(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】DLL3標的多重特異性抗原結合分子の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240920BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20240920BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20240920BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240920BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240920BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
A61K39/395 U ZNA
A61K39/395 T
A61K45/00
A61K33/243
A61K31/282
A61P35/00
A61P37/04
C07K16/46
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022154345
(22)【出願日】2022-09-28
【審査請求日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2023505748
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】直井 壯太朗
(72)【発明者】
【氏名】フェン シュー
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(72)【発明者】
【氏名】ホー シュー ウェン サマンサ
(72)【発明者】
【氏名】松田 穣
(72)【発明者】
【氏名】三上 紘史
(72)【発明者】
【氏名】川合 由美子
(72)【発明者】
【氏名】恒成 利明
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/067399(WO,A1)
【文献】特表2021-509403(JP,A)
【文献】国際公開第2020/067419(WO,A1)
【文献】特開2021-159081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
C07K 16/46
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの治療において使用するための、抗体と薬学的に許容される担体とを含む医薬製剤であって、抗体が、
(a)以下の(a1)または(a2)のいずれか1つを含むFab分子である、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分:
(a1)配列番号:20の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:34の重鎖CDR 2、配列番号:48の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a2)配列番号:28の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:42の重鎖CDR 2、配列番号:56の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
ならびに
(b)ヒトデルタ様3(DLL3)に結合し、かつ配列番号:233を含む重鎖CDR 1、配列番号:234を含む重鎖CDR 2、配列番号:235を含む重鎖CDR 3、配列番号:237を含む軽鎖CDR 1、配列番号:238を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:239を含む軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域を含む、第3の抗原結合部分
を含み
、
第1の抗原結合部分のCH1領域と第2の抗原結合部分のCH1領域との間で形成される少なくとも1つのジスルフィド結合を含
み、且つ
第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、以下の特性:
(i)ヒトCD3に結合する;
(ii)ヒトCD137に結合する;または
(iii)ヒトCD3およびヒトCD137に結合でき、ヒトCD3およびヒトCD137のいずれか一方に結合する
のうち1つ、2つまたはそれ以上を有する、
前記医薬製剤。
【請求項2】
第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、以下の(a1)または(a2)のいずれか1つ:
(a1)配列番号:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL);
(a2)配列番号:14のアミノ酸配列を含むVH、および配列番号:58のアミノ酸配列を含むVL;
を含む、
請求項1記載の医薬製剤。
【請求項3】
第3の抗原結合部分が、配列番号:232を含むVHと配列番号:236を含むVLとを含む抗体可変領域を含む、請求項1または請求項2記載の医薬製剤。
【請求項4】
前記少なくとも1つのジスルフィド結合が、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれのCH1領域の191位(EUナンバリング)のシステイン残基で形成される、請求項1または請求項2記載の医薬製剤。
【請求項5】
第1の、第2の、および第3の抗原結合部分のそれぞれが、VHおよび CH1ドメインを含む重鎖とVLおよび軽鎖定常(CL)ドメインを含む軽鎖とを含むFabであり、かつ第3の抗原結合部分の重鎖のC末端が、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれかのFab重鎖のN末端に、直接的にまたはペプチドリンカーを介して融合されている、請求項1または請求項2記載の医薬製剤。
【請求項6】
第3の抗原結合部分の重鎖のC末端が、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれかのFab重鎖のN末端に、ペプチドリンカーを介して融合されており、かつペプチドリンカーが、配列番号:248、配列番号:249、および配列番号:259からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項
5記載の医薬製剤。
【請求項7】
第3の抗原結合部分が、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、かつ第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、従来型のFab分子である、請求項
6記載の医薬製剤。
【請求項8】
第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれのCLドメインにおいて、123位および124位(Kabatナンバリング)にあるアミノ酸がそれぞれ、アルギニンおよびリジンであり;かつ第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれのCH1ドメインにおいて、147位および213位(EUナンバリング)の各々にあるアミノ酸がグルタミン酸である、請求項
7記載の医薬製剤。
【請求項9】
抗体が、Fcドメインをさらに含む、請求項1または請求項2記載の医薬製剤。
【請求項10】
以下の(A)~(C)からなる群:
(A)配列番号:201のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:208のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、およびそれぞれが配列番号:214のアミノ酸配列を含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5);
(B)配列番号:203のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、およびそれぞれが配列番号:214のアミノ酸配列を含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5);ならびに
(C)配列番号:204のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、およびそれぞれが配列番号:214のアミノ酸配列を含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5)
より選択される組み合わせで5本のポリペプチド鎖を含む抗体と薬学的に許容される担体とを含む、がんの治療において使用するための医薬製剤。
【請求項11】
がんが、DLL3発現がんまたはDLL3陽性がんである、請求項1、2または
10記載の医薬製剤。
【請求項12】
がんが、DLL3を発現するか、若しくはDLL3陽性である、神経内分泌新生物(NEN)、神経内分泌腫瘍(NET)、神経内分泌がん(NEC)、または非神経内分泌起源の他の固形腫瘍である、請求項
11記載の医薬製剤。
【請求項13】
がんが、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)、大細胞型NEC(LCNEC)、小細胞肺がん(SCLC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(medullary thyroid carcinoma; MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC)、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、および甲状腺髄様がん(medullary thyroid cancer)からなる群より選択されるがんである、請求項1、2または
10記載の医薬製剤。
【請求項14】
追加の治療剤と組み合わせて使用するための、請求項1、2または
10記載の医薬製剤。
【請求項15】
追加の治療剤が、化学療法剤または免疫チェックポイント阻害剤である、請求項
14記載の医薬製剤。
【請求項16】
免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1軸結合アンタゴニストである、請求項
15記載の医薬製剤。
【請求項17】
PD-1軸結合アンタゴニストが、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である、請求項
16記載の医薬製剤。
【請求項18】
化学療法剤が、微小管破壊剤、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレート剤、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、抗血管新生剤、エトポシド、イリノテカン、ルルビネクテジン、アムルビシン、または白金製剤である、請求項
15記載の医薬製剤。
【請求項19】
白金製剤が、シスプラチンまたはカルボプラチンである、請求項
18記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DLL3を標的とする多重特異性抗原結合分子、そのような抗原結合分子を含む医薬組成物;およびがん疾患の分野における治療目的での、そのような抗原結合分子またはそのような組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療では、健常細胞および組織を無傷で残したまま腫瘍細胞を有効かつ選択的に破壊することが、望ましい目標である。神経内分泌がん(NEC)、神経内分泌腫瘍(NET)、および他の固形腫瘍などの、DLL3の過剰発現に関連する腫瘍性疾患に対する処置を改善するニーズが存在する。
【0003】
デルタ様3(DLL3)は、Notchリガンドファミリーメンバーに属するI型膜タンパク質である。DLL3は、シスでNotchに結合し、それによって、典型的(canonical)Notchシグナル伝達の特徴である細胞間相互作用および標的細胞におけるNotchの内部移行を遮断する、Notchシグナル伝達を阻害するように細胞自律的に機能する、非典型的Notchリガンドである。DLL3の主な役割は、胚発生の過程での体節形成である。DLL3ノックアウトを有するマウスは、軸骨格ならびに頭蓋および神経の発生において部分欠損を示す。体節パターン形成の欠損もまた、ある特定の生殖系列 DLL3変異を有するヒトにおいて認められ、これは、脊椎肋骨異骨症と呼ばれる状態をもたらす。染色体上のDLL3遺伝子の増幅およびがん細胞株におけるこの遺伝子の発現の増加(非特許文献1)ならびに一部の神経膠腫の症例におけるDLL3発現の増加(非特許文献2)を報告する以前の研究が存在する。加えて、DLL3は、ADCC増強抗体、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)、およびBiTE-Fcフォーマットを用いるT細胞誘導二重特異性分子を用いた、神経膠腫または小細胞肺がん(SCLC)を診断および治療する方法において、これまでに提案されている(特許文献1、2、および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2011/093097
【文献】WO2013/126746
【文献】WO2017/021349
【非特許文献】
【0005】
【文献】Phillips, H. S. (2006) Cancer Cell 9, 157-173.
【文献】Mulledndore, M. E. (2009) Clin Cancer Res 15, 2291-2301.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、T細胞をDLL3発現細胞の近くに動員し、DLL3発現がん細胞に対するT細胞の細胞傷害性を用いることによって、がん治療が可能な、多重特異性抗原結合分子;多重特異性抗原結合分子を製造するための方法;および細胞傷害活性を誘導するための有効成分としてそのような多重特異性抗原結合分子を含む治療剤を提供することである。本発明の別の目的は、有効成分として上述の抗原結合分子の1つを含む、種々のがんの治療または予防に使用するための医薬組成物、および該医薬組成物を用いる治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、それぞれが、CD3およびCD137に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合しない(すなわち、CD3およびCD137に結合できるが、同時には結合しない)、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分と;DLL3、好ましくはヒトDLL3に結合できる第3の抗原結合部分とを含む、多重特異性抗原結合分子に関し、該多重特異性抗原結合分子は、他の多重特異性抗原結合分子が有し得る有害な毒性の懸念または副作用を回避しつつ、より効率的にT細胞依存性細胞傷害活性を誘導する。本発明は、有効成分として抗原結合分子を含むことによって、種々のがん、特に、DLL3発現がんまたはDLL3陽性がんなどのDLL3に関連するがんを治療することができる多重特異性抗原結合分子およびその医薬組成物の医学的使用にさらに関する。1つの局面において、前記DLL3発現がんまたはDLL3陽性がんは、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)、大細胞型NEC(LCNEC)、小細胞肺がん(SCLC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(medullary thyroid carcinoma; MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC)、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、および甲状腺髄様がん(medullary thyroid cancer)からなる群より選択される。
【0008】
1つの局面において、本発明の多重特異性抗原結合分子は、多重特異性抗原結合分子の有効性を改善または増強する、非常に独特な構造フォーマットを有する。独特な構造フォーマットを有する新規な抗原結合分子は、望ましくない有害作用の低減と共に、エフェクター細胞および標的細胞上の各々の抗原に対する結合価および/または特異性の増加をもたらすための、抗原結合ドメインの数の増加を提供する。
【0009】
1つの特定の局面において、本発明は、それぞれが、CD3およびCD137に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合しない(すなわち、CD3およびCD137に結合できるが、同時には結合しない)、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分と;DLL3、好ましくはヒトDLL3に結合できる第3の抗原結合部分とを含む、多重特異性抗原結合分子に関し、該多重特異性抗原結合分子は、他の多重特異性抗原結合分子が有し得る有害な毒性の懸念または副作用を回避しつつ、効率的にT細胞依存性細胞傷害活性を誘導する。1つの局面において、CD3およびCD137に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合しない抗原結合部分は、ヒトCD3およびヒトCD137に結合できる抗原結合部分であり、第1の抗原結合部分は、ヒトCD3およびヒトCD137のいずれか一方に結合する。CD3およびCD137に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合しない(すなわち、CD3およびCD137に結合できるが、同時には結合しない)抗原結合部分は、以下により具体的に定義されるように、「Dual抗原結合部分」または一部の局面では「Dual-Fab」と呼ばれ得る。1つのそのような局面において、第1のおよび第2の抗原結合部分の各々は、少なくとも1つのアミノ酸変異、例えば、システインの挿入/置換/変異を含み、これは、第1抗原結合部分と第2の抗原結合部分との間にジスルフィド結合を作出して、それらを相互に近くに維持し、かつ、例えば、2つの抗原結合部分(例えば、Dual-Fab)間の立体障害またはより短い距離の結果として同じ単一のエフェクター細胞上の抗原(CD3および/またはCD137)へのシス抗原結合を促進し、それによって、2つの抗原結合部分(CD3およびCD137に結合できるが、同時には結合しない)によってDLL3非依存的に媒介される2つのCD3/CD137発現免疫細胞の望ましくない架橋形成を妨げることにより三重特異性抗原結合分子の安全性プロファイルを改善する。1つの特定の局面において、該第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれは、Fabであり、かつCH1領域中に(変異、置換、または挿入を介して)少なくとも1つのシステイン残基を含み、該少なくとも1つのシステイン残基は、第1の抗原結合部分のCH1領域と第2の抗原結合部分のCH1領域との間に少なくとも1つのジスルフィド結合を形成することができる。別の特定の局面において、該第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれは、第1の抗原結合部分のCH1領域と第2の抗原結合部分のCH1領域との間に1つのジスルフィド結合を形成することができる、CH1領域中のEUナンバリングによる191位に(変異、置換、または挿入を介して)1つのシステイン残基を含む。第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分を連結するCH1領域(例えば、EUナンバリングによる191位)でのそのようなジスルフィド結合は、本明細書において「LINC」と呼ばれ得る。
【0010】
そのような独特な構造フォーマットを有する抗原結合分子、すなわち、それぞれがCD3およびCD137に結合できるが同時には結合しない2つの一価Dual-Fabと1つの一価DLL3結合アームとを含む三価三重特異性抗体は、「(2+1)」(または「1+2」)と呼ばれてもよく、驚くべきことに、様々な細胞(例えば、T細胞などのエフェクター細胞)間の望ましくない架橋形成に起因するオフターゲット副作用の低減または最小化を示しつつ、他の多重特異性抗体フォーマット(例えば、BiTE)と比較して優れた有効性を示すことが見出された。
【0011】
本発明は以下に関する:
[A-1] 医薬として使用するための抗体;または
がんを治療するのに使用するための抗体;または
抗体と薬学的に許容される担体とを含む医薬製剤;または
医薬として使用するための、抗体と薬学的に許容される担体とを含む医薬製剤;または
がんの治療において使用するための、抗体と薬学的に許容される担体とを含む医薬製剤。
[A-2]抗体が、
(a)第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分であって、それぞれが同じかまたは異なり得る抗体可変領域を含み、かつ該抗体可変領域が以下からなる群:
(a1)配列番号:20の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:34の重鎖CDR 2、配列番号:48の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a2)配列番号:28の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:42の重鎖CDR 2、配列番号:56の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a3)配列番号:82の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:83の重鎖CDR 2、配列番号:84の重鎖CDR 3、配列番号:65の軽鎖CDR 1、配列番号:70の軽鎖CDR 2、および配列番号:75の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域
より独立して選択される、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分;ならびに
(b)ヒトデルタ様3(DLL3)に結合し、かつ配列番号:233を含む重鎖CDR 1、配列番号:234を含む重鎖CDR 2、配列番号:235を含む重鎖CDR 3、配列番号:237を含む軽鎖CDR 1、配列番号:238を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:239を含む軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域を含む、第3の抗原結合部分
を含む、[A-1]の抗体または医薬製剤。
[A-3] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、以下の特性:
(i)ヒトCD3に結合する;
(ii)ヒトCD137に結合する;
(iii)ヒトCD3およびヒトCD137に結合でき、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、ヒトCD3およびヒトCD137のいずれか一方に結合する;および
(iv)ヒトCD3およびヒトCD137に結合できるが、ヒトCD3およびヒトCD137に同時には結合しない
のうち1つ、2つまたはそれ以上を有する、[A-2] の抗体または医薬製剤。
[A-4] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、同じかまたは異なり得る抗体可変領域を含み、該抗体可変領域が、以下からなる群:
(a1)配列番号:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL);
(a2)配列番号:14のアミノ酸配列を含むVH、および配列番号:58のアミノ酸配列を含むVL;
(a3)配列番号:81のアミノ酸配列を含むVH、および配列番号:60のアミノ酸配列を含むVL;
(a4)(a1)~(a3)のいずれか1つのVHおよびVLに1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失、付加、および/または挿入を含み、かつ該VHおよびVLのいずれかのものと等価の活性を有する、VHおよびVL;ならびに
(a5)(a1)~(a3)のいずれか1つにおいて定義されたVHおよびVLのアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、または95%の配列同一性を有するVHおよびVL
より独立して選択される、
[A-2]~[A-3] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-5] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分がそれぞれ、配列番号:20の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:34の重鎖CDR 2、配列番号:48の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域を含む、[A-2]~[A-3] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-6] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分がそれぞれ、配列番号:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体可変領域を含む、[A-4] の抗体または医薬製剤。
[A-7] 第3の抗原結合部分が、
(a)配列番号:232を含むVHと配列番号:236を含むVLとを含む抗体可変領域;または
(b)配列番号:232のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、または95%の配列同一性を有するVHと配列番号:236のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、または95%の配列同一性を有するVLとを含む抗体可変領域
を含む、[A-2]~[A-6] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-8] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、191位(EUナンバリング)にシステイン残基を有するFabであり、かつ該2つのシステイン残基を連結するジスルフィド結合が存在する、[A-2]~[A-7] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-9] 第1の、第2の、および第3の抗原結合部分のそれぞれが、VHおよび CH1ドメインを含む重鎖とVLおよび軽鎖定常(CL)ドメインを含む軽鎖とを含むFabであり、かつ第3の抗原結合部分の重鎖のC末端が、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれかのFab重鎖のN末端に、直接的にまたはペプチドリンカーを介して融合されている、[A-2]~[A-8] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-10-1] 第3の抗原結合部分の重鎖のC末端が、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれかのFab重鎖のN末端に、ペプチドリンカーを介して融合されており、かつペプチドリンカーが、配列番号:248、配列番号:249、および配列番号:259からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、[A-9] の抗体または医薬製剤。
[A-10-2] 第3の抗原結合部分が、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、かつ第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、従来型のFab分子である、[A-10-1] の抗体または医薬製剤。
[A-11] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれのCLドメインにおいて、123位および124位(Kabatナンバリング)にあるアミノ酸がそれぞれ、アルギニンおよびリジンであり;かつ第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれのCH1ドメインにおいて、147位および213位(EUナンバリング)の各々にあるアミノ酸がグルタミン酸である、[A-10-2]の抗体または医薬製剤。
[A-12] Fcドメインをさらに含む、[A2]~[A-11] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-13] Fcドメインが第1のおよび第2のFc領域サブユニットを含み、
第1のFc領域サブユニットが、以下:
234位および235位の各々にアラニンを含むFc領域ポリペプチド;
234位、235位、および297位の各々にアラニンを含むFc領域ポリペプチド;および
234位、235位、および297位の各々にアラニン、354位にシステイン、および366位にトリプトファンを含むFc領域ポリペプチド
を含む群より選択され、かつ
第2のFc領域サブユニットが、以下:
234位および235位の各々にアラニンを含むFc領域ポリペプチド;
234位、235位、および297位の各々にアラニンを含むFc領域ポリペプチド;および
234位、235位、および297位の各々にアラニン、349位にシステイン、366位にセリン、368位にアラニン、および407位にバリンを含むFc領域ポリペプチド
を含む群より選択され、
すべての位置がEUナンバリングによるものである、
[A-12] の抗体または医薬製剤。
[A-14]抗体が、以下の(A)~(C)からなる群:
(A)配列番号:201のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:208のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5);
(B)配列番号:203のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5);ならびに
(C)配列番号:204のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5)
より選択される組み合わせで5本のポリペプチド鎖を含む、[A-2]の抗体または医薬製剤。
[A-15] 抗体が、以下の組み合わせ:
配列番号:201のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:208のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5)
で5本のポリペプチド鎖を含む、[A-2] の抗体または医薬製剤。
[A-16] 抗体が、以下の組み合わせ:
配列番号:203のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5)
で5本のポリペプチド鎖を含む、[A-2] の抗体または医薬製剤。
[A-17] 抗体が、以下の組み合わせ:
配列番号:204のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5)
で5本のポリペプチド鎖を含む、[A-2] の抗体または医薬製剤。
[A-18] 抗体の5本のポリペプチド鎖(鎖1~鎖5)が、
図1(a)に示すように相互に接続および/または結合している、[A-14]~[A-17] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-19] ポリペプチド鎖2および鎖5のそれぞれが、ポリペプチド鎖1と結合し;ポリペプチド鎖4がポリペプチド鎖3と結合し;かつポリペプチド鎖1がポリペプチド鎖3と結合している、[A-14]~[A-17] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-20] 追加の治療剤、好ましくは化学療法剤または免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせで使用するための、[A-2]~[A-17] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-21] PD-1軸結合アンタゴニスト、好ましくは抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体、より好ましくはアテゾリズマブである免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせで使用するための、[A-20] の抗体または医薬製剤。
[A-22] 微小管破壊剤、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレート剤、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、抗血管新生剤、エトポシド、イリノテカン、ルルビネクテジン、アムルビシン、および白金製剤(シスプラチンおよびカルボプラチンなど)からなる群より選択される化学療法剤との組み合わせで使用するための、[A-20] の抗体または医薬製剤。
[A-23] 免疫チェックポイント阻害剤または化学療法剤が、抗体または医薬製剤と同時に投与される、[A-20]~[A-22] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-24] 免疫チェックポイント阻害剤または化学療法剤が、抗体または医薬製剤の投与の前にまたは後に投与される、[A-20]~[A-23] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-25]がんが、 DLL3発現がんまたはDLL3陽性がんである、がんの治療において使用するための、[A-2]~[A-24] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-26]がんが、神経内分泌新生物(NEN)、神経内分泌腫瘍(NET)、神経内分泌がん(NEC)、および非神経内分泌起源の他の固形腫瘍からなる群より選択される、[A-25] の抗体または医薬製剤。
[A-27]がんが、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)、大細胞型NEC(LCNEC)、小細胞肺がん(SCLC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC)、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、および甲状腺髄様がんからなる群より選択される、[A-25] の抗体または医薬製剤。
[A-28] がんが、肺がん、好ましくは SCLCである、[A-25] の抗体または医薬製剤。
[A-29] がんが、神経膠腫または膠芽腫(GBM)である、[A-25] の抗体または医薬製剤。
[A-30] がんが神経内分泌前立腺がんである、[A-25] の抗体または医薬製剤。
[A-31] がんが神経芽腫である、[A-25] の抗体または医薬製剤。
[A-32] 抗体が多重特異性抗体である、[A-2]~[A-31] のいずれか1つの抗体または医薬製剤。
[A-33] 化学療法剤が、微小管破壊剤、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレート剤、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、抗血管新生剤、エトポシド、イリノテカン、ルルビネクテジン、アムルビシン、および白金製剤(シスプラチンおよびカルボプラチンなど)からなる群より選択される、化学療法剤とさらに組み合わされる、[A-21]に記載の使用のための抗体または医薬製剤。
[A-34] 免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1軸結合アンタゴニスト、好ましくは抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体、より好ましくはアテゾリズマブである、免疫チェックポイント阻害剤とさらに組み合わされる、[A-22] の抗体または医薬製剤。
[B-1]
(a)第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分であって、それぞれが同じかまたは異なり得る抗体可変領域を含み、かつ該抗体可変領域が以下からなる群:
(a1)配列番号:20の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:34の重鎖CDR 2、配列番号:48の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a2)配列番号:28の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:42の重鎖CDR 2、配列番号:56の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a3)配列番号:82の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:83の重鎖CDR 2、配列番号:84の重鎖CDR 3、配列番号:65の軽鎖CDR 1、配列番号:70の軽鎖CDR 2、および配列番号:75の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域
より独立して選択される、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分;ならびに
(b)ヒトデルタ様3(DLL3)に結合し、かつ配列番号:233を含む重鎖CDR 1、配列番号:234を含む重鎖CDR 2、配列番号:235を含む重鎖CDR 3、配列番号:237を含む軽鎖CDR 1、配列番号:238を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:239を含む軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域を含む、第3の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗体。
[B-2] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、以下の特性:
(i)ヒトCD3に結合する;
(ii)ヒトCD137に結合する;
(iii)ヒトCD3およびヒトCD137に結合でき、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、ヒトCD3およびヒトCD137のいずれか一方に結合する;および
(iv)ヒトCD3およびヒトCD137に結合できるが、ヒトCD3およびヒトCD137に同時には結合しない
のうち1つ、2つまたはそれ以上を有する、[B-1] の多重特異性抗体。
[B-3] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、同じかまたは異なり得る抗体可変領域を含み、該抗体可変領域が、以下からなる群:
(a1)配列番号:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL);
(a2)配列番号:14のアミノ酸配列を含むVH、および配列番号:58のアミノ酸配列を含むVL;
(a3)配列番号:81のアミノ酸配列を含むVH、および配列番号:60のアミノ酸配列を含むVL;
(a4)(a1)~(a3)のいずれか1つのVHおよびVLに1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失、付加、および/または挿入を含み、かつ該VHおよびVLのいずれかのものと等価の活性を有する、VHおよびVL;ならびに
(a5)(a1)~(a3)のいずれか1つに定義されたVHおよびVLのアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、または95%の配列同一性を有するVHおよびVL
より独立して選択される、
[B-1]~[B-2] のいずれか1つの多重特異性抗体。
[B-4] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分がそれぞれ、配列番号:20の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:34の重鎖CDR 2、配列番号:48の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域を含む、[B-1]~[B-2] のいずれか1つの多重特異性抗体。
[B-5] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分がそれぞれ、配列番号:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体可変領域を含む、[B-3] の多重特異性抗体。
[B-6] 第3の抗原結合部分が、
(a)配列番号:232を含むVHと配列番号:236を含むVLとを含む抗体可変領域;または
(b)配列番号:232のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、または95%の配列同一性を有するVHと配列番号:236のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、または95%の配列同一性を有するVLとを含む抗体可変領域
を含む、[B-1]~[B-5] のいずれか1つの多重特異性抗体。
[B-7] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、191位(EUナンバリング)にシステイン残基を有するFabであり、かつ該2つのシステイン残基を連結するジスルフィド結合が存在する、[B-1]~[B-6] のいずれか1つの多重特異性抗体。
[B-8] 第1の、第2の、および第3の抗原結合部分のそれぞれが、VHおよび CH1ドメインを含む重鎖とVLおよび軽鎖定常(CL)ドメインを含む軽鎖とを含むFabであり、かつ第3の抗原結合部分の重鎖のC末端が、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれかのFab重鎖のN末端に、直接的にまたはペプチドリンカーを介して融合されている、[B-1]~[B-7] のいずれか1つの多重特異性抗体。
[B-9-1] 第3の抗原結合部分の重鎖のC末端が、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれかのFab重鎖のN末端に、ペプチドリンカーを介して融合されており、かつペプチドリンカーが、配列番号:248、配列番号:249、および配列番号:259からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、[B-8] の多重特異性抗体。
[B-9-2] 第3の抗原結合部分が、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、かつ第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、従来型のFab分子である、[B-9-1] の多重特異性抗体。
[B-10] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれのCLドメインにおいて、123位および124位(Kabatナンバリング)にあるアミノ酸がそれぞれ、アルギニンおよびリジンであり;かつ第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれのCH1ドメインにおいて、147位および213位(EUナンバリング)の各々にあるアミノ酸がグルタミン酸である、[B-9-2] の多重特異性抗体。
[B-11] Fcドメインをさらに含む、[B-1]~[B-10] のいずれか1つの多重特異性抗体。
[B-12] Fcドメインが第1のおよび第2のFc領域サブユニットを含み、第1のFc領域サブユニットが、以下:
234位および235位の各々にアラニンを含むFc領域ポリペプチド;
234位、235位、および297位の各々にアラニンを含むFc領域ポリペプチド;および
234位、235位、および297位の各々にアラニン、354位にシステイン、および366位にトリプトファンを含むFc領域ポリペプチド
を含む群より選択され、かつ
第2のFc領域サブユニットが、以下:
234位および235位の各々にアラニンを含むFc領域ポリペプチド;
234位、235位、および297位の各々にアラニンを含むFc領域ポリペプチド;および
234位、235位、および297位の各々にアラニン、349位にシステイン、366位にセリン、368位にアラニン、および407位にバリンを含むFc領域ポリペプチド
を含む群より選択され、
すべての位置がEUナンバリングによるものである、
[B-11] の多重特異性抗体。
[B-13]抗体が、以下の(A)~(C)からなる群:
(A)配列番号:201のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:208のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5);
(B)配列番号:203のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5);ならびに
(C)配列番号:204のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5)
より選択される組み合わせで5本のポリペプチド鎖を含む、[B-1]の多重特異性抗体。
[B-14] 抗体が、以下の組み合わせ:
配列番号:201のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:208のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5)
で5本のポリペプチド鎖を含む、[B-1] の多重特異性抗体。
[B-15] 抗体が、以下の組み合わせ:
配列番号:203のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5)
で5本のポリペプチド鎖を含む、[B-1] の多重特異性抗体。
[B-16] 抗体が、以下の組み合わせ:
配列番号:204のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および5)
で5本のポリペプチド鎖を含む、[B-1] の多重特異性抗体。
[B-17] 抗体の5本のポリペプチド鎖(鎖1~鎖5)が、
図1(a)に示すように相互に接続および/または結合している、[B-13]~[B-16] のいずれか1つの多重特異性抗体。
[B-18]ポリペプチド鎖2および鎖5のそれぞれが、ポリペプチド鎖1と結合し;ポリペプチド鎖4がポリペプチド鎖3と結合し;かつポリペプチド鎖1がポリペプチド鎖3と結合している、[B-13]~[B-16] のいずれか1つの多重特異性抗体。
[B-19] 医薬として使用するための、[B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体。
[B-20] がんの治療において使用するための、[B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体。
[C-1] [B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体と薬学的に許容される担体とを含む、医薬製剤。
[C-2] がんの治療のための、[B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体との組み合わせで使用するための、免疫チェックポイント阻害剤と薬学的に許容される担体とを含む、医薬製剤。
[C-3] がんの治療のための、[B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体との組み合わせで使用するための、化学療法剤と薬学的に許容される担体とを含む、医薬製剤。
[C-4] 免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1軸結合アンタゴニスト、好ましくは抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体、より好ましくはアテゾリズマブである、[C-2] の医薬製剤。
[C-5] 化学療法剤が、微小管破壊剤、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレート剤、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、抗血管新生剤、エトポシド、イリノテカン、ルルビネクテジン、アムルビシン、および白金製剤(シスプラチンおよびカルボプラチンなど)からなる群より選択される、[C-3] の医薬製剤。
[C-6] 免疫チェックポイント阻害剤または化学療法剤が、多重特異性抗体と同時に投与される、[C-2]~[C-5] のいずれか1つの医薬製剤。
[C-7] 免疫チェックポイント阻害剤または化学療法剤が、多重特異性抗体の投与の前にまたは後に投与される、[C-2]~[C-5] のいずれか1つの医薬製剤。
[D-1]がんの治療における、[B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体または[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤の使用。
[E-1] [B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体または[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤の有効量を個体に投与する段階を含む、がんを有する個体を治療する方法。
[E-2] [B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体または[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、がんに対する持続的な免疫応答を活性化または増強する方法。
[E-3] 免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせで、[B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体または[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、免疫チェックポイント阻害剤の有効性を増加させる方法。
