(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電子部品
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20240920BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20240920BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20240920BHJP
H01L 23/522 20060101ALI20240920BHJP
H01L 21/60 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H03H9/145 D
H01L21/88 T
H01L21/92 602A
(21)【出願番号】P 2019227235
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-02-04
【審判番号】
【審判請求日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018236994
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019170015
(32)【優先日】2019-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆太
(72)【発明者】
【氏名】豊田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】藤屋 正晴
(72)【発明者】
【氏名】竹下 徹
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌明
【合議体】
【審判長】高野 洋
【審判官】千葉 輝久
【審判官】馬場 慎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-100951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
H01L21/88-21/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に設けられた機能電極と、
前記基板に設けられており、前記機能電極に電気的に接続された配線電極と、
前記配線電極上に設けられたパッド電極と、
前記パッド電極上に設けられたAuバンプとを備え、
前記配線電極の最上層が第1のTi層であり、
前記パッド電極の最上層がAu層であり、
平面視で、少なくともAuバンプと重なる部分における前記第1のTi層の厚みが、平面視で前記Auバンプと重ならない部分の内の少なくとも一部の前記第1のTi層の厚みよりも大きく、
前記配線電極がAl層及びAlCu層のうち少なくとも一方を有し、
前記パッド電極が第2のTi層を有し、前記第2のTi層が、前記配線電極の前記第1のTi層上に積層されている、電子部品。
【請求項2】
平面視において、前記パッド電極よりも、前記配線電極が大きく、平面視で前記パッド電極の外側に位置している前記第1のTi層の少なくとも一部の厚みよりも、前記Auバンプと重なっている部分における前記第1のTi層の厚みが大きい、請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
平面視において、前記パッド電極の外側における前記第1のTi層の厚みよりも、前記Auバンプと重なっている部分における前記第1のTi層の厚みが大きい、請求項2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記第1のTi層に、前記配線電極側から前記パッド電極側に至るにつれて細くなるように前記パッド電極の外側においてテーパーが付与されており、前記パッド電極の外側における前記第1のTi層の厚みより、前記Auバンプと重なっている部分における前記第1のTi層の厚みが大きくされている、請求項3に記載の電子部品。
【請求項5】
前記第1のTi層に段差が設けられており、平面視において前記段差の内側の厚みに比べて、前記段差の外側の厚みが薄くされている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の電子部品。
【請求項6】
前記第2のTi層が、前記第1のTi層上に直接積層されている、請求項1に記載の電子部品。
【請求項7】
前記第1のTi層と前記第2のTi層との間に界面が形成されている、請求項6に記載の電子部品。
