(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】バイオマス燃料製造方法
(51)【国際特許分類】
C10G 1/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C10G1/00 B
(21)【出願番号】P 2020565914
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2019024431
(87)【国際公開番号】W WO2020255320
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】518209023
【氏名又は名称】日本グリーン電力開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074181
【氏名又は名称】大塚 明博
(74)【代理人】
【識別番号】100206139
【氏名又は名称】大塚 匡
(72)【発明者】
【氏名】君塚 元
(72)【発明者】
【氏名】池上 知彦
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴恵子
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-233854(JP,A)
【文献】特開2002-194362(JP,A)
【文献】特開2008-260832(JP,A)
【文献】特開2011-236260(JP,A)
【文献】特開2016-204235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
C10J 3/00
C10B 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス資源を加熱処理してバイオマス燃料を得るバイオマス燃料製造方法であって、
前記バイオマス資源の加熱処理は、
バイオマス資源を非密閉状態下で加熱可能に収容する加熱処理槽と、前記加熱処理槽に過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給手段とを備え、前記加熱処理槽には前記加熱処理槽内を加熱する加熱手段が設けられているバイオマス燃料製造装置を用いて、
前記加熱処理槽内へバイオマス資源を投入した後に前記加熱手段により前記加熱処理槽内を加熱し、
前記加熱手段により加熱された非密閉状態の前記加熱処理槽内へ前記過熱蒸気供給手段により過熱蒸気を供給することにより行い、
前記加熱処理槽内への過熱蒸気の供給は、
少なくとも前記加熱処理槽内の温度が前記バイオマス資源の発火温度に達する前から開始し、
少なくとも前記バイオマス資源の加熱処理の完了まで連続的に供給し、
前記バイオマス資源の加熱は、前記バイオマス資源を200℃~350℃の範囲で所定時間加熱する一次加熱と、
前記バイオマス資源を350℃~600℃の範囲で所定時間過熱する二次加熱を行
い、沸点の異なる油脂を段階的に得ることを特徴とするバイオマス燃料製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理槽内への過熱蒸気の供給は、前記加熱処理槽内の温度が100℃を超えてから開始することを特徴とする請求項1に記載のバイオマス燃料製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理槽内に供給される過熱蒸気を、水を加熱して連続的に生成した飽和蒸気をさらに加熱することにより生成し、
過熱蒸気の前記加熱処理槽内への連続的な供給を、飽和蒸気の生成時の膨張圧を利用して行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオマス燃料製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス資源を加熱処理してバイオマス燃料を製造するバイオマス燃料製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇や、二酸化炭素の増加による地球温暖化の懸念から、近年、化石燃料に代わるエネルギー源として、動植物に由来する有機物からなるエネルギー源であるバイオマス燃料を利用することが注目されている。バイオマス燃料は、動植物を資源として生産することができるため、化石燃料と異なり枯渇の心配がない。また、バイオマス燃料の利用により排出される二酸化炭素は、植物がその成長過程で大気中から吸収した二酸化炭素であることから、地球上の二酸化炭素の総量に影響を与えないため(カーボンニュートラル)、地球温暖化の抑止が期待できる。
