(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】鉄筋の防錆方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20240920BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20240920BHJP
E04B 1/64 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C23F11/00 G
E01D19/12
E04B1/64 Z
(21)【出願番号】P 2023128227
(22)【出願日】2023-08-07
【審査請求日】2023-12-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523270221
【氏名又は名称】Short Bound株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170449
【氏名又は名称】山本 英彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 利希也
(72)【発明者】
【氏名】森 一
(72)【発明者】
【氏名】池内 祐輔
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-011657(JP,A)
【文献】特開2003-166347(JP,A)
【文献】特開2007-132151(JP,A)
【文献】特開2015-229818(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0128075(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0059998(KR,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0362160(KR,Y1)
【文献】中国特許出願公開第107355085(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00 - 11/18
E01D 19/12
E04B 1/64
E04G 21/24 - 21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート製品における露出した鉄筋部の防錆方法であって、
複数の前記鉄筋部に対して防錆剤を含む樹脂製シートを被せる被覆ステップと、
前記樹脂製シートをさらに防水シートで被う防水ステップと、
前記樹脂製シートおよび前記防水シートを固定する固定ステップとを含む、鉄筋の防錆方法。
【請求項2】
露出した複数の鉄筋部を有し、
複数の前記鉄筋部を被う樹脂製シートと、
前記樹脂製シートを被う防水シートと、
前記樹脂製シートおよび前記防水シートを前記鉄筋部に固定する固定部材とを備え、
前記
樹脂製シートは防錆剤を含むことを特徴とする、プレキャストコンクリート製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保管時のプレキャストコンクリートの鉄筋の防錆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリート構造物の建築において、プレキャストコンクリート工法がある。コンクリート構造物は通常、建設現場で型枠を設置し、そこにコンクリートを打ち込んで造られるのに対して、プレキャストコンクリート工法とは、建設現場とは異なる工場などの設備のある場所で事前に鉄筋が用意された型枠にコンクリートを流し込んで形成・硬化させることによりプレキャストコンクリート製品を製造し、建設現場に運んで組み立てる工法である。
【0003】
プレキャスト製品は、組み立てを行う建設現場に運ばれるまでに所定の期間保管され、この保管されている期間、例えば1年~1年半の期間にコンクリートの材料が馴染み強度が増加する。
【0004】
ところで、鉄筋コンクリートの構造物における鉄筋は、コンクリート構造物の強度と耐久性を確保するために重要な役割を果たしている。鉄筋は湿度や塩分などの影響で錆びが生じる可能性があり、その結果、構造物全体の寿命が縮まる。
【0005】
したがって、防錆のために鉄筋部に防錆処理を施し、コンクリート構造物の強度と耐久性を確保することがある。例えば、特許文献1に記載の高耐久床版においては、プレキャストコンクリート製の高耐久床版において突出したネジ加工部に防錆塗装することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の記載ではプレキャストコンクリート製品の組み立て時に防錆処理することが記載されているものの、プレキャストコンクリート工法においては、鉄筋が埋め込まれたプレキャストコンクリート製品を建設現場に運ぶまで保管する必要があり、保管期間は、長期に及ぶことがほとんどで、コンクリートから露出する鉄筋を保管中に錆びることを防ぐ方法が重要となる。
