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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/06 20060101AFI20240920BHJP
   C09D 161/28 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240920BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C09D201/06
C09D161/28
C09D163/00
C09D7/63
C09D167/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022551162
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2021027157
(87)【国際公開番号】W WO2022064829
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2024-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2020162362
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】小野 純平
(72)【発明者】
【氏名】戸崎 洋一
(72)【発明者】
【氏名】梅津 清和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】島村 健一
(72)【発明者】
【氏名】和田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】佐野 耕
(72)【発明者】
【氏名】熊崎 誠一
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-212569(JP,A)
【文献】特開2005-139343(JP,A)
【文献】特開2019-006931(JP,A)
【文献】特開昭55-036276(JP,A)
【文献】特開2011-052213(JP,A)
【文献】特開平07-331164(JP,A)
【文献】特開2016-117804(JP,A)
【文献】特開2016-117805(JP,A)
【文献】特表2007-510543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有樹脂(A)と、
アミノ樹脂(B)と、
共有結合ブロック型酸触媒(C)と、
リン酸変性エポキシ樹脂(D)と
アルカノールアミン(E)と、を含み、
前記水酸基含有樹脂(A)の樹脂固形分及び前記アミノ樹脂(B)の樹脂固形分の合計100質量部に対して、
前記水酸基含有樹脂(A)を、60~90質量部、
前記アミノ樹脂(B)を、10~40質量部、
前記共有結合ブロック型酸触媒(C)の酸触媒部分を、1~10質量部、及び
前記リン酸変性エポキシ樹脂(D)の固形分を、1~10質量部含む、
塗料組成物。
【請求項2】
前記リン酸変性エポキシ樹脂(D)の数平均分子量が、460~4,000の範囲内である、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記共有結合ブロック型酸触媒(C)が、芳香族スルホン酸を、グリシジル基を有する化合物でブロックした触媒である、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記共有結合ブロック型酸触媒(C)において、グリシジル基を有する化合物が、分子内にグリシジル基を2つ以上有するエポキシ樹脂、又は分子内にグリシジル基を1つ有するグリシジルエーテル化合物である、請求項3に記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記共有結合ブロック型酸触媒(C)において、分子内にグリシジル基を2つ以上有するエポキシ樹脂の数平均分子量が、2,000~7,000の範囲内である、請求項4に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記共有結合ブロック型酸触媒(C)において、分子内にグリシジル基を1つ有するグリシジルエーテル化合物の分子量が、140~200の範囲内である、請求項4に記載の塗料組成物。
【請求項7】
前記水酸基含有樹脂(A)が、ポリエステル樹脂であり、
前記水酸基含有樹脂(A)の数平均分子量が1,500~5,000の範囲内であり、水酸基価が40~100mgKOH/gの範囲内である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項8】
前記アミノ樹脂(B)は、メラミン樹脂を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項9】
前記アルカノールアミン(E)は、分子中に2個以上のアルカノール基を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項10】
前記アルカノールアミン(E)の含有量は、前記水酸基含有樹脂(A)の樹脂固形分及び前記アミノ樹脂(B)の樹脂固形分の合計100質量部に対して、1.0~4.0質量部である、請求項1~9のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の塗料組成物を被塗物に塗装し、塗装膜を形成する工程、及び
前記塗装膜を、前記被塗物の到達温度が180℃~270℃であり、乾燥及び/又は硬化時間が1~10秒の条件下で、乾燥及び/又は硬化させる工程
を含む、塗膜の製造方法。
【請求項12】
金属板の少なくとも一方の面に、請求項1~10のいずれか1項に記載の塗料組成物を硬化後の膜厚が5~25μmとなるように塗装し、塗装膜を形成する工程、及び
前記塗装膜を、前記金属板の到達温度が180℃~270℃であり、乾燥及び/又は硬化時間が1~10秒の条件下で、乾燥及び/又は硬化させる工程
を含む、プレコート金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品、電子機器、装飾品、家具、建材等の広範な工業製品において、その製品や部品の保護、装飾等を目的として、それらの表面等に塗料組成物を塗布し、塗膜を形成することが一般に行われる。
【0003】
塗料組成物には、主剤と架橋剤とからなる二液形と、主剤と架橋剤とを安定な状態で予め混合した一液形とがある。二液形では、塗料組成物の貯蔵安定性と得られる塗膜の物性とを両立させ易い。しかしながら、二液形には、使用者が塗装現場において主剤と架橋剤とを所定の割合で正確に混合し、十分にかくはんする必要のあることや、使用可能な時間に制限があること等、その取り扱いや塗装作業性に問題があり、一液形の塗料組成物が求められている。
【0004】
ところで、近年では、省エネルギー化、二酸化炭素排出量削減という観点から、塗装工程の短縮が求められている。
例えば、特開2020-100740号公報(特許文献1)には、冷延鋼板やめっき鋼板を基材として塗装を施した塗装鋼板であるプレコート鋼板(「PCM」ともいう)に関する発明が記載されている。
通常、プレコート鋼板は、鋼板の表面に塗装を施し、例えば、被塗物である鋼板の到達温度(到達鋼板温度、「PMT」ともいう)が200~270℃で30~60秒の加熱工程(焼付け工程)を経て塗膜を形成させた後、要求される製品へと加工される。この場合、焼付けに用いる焼付け炉として、一般的には加熱方法としてガス等を用いた熱風型炉を使用する。
しかし、この場合、常時300℃以上の雰囲気温度の保持が必要であり、エネルギーコストの削減が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-100740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような熱風型炉に代わり、誘導加熱型インダクション・ヒーター(「IH」ともいう)型炉が開発され、各社で導入され始めている。これにより、炉長が短縮され、製造スペースの縮小化が可能になると共に、短時間でPMTが220℃まで昇温可能となった。
一方で、上記のようなIH型炉では炉長が短縮されることから、塗料組成物の硬化時間の短縮も求められる。一液形の塗料組成物において、硬化時間を短縮するためには、酸触媒を多量に用いて硬化反応速度を高める必要がある。しかし、塗料組成物が酸触媒を多量に含む場合、塗料組成物の貯蔵安定性に問題がある。
このように、貯蔵安定性が良好であり、かつ、短時間で硬化可能な塗料組成物を得ることは困難であった。
【0007】
本発明は、貯蔵安定性が良好であり、かつ、短時間で硬化可能な塗料組成物を提供することを目的とする。
更に本発明は、上記塗料組成物を用いて短時間の加熱により塗膜を製造する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記塗料組成物を用いて短時間の加熱によりプレコート金属板を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記態様[1]~[13]を提供する。
[1]水酸基含有樹脂(A)と、アミノ樹脂(B)と、共有結合ブロック型酸触媒(C)と、リン酸変性エポキシ樹脂(D)とを含み、
前記水酸基含有樹脂(A)の樹脂固形分及び前記アミノ樹脂(B)の樹脂固形分の合計100質量部に対して、
前記水酸基含有樹脂(A)を、60~90質量部、
前記アミノ樹脂(B)を、10~40質量部、
前記共有結合ブロック型酸触媒(C)の酸触媒部分を、1~10質量部、及び
前記リン酸変性エポキシ樹脂(D)の固形分を、1~10質量部含む、塗料組成物。
[2]前記リン酸変性エポキシ樹脂(D)の数平均分子量が、460~4,000の範囲内である、[1]に記載の塗料組成物。
[3]前記共有結合ブロック型酸触媒(C)が、芳香族スルホン酸を、グリシジル基を有する化合物でブロックした触媒である、[1]又は[2]に記載の塗料組成物。
[4]前記共有結合ブロック型酸触媒(C)において、グリシジル基を有する化合物が、分子内にグリシジル基を2つ以上有するエポキシ樹脂、又は分子内にグリシジル基を1つ有するグリシジルエーテル化合物である、[3]に記載の塗料組成物。
[5]前記共有結合ブロック型酸触媒(C)において、グリシジル基を2つ以上有するエポキシ樹脂の数平均分子量が、2,000~7,000の範囲内である、[4]に記載の塗料組成物。
[6]前記共有結合ブロック型酸触媒(C)において、分子内にグリシジル基を1つ有するグリシジルエーテル化合物の分子量が、140~200の範囲内である、[5]に記載の塗料組成物
[7]前記水酸基含有樹脂(A)が、ポリエステル樹脂であり、前記水酸基含有樹脂(A)の数平均分子量が1,500~5,000の範囲内であり、水酸基価が40~100mgKOH/gの範囲内である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の塗料組成物。
[8]前記アミノ樹脂(B)は、メラミン樹脂を含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の塗料組成物。
[9]更に、アルカノールアミン(E)を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載の塗料組成物。
