(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】疾患治療のためのPARP阻害と組み合わせたCD47遮断
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20240920BHJP
A61K 31/5025 20060101ALI20240920BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20240920BHJP
A61K 31/501 20060101ALI20240920BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20240920BHJP
A61K 31/166 20060101ALI20240920BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240920BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240920BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240920BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240920BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240920BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240920BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240920BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
A61K38/16 ZNA
A61K31/5025
A61K31/4184
A61K31/501
A61K31/55
A61K31/166
A61K45/06
A61P15/00
A61P17/00
A61P25/00
A61P35/02
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K47/68
A61K39/395 W
(21)【出願番号】P 2021536117
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 CA2019051195
(87)【国際公開番号】W WO2020047651
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-24
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100133927
【氏名又は名称】四本 能尚
(74)【代理人】
【識別番号】100147186
【氏名又は名称】佐藤 眞紀
(74)【代理人】
【識別番号】100174447
【氏名又は名称】龍田 美幸
(74)【代理人】
【識別番号】100185960
【氏名又は名称】池田 理愛
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,リサ ダナエ シュルツ
(72)【発明者】
【氏名】クイ,レイ
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】TTI-621 (SIRPαFc): A CD47-Blocking Innate Immune Checkpoint Inhibitor with Broad Antitumor Activity and Minimal Erythrocyte Binding,Clin Cancer Res,2017年02月14日,Vol. 23, No. 4,p. 1068-1079,https://doi.org/10.1158/1078-0432.CCR-16-1700
【文献】分子標的治療薬としてのPARP阻害剤,ビタミン,87 巻 8 号,2013年,p. 454-457,https://doi.org/10.20632/vso.87.8_454
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A61P 35/00
A61K 39/395
A61K 31/5025
A61K 31/4184
A61K 31/501
A61K 31/55
A61K 31/166
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PARP阻害薬および放射線療法と組み合わせて使用するための、CD47+癌細胞を有する対象を治療するための、CD47遮断薬を含む医薬組成物であって、該CD47遮断薬がヒトSIRPαポリペプチドであり、該SIRPαポリペプチドがヒトSIRPαのCD47結合領域を含むFc融合タンパク質であり、かつ該PARP阻害薬が、タラゾパリブ、ベリパリブ、ニラパリブ、オラパリブ、ルカパリブおよびイニパリブからなる群より選択される、医薬組成物。
【請求項2】
前記Fc融合タンパク質が、配列番号8の可溶性SIRPαを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記Fc融合タンパク質が、配列番号9の可溶性SIRPαを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記SIRPαFcポリペプチドが、
配列番号5のSIRPα配列を基準にしたとき、L
4V/I、V
6I/L、A
21V、V
27I/L、I
31T/S/F、E
47V/L、K
53R、E
54Q、H
56P/R、S
66T/G、K
68R、V
92I、F
94V/L、V
63I、およびF
103Vから選択される1個または複数の活性増強アミノ酸置換を有する可溶性SIRPαを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記放射線療法が、体外照射療法である、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記CD47+癌細胞が、血液癌または固形腫瘍である、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記癌が、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性疾患/腫瘍(MPDS)、および骨髄異形成症候群から選択される癌型の細胞である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記癌が、ホジキンリンパ腫、無痛性および侵襲性両方の非ホジキンリンパ腫、T細胞リンパ腫、CD20+リンパ腫、バーキットリンパ腫、ならびに小細胞濾胞性リンパ腫および大細胞濾胞性リンパ腫から選択されるリンパ腫である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記癌が、多発性骨髄腫(MM)、巨細胞骨髄腫、重鎖骨髄腫、および軽鎖またはベンス・ジョーンズ骨髄腫から選択される骨髄腫である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記癌が黒色腫である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記癌が卵巣癌である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記癌がCTCLである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記癌が菌状息肉腫である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記癌が乳癌である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記癌が神経膠芽腫である、請求項6に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年9月4日出願の米国特許仮出願第62/726,497号の利益を主張するものであり、この開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、CD47/SIRPα相互作用を遮断する薬物の使用方法に関する。より具体的には、本発明は、組み合わせた場合に、癌療法に有用な方法および手段に関する。
【背景技術】
【0003】
CD47は、シグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)に結合し、「食用不可」シグナルを送出し、マクロファージ食作用を抑制する免疫チェックポイントである。腫瘍細胞は高頻度にCD47を過剰発現してマクロファージ媒介破壊を回避している。TrilliumのWO2014/094122は、CD47とSIRPαとの相互作用を抑制する薬物について記載している。このCD47遮断薬は、特に有用な形態のIgG1ベースFc領域と結合したヒトSIRPαの細胞外ドメインの特定領域を組み込んだヒトSIRPαの一形態である。IgG4ベースFc領域を有するSIRPαの関連形体も記載されている。これら形態では、SIRPαFcは、CD47+表現型で存在する癌細胞の生存率に対して劇的な作用を示す。この作用は、特に急性骨髄性白血病(AML)細胞および他の多くのタイプの癌で見られる。一次構造が顕著に変化し、CD47結合親和性が増強された可溶性型のSIRPは、WO2013/109752に記載されている。