【0003】
バイオマス燃料は、一般的に、バイオマス資源を加熱処理してバイオマス資源の炭化物を得たり、加熱処理中に発生した熱分解ガスを凝縮してバイオマス資源が有する油脂を取り出したりすることにより製造される。得られた炭化物や油脂は、そのまま状態でも燃料として用いられるが、炭化物を粉砕して固めてペレット状に形成したり、沸点の異なる油脂に分留したりして使用される。また、油脂にあっては、グリセリンやメタノールを除去する等の改質をおこない、ディーゼルエンジンに使用可能なバイオディーゼル燃料として使用することもできる。
【0004】
このようなバイオマス燃料の製造方法では、近年、短時間で効率的に加熱処理を行うために、バイオマス資源を加熱する加熱手段に、熱容量が大きく熱伝導性が高い過熱蒸気を使用するものが注目されている。例えば、バイオマス資源からバイオマス燃料を得るバイオマス燃料の製造方法であって、前記バイオマス資源を加熱して該バイオマス資源中の気化成分を気化させる第1の加熱工程と、該第1の加熱工程よりさらに高温で前記バイオマス資源を加熱して、残余の気化成分をさらに気化させると共に、前記バイオマス資源を炭化する第2の加熱工程と、前記第1・第2の加熱工程において気化した気化成分を蒸留塔に導入し、前記気化成分を段階的に冷却して沸点が異なる複数種の油類を順次分留する分留工程と、前記分留工程における各段階で発生した可燃ガスをガスタンクへ圧縮貯留するガス貯留工程とを有し、前記第1・第2の加熱工程では過熱蒸気によって加熱するといった方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
特許文献1のバイオマス燃料製造方法によれば、バイオマス資源の加熱手段として過熱蒸気を用いているため、バイオマス資源の加熱処理を短時間で効率的に行うことができる。
また、過熱蒸気は酸素濃度が約0.1%~0.3%と極めて低いため、バイオマス資源の加熱処理を酸素欠乏状態下で行うことができ、加熱処理中のバイオマス資源が燃焼することを確実に防ぐことができる。
さらに、供給する過熱蒸気をキャリアガスとして、バイオマス資源から発生した熱分解ガスを効率良く蒸留塔へ導入することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のバイオマス燃料製造方法は、加熱手段である過熱蒸気の温度よりもバイオマス資源を収容する加熱処理槽内の温度が低温である場合、加熱処理槽内に供給後、過熱蒸気の温度が低下し、バイオマス資源の加熱を所望の温度帯で行えなかったり、加熱ムラが生じたりして、確実なバイオマス資源の加熱処理が行えないおそれがあるといった問題が生じる。また、過熱蒸気が凝縮して水となり、バイオマス資源に吸収されると、バイオマス資源を加熱処理するエネルギーの一部が、バイオマスが吸収した水の蒸発に使用されるため、バイオマス資源の加熱処理の効率が悪くなるおそれがあるといった問題が生じる。
【0008】
また、熱分解ガスが蒸留塔に導入されるまでの間にキャリアガスである過熱蒸気の温度が低下して、熱分解ガスが蒸留塔に至る前に凝縮してしまい、バイオマス資源の持つ油脂を無駄なくにバイオマス燃料とすることができないおそれがあるといった問題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、所定の温度帯でムラのないバイオマス資源の加熱を確実且つ効率的に行うことができるとともに、バイオマス資源の持つ油脂を無駄なくバイオマス燃料とすることができるバイオマス燃料製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、バイオマス資源を加熱処理してバイオマス燃料を得るバイオマス燃料製造方法であって、前記バイオマス資源の加熱処理は、バイオマス資源を非密閉状態下で加熱可能に収容する加熱処理槽と、前記加熱処理槽に過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給手段とを備え、前記加熱処理槽には前記加熱処理槽内を加熱する加熱手段が設けられているバイオマス燃料製造装置を用いて、前記加熱処理槽内へバイオマス資源を投入した後に前記加熱手段により前記加熱処理槽内を加熱し、前記加熱手段により加熱された非密閉状態の前記加熱処理槽内へ前記過熱蒸気供給手段により過熱蒸気を供給することにより行い、前記加熱処理槽内への過熱蒸気の供給は、少なくとも前記加熱処理槽内の温度が前記バイオマス資源の発火温度に達する前から開始し、少なくとも前記バイオマス資源の加熱処理の完了まで連続的に供給し、前記バイオマス資源の加熱は、前記バイオマス資源を200℃~350℃の範囲で所定時間加熱する一次加熱と、前記バイオマス資源を350℃~600℃の範囲で所定時間過熱する二次加熱を行い、沸点の異なる油脂を段階的に得ることを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、前記バイオマス資源の加熱処理は、バイオマス資源を非密閉状態下で加熱可能に収容する加熱処理槽と、前記加熱処理槽に過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給手段とを備え、前記加熱処理槽には前記加熱処理槽内を加熱する加熱手段が設けられているバイオマス燃料製造装置を用いて、前記加熱処理槽内へバイオマス資源を投入した後に前記加熱手段により前記加熱処理槽内を加熱し、前記加熱手段により加熱された非密閉状態の前記加熱処理槽内へ前記過熱蒸気供給手段により過熱蒸気を供給することにより行うので、加熱された前記加熱処理槽内に過熱蒸気を供給して前記バイオマス資源を加熱することから、前記加熱処理槽内に供給された過熱蒸気の温度の低下を防ぐことができ、所望の温度で加熱ムラなく確実に、バイオマス資源の加熱処理を行うことができる。
また、前記加熱処理槽内への過熱蒸気の供給は、少なくとも前記加熱処理槽内の温度が前記バイオマス資源の発火温度に達する前から開始し、少なくとも前記バイオマス資源の加熱処理の完了まで連続的に供給するので、バイオマス資源2の加熱処理にあって、過熱蒸気の供給により加熱処理槽3内の空気を加熱処理槽3の外へ押し出して、バイオマス資源2が燃焼することを防ぐことができる。
さらに、前記加熱処理槽が熱分解ガスを凝縮させて液化回収する凝縮機構と連通している場合、前記加熱処理槽内が前記加熱手段により過熱されているので、熱分解ガスが凝縮機構に導入されるまでの間に温度が低下して凝縮することを防ぎ、熱分解ガスを確実に凝縮機構に導入して、バイオマス資源の持つ油脂を無駄なくバイオマス燃料とすることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の、前記加熱処理槽内への過熱蒸気の供給は、前記加熱処理槽内の温度が100℃を超えてから開始することを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、前記加熱処理槽内への過熱蒸気の供給は、前記加熱処理槽内の温度が100℃を超えてから開始するので、供給した過熱蒸気が前記加熱処理槽内で凝縮して水となり、バイオマス資源に吸収されてしまい、バイオマス資源の加熱処理の効率が悪くなるといった事態を防ぐことができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の、前記加熱処理槽に供給される過熱蒸気を、水を加熱して連続的に生成した飽和蒸気をさらに加熱することにより生成し、
過熱蒸気の前記バイオマス加熱処理槽への連続的な供給を、飽和蒸気の生成時の膨張圧を利用して行うことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、前記加熱処理槽に供給される過熱蒸気を、水を加熱して連続的に生成した飽和蒸気をさらに加熱することにより生成し、過熱蒸気の前記バイオマス加熱処理槽への連続的な供給を、飽和蒸気の生成時の膨張圧を利用して行うので、ポンプ等の動力を用いることなく容易に前記バイオマス加熱処理槽に前記過熱蒸気を連続的に供給することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定の温度帯でムラのないバイオマス資源の加熱を確実且つ効率的に行うことができるとともに、バイオマス資源の持つ油脂を無駄なくバイオマス燃料とすることができるバイオマス燃料製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るバイオマス燃料製造方法の実施の形態の一例に用いるバイオマス燃料製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るバイオマス燃料製造方法の実施の形態の一例を図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係るバイオマス燃料製造方法の実施の形態の一例に用いるバイオマス燃料製造装置の模式図である。