【0008】
(1)本発明に係る鉄筋の防錆方法は、プレキャストコンクリートに設けられ露出した鉄筋の防錆方法であって、前記鉄筋に対して防錆剤を含む樹脂製袋を被せる被覆ステップと、前記防錆樹脂製袋を固定する固定ステップとを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る防錆方法によれば、防錆剤を含む樹脂製袋を各鉄筋部に直接被せることにより、袋内に防錆材が充満した状態を維持し、鉄筋の防錆効果を容易に向上させることができる。鉄筋部が十分に防錆されることで、プレキャストコンクリートの耐久性と寿命が延長され、コンクリートの劣化や補修コストを軽減する。
【0010】
(2)前記した鉄筋の防錆方法は、前記樹脂製袋は、一端が開口し、他端が閉口し、前記一端から他端までの距離は、前記露出した鉄筋に長さに対応しており、前記被覆ステップにおいて、前記開口を鉄筋の一端から被せ、鉄筋の他端まで前記樹脂袋を延ばす工程を含み、前記固定ステップは、前記樹脂製袋の前記開口を固定する工程を特徴とする。
【0011】
この防錆方法によれば、樹脂製袋の一端が開口し、他端が閉口している設計により、鉄筋の一端から他端までを全長被覆することができる。これにより、露出した鉄筋全体を防錆することができ、鉄筋の腐食を最小限に抑えることができる。
【0012】
(3)本発明に係る他の鉄筋の防錆方法は、プレキャストコンクリート製品における露出した鉄筋部を防錆する。鉄筋の防錆方法は、複数の前記鉄筋部に対して防錆剤を含む樹脂製シートを被せる被覆ステップと、前記樹脂製シートをさらに防水シートで被う防水ステップと、前記防錆樹脂製シートおよび前記防水シートを固定する固定ステップとを含む。
【0013】
本発明に係る防錆方法によれば、防錆剤を含む樹脂製シートを鉄筋に直接被せることにより、鉄筋の防錆効果を容易に向上させることができる。また、樹脂シートの上から防水シートを被せることにより、水分の侵入を防ぐとともに、樹脂製シートの含む防錆材が外側に拡散することを防ぎ、防錆効果が向上する。これにより、鉄筋部が十分に防錆されることで、プレキャストコンクリートの耐久性と寿命が延長され、コンクリートの劣化や補修コストを軽減する。
【0014】
(4)本発明に係るプレキャストコンクリート製品は、露出した鉄筋部を有し、前記鉄筋部を被う樹脂製袋と、前記樹脂製袋を前記鉄筋部に固定する固定部材とを備え、前記樹脂製袋は防錆剤を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係るプレキャストコンクリート製品によれば、防錆剤を含む樹脂製袋を鉄筋に直接被せることにより、鉄筋の防錆効果を容易に向上させることができる。鉄筋部が十分に防錆されることで、プレキャストコンクリートの耐久性と寿命が延長され、コンクリートの劣化や補修コストを軽減する。
【0016】
(5)本発明に係る他のプレキャストコンクリート製品は、露出した複数の鉄筋部を有し、複数の前記鉄筋部を被う樹脂製シートと、前記樹脂製シートを被う防水シートと、前記樹脂製シートおよび前記防水シートを前記鉄筋部に固定する固定部材とを備え、前記樹脂製シートは防錆剤を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係るプレキャストコンクリート製品によれば、防錆剤を含む樹脂製シートを鉄筋に直接被せることにより、鉄筋の防錆効果を容易に向上させることができる。また、樹脂シートの上から防水シートを被せることにより、水分の侵入を防ぐとともに、樹脂製シートの含む防錆材が外側に拡散することを防ぎ、防錆効果が向上する。これにより、鉄筋部が十分に防錆されることで、プレキャストコンクリートの耐久性と寿命が延長され、コンクリートの劣化や補修コストを軽減する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プレキャストコンクリートの鉄筋に対して防錆剤を含む樹脂製袋また防錆剤を含む樹脂製シートの使用により、鉄筋が錆から保護される。