【0004】
他のCD47遮断薬は、文献に記載されており、これらには、それぞれ、異なる抗原結合部位をそれぞれ含むが、共通して、CD47への結合に関し内在性SIRPαと競合し、それによりマクロファージとの食作用を可能にし、最終的にはCD47+癌細胞枯渇の速度を上昇させる能力を有する種々のCD47抗体(例えばStanfordの米国特許第8,562,997号およびInhibRxのWO2014/123580を参照されたい)が含まれる。これらのCD47抗体は、SIRPαベース薬物に固有のものとは極めて異なるインビボ活性を有する。後者は、例えば、赤血球への無視できる程度の結合しか示さないのに対し、CD47抗体の逆の特性は、投与後の薬物「シンク」に配慮する戦略の必要性をもたらす。
【0005】
CD47/SIRPα系を遮断するのに使用するためのさらに他の薬剤が提案されている。これらには、CD47Fcタンパク質(Viral LogicのWO2010/083253を参照されたい)、ならびにUHNのWO2013/056352、StanfordのWO2016/022971、Eberhardの米国特許第6,913,894号、および他の箇所において記載されているSIRPα抗体が含まれる。
【0006】
抗癌剤開発において、CD47遮断手法は極めて有望である。これらの薬物の作用を改善するための、特にCD47遮断薬、特にSIRPαを組み込んだ遮断薬の作用を改善するための方法および手段を提供することは有用であろう。
【発明の概要】
【0007】
今では、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ、すなわち、「PARP」として知られる酵素の活性を抑制する薬剤と組み合わせた場合、CD47遮断薬の抗癌作用が改善されることが明らかになっている。いくつかの実施形態では、CD47遮断薬は、SIRPα-Fcポリペプチドである。他の実施形態では、PARP阻害薬はPARP-1阻害薬である。PARP阻害薬とCD47遮断薬との治療薬の組み合わせから生ずる利益は、PARP阻害が通常、DNA障害剤により強化され、このDNA障害活性は、CD47遮断薬に対して報告されてこなかったという点で特に予想外である。
【0008】
一態様では、CD47+疾患細胞を示す対象を治療する方法が提供され、該方法は、CD47遮断薬およびPARP阻害薬を対象に投与することを含む。関連する態様では、本発明は、CD47+癌細胞および腫瘍を含むCD47+疾患細胞を示す対象の治療のために、SIRPαFc融合タンパク質のPARP阻害薬と組み合わせた使用を提供する。別の態様では、CD47+癌細胞および腫瘍を含むCD47+疾患細胞を示す対象の治療での使用のために、SIRPαFc融合タンパク質のPARP阻害薬を含む組み合わせが提供される。
【0009】
別の態様では、SIRPαFcポリペプチドなどのCD47遮断薬およびPARP阻害薬を含む医薬組合せ剤も、本明細書で記載の治療方法でのそれらの使用を教示する説明書と共に提供される。関連する態様では、癌などのCD47+疾患細胞を示す対象の治療において、2種の薬剤の少なくとも1種、および2種の薬剤のもう一方を組み合わせる場合のそれらの使用のための説明書を含む製品が提供される。いくつかの実施形態では、本方法で組み合わせて使用するために、別々に梱包された、2種の薬剤の少なくとも1種または両方を含むキットが提供される。
【0010】
治療が放射線療法により補われる場合に、CD47遮断薬およびPARP阻害薬の組み合わせによる治療は、さらに強化され得るということも発見された。この3種の治療法の組み合わせにより、生存が高められるという利益が示された。従って、いくつかの態様では、疾患細胞の治療のために、放射線療法、PARP阻害薬およびCD47遮断薬を利用する3種併用療法が提供される。
【0011】
他の態様では、本明細書で記載の疾患細胞および腫瘍の治療に有用な材料を含むキットの形態などの製品が提供される。
【0012】
本開示の他の特徴および利点は、下記詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、詳細な説明および具体的実施例は、本開示の好ましい実施形態を示してはいるが、この詳細な説明から、本開示の趣旨および範囲内での様々な変更および修正が当業者には明らかであり、したがって、これらは実例として与えられているにすぎないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】薬剤の組み合わせ試験デザインおよび投与計画を示す図である。PBS中に懸濁させた5x10
6個のルシフェラーゼ発現腫瘍細胞の0.2mLの最終体積をNOD/SCIDマウスの腹腔内に0日目に注射した。マウスをBLIで撮像し、6日目のそれらのBLI画像に基づいて、異なる治療群にランダム化した。腫瘍接種後7日目から、ビークル対照、IR、ニラパリブ、SIRPαFc、またはそれらの組み合わせでマウスを治療した。
【
図2】治療後の動物の生存曲線(カプランマイヤープロット)を示す。動物は、腫瘍接種の7日後、ビークル対照、SIRPαFc、ニラパリブ(PARPi)、照射(IR)、単独でまたは組み合わせて治療された。治療後の動物の生存率。(A)&(B)BRCAコンピテントSKOV-3の腹腔内腫瘍を有する動物の生存率。(C)&(D)BRCAノックダウンSKOV-3の腹腔内腫瘍を有する動物の生存率。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、CD47+表現型を有する癌細胞および腫瘍などのCD47+疾患細胞を示す対象を治療するための改善された方法を提供する。この方法では、対象は、SIRPαFcなどのCD47遮断薬および酵素の阻害薬、PARPと呼ばれるポリ-(ADPリボース)ポリメラーゼの組み合わせを投与される。CD47+疾患細胞に対するこの治療の効果は、一方の薬剤単独での治療に効果に比べて改善される。PARP阻害薬は、腫瘍細胞に対する高められた細胞傷害性作用を介して、放射線療法などのDNA障害療法の効力を高めることができることが知られているが、ニラパリブ(PARP阻害薬)および本明細書で記載のSIRPαFcの相乗効果は、ニラパリブによる腫瘍細胞死滅およびSIRPαFcによる免疫調節から生じる。PARP阻害薬が別のDNA障害剤以外の薬剤と共に使用される場合には、この組み合わせ作用は予測されていない。
【0015】
用語の「CD47+」は、本発明では、CD47遮断薬による治療のために標的化される細胞の表現型について使用される。CD47+である細胞は、親和性リガンドとしてCD47抗体を用いて、フローサイトメトリーにより特定できる。標識されたCD47抗体は、この用途のために市販されている(例えば、クローンB6H12はSanta Cruz Biotechnologyから入手可能である)。CD47表現型について検査された細胞は、特に、内在性CD47+癌細胞を有すると疑われる対象から採取した液体および組織試料を含む標準的な腫瘍生検試料とすることができる。本発明の組み合わせによる療法の標的として特に関心対象のCD47疾患細胞は、CD47を「過剰発現する」ものである。これらのCD47+細胞は通常、疾患細胞であり、所定のタイプの細胞に対する正常なCD47密度を超える表面上の密度でCD47を提示する。CD47過剰発現は、異なる細胞タイプにわたって変化するが、本明細書では、フローサイトメトリーによって、または免疫染色によって、または遺伝子発現分析などによって、その細胞型について正常であるCD47表現型を有する同等の細胞タイプで測定可能なレベルより大きいと測定される何らかのCD47レベルを指すことが意図される。
【0016】
本明細書で使用される場合、「CD47遮断薬」は、CD47がマクロファージ提示SIRPαと相互作用する場合に発生するシグナル伝達を妨害する、抑制するまたは遮断する任意の薬物または薬剤であり得る。CD47遮断薬は、CD47のSIRPαとの相互作用を抑制する薬剤である。CD47遮断薬は、好ましくは、CD47に結合し、SIRPαとの相互作用を遮断する。CD47遮断薬は、CD47に結合してCD47とSIRPαと相互作用を遮断する抗体などのCD47/SIRPαシグナル伝達系の抗体または抗体ベース拮抗薬であり得る。必須ではないが、望ましくは、CD47遮断薬は、活性化されて、CD47遮断薬が結合している細胞を破壊するマクロファージにより結合され得る定常領域、すなわち、Fc領域を含む。CD47遮断薬のFc領域は、好ましくは、エフェクター機能を有し、好ましくは、IgG1またはIgG4(S228P)を含むIgG4由来である。別の実施形態では、Fc領域は、エフェクター機能を、例えば、不活性状態へ変えるためにアミノ酸置換により改変されたものであり得る。
【0017】
ヒトSIRPαのCD47結合型は、本明細書で開示の組み合わせを使用するための好ましいCD47遮断薬である。これらの薬物は、ヒトSIRPαの細胞外領域をベースにしている。それらは、効果的なCD47結合親和性および特異性を付与するのに十分な細胞外領域の少なくとも一部を含む。SIRPαの膜係留成分を欠く、いわゆる、「可溶性」型のSIRPαは有用で、文献に記載されており、これらには、NovartisのWO2010/070047、StanfordのWO2013/109752、MerckのWO2016/024021およびTrilliumのWO2014/094122で引用されているものが含まれる。
