(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】回転機器の診断装置
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240920BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G05B23/02 302N
(21)【出願番号】P 2024023443
(22)【出願日】2024-02-20
【審査請求日】2024-02-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522092206
【氏名又は名称】株式会社サンワ電装
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大津 健一
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-115481(JP,A)
【文献】特開2011-027452(JP,A)
【文献】特開2015-021901(JP,A)
【文献】特開平06-307921(JP,A)
【文献】米国特許第09913006(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保全対象とする複数の回転機器の回転部にそれぞれ設置され、各回転部から少なくとも振動データを検出するセンサと、
各回転部について保守が実施された時点を前記回転機器の診断の基準時として入力する基準時入力部と、
該基準時入力部に入力された前記基準時から所定時間を経過したときの、各センサで検出した各回転部の前記振動データを取得し且つ蓄積するデータ蓄積部と、
該データ蓄積部で蓄積した前記振動データに基づいて、各回転部について所定範囲を有する基準値を作成する基準値作成部と、
前記基準値を記憶する基準値記憶部と、
所定の診断時において、前記センサで検出した各回転部の前記振動データを、診断時データとして取得する診断時データ取得部と、
前記診断時データ取得部で取得した前記診断時データを、前記基準値記憶部から読み出した対応する各回転部における前記基準値と比較して、前記診断時データが前記基準値の上限を超える場合又は前記基準値の下限未満の場合に、異常又は注意と診断し、前記診断時データが前記基準値の範囲内の場合に、正常と診断する診断部とを有
しており、
前記診断装置は、少なくとも前記診断部による診断結果が表示される表示部を有しており、
該表示部は、前記保守が実施されたときに、前記基準時入力部への前記基準時の入力を促す表示をする、入力促進部を有していることを特徴とする、回転機器の診断装置。
【請求項2】
保全対象とする複数の回転機器の回転部にそれぞれ設置され、各回転部から少なくとも振動データを検出するセンサと、
各回転部について保守が実施された時点を前記回転機器の診断の基準時として入力する基準時入力部と、
該基準時入力部に入力された前記基準時から所定時間を経過したときの、各センサで検出した各回転部の前記振動データを取得し且つ蓄積するデータ蓄積部と、
該データ蓄積部で蓄積した前記振動データに基づいて、各回転部について所定範囲を有する基準値を作成する基準値作成部と、
前記基準値を記憶する基準値記憶部と、
所定の診断時において、前記センサで検出した各回転部の前記振動データを、診断時データとして取得する診断時データ取得部と、
前記診断時データ取得部で取得した前記診断時データを、前記基準値記憶部から読み出した対応する各回転部における前記基準値と比較して、前記診断時データが前記基準値の上限を超える場合又は前記基準値の下限未満の場合に、異常又は注意と診断し、前記診断時データが前記基準値の範囲内の場合に、正常と診断する診断部とを有しており、
前記基準値記憶部は、前記基準値作成部が新たな前記基準値を作成しようとするときに、新たな基準値よりも前に記憶された旧い基準値がある場合に、この旧い基準値
又は新たな基準値を選択可能であることを特徴とする、回転機器の診断装置。
【請求項3】
前記基準値記憶部は、前記基準値作成部が新たな前記基準値を作成しようとするときに、新たな基準値よりも前に記憶された旧い基準値がある場合に、この旧い基準値を一定期間保存する旧基準値保存部を有しており、
前記旧基準値保存部は、少なくとも記基準値作成部が前記基準値を作成する期間中は、前記旧い基準値を保存するように構成されている請求項
1又は2記載の回転機器の診断装置。
【請求項4】
前記表示部は、更に、前記保守が実施された日時及び保守作業の内容である保守履歴、及び/又は、前記基準値が作成された場合の日時が表示される請求項1記載の回転機器の診断装置。
【請求項5】
前記基準値作成部が新たな前記基準値を作成しようとするときに、新たな基準値よりも前に記憶された旧い基準値がある場合に、前記表示部には、前記旧い基準値を使用するか否かの選択を求める選択表示部を有している請求項1又は4記載の回転機器の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機器の状態を診断する回転機器の診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機器のような機器の状態を診断する装置は、様々なものが開発されている。例えば、回転機器の振動データを高速フーリエ変換(FFT解析)した振動データに基づいて、機器の異常の有無を診断する装置がある。また、回転機器の振動データを、ISO規格(100816-3:2009)に規定されている絶対判定値を用いる手法によって処理することもある。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶する記憶部と、振動機械の振動データを経時的に取得する取得部と、取得部で取得した振動データをフーリエ変換して診断データとする変換部と、基準データのスペクトル値と診断データのスペクトル値とを経時的に比較して基準データから診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部とを備えた、振動機械の異常診断装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の回転機器の回転部について、FFT解析した振動データに基づいて、異常診断を行う場合、各回転機器の回転部の諸性能(例えば、モータや軸受けの型番・品番や、回転速度、内径・外径寸法等)や、診断条件、その他の条件等、数多くのパラメータを入力する必要がある。しかし、これらのパラメータの入力には手間がかかっていた。
【0006】
また、回転機器の型番等は、製品表面に記載されていたり、シールが貼付されていたり、製品の所定箇所に刻印されていたりするが、製品開始から長期間経過していると、それらを視認できないよう場合もあり、必要なパラメータをそもそも入力できないこともあった。
【0007】
更に、絶対判定値を用いて異常診断する手法は、異常診断の大まかな目安とはなるが、正確性については物足りない場合がある。
【0008】
また、上記のFFT解析や絶対判定値を用いて異常診断する手法は、経年劣化や、使用環境、使用状況等によって、同一の回転機器であっても診断結果が変わり、個々の回転機器の回転部について、所定の診断時において適切な診断結果を得にくいことがあった。
【0009】
更に上記のように、FFT解析による異常診断手段による診断結果は、詳細且つ正確ではあるものの、プラント等での回転機器の設置現場において、そこまで詳細且つ正確な診断結果は要求されないことがあった。また、FFT解析による異常診断手法を採用した診断装置は、詳細且つ正確な診断結果を得ることができる一方、システムが複雑化するため高価であり、手軽に利用できるとは言い難い。
【0010】
したがって、本発明の目的は、情報量が少なくても個々の回転機器について、保守の目安となる必要十分な診断結果を得ることができると共に、安価で手軽に利用することができる、回転機器の診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る回転機器の診断装置の一つは、保全対象とする複数の回転機器の回転部にそれぞれ設置され、各回転部から少なくとも振動データを検出するセンサと、各回転部について保守が実施された時点を前記回転機器の診断の基準時として入力する基準時入力部と、該基準時入力部に入力された前記基準時から所定時間を経過したときの、各センサで検出した各回転部の前記振動データを取得し且つ蓄積するデータ蓄積部と、該データ蓄積部で蓄積した前記振動データに基づいて、各回転部について所定範囲を有する基準値を作成する基準値作成部と、前記基準値を記憶する基準値記憶部と、所定の診断時において、前記センサで検出した各回転部の前記振動データを、診断時データとして取得する診断時データ取得部と、前記診断時データ取得部で取得した前記診断時データを、前記基準値記憶部から読み出した対応する各回転部における前記基準値と比較して、前記診断時データが前記基準値の上限を超える場合又は前記基準値の下限未満の場合に、異常又は注意と診断し、前記診断時データが前記基準値の範囲内の場合に、正常と診断する診断部とを有しており、前記診断装置は、少なくとも前記診断部による診断結果が表示される表示部を有しており、該表示部は、前記保守が実施されたときに、前記基準時入力部への前記基準時の入力を促す表示をする、入力促進部を有していることを特徴とする。
