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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】自動車用物品の接着構造
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/52 20060101AFI20240920BHJP
   B60R 13/04 20060101ALI20240920BHJP
   B60J 1/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B29C65/52
B60R13/04 Z
B60J1/02 111A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021178400
(22)【出願日】2021-10-30
(65)【公開番号】P2023067302
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2023-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000219705
【氏名又は名称】東海興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136113
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】神谷 浩二
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-038023(JP,A)
【文献】特開昭54-088518(JP,A)
【文献】特開昭57-074113(JP,A)
【文献】特開昭59-096028(JP,A)
【文献】特開2015-112985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
B60R 13/04
B60J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の大きさ以下の部材とが接着されて成り、自動車に組み付けられる自動車用物品の接着構造であって、
前記基材と前記部材との接着領域の外周に、前記基材と前記部材との対向面が離間してできた空間からなる溝が形成されており
前記接着領域に接着剤を塗布した後、前記基材と前記部材とが圧接され、前記溝は外側に開口している、自動車用物品の接着構造。
【請求項2】
前記溝が、前記基材と前記部材との対向面のうち、いずれか一方又は双方の対向面を凹ませてなる、請求項1に記載の自動車用物品の接着構造。
【請求項3】
前記溝の断面形状が矩形である、請求項1又は請求項2に記載の自動車用物品の接着構造。
【請求項4】
前記基材は、本体部と、該本体部の外周縁の少なくとも一部に形成され、弾性変形可能なリップ部とを有し、
前記溝が、前記基材のリップ部よりも内側に形成されている、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の自動車用物品の接着構造。
【請求項5】
前記部材が、前記基材の本体部に接着されている、請求項4に記載の自動車用物品の接着構造。
【請求項6】
前記基材に、前記部材を位置決めするための印が形成されている、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の自動車用物品の接着構造。
【請求項7】
前記自動車用物品が、フロントピラーに組み付けられたピラーガーニッシュの下端に組み付けられる整流板であり、
前記部材が、前記基材の裏面に接着される補強材である、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の自動車用物品の接着構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と、該基材の大きさ以下の部材とが接着されて成り、自動車に組み付けられる自動車用物品の接着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、種々の自動車用物品(以下、単に物品と称す)が多数組み付けられている。例えば特許文献1には、フロントガラス横縁のフロントピラーに沿って組み付けられたピラーガーニッシュ、フロントガラスの下縁に組み付けられたカウルルーバー、及びピラーガーニッシュの下端とカウルルーバーの横端との間のコーナー部に配された下端コーナー部1bが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-127661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車に組み付けられる物品には、基材に対して基材よりも小さな部材が接着されて成る物がある。