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特許7557883下層形成されたナノ結晶ダイヤモンド上にガラス貫通ビアを作製する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】下層形成されたナノ結晶ダイヤモンド上にガラス貫通ビアを作製する方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 15/00 20060101AFI20240920BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20240920BHJP
   B23K 26/382 20140101ALI20240920BHJP
【FI】
C03C15/00 D
C03C23/00 D
B23K26/382
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021564132
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2020016402
(87)【国際公開番号】W WO2020222297
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】62/839,768
(32)【優先日】2019-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512155478
【氏名又は名称】学校法人沖縄科学技術大学院大学学園
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】ヤンセンス ストフル ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】バスケス-コルテス ダビッド
(72)【発明者】
【氏名】ジュサーニ アレサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】フリード エリオット マーティン
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-024571(JP,A)
【文献】特開2017-061401(JP,A)
【文献】国際公開第2016/051781(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00,
B23K 26/36-26/57,
H01L 23/02-23/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層形成されたナノ結晶ダイヤモンド上へガラス貫通ビアを作製する方法であって、
エッチング面と成長面とを有するようにガラス基板を形成する工程と、
前記エッチング面側の前記ガラス基板を局所的にエッチングする工程と、
所定の基板厚さとなるまで前記エッチングを行う工程と、
所定の直径および所定の深さを有する複数の止まり穴を、前記ガラス基板における前記エッチングがされた表面にレーザーアブレーションする工程と、
前記成長面に、所定の膜厚を有するナノ結晶ダイヤモンド膜を成長させる工程と、
追加エッチングを行い、これにより、前記ガラス基板上に複数のシールされたガラス貫通ビアを形成する工程と、
を含む、ガラス貫通ビア作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
第1の所定量のフッ化水素を含む溶液を用いて、前記局所的にエッチングを行う、
方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
第2の所定量のフッ化水素を含む溶液を用いて、前記追加エッチングを行う、
方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
前記第1の所定量のフッ化水素は、前記第2の所定量のフッ化水素よりも多い、
方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記第2の所定量のフッ化水素により、所定の許容範囲内の表面粗さとなる、
方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法であって、
前記ガラス貫通ビアの近傍内において、前記ガラス基板を特定の所定厚さとする、
方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
前記ガラス基板の1つ以上の非エッチング部を保持する工程
を含み、
前記保持された非エッチング部は、前記エッチングがされた部分の支持枠として働く、
方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、
所定の温度および所定の湿度で、全てのエッチングを行う、
方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、
所定時間内に、前記局所的なエッチングを行う、
方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、
所定時間内に、前記追加エッチングを行う、
方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、
前記ナノ結晶ダイヤモンドを成長させる工程の間、前記エッチング面が、冷却した基板ホルダへ直接接触することを意図的かつ明白に防止する、
方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、
前記ガラス基板には溶融シリカを利用し、
前記追加エッチング工程の間に、前記ナノ結晶ダイヤモンド膜は完全に剥離され、
前記複数のシールされたガラス貫通ビアを形成する工程の後、前記ナノ結晶ダイヤモンド膜が下層形成される、
方法。
【請求項13】
請求項3に記載の方法であって、
前記第2の所定量のフッ化水素を含む溶液の濃度ではエッチング速度が遅くなり、それによって前記エッチングの深さをより微細に制御する、
方法。
【請求項14】
請求項3に記載の方法であって、
前記レーザーアブレーション工程は、
前記止まり穴を所定の出力でレーザーアブレーションすることにより、クラックの形成を削減または防止する、