【0012】
上記発明によれば、複数の回転機器の、各回転部について保守が実施された時点を基準時として、この基準時を基準時入力部で入力すると、データ蓄積部により基準時から所定時間を経過したときの、各回転部の振動データが蓄積されて、基準値作成部により各回転部についての基準値が作成され、この基準値に基づき診断部によって、所定の診断時における各回転部の診断を行うことができる。
【0013】
そして、この診断装置においては、複数の回転機器の各回転部について、保守が実施された都度、基準値を更新することができると共に、当該基準値に基づいて各回転部の診断を行うことができる。すなわち、プラント等における装置の設置現場において、作成される基準値に基づいて、個々の回転機器の回転部について、相対的な診断結果を得ることができる。
【0014】
そのため、基準時入力部に入力される基準時、及び、診断時に各センサで取得される各振動データのみの、少ない情報であっても、個々の回転機器の回転部について、保守の目安となる必要十分な診断結果を得ることができる。また、診断に必要なデータが少なく、データ処理も比較的簡素化することができるので、安価で手軽に利用することが可能な、回転機器の診断装置を提供することができる。
更に、表示部は、複数の回転機器の各回転部について保守が実施された場合に、基準時入力部への基準時を入力することを促す表示をする、入力促進部を有しているので、各回転部の保守が実施された場合に、基準時入力部への新たな基準値の入力を失念してしまうことを防止することができる。
また、本発明に係る回転機器の診断装置のもう一つは、保全対象とする複数の回転機器の回転部にそれぞれ設置され、各回転部から少なくとも振動データを検出するセンサと、各回転部について保守が実施された時点を前記回転機器の診断の基準時として入力する基準時入力部と、該基準時入力部に入力された前記基準時から所定時間を経過したときの、各センサで検出した各回転部の前記振動データを取得し且つ蓄積するデータ蓄積部と、該データ蓄積部で蓄積した前記振動データに基づいて、各回転部について所定範囲を有する基準値を作成する基準値作成部と、前記基準値を記憶する基準値記憶部と、所定の診断時において、前記センサで検出した各回転部の前記振動データを、診断時データとして取得する診断時データ取得部と、前記診断時データ取得部で取得した前記診断時データを、前記基準値記憶部から読み出した対応する各回転部における前記基準値と比較して、前記診断時データが前記基準値の上限を超える場合又は前記基準値の下限未満の場合に、異常又は注意と診断し、前記診断時データが前記基準値の範囲内の場合に、正常と診断する診断部とを有しており、前記基準値記憶部は、前記基準値作成部が新たな前記基準値を作成しようとするときに、新たな基準値よりも前に記憶された旧い基準値がある場合に、この旧い基準値又は新たな基準値を選択可能であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る回転機器の診断装置においては、前記基準値記憶部は、前記基準値作成部が新たな前記基準値を作成しようとするときに、新たな基準値よりも前に記憶された旧い基準値がある場合に、この旧い基準値を一定期間保存する旧基準値保存部を有しており、前記旧基準値保存部は、少なくとも記基準値作成部が前記基準値を作成する期間中は、前記旧い基準値を保存するように構成されていてもよい。
【0016】
上記態様によれば、旧基準値保存部によって、旧い基準値が一定期間保存されるので、この旧い基準値を活用して、例えば、保全(保守)処置が適切だったかどうか等を確認しやすくなり、複数の回転機器の各回転部を安定して診断することができる。
【0018】
また、旧基準値保存部は、少なくとも基準値作成部が前記基準値を作成する期間中は、旧い基準値を保存するように構成されているので、基準値作成部が回転機器の保守(保全)後、基準値を作成する期間までの間(基準値作成期間中)において、基準値が存在しない事態となることを防止することができ、複数の回転機器の各回転部をより安定して適切に診断することができる。
【0019】
本発明に係る回転機器の診断装置においては、前記表示部は、更に、前記保守が実施された日時及び保守作業の内容である保守履歴、及び/又は、前記基準値が作成された場合の日時が表示されるようにしてもよい。