これにより、鉄筋の寿命が延長され、プレキャストコンクリート工法に構造物全体の耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る防錆材を含む樹脂製袋を示す平面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るプレキャストコンクリート製品を示す斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るプレキャストコンクリートに樹脂製袋を被せる工程を示す側面図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る防錆材を含む樹脂製シートを示す平面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係るプレキャストコンクリート製品を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係るプレキャストコンクリートに樹脂製シートを被せた状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の実施形態に係るプレキャストコンクリート製品2について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、本発明に係る樹脂製袋1は、気化性の防錆剤を含有するポリエチレン(PE)からなり、一端11が開口し、他端12が底を形成するように閉口して長尺の平底袋を形成している。本実施形態において、樹脂製袋1は、厚さ0.1mmのポリエチレンチューブにインフレーション成型することで形成されている。樹脂製袋1の長さは、露出した鉄筋の長さに対応している。
【0022】
図2に示すように、保管時に樹脂製袋1を使用するプレキャストコンクリート製品2は、コンクリート部21と、コンクリート部21から露出する鉄筋部22とを有する。鉄筋部22は、一部をコンクリート部21に埋め込まれており、コンクリート部21から突出するように他の一部を露出させている。本実施形態において、鉄筋部22は、10本設けられており、直径5cmで長さ100cmの概略円柱形状である。
【0023】
図3に示すように、樹脂製袋1は(A)~(D)の順にプレキャストコンクリート製品2に装着される。
【0024】
図3(A)に示すように、一端11から他端12までの距離が、露出した鉄筋部22の長さに対応した樹脂製袋1が準備される。
【0025】
図3(B)に示すように、開口している一端11から露出した鉄筋部22に樹脂製袋1が被せられる。
【0026】
図3(C)に示すように、閉口している他端が鉄筋部22の先端に位置し、開口している一端11が鉄筋部22の根元に届くまで鉄筋部22に樹脂製袋1が被せられる。
【0027】
図3(D)に示すように、樹脂製袋1は、プレキャストコンクリート製品2の鉄筋部22を被うようを被せられた状態で、鉄筋部22の根元部分において、樹脂製袋1の開口部付近をテープ3で固定する。これにより、樹脂製袋1内部に水分が侵入することを防止されるとともに、防錆剤が外部に流出することを防止できる。
【0028】
第1の実施形態において、樹脂製袋1の開口部付近をテープで固定する形態について説明した。しかし、樹脂製袋1の開口部付近を固定する固定部材は、輪ゴムであってもよいし、マジックテープ(登録商標)を設けたバンドであってもよく、樹脂製袋1を鉄筋部22に固定し、水分の侵入および防錆剤の流出を防げれば他の固定部材であってもよい。
【0029】
第1の実施形態において樹脂製袋1の長さは、露出した鉄筋の長さに対応している形態について説明した。しかし、樹脂製袋の長さは、露出した鉄筋より長くてもよい。
【0030】
第1の実施形態において、樹脂製袋1は平底袋である形態について説明した。しかし、樹脂製袋1は他の形態の袋であってもよい。また、樹脂製袋1はインフレーション成型により形成される形態について説明した。しかし、樹脂製袋は他の成型方法により形成されてもよい。
【0031】
第1の実施形態において、樹脂製袋1は、直径5cmで長さ100cmの概略円柱形状である鉄筋部に対応した形態について説明した。しかし、樹脂製袋は、鉄筋部を適切に被うように種々の形状とすることができる。
【0032】
次に、本発明の第2の実施形態に係るプレキャストコンクリート製品102について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0033】
図4に示すように、本発明に係る樹脂製シート101は、気化性の防錆剤を含有するポリエチレン(PE)からなり、矩形の形状を有する。本実施形態において、樹脂製シート101は、厚さ0.1mmのポリエチレンシートを切断することで形成されている。樹脂製シート101の大きさは、プレキャストコンクリート製品102および露出した鉄筋122に対応している。
【0034】
