(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】真空炉及び制御方法
(51)【国際特許分類】
F27B 5/05 20060101AFI20240920BHJP
F27B 5/18 20060101ALI20240920BHJP
F27D 1/18 20060101ALI20240920BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F27B5/05
F27B5/18
F27D1/18 N
F27D7/06 B
(21)【出願番号】P 2020116627
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】390008431
【氏名又は名称】高砂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100195545
【氏名又は名称】鮎沢 輝万
(74)【代理人】
【識別番号】100221327
【氏名又は名称】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】加賀 真城
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-043170(JP,U)
【文献】特開平08-295926(JP,A)
【文献】特開平04-363582(JP,A)
【文献】特開昭63-161114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 5/05
F27B 5/18
F27B 9/02
F27B 9/04
F27D 1/18
F27D 7/06
F27D 19/00
F16J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体と、該炉体に形成された開口部を開閉する開閉扉と、前記炉体と前記開閉扉との間をシールするシール部材と、を備えた真空炉であって、
前記開閉扉を、前記開閉扉と前記炉体との間で前記シール部材を圧縮する押圧方向へ移動させる移動手段と、
前記真空炉の内部空間を減圧する減圧手段と、
前記移動手段が前記開閉扉を前記押圧方向に移動する際、前記内部空間の減圧を開始するように前記減圧手段を制御する制御手段と、を備
え、
前記制御手段は、前記移動手段が前記開閉扉の移動を開始させてから所定時間の経過後に前記減圧手段による減圧を開始する、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項2】
炉体と、該炉体に形成された開口部を開閉する開閉扉と、前記炉体と前記開閉扉との間をシールするシール部材と、を備えた真空炉であって、
前記開閉扉を、前記開閉扉と前記炉体との間で前記シール部材を圧縮する押圧方向へ移動させる移動手段と、
前記真空炉の内部空間を減圧する減圧手段と、
前記移動手段が前記開閉扉を前記押圧方向に移動する際、前記内部空間の減圧を開始するように前記減圧手段を制御する制御手段と、
前記開閉扉の位置を検知する検知手段と、を備
え、
前記制御手段は、前記移動手段が前記開閉扉の移動を開始させた後、前記検知手段の検知結果に基づいて前記減圧手段による減圧を開始する、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項3】
請求項1
又は請求項
2に記載の真空炉であって、
前記移動手段は、駆動手段としてエアシリンダを備える、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項4】
請求項1乃至請求項
3のいずれか一項に記載の真空炉であって、
前記制御手段は、前記内部空間の減圧を開始した後、前記開閉扉の移動完了後も減圧を継続して、前記内部空間で処理が可能な減圧状態を形成する、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項5】
請求項1乃至請求項
4のいずれか一項に記載の真空炉であって、
