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特許7557942金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法及びその製造方法に用いる溶解液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法及びその製造方法に用いる溶解液
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/42 20060101AFI20240920BHJP
   B32B 15/098 20060101ALI20240920BHJP
   B32B 25/04 20060101ALI20240920BHJP
   B32B 37/06 20060101ALI20240920BHJP
   B32B 37/12 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 161/10 20060101ALI20240920BHJP
   C09J 161/10 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B32B27/42 101
B32B15/098
B32B25/04
B32B37/06
B32B37/12
C09D161/10
C09J161/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020002040
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021109367
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390035909
【氏名又は名称】興国インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】本間 弘俊
(72)【発明者】
【氏名】小林 樹来
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特許第6508442(JP,B1)
【文献】特許第6308340(JP,B1)
【文献】特許第6103072(JP,B2)
【文献】特開2006-169550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 1/00-5/109/00-201/10
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属または樹脂の表面に、ノボラック型フェノール樹脂とアルコールとを含有する溶解液を1μm以上30μm以下の厚さで塗布する塗布工程と、
前記溶解液を塗布した前記金属または樹脂を170℃以上240℃以下の所定の温度、かつ、30分以上60分以下の所定の時間で加熱して、前記溶解液を硬化させる加熱硬化工程と、
硬化した前記溶解液とゴムとを加硫接着する接着工程と、
を含み、
前記溶解液は、架橋構造を形成することで樹脂を硬化させる硬化剤を含まない、金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法。
【請求項2】
前記170℃の温度は、前記硬化剤を含まない前記溶解液が硬化する最低温度である請求項1に記載の金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱硬化工程において、前記ノボラック型フェノール樹脂に含まれるフェノールに由来する3つの炭素6員環が1つの炭素を介して結合される請求項1又は請求項2に記載の金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法。
【請求項4】
前記加熱硬化工程において、前記硬化剤を含まない前記溶解液が、透明である加熱硬化前に比較して着色する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法。
【請求項5】
金属または樹脂の表面に、ノボラック型フェノール樹脂とアルコールとを含有する溶解液を1μm以上30μm以下の厚さで塗布する塗布工程と、前記溶解液を塗布した前記金属または樹脂を170℃以上240℃以下の所定の温度、かつ、30分以上60分以下の所定の時間で加熱して、前記溶解液を硬化させる加熱硬化工程と、硬化した前記溶解液とゴムとを加硫接着する接着工程と、を含む金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法に用いる、架橋構造を形成することで樹脂を硬化させる硬化剤を含まない溶解液
【請求項6】
前記硬化剤を含まない前記溶解液が硬化する170℃で加熱することによって、前記ノボラック型フェノール樹脂に含まれるフェノールに由来する3つの炭素6員環が1つの炭素を介して結合された構造が形成される、請求項5に記載の溶解液
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法及びその製造方法に用いる溶解液に関する。
【背景技術】
【0002】