[E-4] [B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体または[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、対象において転移を低減または予防する方法。
[E-5] [B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体または[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、対象において腫瘍成長を抑制する方法。
[E-6] 追加の治療剤、好ましくは化学療法剤または免疫チェックポイント阻害剤を対象に投与する段階をさらに含む、[E-1]~[E-5] のいずれか1つの方法。
[E-7] 免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1軸結合アンタゴニスト、好ましくは抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体、より好ましくはアテゾリズマブである、[E-6] の方法。
[E-8] 化学療法剤が、微小管破壊剤、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレート剤、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、抗血管新生剤、エトポシド、イリノテカン、ルルビネクテジン、アムルビシン、および白金製剤(シスプラチンおよびカルボプラチンなど)からなる群より選択される、[E-6] の方法。
[E-9] 追加の治療剤、免疫チェックポイント阻害剤、または化学療法剤が、多重特異性抗体または医薬製剤と同時に投与される、[E-6]~[E-8] のいずれか1つの方法。
[E-10] 追加の治療剤、免疫チェックポイント阻害剤、または化学療法剤が、多重特異性抗体または医薬製剤の投与の前にまたは後に投与される、[E-6]~[E-8] のいずれか1つの方法。
[F-1] がんの治療のための医薬の製造における、[B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体または[C-1]~[C-3] のいずれか1つの医薬製剤の使用。
[F-2] がんの治療のための医薬の製造における、追加の治療剤(好ましくは化学療法剤または免疫チェックポイント阻害剤)との組み合わせでの[B-1]~[B-18] のいずれか1つの多重特異性抗体または[C-1]~[C-3] のいずれか1つの医薬製剤の使用。
[F-3] 免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1軸結合アンタゴニスト、好ましくは抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体、より好ましくはアテゾリズマブである、[F-2] の使用。
[F-4] 化学療法剤が、微小管破壊剤、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレート剤、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、抗血管新生剤、エトポシド、イリノテカン、ルルビネクテジン、アムルビシン、および白金製剤(シスプラチンおよびカルボプラチンなど)からなる群より選択される、[F-2] の使用。
[G-1] がんが、DLL3発現がんまたはDLL3陽性がんである、[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤、[D-1]~[F-4] のいずれか1つの方法または使用。
[G-2] がんが、神経内分泌新生物(NEN)、神経内分泌腫瘍(NET)、神経内分泌がん(NEC)、または非神経内分泌起源の他の固形腫瘍からなる群より選択される、[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤、[D-1]~[F-4] のいずれか1つの方法または使用。
[G-3] がんが、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)、大細胞型NEC(LCNEC)、小細胞肺がん(SCLC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC)、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、および甲状腺髄様がんからなる群より選択される、[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤、[D-1]~[F-4] のいずれか1つの方法または使用。
[G-4] がんが肺がん、好ましくは SCLCである、[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤、[D-1]~[F-4] のいずれか1つの方法または使用。
[G-5] がんが神経膠腫または膠芽腫(GBM)である、[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤、[D-1]~[F-4] のいずれか1つの方法または使用。
[G-6] がんが神経内分泌前立腺がんである、[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤、[D-1]~[F-4] のいずれか1つの方法または使用。
[G-7] がんが神経芽腫である、[C-1]~[C-7] のいずれか1つの医薬製剤、[D-1]~[F-4] のいずれか1つの方法または使用。
【0012】
別の局面において、本開示は以下を提供する:
[1] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分であって、それぞれが、以下の特性:
(i)ヒトCD3に結合する;
(ii)ヒトCD137に結合する;
(iii)ヒトCD3およびヒトCD137に結合でき、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、ヒトCD3およびヒトCD137のいずれか一方に結合する;および
(iv)ヒトCD3およびヒトCD137に結合できが、ヒトCD3およびヒトCD137に同時には結合しない
のうち1つ、2つまたはそれ以上を有する、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分;ならびに
第3の抗原、好ましくはがん細胞/組織上に発現している抗原、より好ましくはDLL3、さらにより好ましくはヒトDLL3に結合できる第3の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子。
[2] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分がそれぞれ、以下の(a1)~(a17)のいずれか1つ:
(a1)配列番号:17の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:31の重鎖CDR 2、配列番号:45の重鎖CDR 3、配列番号:64の軽鎖CDR 1、配列番号:69の軽鎖CDR 2、および配列番号:74の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a2)配列番号:18の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:32の重鎖CDR 2、配列番号:46の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a3)配列番号:19の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:33の重鎖CDR 2、配列番号:47の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a4)配列番号:19の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:33の重鎖CDR 2、配列番号:47の重鎖CDR 3、配列番号:65の軽鎖CDR 1、配列番号:70の軽鎖CDR 2、および配列番号:75の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a5)配列番号:20の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:34の重鎖CDR 2、配列番号:48の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a6)配列番号:22の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:36の重鎖CDR 2、配列番号:50の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a7)配列番号:23の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:37の重鎖CDR 2、配列番号:51の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a8)配列番号:23の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:37の重鎖CDR 2、配列番号:51の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a9)配列番号:24の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:38の重鎖CDR 2、配列番号:52の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a10)配列番号:25の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:39の重鎖CDR 2、配列番号:53の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a11)配列番号:26の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:40の重鎖CDR 2、配列番号:54の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a12)配列番号:26の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:40の重鎖CDR 2、配列番号:54の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a13)配列番号:27の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:41の重鎖CDR 2、配列番号:55の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a14)配列番号:28の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:42の重鎖CDR 2、配列番号:56の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a15)配列番号:82の重鎖相補性決定領域(CDR) 1、配列番号:83の重鎖CDR 2、配列番号:84の重鎖CDR 3、配列番号:65の軽鎖CDR 1、配列番号:70の軽鎖CDR 2、および配列番号:75の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域;
(a16)(a1)~(a15)から選択される抗体可変領域のいずれかと同じエピトープに結合する抗体可変領域;ならびに
(a17)(a1)~(a15)から選択される抗体可変断片のいずれかの結合と競合する抗体可変断片
を含む抗体可変領域を含む、[1]の多重特異性抗原結合分子。
[3] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分がそれぞれ、以下の(a1)~(a18)のいずれか1つ:
(a1)配列番号:3を含むVHおよび配列番号:59を含むVLを含む抗体可変領域;
(a2)配列番号:4を含むVHおよび配列番号:58を含むVLを含む抗体可変領域;
(a3)配列番号:5を含むVHおよび配列番号:58を含むVLを含む抗体可変領域;
(a4)配列番号:5を含むVHおよび配列番号:60を含むVLを含む抗体可変領域;
(a5)配列番号:6を含むVHおよび配列番号:58を含むVLを含む抗体可変領域;
(a6)配列番号:8を含むVHおよび配列番号:58を含むVLを含む抗体可変領域;
(a7)配列番号:9を含むVHおよび配列番号:58を含むVLを含む抗体可変領域;
(a8)配列番号:9を含むVHおよび配列番号:61を含むVLを含む抗体可変領域;
(a9)配列番号:10を含むVHおよび配列番号:58を含むVLを含む抗体可変領域;
(a10)配列番号:11を含むVHおよび配列番号:61を含むVLを含む抗体可変領域;
(a11)配列番号:12を含むVHおよび配列番号:61を含むVLを含む抗体可変領域;
(a12)配列番号:12を含むVHおよび配列番号:58を含むVLを含む抗体可変領域;
(a13)配列番号:13を含むVHおよび配列番号:58を含むVLを含む抗体可変領域;
(a14)配列番号:14を含むVHおよび配列番号:58を含むVLを含む抗体可変領域;および
(a15)配列番号:81を含むVHおよび配列番号:60を含むVLを含む抗体可変領域;
(a16)配列番号:3~6、8~14および81からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むVH、および/または配列番号:58~61からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むVLを含む、抗体可変領域;
(a17)(a1)~(a15)から選択される抗体可変領域のいずれかと同じエピトープに結合する抗体可変領域;ならびに
(a18)(a1)~(a15)から選択される抗体可変断片のいずれかの結合と競合する抗体可変断片
を含む抗体可変領域を含む、[1]~[2] のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[4] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、Fab分子であり、かつ第1の抗原結合部分のCH1領域と第2の抗原結合部分のCH1領域との間で形成される少なくとも1つのジスルフィド結合を含む、[1]~[3]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[4A] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、Fab分子であり、かつ第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分の各々のCH1領域におけるEUナンバリングによる191位にあるアミノ酸残基間で形成される1つのジスルフィド結合を含む、[4]の多重特異性抗原結合分子。
[5] 第3の抗原結合部分が、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれか一方に融合されている、[1]~[4A]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[5A] 第3の抗原結合部分がFabまたはscFvである、[5]の多重特異性抗原結合分子。
[6] 第1の、第2の、および第3の抗原結合部分のそれぞれがFab分子であり、第3の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端(CH1)で、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれか一方のFab重鎖のN末端に、任意でペプチドリンカーを介して融合されている、[5]~[5A]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[6A] 前記ペプチドリンカーが、配列番号:248、配列番号:249、または配列番号:259のアミノ酸配列からなる群より選択される[5]~[6]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[6B] 第1の抗原結合部分が第2の抗原結合部分と同一である、[1]~[6A]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[7] 第3の抗原結合部分が、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、かつ第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれが従来型のFab分子である、[1]~[6B]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[8] 第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれの軽鎖の定常ドメインCLにおいて、123位および/または124位にあるアミノ酸が独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、およびヒスチジン(H)で置換され(Kabatによるナンバリング)、かつ第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれの重鎖の定常ドメインCH1において、147位および/または213位にあるアミノ酸が独立して、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、[7]の多重特異性抗原結合分子。
[9] 第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれの軽鎖の定常ドメインCLにおいて、123位および124位にあるアミノ酸がそれぞれ、アルギニン(R)およびリジン(K)であり(Kabatによるナンバリング)、かつ第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれの重鎖の定常ドメインCH1において、147位および213位にあるアミノ酸が、グルタミン酸(E)である(Kabat EUインデックスによるナンバリング)[8]の多重特異性抗原結合分子。
[10] DLL3に結合できる第3の抗原結合部分が、以下の(a1)~(a5)のいずれか1つ:
(a1)配列番号:233の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:234の重鎖CDR 2、配列番号:235の重鎖CDR 3、配列番号:237の軽鎖CDR 1、配列番号:238の軽鎖CDR 2、および配列番号:239の軽鎖CDR 3;
(a2)配列番号:276の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:277の重鎖CDR 2、配列番号:278の重鎖CDR 3、配列番号:279の軽鎖CDR 1、配列番号:280の軽鎖CDR 2、および配列番号:281の軽鎖CDR 3;
(a3)配列番号:285の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:286の重鎖CDR 2、配列番号:287の重鎖CDR 3、配列番号:288の軽鎖CDR 1、配列番号:289の軽鎖CDR 2、および配列番号:290の軽鎖CDR 3;
(a4)(a1)~(a3)から選択される抗体可変領域のいずれかと同じエピトープに結合する抗体可変領域;ならびに
(a5)(a1)~(a3)から選択される抗体可変断片のいずれかの結合と競合する抗体可変断片
を含む抗体可変領域を含む、[1]~[9]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[11] DLL3に結合できる第3の抗原結合部分が、以下の(a1)~(a6)のいずれか1つ:
(a1)配列番号:232のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:236のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a2)配列番号:264のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:265のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a3)配列番号:266のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:267のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a4)配列番号:268のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:269のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a5)(a1)~(a4)から選択される抗体可変領域のいずれかと同じエピトープに結合する抗体可変領域;ならびに
(a6)(a1)~(a4)から選択される抗体可変断片のいずれかの結合と競合する抗体可変断片
を含む抗体可変領域を含む、[1]~[10]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[12] Fcドメインをさらに含む、[1]~[11]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[12A] Fcドメインが、安定な会合が可能な第1のおよび第2のFc領域サブユニットで構成され、かつFcドメインが、天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcγ受容体に対して低下した結合アフィニティを示す、[12] の多重特異性抗原結合分子。
[12B] 第1のFc領域サブユニットが、以下:
(a1)234位にAlaおよび 235位にAlaを含むFc領域ポリペプチド;
(a2)234位にAla、235位にAla、および 297位にAlaを含むFc領域ポリペプチド;
(a3)234位にAla、235位にAla、297位にAla、354位にCys、および 366位にTrpを含むFc領域ポリペプチド
からなる群より選択され、かつ
第2のFc領域ポリペプチドが、以下:
(a4)234位にAlaおよび 235位にAlaを含むFc領域ポリペプチド;
(a5)234位にAla、235位にAla、および 297位にAlaを含むFc領域ポリペプチド;
(a6)234位にAla、235位にAla、297位にAla、349位にCys、366位にSer、368位にAla、および 407位にValを含むFc領域ポリペプチド
からなる群より選択され、
アミノ酸位置がEUインデックスナンバリングを用いてナンバリングされる、[12A]の多重特異性抗原結合分子。
[12C] Fcドメインが、天然型 IgGのFc領域のものと比較して酸性pH条件(例えば、pH 5.8)下で増強されたFcRn結合活性を示す、[12] ~ [12B]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[12D] Fcドメインが、EUナンバリングによる、434位にAla;438位にGlu、Arg、Ser、またはLys;および440位にGlu、Asp、またはGlnを含む、[12C]の多重特異性抗原結合分子。
[12E] Fcドメインが、EUナンバリングによる、434位にAla;438位にArgまたはLys;および440位にGluまたはAspを含む、[12D]の多重特異性抗原結合分子。
[12F] Fcドメインが、EUナンバリングによる、428位にIleもしくはLeu;および/または 436位にIle、Leu、Val、Thr、もしくはPheをさらに含む、[12E]の多重特異性抗原結合分子。
[12G] Fcドメインが、EUナンバリングによる、以下:
(a)N434A/Q438R/S440E;
(b)N434A/Q438R/S440D;
(c)N434A/Q438K/S440E;
(d)N434A/Q438K/S440D;
(e)N434A/Y436T/Q438R/S440E;
(f)N434A/Y436T/Q438R/S440D;
(g)N434A/Y436T/Q438K/S440E;
(h)N434A/Y436T/Q438K/S440D;
(i)N434A/Y436V/Q438R/S440E;
(j)N434A/Y436V/Q438R/S440D;
(k)N434A/Y436V/Q438K/S440E;
(l)N434A/Y436V/Q438K/S440D;
(m)N434A/R435H/F436T/Q438R/S440E;
(n)N434A/R435H/F436T/Q438R/S440D;
(o)N434A/R435H/F436T/Q438K/S440E;
(p)N434A/R435H/F436T/Q438K/S440D;
(q)N434A/R435H/F436V/Q438R/S440E;
(r)N434A/R435H/F436V/Q438R/S440D;
(s)N434A/R435H/F436V/Q438K/S440E;
(t)N434A/R435H/F436V/Q438K/S440D;
(u)M428L/N434A/Q438R/S440E;
(v)M428L/N434A/Q438R/S440D;
(w)M428L/N434A/Q438K/S440E;
(x)M428L/N434A/Q438K/S440D;
(y)M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;
(z)M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440D;
(aa)M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440E;
(ab)M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440D;
(ac)M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440E;
(ad)M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440D;
(ae)M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440E;
(af)M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440D;
(ag)L235R/G236R/S239K/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;および
(ah)L235R/G236R/A327G/A330S/P331S/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E
からなる群より選択されるアミノ酸置換の組み合わせを含む、[12C] ~ [12F]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[12H] Fcドメインが、M428L/N434A/Q438R/S440Eのアミノ酸置換の組み合わせを含む、[12C] ~ [12G]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[12I] Fcドメインが、IgG Fcドメイン、好ましくはヒトIgG Fcドメイン、より好ましくはヒトIgG1 Fcドメインである、[12] ~ [12H]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[12J] Fcドメインが、以下:
(a)配列番号:100に示されるアミノ酸配列を含む第1のFcサブユニットおよび配列番号:111に示されるアミノ酸配列を含む第2のFcサブユニット;ならびに
(b)配列番号:99に示されるアミノ酸配列を含む第1のFcサブユニットおよび配列番号:109に示されるアミノ酸配列を含む第2のFcサブユニット
のいずれか1つを含む、[12] ~ [12I]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[12K] 第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれがFabであり、第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1のまたは第2のサブユニットのN末端に融合され、かつ第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端でFcドメインの残りのサブユニットのN末端に融合されている、[12] ~ [12J]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[12L] 第3の抗原結合部分が、C末端で第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれか一方のFab重鎖のN末端に、任意でペプチドリンカーを介して融合されている、[12K]の多重特異性抗原結合分子。
[13] 以下の(a1)~(a15)から選択されるいずれか1つの組み合わせ:
(a1)配列番号:201のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:208のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a2)配列番号:203のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a3)配列番号:204のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a4)配列番号:205のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a5)配列番号:216のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:229のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a6)配列番号:217のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:210のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a7)配列番号:219のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:211のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a8)配列番号:220のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:211のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a9)配列番号:221のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:211のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a10)配列番号:222のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:230のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a11)配列番号:223のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:212のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:215のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a12)配列番号:225のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:213のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:215のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a13)配列番号:226のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:213のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:215のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a14)配列番号:227のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:213のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:215のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);ならびに
(a15)配列番号:228のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:231のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:215のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5)
における5本のポリペプチド鎖を含み、
好ましくは、5本のポリペプチド鎖(鎖1~鎖5)が、
図1(a)に示す向きに従って互いに接続および/または関連している(より具体的には、ポリペプチド鎖2および鎖5のそれぞれが、ポリペプチド鎖1と結合し;ポリペプチド鎖4がポリペプチド鎖3と結合し;かつポリペプチド鎖1がポリペプチド鎖3と結合する)、
多重特異性抗原結合分子。
[14] [1]~[13]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子をコードする、単離されたポリヌクレオチドまたは複数のポリヌクレオチド。
[15] [14]のポリヌクレオチドまたは複数のポリヌクレオチドをコードするベクター。
[16] [14]のポリヌクレオチドもしくは複数のポリヌクレオチド、または[15]のベクターを含む、宿主細胞。
[17] a)抗原結合分子の発現に適した条件下で[16]の宿主細胞を培養する段階、およびb)抗原結合分子を回収する段階を含む、[1]~[13]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子を製造する方法。
[17A] [17]の方法により製造された、多重特異性抗原結合分子。
[18] [1]~[13]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子と薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
[19] 細胞傷害活性、好ましくはT細胞依存性細胞傷害活性を誘導する、[1]~[13]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子または[18]の医薬組成物。
[20] 医薬として使用するための[1]~[13]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子または[18]の医薬組成物。
[21] それを必要とする対象における疾患の治療または予防において使用するための、[1]~[13]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子または[18]の医薬組成物。
[22]疾患ががんである、[21]の疾患の治療/予防において使用するための多重特異性抗原結合分子または医薬組成物。
[22A] がんが、DLL3発現がんまたはDLL3陽性がん、好ましくは神経内分泌新生物(NEN)、神経内分泌腫瘍(NET)、神経内分泌がん(NEC)、または非神経内分泌起源の他の固形腫瘍である、[22] の疾患の治療/予防において使用するための多重特異性抗原結合分子または医薬組成物。
[22B] がんが、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)、大細胞型NEC(LCNEC)、小細胞肺がん(SCLC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC)、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、および甲状腺髄様がんからなる群より選択される、[22]または[22A] の疾患の治療/予防において使用するための多重特異性抗原結合分子または医薬組成物。
[23] その必要がある個体における疾患の治療または予防のための医薬の製造のための、[1]~[13] のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子または[18] の医薬組成物の使用。
[24] [1]~[13] のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子または[18]の医薬組成物を含む組成物の治療的有効量を前記個体に投与する段階を含む、個体において疾患を治療する方法。
[25]前記疾患が、がん、好ましくはDLL3陽性がんまたはDLL3発現がんである、[23]の使用または[24]の方法。
[25A] がんが、DLL3発現がんまたはDLL3陽性がん、好ましくは神経内分泌新生物(NEN)、神経内分泌腫瘍(NET)、神経内分泌がん(NEC)、または非神経内分泌起源の他の固形腫瘍である、[25]の使用または方法。
[25B] がんが、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)、大細胞型NEC(LCNEC)、小細胞肺がん(SCLC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC)、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、および甲状腺髄様がんからなる群より選択される、[25A] の使用または方法。
[26] T細胞の存在下で、標的細胞を、[1]~[13] のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子または[18]の医薬組成物と接触させる段階を含む、標的細胞の溶解を誘導するための方法。
[27] [18] の組成物と;がん、好ましくは DLL3陽性がんまたはDLL3発現がん、好ましくは神経内分泌新生物(NEN)、神経内分泌腫瘍(NET)、神経内分泌がん(NEC)、または非神経内分泌起源の他の固形腫瘍を治療するまたはその進行を遅らせるために対象に投与するための指示書を含む添付文書とを含む、キット。
[27A] がんが、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)、大細胞型NEC(LCNEC)、小細胞肺がん(SCLC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC)、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、および甲状腺髄様がんからなる群より選択される、[27]のキット。
【0013】
本発明の別の局面は、以下に関する:
[28] 第1の抗原結合部分であって、以下の特性:
(i)ヒトCD3に結合する;
(ii)ヒトCD137に結合する;
(iii)ヒトCD3およびヒトCD137に結合でき、第1の抗原結合部分が、ヒトCD3またはヒトCD137のいずれか一方に結合する;および
(iv)ヒトCD3およびヒトCD137に結合できるが、ヒトCD3およびヒトCD137に同時には結合しない
のうち1つ、2つまたはそれ以上を有する第1の抗原結合部分;および
DLL3、好ましくはヒトDLL3に結合できる第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子。
[29] 第1の抗原結合部分が、以下の(a1)~(a17)のいずれか1つ:
(a1)配列番号:17の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:31の重鎖CDR 2、配列番号:45の重鎖CDR 3、配列番号:64の軽鎖CDR 1、配列番号:69の軽鎖CDR 2、および配列番号:74の軽鎖CDR 3;
(a2)配列番号:18の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:32の重鎖CDR 2、配列番号:46の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a3)配列番号:19の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:33の重鎖CDR 2、配列番号:47の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a4)配列番号:19の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:33の重鎖CDR 2、配列番号:47の重鎖CDR 3、配列番号:65の軽鎖CDR 1、配列番号:70の軽鎖CDR 2、および配列番号:75の軽鎖CDR 3;
(a5)配列番号:20の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:34の重鎖CDR 2、配列番号:48の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a6)配列番号:22の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:36の重鎖CDR 2、配列番号:50の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a7)配列番号:23の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:37の重鎖CDR 2、配列番号:51の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a8)配列番号:23の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:37の重鎖CDR 2、配列番号:51の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3;
(a9)配列番号:24の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:38の重鎖CDR 2、配列番号:52の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a10)配列番号:25の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:39の重鎖CDR 2、配列番号:53の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3;
(a11)配列番号:26の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:40の重鎖CDR 2、配列番号:54の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3;
(a12)配列番号:26の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:40の重鎖CDR 2、配列番号:54の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a13)配列番号:27の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:41の重鎖CDR 2、配列番号:55の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a14)配列番号:28の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:42の重鎖CDR 2、配列番号:56の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a15)配列番号:82の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:83の重鎖CDR 2、配列番号:84の重鎖CDR 3、配列番号:65の軽鎖CDR 1、配列番号:70の軽鎖CDR 2、および配列番号:75の軽鎖CDR 3;
(a16)(a1)~(a15)から選択される抗体可変領域のいずれかと同じエピトープに結合する抗体可変領域;ならびに
(a17)(a1)~(a15)から選択される抗体可変断片のいずれかの結合と競合する抗体可変断片
を含む抗体可変領域を含む、[28]の多重特異性抗原結合分子。
[30] 第1の抗原結合部分が、以下の(a1)~(a18)のいずれか1つ:
(a1)配列番号:3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:59のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a2)配列番号:4のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a3)配列番号:5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a4)配列番号:5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:60のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a5)配列番号:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a6)配列番号:8のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a7)配列番号:9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a8)配列番号:9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:61のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a9)配列番号:10のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a10)配列番号:11のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:61のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a11)配列番号:12のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:61のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a12)配列番号:12のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a13)配列番号:13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a14)配列番号:14のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a15)配列番号:81のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:60のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a16)配列番号:3~6、8~14、および81からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および/または配列番号:58~61からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a17)(a1)~(a15)から選択される抗体可変領域のいずれかと同じエピトープに結合する抗体可変領域;ならびに
(a18)(a1)~(a15)から選択される抗体可変断片のいずれかの結合と競合する抗体可変断片
を含む抗体可変領域を含む、[28] ~ [29]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
【0014】
本発明のさらに別の局面において、以下に関する:
[31] 以下の(a1)~(a15)から選択される組み合わせ:
(a1)配列番号:201のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:208のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a2)配列番号:203のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a3)配列番号:204のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a4)配列番号:205のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:209のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a5)配列番号:216のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:229のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a6)配列番号:217のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:210のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a7)配列番号:219のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:211のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a8)配列番号:220のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:211のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a9)配列番号:221のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:211のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a10)配列番号:222のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:230のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:214のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a11)配列番号:223のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:212のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:215のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a12)配列番号:225のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:213のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:215のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a13)配列番号:226のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:213のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:215のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);