前記制御手段は、前記開閉扉を開く場合、前記内部空間が減圧された状態において前記開閉扉の前記押圧方向と反対方向への移動を開始させる、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項6】
請求項1乃至請求項
5のいずれか一項に記載の真空炉であって、
前記炉体は、前記開口部の周囲のフランジ部を有し、
前記開閉扉は、前記フランジ部に重なるように形成された第一の係合部を有し、
前記移動手段は、
前記フランジ部に沿って回転可能に設けられた環状の係合リングと、
前記係合リングを回転させる駆動手段と、を備え、
前記係合リングは、前記第一の係合部と係合して前記係合リングの回転運動を、前記押圧方向への前記開閉扉の並進運動に変換する第二の係合部を有する、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項7】
炉体と、該炉体に形成された開口部を開閉する開閉扉と、前記炉体と前記開閉扉との間をシールするシール部材と、を備えた真空炉の制御方法であって、
前記開閉扉を、前記開閉扉と前記炉体との間で前記シール部材を圧縮する押圧方向へ移動させる移動工程と、
前記移動工程において前記開閉扉を前記押圧方向に移動する際、前記炉体の内部空間の減圧を開始する減圧工程と、を備
え、
前記減圧工程では、前記移動工程で前記開閉扉の移動を開始させてから所定時間の経過後に減圧を開始する、
ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空炉に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製品の種々の性質を改善する熱処理のため、真空炉が用いられている。真空炉は被処理物の搬出入を可能としながら、外部の大気等の気体の流入を防止すべく炉内の気密を保たねばならない。そこで、炉体の搬出入用の開口部を開閉する開閉扉と、開閉扉を炉体に密着するように押し付けて気密性を確保する機構が設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、斜面を有し扉に重合する係合爪を開口部周縁に沿って移動することで扉を炉体側に押し付ける装置が開示されている。当該装置は、係合爪の斜面と係合爪の回動面とのなす角度を小さくすることにより、周縁方向への力が小さくとも、力の増幅作用を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気密性を高めるためには、より大きな押圧力で開閉扉を炉体側へ押圧することが有効である。そのために、開閉扉を押圧する機構の駆動源として大出力の駆動源を用いることが考えられるが、真空炉の大型化やコストアップを招く。
【0006】
本発明の目的は、開閉扉を押圧する機構として、より低出力の機構を用いることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
炉体と、該炉体に形成された開口部を開閉する開閉扉と、前記炉体と前記開閉扉との間をシールするシール部材と、を備えた真空炉であって、
前記開閉扉を、前記開閉扉と前記炉体との間で前記シール部材を圧縮する押圧方向へ移動させる移動手段と、
前記真空炉の内部空間を減圧する減圧手段と、
前記移動手段が前記開閉扉を前記押圧方向に移動する際、前記内部空間の減圧を開始するように前記減圧手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記移動手段が前記開閉扉の移動を開始させてから所定時間の経過後に前記減圧手段による減圧を開始する、
ことを特徴とする真空炉が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
炉体と、該炉体に形成された開口部を開閉する開閉扉と、前記炉体と前記開閉扉との間をシールするシール部材と、を備えた真空炉の制御方法であって、
前記開閉扉を、前記開閉扉と前記炉体との間で前記シール部材を圧縮する押圧方向へ移動させる移動工程と、
前記移動工程において前記開閉扉を前記押圧方向に移動する際、前記炉体の内部空間の減圧を開始する減圧工程と、を備え、
前記減圧工程では、前記移動工程で前記開閉扉の移動を開始させてから所定時間の経過後に減圧を開始する、