[10]前記アルカノールアミン(E)は、分子中に2個以上のアルカノール基を含む、[9]に記載の塗料組成物。
[11]前記アルカノールアミン(E)の含有量は、前記水酸基含有樹脂(A)の樹脂固形分及び前記アミノ樹脂(B)の樹脂固形分の合計100質量部に対して、1.0~4.0質量部である、[9]又は[10]に記載の塗料組成物。
[12][1]~[11]のいずれか1つに記載の塗料組成物を被塗物に塗装し、塗装膜を形成する工程、及び
前記塗装膜を、前記被塗物の到達温度が180℃~270℃であり、乾燥及び/又は硬化時間が1~10秒の条件下で、乾燥及び/又は硬化させる工程を含む、塗膜の製造方法。
[13]金属板の少なくとも一方の面に、[1]~[11]のいずれか1つに記載の塗料組成物を硬化後の膜厚が5~25μmとなるように塗装し、塗装膜を形成する工程、及び
前記塗装膜を、前記金属板の到達温度が180℃~270℃であり、乾燥及び/又は硬化時間が1~10秒の条件下で、乾燥及び/又は硬化させる工程を含む、プレコート金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗料組成物は、良好な貯蔵安定性を有し、かつ、短時間の加熱によっても硬化反応が十分に進行し得る。
更に、本発明の塗膜の製造方法により、短時間の加熱で塗膜を製造することができる。
また、本発明のプレコート金属板の製造方法により、短時間の加熱でプレコート金属板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[塗料組成物]
本開示の塗料組成物について説明する。
【0011】
本開示の塗料組成物は、水酸基含有樹脂(A)と、アミノ樹脂(B)と、共有結合ブロック型酸触媒(C)と、リン酸変性エポキシ樹脂(D)とを含み、
前記水酸基含有樹脂(A)の樹脂固形分及び前記アミノ樹脂(B)の樹脂固形分の合計100質量部に対して、
前記水酸基含有樹脂(A)を、60~90質量部、
前記アミノ樹脂(B)を、10~40質量部、
前記共有結合ブロック型酸触媒(C)の酸触媒部分を、1~10質量部、及び
前記リン酸変性エポキシ樹脂(D)の固形分を、1~10質量部含む。
【0012】
<水酸基含有樹脂(A)>
水酸基含有樹脂(A)は、分子構造中に水酸基を有する樹脂である。水酸基含有樹脂(A)は、硬化剤であるアミノ樹脂(B)と反応し、塗膜を形成する。
水酸基含有樹脂(A)としては、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができ、ポリエステル樹脂が好ましい。
【0013】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、一般に塗料用として使用されるポリエステル樹脂である限り特に限定されない。なお、本開示において、特に言及のない限り、単にポリエステル樹脂と記載する場合、ポリエステル樹脂及びポリエステル樹脂の変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを意味する。
【0014】
ポリエステル樹脂の水酸基価は、40~100mgKOH/gであることが好ましく、60~100mgKOH/gであることがより好ましい。ポリエステル樹脂の水酸基価が上記範囲内であることにより、硬化剤であるアミノ樹脂(B)との反応が良好に進行する。塗料組成物がこのようなポリエステル樹脂を含むことにより、得られる塗膜は、高い耐溶剤性、折り曲げ加工性、加工密着性、耐薬品性を有するという利点がある。
なお、本開示において、水酸基価は、固形分水酸基価を表し、JIS K 0070に記載された方法によって測定された値である。
【0015】
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、1,500~5,000であることが好ましく、2,000~4,500であることがより好ましく、2,000~4,000であることが特に好ましい。ポリエステル樹脂の数平均分子量が上記範囲内であることにより、アミノ樹脂(B)との硬化反応が十分に進行し、高い耐溶剤性、耐薬品性を有する塗膜を形成できる。また、塗膜の架橋密度が高くなりすぎることを抑制でき、十分な伸び率を有する塗膜を形成でき、例えば、十分な折り曲げ加工性及び加工密着性を有する塗膜を形成できる。更に、本開示の塗料組成物は適切な粘度を有し、取り扱い性が良好となる。
なお、本開示において、数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算した値である。
【0016】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-35℃以上110℃以下であることが好ましく、例えば、-30℃以上80℃以下であり、-30℃以上60℃以下であり得る。ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であることにより、塗膜の透湿性が過度に高くなることなく、塗膜の耐湿性、耐薬品性が十分となる。
なお、本開示において、ガラス転移温度(Tg)は、例えば、熱分析装置(TMA7100(日立ハイテクサイエンス社製)等)を用いて測定することができる。
【0017】
ポリエステル樹脂の酸価は、例えば、0.1mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、0.2mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、0.3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であってよい。ポリエステル樹脂の酸価が上記範囲内であることにより、例えば、耐加水分解性を向上させることができ、耐湿性、耐薬品性を有する塗膜を形成できる。
なお、本開示において、酸価は、固形分酸価を表し、JIS K 0070に記載された方法によって測定された値である。
【0018】
ポリエステル樹脂は、多価アルコールと多塩基酸との重縮合により得ることができる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール又は1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、ヒドロキシアルキル化ビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピル-2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピオネート(BASHPN)、N,N-ビス-(2-ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等を挙げることができる。多価アルコールは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
多塩基酸としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、乳酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、無水エンド酸等を挙げることができる。多塩基酸は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
ポリエステル樹脂の変性物としては、例えば、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂等の変性ポリエステル樹脂を挙げることができる。例えば、ウレタン変性ポリエステル樹脂は、ポリエステルを主鎖に有し、その末端をイソシアネートで変性させ、ウレタン変性させた樹脂である。例えば、シリコーン変性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂と有機シリコーン(例えば、官能基として-Si-OCH基及び/又はSi-OH基を有する数平均分子量300~1,000程度の有機シリコーン)とを反応させることにより調製することができる。有機シリコーンの使用量は、通常、ポリエステル樹脂100質量部に対して、5~50質量部程度である。また、例えば、ウレタン変性ポリエステル樹脂は、上記ポリエステル樹脂とポリイソシアネート化合物とを反応させて調製することができる。
【0021】
ポリエステル樹脂としては、市販品を用いることもでき、例えば、DYNAPOL LH820、DYNAPOL LH826、DYNAPOL LH727(いずれもEvonik社製)、ETERKYD 5084-R-60-6E、ETERKYD 3103-X-70、ETERKYD 50528-R-70、ETERKYD、5055R-65-3(いずれもEternal Materials社製)、ベッコライト M-6902-50(DIC社製)、SYNOLAC 9605(ARKEMA社製)等を挙げることができる。
【0022】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、一般に塗料用として使用されるエポキシ樹脂である限り特に限定されない。なお、本開示において、特に言及のない限り、単にエポキシ樹脂と記載する場合、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂の変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを意味する。
【0023】
エポキシ樹脂の水酸基価は、40~200mgKOH/gであることが好ましく、60~180mgKOH/gであることがより好ましい。エポキシ樹脂の水酸基価が上記範囲内であることにより、硬化剤であるアミノ樹脂(B)との反応が良好に進行する。塗料組成物がこのようなエポキシ樹脂を含むことにより、得られる塗膜は、高い耐溶剤性、十分な折り曲げ加工性、加工密着性、耐薬品性を有するという利点がある。
【0024】
エポキシ樹脂の数平均分子量は、1,500~5,000であることが好ましく、2,000~4,000であることがより好ましい。エポキシ樹脂の数平均分子量が上記範囲内であることにより、後述するアミノ樹脂(B)との硬化反応が十分に進行し、塗膜外観の良好な塗膜を形成できる。また、塗膜の架橋密度が高くなりすぎることを抑制でき、十分な伸び率を有する塗膜を形成でき、例えば、十分な折り曲げ加工性及び加工密着性を有する塗膜を形成できる。更に、本開示の塗料組成物は適切な粘度を有し、取り扱い性が良好となる。
【0025】
エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、120℃以下であってよく、115℃以下であってもよい。例えば、エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、110℃以下であってもよい。一実施態様において、エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、50℃以上であり、55℃以上であってよい。例えば、エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、50℃以上120℃以下の範囲であり得る。エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であることにより、塗膜の透湿性が過度に高くなることなく、塗膜の耐湿性、耐薬品性が十分となる。