(a14)配列番号:227のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:213のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:215のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5);ならびに
(a15)配列番号:228のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1)、配列番号:206のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2)、配列番号:231のアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3)、および配列番号:215のアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4および鎖5)
のいずれか1つにおける5本のポリペプチド鎖を含む、多重特異性抗原結合分子であって、好ましくは、5本のポリペプチド鎖(鎖1~鎖5)が、
図1(a)に示される配向性に従って相互に連結および/または会合される、多重特異性抗原結合分子。
[31A]以下の組み合わせ:
配列番号:201~205および216~228からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖1);配列番号:206~207からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖2);配列番号:208~213および229~231からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖(鎖3);ならびに配列番号:214および215からなる群より選択されるアミノ酸配列をそれぞれが含む2本のポリペプチド鎖(鎖4 & 鎖5)
で5本のポリペプチド鎖を含む、多重特異性抗原結合分子。
[31B] ポリペプチド鎖2および鎖5のそれぞれが、ポリペプチド鎖1と結合し;ポリペプチド鎖4がポリペプチド鎖3と結合し;かつポリペプチド鎖1がポリペプチド鎖3と結合している、[31]または[31A]の多重特異性抗原結合分子。
【0015】
本発明のさらに別の局面は以下に関する:
[32] 以下の(a1)~(a5)のいずれか1つ:
(a1)配列番号:233の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:234の重鎖CDR 2、配列番号:235の重鎖CDR 3、配列番号:237の軽鎖CDR 1、配列番号:238の軽鎖CDR 2、および配列番号:239の軽鎖CDR 3;
(a2)配列番号:276の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:277の重鎖CDR 2、配列番号:278の重鎖CDR 3、配列番号:279の軽鎖CDR 1、配列番号:280の軽鎖CDR 2、および配列番号:281の軽鎖CDR 3;
(a3)配列番号:285の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:286の重鎖CDR 2、配列番号:287の重鎖CDR 3、配列番号:288の軽鎖CDR 1、配列番号:289の軽鎖CDR 2、および配列番号:290の軽鎖CDR 3;
(a4)(a1)~(a3)から選択される抗体可変領域のいずれかと同じエピトープに結合する抗体可変領域;ならびに
(a5)(a1)~(a3)から選択される抗体可変断片のいずれかの結合と競合する抗体可変断片
を含む抗体可変領域を含む、DLL3に結合できる抗原結合分子。
[33] 以下の(a1)~(a6)のいずれか1つ:
(a1)配列番号:232のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:236のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a2)配列番号:264のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:265のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a3)配列番号:266のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:267のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a4)配列番号:268のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:269のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a5)(a1)~(a4)から選択される抗体可変領域のいずれかと同じエピトープに結合する抗体可変領域;ならびに
(a6)(a1)~(a4)から選択される抗体可変断片のいずれかの結合と競合する抗体可変断片
を含む抗体可変領域を含む、DLL3に結合できる抗原結合分子。
【0016】
本発明のさらに別の局面は以下に関する:
[33-1] (a)第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分であって、それぞれがヒトCD137に結合する同じかまたは異なり得る抗体可変領域を含み、該抗体可変領域が、以下からなる群:
(a1)配列番号:17の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:31の重鎖CDR 2、配列番号:45の重鎖CDR 3、配列番号:64の軽鎖CDR 1、配列番号:69の軽鎖CDR 2、および配列番号:74の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a2)配列番号:18の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:32の重鎖CDR 2、配列番号:46の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a3)配列番号:19の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:33の重鎖CDR 2、配列番号:47の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a4)配列番号:19の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:33の重鎖CDR 2、配列番号:47の重鎖CDR 3、配列番号:65の軽鎖CDR 1、配列番号:70の軽鎖CDR 2、および配列番号:75の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a5)配列番号:20の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:34の重鎖CDR 2、配列番号:48の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a6)配列番号:22の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:36の重鎖CDR 2、配列番号:50の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a7)配列番号:23の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:37の重鎖CDR 2、配列番号:51の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a8)配列番号:23の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:37の重鎖CDR 2、配列番号:51の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a9)配列番号:24の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:38の重鎖CDR 2、配列番号:52の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a10)配列番号:25の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:39の重鎖CDR 2、配列番号:53の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a11)配列番号:26の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:40の重鎖CDR 2、配列番号:54の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a12)配列番号:26の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:40の重鎖CDR 2、配列番号:54の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a13)配列番号:27の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:41の重鎖CDR 2、配列番号:55の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a14)配列番号:28の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:42の重鎖CDR 2、配列番号:56の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域; ならびに
(a15)配列番号:82の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:83の重鎖CDR 2、配列番号:84の重鎖CDR 3、配列番号:65の軽鎖CDR 1、配列番号:70の軽鎖CDR 2、および配列番号:75の軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域
より独立して選択される、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分;ならびに
(b)ヒトデルタ様3(DLL3)に結合し、かつ、配列番号:233を含む重鎖CDR 1、配列番号:234を含む重鎖CDR 2、配列番号:235を含む重鎖CDR 3、配列番号:237を含む軽鎖CDR 1、配列番号:238を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:239を含む軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域を含む、第3の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子。
[33-2] 第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれが、同じかまたは異なり得る抗体可変領域を含み、該抗体可変領域が、以下からなる群:
(a1)配列番号:3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:59のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a2)配列番号:4のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a3)配列番号:5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a4)配列番号:5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:60のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a5)配列番号:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a6)配列番号:8のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a7)配列番号:9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a8)配列番号:9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:61のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a9)配列番号:10のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a10)配列番号:11のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:61のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a11)配列番号:12のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:61のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a12)配列番号:12のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a13)配列番号:13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a14)配列番号:14のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(a15)配列番号:81のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:60のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;ならびに
(a16)配列番号:3~6、8~14、および81からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および/または配列番号:58~61からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
より独立して選択される、[33-1]の多重特異性抗原結合分子。
[33-2A] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分がそれぞれ、
配列番号:20の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:34の重鎖CDR 2、配列番号:48の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域
を含む、[33-1]~[33-2]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[33-2B] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分がそれぞれ、
配列番号:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体可変領域
を含む、[33-2A]の多重特異性抗原結合分子。
[33-2C] 第3の抗原結合部分が、配列番号:232を含むVHと配列番号:236を含むVLとを含む、抗体可変領域
を含む、[33-1]~[33-2B]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[33-3] 第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれが、191位(EUナンバリング)にシステイン残基を有するFabであり、かつ2つのシステイン残基をつなぐジスルフィド結合が存在する、[33-1]~[33-2C]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[33-4] 第1の、第2の、および第3の抗原結合部分のそれぞれが、VHおよびCH1ドメインを含む重鎖とVLおよび軽鎖定常(CL)ドメインを含む軽鎖とを含むFabであり、第3の抗原結合部分の重鎖のC末端が、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれか一方のFab重鎖のN末端に、直接またはペプチドリンカーを介して融合されている、[33-3]の多重特異性抗原結合分子。
[33-5A] 第3の抗原結合部分の重鎖のC末端が、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれか一方のFab重鎖のN末端に、ペプチドリンカーを介して融合されており、ペプチドリンカーが、配列番号:248、配列番号:249、および配列番号:259からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、[33-4]の多重特異性抗原結合分子。
[33-5B] 第3の抗原結合部分が、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、かつ第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれが、従来型のFab分子である、[33-5A] の多重特異性抗原結合分子。
[33-6] 第1のおよび第2の抗原結合部分それぞれのCLドメインにおいて、123位および124位(Kabatナンバリング)のアミノ酸がそれぞれ、アルギニンおよびリジンであり、第1のおよび第2の抗原結合部分それぞれのCH1ドメインにおいて、147位および213位(EUナンバリング)各々のアミノ酸がグルタミン酸である、[33-5A]の多重特異性抗原結合分子。
[33-7] Fcドメインをさらに含む、[33-6]の多重特異性抗原結合分子。
[33-8] Fcドメインが第1のおよび第2のFc領域サブユニットを含み、
第1のFc領域サブユニットが、以下:
234位および235位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;
234位、235位、および297位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;ならびに
234位、235位、および297位の各々にアラニン、354位にシステイン、および366位にトリプトファンを含む、Fc領域ポリペプチド
を含む群より選択され、かつ
第2のFc領域サブユニットが、以下:
234位および235位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;
234位、235位、および297位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;ならびに
234位、235位、および297位の各々にアラニン、349位にシステイン、および366位にセリン、368位にアラニン、および407位にバリンを含む、Fc領域ポリペプチド
を含む群より選択され、
すべての位置がEUナンバリングによるものである、
[33-7]の多重特異性抗原結合分子。
【0017】
本発明のさらに別の局面は以下に関する:
[34-1](a)第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分であって、それぞれがヒトCD3に結合する同じかまたは異なり得る抗体可変領域を含み、該抗体可変領域が、以下の(a1)~(a15)からなる群:
(a1)配列番号:17を含む重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:31を含む重鎖CDR 2、配列番号:45を含む重鎖CDR 3、配列番号:64を含む軽鎖CDR 1、配列番号:69を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:74を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a2)配列番号:18を含む重鎖CDR 1、配列番号:32を含む重鎖CDR 2、配列番号:46を含む重鎖CDR 3、配列番号:63を含む軽鎖CDR 1、配列番号:68を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:73を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a3)配列番号:19を含む重鎖CDR 1、配列番号:33を含む重鎖CDR 2、配列番号:47を含む重鎖CDR 3、配列番号:63を含む軽鎖CDR 1、配列番号:68を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:73を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a4)配列番号:19を含む重鎖CDR 1、配列番号:33を含む重鎖CDR 2、配列番号:47を含む重鎖CDR 3、配列番号:65を含む軽鎖CDR 1、配列番号:70を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:75を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a5)配列番号:20を含む重鎖CDR 1、配列番号:34を含む重鎖CDR 2、配列番号:48を含む重鎖CDR 3、配列番号:63を含む軽鎖CDR 1、配列番号:68を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:73を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a6)配列番号:22を含む重鎖CDR 1、配列番号:36を含む重鎖CDR 2、配列番号:50を含む重鎖CDR 3、配列番号:63を含む軽鎖CDR 1、配列番号:68を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:73を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a7)配列番号:23を含む重鎖CDR 1、配列番号:37を含む重鎖CDR 2、配列番号:51を含む重鎖CDR 3、配列番号:63を含む軽鎖CDR 1、配列番号:68を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:73を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a8)配列番号:23を含む重鎖CDR 1、配列番号:37を含む重鎖CDR 2、配列番号:51を含む重鎖CDR 3、配列番号:66を含む軽鎖CDR 1、配列番号:71を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:76を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a9)配列番号:24を含む重鎖CDR 1、配列番号:38を含む重鎖CDR 2、配列番号:52を含む重鎖CDR 3、配列番号:63を含む軽鎖CDR 1、配列番号:68を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:73を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a10)配列番号:25を含む重鎖CDR 1、配列番号:39を含む重鎖CDR 2、配列番号:53を含む重鎖CDR 3、配列番号:66を含む軽鎖CDR 1、配列番号:71を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:76を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a11)配列番号:26を含む重鎖CDR 1、配列番号:40を含む重鎖CDR 2、配列番号:54を含む重鎖CDR 3、配列番号:66を含む軽鎖CDR 1、配列番号:71を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:76を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a12)配列番号:26を含む重鎖CDR 1、配列番号:40を含む重鎖CDR 2、配列番号:54を含む重鎖CDR 3、配列番号:63を含む軽鎖CDR 1、配列番号:68を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:73を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a13)配列番号:27を含む重鎖CDR 1、配列番号:41を含む重鎖CDR 2、配列番号:55を含む重鎖CDR 3、配列番号:63を含む軽鎖CDR 1、配列番号:68を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:73を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
(a14)配列番号:28を含む重鎖CDR 1、配列番号:42を含む重鎖CDR 2、配列番号:56を含む重鎖CDR 3、配列番号:63を含む軽鎖CDR 1、配列番号:68を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:73を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域; ならびに
(a15)配列番号:82を含む重鎖CDR 1、配列番号:83を含む重鎖CDR 2、配列番号:84を含む重鎖CDR 3、配列番号:65を含む軽鎖CDR 1、配列番号:70を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:75を含む軽鎖CDR 3を含む、抗体可変領域;
より独立して選択される、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分;ならびに
(b)ヒトデルタ様3(DLL3)に結合し、かつ、配列番号:233を含む重鎖CDR 1、配列番号:234を含む重鎖CDR 2、配列番号:235を含む重鎖CDR 3、配列番号:237を含む軽鎖CDR 1、配列番号:238を含む軽鎖CDR 2、および配列番号:239を含む軽鎖CDR 3を含む抗体可変領域を含む、第3の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子。
[34-2] (a)第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分であって、それぞれが同じかまたは異なり得る抗体可変領域を含み、該抗体可変領域が、以下からなる群:
(a1)配列番号:3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号:59を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、抗体可変領域;
(a2)配列番号:4を含むVHと、配列番号:58を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a3)配列番号:5を含むVHと、配列番号:58を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a4)配列番号:5を含むVHと、配列番号:60を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a5)配列番号:6を含むVHと、配列番号:58を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a6)配列番号:8を含むVHと、配列番号:58を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a7)配列番号:9を含むVHと、配列番号:58を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a8)配列番号:9を含むVHと、配列番号:61を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a9)配列番号:10を含むVHと、配列番号:58を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a10)配列番号:11を含むVHと、配列番号:61を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a11)配列番号:12を含むVHと、配列番号:61を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a12)配列番号:12を含むVHと、配列番号:58を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a13)配列番号:13を含むVHと、配列番号:58を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a14)配列番号:14を含むVHと、配列番号:58を含むVLとを含む、抗体可変領域;
(a15)配列番号:81を含むVHと、配列番号:60を含むVLとを含む、抗体可変領域;ならびに
(a16)配列番号:3~6、8~14、および81からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および/または配列番号:58~61からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
より独立して選択される、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分;ならびに
(b)配列番号:232を含むVHと配列番号:236を含むVLとを含む抗体可変領域を含む、第3の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子。
[34-3] 第1のおよび第2の抗原結合部分の抗体可変領域が同じである、[34-1]の多重特異性抗原結合分子。
[34-4] 第1のおよび第2の抗原結合部分の抗体可変領域が同じである、[34-2]の多重特異性抗原結合分子。
[34-5] 第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれが、191位(EUナンバリング)にシステイン残基を有するFabであり、これら2つのシステイン残基をジスルフィド結合が連結している、[34-3]の多重特異性抗原結合分子。
[34-6] 第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれが、191位(EUナンバリング)にシステイン残基を有するFabであり、これら2つのシステイン残基をジスルフィド結合が連結している、[34-4]の多重特異性抗原結合分子。
[34-7] 第1の、第2の、および第3の抗原結合部分のそれぞれが、VH、VL、CH1ドメイン、および軽鎖定常(CL)ドメインを含むFabのフォーマットであり、第3の抗原結合部分のCH1ドメインのC末端が、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれか一方のVHのN末端に、直接またはペプチドリンカーを介して融合されている、[34-5]の多重特異性抗原結合分子。
[34-8] 第1の、第2の、および第3の抗原結合部分のそれぞれが、VH、VL、CH1ドメインおよび軽鎖定常(CL)ドメインを含むFabのフォーマットであり、第3の抗原結合部分のCH1ドメインのC末端が、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれか一方のVHのN末端に、直接またはペプチドリンカーを介して融合されている、[34-6]の多重特異性抗原結合分子。
[34-9] 融合が、配列番号:248、配列番号:249、および配列番号:259からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドリンカーを介するものである、[34-7]の多重特異性抗原結合分子。
[34-10] 融合が、配列番号:248、配列番号:249、および配列番号:259からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドリンカーを介するものである、[34-8]の多重特異性抗原結合分子。
[34-11] 第3の抗原結合部分が、VHがCLドメインに連結されVLがCH1ドメインに連結されたクロスオーバーFabであり、かつ第1のおよび第2の抗原結合部分の各々が、VHがCH1ドメインに連結されVLがCLドメインに連結された従来型のFabである、[34-9]の多重特異性抗原結合分子。
[34-12] 第3の抗原結合部分が、VHがCLドメインに連結されVLがCH1ドメインに連結されたクロスオーバーFabであり、かつ第1のおよび第2の抗原結合部分の各々が、VHがCH1ドメインに連結されVLがCLドメインに連結された従来型のFabである、[34-10]の多重特異性抗原結合分子。
[34-13] 第1のおよび第2の抗原結合部分それぞれのCLドメインにおいて、123位および124位(Kabatナンバリング)のアミノ酸がそれぞれ、アルギニンおよびリジンであり、第1のおよび第2の抗原結合部分それぞれのCH1ドメインにおいて、147位および213位(EUナンバリング)各々のアミノ酸がグルタミン酸である、[34-11]の多重特異性抗原結合分子。
[34-14] 第1のおよび第2の抗原結合部分それぞれのCLドメインにおいて、123位および124位(Kabatナンバリング)のアミノ酸がそれぞれ、アルギニンおよびリジンであり、第1のおよび第2の抗原結合部分それぞれのCH1ドメインにおいて、147位および213位(EUナンバリング)各々のアミノ酸がグルタミン酸である、[34-12]の多重特異性抗原結合分子。
[34-15] Fcドメインをさらに含む、[34-13]の多重特異性抗原結合分子。
[34-16] Fcドメインをさらに含む、[34-14]の多重特異性抗原結合分子。
[34-17] Fcドメインが第1のおよび第2のFc領域サブユニットを含み、
第1のFc領域サブユニットが、以下:
234位および235位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;
234位、235位、および297位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;ならびに
234位、235位、および297位の各々にアラニン、354位にシステイン、および366位にトリプトファンを含む、Fc領域ポリペプチド
を含む群より選択され、かつ
第2のFc領域サブユニットが、以下:
234位および235位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;
234位、235位、および297位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;ならびに
234位、235位、および297位の各々にアラニン、349位にシステイン、および366位にセリン、368位にアラニン、および407位にバリンを含む、Fc領域ポリペプチド
を含む群より選択され、
すべての位置がEUナンバリングによるものである、
[34-15]の多重特異性抗原結合分子。
[34-18] Fcドメインが第1のおよび第2のFc領域サブユニットを含み、
第1のFc領域サブユニットが、以下:
234位および235位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;
234位、235位、および297位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;ならびに
234位、235位、および297位の各々にアラニン、354位にシステイン、および366位にトリプトファンを含む、Fc領域ポリペプチド
を含む群より選択され、かつ
第2のFc領域サブユニットが、以下:
234位および235位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;
234位、235位、および297位の各々にアラニンを含む、Fc領域ポリペプチド;ならびに
234位、235位、および297位の各々にアラニン、349位にシステイン、および366位にセリン、368位にアラニン、および407位にバリンを含む、Fc領域ポリペプチド
を含む群より選択され、
すべての位置がEUナンバリングによるものである、
[34-16]の多重特異性抗原結合分子。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】a)DUAL/LINC(1+2)フォーマットでの三価抗体、b)従来型の抗体フォーマットを有する二重特異性抗体、およびc)BiTEフォーマットを有する二重特異性抗体の設計および命名規則を示す。
【
図2】SK-MEL30細胞株に対する抗体のTDCC活性を示す。a)DUAL/LINCおよびCD3二重特異性フォーマット間でのTDCCの比較。b)細胞傷害活性に対するリンカー長の効果。
【
図3】huNOGマウスモデルにおけるNCI-H1436異種移植片に対する抗体のin vivo有効性を示す。Y軸は腫瘍体積(mm
3)を意味し、X軸は腫瘍移植後の日数を意味する。
【
図4】CD8 T細胞浸潤を分析した結果を示す。抗体注射後の表示した時点で腫瘍を収集し、フローサイトメーターを用いてT細胞浸潤を分析した。
【
図5】CD8 T細胞上の疲弊マーカー(exhaustion marker)を分析した結果を示す。腫瘍を抗体注射後7日目に収集し、フローサイトメーターを用いて疲弊マーカーの発現を分析した。
【
図6】全長ヒトDLL3およびヒトDLL3 ECD断片タンパク質の構造を示す模式図である。抗DLL3抗体の各々によって認識されるエピトープも示す。EGFドメインは、N末端側からC末端側へ、6個の領域EGF1~EGF6を有する。
【
図7】NB-1細胞株(神経芽腫)およびQGP-1細胞株(膵島細胞がん)に対する抗DLL3-Dual抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF110)のT細胞依存性細胞傷害(TDCC)活性を示す。
【
図8】DMS53小細胞肺がんモデルにおける単独療法またはシスプラチン(CDDP)もしくはカルボプラチン(CBDCA)との組み合わせ療法(Combo)としての抗DLL3-Dual-LINC抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF114)の腫瘍体積低減のin vivo有効性を示す。CBDCAはCBDCAの単独療法を意味し、CDDPはCDDPの単独療法を意味する。Y軸は腫瘍体積(mm
3)を意味し、X軸は腫瘍移植後の日数を意味する。
* P<0.05、
** P<0.01。
【
図9】ヒト化NOGマウスモデルにおけるNCI-H1436異種移植片に、単回用量で1回、または毎週1回(QW)複数回のスケジュールで投与した、抗DLL3-Dual抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF114)またはDLL3CD3BiTEの腫瘍体積低減のin vivo有効性を示す。Y軸は腫瘍体積(mm
3)を意味し、X軸は腫瘍移植後の日数を意味する。
【
図10】ステロイドまたはトシリズマブとの組み合わせでの抗DLL3-Dual-LINC抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF114)のin vivo有効性を示す。a)ステロイドによる前投与実験では、デキサメタゾンを、抗体注射の1および24時間前、または1時間前に、DLL3発現PC-10担持huNOGマウスに腹腔内投与した。a)の上段のパネルは、ステロイドありまたはなしでの抗体による腫瘍抑制を示す。a)の中段のパネルは、抗体誘導性IFN-γ放出(左のパネル)またはTNFα放出(右のパネル)のステロイド媒介性阻害を示す。a)の下段のパネルは、抗体誘導性IL-6放出のステロイド媒介性阻害を示す。b)トシリズマブによる実験では、トシリズマブを、抗DLL3-Dual-LINC抗体の注射の1日前または6時間後に、DLL3発現PC-10担持huNOGマウスに投与した。グラフは、事前のまたは事後のトシリズマブ投与ありまたはなしでの抗体による腫瘍抑制を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
態様の説明
本明細書において記載または参照される技法および手順は、概してよく理解されており、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3d edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.;Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel, et al. eds., (2003));the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.):PCR 2: A Practical Approach (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995))、Harlow and Lane, eds. (1988) Antibodies, A Laboratory Manual、およびAnimal Cell Culture (R.I. Freshney, ed. (1987));Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984);Methods in Molecular Biology, Humana Press;Cell Biology: A Laboratory Notebook (J.E. Cellis, ed., 1998) Academic Press;Animal Cell Culture (R.I. Freshney), ed., 1987);Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press;Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J.B. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons;Handbook of Experimental Immunology (D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.M. Miller and M.P. Calos, eds., 1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994);Current Protocols in Immunology (J.E. Coligan et al., eds., 1991);Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999);Immunobiology (C.A. Janeway and P. Travers, 1997);Antibodies (P. Finch, 1997);Antibodies: A Practical Approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989);Monoclonal Antibodies: A Practical Approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000);Using Antibodies: A Laboratory Manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999);The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds., Harwood Academic Publishers, 1995);ならびにCancer: Principles and Practice of Oncology (V.T. DeVita et al., eds., J.B. Lippincott Company, 1993) に記載される広く利用されている方法論などの従来の方法論を使用して当業者によって一般的に用いられるものである。
【0020】
以下の定義および詳細な説明は、本明細書において説明する本開示の理解を容易にするために提供される。
【0021】
定義
アミノ酸
本明細書において、アミノ酸は、1文字コードもしくは3文字コードまたはその両方、例えば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、またはVal/Vによって記載される。
【0022】
アミノ酸の改変
抗原結合分子のアミノ酸配列中のアミノ酸改変(本明細書において「アミノ酸置換」または「アミノ酸変異」とも記載される)のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))および重複伸長PCRなどの公知の方法が適宜採用され得る。さらに、非天然アミノ酸に置換するためのアミノ酸改変方法として、いくつかの公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249;およびProc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合したtRNAを含む無細胞翻訳系 (Clover Direct (Protein Express)) を用いることが適切である。
【0023】
本明細書において、アミノ酸改変の部位を記載する際の用語「および/または」の意味は、「および」と「または」が適切に組み合わされたあらゆる組み合わせを含む。具体的には、例えば、「33位、55位、および/または96位のアミノ酸が置換されている」は、アミノ酸改変の以下のバリエーション:(a) 33位、(b) 55位、(c) 96位、(d) 33位および55位、(e) 33位および96位、(f) 55位および96位、ならびに (g) 33位、55位、および96位のアミノ酸を含む。
【0024】
さらに、本明細書において、アミノ酸の改変を示す表現として、特定の位置を表す数字の前および後に、それぞれ改変前および改変後のアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードを示す表現が、適宜使用され得る。例えば、抗体可変領域中に含まれるアミノ酸を置換する際に用いられるN100bLまたはAsn100bLeuという改変は、100b位(Kabatナンバリングによる)におけるAsnの、Leuによる置換を表す。すなわち、数字はKabatナンバリングによるアミノ酸の位置を示し、数字の前に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換前のアミノ酸を示し、数字の後に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換後のアミノ酸を示す。同様に、抗体定常領域中に含まれるFc領域のアミノ酸を置換する際に用いられるP238DまたはPro238Aspという改変は、238位(EUナンバリングによる)におけるProの、Aspによる置換を表す。すなわち、数字はEUナンバリングによるアミノ酸の位置を示し、数字の前に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換前のアミノ酸を示し、数字の後に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換後のアミノ酸を示す。
【0025】
ポリペプチド
本明細書で用いられる用語「ポリペプチド」は、アミド結合(ペプチド結合としても知られる)によって直鎖状に連結された単量体(アミノ酸)で構成される分子を指す。用語「ポリペプチド」は、2アミノ酸以上の任意の鎖を指し、特定の長さの産物を指すものではない。よって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2アミノ酸以上の鎖を指すために用いられる任意の他の用語は、「ポリペプチド」の定義内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これらの用語のいずれかの代わりにまたは相互に交換可能に用いられてもよい。用語「ポリペプチド」はまた、限定されないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、公知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質切断、または非天然アミノ酸による修飾を含む、ポリペプチドの発現後修飾の産物を指すことも意図する。ポリペプチドは、天然の生物学的供給源に由来してもよく、または組換え技術によって産生されてもよいが、必ずしも指定の核酸から翻訳される必要はない。それは、化学合成を含む、任意の方法で生成されてもよい。本明細書において記載されるポリペプチドは、約3アミノ酸以上、5アミノ酸以上、10アミノ酸以上、20アミノ酸以上、25アミノ酸以上、50アミノ酸以上、75アミノ酸以上、100アミノ酸以上、200アミノ酸以上、500アミノ酸以上、1,000アミノ酸以上、または2,000アミノ酸以上のサイズのものであってもよい。ポリペプチドは規定された三次元構造を有し得るが、それらは必ずしもそのような構造を有する必要はない。規定された三次元構造を有するポリペプチドは、折り畳まれたと称され、規定された三次元構造を持たないが多数の異なる立体構造をとり得るポリペプチドは、折り畳まれていないと称される。
