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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】イストラデフィリン含有医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/522 20060101AFI20240920BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 9/32 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K31/522
A61K9/20
A61K9/32
A61K47/20
A61K47/26
A61K47/32
A61K47/38
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020171899
(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2022063567
(43)【公開日】2022-04-22
【審査請求日】2023-04-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】720002207
【氏名又は名称】共和薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(72)【発明者】
【氏名】古本 真也
(72)【発明者】
【氏名】西川 耀
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-186221(JP,A)
【文献】特開2020-186190(JP,A)
【文献】国際公開第2005/030219(WO,A1)
【文献】特表2006-513207(JP,A)
【文献】特開2020-079283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イストラデフィリン、並びに(B)スルフォン酸ナトリウムで置換されたベンゼン環を有する合成食用色素、ヒドロキシプロピルセルロース、及びスクラロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤を含み、(B)安定化剤がスルフォン酸ナトリウムで置換されたベンゼン環を有する合成食用色素及び/又はヒドロキシプロピルセルロースである場合は、さらにポリビニルアルコールを含む、医薬組成物。
【請求項2】
医薬組成物が錠剤である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
錠剤が、イストラデフィリンを含む素錠を合成食用色素を含むコーティング層で被覆したコーティング錠である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
コーティング層がポリビニルアルコールを含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項5】
スルフォン酸ナトリウムで置換されたベンゼン環を有する合成食用色素を含み、合成食用色素の含有量が、組成物の全量に対して、0.001~10重量%である、請求項1~4の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
ヒドロキシプロピルセルロースを含み、ヒドロキシプロピルセルロースの含有量が、組成物の全量に対して、0.1~10重量%である、請求項1~5の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
スクラロースを含み、スクラロースの含有量が、組成物の全量に対して、0.1~10重量%である、請求項1~6の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
(A)イストラデフィリン、(B)スルフォン酸ナトリウムで置換されたベンゼン環を有する合成食用色素、ヒドロキシプロピルセルロース、及びスクラロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤、並びに(C)低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む、医薬組成物(但し、イストラデフィリン又はその薬学的に許容される塩とヒドロキシプロピルセルロース及び/又はショ糖脂肪酸エステルを含み、ヒドロキシプロピルセルロース及び/又はショ糖脂肪酸エステルの合計含有量が5.0質量%以上である顆粒を含む経口固形製剤を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イストラデフィリンを含有する光に対して安定な医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病は、中脳の黒質にあるドパミン作動性神経細胞が損傷を受けて、ドパミン生成が減少することにより、大脳基底核回路に変調が生じた状態である。大脳基底核では、ドパミン減少により、GABAの分泌が促進され、運動機能の低下などの障害が現れる。
パーキンソン病の治療薬剤は、脳内に移行した後にドパミンへ変換されるレボドパ(3-ヒドロキシ-L-チロシン)が中心である。レボドパ含有製剤による治療が長期になり、ドパミンを蓄えたり、再利用したりする能力が低下すると、症状の日内変動(ウェアリング-オフ現象)が生じる場合がある。
イストラデフィリンは、大脳基底核のアデノシンA2A受容体に親和性を有し、アデノシンA2A受容体を遮断することで、レボドパ含有製剤投与時のウェアリング-オフ現象を改善するために、レボドパ含有製剤と併用されている。
【0003】
イストラデフィリンの化学名は(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオンであり、下記構造式で表される化合物である。
【化1】
【0004】
イストラデフィリン含有製剤として、ノウリアスト(登録商標)錠(協和キリン株式会社)が知られている。ノウリアスト錠は、添加物として、黄色三二酸化鉄、カルナウバロウ、クロスポビドン、結晶セルロース、酸化チタン、ステアリン酸マグネシウム、トリアセチン、乳糖水和物、ヒプロメロース、部分ケン化ポリビニルアルコール、マクロゴール4000を含有するフィルムコーティング錠である(非特許文献1)。
イストラデフィリンは、光に不安定で、ビニレン部分の二重結合が異性化し易いことが知られているため(非特許文献2)、ノウリアスト錠は、着色剤である酸化チタンと黄色三二酸化鉄を含むフィルムコーティング層を備える。
【0005】
また、特許文献1は、イストラデフィリンを包含するジアリールビニレン化合物を含有する医薬製剤に、無機物や着色剤を配合することで、ジアリールビニレン化合物のビニレン部分の異性化と二量化を抑制することを教えている。特許文献1は、無機物や着色剤として多数の化合物を例示しているが、イストラデフィリンとの組み合わせが開示されているのは、酸化チタン、黄色三二酸化鉄、及び三二酸化鉄だけである。