【0026】
エポキシ樹脂は、水酸基含有エポキシ樹脂(水酸基含有エポキシ樹脂変性物を含む)であってよい。エポキシ樹脂として、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを必要に応じてアルカリ触媒等の触媒存在下で高分子量まで縮合させてなる樹脂;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;及びノボラック型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
エポキシ樹脂の変性物としては、例えば、アクリル変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂を挙げることができる。例えば、アクリル変性エポキシ樹脂は、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂又は上記ノボラック型エポキシ樹脂に、アクリル酸又はメタクリル酸等を含む重合性不飽和モノマー成分を反応させて調製することができる。また、例えば、ウレタン変性エポキシ樹脂は、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂又は上記ノボラック型エポキシ樹脂にポリイソシアネート化合物を反応させて調製することができる。
一実施態様において、エポキシ樹脂の変性物は、リン酸変性エポキシ樹脂及びスルホン酸変性エポキシ樹脂を除く樹脂である。
【0027】
エポキシ樹脂としては市販品を用いることもでき、例えば、jER825、jER828、jER835、jER1004、jER1007、jER1010、jER1255HX30、jER YX8100BH30(いずれもビスフェノールA型、三菱ケミカル社製)、jER1009F(ビスフェノールF型、三菱ケミカル社製)等を挙げることができる。
【0028】
(アクリル樹脂)
アクリル樹脂は、一般に塗料用として使用されるアクリル樹脂である限り特に限定されない。なお、本開示において、特に言及のない限り、単にアクリル樹脂と記載する場合、アクリル樹脂及びアクリル樹脂の変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを意味する。
【0029】
アクリル樹脂の水酸基価は、40~100mgKOH/gであることが好ましく、60~100mgKOH/gであることがより好ましい。アクリル樹脂の水酸基価が上記範囲内であることにより、硬化剤であるアミノ樹脂(B)との反応が良好に進行する。塗料組成物がこのようなアクリル樹脂を含むことにより、得られる塗膜は、高い耐溶剤性、耐薬品性、十分な折り曲げ加工性、加工密着性を有するという利点がある。
【0030】
アクリル樹脂の数平均分子量は、1,500~5,000であることが好ましく、2,000~4,000であることがより好ましい。アクリル樹脂の数平均分子量が上記範囲内であることにより、アミノ樹脂(B)との硬化反応が十分に進行し、塗膜外観の良好な塗膜を形成できる。また、塗膜の架橋密度が高くなりすぎることを抑制でき、十分な伸び率を有する塗膜を形成でき、例えば、十分な折り曲げ加工性を有する塗膜を形成できる。更に、本開示の塗料組成物は適切な粘度を有し、取り扱い性が良好となる。
【0031】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-35℃以上110℃以下であることが好ましく、例えば、-30℃以上80℃以下であり、-30℃以上60℃以下であり得る。アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であることにより、塗膜の透湿性が過度に高くなることなく、塗膜の耐湿性、耐薬品性が良好となる。
【0032】
アクリル樹脂(その変性物を含む)の酸価は、例えば、0.1mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、0.2mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、0.3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であってよい。アクリル樹脂の酸価がこのような範囲であることにより、例えば、耐加水分解性を向上させることができ、耐湿性、耐薬品性を有する塗膜を形成できる。
【0033】
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、N-メチロールアクリルアミド等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマー及びそのラクトン付加物;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸アルキル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリロニトリル等から選択される1種又は2種以上のモノマーからなるアクリル樹脂を挙げることができる。アクリル樹脂は、上記モノマーに由来する構成単位のほか、他のモノマー(例えば、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシ基含有エチレン性モノマーや、スチレン等のビニル系モノマー等)に由来する構成単位を含んでいてもよい。アクリル樹脂の変性物としては、例えば、シリコーン変性アクリル樹脂等の変性アクリル樹脂を挙げることができる。例えば、シリコーン変性アクリル樹脂は、アクリル樹脂と上記したような有機シリコーンとを反応させることにより調製することができる。有機シリコーンの使用量は、通常、アクリル樹脂100質量部に対して、5~50質量部程度である。なお、本開示において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を表す。
アクリル樹脂としては市販品を用いることもでき、例えば、アクリディックA-608、アクリディックA-452、アクリディックA-830(いずれもDIC社製)等を挙げることができる。
【0034】
水酸基含有樹脂(A)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
<アミノ樹脂(B)>
アミノ樹脂(B)は、水酸基含有樹脂(A)及びリン酸変性エポキシ樹脂(D)と反応して硬化塗膜を形成するものである。
アミノ樹脂(B)は、水酸基含有樹脂(A)等との硬化反応性に優れており、外観及び耐湿性が良好な塗膜を得ることができる。
【0036】
アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン等を挙げることができ、メラミン樹脂、尿素樹脂が好ましい。特に耐候性の観点から、アミノ樹脂とはメラミン樹脂を含むことが好ましく、メラミン樹脂であることが更に好ましい。
【0037】
「メラミン樹脂」とは、一般的に、メラミンとアルデヒドから合成される熱硬化性の樹脂を意味し、トリアジン核1分子中に3つの反応性官能基-NXを有している。
メラミン樹脂としては、反応性官能基として-N(CHOR)〔Rは炭素数1~8のアルキル基を示す、以下同じ〕を含む完全アルキル型;反応性官能基として-N(CHOR)(CHOH)を含むメチロール基型;反応性官能基として-N(CHOR)(H)を含むイミノ基型;反応性官能基として、-N(CHOR)(CHOH)と-N(CHOR)(H)とを含む、あるいは-N(CHOH)(H)を含むメチロール/イミノ基型の4種類を例示することができる。
本発明においては、上記メラミン樹脂のなかでも、完全アルキル化型のメラミン樹脂を用いることが好ましく、このような樹脂としては、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂等が挙げられる。
メラミン樹脂としては、市販品を用いることもでき、例えば、サイメル303、サイメル325、サイメル350、サイメル370、マイコート715(いずれもメチル化メラミン樹脂、オルネクスジャパン社製)、サイメル202、サイメル235、サイメル254、サイメル1123、サイメル1128、サイメル1170、マイコート212、(いずれもメチルーブチル化混合メラミン樹脂、オルネクスジャパン社製)、スミマールM-40S(メチル化メラミン樹脂、住友化学社製)、アミディアJ-820-60、アミディアL-127-60(いずれもブチル化メラミン樹脂、DIC社製)等を挙げることができる。
【0038】
アミノ樹脂(B)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
一実施態様において、水酸基含有樹脂(A)としてポリエステル樹脂を、アミノ樹脂(B)としてメラミン樹脂を用いる。
【0040】
本開示の塗料組成物において、水酸基含有樹脂(A)の樹脂固形分及びアミノ樹脂(B)の樹脂固形分の合計100質量部に対して、水酸基含有樹脂(A)を60~90質量部及びアミノ樹脂(B)を10~40質量部含み、好ましくは水酸基含有樹脂(A)を70~80質量部及びアミノ樹脂(B)を20~30質量部含む。水酸基含有樹脂(A)とアミノ樹脂(B)とを上記の範囲で含むことにより、水酸基含有樹脂(A)とアミノ樹脂(B)との硬化反応が良好に進行する。また、上記のような範囲で含むことにより、得られる塗膜外観が良好となり得る。また、本開示の塗料組成物から得られる塗膜の耐溶剤性、折り曲げ加工性、加工密着性及び耐薬品性が良好となる。
【0041】
<共有結合ブロック型酸触媒(C)>
共有結合ブロック型酸触媒(C)は、酸触媒がブロック剤によりブロックされた構造、例えば、酸触媒(特に、酸触媒の酸基)にブロック剤を共有結合させることによって、酸触媒を保護した構造を有する。ブロック剤が酸触媒を保護することにより、貯蔵時には硬化触媒としての作用が抑制され、塗料組成物の貯蔵安定性が良好になる。また、加熱等によってブロック剤が解離することで酸触媒が硬化触媒として作用し、水酸基含有樹脂(A)、アミノ樹脂(B)及びリン酸変性エポキシ樹脂(D)の反応を促進する。
本開示の塗料組成物において、水酸基含有樹脂(A)の樹脂固形分及びアミノ樹脂(B)の樹脂固形分の合計100質量部に対して、共有結合ブロック型酸触媒(C)の酸触媒部分を1~10質量部含み、好ましく1~7質量部含み、より好ましくは1~5質量部含む。共有結合ブロック型酸触媒(C)を上記の範囲で含むことにより、得られる塗料組成物の貯蔵安定性が良好となるとともに、硬化により、高い耐溶剤性、十分な折り曲げ加工性、加工密着性、耐薬品性を有する塗膜が形成される。
なお、上記酸触媒部分とは、例えば、共有結合ブロック型酸触媒(C)がスルホン酸にブロック剤を共有結合させた構造を有する場合には、スルホン酸を示す。
【0042】
通常、塗料組成物は、硬化速度を高めるために酸触媒を含むことが多い。しかしながら、酸触媒の含有量が増加すると、塗料組成物の貯蔵安定性が悪化する傾向にある。また、酸触媒として、ブロック剤により保護されていない酸触媒を用いる場合、又は、アミンで中和されている酸触媒(即ち、アミンブロック型の酸触媒)を用いる場合には、得られる塗料組成物の貯蔵安定性や形成される塗膜の物性が低下することがある。
これに対して、本開示の塗料組成物では、 共有結合ブロック型酸触媒(C)を含むことにより、硬化反応が促進され、更に、貯蔵安定性が良好になる。