図5に示すように、保管時に樹脂製シート101を使用するプレキャストコンクリート製品102は、コンクリート部121と、コンクリート部121から露出する鉄筋部122とを有する。鉄筋部122は、一部をコンクリート部121に埋め込まれており、コンクリート部121から突出するように他の一部を露出させている。本実施形態において、鉄筋部122は、5本設けられており、直径5cmで露出している部分は逆U字形状とされている。
【0035】
図6に示すように、プレキャストコンクリート製品102は、鉄筋部122に樹脂製シート101を被せられたのち、防水シート104で覆われる。防水シート104は、従来よく知られるブルーシートである。
【0036】
まず、鉄筋部122が露出した状態のプレキャストコンクリート製品102が用意される。
【0037】
その後、矩形の樹脂製シート101が鉄筋部122に沿うように被せられる。
【0038】
その後、樹脂製シート101の外側から防水シート104が樹脂製シート101に沿うように外側被せられる。防水シート104は、樹脂製シート101より大きい寸法であるとよい。
【0039】
その後、樹脂製シート101および防水シート104がロープ103により固定される。
【0040】
これにより、防水シート104の内部に水分が侵入することを防止される。また、樹脂製シート101から拡散される防錆材が防水シート104によりシールドされ、防水シート104の外側に拡散することを防止できる。
【0041】
第2の実施形態において、樹脂製シート101および防水シート104は、ロープ103を固定部材として固定する形態について説明した。しかし、固定部材は、樹脂製シート101および防水シート104をプレキャストコンクリート製品102に固定できれば、バンドなどの他の固定部材であってもよい。
【0042】
第2の実施形態においてプレキャストコンクリート製品102は、逆U字形状の露出部を有する鉄筋部122を樹脂製シート101で覆う形態について説明した。しかし、プレキャストコンクリート製品102の鉄筋部122は、他の形状であってもよく、樹脂製シート101は、プレキャストコンクリート製品102および鉄筋部122の形状に対応した他の形状、大きさであってもよい。
【0043】
さらに、第1および第2の実施形態において、樹脂製袋1および樹脂製シート101は、防錆剤を含有するポリエチレンからなる形態について説明した。しかし、樹脂製袋および樹脂製シートは、防錆材を含有し防錆機能を有すれよく、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂などを主成分とする樹脂材料から形成されてもよい。
【0044】
第1および第2の実施形態において、樹脂製袋1および樹脂製シート101は、単層構造である形態について説明した。しかし、樹脂製袋1および樹脂製シート101は、防錆材を含有する層と、防錆剤を通過させないシールド層とを含む複数層構造であってもよい。
【0045】
第1および第2の実施形態において、樹脂製袋1および樹脂製シート101は、厚さ0.1mmである形態について説明した。しかし、樹脂製袋および樹脂製シートは、0.05mm以上であればよく、厚さ0.08mm~0.2mmの範囲であることが望ましい。
【0046】
上記の詳細な説明は、本発明の特定の実施形態を提供するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、実施の形態についての示唆を基に、本発明の範囲内で様々な変更や修正を行うことができる。また、そのような変更や修正も本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明はプレキャストコンクリート製品の鉄筋部の防錆方法に関する。
【符号の説明】
【0048】
1 樹脂製袋
2 プレキャストコンクリート製品
3 テープ(固定部材)
11 一端(開口)
12 他端(閉口)
21 コンクリート部
22 鉄筋部
101 樹脂製シート
102 プレキャストコンクリート製品
103 ロープ(固定部材)
104 防水シート
121 コンクリート部
122 鉄筋部
【要約】 (修正有)
【課題】プレキャストコンクリート工法においては、鉄筋が埋め込まれたプレキャストコンクリート製品を建設現場に運ぶまで保管する必要があり、保管期間は、長期に及びことがほとんどで、コンクリートから露出する鉄筋を保管中に錆びさせない方法が重要となる。
【解決手段】防錆方法は、プレキャストコンクリートに設けられ露出した鉄筋の防錆方法であって、前記鉄筋に対して防錆剤を含む樹脂製袋1を被せる被覆ステップと、前記防錆樹脂製袋1を固定する固定ステップとを含むことを特徴とする。この防錆方法によれば、防錆剤を含む樹脂製袋1を鉄筋に直接被せることにより、鉄筋の防錆効果を容易に向上させることができる。鉄筋部22が十分に防錆されることで、プレキャストコンクリートの耐久性と寿命が延長され、コンクリートの劣化や補修コストを軽減する。
【選択図】
図3