【請求項8】
前記配線電極の前記第1のTi層の少なくともAuバンプと重なる部分における厚みが、前記パッド電極の前記第2のTi層の厚みよりも薄い、請求項1,6又は7に記載の電子部品。
【請求項9】
前記配線電極の前記第1のTi層の少なくともAuバンプと重なる部分における厚みが、前記パッド電極の前記第2のTi層の厚みよりも厚い、請求項1,6又は7に記載の電子部品。
【請求項10】
基板と、
前記基板に設けられた機能電極と、
前記基板に設けられており、前記機能電極に電気的に接続された配線電極と、
前記配線電極上に設けられたパッド電極と、
前記パッド電極上に設けられたAuバンプとを備え、
前記配線電極の最上層が第1のTi層であり、
前記パッド電極の最上層がAu層であり、
平面視において、前記パッド電極よりも、前記配線電極が大きく、平面視で前記パッド電極の外側に位置している前記第1のTi層の少なくとも一部の厚みよりも、前記Auバンプと重なっている部分における前記第1のTi層の厚みが大きく、
平面視において、前記パッド電極の外側における前記第1のTi層の厚みよりも、前記Auバンプと重なっている部分における前記第1のTi層の厚みが大きく、
前記第1のTi層に、前記配線電極側から前記パッド電極側に至るにつれて細くなるように前記パッド電極の外側においてテーパーが付与されており、前記パッド電極の外側における前記第1のTi層の厚みより、前記Auバンプと重なっている部分における前記第1のTi層の厚みが大きくされている、電子部品。
【請求項11】
前記配線電極がAl層を有し、
前記パッド電極が第2のTi層を有し、前記第2のTi層が、前記配線電極の前記第1のTi層上に積層されている、請求項10に記載の電子部品。
【請求項12】
前記第2のTi層が、前記第1のTi層上に直接積層されている、請求項11に記載の電子部品。
【請求項13】
前記配線電極の前記第1のTi層の少なくともAuバンプと重なる部分における厚みが、前記パッド電極の前記第2のTi層の厚みよりも薄い、請求項11又は12に記載の電子部品。
【請求項14】
前記配線電極の前記第1のTi層の少なくともAuバンプと重なる部分における厚みが、前記パッド電極の前記第2のTi層の厚みよりも厚い、請求項11又は12に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線電極上に、パッド電極及びAuバンプが積層されている構造を有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、配線電極上に、パッド電極及びAuバンプが積層されている構造が示されている。ここでは、配線電極の最上層がTiからなる。配線電極上に設けられたパッド電極は、下から順に、Ti層、Pt層及びAu層を有する。Au層上に、Auバンプが接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電子部品では、配線電極の最上層に位置しているTi層が厚いと、配線電極の抵抗値が高くなる。そのため、損失が大きくなるという問題があった。他方、配線電極の最上層のTi層が薄いと、Au層上にTiが析出する量が多くなることを本願発明者は見出した。そのため、Au層とAuバンプとの接合強度が低くなることがあった。
【0005】
本発明の目的は、低損失であり、かつAu層とAuバンプとの接合強度の低下が生じ難い、電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電子部品は、配線電極と、前記配線電極上に設けられたパッド電極と、前記パッド電極上に設けられたAuバンプとを備え、前記配線電極の最上層が第1のTi層であり、前記パッド電極の最上層がAu層であり、平面視で、少なくともAuバンプと重なる部分における前記第1のTi層の厚みが、平面視で前記Auバンプと重ならない部分の内の少なくとも一部の前記第1のTi層の厚みよりも大きい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低損失であり、Au層とAuバンプとの接合強度が十分に高い電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電子部品の要部を説明するための正面断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態の電子部品を説明するための正面断面図である。
【
図3】第1のTi層の厚みが0nmであり、第1のTi層が設けられていない比較例の弾性波装置における電極積層構造を示すEDX写真である。
【