【0026】
パーセント (%) アミノ酸配列同一性
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント (%) アミノ酸配列同一性」は、最大のパーセント配列同一性を得るように配列を整列させてかつ必要ならギャップを導入した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした時の、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の、百分率比として定義される。%アミノ酸配列同一性を決める目的のアラインメントは、当該技術分野における技術の範囲内にある種々の方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign (DNASTAR) ソフトウェアなどの、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントをとるための適切なパラメーターを決定することができる。しかしながら、本明細書における目的のために、%アミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムであるALIGN-2を使用して生成される。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、ジェネンテック社の著作であり、そのソースコードは米国著作権庁 (U.S. Copyright Office, Washington D.C., 20559) に使用者用書類と共に提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、ジェネンテック社 (Genentech, Inc., South San Francisco, California) から公に入手可能であるし、ソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、Digital UNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされる。すべての配列比較パラメーターは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、所与のアミノ酸配列Aの%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、ある%アミノ酸配列同一性を有するまたは含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は、次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、当該プログラムのAおよびBのアラインメントにおいて同一である一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはB中のアミノ酸残基の全数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBへの%アミノ酸配列同一性は、BのAへの%アミノ酸配列同一性と等しくないことが、理解されるであろう。別段特に明示しない限り、本明細書で用いられるすべての%アミノ酸配列同一性値は、直前の段落で述べたとおりALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られるものである。
【0027】
組換えの方法および構成
例えば、米国特許第4,816,567号に記載されるとおり、抗体および抗原結合分子は組換えの方法や構成を用いて製造することができる。1つの態様において、本明細書に記載の抗体をコードする、単離された核酸が提供される。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖および/または重鎖)をコードしてもよい。さらなる態様において、このような核酸を含む1つまたは複数のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。さらなる態様において、このような核酸を含む宿主細胞が提供される。このような態様の1つでは、宿主細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列および抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または、(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクターと抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクターを含む(例えば、形質転換されている)。1つの態様において、宿主細胞は、真核性である(例えば、チャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞)またはリンパ系の細胞(例えば、Y0、NS0、Sp2/0細胞))。1つの態様において、抗体の発現に好適な条件下で、上述のとおり当該抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養すること、および任意で、当該抗体を宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から回収することを含む、本発明の多重特異性抗原結合分子を作製する方法が提供される。
【0028】
本明細書において記載される抗体の組換え製造のために、(例えば、上述したものなどの)抗体をコードする核酸を単離し、さらなるクローニングおよび/または宿主細胞中での発現のために、1つまたは複数のベクターに挿入する。そのような核酸は、従来の手順を用いて容易に単離および配列決定されるだろう(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることで)。
【0029】
抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞または真核細胞を含む。例えば、抗体は、特にグリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合は、細菌中で製造してもよい。細菌での抗体断片およびポリペプチドの発現に関して、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号、および第5,840,523号を参照のこと。(加えて、大腸菌 (E. coli) における抗体断片の発現について記載したCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp.245-254も参照のこと。)発現後、抗体は細菌細胞ペーストから可溶性フラクション中に単離されてもよく、またさらに精製することができる。
【0030】
原核生物に加え、部分的なまたは完全なヒトのグリコシル化パターンを伴う抗体の産生をもたらす、グリコシル化経路が「ヒト化」されている菌類および酵母の株を含む、糸状菌または酵母などの真核性の微生物は、抗体コードベクターの好適なクローニングまたは発現宿主である。Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)および Li et al., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006) を参照のこと。
【0031】
多細胞生物(無脊椎生物および脊椎生物)に由来するものもまた、グリコシル化された抗体の発現のために好適な宿主細胞である。無脊椎生物細胞の例は、植物および昆虫細胞を含む。昆虫細胞との接合、特にSpodoptera frugiperda細胞の形質転換に用いられる、数多くのバキュロウイルス株が同定されている。
【0032】
植物細胞培養物も、宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、第6,040,498号、第6,420,548号、第7,125,978号、および第6,417,429号(トランスジェニック植物中で抗体を産生するための、PLANTIBODIES(商標)技術を記載)を参照のこと。
【0033】
脊椎動物細胞もまた宿主として使用できる。例えば、浮遊状態で増殖するように適応された哺乳動物細胞株は、有用であろう。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40で形質転換されたサル腎CV1株 (COS-7);ヒト胎児性腎株(Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977) などに記載の293または293細胞);仔ハムスター腎細胞 (BHK);マウスセルトリ細胞(Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980) などに記載のTM4細胞);サル腎細胞 (CV1);アフリカミドリザル腎細胞 (VERO-76);ヒト子宮頸部がん細胞 (HELA);イヌ腎細胞 (MDCK);buffalo系ラット肝細胞 (BRL 3A);ヒト肺細胞 (W138);ヒト肝細胞 (Hep G2);マウス乳がん (MMT 060562);TRI細胞(例えば、Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982) に記載);MRC5細胞;および、FS4細胞などである。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、DHFR- CHO細胞 (Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980)) を含むチャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞;およびY0、NS0、およびSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗体産生に好適な特定の哺乳動物宿主細胞株の総説として、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003) を参照のこと。
【0034】
本明細書において記載される抗原結合分子の組換え産生は、抗原結合分子全体または抗原結合分子の一部を含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む1つまたは複数のベクターを含む(例えば、それによって形質転換されている)宿主細胞を用いることによって、上記に記載されたものと同様の方法で行うことができる。
【0035】
抗原結合分子および多重特異性抗原結合分子
本明細書で用いられる用語「抗原結合分子」は、抗原結合部位を含む任意の分子、または抗原に対する結合活性を有する任意の分子を指し、約5アミノ酸以上の長さを有するペプチドまたはタンパク質などの分子をさらに指し得る。ペプチドおよびタンパク質は、生物に由来するものに限定されず、例えば、それらは、人工的に設計された配列から産生されたポリペプチドであってもよい。それらは、天然ポリペプチド、合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれかであってもよい。スキャフォールドとしてα/βバレルなどの公知の安定な立体構造を含み、分子の一部が抗原結合部位になる、スキャフォールド分子もまた、本明細書において記載される抗原結合分子の一態様である。
【0036】
「多重特異性抗原結合分子」は、2つ以上の抗原に特異的に結合する抗原結合分子を指す。用語「二重特異性」は、抗原結合分子が、少なくとも2種類の異なる抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。用語「三重特異性」は、抗原結合分子が少なくとも3種類の異なる抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。特定の態様において、本出願の多重特異性抗原結合分子は、三重特異性抗原結合分子、すなわち、3種類の異なる抗原に特異的に結合することができる、つまり、CD3またはCD137のいずれか一方に結合することができるが、両方の抗原に同時には結合せず、かつDLL3に特異的に結合することができる、三重特異性抗原結合分子である。
【0037】
第1の局面において、本開示は、それぞれが、CD3およびCD137に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合しない、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分と;第3の抗原、好ましくはがん細胞/組織上に発現している抗原に結合できる第3の抗原結合部分とを含む、多重特異性抗原結合分子を提供する。ある特定の態様において、第3の抗原結合部分によって結合される第3の抗原はDLL3であり、好ましくは、ヒトDLL3である。
【0038】
第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分は、CD3およびCD137に結合できるが、同時には結合しない、「Dual抗原結合部分」であってもよく、これらは以下においてより詳細に説明される。第3の抗原結合部分は、「DLL3抗原結合部分」であってもよく、これも以下においてより詳細に説明される。
【0039】
いくつかの態様において、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれはFab分子であり、第1の抗原結合部分のCH1領域と第2の抗原結合部分のCH1領域との間で形成される少なくとも1つのジスルフィド結合を含む。ジスルフィド結合は、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分の各々のCH1領域中のEUナンバリングによる191位にあるアミノ酸残基間で形成され得る。
【0040】
いくつかの態様において、第3の抗原結合部分は、FabまたはscFvであってもよく、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれか一方に融合される。第1の、第2の、および第3の抗原結合部分のそれぞれがFab分子である場合、第3の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端(CH1)で、第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれか一方のFab重鎖のN末端に、任意でペプチドリンカーを介して融合されてもよい。代表的なペプチドリンカーには、配列番号:248、配列番号:249、または配列番号:259のアミノ酸配列からなるものが含まれる。ある特定の態様において、第1の抗原結合部分は第2の抗原結合部分と同一である。
【0041】
いくつかの態様において、第3の抗原結合部分は、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変領域が交換されており、かつ第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれが従来型のFab分子である、クロスオーバーFab分子である。
【0042】
いくつかの態様において、第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれの軽鎖の定常ドメインCLにおいて、123位および/または124位にあるアミノ酸が、リジン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)によって独立して置換され(Kabatによるナンバリング)、かつ第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれの重鎖の定常ドメインCH1において、147位にあるアミノ酸および/または213位にあるアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。別の態様において、第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれの軽鎖の定常ドメインCLにおいて、123位および124位にあるアミノ酸がそれぞれアルギニン(R)およびリジン(K)であり(Kabatによるナンバリング)、かつ第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれの重鎖の定常ドメインCH1において、147位にあるアミノ酸および213位にあるアミノ酸がグルタミン酸(E)である(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0043】
多重特異性抗原結合分子は、以下に詳述するFcドメインをさらに含むことができる。第1のおよび第2の抗原結合部分のそれぞれがFabである場合において、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1のまたは第2のサブユニットのN末端に融合されてもよく、かつ第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの残りのサブユニットのN末端に融合されてもよい。いくつかの態様において、第3の抗原結合部分は、C末端で第1の抗原結合部分または第2の抗原結合部分のいずれか一方のFab重鎖のN末端に、任意でペプチドリンカーを介して融合される。
【0044】
本発明の別の局面において、本開示は、CD3およびCD137に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合しない、抗原結合部分と;DLL3、好ましくはヒトDLL3に結合できる抗原結合部分とを含む、多重特異性抗原結合分子を提供する。ある特定の態様において、CD3およびCD137に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合しない、抗原結合部分は、以下において詳細に説明される、CD3およびCD137に結合できるが、同時には結合しない「Dual抗原結合部分」である。
【0045】
本発明の多重特異性抗原結合分子の構成成分は、様々な配置で相互に融合することができる。例示的な配置は、表10-1~10-3と合わせて読む
図1 a)に図示される。
【0046】
上記態様のいずれかによれば、多重特異性抗原結合分子の構成成分(例えば、 抗原結合部分、Fcドメイン)は、直接的に、または種々のリンカー、特に、本明細書において記載されているかまたは当技術分野において公知である1つもしくは複数のアミノ酸、典型的には約2~20個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを通じて、融合させてもよい。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G4S)n、(SG4)n、(G4S)n、またはG4(SG4)nペプチドリンカーが含まれ、ここで、nは概して1~10、典型的には2~4の数である。
【0047】
ピログルタミル化
抗体が細胞において発現した場合、抗体は翻訳後に修飾されることが知られている。翻訳後修飾の例としては、重鎖のC末端にあるリジンの、カルボキシペプチダーゼによる切断;重鎖および軽鎖のN末端にあるグルタミンまたはグルタミン酸の、ピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾;グリコシル化;酸化;脱アミド;および糖化が挙げられ、そのような翻訳後修飾は種々の抗体で生じることが公知である(Journal of Pharmaceutical Sciences, 2008, Vol. 97, p. 2426-2447)。
【0048】
いくつかの態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子は、翻訳後修飾を含む。翻訳後修飾の例としては、重鎖可変領域のN末端でのピログルタミル化および/または重鎖のC末端でのリジンの欠失が挙げられる。当分野において、N末端でのピログルタミル化およびC末端でのリジンの欠失によるそのような翻訳後修飾が、抗体の活性に何ら影響を有さないことは公知である(Analytical Biochemistry, 2006, Vol. 348, p. 24-39)。
【0049】
抗原結合部分
本明細書で用いられる用語「抗原結合部分」は、抗原に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。1つの態様において、抗原結合部分は、それが結合している実体を、標的部位、例えばがん抗原(DLL3)を発現する特定の種類の腫瘍細胞へと方向付けることができる。別の態様において、抗原結合部分は、その標的抗原、例えばT細胞受容体複合体抗原(特に、CD3)および/または共刺激受容体(CD137)を通じてシグナル伝達を活性化することができる。抗原結合部分には、本明細書においてさらに定義される抗体およびその断片が含まれる。具体的な抗原結合部分としては、抗体重鎖可変領域および抗体軽鎖可変領域を含む、抗体の抗原結合ドメインまたは抗体可変領域が挙げられる。特定の態様において、抗原結合部分は、本明細書においてさらに定義されかつ当技術分野において公知である抗体定常領域を含んでもよい。有用な重鎖定常領域には、5つのアイソタイプ:α、δ、ε、γ、またはμのいずれかが含まれる。有用な軽鎖定常領域には、2つのアイソタイプ:κおよびλのいずれかが含まれる。
【0050】
抗原結合部分等に関して、本明細書で用いられる用語「第1の」、「第2の」、および「第3の」は、2種類以上の種類別の部分等が存在する場合に区別するという利便性のために用いられる。これらの用語の使用は、別段明示しない限り、多重特異性抗原結合分子の特定の順序または向きを付与することを意図しない。
【0051】
別の局面において、本明細書において開示される本発明の抗原結合部分は、本明細書において開示される抗原結合部分の1つまたは複数を含む新規のキメラ抗原受容体(CAR)において用いることができる。ある特定の態様において、本発明のCARはscFv構築物を含み、好ましい態様において、本明細書において開示されるような重鎖および軽鎖可変領域を含む。好ましい態様において、開示されるキメラ抗原受容体は、増殖性疾患およびその任意の再発または転移を治療または予防するのに有用である。
【0052】
CD3およびCD137に結合できるが、同時には結合しない、抗原結合部分
本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、CD3およびCD137に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合しない、少なくとも1つの抗原結合部分(本明細書において「Dual抗原結合部分」または「第1の抗原結合部分」または「Dual-Fab」または「Dual-Ig」とも呼ばれる)を含む。1つの態様において、CD3およびCD137に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合しない抗原結合部分は、ヒトCD3に結合する抗原結合部分である。別の態様において、CD3およびCD137に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合しない抗原結合部分は、ヒトCD137に結合する抗原結合部分である。別の態様において、CD3およびCD137に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合しない抗原結合部分は、ヒトCD3およびヒトCD137に結合できる抗原結合部分であり、抗原結合部分は、ヒトCD3およびヒトCD137のいずれか一方に結合する。特定の態様において、多重特異性抗原結合分子は、2つのDual抗原結合部分(それぞれが「Dual-Fab」と呼ばれ得る、「第1の抗原結合部分」および「第2の抗原結合部分」)を含む。いくつかの態様において、2つのDual抗原結合部分のそれぞれ(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、CD3またはCD137に対する一価の結合をもたらすが、CD3およびCD137に同時には結合しない。特定の態様において、多重特異性抗原結合分子は、2つ以下のDual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)を含む。
【0053】
特定の態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は一般に、Fab分子、特に従来型のFab分子である。特定の態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、抗体軽鎖および重鎖可変領域(VLおよびVH)を含むドメインである。抗体軽鎖および重鎖可変領域を含む、そのようなドメインの適切な例としては、「単鎖Fv(scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv 2(scFv2)」、「Fab」、「F(ab’)2」等が挙げられる。
【0054】
特定の態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、CD3の全体もしくはその部分ペプチドの一部分に特異的に結合する。特定の態様において、CD3はヒトCD3またはカニクイザルCD3、特にヒトCD3である。特定の態様において、第1の抗原結合部分は、ヒトおよびカニクイザルCD3に対し交差反応性を有する(すなわち、それらに特異的に結合する)。いくつかの態様において、第1の抗原結合部分は、CD3のεサブユニット、特に、配列番号:7(NP_000724.1)(括弧内にRefSeq登録番号を示す)に示されるCD3のヒトCD3εサブユニットに特異的に結合することができる。いくつかの態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、真核細胞の表面上に発現しているCD3ε鎖に特異的に結合することができる。いくつかの態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、T細胞の表面上に発現しているCD3ε鎖に結合する。
【0055】
特定の態様において、CD137はヒトCD137である。いくつかの態様において、本発明の抗原結合分子の好適な例には、以下:
SPCPPNSFSSAGGQRTCDICRQCKGVFRTRKECSSTSNAECDCTPGFHCLGAGCSMCEQDCKQGQELTKKGC配列(配列番号:21)を含む領域を認識する抗体、
DCTPGFHCLGAGCSMCEQDCKQGQELTKKGC配列(配列番号:35)を含む領域を認識する抗体、
LQDPCSNCPAGTFCDNNRNQICSPCPPNSFSSAGGQRTCDICRQCKGVFRTRKECSSTSNAEC配列(配列番号:49)を含む領域を認識する抗体、および
ヒトCD137タンパク質中のLQDPCSNCPAGTFCDNNRNQIC配列(配列番号:105)を含む領域を認識する抗体
からなる群より選択される抗体によって結合されるヒトCD137エピトープと同じエピトープに結合する、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)が挙げられる。
【0056】
特定の態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、以下の表1に示される抗体可変領域配列のいずれか1つを含む。特定の態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、表1に示される重鎖可変領域および軽鎖可変領域の組み合わせのいずれか1つを含む。
【0057】
(表1)Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)の可変領域の配列番号
【0058】
1つの態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、配列番号:6に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である重鎖可変領域配列、および配列番号:58に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。1つの態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、配列番号:6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0059】
1つの態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、配列番号:14に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である重鎖可変領域配列、および配列番号:58に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。1つの態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、配列番号:14のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0060】
1つの態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、配列番号:81に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である重鎖可変領域配列、および配列番号:58に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。1つの態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、配列番号:81のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号:58のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0061】
特定の態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)は、以下の表2に示されるHVR配列の組み合わせのいずれか1つを含む。
【0062】
(表2)Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)のHVR(CDR)配列の配列番号
【0063】
いくつかの態様において、Dual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)はそれぞれ、以下の(a1)~(a17)のいずれか1つ:
(a1)配列番号:17の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:31の重鎖CDR 2、配列番号:45の重鎖CDR 3、配列番号:64の軽鎖CDR 1、配列番号:69の軽鎖CDR 2、および配列番号:74の軽鎖CDR 3;
(a2)配列番号:18の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:32の重鎖CDR 2、配列番号:46の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a3)配列番号:19の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:33の重鎖CDR 2、配列番号:47の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a4)配列番号:19の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:33の重鎖CDR 2、配列番号:47の重鎖CDR 3、配列番号:65の軽鎖CDR 1、配列番号:70の軽鎖CDR 2、および配列番号:75の軽鎖CDR 3;
(a5)配列番号:20の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:34の重鎖CDR 2、配列番号:48の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a6)配列番号:22の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:36の重鎖CDR 2、配列番号:50の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a7)配列番号:23の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:37の重鎖CDR 2、配列番号:51の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a8)配列番号:23の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:37の重鎖CDR 2、配列番号:51の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3;
(a9)配列番号:24の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:38の重鎖CDR 2、配列番号:52の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a10)配列番号:25の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:39の重鎖CDR 2、配列番号:53の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3;
(a11)配列番号:26の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:40の重鎖CDR 2、配列番号:54の重鎖CDR 3、配列番号:66の軽鎖CDR 1、配列番号:71の軽鎖CDR 2、および配列番号:76の軽鎖CDR 3;
(a12)配列番号:26の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:40の重鎖CDR 2、配列番号:54の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a13)配列番号:27の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:41の重鎖CDR 2、配列番号:55の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a14)配列番号:28の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:42の重鎖CDR 2、配列番号:56の重鎖CDR 3、配列番号:63の軽鎖CDR 1、配列番号:68の軽鎖CDR 2、および配列番号:73の軽鎖CDR 3;
(a15)配列番号:82の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:83の重鎖CDR 2、配列番号:84の重鎖CDR 3、配列番号:65の軽鎖CDR 1、配列番号:70の軽鎖CDR 2、および配列番号:75の軽鎖CDR 3;
(a16)(a1)~(a15)から選択される抗体可変領域のいずれかと同じエピトープに結合する抗体可変領域;ならびに
(a17)(a1)~(a15)から選択される抗体可変断片のいずれかの結合と競合する抗体可変断片
を含む抗体可変領域を含む。
【0064】
いくつかの態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子またはDual抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」または「Dual-Fab」)には、翻訳後修飾も含まれる。翻訳後修飾の例としては、重鎖可変領域のN末端でのピログルタミル化および/または重鎖のC末端でのリジンの欠失が挙げられる。この分野において、N末端でのピログルタミル化およびC末端でのリジンの欠失によるそのような翻訳後修飾は、抗体の活性に何ら影響を有さないことが公知である(Analytical Biochemistry, 2006, Vol. 348, p. 24-39)。
【0065】
DLL3に結合できる抗原結合部分
本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、デルタ様3(DLL3)に結合できる抗原結合部分(本明細書において「DLL3抗原結合部分」または「第3の抗原結合部分」または「DLL3に結合する抗原結合部分」とも呼ばれる)を少なくとも1つ含む。
【0066】
ある特定の態様において、多重特異性抗原結合分子は、DLL3に結合できる抗原結合部分を1つ含む。ある特定の態様において、多重特異性抗原結合分子は、DLL3に結合できる抗原結合部分(「DLL3抗原結合部分」)を2つ含む。特定のそのような態様において、これらの抗原結合部分のそれぞれは、DLL3の同じエピトープに特異的に結合する。さらにより具体的な態様において、これらの「DLL3抗原結合部分」はすべて、同一である。1つの態様において、多重特異性抗原結合分子は、DLL3に特異的に結合できる免疫グロブリン分子(「DLL3抗原結合部分」)を含む。1つの態様において、多重特異性抗原結合分子は、DLL3に結合できる抗原結合部分(「DLL3抗原結合部分」)を2つ以下含む。
【0067】
ある特定の態様において、DLL3抗原結合部分は、クロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖および軽鎖の可変領域または定常領域のいずれかが交換されているDLL3分子である。ある特定の態様において、DLL3抗原結合部分は、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子である。
【0068】
いくつかの態様において、DLL3抗原結合部分は、DLL3の細胞外ドメインに特異的に結合する。いくつかの態様において、DLL3抗原結合部分は、DLL3の細胞外ドメイン内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの態様において、DLL3抗原結合部分は、真核細胞の表面上に発現しているDLL3タンパク質に結合する。いくつかの態様において、DLL3抗原結合部分は、がん細胞の表面上に発現しているDLL3タンパク質に結合する。
【0069】
いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、細胞外ドメイン(ECD)内、すなわち、N末端からTM領域の直前までだが、TM領域またはC末端細胞内ドメインまでではない、ドメイン内のエピトープに結合する。多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、ECD内の上述のドメイン/領域のいずれか内のエピトープに結合し得る。好ましい態様において、多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、EGF6からTM領域の直前までの領域内のエピトープに結合する。より具体的には、多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、ヒトDLL3中の配列番号:89で定義される領域内のエピトープに結合し得る。いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、ヒトDLL3のEGF1、EGF2、EGF3、EGF4、EGF5、もしくはEGF6領域、またはEGF6からTM領域の直前までの領域、またはヒトDLL3のEGF1、EGF2、EGF3、EGF4、EGF5、もしくはEGF6領域、またはEGF6からTM領域の直前までの領域内のエピトープに結合する。いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、結合されるDLL3エピトープが特性解析されているこれまでの報告された抗DLL3抗体(例えば、WO2019131988およびWO2011093097)に由来し得る。
【0070】
特定の態様において、多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、以下の表3に示す抗体可変領域配列のいずれか1つを含む。特定の態様において、多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、表3に示す重鎖可変領域および軽鎖可変領域の組み合わせのいずれか1つを含む。いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、表3に示す抗体可変領域のいずれか1つとDLL3への結合について競合する抗体可変断片を含むドメインを含む。
【0071】
(表3)例示的なDLL3抗原結合部分の可変領域の配列番号
【0072】
1つの態様において、DLL3抗原結合部分は、配列番号:232に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である重鎖可変領域配列、および配列番号:236に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。1つの態様において、DLL3抗原結合部分は、配列番号:232のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:236のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0073】
1つの態様において、DLL3抗原結合部分は、配列番号:300に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である重鎖可変領域配列、および配列番号:236に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。1つの態様において、DLL3抗原結合部分は、配列番号:300のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:236のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0074】
1つの態様において、DLL3抗原結合部分は、配列番号:301に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である重鎖可変領域配列、および配列番号:236に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。1つの態様において、DLL3抗原結合部分は、配列番号:301のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:236のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0075】
1つの態様において、DLL3抗原結合部分は、配列番号:274に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である重鎖可変領域配列、および配列番号:275に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。1つの態様において、DLL3抗原結合部分は、配列番号:274のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:275のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0076】
1つの態様において、DLL3抗原結合部分は、配列番号:264に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である重鎖可変領域配列、および配列番号:265に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。1つの態様において、DLL3抗原結合部分は、配列番号:264のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:265のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0077】
特定の態様において、DLL3抗原結合部分は、以下の表4に示すHVR配列の組み合わせのいずれか1つを含む。いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、表4に示す抗体可変領域のいずれか1つとDLL3への結合について競合するか、または表4に示す抗体可変領域のHVR領域と同一であるHVR配列を含む任意の抗体可変断片とDLL3への結合について競合する、抗体可変断片を含むドメインを含む。
【0078】
(表4)例示的なDLL3抗原結合部分のHVR(CDR)配列の配列番号
【0079】
いくつかの態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、以下の(a1)~(a5)のいずれか1つ:
(a1)配列番号:233の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:234の重鎖CDR 2、配列番号:235の重鎖CDR 3、配列番号:237の軽鎖CDR 1、配列番号:238の軽鎖CDR 2、および配列番号:239の軽鎖CDR 3;
(a2)配列番号:276の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:277の重鎖CDR 2、配列番号:278の重鎖CDR 3、配列番号:279の軽鎖CDR 1、配列番号:280の軽鎖CDR 2、および配列番号:281の軽鎖CDR 3;
(a3)配列番号:285の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号:286の重鎖CDR 2、配列番号:287の重鎖CDR 3、配列番号:288の軽鎖CDR 1、配列番号:289の軽鎖CDR 2、および配列番号:290の軽鎖CDR 3;
(a4)(a1)~(a3)から選択される抗体可変領域のいずれかと同じエピトープに結合する抗体可変領域;ならびに
(a5)(a1)~(a3)から選択される抗体可変断片のいずれかの結合と競合する抗体可変断片
を含む抗体可変領域を含む。
【0080】
いくつかの態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分には、翻訳後修飾も含まれる。翻訳後修飾の例としては、重鎖可変領域のN末端でのピログルタミル化および/または重鎖のC末端でのリジンの欠失が挙げられる。この分野において、N末端でのピログルタミル化およびC末端でのリジンの欠失によるそのような翻訳後修飾は、抗体の活性に何ら影響を有さないことが公知である(Analytical Biochemistry, 2006, Vol. 348, p. 24-39)。
【0081】
別の局面において、本発明のDLL3抗原結合部分は、DLL3結合ドメインを組み込む新たなキメラ抗原受容体(CAR)(DLL3 CAR)において用いることができる。ある特定の態様において、本発明のDLL3結合ドメイン(およびDLL3 CAR)は、scFv構築物を含み、好ましい態様において、本明細書において開示されるような重鎖および軽鎖可変領域を含む。他の好ましい態様において、本発明のDLL3結合ドメイン(およびDLL3 CAR)は、本明細書において開示される重鎖および軽鎖可変領域を含むscFv構築物またはその断片を含む。好ましい態様において、開示されるキメラ抗原受容体は、増殖性疾患およびその任意の再発または転移を治療または予防するのに有用である。
【0082】
ある特定の態様において、DLL3タンパク質は腫瘍始原細胞上に発現している。DLL3 CARは、遺伝子改変(例えば、形質導入)を介して細胞傷害性リンパ球(好ましくは自己細胞傷害性リンパ球)上に発現し、DLL3陽性腫瘍細胞を標的としかつそれを殺傷するために用いることができるDLL3感受性リンパ球をもたらす。本明細書において広く論じられるように、本発明のCARは典型的には、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内シグナル伝達ドメインを含み、ある特定のリンパ球を活性化し、DLL3陽性腫瘍細胞の免疫応答を生じさせるDLL3結合ドメインを含む。本発明の選択される態様は、開示されたCARを示す免疫学的に活性な宿主細胞、ならびに本発明のDLL3 CARをコードする種々のポリヌクレオチド配列およびベクターを含む。他の局面には、DLL3 CAR分子を発現する宿主細胞をがんに罹患している個体に導入し、個体を治療することによって、個体におけるTリンパ球またはナチュラルキラー(NK)細胞の活性を増強する方法が含まれる。そのような局面には、特に、肺がん(例えば、小細胞肺がん)および黒色腫が含まれる。
【0083】
抗原
本明細書で用いられる用語「抗原」は、抗原結合部分が結合するポリペプチド巨大分子上の部位(例えば、連続した一続きのアミノ酸、または非連続アミノ酸の別々の領域から構成される立体構造)を指し、抗原結合部分-抗原複合体を形成する。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染細胞の表面上に、他の疾患細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中に遊離した状態で、および/または細胞外基質(ECM)中に見出すことができる。別段示さない限り、本明細書において抗原と称されるタンパク質(例えば、CD3、CD137、DLL3)は、霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物供給源由来のタンパク質の任意の天然形態であり得る。特定の態様において、抗原はヒトCD3、ヒトCD137、またはヒトDLL3である。本明細書において特定のタンパク質への言及がなされる場合、該用語は、「全長」の、プロセシングを受けていないタンパク質、ならびに細胞中でのプロセシングによって生じるタンパク質の任意の形態を包含する。該用語はまた、タンパク質の天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアントまたは対立遺伝子バリアントも包含する。
【0084】
特定の態様において、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、異なる種のCD3、CD137、またはDLL3の間で保存されているCD3、CD137、またはDLL3のエピトープに結合する。特定の態様において、本出願の多重特異性抗原結合分子は、三重特異性抗原結合分子、すなわち、3種類の異なる抗原に特異的に結合することができる、つまり、CD3またはCD137のいずれか一方に結合することができるが、両方の抗原に同時には結合せず、かつDLL3に特異的に結合することができる、三重特異性抗原結合分子である。