例えば、特許文献1の下端コーナー部には、板状の基材の裏面に補強材が接着されて成る整流板が組み付けられることがある。この場合、基材と補強材とを強固に接着するために十分量の接着剤を塗布し両者を圧着した際に、接着剤が補強材の外周縁から外部へ流出することがある。このとき、流出した接着剤が周辺部位や他の周辺物品へ付着すると、接着剤が白くなって見栄えが悪くなったり、周辺部位や他の周辺物品の機能を阻害する可能性もある。例えば、整流板の基材の外周に周辺部位として弾性変形可能なリップ部が形成されている場合、当該リップ部に接着剤が付着すると、その弾性変形性が阻害されてしまう。
【0005】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、基材と部材とを接着する際に、接着剤が不用意に周辺部位等まで流出することが無い、自動車用物品の接着構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのための手段として、本発明は次の手段を採る。
(1)基材と、該基材の大きさ以下の部材とが接着されて成り、自動車に組み付けられる自動車用物品の接着構造であって、
前記基材と前記部材との接着領域の外周に、前記基材と前記部材との対向面が離間してできた空間からなる溝が形成されており
前記接着領域に接着剤を塗布した後、前記基材と前記部材とが圧接され、前記溝は外側に開口している、自動車用物品の接着構造。
(2)前記溝が、前記基材と前記部材との対向面のうち、いずれか一方又は双方の対向面を凹ませてなる、(1)に記載の自動車用物品の接着構造。
(3)前記溝の断面形状が矩形である、(1)又は(2)に記載の自動車用物品の接着構造。
(4)前記基材は、本体部と、該本体部の外周縁の少なくとも一部に形成され、弾性変形可能なリップ部とを有し、
前記溝が、前記基材のリップ部よりも内側に形成されている、(1)ないし(3)のいずれかに記載の自動車用物品の接着構造。
(5)前記部材が、前記基材の本体部に接着されている、(4)に記載の自動車用物品の接着構造。
(6)前記基材に、前記部材を位置決めするための印が形成されている、(1)ないし(5)のいずれかに記載の自動車用物品の接着構造。
(7)前記自動車用物品が、フロントピラーに組み付けられたピラーガーニッシュの下端に組み付けられる整流板であり、
前記部材が、前記基材の裏面に接着される補強材である、(1)ないし(6)のいずれかに記載の自動車用物品の接着構造。
【発明の効果】
【0007】
上記手段(1)によれば、基材と部材との間に十分量の接着剤を塗布し両者を圧接した際に、接着剤を塗布した領域である接着領域の外周に向けて接着剤が流動しても、当該接着領域の外周には溝が形成されているので、接着剤は溝内に溜まる。これにより、樹脂成型品同士を接着する際に、接着剤が不用意に周辺部位等まで流出することを防ぐことができる。また、接着剤の流出を避けるために接着剤の塗布量をあえて少なくする必要がないため、周辺部位等への悪影響を避けながら十分な接着強度を確保することができる。
【0008】
上記手段(2)によれば、基材及び部材の形状や厚み、及び接着部位等に応じて基材と部材との一方又は双方を凹ませるだけで溝を形成できるので、設計自由度が高く生産性も良い。
【0009】
上記手段(3)によれば、溝の断面形状を円弧形やV字形等にするよりも接着剤の収容空間を大きく取れる。これにより、比較的小さな溝でも最大限接着剤を溜めることができるので、接着剤の塗布量を必要以上に抑制する必要もなくなる。
【0010】
上記手段(4)によれば、リップ部よりも内側に溝が形成されているので、流出した接着剤が溝によって堰き止められ、接着剤によってリップ部の弾性変形性が阻害されることを避けることができる。
【0011】
上記手段(5)によれば、リップ部の弾性変形性を保ちながら、基材の本体部に部材を接着することができる。
【0012】
上記手段(6)によれば、部材を基材へ接着する所定位置を把握し易い。
【0013】
上記手段(7)によれば、整流板の基材の裏面に補強材を接着するような場合でも、接着剤による悪影響を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】自動車のフロントガラス周辺の要部拡大斜視図である。
図2】整流板の表面側斜視図である。
図3】整流板の裏面側斜視図である。
図4】整流板の裏面側分解斜視図である。
図5】補強板の表面側斜視図である。
図6図3のA-A線断面図である。
図7】変形例1の要部拡大断面図である。