本発明に係る回転機器の診断装置においては、前記基準値作成部が新たな前記基準値を作成しようとするときに、新たな基準値よりも前に記憶された旧い基準値がある場合に、前記表示部には、前記旧い基準値を使用するか否かの選択を求める選択表示部を有していてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、各回転機器の回転部について保守が実施された都度、基準値を更新することができるので、長期に亘って使用された回転機器でも適切に診断できると共に、少ない情報であっても、個々の回転機器の回転部について、保守の目安となる必要十分な診断結果を得ることができ、安価で手軽に利用可能な診断装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る回転機器の診断装置の、一実施形態を示す概略構成図である。
【
図2】同診断装置において、基準値を作成する際のフローチャートである。
【
図3】同診断装置において、回転機器の診断を行う際のフローチャートである。
【
図4】同診断装置の診断時における、正常、注意、異常を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(回転機器の診断装置の一実施形態)
以下、図面を参照して、本発明に係る回転機器の診断装置の、一実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る回転機器の診断装置10(以下、単に「診断装置10」ともいう)の概略構成図である。この診断装置10は、例えば、プラント内のモータや、タービン、増減速機、ポンプ、撹拌機、送風機等の、複数の回転機器における各回転部3(モータの回転子やポンプの羽根車等における軸部と、該軸部を回転可能に軸支する軸受けなど、回転動作に関連する部分)の状態を診断するものである。
【0026】
図1に示すように、この診断装置10は、保全対象とする複数の回転機器1の回転部3にそれぞれ設置され、各回転部3から少なくとも振動データAを検出するセンサ5と、該センサ5で取得した振動データAに基づいて、各回転機器1の状態についての、異常の有無の診断処理を行う処理部20と、処理部20による診断結果等を表示する表示部60とから、主として構成されている。
【0027】
図1に示すように、処理部20は、基準時入力部30と、データ蓄積部32と、基準値作成部34と、基準値記憶部36と、診断時データ取得部40と、診断部50とを有している。また、基準値記憶部36は、旧基準値保存部38を有している。なお、処理部20は、CPUや、メモリ、HDD、SSD等の記憶媒体、周辺機器、プログラムなどで構成される。また、表示部60は、入力促進部62を有している。
【0028】
センサ5は、例えば、モータやポンプ等の各回転機器1の、軸や軸受け部等の回転部3で生じる各種データのうち、少なくとも振動データAを検出することが可能となっており、例えば、周知の振動センサを用いることができる。また、振動データAとしては、回転部3の振動の周波数等によって異なるが、変位、速度、加速度等となっている。なお、データとしては、振動データに加えて、音、温度、光等のいずれか1つ以上のデータを単独又は組み合わせて利用してもよい。
【0029】
また、センサ5は、有線通信、無線通信、インターネット回線による通信等の、各種通信手段(以下、単に「無線通信等の各種通信手段」という)よって、少なくともデータ蓄積部32や診断時データ取得部40に接続されている。更に、センサ5には、図示しないデータ送信部が設けられており、このデータ送信部によって、センサ5で検出した各回転機器1の回転部3における振動データAが、データ蓄積部32及び診断時データ取得部40に所定タイミングでそれぞれ送信されるようになっている。
【0030】
次に、処理部20の各構成について詳述する。
【0031】
前記基準時入力部30は、各回転部3について保守が実施された時点を、各回転機器1の診断の基準時Bとして入力するものである。なお、本発明における回転部3の「保守」とは、回転部3についての、点検、修理、整備、交換、調整、その他の、回転部について性能や機能を回復したり維持したりするための行為を含む意味である。
【0032】
基準時Bとしては、例えば、〇〇月△△日□□時××分等、月日及び時分などを入力したり、或いは、〇〇月△△日等、月日のみを入力したりしてもよく、これらに更に西暦や和暦を入力したり秒単位まで入力したりしてもよい。
【0033】
また、基準時Bの入力に際しては、各回転部3について保守を実施した作業者が、基準時入力部30に手動で入力したり、或いは、回転部3に保守の有無を検知できるような検知器等を取付けておき、回転部3について保守が実施されたときに、検知器等からの実施をした旨の情報などに基づいて、基準時入力部30に自動的に入力されたりしてもよい。
【0034】
なお、基準時Bを手動で入力する場合には、診断装置10は、基準時Bの入力用の各種UI(User Interface)、例えば、処理部20に一体的又は別体で設けられたキーボードや、表示部60に表示されるタッチパネル等を有する。なお、表示部60に、基準時入力用のタッチパネル等を設ける場合には、基準時入力部30と表示部60とは、無線通信等の各種通信手段によって互いに接続される。
