(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】内接歯車ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/10 20060101AFI20240920BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F04C2/10 341F
F04C15/00 D
F04C15/00 G
F04C2/10 341E
(21)【出願番号】P 2020176612
(22)【出願日】2020-10-21
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000241267
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトフルードパワーシステム
(72)【発明者】
【氏名】判治 正廣
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-206072(JP,A)
【文献】特開平05-099159(JP,A)
【文献】特開2011-122548(JP,A)
【文献】特開2016-200096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプハウジングの収容孔に内歯を有するリング状の内歯歯車を回転自在に収容し、内歯歯車の内歯と内接噛み合いする外歯を有する外歯歯車を内歯歯車の内部に偏心して収容し、両歯車間には両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が増加する領域に吸入域空間を形成し、両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が減少する領域に吐出域空間を形成し、内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯とによりポンプ室を区画形成し、ポンプ室は両歯車の回転により吸入域空間で容積を増加すると共に、吐出域空間で容積を減少して設け、両歯車は一側面を軸方向に窪ませて凹部を形成し、
内歯歯車に形成の凹部は環状に形成し、内周を内歯に沿った形状で内歯より若干大きく設け、凹部内周に内周薄肉部を形成し、外歯歯車に形成の凹部は環状に形成し、外周を外歯に沿った形状で外歯より若干小さく設け、凹部外周に外周薄肉部を形成し、一側面と対向する他側面を平坦に形成し、ポンプハウジングは両歯車の一側面が摺接する一摺接面を平坦に形成すると共に、両歯車の他側面が摺接する他摺接面に、吸入域空間へ連通して液体を吸入する吸入ポートと、吐出域空間に連通して液体を吐出する吐出ポートとを開口し、凹部には吐出域空間より吐出ポートを流れて吐出する液体の一部を
内周薄肉部先端と一摺接面との間および外周薄肉部先端と一摺接面との間を介して導入すると共に、凹部の液体の一部を
内周薄肉部先端と一摺接面との間および外周薄肉部先端と一摺接面との間を介して吸入域空間から吸入ポートに導出し、凹部の圧力は吐出ポートの圧力より低く吸入ポートの圧力より高い中間圧力としたことを特徴とする内接歯車ポンプ。
【請求項2】
前記両歯車を合成樹脂製としたことを特徴とする請求項
1に記載の内接歯車ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状の内歯歯車の内部に偏心して外歯歯車を収容し、両歯車を回転駆動して液体を吸入吐出する内接歯車ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内接歯車ポンプは、リング状の内歯歯車の内部に偏心して外歯歯車を収容し、両歯車の回転駆動で液体を吸入ポートより吸入して吐出ポートより吐出している。そして、外歯歯車は両側面を軸方向に窪ませて環状の凹部を形成し、軽量化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、かかる従来の内接歯車ポンプでは、ポンプハウジングに弧状に形成した吸入ポートと吐出ポートに環状の凹部が連通しないよう凹部を小径に形成しているため、凹部は小さく外歯歯車の満足のいく軽量化を図り難い問題点があった。