ことを特徴とする制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、開閉扉を押圧する機構として、より低出力の機構を用いることが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】封止解除状態における
図1の真空炉の正面図。
【
図5】(A)~(D)は移動ユニットの動作説明図。
【
図6】制御ユニットの処理例を示すフローチャート。
【
図8】制御ユニットの処理例を示すフローチャート。
【
図9】(A)及び(B)は開閉扉の位置検知の構成例を示す図。
【
図10】制御ユニットの別の処理例を示すフローチャート。
【
図11】制御ユニットの別の処理例を示すフローチャート。
【
図12】(A)及び(B)は開閉扉の位置検知の別の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<第一実施形態>
<真空炉の概要>
図1は本発明の一実施形態に係る真空炉1の側面図である。
図2は
図1のA-A線断面図であり、開閉扉3が後述する封止解除位置に位置している態様を示している。各図において、各図において、矢印X及びYは互いに直交する水平方向を示し、矢印Zは上下方向を示す。
【0013】
真空炉1は、炉体2と、炉体2のX方向の一方の端面2aに形成された開口部OPを開閉する開閉扉3とを含む。本実施形態の炉体2は、全体として円筒形状を有しており、X方向の他方の端部(端面2aに対して反対側の端部)は閉鎖されている。開口部OPは円形であり、処理対象物は開口部OPを介して炉体2に出し入れされる。開閉扉3は、円盤形状を有しており、ヒンジ部4を介して炉体2に、開口部OPを開閉自在に支持されている。
【0014】
ヒンジ部4は、固定アーム4aと、可動アーム4bとを有している。固定アーム4aは炉体2に固定されている。可動アーム4bは、その一方の端部が固定アーム4aに回動自在に連結され、その他方の端部が開閉扉3に回動自在に連結されている。
図2において、実線は開閉扉3が閉位置にある状態を示し、破線は開閉扉3が開位置にある状態を示している。開閉扉3は、手動又は不図示のアクチュエータによって閉位置と開位置との間で回動される。
【0015】
炉体2と開閉扉3との間には、シール部材14が設けられている。本実施形態のシール部材14は、開口部OPを囲むOリングである。炉体2の端面2aにはシール部材14が装着される溝2cが形成されている。溝2cは開口部OPを囲むように形成された環状の溝である。本実施形態では、シール部材14を炉体2に設けたが、開閉扉3に設けてもよい。
【0016】
図2の実線で示す閉位置において、開閉扉3は更に、移動ユニット5によって、炉体2の側の封止位置と、封止位置よりも炉体2から離間した封止解除位置との間で移動される。開閉扉3が移動ユニット5によって封止解除位置から封止位置へX方向(押圧方向)に押圧されることでシール部材14が炉体3と開閉扉3とに挟まれ、圧縮される。これにより、開閉扉3と炉体2との間がシールされ、炉体2と開閉扉3とによって気密容器が形成される。真空炉1には、開閉扉3が封止位置に到達したことを検知する位置センサ13が設けられている。位置センサ13は、本実施形態の場合、炉体2に設けられ、端面2aに対する開閉扉3の接近を検知するリミットスイッチである。
【0017】
真空炉1には、減圧ユニット6、大気開放弁7、ガス供給装置8、ヒータ9、冷却器10、気圧センサ11、被処理物の搬送機構(不図示)等が設けられている。減圧ユニット6は、真空炉1の内部空間(炉体2の内部空間)を減圧するユニットである。本実施形態の減圧ユニット6は、炉体2の内部空間と配管を介して連通した真空ポンプ6aと、炉体2の内部空間と真空ポンプ6aとの間の配管の途中に設けられた制御弁6bとを備える。真空ポンプ6aの駆動により炉体2内を排気し、減圧することができる。制御弁6bを開弁すると炉体2内と真空ポンプ6aとが連通状態となり、閉弁すると遮断状態となる。真空炉1内の減圧に際して、真空ポンプ6aは事前に作動させておき、制御弁6bを閉弁状態から開弁状態へ切り替えることで、減圧を開始することができる。
【0018】