【0006】
しかし、ノウリアスト錠や特許文献1が教える製剤に配合されている酸化チタンや酸化鉄は、反応性が高いため、錠剤中に含まれる他成分と反応して他成分を分解する恐れがある。特に、酸化鉄は、光触媒として機能するため、光が当たると共存するコーティング剤が活性酸素を発生して他成分を分解する恐れがある。
また、酸化チタンや酸化鉄は有色の無機粉体であり、製剤の調製工程でさらなる微細化はできず、医薬組成物に色ムラを与え易いため、色ムラを抑えるために分散剤が必要になる場合が多い。従って、酸化チタンや酸化鉄といった無機粉体色素を必ずしも配合しなくても、イストラデフィリンの光安定性が確保された医薬組成物とすることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4413866号
【非特許文献】
【0008】
【文献】ノウリアスト錠20mg 添付文書
【文献】バイオオーガニック・メディシナル・ケミストリー・レターズ(Bioorg. Med. Chem. Lett.)、7巻、2349-2352ページ(1997年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、光安定性に優れるイストラデフィリン含有医薬組成物であって、無機粉体色素を必ずしも配合しなくてもイストラデフィリンの光安定性が確保された医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(1) イストラデフィリン含有医薬組成物に、合成食用色素を配合することにより、光照射によるイストラデフィリンの類縁物質(ビニレン部分のシス異性体、二量体)の生成が抑えられる。
(2) イストラデフィリンと合成食用色素を含有する医薬組成物において、合成食用色素と同じ部分にポリビニルアルコールを配合することにより、光照射による合成食用色素の変色が抑制される。
(3) 医薬組成物が錠剤である場合、合成食用色素を含むコーティング層でイストラデフィリンを含有する素錠を被覆することにより、イストラデフィリンの類縁物質の生成が抑えられる。また、合成食用色素に加えてポリビニルアルコールをコーティング層に配合することにより、イストラデフィリンの類縁物質の生成が一層効果的に抑えられる。
(4) イストラデフィリンを含有する医薬組成物に、ヒドロキシプロピルセルロースを配合することにより、他の結合剤を配合する場合に比べて、光照射によるイストラデフィリンの類縁物質の生成が抑えられる。
(5) イストラデフィリンを含有する医薬組成物に、スクラロースを配合することにより、他の甘味剤を配合する場合に比べて、光照射によるイストラデフィリンの類縁物質の生成が抑えられる。
【0011】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記の医薬組成物を提供する。
〔1〕 (A)イストラデフィリン、並びに(B)合成食用色素、ヒドロキシプロピルセルロース、及びスクラロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤を含む医薬組成物。
〔2〕 合成食用色素が、スルフォン酸ナトリウムで置換されたベンゼン環を有する化合物である、〔1〕に記載の医薬組成物。
〔3〕 医薬組成物が錠剤である、〔1〕又は〔2〕に記載の医薬組成物。
〔4〕 錠剤が、イストラデフィリンを含む素錠を合成食用色素を含むコーティング層で被覆したコーティング錠である、〔3〕に記載の医薬組成物。
〔5〕 コーティング層がさらにポリビニルアルコールを含む、〔4〕に記載の医薬組成物。
〔6〕 合成食用色素を含み、合成食用色素の含有量が、組成物の全量に対して、0.001~10重量%である、〔1〕~〔5〕の何れかに記載の医薬組成物。
〔7〕 ヒドロキシプロピルセルロースを含み、ヒドロキシプロピルセルロースの含有量が、組成物の全量に対して、0.1~10重量%である、〔1〕~〔6〕の何れかに記載の医薬組成物。
〔8〕 スクラロースを含み、スクラロースの含有量が、組成物の全量に対して、0.1~10重量%である、〔1〕~〔7〕の何れかに記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医薬組成物は、イストラデフィリンの光安定性に優れる。光が当たる環境下で保存しても薬効が低下し難いため、包装材料を広い範囲から選択することができる。また、保管や流通に特別の管理を要さない。
【0013】
上記の通り、酸化チタンや酸化鉄といった無機粉体色素は、反応性が高いため、共存する成分の分解を促進する傾向がある。この点、本発明の医薬組成物に配合している合成食用色素は、それ自体反応性が低いため、色素を含むことによる共存成分の分解の恐れがない。
【0014】
また、医薬組成物に無機粉体色素を配合する場合と異なり、合成食用色素は、本発明の組成物中の液状成分への溶解性や、固形成分との均質分散性に優れることから、色ムラが生じ難いため、色ムラを抑えるために特別に分散剤を配合する必要がないことを、本発明者は見出した。従って、無機粉体色素を配合する場合のように、必ずしも分散剤を必須とするものではないが、合成食用色素の溶解性や均質分散性を高めるために分散剤を配合してもよい。
【0015】
本発明の医薬組成物が錠剤である場合、錠剤のコーティング層に合成食用色素を配合することにより、イストラデフィリンの光安定性が向上し、このコーティング層に、合成食用色素に加えてポリビニルアルコールを配合することにより、イストラデフィリンの光安定性が一層向上する。
【0016】
また、合成食用色素の配合には、色移り、乾燥時の色ムラの発生や光照射により退色し易いという懸念がある。医薬品が変色すると、医療機関や薬局で異なる医薬品と認識されて医療ミスを誘ったり、商品価値を失ったり、患者に不安を与える場合がある。また、同じ外観の製剤を安定して製造できない場合がある。
この点、本発明の医薬組成物において、合成食用色素と同じ部分にポリビニルアルコールを配合する場合は、色移りや乾燥時の色ムラを防止できる上、光照射による合成食用色素の変色が抑制されるため、このような問題が生じる恐れがない。
【0017】
また、本発明の医薬組成物がヒドロキシプロピルセルロース及び/又はスクラロースを含むときは、イストラデフィリンの光安定性が向上する。また、本発明の医薬組成物が合成食用色素に加えて、ヒドロキシプロピルセルロース、及び/又はスクラロースを配合するときは、顕著に又は相乗的にイストラデフィリンの光安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】イストラデフィリンを含有する錠剤の光照射による類縁物質の増加率を示す図である。
図2】イストラデフィリンを含有する錠剤の光照射による類縁物質の増加率を示す図である。
図3】合成食用色素を含むコーティング層を備える、イストラデフィリン含有錠剤の光照射による退色の程度を、コーティング層中のポリビニルアルコールの有無により比較した写真である。
