好ましい。
分子内脱水糖としては、(α-若しくはβ-)グルコースの1,6-アンヒドロ糖である(α-若しくはβ-)レボグルコサンが特に好ましい。
分子内脱水糖は、結晶水、水和水等を含んでいてもよい。
分子内脱水糖は、適宜に合成してもよく、市販品を用いることもできる。例えば、非可食バイオマスであるセルロースの熱分解反応で大量に副生する分子内脱水糖を用いることができる。
【0016】
本発明の製造方法において、分子内脱水糖は、溶液又は分散液として用いることもできるが、化合物のまま(通常固体状態で)用いることが好ましい。
【0017】
(アルコール化合物及びカルボン酸化合物)
本発明の製造方法に用いるアルコール化合物は、脂肪族炭化水素の少なくとも1つの水素原子を水酸基で置換した(脂肪族)アルコール化合物であり、カルボン酸化合物は脂肪族炭化水素のカルボン酸化合物(ギ酸又は脂肪族炭化水素の少なくとも1つの水素原子をカルボキシ基で置換した(脂肪族)カルボン酸化合物)である。
脂肪族炭化水素は、目的とする脂肪族グリコシド化合物及び糖脂肪酸エステル化合物の用途等に応じて適宜に決定される。この脂肪族炭化水素は、飽和脂肪族炭化水素でも不飽和脂肪族炭化水素でもよいが、飽和脂肪族炭化水素が好ましい。脂肪酸炭化水素の炭素鎖構造は、特に制限されず、直鎖、分岐鎖及び環状鎖のいずれでもよいが、反応性の点で、直鎖又は分岐鎖が好ましく、直鎖がより好ましい。
アルコール化合物及びカルボン酸化合物を構成する炭素原子数(アルコール化合物を構成する脂肪族炭化水素の炭素鎖を形成する炭素原子数、及び、カルボン酸化合物を構成する脂肪族炭化水素の炭素鎖を形成する炭素原子数とエステル結合のカルボニル炭素原子との合計数)は、反応性、更には目的とする化合物の有用性(用途)を考慮して適宜に決定され、特に制限されない。炭素原子数は、例えば、反応性の点で、1~30であることが好ましく、1~22であることがより好ましく、反応性に加えて目的とする化合物(特に非イオン性界面活性剤等として)の有用性の点で、6~22であることが更に好ましく、8~16であることが特に好ましい。
【0018】
アルコール化合物及びカルボン酸化合物において、水酸基又はカルボキシ基の級数は、特に制限されないが、反応性の点で、1級であることが好ましい。また、1分子のアルコール化合物又はカルボン酸化合物が有する水酸基又はカルボキシ基の数は、特に制限されず、1~10個とすることができるが、通常1個(モノアルコール化合物又はモノカルボン酸化合物)である。
【0019】
(酸触媒)
本発明に用いる酸触媒としては、グリコシド反応又は開環付加反応に通常用いられるものであれば特に制限なく公知のものを用いることができる。例えば、ブレンステッド酸(均相酸触媒)、固体酸触媒(不均相固体酸触媒)等が挙げられる。酸触媒としては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0020】
- ブレンステッド酸 -
ブレンステッド酸としては、特に制限されないが、例えば、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸が挙げられる。
- 固体酸触媒 -
固体酸触媒としては、例えば固体で活性点(酸点)を有する化合物であって触媒作用を示すものをいい、固体酸触媒が有する活性点としては、固体酸触媒が通常有する、ブレンステッド酸点、ルイス酸点等が挙げられる。このような固体酸触媒としては、例えば、シリカ-アルミナ触媒、ゼオライト触媒、陽イオン交換体(陽イオン交換樹脂)が挙げられ、陽イオン交換体が好ましい。
陽イオン交換体としては、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂等を特に制限されることなく用いることができ、なかでも、反応速度の点で強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。陽イオン交換体は、ポーラス型(多孔性)、ハイポーラス型(多孔性)、ゲル型のいずれでもよいが、ポーラス型であることが反応性の点で好ましい。ここで、ゲル型は、(粒子)内部が均一な架橋高分子で形成された陽イオン交換体である。ポーラス型は、ゲル型の陽イオン交換体に物理的な穴(細孔)をあけた構造を持つものである。ハイポーラス型は、架橋度が高く、ポーラス型よりも比表面積や細孔容積が大きい構造を持つ陽イオン交換体である。