大気開放弁7は、炉体2の内部空間と大気との連通及び連通遮断を切り替える制御弁である。ガス供給装置8は、炉体2内に浸炭ガス等の熱処理用のガスを供給する装置である。ヒータ9は炉体2内の被処理物を加熱する。冷却器10は被処理物を冷却する機構であり、例えば、空冷用のファンである。気圧センサ11は炉体2内の気圧を検知する。
【0019】
真空炉1は制御ユニット12によって制御される。制御ユニット12はCPUに代表されるプロセッサ、ROM、RAM等の記憶デバイス、制御ユニット12の外部のデバイス(センサやアクチュエータ)とプロセッサとの間で信号を入出力するI/Oインタフェース等を備える。記憶デバイスにはプロセッサが実行するプログラムが格納され、プロセッサがこのプログラムを実行し、気圧センサ11、位置センサ13等のセンサの検知結果に基づいて、移動ユニット5、減圧ユニット6、大気開放弁7、ガス供給装置8、ヒータ9、冷却器10等の各アクチュエータ等を駆動することで真空炉1が動作する。
【0020】
<移動ユニット>
移動ユニット5の構成について
図2に加えて
図3~
図5(D)を参照して説明する。
図3及び
図4は真空炉1の正面図であって係合リング50の回転位置が異なる態様を示しており、
図3は開閉扉3が封止解除位置に位置しているときの移動ユニット5の態様を、
図4は開閉扉3が封止位置に位置しているときの移動ユニット5の態様をそれぞれ示している。
【0021】
移動ユニット5は、環状の係合リング50と、係合リング50を回転させる駆動ユニット51とを備える。係合リング50は、円環形状を有しており、炉体2の開口部OPの周囲に形成されたフランジ部2bに沿って、開口部OPの中心回り(X方向の仮想軸周り)に回転可能に設けられている。
【0022】
フランジ部2bは開口部OPの径方向に突出しており、開口部OPの周方向であるθ方向で炉体2の外周面の全周に渡って連続的に形成されている。開閉扉3は、フランジ部2bとX方向に重なるように、θ方向に複数形成された係合部3bを有している。複数の係合部3bはθ方向に所定のピッチで配置されている。係合部3bは、開口部OPの径方向に突出している。各係合部3bは、フランジ部2bの側の側面がフランジ部2bの側面と平行であり、換言するとY-Z平面と平行である。各係合部3bは、フランジ部2bの側と反対側の側面がフランジ部2bの側面に対して傾斜しており、換言するとY-Z平面に対して傾斜している。すなわち、各係合部3bは、θ方向に厚みが変化する楔形状を有している。
【0023】
係合リング50は、フランジ部2bに沿った壁部50bと、X方向で壁部50bに対向し、かつ、θ方向に複数形成された係合部50aと、を有する。開口部OPの径方向での切断面における係合リング50の断面形状は、係合部50aを通る切断面ではU字型であり、係合部50aを通らない切断面ではL字型である。複数の係合部50aはθ方向に所定のピッチで配置されており、本実施形態では、このピッチは複数の係合部3bの配設ピッチと同じである。
【0024】
図3及び
図4に示すように、係合リング50のθ方向の回転位置によって、係合部3bと係合部50aとの相対位置は変化する。
図3は、係合部3bと係合部50aとがX方向に重ならない態様を示しており、この態様において開閉扉3は開位置と閉位置との間で回動することができる。
図4は、係合部3bと係合部50aとがX方向に重なる態様を示しており、X方向で見ると、フランジ部2b及び係合部3bは、壁部50bと係合部50aとの間に位置している。この態様においてシール部材14が炉体2と開閉扉3との間で圧縮される。
【0025】
各係合部50aは、係合部50aの側(フランジ部2bの側)の側面がフランジ部2bの側面に対して傾斜しており、換言するとY-Z平面に対して傾斜している。すなわち、各係合部50aは、θ方向に厚みが変化する楔形状を有している。そして、係合部50aの側面の傾斜方向は、係合部3bの側面の傾斜方向と同方向になっている。
【0026】