図4】光照射によるイストラデフィリンの類縁物質の増加率を、共存させる結合剤の間で比較したグラフである。
図5】光照射によるイストラデフィリンの類縁物質の増加率を、共存させる甘味剤の間で比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の医薬組成物は、(A)イストラデフィリン、並びに(B)合成食用色素、ヒドロキシプロピルセルロース、及びスクラロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤を含む組成物である。
【0020】
(A)イストラデフィリン
イストラデフィリンは、フリー体又は薬学的に許容されるその塩の何れであってもよい。中でも、フリー体が好ましい。
塩としては、無機酸塩では、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などが挙げられる。有機酸塩では、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩のようなカルボン酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩、ナパジシル酸塩のような有機スルフォン酸塩が挙げられる。金属塩では、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩などが挙げられる。その他、アンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどのアンモニウム塩、モルホリン、ピペリジンなどの有機アミン付加塩、リジン、グリシン、フェニルアラニンなどのアミノ酸付加塩が挙げられる。
また、イストラデフィリンは、無水物、半水和物、水和物の何れであってもよい。
【0021】
本発明において、イストラデフィリンは非晶質のものや、種々の結晶化度を有する結晶を適宜選択して使用できる。種々の結晶化度を有するイストラデフィリンは、結晶性イストラデフィリンと分散剤(ヒプロメロース、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、ヒドロキシプロピルセルロース、ポビドンなど)との混合物を粉砕する方法や、結晶性イストラデフィリンを分散剤と共に有機溶媒中に分散した後、有機溶媒を除去する方法や、溶融造粒する方法により調製できる。
【0022】
イストラデフィリンの1剤中の含有量は、例えば1~100mg、好ましくは5~50mg、より好ましくは10~30mg、特に20mgとすることができる。
【0023】
(B)イストラデフィリンの安定化剤
(合成食用色素)
種々の構造の芳香族化合物(タール色素)が合成食用色素として使用されており、本発明では、何れも用いることができる。
中でも、スルフォン酸ナトリウム基で置換されたベンゼン環を有する合成食用色素が好ましく、スルフォン酸ナトリウム基で置換されたベンゼン環を2個有する合成食用色素がより好ましい。スルフォン酸ナトリウム基で置換されたベンゼン環を2個有する合成食用色素としては、食用黄色4号、食用黄色5号、食用青色1号、食用青色2号、食用緑色3号、食用赤色40号が挙げられる。
中でも、スルフォン酸ナトリウム基で置換された2個のベンゼン環がスルフォン酸ナトリウム基以外の官能基を有さないもの(但し、他の環と縮合している場合を除く)が好ましく、このような色素としては、食用黄色4号、食用黄色5号、食用青色1号、食用青色2号、食用緑色3号が挙げられる。
また、合成食用色素は、光照射によるその色素の退色が少ない点でアルミニウムレーキ(アルミニウム塩)が好ましい。例えば、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、食用緑色3号アルミニウムレーキが好ましく挙げられる。
合成食用色素は、1種又は2種以上を使用できる。
【0024】
合成食用色素の配合量は、医薬組成物の全量に対して、0.001重量%以上が好ましく、0.005重量%以上がより好ましく、0.01重量%以上がさらに好ましい。また、10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、0.1重量%以下がさらに好ましい。
また、合成食用色素の配合量は、イストラデフィリン1重量部に対して、0.00007重量部以上が好ましく、0.00035重量部以上がより好ましく、0.0007重量部以上がさらに好ましい。また、0.07重量部以下が好ましく、0.035重量部以下がより好ましく、0.007重量部以下がさらに好ましい。
合成食用色素の配合量が上記範囲であれば、イストラデフィリンの光による異性化及び/又は二量化を十分に抑制することができると共に、医薬組成物を適切に着色できる。
【0025】
(ヒドロキシプロピルセルロース)
ヒドロキシプロピルセルロースの配合量は、医薬組成物の全量に対して、0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、1重量%以上がさらに好ましい。また、10重量%以下が好ましく、8重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
また、ヒドロキシプロピルセルロースの配合量は、イストラデフィリン1重量部に対して、0.014重量部以上が好ましく、0.07重量部以上がより好ましく、0.14重量部以上がさらに好ましい。また、0.70重量部以下が好ましく、0.56重量部以下がより好ましく、0.35重量部以下がさらに好ましい。
ヒドロキシプロピルセルロースの配合量が上記範囲であれば、イストラデフィリンの光による異性化及び/又は二量化を十分に抑制することができると共に、ヒドロキシプロピルセルロースの結合剤などとしての本来の効果が適切に奏される。
【0026】
(スクラロース)
スクラロースの配合量は、医薬組成物の全量に対して、0.1重量%以上が好ましく、0.3重量%以上がより好ましく、0.5重量%以上がさらに好ましい。また、10重量%以下が好ましく、8重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
また、スクラロースの配合量は、イストラデフィリン1重量部に対して、0.007重量部以上が好ましく、0.021重量部以上がより好ましく、0.035重量部以上がさらに好ましい。また、0. 7重量部以下が好ましく、0.56重量部以下がより好ましく、0.35重量部以下がさらに好ましい。
スクラロースの配合量が上記範囲であれば、イストラデフィリンの光による異性化及び/又は二量化を十分に抑制することができると共に、製剤の甘味が適切になる。
【0027】
(C)その他の安定化剤