図4】(a)は、第1のTi層の厚みが50nmである実施例の電子部品における電極積層構造のEDX写真であり、(b)は、Tiのみを析出したときのEDX写真である。
【
図5】(a)は、第1のTi層の厚みが200nmである実施例の電子部品における電極積層構造のEDX写真であり、(b)は、Tiのみを析出したときのEDX写真である。
【
図6】(a)は、第1のTi層の厚みが300nmである実施例の電子部品における電極積層構造のEDX写真であり、(b)は、Tiのみを析出したときのEDX写真である。
【
図7】第1の実施形態の電子部品の変形例を説明するための正面断面図である。
【
図8】第1の実施形態の電子部品の他の変形例を説明するための正面断面図である。
【
図9】第1の実施形態の電子部品のさらに他の変形例を説明するための正面断面図である。
【
図10】本発明の電子部品における電極積層構造の製造方法を説明するための正面断面図である。
【
図11】本発明の電子部品における電極積層構造の製造方法を説明するための正面断面図であり、レジストを形成した状態を示す図である。
【
図12】本発明の電子部品における電極積層構造を形成する工程において、Au層を削った工程と、第1のTi層の一部をエッチングにより除去した後の状態を示す正面断面図である。
【
図13】
図12に示す工程を経て得られた電子部品の電極構造を示す正面断面図である。
【
図14】第2の実施形態に係る電子部品の電極積層構造を説明するための正面断面図である。
【
図15】第3の実施形態に係る電子部品の電極積層構造を説明するための正面断面図である。
【
図16】第2の実施形態についての実施例1の電極積層構造のSTEM写真である。
【
図17】第3の実施形態についての実施例2の電極積層構造のSTEM写真である。
【
図18】第4の実施形態に係る電子部品の要部を説明するための正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0010】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態の電子部品の要部を説明するための正面断面図であり、
図2は、この電子部品を説明するための正面断面図である。
図2に示すように、電子部品1は、基板2を有する。基板2上に機能電極3が設けられている。機能電極3は、電子部品1を電子部品として機能させるための電極である。上記基板2及び機能電極3の組み合わせは特に限定されず、例えば基板2として圧電基板を用い、機能電極3としてIDT電極を用いることができる。この場合には、電子部品1として弾性波装置を構成することができる。もっとも、本発明において基板2及び機能電極3は、特に限定されるものではない。
【0012】
電子部品1では、プリント回路基板などに面実装するために、Auバンプ4が設けられている。より具体的には、基板2上に配線電極9が設けられている。
図2では、配線電極9は、機能電極3と分離されているが、図示されていない部分において、機能電極3に電気的に接続されている。配線電極9上に、パッド電極12が設けられている。パッド電極12上に、Auバンプ4が接合されている。
【0013】
平面視において、パッド電極12よりも配線電極9が大きく、配線電極9は、パッド電極12の外側に位置している部分を有する。
【0014】
配線電極9の最上層は、第1のTi層8である。本実施形態では、配線電極9は、第3のTi層5、Al層6、AlCu層7及び第1のTi層8を有する。AlCu層7の材料は、Alを主体とするAlCu合金である。この合金の組成比は特に限定されないが、本実施形態では、Al100重量%に対し、10重量%のCuが含まれているAlCu合金が用いられている。
【0015】
また、本実施形態では、パッド電極12は、第2のTi層10と、第2のTi層10上に積層されたAu層11とを有する。Au層11は、Auからなるため、Auバンプ4を接合した場合、両者の接合強度は十分に高い。
【0016】
Al層6及びAlCu層7により導電性が高められている。第1のTi層8は、AlCu層7やAl層6からのAlのパッド電極12側への拡散を抑制するために設けられている。
【0017】
もっとも、第1のTi層8の厚みが厚いと、損失が大きくなる。そこで、第1のTi層8において、Auバンプ4と重ならない部分の少なくとも一部の厚みが、Auバンプ4と重なる部分における第1のTi層8の厚みよりも薄くされている。より具体的には、第1のTi層8において、上面に段差Aが設けられている。この段差Aは、特に限定されないが、本実施形態では、パッド電極12の外周縁に連なるように設けられている。この段差Aの外側、すなわちパッド電極12の外側に位置している第1のTi層8部分の厚みが薄くされている。それによって、抵抗損失の増大の抑制が図られている。