【0043】
共有結合ブロック型酸触媒(C)は、酸触媒としてスルホン酸を含むことが好ましく、酸触媒がスルホン酸であることがより好ましい。前記スルホン酸におけるスルホン酸基の個数は、1分子あたり、1以上であり、例えば2以下であってよく、特に1である。
【0044】
一実施態様において、共有結合ブロック型酸触媒(C)は、リン酸化合物を除く。
【0045】
共有結合ブロック型酸触媒(C)は、酸触媒であるスルホン酸のスルホン酸基の全てにブロック剤が共有結合しているものが好ましい。
スルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本開示において、芳香族スルホン酸とは、芳香環に1以上のスルホン酸基(例えば1又は2、具体的には1のスルホン酸基)が直接結合した構造を有するものをいう。
芳香族スルホン酸において、芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等を挙げることができる。
芳香族スルホン酸において、芳香環を構成する炭素原子に炭素数1~15のアルキル基が1個以上結合していてもよく、より具体的には1個又は2個結合していてもよく、例えば1個結合していてもよい。
【0046】
好ましくは、共有結合ブロック型酸触媒(C)は、酸触媒であるスルホン酸にブロック剤であるグリシジル基を有する化合物を共有結合させ、ブロックした構造を有する。言い換えると、スルホン酸(具体的にはスルホン酸のスルホン酸基)がグリシジル基を有する化合物(具体的にはグリシジル基を有する化合物のグリシジル基)によってブロックされた構造を有する。
【0047】
更に、共有結合ブロック酸触媒(C)は、芳香族スルホン酸がグリシジル基を有する化合物によってブロックされた構造を有することが好ましい。言い換えると、芳香族スルホン酸のスルホン酸基がグリシジル基を有する化合物のグリシジル基でブロックされていることが好ましい。このような共有結合ブロック型酸触媒(C)を含むことにより、塗料組成物の貯蔵時の安定性をより向上できるとともに、加熱等によりグリシジル基が解離し、硬化反応をより促進し得る。
【0048】
グリシジル基でブロックされた芳香族スルホン酸としては、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸をグリシジル基でブロックしたものを挙げることができる。これらの中では、特に、ジノニルナフタレンスルホン酸をグリシジル基でブロックした触媒が好ましい。グリシジル基でブロックされた芳香族スルホン酸としては、市販品を用いてもよく、例えば、Nacure 1419(キング・インダストリーズ社製、商品名)等が挙げられる。
【0049】
共有結合ブロック型酸触媒(C)において、スルホン酸のブロックに用いるグリシジル基を有する化合物としては、分子中にグリシジル基を2つ以上有するエポキシ樹脂、又は分子中にグリシジル基を1つ有するグリシジルエーテル化合物が好ましい。このような化合物を用いることにより、得られる塗料組成物の貯蔵時の安定性をより向上できるとともに、加熱等によりグリシジル基が解離し、硬化反応をより促進し得る。
以下、ブロック剤として、分子中にグリシジル基を2つ以上有するエポキシ樹脂を用いた共有結合ブロック型酸触媒を、共有結合ブロック型酸触媒(C1)という場合があり、ブロック剤として、分子中にグリシジル基を1つ有するグリシジルエーテル化合物を用いた共有結合ブロック型酸触媒を、共有結合ブロック型酸触媒(C2)という場合がある。
【0050】
前記グリシジル基を有する化合物におけるグリシジル基の個数は、1分子あたり、1以上であり、例えば、5以下であってよく、3以下であってよい。
また、前記グリシジル基を有する化合物の数平均分子量は、100~10,000であることが好ましく、140~7,000であることがより好ましい。
【0051】
一実施態様において、スルホン酸のブロックに用いるグリシジル基を有する化合物は、分子中にグリシジル基を2つ以上有するエポキシ樹脂が好ましい。
スルホン酸のブロックに用いるエポキシ樹脂は、分子中にグリシジル基を2つ以上有するエポキシ樹脂であれば、特に限定されない。
上記エポキシ樹脂は、水酸基含有エポキシ樹脂(水酸基含有エポキシ樹脂変性物を含む)であってよい。
上記エポキシ樹脂として、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒等の触媒存在下で高分子量まで縮合させてなる樹脂;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;及びノボラック型エポキシ樹脂等を挙げることができ、これらの中では、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0052】
エポキシ樹脂の変性物としては、例えば、アクリル変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂を挙げることができる。例えば、アクリル変性エポキシ樹脂を例に挙げると、これは、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂又は上記ノボラック型エポキシ樹脂に、アクリル酸又はメタクリル酸等を含む重合性不飽和モノマー成分を反応させて調製することができる。また、ウレタン変性エポキシ樹脂を例に挙げると、これは、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂又は上記ノボラック型エポキシ樹脂にポリイソシアネート化合物を反応させて調製することができる。
【0053】
一実施態様において、エポキシ樹脂の変性物は、リン酸変性エポキシ樹脂を除く。
上記エポキシ樹脂としては市販品を用いてもよく、例えば、jER825、jER828、jER834、jER1004、jER1007、jER1009、jER1010、jER1255HX30(いずれもビスフェノールA型、三菱ケミカル社製)、jER1009F(ビスフェノールF型、三菱ケミカル社製)等を挙げることができ、jER1007、jER1009、jER1010が好ましい。
【0054】
上記エポキシ樹脂の数平均分子量は、2,000~7,000であることが好ましい。エポキシ樹脂の数平均分子量が上記範囲内であることにより水酸基含有樹脂(A)、アミノ樹脂(B)及びリン酸変性エポキシ樹脂(D)との硬化反応が十分に進行し、高い耐溶剤性、十分な折り曲げ加工性、加工密着性、耐薬品性を有する塗膜を形成できる。
【0055】
また、一実施態様において、スルホン酸のブロックに用いるグリシジル基を有する化合物は、分子中にグリシジル基を1つ有するグリシジルエーテル化合物が好ましい。
【0056】
スルホン酸のブロックに用いるグリシジルエーテル化合物は、分子中にグリシジル基を1つ有するグリシジルエーテル化合物であれば、特に限定されない。
上記グリシジルエーテル化合物としては、芳香族系グリシジルエーテル化合物、脂肪族系グリシジルエーテル化合物、脂環式系グリシジルエーテル化合物等を挙げることができ、これらの中では、芳香族系グリシジルエーテル化合物が好ましく、フェニルグリシジルエーテルがより好ましい。
【0057】
上記グリシジルエーテル化合物としては市販品を用いてもよく、例えば、フェニルグリシジルエーテル、o-クレジルグリシジルエーテル(いずれも芳香族系グリシジルエーテル化合物、四日市合成社製)、DY-BP、エポゴーセー2EH、エポゴーセーLA(D)、エポゴーセーAN(いずれも脂肪族系グリシジルエーテル化合物、四日市合成社製)等を挙げることができ、フェニルグリシジルエーテルが好ましい。
【0058】
上記グリシジルエーテル化合物の分子量は、140~200であることが好ましい。グリシジルエーテル化合物の分子量が上記範囲内であることにより水酸基含有樹脂(A)、アミノ樹脂(B)及びリン酸変性エポキシ樹脂(D)との硬化反応が十分に進行し、高い耐溶剤性、十分な折り曲げ加工性、加工密着性、耐薬品性を有する塗膜を形成できる。なお、本開示において、グリシジルエーテル化合物の分子量は、分子式より計算した値である。
【0059】
共有結合ブロック酸触媒(C)は、例えば、スルホン酸のスルホン酸基を、グリシジル基を有する化合物(具体的には、グリシジル基を2個以上有するエポキシ樹脂又はグリシジル基を1個有するグリシジルエーテル化合物。以下、この段落において同じ)のグリシジル基でブロックすることにより形成できる。具体的には、スルホン酸及びグリシジル基を有する化合物を、スルホン酸のスルホン酸基とグリシジル基を有する化合物のグリシジル基とがモル比で1:1~1:2の範囲となるような質量で計量後、容器に加え、例えば、90℃で120分間かくはんすることにより、スルホン酸基をグリシジル基でブロックし、共有結合ブロック酸触媒(C)を形成できる。
形成された共有結合ブロック酸触媒(C)と、水酸基含有樹脂(A)、アミノ樹脂(B)、リン酸変性エポキシ樹脂(D)及び必要に応じて他の成分とを混合することにより、塗料組成物を形成できる。
【0060】
<リン酸変性エポキシ樹脂(D)>
リン酸変性エポキシ樹脂(D)は、リン酸基[-OPO(OH)(OR)](ここでRは水素原子、フェニル基又は炭素数1~20のアルキル基であり、特に水素原子が好ましい。)を含有するものである。リン酸変性エポキシ樹脂(D)としては、水酸基含有樹脂(A)及びアミノ樹脂(B)に相溶するものを用いる。
本開示の塗料組成物において、水酸基含有樹脂(A)の樹脂固形分及びアミノ樹脂(B)の樹脂固形分の合計100質量部に対して、リン酸変性エポキシ樹脂(D)の固形分を1~10質量部含み、好ましくは1~5質量部含む。リン酸変性エポキシ樹脂(D)を上記の範囲で含むことにより、高い耐溶剤性、十分な折り曲げ加工性、加工密着性、耐薬品性を有する塗膜を形成できる。特に、硬化時間が短い場合であっても、硬化が十分に進行し、良好な物性を有する塗膜を形成できる。
【0061】
リン酸変性エポキシ樹脂(D)の数平均分子量は、400~6,000であることが好ましく、460~4,000であることがより好ましい。リン酸変性エポキシ樹脂(D)が、このような数平均分子量を有することにより、高い耐溶剤性、十分な折り曲げ加工性、加工密着性、耐薬品性を有する塗膜の形成にさらに寄与できる。
【0062】
リン酸変性エポキシ樹脂(D)は、例えば、エポキシ樹脂にリン酸系化合物を付加することにより得ることができる。具体的には、エポキシ樹脂とリン酸系化合物とを、エポキシ樹脂のグリシジル基とリン酸系化合物の有するリン酸基とがモル比で1:1~1:2となるような質量で混合し、例えば80℃で120分反応することにより得ることができる。
一実施態様において、上記エポキシ樹脂は、グリシジル基を両末端のみに有する。
一実施態様において、リン酸変性エポキシ樹脂(D)は、スルホン酸と反応したリン酸変性エポキシ樹脂を除く。
【0063】
リン酸変性エポキシ樹脂(D)において、上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、これらのエポキシ樹脂中のグリシジル基又は水酸基に各種変性剤が反応せしめられた変性エポキシ樹脂等を挙げることができ、これらの中では、ビスフェノール型のエポキシ樹脂を用いることが好ましく、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂を用いることがより好ましい。