本発明の医薬組成物は、上記安定化剤、特に合成食用色素に加えてポリビニルアルコールを含むことが好ましく、これにより、イストラデフィリンの光安定性が一層向上する。また、合成食用色素の光照射による変色(通常は、退色)が抑制される。ポリビニルアルコールは、完全ケン化物、部分ケン化物の何れも使用できるが、部分ケン化物が好ましく、ケン化度78~96mol%のものがより好ましく、ケン化度85~90mol%のものが特に好ましい。具体的には、三菱ケミカル製のEG-03P(ケン化度87.8mol%)、EG-05P、EG-05PW(ケン化度87.8mol%)、EG-40P、EG-40PW(ケン化度87.7mol%)などが挙げられる。
【0028】
製剤形態
本発明の医薬組成物の剤型は、特に限定されない。例えば、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤(硬カプセル剤、ソフトカプセル剤)、ドライシロップ、錠剤、フィルム剤、舐剤、チューインガム剤などの固形製剤が挙げられる。特殊な錠剤として、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠なども挙げられる。
【0029】
何れの製剤形態においても、(A)イストラデフィリン及び(B)安定化剤は、製剤のどの部分に含まれていてもよい。本発明において、「部分」は、層、粒子、混合粉末などを意味する。
【0030】
安定化剤が合成食用色素である場合は、イストラデフィリンと合成食用色素は、製剤(組成物)中の同一部分に含まれていても、別部分に含まれていてもよいが、別部分に含まれる場合は、互いに隣接する部分にイストラデフィリンと合成食用色素がそれぞれ含まれていることが好ましい。
【0031】
医薬組成物が錠剤である場合、イストラデフィリンと合成食用色素を含む造粒物をそのまま又は添加物と共に打錠したもの、イストラデフィリンを含む造粒物と合成食用色素を含む添加物を打錠したもの、イストラデフィリンを含む造粒物を添加物と共に打錠したものであって、造粒物と後末添加する添加物の両方に合成食用色素を含むもの、イストラデフィリンと合成食用色素を含む全成分を打錠したもの(直打法により得られるもの)、イストラデフィリンを含む素錠と合成食用色素を含むコーティング層(特に、フィルムコーティング層)を備えるものなどが挙げられる。
中でも、イストラデフィリンの光安定性が良い点で、イストラデフィリンを含む素錠と合成食用色素を含むコーティング層(特に、フィルムコーティング層)を備えるものが好ましい。
【0032】
但し、実施例の項目に示す通り、本発明の医薬組成物が錠剤である場合、色素を含むコーティング層を備えなくても(即ち、合成食用色素がイストラデフィリンと共にコーティングを有さない錠剤中に含まれていても)、色素を含むコーティング層を備える従来のノウリアスト錠と同等の、イストラデフィリンの光安定性を得ることができる。
【0033】
安定化剤が合成食用色素であり、医薬組成物がさらにポリビニルアルコールを含む場合は、合成食用色素とポリビニルアルコールは同じ部分に含まれることが好ましい。これにより、合成食用色素自体の光安定性が向上する。
中でも、本発明の医薬組成物が合成食用色素とポリビニルアルコールを含む錠剤である場合は、イストラデフィリンを含む素錠と、合成食用色素及びポリビニルアルコールを含むコーティング層(特に、フィルムコーティング層)を備える錠剤とすることが好ましく、これにより、イストラデフィリンの光安定性が一層向上すると共に、合成食用色素自体の光安定性も向上する。
【0034】
安定化剤がヒドロキシプロピルセロース、スクラロースである場合は、イストラデフィリンとヒドロキシプロピルセロース、スクラロースは、製剤(組成物)中の同一部分に含まれているのが好ましい。
医薬組成物が錠剤である場合は、イストラデフィリンとヒドロキシプロピルセロース及び/又はスクラロースを含む造粒物をそのまま又は添加物と共に打錠したもの、イストラデフィリンとヒドロキシプロピルセロース及び/又はスクラロースを含む全成分を打錠したもの(直打法により得られるもの)などが好ましく挙げられる。
【0035】
錠剤は口腔内崩壊錠とすることができる。口腔内崩壊錠は、添加物の種類や配合量、打錠圧などを適宜設定することにより、当業者であれば製造できる。口腔内崩壊錠である場合、コーティング剤層を備えない素錠であってもよく、水溶性のコーティング剤を含むコーティング剤層で素錠を被覆したものであってもよい。
【0036】
散剤は、イストラデフィリン粉末と安定化剤粉末との混合物であればよいが、安定化剤を含む成分をコーティングしたイストラデフィリン粉末を含むものであってもよい。
【0037】
顆粒剤、細粒剤としては、イストラデフィリン及び安定化剤を含む全成分を混合して造粒したもの、安定化剤を含む成分をコーティングしたイストラデフィリン粉末を含む全成分を造粒したものが挙げられる。
また、造粒物とコーティング剤層からなる顆粒剤、細粒剤も挙げられ、イストラデフィリン及び安定化剤は、それぞれ、造粒物とコーティング剤層の何れに含まれていてもよい。また、核とそれを被覆する外層からなる顆粒剤、細粒剤も挙げられ、イストラデフィリン及び安定化剤は、それぞれ、核と外層の何れに含まれていてもよい。
造粒物又は核は、常法に従い、湿式又は乾式で造粒し、必要に応じて乾燥、整粒することで製造できる。湿式造粒法としては、流動層造粒法、撹拌造粒法、転動造粒法、押出造粒法、破砕造粒法、練合造粒法などが挙げられ、乾式造粒法としては、圧片造粒法、ブリケット造粒法、溶融造粒法などが挙げられる。
【0038】
カプセル剤は、硬カプセル剤では、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどを基剤とする硬カプセルに、上記説明した散剤、顆粒剤、及び/又は細粒剤を充填したものとすることができる。また、軟カプセル剤では、上記説明した散剤、顆粒剤、及び/又は細粒剤を、例えばゼラチン、グリセリン、ソルビトールなどを含む軟カプセル基剤に封入したものとすることができる。安定化剤が合成食用色素である場合は、硬カプセル基剤や軟カプセル基剤に合成食用色素を配合することもできる。
【0039】
また、上記説明した散剤、顆粒剤、細粒剤と甘味剤を含む添加物粉末又は顆粒とを混合したり、散剤、顆粒剤、細粒剤中に甘味剤を配合することによりドライシロップが得られる。安定化剤がスクラロースである場合は、スクラロースが甘味剤になり得る。また、スクラロースに加えて、別途甘味剤を配合してもよい。
【0040】
また、フィルム剤、舐剤、チューインガム剤は、単層からなるもの、又は積層体の何れであってもよい。また、イストラデフィリンと安定化剤を含む層を備えるものであってよく、或いは、イストラデフィリンを含む層と安定化剤を含む層を備える積層体であってもよい。
フィルム剤、舐剤、チューインガム剤において、各層は、常法に従い、有効成分と水溶性高分子を含む溶液を展延、乾燥するか、又は有効成分と水溶性高分子を含む混合物を融解成形することにより製造できる。また、各層は結合剤などを用いて接着し積層すればよい。
【0041】
添加物