【0085】
特定の態様において、多重特異性抗原結合分子は、CD3の部分ペプチドの全体または一部に特異的に結合する。特定の態様において、CD3はヒトCD3またはカニクイザルCD3、最も典型的にはヒトCD3である。特定の態様において、多重特異性抗原結合分子は、ヒトCD3およびカニクイザルCD3に対して交差反応性である(すなわち、それらに特異的に結合する)。いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子は、CD3のεサブユニット、特に、配列番号:7(NP_000724.1)(括弧内にRefSeq登録番号を示す)に示されるCD3のヒトCD3εサブユニットに特異的に結合することができる。いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子は、真核細胞の表面上に発現しているCD3ε鎖に特異的に結合することができる。いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子は、T細胞の表面上に発現しているCD3ε鎖に結合する。
【0086】
特定の態様において、CD137はヒトCD137である。いくつかの態様において、本発明の抗原結合分子の好適な例には、以下からなる群:
SPCPPNSFSSAGGQRTCDICRQCKGVFRTRKECSSTSNAECDCTPGFHCLGAGCSMCEQDCKQGQELTKKGC配列(配列番号:21)を含む領域を認識する抗体、
DCTPGFHCLGAGCSMCEQDCKQGQELTKKGC配列(配列番号:35)を含む領域を認識する抗体、
LQDPCSNCPAGTFCDNNRNQICSPCPPNSFSSAGGQRTCDICRQCKGVFRTRKECSSTSNAEC配列(配列番号:49)を含む領域を認識する抗体、および
ヒトCD137タンパク質中のLQDPCSNCPAGTFCDNNRNQIC配列(配列番号:105)を含む領域を認識する抗体
より選択される抗体によって結合されるヒトCD137エピトープと同じエピトープに結合する抗原結合分子が含まれる。
【0087】
用語「DLL3」は、本明細書において用いられる場合、別段の指示がない限り、霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物供給源由来の任意の天然型 DLL3(デルタ様3)を指す。該用語は、プロセシングを受けていない「全長」DLL3、ならびに細胞でのプロセシングによって生じる任意の形態のDLL3を包含する。該用語はまた、DLL3の天然に生じるバリアント、例えば、スプライスバリアントまたはアレルバリアントも包含する。例示的なヒトDLL3のアミノ酸配列はNCBI参照配列(RefSeq)NM_016941.3として公知であり、例示的なカニクイザルDLL3のアミノ酸配列はNCBI参照配列XP_005589253.1として公知であり、例示的なマウスDLL3のアミノ酸配列はNCBI参照配列NM_007866.2として公知である。
【0088】
ヒトDLL3タンパク質は、C末端側に膜貫通(TM)領域および細胞内ドメイン、ならびにN末端側にDSL(Notch)ドメインを含む(例えば、
図6を参照)。加えて、DLL3は、N末端側からC末端側へ、6個の領域EGF1からEGF6を含む、EGFドメインを有する。いくつかの態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、細胞外ドメイン(ECD)内、すなわち、N末端からTM領域の直前までだが、TM領域またはC末端細胞内ドメインまでではない、ドメイン内のエピトープに結合する。本発明の多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、ECD内の上述のドメイン/領域のいずれか内のエピトープに結合し得る。好ましい態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、EGF6からTM領域の直前までの領域内のエピトープに結合する。より具体的には、本発明の多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、ヒトDLL3中の配列番号:89で定義される領域内のエピトープに結合し得る。いくつかの態様において、本発明の分子/抗体は、ヒトDLL3のEGF1、EGF2、EGF3、EGF4、EGF5、もしくはEGF6領域、またはEGF6からTM領域の直前までの領域、またはヒトDLL3のEGF1、EGF2、EGF3、EGF4、EGF5、もしくはEGF6領域、またはEGF6からTM領域の直前までの領域内のエピトープに結合する。
【0089】
ヒトDLL3では、上述のドメイン/領域は、以下のアミノ酸残基:
細胞外ドメイン(ECD):1位~492位にあるアミノ酸残基;
DSLドメイン:176位~215位にあるアミノ酸残基;
EGFドメイン:216位~465位にあるアミノ酸残基;
EGF1領域:216位~249位にあるアミノ酸残基;
EGF2領域:274位~310位にあるアミノ酸残基;
EGF3領域:312位~351位にあるアミノ酸残基;
EGF4領域:353位~389位にあるアミノ酸残基;
EGF5領域:391位~427位にあるアミノ酸残基;
EGF6領域:429位~465位にあるアミノ酸残基;
EGF6からTM領域の直前までの領域:429位~492位にあるアミノ酸残基;
TM領域:493位~513位にあるアミノ酸残基;および
C末端細胞内ドメイン:516位~618位にあるアミノ酸残基(または一部のアイソフォームでは516位~587位)
を有する(例えば、 http://www.uniprot.org/uniprot/Q9NYJ7またはWO2013/126746を参照)。
上記のアミノ酸位置はまた、配列番号:90に示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸位置も指す。したがって、本発明の多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、ヒトDLL3中の上述の位置にあるアミノ酸残基を有する上述の領域/ドメインに結合し得る。すなわち、本発明の多重特異性抗原結合分子またはDLL3抗原結合部分は、ヒトDLL3中の上述の位置にあるアミノ酸残基を有する上述の領域/ドメイン内のエピトープに結合し得る。
【0090】
本発明で用いられるDLL3タンパク質は、上記に記載される配列を有するDLL3タンパク質であってもよく、または1つまたは複数のアミノ酸の改変によって上記に記載される配列から導き出された配列を有する改変タンパク質であってもよい。1つまたは複数のアミノ酸の改変によって上記に記載される配列から導き出された配列を有する改変タンパク質の例は、上記に記載されるアミノ酸配列に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の同一性を有するポリペプチドを含み得る。あるいは、これらのDLL3タンパク質の部分ペプチドが用いられてもよい。
【0091】
本発明において用いられるDLL3タンパク質はその起源によって限定されず、好ましくはヒトまたはカニクイザルDLL3タンパク質である。
【0092】
いくつかの態様において、DLL3タンパク質として、DLL3 ECD断片タンパク質(またはECDバリアント)が用いられ得る。切断の部位に応じて、断片/バリアントは、N末端側からC末端側へ、DSLドメインからEGF6、EGF1からEGF6、EGF2からEGF6、EGF3からEGF6、EGF4からEGF6、EGF5およびEGF6、またはEGF6を含んでもよい。断片/バリアントは、EGF6領域の直後からTM領域直前に及ぶ領域をさらに含んでもよい。Flagタグを、当技術分野に周知の技術を用いて断片/バリアントのC末端に付着させてもよい。
【0093】
抗原結合ドメイン
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部またはすべてに特異的に結合しかつそれに相補的である領域を含む抗体の一部を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1つまたは複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域とも呼ばれる)によってもたらされてもよい。好ましくは、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)の両方を含む。そのような好ましい抗原結合ドメインには、例えば、「単鎖Fv(scFv)」、「シングルドメイン抗体またはVHH」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2(scFv2)」、「Fab」、および「F(ab')2」が含まれる。
【0094】
可変領域
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体を抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然型抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域 (FR) および3つの超可変領域 (HVR) を含む、類似の構造を有する。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007) 参照。)1つのVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに十分であろう。さらに、ある特定の抗原に結合する抗体は、当該抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを使ってそれぞれVLまたはVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングして、単離されてもよい。例えばPortolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991) 参照。
【0095】
HVRまたはCDR
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」)、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域を指す。超可変領域(HVR)は、「相補性決定領域」(CDR)とも称され、これらの用語は、本明細書では、抗原結合領域を形成する可変領域の部分に関して相互に交換可能に用いられる。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。
本明細書での例示的なHVRは、以下のもの:
(a) アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、および96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、 および95-102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、および93-101 (H3) のところで生じる抗原接触 (MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d) HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、および94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組み合わせ
を含む。
【0096】
別段示さない限り、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabatらに従ってナンバリングされる。
【0097】
HVR-H1、HVR-H2、HVR-H3、HVR-L1、HVR-L2、およびHVR-L3は、それぞれ、「H-CDR1」、「H-CDR2」、「H-CDR3」、「L-CDR1」、「L-CDR2」、および「L-CDR3」とも記載される。
【0098】
CD3およびCD137に結合することができるが、CD3およびCD137に同時には結合しない
本発明の抗体可変領域が「CD3およびCD137に結合することができる」かどうかは、当技術分野において公知の方法によって判定することができる。
【0099】
これは、例えば、電気化学発光法(ECL法)によって判定することができる(BMC Research Notes 2011, 4:281)。
【0100】
具体的には、例えば、ビオチン標識された被験抗原結合分子の、CD3およびCD137に結合することができる領域、例えば、Fab領域から構成される低分子抗体、またはその一価抗体(通常の抗体が有する2つのFab領域のうち1つが欠けている抗体)を、sulfo-tag(Ru錯体)で標識されたCD3またはCD137と混合し、混合物をストレプトアビジン固定化プレート上に添加する。この操作において、ビオチン標識された被験抗原結合分子は、プレート上のストレプトアビジンに結合する。sulfo-tagから光を発生させ、その発光シグナルを、Sector Imager 600または2400(MSD K.K.)などを用いて検出し、それによって、CD3またはCD137に対する被験抗原結合分子の上述の領域の結合を確認することができる。
【0101】
あるいは、このアッセイは、ELISA、FACS(蛍光活性化細胞選別)、ALPHAScreen(増幅発光近接ホモジニアスアッセイスクリーン)、表面プラズモン共鳴(SPR)現象に基づくBIACORE法などによって実施されてもよい(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0102】
具体的には、アッセイは、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)現象に基づく相互作用解析機器であるBiacore(GE Healthcare Japan Corp.)を用いて実施することができる。Biacore解析機器には、Biacore T100、T200、X100、A100、4000、3000、2000、1000、またはCなどの任意の機種が含まれる。CM7、CM5、CM4、CM3、C1、SA、NTA、L1、HPA、またはAuチップなどの任意のBiacore用センサーチップを、センサーチップとして用いることができる。プロテインA、プロテインG、プロテインL、抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgG-Fab、抗ヒトL鎖抗体、抗ヒトFc抗体、抗原タンパク質、または抗原ペプチドなどの、本発明の抗原結合分子を捕捉するためのタンパク質を、アミンカップリング、ジスルフィドカップリング、またはアルデヒドカップリングなどのカップリング法によって、センサーチップ上に固定化する。その上にCD3またはCD137をアナライトとしてインジェクトし、相互作用を測定してセンサーグラムを取得する。この操作において、CD3またはCD137の濃度は、アッセイサンプルの相互作用の強さ(例えば、KD)に従って数μMから数pMの範囲内で選択することができる。
【0103】
あるいは、CD3またはCD137を、抗原結合分子の代わりにセンサーチップ上に固定化して、次に、評価したい抗体サンプルを相互作用させてもよい。本発明の抗原結合分子の抗体可変領域がCD3またはCD137に対する結合活性を有するかどうかを、相互作用のセンサーグラムから算出された解離定数(KD)値に基づいて、または抗原結合分子サンプルの作用前のレベルを上回る、作用後のセンサーグラムの増加の程度に基づいて、確認することができる。
【0104】
いくつかの態様において、目的の抗原(すなわち、CD3またはCD137)に対する本発明の抗体可変領域の結合活性または親和性を、例えば、Biacore T200機器(GE Healthcare)またはBiacore 8K機器(GE Healthcare)を用いて、37℃(CD137について)または25℃(CD3について)で評価する。抗ヒトFc(例えば、GE Healthcare)を、アミンカップリングキット(例えば、GE Healthcare)を用いてCM4センサーチップのすべてのフローセル上に固定化する。抗原結合分子または抗体可変領域を、抗Fcセンサー表面上に捕捉し、次いで、抗原(CD3またはCD137)をフローセル上にインジェクトする。抗原結合分子または抗体可変領域の捕捉レベルは、200レゾナンスユニット(RU)を目指してもよい。組換えヒトCD3またはCD137を、2倍段階希釈によって調製した2000~125 nMでインジェクトし、その後解離させてもよい。すべての抗原結合分子または抗体可変領域およびアナライトは、20 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% Tween 20、0.005% NaN3を含有するACES pH 7.4において調製する。センサー表面は、サイクル毎に3M MgCl2で再生させる。結合親和性は、例えば、Biacore Insight Evaluation software, version 2.0(GE Healthcare)またはBiacore 8K Evaluation software(GE Healthcare)を用いて、データをプロセシングし、1:1結合モデルにフィットさせることによって決定する。本発明の抗原結合ドメインの特異的結合活性または親和性を評価するために、KD値を算出する。
【0105】
ALPHAScreenは、2種類のビーズ(ドナーおよびアクセプター)を用いるALPHAテクノロジーによって、以下の原理に基づいて実施される:ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子との間の生物学的相互作用によりこれら2つのビーズが近接して位置する時にのみ、発光シグナルが検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ中のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素は、ドナービーズ周辺に拡散し、それに近接して位置するアクセプタービーズに到達すると、それによってビーズにおける化学発光反応を引き起こし、最終的に光が放出される。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子との間の相互作用がない場合には、ドナービーズによって産生される一重項酸素がアクセプタービーズに到達しない。したがって、化学発光反応は起きない。
【0106】
その間の相互作用を観察する物質の一方(リガンド)を、センサーチップの金薄膜上に固定する。金薄膜とガラスとの境界面で全反射するように、センサーチップの裏側から光を当てる。結果として、反射光の一部に、反射強度が低下した部位(SPRシグナル)が形成される。その間の相互作用を観察する物質の他方(アナライト)を、センサーチップの表面上にインジェクトする。アナライトがリガンドに結合すると、固定化されているリガンド分子の質量が増加して、センサーチップ表面上の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に、結合した分子が解離すると、シグナルは元の位置に戻る)。Biacoreシステムは、シフトの量、すなわち、センサーチップ表面上の質量変化を縦座標にプロットし、質量の時間依存的変化をアッセイデータとして表示する(センサーグラム)。センサーチップ表面上に捕捉されたリガンドに結合したアナライトの量(アナライトを相互作用させた前後でのセンサーグラム上でのレスポンスの変化の量)を、センサーグラムから決定することができる。しかし、結合量はリガンドの量にも依存するため、比較は、実質的に同じ量のリガンドの量を用いる条件下で行わなければならない。キネティクス、すなわち、会合速度定数(ka)および解離速度定数(kd)は、センサーグラムの曲線から決定することができ、一方、親和性(KD)は、これらの定数の比から決定することができる。阻害アッセイもまた、BIACORE法において好適に用いられる。阻害アッセイの例は、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010に記載されている。
【0107】
用語「CD3とCD137(4-1BB)に同時(at the same time)には結合しない」または「CD3とCD137(4-1BB)に同時(simultaneously)には結合しない」は、本発明の抗原結合部分または抗体可変領域が、CD3と結合している状態ではCD137に結合できず、逆に、抗原結合部分または抗体可変領域が、CD137と結合している状態ではCD3に結合できないことを意味する。ここで、「CD3とCD137に同時には結合しない」という句には、CD3を発現する細胞とCD137を発現する細胞とを架橋しないこと、または、各々が異なる細胞上で発現しているCD3とCD137に同時には結合しないことも含まれる。この句にはさらに、CD3およびCD137が可溶性タンパク質のように細胞膜上に発現していないか、または両方が同じ細胞上に存在する時には、可変領域が、CD3とCD137の両方に同時に結合することができるが、各々が異なる細胞上で発現しているCD3とCD137には同時には結合することができない場合も含まれる。そのような抗体可変領域は、これらの機能を有している限り、特に限定されない。その例には、所望の抗原に結合するようにそのアミノ酸の一部を改変した、IgG型の抗体可変領域に由来する可変領域が含まれ得る。改変されるアミノ酸は、例えば、CD3またはCD137に結合する抗体可変領域における、その改変が抗原に対する結合を喪失させないアミノ酸から選択される。
【0108】
ここで、「異なる細胞上で発現している」という句は、単に、抗原が別々の細胞上で発現していることを意味する。そのような細胞の組み合わせは、例えば、T細胞と別のT細胞のように同じ種類の細胞であってもよいし、またはT細胞とNK細胞のように異なる種類の細胞であってもよい。
【0109】
本発明の抗原結合分子が「CD3とCD137に同時には結合しない」かどうかは、抗原結合分子がCD3およびCD137の両方に対する結合活性を有することを確認すること;次いで、この結合活性を有する可変領域を含む抗原結合分子に、CD3またはCD137のいずれかを予め結合させること;および次いで、上述の方法によってもう1つのものに対するその結合活性の有無を判定すること、によって確認することができる。あるいは、これはまた、ELISAプレート上またはセンサーチップ上に固定化されたCD3またはCD137のいずれかに対する抗原結合分子の結合が、溶液中へのもう1つのものの添加によって阻害されるかどうかを判定することによって、確認することもできる。いくつかの態様において、本発明の抗原結合分子のCD3またはCD137のいずれかに対する結合は、もう1つに対する抗原結合分子の結合によって、少なくとも50%、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、またはいっそうより好ましくは95%以上阻害される。
【0110】
1つの局面において、1つの抗原(例えば、CD3)を固定化している間に、CD3に対する抗原結合分子の結合の阻害を、先行技術において公知の方法(すなわち、ELISA、BIACOREなど)によって、他の抗原(例えば、CD137)の存在下で決定することができる。別の局面において、CD137を固定化している間に、CD137に対する抗原結合分子の結合の阻害もまた、CD3の存在下で決定することができる。上述の2つの局面のうちのいずれか1つが実施される時に、結合が、少なくとも50%、好ましくは60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、またはいっそうより好ましくは95%以上阻害されるならば、本発明の抗原結合分子は、CD3とCD137に同時には結合しないと判定される。
【0111】
いくつかの態様において、アナライトとしてインジェクトされる抗原の濃度は、固定化される他の抗原の濃度よりも少なくとも1倍、2倍、5倍、10倍、30倍、50倍、または100倍高い。
【0112】
好ましい様式において、アナライトとしてインジェクトされる抗原の濃度は、固定化される他の抗原の濃度よりも100倍高く、結合は、少なくとも80%阻害される。
【0113】
1つの態様において、抗原結合分子のCD137(固定化)結合活性についてのKD値に対する抗原結合分子のCD3(アナライト)結合活性についてのKD値の比(KD(CD3)/ KD(CD137))を算出し、CD137(固定化)濃度よりもKD値の比(KD(CD3)/ KD(CD137))の10倍、50倍、100倍、または200倍高い、CD3(アナライト)濃度を、上記の競合測定のために用いることができる。(例えば、KD値の比が0.1である場合は、1倍、5倍、10倍、または20倍高い濃度を選択することができる。さらに、KD値の比が10である場合は、100倍、500倍、1000倍、または2000倍高い濃度を選択することができる。)
【0114】
1つの局面において、1つの抗原(例えば、CD3)を固定化している間に、CD3に対する抗原結合分子の結合シグナルの減弱を、先行技術において公知の方法(すなわち、ELISA、ECLなど)によって、他の抗原(例えば、CD137)の存在下で決定することができる。別の局面において、CD137を固定化している間に、CD137に対する抗原結合分子の結合シグナルの減弱もまた、CD3の存在下で決定することができる。上述の2つの局面のうちのいずれか1つが実施される時に、結合シグナルが、少なくとも50%、好ましくは60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、またはいっそうより好ましくは95%以上減弱されるならば、本発明の抗原結合分子は、CD3とCD137に同時には結合しないと判定される。
【0115】
いくつかの態様において、アナライトとしてインジェクトされる抗原の濃度は、固定化される他の抗原の濃度よりも少なくとも1倍、2倍、5倍、10倍、30倍、50倍、または100倍高い。
【0116】
好ましい様式において、アナライトとしてインジェクトされる抗原の濃度は、固定化される他の抗原の濃度よりも100倍高く、結合は、少なくとも80%阻害される。
【0117】
1つの態様において、抗原結合分子のCD137(固定化)結合活性についてのKD値に対する抗原結合分子のCD3(アナライト)結合活性についてのKD値の比(KD(CD3)/ KD(CD137))を算出し、CD137(固定化)濃度よりもKD値の比(KD(CD3)/ KD(CD137))の10倍、50倍、100倍、または200倍高い、CD3(アナライト)濃度を、上記の測定のために用いることができる。(例えば、KD値の比が0.1である場合は、1倍、5倍、10倍、または20倍高い濃度を選択することができる。さらに、KD値の比が10である場合は、100倍、500倍、1000倍、または2000倍高い濃度を選択することができる。)
【0118】
具体的には、例えば、ECL法を用いる場合、ビオチン標識された被験抗原結合分子、sulfo-tag(Ru錯体)で標識されたCD3、および標識されていないCD137を準備する。被験抗原結合分子が、CD3およびCD137に結合することができるが、CD3とCD137に同時には結合しない場合、被験抗原結合分子と標識されたCD3との混合物をストレプトアビジン固定化プレート上に添加すること、およびその後の発光によって、sulfo-tagの発光シグナルが、標識されていないCD137の非存在下で検出される。対照的に、発光シグナルは、標識されていないCD137の存在下で減少する。この発光シグナルの減少を定量して、相対的な結合活性を決定することができる。この解析は、標識されたCD137および標識されていないCD3を用いて、同様に実施され得る。
【0119】
ALPHAScreenの場合、被験抗原結合分子は、競合するCD137の非存在下でCD3と相互作用して、520~620 nmのシグナルを生成する。タグ付けされていないCD137は、被験抗原結合分子との相互作用についてCD3と競合する。競合の結果として引き起こされる蛍光の減少を定量し、それによって相対的な結合活性を決定することができる。スルホ-NHS-ビオチンなどを用いたポリペプチドのビオチン化は、当技術分野において公知である。例えば、CD3をコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドとをインフレームで融合すること;および、結果として生じた融合遺伝子を、その発現が可能なベクターを保有する細胞などによって発現させ、その後グルタチオンカラムを用いて精製することを含む、適宜採用される方法によって、CD3をGSTでタグ付けすることができる。得られたシグナルは、好ましくは、例えば、非線形回帰解析に基づく一部位競合(one-site competition)モデルに適合したソフトウェアGRAPHPAD PRISM(GraphPad Software, Inc., San Diego)用いて解析される。この解析は、タグ付けされたCD137およびタグ付けされていないCD3を用いて、同様に解析され得る。
【0120】
あるいは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いた方法が用いられてもよい。FRETとは、励起エネルギーが、近接して位置する2つの蛍光分子の間で互いに、電子共鳴によって直接移動する現象である。FRETが起こると、ドナー(励起状態を有する蛍光分子)の励起エネルギーがアクセプター(ドナーの近くに位置するもう1つの蛍光分子)に移動するため、ドナーから放射される蛍光が消失し(正確には、蛍光の寿命が短縮し)、代わりにアクセプターから蛍光が放射される。この現象の使用によって、CD3とCD137に同時に結合するか否かを解析することができる。例えば、蛍光ドナーを有するCD3および蛍光アクセプターを有するCD137が、被験抗原結合分子に同時に結合すると、ドナーの蛍光は消失し、一方、アクセプターから蛍光が放射される。そのため、蛍光波長の変化が観察される。そのような抗体は、CD3とCD137に同時に結合するものと確認される。他方で、CD3、CD137、および被験抗原結合分子の混合が、CD3と結合した蛍光ドナーの蛍光波長を変化させないならば、この被験抗原結合分子は、CD3およびCD137に結合することができるが、CD3とCD137に同時には結合しない抗原結合ドメインとみなすことができる。
【0121】
例えば、ビオチン標識された被験抗原結合分子を、ドナービーズ上のストレプトアビジンに結合させ、一方、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ付けされたCD3を、アクセプタービーズに結合させる。被験抗原結合分子は、競合する第2の抗原の非存在下でCD3と相互作用して、520~620 nmのシグナルを生成する。タグ付けされていない第2の抗原は、被験抗原結合分子との相互作用についてCD3と競合する。競合の結果として引き起こされる蛍光の減少を定量し、それによって相対的な結合活性を決定することができる。スルホ-NHS-ビオチンなどを用いたポリペプチドのビオチン化は、当技術分野において公知である。例えば、CD3をコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドとをインフレームで融合すること;および、結果として生じた融合遺伝子を、その発現が可能なベクターを保有する細胞などによって発現させ、その後グルタチオンカラムを用いて精製することを含む、適宜採用される方法によって、CD3をGSTでタグ付けすることができる。得られたシグナルは、好ましくは、例えば、非線形回帰解析に基づく一部位競合モデルに適合したソフトウェアGRAPHPAD PRISM(GraphPad Software, Inc., San Diego)を用いて解析される。
【0122】
タグ付けは、GSTタグ付けに限定されず、ヒスチジンタグ、MBP、CBP、Flagタグ、HAタグ、V5タグ、c-mycタグなどであるがそれらに限定されない、任意のタグで実施されてもよい。被験抗原結合分子のドナービーズへの結合は、ビオチン-ストレプトアビジン反応を用いた結合に限定されない。特に、被験抗原結合分子がFcを含む場合、可能な方法には、ドナービーズ上のプロテインAまたはプロテインGなどのFc認識タンパク質を介して被験抗原結合分子を結合させることが含まれる。
【0123】
また、CD3およびCD137が、可溶性タンパク質のように細胞膜上に発現していない時、または両方が同じ細胞上に存在する時には、可変領域が、CD3とCD137に同時に結合することができるが、各々が異なる細胞上で発現しているCD3とCD137に同時には結合することができない場合もまた、当技術分野において公知の方法によってアッセイすることができる。
【0124】
具体的には、CD3およびCD137に対する同時の結合を検出するためのECL-ELISAにおいて陽性であると確認されている被験抗原結合分子をまた、CD3を発現する細胞およびCD137を発現する細胞と混合する。被験抗原結合分子は、抗原結合分子およびこれらの細胞が互いに同時に結合しない限り、異なる細胞上で発現しているCD3とCD137に同時には結合することができないことが示され得る。このアッセイは、例えば、細胞ベースのECL-ELISAによって実施することができる。CD3を発現する細胞を、予めプレート上に固定化する。被験抗原結合分子をそれに結合させた後に、CD137を発現する細胞をプレートに添加する。CD137を発現する細胞上でのみ発現している異なる抗原は、この抗原に対するsulfo-tagで標識された抗体を用いて検出される。抗原結合分子が、それぞれ2つの細胞上で発現している2つの抗原に同時に結合する場合は、シグナルが観察される。抗原結合分子がこれらの抗原に同時には結合しない場合は、いかなるシグナルも観察されない。
【0125】
あるいは、このアッセイは、ALPHAScreen法によって実施されてもよい。被験抗原結合分子を、ドナービーズに結合したCD3を発現する細胞およびアクセプタービーズに結合したCD137を発現する細胞と混合する。抗原結合分子が、それぞれ2つの細胞上で発現している2つの抗原に同時に結合する場合は、シグナルが観察される。抗原結合分子がこれらの抗原に同時には結合しない場合は、シグナルは観察されない。
【0126】
あるいは、このアッセイは、Octet相互作用解析法によって実施されてもよい。最初に、ペプチドタグを付加したCD3を発現する細胞を、ペプチドタグを認識するバイオセンサーに結合させる。CD137を発現する細胞および被験抗原結合分子を、ウェルに入れて、相互作用について解析する。抗原結合分子が、それぞれ2つの細胞上で発現している2つの抗原に同時に結合する場合は、被験抗原結合分子およびCD137を発現する細胞のバイオセンサーへの結合によって引き起こされる大きな波長シフトが観察される。抗原結合分子がこれらの抗原に同時には結合しない場合は、被験抗原結合分子のみのバイオセンサーへの結合によって引き起こされる小さな波長シフトが観察される。
【0127】
結合活性に基づくこれらの方法の代わりに、生物活性に基づくアッセイが実施されてもよい。例えば、CD3を発現する細胞およびCD137を発現する細胞を、被験抗原結合分子と混合して培養する。それぞれ2つの細胞上で発現している2つの抗原は、抗原結合分子がこれらの2つの抗原に同時に結合する場合は、被験抗原結合分子を介して相互に活性化される。そのため、抗原のそれぞれの下流のリン酸化レベルの増加などの活性化シグナルの変化を、検出することができる。あるいは、サイトカインの産生が、活性化の結果として誘導される。そのため、産生されるサイトカインの量を測定し、それによって、2つの細胞に同時に結合するか否かを確認することができる。あるいは、CD137を発現する細胞に対する細胞傷害活性が、活性化の結果として誘導される。あるいは、レポーター遺伝子の発現が、活性化の結果として、CD137またはCD3のシグナル伝達経路の下流で活性化されるプロモーターによって誘導される。そのため、細胞傷害活性または産生されるレポータータンパク質の量を測定し、それによって、2つの細胞に同時に結合するか否かを確認することができる。
【0128】
少なくとも1つのジスルフィド結合
本発明の1つの局面において、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれは、好ましくはCH1領域において、(変異、置換、または挿入を介して)少なくとも1つのシステイン残基を含み、該少なくとも1つのシステイン残基は、第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分との間に少なくとも1つのジスルフィド結合を形成することができる。ある特定の態様において、システイン残基は、抗体重鎖定常領域のCH1領域内に存在し、例えば、CH1領域中のEUナンバリングによる119位、122位、123位、131位、132位、133位、134位、135位、136位、137位、139位、140位、148位、150位、155位、156位、157位、159位、160位、161位、162位、163位、165位、167位、174位、176位、177位、178位、190位、191位、192位、194位、195位、197位、213位、および214位からなる群より選択される位置に存在する。1つの態様において、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分のそれぞれは、第1の抗原結合部分のCH1領域と第2の抗原結合部分のCH1領域との間に1つのジスルフィド結合を形成することができる、CH1領域中のEUナンバリングによる191位に(変異、置換、または挿入を介して)1個のシステイン残基を含む。
【0129】
上記局面のある態様において、形成される「少なくとも1つの結合」は、上記に記載される第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分を連結し、2つの抗原結合部分(すなわち、上記に記載されるような第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分)を空間的に近い位置に保持することができる。ジスルフィド結合を介する第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分との間の連結のために、本発明の抗原結合分子は、2つの抗原結合部分間に導入された追加の結合を有さないという点でのみ本発明の抗原結合分子と相違する対照抗原結合分子より近い位置で、2つの抗原結合部分を保持することができる。いくつかの態様において、用語「空間的に近い位置」または「より近い位置」は、上記に記載される第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインが短縮された距離および/または低い可動性で保持されるという意味を含む。
【0130】
結果として、本発明の抗原結合分子の2つの抗原結合部分(すなわち、上記に記載されるような第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分)は、同じ単一の細胞上に発現している抗原に結合する。換言すると、本発明の抗原結合分子の2つの抗原結合部分(すなわち、上記に記載されるような第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分)の各々は、異なる細胞の架橋をもたらすような、異なる細胞上に発現している抗原には結合しない。本出願において、本発明の抗原結合分子のそのような抗原結合様式は「シス結合」と呼ぶことができるのに対して、抗原結合分子の2つの抗原結合部分の各々が、異なる細胞の架橋をもたらすように異なる細胞上に発現している抗原に結合する、抗原結合分子の抗原結合様式は、「トランス結合」と呼ぶことができる。いくつかの態様において、本発明の抗原結合分子は主に、「シス結合」様式で同じ単一の細胞上に発現している抗原に結合する。
【0131】
上記局面のある態様において、上記に記載されているようなジスルフィド結合を介する第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分との間のジスルフィド結合のために、本発明の抗原結合分子は、免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞、またはDC細胞等)の望ましくない架橋形成および活性化を低下させるおよび/または妨げることができる。すなわち、本発明のいくつかの態様において、本発明の抗原結合分子の第1の抗原結合部分は、T細胞などの免疫細胞上に発現している任意のシグナル伝達分子(例えば、第1の抗原)に結合し、本発明の抗原結合分子の第2の抗原結合ドメインもまた、T細胞などの免疫細胞上に発現している任意のシグナル伝達分子(例えば、第1の抗原、または第1の抗原とは異なる第2の抗原)に結合する。したがって、本発明の抗原結合分子の第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインは、同じ単一の免疫細胞、例えばT細胞などの上(すなわち、シス結合様式)に、または異なる免疫細胞、例えばT細胞などの上(すなわち、トランス結合様式)に発現している第1のまたは第2のシグナル伝達分子のいずれかに結合することができる。第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインが、トランス結合様式で異なる免疫細胞、例えばT細胞上に発現しているシグナル伝達分子に結合する場合、それらの異なる免疫細胞、例えばT細胞は架橋され、ある特定の状況において、T細胞などの免疫細胞のそのような架橋形成は、T細胞などの免疫細胞の望ましくない活性化を引き起こし得る。
【0132】
一方、本発明の抗原結合分子、すなわち、CH1領域中(EUナンバリングによる191位)の少なくとも1つのジスルフィド結合を介して相互に連結される第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分を含む抗原結合分子の別の態様の場合、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分はどちらも、抗原結合分子を介する異なる免疫細胞、例えばT細胞の架橋形成が低減し、免疫細胞の望ましくない活性化を回避できるように、同じ単一の免疫細胞、例えばT細胞上に発現しているシグナル伝達分子に「シス結合」様式で結合することができる。
【0133】
本出願において、上記の特徴、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分を連結するCH1領域中(例えば、EUナンバリングによる191位)の少なくとも1つのジスルフィド結合は、略語「LINC」で記載され得る。この略語を用いると、いくつかの態様において、該少なくとも1つのジスルフィド結合を有する本発明の上記の抗原結合分子は、例えば、「LINCフォーマット」、「Dual/LINC」または「DLL3-Dual/LINC」等として表示され得る。同様に、CH1領域中(例えば、EUナンバリングによる191位)の少なくとも1つのジスルフィド結合を介して相互に連結されない/まだ連結されていない第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分の抗原結合分子は、略語「UnLINC」で記載され得る。
【0134】
Fab分子
「Fab分子」は、免疫グロブリンの重鎖のVHおよびCH1ドメイン(「Fab重鎖」)ならびに軽鎖のVLおよびCLドメイン(「Fab軽鎖」)からなるタンパク質を指す。
【0135】
融合される
「融合される」は、構成成分(例えば、Fab分子およびFcドメインサブユニット)が、直接的に、または1つもしくは複数のペプチドリンカーを介して、ペプチド結合によって連結されることを意味する。
【0136】
「クロスオーバー」Fab
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも呼ばれる)は、Fab重鎖およびFab軽鎖の可変領域または定常領域のいずれかが交換されている、Fab分子を意味し、すなわち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変領域および重鎖定常領域で構成されたペプチド鎖と、重鎖可変領域および軽鎖定常領域で構成されたペプチド鎖とを含む。明確にするために記すと、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子では、重鎖定常領域を含むペプチド鎖が、本明細書において、クロスオーバーFab分子の「重鎖」と称される。反対に、Fab軽鎖およびFab重鎖の定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子では、重鎖可変領域を含むペプチド鎖が、本明細書において、クロスオーバーFab分子の「重鎖」と称される。
【0137】
「従来型の」Fab
それに対して、「従来型の」Fab分子は、その天然のフォーマットでのFab分子、すなわち、重鎖の可変領域および定常領域で構成された重鎖(VH-CH1)、ならびに軽鎖の可変領域および定常領域で構成された軽鎖(VL-CL)を含むFab分子を意味する。用語「免疫グロブリン分子」は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合で結合された2つの軽鎖および2つの重鎖で構成された、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各重鎖は、N末端からC末端へ、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)と、その後に続く重鎖定常領域とも呼ばれる3種類の定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)とを有する。同様に、各軽鎖は、N末端からC末端へ、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)と、その後に続く軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインとを有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、またはμ(IgM)と呼ばれる5つのタイプのうちの1つに割り当てられてもよく、それらの一部は、サブタイプ、例えば、γ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)、およびα2(IgA2)にさらに分類されてもよい。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパおよびラムダと呼ばれる2つのタイプのうちの1つに割り当てられもよい。免疫グロブリンは、免疫グロブリンヒンジ領域を介して連結された、2つのFab分子およびFcドメインから本質的になる。
【0138】
親和性
「親和性」は、分子(例えば、抗原結合分子または抗体)の結合部位1個と、分子の結合パートナー(例えば、抗原)との間の、非共有結合的な相互作用の合計の強度を指す。別段示さない限り、本明細書で用いられる「結合親和性」は、ある結合対のメンバー(例えば、抗原結合分子と抗原、または抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映する、固有の結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、一般的に、解離速度定数と会合速度定数(それぞれkoffおよびkon)との比である、解離定数(KD)により表すことができる。したがって、速度定数の比が同じままである限り、等価の親和性は異なる速度定数を含んでもよい。親和性は、本明細書に記載のものを含む、当技術分野において公知の確立した方法によって測定することができる。親和性を測定するための具体的な方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0139】
親和性を決定する方法
特定の態様において、本明細書で提供される抗原結合分子または抗体は、その抗原に対して、1μM以下、120nM以下、100nM以下、80nM以下、70nM以下、50nM以下、40nM以下、30nM以下、20nM以下、10nM以下、2nM以下、1nM以下、0.1nM以下、0.01nM以下または0.001nM以下(例えば、10-8M以下、10-8M~10-13M、10-9M~10-13M)の解離定数 (KD) を有する。特定の態様において、CD3、CD137、またはDLL3に対する、抗体/抗原結合分子のKD値は、1~40、1~50、1~70、1~80、30~50、30~70、30~80、40~70、40~80、または60~80nMの範囲内に入る。
【0140】
1つの態様において、KDは、放射性標識抗原結合測定法 (radiolabeled antigen binding assay: RIA) によって測定される。1つの態様において、RIAは、目的の抗体のFabバージョンおよびその抗原を用いて実施される。例えば、抗原に対するFabの溶液中結合親和性は、非標識抗原の漸増量系列の存在下で最小濃度の (125I) 標識抗原によりFabを平衡化させ、次いで結合した抗原を抗Fab抗体でコーティングされたプレートにより捕捉することによって測定される。(例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999) を参照のこと)。測定条件を構築するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート (Thermo Scientific) を50mM炭酸ナトリウム (pH9.6) 中5μg/mlの捕捉用抗Fab抗体 (Cappel Labs) で一晩コーティングし、その後に室温(およそ23℃)で2~5時間、PBS中2% (w/v) ウシ血清アルブミンでブロックする。非吸着プレート (Nunc #269620) において、100 pMまたは26 pMの [125I]-抗原を、(例えば、Presta et al., Cancer Res. 57:4593-4599 (1997) における抗VEGF抗体、Fab-12の評価と同じように)目的のFabの段階希釈物と混合する。次いで、目的のFabを一晩インキュベートするが、このインキュベーションは、平衡が確実に達成されるよう、より長時間(例えば、約65時間)継続され得る。その後、混合物を、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移す。次いで溶液を除去し、プレートをPBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20(商標)、Packard)を添加し、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンター (Packard) においてプレートを10分間カウントする。最大結合の20%以下を与える各Fabの濃度を、競合結合アッセイにおいて使用するために選択する。
【0141】