エポキシ樹脂としては市販品を用いてもよく、例えば、jER825、jER828、jER834、jER1004、jER1007、jER1009、jER1010、jER1255HX30(いずれもビスフェノールA型、三菱ケミカル株式会社製)jER 1009F(ビスフェノールF型、三菱ケミカル社製)等を挙げることができ、jER828、jER834、jER1004、jER1007、jER1009が好ましい。
上記エポキシ樹脂の数平均分子量は、例えば変性するリン酸化合物がリン酸の場合370~3,800にあるのが好ましい。
上記エポキシ樹脂としては、アクリル変性エポキシ樹脂、ポリエステル変性エポキシ樹脂等を用いてもよい。
【0064】
一実施態様において、リン酸変性エポキシ樹脂(D)において、上記リン酸系化合物の分子量は、98~1,200である。
【0065】
リン酸変性エポキシ樹脂(D)において、上記リン酸系化合物としては、エポキシ樹脂にリン酸基を導入できるものであれば特に限定されないが、オルトリン酸、酸性リン酸エステル等を挙げることができる。
酸性リン酸エステルとは、リン酸(O=P(OH)))の3つの水素のうち、1又は2の水素が有機基で置き換わった構造をいう。ここで有機基とは、アルキル基(例えば、炭素数1~24)、アルキルエーテル基(例えば、R-ORO-で表され、Rは炭素数1~5のアルキル基、Rは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、好ましくはエチレン基、プロピレン基)、芳香族基を挙げることができる。酸性リン酸エステルの例としては、メチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドフォスフェート及びフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0066】
本開示の塗料組成物では、上記のように、水酸基含有樹脂(A)及びアミノ樹脂(B)とともに、共有結合ブロック型酸触媒(C)及びリン酸変性エポキシ樹脂(D)を含む。共有結合ブロック型酸触媒(C)とリン酸変性エポキシ樹脂(D)との双方を含むことにより、塗料組成物の貯蔵安定性、具体的には、貯蔵時の粘度の上昇を抑制できるとともに、短時間(例えば1~10秒、具体的には1~6秒)の加熱によっても硬化反応が十分に進行し、塗膜を形成できる。例えば、IH型炉では、短時間で昇温が可能となり、具体的には約6秒でPMTが220℃まで昇温が可能になっている。本開示の塗料組成物では、このようなIH型炉を用いた場合であっても、硬化反応が十分に進行し、良好な物性を有する塗膜を形成できる。
更に、本開示の塗料組成物を、例えば、170℃~280℃で加熱することにより硬化反応が十分に進行し、塗膜を形成できる。特に、本開示の塗料組成物は、比較的低温(例えば、170℃~220℃、具体的には180℃~220℃)で加熱した場合でも硬化反応が十分に進行し、塗膜外観、耐溶剤性、折り曲げ加工性、加工密着性、耐アルカリ性、耐酸性等の物性が良好な塗膜が得られる。比較的低温で加熱して得られた塗膜は、例えば270℃、280℃等の通常使用される温度で得られた塗膜と同様の物性を有する。
また、本開示の塗料組成物を用いると、短時間の加熱によって塗膜を形成した場合でも、塗膜外観、耐溶剤性、折り曲げ加工性、加工密着性、耐薬品性等の物性が良好な塗膜が得られる。この短時間の加熱によって形成された塗膜の物性は、通常の加熱時間(例えば25秒、30秒等)により形成された塗膜の物性と同等である。
【0067】
<その他の樹脂>
本開示により奏される効果を損なわない範囲で、塗料組成物は、塗料組成物分野で用いられるその他の樹脂を含むことができる。その他の樹脂としては、前記以外のポリエステル樹脂及びその変性物(ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂等);ウレタン樹脂及びその変性物(エステル系ウレタン樹脂、エーテル系ウレタン樹脂、カーボネート系ウレタン樹脂、エポキシ系ウレタン樹脂等);フェノール樹脂及びその変性物(アクリル変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂等);フェノキシ樹脂;アルキド樹脂及びその変性物(ウレタン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂等);フッ素樹脂等の樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
<アルカノールアミン(E)>
本開示の塗料組成物は、更にアルカノールアミン(E)を含み得る。アルカノールアミン(E)とは、1個以上のアルカノール基を有する化合物であり、特に、1個以上のアルカノール基を有するアミンである。なお、本開示において、アルカノール基とは、-R-OHで表される基を示す(ここで、Rは炭素数1以上のアルキレン基)。
アルカノールアミン(E)を含むことにより、塗料組成物の貯蔵安定性をより良好にするという利点がある。
【0069】
アルカノールアミン(E)は、1分子あたり、好ましくは1個以上のアミノ基と2個以上のアルカノール基とを有し、より1個以上のアミノ基と2又は3個のアルカノール基とを有し、更に好ましくは、1個のアミノ基と2又は3個のアルカノール基とを有する。
【0070】
一実施態様において、アルカノールアミン(E)の分子量は、60~200の範囲にある。
アルカノールアミン(E)のアルカノール基は、炭素原子を好ましくは1~3、より好ましくは2~3有する。
一実施態様において、アルカノールアミン(E)は、NR22 3-n(-R-OH)で表される。nは1~3の整数、好ましくは2又は3、R22は、それぞれ独立して、例えば、水素原子又は炭素数1~5(具体的には、炭素数1~3)のアルキル基であり、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~3(好ましくは炭素数2~3)のアルキレン基である。
アルカノールアミン(E)としては、特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、ジメチルアミノエタノール等のアルカノール基を1個有するアミン;ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノール基を2個有するアミン;トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノール基を3個有するアミンが挙げられ、これらの中では、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンが好ましく、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンがより好ましい。アルカノールアミン(E)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
アルカノールアミン(E)の含有量は、水酸基含有樹脂(A)の樹脂固形分及びアミノ樹脂(B)の樹脂固形分の合計100質量部に対して、1.0~10.0質量部であることが好ましく、1.0~4.0質量部であることがより好ましく、1.0~3.5質量部であることが更に好ましく、1.0~3.0質量部であってもよい。アルカノールアミン(E)を上記範囲で含むことにより、塗料組成物の貯蔵安定性を更に良好にするという利点がある。
【0072】
<その他の添加剤>
本開示の塗料組成物は、必要に応じて、上記以外のその他の添加剤を含有してもよい。
その他の添加剤としては、例えば、体質顔料;着色顔料、染料等の着色剤;光輝性顔料;骨材(樹脂粒子、シリカ粒子等);ワックス;溶剤;紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等);酸化防止剤(フェノール系、スルフォイド系、ヒンダードアミン系酸化防止剤等);可塑剤;カップリング剤(シラン系、チタン系、ジルコニウム系カップリング剤等);タレ止め剤;増粘剤;顔料分散剤;顔料湿潤剤;表面調整剤(シリコーン系、有機高分子系等);レベリング剤;色分かれ防止剤;沈殿防止剤;消泡剤;凍結防止剤;乳化剤;防腐剤;防かび剤;抗菌剤;安定剤等がある。これらの添加剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
体質顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカ、ガラス繊維等を挙げることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
一実施態様において、体質顔料の量は、水酸基含有樹脂(A)の樹脂固形分及びアミノ樹脂(B)の樹脂固形分の合計100質量部に対して1質量部以上40質量部以下であり、例えば、10質量部以上30質量部以下である。体質顔料の量がこのような範囲内であることにより、塗膜の耐傷付性を向上させる等の有利な効果がある。
【0074】
着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、コールダスト等の着色無機顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、アゾオレンジ、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド等の着色有機顔料;アルミニウム粉、アルミナ粉、ブロンズ粉、銅粉、スズ粉、亜鉛粉、リン化鉄、微粒化チタン等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
一実施態様において、塗料組成物は、遮熱顔料を含んでもよい。用いられる遮熱顔料としては特に限定されず、例えば、下記の遮熱顔料等を挙げることができる。なお、本開示において、遮熱顔料とは、近赤外波長域(波長:780nm~2,500nm)の光を吸収しないか、又は近赤外波長域(波長:780nm~2,500nm)の光の吸収率が小さい顔料を指す。
【0076】
上記遮熱顔料は、無機系遮熱顔料及び有機系遮熱顔料を含む。
無機系遮熱顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、チタン酸ナトリウム、酸化ケイ素、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化クロム、酸化鉄、酸化銅、酸化セリウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物系顔料;酸化鉄-酸化マンガン、酸化鉄-酸化クロム(例えば、大日精化社製のダイピロキサイドカラーブラック#9595、アサヒ化成工業社製のBlack6350)、酸化鉄-酸化コバルト-酸化クロム(例えば、大日精化社製のダイピロキサイドカラーブラウン#9290、ダイピロキサイドカラーブラック#9590)、酸化銅-酸化マグネシウム(例えば、大日精化製のダイピロキサイドカラーブラック#9598)、酸化マンガン-酸化ビスマス(例えば、アサヒ化成工業社製のBlack6301)、酸化マンガン-酸化イットリウム(例えば、アサヒ化成工業社製のBlack6303)等の複合酸化物顔料;シリコン、アルミニウム、鉄、マグネシウム、マンガン、ニッケル、チタン、クロム、カルシウム等の金属系顔料;更に、鉄-クロム、ビスマス-マンガン、鉄-マンガン、マンガン-イットリウム等の合金系顔料が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