図8】変形例2の要部拡大断面図である。
図9参考例の要部拡大断面図である。
図10】変形例4の要部拡大断面図である。
図11】変形例5の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の代表的な実施例を挙げて具体的に説明する。本実施形態の自動車用物品は、図1に示すように、自動車1のフロントガラス2の横縁を覆うピラーガーニッシュ4の下端に組み付けられた整流板10である。詳しくは、フロントガラス2側縁のフロントピラー3にピラーガーニッシュ4が組み付けられており、フロントガラス2の下縁にはカウルルーバー5が組み付けられている。そのうえで、ピラーガーニッシュ4の下端とカウルルーバー5の側端との間のフロントガラス2のコーナー部を覆うように、個別部品として整流板10が組み付けられている。なお、符号6はフェンダーパネルであり、符号7はフードパネルである。
【0016】
図2及び図3に示すように、整流板10は、フロントガラス2のコーナー部に沿った略L字状の板材であって、基材11と、基材11の裏面に接着された補強材12とを有する。基材11は、本体部11aと、本体部11aと一体成形されたリップ部11bとからなる。基材11用の材料としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、又はゴムを使用可能である。具体的には、オレフィン系、スチレン系、エステル系、ポリアミド系、塩化ビニル系、又はウレタン系の各種熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーのほか、天然ゴムやエチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)等が挙げられる。
【0017】
リップ部11bは、本体部11aよりも薄肉で弾性変形可能な部位であって、ピラーガーニッシュ4の下縁と当接する本体部11aの上縁を除いた外周全体に亘って設けられている。このリップ部11bがフロントガラス2やフロントピラー3に弾接することで、フロントガラス2のコーナー部へ整流板10をシール性よく密着させることができる。なお、リップ部11bは、本体部11aよりも軟質な材料で本体部11aと一体成形してもよいし、予め別途成形しておいたリップ部11bを、本体部11aの射出成型時にインサート成形したり、本体部11aへ接着材や両面テープで接着することもできる。
【0018】
そのうえで、図4に示すように、整流板10の裏面には、補強用の補強材12が接着されている。詳しくは、整流板10の本体部11aの裏面に、補強材12が接着されている。補強材12は射出成形品であって、基材11よりも剛性の高い材料が用いられる。具体的には、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体(AEPDS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、又はポリプロピレン(PP)が挙げられる。補強材12が、本発明の部材に相当する。
【0019】
補強材12は、本体部11aを全体的に補強できるように、本体部11aとほぼ同じ形状、大きさに成形された板材である。図5に示すように、補強材12の外周縁には、表面側から裏面側に向けて薄肉状に凹ませた段部からなる溝12aが全周に亘って形成されている。
【0020】
補強材12を本体部11aの裏面に接着する際は、図5の太線で示すように、補強材12の外周縁から若干内側の部位(本実施形態では外周縁から約5mmの部位)において、全周縁に沿って接着剤Gを線状に塗布し、補強材12を本体部11aの裏面に圧接して接着剤Gを固化させる。このとき、本体部11aの裏面には、図4に示すように補強材12の位置決め用の位置決め印13が予め形成されている。位置決め印13は、本体部11aの射出成型時に形成することもできるし、本体部11aを成形した後、切削、焼印、又はプリント等によって刻印することもできる。本実施形態では位置決め印13をライン状に形成しているが、点印、三角印、矢印等とすることもできる。そして、補強材12の上縁を位置決め印13に位置合わせすることで、補強材12を正確な位置に接着することができる。位置決め印13の形成位置は、補強材12の上縁に相当する部位に限らず、その他の部位に相当する位置へ形成してもよい。
【0021】
補強材12を本体部11aの裏面へ位置決め当接すると、図6に示すように、接着剤Gを塗布した接着領域の外周に、基材11と補強材12の対向面が離間した空間からなる溝12aが存在していることになる。本実施形態では、溝12aの断面形状は矩形である。また、溝12aはリップ部11bよりも内側に存在している。
【0022】