【0035】
一方、基準時Bが自動で入力される場合には、診断装置10は、上記検知器等からの保守情報に基づいて、基準時入力部30に、基準時Bを自動的に入力する自動入力部を有する。
【0036】
前記データ蓄積部32は、基準時入力部30に入力された基準時Bから所定時間を経過したときの、各センサで検出した各回転部3の振動データAを取得し且つ蓄積するものである。
【0037】
すなわち、データ蓄積部32には、上述したように、センサ5で検出した各回転機器1の回転部3の振動データAが、データ送信部によって順次送信されるようになっているが、データ蓄積部32は、これらの振動データAのうち、基準日Bから所定時間を経過したときの、各回転部3の振動データAを選択して取得すると共に、各回転部3の振動データAをそれぞれ蓄積するようになっている。
【0038】
基準時Bからの経過時間は、時間単位で取得したり、或いは、日単位(例えば、7日間等)で取得したりしてもよい。また、振動データAは、基準時Bから所定時間の経過に至るまで途切れることなく連続して取得してもよいし、基準時Bから所定時間の経過に至る範囲内において断続的に取得してもよい(例えば、1回につき10秒の振動データAを、1日2回ずつ取得する等)。なお、振動データAを断続的に取得する場合には、取得タイミングの間隔は一定であることが好ましい。
【0039】
前記基準値作成部34は、データ蓄積部32で蓄積した振動データAに基づいて、各回転部3について所定範囲を有する基準値Cを作成するものである。
【0040】
この基準値作成部34は、データ蓄積部32で蓄積した振動データAを、統計学的手法により、振動データAの平均値、振動データAの標準偏差から選ばれた少なくとも1項目に基づいて、各回転部3の基準値Cを作成することが好ましい。また、統計学的手法としては、例えば、多変量解析、又は、教師あり機械学習、更にはこれらの組み合わせを用いることができる。
【0041】
振動データAの平均値に基づく場合は、データ蓄積部32にて蓄積した振動データAの合計値を、振動データAの個数(振動データAのプロット数)で除算することで、基準値Cを作成する。例えば、1日2回で7日分の、14個の振動データAが存在する場合には、全振動データAの合計値(総和)を14で除算することで、振動データAの平均値を得ることができる。なお、振動データAの平均値は、切り落とし平均やトリム平均であってもよい。
【0042】
また、基準値Cの作成に際しては、蓄積した振動データAの平均値や標準偏差以外にも、振動データAの、分散、中央値、最大値、最小値、歪度、尖度等を単独又は組み合わせて処理することで作成してもよい。ただし、振動データAについて、FFT解析や絶対判定値を用いる手法によって、基準値Cを作成することはないものとする。
【0043】
なお、
図4に示すように、基準値C(又は後述する旧基準値C´)は、特定値のみを指すものではなく、ある一定の範囲を有するものとなっている(例えば、〇〇~△△といった基準値Cとなる)。
【0044】
前記基準値記憶部36は、上記の基準値作成部34によって作成された基準値Cを、記憶するものである。また、この基準値記憶部36は、基準値作成部34が新たな基準値Cを作成しようとするときに、新たな基準値Cよりも前に記憶された旧い基準値C´(以下、「旧基準値C´」ともいう)がある場合に、この旧基準値C´を一定期間(例えば、7日間程度)保存する旧基準値保存部38を有している。
【0045】
上記のように、旧基準値保存部38は、旧基準値C´を一定期間保存するが、その意義は、例えば、保全(保守)処置が適切だったかどうか等を確認するためである。
【0046】
すなわち、基準値Cを更新した後、時間をそれほど空けずに、更新したばかりの基準値Cに基づいて回転機器1の回転部3の診断を行うと、正常となるため、適切な診断結果を得られない。そのため、旧基準値C´を利用した診断結果を得てから、新たな基準値Cに更新することが好ましく、これにより旧基準値C´を一定期間保存する必要性が生じる。なお、旧基準値保存部38は、不要となった旧基準値C´を所定タイミングで消去する機能を有していてもよい。
【0047】
また、上記の旧基準値保存部38は、少なくとも基準値作成部34が基準値Cを作成する期間中は、旧基準値C´を保存するように構成されていている。これは、基準値作成部34が回転機器1の保守後、基準値作成期間中に基準値が存在しない事態となることを防止するためである。
【0048】