陽イオン交換体は、不溶性担体として樹脂骨格が種々の化学構造を有するものを使用できる。不溶性担体を構成する樹脂としては、例えば、ジビニルベンゼン等で架橋されたポリスチレン、及びポリアクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル、フェノール樹脂等の合成高分子、セルロース等の天然に生産される多糖類の架橋体等が挙げられる。なかでも、合成高分子が好ましく、架橋ポリスチレンが更に好ましい。架橋の程度(度合)は、樹脂を構成するモノマー全量に対するジビニルベンゼンの使用量に左右され、例えば1~30質量%の範囲から選択される。その際、架橋度が低いほど分子サイズの大きな化合物が樹脂内部に拡散しやすくなるが、活性点濃度が小さくなるため、付加反応の高い触媒活性を発現するには最適値が存在する。
陽イオン交換体の活性点(イオン性官能基)は、特に制限されないが、スルホン酸基、カルボキシ基等が挙げられる。
【0021】
陽イオン交換体としては、例えば、ダイヤイオン(登録商標)PKシリーズ、ダイヤイオン(登録商標)SKシリーズ及びRCP160M(いずれも三菱化学社製)、アンバーライトシリーズ及びアンバーリストシリーズ(いずれもダウケミカル社製)等が挙げられる。これらの陽イオン交換体は、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体の骨格を持ち、イオン性官能基(交換基)としてスルホン酸基を有している。上記ダイヤイオン(登録商標)PKシリーズのうち、PK208LH、PK212LH、PK216LHがポーラス型であり、ダイヤイオン(登録商標)SKシリーズのうちSK104Hがゲル型であり、RCP160Mがハイポーラス型である。
陽イオン交換体は、通常、触媒活性を示すH型(遊離酸型)で用いられる。また、上記市販の陽イオン交換体は、イオン性官能基がいずれも工場出荷時に触媒活性を示すH型(≧99モル%)であるが、水膨潤状態にあるため、適宜に、前処理として反応物で膨潤させた状態(アルコール膨潤状態又はカルボン酸膨潤状態)とする処理を行うことが好ましい。この前処理は、通常の方法及び条件で行うことができる。例えば、Fuel.,139,11-17(2015)に記載の方法を適用できる。
【0022】
固体酸触媒(陽イオン交換体)の形状は、その使用形態に応じて、膜状、粒子状等の任意の形状を選択できるが、粒子状であることが好ましい。また、粒子状である場合、その粒径は、特に制限されず、通常10μm以上であり、100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましい。粒径の上限は、通常2mm以下であり、1.5mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。粒径が小さすぎると取り扱いが困難となることがあり、大きすぎると反応速度が低下することがある。固体酸触媒の粒径は光学顕微鏡により測定することができる。
【0023】
固体酸触媒(陽イオン交換体)は、必要に応じて付加反応に用いた後に再生処理を施して再使用することができる。再生処理は、通常の方法を適用することができ、例えば、上述の前処理と同様に、反応物であるアルコール化合物等で置換(膨潤)する処理が挙げられる。再生処理には、適宜に、付加反応後の固体酸触媒を吸引ろ過等の固液分離法により分離若しくは回収する処理、固体酸触媒を洗浄する処理を、行うこともできる。この再生処理により、固体酸触媒の内部若しくは表面に残存する反応物や反応生成物を分離することができる。
【0024】
(溶媒)