方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、
前記複数の止まり穴をレーザーアブレーションする工程を、レーザー光により前記ガラス基板を改質することで複数の止まり穴を形成する工程に置き換える、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下層形成されたナノ結晶ダイヤモンド上にガラス貫通ビアを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ結晶ダイヤモンド(NCD)は、その生体適合性、頑丈性および機械的・電気的・電気化学的・光学的特性から、多様な用途に対応する魅力的な素材である。ダイヤモンドは高価であるという一般的な誤解に反して、ダイヤモンド膜はマイクロ波プラズマCVDにより低コストで成長させることができる。NCDの場合は、直径10nm以下のダイヤモンドシードを蒸着した後、通常は水素分子に希釈したメタンガスからなる安価な前駆体混合物を用いて、大面積の基板上で成長させることができる。
【0003】
高濃度にドープすると金属特性を示すp型ダイヤモンドを作製するため、成長中に、ホウ素を含む前駆体を加えることもできる。ホウ素をドープしたNCDは、比較的広い電位窓を有することができ、ダイヤモンドの化学的不活性や生体適合性と相まって、魅力的な電極用材料となる。成長中に、窒素やケイ素といったドーパントをダイヤモンドに導入し、量子技術のための色中心を形成することもできる。成長後、NCD膜は2次元または3次元の下層形成構造に加工することができるうえ、バイオセンサや太陽電池用にNCD膜の表面をさまざまな(生体)分子で機能化することもできる。
【0004】
これらの優れた特性により、高Q値のマイクロメカニカル共振器、過酷環境下の圧力センサ、調整可能な光学レンズ、例えばインフルエンザなどを検出できるバイオセンサ、光学的に透明な電極、CO還元電極、超電導量子干渉計、および導電性原子間力顕微鏡チップといったデバイスを、NCDをベースとすることができる。
【0005】
マイクロデバイスに3次元構造を作製するためには、流体の導管や薄膜の電気接続として働く貫通孔を有するガラス層を介在させることが非常に有用である。近年では、これらの介在層は複数の企業により薄いガラス基板状のガラス貫通ビア(TGV)として入手可能となっている。安価で、透明であり、電気絶縁性、化学的不活性、生体適合性、高い機械的剛性、再利用可能性をもつため、介在層の作製には、ガラスを選択するのは自然である。例えば、TGVを利用することで、低ロスで高線型性の無線周波数インターポーザを実現できることが最近明らかとなった。さらに、ガラスの特性は大きく調整可能である。例えば、ガラスは、熱膨張率をシリコンなどの半導体材料と同等にすることができるため、残留応力を最小限にしたマイクロデバイスの作製に用いることができる。
【0006】
TGVの作製には、ウェットエッチングやレーザーアブレーションをベースとしたものや、レーザー光によるガラスの改質など、数多くの実行可能なプロセスがあるが、AGCは収束放電に基づいたプロセスに依存している。レーザーアブレーションはポリマーを積層した薄いガラス基板にTGVを作製するのに用いることができる。このポリマーは薄いガラス板の支持体としての機能を果たす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、TGVを得るための従来の手法は、フォトリソグラフィや転写に頼る傾向がある。可能ならば、フォトリソグラフィや転写は避けることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態では、単一細胞培養および単一細胞分析、オンデマンドドラッグデリバリーシステム、血管系のモデリング、微小電極、量子技術、ならびに高温MEMSのための低コストで頑丈なナノ結晶ダイヤモンド―ガラスプラットフォームを提供する。本実施形態は、超薄型ナノ結晶ダイヤモンド(NCD)の下層形成部で片面がシールされたガラス貫通ビア(TGV)を有するガラス基板を作製するシステムおよび方法を含む。この作製方法は、フォトリソグラフィや転写を用いず、また、他人が容易に複製できるように十分に詳しく説明されている。この方法では、初めに、フッ化水素(HF)を用いて10×10×0.2mmのLotus NXTガラス基板を約50μmの厚さまでエッチングする。次に、エッチングされた面と同じ面に、レーザーアブレーションにより直径約40μmおよび深さ約40μmの止まり穴を形成する。エッチングされた面と反対側の表面に、厚さ約175nmのNCD膜を成長させた後、基板のエッチングされた面をHFで約25μmまでエッチングし、NCDでシールされたTGVを作製する。得られたプラットフォームは高い透明性を有し、最低でも300kPaの加圧に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本開示は、少なくとも一つの白黒写真形式の図が含まれる。これは、このような形式が、請求項記載の本発明を図解するための唯一の実用的媒体であったためである。
【0010】
図1A図1Aは、各作製工程の前後におけるガラス基板断面の模式図である。
図1B図1Bは、ガラス基板のエッチングに用いられる独自の化学反応器を示した模式図である。
図1C図1Cは、方眼紙上に載せたガラス基板108の一例である。
図1D図1Dは、25°傾斜した状態で撮影した止まり穴のSEM画像である。
図1E図1Eは、成長面の視点から見た、NCD成長後の基板を示している。
図1F図1Fは、下層形成された厚さ175±5nmのNCDでシールされた9個のTGVの顕微鏡写真である。
図1G図1Gは、基板の成長面から撮影された顕微鏡写真であり、円形状はNCD膜の下層形成部を示している。
図2A図2Aは、lmfit Pythonライブラリを用いてフィッティングされたデータである。
図2B図2Bは、lmfit Pythonライブラリを用いてフィッティングされたデータである。
図2C図2Cは、基板をエッチングした後の一般的な表面形状である。
図2D図2Dは、作製の各工程におけるガラス基板の表面形状である。
図2E図2Eは、作製の各工程におけるガラス基板の表面形状である。
図2F図2Fは、作製の各工程におけるガラス基板の表面形状である。