【0019】
本発明のバイオマス燃料製造方法は、バイオマス資源を加熱処理してバイオマス燃料を製造するものである。
【0020】
バイオマス燃料の製造に使用されるバイオマス資源は動植物を由来とするものであれば、化石燃料を除き、特に限定されないが、油脂を多く含み、且つ、酸素欠乏状態下で炭化する植物が好適に用いられる。例えば、ビンタロウ、ベンゴワン、ポロン、ヤトロファ、ココヤシ、パームヤシ、ナツメヤシ等が好適に用いられる。使用するバイオマス資源は単独で使用してもよく、また、複数種類のバイオマス資源を混合して使用してもよい。
【0021】
製造するバイオマス燃料は、バイオマス資源を炭化させた炭化物や、加熱されたバイオマス資源から発生した熱分解ガスを凝縮した油脂である。本例では、一度の加熱処理で炭化物と油脂を製造しているが、本発明は炭化物のみ、または、油脂のみを製造する場合に使用することもできる。
【0022】
本例のバイオマス資源製造方法では、
図1に示すようなバイオマス燃料製造装置1を使用して、バイオマス資源2の加熱処理を行う。バイオマス燃料製造装置1は、バイオマス資源2を収容して加熱処理する加熱処理槽3と、加熱処理槽3に過熱蒸気を連続的に供給する過熱蒸気供給手段4と、加熱したバイオマス資源から発生した熱分解ガスを凝縮して油脂を取り出す凝縮機構5とを備えている。
【0023】
加熱処理槽3は、加熱処理槽3内を加熱して加熱処理槽3内の温度を上昇させる加熱手段6を備える。加熱手段6としては、ガスヒーター又は電気ヒーターなど、公知の加熱手段を使用することができる。加熱手段6は加熱処理槽3内全体をできるだけ均一に加熱できるように配置する。例えば、ラジアントチューブバーナーを所定の間隔を空けた適位置に複数配置したり、電気ヒーターの発熱体を加熱処理槽1の内壁面に沿って設けたりする。本例では、加熱手段6として電気ヒーターを使用し、発熱体であるニクロム線を金属パイプで被覆したシーズヒーターを加熱処理槽3の胴部の壁面の内周に沿って周回するように設け、加熱処理槽3内全体の温度を均一に加熱できるようにしている。
【0024】
加熱処理槽3の内部の底部は、すり鉢状に形成し、加熱処理するバイオマス資源2を収容するバイオマス収容部7としている。バイオマス収容部7には、加熱処理中のバイオマス資源2を攪拌する攪拌機構としてスクリュー8を設けており、加熱処理中のバイオマス資源2に加熱ムラが生じたり、また、バイオマス収容部7の面にこびりついたりすることを防いでいる。バイオマス収容部7の最下部には、バイオマス資源2を加熱処理して得られた炭化物を加熱処理槽3外へ排出するための排出口9を形成している。排出口9は、炭化物の回収時を除き、密閉蓋10により密閉される。
【0025】
また、加熱処理槽3には、加熱処理槽3内へバイオマス資源2を投入するための投入口11を形成している。本例の投入口11には、投入口11を密閉可能な蓋12を設けており、加熱処理槽3内へのバイオマス資源2の投入が完了したら、投入口11を蓋12で密閉する。
【0026】
さらに、加熱処理槽3には、胴部壁面に開口する第1の通気口13と、頂部に開口する第2の通気口14を形成している。
第1の通気口13には、過熱蒸気供給手段4と接続している過熱蒸気供給ライン15を接続しており、過熱蒸気供給手段4で生成した過熱蒸気を加熱処理槽3内へ供給可能としている。本例では、第1の通気口13を収容部7の近傍に形成し、バイオマス収容部7方向に向かって傾斜した形状としているので、バイオマス資源2に過熱蒸気を直接噴霧可能としている。
第2の通気口14には、凝縮機構3と接続しているガス送り出しライン16を接続しており、バイオマス資源2から発生した熱分解ガスと過熱蒸気とからなるガスを凝縮機構5に導入可能となっている。
【0027】
また、加熱処理槽3は加熱処理槽3内の温度を検知するセンサー(図示せず)を設けている。これにより過熱蒸気の供給と停止を、加熱処理槽3内の温度を確認して判断することができる。また、加熱処理槽3内の温度に合わせた温度の過熱蒸気を供給することができる。センサーは高温を検知可能な公知のセンサーを用いる事ができ、例えば、サーミスタを使用する。