本発明の製造方法においては、分子内脱水糖を溶解する溶媒を用いることもできるが、分子内脱水糖に対してアルコール化合物又はカルボン酸化合物のいずれか一方を過剰にして(反応条件で液状である限り)、これら化合物を反応物兼溶媒として用いることができる。これにより、反応性の向上、製造プロセスの簡便化が達成できる。そのため、本発明の製造方法、特に本発明のグリコシド製造方法では、アルコール化合物又はカルボン酸化合物(反応物ともいう。)以外の溶媒を用いないこと(無溶媒下での付加反応)が好ましい。本発明において、無溶媒とは、アルコール化合物又はカルボン酸化合物以外の溶媒を、付加反応を阻害しない程度(例えば、反応物と溶媒との合計に対して10質量%以下)で含有していることを意味する。
本発明の製造方法に用いてもよい溶媒としては、付加反応を阻害しないものであれば特に制限されず、各種溶媒が挙げられる。
【0025】
(その他の成分)
本発明の製造方法においては、分子内脱水糖、アルコール化合物若しくはカルボン酸化合物及び酸触媒以外の成分を用いることもできる。例えば、分子内脱水糖の溶解を促進若しくは補助する乳化剤が挙げられる。乳化剤としては、特に制限されないが、用いた乳化剤を除去する必要がない点で、目的とする化合物と同種の化合物(脂肪族グリコシド化合物又はしくは糖脂肪酸エステル化合物)であることが好ましい。この場合、乳化剤は付加反応を促進する機能をも果たす。
【0026】
次いで、本発明の製造工程について説明する。
本発明の製造方法は、分子内脱水糖とアルコール化合物又はカルボン酸化合物とを、酸触媒の存在下で、接触させることにより、付加反応させる。
【0027】
この工程におけるアルコール化合物の(反応開始時の)使用量は、分子内脱水糖1モルに対して、通常化学両論量以上に設定される。使用量の上限は、特に制限されず、生産性、経済性等を考慮すると、例えば、分子内脱水糖1モルに対して、1000倍モル以下であることが好ましく、100倍モル以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明においては、アルコール化合物を分子内脱水糖の溶媒として用いることにより反応性を向上できるため、アルコール化合物以外の溶媒を用いずにアルコール化合物を分子内脱水糖に対して過剰量に用いることが好ましい。このときのアルコール化合物の使用量は、常温常圧(25℃、101kPa)で固体である分子内脱水糖の反応性(反応速度)、実際的には、分子内脱水糖のアルコール化合物への溶解量を考慮して、適宜の量に設定される。例えば、アルコール化合物の使用量(過剰量)は、反応条件において分子内脱水糖とアルコール化合物との混合物が均一相となる使用量に設定することができる。より具体的には、分子内脱水糖の一部又は全部がアルコール化合物に溶解する量に設定することが好ましい。なお、付加反応を後述する回分法で行う場合には、更に酸触媒の浸漬状態を考慮して設定される。ここで、分子内脱水糖の一部とは、アルコール化合物に溶解せずに存在する分子内脱水糖の残部が(反応生成物の乳化作用により)付加反応終了(後述する連続法では酸触媒を通過する)までにアルコール化合物に溶解する程度をいい、分子内脱水糖の溶解度、反応温度、反応時間、反応容器の大きさ等を考慮して、適宜に設定される。アルコール化合物を過剰に用いる場合の使用量としては、特に制限されず、その一例として、上記(反応開始時の)使用量と同じ範囲が挙げられる。
本発明において、酸触媒として固体酸触媒を用いる場合、アルコール化合物の使用量は、固体酸触媒のアルコール膨潤化に用いるアルコール化合物の使用量を含まない量とする。
【0029】
カルボン酸化合物の(反応開始時の)使用量は、通常、上述の、アルコール化合物の使用量と同様に設定される。
【0030】
酸触媒の(反応開始時の)使用量は、酸触媒中の活性点が分子内脱水糖とアルコール化合物又はカルボン酸化合物との付加反応の触媒として機能する量以上に設定される。
酸触媒自体の使用量としては、酸触媒中の活性点が触媒量となる量であればよく、例えば、酸触媒の活性点量、反応時間(後述する連続法では通過時間)、回分法では更に浸漬状態等を考慮して適宜に設定される。より具体的には、固体酸触媒を用いて付加反応を後述する回分法で行う場合、分子内脱水糖とアルコール化合物又はカルボン酸化合物との合計量に対して、例えば5~60質量%とすることができる。一方、固体酸触媒を用いて付加反応を後述する連続法で行う場合、固体酸触媒1L当たりの原料混合物(分子内脱水糖とアルコール化合物又はカルボン酸化合物との混合物)の通液量として、例えば10~250mL/minとすることができる。