図2G図2Gは、所定濃度のHFで所定深さまでエッチングしたガラス基板の表面形状である。
図2H図2Hは、所定濃度のHFで所定深さまでエッチングしたガラス基板の表面形状である。
図2I図2Iは、所定濃度のHFで所定深さまでエッチングしたガラス基板の表面形状である。
図3図3は、lightfabシステムの一例である。
図4A図4Aは、結晶膜が得られたことを確認するX線結晶構造解析の結果である。
図4B図4Bは、ピンホールのないナノ結晶構造を示すNCD膜のSEM画像である。
図5A図5Aは、図1FのNCD-ガラスプラットフォームを基板の成長面から撮影した暗視野光学顕微鏡画像である。
図5B図5Bは、25°傾斜した状態で基板のエッチング面から撮影した中央のTGVのSEM画像であり、TGVの壁面に形成した典型的なカスプ状構造を含む。
図5C図5Cは、中央のTGVをシールするNCD膜の一部分の表面形状を示す。
図6図6は、10×10×0.2mmガラス基板に正面レーザーアブレーション技術で形成された直径42μmの止まり穴25個の、基板のエッチング面の深さを示す。
図7A図7Aは、3×3×0.3mm単結晶ダイヤモンドおよび図4Bで示したNCD膜のラマンスペクトルをスケーリングしたものである。
図7B図7Bは、3×3×0.3mm単結晶ダイヤモンドおよび図4Bで示したNCD膜のラマンスペクトルをスケーリングしたものである。
図7C図7Cは、図7Aおよび図7Bに示したピークの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態では、ガラスおよびNCDのすぐれた特性に頼り、低コストのシステムおよび方法を用い、フォトリソグラフィや転写を用いることなく、デバイスを開発することを目標とする。このシステムおよび方法は、片面を超薄NCD膜の下層形成部でシールされたTGVアレイを作製することを含む。その結果として得られたプラットフォームは、NCD膜を多孔質にした場合、単一細胞培養や単一細胞解析に有用である場合がある。なお、多孔質化は、アニーリングにより実現可能である。したがって、当該プラットフォームは、栄養送達または薬剤送達に用いることができる。
【0012】
頑丈な膜の作製に関する研究から、本明細書で述べるシステムおよび方法は、血管系のモデリングの分野において将来性があることも明らかである。本明細書で述べるシステムおよび方法は、ホウ素ドープしたNCD膜で作製した場合、マイクロ流体チャネルのための電極の構築に使用可能である。
【0013】
もしくは、本明細書で述べるシステムおよび方法は、適切に配置された格子欠陥をもつNCDを有する場合、量子技術にも使用可能である。また、NCDは、炭化ケイ素や窒化ケイ素といった、フッ化水素酸(HF)に耐性のある他の材料に置き換えることも可能であり、その温度特性は、使用されるガラスの温度特性に伴って、およそ400℃までの空気中で作動するMEMSの作製を可能とする。
【0014】
図1Aは、一連の作製工程1~4それぞれの前後におけるガラス基板108の断面を含む、方法100の模式図である。ガラス基板108のエッチングに用いられる独自の化学反応器104の模式図は図1Bに示されている。作製工程の各工程における試料の画像は、図1C図1Gに示されている。
【0015】
具体的には、図1Aは、ナノ結晶ダイヤモンド(NCD)膜部でシールされたガラス貫通ビア(TGV)126の作製工程における各工程前後の基板108の断面の変化を示している。
【0016】
第1工程では、厚さ約200μmのガラス基板108を、エッチング面112から、例えば厚さ約50μmまで、フッ化水素酸(HF)を用いて局所的にエッチングする(薄くする)。ガラス基板108の非エッチング部196は、エッチングされる部分の支持枠となる。第2工程では、レーザーアブレーションにより、直径約42μmおよび深さ約40μmの止まり穴120を形成する。第3工程では、所定厚さ、実施形態では例えば180nm未満のNCD膜124を、ガラス基板108の成長面116で成長させる。第4工程では、局所的にHFエッチングを行いNCDでシールされたTGV126を形成する。TGV126の近傍内では、ガラス基板108はおよそ25μmの厚さであり、NCD層(膜)124はガラス基板108の成長面116の下層に形成されている。
【0017】
重要な用語の問題について述べる。本開示では、ガラス基板108の一部を除去するために、エッチングおよびアブレーションを用いる。エッチングとは化学エッチングのことを指し、アブレーションとはレーザーアブレーションのことを指すと理解される。
【0018】
第1工程および第4工程は、それぞれ最大25分および最大35分で、もしくはそれ以下の時間で行うことができる。さまざまなエッチング工程(例えば、少なくとも第2工程および第4工程)中は、ガラス基板108の表面にフッ化物層が形成する。エッチング後、当該層は脱イオン水で濯ぐことで除去することができる。
【0019】
図1Bは、本明細書で述べるガラス基板108のエッチングに用いる独自の化学反応器104の断面を示す。具体的には、図1Bはフッ化水素酸(HF)を用いたガラス基板108のエッチングに用いられる反応器104の断面を示す。反応器104は、HFにガラス基板108の片側の表面を部分的に暴露するように設計されている。4個のナット132およびボルト136を締結することにより、反応器104の内部Oリング148は、反応器の上部140を反応器の下部144と接触している基板表面に押し付ける。
【0020】
上部140には貫通孔があり、最大0.8mLのHFを入れることが可能な容器として機能する。内部Oリング148はこの貫通孔の周囲に位置し、内径は5.8mmであり、HFをHF容器128内に保持する。一方、外部Oリング152は、4本のボルト136により、上部140と下部144の間に挟持されており、内径は17.8mmである。この外部Oリング152は、HFの漏出に対する安全バリアとして機能する。また、外部Oリングにより反応器を完全にHFに浸すことができる。これにより、上下を反転させてエッチングを行うことが可能となる。
【0021】
一実施形態では、Oリング148および152はパーフルオロゴムで作製され、反応器の他すべての部品はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で作製されている。パーフルオロゴムおよびPTFEは、両者ともHFに対し強い耐性をもつ。