【0028】
このような加熱処理槽3に、過熱蒸気供給ライン15を介して過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給機構4は、水から飽和蒸気を連続的に生成する飽和蒸気生成部17と、生成された飽和蒸気をさらに加熱して過熱蒸気を生成する過熱蒸気生成部18とからなる。
【0029】
本例の飽和蒸気生成部17は電気ボイラーからなり、水を加熱して連続的に飽和蒸気を生成するように構成している。飽和蒸気の生成にあっては、ボイラー内の圧力を0.15MPa-0.3MPaとし、100℃以上の飽和蒸気を生成する構成としてもよい。
【0030】
過熱蒸気生成部18は、飽和蒸気生成部17で生成された蒸気を加熱して過熱蒸気を生成する。過熱蒸気生成部18の構成は、800℃以上の過熱蒸気を生成することができるものであることが望ましい。本例の過熱蒸気生成部18には、パイプヒーターを用い、一端側の開口が飽和蒸気生成部17と接続し、飽和蒸気生成部17で生成された飽和蒸気を内部に導入して加熱し、他端側に至るまでに過熱蒸気が生成されるように構成している。また、パイプヒーターの他端側の開口は、加熱処理槽3の第1の通気口13と接続するように取り付けており、パイプヒーターは過熱蒸気生成部18とともに過熱蒸気供給ライン15を兼ねる。これにより、パイプヒーター内で生成した過熱蒸気を、温度を下げることなく加熱処理槽3内に供給することができる。使用するパイプヒーターは、表面温度が800℃を超えても耐えうるものであることが望ましく、例えばステンレスのSUS304やニッケル合金のインコネル(登録商標)から形成する。
【0031】
ガス送り出しライン16を介して、導入される熱分解ガスと過熱蒸気とからなるガスを凝縮する凝縮機構5は、ガスが導入される円筒形状の蒸留塔19と、蒸留塔19内の所定位置に取り付けた、通過するガスを冷却して液化する冷却フィルター20と、冷却フィルター20で液化された液状物を回収し油分と水分とに分離するセパレーター21とを備えている。蒸留塔19には、底部側にガス送り出しライン16に接続する導入口22を形成し、頂部側に排気口23を形成している。なお、冷却フィルター20はガスの冷却温度を変更可能となっている。冷却フィルター20とセパレーター21は蒸留塔19内で上下に間隔を空けて複数設け、下方の冷却フィルター20の温度を高く設定し、上方の冷却フィルター20の温度を低く設定して、沸点の異なる油脂を分留し回収することもできる。
【0032】
なお、本例のバイオマス燃料製造装置1は、バイオマス資源2の加熱処理の完了後、排出口9を開いて加熱処理槽3から炭化物を取り出してから、投入口11よりバイオマス資源2を投入して改めて加熱処理を行う、バッチ式のバイオマス燃料製造装置1となっているが、本発明のバイオマス燃料製造方法の使用は、ローラーや送り出しスクリューなどのバイオマス資源の搬出機構を備え、バイオマス資源の加熱処理槽内への送り出しと搬出を連続的に行うことができる連続式のバイオマス燃料製造装置であっても、加熱処理槽内を加熱する加熱手段と、加熱処理槽内へ過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給手段を備えていれば、本発明を使用することができる。
【0033】
このように構成されたバイオマス燃料製造装置1を用いる、本例のバイオマス燃料製造方法のバイオマス資源2の加熱処理を以下説明する。なお、バイオマス資源の加熱処理を効率的に行うために、バイオマス資源を天日に干したり、熱風に当てたり、或いは加熱するなどして乾燥させる前処理を行ってもよい。また、バイオマス資源の性質により、バイオマス燃料の使用時のクリンカの発生を抑えるため、水に浸けてカリウムを除去するといった、前処理を行うこともできる。
【0034】
まず、投入口11からバイオマス資源2を加熱処理槽3内へ投入して、バイオマス資源収容部7に収容し、加熱手段により加熱処理槽3内を加熱する。このとき、加熱処理槽3は、ガス送り出しライン16を介して連通する凝縮機構5の排気口23が開放された状態にあり、非密閉状態となっている。加熱処理槽3は加熱処理の完了まで非密閉状態に保つ。
なお、バイオマス資源2の加熱処理槽3内へ投入するタイミングは本例のように加熱手段6による加熱前の投入に限られず、加熱手段6による加熱処理槽3内の加熱開始後でもよく、また、後述する過熱蒸気供給手段4による過熱蒸気の供給の開始後であってもよい。