【0018】
本発明の方法で使用されるSIRPαFc薬物は、抗体のFc領域およびヒトSIRPαのCD47結合領域を含むモノマーまたはホモダイマーまたはヘテロダイマー型の単鎖ポリペプチドである。この一般タイプのSIRPαベース薬物は、文献に記載されており、これらには、NovartisのWO2010/070047およびStanfordのWO2013/109752ならびにTrilliumのWO2014/094122で引用されているもの、およびMerckのWO2016/024021で教示されているSIRPαFcの特定のバリアントが含まれる。
【0019】
好ましい実施形態では、SIRPαFcポリペプチドは、以下で考察される特性を有する。より詳細には、ポリペプチドは、抗体定常領域またはFc(結晶化可能なフラグメント)と直接的または間接的に融合した形態で、ヒトSIRPαタンパク質のCD47結合部分を適切に含む。別に定める場合を除き、本明細書で使用される場合、「ヒトSIRPα」という用語は、野生型の、内在性の成熟した形態のヒトSIRPαを指す。ヒトでは、SIRPαタンパク質は2つの主形態として認められる。1つの形態であるバリアント1またはV1型は、NCBI RefSeq NP_542970.1として示されるアミノ酸配列を有する(残基27~504は成熟型を構成する)。別の型のバリアント2またはV2型は、13個のアミノ酸が異なっており、GenBankにCAA71403.1としてとして示されるアミノ酸配列を有する(残基30~504は成熟型を構成する)。これらの2つの形態のSIRPαは、ヒトに存在するSIRPαの形態の約80%を構成し、本明細書では、両方とも「ヒトSIRPα」という用語により包含される。ヒトに内在性であり、CD47に結合し、CD47を介したシグナル伝達を誘発する同じ特性を有するその少数型も同様に、「ヒトSIRPα」という用語に包含される。本発明は、特に、SIRPαのV2型を含む薬剤の組み合わせに関する。
【0020】
本発明の薬物の組み合わせでは、有用なCD47遮断薬は、ヒトSIRPαの細胞外領域内にある3個のいわゆる免疫グロブリン(Ig)ドメインの内の少なくとも1個を含むSIRPαFc融合ポリペプチドである。より詳細には、本発明のSIRPαFcポリペプチドは、好ましくは、ヒトSIRPαの残基32~137(106マー)を組み込み、これは、現行の命名法によるV2型のIgVドメインを構成および定義する。以下に示すこのSIRPα配列は、本明細書では配列番号1として参照される。
EELQVIQPDKSVSVAAGESAILHCTVTSLIPVGPIQWFRGAGPARELIYNQKEGHFPRVTTVSESTKRENMDFSISISNITPADAGTYYCVKFRKGSPDTEFKSGA[配列番号1]
【0021】
好ましい実施形態では、SIRPαFc融合タンパク質は、配列番号1によって定義されるIgVドメイン、およびさらに、野生型ヒトSIRPα配列内で連続的な追加の隣接残基を組み込む。ヒトSIRPαのV2型の残基31~148によって表されるこの好ましい形態のIgVドメインは、以下に示す配列番号5を有する118マーである:
EEELQVIQPDKSVSVAAGESAILHCTVTSLIPVGPIQWFRGAGPARELIYNQKEGHFPRVTTVSESTKRENMDFSISISNITPADAGTYYCVKFRKGSPDTEFKSGAGTELSVRAKPS[配列番号5]
【0022】
SIRPαFc融合ポリペプチドのFc領域は、好ましくは、エフェクター機能を有する。Fcは、「結晶化可能なフラグメント」を意味し、主として重鎖定常領域とヒンジ領域内の複数の成分とからなるIgG抗体の定常領域を表す。したがって、適切なFc成分は、エフェクター機能を有するものである。「エフェクター機能を有する」Fc成分は、抗体依存性細胞傷害活性への少なくともいくつかの寄与または補体を修復するいくつかの能力など、少なくともいくつかのエフェクター機能を有するFc成分である。また、Fcは少なくとも1個または複数のタイプのFc受容体に結合する。これらの特性は、この目的のために確立されたアッセイを用いて明らかにすることができる。機能アッセイには、標的細胞溶解を検出する標準的なクロム放出アッセイが含まれる。この定義により、野生型IgG1またはIgG4であるFc領域はエフェクター機能を有するが、Pro233、Val234、Ala235を含み、およびGly236(EU)の欠失を含む変化系列の組み込みなどによる、エフェクター機能を除去するように変異したヒトIgG4のFc領域は、エフェクター機能を有しないと考えられている。好ましい実施形態では、Fcは、IgG1アイソタイプのヒト抗体をベースにしている。代替的実施形態では、Fcは、IgG4アイソタイプをベースにして、Pro228Ser変化を含む。これらの抗体のFc領域は、当業者に容易に特定可能であろう。いくつかの実施形態では、Fc領域は、低級ヒンジ-CH2-CH3ドメインを含む。
【0023】
特定の実施形態では、Fc領域は、UniProtKB/Swiss-Prot、残基104~330のP01857として示されるヒトIgG1のアミノ酸配列をベースにし、以下に示し本明細書では配列番号2として参照されるアミノ酸配列を有する:
DKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK*[配列番号2]
【0024】
したがって、いくつかの実施形態では、Fc領域は、IgG1定常領域の野生型配列またはコンセンサス配列のいずれかを有する。代替実施形態では、融合タンパク質に組み込まれたFc領域は、エフェクターにより活性化される典型的な定常領域を有する任意のIgG1抗体に由来する。このようなFc領域の配列は、例えば、以下のIgG1配列(全てGenBankから引用される)のいずれかのFc領域、例えばBAG65283(残基242~473)、BAC04226.1(残基247~478)、BAC05014.1(残基240~471)、CAC20454.1(残基99~320)、BAC05016.1(残基238~469)、BAC85350.1(残基243~474)、BAC85529.1(残基244~475)、およびBAC85429.1(残基238~469)に対応し得る。
【0025】
他の実施形態では、Fc領域は、野生型ヒトIgG4定常領域の配列を有する。代替実施形態では、融合タンパク質に組み込まれたFc領域は、存在するが、天然ではIgG1 Fc領域よりも効力が低いエフェクター活性を備えた定常領域を有する任意のIgG4抗体に由来する。このようなFc領域の配列は、例えば、以下のIgG4配列、すなわち、UniProtKB/Swiss-Prot由来のP01861(残基99~327)およびGenBank由来のCAC20457.1(残基99~327)のいずれかのFc領域に対応し得る。
【0026】
特定の実施形態では、Fc領域は、UniProtKB/Swiss-Prot、残基99~327のP01861として示されるヒトIgG4のアミノ酸配列をベースにし、以下に示し本明細書では配列番号6として引用されるアミノ酸配列を有する:
ESKYGPPCPSCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK[配列番号6]
【0027】
いくつかの実施形態では、Fc領域は、特定のFc特性に影響するアミノ酸置換を含む、1つまたは複数の変化、通常約5つ以下のこのような変化を組み込んでいる。特定の好ましい一実施形態では、Fc領域は、位置228(EUナンバリング)でセリンがプロリンによって置換されている(S228P)変化を組み込み、それにより、Fcダイマー内のジスルフィド結合を安定化させる。Fc領域内の他の変化は、グリシンまたはアラニンによるAsn297の置換などのグリコシル化を変える置換、米国特許第62,777,375号で教示のT252L、T253S、およびT256Fなどの半減期延長変化、ならびに409位置を含む多くの他の変化を含み得る。特に有用であるのは、Fc特性を増強するが、立体配座に関してサイレントのままである、例えばFc受容体結合を保持している変化である。
【0028】
特定の実施形態では、Fc成分がIgG4 Fcである場合、Fcは、少なくともS228P変異を組み込み、以下に示され配列番号7として本明細書で引用されるアミノ酸配列を有する:
ESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK[配列番号7]
【0029】
組み合わせに使用されるCD47遮断薬は、従って、ヒトSIRPαとヒトCD47との間の結合を抑制し、それにより、SIRPα結合CD47、ヒトSIRPα成分を含む融合タンパク質、およびこの融合タンパク質と融合したFc成分を経由して媒介されるシグナルの伝達を抑制または低下させるのに有用なSIRPαFc融合タンパク質であり、SIRPα成分がヒトSIRPαV2の単一IgVドメインを含みまたはそれからなり、Fc成分がヒトIgGの定常領域であり、定常領域が好ましくはエフェクター機能を有する。
【0030】