【0018】
他方、本願発明者は、配線電極9の最上層に位置する第1のTi層8の厚みが薄いと、パッド電極12の上面、すなわちAu層11の上面に多くのTiが析出することを見出した。逆に、第1のTi層8の厚みが厚いと、パッド電極12の上面、すなわちAu層11の上面におけるTiの析出が少なくなることを見出した。これを、以下の実験例に基づき説明する。
【0019】
基板2としてLiNbO3基板を用い、以下の配線電極9及びパッド電極12を真空蒸着法により成膜し、電極積層構造を得た。この場合、成膜後に、275℃の温度で、1時間程度の熱処理が行われている。
【0020】
(実験例1)
配線電極9:
第3のTi層5の膜厚:100nm
Al層6の膜厚:1200nm
AlCu層7の膜厚:1000nm
第1のTi層8の段差Aの内側の膜厚:0nm、50nm、200nmまたは300nm
段差Aの外側における第1のTi層8の膜厚:0nm、30nm、180nmまたは280nm
パッド電極12:
第2のTi層10の膜厚:150nm
Au層11の膜厚:250nm
【0021】
上記のように、第1のTi層8の段差Aの内側の膜厚を、0nm、50nm、200nmまたは300nmとした。この場合、0nmとは、第1のTi層8が設けられていないことを意味する。従って、段差Aの内側の膜厚が0nmである構造は、比較例である。
【0022】
図3は、この比較例の電極積層構造のEDX写真である。
図4(a)、
図5(a)、及び
図6(a)は、それぞれ、第1のTi層8の段差Aの内側の部分の膜厚が、50nm、200nmまたは300nmの場合の電極積層構造のEDX写真である。また、
図4(b)、
図5(b)及び
図6(b)は、Tiのみを析出したときのEDX写真である。
【0023】
EDX写真はカラーで撮影されているが、
図3~
図6では、モノクロ写真で示す。成膜後に熱が加わるため、第1のTi層8及び第2のTi層10中のTiが、パッド電極12のAu層11の上面に析出している。特に、矢印で示すように、第1のTi層8の膜厚が50nmである場合、Au層11上におけるTi析出量が多いことがわかる。他方、
図5(b)及び
図6(b)に示すように、第1のTi層8の膜厚が厚くなるにつれて、Tiの析出量が少なくなっていることがわかる。このように、第1のTi層8の厚みが厚くなると、Au層11上に析出するTi量が少なくなる理由は明確ではない。本願発明者は、第1のTi層8の厚みを厚くすれば、
図6(b)に示すように、Au層11上に析出するTi量が飛躍的に少なくなることを実験的に見出したものである。
【0024】
よって、第1のTi層8の、少なくともAuバンプ4と重なる部分において、第1のTi層8の厚みを相対的に厚くすることにより、Au層11上に析出するTiの量を少なくすることができる。そのため、Auバンプ4とAu層11との接合強度を高めることができる。
【0025】
従って、1)第1のTi層8の相対的に厚みの薄い部分を設けることにより低損失化を図ることができ、かつ2)上記のように、Auバンプ4と重なる部分においては、第1のTi層8の厚みを相対的に厚くすることにより、Auバンプ4とAu層11との接合強度を高めることができる。
【0026】
本実施例においては配線電極9にAl層6とAlCu層7を用いたが、
図7に示すように、Al層6とAlCu層7の代わりにそれぞれ第1のAlCu層(Cu濃度1%)、第2のAlCu層(Cu濃度10%)を用いてもよい。また、
図8に示すように、第1のAlCu層(Cu濃度10%)、第2のAlCu層(Cu濃度10%)を用いても良い。
【0027】
さらに、
図9に示すように第1のAlCu層と第2のAlCu層がそれぞれ基板2から離れるほどCu濃度が高くなっていても良い。
【0028】
本発明においては、好ましくは、第1のTi層8の厚みは、第2のTi層10の厚みよりも大きくされる。この場合、第1のTi層8の厚みとは、第1のTi層8において、少なくともAuバンプ4と重なる部分の厚み、より好ましくは、Au層11と重なる部分の厚みとなる。第1のTi層8の厚みが、第2のTi層10の厚みより小さいときはAu層11上へのTiの析出量が大きくなってしまうが、第1のTi層8の厚みが、第2のTi層10の厚みより大きいときはAu層11上へのTiの析出量を少なくすることができる。
【0029】
なお、段差Aの外側では、第1のTi層8の厚みは薄くなっている。この厚みが相対的に薄い部分はAu層11と重なっていない。従って、この厚みが相対的に薄い部分の存在は、Au層11の上面へのTi析出量の減少を阻害するものではない。