【0005】
本発明の課題は、外歯歯車および内歯歯車の軽量化を図り得る内接歯車ポンプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を達成すべく、本発明は次の手段をとった。即ち、
ポンプハウジングの収容孔に内歯を有するリング状の内歯歯車を回転自在に収容し、内歯歯車の内歯と内接噛み合いする外歯を有する外歯歯車を内歯歯車の内部に偏心して収容し、両歯車間には両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が増加する領域に吸入域空間を形成し、両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が減少する領域に吐出域空間を形成し、内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯とによりポンプ室を区画形成し、ポンプ室は両歯車の回転により吸入域空間で容積を増加すると共に、吐出域空間で容積を減少して設け、両歯車は一側面を軸方向に窪ませて凹部を形成し、内歯歯車に形成の凹部は環状に形成し、内周を内歯に沿った形状で内歯より若干大きく設け、凹部内周に内周薄肉部を形成し、外歯歯車に形成の凹部は環状に形成し、外周を外歯に沿った形状で外歯より若干小さく設け、凹部外周に外周薄肉部を形成し、一側面と対向する他側面を平坦に形成し、ポンプハウジングは両歯車の一側面が摺接する一摺接面を平坦に形成すると共に、両歯車の他側面が摺接する他摺接面に、吸入域空間へ連通して液体を吸入する吸入ポートと、吐出域空間に連通して液体を吐出する吐出ポートとを開口し、凹部には吐出域空間より吐出ポートを流れて吐出する液体の一部を内周薄肉部先端と一摺接面との間および外周薄肉部先端と一摺接面との間を介して導入すると共に、凹部の液体の一部を内周薄肉部先端と一摺接面との間および外周薄肉部先端と一摺接面との間を介して吸入域空間から吸入ポートに導出し、凹部の圧力は吐出ポートの圧力より低く吸入ポートの圧力より高い中間圧力としたことを特徴とする内接歯車ポンプがそれである。
【0007】
この場合、前記両歯車を合成樹脂製としてもよい。
【発明の効果】
【0008】
以上詳述したように、請求項1に記載の発明は、両歯車は一側面を軸方向に窪ませて凹部を形成し、一側面と対向する他側面を平坦に形成し、ポンプハウジングは両歯車の一側面が摺接する一摺接面を平坦に形成すると共に、両歯車の他側面が摺接する他摺接面に、吸入域空間へ連通して液体を吸入する吸入ポートと、吐出域空間に連通して液体を吐出する吐出ポートとを開口した。このため、凹部を形成した両歯車の一側面はポンプハウジングの平坦に形成した一摺接面と摺接するから、凹部はポンプハウジングの他摺接面に開口する吸入ポートと吐出ポートに影響されずに大きく形成することが可能で、外歯歯車および内歯歯車の一層の軽量化を図ることができる。また、ポンプハウジングは一摺接面を平坦に形成したから、形状を簡素化できて安価に製作することができる。
【0009】
また、請求項1に記載の発明は、凹部には吐出域空間より吐出ポートを流れて吐出する液体の一部を内周薄肉部先端と一摺接面との間および外周薄肉部先端と一摺接面との間を介して導入すると共に、凹部の液体の一部を内周薄肉部先端と一摺接面との間および外周薄肉部先端と一摺接面との間を介して吸入域空間から吸入ポートに導出し、凹部の圧力は吐出ポートの圧力より低く吸入ポートの圧力より高い中間圧力とした。このため、凹部の中間圧力は両歯車の他側面に作用する吐出ポートの圧力に対向して両歯車に作用するから、両歯車がポンプハウジングの一摺接面へ過度に押し付けられることを軽減できる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、両歯車を合成樹脂製とした。このため、両歯車をより一層の軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態を示した内接歯車ポンプの