一実施形態では、融合タンパク質は、野生型ヒトSIRPαのV2型の少なくとも残基32~137、すなわち配列番号1からなるSIRPα成分を含む。好ましい実施形態では、SIRPα成分は、ヒトSIRPαのV2型の残基31~148、すなわち配列番号5からなる。別の実施形態では、Fc成分は、P01857と呼ばれるヒトIgG1のFc成分であり、特定の実施形態では、その低級ヒンジ-CH2-CH3領域、すなわち配列番号2を組み込んでいるアミノ酸配列を有する。
【0031】
従って、好ましい実施形態では、本発明の方法は、発現した一本鎖ポリペプチドおよびその分泌ダイマー融合体(ホモダイマー)としてSIRPαFc融合ポリペプチドであるCD47遮断薬を利用し、融合タンパク質は、配列番号1および好ましくは配列番号5を有するSIRPα成分ならびに、これと融合して、エフェクター機能を有し、配列番号2を有するFc領域を組み込む。SIRPα成分が配列番号1である場合、この融合タンパク質は、以下に示す配列番号3を含む:
EEELQVIQPDKSVSVAAGESAILHCTVTSLIPVGPIQWFRGAGPARELIYNQKEGHFPRVTTVSESTKRENMDFSISISNITPADAGTYYCVKFRKGSPDTEFKSGAGTELSVRAKPSDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK*[配列番号3]
【0032】
SIRPα成分が配列番号5である場合、この融合タンパク質は、以下に示す配列番号8を含む:
EEELQVIQPDKSVSVAAGESAILHCTVTSLIPVGPIQWFRGAGPARELIYNQKEGHFPRVTTVSESTKRENMDFSISISNITPADAGTYYCVKFRKGSPDTEFKSGAGTELSVRAKPSDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK[配列番号8]
【0033】
代替実施形態では、融合タンパク質のFc成分は、IgG4、好ましくはS228P変異を組み込んだIgG4をベースにしている。この融合タンパク質が好ましい配列番号5のSIRPα IgVドメインを組み込む場合、得られるIgG4ベースのSIRPα-Fcタンパク質は、以下に示す配列番号9を有する:
EEELQVIQPDKSVSVAAGESAILHCTVTSLIPVGPIQWFRGAGPARELIYNQKEGHFPRVTTVSESTKRENMDFSISISNITPADAGTYYCVKFRKGSPDTEFKSGAGTELSVRAKPSESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK[配列番号9]
【0034】
好ましい実施形態では、融合タンパク質は、融合タンパク質のSIRPα IgVドメインとして、配列番号5である配列を含む。好ましいSIRPαFcは配列番号8である。
【0035】
CD47遮断薬内に組み込まれたSIRPα配列は、文献に記載のように変化させることができる。すなわち、SIRPα内の有用な置換は通常、CD47の結合親和性を高め、下記の1種または複数を含み得る:L4V/I、V6I/L、A21V、V27I/L、131T/S/F、E47V/L、K53R、E54Q、H56P/R、S66T/G、K68R、V92I、F94V/L、V63I、および/またはF103V。さらに他の置換には、アミノ酸が同じグループ由来のアミノ酸により置換される保存的アミノ酸置換が含まれる。また、上述のように、SIRPα配列はまた、CD47結合親和性が維持される限りにおいて、短縮または延長できる。
【0036】
SIRPαFc融合ポリペプチドでは、SIRPα成分およびFc成分は、直接的または間接的に融合されて、単鎖ポリペプチドが得られ、この単鎖ポリペプチドは個別の単鎖SIRPαFcポリペプチドのFc領域間で形成される鎖内ジスルフィド結合により結合されるホモダイマーとして最終的に生成される。SIRPα領域とFcを連結する融合領域の性質は重要ではない。融合は、SIRP成分が融合体のN末端を構成し、Fc成分がC末端を構成する2つの成分の間で直接的であってもよい。あるいは、融合は、1個または複数のアミノ酸、望ましくは2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10個のアミノ酸などの遺伝的にコードされたアミノ酸、または5~50、5~30もしくは5~20個のアミノ酸などの5~100個の任意の数のアミノ酸から構成されるリンカーを介する間接的であってもよい。リンカーは、BamHI、ClaI、EcoRI、HindIII、PstI、SalIおよびXhoI部位などの制限酵素部位を構成するDNAによってコードされるペプチドを含んでもよい。
【0037】
リンカーアミノ酸は、典型的にはおよび望ましくは、Fc成分およびSIRPα成分が活性のある立体配座をとることを可能とする幾分かの可撓性を提供するであろう。このような可撓性を可能にする残基は通常、Gly、AsnおよびSerであるので、リンカー内のこれらの残基(ならびに特にGlyおよびSer)の実質的に任意の組み合わせが所望の連結作用を提供する可能性がある。一例では、このようなリンカーは、(G4S)n(式中、nは1、2、3またはそれ超である)のように反復し得る、いわゆるG4S配列(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)(配列番号10)に基づいており、または(Gly)n、(Ser)n、(Ser-Gly)nもしくは(Gly-Ser)nなどに基づいている。別の実施形態では、リンカーはGTELSVRAKPS(配列番号4)である。この配列は、C末端がIgVドメインに隣接するSIRPα配列を構成する(この隣接配列が、上述のIgV最小配列と結合した場合、IgVドメインのリンカーまたは異なる形態のいずれかとみなされ得ることは理解される)。融合領域またはリンカーは、この複数の成分が活性のある立体配座をとることを可能とするという点でのみ必要であり、このことは、当該技術分野で有用な任意の形態のリンカーによって達成することができる。
【0038】
SIRPαFc融合体は、CD47遮断薬として、SIRPαとCD47との相互作用を抑制し、それによりこの系を通るシグナル伝達を遮断するのに有用である。CD47によるマクロファージ上のSIRPαの刺激は、ミオシンII活性およびマクロファージ中へと標的を引っ張り込むことに関与する収縮性細胞骨格活性を不活性化させることによって、マクロファージ媒介性食作用を抑制すると理解されている。従って、このカスケードの活性化は、CD47+疾患細胞の生存にとって重要である。この経路を遮断することにより、マクロファージの貪食が可能となり、CD47+疾患細胞集団を根絶することができる。
【0039】
本発明の医薬組合せ剤は、SIRPαFcなどのCD47遮断薬、およびポリ-(ADPリボース)-ポリメラーゼ(PARP)酵素活性の阻害薬の両方を含む。PARP阻害薬(PARPi)は、既知のPARPiの中から、および特に、販売が認可された、または臨床開発中であるPARPiの中から選択できる。
【0040】
PARPiは、標的PARP酵素の活性を抑制し、従って、PARP阻害を検出する任意のアッセイ、例えば、PARPi候補の存在下および非存在下で、所与のPARP基質に対するPARP活性を明らかにするアッセイを用いて特定できる。評価される酵素活性は、酵素のDNA結合活性、そのC末端触媒活性、その自己調節活性および/またはそのカスパーゼ切断活性であり得る。いくつかの実施形態では、PARPiは、触媒ドメイン中の配列相同性に基づいて特徴付けられた17種の酵素種を含むPARPファミリーメンバーの特有のものであるPARPの活性を抑制する。ヒトの既知のPARPスーパーファミリーの内で、PARP-1、PARP-2、タンキラーゼ1、タンキラーゼ2、およびvPARPは、DNA修復で役割を有すると考えられるが、PARP-1が細胞性PARP活性の90%超を占め、依然として最も研究されている。これらの酵素は、例えば、複合体形成を抑制する、破壊するまたは低下させるために、本明細書で有用なPARPiにより標的化できる塩基除去修復複合体の一部を形成する。
【0041】
いくつかの実施形態では、PARPiは、PARP-1の活性を抑制する薬剤である。このPARP-1種のヒト型は、P09874としてUniProtKBデータベース中で、そのアミノ酸配列の観点から、および他の多くの観点から記載されており、酵素機能は、EC:2.4.2.30として示されている。
【0042】
本発明の医薬組合せ剤では、PARP阻害薬は、生物学的でも小分子でも、PARP酵素の機能を妨害し、破壊する任意の薬剤であってよい。薬剤は、例えば、PARP結合物質もしくは抗体、またはPARP遺伝子発現または翻訳の阻害薬であり得る。あるいは、および好ましくは、PARP阻害薬は、PARP-1活性を阻害する小分子の化学的物質である。PARPはNAD+を切断し、ニコチンアミドを放出するので、これらのPARPi化合物の多くは、ニコチンアミドファルマコフォアを有し得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、SIRPαFcなどのCD47遮断薬との組み合わせで用いられるPARPiは、ベリパリブ(ABT888)、オリパリブ(oliparib)(AZ2281、KU59436)、イニパリブ(BSI201/BSI401)、ルカパリブ(AG01、4699)、ニラパリブ(ゼジューラ(登録商標))、パミパリブ、タラゾパリブ、MK4827、CEP9722、BMN672、BMN673、E7016、INO-1001、LT-673、MP124、NMS-P118およびXAV939を含むまたはこれらからなる群から選択されるPARP阻害薬である。