【0030】
また、
図3の比較例では、最上部のAu層11の一部が、Ti層を貫通し、AlCu層7に至っている部分がかなり存在している。すなわち、Au層11のAuが下方のAlCu層7に至り、AuAl合金化が進行していると考えられる。
【0031】
これに対して、
図4~
図6では、Au層11のAuが下方のAlCu層7に至っていないことがわかる。すなわち、第1のTi層8が設けられていることにより、第1のTi層8により、Auの拡散防止効果が高められている。従って、Au層11の合金化を抑制し得ることがわかる。これは、第1のTi層8上に第2のTi層10が積層されていることによると考えられる。すなわち、第1のTi層8上に第2のTi層10が直接積層されているため、結晶状態の界面が形成され、Auの第1のTi層8及び第2のTi層10内への拡散が抑制されていると考えられる。
【0032】
加えて、第1のTi層8上に直接第2のTi層10が積層されているため、異種金属挿入による表面荒れも抑制される。従って、パッド電極12の上面、すなわちAu層11の上面の表面平滑性も高められる。よって、Auバンプ4とAu層11との接合強度も十分大きくなる。
【0033】
本発明の電子部品における電極積層構造の製造方法は特に限定されないが、一例を、
図10~
図13を参照して説明する。
【0034】
図10に示すように、LiNbO
3基板上に、第3のTi層5、AlCu層7及びTi層8Aをこの順序で成膜した。ここでは、Ti層8Aに段差Aは設けられていない。
【0035】
次に、配線電極9上に、第2のTi層10及びAu層11Aを積層し、パッド電極12を形成した。なお、成膜は真空蒸着法で行った。この場合、室温~350℃の温度に、0~5時間程度の時間の熱処理が伴った。各層の膜厚は、以下の通りとした。
【0036】
第3のTi層5:100nm
AlCu層7の膜厚:2600nm
Ti層8Aの膜厚:450nm
第2のTi層10の膜厚:150nm
Au層11Aの膜厚:150nm
【0037】
次に、
図10に示すように、上記電極積層構造を保護膜41で被覆した。この保護膜41としては、70nmの膜厚のSiN膜を設けた。しかる後、
図11に示すように、レジスト層42を設けた。しかる後、レジスト層42で覆われていない部分の保護膜41をエッチングにより除去した。このエッチングに際し、Au層11Aの表面がエッチングされて、Au層11Aの厚みが薄くなるようにエッチングを施した。このようにして、
図12に示すAu層11を形成した。
図12において削られたAu層部分を一点鎖線Bで示す。Au層11の膜厚は、150nmよりも薄くなっている。
【0038】
また、上記Au層11を形成するためのエッチングと同様にして、Ti層8Aの上面に露出している部分もエッチングし、
図12に示す段差を設けた。エッチングにより除された部分を一点鎖線Cで示す。この段差を設けて、第1のTi層8を形成した。このようにして、
図13に示す電子部品51を得た。
【0039】
上記段差を有するように、Ti層8Aをエッチングする工程は、上記Au層11を形成するためのエッチング工程と同時に行ってもよく、さらにレジストを付与し、別工程で行ってもよい。
【0040】
上記製造方法は、本発明の電子部品における電極積層構造の製造方法の一例であり、この製造方法に限定されるものではない。
【0041】
図14は、第2の実施形態に係る電子部品の電極積層構造を説明するための正面断面図であり、
図15は、第3の実施形態に係る電子部品の電極積層構造を説明するための正面断面図である。
【0042】
図14に示すように、第2の実施形態の電子部品21では、LiNbO
3からなる基板2上に、配線電極9及びパッド電極12が積層されている。配線電極9は、最上部に第1のTi層8を有する。パッド電極12は最下層に第2のTi層10を有する。パッド電極12では第2のTi層10上にAu層11が積層されている。
【0043】
配線電極9では、第3のTi層5上にAlCu層7及び第1のTi層8がこの順序で積層されている。従って、第1の実施形態におけるAl層6は積層されていない。電子部品21の電極積層構造は上記の点を除いては、第1の実施形態の電子部品1における電極積層構造と同様である。ここでも、第1のTi層8に段差Aが設けられている。従って、第1のTi層8のパッド電極12の外側において、第1のTi層8の厚みが薄くされている。
【0044】
Auバンプ4は、パッド電極12上に接合されている。
【0045】
図15に示す第3の実施形態の電子部品31では、配線電極9では、基板2側から順に、第3のTi層5、AlCu層7、第4のTi層32、Pt層33及び第1のTi層8がこの順序で積層されている。その他の構成は、電子部品31は、電子部品21と同様である。ここで、第4のTi層32は、Pt層33とAlCu層7との間の拡散防止層として設けられている。