接着剤Gは、補強材12の表面に塗布しても良いし、本体部11aの裏面に塗布しても良い。また、線状に塗布するほか、塗布ラインに沿って点在するように塗布することもできるし、平面方向中央部に塗布することもできる。接着剤Gとしては、この種の樹脂成形品の接着用として従来から用いられた公知の接着剤を特に制限なく使用できる。代表的には、東亜合成社製の「アロンアルフア」(登録商標)が好適である。接着剤Gを塗布する前に接着面へプライマーを塗布しておくと、接着強度を向上できる点で好ましい。
【0023】
補強材12を本体部11aへ圧接すると、接着材Gが圧し潰されることで、塗布ラインから内外周側へ向けて圧し拡がる。このとき、内周側へ圧し拡がった接着材Gは問題ないが、外周側へ圧し拡がった接着剤Gは、補強材12の外周縁から外部へ流出する恐れがある。しかし、この場合でも、補強材12の外周縁に溝12aが形成されていることで、外部へ流出した接着剤Gは、図6に示すように溝12aの内面(本体部11aの裏面と補強材12の表面)に接触して溝12aの内部に溜まるだけである。すなわち、接着剤Gの流出が溝12aによって防止されることで、接着剤Gはリップ部11bまでは至らない。これにより、リップ部11bの弾性変形性が接着剤Gによって阻害されることを避けることができる。また、溝12aを基材11ではなく補強材12に形成することで基材11の肉厚が薄くならないため、基材11の剛性の低下や整流板10(基材11)の表面への悪影響を防止できる。更に、溝12aが外側に開口しているため、接着剤Gの塗布量や塗布した部位が適切かどうかを外側から確認することができる。
【0024】
溝12aの内部容量(空間体積)は、接着剤Gの塗布量、塗布位置、流動性等に応じて適宜設計し、外部へ流出し得る接着剤Gを内部へ溜め留めることができる必要最低限の大きさとすることが好ましい。溝12aの内部容量が大きすぎると、補強範囲や接着範囲が小さくなってしまったり、接着剤Gのうち溝12aの内面に接触していない部分が溝12aの外に流れ出してしまったりする。一方、溝12aの内部容量が小さすぎると、流出してきた接着剤Gが溝12aから溢れ出してリップ部11bまで流出してしまう虞れがある。
【0025】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、これに限らず本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、図7に示す変形例1のように、溝12aは基材11の裏面を凹ませて形成して溝12aの奥側(内側)が開口側(外側)よりも広くなるようにすることもできる。なお、補強材12の外周縁ギリギリまで接着剤Gを塗布する場合は、接着剤Gが溝21の外に出てしまわず溝12aに入るように接着剤Gを塗布する範囲を調整すると良い。また、図8に示す変形例2のように、溝12aは基材11と補強材12の対向面の双方を凹ませて形成することもできる。また、図9に示す参考例のように、溝12aは補強材12の外周縁に形成するほか、接着領域の外周に存在する限り、補強材12の外周縁から若干内側の外周縁部へ形成することもできる。また、図10図11に示す変形例4や変形例5のように、溝12aの内面を斜面や円弧形とすることもできる。なお、図10及び図11では、溝12aの形状が判り易いように、接着剤Gは敢えて図示していない。また、複数段階の段差により溝12aを形成することもできる。また、溝12aの断面形状をV字型、U字型、鉤型等とすることもできる。
【0026】
補強材12の裏面にクリップやクリップの取付け座を形成し、クリップで整流板10を車体に取り付けても良い。
【0027】
また、本発明の適用対象となる自動車用物品としては、整流板に限らず、基材に対して基材以下の大きさの部材が接着されることがある物品であれば、特に限定されない。具体的には、ドアトリム、デッキトリム、グローブボックス、コンソールボックス、コラムカバー、インストルメントパネル、オーディオパネル、オートエアコンパネル、クオーターパネル、パッケージトレイ、リアトレイ、スイッチベゼル、操作系ノブ、ラジエーターグリル、サイドミラーカバー、アウターパネル、スポイラー、サイドバイザー、ホイールカバー、ピラーガーニッシュ等が挙げられる。これらの自動車用物品は、付加機能、付加機構、又は付加性能等を付与するため基材に対して種々の部材を接着することがある。
【符号の説明】
【0028】
1 自動車
2 フロントガラス
3 フロントピラー
4 ピラーガーニッシュ
5 カウルルーバー
10 整流板
11 基材
11a 本体部
11b リップ部
12 補強材
12a 溝
13 位置決め印
G 接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11