【0044】
これらの化合物の内のいくつかの構造を便宜上以下に示し、全ては先行技術で明らかになっている:
【化1】
【0045】
好ましい実施形態では、PARP阻害薬はニラパリブである。現在、ニラパリブは、BRCA状態を考慮することなしに卵巣癌治療での使用が認可されている。
【0046】
PARP阻害薬は、治療用量、送達方法、および治療計画を含む単剤療法でのその使用に対する処方法と同様にして本発明の併用療法で使用できる。特に、ニラパリブを、例えば、毎日1回、100~300mgの薬物を含む経口送達カプセル(FDAによる推奨)として使用できる。別のPARP阻害薬ベリパリブの推奨用量は、第2相臨床試験に基づいて400mgを1日2回であった。
【0047】
より一般的には、各薬物または薬剤は、薬学的に許容可能な担体を含む好適な単位剤形で、および治療有効量で投与される。本明細書中で使用される場合、「薬学的に許容可能な担体」は、タンパク質/抗体製剤の技術分野において生理学的に適合し、有用ないずれかのおよびすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、などを意味し、CD47遮断薬はタンパク質である。別の理由で、化学的薬物製剤において使用される標準的薬剤は、選択されたPARPiを処方するのに使用できる。薬学的に許容可能な担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、ならびにそれらの組み合わせの内の1種または複数が挙げられる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば、糖;マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムなどのポリアルコールを含むことが好ましいであろう。
【0048】
本明細書で使用される場合、「有効量」は、所望の治療結果を達成するのに必要な投薬量および特定の期間にわたり有効な量を意味する。組み合わせにおける各薬物の治療有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別および体重、ならびにレシピエントにおいて所望の応答を誘発する薬物の能力などの因子によって変化してよい。治療有効量は、薬理学的作用剤の任意の毒性のあるまたは有害な作用が、治療上有益な作用によって凌駕されるものでもある。
【0049】
本発明の医薬組合せ剤の使用は、どちらかの薬剤単独による治療に比べて、併用治療により死滅させられるまたは弱められるCD47+疾患細胞の数の増大として顕在化し得る高められた応答を提供できる。応答はまた、治療を受けている対象中のCD47+腫瘍の全体量、またはそれらのサイズ、数、増殖速度、または分布の改善として顕在化され得る。この改善された効力は、相加より低い効果として顕在化でき、この場合、組み合わせの効果は、各成分単独での効果より大きいが、両成分の効果の合計未満である、または相加効果であってもよく、この場合、組み合わせの効果は、個別に使用した場合の成分の効果の合計と同等である、または相加より大きい効果であってもよく、この場合、組み合わせの効果は、単独使用の各成分の効果の合計よりも大きい。相加より大きい効果は、相乗的効果と呼ばれることもある。改善された組み合わせの効力は、当該技術分野において既知の多くの方法により測定できる。改善された効力は、各成分単独の効果に比べて、CD47+疾患細胞の成長または増殖または活力を抑制する、組み合わせによる能力の統計的に有意な増大をもたらすことができる。いくつかの実施形態では、効果は、相加効果より大きい。従って、SIRPαFcと組み合わせたPARPiの治療有効量または用量は、好ましくは、CD47+疾患細胞の活力に対する、または任意の他の治療関連パラメーターに対する相加効果または相加より大きい効果を与える組み合わせの量または用量である。
【0050】
CD47遮断薬と組み合わせて使用される場合、治療計画は、組み合わせて使用されるべき薬物種、薬物投与の相対的タイミングおよび治療される医学的適応症の性質をさらに考慮することになる。好ましい薬物または医薬組合せ剤は、下記から選択される:
1)配列番号8または配列番号9を有するSIRPαFcおよびニラパリブとして知られるPARP阻害薬。特定の実施形態では、組み合わせは、配列番号8を有するSIRPαFcおよびPARPiニラパリブを含む。別の特定の実施形態では、組み合わせは、配列番号9を有するSIRPαFcおよびPARPiニラパリブを含む。
2)配列番号8または配列番号9を有するSIRPαFcおよびPARP阻害薬ベリパリブ。特定の実施形態では、組み合わせは、配列番号8を有するSIRPαFcおよびPARPiベリパリブを含む。別の特定の実施形態では、組み合わせは、配列番号9を有するSIRPαFcおよびPARPiベリパリブを含む。
3)配列番号8または配列番号9または配列番号7を有するSIRPαFcおよびルカパリブとして知られるPARP阻害薬。特定の実施形態では、組み合わせは、配列番号8を有するSIRPαFcおよびPARPiルカパリブを含む。別の特定の実施形態では、組み合わせは、配列番号9を有するSIRPαFcおよびPARPiルカパリブを含む。
4)配列番号8または配列番号9または配列番号7を有するSIRPαFcおよびPARPiオラパリブ。特定の実施形態では、組み合わせは、配列番号8を有するSIRPαFcおよびオラパリブを含む。別の特定の実施形態では、組み合わせは、配列番号9を有するSIRPαFcおよびオラパリブを含む。組み合わせて含まれる各薬物は、組み合わせて使用するために別々に製剤化できる。
【0051】
これらの薬物は、両方の薬物のレシピエントで、一方の薬物の効果がもう一方の薬物の効果を増強するために使用される場合、薬物は「組み合わせて」使用されると言われる。
【0052】
SIRPαFcおよびPARPiは、薬物送達のために確立された任意の経路を介して、別々にまたは組み合わせて、対象に投与され得る。投与の選択経路および/または方法は、所望する結果に応じて変わるであろう。SIRPαFcなどの融合タンパク質の投与の好ましい経路は、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、関節内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、腫瘍内、皮下、表皮下、関節腔内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内などの注射および注入によるなどの非経口の投与経路である。特にPARPiのための本明細書で有用な他の経路は、経口もしくは経鼻などの腸内経路または肺内投与、または点滴によるまたは局所、表皮、または粘膜投与経路による、例えば、鼻腔内、経口、経膣、直腸内または舌下投与であり、このような経路は、認可された形態のこのようなPARPiに対し確立されている。
【0053】
本発明の組み合わせにおける薬剤は、順次に、または実質的に同時に投与できる。すなわち、PARPiは、SIRPαFcの投与前または投与後に投与できる。薬剤または少なくともそれらの作用がレシピエント中で重なりあうのが望ましい。従って、SIRPαFcは、PARPiで既に治療されたレシピエントに投与でき、または逆もまた同じである。特定の実施形態では、CD47遮断薬、例えば、SIRPαFcは、対象がニラパリブなどのPARP阻害薬で治療された後で投与される。別の実施形態では、PARPiおよびSIRPαFcは同時に投与される。
【0054】
投与計画は、最適な所望の応答(例えば、治療応答)を提供するように調節される。例えば、各薬物の単回ボーラス投与をしてもよく、またはいくつかの分割用量を経時的に投与してもよく、または治療状況によって示されるように用量を比例して減少または増加させてもよい。投与の簡便さおよび用量の均一性のために、単位剤形により非経口組成物を処方することは特に有利である。本明細書で使用される「単位剤形」は、治療される対象のための単位投与量として適した物理的に別個の単位を意味し、各単位は、必要とされる医薬担体に関連して所望の治療作用を生じるように計算された所定量の活性のある化合物を含有する。本発明の投与単位剤形の仕様は、(a)活性化合物の独特の特徴および達成される特定の治療効果、ならびに(b)個体における感受性の扱いのためにこのような活性化合物の配合の当該技術分野に固有の制限、によって必然的に決まり、これらに直接的に依存している。
【0055】
薬物は、組み合わせで処方することができ、それにより、1回の投与、例えば1回の注射または1回の注入バッグで組み合わせをレシピエントに導入できる。別の実施形態では、薬物は、併用療法投与計画での別々の投与のために別々に処方される。
【0056】