【0031】
本発明の製造方法においては、分子内脱水糖とアルコール化合物又はカルボン酸化合物とを、好ましくは上記使用量に設定したうえで、酸触媒の存在下で付加反応させる。付加反応は、分子内脱水糖、アルコール化合物又はカルボン酸化合物及び酸触媒を互いに接触(混合、流通等)させることにより、行うことができる。接触させる方法は後述する通りであり、接触させる順は特に限定されない。分子内脱水糖は通常アルコール化合物又はカルボン酸化合物に対して溶解にしくいため、分子内脱水糖とアルコール化合物又はカルボン酸化合物とを予め混合して(予備)混合物を調製し、この(予備)混合物と酸触媒とを接触させることが好ましい。(予備)混合物は、付加反応を速やかに進行させる点では、分子内脱水糖をアルコール化合物等に溶解させた溶液であることがよいが、本発明においては、溶液である必要はなく、分子内脱水糖の少なくとも一部がアルコール化合物又はカルボン酸化合物に溶解した混合液(分散液)であればよい。ここで、分子内脱水糖の一部とは上述した通りである。
分子内脱水糖、アルコール化合物又はカルボン酸化合物及び酸触媒は、互いに接触している状態において下記反応温度に設定されることが好ましいが、接触方法によっては、例えば、(予備)混合物及び/又は酸触媒それぞれを反応温度に予備加熱して接触させることができる。
(予備)混合物は、分子内脱水糖とアルコール化合物等とを通常の方法で混合することにより、調製することができる。調製条件は、分子内脱水糖の溶解性等を考慮して、適宜に決定することができ、例えば加熱条件が挙げられる。このときの混合温度としては、特に制限されないが、例えば下記反応温度と同じ温度範囲が挙げられる。
【0032】
両反応物の付加反応条件は、付加反応が進行する条件であれば特に制限されず、反応温度、反応時間、反応雰囲気、反応圧力、接触態様、接触条件等が適宜に設定される。
付加反応時の反応温度は、特に制限されず、例えば室温(25℃)以上に設定することができる。反応速度、及び分子内脱水糖のアルコール化合物等への溶解性の点で、30~150℃が好ましく、40~80℃がより好ましく、50~70℃が更に好ましい。
上記の反応温度は、分子内脱水糖、アルコール化合物又はカルボン酸化合物及び酸触媒が互いに接触している状態における温度をいうが、酸触媒、特に固体酸触媒も上記反応温度にあることが好ましい。
反応時間は、反応温度等の他の反応条件、酸触媒の使用量、更には分子内脱水糖の転化率等に基づいて適宜に設定され、例えば、10分以上12時間以下とすることができる。なお、連続法においては、上記反応時間内で分子内脱水糖及びアルコール化合物又はカルボン酸化合物を酸触媒(通常固体酸触媒)中に移送する。ことのきの移送時間としては、例えば、酸触媒1L当たり、0.1~100mL/分程度とすることができる。
反応雰囲気は、接触方法に応じて適宜に設定され、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気とすることができる。
反応圧力条件は、加圧条件又は減圧条件を適宜に選択できるが、アルコール化合物等の蒸発抑制の点で、大気圧条件又は加圧条件とすることができ、例えば、50~500kPaとすることができる。
【0033】