何れの剤型の場合も、本発明の医薬組成物は、イストラデフィリンと安定化剤の他に、賦形剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール以外の結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、光沢化剤、合成食用色素以外の着色剤、矯味剤、スクラロース以外の甘味剤、香料、保存剤又は防腐剤などの添加物を含むことができる。添加物は、1種又は2種以上を使用できる。
【0042】
賦形剤としては、乳糖水和物、白糖、マルトース、果糖、ブドウ糖(デキストロース)、トレハロースのような糖類;マンニトール(特に、D-マンニトール)、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトールのような糖アルコール;デンプン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプンのようなデンプン類;結晶セルロースのようなセルロース類;デキストリンなどが挙げられる。
【0043】
ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール以外の結合剤としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、クロスカルメロースナトリウムのようなセルロース類;ポビドン;デンプン;ゼラチン;トラガントゴム;塩基性(メタ)アクリレートコポリマーなどが挙げられる。
【0044】
崩壊剤としては、クロスポビドン;カルボキシメチルセルロース(カルメロース)、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウムのようなセルロース類;デンプン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム(デンプングリコール酸ナトリウム)のようなデンプン類;デキストリン;ケイ酸カルシウムなどが挙げられる。
【0045】
滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸塩(ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛など)、ステアリン酸塩エステル(フマル酸ステアリルナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、パルミトステアリン酸グリセリンなど)、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、酒石酸ナトリウムカリウムなどが挙げられる。
【0046】
流動化剤としては、軽質無水ケイ酸、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0047】
合成食用色素以外の着色剤としては、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、酸化チタン、天然食用色素などが挙げられる。黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、酸化チタンのような無機粉体色素は含まないことが望ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。無機粉体色素を含む場合、その含有量は、組成物の全量に対して、5重量%以下、中でも3重量%以下が好ましい。
【0048】
矯味剤としては、シクロデキストリン、クエン酸、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、酒石酸、リンゴ酸、グリシン、アラニン、テルペン類(リモネン、ピネン、ゲラニオール、メントール、ボルネオール、メントン、カンフル、オイゲノールなど)、テルペンを含有する精油(オレンジ油、ハッカ油、ユーカリ油、レモン油、ケイヒ油、ラベンダー油、スペアミントなど)などが挙げられる。
【0049】
スクラロース以外の甘味剤としては、マンニトール、ショ糖、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム、還元麦芽糖水あめ、ソルビット、果糖、乳糖水和物、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、甘草及びその抽出物、グリチルリチン酸、甘茶、ソーマチンなどが挙げられる。
【0050】
保存剤又は防腐剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチルのようなパラベン類、安息香酸、エタノール、エデト酸四ナトリウム、サリチル酸、ソルビトール、ソルビン酸、グリセリン、クロロブタノール、フェノール、プロピレングリコール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0051】
コーティング剤
コーティング剤としては、水溶性のものでは、キサンタンガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、グァーガム、アカシアガム、タマリンドガム、タラガム、アラビアゴム、カルナウバロウ、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルファー化デンプン、カゼインナトリウム、カラギーナン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルスターチナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、デキストラン、デキストリン、プルラン、キチン、キトサン、ガラクトマンナン、カゼイン、ゼラチン、水溶性プルランエーテル(プルランメチルエーテル、プルランエチルエーテル、プルランプロピルエーテルなど)、水溶性プルランエステル(プルランアセテート、プルランブチレートなど)、寒天、ビニル樹脂(ポビドン、コポリビドン、酢酸ポリビニル、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールコポリマーなど)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレングリコール、マクロゴール、グリチルリチン酸、糖類(白糖、果糖、乳糖、マルトース、ブドウ糖、シクロデキストリンなど)、糖アルコール(マンニトール、キシリトール、マルチトール、ソルビトールなど)などが挙げられる。
【0052】
また、水不溶性又は水難溶性のコーティング剤としては、セルロース系コーティング剤(メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、フタル酸ヒプロメロース、酢酸コハク酸ヒプロメロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロースなど)、ビニル樹脂(クロスポビドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、酢酸フタル酸ポリビニルなど)、メタクリレートポリマー又はメタクリル酸ポリマー、ポリシロキサン系コーティング剤(ジメチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン・二酸化ケイ素混合物など)などが挙げられる。