投与のために、各薬剤の投与量は、宿主体重の約0.0001~100mg/kg、さらに通例では0.01~5mg/kgの範囲内である。例えば、投与量は、0.1mg/kg体重、0.2mg/kg体重、0.3mg/kg体重、1mg/kb体重、3mg/kg体重、5mg/kg体重もしくは10mg/kg体重、または1~10mg/kgの範囲内であり得る。単位剤形では、薬物は、1、2、3、4、5、10、25、50、100、200、250、および500mg/用量などの1~500mgの薬物を含む。2つの薬物は、ほぼ等モル量(±10%)で投与することができる。例示的な治療投与計画は、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、1か月に1回、3か月に1回または3~6か月に1回の投与を伴う。本発明の薬物組み合わせに好ましい投与計画には、静脈内投与を介した1mg/kg体重または3mg/kg体重が含まれ、各薬物は、以下の投薬計画のうちの1つを用いて同時に投与される;(i)4週毎に6投与量、その後、3ヶ月毎;(ii)3週毎;(iii)3mg/kg体重を1回、その後、3週毎に1mg/kg体重。いくつかの方法では、投与量は、約1~1,000μg/ml、およびいくつかの方法では、25~300μg/mlの血漿中融合タンパク質濃度を達成するように調節される。
【0057】
いくつかの実施形態では、対象は、毎週0.1mg/kgの配列番号8または配列番号9のSIRPαFc薬物および2週毎に約3mg/kgのニラパリブを含む投与計画を用いて治療される。SIRPαFcタンパク質は、赤血球への無視できる程度の結合を示す。したがって、薬物の組み合わせを用いて投与する場合、RBC「シンク」を考慮する必要はない。RBCに結合される他のCD47遮断薬と比較して、本発明のSIRPαFc融合体は、CD47抗体などの、RBC結合体となる薬物に必要な用量の半分未満の用量で有効であり得ると推定される。さらに、SIRPα-Fc融合タンパク質は、SIRPα媒介シグナルの専用の拮抗薬であり、これは、当該融合タンパク質への結合の際に無視できる程度のCD47拮抗を示すためである。従って、薬物によって誘導される何らかの刺激を考慮することは、医学的に有用な単位投与計画を確立する際には必要はない。
【0058】
組み合わせにおける各薬物は、持続放出製剤として投与することもでき、この場合、投与頻度を少なくする必要がある。投与量および頻度は、患者中の融合タンパク質および他の薬剤の半減期に依存して変化する。投与量および投与頻度は、治療が予防的であるか治療的であるかによって変化し得る。予防適用では、相対的に低い投与量が、長期間にわたって相対的に低い頻度の間隔で投与される。一部の患者は、余生のために治療を受け続ける。治療適用では、疾患の進行が低下または終了するまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的または完全な寛解を示すまで、相対的に短い間隔で相対的に高い投与量が必要な場合がある。その後、予防投与計画を用いて患者を治療することができる。
【0059】
本発明の治療はまた、上述のように、PARP阻害と組み合わせたCD47遮断薬の使用を含み、および照射療法またはRTとしても知られる放射線治療をさらに含む。ある実施形態では、RTは、体外照射療法(EBR)である。代替的実施形態では、RTは、ブラキセラピーである。放射線治療の主要機能は、DNA鎖を切断して、著しいDNA損傷を生じさせ、細胞死に至らせることである。放射線療法とPARP阻害薬の組み合わせは、特にBRCA1/BRCA2変異を有する腫瘍組織中では(この場合だけではないが)、放射線治療による一本鎖切断から二本鎖切断を形成できる。BRCA遺伝子(乳癌抗原遺伝子)BRCA1およびBRCA2は、無関係のタンパク質をコードするが、両者は乳房および他の組織中で発現され、そこでそれらは、損傷DNAの修復を支援する、またはDNAを修復できない場合には細胞を破壊する。それらは、DNA二重鎖切断の誤りのない修復における重要な役割を有する染色体損傷の修復に関与する。BRCA1またはBRCA2が変異により損傷を受け、DNAは修復されず、乳癌のリスクが増大する場合、BRCA1およびBRCA2は、「乳癌感受性遺伝子」および「乳癌感受性タンパク質」と呼ばれてきた。
【0060】
放射線治療は、癌および他の疾患の電離放射線を用いた治療である。これは、多数の癌型の治療に対する十分に確立されている手法であり、各癌型が、通常その特定の癌に適応させたRT治療計画を受けるように精密化されている。電離放射線は、それらの遺伝物質を損傷することにより治療される領域中で細胞を損傷または破壊するエネルギーを蓄積し、これらの細胞が増殖を続けるのを不可能にする。放射線治療を含む併用療法を用いて、卵巣、前立腺、皮膚、舌、喉頭、脳、乳、または子宮頸部癌などの局在化した固形腫瘍を治療できる。それはまた、白血病およびリンパ腫(それぞれ、血液形成細胞およびリンパ系の癌)を含む、いわゆる血液癌を治療するために使用できる。
【0061】
ある実施形態では、RTは、体外照射(EBR)療法である。従来の体外照射療法(2DXRT)は、高エネルギーX線を生成するキロボルト治療X線ユニットまたは医学線形加速器を用いて二次元ビームを介して照射される。2DXRTは、主に、いくつかの方向:多くの場合、前後、および両側から患者に照射される放射線単一ビームからなる。体外照射療法は、ほとんどの場合、光子ビーム(X線またはガンマ線)の形で照射される。電気を使用して高速移動亜原子粒子流を形成する線形加速器を用いて多くのタイプの体外照射療法が行われる。対象は、体外照射療法を数週間のあいだの毎日の治療セッションで受けることができる。治療セッションの数は、投与される予定の総放射線量を含む多くの因子に依存する。別の有用なタイプの体外照射療法は、3次元原体照射法(3D-CRT)である。3D-CRTは、高性能コンピューターソフトウェアおよび先進治療機械を用いて、極めて正確に整形された標的領域に照射する。
【0062】
さらに他の体外照射療法方法が、本発明の治療方法に有用である。これらには、強度変調放射線治療(IMRT)が含まれ、これは、数百の小さい放射線ビーム整形装置、すなわち、コリメーターを用いて一定の照射線量を照射する。コリメーターは、固定することができ、または治療中に動かすこともでき、治療セッション中に放射線ビームの強度を変えることができるので、腫瘍の異なる領域または近くの組織に異なる照射線量で照射できる。IMRTを用いて、治療領域への放射線量を増大させることができる。
【0063】
使用中には、本発明の治療の組み合わせにおける3種の治療モダリティのそれぞれは、単独療法で使用されているかのように、すなわち、任意の他の薬剤とのその組み合わせとは独立に使用されているかのように利用できる。投与および照射方法は、単独療法として確立された適用と同じであるので、各モダリティは、投与される対象の治療で組み合わせられる場合、強化された抗癌の恩恵をもたらす。放射線、PARPiおよびSIRPαFcの組み合わせは、放射線が一次モダリティであると見なされる場合に投与されるであろう。放射線が治療オプションではない場合には、治療は、PARPi+SIRPαFc併用療法のみから構成できる。
【0064】
治療の組み合わせでは、PARPiは、放射線治療の前に投与され得るが、SIRPαFcは、それと同時に投与されるであろう。
【0065】
いくつかの実施形態では、対象は、ほとんどのタイプの体外照射療法を、週最大5日間、数週間にわたり受ける。計画された総照射線量の内の1線量(単回照射)を毎日投与される。場合により、1日当たり2種の治療を投与される。ほとんどのタイプの体外照射療法は、1日1回照射され、それにより、正常組織に対する損傷は最小化され、癌細胞は、それらがDNA損傷を最も受けやすいいくつかの細胞周期のポイントで放射線に暴露される可能性が高まる。照射スケジュールの分割は、今日では一般的であり、加速分割照射では、治療は、大きい量で毎日または毎週照射により投与され、治療週の数を減らす;過分割照射法では、より小さい照射量が1日1回より多い頻度で投与される;および少分割照射法では、より大きな照射量が1日1回またはそれより少ない頻度で投与されて治療回数を減らす。
【0066】
分割投与計画は、異なる放射線療法センター間で、および個別の医師間でも、個人に合わせられる。北米、オーストラリア、および欧州では、成人向けの典型的な分割スケジュールは、1日当たり1.8~2Gy、週5日間である。いくつかの癌型では、分割スケジュールの長すぎる延長は、頭頸部癌および頸部扁平上皮細胞癌を含む腫瘍の再増殖の開始を可能にでき、これらの腫瘍型に対する放射線療法は、一定の時間内に完結されるのが好ましい。子供に対しては、典型的な分割サイズは、1日当たり1.5~1.8Gyであってよい。理由は、より小さい分割サイズは、正常組織中の晩期発症型副作用の発生率および重症度の低減と関係しているためである。
【0067】
いくつかの事例では、治療過程の終わり近くで、1日当たり、2種の分割が用いられる同時ブースト法または過分割照射法として知られるこのスケジュールを、それらがより小さい場合により急速に再生する腫瘍に対して用いられる。特に、頭頸部の腫瘍は、この挙動を示す。
【0068】
少分割照射法は、総照射線量が大きな線量に分割される放射線療法である。典型的な線量は、癌型により、2.2Gy/分割量~20Gy/分割量へと大きく変わる。少分割照射法の背後にある論理は、細胞に対し再生するための十分な時間を与えないことにより、癌再発の可能性を減らすことであり、またいくつかの腫瘍の固有的な生物学的放射線感受性を搾取することにある。1つの一般的に治療される部位でこのような治療の極めて良好な証拠である部位は、乳癌である。3~4週にわたる、例えば、40Gyの15分割または42.5Gyの16分割による短期少分割照射治療は、癌対照に対するより長い5~6週の治療と同等の有効性を示した。