また、基準値記憶部36によって記憶された基準値Cに基づいて診断された相対評価された診断結果や、旧基準値保存部38で保存された旧基準値C´に基づいて診断された相対評価された診断結果は、表示部60に表示されるようになっている。すなわち、基準値記憶部36は、無線通信等の各種通信手段によって、表示部60に接続されており、基準値Cや旧基準値C´に診断結果を表示部60に入力する機能を有している。
【0049】
前記診断時データ取得部40は、所定の診断時において、センサ5で検出した各回転部3の振動データAを、各回転部3における診断時データDとして、それぞれ取得するものである。また、診断時データ取得部40は、取得した各回転部3における診断時データDを診断部50に入力する機能も有している。
【0050】
前記診断部50は、診断時データ取得部40で取得した診断時データDを、基準値記憶部36から読み出した対応する各回転部3における基準値C(旧基準値C´を含むものとする。以下の説明でも同様)と比較して、診断時データDが基準値Cの上限を超える場合又は基準値Cの下限未満の場合に、「異常」又は「注意」と診断し、診断時データDが基準値Cの範囲内の場合に、「正常」と診断するものである。
【0051】
この実施形態の場合、
図4に示すように、診断部50は、(1)診断時データDが、基準値Cの上限値Cmaxを超え且つ所定範囲値内である場合、又は、基準値Cの下限値Cminを下回り且つ所定範囲内である場合に、「注意」と診断し、(2)診断時データDが、基準値Cの上限値Cmax及び前記注意範囲を超える場合、又は、基準値Cの下限値Cmin及び前記注意範囲を下回る場合に、「異常」と診断し、(3)診断時データDが、基準値Cの上限値Cmaxから下限値Cminまでの範囲内の場合に、「正常」と診断するようになっている。
【0052】
また、上記の診断結果は、表示部60に表示されるようになっている。すなわち、診断部50は、無線通信等の各種通信手段によって、表示部60に接続されており、作成した基準値Cを表示部60に入力する機能を有している。なお、以上説明した処理部20や、処理部20を構成する基準値作成部34、基準値記憶部36、診断部50等は、例えば、インターネットのネットワーク上やクラウド上におけるプログラムなどから構成されていてもよい。
【0053】
次に、表示部60について詳述する。
【0054】
この表示部60は、処理部20に一体的に設けられたディスプレイや、処理部20とは別体のディスプレイ、携帯機器端末等のディスプレイ等であり、基準値記憶部36及び診断部50に、無線通信等の各種通信手段によって接続されている。
【0055】
また、表示部60は、インターネットやクラウドシステム等を介して、ウェブブラウザ等により表示する構成であってもよい。この場合、例えば、振動データAや診断時データD等のデータをクラウドにアップして、クラウド上のプログラムである基準値作成部34や診断部50等で基準値Cや旧基準値C´を作成し、それらに基づく診断結果を、インターネット上でWebブラウザ等を介して閲覧することができる。
【0056】
そして、この表示部60には、(1)診断部50で診断された各回転機器1の回転部3の「異常」、「注意」、「正常」の診断情報(診断結果)、又は、診断できなかった場合のエラー情報(データ取得の失敗、送受信時エラー等)、(2)保守が実施された場合の保守履歴、(3)基準値Cが作成された場合の日時(基準値作成日時)のうち、(1)の情報は必ず表示され、(2),(3)の情報は任意で表示されるようになっている。
【0057】
なお、上記(3)における保守履歴とは、保守が実施された日時、保守作業の内容(部品点検、部品修理、部品整備、部品交換、潤滑油の補充等、保守に必要な作業内容)などを意味する。
【0058】
また、表示部60は、各回転機器1の回転部3のセンサ5や、基準時入力部30、データ蓄積部32、診断時データ取得部40に、無線通信等の各種通信手段によって接続されていてもよい。
【0059】
この場合、表示部60には、各回転部3におけるセンサ5で検出した振動データAや、基準時入力部30に手動入力した又は自動入力された基準時B、データ蓄積部32で蓄積された基準値作成時の振動データA、診断時データ取得部40にて取得した診断時データDが表示される。
【0060】
また、表示部60は、保守が実施されたときに、表示部60に基準時入力部30への基準時の入力を促す表示をする、入力促進部62を有している。入力促進部62としては、表示部60に専用の表示領域を設けてもよく、或いは、表示部60にポップアップ表示する構成としてもよい。
【0061】
更に、表示部60には、旧基準値C´が存在する場合に、この旧基準値C´を使用するか否かの選択を求める、選択表示部を有している。この選択表示部は、専用の表示領域を有しているか、又は、ポップアップ表示がなされる構成となっている。