【0022】
図1Cは、ガラス基板108の一例であり、方眼紙に載置されている。このガラス基板108は、第1工程が完了し、第2工程を行う前の状態である。
【0023】
図1Dは、本明細書で述べるレーザーアブレーション技術で形成された止まり穴120のSEM画像である。図1Dの画像は、25°傾斜させて撮影した。図1Eはガラス基板108の一例を示しており、ダイヤモンドの成長直後にカメラを成長面116に向けて撮影したものである。図1Eは、薄膜の光干渉により、NCD膜の見かけ上の色が異なることで、膜厚の変化が観察可能であるという例である。
【0024】
図1Fは、エッチング面112上の対物レンズで、反射光学顕微鏡を用いて撮影した、NCDでシールされたTGV126のアレイを示している。図1GはTGV126の一例を示す図であり、図1Fと同じ反射光学顕微鏡で撮影されているが、対物レンズは成長面116上にある。円形構造は図1Fにおける中央のTGV126を示しており、空気とガラスとの屈折率の差により視認可能である。
【0025】
ガラス基板およびエッチング
一実施形態では、アルカリ土類ボロアルミノシリケートを含む200μmのプレートをダイシングし、10×10×0.2mmの複数の基板を作製する。一実施形態では、プレートは、例えばCorning Lotus NXTガラスであり得る。プレートのダイシングの後、超音波処理器を用いて、基板をアセトンで20分間洗浄する。次に、基板に残存したアセトンを脱イオン水で濯ぎ落とす。
各ガラス成分の特性の例を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
本実施形態で用いるガラス基板108の重要な特性の一つとして、少なくとも図1Aに示す通り、全てのガラス基板108は成長面116とエッチング面112とを有すると考えるべきである。
【0028】
本明細書における二酸化ケイ素ベースのガラスの等方性エッチングは、基本的にHFを用いて行われる。HFを用いて二酸化ケイ素ガラスをエッチングする全体の化学反応は、以下の通りである。
【化1】
【0029】
式(1)は、本明細書で述べるエッチング工程で起こっていることを簡略化したものを表しているという点に注意が必要である。HFによる二酸化ケイ素ベースのガラスのエッチング速度は、基本的には、温度、フッ化水素の濃度、二酸化ケイ素以外の種の濃度に伴って増加する。特定性状の二酸化ケイ素ベースのガラスを合成するためには、明確に定められた量のAl、As、B、CaO、KO、MnO、NaO、およびPといった酸化物をSiOに混合する。これらの酸化物はHFと反応しフッ化物を形成するが、これはHFには不溶であり、エッチング表面の一部において堆積物となるため、粗面化の原因となる。
【0030】
本実施形態において、ガラス基板108のある程度の粗さは許容されるが、表面の粗さがガラス基板108の透明性に影響を及ぼすことがあるため、粗さは最小限に抑えることが望ましい。具体的には、ガラス基板108のエッチングに用いられるHFの濃度が高いほど、ガラスのエッチングは速くなり、表面の粗さも抑えられる。一方で、低濃度でエッチングを行うことにより、エッチング深さをより正確にすることができる。
【0031】
したがって、一実施形態において、これに対処する一つの方法は、第1工程(ガラス薄化工程)で、48m%のHFを用いておよそ150μmまでエッチングすることである。次に、第4工程において、11m%のHFを用いて正確にエッチングを行うことで、ガラス基板108は約25μmとなる。
【0032】
次に、HFに塩酸を加えることで、上述のフッ化物を効果的に溶解させることができる。さらに、エッチングされるガラス基板108の表面を垂直に配向させることにより、フッ化物の堆積が防止される。主な理由としては、重力によりフッ化物がエッチング表面から引き離され、これにより不要なマスキングを防止することができることが挙げられる。これを達成する可能性がある方法の一つとして、反応器をHFに完全に浸漬し、反応器104を上下反転させることが挙げられる。
【0033】
本実施形態では、ガラスのエッチングは、温度23℃および湿度60%のクラス1000のクリーンルームで行うことができる。第1工程では、0.6mLの48m%HFが用いられた。48m%HFの場合のエッチング速度は、第4工程における制御されたエッチングを行うには速すぎることが判明したため、第4工程では11m%HFを用いることがある。しかしながら、本実施形態はこれらの特定の濃度に限定されず、これらの濃度は単なる例示に過ぎない。
【0034】
レーザーアブレーション
一実施形態では、溶融シリカの選択的レーザー誘起エッチング用のlightfabシステム300を用いて止まり穴120が形成される。図3に示す通り、lightfabシステム300は4ワットレーザーから構成される。レーザー光は、波長が1030nmであり、顕微鏡の対物レンズを用いて直径約1μmの点に集光される。一実施形態では、対物レンズの開口数は0.4であり、倍率は20倍であり、作動距離は10mmである。しかしながら、他のパラメータを用いてもよい。lightfabシステム304のガルバノスキャナヘッド304は、ステッピングモータ308を用いて、焦点面Fを三次元的に動かすことができる。システム300のステージもまた3次元的に可動である。
【0035】
本明細書で述べられる正面レーザーアブレーション技術により、基板108が最大約50μmでエッチングされている適切な止まり穴120が形成される。F(焦点面)の深さfは、基板108のエッチング面に位置する表面に対して測定され、基本的にはガルバノ304よりもステッピングモータ308で変更される。これにより、ソフトウェアの問題を克服することができる。
【0036】
アブレーション中のクラックの形成は、レーザーパルス周波数を例えば500kHzに、パルス幅を例えば270fsに、描画速度を例えば150mm/sにすることで、部分的に最小化される。これらのパラメータを用いた場合、ガラス基板108の表面のアブレーション閾値は、レーザー出力P=0.33で発生することが分かった。ここで、Pは最大レーザー出力でスケーリングされたレーザー出力である。混同を避けるため、本開示においては、異なるP(イタリック体ではない)は、(レーザー出力ではなく)圧力を意味することに注意すべきである。読者はP(圧力)とP(レーザー出力)を混同しないよう注意が必要である。