【0069】
別の分割スケジュールは、連続加速過分割照射療法である。CHARTは、肺癌の治療に使用され、1日当たり3種のより小さい分割量からなる。別のよく知られるようになってきた別の分割スケジュールは、乳癌の治療に使用され、加速乳房部分照射(APBI)と呼ばれる。APBIは、外部ビーム放射線により実施できる。APBIは、全乳房照射に比べて、5日間にわたる1日当たり2種の高線量分割量を含み、この場合、単一のより小さい分割量が週5回で、6~7週の期間にわたり照射される。
【0070】
従って、放射線治療に対し、照射レベルおよび投与計画は、治療される癌の型、位置および病期により決定される。線量は、光子またはプロトンベースであり得、レントゲンまたはグレイ単位で表され、放射線の暴露線量(Rn)または吸収線量(Gy)を示す。グレイは、電離放射線量の誘導単位であり、これは、1キログラムのヒト組織により吸収された放射線エネルギーの量の尺度である。これはラドと関連し、ラドは、0.01Gyである。一般に、適切な線量は、暴露当たり約1~約300Gyの範囲であろう。暴露当たりの総投与量は、約1~約500Gyの範囲で変動し得、特に、40~70Gyである。
【0071】
定義では、空気カーマ(単位質量当り放出された動力学的エネルギー)の1レントゲンは、乾燥空気中での吸収線量の0.00877Gy(0.877rad)、または軟組織中での吸収線量の0.0096Gy(0.96rad)を沈着させる。X線の1レントゲン(空気カーマ)は、ビームエネルギーに応じて骨中のどこかに、0.01~0.04Gy(1.0~4.0rad)を沈着させ得る。本発明の方法のX線の線量範囲は、50~200レントゲンから、ならびに3~4週などの長期期間に対するすべてのそれらの間の中間的線量レベルから、2000~6000の単一用量(限定されないが、2500、3000、3500、4000、4500、5000、および5500レントゲンを含む)の範囲までである。
【0072】
本発明の方法により使用される体外照射療法スケジュールは、同様に変えることができる。特定の実施形態では、特定のスケジュールは、約6~約7週間にわたる週当り約5回の毎日の治療を含むことができ、または約2~約3週間にわたる毎日約2回の治療を含むことができる。
【0073】
代替実施形態では、放射線療法はブラキセラピーであり得る。ブラキセラピーでは、放射線源は、治療の必要な領域の内側またはそれに隣接して配置される。それは、特に、乳癌、子宮頸部癌、前立腺癌および皮膚癌のための治療として使用される。ブラキセラピーは、短飛程放射線源(放射性同位元素)の腫瘍位置への直接的精密留置を必要とする。これらは、保護カプセルまたはワイヤー中に封入され、電離放射線が周辺組織を治療し、死滅させることを可能とする。
【0074】
従って、ブラキセラピーのコースは放射線源の留置で始まり、その除去時に、または放射線源が寿命になるとき、終わる。ブラキセラピーの線量率は、放射線が周辺の媒体に照射され、1時間当たりのグレイ(Gy/時間)で表されるレベルまたは「強度」を意味する。低線量率(LDR)のブラキセラピーは、最大2Gy/時間の線量率で放射する放射線源の移植を必要とする。LDRブラキセラピーは、口腔、中咽頭、肉腫および前立腺の癌に一般的に使用される。中程度の線量率(MDR)のブラキセラピーは、2Gy/時間~12Gy/時間の範囲の中程度の照射線量率を特徴とする。高線量率(HDR)のブラキセラピーでは、照射線量率は、12Gy/時間を超える。HDRブラキセラピーの最もよくある用途は、子宮頸部、食道、肺、乳房および前立腺の腫瘍である。
【0075】
パルス線量率(PDR)ブラキセラピーは、通常、1時間に1回の放射線の短パルスを伴い、LDR治療の全体線量率および有効性をシミュレートする。PDRブラキセラピーにより治療される典型的腫瘍部位は、婦人科および頭頸部癌である。
【0076】
標的領域での放射線源の留置は、一時的でも永久的でもよい。一時的ブラキセラピーは、取り出す前に、設定期間(通常、数分または数時間)の間の放射線源の留置を伴う。治療時間は、必要な照射線量率および癌の型、サイズおよび位置などの多くの因子に依存する。LDRおよびPDRブラキセラピーでは、線源は、24時間まで所定位置でとどまり、その後、取り出されるが、HDRブラキセラピーでは、この時間は通常、ほんの数分間にすぎない。
【0077】
永久的ブラキセラピーは、シード移植としても知られ、小型LDR放射性シードまたはペレット(凡そ米粒の大きさ)の腫瘍または治療部位中への留置を含み、そこでそれらを永久的に徐々に崩壊させる。数週間または数ヶ月の期間を超えると、線源から放出される放射線は、ほぼゼロに低下するであろう。その後、治療部位中に不活性シードが残されるが、効果の持続はない。
【0078】
一般的に使用されるブラキセラピー放射線の線源には、セシウム-131、セシウム-137、コバルト-60、イリジウム-192、ヨウ素-125、パラジウム-103、ルテニウム-106およびラジウム-226が挙げられる。
【0079】
上述のように、本発明の治療法では、CD47結合型のヒトSIRPαなどのCD47遮断薬がPARP阻害薬と組み合わせて使用される。別の実施形態では、CD47遮断薬は、放射線療法およびPARP阻害の両方と組み合わせて使用される。これらの方法は、CD47+疾患、特に、過剰増殖疾患、さらに特に癌の治療に有用である。CD47+がん細胞の枯渇などの抗癌作用の観点では、治療モダリティは、共同して癌細胞活力、活性または死亡率の高められた低減をもたらす。組み合わせの共同的または高められた作用はまた、癌細胞生存率、サイズ、数、または分布、または腫瘍の全体量の改善などの他のパラメーターの場合でも明らかである。
【0080】
本発明の組み合わせにおける治療モダリティは、順次に、または実質的に同時に投与できる。いくつかの実施形態では、RTは、SIRPαFcの投与の前に投与できる。一般に、時間的観点からの1つのモダリティのもう一方に対する投与は、もう一方の治療コースの観点からのそのモダリティの投与に対する、1つの治療コースの観点からの1つのモダリティの投与を意味する。従って、同時投与は、治療コースがオーバーラップし、一方で、逐次または連続的または順次投与は、治療コースがオーバーラップしない開始点を有することを意味する。
【0081】
いくつかの実施形態では、EBR療法は、約1~60分以内、もしくは2~48時間内に投与でき、またはCD47遮断薬を投与の前に、および/または投与の後で投与できる。他の実施形態では、放射線療法は、CD47遮断薬の投与の約1日~約21日前以内におよび/または後に投与できる。いくつかの実施形態では、治療期間は、大きく延長できるが、しかし、CD47遮断薬と放射線療法の投与の間で数週(例えば、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、もしくは約8週またはそれ超)がいつしか経過してしまう。もう一方の薬剤が投与されるときに、1つの薬剤の効果が対象中で存在していることのみが重要である。一実施形態では、薬剤が同時に使用されること、およびそれらの作用が治療を受けている対象内で能動的にオーバーラップすることが望ましい。ブラキセラピーの場合には、そのモダリティを同時に用いることができ、CD47遮断薬およびPARPiで治療コース中に内部放射線が所定位置にあること、またはCD47結合物質およびPARPi治療が、ブラキセラピーのコースを完了している対象に投与できることを意味する。
【0082】
本発明の方法を使って、本発明の方法から利益を得られ得る、ヒトを含む哺乳動物を含む全ての対象を治療できることも理解されよう。本発明の治療の組み合わせは、種々の疾患細胞を治療するためにも有用である。これらには、特に液体腫瘍および固形腫瘍を含む、特にCD47+癌細胞が含まれる。固形腫瘍は、本発明の薬物の組み合わせを用いて治療して、その大きさ、数または成長速度を低下させ、癌幹細胞の増殖を制御することができる。本発明の治療法はまた、全生存期間などの生存を延長するのにも役立つ。このような固形腫瘍には、CD47+泌尿生殖器腫瘍および膀胱、脳、頭頸部、乳房、肺、結腸、卵巣、卵管、腹膜、前立腺、胃組織、結腸、肝臓、膵臓、子宮内膜、ユーイング肉腫、皮膚およびさらに他の組織中などのその他のものが含まれる。一実施形態では、薬物の組み合わせは、血液癌の成長または増殖を抑制するために使用できる。本明細書で使用する場合、「血液癌」は、血液の癌を指し、特に、白血病、リンパ腫および骨髄腫を含む。「白血病」は、感染と戦う上で有効ではないあまりにも多くの白血球ができ、したがって血小板および赤血球などの血液を構成する他の部分を締め出す血液の癌を意味する。白血病の症例が急性または慢性に分類されることは理解される。ある特定の形態の白血病は、例として、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性疾患/腫瘍(MPDS)、および骨髄異形成症候群であり得る。「リンパ腫」は、特に、ホジキンリンパ腫、無痛性および侵襲性の両非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫ならびに濾胞性リンパ腫(小細胞および大細胞)を意味し得る。骨髄腫は、多発性骨髄腫(MM)、巨細胞骨髄腫、重鎖骨髄腫、および軽鎖またはベンス・ジョーンズ骨髄腫を意味し得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、治療の組み合わせを用いて治療される血液学的癌は、好ましくは急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、および骨髄異形成症候群から選択され、好ましくはヒト急性骨髄性白血病から選択されるCD47+白血病である。