【0062】
なお、表示部60には、上述したように、基準時Bを手動で入力する際における、タッチパネル等を有する場合や、上記選択表示部のポップアップ表示等をする構成である場合に、基準時Bの入力情報や、旧基準値C´の使用有無の入力情報等を、処理部20に入力する機能を有している。
【0063】
(回転機器の診断装置の動作)
次に、診断装置10の動作について説明する。
【0064】
まず、
図2に示すように、基準値Cを作成する。始めに、処理部20の基準時入力部30に、基準値Bを手動で入力したり又は基準値Bが自動的に入力されたりする(ステップS1)。
【0065】
次に、データ蓄積部32が、センサ5で検出されデータ蓄積部32に送信されている、各回転機器1の回転部3の振動データAのうち、基準時Bから所定時間を経過したときの、各回転部3の振動データAを選択して取得すると共に、当該振動データAをそれぞれ蓄積する(ステップS2)。
【0066】
次いで、基準値作成部34が、振動データAに基づいて、各回転部3について基準値Cを作成する。まず、旧基準値保存部38に、旧い基準値C´が保存されているか否かが判定される(ステップS3)。
【0067】
そして、旧基準値C´が存在する場合には、表示部60において、旧基準値C´を使用するか否かの選択を求める表示が、上記選択表示部に表示される(ステップS4)。
【0068】
一方、上記ステップS3において、旧基準値Cが存在しない場合には、基準値記憶部36が、新たな基準値C(更新された基準値とも言える)を記憶して(ステップS6)、基準値作成が終了する。
【0069】
また、上記ステップS4において、旧基準値C´を使用する場合は、基準値記憶部36が、旧基準値C´を記憶して(ステップS5)、基準値作成が終了する。
【0070】
次に、
図3に示すように、各回転機器1における回転部3の状態がそれぞれ診断される。
【0071】
まず、処理部20の診断時データ取得部40が、所定の診断時において、センサ5で検出した各回転部3の振動データAを、各回転部3における診断時データDとしてそれぞれ取得し、且つ、診断時における各回転部3の振動データAを、診断部50に入力する(ステップS10)。
【0072】
次いで、診断部50が、診断時データ取得部40で取得した、各回転部3における診断時データDを、基準値記憶部36から読み出した対応する各回転部3における基準値Cと比較して、診断時データDが基準値Cの上限を超えるか又は基準値Cの下限未満であるかを判定する(ステップS11)。
【0073】
そして、診断部50は、診断時データDが基準値Cの上限を超える場合又は基準値Cの下限未満の場合に、「異常」又は「注意」と診断し(ステップS12)、この診断結果を表示部60に入力し、当該表示部60が診断結果を表示することで診断が終了する。
【0074】
一方、診断部50は、診断時データDが基準値Cの範囲内の場合に、「正常」と診断し(ステップS13)、この診断結果を表示部60に入力し、当該表示部60が診断結果を表示することで診断が終了する。
【0075】
(作用効果)
次に、上記構成からなる診断装置の作用効果について説明する。
【0076】
上記構成の診断装置10によれば、複数の回転機器1の、各回転部3について保守が実施された時点を基準時Bとして、この基準時Bを基準時入力部30で入力すると、データ蓄積部32により基準時Bから所定時間を経過したときの、各回転部3の振動データAが蓄積されて、基準値作成部34により各回転部3についての基準値Cがそれぞれ作成され、この基準値Cに基づき診断部50によって、所定の診断時における各回転部3の診断を行うことができる。
【0077】
ところで、回転機器1は、長期に亘って使用されて、回転部3の部品(軸受けや回転軸等)が故障したり、へたったり、経年劣化したりしたような場合であっても、部品交換や、修理、調整等の適切な保守がなされれば、新品時の性能とまではいかないまでも、十分な性能を発揮できることが多い。
【0078】
そして、この診断装置10では、複数の回転機器1の各回転部3について、保守が実施された都度、基準値を更新することができると共に、当該基準値に基づいて各回転部3の診断を行うことができる。
【0079】
すなわち、プラント等における装置の設置現場において、作成される基準値に基づいて、個々の回転機器の回転部について、相対的な診断結果を得ることができる。つまり、FFT解析による異常診断手法を採用した診断装置は、振動データ等について、異常と診断されるデータ(波形、ノイズ)が含まれているか否かで診断を行う、いわば絶対的な診断手法である。
【0080】