駆動ユニット51は、本実施形態の場合、エアシリンダであり、シリンダ本体51aと、シリンダ本体51aに対して進退し、駆動ユニット51の全長を伸縮させるロッド51bとを備える。シリンダ本体51aの端部は、炉体2に固定されたブラケット52に、X方向の軸周りに回動自在に連結されている。ロッド51bの先端には連結部材51cが固定されており、連結部材51cは係合リング50に、X方向の軸周りに回動自在に連結されている。
図3は駆動ユニット51が収縮した態様を示し、
図4は駆動ユニット51が伸長した態様を示している。
図3の態様から駆動ユニット51を伸長すると係合リング50が同図で時計回りに回転して
図4の態様に至る。逆に、
図4の態様から駆動ユニット51を収縮すると係合リング50が同図で反時計回りに回転して
図3の態様に戻る。
【0027】
駆動ユニット51としては、エアシリンダ以外に、油圧シリンダ、電動シリンダ、或いは、その他の電動機構(モータと歯車装置等)も利用可能である。しかし、エアシリンダは、油圧シリンダに対して作動油の漏れなどの心配がない点で有利であり、また、電動シリンダや電動機構に対しては電気部品や電力管理が不要な点で有利である。しかも、本実施形態では駆動ユニット51として比較的低出力のユニットを利用可能である点から、出力が小さいエアシリンダを採用可能である。
【0028】
図5(A)~
図5(D)を参照して移動ユニット5による開閉扉3の移動機能について説明する。移動ユニット5は、係合部50aと係合部3bとの係合によって係合リング50の回転運動を、開閉扉3の並進運動に変換する。
【0029】
図5(A)及び
図5(C)は、係合リング50が
図3の態様にあり、開閉扉3が封止解除位置に位置している場合の係合リング50と係合部3b等との位置関係を例示している。係合リング50の係合部50aと開閉扉3の係合部3bとは、非係合状態にあり、θ方向に互いに離間している。シール部材14は開閉扉3と接していないか、又は、接していても圧縮力が作用しておらず、自然状態にある。
【0030】
図5(B)及び
図5(D)は、係合リング50が
図3の態様から
図4の態様に回転し、開閉扉3が封止位置に移動した場合の係合リング50と係合部3b等との位置関係を例示している。係合リング50の回転によって、係合部50aと係合部3bとが係合しはじめ、両者の傾斜面同士が摺動することによって、開閉扉3を炉体2の側へ移動させる押圧方向の力が発生する。壁部50bとフランジ部2bとの摺接によって係合リング50のX方向の位置は不動であるため、開閉扉3が炉体2の側の封止位置へ移動し、シール部材14が圧縮される。以上により、シール部材14によって炉体2と開閉扉3との間がシールされる。
【0031】
炉体2と開閉扉3との間のシールを解除する場合、係合リング50を
図4の態様から
図3の態様に回転する。すると、
図5(B)及び
図5(D)の状態から
図5(A)及び
図5(C)の状態に戻り、シールが解除される。
【0032】
<移動ユニットの負荷低減>
開閉扉3を封止解除位置から封止位置に移動する際、押圧方向に比較的大きな力をかけて開閉扉3を移動させることが必要となる。開閉扉3を移動させる力と距離との積により、移動ユニット5が負担する仕事量が決まるが、この動作は、真空炉1の稼働効率の点で短時間で行われることも要求される。したがって、仕事量を時間で割った移動ユニット5の出力は大きくなる傾向にあり、駆動ユニット51はより出力が大きいものが要求される。しかし、駆動ユニット51として大出力のものを用いると真空炉1の大型化を招く。
【0033】
そこで、本実施形態では、移動ユニット5が開閉扉3を押圧方向に移動する際、真空炉1内の減圧を開始するように減圧ユニット6を制御する。真空炉1の内外の気圧差(大気圧と内部気圧との差)によって、開閉扉3が炉体2の側へ押し付けられる。気圧差の助勢により、駆動ユニット51の出力は、より小さくて足りる。したがって、駆動ユニット51として、より小さな出力のユニットを用いることができる。
【0034】
真空炉1内の減圧開始のタイミングとしては、開閉扉3の移動の開始前、開始と同時、開始の後から開閉扉3が封止位置に到達するまでの途中の段階、のいずれでもよい。但し、シール部材14と開閉扉3との間に隙間が生じている段階では、炉体2内を減圧しても、隙間から大気を吸い込んで減圧効率が低下する。したがって、開閉扉3とシール部材14とが接触した場合に、真空炉1内を減圧してもよい。開閉扉3とシール部材14との接触は、開閉扉3の移動開始からの時間で判断してもよいし、開閉扉3の位置を検知するセンサを設け、センサの検知結果から判断してもよい。