【0084】
他の実施形態では、SIRPαFcタンパク質を用いて治療される血液癌は、ホジキンリンパ腫、無痛性および侵襲性非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫(小細胞および大細胞)、多発性骨髄腫(MM)、皮膚T細胞リンパ腫、巨細胞性骨髄腫、重鎖骨髄腫、および軽鎖またはベンス・ジョーンズ骨髄腫ならびに平滑筋肉腫から選択されるCD47+リンパ腫または骨髄腫である。
【0085】
他の実施形態では、治療の組み合わせで治療される癌は、神経膠腫または神経膠芽腫である。さらなる実施形態では、治療される癌は、黒色腫である。
【0086】
特定の実施形態では、本発明の組み合わせを用いて、変異生殖細胞系列、例えば、変異BRCA1、BRCA2、IDHまたはPALB2、進行型卵巣癌、乳癌、進行型前立腺癌、および結腸直腸癌を、特に、PARPiがオリパリブ(oliparib)またはルカパリブである場合に;および上皮卵巣、卵管、および原発性腹膜癌を、特に、PARPiがニラパリブである場合に;および進行型血液系腫瘍および進行型または再発性固形腫瘍および転移性の生殖系列BRCA変異型乳癌に対して、特に、PARPiがタラゾパリブである場合;および転移性黒色腫、進行型卵巣癌、三種陰性乳癌および非小細胞肺癌に対し、特にPARPiがベリパリブである場合に、治療できる。
【0087】
より具体的には、本発明の治療の組み合わせで治療できる卵巣癌のタイプには、それらが形成される細胞の種類に従って次の3つの主要分類に入るものが含まれる:(1)卵巣の内側を覆うまたは外側を覆う細胞から生ずる上皮腫瘍;(2)卵巣内の卵子を形成する予定の細胞から生ずる生殖細胞腫瘍;および(3)卵巣を一緒に保持し、女性ホルモンを産生する結合組織細胞中で開始される性索間質細胞腫瘍。卵巣外腹膜癌(腹腔内がん腫症)などの卵巣組織に隣接する腫瘍も含まれる。
【0088】
一般的上皮腫瘍は、卵巣の表面上皮で開始され、全ての卵巣癌の約90%を占める。それらは、多くのサブタイプ(漿液性、子宮内膜様、粘液性、および明細胞腫瘍を含む)に分類され、これらはさらに良性(非癌性)または悪性(癌性)腫瘍に分類される。漿液性腫瘍は、もっとも一般的な形態の卵巣癌である。それらは、一般的上皮腫瘍の40%を占める。これらの腫瘍の約50%は悪性で、33%が良性であり、17%がボーダーライン上の悪性腫瘍である。子宮内膜性腫瘍は、一般的上皮腫瘍の約20%である。約20%の個体において、これらの癌は、子宮内膜癌(子宮内膜の癌)に付随する。5%の症例では、それらはまた、骨盤腔内の子宮内膜(子宮内膜組織)の異常発生である子宮内膜症に関連付けられる。これらの腫瘍の大部分(約80%)は悪性で、残り(約20%)は通常、ボーダーライン上の悪性腫瘍である。粘液性腫瘍は、全ての一般的上皮腫瘍の1%を構成する。これらの腫瘍のほとんど(約80%)は良性で、15%がボーダーライン上の悪性腫瘍であり、5%のみが悪性である。明細胞腫瘍は、一般的上皮腫瘍の約6%を占める。これらの腫瘍のほとんど全てが悪性である。全ての明細胞腫瘍の約半分が子宮内膜症に関連している。本発明の組み合わせでさらに治療可能なのは、ブレンナー腫瘍、未分化腫瘍、および移行細胞腫瘍ならびに卵巣内の卵子を作る細胞から形成される生殖細胞腫瘍などの希なタイプの卵巣腫瘍である。
【0089】
特定の実施形態では、治療を受けている対象は、卵巣癌に罹患しており、治療は、毎週0.1~0.3mg/kgの配列番号8または配列番号9含有SIRPαFc薬物と、毎日の100~300mgのニラパリブの経口(または5~50mg/kg)との組み合わせの2週間を含む。さらなる実施形態では、この組み合わせを受けている対象は、さらに放射線療法も投与される。
【0090】
別の態様では、本発明の方法の実施に有用なキットが提供され、該キットは、少なくとも1種のPARP阻害薬およびCD47遮断薬を、好ましくはラベルを適宜有する容器に入れて含む。好適な容器には、例えば、瓶、バイアル、シリンジ、および試験管が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成されてよい。容器は、疾患の治療のために組み合わせにより有効である組成物を保持し、無菌の出入り口を有してよい(例えば、容器は、皮下組織注入針により貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルであってよい)。容器上の、またはそれに添付されたラベルは、組成物が癌状態を治療するために使用されることを示す。製品は、さらに、リン酸塩緩衝生理食塩水、リンゲル溶液およびデキストロース溶液などの薬学的に許容可能な緩衝液を含む第2の容器をさらに含む。それは、本発明の併用療法で有用な2種の成分のもう一方、例えば、第1の容器がCD47遮断薬を含む場合には、PARP阻害薬をさらに含む。キットには、他の緩衝液、希釈液、フィルター、針、シリンジ、および本発明の治療方法に従って使用するための説明書を含む添付文書などの、商業上および使用の観点から見て望ましい他のものをさらに含めてもよい。組織標本、標準物質または対照などの本発明の方法に有用な対照薬剤または標準物質もまた、キットに含めることができる。
【0091】
実施例
RT、PARP阻害薬およびCD47遮断薬SIRPαFcの組み合わせを、異種移植片腫瘍モデルで試験した。
材料および方法
SIRPαFc、RTおよびニラパリブ(PARP阻害薬)のインビボ効力を、BRCAコンピテントおよびノックダウンルシフェラーゼ発現卵巣癌細胞の腹腔内腫瘍異種移植片をNOD/SCIDマウス中で、単独で、または組み合わせて評価した。SIRPαFc(10mg/kg)を、RTの1時間前に、週3回で3週間、腹腔内に投与した。ニラパリブ(50mg/kg)を、RTの1時間前に、週5回で1週間投与した。マウスを全腹部放射線治療(体外照射療法)により2Gyの線量の2分割量で、画像誘導小動物照射器(225kVp、13mA)を用いて治療した。治療は、腫瘍接種後7日目に開始した。治療効力は、生物発光イメージング(BLI)および動物生存により評価した。全身毒性を臨床パラメーター採点により評価した。
【0092】
結果
SIRPαFc単剤療法は、BRCAコンピテント異種移植片モデルで腫瘍増殖を抑制したが、SIRPαFcおよびRTの組み合わせは、RT単独に比べて生存を有意に改善し、生存期間中央値が34日から47日に延長された(p=0.0085)。
【0093】
BRCAノックダウン腫瘍を有するマウスは、ビークル対照に比べて、SIRPαFc+ニラパリブの組み合わせで生存を改善した(生存期間中央値41日対42日、p=0.013)。SIRPαFcは、放射線治療と組み合わせた場合、生存を有意に高め(生存期間中央値42.5日、RT単独、対46.5日、SIRPαFc+RT、p=0.0009)、RT+SIRPαFc+ニラパリブ群で延長された生存が観察された(生存期間中央値52日、p=0.004)。
【0094】
卵巣癌の標準治療-細胞減少性減量手術に続く化学療法-は、70%の高い再発率を示し、PARPiは、1回または複数回の事前の化学療法計画を受けている再発性進行型卵巣癌の患者で使用されるべきであることが承認されている。
【0095】
RTの最近の進歩は、腫瘍に対する精密および原体照射線量の照射を容易にし、健康な組織のRTへの暴露を最小限にし、それにより、許容可能な毒性にする。従って、RTは、卵巣癌の治療への関心を獲得した。PARP阻害薬が有効な放射線増感剤として機能するという事実は、PARP阻害薬+RTの組み合わせをさらに大きな可能性のある治療戦略にしている。
【0096】
しかし、単剤療法としてのPARPiは、重度血液学的毒性のリスクが付随し、これは通常、投与の遅延および細胞傷害性化学療法剤と同様の中断に繋がり、新規治療戦略が特に必要である。本研究では、SIRPαFcが、追加の毒性を示すことなく、PARPi(ニラパリブ)および/またはRTの効力を高めることができることが示されている。
【0097】
この研究は、生得的調節(SIRPαFc)を放射線療法と組み合わせて、卵巣癌患者の全生存期間を改善することに対して支持する証拠を提供する。さらに、変異型BRCA腫瘍の患者は、SIRPαFc、ニラパリブおよびRTによる3種併用療法から恩恵を受けることができる。SIRPαFcと、PARPiおよび/またはRTとの組み合わせを用いて、PARPiの有効量を低減し、さらに、治療に付随する毒性を最小限にし得る。
【0098】
本開示は、現時点で好ましい実施例であると考えられるものを基準にして記載してきたが、本開示は、開示実施例に限定されるものではないことを理解されたい。むしろ、本開示は、添付の特許請求の範囲の趣旨と範囲内でさまざまな修正および均等の組み合わせ方を包含することが意図されている。
【0099】
全ての出版物、特許および特許出願は、あたかも、それぞれ個別の出版物、特許または特許出願が具体的に、また、個別に参照によってその全体が本明細書に組み込まれることが示されるのと同程度にその全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【配列表】