別の態様によれば、Kdは、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000 (BIAcore, Inc., Piscataway, NJ) を用いる測定法が、およそ10反応単位 (response unit: RU) の抗原が固定されたCM5チップを用いて25℃で実施される。1つの態様において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ (CM5、BIACORE, Inc.) は、供給元の指示に従いN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロリド (EDC) およびN-ヒドロキシスクシンイミド (NHS) を用いて活性化される。抗原は、およそ10反応単位 (RU) のタンパク質の結合を達成するよう、5μl/分の流速で注入される前に、10mM酢酸ナトリウム、pH4.8を用いて5μg/ml(およそ0.2μM)に希釈される。抗原の注入後、未反応基をブロックするために1Mエタノールアミンが注入される。キネティクスの測定のために、25℃、およそ25μl/分の流速で、0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤含有PBS (PBST) 中のFabの2倍段階希釈物 (0.78nM~500nM) が注入される。会合速度 (kon) および解離速度 (koff) は、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を用いて、会合および解離のセンサーグラムを同時にフィッティングすることによって計算される。平衡解離定数 (Kd) は、koff/kon比として計算される。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999) を参照のこと。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによってオン速度が106M-1s-1を超える場合、オン速度は、分光計(例えばストップフロー式分光光度計 (Aviv Instruments) または撹拌キュベットを用いる8000シリーズのSLM-AMINCO(商標)分光光度計 (ThermoSpectronic))において測定される、漸増濃度の抗原の存在下でのPBS、pH7.2中20nMの抗抗原抗体(Fab形態)の25℃での蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、バンドパス16nm)の増加または減少を測定する蛍光消光技術を用いることによって決定され得る。
【0142】
抗原結合分子または抗体の親和性を測定する上記の方法に従って、当業者は、様々な抗原に対する他の抗原結合分子または抗体の親和性測定を行うことができる。
【0143】
抗体
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限りは、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
【0144】
抗体断片
「抗体断片」は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子を指す。抗体断片の例は、これらに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab’-SH、F(ab')2、ダイアボディ、線状抗体、単鎖抗体分子(例えば、scFv)、およびシングルドメイン抗体を含む。特定の抗体断片についての総説として、Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003) を参照のこと。scFv断片の総説として、例えば、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp.269-315 (1994);加えて、WO93/16185;ならびに米国特許第5,571,894号および第5,587,458号を参照のこと。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含みin vivoにおける半減期の長くなったFabおよびF(ab')2断片についての論説として、米国特許第5,869,046号を参照のこと。ダイアボディは、二価または二重特異的であってよい、抗原結合部位を2つ伴う抗体断片である。例えば、EP404,097; WO1993/01161; Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003); およびHollinger et al., Proc Natl Acad Sci USA 90, 6444-6448 (1993) 参照。トリアボディ (triabody) やテトラボディ (tetrabody) も、Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003) に記載されている。シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分、または軽鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分を含む、抗体断片である。特定の態様において、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6,248,516号B1参照)。抗体断片は、これらに限定されるものではないが、本明細書に記載の、完全抗体のタンパク質分解的消化、組換え宿主細胞(例えば、大腸菌またはファージ)による産生を含む、種々の手法により作ることができる。
【0145】
抗体のクラス
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプを指す。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。そして、このうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
【0146】
別段示さない限り、軽鎖定常領域中のアミノ酸残基は、本明細書ではKabatらに従ってナンバリングされ、重鎖定常領域中のアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されているような、EUインデックスとも呼ばれる、EUナンバリングシステムに従う。
【0147】
フレームワーク
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域 (HVR) 残基以外の、可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、HVRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0148】
ヒトコンセンサスフレームワーク
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択群において最も共通して生じるアミノ酸残基を示すフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。通常、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3におけるサブグループである。1つの態様において、VLについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループκIである。1つの態様において、VHについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループIIIである。
【0149】
キメラ抗体
用語「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体を指す。同様に、用語「キメラ抗体可変ドメイン」は、重鎖および/または軽鎖可変領域の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖可変領域の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体可変領域を指す。
【0150】
ヒト化抗体
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む、キメラ抗体を指す。ある態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、当該可変領域においては、すべてのもしくは実質的にすべてのHVR(例えばCDR)は非ヒト抗体のものに対応し、かつ、すべてのもしくは実質的にすべてのFRはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化された形態」は、ヒト化を経た抗体を指す。「ヒト化抗体可変領域」は、ヒト化抗体の可変領域を指す。
【0151】
ヒト抗体
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生された抗体またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を備える抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒトの抗原結合残基を含むヒト化抗体を、明確に除外するものである。「ヒト抗体可変領域」は、ヒト抗体の可変領域を指す。
【0152】
ポリヌクレオチド(核酸)
本明細書で相互に交換可能に使用される「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを指し、DNAおよびRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、および/またはそれらのアナログ、またはDNAもしくはRNAポリメラーゼによってまたは合成反応によってポリマーに組み込まれ得る任意の物質であり得る。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびそれらのアナログなどの修飾ヌクレオチドを含み得る。ヌクレオチドの配列に、非ヌクレオチド成分が割り込んでいてもよい。ポリヌクレオチドは、標識へのコンジュゲーションなどの、合成後になされる修飾を含み得る。他のタイプの修飾は、例えば、「キャップ」、1つまたは複数の天然に存在するヌクレオチドとアナログとの置換、ヌクレオチド間修飾、例えば、非荷電連結(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミド酸、カルバメート等)および荷電連結(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)を伴うもの、例えばタンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジン等)などのペンダント部分を含むもの、インターカレート剤(例えば、アクリジン、ソラレン等)を伴うもの、キレート剤(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属等)を含むもの、アルキル化剤を含むもの、修飾連結(例えば、アルファアノマー核酸等)や非修飾形態のポリヌクレオチドを伴うものを含む。さらに、通常糖に存在する任意のヒドロキシル基は、例えば、ホスホネート基、ホスフェート基によって置き換えられ得、標準的な保護基によって保護され得、もしくはさらなるヌクレオチドへのさらなる連結を生成するよう活性化され得、または固体もしくは半固体支持体にコンジュゲートされ得る。5’および3’末端のOHは、リン酸化またはアミンもしくは1~20炭素原子の有機キャップ基部分で置換され得る。他のヒドロキシルもまた、標準的な保護基に誘導体化され得る。ポリヌクレオチドはまた、例えば以下のものを含む、当技術分野で一般に公知となっているリボースまたはデオキシリボース糖の類似形態を含み得る:2'-O-メチル-、2'-O-アリル-、2'-フルオロ-、または2'-アジド-リボース、炭素環式糖アナログ、α-アノマー糖、アラビノースまたはキシロースまたはリキソースなどのエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式アナログ、およびメチルリボシドなどの塩基性ヌクレオシドアナログ。1つまたは複数のホスホジエステル結合は、代替の連結基によって置き換えられ得る。これらの代替の連結基は、これらに限定されるものではないが、ホスフェートが以下のものによって置き換えられている態様を含む:P(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR'、CO、またはCH2(「ホルムアセタール」)、ここで、各RまたはR'は独立してH、または、任意でエーテル(-O-)連結、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、もしくはアラルジルを含む置換もしくは非置換アルキル(1~20C)である。ポリヌクレオチド中のすべての連結が同一である必要はない。上記の説明は、RNAおよびDNAを含む本明細書で言及されるすべてのポリヌクレオチドに適用される。
【0153】
単離された(核酸)
「単離された」核酸分子は、そのもともとの環境の成分から分離されたものを指す。単離された核酸分子はさらに、その核酸分子を通常含む細胞の中に含まれた核酸分子を含むが、その核酸分子は染色体外に存在しているかまたは本来の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在している。
【0154】
ベクター
本明細書で用いられる用語「ベクター」は、それが連結されたもう1つの核酸を増やすことができる、核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、および、それが導入された宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。あるベクターは、自身が動作的に連結された核酸の、発現をもたらすことができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」とも称される。ベクターは、ウイルスまたはエレクトロポレーションを用いて宿主細胞に導入することができる。しかしながら、ベクターの導入は、in vitroでの方法に限定されない。例えば、ベクターは、in vivoでの方法を用いて対象に直接導入することもできる。
【0155】
本発明の別の局面において、本開示の、CD3およびCD137に結合できるが同時には結合しない抗原結合部分、DLL3に結合できる抗原結合部分、抗原結合分子、または抗体をコードする核酸分子を含むベクターは、本開示の抗原結合部分、抗原結合分子、または抗体を対象内で直接的に発現するように、対象に導入され得る。用いられる可能性があるベクターの例は、これらに限定されないが、アデノウイルスである。本開示の抗原結合部分、抗原結合分子、または抗体をコードする核酸分子を対象に直接的に投与すること、または本開示の抗原結合部分、抗原結合分子、または抗体をコードする核酸分子をエレクトロポレーションを介して対象に移入すること、または発現および分泌させるべき本開示の抗原結合部分、抗原結合分子、または抗体をコードする核酸分子を含む細胞を対象に投与し、対象において本開示の抗原結合部分、抗原結合分子、または抗体を連続的に発現および分泌させることもまた可能である。
【0156】
宿主細胞
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」は、相互に交換可能に用いられ、外来核酸を導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)を指す。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換細胞」を含み、これには初代の形質転換細胞および継代数によらずその細胞に由来する子孫を含む。子孫は、親細胞と核酸の内容において完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。オリジナルの形質転換細胞がスクリーニングされたまたは選択された際に用いられたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫も、本明細書では含まれる。
【0157】
特異性
「特異的」とは、1つまたは複数の結合パートナーに特異的に結合する分子が、該パートナー以外の分子に対して何ら有意な結合を示さないことを意味する。さらに、「特異的」はまた、抗原結合部位が、抗原中に含まれる複数のエピトープのうちの特定のエピトープに特異的である場合にも用いられる。抗原結合分子が抗原に特異的に結合する場合、それは「抗原結合分子が、抗原に/抗原に対して特異性を有する/示す」とも記載される。抗原結合部位が結合するエピトープが複数の異なる抗原中に含まれる場合、該抗原結合部位を含む抗原結合分子は、該エピトープを有する様々な抗原に結合し得る。
【0158】
抗体断片
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合する、インタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、これらに限定されないが、Fv、Fab、Fab'、Fab’-SH、F(ab')2;ダイアボディ;線状抗体(linear antibody);単鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。
【0159】
用語「全長抗体」、「インタクトな抗体」、および「全抗体(whole antibody)」は、天然型の抗体構造に実質的に類似している構造を有するか、または本明細書において定義されるようなFc領域を含有する重鎖を有する抗体を指すために、本明細書において互換的に用いられる。
【0160】
可変断片(Fv)
本明細書において、用語「可変断片(Fv)」は、抗体の軽鎖可変領域(VL)と抗体の重鎖可変領域(VH)とのペアから構成される抗体由来の抗原結合部位の最小単位を指す。1988年にSkerraとPluckthunは、細菌のシグナル配列の下流に抗体遺伝子を挿入し大腸菌中で当該遺伝子の発現を誘導することによって、均一でかつ活性な抗体が大腸菌のペリプラズム画分から調製され得ることを見出した(Science (1988) 240 (4855), 1038-1041)。ペリプラズム画分から調製されたFvにおいては、抗原に結合するような様式でVHとVLが会合している。
【0161】
scFv、単鎖抗体、およびsc(Fv)
2
本明細書において、用語「scFv」、「単鎖抗体」、および「sc(Fv)2」はいずれも、重鎖および軽鎖に由来する可変領域を含むが、定常領域を含まない、単一ポリペプチド鎖の抗体断片を指す。一般に、単鎖抗体は、抗原結合を可能にすると思われる所望の構造の形成を可能にする、VHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。単鎖抗体は、「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore, eds., Springer-Verlag, New York, 269-315 (1994)」においてPluckthunによって詳細に考察されている。同様に、国際公開公報WO1988/001649、米国特許第4,946,778号および同第5,260,203号を参照のこと。特定の態様において、単鎖抗体は、二重特異性でありかつ/またはヒト化され得る。
【0162】
scFvはFvを形成するVHとVLとがペプチドリンカーによって共に連結された単鎖低分子量抗体である(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85 (16), 5879-5883)。当該ペプチドリンカーによってVHとVLとが近接した状態に保持され得る。
【0163】
sc(Fv)2は、2つのVLと2つのVHの4つの可変領域がペプチドリンカー等のリンカーによって連結され一本鎖を形成する単鎖抗体である(J Immunol. Methods (1999) 231 (1-2), 177-189)。この2つのVHと2つのVLは異なるモノクローナル抗体に由来してもよい。そのようなsc(Fv)2としては、例えば、Journal of Immunology (1994) 152 (11), 5368-5374に開示されるような、単一抗原中に存在する2つのエピトープを認識する二重特異性sc(Fv)2が好適に挙げられる。sc(Fv)2は、当業者に公知の方法によって製造され得る。例えば、sc(Fv)2は、scFvをペプチドリンカー等のリンカーで連結することによって製造され得る。
【0164】
本明細書において、sc(Fv)2は、一本鎖ポリペプチドのN末端を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL])の順に並んでいる2つのVH単位および2つのVL単位を含む。2つのVH単位と2つのVL単位の順序は上記の構成に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。構成の例を以下に列挙する。
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]
[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]
[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
【0165】
sc(Fv)2の分子形態についてはWO2006/132352においても詳細に記載されている。当業者であればこれらの記載に従って、本明細書で開示されるポリペプチド複合体を製造するために所望のsc(Fv)2を適宜調製することが可能である。
【0166】
さらに本開示の抗原結合分子または抗体に、PEG等の担体高分子や抗がん剤等の有機化合物をコンジュゲートしてもよい。あるいは、糖鎖が所望の効果をもたらすように、糖鎖付加配列が抗原結合分子または抗体に好適に挿入される。
【0167】
抗体の可変領域の連結に使用するリンカーは、遺伝子工学により導入され得る任意のペプチドリンカー、合成リンカー、および例えばProtein Engineering, 9 (3), 299-305, 1996に開示されるリンカーを含む。しかしながら、本開示においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能である。長さは、好ましくは5アミノ酸以上(特に限定されないが、上限は通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。sc(Fv)2に3つのペプチドリンカーが含まれる場合には、それらの長さはすべて同じであってもよいし異なってもよい。
【0168】
例えば、そのようなペプチドリンカーには以下のものが含まれる:
Ser、
Gly-Ser、
Gly-Gly-Ser、
Ser-Gly-Gly、
Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:91)、
Ser-Gly-Gly-Gly(配列番号:92)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:93)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:94)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:95)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:96)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:97)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:98)、
(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:93))n、および
(Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:94))n。
ここでnは1以上の整数である。ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0169】
合成リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられており、例としては、
N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、
ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、
ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、
ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、
ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、
エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、
エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ-EGS)、
ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ-DST)、
ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、および
ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)
が挙げられる。これらの架橋剤は市販されている。
【0170】
4つの抗体可変領域を連結するには、通常、3つのリンカーが必要となる。用いられるリンカーは、同じ種類のものであっても異なる種類のものであってもよい。
【0171】
Fab、F(ab')
2
、およびFab'
「Fab」は、1本の軽鎖、ならびに1本の重鎖のCH1ドメインおよび可変領域からなる。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成できない。
【0172】
「F(ab')2」または「Fab」は、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)をペプシンおよびパパイン等のプロテアーゼで処理することにより製造され、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)を2本の各H鎖のヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の近くで消化することによって生成される抗体断片を指す。例えばパパインは、IgGを、2本の各H鎖のヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の上流で切断し、VL(L鎖可変領域)およびCL(L鎖定常領域)を含むL鎖がVH(H鎖可変領域)およびCHγ1(H鎖定常領域中のγ1領域)を含むH鎖断片とそれらのC末端領域でジスルフィド結合により連結されている、相同な2つの抗体断片を生成する。これら2つの相同な抗体断片はそれぞれFab'と呼ばれる。
【0173】
「F(ab')2」は、2本の軽鎖、ならびにジスルフィド結合が2本の重鎖間で形成されるようにCH1ドメインおよびCH2ドメインの一部分の定常領域を含む2本の重鎖からなる。本明細書において開示されるF(ab')2は、次のように好適に製造され得る。所望の抗原結合部位を含むモノクローナル全部抗体等を、ペプシン等のプロテアーゼで部分消化し、Fc断片をプロテインAカラムに吸着させることにより除去する。プロテアーゼは、pH等の適切な設定酵素反応条件下で選択的にF(ab')2をもたらすように全部抗体を切断し得るものである限り、特に限定はされない。例えば、そのようなプロテアーゼにはペプシンおよびフィシンが含まれる。
【0174】
シングルドメイン抗体
本明細書において、用語「シングルドメイン抗体」は、該ドメインがそれ単独で抗原結合活性を発揮できる限りは、その構造によって限定されない。一般的な抗体、例えば、IgG抗体は、可変領域がVHおよびVLのペアリングによって形成されている状態で抗原結合活性を示すのに対して、シングルドメイン抗体のそれ自体のドメイン構造は、別のドメインとのペアリングなしにそれ単独で抗原結合活性を発揮できることが公知である。通常、シングルドメイン抗体は、比較的低い分子量を有し、単量体の形態で存在する。
【0175】
シングルドメイン抗体の例としては、これらに限定されないが、軽鎖を生来欠いているラクダ科の動物のVHHおよびサメVNARなどの抗原結合分子、および抗体VHドメインの全体もしくは一部または抗体VLドメインの全体もしくは一部を含有する抗体断片が挙げられる。抗体VHドメインまたは抗体VLドメインの全体または一部を含有する抗体断片であるシングルドメイン抗体の例としては、これらに限定されないが、米国特許第6,248,516号B1などに記載されているようなヒト抗体VHまたはヒト抗体VLを起源とする、人工的に調製したシングルドメイン抗体が挙げられる。本発明のいくつかの態様において、1つのシングルドメイン抗体は、3種類のCDR(CDR1、CDR2、およびCDR3)を有する。
【0176】
シングルドメイン抗体は、シングルドメイン抗体を産生できる動物から、またはシングルドメイン抗体を産生できる動物の免疫化によって、得ることができる。シングルドメイン抗体を産生できる動物の例としては、これらに限定されないが、ラクダ科の動物、およびシングルドメイン抗体を生じさせることができる遺伝子を保有するトランスジェニック動物が挙げられる。ラクダ科の動物には、ラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、およびグアナコ等が含まれる。シングルドメイン抗体を生じさせることができる遺伝子を保有するトランスジェニック動物の例としては、これらに限定されないが、国際公開公報番号WO2015/143414および米国特許公報番号US2011/0123527 A1に記載のトランスジェニック動物が挙げられる。該動物から得られたシングルドメイン抗体のフレームワーク配列は、ヒト化シングルドメイン抗体を得るために、ヒト生殖系列配列またはそれに類似する配列に変換されてもよい。ヒト化シングルドメイン抗体(例えば、ヒト化VHH)もまた、本発明のシングルドメイン抗体の一態様である。
【0177】
あるいは、シングルドメイン抗体は、シングルドメイン抗体を含有するポリペプチドライブラリからELISAまたはパニング等によって得ることができる。シングルドメイン抗体を含有するポリペプチドライブラリの例としては、これらに限定されないが、種々の動物またはヒトから得られたナイーブ抗体ライブラリ(例えば、Methods in Molecular Biology 2012 911 (65-78);およびBiochimica et Biophysica Acta - Proteins and Proteomics 2006 1764: 8 (1307-1319))、種々の動物の免疫化によって得られた抗体ライブラリ(例えば、Journal of Applied Microbiology 2014 117: 2 (528-536))、および種々の動物またはヒトの抗体遺伝子から調製した合成抗体ライブラリ(例えば、Journal of Biomolecular Screening 2016 21: 1 (35-43); Journal of Biological Chemistry 2016 291:24 (12641-12657);およびAIDS 2016 30: 11 (1691-1701))が挙げられる。
Fc領域
本発明において、用語「Fc領域」または「Fcドメイン」は、抗体分子中の、ヒンジまたはその一部、ならびにCH2およびCH3ドメインからなる断片を含む領域を指す。IgGクラスのFc領域は、例えば、システイン226(EU ナンバリング(本明細書においてEUインデックスとも称される))からC末端まで、またはプロリン230(EUナンバリング)からC末端までの領域を意味するが、それに限定されない。Fc領域は、好ましくは、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体を、ペプシンなどのタンパク質分解酵素で部分消化した後に、プロテインAカラムまたはプロテインGカラムに吸着された画分を再溶出することによって取得することができる。そのようなタンパク質分解酵素は、適宜設定される酵素の反応条件(例えば、pH)の下で制限的にFabまたはF(ab')2を形成するように全長抗体を消化することができる限り、特に限定されない。その例には、ペプシンおよびパパインが含まれ得る。
【0178】
本発明において、例えば、天然型IgGに由来するFc領域を、本発明の「Fc領域」として用いることができる。ここで、天然型IgGとは、天然に見出されるIgGと同一のアミノ酸配列を含有し、免疫グロブリンγ遺伝子により実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。天然型ヒトIgGとは、例えば、天然型ヒトIgG1、天然型ヒトIgG2、天然型ヒトIgG3、または天然型ヒトIgG4を意味する。天然型IgGにはまた、自然発生的にそれに由来するバリアントなども含まれる。遺伝子多型に基づく複数のアロタイプ配列が、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4抗体の定常領域としてSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されており、それらはいずれも、本発明において用いることができる。特に、ヒトIgG1の配列は、EUナンバリング356~358位のアミノ酸配列として、DELまたはEEMを有してもよい。
【0179】
いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含むポリペプチド鎖の対からなる。例えば、免疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは、その各サブユニットがCH2およびCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む、二量体である。Fcドメインの2つのサブユニットは、相互に安定的に会合することができる。1つの態様において、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、1つ以下のFcドメインを含む。
【0180】
本明細書において記載される1つの態様において、多重特異性抗原結合分子のFcドメインはIgG Fcドメインである。別の態様において、FcドメインはIgG1 Fcドメインである。さらなる特定の態様において、FcドメインはヒトIgG1 Fc領域である。
【0181】
ある特定の態様において、多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、安定な会合が可能な第1のおよび第2のFc領域サブユニットで構成され、かつFcドメインは、天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcγ受容体に対して低下した結合アフィニティを示す。
【0182】
ある特定の態様において、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、Fcドメインの第1のおよび第2のサブユニットの会合を促進する改変を含む。特定の態様において、該改変は、Fcドメインの2つのサブユニットの一方に「ノブ(knob)」改変およびFcドメインの2つのサブユニットのもう一方に「ホール(hole)」改変を含む、いわゆる「knob-into-hole」改変であり、以下においてより詳細に記載される。
【0183】
特定の態様において、安定な会合が可能な第1のおよび第2のFc領域サブユニットで構成され、かつ天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較してヒトFcγ受容体に対して低下した結合アフィニティを示す、Fcドメインにおいて、第1のFc領域サブユニットは、以下:
(a1)変異L234A、L235Aを含むFc領域ポリペプチド;
(a2)変異L234A、L235A、N297Aを含むFc領域ポリペプチド;
(a3)変異L234A、L235A、N297A、S354C、T366Wを含むFc領域ポリペプチド
からなる群より選択され、かつ
第2のFc領域サブユニットは、以下:
(a4)変異L234A、L235Aを含むFc領域ポリペプチド;
(a5)変異L234A、L235A、N297Aを含むFc領域ポリペプチド;および
(a6)変異L234A、L235A、N297A、Y349C、T366S、L368A、Y407Vを含むFc領域ポリペプチド
からなる群より選択される(アミノ酸位置はEUインデックスナンバリングを用いてナンバリングされる)。
【0184】
ある特定の態様において、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、天然型 IgGのFc領域のものと比較して酸性pH条件(例えば、pH 5.8)下で増強されたFcRn結合活性を示す。そのようなFcドメインは、例えば、EUナンバリングによる、434位にAla;438位にGlu、Arg、Ser、またはLys;および440位にGlu、Asp、またはGlnを含む。いくつかの態様において、Fcドメインは、EUナンバリングによる、434位にAla;438位にArgまたはLys;および440位にGluまたはAspを含む。いくつかの態様において、Fcドメインは、EUナンバリングによる、428位にIleもしくはLeu;および/または 436位にIle、Leu、Val、Thr、もしくはPheをさらに含む。いくつかの態様において、Fcドメインは、EUナンバリングによる、以下:
(a)N434A/Q438R/S440E;
(b)N434A/Q438R/S440D;
(c)N434A/Q438K/S440E;
(d)N434A/Q438K/S440D;
(e)N434A/Y436T/Q438R/S440E;
(f)N434A/Y436T/Q438R/S440D;
(g)N434A/Y436T/Q438K/S440E;
(h)N434A/Y436T/Q438K/S440D;
(i)N434A/Y436V/Q438R/S440E;
(j)N434A/Y436V/Q438R/S440D;
(k)N434A/Y436V/Q438K/S440E;
(l)N434A/Y436V/Q438K/S440D;
(m)N434A/R435H/F436T/Q438R/S440E;
(n)N434A/R435H/F436T/Q438R/S440D;
(o)N434A/R435H/F436T/Q438K/S440E;
(p)N434A/R435H/F436T/Q438K/S440D;
(q)N434A/R435H/F436V/Q438R/S440E;
(r)N434A/R435H/F436V/Q438R/S440D;
(s)N434A/R435H/F436V/Q438K/S440E;
(t)N434A/R435H/F436V/Q438K/S440D;
(u)M428L/N434A/Q438R/S440E;
(v)M428L/N434A/Q438R/S440D;
(w)M428L/N434A/Q438K/S440E;
(x)M428L/N434A/Q438K/S440D;
(y)M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;
(z)M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440D;
(aa)M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440E;
(ab)M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440D;
(ac)M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440E;
(ad)M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440D;
(ae)M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440E;
(af)M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440D;
(ag)L235R/G236R/S239K/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;および
(ah)L235R/G236R/A327G/A330S/P331S/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E
からなる群より選択されるアミノ酸置換の組み合わせを含む。
【0185】
いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、M428L/N434A/Q438R/S440Eのアミノ酸置換の組み合わせを含む。いくつかの態様において、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、好ましくはヒトIgG Fcドメイン、より好ましくはヒトIgG1 Fcドメインである。ある特定の態様において、多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、以下:(a)配列番号:100に示されるアミノ酸配列を含む第1のFcサブユニットおよび配列番号:111に示されるアミノ酸配列を含む第2のFcサブユニット;ならびに(b)配列番号:99に示されるアミノ酸配列を含む第1のFcサブユニットおよび配列番号:109に示されるアミノ酸配列を含む第2のFcサブユニットのいずれかを含む。
【0186】
低下したFcγ受容体結合活性を有するFc領域
本明細書において、「低下したFcγ受容体結合活性」は、例えば、上記の分析方法に基づき、試験抗原結合分子または抗体の競合活性が、対照抗原結合分子または抗体の競合活性と比べて50%以下、好ましくは 45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、20%以下、または15%以下、特に好ましくは 10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下であることを意味する。
【0187】
モノクローナルIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4抗体のFcドメインを含む抗原結合分子または抗体は、対照抗原結合分子または抗体として適切に用いることができる。Fcドメイン構造は、配列番号:85(AがRefSeqアクセッション番号 AAC82527.1のN末端に付加される)、配列番号:86(AがRefSeqアクセッション番号 AAB59393.1のN末端に付加される)、配列番号:87(AがRefSeqアクセッション番号 CAA27268.1のN末端に付加される)、および配列番号:88(AがRefSeqアクセッション番号 AAB59394.1のN末端に付加される)に示される。さらに、特定のアイソタイプの抗体のFcドメイン変異体を含む抗原結合分子または抗体が試験物質として用いられる場合、Fcγ受容体結合活性に対する変異体の変異の作用は、同じアイソタイプのFcドメインを含む抗原結合分子または抗体を対照として用いて評価される。上記に記載されるように、そのFcγ受容体結合活性が低下していると判断されているFcドメイン変異体を含む抗原結合分子または抗体が適切に調製される。
【0188】
そのような公知の変異体には、例えば、アミノ酸231A~238S(EUナンバリング)の欠失を有する変異体(WO 2009/011941)、ならびに変異体 C226S、C229S、P238S、(C220S)(J. Rheumatol (2007) 34, 11);C226SおよびC229S(Hum. Antibod. Hybridomas (1990) 1(1), 47-54);C226S、C229S、E233P、L234V、およびL235A(Blood (2007) 109, 1185-1192)が含まれる。
【0189】
具体的には、好ましい抗原結合分子または抗体には、特定のアイソタイプの抗体のFcドメインを形成するアミノ酸において、以下のアミノ酸位置:220位、226位、229位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、264位、265位、266位、267位、269位、270位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、325位、327位、328位、329位、330位、331位、または332位(EUナンバリング)から選択される少なくとも1つのアミノ酸の変異(例えば、置換)を有するFcドメインを含むものが含まれる。Fcドメインの起源である抗体のアイソタイプは、特に限定されず、モノクローナル IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4抗体に由来する適切なFcドメインを用いることが可能である。IgG1抗体に由来するFcドメインを用いることが好ましい。
【0190】
好ましい抗原結合分子または抗体には、例えば、その位置が、IgG1抗体のFcドメインを形成するアミノ酸におけるEUナンバリングにより指定されている(各数字がEUナンバリングでのアミノ酸残基の位置を表し;かつ数字の前にある1文字アミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基を表し、数字の後にある1文字アミノ酸記号が置換後のアミノ酸残基を表す)、以下に示す置換のいずれか1つ:
(a)L234F、L235E、P331S;
(b)C226S、C229S、P238S;
(c)C226S、C229S;または
(d)C226S、C229S、E233P、L234V、L235A
を有するFcドメインを含むもの、ならびに231位から238位にあるアミノ酸配列の欠失を有するFcドメインを有するものが含まれる。
【0191】
さらに、好ましい抗原結合分子または抗体には、その位置が、IgG2抗体のFcドメインを形成するアミノ酸におけるEUナンバリングにより指定されている、以下に示す置換のいずれか1つ:
(e)H268Q、V309L、A330S、およびP331S;
(f)V234A;
(g)G237A;
(h)V234Aおよび G237A;
(i)A235Eおよび G237A;または
(j)V234A、A235E、およびG237A
を有するFcドメインを含むものも含まれる。各数字は、EUナンバリングでのアミノ酸残基の位置を表し;かつ数字の前にある1文字アミノ酸記号は置換前のアミノ酸残基を表し、数字の後にある1文字アミノ酸記号は置換後のアミノ酸残基を表す。
【0192】
さらに、好ましい抗原結合分子または抗体には、その位置が、IgG3抗体のFcドメインを形成するアミノ酸におけるEUナンバリングにより指定されている、以下に示す置換のいずれか1つ:
(k)F241A;
(l)D265A;または
(m)V264A
を有するFcドメインを含むものも含まれる。各数字は、EUナンバリングでのアミノ酸残基の位置を表し;かつ数字の前にある1文字アミノ酸記号は置換前のアミノ酸残基を表し、数字の後にある1文字アミノ酸記号は置換後のアミノ酸残基を表す。
【0193】
さらに、好ましい抗原結合分子または抗体には、その位置が、IgG4抗体のFcドメインを形成するアミノ酸におけるEUナンバリングにより指定されている、以下に示す置換のいずれか1つ:
(n)L235A、G237A、およびE318A;
(o)L235E;または
(p)F234AおよびL235A
を有するFcドメインを含むものも含まれる。各数字は、EUナンバリングでのアミノ酸残基の位置を表し;かつ数字の前にある1文字アミノ酸記号は置換前のアミノ酸残基を表し、数字の後にある1文字アミノ酸記号は置換後のアミノ酸残基を表す。
【0194】
他の好ましい抗原結合分子または抗体には、例えば、IgG1抗体のFcドメインを形成するアミノ酸における233位、234位、235位、236位、237位、327位、330位、または331位(EUナンバリング)にある任意のアミノ酸が、対応するIgG2またはIgG4における対応するEUナンバリングでの位置のアミノ酸で置換されているFcドメインを含むものが含まれる。
【0195】
好ましい抗原結合分子または抗体には、例えば、IgG1抗体のFcドメインを形成するアミノ酸における234位、235位、および297位(EUナンバリング)にあるアミノ酸のいずれか1つまたは複数が他のアミノ酸で置換されているFcドメインを含むものも含まれる。置換後のアミノ酸の種類は特に限定されない;しかしながら、234位、235位、および297位にあるアミノ酸のいずれか1つまたは複数がアラニンで置換されているFcドメインを含む抗原結合分子または抗体が特に好ましい。
【0196】
好ましい抗原結合分子または抗体には、例えば、IgG1抗体のFcドメインを形成するアミノ酸における265位(EUナンバリング)にあるアミノ酸が別のアミノ酸で置換されているFcドメインを含むものも含まれる。置換後のアミノ酸の種類は特に限定されない;しかしながら、265位にあるアミノ酸がアラニンで置換されているFcドメインを含む抗原結合分子または抗体が特に好ましい。
【0197】
Fc受容体
用語「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を指す。いくつかの態様において、FcRは、天然型ヒトFcRである。いくつかの態様において、FcRは、IgG抗体に結合するもの(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスの受容体を、これらの受容体の対立遺伝子バリアントおよび選択的スプライシングによる形態を含めて、含む。FcγRII受容体は、FcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害受容体」)を含み、これらは主としてその細胞質ドメインにおいて相違する類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン活性化モチーフ (immunoreceptor tyrosine-based activation motif: ITAM) を含む。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン阻害モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif: ITIM)を含む。(例えば、Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15:203-234 (1997) を参照のこと。)FcRは、例えば、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991);Capel et al., Immunomethods 4:25-34 (1994);およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med 126:330-41 (1995)において総説されている。将来同定されるものを含む他のFcRも、本明細書の用語「FcR」に包含される。
【0198】