【0035】
次に、加熱処理槽3内の温度がバイオマス資源2の発火温度に至る前に、加熱処理槽3内へ過熱蒸気を供給する。供給する過熱蒸気はバイオマス資源2に直接噴霧することが望ましい。過熱蒸気をバイオマス資源2に直接噴霧すれば、大きな熱容量を有する過熱蒸気の高い熱伝導性により、バイオマス資源2を効率良く加熱することができる。また、供給された過熱蒸気は、加熱処理槽3内が加熱されているため、温度が低下せず、バイオマス資源2を所望の温度でムラなく加熱することができる。
また、加熱処理槽3内への過熱蒸気の供給を、加熱処理槽3内の温度がバイオマス資源2の発火温度に至る前に行っているので、バイオマス資源2を酸素欠乏状態下で、燃焼させることなく加熱することができる。なお、本願の酸素欠乏状態とは、酸素濃度が1%以下の状態をいう。
【0036】
ここで、本願のバイオマス資源の発火温度とは、酸素雰囲気下において、加熱されたバイオマス資源が火源のない状態で発火するおそれのある温度のことをいう。発火温度はバイオマス資源の種類や性質により定まり、例えば木材は酸素雰囲気下において250℃で加熱すると発火するおそれがある。
また、バイオマス資源の多くは温度が180℃に達すると、熱分解して熱分解ガスを発生する。この熱分解ガスが加熱処理槽3内で加熱されると、発火して、バイオマス資源2が燃焼するおそれが生じるため、過熱蒸気の供給を、熱分解ガスが発生する前の、加熱処理槽3内の温度が180℃に至る前に行うことが好ましい。また、過熱蒸気の供給を加熱処理槽3内の温度が180度に至る前に行えば、過熱蒸気をキャリアガスとして熱分解ガスを凝縮機構5に容易に導入することができる。
【0037】
また、過熱蒸気の供給は、加熱処理槽3内の温度が100℃超えてから開始することが好ましい。このようにすれば、供給した過熱蒸気が加熱処理槽3内で凝縮して水となり、バイオマス資源2に吸収されてしまい、バイオマス資源2の加熱処理の効率が悪くなるといった事態を防ぐことができる。
【0038】
過熱蒸気の加熱処理槽3への供給は連続的に行う。具体的には、上記した過熱蒸気供給手段2を用いて、飽和蒸気生成部17により水を加熱して連続的に飽和蒸気を生成し、飽和蒸気生成部17により生成された飽和蒸気をさらに過熱蒸気生成部18により加熱することにより過熱蒸気を生成し、加熱処理槽3内へ供給する。
また、本例では、過熱蒸気の加熱処理槽3内への供給は、飽和蒸気生成時の膨張圧を利用して行っている。このようにすることにより、ポンプ等の動力を用いることなく過熱蒸気を連続的に加熱処理槽3へ供給することができる。
【0039】
加熱手段6及び過熱蒸気の供給によるバイオマス資源の加熱処理の、加熱温度・加熱時間は特に限定されず、バイオマス資源の種類・性質や、製造するバイオマス燃料により適宜選択して行う。
例えば、エネルギー密度の高い炭化物を得る場合には、炭化物にバイオマス資源2の有する油脂ができるだけ残留するように、比較的低温の200℃~300℃で所定時間バイオマス資源を加熱する。また、バイオマス資源の有する油脂をできる限り取り出す場合には、比較的高温の500℃~700℃で所定時間バイオマス資源を加熱する。本例では、加熱手段6により加熱した加熱処理槽へ過熱蒸気を供給することによりバイオマス資源2を加熱しているので、過熱蒸気の温度が低下することなく、確実且つ加熱ムラなく所定の温度帯でバイオマス資源の加熱を行える。
本例では、バイオマス資源2の加熱は、温度帯を変えて段階的に行っている。まず、200℃~350℃の範囲で所定時間バイオマス資源2を加熱する一次加熱を行う。これにより、比較的沸点の低い油脂を含む熱分解ガスを発生させる。一次加熱の完了後、350℃~600℃の範囲で所定時間バイオマス資源2を加熱する二次加熱を行う。これにより、比較的沸点の高い油脂を含む熱分解ガスを発生させるとともに、バイオマス資源を炭化させる。
【0040】
加熱処理されたバイオマス資源2から発生した熱分解ガスは、加熱処理槽3内に供給される過熱蒸気をキャリアガスとして、ガス送り出しライン16を介して凝縮機構5に送られる。本例では、加熱処理槽3内への過熱蒸気の供給を飽和蒸気の生成時の膨張圧を利用して行うので、ポンプ等の動力を用いることなく、熱分解ガスを凝縮機構へ導入することができる。このとき、加熱処理槽3内は加熱手段により加熱されているので、過熱蒸気や熱分解ガスが凝縮機構5に送られる前に温度が低下して、凝縮してしまうといった事態を防ぐことができる。