有機系遮熱顔料としては、例えば、アゾ系顔料、アゾメチン系顔料、レーキ系顔料、チオインジゴ系顔料、アントラキノン系顔料(アントアンスロン顔料、ジアミノアンスラキノニル顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、アントラピリミジン顔料等)、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、キニフタロン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合せて用いることができる。
【0077】
光輝性顔料としては、例えば、アルミ箔、ブロンズ箔、スズ箔、金箔、銀箔、チタン金属箔、ステンレススチール箔、ニッケル・銅等の合金箔、箔状フタロシアニンブルー等の箔顔料を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
ワックスとしては、塗料用として当業者に知られているワックスが使用でき、例えば、マイクロクリスタリン、ポリエチレン、ポリプロピレン、パラフィン、カルナウバ及びそれらの変性物等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
溶剤としては、例えば、水;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系有機溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;3-メトキシブチルアセテート、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤;並びに、N-メチル-2-ピロリドン等の含窒素系有機溶剤;トルエン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリット、T-SOL 100、T-SOL 150(いずれも芳香族炭化水素系溶剤、JXTGエネルギー社製)等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
本発明の塗料組成物は、水系塗料であってもよく、有機溶剤系の塗料であってもよい。
【0081】
[塗料組成物の調製方法]
本開示に係る塗料組成物を調製する方法は、特に限定されない。例えば、ローラーミル、ボールミル、ビーズミル、ペブルミル、サンドグラインドミル、ポットミル、ペイントシェーカー又はディスパー等の混合機、分散機、混錬機等を選択して使用し、各成分を混合することにより、調製することができる。
【0082】
[塗膜の製造方法]
本開示の塗膜の製造方法は、
本開示の塗料組成物を鋼板等の被塗物に塗装し、塗装膜を形成する工程、及び、
被塗物を加熱し、前記塗装膜を乾燥及び/又は硬化させる工程
を含む。
【0083】
被塗物としては、例えば、溶融法又は電解法等により製造される亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板、アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、冷延鋼板等が挙げられる。また、これら鋼板又はめっき鋼板以外に、アルミニウム板(アルミニウム合金板を含む)等の金属板も塗装対象とすることができる。
【0084】
上記被塗物は、表面処理されていることが好ましい。具体的には、被塗物は、アルカリ脱脂処理、湯洗処理、水洗処理等の前処理が施された後に、化成処理が施されていることが好ましい。
化成処理は公知の方法で行ってよく、例えば、クロメート処理、リン酸亜鉛処理等の非クロメート処理等が含まれる。上記表面処理としては、使用する鋼板に応じて適宜選択することができるが、重金属を含まない処理が好ましい。このように化成処理を施した被塗物上に、本開示の塗料組成物を塗装することにより、塗膜の金属板面に対する密着性が向上するとともに耐食性も向上する。また、化成処理を施した金属板面に下塗り塗膜(プライマー塗膜)を形成し、その上に塗装することもできる。
【0085】
塗料組成物の塗装は、方法は特に限定しないが、ロールコーター、エアレススプレー、静電スプレー、カーテンフローコーター等、従来公知の方法を採用することができ、好ましくはロールコーター、カーテンフローコーターで塗装するのがよい。
【0086】
塗料組成物の塗装により形成された塗装膜を、乾燥及び/又は硬化させる温度、即ち、到達温度(鋼板等の被塗物が達する最高温度)は、例えば170℃~280℃、具体的には180℃~270℃であり、200℃~250℃であってもよい。乾燥及び/又は硬化時間は、例えば、1~10秒、具体的には、1~6秒という短時間で行うことができる。
塗装膜を、乾燥及び/又は硬化させる方法は特に限定しないが、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱等の加熱手段を用いることができる。
【0087】
即ち、本開示の塗膜の製造方法は、
本開示の塗料組成物を被塗物に塗装し、塗装膜を形成する工程、及び
前記塗装膜を、前記被塗物の到達温度が180℃~270℃であり、乾燥及び/又は硬化時間が1~10秒の条件下で、乾燥及び/又は硬化させる工程
を含んでいてもよい。
【0088】
塗装膜を焼き付け、樹脂を硬化させて得られる塗膜の膜厚(乾燥膜厚)は、通常1~30μmであり、例えば、上塗り塗膜である場合は、好ましくは5~30μmである。例えば、乾燥膜厚は、5~25μmであってもよい。
【0089】
なお本開示において、乾燥及び/又は硬化は、乾燥及び硬化の少なくとも一方を行うことをいい、好ましくは、乾燥及び硬化を行うことをいう。
【0090】
[プレコート金属板]
本開示のプレコート金属板は、金属板の少なくとも一方の面に本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜を有する。
例えば、本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜の膜厚は、5μm以上30μm以下であり、ある態様においては、膜厚は、10μm以上25μm以下である。
金属板としては、被塗物として上述したものを用いることができる。
【0091】
プレコート金属板が、金属板の一方の面に本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜を有する場合、他方の面は、既知の塗料組成物から形成される塗膜であってもよい。例えば、他方の面は、エポキシ樹脂を含む塗料組成物等、公知の塗料組成物から形成された塗膜を有していてもよい。
【0092】
プレコート金属板は、金属板と、本開示の塗料組成物から形成した塗膜との間に、下塗り塗膜を有してもよい。
下塗り塗料は従来公知のものであってよく、例えば、従来公知の非クロム系防錆塗料等が挙げられる。下塗り塗膜を有することで、本開示の塗料組成物から形成された塗膜の密着性、耐食性を高めることができる。
ある態様において、下塗り塗膜の膜厚は、3μm以上15μm以下の膜厚であり、例えば5μm以上10μm以下である。
【0093】
一の態様において、本開示のプレコート金属板は、
金属板の少なくとも一方の面に、本開示の塗料組成物を硬化後の膜厚が5~25μmとなるように塗装し、塗装膜を形成する工程、及び
前記塗装膜を、前記金属板の到達温度が180℃~270℃であり、乾燥及び/又は硬化時間が1~10秒の条件下で、乾燥及び/又は硬化させる工程
を含む方法により製造できる。
プレコート金属板の製造方法における、塗装膜の形成、塗装膜の乾燥及び/又は硬化は、上述した塗膜の製造方法と同様に行うことができる。
【実施例
【0094】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中「部」及び「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0095】
実施例、比較例及び参考例で用いた水酸基含有樹脂(A1)~(A13)の詳細は、表1A~1Cのとおりである。
【0096】
【表1A】
【0097】
【表1B】
【0098】
【表1C】
【0099】
なお、水酸基含有樹脂(A12)(エポキシ樹脂1)は、jER1007(三菱ケミカル社製;固形分濃度:100質量%)90質量部をシクロヘキサノン210質量部に溶解し、固形分濃度を30質量%に調整したものを用いた。
【0100】
<アミノ樹脂(B)>
アミノ樹脂(B1)~(B6)の詳細は、表2A及び2Bに示すとおりである。また、比較例で用いたイソシアネート化合物の詳細も表2Bに合わせて示す。
【0101】
【表2A】
【0102】
【表2B】
【0103】
<共有結合ブロック型酸触媒(C11)の製造例>
温度計、コンデンサー、滴下ロート及びかくはん機を備えた反応容器に、Nacure 1051(KING INDUSTRIES社製)37質量部を仕込み、窒素雰囲気下で90℃に昇温した。これに、エポキシ樹脂としてjER 1010(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)220質量部をメチルプロピレングリコール(日本乳化剤社製)220質量部に予め溶解させた混合溶液を、滴下ロートを通じて60分間で等速滴下した。その後、反応物温度を90℃で60分間保持し、共有結合ブロック型酸触媒(C11)を調製した。なお、合成後、共有結合ブロック型酸触媒(C11)の固形分酸価が0になったことを確認し、これによりスルホン酸基の全てにブロック剤が共有結合していることを確認した。
【0104】
<共有結合ブロック型酸触媒(C12)~(C28)の製造例>
各成分の種類及び量を、表に記載のように変更したこと以外は、(C11)の製造例と同様にして共有結合ブロック酸触媒(C12)~(C28)を調製した。また、(C11)の場合と同様、合成後、各共有結合ブロック型酸触媒の固形分酸価が0になったことを確認した。
【0105】
各成分及び調製した共有結合ブロック型酸触媒(C11)~(C28)の諸特数値を表3A~3Dに示す。
【0106】
<酸触媒(c31)、(c32)>
<酸触媒(c31)の製造例>
温度計、コンデンサー、滴下ロート及びかくはん機を備えた反応容器に、Nacure 1051(KING INDUSTRIES社製)185質量部を仕込み、窒素雰囲気下で40℃に昇温した。これに、トリエチルアミン(東京化成工業社製)20質量部をメチルプロピレングリコール(日本乳化剤社製)20質量部に予め溶解させた混合溶液を、滴下ロートを通じて60分で等速滴下した。その後、反応物温度を40℃で60分間保持し、酸触媒(c31)を調製した。なお、合成後、酸触媒(c31)の固形分酸価が0になったことを確認し、これによりスルホン酸基の全てにブロック剤が共有結合していることを確認した。
【0107】
調製した酸触媒(c31)及び(c32)の諸特数値を表3Bに示す。
【0108】
【表3A】
【0109】
【表3B】
【0110】
【表3C】
【0111】
【表3D】
【0112】
なお、表3A~3Dに記載した化合物は、以下のとおりである。
[スルホン酸]
・Nacure 1051:ジノニルナフタレンスルホン酸(KING INDUSTRIES社製)有効成分濃度:50質量%
・テイカキュアAC400S:ドデシルベンゼンスルホン酸(テイカ社製)有効成分濃度:40質量%
・テイカキュアAC700:パラトルエンスルホン酸(テイカ社製)有効成分濃度:25質量%