【0053】
メタクリレートポリマー又はメタクリル酸ポリマーとしては、レーム社のアミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギットE100、EPOなど)、メタクリル酸コポリマーLD(オイドラギットL30D-55、L100-55など)、メタクリル酸コポリマーL(オイドラギットL100など)、メタクリル酸コポリマーS(オイドラギットS100など)、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー(オイドラギットRL100、RLPO、RS100、RSPO、RL30D、RS30Dなど)、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー(オイドラギットNE30Dなど)などが挙げられる。
【0054】
コーティング層には可塑剤などの添加物を配合することができる。可塑剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリアセチン(グリセリン三酢酸)のようなグリセリン脂肪酸エステル、流動パラフィン、ソルビタンモノラウレート、モノステアリン、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジブチル、ポロキサマー、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
【0055】
その他
本発明は、イストラデフィリンを含む医薬組成物に、合成食用色素、ヒドロキシプロピルセルロース、及び/又はスクラロースを添加することにより、イストラデフィリンの安定性、特に光安定性を向上させる方法を包含する。
また、本発明は、イストラデフィリンを含む医薬組成物に、合成食用色素、ヒドロキシプロピルセルロース、及び/又はスクラロースを添加することにより、イストラデフィリンの異性化、及び/又は二量化を抑制する方法を包含する。
また、本発明は、イストラデフィリンを含む医薬組成物に、合成食用色素、ヒドロキシプロピルセルロース、及び/又はスクラロースを添加することにより、組成物中のイストラデフィリンの含量低下、特に経時的な含量低下を抑制する方法を包含する。
本発明方法において、医薬組成物が含み得る成分の種類、量、比率;医薬組成物の剤型などは、本発明の医薬組成物について説明した通りである。
【実施例
【0056】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(1)試験方法
(平均粒子径の測定方法)
粉砕したイストラデフィリンの平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(Malvern,MASTERSIZER3000)を用いて測定した。
【0057】
(結晶化度の測定方法)
被検イストラデフィリンについて、粉末X線回折装置(Rigaku, MiniFlex600)を用いて、回折角2θを0°から40°まで変化させ、2θ=16°における回折ピークのハロー分のピークを減算の後、積分強度を測定した。さらに、未粉砕のイストラデフィリン(結晶化度97.1%)の積分強度を相対結晶化度100%としたときの相対値を算出した。
積分強度の測定に当たっては、粉末X線回折装置の試料皿(直径約3cm)の全面に、スパチュラを用いて、イストラデフィリン適量を、押し潰さないように、表面が平らになるように広げた。
【0058】
(2)錠剤の製造
以下の各錠剤の製造には、平均粒径193μm、結晶化度97.1%の未粉砕のイストラデフィリンを用いた。
【0059】
実施例1
表1に記載の処方に従って、錠剤を以下のようにして製造した。
ビーカー内にて、イストラデフィリン(1.2g)、D-マンニトール(4.73g、マンニットP、三菱商事フードテック(株)製)、D-マンニトール(0.63g、グラニュトールS、フロイント産業(株)製)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(0.84g、LH-32、信越化学工業(株)製)を混合し、混合物にデキストリン(パインデックス♯1、松谷化学工業(株)製)の2.0重量%水溶液に食用黄色4号(0.01g、紅不二化学工業(株)製)を添加した溶液を、滴下しながら造粒した。乾燥した後、得られた造粒顆粒をふるいで整粒し、整粒顆粒とした。得られた整粒顆粒(6.87g)、結晶セルロース(0.77g、KG-802、旭化成(株)製)、及びステアリン酸マグネシウム(0.06g、植物性、太平化学産業(株)製)をユニパックにて混合することにより打錠用顆粒を得た。打錠機(VIRGO、菊水製作所(株)製)を用いて、得られた打錠用顆粒を製錠することにより、錠剤1(錠剤の重量:140.0 mg、錠剤の形状:円形錠(7.0mmφ))を得た。錠剤1は、1錠中にイストラデフィリン20mgを含む。
【0060】
実施例2
表1に記載の処方に従って、錠剤を以下のようにして製造した。
ビーカー内にて、イストラデフィリン(3.0g)、D-マンニトール(13.4g、マンニットP、三菱商事フードテック(株)製)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(2.1g、LH-32、信越化学工業(株)製)を混合し、混合物にデキストリン(パインデックス♯1、松谷化学工業(株)製)の2.0重量%水溶液に食用黄色4号(0.02g、紅不二化学工業(株)製)を添加した溶液を、滴下しながら造粒した。乾燥した後、得られた造粒顆粒をふるいで整粒し、整粒顆粒とした。得られた整粒顆粒(4.37g)、D-マンニトール(0.49g、グラニュトールS、フロイント産業(株)製)、及びステアリン酸マグネシウム(0.04g、植物性、太平化学産業(株)製)をユニパックにて混合することにより打錠用顆粒を得た。打錠機(VIRGO、菊水製作所(株)製)を用いて、得られた打錠用顆粒を製錠することにより、錠剤2(錠剤の重量:140.0 mg、錠剤の形状:円形錠(7.0mmφ))を得た。錠剤2は、1錠中にイストラデフィリン20mgを含む。
【0061】
実施例3
表2に記載の処方に従って、錠剤を以下のようにして製造した。
流動層造粒乾燥機(FLO-LABO、フロイント産業(株)製)を用いて、イストラデフィリン(40.0g)、乳糖水和物(199.2g、Pharmatose 200M、DFE Pharma製)、クロスポビドン(13.0g、kollidon CL-SF、BASF製)を混合し、混合物にポリビニルアルコール(部分ケン化物)(ゴーセノール EG-05、三菱ケミカル(株)製)の5.0重量%水溶液をスプレーして造粒した。乾燥した後、得られた造粒顆粒をふるいで整粒し、整粒顆粒とした。得られた整粒顆粒(231.66g)、及びステアリン酸マグネシウム(2.34g、植物性、太平化学産業(株)製)をユニパックにて混合することにより打錠用顆粒を得た。打錠機(VIRGO、菊水製作所(株)製)を用いて、得られた打錠用顆粒を製錠することにより、素錠(錠剤の重量:130.0 mg、錠剤の形状:円形錠(7.0mmφ))を得た。