図2の線A-Aに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1および
図2において、1はポンプ本体で、有底の収容孔2を形成している。3は蓋部材で、収容孔2の開口を閉じるようポンプ本体1に取付けている。そして、ポンプ本体1と蓋部材3は金属製であり、ポンプ本体1と蓋部材3とでポンプハウジング4を構成している。5はリング状の内歯歯車で、8個の内歯5Aを有し、収容孔2へ回転自在に収容している。6は外歯歯車で、内歯5Aと内接噛み合いする7個の外歯6Aを有し、内歯歯車5の内部に偏心して収容している。両歯車5、6はそれぞれ合成樹脂の成形品である。内歯歯車5の軸方向の一側面5Bおよび外歯歯車6の軸方向の一側面6Bは、収容孔2の底面にそれぞれ摺接可能とし、この底面をポンプハウジング4の一摺接面4Aとし、平坦に形成している。
【0013】
両歯車5、6は一側面5B、6Bを軸方向に窪ませて凹部5C、6Cを形成している。内歯歯車5に形成の凹部5Cは環状に形成し、外周を内歯歯車5の外周より若干小径に設けている。また、凹部5Cは内周を内歯5Aに沿った形状で内歯5Aより若干大きく設けている。また、凹部5Cは軸方向の深さ寸法を内歯歯車5の幅寸法より若干小さく設けている。内歯歯車5は、凹部5C外周に外周薄肉部5Dを形成し、凹部5C内周に内周薄肉部5Eを形成し、凹部5C底面に底面薄肉部5Fを形成している。
【0014】
外歯歯車6に形成の凹部6Cは環状に形成し、外周を外歯6Aに沿った形状で外歯6Aより若干小さく設けている。また、凹部6Cは内周を径方向中心に軸方向へ貫通形成の貫通孔7より大径に設けている。また、凹部6Cは軸方向の深さ寸法を外歯歯車6の幅寸法より若干小さく設けている。外歯歯車6は、凹部6C外周に外周薄肉部6Dを形成し、凹部6C内周にボス部6Eを形成し、凹部6C底面に底面薄肉部6Fを形成している。貫通孔7は縦断面で略D字形状で、先端部の縦断面を略D字形状にした駆動軸8を嵌合している。駆動軸8はポンプ本体1に配置したシール部材9で軸封し、外歯歯車6を回転駆動する。
【0015】
両歯車5、6は一側面5B、6Bと対向する他側面5G、6Gを平坦に形成している。両歯車5、6の他側面5G、6Gは収容孔2の開口を閉じる蓋部材3の側面に摺接し、この側面をポンプハウジング4の他摺接面4Bとし、平坦に形成している。Sは吸入域空間、Pは吐出域空間でそれぞれ両歯車5、6間に備え、吸入域空間Sは両歯車5、6の回転により両歯5A、6A間の噛み合い隙間が増加する領域に形成している。また、吐出域空間Pは両歯車5、6の回転により両歯5A、6A間の噛み合い隙間が減少する領域に形成している。Tはポンプ室で、内歯歯車5の内歯5Aと外歯歯車6の外歯6Aとにより複数個を区画形成し、両歯車5、6の回転により吸入域空間Sで容積を増加すると共に、吐出域空間Pで容積を減少して設ける。
【0016】
10は吸入域空間Sに連通する吸入ポートで、ポンプハウジング4の他摺接面4Bに半円弧状に窪み形成して開口している。11は吸入ポート10に接続する吸入流路で、蓋部材3に形成し、低圧側から吸入する液体を流通する。12は吐出域空間Pに連通する吐出ポートで、ポンプハウジング4の他摺接面4Bに半円弧状に窪み形成し、吸入ポート10と径方向の対称位置に開口している。13は吐出ポート12に接続する吐出流路で、蓋部材3に形成し、負荷側に吐出する液体を流通する。
【0017】
凹部5Cは、吐出域空間Pより吐出ポート12に吐出する液体の一部(微量)が、内周薄肉部5E先端とポンプハウジング4の一摺接面4Aとの間を介して内部に導入すると共に、内部の液体の一部が内周薄肉部5E先端とポンプハウジング4の一摺接面4Aとの間を介して吸入域空間Sより吸入ポート10へ導出し、吐出ポート12の圧力より低く吸入ポート10の圧力より高い中間圧力となる。