用語「Fc受容体」または「FcR」はまた、母体のIgGの胎児への移動(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976)およびKim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))ならびに免疫グロブリンのホメオスタシスの調節を担う、新生児型受容体FcRnを含む。FcRnへの結合を測定する方法は公知である(例えば、Ghetie and Ward., Immunol. Today 18(12):592-598 (1997); Ghetie et al., Nature Biotechnology, 15(7):637-640 (1997); Hinton et al., J. Biol. Chem. 279(8):6213-6216 (2004); WO2004/92219 (Hinton et al.)を参照のこと)。
【0199】
in vivoでのヒトFcRnへの結合およびヒトFcRn高親和性結合ポリペプチドの血漿半減期は、例えばヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウスもしくはトランスフェクトされたヒト細胞株においてまたはバリアントFc領域を伴うポリペプチドが投与される霊長類において測定され得る。WO2000/42072 (Presta) は、FcRに対する結合が増加したまたは減少した抗体バリアントを記載している。例えば、Shields et al. J. Biol. Chem. 9(2):6591-6604 (2001) も参照のこと。
【0200】
Fcγ受容体
Fcγ受容体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のFcドメインに結合し得る受容体を指し、これにはFcγ受容体遺伝子によって実質的にコードされるタンパク質のファミリーに属するすべてのメンバーが含まれる。ヒトにおいて、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI (CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII (CD32);ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII (CD16);ならびに未同定のヒトFcγ受容体、Fcγ受容体アイソフォーム、およびそれらのアロタイプのすべてが含まれる。しかしながら、Fcγ受容体はこれらの例に限定されない。Fcγ受容体には、これらに限定されないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルに由来するものが含まれる。Fcγ受容体は任意の生物に由来してよい。マウスFcγ受容体には、これらに限定されないが、FcγRI (CD64)、FcγRII (CD32)、FcγRIII (CD16)、およびFcγRIII-2 (CD16-2)、ならびに未同定のマウスFcγ受容体、Fcγ受容体アイソフォーム、およびそれらのアロタイプのすべてが含まれる。そのような好ましいFcγ受容体には、例えば、ヒトFcγRI (CD64)、FcγRIIA (CD32)、FcγRIIB (CD32)、FcγRIIIA (CD16)、および/またはFcγRIIIB (CD16) が含まれる。FcγRIのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号NM_000566.3およびRefSeq登録番号NP_000557.1に示され;FcγRIIAのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC020823.1およびRefSeq登録番号AAH20823.1に示され;FcγRIIBのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC146678.1およびRefSeq登録番号AAI46679.1に示され;FcγRIIIAのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC033678.1およびRefSeq登録番号AAH33678.1に示され;ならびにFcγRIIIBのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC128562.1およびRefSeq登録番号AAI28563.1に示される。Fcγ受容体がIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のFcドメインに対する結合活性を有するかどうかは、上記のFACSおよびELISAフォーマットに加えて、ALPHAスクリーン(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)、表面プラズモン共鳴 (SPR) ベースのBIACORE法、およびその他によって評価することができる (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0201】
その一方で、「Fcリガンド」または「エフェクターリガンド」は、抗体Fcドメインに結合してFc/Fcリガンド複合体を形成する分子、および好ましくはポリペプチドを指す。該分子は任意の生物に由来してよい。FcリガンドのFcへの結合は、好ましくは1つまたは複数のエフェクター機能を誘導する。そのようなFcリガンドには、Fc受容体、Fcγ受容体、Fcα受容体、Fcβ受容体、FcRn、C1q、およびC3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA、スタフィロコッカスプロテインG、ならびにウイルスFcγ受容体が含まれるが、これらに限定されない。Fcリガンドには、Fcγ受容体と相同なFc受容体のファミリーであるFc受容体相同体 (FcRH) (Davis et al., (2002) Immunological Reviews 190, 123-136) もまた含まれる。Fcリガンドには、Fcに結合する未同定の分子もまた含まれる。
【0202】
Fcγ受容体結合活性
FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA、および/またはFcγRIIIBのいずれかのFcγ受容体に対するFcドメインの結合活性が損なわれていることは、上記のFACSおよびELISAフォーマット、ならびにALPHAスクリーン(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)および表面プラズモン共鳴 (SPR) ベースのBIACORE法を用いることによって評価することができる (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0203】
ALPHAスクリーンは、2種類のビーズ:ドナービーズおよびアクセプタービーズを用いる、下記の原理に基づいたALPHA技術によって実施される。ドナービーズに連結された分子がアクセプタービーズに連結された分子と生物学的に相互作用し、かつ2つのビーズが近接して位置する場合にのみ、発光シグナルが検出される。ドナービーズ内の光増感剤は、レーザー光によって励起されて、ビーズ周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素がドナービーズ周辺に拡散し、近接して位置するアクセプタービーズに到達すると、アクセプタービーズ内の化学発光反応が誘導される。この反応によって最終的に光が放出される。ドナービーズに連結された分子がアクセプタービーズに連結された分子と相互作用しないのであれば、ドナービーズによって生成される一重項酸素はアクセプタービーズに到達せず、化学発光反応は起こらない。
【0204】
例えば、ビオチン標識された抗原結合分子または抗体をドナービーズに固定化し、グルタチオンSトランスフェラーゼ (GST) でタグ付けされたFcγ受容体をアクセプタービーズに固定化する。競合的変異Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体の非存在下では、Fcγ受容体は、野生型Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体と相互作用し、結果として520~620 nmのシグナルを誘導する。タグ付けされていない変異Fcドメインを有する抗原結合分子または抗体は、野生型Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体と、Fcγ受容体との相互作用に関して競合する。競合の結果としての蛍光の減少を定量化することによって、相対的結合親和性を決定することができる。Sulfo-NHS-ビオチンなどを用いて抗体などの抗原結合分子または抗体をビオチン化する方法は公知である。GSTタグをFcγ受容体に付加するための適切な方法には、Fcγ受容体をコードするポリペプチドとGSTをコードするポリペプチドをインフレームで融合し、該融合遺伝子を保有するベクターが導入された細胞を用いて該遺伝子を発現させ、次いでグルタチオンカラムを用いて精製することを伴う方法が含まれる。誘導されたシグナルは好ましくは、例えば、GRAPHPAD PRISM(GraphPad;San Diego)などのソフトウェアを用いて非線形回帰分析に基づく一部位競合モデルに適合させることにより、解析することができる。
【0205】
相互作用を観察するための物質の一方を、リガンドとしてセンサーチップの金薄膜上に固定化する。金薄膜とガラスとの境界面で全反射が起こるようにセンサーチップの裏面から光を当てると、ある特定の部位において反射光の強度が部分的に低下する(SPRシグナル)。相互作用を観察するための他方の物質を、分析物としてセンサーチップの表面上に注入する。分析物がリガンドに結合すると、固定化リガンド分子の質量が増加する。これにより、センサーチップの表面上の溶媒の屈折率が変化する。屈折率の変化は、SPRシグナルの位置のシフトを引き起こす(逆に、解離するとシグナルは元の位置にシフトして戻る)。Biacoreシステムでは、上記のシフトの量(すなわち、センサーチップ表面上での質量の変化)を縦軸にプロットし、そのようにして経時的な質量の変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムの曲線から動態パラメーター(会合速度定数 (ka) および解離速度定数 (kd))が決定され、これら2つの定数の比率から親和性 (KD) が決定される。BIACORE法では、阻害アッセイが好ましく用いられる。そのような阻害アッセイの例は、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103(11), 4005-4010に記載されている。
【0206】
多重特異性抗体の産生および精製
本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、両方がCD3およびCD137に結合できる、異なる結合特異性を有する2種類の抗原結合部分(例えば、「第1の抗原結合部分」および「第2の抗原結合部分」)と、別の抗原に結合できる「第3の抗原結合部分」とを含み、その各々がFcドメインの2つのサブユニットの一方またはもう一方に最終的に融合され、よって、Fcドメインの2つのサブユニットは典型的には、2本の同一でないポリペプチド鎖に含まれる。これらのポリペプチドの組換え同時発現および続いての二量体化は、2つのポリペプチドの複数の組み合わせの可能性をもたらす。よって、組換え産生における多重特異性抗原結合分子の収量および純度を改善するために、所望のポリペプチドの会合を促進する改変を多重特異性抗原結合分子のFcドメイン中に導入することは有利となる。
【0207】
したがって、特定の態様において、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する改変を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間での最も広範囲のタンパク質-タンパク質相互作用の部位は、FcドメインのCH3ドメイン中にある。したがって、1つの態様において、該改変はFcドメインのCH3ドメイン中にある。
【0208】
特定の態様において、該改変は、Fcドメインの2つサブユニットの一方における「knob」改変と、Fcドメインの2つのサブユニットのもう一方における「hole」改変とを含む、いわゆる「knob-into-hole」改変である。
【0209】
knob-into-holeテクノロジーは、例えば、米国特許第5,731,168号;米国特許第7,695,936号;Ridgway et al., Prot Eng 9, 617-621 (1996);およびCarter, J Immunol Meth 248, 7-15 (2001)に記載されている。一般に、方法は、突起(「knob」)が空隙(「hole」)中に位置し、ヘテロ二量体の形成を促進しかつホモ二量体の形成を妨げることができるように、突起を第1のポリペプチドの界面に、および対応する空隙を第2のポリペプチドの界面に導入する段階を伴う。突起は、第1のポリペプチドの界面の小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置き換えることによって構築される。突起と同じまたは同様のサイズの補償的な空隙は、大きなアミノ酸側鎖をより小さなもの(例えば、アラニンまたはスレオニン)で置き換えることによって第2のポリペプチドの界面に作出される。
【0210】
したがって、特定の態様においては、多重特異性抗原結合分子のFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空隙中に位置することができる第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起が生成され、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起が位置することができる第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空隙が生成される。
【0211】
突起および空隙は、ポリペプチドをコードする核酸を例えば部位特異的変異誘発によって変更することによって、またはペプチド合成によって、作ることができる。
【0212】
特定の態様において、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、366位のスレオニン残基は、トリプトファン残基で置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、407位のチロシン残基は、バリン残基で置き換えられる(Y407V)。1つの態様において、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、さらに、366位のスレオニン残基は、セリン残基で置き換えられ(T366S)、368位のロイシン残基は、アラニン残基で置き換えられる(L368A)。
【0213】
なおさらなる態様において、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、さらに、354位のセリン残基は、システイン残基で置き換えられ(S354C)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、さらに、349位のチロシン残基は、システイン残基によって置き換えられる(Y349C)。これらの2つのシステイン残基の導入は、Fcドメインの2つのサブユニット間にジスルフィド架橋の形成をもたらし、二量体をさらに安定化する(Carter, J Immunol Methods 248, 7-15 (2001))。
【0214】
他の態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子には、所望の組み合わせを有するH鎖間およびL鎖H鎖間の会合を促進するための他の技術を適用することができる。
【0215】
例えば、多重特異性抗体の会合には、抗体H鎖の第2の定常領域または第3の定常領域(CH2またはCH3)の界面に静電気的反発を導入することにより望ましくないH鎖会合を抑制する技術を適用することができる(WO2006/106905)。
【0216】
CH2またはCH3の界面に静電気的反発を導入することにより意図しないH鎖会合を抑制する技術において、H鎖の他方の定常領域の界面で接触するアミノ酸残基の例には、CH3領域におけるEUナンバリング位置356位、439位、357位、370位、399位、および409位の残基に対応する領域が含まれる。
【0217】
より具体的には、2種のH鎖CH3領域を含む抗体であって、第1のH鎖CH3領域における、以下の(1)~(3)に示すアミノ酸残基の対から選択される1~3対のアミノ酸残基が同種の電荷を有する抗体が、例として挙げられる:(1)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置356位および439位のアミノ酸残基、(2)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置357位および370位のアミノ酸残基、ならびに(3)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置399位および409位のアミノ酸残基。
【0218】
さらに、該抗体は、上記第1のH鎖CH3領域とは異なる第2のH鎖CH3領域におけるアミノ酸残基の対が、前記(1)~(3)のアミノ酸残基の対から選択され、前記第1のH鎖CH3領域において同種の電荷を有する前記(1)~(3)のアミノ酸残基の対に対応する1~3対のアミノ酸残基が、前記第1のH鎖CH3領域における対応するアミノ酸残基とは反対の電荷を有する抗体であってもよい。
【0219】
上記(1)~(3)に示されるそれぞれのアミノ酸残基は、会合した際に互いに接近している。当業者であれば、所望のH鎖CH3領域またはH鎖定常領域において、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(1)~(3)のアミノ酸残基に対応する位置を見出すことができ、適宜、これらの位置のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
【0220】
上記抗体において、「電荷を有するアミノ酸残基」は、例えば、以下の群のいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択されることが好ましい:
(a) グルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)、ならびに
(b) リジン(K)、アルギニン(R)、およびヒスチジン(H)。
【0221】
上記抗体において、語句「同じ電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のいずれもが、上記の群(a)および(b)のうちいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択されることを意味する。語句「反対の電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のうちの少なくとも1つのアミノ酸残基が、上記の群(a)および(b)のうちいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択される場合に、残りのアミノ酸残基が他の群に含まれるアミノ酸残基から選択されることを意味する。
【0222】
好ましい態様において上記抗体は、その第1のH鎖CH3領域と第2のH鎖CH3領域がジスルフィド結合により架橋されていてもよい。
【0223】
本発明において、改変に供するアミノ酸残基は、上述した抗体可変領域または抗体定常領域のアミノ酸残基に限られない。当業者であれば、変異ポリペプチドまたは異種多量体において、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、界面を形成するアミノ酸残基を同定することができ、次いでこれらの位置のアミノ酸残基を、会合を制御するように改変に供することが可能である。
【0224】
加えて、本発明の多重特異性抗体の形成には他の公知技術を用いることもできる。抗体の一方のH鎖CH3の一部を対応するIgA由来の配列に変え、対応するIgA由来の配列を他方のH鎖CH3の相補的な部分に導入することにより生成された鎖交換操作ドメインCH3(strand-exchange engineered domain CH3)を用いて、異なる配列を有するポリペプチドの会合をCH3の相補的な会合によって効率的に誘導することができる (Protein Engineering Design & Selection, 23; 195-202, 2010)。この公知技術を用いて効率的に目的の多重特異性抗体を形成させることもできる。
【0225】
加えて、多重特異性抗原結合分子の形成には、WO2011/028952、WO2014/018572およびNat Biotechnol. 2014 Feb;32(2):191-8に記載されるような抗体のCH1とCLの会合およびVHとVLの会合を利用した抗体製造技術、WO2008/119353およびWO2011/131746に記載されるような別々に調製したモノクローナル抗体を組み合わせて使用して二重特異性抗体を製造する技術(Fab Arm Exchange)、WO2012/058768およびWO2013/063702に記載されるような抗体重鎖CH3間の会合を制御する技術、WO2012/023053に記載されるような2種類の軽鎖と1種類の重鎖とから構成される多重特異性抗体を製造する技術、Christophら(Nature Biotechnology Vol. 31, p 753-758 (2013))によって記載されるような1本のH鎖と1本のL鎖を含む抗体の片鎖をそれぞれ発現する2つの細菌細胞株を利用した多重特異性抗体を製造する技術等を用いてもよい。
【0226】
あるいは、目的の多重特異性抗体を効率的に形成させることができない場合であっても、産生された抗体から目的の多重特異性抗体を分離し精製することによって、本発明の多重特異性抗体を得ることが可能である。例えば、2種類のH鎖の可変領域にアミノ酸置換を導入することにより等電点の差を付与することで、2種類のホモ体と目的のヘテロ抗体をイオン交換クロマトグラフィーで精製することを可能にする方法が報告されている(WO2007114325)。ヘテロ抗体を精製する方法として、これまでに、プロテインAに結合するマウスIgG2aのH鎖とプロテインAに結合しないラットIgG2bのH鎖とを含むヘテロ二量化抗体を、プロテインAを用いて精製する方法が報告されている(WO98050431およびWO95033844)。さらに、IgGとプロテインAの結合部位であるEUナンバリング位置435位および436位のアミノ酸残基を、異なるプロテインA親和性をもたらすアミノ酸であるTyr、Hisなどに置換したH鎖を用いて、あるいは、異なるプロテインA親和性を有するH鎖を用いて、各H鎖とプロテインAとの相互作用を変化させ、次いでプロテインAカラムを用いることにより、ヘテロ二量化抗体のみを効率的に精製することができる。
【0227】
さらに、本発明のFc領域として、Fc領域のC末端のヘテロジェニティーが改善されたFc領域が適宜使用され得る。より具体的には、本発明は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来のFc領域を構成する2つのポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングによって特定される446位のグリシンおよび447位のリジンを欠失させることにより生成されたFc領域を提供する。
【0228】
本明細書において記載されるように調製された多重特異性抗原結合分子は、例えば、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィー、およびサイズ排除クロマトグラフィー等の当技術分野において公知の技術によって精製されてもよい。特定のタンパク質を精製するために用いられる実際の条件は、正味電荷、疎水性、親水性等の因子に一部依存し、当業者に明らかである。アフィニティクロマトグラフィー精製では、多重特異性抗原結合分子が結合する、抗体、リガンド、受容体、または抗原を用いることができる。例えば、本発明の多重特異性抗原結合分子のアフィニティクロマトグラフィー精製では、プロテインAまたはプロテインGを有するマトリックスが用いられてもよい。多重特異性抗原結合分子を単離するために、連続したプロテインAまたはGアフィニティクロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーを用いることができる。多重特異性抗原結合分子の純度は、ゲル電気泳動および高圧液体クロマトグラフィー等を含む、様々な周知の分析方法のいずれかによって決定することができる。
【0229】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」または「ADCC」は、分泌されたIgが特定の細胞傷害性細胞(例えば、NK細胞、好中球およびマクロファージ)上に存在するFc受容体 (FcR) に結合しそれによってこれらの細胞傷害性エフェクター細胞が抗原を有する標的細胞に特異的に結合することができそしてその後にその標的細胞を細胞毒によって殺傷することができるようになる、細胞傷害の一形態を指す。ADCCを媒介するプライマリ細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現し、単球はFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991) の第464頁の表3にまとめられている。目的の分子のADCC活性を評価するために、in vitroADCC測定法、例えば米国特許第5,500,362号もしくは第5,821,337号または米国特許第6,737,056号 (Presta) に記載のものが実施され得る。そのような測定法に有用なエフェクター細胞は、PBMCおよびNK細胞を含む。あるいはまたは加えて、目的の分子のADCC活性は、例えばClynes et al. PNAS (USA) 95:652-656 (1998)に開示される動物モデルのような動物モデルにおいて、in vivoで評価されてもよい。
【0230】
補体依存性細胞傷害
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」は、補体の存在下での標的細胞の溶解を指す。古典的補体経路の活性化は、(適切なサブクラスの)抗体(対応する抗原に結合している)への補体系の第1要素(C1q)の結合によって開始される。補体活性化を評価するため、例えばGazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996) に記載のCDC測定法が実施され得る。改変されたFc領域アミノ酸配列を伴うポリペプチドバリアント(バリアントFc領域を伴うポリペプチド)および増加または減少したC1q結合能は、例えば、米国特許第6,194,551号B1およびWO1999/51642に記載されている。例えば、Idusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000) も参照のこと。
【0231】
T細胞依存性細胞傷害
「T細胞依存性細胞傷害」または「TDCC」は、標的細胞に対する細胞傷害がT細胞により誘導されるように、抗原結合分子が、標的細胞上に発現している抗原とT細胞上に発現している別の抗原との両方に結合し、T細胞を標的細胞の近くに方向付け直す、細胞傷害の形態を指す。T細胞依存性細胞傷害を評価するための方法である、in vitro TDCCアッセイは、本明細書の「T細胞依存性細胞傷害の測定」のセクションでも説明される。
【0232】
T細胞依存性細胞傷害の測定
抗原結合分子がDLL3およびCD3/CD137の両方に結合する態様において、本開示の抗原結合分子を、本開示の抗原結合分子における抗原結合部位が結合するDLL3発現細胞と接触させることによって引き起こされるT細胞依存性細胞傷害(TDCC)を評価または決定するための方法として、好ましくは、以下に記載する方法が用いられる。細胞傷害活性をin vitroで評価または決定するための方法には、細胞傷害性T細胞等の活性を決定するための方法が含まれる。T細胞媒介性細胞傷害を誘導する活性を本開示の抗原結合分子が有するかどうかは、公知の方法によって決定することができる(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter 7. Immunologic studies in humans, Editor, John E, Coligan et al., John Wiley & Sons, Inc., (1993)を参照)。細胞傷害アッセイにおいて、DLL3と異なりかつ細胞において発現していない抗原と、CD3/CD137とに結合することができる抗原結合分子が、対照抗原結合分子として用いられる。対照抗原結合分子は同じようにアッセイされる。次いで、活性は、本開示の抗原結合分子が、対照抗原結合分子のものより強い細胞傷害活性を示すかどうかを試験することによって評価される。
【0233】
一方、in vivo抗腫瘍有効性は、例えば、以下の手法によって、評価または決定される。本開示の抗原結合分子における抗原結合部位が結合する抗原を発現する細胞は、非ヒト動物対象に皮内または皮下移植される。次いで、移植の日からまたはその後、被験抗原結合分子が、静脈内または腹膜腔内に毎日または数日間隔で投与される。腫瘍サイズは経時的に測定される。腫瘍サイズの変化の差は細胞傷害活性として定義することができる。in vitroアッセイと同様に、対照抗原結合分子が投与される。腫瘍サイズが、対照抗原結合分子を投与された群のものより、本開示の抗原結合分子を投与された群で小さい場合に、本開示の抗原結合分子は、細胞傷害活性を有すると判断することができる。
【0234】
抗原結合分子の抗原結合部位が結合する抗原を発現する細胞の増殖を抑制する本開示の抗原結合分子との接触の作用を評価または決定するために、好ましくは、MTT法および細胞内へのアイソトープ標識チミジン取り込みの測定が用いられる。一方、in vivoで細胞増殖を抑制する活性を評価または決定するために、好ましくは、in vivo細胞傷害活性を評価または決定するための上記に記載の同じ方法を用いることができる。
【0235】
本開示の抗体または抗原結合分子のTDCCは、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって評価することができる。例えば、TDCCは、乳酸脱水素酵素 (LDH) 放出アッセイによって測定することができる。このアッセイでは、標的細胞(例えば、DLL3発現細胞)を被験抗体または抗原結合分子の存在下でT細胞(例えば、PBMC)と共にインキュベートし、T細胞によって殺傷された標的細胞から放出されたLDHの活性を、適切な試薬を用いて測定する。典型的には、細胞傷害活性は、(例えば、Triton-Xでの処理によって溶解された)標的細胞の100%の死滅によって生じたLDH活性に対する、抗体または抗原結合分子とのインキュベーションによって生じたLDH活性の割合として算出される。上述のように算出された細胞傷害活性がより高い場合、被験抗体または抗原結合分子は、より高いTDCCを有すると判定される。
【0236】
加えてまたはその代わりに、例えば、TDCCは、リアルタイム細胞増殖阻害アッセイによって測定することもできる。このアッセイでは、96ウェルプレートにおいて、標的細胞(例えば、DLL3発現細胞)を被験抗体または抗原結合分子の存在下でT細胞(例えば、PBMC)と共にインキュベートし、当技術分野で公知の方法によって、例えば適切な分析機器(例えば、xCELLigenceリアルタイム細胞分析装置)を用いることによって、標的細胞の増殖をモニターする。細胞増殖阻害率 (CGI:%) を、CGI (%) = 100 - (CIAb×100 / CINoAb) として与えられる式に従って、Cell Indexから決定する。「CIAb」は、特定の実験時間における、抗体または抗原結合分子ありのウェルのCell Indexを表し、「CINoAb」は、抗体または抗原結合分子なしのウェルの平均Cell Indexを表す。抗体または抗原結合分子のCGI率が高い、すなわち有意な正の値を有する場合、その抗体または抗原結合分子はTDCC活性を有するということができる。
【0237】
1つの局面において、本開示の抗体または抗原結合分子はT細胞活性化活性を有する。T細胞活性化は、その活性化に応答してレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ)を発現する改変T細胞株(例えば、Jurkat / NFAT-REレポーター細胞株(T細胞活性化バイオアッセイ、Promega))を用いる方法などの、当技術分野で公知の方法によってアッセイすることができる。この方法では、標的細胞(例えば、DLL3発現細胞)を被験抗体または抗原結合分子の存在下でT細胞と共に培養し、次いでレポーター遺伝子の発現産物のレベルまたは活性を、T細胞活性化の指標として適切な方法によって測定する。レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である場合、ルシフェラーゼとその基質との反応によって生じた発光を、T細胞活性化の指標として測定することができる。上記のように測定されたT細胞活性化がより高い場合、被験抗体または抗原結合分子は、より高いT細胞活性化活性を有すると判定される。
【0238】
医薬組成物
1つの局面において、本開示は、本開示の抗原結合分子または抗体を含む医薬組成物または医薬製剤を提供する。特定の態様において、本開示の医薬組成物または医薬製剤は、T細胞依存性細胞傷害を誘導する、言い換えると、本開示の医薬組成物または医薬製剤は、細胞傷害を誘導するための治療剤である。特定の態様において、本開示の医薬組成物または医薬製剤は、がんの治療および/または予防のための医薬組成物または医薬製剤である。特定の態様において、本開示の医薬組成物または医薬製剤は、肺がん(小細胞肺がんを含む)および黒色腫を含む、またはDLL3を発現する神経内分泌新生物(NEN)、神経内分泌腫瘍(NET)もしくは神経内分泌がん(NEC)、またはDLL3を発現する非神経内分泌起源の他の固形腫瘍を含む、DLL3陽性がんまたはDLL3発現がんの治療および/または予防に用いられる医薬組成物または医薬製剤である。いくつかの好ましい態様において、がんの例としては、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)もしくは大細胞型NEC(LCNEC)、小細胞肺がん(SCLC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC);または他の固形腫瘍、例えば、神経芽腫、神経膠腫もしくは膠芽腫(GBM)、黒色腫、甲状腺髄様がんが挙げられる。好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は、肺がん、好ましくは SCLCである。別の好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は、神経膠腫または膠芽腫(GBM)である。別の好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は神経内分泌前立腺がんである。特定の態様において、本開示の医薬組成物または医薬製剤は細胞増殖抑制剤である。特定の態様において、本開示の医薬組成物または医薬製剤は抗がん剤である。
【0239】
本開示の医薬組成物もしくは医薬製剤、本開示の細胞傷害を誘導するための治療剤、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、必要に応じて、様々な種類の抗原結合分子または抗体と共に製剤化することができる。例えば、本開示の複数の抗原結合分子または抗体のカクテルによって、抗原を発現する細胞に対する細胞傷害作用を増強させることができる。
【0240】
本明細書に記載の抗原結合分子または抗体の医薬組成物または医薬製剤は、所望の純度を有する抗原結合分子または抗体を、1つまたは複数の任意の薬学的に許容される担体 (Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)) と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、調製される。薬学的に許容される担体は、概して、用いられる際の投与量および濃度ではレシピエントに対して非毒性であり、これらに限定されるものではないが、以下のものを含む:リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む、抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、またはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む、単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトールなどの、砂糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン類;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはポリエチレングリコール (PEG) などの非イオン系表面活性剤。本明細書の例示的な薬学的に許容される担体は、さらに、可溶性中性活性型ヒアルロニダーゼ糖タンパク質 (sHASEGP)(例えば、rHuPH20 (HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.) などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質)などの間質性薬剤分散剤を含む。特定の例示的sHASEGPおよびその使用方法は(rHuPH20を含む)、米国特許出願公開第2005/0260186号および第2006/0104968号に記載されている。1つの局面において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの1つまたは複数の追加的なグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
【0241】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水溶液抗体製剤は、米国特許第6,171,586号およびWO2006/044908に記載のものを含み、後者の製剤はヒスチジン-アセテート緩衝液を含んでいる。
【0242】
本明細書の製剤は、治療される特定の適応症のために必要であれば1つより多くの有効成分を含んでもよい。互いに悪影響を与えあわない相補的な活性を伴うものが好ましい。このような有効成分は、意図された目的のために有効である量で、好適に組み合わせられて存在する。
【0243】
必要に応じて、本開示の抗原結合分子または抗体は、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリレート]などから作製されたマイクロカプセル)中に封入してもよく、コロイド薬物送達系(リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)の構成成分としてもよい(例えば、「Remington's Pharmaceutical Science 16th edition」、Oslo Ed. (1980)を参照)。さらに、薬剤を徐放性薬剤として調製するための方法も公知であり、これらは本開示の抗原結合分子に適用することができる(J. Biomed. Mater. Res. (1981) 15, 267-277; Chemtech. (1982) 12, 98-105;米国特許第3773719号;欧州特許出願 (EP)番号EP58481およびEP133988;Biopolymers (1983) 22, 547-556)。
【0244】
本開示の医薬組成物、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、経口または非経口のいずれかで患者に投与され得る。非経口投与が好ましい。具体的には、そのような投与法には、注射、経鼻投与、経肺投与、および経皮投与が含まれる。注射には、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、および皮下注射が含まれる。例えば、本開示の医薬組成物、細胞傷害を誘導するための治療剤、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、注射により局所的にまたは全身的に投与することができる。さらに、適切な投与方法が患者の年齢および症状に応じて選択することができる。投与用量は、例えば、各投与につき体重1 kgあたり0.0001 mg~1,000 mgの範囲から選択することができる。あるいは、用量は、例えば、1患者あたり0.001 mg~100,000 mgの範囲から選択することができる。しかしながら、本開示の医薬組成物の用量は、これらの用量に限定されない。
【0245】
好ましくは、本開示の医薬組成物は、本明細書において記載されるような抗原結合分子または抗体を含む。1つの局面において、組成物は、細胞傷害を誘導することにおいて使用するための医薬組成物である。別の局面において、組成物は、がんを治療または予防することにおいて使用するための医薬組成物である。好ましくは、がんは、肺がん(小細胞肺がんを含む)および黒色腫であるか、またはDLL3を発現する神経内分泌新生物(NEN)、神経内分泌腫瘍(NET)もしくは神経内分泌がん(NEC)、またはDLL3を発現する非神経内分泌起源の他の固形腫瘍を含む。いくつかの好ましい態様において、がんの例としては、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)もしくは大細胞型NEC(LCNEC)、小細胞肺がん(SCLC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC);または他の固形腫瘍、例えば、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、甲状腺髄様がんが挙げられる。好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は、肺がん、好ましくは SCLCである。別の好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は、神経膠腫または膠芽腫(GBM)である。別の好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は神経内分泌前立腺がんである。本開示の医薬組成物は、がんを治療または予防するために用いることができる。したがって、本開示は、その必要がある患者に本願明細書に記載される抗原結合分子または抗体が投与される、がんを治療または予防するための方法を提供する。
【0246】
本開示はまた、DLL3を発現する細胞を、DLL3に結合する本開示の抗原結合分子と接触させることによって、DLL3を発現する細胞を損傷するための、または細胞増殖を抑制するための方法も提供する。本開示の抗原結合分子が結合する細胞は、それがDLL3を発現する限り、特に限定されない。具体的には、本開示において、好ましいDLL3発現細胞は、肺がん(小細胞肺がんを含む)および黒色腫を含むか、またはDLL3を発現する神経内分泌新生物(NEN)、神経内分泌腫瘍(NET)もしくは神経内分泌がん(NEC)、またはDLL3を発現する非神経内分泌起源の他の固形腫瘍を含む。いくつかの好ましい態様において、がんの例としては、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)もしくは大細胞型NEC(LCNEC)、小細胞肺がん(SCLC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC);または他の固形腫瘍、例えば、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、甲状腺髄様がんが挙げられる。好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は、肺がん、好ましくは SCLCである。別の好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は、神経膠腫または膠芽腫(GBM)である。別の好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は神経内分泌前立腺がんである。
【0247】
本開示において、「接触」は、例えば、in vitroで培養されたDLL3を発現する細胞の培地に本開示の抗原結合分子を添加することによって行うことができる。この場合、添加すべき抗原結合分子は、溶液、または凍結乾燥等によって調製された固体などの適切な形態で用いることができる。本開示の抗原結合分子を水溶液として添加する場合、該溶液は、抗原結合分子を単独で含有する純粋な水溶液、または例えば上記の界面活性剤、賦形剤、着色剤、着香剤、保存剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、および矯味剤を含有する溶液であってよい。添加濃度は特に限定されない;しかしながら、培地中の最終濃度は、好ましくは1 pg/ml~1 g/mlの範囲内、より好ましくは1 ng/ml~1 mg/ml、およびさらにより好ましくは1μg/ml~1 mg/mlの範囲内である。
【0248】
本開示の別の態様において、「接触」はまた、in vivoでDLL3発現細胞を移植された非ヒト動物、またはDLL3を内因的に発現するがん細胞を有する動物に投与することによって行うこともできる。投与方法は、経口または非経口であってよい。非経口投与が特に好ましい。具体的には、非経口投与方法には、注射、経鼻投与、経肺投与、および経皮投与が含まれる。注射には、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、および皮下注射が含まれる。例えば、本開示の医薬組成物、細胞傷害を誘導するための治療剤、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、注射によって局所投与または全身投与することができる。さらに、適切な投与方法は、動物対象の年齢および症状に応じて選択することができる。
抗原結合分子を水溶液として投与する場合、該溶液は、抗原結合分子を単独で含有する純粋な水溶液、または例えば上記の界面活性剤、賦形剤、着色剤、着香剤、保存剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、および矯味剤を含有する溶液であってよい。投与用量は、例えば、各投与につき体重1 kgあたり0.0001~1,000 mgの範囲から選択することができる。あるいは、用量は、例えば、各患者につき0.001~100,000 mgの範囲から選択することができる。しかしながら、本開示の抗原結合分子の用量は、これらの例に限定されない。
【0249】
本開示はまた、本開示の抗原結合分子または本開示の方法によって産生された抗原結合分子を含有する、本開示の方法において使用するためのキットも提供する。該キットは、追加の薬学的に許容される担体もしくは媒体、またはキットの使用方法を記載した取扱説明書等と共に包装され得る。
【0250】
本発明の別の局面において、上述の障害の治療、予防、および/または診断に有用な器材を含んだ製品が、提供される。製品は、容器、および当該容器上のラベルまたは当該容器に付属する添付文書を含む。好ましい容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどが含まれる。容器類は、ガラスやプラスチックなどの、様々な材料から形成されていてよい。容器は組成物を単体で保持してもよいし、症状の治療、予防、および/または診断のために有効な別の組成物と組み合わせて保持してもよく、また、無菌的なアクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は、皮下注射針によって突き通すことのできるストッパーを有する静脈内投与用溶液バッグまたはバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも1つの有効成分は、本発明の抗体である。
ラベルまたは添付文書は、組成物が選ばれた症状を治療するために使用されるものであることを示す。さらに製品は、(a)第1の容器であって、その中に収められた本発明の抗体を含む組成物を伴う、第1の容器;および、(b)第2の容器であって、その中に収められたさらなる細胞傷害剤またはそれ以外で治療的な剤を含む組成物を伴う、第2の容器を含んでもよい。本発明のこの態様における製品は、さらに、組成物が特定の症状を治療するために使用され得ることを示す、添付文書を含んでもよい。あるいはまたは加えて、製品はさらに、注射用制菌水 (BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、およびデキストロース溶液などの、薬学的に許容される緩衝液を含む、第2の(または第3の)容器を含んでもよい。他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジなどの、他の商業的観点またはユーザの立場から望ましい器材をさらに含んでもよい。
【0251】
添付文書
用語「添付文書」は、治療用製品の市販パッケージに通常含まれる説明書を指すために用いられ、そのような治療用製品の使用に関する適応症、用法、投与量、投与方法、併用療法、禁忌、および/または警告についての情報を含む。
【0252】
医薬製剤
用語「医薬製剤」または「医薬組成物」は、その中に含まれた有効成分の生物学的活性が効果を発揮し得るような形態にある調製物であって、かつ製剤が投与される対象に許容できない程度に毒性のある追加の要素を含んでいない、調製物を指す。
【0253】
薬学的に許容される担体
「薬学的に許容される担体」は、対象に対して無毒な、医薬製剤中の有効成分以外の成分を指す。薬学的に許容される担体は、これらに限定されるものではないが、緩衝液、賦形剤、安定化剤、または保存剤を含む。
【0254】
治療
本明細書で用いられる「治療」(および、その文法上の派生語、例えば「治療する」、「治療すること」など)は、治療される個体の自然経過を改変することを企図した臨床的介入を意味し、予防のためにも、臨床的病態の経過の間にも実施され得る。治療の望ましい効果は、これらに限定されるものではないが、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患による任意の直接的または間接的な病理的影響の減弱、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の回復または緩和、および寛解または改善された予後を含む。いくつかの態様において、本開示の抗原結合分子または抗体は、疾患の発症を遅らせる、または疾患の進行を遅くするために用いられる。
【0255】
がん
用語「がん」および「がん性」は、調節されない細胞成長/増殖によって典型的に特徴づけられる哺乳動物における生理学的状態を指すまたは説明するものである。特定の態様において、がんは、DLL3を発現する神経内分泌新生物(NEN)、神経内分泌腫瘍(NET)もしくは神経内分泌がん(NEC)、またはDLL3を発現する非神経内分泌起源の他の固形腫瘍を含むDLL3発現がんまたはDLL3陽性がんである。いくつかの態様において、がんの例としては、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)もしくは大細胞型NEC(LCNEC)、小細胞肺がん(SCLC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC);または他の固形腫瘍、例えば、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、甲状腺髄様がんが挙げられる。本発明の好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は、肺がん、好ましくは SCLCである。本発明の別の好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は、神経膠腫または膠芽腫(GBM)である。本発明の別の好ましい態様において、腫瘍またはがん疾患は神経内分泌前立腺がんである。