HPMC(34.96g、TC-5M、信越化学工業(株)製)、マクロゴール6000(4.6g、日油(株)製)、酸化チタン(6.44g、NA-61、東邦チタニウム(株)製)、食用黄色4号アルミニウムレーキ(0.41g、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、食用黄色5号アルミニウムレーキ(0.18g、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、食用青色2号アルミニウムレーキ(0.02g、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を精製水に分散し、固形分濃度11重量%のコーティング液を調整した。素錠300gにハイコーター(HCT-LABO、フロイント産業(株))を用いて、素錠100重量部に対し剤皮が乾燥状態で7.7重量部になるようにコーティングを行うことにより目的とする錠剤3を得た。錠剤3は、1錠中にイストラデフィリン20mgを含む。
【0062】
実施例4
表2に記載の処方に従って、錠剤を以下のようにして製造した。
高速撹拌造粒機(ハイスピードミキサー、(株)アーステクニカ製)を用いて、イストラデフィリン(46.0g)、乳糖水和物(163.76g、Pharmatose 200M、DFE Pharma製)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(75.67g、LH-11、信越化学工業(株)製)を混合し、混合物にポリビニルアルコール(部分ケン化物)(ゴーセノール EG-05、三菱ケミカル(株)製)の5.0重量%水溶液を添加して造粒した。乾燥した後、得られた造粒顆粒をふるいで整粒し、整粒顆粒とした。得られた整粒顆粒(228.06g)、及びステアリン酸マグネシウム(2.34g、植物性、太平化学産業(株)製)をユニパックにて混合することにより打錠用顆粒を得た。打錠機(VIRGO、菊水製作所(株)製)を用いて、得られた打錠用顆粒を製錠することにより、素錠(錠剤の重量:128.0 mg、錠剤の形状:円形錠(7.0mmφ))を得た。
HPMC(43.24g、TC-5M、信越化学工業(株)製)、ポリビニルアルコール(部分ケン化物)(5.52g、ゴーセノール EG-05、三菱ケミカル(株)製)製)、酸化チタン(6.44g、NA-61、東邦チタニウム(株)製)、食用黄色4号アルミニウムレーキ(0.32g、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、食用黄色5号アルミニウムレーキ(0.16g、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、食用青色2号アルミニウムレーキ(0.02g、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を精製水に分散し、固形分濃度11重量%のコーティング液を調整した。素錠300gにハイコーター(HCT-LABO、フロイント産業(株))を用いて、素錠100重量部に対し剤皮が乾燥状態で8.6重量部になるようにコーティングを行うことにより目的とする錠剤4を得た。錠剤4は、1錠中にイストラデフィリン20mgを含む。
【0063】
比較例1
表1に記載の処方に従って、錠剤を以下のようにして製造した。
ビーカー内にて、イストラデフィリン(1.2g)、D-マンニトール(4.74g、マンニットP、三菱商事フードテック(株)製)、D-マンニトール(0.63g、グラニュトールS、フロイント産業(株)製)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(0.84g、LH-32、信越化学工業(株)製)を混合し、混合物にデキストリン(パインデックス♯1、松谷化学工業(株)製)の2.0重量%水溶液を滴下しながら造粒した。乾燥した後、得られた造粒顆粒をふるいで整粒し、整粒顆粒とした。得られた整粒顆粒(6.87g)、結晶セルロース(0.77g、KG-802、旭化成(株)製)、及びステアリン酸マグネシウム(0.06g、植物性、太平化学産業(株)製)をユニパックにて混合することにより打錠用顆粒を得た。打錠機(VIRGO、菊水製作所(株)製)を用いて、得られた打錠用顆粒を製錠することにより、錠剤5(錠剤の重量:140.0 mg、錠剤の形状:円形錠(7.0mmφ))を得た。錠剤5は、1錠中にイストラデフィリン20mgを含む。
【0064】
比較例2
表2に記載の処方に従って、錠剤を以下のようにして製造した。
高速撹拌造粒機(ハイスピードミキサー、(株)アーステクニカ製)を用いて、イストラデフィリン(46.0g)、乳糖水和物(168.36g、Pharmatose 200M、DFE Pharma製)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(75.67g、LH-11、信越化学工業(株)製)を混合し、混合物にポリビニルアルコール(部分ケン化物)(ゴーセノール EG-05、三菱ケミカル(株)製)の5.0重量%水溶液を添加して造粒した。乾燥した後、得られた造粒顆粒をふるいで整粒し、整粒顆粒とした。得られた整粒顆粒(244.53g)、及びステアリン酸マグネシウム(2.47g、植物性、太平化学産業(株)製)をユニパックにて混合することにより打錠用顆粒を得た。打錠機(VIRGO、菊水製作所(株)製)を用いて、得られた打錠用顆粒を製錠することにより、素錠(錠剤の重量:130.0 mg、錠剤の形状:円形錠(7.0mmφ))を得た。
HPMC(34.96g、TC-5M、信越化学工業(株)製)、マクロゴール6000(4.6g、日油(株)製)、酸化チタン(6.44g、NA-61、東邦チタニウム(株)製)を精製水に分散し、固形分濃度11重量%のコーティング液を調整した。素錠300gにハイコーター(HCT-LABO、フロイント産業(株))を用いて、素錠100重量部に対し剤皮が乾燥状態で7.7重量部になるようにコーティングを行うことにより目的とする錠剤6を得た。錠剤6は、1錠中にイストラデフィリン20mgを含む。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
(3)イストラデフィリンの分解抑制の評価
実施例1、実施例2、比較例1の各錠剤と、ノウリアスト錠20mgを、それぞれガラス瓶に入れて密栓し、光安定性試験装置(ナガノサイエンス、LTL-200D3CJ-15)を用いて、波長300~830nmの光を、最大累積積算量が168万ルクス・時間(2500ルクス×672時間)となるよう照射した。