【0035】
<制御例>
制御ユニット12による真空炉1の制御例について説明する。
図6は、熱処理の開始準備において、開閉扉3を封止解除位置から封止位置に移動し、炉体2と開閉扉3とをシールする制御の例を示している。本例は、真空炉1内の減圧開始のタイミングを開閉扉3の移動開始後とした例である。この処理は、被処理物を炉体2内に搬入した後、開閉扉3を閉位置に位置した状態(
図3の状態)で開始される。大気開放弁7は閉弁状態である。
【0036】
S1で開閉扉3の移動を開始する。具体的には、駆動ユニット51の伸長を開始する。開閉扉3は押圧方向に付勢される。S2で開閉扉3の移動開始から所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間は、例えば、開閉扉3が移動を開始してから、シール部材14に接する位置に到達したとみなせる時間である。所定時間を経過した場合はS3へ進み、経過していない場合は所定時間の経過を待つ。
【0037】
S3では減圧ユニット6による真空炉1内の減圧を開始する。真空炉1の内外で気圧差が生じて、開閉扉3が炉体2側へ助勢される。これにより開閉扉3の移動に要する移動ユニット5の負荷が低下する。S4では位置センサ13の検知結果に基づき開閉扉3が封止位置に到達したか否かを判定する。開閉扉3が封止位置に到達したと判定した場合はS5へ進み、到達していないと判定した場合は駆動ユニット51の伸長を継続する。
【0038】
S5では駆動ユニット51の伸長を停止して開閉扉3の移動を終了する。以上により、シール部材14が圧縮され、炉体2と開閉扉3との間がシールされる。
【0039】
移動ユニット5の負荷低減のための減圧はこれにて不要となるが、その後の真空炉1内での熱処理のために、減圧ユニット6による真空炉1内の減圧を継続する。S6では気圧センサ11の検知結果に基づき、真空炉1内が所定の気圧まで減圧されたか否かを判定する。真空炉1内が所定の気圧まで減圧された場合はS7へ進み、所定の気圧まで減圧されていない場合は減圧を継続する。S7では真空炉1内の減圧を終了する。具体的には制御弁6bを閉弁する。閉弁後、真空ポンプ6aを停止してもよい。その後、真空炉1内で被処理物に対する熱処理が実行される。
【0040】
図7は
図6の処理例における真空炉1内の気圧の経時的な変化を例示している。気圧P0は大気圧であり、気圧P1は真空炉1内で熱処理を行う際に準備される気圧(S6で判定される所定の気圧)である。時間t0で開閉扉3の移動が開始される(
図6のS1)。時間t1で真空炉1内の減圧が開始される(
図6のS3)。時間t2で開閉扉3が封止位置に到達する(
図6のS5)。その後も減圧が継続され、時間t3で減圧が終了する(
図6のS7)。熱処理に必要な気圧に真空炉1内を減圧する過程で、開閉扉3の移動を行うことにより、真空炉1内の減圧回数が増加することなく、開閉扉3の移動の助勢を行うことができる。
【0041】
次に、真空炉1内の減圧は、開閉扉3を封止位置から封止解除位置に移動する場合にも行うことができる。真空炉1内の負圧によって開閉扉3が炉体2側に引き寄せられた状態では、係合部50aと係合部3bとの間の摺動時の摩擦抵抗が低下するため、係合リング50の回転負荷を低減できる。そのため、シール解除時における開閉扉3の移動においても、駆動ユニット51の出力が小さくて足りる。
【0042】
図8は制御ユニット12による真空炉1の制御例を示しており、熱処理済みの被処理物を真空炉1から搬出する際、開閉扉3を封止位置から封止解除位置に移動し、炉体2と開閉扉3とのシールを解除する制御の例を示している。
【0043】
S11では真空炉1内が大気圧よりも低い減圧状態にあるか否かを判定する。真空炉1内が減圧状態にある場合はS14へ進み、減圧状態にない場合はS12へ進む。この判定において、例えば、大気開放弁7が開放されている場合は減圧状態にないと判定する。また、大気開放弁7が閉弁されている場合でも気圧センサ11の検知結果に基づき、真空炉1内が所定の気圧以上である場合は減圧状態に無いと判定する。