[エポキシ樹脂]
・jER 1004:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)数平均分子量:1,700、固形分濃度:100質量%
・jER 1007:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)数平均分子量:2,900、固形分濃度:100質量%
・jER 1009:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)数平均分子量:3,800、固形分濃度:100質量%
・jER 1010:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)数平均分子量:5,500、固形分濃度:100質量%
・jER1255HX30:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)数平均分子量:10,000、固形分濃度:100質量%
・jER 1009F:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)数平均分子量:2,900、固形分濃度:100質量%
[グリシジルエーテル化合物]
・フェニルグリシジルエーテル:芳香族系グリシジルエーテル化合物(四日市合成社製)分子量:150、有効成分濃度:100質量%
・o-クレジルグリシジルエーテル:芳香族系グリシジルエーテル化合物(四日市合成社製)分子量:164、有効成分濃度:100質量%
・DY-BP:脂肪族系グリシジルエーテル化合物(四日市合成社製、ブチルグリシジルエーテル)分子量:130、有効成分濃度:100質量%
・エポゴーセー2EH:脂肪族系グリシジルエーテル化合物(四日市合成社製、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル)分子量:186、有効成分濃度:100質量%
・エポゴーセーLA(D):脂肪族系グリシジルエーテル化合物(四日市合成社製、ラウリルグリシジルエーテル)分子量:242、有効成分濃度:100質量%
・エポゴーセーAN:脂肪族系グリシジルエーテル化合物(四日市合成社製、C(炭素数)12~13混合アルコールグリシジルエーテル)分子量:251、有効成分濃度:100質量%[その他]
・アミン化合物;トリエチルアミン(東京化成工業社製)、有効成分濃度:100質量%
・溶剤;メチルプロピレングリコール:プロピレングリコールモノメチルエーテル(日本乳化剤社製)
【0113】
<リン酸変性エポキシ樹脂(D1)の製造例>
温度計、コンデンサー、滴下ロート及びかくはん機を備えた反応容器に、85%リン酸水溶液 43質量部及びプロピレングリコールモノメチルエーテル 22質量部を仕込み、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。これに、エポキシ樹脂としてjER 834(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)179質量部をプロピレングリコールモノメチルエーテル32質量部に予め溶解させた混合溶液を、滴下ロートを通じて60分間で等速滴下した。その後、反応物温度を80℃で60分間保持し、リン酸変性エポキシ樹脂(D1)を調製した。
【0114】
<リン酸変性エポキシ樹脂(D2)~(D7)の製造例>
各成分の種類及び量を、表に記載のように変更したこと以外は、(D1)の製造例と同様にしてリン酸変性エポキシ樹脂(D2)~(D7)を調製した。各成分及び調製したリン酸変性エポキシ樹脂(D1)~(D7)の諸特数値を表4A及び表4Bに示す。
【0115】
【表4A】
【0116】
【表4B】
【0117】
なお、表4A及び表4Bに記載した化合物は、以下のとおりである。
[リン酸]
・85%リン酸:キシダ化学社製
[エポキシ樹脂]
・jER 825:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)数平均分子量:340、固形分濃度:100質量%
・jER 828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)数平均分子量:370、固形分濃度:100質量%
・jER 834:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)数平均分子量:470、固形分濃度:100質量%
・jER 1009:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)数平均分子量:3,800、固形分濃度:100質量%
・jER 1010:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製;数平均分子量)5,500、固形分濃度:100質量%
・jER 1009F:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)数平均分子量:2,900、固形分濃度:100質量%
[その他]
・溶剤;メチルプロピレングリコール:プロピレングリコールモノメチルエーテル(日本乳化剤社製)
【0118】
<アルカノールアミン(E)>
アルカノールアミン(E)の詳細は、表5A及び表5Bに示すとおりである。
【0119】
【表5A】
【0120】
【表5B】
【0121】
<塗料組成物1の製造例>
水酸基含有樹脂(A1)107.7質量部、溶剤としてT-SOL 100(JXTGエネルギー社製)2.4質量部、エチレングリコールモノブチルエーテル(ダウ・ケミカル社製)2.4質量部、顔料としていてTIPAQUE CR-97(酸化チタン、石原産業製)67.0質量部をディスパーでかくはん、混合し、混合物を得た。
次に、卓上式SGミル1500W型分散機(大平システム社製)に、得られた混合物全量とガラスビーズ(前記混合物の合計質量部と同量)を入れ、TIPAQUE CR-97の粒子径が10μm以下となるまで顔料分散を実施し、顔料分散塗料を調製した。
更に、前記顔料分散塗料179.5質量部に対して、アミノ樹脂(B1)30.0質量部、共有結合ブロック酸触媒(C11)38.5質量部、リン酸変性エポキシ樹脂(D1)3.9質量部を、ディスパーでかくはん、混合し、塗料組成物を得た。
得られた塗料組成物を、フォードカップNo.4で100秒(25℃)となるようT-SOL 100/エチレングリコールモノブチルエーテル=1/1(質量比)の混合溶液を用いて希釈し、塗料組成物1を得た。
【0122】
<塗料組成物2~69の製造例>
各成分の種類及び量を、表6A~6Pに記載のように変更したこと以外は、塗料組成物1の製造例と同様にして塗料組成物2~69を調製した。
【0123】
【表6A】
【0124】
【表6B】
【0125】
【表6C】
【0126】
【表6D】
【0127】
【表6E】
【0128】
【表6F】
【0129】
【表6G】
【0130】
【表6H】
【0131】
【表6I】
【0132】
【表6J】
【0133】
【表6K】
【0134】
【表6L】
【0135】
【表6M】
【0136】
【表6N】
【0137】
【表6O】
【0138】
【表6P】
【0139】
(実施例1~64、比較例1~12及び参考例1)
実施例1~64、比較例1~12及び参考例1として、それぞれ表6A~6Pに示す塗料組成物を用いて、評価を行った。評価結果を、表7A~7Pに示す。
なお、比較例11は、更に触媒としてTVS#Tin Lau(ジブチルスズジラウレート、日東化成社製;有効成分濃度:100質量%)を0.5質量部添加した塗料組成物を用いた。また、表7Nの比較例11における「(A)と(B)の固形分100質量部に対する(B)の質量部(固形分)」の値は、「(A)とポリイソシアネート化合物1の固形分100質量部に対するポリイソシアネート化合物1の質量部(固形分)」を意味する。
【0140】
また、実施例1の塗装鋼板は、以下の製造例に示すように製造したものである。
【0141】
<実施例1の塗装鋼板の製造例>
厚さ0.4mmの溶融亜鉛めっき鋼板をアルカリ脱脂した後、リン酸処理剤サーフコートEC2310(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)を、鋼板表面及び裏面に塗布することにより、ノンクロム化成処理を施し、乾燥した。
次に、鋼板の表面に、塗料組成物1を、乾燥塗膜が10μmとなるようにバーコーターを用いて塗装し、誘導加熱型インダクション・ヒーター型炉を用い、鋼板の到達温度(PMT)が220℃となる条件で6秒間焼付け(加熱)を行ない、表面塗膜を形成し、塗装鋼板を得た。
【0142】
<実施例2~64、比較例1~12及び参考例1の塗装鋼板の製造例>
実施例2~64、比較例1~12及び参考例1の塗装鋼板は、実施例1の塗装鋼板の製造例において、塗膜組成物、焼付け温度及び焼付け時間を表7A~7Pに記載の条件に変更して製造したものである。なお、表7A~7Pにおける「(A)と(B)の固形分100質量部に対する」は、「水酸基含有樹脂(A)の樹脂固形分及びアミノ樹脂(B)の樹脂固形分の合計100質量部に対する」を意味する。
【0143】
【表7A】
【0144】
【表7B】
【0145】
【表7C】
【0146】
【表7D】
【0147】
【表7E】
【0148】
【表7F】
【0149】
【表7G】
【0150】
【表7H】
【0151】
【表7I】
【0152】
【表7J】
【0153】
【表7K】
【0154】
【表7L】
【0155】
【表7M】
【0156】
【表7N】
【0157】
【表7O】
【0158】
【表7P】
【0159】
<評価項目>
1)貯蔵安定性
JIS K 5600-2-2(フローカップ法)に規定する方法に準拠し、フォードカップNo.4(上島製作所社製)を用いて評価した。
実施例、比較例及び参考例で得られた塗料組成物を、ディスパーを用いて1,000rpmで3分間かくはんした。かくはん後直ちにこの塗料を気泡が入らないように、塗料をカップ一杯に満たした。この際、塗料が下部流出口(オリフィス)から漏れないように出口を押さえた。その後、押さえを外し、塗料が流下するのと同時にストップウォッチで時間の計測を開始し、下部流出口(オリフィス)からの流下が連続な流れで無くなった時にストップウォッチを止め、その時の秒数を読み取り、時間を記録した(初期粘度)。なお、塗料組成物の温度は25℃とした。
また、初期粘度を測定した実施例、比較例及び参考例の塗料組成物を、それぞれ1/5L缶に8~9分目入れ、密閉した後、50℃の恒温室に静置した。その後、28日後に取り出し、前記と同様に粘度を測定した(経時粘度)。
初期粘度に対する経時粘度の比率(粘度比率)を下記式により算出し、貯蔵安定性を評価した。粘度比率が150%以内を、貯蔵安定性が良好であると判断した。
粘度比率(%)=経時粘度/初期粘度×100
【0160】
2)塗膜外観
実施例、比較例及び参考例で得られた塗膜の外観を目視により観察し、ワキの程度を、下記基準に従って評価した。
○:塗膜にワキが発生していない。
×:塗膜にワキが発生している。
【0161】
3)耐溶剤性
耐摩耗試験機IMC-155F(井元製作所社製)の評価台に、実施例、比較例及び参考例で得られた塗装鋼板を粘着テープで貼り付け、ラビング試験を実施した。測定条件は、摩耗材としてメチルエチルケトンを含ませた脱脂綿をガーゼ4枚で包んだものを用い、荷重2kgf、往復速度30回/分、往復距離70mm、往復回数200回とした。下地鋼板の素地が露出するまでのラビング往復回数を計測し、以下の基準により評価した。3点以上を合格とし、5点を良好とした。なお、試験条件は、温度23℃、湿度60RH%とした。