【0041】
凝縮機構5に送られた熱分解ガスは、蒸留塔19に導入され、蒸留塔19内部に取り付けられた冷却フィルター20を通過するときに冷却されて、凝縮点が冷却フィルター20の設定温度以下の成分が液化し、油分と水分とからなる液状物になる。液状物はセパレーターに21に回収されて、水分と油分とに分離される。この油分を回収して、バイオマス資源が含有していた油脂を得る。
本例では、一次加熱と二次加熱の段階的な加熱を行っているので、沸点の異なる油脂を段階的に得ることができる。
【0042】
バイオマス資源2の加熱処理は、所定の温度で、所定時間バイオマス資源2を加熱し、バイオマス資源2を炭化させた炭化物を製造し、バイオマス資源2から発生した熱分解ガスを凝縮した油脂を得たら完了する。加熱処理の完了後、加熱処理槽3内を炭化物が回収可能な温度となるまで低下させる。このとき、過熱蒸気の供給は、バイオマス資源2から得た炭化物が燃焼しないように、加熱処理槽3内がバイオマス資源2の発火温度未満になるまで行うことが望ましい。また、炭化物が燃焼することをより確実に防ぐために、バイオマス資源から得た炭化物から熱分解ガスが生じない、180℃未満になるまで加熱処理槽3内への過熱蒸気の供給を行うことがより好ましい。また、過熱蒸気が凝縮することを防ぐため、加熱処理槽3内の温度が100℃を超えている段階で、過熱蒸気の供給を停止することが好ましい。
なお、連続式のバイオマス燃料製造装置を使用した場合は、加熱処理槽へのバイオマス資源の連続的な送り出しが停止し、加熱処理槽からバイオマス資源2が搬出された時点で、バイオマス資源2の加熱処理が完了する。
【0043】
本例のバイオマス燃料製造方法によれば、バイオマス資源2の加熱処理は、バイオマス資源2を非密閉状態下で加熱可能に収容する加熱処理槽3と、加熱処理槽3に過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給手段4とを備え、加熱処理槽3には加熱処理槽内3を加熱する加熱手段6が設けられているバイオマス燃料製造装置1を用いて、加熱処理槽3内へバイオマス資源2を投入した後に加熱手段6により加熱処理槽3内を加熱し、加熱手段6により加熱された非密閉状態の加熱処理槽3内へ過熱蒸気供給手段4を用いて過熱蒸気を供給することにより行うので、加熱処理槽3内に供給された過熱蒸気の温度が低下せず、所望の温度で加熱ムラなく確実にバイオマス資源の加熱処理を行うことができる。
また、加熱処理槽3内への過熱蒸気の供給は、少なくとも加熱処理槽3内の温度がバイオマス資源2の発火温度に達する前から開始し、少なくともバイオマス資源2の加熱処理の完了まで連続的に供給するので、過熱蒸気の供給により加熱処理槽3内の空気を加熱処理槽3の外へ押し出して、バイオマス資源2の加熱処理にあって、バイオマス資源2が燃焼することを防ぐことができる。
さらに、加熱処理槽3内が加熱手段6により過熱されているので、熱分解ガスが凝縮機構5に導入されるまでの間に温度が低下して凝縮することを防ぎ、熱分解ガスを確実に凝縮機構5に導入して、バイオマス資源の持つ油脂を充分にバイオマス燃料とすることができる。
【0044】
また、加熱処理槽3内への過熱蒸気の供給は、加熱処理槽3内の温度が100℃を超えてから開始するので、供給した過熱蒸気が前記加熱処理槽内で凝縮して水となり、バイオマス資源に吸収されてしまい、バイオマス資源の加熱処理の効率が悪くなるといった事態を防ぐことができる。
【0045】
また、加熱処理槽3内に供給される過熱蒸気を、水を加熱して連続的に生成した飽和蒸気をさらに加熱することにより生成し、過熱蒸気の加熱処理槽3内への連続的な供給を、飽和蒸気の生成時の膨張圧を利用して行うので、ポンプ等の動力を用いることなく容易に加熱処理槽3に過熱蒸気を連続的に供給することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 バイオマス燃料製造装置
2 バイオマス資源
3 加熱処理槽
4 過熱蒸気供給手段
5 凝縮機構
6 加熱手段
7 バイオマス収容部
8 スクリュー
9 排出口
10 密閉蓋
11 投入口
12 蓋
13 第1の通気口
14 第2の通気口
15 過熱蒸気供給ライン
16 ガス送り出しライン
17 飽和蒸気生成部
18 過熱蒸気生成部
19 蒸留塔
20 冷却フィルター
21 セパレーター
22 導入口
23 排気口