【0044】
S12では大気開放弁7が閉弁された状態で、減圧ユニット6による真空炉1内の減圧を開始する。S13では減圧開始から所定の時間が経過したか否か(真空炉1内の減圧がある程度進んだか否か)が判定される。所定の時間が経過している場合は、S14へ進む。所定の時間が経過している場合、真空炉1の内外で気圧差が生じて、開閉扉3が炉体2側へ引き寄せられる。これにより開閉扉3の移動に要する移動ユニット5の負荷が低下する。S14では開閉扉3の移動を開始する。具体的には、駆動ユニット51の収縮を開始する。開閉扉3は押圧方向と逆方向に付勢される。
【0045】
S15で開閉扉3の移動開始から所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間は、例えば、開閉扉3が移動を開始してから、シール部材14から離れる位置に到達したとみなせる時間である。所定時間を経過した場合はS16へ進み、経過していない場合は所定時間の経過を待つ。S16では減圧ユニット6による減圧を終了し、大気開放弁7を開弁して真空炉1内を大気に開放する。S17では開閉扉3が封止解除位置に到達したか否かを判定する。開閉扉3が封止解除位置に到達したと判定した場合は、S18へ進む。例えば、駆動ユニット51が収縮限界に至ったことが駆動ユニット51に設けられたセンサで検知された場合に、開閉扉3が封止解除位置に到達したと判定する。S18では駆動ユニット51の駆動を終了して開閉扉3の移動を終了する。
【0046】
<第二実施形態>
第一実施形態では、開閉扉3を封止解除位置から封止位置に移動する際、時間の経過に基づき真空炉1内の減圧を開始する例を説明した。本実施形態では開閉扉3の位置を検知し、その検知結果に基づいて減圧を開始する例について説明する。
【0047】
図9(A)及び
図9(B)は開閉扉3の位置検知の構成例を示す図であり、
図9(A)は
図1のA-A線断面図に相当する。本実施形態では、可動アーム4bに被検知片4cが設けられており、固定アーム4aに検知ユニット15が支持されている。本実施形態の検知ユニット15は、光学センサであり、特に、
図9(B)に示すように発光素子15aと受光素子15bとを有するフォトインタラプタである。
【0048】
被検知片4cが発光素子15aと受光素子15bとの間に介在した場合に発光素子15aから照射される光の、受光素子15bでの受光強度が低下することにより、被検知片4cの位置、つまり、開閉扉3の位置を検知することができる。本実施形態の場合、開閉扉3がシール部材14と接触する位置に到達した際に、被検知片4cが発光素子15aと受光素子15bとの間に介在するように、被検知片4cや検知ユニット15の配置が設計されている。
【0049】
次に、本実施形態における制御ユニット12の処理例について説明する。
図10は、
図6に代わる真空炉1の制御例を示しており、熱処理の開始準備において、開閉扉3を封止解除位置から封止位置に移動し、炉体2と開閉扉3とをシールする制御の例を示している。以下、
図10の工程のうち、
図6の例と異なる工程についてのみ説明する。
【0050】
S1で開閉扉3の移動を開始した後、S2’で検知ユニット15の検知結果を取得し、被検知片4cが検知されたか否か(開閉扉3がシール部材14と接触する位置に到達したか否か)を判定する。被検知片4cが検知ユニット15で検知されたと判定した場合はS3へ進み、検知されていないと判定された場合は検知されるまで待つ。以下、
図6の例と同様に処理が進行する。
【0051】
図11は、
図8に代わる制御例を真空炉1の制御例を示しており、熱処理済みの被処理物を真空炉1から搬出する際、開閉扉3を封止位置から封止解除位置に移動し、炉体2と開閉扉3とのシールを解除する制御の例を示している。以下、
図11の工程のうち、
図8の例と異なる工程についてのみ説明する。
【0052】
S14で開閉扉3の移動を開始した後、S15’で検知ユニット15の検知結果を取得し、被検知片4cが検知されなくなったか否か(開閉扉3がシール部材14から離れた位置に到達したか否か)を判定する。被検知片4cが検知ユニット15で検知されなくなったと判定した場合はS16へ進み、検知されていると判定された場合は検知されなくなるまで待つ。以下、