本発明の製造方法において、反応物と酸触媒との接触は、回分法(バッチ法)でも連続法(フロー法)でも行うことができる。回分法は、反応物等の仕込み及び反応生成物の取り出しを簡潔的に行う方法であり、例えば、ガラス反応器、振盪機、恒温槽等の反応装置に反応物と酸触媒とを1回の製造分仕込んで付加反応を行い、得られた反応生成物を取り出した後に、同様にして次の付加反応を行う操作をいう。回分法での接触方法は、通常採用される方法を特に制限されずに適用することができ、例えば、撹拌法、振盪法等が挙げられる。攪拌条件及び振盪条件としては、適宜に設定され、例えば、振盪条件の一例として実施例で採用した条件が挙げられる。連続法は、反応物等の仕込み及び反応生成物の取り出しを連続して行う方法であり、例えば、反応装置に反応物と酸触媒とを連続的に供給する(好ましくは酸触媒(通常固体酸触媒)を充填した反応装置に反応物を連続的に供給する)とともに、得られた反応生成物を連続的に取り出す操作をいう。連続法での接触条件は、通常採用される方法を特に制限されずに適用することができ、例えば、反応物(通常反応物の混合物)を、循環系や向流系で、酸触媒を充填した充填層(触媒層)に移送する(触媒層中を流通させる)方法、流動層反応法が挙げられる。
【0034】
本発明の製造方法においては、上記接触により、分子内脱水糖の分子内脱水により形成された環状エーテル構造に、アルコール化合物又はカルボン酸化合物が付加反応する。
このように付加反応の反応部位が特異的かつ選択的であるため、糖を用いる従来の合成方法のように糖の重合反応も分解反応も生起することなく、目的とする上記付加反応を高い選択率で生起させることができる。また、グリコシド結合又はエーテル結合の形成位置が異なる副生物の生成も高度に抑制できる。そのため、付加反応工程も簡便に実施することができる。更に、酸触媒として固体酸触媒を用いると、後述するように反応混合物から固体酸触媒を簡便に分離除去可能となる。そのため、本発明の製造方法として簡便な製造プロセスで高純度の目的化合物を製造できる。
また、本発明の製造方法に分子内脱水糖として、非可食バイオマスであるセルロースの熱分解反応で大量に副生する分子内脱水糖を用いることができる。従来、分子内脱水糖から脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物を製造する場合、分子内脱水糖に水を付加させて糖に変換し、次いでグリコシド反応若しくはエステル化反応させる多段階反応による。しかし、本発明の製造方法は、非可食バイオマスの熱分解副生物である分子内脱水糖をそのまま(糖に変換することなく)付加反応に供することができ、この場合、分子内脱水糖を有効活用できる。
【0035】
上述のようにして反応物と酸触媒とを接触させて、反応混合物を得ることができる。得られた反応混合物から、通常の方法を適宜に適用して、目的とする脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物を得ることができる。例えば、固体酸触媒を用いた回分法では通常の固液分離法により固体酸触媒から分離して、連続法では固体酸触媒の充填層を通過した流出液を収集して、固体酸触媒が除去された反応混合物を得る。次いで、アルコール化合物又はカルボン酸化合物を、蒸発等により除去して、目的とする脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物を得ることができる。一方、均相酸触媒を用いた方法では、例えば、通常の方法で、均相酸触媒の除去工程、適宜に精製工程を行った後に、アルコール化合物又はカルボン酸化合物を除去することにより、目的とする脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物を得ることができる。
本発明において、固体酸触媒(陽イオン交換体)としてポーラス型若しくはハイポーラス型を用いた場合、陽イオン交換体の内部に反応生成物が残存することもある。そのため、反応後の陽イオン交換体から反応生成物を溶出(回収)することが好ましい。反応生成物を溶出する方法は、特に制限されないが、上記再生処理を適用でき、具体的には、陽イオン交換体をアルコール化合物等の溶媒に接触(浸漬)又は陽イオン交換体にアルコール化合物等の溶媒を流通させる方法が挙げられる。
【0036】
(脂肪族グリコシド化合物及び糖脂肪酸エステル化合物)
本発明の製造方法により得られる、脂肪族グリコシド化合物及び糖脂肪酸エステル化合物は、反応物として用いた分子内脱水糖を導く糖(環状構造)における、脱水反応を起こした2つの水酸基のいずれか一方に、グリコシド結合又はエステル結合(-CO-O-:酸素原子が糖(環状構造)に結合する)を介して、脂肪族炭化水素基が導入された化合物である。