5点:200回以上
4点:100回以上200回未満
3点:50回以上100回未満
2点:10回以上50回未満
1点:10回未満
【0162】
4)加工性(折り曲げ試験)
実施例、比較例及び参考例で得られた塗装鋼板を5cm×3cmに切断し、ハゼ折り機(上島製作所社製)を用いて、塗膜面が表側になるように予備曲げをした。その試験片に同一の厚み(0.4mm)の鋼板を5枚挟み、プレス機(協立工業社製)にて折り曲げ加工した。加工部分の塗膜の状態(クラック)を15倍ルーペで観察し、加工性を下記基準により評価した。4点以上を合格とした。なお、試験条件は、温度23℃、湿度60RH%とした。
5:加工部分にクラックが認められない。
4:加工部分の面積の(0%を超え)20%未満にクラックが認められる。
3:加工部分の面積の20%以上50%未満にクラックが認められる。
2:加工部分の面積の50%以上80%未満にクラックが認められる。
1:加工部分の面積の80%以上にクラックが認められる。
【0163】
5)加工性(密着性)
実施例、比較例及び参考例で得られた塗装鋼板を5cm×3cmに切断し、ハゼ折り機(上島製作所社製)を用いて、塗膜面が表側になるように予備曲げをした。その試験片に同一の厚み(0.4mm)の鋼板を2枚挟み、プレス機(協立工業社製)にて折り曲げ加工した。塗装鋼板の加工部にセロハンテープ(商標)(LP-24、ニチバン社製)を密着させ、一気に剥離し、テープで剥離した部分の外観を15倍ルーペで観察し、加工密着性を下記基準により評価した。4点以上を合格とした。なお、試験条件は、温度23℃、湿度60RH%とした。
5:テープ剥離の部分に金属の素地が認められない。
4:テープ剥離の部分の面積の(0%を超え)20%未満に金属の素地が認められる。
3:テープ剥離の部分の面積の20%以上50%未満に金属の素地が認められる。
2:テープ剥離の部分の面積の50%以上80%未満に金属の素地が認められる。
1:テープ剥離の部分の面積の80%以上に金属の素地が認められる。
【0164】
6)耐アルカリ性試験
実施例、比較例及び参考例で得られた塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、各試験片を、23℃の5%水酸化ナトリウム水溶液に48時間浸漬した後、取り出し、水で洗浄した後、20℃で2時間乾燥した。この塗装鋼板試験片について、ASTM D714-56に従って平面部のフクレ評価を行なった。ここで、ASTM D714-56は、各フクレの大きさ(平均径)と密度について、標準判定写真と対比して評価し、等級記号を示すものである。大きさについては8(直径約1mm)、6(直径約2mm)、4(直径約3mm)、2(直径約5mm)の順に4段階、密度については、小さい方からF、FM、M、MD、Dの5段階に級別するものであり、フクレがなければ、10とした。8FM以上の評点を合格とした。
【0165】
7)耐酸性試験
実施例、比較例及び参考例で得られた塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、各試験片を、23℃の5%硫酸水溶液に48時間浸漬した後、取り出し、水で洗浄した後、20℃で2時間乾燥した。この塗装鋼板試験片についてASTM D714-56に従って平面部のフクレを目視観察し、耐酸性の評価を行なった。8FM以上の評点を合格とした。
【0166】
上記表に示されるように、実施例1~64では、塗料組成物の貯蔵安定性が良好な結果となった。
実施例のうち、実施例1~57では、焼付け温度を220℃、焼付け時間を6秒間として塗膜を形成した。これらの実施例では、塗装外観、耐溶剤性、折り曲げ加工性加工密着性、耐アルカリ性、耐酸性の全てにおいて良好な物性を有する塗膜が得られた。
実施例62、1、63及び64は、いずれも焼付け温度を220℃とする一方で、焼付け時間をそれぞれ、1秒、6秒、10秒及び25秒とした実施例である。実施例62では、焼付け時間を1秒としたにも関わらず、良好な物性を有する塗膜が得られており、1秒という短時間であっても十分に硬化されていることが確認できた。実施例63では、焼付け時間を10秒とし、実施例64では、焼付け時間を25秒とした。これらの実施例においても、良好な物性を有する塗膜が得られた。即ち、本発明の塗料組成物を用いると、短時間であっても十分に硬化されており、更に、短時間の焼付けで得られた塗膜(例えば、実施例62、1、63)は、比較的長時間の焼付けで得られた塗膜(実施例64)と同様の良好な物性を有することが分かった。
実施例58、59、1、60及び61は、いずれも焼付け時間を6秒とする一方で、焼付け温度をそれぞれ180℃、170℃、220℃、270℃及び280℃とした実施例である。例えば実施例58、59では、低い焼付け温度で塗膜を形成したにも関わらず、良好な物性を有する塗膜が得られており、本発明の塗料組成物では低温で焼付けた場合であっても十分に硬化されていることが確認できた。また、実施例60、61では、比較的高い焼付け温度で塗膜を形成し、本発明の塗料組成物では良好な物性を有する塗膜が得られることが確認できた。
【0167】
比較例1~12では、塗料組成物の貯蔵安定性と、短時間での硬化とが両立できていないことが示されている。以下、比較例毎に詳細に記載する。
比較例1の塗料組成物は、水酸基含有樹脂(A1)とアミノ樹脂(B1)との合計100質量部に対して、水酸基含有樹脂(A1)を95質量部、アミノ樹脂(B1)を5質量部含む。比較例1で形成された塗膜の耐溶剤性、耐アルカリ性及び耐酸性の結果が良好でなかった。即ち、比較例1では、220℃で6秒の加熱では十分に硬化反応が進まず、良好な物性を有する塗膜が得られていないことが分かる。
比較例2の塗料組成物は、水酸基含有樹脂(A1)とアミノ樹脂(B1)との合計100質量部に対して、水酸基含有樹脂(A1)を50質量部、アミノ樹脂(B1)を50質量部含む。比較例2で形成された塗膜の塗膜外観、折り曲げ加工性及び加工密着性の結果が良好でなかった。即ち、比較例2では、220℃で6秒の加熱では硬化反応が適切に進まず、良好な物性を有する塗膜が得られていないことが分かる。
比較例3の塗料組成物では、共有結合ブロック型酸触媒(C11)の含有量が少なく、比較例5の塗料組成物では、共有結合ブロック型酸触媒(C11)の含有量が多い。比較例3で形成された塗膜では、耐溶剤性、耐アルカリ性及び耐酸性の結果が良好でなく、比較例5で形成された塗膜では、塗装外観、折り曲げ加工性及び、加工密着性の結果が良好でなかった。即ち、比較例3及び5では、220℃で6秒の加熱では適切な硬化反応が進まず、良好な物性を有する塗膜が得られていないことが分かる。
比較例4の塗料組成物は、共有結合ブロック型酸触媒(C)を含まない。比較例4で形成された塗膜は、耐溶剤性、加工密着性、耐アルカリ性及び耐酸性の結果が良好でなかった。即ち、比較例4では、220℃で6秒の加熱では十分に硬化反応が進まず、良好な物性を有する塗膜が得られていないことが分かる。
比較例6の塗料組成物では、リン酸変性エポキシ樹脂(D1)の含有量が少なく、比較例8の塗料組成物では、リン酸変性エポキシ樹脂(D1)の含有量が多い。比較例6で形成された塗膜では、耐溶剤性、耐アルカリ性及び耐酸性の結果が良好でなく、比較例8で形成された塗膜では、塗膜外観、折り曲げ加工性及び加工密着性の結果が良好でなかった。即ち、比較例6及び8では、220℃で6秒の加熱では適切な硬化反応が進まず、良好な物性を有する塗膜が得られていないことが分かる。
比較例7の塗料組成物は、リン酸変性エポキシ樹脂(D)を含まない。比較例7で形成された塗膜は、耐溶剤性、加工密着性、耐アルカリ性及び耐酸性の結果が良好でなかった。即ち、比較例7では、220℃で6秒の加熱では十分に硬化反応が進まず、良好な物性を有する塗膜が得られていないことが分かる。
比較例9の塗料組成物は、酸触媒としてアミンブロック型酸触媒(酸触媒1(c31))を含み、比較例10の塗料組成物は、酸触媒としてブロックしていないスルホン酸(酸触媒2(c32))を含む。これらの比較例では、塗料組成物の粘度が上昇し、形成された塗膜は、外観、耐溶剤性、加工性密着性、耐アルカリ性及び耐酸性が良好でなかった。即ち、比較例9及び10では、塗料組成物の貯蔵安定性が大幅に低下し、塗膜の形成においては220℃で6秒の加熱では適切に硬化反応が進まず、良好な物性を有する塗膜が得られなかった。比較例10では、貯蔵時にスルホン酸が硬化触媒として作用し、その結果、塗料組成物の粘度が上昇したと考えられる。比較例9では、スルホン酸をブロックしているアミン化合物が、貯蔵時にスルホン酸から解離し、このスルホン酸が硬化触媒として作用したと考えられる。一般的に塗膜の硬化過程では、塗装した膜から溶剤の蒸発が起こり、次に塗膜の硬化が始まる。比較例9、10では、塗膜の硬化過程において、溶剤の蒸発が終わる前から触媒が働き硬化を促進するため、硬化後の塗膜外観においてワキと呼ばれるピンホール状の穴が発生したと考えられる。このワキが、耐溶剤性試験における素地の露出及び加工密着性試験における塗膜剥離を引き起こしたと考えられる。
比較例11の塗料組成物は、硬化剤として、アミノ樹脂ではなく、ポリイソシアネート化合物を含む。比較例11で形成された塗膜は、耐溶剤性、加工密着性、耐アルカリ性及び耐酸性の結果が良好でなかった。即ち、比較例11では、220℃で6秒の加熱では十分に硬化反応が進まず、良好な物性を有する塗膜が得られていないことが分かる。実施例のようにアミノ樹脂を用いた場合には、酸触媒存在下で水酸基含有樹脂やリン酸変性エポキシ樹脂との硬化反応に加え、自己縮合が起こり、十分に硬化反応が進むと考えられる。しかし、比較例11のようにイソシアネート化合物を用いた場合には、水酸基含有樹脂、リン酸変性エポキシ樹脂との硬化反応は起こるものの自己縮合反応は起こらず、十分に硬化反応が進まなかったと考えられる。また、ポリイソシアネート化合物は、ブロック剤でブロックされているため、硬化反応が進むためにはイソシアネートの反応前にブロック剤が解離する必要があるが、6秒という短時間では十分にブロック剤が解離できず、硬化反応が進まなかったと考えられる。
【0168】
参考例1では、一般的なプレコート鋼板用塗料組成物を用いた。この塗料組成物は、共有結合ブロック型酸触媒(C)及びリン酸変性エポキシ樹脂(D)を含まない。参考例1の塗料組成物は、貯蔵安定性の評価は良好であり、焼付け温度200℃で25秒加熱することにより、良好な物性を有する塗膜が得られている。この参考例1の塗料組成物を用い、焼付け温度220℃で6秒加熱したものが比較例12である。比較例12で形成された塗膜は、塗膜外観、耐溶剤性、折り曲げ加工性、加工密着性、耐アルカリ性及び耐酸性の結果が良好でなかった。即ち、比較例12では、焼付け温度220℃で6秒の加熱では十分に硬化反応が進まず、良好な物性を有する塗膜が得られていないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本開示の塗料組成物は、貯蔵安定性が良好であり、かつ、短時間での焼付けによって硬化反応が進行し、更に短時間の焼付けであっても良好な物性を有する塗膜を形成できる。本開示の塗料組成物は、IH型炉のように、炉長が短縮された炉であっても硬化反応が良好に進行し、良好な物性を有する塗膜の形成が可能になる。