図8の例と同様に処理が進行する。
【0053】
<第三実施形態>
第二実施形態では、開閉扉3の位置を検知する検知ユニット15として、フォトインタラプタを例示したが、反射式の光学センサや、圧力センサ等、他の種類のセンサであってもよい。また、第二実施形態では検知対象として、被検知片4c(可動アーム4b)を例示したが、移動ユニット5の収縮量(ストローク量)を検知するセンサや、係合リング50の回転量を検知するセンサであってもよい。
【0054】
図12(A)及び
図12(B)は開閉扉3の位置検知の別の構成例を示す図である。本実施形態では、開閉扉3の位置を検知する位置検知ユニット16及び17が設けられている。これらの位置検知ユニット16及び17は、例えば、炉体2に支持される。本実施形態の位置検知ユニット16及び17は、係合リング50に設けられた被検知片50cとの接触・離間によりON-OFFが切り替わるレバー型スイッチである。
【0055】
図12(A)は開閉扉3が封止解除位置に位置している態様を示している。このとき、被検知片50cは位置検知ユニット16と接触し、位置検知ユニット16がONとなる(位置検知ユニット16により被検知片50cが検知される)。すなわち、位置検知ユニット16は開閉扉3が封止解除位置に位置していることを検知する。
【0056】
図12(B)は開閉扉3が封止位置に位置している態様を示している。このとき、被検知片50cは位置検知ユニット17と接触し、位置検知ユニット17がONとなる(位置検知ユニット17により被検知片50cが検知される)。すなわち、位置検知ユニット17は開閉扉3が封止位置に位置していることを検知する。本実施形態では第一実施形態で説明した位置センサ13は不要である。
【0057】
制御ユニット12は、位置検知ユニット16及び17の検知結果に基づいて、駆動ユニット51を制御する。例えば、開閉扉3を封止位置に移動する場合、位置検知ユニット17で被検知片50cが検知されるまで駆動ユニット51を伸長させる。逆に、開閉扉3を封止解除位置に移動する場合、位置検知ユニット16で被検知片50cが検知されるまで駆動ユニット51を収縮させる。
【0058】
減圧ユニット6の制御例としては例えば以下の通りである。開閉扉3を封止解除位置から封止位置に移動し、炉体2と開閉扉3とをシールする場合、
図10の例で言えば、S2’の処理は、位置検知ユニット16により被検知片50cが検知されなくなったか否かを判定する。位置検知ユニット16により被検知片50cが検知されなくなった場合、開閉扉3がシール部材14と接触する位置又はシール部材14に間もなく接触する位置に到達したとみなす。そして、位置検知ユニット16により被検知片50cが検知されなくなった場合はS3へ進んで減圧を開始する。また、S4では位置検知ユニット17が被検知片50cを検知した場合に開閉扉3が封止位置に移動したと判定する。
【0059】
開閉扉3を封止位置から封止解除位置に移動し、炉体2と開閉扉3とのシールを解除する場合、
図11の例で言えば、S15’の処理は、位置検知ユニット16により被検知片50cが検知されたか否かを判定する。位置検知ユニット16により被検知片50cが検知された場合、開閉扉3が封止解除位置に到達したとみなし、S16及びS18の処理を行う。S17の処理は不要である。
【0060】
<他の実施形態>
上記実施形態では、係合部50aと係合部3bとの各側面(各係合面)が、いずれも、Y-Z平面に対して傾斜した傾斜面であるが、一方のみが傾斜面であってもよい。また、傾斜面は平面であっても曲面であってもよい。
【0061】
上記実施形態では、移動ユニット5として、係合部50aと係合部3bとの係合により、係合リング50の回転運動を開閉扉3の並進運動に変換する機構を例示したが、開閉扉3を炉体2の側へ押圧することができれば、他の種類の機構も採用可能である。
【0062】
以上、発明の実施形態について説明したが、発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 真空炉、2 炉体、3 開閉扉、5 移動ユニット、6 減圧ユニット、14 シール部材