【0046】
第2,第3の実施形態の電子部品21,31においても、第1のTi層8に段差が設けられている。従って、パッド電極12の外側で、第1のTi層8の厚みが薄くなっているため、低損失化を図ることができる。また、Auバンプ4と重なる部分において、第1のTi層8の厚みが相対的に厚くされている。従って、第1の実施形態の場合と同様に、TiのAu層11の表面における析出量を少なくすることができる。それによって、Auバンプ4とAu層11との接合強度を高めることができる。
【0047】
そして、第2の実施形態及び第3の実施形態のいずれにおいても、第1のTi層8上に、第2のTi層10が直接積層されているため、Auの第2のTi層10及び第1のTi層8内への拡散を効果的に抑制することができる。従って、Au層11とAuバンプ4との接合強度を高めることができる。
【0048】
もっとも、第2の実施形態の電子部品21では、第3の実施形態の電子部品31よりも、Auバンプ4とAu層11との接合強度をより効果的に高めることができる。これは、第2の実施形態の電子部品21がPt層33を有しないことによる。これを、具体的な実験例に基づき説明する。
【0049】
図16は、第2の実施形態についての実施例1の電極積層構造のSTEM写真である。
図17は、第3の実施形態についての実施例2の電極積層構造のSTEM写真である。実施例1及び実施例2の積層構造の膜厚は以下の通りとした。
【0050】
(実施例1)
配線電極9:第3のTi層5の膜厚:10nm
AlCu層7の膜厚:2600nm
第1のTi層8の段差Aの内側の膜厚:450nm
段差Aの外側における第1のTi層8の膜厚:430nm
パッド電極12:第2のTi層10の膜厚:150nm
Au層11の膜厚:150nm
【0051】
(実施例2)
配線電極9:第3のTi層5の膜厚:10nm
AlCu層7の膜厚:2600nm
第1のTi層8の段差Aの内側の膜厚:150nm
段差Aの外側における第1のTi層8の膜厚:120nm
Pt層33の膜厚:100nm
第4のTi層32の膜厚:300nm
パッド電極12:第2のTi層10の膜厚:150nm
Au層11の膜厚:150nm
【0052】
従って、実施例2では、第1のTi層8と、第4のTi層32の膜厚の合計は450nmであり、実施例1の第1のTi層8の膜厚450nmと同等である。
【0053】
図16では、Au層11の表面が比較的平滑であるのに対し、
図17では、Au層11の表面がかなり荒れていることがわかる。
【0054】
上記実施例1及び実施例2における表面粗さを、JIS-R1683に基づき測定した。その結果、実施例1では、表面粗さRa値は8.1nmであるのに対し、実施例2では、表面粗さRa値は20.4nmであった。
【0055】
従って、上記のように、第1のTi層8中に、Pt層33のような異種金属層を設けないことがより望ましいことがわかる。それによって、Au層の表面平滑性が高められ、Auバンプ4とAu層11との接合強度がより一層高められる。加えて、配線電極9中のAlと、パッド電極12中のAuとの拡散もむしろ効果的に抑制される。それによっても、Au層11とAuバンプ4との接合強度を高めることができる。
【0056】
図18は、第4の実施形態に係る電子部品の要部を示す正面断面図である。電子部品61では、第1のTi層8にテーパーが付与されている。この第1のTi層の構造を除いては、電子部品61は、電子部品1と同様である。
【0057】
図18に示すように、第1のTi層8には、配線電極9側からパッド電極12側に向かうにつれて、細くなるように、テーパーが付与されている。このテーパーが付与されている部分は、パッド電極12の外側の第1のTi層8部分である。従って、テーパーが付与されていることにより、平面視において、パッド電極12の外側における第1のTi層8の厚みよりも、Auバンプ4と重なっている部分における第1のTi層8の厚みが大きくされている。従って、第4の実施形態の電子部品61においても、低損失であり、かつAu層11とAuバンプ4との接合強度の低下は生じがたい。
【符号の説明】
【0058】
1…電子部品
2…基板
3…機能電極
4…Auバンプ
5…第3のTi層
6…Al層
7…AlCu層
8…第1のTi層
8A…Ti層
9…配線電極
10…第2のTi層
11…Au層
11A…Au層
12…パッド電極
21…電子部品
31…電子部品
32…第4のTi層
33…Pt層
41…保護膜
42…レジスト層
51,61…電子部品