また、実施例3、実施例4、比較例2の各錠剤と、ノウリアスト錠20mgを、それぞれガラス瓶に入れて密栓し、光安定性試験装置(ナガノサイエンス、LTL-200D3CJ-15)を用いて、波長300~830nmの光を、最大累積積算量が60万ルクス・時間(4000ルクス×150時間)となるよう照射した。
【0068】
光照射前後に、イストラデフィリンの類縁物質であるシス異性体と二量体を、高速液体クロマトグラフィーで定量した。
(HPLC分析条件)
カラム:Symmetry C8(4.6×250mm)
カラム温度:25℃
展開溶媒:アセトニトリル:水=1:1
展開溶媒の流量:イストラデフィリンの保持時間が約9分になるように調整
(1.0mL/分)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:225nm)
【0069】
光照射前のイストラデフィリン重量に対する、光照射後のシス異性体及び二量体の各重量の増加量の比率(%)を算出した。
【0070】
イストラデフィリンはトランス体が活性本体であり、シス異性体は、トランス異性体に比べて受容体への親和性が低いため、活性が低い(J.Med.Chem.1993,Vol.36,No.23,3731-3733)。また、二量体も、トランス異性体に比べて活性が低い(J.Org.Chem.2004,Vol.69,No.10,3308-3318)。従って、これらの生成が少ないことが求められる。
【0071】
結果を図1図2に示す。
図1が示す通り、イストラデフィリンと合成食用色素を含む造粒物を添加剤と共に打錠して得た実施例1、2の各錠剤は、色素を添加せずに同様にして製造した比較例1の錠剤に比べて、類縁物質、特に二量体の生成が顕著に抑制された。類縁物質の生成抑制の程度は、黄色三二酸化鉄及び酸化チタンを含むフィルムコーティングを備えるノウリアスト錠と同程度であった。
合成食用色素を用いれば、フィルムコーティングによらずとも、イストラデフィリンの分解を抑制できることが分かる。
【0072】
また図2が示す通り、イストラデフィリンを含む造粒物を添加剤と共に打錠して得た素錠に、色素を含むフィルムコーティングを施して得た実施例3、4の各錠剤は、色素を添加せずに同様にして製造した比較例2の錠剤に比べて、類縁物質、特に二量体の生成が顕著に抑制された。中でも、フィルムコーティングにポリビニルアルコールを配合した実施例4の錠剤は類縁物質が実質的に検出されなかった。また、実施例3、4の各錠剤の類縁物質の生成抑制の程度は、ノウリアスト錠と同程度であった。
他成分との反応性が低く、安価な合成食用色素を用いても、黄色三二酸化鉄や酸化チタンを用いる場合と同様に、イストラデフィリンの分解を抑制できることが分かる。
【0073】
(4)色素の退色抑制の評価
実施例3、4の各錠剤に、解放条件下で、光安定性試験装置(ナガノサイエンス、LTL-200D3CJ-15)を用いて、波長300~830nmの光を、最大累積積算量が60万ルクス・時間(4000ルクス×150時間)となるよう照射した。

光照射前、光照射後の外観を目視で観察し、下記基準で、変色の程度を評価した。
+:変色が認められる
- :わずかに変色が認められる
--:変色が認められない
さらに、得られた試料の変色度(ΔE)を、分光色差計(日本電色工業、SE-7700)を用いて、光を照射する前の実施例3、4の錠剤を基準に測定した。
【0074】
結果を表3に示す。
【表3】
フィルムコーティングにポリビニルアルコールを配合することで、合成食用色素の変色が顕著に抑制された。
【0075】
光照射前後の錠剤の写真を図3に示す。フィルムコーティングにポリビニルアルコールを含まない実施例3の錠剤は光照射により黄色がクリーム色に変色しており、合成食用色素の退色が認められた。一方、フィルムコーティングにポリビニルアルコールを配合した実施例4の錠剤は光照射しても黄色の色は変化せず、合成食用色素の退色は認められなかった。
【0076】
(5)結合剤の種類の検討
本評価では、未粉砕のイストラデフィリン原薬(平均粒径193μm、結晶化度97.1%)を乳鉢ですり潰して使用した。
イストラデフィリンとヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、部分ケン化ポリビニルアルコール(PVA)、デキストリン、ポビドン(PVP)とを3:1の割合で混合し、また、イストラデフィリンと結晶セルロースとを1:5の割合で混合して、それぞれガラス瓶に入れて密栓し、光安定性試験装置(ナガノサイエンス、LT-120A)を用いて、波長300~830nmの光を、最大累積積算量が168万ルクス・時間(2500ルクス×672時間)となるよう照射した。
光照射前後に、イストラデフィリンの類縁物質であるシス異性体と二量体を、高速液体クロマトグラフィーで定量し、光照射前のイストラデフィリン重量に対する、光照射後のシス異性体及び二量体の各重量の増加量の比率(%)を算出した。
【0077】
結果を図4に示す。結合剤と混合しない場合は、シス異性体と二量体が多く生成した。
結晶セルロース以外の結合剤と混合することにより二量体の生成は減少した。中でも、ヒドロキシプロピルセルロースと混合した場合に二量体生成が最も少なくなった。二量体の生成は、結晶セルロースと混合した場合は逆に増えた。
シス異性体の生成は、ポビドンと混合した場合は逆に増え、また、部分ケン化ポリビニルアルコール、デキストリン、又は結晶セルロースと混合した場合は、ほとんど変化がなかったが、ヒドロキシプロピルセルロースと混合した場合は顕著に抑制された。
【0078】
(6)甘味剤の種類の検討
本評価では、未粉砕のイストラデフィリン原薬(平均粒径193μm、結晶化度97.1%)を乳鉢ですり潰して使用した。
イストラデフィリンと、甘味剤のスクラロース、アスパルテーム、又はアセスルファムカリウムとを3:1の割合で混合してガラス瓶に入れて密栓し、光安定性試験装置(ナガノサイエンス、LT-120A)を用いて、波長300~830nmの光を、最大累積積算量が168万ルクス・時間(2500ルクス×672時間)となるよう照射した。
光照射前後に、イストラデフィリンの類縁物質であるシス異性体と二量体を、高速液体クロマトグラフィーで定量し、光照射前のイストラデフィリン重量に対する、光照射後のシス異性体及び二量体の各重量の増加量の比率(%)を算出した。
【0079】
結果を図5に示す。甘味剤と混合しない場合は、シス異性体と二量体が多く生成した。結合剤と混合することにより、二量体の生成は減少し、中でもスクラロースと混合した場合に二量体生成が最も少なくなった。また、シス異性体の生成は、アスパルテームと混合した場合は逆に増え、また、アセスルファムカリウムと混合した場合は、ほとんど変化がなかったが、スクラロースと混合した場合は顕著に抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の医薬組成物は、有効成分のイストラデフィリンの分解が少ないため、薬効の低下が抑制されている。このため、包装材料を広い範囲から選択することができ、また、流通や保管に特別の工夫を要さず、実用価値が高いものである。
図1
図2
図3
図4
図5