【0037】
一実施形態では、レーザーアブレーションで描かれるパターンの一例は、20個の同心円からなり、それぞれがすぐ隣と1μm離れている。最大の円は直径40μmであり、最小の円は直径2μmである。描画順序は、最大直径の円から最小直径の円へ進む。止まり穴120を効果的に形成するための手法の一例は、パターンと下側の焦点面Fを所定深さfまで順次描画していくことである。
【0038】
NCD成長
NCD膜の化学気相成長を行う間、成長工程における基板の温度Tは基本的には500℃から900℃である。したがって、本実施形態では、アニール点が500℃より高いガラスが好ましい。ガラスとNCDとの間の熱的な不整合に起因する応力を回避するため、ガラス基板108は、成長工程の全温度範囲における熱膨張率がNCDと等しくなるように、特注設計および特注製造される。
【0039】
NCDが成長することができる二酸化ケイ素ベースのガラスの中には、500℃を超えるアニール点を持つものもある。表1に、NCD成長に使用可能なガラスの例を、その特徴とともに示す。溶融シリカを除き、表1に示したガラスはケイ素との組み合わせで使用するように作られている。
【0040】
NCDを成長させる前に、基板108の洗浄を行う。洗浄後、成長面116の表面に直径10nm未満のデトネーションナノダイヤモンドをシーディングした。合成後、ナノダイヤモンドはsp混成炭素のマトリックスに化学的に結合しているが、ナノダイヤモンドはビーズミルにより分離することができる。本開示において、「sp混成炭素」という表現は、ダイヤモンドなどにおける炭素と配列の仕方が異なる混成炭素を意味すると理解される。
【0041】
このように分離されたナノダイヤモンド粉末を用いて、安定なコロイド状懸濁液を得る。初めに、0.1gの粉末を、例えば0.2Lの水に混合し(約0.05m%)、次に、直径3.2mmおよび長さ4.5cmのチップを付けた超音波プローブで超音波処理を行う。プローブは、出力100Wおよび周波数20kHzのトランスデューサーに接続し、90分間、1秒ごとにオンとオフを繰り返すように設定した。
【0042】
得られた懸濁液は、初めは濁っている場合があったとしても、最終的には粒子の沈降に伴い透明になる。基板108をスピンコータに取り付けた後、40μLの懸濁液を基板108上にドロップキャストする。ドロップキャストの代わりに、基板の懸濁液への浸漬、基板への懸濁液の噴射、および可能性として他の方法を含み得るが、これらに限定されない。ドロップキャストの例えば1分後に、基板を4000rpmで回転させながら、基板を脱イオン水で10秒間洗浄した。この方法は、ナノダイヤモンドの凝集を防止するために用いられた。
【0043】
単に基板108を脱イオン水に浸すだけでも満足のいく結果が得られるが、シーディングされていない状態を保つべき基板表面に、意図しないシーディングが行われる可能性がある。洗浄後、スピン周波数を変更することなく、基板108をさらに15秒回転させ、乾燥させる。
【0044】
次に、シーディングされた基板108を反応器104に配置するが、一実施形態では、この反応器は、例えば、直径58mmおよび厚さ5.5mmのモリブデン基板ホルダを有するCornes SDS6500Xマイクロ波プラズマ化学気相成長(MWPACVD)システムとすることができる。続いて、ドライポンプを用いて、8.5Paのベース圧力まで反応器104内の気体を脱気する。
【0045】
続いて、水素ガス及びメタンガスを、それぞれ流速294sccmおよび6sccmで反応器104に導入する。安定動作圧力、例えばP=2kPaに達した後、当該ガスを2.45GHzマイクロ波、1.5kWで加熱し、プラズマ化させる。本条件では、基板温度Tはガラス基板108のアニール点である722℃と比較して十分に低く保たれ、成長速度rは1nm/minオーダーであり得る。
【0046】
このrの値は、通常、TおよびPの値が比較的低いときに起こる。NCD膜124の厚さは、成長中に干渉計を用いて計測した。成長中に、可能性として水素化炭素からなる薄い灰色の膜が、意図せず基板108のエッチング面112上に堆積することがある。このような場合、この膜はガスプラズマリアクターシステム(一実施形態ではYamato PR200)を用いて除去することができる。
【0047】
特性評価および検証
図1C図1G図2D図2I、および図5A図5Cに示す画像は、例えば、5Dカメラおよび65mmのレンズを有するSEM(走査電子顕微鏡)を用いて撮影することができる。長さが1mmより大きい表面形状の特徴は、スタイラスプロファイロメータを用いて撮影することができる。また、長さが1mmより小さい表面形状の特徴は、レーザー顕微鏡を用いて撮影することができる。一実施形態では、算術平均表面粗さRを推定した。SEMは、屈折率の計算を含む、ガラス基板の厚さ測定にも使用することができる。一実施形態において、屈折率は一例として1.53である。SEMは反射光学顕微鏡としても使用することができ、暗視野顕微観察を行うためには暗視野スコープが用いられる。NCD膜の厚さは、光学式ナノゲージを用いて、成長中よりも高い解像度で測定した。一実施形態では、Hamamatsu C13027が光学式ナノゲージの役割を果たす。
【0048】
SEMは止まり穴120、NCD膜124、およびTGV126を観察するために用いられる。一実施形態では、SEMはFEI Quanta 250 FEGおよび/またはJEOL JSM-7900Fであり得る。
【0049】
NCD膜に対して、ディフラクトメータを用い、例えば平均波長0.15418nmのCu KαX線を用いて微小角入射X線回折測定を行った。X線ビームの試料への入射角βは0.5°であり、これはダイヤモンド‐空気界面における全外部反射の臨界角βc=0.27°より僅かに大きい。
【0050】
ラマンスペクトル、例えば図7A図7Cのラマンスペクトルは、5mW、532nmのレーザーを、対物レンズにより試料上の直径が1μmより小さいスポットに集光し、100倍に拡大して開口数0.95の状態で測定する。このプラットフォームに対して圧力を加えた。例えばlmfit Pythonライブラリを用いて、関数をデータへフィットさせた。
【0051】
ガラスエッチング