これに対して本発明の診断装置10では、個々の回転機器1の、使用状況、使用態様、使用環境、経年劣化による影響等の、刻々と変化する種々の事情を加味した、相対的な診断結果を得ることができる。
【0081】
したがって、この診断装置10では、基準時入力部30に入力される基準時B、及び、診断時に各センサ5で取得される各振動データAのみの、少ない情報であっても、個々の回転機器1の回転部3について、保守の目安となる必要十分な診断結果を得ることができる。また、診断に必要なデータが少なく、データ処理も比較的簡素化することができるので、安価で手軽に利用することが可能な、診断装置10を提供することができる。
【0082】
また、この実施形態の診断装置10において、基準値記憶部36は、基準値作成部34が新たな基準値Cを作成しようとするときに、新たな基準値Cよりも前に記憶された旧い基準値C´がある場合に、この旧い基準値Cを一定期間保存する旧基準値保存部38を有している。
【0083】
上記態様によれば、旧基準値保存部38によって、旧基準値C´が一定期間保存されるので、当該旧基準値C´を活用することができる。例えば、保全処置が適切だったかどうか等を確認しやすくなるので、複数の回転機器1の各回転部3を安定して診断することができる。
【0084】
なお、保全完了後に、基準値を更新せずに、旧来の基準値を利用してもよい。例えば、回転機器1の回転部3について、重要部品の交換等の大掛かりな保全を行った場合、この時の基準値(ベストの基準値)を利用したいことがあり、このような場合には、その後に回転機器1の保全をしても、基準値の更新を行わない運用とすることができる。この場合でも、FFT解析による異常診断手法のような絶対的な診断手法ではなく、個々の回転機器1のベスト状態を基準として診断できる。
【0085】
更に、この実施形態の診断装置10においては、旧基準値保存部38は、少なくとも基準値作成部34が基準値Cを作成する期間中は、旧基準値C´を保存するように構成されていている。
【0086】
上記態様によれば、旧基準値保存部38は、少なくとも基準値作成部34が基準値Cを作成する期間中は、旧基準値C´を保存するように構成されているので、基準値作成部34が回転機器1の保守(保全)後、更新した新しい基準値を作成する期間までの間(基準値作成期間中)において、基準値が存在しない事態(基準値のないブランク状態)となることを防止することができ、複数の回転機器1の各回転部3をより安定して適切に診断することができる。
【0087】
更に、この実施形態の診断装置10は、少なくとも診断部50による診断結果が表示される表示部60を有している。
【0088】
上記態様によれば、診断装置10は、上記構成の表示部60を有しているので、診断結果を視覚的に確認することができる。
【0089】
また、この実施形態の診断装置10は、少なくとも診断部50による診断結果が表示される表示部60を有しており、該表示部60は、保守が実施されたときに、基準時入力部30への基準時Bの入力を促す表示をする、入力促進部62を有している。
【0090】
上記態様によれば、表示部60は、複数の回転機器1の各回転部3について保守が実施された場合に、基準時入力部30への基準時を入力することを促す表示をする、入力促進部62を有しているので、各回転部3の保守が実施された場合に、基準時入力部30への新たな基準時Bの入力を失念してしまうことを防止することができる。
【0091】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、各種の変形実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
1・・・回転機器、3・・・回転部、5・・・センサ、10・・・回転機器の診断装置(診断装置)、20・・・処理部、30・・・基準時入力部、32・・・データ蓄積部、34・・・基準値作成部、36・・・基準値記憶部、38・・・旧基準値保存部、40・・・診断時データ取得部、50・・・診断部、60・・・表示部、62・・・入力促進部。
【要約】
【課題】診断に必要な情報を少なくして比較的簡素な構造とする回転機器の診断装置を提供する。
【解決手段】この回転機器の診断装置10は、センサ5と、各回転部3について保守が実施された時点を診断の基準時として入力する基準時入力部30と、基準時から所定時間を経過したときの各回転部3の振動データを取得し且つ蓄積するデータ蓄積部32と、各回転部3について基準値を作成する基準値作成部34と、基準値記憶部36と、所定の診断時の各回転部3の振動データを取得する診断時データ取得部40と、診断時データを各回転部3における基準値と比較して、診断時データが基準値の上限を超える場合又は基準値の下限未満の場合に、異常又は注意と診断する診断部50とを有する。
【選択図】
図1