【0256】
腫瘍
用語「腫瘍」は、悪性か良性かによらず、すべての新生物性細胞成長および増殖ならびにすべての前がん性およびがん性細胞および組織を指す。用語「がん」、「がん性」、「細胞増殖性障害」、「増殖性障害」および「腫瘍」は、本明細書でいう場合、相互に排他的でない。
【0257】
他の剤および治療
本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、治療において1つまたは複数の他の剤との組み合わせで投与されてもよい。例えば、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、少なくとも1つの追加の治療剤と同時投与されてもよい。用語「治療剤」は、そのような治療の必要がある個体において症状または疾患を治療するために投与される任意の剤を包含する。そのような追加治療剤は、治療される特定の適応症に適している任意の有効成分、好ましくは、互いに悪影響を与えあわない相補的な活性を伴うものを含み得る。特定の態様において、追加治療剤は、免疫治療剤、細胞分裂阻害剤、細胞接着の阻害剤、細胞傷害剤、細胞アポトーシスの活性化剤、またはアポトーシス誘導因子に対する細胞の感受性を増加させる剤である。
【0258】
上記態様の特定の態様において、追加の治療剤は免疫療法剤である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、免疫応答を調節する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、抗腫瘍免疫応答を増強する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、細胞媒介性免疫を増加させる作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、T細胞活性を増加させる作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、細胞溶解性T細胞(CTL)活性を増加させる作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、NK細胞活性を増加させる作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、免疫応答の抑制を抑制する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、サプレッサー細胞を阻害するかまたは細胞の活性を抑制する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、Treg活性を阻害する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、MDSC活性を阻害する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、抑制性免疫チェックポイント受容体の活性を阻害する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、PD-1の活性を阻害する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、PD-L1および/またはPD-L2の活性を阻害する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、CTLA-4の活性を阻害する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、CD80および/またはCD86の活性を阻害する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、TIGITの活性を阻害する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、KIRの活性を阻害する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、IDO 1の活性を阻害する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、免疫チェックポイント受容体を活性化する活性を増強または刺激する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、GITRの活性を増強または刺激する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、OX 40の活性を増強または刺激する作用物質である。いくつかの態様において、免疫療法剤は、CD40の活性を増強または刺激する作用物質である。
【0259】
本明細書において記載されるいくつかの態様において、免疫療法剤は、PD-1アンタゴニスト、PD-L1アンタゴニスト、PD-L2アンタゴニスト、CTLA-4アンタゴニスト、CD80アンタゴニスト、CD86アンタゴニスト、TIGITアンタゴニスト、KIRアンタゴニスト、Tim-3アンタゴニスト、LAG3アンタゴニスト、CD96アンタゴニスト、CD20アンタゴニスト、またはIDO1アンタゴニストである。いくつかの態様において、PD-1アンタゴニストは、PD-1に特異的に結合する抗体である。いくつかの態様において、PD-1に結合する抗体は、ペムブロリズマブ、ピディリズマブ(ピディリズマブ)(CT-011)、またはニモツズマブ(ニボルマブ)である。いくつかの態様において、PD-L1アンタゴニストは、PD-L1に特異的に結合する抗体である。いくつかの態様において、PD-L1に結合する抗体は、アテゾリズマブ、デュルバルマブ(MEDI4736)、またはBMS-936559である。いくつかの態様において、CTLA-4アンタゴニストは、CTLA-4に特異的に結合する抗体である。いくつかの態様において、CTLA-4に結合する抗体は、イピリムマブまたはトレメリムマブ(トレメリムマブ)(CP-675、206)である。いくつかの態様において、KIRアンタゴニストは、KIRに特異的に結合する抗体である。いくつかの態様において、KIRに結合する抗体は、リツキシマブ(リリルマブ)である。本明細書において記載される方法のいくつかの態様において、免疫療法剤は、CD28アゴニスト、4-1BBアゴニスト、OX40アゴニスト、CD27アゴニスト、CD80アゴニスト、CD86アゴニスト、CD40アゴニスト、またはGITRアゴニストである。本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、適切なまたは必要な場合には、T細胞エンゲージャーおよびCAR-T細胞などのT細胞関連治療剤の一般的な有害事象であるサイトカイン放出症候群(CRS)を制御するために、ステロイドまたは他の抗体医薬、例えばトシリズマブとの組み合わせで投与されてもよい。
【0260】
化学療法剤
上記態様の特定の態様において、追加の治療剤は、化学療法剤、例えば、微小管破壊剤、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレート剤、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、または抗血管新生剤である。「化学療法剤」は、がんの治療に有用な化学化合物を指す。化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えば、チオテパおよびシクロホスファミド(CYTOXAN(登録商標));アルキルスルホン酸塩類、例えば、ブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファン;アジリジン類、例えば、ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa);アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミドおよびトリメチロールメラミン(trimethylomelamine)を含むエチレンイミン類およびメチロールメラミン類;アセトゲニン類(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標));β-ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成類似体トポテカン(HYCAMTIN(登録商標)を含む)、CPT-11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン(scopolectin)、および9-アミノカンプトテシン);ブリオスタチン;カリスタチン; CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシンおよびビゼレシン合成類似体を含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸;テニポシド;クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW-2189およびCB1-TM1を含む);エロイテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;ナイトロジェンマスタード類、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド(chlorophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩(mechlorethamine oxide hydrochloride)、メルファラン、ノブエンビキン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン;抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンγ1IおよびカリケアマイシンωI1(例えば、Nicolaou et al., Angew. Chem Intl. Ed. Engl., 33: 183-186 (1994)を参照); CDP323、経口α-4インテグリン阻害剤;ジネミシンAを含むジネミシン、;エスペラマイシン;ならびにネオカルジノスタチンクロモホアおよび関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質クロモホア)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カルビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(ADRIAMYCIN(登録商標)、モルホリノドキソルビシン、シアノモルホリノドキソルビシン、2-ピロリノドキソルビシン、ドキソルビシンHClリポソーム注射(DOXIL(登録商標))、リポソームドキソルビシンTLC D-99(MYOCET(登録商標)を含む)、ペグ化リポソームドキソルビシン(CAELYX(登録商標))、およびデオキシドキソルビシノン)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン類、例えば、マイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン類、ペプロマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗剤、例えば、メトトレキサート、ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標))、テガフール(UFTORAL(登録商標))、カペシタビン(XELODA(登録商標))、エポチロン、および5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えば、デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキサート;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジン;アンドロゲン類、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎剤(anti-adrenals)、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補充剤(folic acid replenisher)、例えば、ホリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド(aldophosphamide glycoside);アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトレキサート;デフォファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジクオン;エフロルニチン(elfornithine);エリプチニウムアセタート;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;メイタンシノイド、例えば、メイタンシンおよびアンサミトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン; PSK(登録商標)多糖類複合体(JHS Natural Products, Eugene、OR);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン類(特にT-2トキシン、ベルカリンA(verracurin A)、ロリジンAおよびアングイジン);ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標));ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル(TAXOL(登録商標))、パクリタキセルのアルブミンで改変したナノ粒子製剤(ABRAXANE(商標))、およびドセタキセル(TAXOTERE(登録商標));クロラムブシル;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金製剤、例えば、シスプラチン、オキサリプラチン(例えば、ELOXATIN(登録商標))、およびカルボプラチン;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標))、ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標))、ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標))、およびビノレルビン(NAVELBINE(登録商標))を含む、微小管を形成しないようにチューブリン重合を妨げる、ビンカ系;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ロイコボリン;ノバントロン;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロナート;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えば、ベキサロテン(TARGRETIN(登録商標))を含むレチノイン酸;ビスホスホナート類、例えば、クロドロナート(例えば、BONEFOS(登録商標)またはOSTAC(登録商標))、エチドロナート(DIDROCAL(登録商標))、NE-58095、ゾレドロン酸/ゾレドロナート(ZOMETA(登録商標))、アレンドロナート(FOSAMAX(登録商標))、パミドロナート(AREDIA(登録商標))、チルドロナート(SKELID(登録商標))、またはリセドロナート(ACTONEL(登録商標));トロキサシタビン(a1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシン類似体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に、異常な細胞増殖に関与するシグナル伝達経路での遺伝子、例えば、PKC-アルファ、Raf、H-Ras、および上皮増殖因子受容体(EGF-R)などの発現を阻害するもの;ワクチン、例えば、THERATOPE(登録商標)ワクチンおよび遺伝子療法ワクチン、例えば、ALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、およびVAXID(登録商標)ワクチン;トポイソメラーゼ1阻害剤(例えば、LURTOTECAN(登録商標));rmRH(例えば、ABARELIX(登録商標));BAY439006(ソラフェニブ;Bayer);SU-11248(スニチニブ、SUTENT(登録商標)、Pfizer);ペリホシン、COX-2阻害剤(例えば、セレコキシブまたはエトリコキシブ)、プロテオソーム阻害剤(例えば、PS341);ボルテゾミブ(VELCADE(登録商標));CCI-779;チピファルニブ(R11577); ソラフェニブ、ABT510;Bcl-2阻害剤、例えば、オブリメルセンナトリウム(GENASENSE(登録商標));ピキサントロン;EGFR阻害剤(下記定義を参照);チロシンキナーゼ阻害剤(下記定義を参照);セリン-スレオニンキナーゼ阻害剤、例えば、ラパマイシン(シロリムス、RAPAMUNE(登録商標));ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、例えば、ロナファルニブ(SCH 6636、SARASAR(商標));ルルビネクテジンまたはアムルビシン;および上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体;ならびに上記の2以上の組み合わせ、例えば、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびプレドニゾロンの組み合わせ療法の略称である、CHOP;および5-FUおよびロイコボリンと組み合わせたオキサリプラチン(ELOXATIN(商標))による治療レジメンの略称であるFOLFOXが挙げられる。
【0261】
本明細書において定義されるような化学療法剤には、がんの成長を促進することができるホルモンの作用を制御、低減、遮断、または阻害するように機能する「抗ホルモン剤」または「内分泌治療剤」も含まれ得る。それらはホルモン自体であってもよく、これらに限定されないが、タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標))、4-ヒドロキシタモキシフェン、トレミフェン(FARESTON(登録商標))、イドキシフェン、ドロロキシフェン、ラロキシフェン(EVISTA(登録商標))、トリオキシフェン、ケオキシフェン、および選択的エストロゲン受容体調節因子(SERM)、例えば、SERM3を含む、混合型アゴニスト/アンタゴニストプロファイルを有する抗エストロゲン薬;アゴニスト特性を有さない純粋な抗エストロゲン薬、例えば、フルベストラント(FASLODEX(登録商標))、およびEM800(そのような作用物質は、エストロゲン受容体(ER)二量体化を遮断する、DNA結合を阻害する、ERターンオーバーを増加させる、および/またはERレベルを抑制する可能性がある);ステロイド性アロマターゼ阻害剤、例えば、ホルメスタンおよびエキセメスタン(AROMASIN(登録商標))、ならびに非ステロイド性アロマターゼ阻害剤、例えば、アナストロゾール(ARIMIDEX(登録商標))、レトロゾール(FEMARA(登録商標))およびアミノグルテチミド、ならびにボロゾール(RIVISOR(登録商標))、メゲストロールアセタート(MEGASE(登録商標))、ファドロゾール、および 4(5)-イミダゾールを含む他のアロマターゼ阻害剤を含む、アロマターゼ阻害剤;リュープロリド(LUPRON(登録商標)およびELIGARD(登録商標))、ゴセレリン、ブセレリン、およびトリプトレリンを含む、黄体形成ホルモン放出ホルモンアゴニスト;プロゲスチン、例えば、メゲストロールアセタートおよび酢酸メドロキシプロゲステロン、エストロゲン、例えば、ジエチルスチルベストロールおよびプレマリン、ならびにアンドロゲン類/レチノイド類、例えば、フルオキシメステロン、オールトランスレチノイン酸およびフェンレチニドを含む、性ステロイド;オナプリストン;抗プロゲステロン;エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(ERD);抗アンドロゲン剤、例えば、フルタミド、ニルタミドおよびビカルタミド;および上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体;ならびに上記の2以上の組み合わせを含む。
【0262】
そのような他の剤は、意図された目的のために有効である量で、好適に組み合わせられて存在する。そのような他の剤の有効量は、用いられる多重特異性抗原結合分子の量、障害または治療の種類、および上で論じた他の要因に依存する。多重特異性抗原結合分子は概して、本明細書に記載されるものと同じ投与量および投与経路で、または本明細書に記載される投与量の約1から99%で、または経験的/臨床的に適切と判断される任意の投与量および任意の経路で用いられる。
【0263】
上記のそのような併用療法は、併用投与(2種類以上の治療剤が同じまたは別々の組成物中に含まれている)、および個別投与を包含し、個別投与の場合、本明細書に記載される多重特異性抗原結合分子の投与が追加治療剤および/またはアジュバントの投与に先立って、と同時に、および/または、続いて、行われ得る。本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子はまた、放射線療法との組み合わせで用いることができる。
【0264】
本明細書において引用したすべての文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0265】
以下は、本開示の方法および組成物の実施例である。上述の一般的な記載に照らし、種々の他の態様が実施され得ることが、理解されるであろう。
【実施例】
【0266】
[実施例1]
【0267】
腫瘍細胞に対するin vitro細胞傷害活性の改善に関する、親Dual-Fab H183L072の親和性成熟バリアントのスクリーニング
1.1 親和性成熟バリアントの配列
CD3およびCD137に結合するが、CD3およびCD137に同時には結合しない、免疫グロブリン可変(Fab)領域(Dual-Fab)を提供するという概念は、WO2019111871(参照により本明細書に組み入れられる)に開示されている。WO2019111871に開示されている親Dual-Fab H183L072(重鎖:配列番号:1;軽鎖:配列番号:57)の結合アフィニティを増加させるために、H183L072を鋳型として用いて、可変領域に単一のまたは複数の変異を導入することにより、1,000個を上回るDual-Fabバリアントを作製した。抗体を、Expi293(Invitrogen)を用いて発現させ、プロテインA精製、続いて、ゲル濾過が必要な場合にはゲル濾過によって精製した。複数の変異を有する22個の代表的なDual-Fabバリアントの配列を、表6および表8-1~8-6に列記し、CD3およびCD137に対する結合アフィニティおよび動態を、実施例1.2.2(表9)において下記に記載されるように、Biacore T200機器(GE Healthcare)を用いて25℃および/または37℃で評価した。
【0268】
1.2 親和性成熟バリアントの結合動態情報
1.2.1 ヒトCD3およびCD137の発現および精製
ヒトCD3複合体(ヒトCD3egリンカー)のγサブユニットおよびεサブユニットを29-merリンカーによって連結し、Flag-タグをγサブユニットのC末端に融合させた(配列番号:102、表5および7)。この構築物を、FreeStyle293F細胞株(Thermo Fisher)を用いて一過性に発現させた。ヒトCD3egリンカーを発現する培養上清を、Q HP樹脂(GE healthcare)を充填したカラムを用いて濃縮し、次いで、FLAG-タグ親和性クロマトグラフィーに適用した。ヒトCD3egリンカーを含有する画分を収集し、続いて、1×D-PBSで平衡化したSuperdex 200ゲル濾過カラム(GE healthcare)に供した。次いで、ヒトCD3egリンカーを含有する画分をプールした。そのC末端にヘキサヒスチジン(His-タグ)およびビオチンアクセプターペプチド(BAP)を有するヒトCD137細胞外ドメイン(ECD)(配列番号:103、表5および7)を、FreeStyle293F細胞株(Thermo Fisher)を用いて一過性に発現させた。ヒトCD137 ECDを発現する培養上清をHisTrap HPカラム(GE healthcare)に適用し、イミダゾール(Nacalai)を含有する緩衝液で溶出した。ヒトCD137 ECDを含有する画分を収集し、続いて、1×D-PBSで平衡化したSuperdex 200ゲル濾過カラム(GE healthcare)に供した。次いで、ヒトCD137 ECDを含有する画分をプールし、-80℃で保管した。
【0269】
1.2.2 ヒトCD3およびCD137に対する親和性測定
ヒトCD3に対するDual-Fab抗体(Dual-Ig)の結合親和性を、Biacore 8K機器(GE Healthcare)を用いて25℃で評価した。抗ヒトFc(GE Healthcare)を、アミンカップリングキット(GE Healthcare)を用いてCM4センサーチップのすべてのフローセルの上に固定化した。抗体を抗Fcセンサー表面の上に捕捉し、次いで、組換えヒトCD3またはCD137をフローセルの上にインジェクトした。すべての抗体およびアナライトを、20 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% Tween 20、0.005% NaN3を含有するACES pH 7.4において調製した。センサー表面は、3M MgCl2でサイクル毎に再生させた。結合親和性は、Biacore Insight Evaluation software、version 2.0(GE Healthcare)を用いて、データをプロセシングし、1:1結合モデルにフィットさせることによって決定した。CD137結合親和性アッセイを、アッセイ温度を37℃に設定したことを除いて、同じ条件で行った。組換えヒトCD3およびCD137に対するDual-Fab抗体の結合親和性を表9-1および9-2に示す(表中でKon値、Koff値、およびKD値を表すのに用いられる語句Eは、「10の_乗」を意味し、例えば、3.54E+04=3.54*104である)。表9-1および9-2に示すように、Dual Fabバリアントは、CD3およびCD137に対し、H183/L072と比較して異なる結合動態を示した。
【0270】
(表5)表7の配列番号のアノテーション(表9のアフィニティ測定で用いられるヒトCD3およびCD137抗原の配列番号)
【0271】
(表6)表8-1~8-6の配列番号のアノテーション(抗体名、ならびにCDR 1、2、および3を含む可変領域の配列番号)
【0272】
【0273】
(表8-1)表6でアノテーション付けした抗体の可変領域の全長アミノ酸配列と、続いてのCDR 1、2、および3領域のアミノ酸配列
【0274】
【0275】
【0276】
【0277】
【0278】
【0279】
(表9-1)ヒトCD3およびヒトCD137に対するDualバリアントの結合動態
【0280】
(表9-2)ヒトCD3およびヒトCD137に対するDualバリアントの結合動態
【0281】
[実施例2]
二重特異性および三重特異性抗体の配列および調製
2.1.二重特異性または三重特異性抗体(1+1)フォーマットの設計および調製
実施例1で調製したDual-Igバリアント(DualAE05等)の効果を評価するために、腫瘍抗原 DLL3を認識する1つのアーム(抗DLL3抗体 D30841AE13由来)と、エフェクター細胞、主にT細胞を認識する別のアームとを有する二重特異性および三重特異性抗体を作製した。DLL3/CD3ε(1+1)抗体およびDLL3/DualAE05(1+1)抗体を、Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Mar 26; 110(13):5145-5150に記載されている方法によるFab-アーム交換(FAE)を用いることによって作製した。(1+1)フォーマットを図 1(b)に示す。(1+1)フォーマットでの二重特異性および三重特異性抗体における各Fv領域の標的抗原および各結合ドメインの命名規則を表10-2に示し、配列番号を表12に示す。
【0282】
2.2.1つの一価DLL3結合アームと2つのDual-Fabとを含む三価抗体(1+2)フォーマットの設計および調製
固形腫瘍における標的抗原の発現は極めて不均一である可能性が高く、抗原発現が低い腫瘍の領域は、CD3またはCD137の十分な架橋形成をもたらさない場合がある。特に、CD137受容体クラスター形成は、効果的なアゴニスト活性にとって重大な意味を持つ(Trends Biohem Sci. 2002 Jan;27(1)19-26)。CD3結合および活性化によって媒介される細胞傷害活性を改善するために、新たな三価三重特異性抗体フォーマット、すなわち、DLL3-DUAL/LINC、1+2)を、CD137分子に対する結合ドメインの数を増加させるように設計した。具体的には、新たな抗体フォーマットは、それぞれが1つのCD3またはCD137に結合できるが同時には結合しない一価Dual-Fabを2つ(
図1aのFvBおよびFvC)、および一価DLL3結合アームを1つ(
図1aのFvA)含む、「1+2」フォーマットを有する三価三重特異性抗体であり、1つのジスルフィド結合(「LINC」)が、例えば、2つのDual-FabのそれぞれのCH1ドメインの191位に、システイン置換(KabatナンバリングでS191C)を導入することによって、2つのDual-Fab間に導入/設計されている(
図1(a)および表10-1)。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、そのように設計されたジスルフィド結合(「LINC」)は、2つのDual-Fab間の立体障害または短い距離の結果として、2つのDual-Fabの抗原(CD3またはCD137)結合配向性をシス抗原結合(すなわち、同じ細胞上の2つの抗原への結合)に制限し、それによって、DLL3非依存的に2つのDual-Fabによって媒介される2つのCD3/CD137発現免疫細胞の望ましくない架橋形成を妨げることによって三重特異性抗体の安全性プロファイルを改善することを企図した。具体的には、DLL3に対する一価腫瘍抗原結合能、2つのDual-Fabに起因する二価CD3および二価CD137 結合特性を有するDLL3-Dual/Dual抗体バリアント(DLL3-Dual/LINC、1+2)を調製した(
図1(a)および表10-1)。CrossMabテクノロジー(WO2017055539)も利用した。Fc領域は、FcγRサイレントであり、かつ脱グリコシル化された。三重特異性抗体における各Fv領域の標的抗原および各結合ドメインの命名規則を表10-1に示し、配列番号を表11-1および12に示す。陰性対照については、DLL3に結合しないCtrl(VHR IC17HdKおよびVLR IC17L)を、一価DLL3結合アームの代わりに用いた(表12)。すべての抗体をExpi293細胞(Invitrogen)での一過性発現によって三価形態として発現させ、実施例1.1に従って精製した。純度を向上させるために、抗体を、UnLINCフォーマット(すなわち、操作されたジスルフィド結合を有さない三価1+2抗体)に特異的に結合するが、LINCフォーマット(すなわち、操作されたジスルフィド結合を有する三価1+2抗体)には結合しないアフィニティカラムを通過させることによってさらに精製した。
【0283】
2.3.二重特異性抗体(BiTE)の作製
三価抗体(DLL3-DUAL/LINC、2+1)の効果を他のDLL3/CD3二重特異性フォーマット抗体と比較するために、半減期延長型BiTEフォーマットを有する抗体を作製し、DLL3CD3BiTEと名付けた。DLL3CD3BiTEは、腫瘍関連抗原DLL3に向けられた一本鎖可変断片が、CD3に向けられたものに融合されている、2本の一本鎖可変断片(ScFv)で構成された(
図1(c))。BiTEフォーマット二重特異性抗体中の各Fv領域の標的抗原を表10-3に示し、配列番号を表11-2および表14に示す。
【0284】
(表10-1)抗体名、標的アーム、およびFcの情報
【0285】
(表10-2)二重特異性および三重特異性抗体(1+1)
【0286】
【0287】
【0288】
【0289】
(表12)可変領域およびそれらのCDR1~3配列のID
【0290】
【0291】
【0292】
【0293】
【0294】
【0295】
【0296】
【0297】
【0298】
【0299】
【0300】
【0301】
【0302】
[実施例3]
DLL3発現細胞株に対するDLL3-Dual-LINC抗体のin vitro有効性
3.1.抗DLL3/Dual-Linc(1+2)抗体、Dual(1+1)抗体、DLL3CD3BiTE、およびDLL3/CD3ε(1+1)抗体を用いた、TDCC活性の測定
PBMCの存在下でxCELLigence Real-Time Cell Analyzer(Roche Diagnostics)を用いて腫瘍細胞増殖抑制率を観察することによって、細胞傷害活性を評価した。
図2は、表10-13に従って調製した抗DLL3/Dual-Linc抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05, 1+2)、Dual(1+1)抗体(DLL3/DualAE05)、DLL3CD3BiTE、およびDLL3/CD3ε(1+1)抗体のTDCC活性を示す。SK-MEL30細胞株を標的細胞として用いた。標的細胞をディッシュから剥離し、細胞を5×10
3細胞/ウェルに調整することによって100μL/ウェルの分割量で、細胞をE-plate 96(Roche Diagnostics)にプレーティングし、xCELLigence Real-Time Cell Analyzerを用いて、細胞増殖の測定を開始した。24時間後に、プレートを取り出して、各濃度(10 nMから開始した5倍系列希釈、すなわち、0.25、1.25、2.5、5、および10 nM)に調製したそれぞれの抗体50μLを、プレートに加えた。室温で15分間の反応後に、50μLの新鮮なヒトPBMC溶液を、エフェクター:標的比 2(すなわち、1×10
4細胞/ウェル)で加え、細胞増殖の測定を、xCELLigence Real-Time Cell Analyzerを用いて再開した。反応は、5%二酸化炭素ガスの条件下、37℃で実施した。CD137シグナル伝達は、T細胞生存を増強し、かつ活性化誘導細胞死を阻止するため、TDCCアッセイを低いE:T比で実施した。CD137活性化が寄与する優れた細胞傷害活性を観察するために、期間の延長が必要とされる場合がある。よって、PBMCの添加のおよそ68時間後に、下記の式を用いて、細胞増殖抑制(CGI)率(%)を決定した。計算において用いたxCELLigence Real-Time Cell Analyzerから得られたCell Index値は、抗体添加の直前の時点のCell Index値を1として定義した正規化値であった。
細胞増殖抑制率(%)=(A-B)×100/(A-1)
Aは、抗体を添加していないウェル(標的細胞およびヒトPBMCのみを含有する)におけるCell Index値の平均値を表し、Bは、標的ウェルのCell Index値の平均値を表す。試験は二連で実施した。
【0303】
図2 a)に示すように、抗DLL3/Dual-Linc抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05、1+2)は、Dual(1+1)抗体(DLL3/DualAE05)およびDLL3/CD3ε(1+1)抗体のものより強いTDCC活性を示した。このことは、Dual-Linc分子フォーマットは改善された細胞傷害活性に寄与することを示唆する。加えて、これらの抗体の濃度で、抗DLL3/Dual-Linc抗体のTDCC活性は、DLL3/CD3BiTEと同等である。
【0304】
3.2.細胞傷害活性に対するリンカー長の効果の評価
腫瘍細胞に対する細胞傷害活性を改善するためには、腫瘍細胞とエフェクター細胞との間のより近接したより強固な結合が重大な意味を持つことになる。これは、より短い距離が、T細胞と腫瘍細胞をより近接させるのに役立つ可能性があり、TDCCに役立つ可能性があることを意味する。したがって、本発明者らは、異なる長さのリンカーを有する、3種類の抗DLL3/Dual-Linc抗体バリアントを作製した。DLL3-DualAE05/DualAE05-FF110(中程度のリンカー)およびDLL3-DualAE05/DualAE05-FF111(短いリンカー)のリンカー長は、DLL3-DualAE05/DualAE05-FF091(長いリンカー)のものより短い(本明細書の以下において、これらのバリアントはそれぞれ、DLL3-AE05/AE05-FF110、DLL3-AE05/AE05-FF111、およびDLL3-AE05/AE05-FF091と略される場合がある)。細胞傷害活性に対するリンカー長の効果を評価するために、TDCC測定を、0.2、1、および5 nMの抗体を用いて実施例3.1に記載されるように行った。
【0305】
図2 b)に示すように、DLL3-AE05/AE05-FF110(中程度のリンカー)およびDLL3-AE05/AE05-FF111(短いリンカー)は、0.2 nMでDLL3-AE05/AE05-FF091(長いリンカー)のものより強いTDCC活性を示した。DLL3-AE05/AE05-FF110(中程度のリンカー)は最も強いTDCC活性を示した。これらの結果は、リンカー長がTDCC活性にとって重要であり、かつ中程度の長さのリンカーが、in vitroでのTDCC活性にとって最も適切であることを示唆する。
【0306】
[実施例4]
DLL3CD3BiTEと比較したDLL3-DualAE05/DualAE05-FF091三重特異性抗体のin vivo有効性の評価
実施例2で調製したDLL3-DualAE05/DualAE05-FF091抗体およびDLL3CD3BiTEの抗腫瘍活性を、ヒト小細胞肺がんNCI-H1436がんモデルで試験した。NCI-H1436細胞をNOGヒト化マウスに皮下移植した。NOG雌マウスをIn-Vivo Scienceから購入した。ヒト化のために、マウスを致死量以下で照射し、続いて1日後に100,000個のヒト臍帯血細胞(ALLCELLS)を注射した。ヒト化後、NCI-H1436(5×106細胞)をMatrigel Basement Membrane Matrix(Corning)と混合して、ヒト化 NOGマウスの右側腹部に移植した。移植の日を0日目と定義した。11日目に、マウスを、腫瘍体積および体重に基づいてランダム化した。翌日、ビヒクル(0.05%Tween を含有するPBS)、6.5 mg/kg DLL3-DualAE05/DualAE05-FF091、および3.5 mg/kg DLL3CD3BiTEのいずれかを、マウスに静脈内注射した。
【0307】
T細胞浸潤の分析のために、マウスが有する異種移植した腫瘍を、抗体投与後の表示されている時点で収集した。腫瘍を計量し、製造業者のプロトコールに従ってヒト用Tumor Dissociation Kit(Miltenyi)を用いることによって細分化し、分離後にCountBright Absolute Counting Beads(ThermoFisher scientific)を加えた。腫瘍内のCD8+T細胞の数を、LSRFortessa X-20(BD)を用いて評価した。
【0308】
T細胞疲弊の分析のために、マウスが有する異種移植した腫瘍を、抗体投与後7日目に収集した。腫瘍を、製造業者のプロトコールに従ってヒト用Tumor Dissociation Kit(Miltenyi)によって細分化し、T細胞疲弊マーカー、Tim-3、PD-1、およびLag-3の発現について、腫瘍内T細胞を評価した。
【0309】
結果として、DLL3-DualAE05/DualAE05-FF091は、DLL3CD3BiTEより強い効果と高いT細胞浸潤を示した(
図3および
図4)。さらに、DLL3-DualAE05/DualAE05-FF091処置群のT細胞は、PD-1、Tim-3、およびLAG3のより低い発現を有し(
図5)、このことは、DLL3-DualAE05/DualAE05-FF091がより低いT細胞疲弊を誘導することを示唆した。
【0310】
[実施例5]
非SCLC細胞株に対する抗DLL3-Dual-LINC抗体のin vitro有効性
非SCLC細胞株に対する、抗DLL3-Dual抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF110)および非標的対照(untargeted control)Dual-LINC抗体(Ctrl-DualAE05/DualAE05-FF110)のin vitro細胞傷害活性を、LDH細胞傷害活性検出キット(Takara Bio)によって評価した。NB-1細胞株(神経芽腫、JCRB細胞バンクIFO50295)およびQGP-1細胞株(膵島細胞がん、JCRB細胞バンクJCRB0183)を標的細胞として用いた。標的細胞を96ウェル培養プレート中に1×10
4細胞/ウェルで播種し、各濃度(10nM~0.00064nMの5倍段階希釈)で調製した抗体を加えた。その後、2×10
5細胞のヒト PBMCを加え、37℃にてインキュベートした。24時間後、高対照試料をTriton-X 100によって溶解し、50 μLの上清をすべてのウェルから収集した。細胞傷害活性(%)を製造業者のプロトコールに従って算出した。
図7に示されるように、抗DLL3-Dual-LINC抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF110)は、NB-1細胞株およびQGP-1細胞株を含む非SCLC細胞株に対してin vitro細胞殺傷活性を示した。
【0311】
[実施例6]
化学療法試薬との組み合わせでの抗DLL3-Dual-LINC抗体のin vivo有効性
抗DLL3-Dual-LINC抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF114)と白金試薬との組み合わせ治療の抗腫瘍有効性をDMS53小細胞肺がんモデルで評価した。NOG雌マウスをIn-Vivo Scienceから購入した。ヒト化のために、マウスを致死量以下で照射し、続いて1日後に、100,000個のヒト臍帯血細胞(LONZA)を注射した。DMS53細胞(ATCC CRL-2062)をMatrigel Basement Membrane Matrix(Corning)と混合して、ヒト化NOGマウスの右側腹部に接種した。腫瘍体積がおよそ150 mm
3であった9日目に、マウスを腫瘍体積および体重に基づいてランダム化し、ビヒクル(0.05%Tweenを含有するPBS)、1.3 mg/kg抗DLL3-Dual-LINC抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF114)、7.5 mg/kgシスプラチン(CDDP)、および40 mg/kgカルボプラチン(CBDCA)を単独療法としてまたは組み合わせで、静脈内(i.v.)注射した。結果として、抗DLL3-Dual-LINC抗体 DLL3-DualAE05/DualAE05-FF114と白金試薬との組み合わせは、CDDP、CBDCA、または抗DLL3-Dual-LINC抗体単独の単独療法より有意に高い有効性を示した(
図8)。
【0312】
[実施例7]
NCI-H1436を有するヒト化モデルに対する抗DLL3-Dual-LINC抗体のin vivo有効性
抗DLL3-Dual-LINC抗体 DLL3-DualAE05/DualAE05-FF114の抗腫瘍有効性をNCI-H1436小細胞肺がんモデルで評価した。NOG雌マウスをIn-Vivo Scienceから購入した。ヒト化のために、マウスを致死量以下で照射し、続いて1日後に、100,000個のヒト臍帯血細胞(LONZA)を注射した。NCI-H1436細胞(ATCC CRL-5871)をMatrigel Basement Membrane Matrix(Corning)と混合して、ヒト化NOGマウスの右側腹部に接種した。腫瘍体積がおよそ150 mm
3であった16日目に、マウスを腫瘍体積および体重に基づいてランダム化し、ビヒクル(0.05%Tweenを含有するPBS)、6.5 mg/kg抗DLL3-Dual-LINC抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF114)、および3.5 mg/kg DLL3CD3BiTEをi.v.注射した。抗DLL3-Dual-LINC抗体 DLL3-DualAE05/DualAE05-FF114およびDLL3CD3BiTEを単回用量でまたは毎週(QW)投与した。結果として、抗DLL3-Dual-LINC抗体 DLL3-DualAE05/DualAE05-FF114は、両方の治療レジメンにおいて、DLL3CD3BiTEより強い有効性を示した(
図9)。
【0313】
[実施例8]
他の非SCLC細胞株に対する抗DLL3-Dual-LINC抗体のin vitro有効性
他の非SCLC細胞株に対する、抗DLL3-Dual-LINC抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF110またはDLL3-DualAE05/DualAE05-FF114)および非標的対照Dual LINC抗体のin vitro細胞傷害活性を、実施例5に記載のように評価する。評価される非SCLC細胞株の例は、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)、大細胞型NEC(LCNEC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC)、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、および甲状腺髄様がんの細胞株である。
【0314】
[実施例9]
他の化学療法試薬またはチェックポイント阻害剤との組み合わせでの抗DLL3-Dual-LINC抗体のin vitroおよびin vivo有効性
SCLC細胞株または他の非SCLC細胞株に対する、他の化学療法試薬またはチェックポイント阻害剤(抗PD-L1抗体または抗PD1抗体)との組み合わせでの抗DLL3-Dual-LINC抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF110またはDLL3-DualAE05/DualAE05-FF114)のin vitro細胞傷害活性を、実施例5に記載されるような方法を用いて評価する。
他の化学療法試薬またはチェックポイント阻害剤(抗PD-L1抗体または抗PD1抗体)との組み合わせでの抗DLL3-Dual-LINC抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF110またはDLL3-DualAE05/DualAE05-FF114)のin vivo抗腫瘍有効性を、実施例6に記載されるようにDMS53小細胞肺がんモデルおよび他の非SCLCがんモデルで評価する。
この実施例では、評価される非SCLC細胞株(または非SCLCがんモデル)は、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、小細胞型NEC(SCNEC)、大細胞型NEC(LCNEC)、大細胞神経内分泌肺がん、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、メルケル細胞がん、小細胞膀胱がん、GI神経内分泌がん、甲状腺髄様がん(MTC)、膵消化管神経内分泌がん(GEP NEC)、神経芽腫、神経膠腫または膠芽腫(GBM)、黒色腫、および甲状腺髄様がんからなる群より選択されるがんの細胞株(またはがんモデル)である。
この実施例では、抗DLL3-Dual-LINC抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF110またはDLL3-DualAE05/DualAE05-FF114)による組み合わせ療法のために評価されるチェックポイント阻害剤は、ペムブロリズマブ、ピディリズマブ(ピディリズマブ)、ニモツズマブ(ニボルマブ)、アテゾリズマブ、およびデュルバルマブからなる群より選択され、特にアテゾリズマブである。
【0315】
[実施例10]
ステロイドまたはトシリズマブとの組み合わせでの抗DLL3-Dual-LINC抗体のin vivo有効性
サイトカイン放出症候群(CRS)は、T細胞エンゲージャーおよびCAR-T細胞などのT細胞関連治療剤の一般的な有害事象である。臨床では、CRSを制御するために、ステロイドおよび/またはトシリズマブによる治療が広く用いられている。したがって、ステロイドまたはトシリズマブとの組み合わせでの抗DLL3-Dual-LINC抗体(DLL3-DualAE05/DualAE05-FF114)のin vivo有効性を評価した。免疫ヒト化NOGマウスを、実施例7に記載されるように作製した。ヒトDLL3を発現するPC-10細胞(Immuno-Biological Laboratories)をヒト化NOGマウスの右側腹部に移植した。腫瘍体積がおよそ200 mm
3であったときに、腫瘍体積および体重に基づいてマウスをランダム化した。ステロイドによる前投与実験では、抗体注射の1および24時間前、または1時間前に、33 mg/kgデキサメタゾンを腹腔内に投与した。トシリズマブによる実験では、抗DLL3-Dual-LINC抗体の注射の1日前または6時間後に、10 mg/kgトシリズマブを投与した。血漿試料を、抗DLL3-Dual-LINC抗体の注射の前ならびに6、24、および96時間後に収集し、サイトカインの血漿濃度を、製造業者の指示に従ってHuman Cytokine/Chemokine Magnetic Bead Panel(HCYTMAG-60K-PX38, Millipore)を用いて測定した。結果として、デキサメタゾンによる前投与は、腫瘍成長阻害に影響を及ぼすことなく、サイトカイン産生の著しい低下を誘導した(
図10a)。同様に、トシリズマブの前投与および後投与は、抗DLL3-Dual-LINC抗体の抗腫瘍有効性にいかなる影響も有さなかった(
図10b)。
【産業上の利用可能性】
【0316】
本発明は、CD3およびCD137(4-1BB)に結合できるが、CD3およびCD137に同時には結合できず、かつDLL3に結合できる、多重特異性抗原結合分子を提供する。本発明の抗原結合分子は、CD3/CD37およびDLL3への結合を通じて、増強されたT細胞依存性細胞傷害活性をDLL3依存的に示す。抗原結合分子およびその医薬組成物は、種々のがん、特に、DLL3陽性がんなどのDLL3に関連するがんを治療するための免疫療法での使用のために、DLL3を発現する細胞を標的とするのに用いることができる。
【配列表】