第1工程から第4工程のエッチング時間は、体系的研究によって導かれたものである。48m%および11m%のHF溶液を用いた結果を、図2Aおよび図2Bにそれぞれ示す。図2Aおよび図2Bに示す通り、最大エッチング深さdは、HFの濃度それぞれに対して時間tの関数として導かれる。両対数グラフ上の各データポイントは一つの実験結果を示し、tおよびdはそれぞれ約10秒および約3μmの誤差を有する。図2Cは、基板108エッチング後の典型的な表面形状を示す。
【0052】
図2AはHFエッチングによりガラス基板108内へ到達した最大エッチング深さdのエッチング時間tに対する両対数グラフである。基板108は、48m%のHFにより中心の周りを局所的にエッチングされる。各データポイントは一回の実験から得られており、データのフィットには最小二乗法を用いている。
【0053】
図2B図2Aと同じ実験のデータを示しているが、図2Bは11m%のHFを用いて実験を行ったものである。図2Cは、dを約150μmとしてHFにより局所的にエッチングした基板の表面形状を示す。図2D図2Fは、それぞれ、エッチング前、第1工程において48m%HFで深さ158μmまでエッチングした後、および第4工程において11m%HFで基板に23μmの追加エッチングを行った後の、各ガラス基板108の表面形状である。記号Rは表面の算術平均表面粗さを示す。図2G図2Iは、11m%HFで傷のないガラス基板をそれぞれ13μm、18μm、および30μmエッチングした後の各ガラス基板108の表面形状を示している。
【0054】
本実施形態において、所定の深さdをエッチングするのに必要な時間tを予測することは有益である場合がある。よって、ケイ素の酸化を記述する種々のモデルを用いる場合がある。あるモデルでは、定常状態における拡散であること、一次反応であること、およびd=0におけるHF濃度cが時間tに対して一定であることを仮定している。これらの仮定の下では、深さdの時間変化は、化学量論係数cおよびHFと反応するガラス中の化学種の濃度、反応定数k、および拡散係数Dの積を含む場合がある。
【0055】
データフィッティング(カーブフィッティング)を用いると、反応律速の場合、深さdはtにほぼ比例し、拡散律速の場合、dは時間tの平方根にほぼ比例することが明らかとなる。一実施形態では、lmfit Pythonライブラリを用いてデータフィッティングを行う。
【0056】
48m%HFエッチングのデータに、べき乗則の一般的関係を当てはめると、tのべきは0.48±0.2であるため、エッチング工程は拡散律速であると考えるのが妥当である。11m%HFエッチングでは、tのべきは0.72±0.08であり、このエッチング工程は反応律速と拡散律速の境界にあることを示す。ダムケラー数はエッチング工程におけるHF濃度と時間の影響を理解する際の助けとなる。
【0057】
実験、計算、およびデータフィッティング(カーブフィッティング)から、出願人は、反応速度と拡散速度について以下の通り発見した。つまり、D>>1の場合、エッチング工程は拡散律速であり、D<<1の場合、エッチング工程は反応律速である。出願人は、ガラスエッチング工程は、tが相対的に小さい値である場合は反応律速であり、tが相対的に大きい値である場合は拡散律速となると結論付ける。拡散律速の挙動はHFの初期濃度が高いほどより速く達成される。
【0058】
ガラス基板の表面粗さRへのHFエッチングの影響についても調査を行った。粗い表面は光を散乱することがあり、透明性に悪影響を与えるため、本実施形態の効果を低くする。エッチング前では、ガラス基板の表面粗さRの値は約4nm以下であった。第1工程のエッチングでは、dの測定点付近における表面粗さRは6nmまで増加した。さらに、第4工程のエッチングでは、表面粗さRは約13nmまで増加する。Rのこの累積的な増加は図2D図2Fに示されており、各図は第1工程前、第1工程および第2工程の間、および第4工程後のガラス基板108の表面形状をそれぞれ示す。約25μmしかエッチングされなかった第4工程の後に、表面粗さRが大きく増加したことに留意することが重要である。
【0059】
図2G図2Iは、11m%HFで約13μm、18μm、および30μmの深さまでエッチングしたガラス基板の表面形状を示す。これらの工程は11m%HFでガラス基板108をエッチングすると、48m%HFでエッチングするよりも表面粗さRを増加させる場合があることの追加の証明となる。表面粗さは透明性に影響を与える。表面が粗いほど、ガラス基板108の透明性はより低くなる。
【0060】
HF―ガラス界面に堆積する不溶性フッ化物のマスキングが、エッチング中に表面が粗くなる原因であると仮定すると、48m%HFを用いたエッチングでは、HF-ガラス界面の速度がフッ化物の堆積速度よりも大きい可能性がある。どちらにしても、前述の通り第4工程では11m%HFを用いた浅いエッチングを利用することから、ガラス基板108のエッチング後の表面粗さRaを比較的小さく保つことができる。
【0061】
止まり穴
レーザーアブレーションのパラメータを最適化する工程において、レーザーパルス周波数およびレーザー出力Pが増加するにつれてクラックの形成が外見に現れるようになった。安定動作圧力Pが最小値の状態で止まり穴を形成させ、それによりクラックの形成を防止するために、止まり穴の深さを圧力Pの関数として測定し、さまざまな深さfを選択した。
【0062】
止まり穴120を形成させるためには、基板108の表面を空気中のレーザー光の焦点面Fに配置し、同心円のパターンを5回描画する。その後、Fを5μmまで下げ、パターンを再度5回描画する。この手順を、焦点面Fが基板108のエッチングされた表面から焦点面Fまで測定した所定深さfに達するまで繰り返す。本工程の一部の態様を図6に示す。
【0063】
図6は、エッチング面112の10×10×0.2mmのガラス基板108から、正面レーザーアブレーション技術を用いて形成された、一例として直径が42μmである25個の止まり穴120の深さを示す。止まり穴120はガラス基板が最もエッチングされた箇所付近に形成され、その厚さは約50μmである。止まり穴120の深さは、基板のエッチングされた表面に対して測定された深さf、およびレーザーの最大出力でスケーリングされたレーザー出力Pの関数として与えられる。
【0064】
図6を左から右へ見ていくと、深さfは15μmから35μmまで線形に増加し、下から上へ見ていくと、本明細書で用いられたシステムの最大レーザー出力でスケーリングされたレーザー出力Pは、0.36から0.44まで線形に増加する。深さf=35μmにおいて、深さ約40μmの止まり穴が形成され得るレーザー出力Pの最低値は0.38である。