【0018】
凹部6Cは、吐出域空間Pより吐出ポート12に吐出する液体の一部(微量)が、外周薄肉部6D先端とポンプハウジング4の一摺接面4Aとの間を介して内部に導入すると共に、内部の液体の一部が外周薄肉部6D先端とポンプハウジング4の一摺接面4Aとの間を介して吸入域空間Sより吸入ポート10へ導出し、吐出ポート12の圧力より低く吸入ポート10の圧力より高い中間圧力となる。
【0019】
次に、かかる構成の作動を説明する。
駆動軸8により外歯歯車6を回転駆動すると、外歯歯車6と内接噛み合いする内歯歯車5が回転駆動され、低圧側から液体が吸入流路11を流れ、吸入ポート10から吸入域空間Sに吸入されて吐出域空間Pに搬送され、吐出ポート12より吐出流路13を流れて吐出される。
【0020】
このとき、吐出域空間Pより吐出ポート12を流れて吐出する液体の一部(微量)は、内歯歯車5の内周薄肉部5E先端とポンプハウジング4の一摺接面4Aとの間を介して凹部5Cに導入すると共に、外歯歯車6の外周薄肉部6D先端とポンプハウジング4の一摺接面4Aとの間を介して凹部6Cに導入する。
【0021】
また、凹部5Cの液体の一部(微量)は、内周薄肉部5E先端とポンプハウジング4の一摺接面4Aとの間を介して吸入域空間Sから吸入ポート10に導出する。また、凹部6Cの液体の一部(微量)は、外周薄肉部6D先端とポンプハウジング4の一摺接面4Aとの間を介して吸入域空間Sから吸入ポート10に導出する。よって、凹部5C、6Cは吐出ポート12の圧力より低く吸入ポート10の圧力より高い中間圧力となる。
【0022】
かかる作動において、両歯車5、6は、一側面5B、6Bを軸方向に窪ませて凹部5C、6Cを形成し、一側面5B、6Bと対向する他側面5G、6Gを平坦に形成し、ポンプハウジング4は両歯車5、6の一側面5B、6Bが摺接する一摺接面4Aを平坦に形成すると共に、両歯車5、6の他側面5G、6Gが摺接する他摺接面4Bに、吸入域空間Sへ連通して液体を吸入する吸入ポート10と、吐出域空間Pに連通して液体を吐出する吐出ポート12とを開口した。このため、凹部5C、6Cを形成した両歯車5、6の一側面5B、6Bはポンプハウジング4の平坦に形成した一摺接面4Aと摺接するから、凹部5C、6Cはポンプハウジング4の他摺接面4Bに開口する吸入ポート10と吐出ポート12に影響されずに大きく形成することが可能で、外歯歯車6および内歯歯車5の一層の軽量化を図ることができる。また、ポンプハウジング4は一摺接面4Aを平坦に形成したから、形状を簡素化できて安価に製作することができる。
【0023】
また、凹部5C、6Cの圧力は吐出ポート12の圧力より低く吸入ポート10の圧力より高い中間圧力とした。このため、凹部5C、6Cの中間圧力は両歯車5、6の他側面5G、6Gに作用する吐出ポート12の圧力に対向して両歯車5、6に作用するから、両歯車5、6がポンプハウジング4の一摺接面4Aへ過度に押し付けられることを軽減できる。
【0024】
また、両歯車5、6を合成樹脂製とした。このため、両歯車5、6をより一層の軽量化を図ることができる。
【0025】
なお、前述の一実施形態では、ポンプハウジング4をポンプ本体1と蓋部材3とで構成したが、ポンプハウジングを両歯車を収容する収容孔を貫通形成する第1部材と第1部材の一方側に取付けて両歯車の一側面が摺接する第2部材と第1部材の他方側に取付けて両歯車の他側面が摺接する第3部材との3つの部材で構成してもよい。また、外歯歯車6を回転駆動する駆動軸8を嵌合する貫通孔7は縦断面で略D字形状に形成したが、貫通孔を縦断面で二面幅形状やスプライン形状に形成してもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0026】
2:収容孔
4:ポンプハウジング
4A:一摺接面
4B:他摺接面
5:内歯歯車
5A:内歯
5B、6B:一側面
5C、6C:凹部
5G、6G:他側面
6:外歯歯車
6A:外歯
10:吸入ポート
12:吐出ポート
S:吸入域空間
P:吐出域空間
T:ポンプ室