分子内脱水糖としてレボグルコサン(LG)を用いた場合、脂肪族グリコシド化合物及び糖脂肪酸エステル化合物の具体的な化学構造は、上記スキーム1及びスキーム2に示される通りであり、糖(環状構造)の1位の炭素原子にグリコシド結合又はエステル結合を介して、脂肪族炭化水素基等(R又はR)が導入された化合物である。
脂肪族グリコシド化合物及び糖脂肪酸エステル化合物は、上述のように、多様な用途を有しており、例えば非イオン性界面活性剤として好適である。そのため、本発明の製造方法は、多岐にわたる用途を有する化合物、特に非イオン性界面活性剤として好適な化合物を、高純度、高収率で製造することができる。
【0037】
本発明の製造方法は、糖同士の縮合反応(副反応)を高度に抑制して脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物を製造(合成)できる。本発明の製造方法で得られる脂肪族グリコシド化合物又は糖脂肪酸エステル化合物は、糖同士の縮合反応に起因する着色も少なく、副生物等の不純物の混入も高度に抑制され、高い純度を示す。
また、本発明の製造方法は、上述の高純度の化合物を、高い分子内脱水糖の転化率で、しかも簡便な製造プロセス(付加反応、好適な態様では酸触媒の分離工程、目的化合物の精製工程)で、製造できる。
【実施例
【0038】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。なお、以下の実施例においては特に断らない限り、当業者に公知の一般的な方法に従った。
【0039】
下記実施例において、分子内脱水糖としては、1,6-アンヒドロ糖であるレボグルコサンを用いた。レボグルコサンは富士フイルムワコーケミカル社製であり、純度>97%であった。
下記実施例において、固体酸触媒である陽イオン交換体として、PK208LH(商品名、三菱化学社製)を用いた。陽イオン交換体は、使用前に反応物として用いるアルコール化合物で膨潤させた。陽イオン交換体の膨潤は、通常の方法に従って陽イオン交換体の充填層にアルコール化合物を流通させて行った。
【0040】
<実施例1>
反応物(アルコール化合物としてエタノール、分子内脱水糖として上記レボグルコサン)と陽イオン交換体とを、反応物であるエタノール以外の溶媒を用いずに(無溶媒下で)、回分式にて接触させて、エチルグリコシドを製造した。
具体的には、エタノールとレボグルコサンとを60℃で混合して、レボグルコサン濃度0.30モル/Lの予備混合物を調製した。この予備混合物はレボグルコサンのエタノール溶液であった。
次いで、得られた予備混合物(60℃)60gをガラス反応器に入れ、更に、60℃に予熱した陽イオン交換体(上記PK208LHのエタノール膨潤物)を反応系全体の33質量%となるようにガラス反応器に投入した。このガラス反応器(反応混合物及び陽イオン交換体)を、大気圧条件下、振盪幅50mm、振盪速度150spmの条件で、6時間振盪して、付加反応を行った。
付加反応中、所定時間毎に少量の反応液を採取し、エタノールで希釈して、HPLC(Waters Corp.,Milford,MA,USA)システムを用いて下記条件で、レボグルコサンの転化率を追跡し、決定した。その結果、レボグルコサンの、下記式1で算出される転化率は6時間後に100%になった。
(HPLC測定条件)
HPLCの測定は、一般的な糖や糖脂肪酸エステルの分析に用いられる公知の方法を適宜適用して、行うことができる。例えば、カラムとして逆相カラム(ODSカラム等)又はNHカラム、検出器としてRI(示差屈折率計)又はELS(蒸発光散乱計)を用いて、水/アセトニトリル混合溶液を溶離液にして、測定できる。本実施例では、カラムとしてNHカラム、検出器としてELSをそれぞれ用いた。

(レボグルコサンの転化率計算式)

転化率(%)={(CLG,0-CLG,t)/CLG,0}×100 (式1)

式1中、CLG,0は付加反応に用いたレボグルコサン濃度(仕込み濃度)を示し、