【0065】
図1Dは、25°傾斜した状態で撮影した、図3Bと同様の止まり穴120のSEM画像である。画像からは、止まり穴120の形状は放物面の形状と似ていることが明らかである。これは、ガラス基板108がレーザー光を遮った結果である可能性が高い。
【0066】
ナノ結晶ダイヤモンド
第3工程では、NCD膜124が、成長面116に止まり穴120を形成させたガラス基板108の表面に成長する。成長中は、エッチング面112はCVDシステムの冷却された基板ホルダに直接接触していない。図4Aに結果を示す通り、X線結晶構造解析からは、この成長工程で結晶膜124が得られたことが確認できる。
【0067】
具体的には、図4Aは、データにフィットしたフォークト関数を用いた、第3工程で成長したNCD膜の非対称微小角入射X線回折のディフラクトグラムである。散乱X線の強度はスケーリングされており、θはブラッグ角度を示す。ピークの中央は2θ=44.03±0.01°であり、ダイヤモンドの結晶面により散乱する銅KαX線の強め合う干渉に対応する。
【0068】
図4Bは、NCD膜124のSEM画像である。図4Bは、膜124はピンホールがなく、ナノスケールのダイヤモンド結晶からなることを示す。
【0069】
図1Eは、成長面116に位置するSEMカメラで撮影したNCD成長後の基板の画像である。基板108はミラー上に置かれ、カメラに記録する光の大部分が散乱されたため、止まり穴9個のアレイを観察することが可能であった。
【0070】
図4BはNCD膜124の一例のSEM画像であり、ピンホールのないナノ結晶構造を示している。止まり穴120の付近における、ガラス基板108の最も薄い部分では、NCD膜124は~175±5nmであり、その領域からダイヤモンド膜の縁まで放射状に移動すると、約120±5nmまで減少する。図1Eに示す通り、薄膜干渉により、NCD膜の外見色の違いから、膜厚の変化を観察可能である。
【0071】
NCD膜/層124の成長時(例えば第3工程)の間は、エッチング面112のガラス基板表面(薄化未実施)のみが水冷基板ホルダに接触する。一方、反対側の成長面のガラス基板表面はプラズマに接している。したがって、成長中はガラス基板108のエッチングされた部分の温度は、基板108のエッチングされていない残りの部分よりも高いと考えるのが妥当である。このように、NCDの成長速度は単調的に増加する。これは、NCD膜124の成長速度は空間的に不均一であることを意味する。すべての箇所において成長時間は同じであるため、膜厚が不均一になることが予想される。
【0072】
エッチング前(例えば第4工程の前)にNCD膜124を成長させることにより、生成される膜124の厚さがばらつくことを防止する。これは、少なくとも、基板108は酸化物であることから、空気とほとんど相互作用しないためである。また、基板108の軟化点は1043℃であり、比較的高い温度にも耐性がある。
【0073】
ガラス貫通ビア(TGV)126の形成
第4工程では、直径が例えば約60μmの、NCD膜124の下層形成部でシールしたガラス貫通ビア(TGV)126を形成するために、基板108をHFでさらにエッチングする。図1Fは、下層形成された厚さ175±5nmのNCDでシールされた9個のTGVをエッチング面112から撮影した顕微鏡画像である。これらのTGVの近傍では、基板の厚さは約23μmであり、光の散乱によりTGVの壁が黒い円に見える。図5Aは、図1Fと同じNCD-ガラスプラットフォームを、基板の成長面から撮影した暗視野光学顕微鏡画像である。
【0074】
この画像から、TGV126の壁面があるにもかかわらず、基板108とNCD層124とで形成されたプラットフォーム130は、ほとんど光を散乱しないことが明らかである。特に、図5Aは、本明細書で述べる実施形態にしたがって作製された、NCDでシールされたTGV126を有する基板108の暗視野光学顕微鏡画像である。図5A図1Fが示すものと同じNCD-ガラスプラットフォームを撮影しており、TGV126の壁面以外では、プラットフォーム130はほとんど光を散乱しないことを示している。
【0075】
述べられているように、本実施形態では、光散乱はほとんどの場合避けるべきものである。さらに、表面の粗面化は光散乱に影響を及ぼす。しかしながら、本実施形態では、表面の粗面化を最小限にし、別途、光散乱を最小限にする方法を見出した。光が散乱されない場合、プラットフォーム130は光学的に透明なままである。この特徴は、TGV126への試料の配置や生体細胞の配置、および生体細胞の研究といった用途や作業に有利である。
【0076】
図5Bは、25°傾斜した状態で撮影した、エッチング面中央のTGVのSEM画像である。TGVの壁面は、NCD-ガラスプラットフォームの他の部分よりも明らかに粗い。
【0077】
図1Gは、成長面116から撮影した顕微鏡写真であり、円形部分はNCD膜の下層形成部を示している。図5Bからわかる通り、TGVの壁面はこの構造の他の部分よりも明らかに粗い。すべてのTGVは、エッチング面から成長面にかけて次第に狭くなっている。また、すべてのTGVの最小直径および最大直径は、それぞれ約50μmおよび約80μmである。下層形成されたNCD膜124の直径は約60μmであるため、NCD膜124は約5μm分アンダーエッチングされている。
【0078】
図5Cは、中央のTGV126をシールするNCD膜124の一部の表面形状を示す。その形状は成長面から撮影されており、NCD膜124の下層形成部は、約1.25μmの最大撓み量で、基板108の方へわずかに撓んでいる。この挙動は、TGV126のシールに用いられるNCD膜124のすべての下層形成部で見られ、詳細は後述する。
【0079】
NCD膜124とガラス基板108との接着が実用上十分に強いことを示すため、ゲージ圧300kPaを、エッチング面112から、下層形成されたNCD層124に印加することができる。実験および試験を通じて、NCD-ガラスプラットフォーム130の構造がそのような圧力に耐えるという結果が得られた。
【0080】
第2工程のレーザーアブレーション後、止まり穴120を撮影することができ、最適な状態では、止まり穴120にクラックは観察されない。しかしながら、図5Bに示す通り、レーザーアブレーション工程の間に、カスプ状構造504がTGV126の壁面に生じる場合がある。カスプ504は、細胞がその上に付着するうえでは有用である場合もあるが、光を散乱するため、不必要にプラットフォーム130の透明性を下げる。カスプ状構造504は、一般的にはエッチング工程中のクラックから生じる。図5Bは、少なくとも、レーザーアブレーション中のいかなるクラックも、本明細書で述べるSEMイメージング技術では検出できないほど小さかったということを示唆しており、これは有利な点である。
【0081】
さらに、本明細書で述べるレーザーアブレーション工程の最適化により、TGVが相当に円形となるようなフィーチャサイズを得た。レーザーアブレーションにエキシマレーザーを用いたり、レーザーアブレーションを行う代わりにレーザーでガラスを活性化させたりすることで、エッチング後のTGVの粗さはより小さくなる。
【0082】
第3工程において溶融シリカ基板上で成長するNCD膜は、第4工程で完全に剥離した。これは引張応力により生じるものとされるが、予備実験中の全範囲における動作温度において、溶融シリカの熱膨張率がダイヤモンドの熱膨張率より低いことから予想される。
【0083】
第4工程における、HFを用いるガラス基板108のエッチング工程の一部として、NCD膜が下層形成される。NCD膜124は、HFによるエッチング止めの役割を果たす。下層形成されたNCD膜124はTGV126をシールする。本実施形態は、薄膜でシールされたTGV126を作製できるという点で有益である。
【0084】
表1に列記するいかなるガラスからなる基板上で成長するNCD膜は、溶融シリカを除き、圧縮応力を受ける。これは、このような種類のガラスの熱膨張率が、関連する成長工程で用いられる温度範囲の大部分において、ダイヤモンドの熱膨張率よりも大きいことを示唆している。
【0085】
HFエッチングの間にガラス基板の一部をマスキングするため、膜を変質させる必要がある場合がある。これらの変質を行う際は、引張応力よりも圧縮応力の方が好ましい。図5Cに図示されているように、圧縮応力がもたらす典型的な結果は、撓みである。いくつかの利用先では、膜および基板の熱膨張率を適切に調整することにより、撓みは最小限に抑えられる。ダイヤモンドの熱膨張率は溶融シリカの熱膨張率よりも大きく、その他の多くのガラス基板の熱膨張率よりも小さいことが知られているため、これを行うことができる。
【0086】
性能の試験、実証、および証明方法
以下は、本実施形態が、望ましい有益な結果をもたらすことを撮影し、実証するための代表的な一実施形態を示すものである。
【0087】
本実施形態の製造および使用中に、TGVをシールするNCD膜の一部のさまざまな画像を、NCD膜が成長するガラス基板の成長面上に対物レンズを配置し、反射光学顕微鏡で撮影した。円形状は厚さ175nmのNCD膜の下層形成部を表している。このような円形状は、空気とガラスとの屈折率に差により観察することができる。これらの円形状の画像は、本実施形態が似た形状の構造を安定して生成することを確認し、すべての装置が正しく接続され、共に機能することを確認するのに役立つ。
【0088】
これらの原理をさらに支持するために、TGVをシールするNCD膜の一部の反射光学顕微鏡画像をガラス基板の成長面から撮影する。円形状は、本明細書にて述べた構造体の下層形成部を表し得る。
【0089】
具体的には、NCD膜の一部の表面形状は、ガラス基板の成長面において撮影され、NCD膜のすべての下層形成部は、最大撓み量が1.25μmでガラス基板の方へわずかに撓んでいる。一方、NCD膜の一部の表面形状も、ガラス基板の成長面において撮影することができる。
【0090】
図7A図7Bは、3×3×0.3mmの単結晶ダイヤモンドおよび図4BのNCD膜124の、スケーリングされたラマンスペクトルである。いずれのスペクトルでも、最も強い特徴は、ダイヤモンドの1次ラマン線に由来するピークを形成し、これは、約1332/cmのラマンシフトに予想されるものである。
【0091】
図7C図7A図7Bのピークを拡大したものである。NCD膜から得られたダイヤモンドのピークの中心は、約1334/cmの値のシフトに位置しており、膜に作用する~0.5GPaの圧縮応力により、膜が歪むことを示している。歪みのないフリースタンディングな膜の一部には約1332/cmのダイヤモンドのピークが生じるため、この圧縮応力は、主にNCDとガラス基板108との熱的な不整合によるものである。図7Bにおける、1332/cmよりも大きいシフトに位置する広いバンドおよび広いフォトルミネセンスのバックグラウンドは、主に、それぞれNCD膜中に存在するsp炭素および水素によるものである。述べた通り、本開示では、「sp炭素」という表現は、ダイヤモンドなどにおける炭素と配列の仕方が異なる混成炭素を意味すると理解される。
【0092】
不純物や、点欠陥および線欠陥の存在も、ダイヤモンドのピークがブロードになる要因として知られている。これにより、NCD124で得られたピーク704が、単結晶ダイヤモンドで得られたピーク708と比較して相当に広いことが説明できる。最後に、図7A図7Cで示された分析は、本開示の他の箇所で述べられているX線回折の調査と一致していることは注目に値する。
【0093】
本明細書では、本発明の好ましい実施形態を示し、説明したが、このような実施形態は一例としてのみ与えられることは、当業者には明らかであるだろう。本発明が、本明細書で提供される特定の例に限定されることは意図していない。本発明は、上述の明細書を参照して説明されてきたが、本実施形態の説明および図は、限定的な意味で解釈されることを意味しない。多数の変形例、変更例、および置換例が、本発明から逸脱することなく、当業者に想到される。さらに、本発明のすべての態様は、さまざまな条件および変数に依存するような、本明細書で示した描写、構造、もしくは相対的な割合に限定されないものと解される。本発明を実施する場合には、本明細書で述べた本発明の実施形態に対するさまざまな代替形態が用いられ得るものと解されるべきである。したがって、本発明は、当該すべての代替例、変更例、変形例、もしくは等価物に及ぶことを意図している。以下の請求の範囲は、本発明の範囲を定義し、当該請求の範囲内の方法や構造およびこれらの等価物は、当該請求の範囲に包含されることを意図している。

図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図7C