LG,tは反応時間t経過後の反応液中の(未反応)レボグルコサン濃度を示す。
【0041】
<実施例2>
実施例1において、アルコール化合物としてエタノールに代えてノルマルブタノールを用いて、付加反応時間を3時間に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、ノルマルブチルグリコシドを製造した。調製した予備混合物はレボグルコサンがわずかにノルマルブタノールに溶け残っていたが、付加反応終了後には未溶解のレボグルコサンは確認されず、反応液として得られた。
実施例2では、レボグルコサンの転化率は3時間後に100%になった。
【0042】
<実施例3>
実施例1において、アルコール化合物としてエタノールに代えてノルマルヘキサノールを用いて、付加反応時間を2時間に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、ノルマルヘキシルグリコシドを製造した。調製した予備混合物はレボグルコサンの一部がノルマルヘキサノールに溶解した分散液であったが、付加反応終了後には未溶解のレボグルコサンは確認されず、反応液として得られた。
実施例3では、レボグルコサンの転化率は2時間後に100%になった。
【0043】
<実施例4>
実施例1において、アルコール化合物としてエタノールに代えてノルマルオクタノールを用いて、付加反応時間を3時間に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、ノルマルオクチルグリコシドを製造した。調製した予備混合物はレボグルコサンの一部がノルマルオクタノールに溶解した分散液であったが、付加反応終了後には未溶解のレボグルコサンは確認されず、反応液として得られた。
実施例4では、レボグルコサンの転化率は3時間後に100%になった。
【0044】
実施例1~4の条件及び結果を以下にまとめる。
【表1】
【0045】
表1に示す結果から明らかなように、脂肪族グリコシド化合物の製造方法において、出発原料として、従来用いられている糖ではなく、その利用がこれまで着目されていなかった分子内脱水糖を用いて、陽イオン交換体の存在下で、アルコール化合物と付加反応させるという特有の合成反応により、アルコール化合物の種類及び反応条件を変更しても、実施例1~4のすべてにおいて、ほぼ100%という分子内脱水糖の転化率で上記副反応の生起を効果的に抑制して付加反応を完遂させることができる。
このように実施例1~4は、無溶媒下で上記副反応の生起を効果的に抑制して約100%の転化率で反応が進行しているため、各実施例で得られた反応液は、付加反応物としての脂肪族グリコシド化合物と未反応のアルコール化合物との混合物となる。そのため、アルコール化合物を通常の方法により簡便に除去して、脂肪族グリコシド化合物を得ることができる。なお、脂肪族グリコシド化合物は陽イオン交換体の内部又は表面に存在しうるため、これらの脂肪族グリコシド化合物を陽イオン交換体から通常の方法(例えば上記再生処理)で回収することにより、脂肪族グリコシド化合物の収率の向上が見込める。
その結果、本発明は、着色も副生物の混入も高度に抑制した高純度の脂肪族グリコシド化合物を製造できることがわかる。
また、本発明の製造プロセスは、反応物を酸触媒(好ましくは固体酸触媒)に接触させるという簡便な操作で、更に実施例1~4では比較的温和な条件(大気圧下、60℃)で、付加反応を完遂させることができる。しかも、本発明の好適な態様では、酸触媒の上記分離工程、更には反応混合物からの脂肪族グリコシド化合物の単離精製(精製工程)も簡便に実施できる。このような簡便な製造プロセスは、例えば、固体酸触媒として陽イオン交換体を充填したカラムに通過させる連続法にも好適に適用(構築)することができる。
また、市販の脂肪族グリコシド化合物は比較的高価であるため、分子内脱水糖を用いて簡便なプロセスにより高転化率(高純度)で脂肪族グリコシド化合物を製造できる本発明は、分子内脱水糖(非可食バイオマスの熱分解副生物)の新たな利用価値を付加する点からも、産業上の利用性は高い。