金属または樹脂とゴムとを加硫接着させる接着剤として、ノボラック型フェノール樹脂、シランカップリング剤、塩化ゴム、レゾール型フェノール樹脂等を含む組成物が知られている。これらの接着剤は、主成分によってそれぞれ長所と短所とがあり、それぞれごとに短所を補う対策方法を適用して使用される。例えば、ノボラック型フェノール樹脂は熱可塑性樹脂であるため、ゴム成形時に溶融状態になり、ゴム生地と融合してしまい、金属-接着剤間の結合を形成できない。そのため、ノボラック型フェノール樹脂を接着剤として利用するためには、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤を添加して事前に硬化させる事が推奨される。例えば、特許文献1には、ノボラック型フェノール樹脂およびヘキサメチレンテトラミン硬化剤を含む加硫接着剤配合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-207477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された加硫接着剤配合物のように、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを含む配合物は、硬化時及び加硫接着時の加熱工程において、硬化剤からアミン類が揮発する。アミン類は、不純物として加熱炉内及び製造された金属または樹脂-ゴム接着体に付着し、加熱炉内及び金属または樹脂-ゴム接着体の洗浄が必要になる等のおそれがある。また、液体と接する環境中で金属または樹脂-ゴム接着体を使用した場合に、アミン類が液体中に溶出するおそれがある。
【0005】
そのため、ヘキサメチレンテトラミン等のメチレンアミン系硬化剤等の硬化剤を添加しなくても金属または樹脂とゴムとを接着することができる、ノボラック型フェノール樹脂組成物を用いた接着方法が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、硬化剤を含まないノボラック型フェノール樹脂組成物を用いた金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法及びその金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法に用いるノボラック型フェノール樹脂組成物を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の例示的側面としての金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法及びノボラック型フェノール樹脂組成物は、以下の構成を有する。
【0008】
(1)金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法は、金属または樹脂の表面に、ノボラック型フェノール樹脂を含有するノボラック型フェノール樹脂組成物を塗布する塗布工程と、前記ノボラック型フェノール樹脂組成物を塗布した前記金属または樹脂を所定の温度以上の温度かつ所定の時間以上の時間で加熱して、前記ノボラック型フェノール樹脂組成物を硬化させる加熱硬化工程と、硬化した前記ノボラック型フェノール樹脂組成物とゴムとを加硫接着する接着工程と、を含み、前記ノボラック型フェノール樹脂組成物は、架橋構造を形成することで樹脂を硬化させる硬化剤を含まない。
【0009】
(2)ノボラック型フェノール樹脂組成物は、金属または樹脂の表面に、ノボラック型フェノール樹脂を含有するノボラック型フェノール樹脂組成物を塗布する塗布工程と、前記ノボラック型フェノール樹脂組成物を塗布した前記金属または樹脂を所定の温度以上の温度かつ所定の時間以上の時間で加熱して、前記ノボラック型フェノール樹脂組成物を硬化させる加熱硬化工程と、硬化した前記ノボラック型フェノール樹脂組成物とゴムとを加硫接着する接着工程と、を含む金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法に用いる、架橋構造を形成することで樹脂を硬化させる硬化剤を含まないノボラック型フェノール樹脂組成物である。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明による金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法及びノボラック型フェノール樹脂組成物によれば、硬化剤を含まないノボラック型フェノール樹脂組成物を用いた金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法及びその金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法に用いるノボラック型フェノール樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】メチレンアミン系の硬化剤により形成される架橋構造を示す図である。
図2図2(A)は加熱により形成されると考えられる架橋構造の一例を示す図、図2(B)は他の例を示す図である。
図3図3(A)は硬化厚さを試験した実施例2の液滴の乾固後の断面図、図3(B)は加熱処理後にメチルエチルケトン処理した乾固物の断面図である。
図4】実施例3で用いたチタンの平面図である。
図5図5(A)はチタンにEPDMを接着した金属-ゴム接着体を示す平面図、図5(B)はその側面図である。
図6図5(A)のA-A部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態1]
以下、本発明の実施形態1による金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法(金属または樹脂-ゴム接着方法)について、図面を参照して説明する。以下の実施形態において、「金属-ゴム接着体」または「樹脂-ゴム接着体」のことを「金属または樹脂-ゴム接着体」と称する。本発明の発明者らの検討により、ノボラック型フェノール樹脂に硬化剤を添加しなくても、所定の条件下、つまり、所定の温度以上で所定の時間以上、加熱処理することにより、ノボラック型フェノール樹脂を加熱硬化させることができることが判明した。従来、ノボラック型フェノール樹脂は熱可塑性樹脂に区分されている。しかし、ノボラック型フェノール樹脂を所定の条件下で加熱処理すると、可塑化しないで硬化するという熱硬化性樹脂の性質を示す。そして、硬化したノボラック型フェノール樹脂を介して金属とゴムとを、または樹脂とゴムとを加硫接着させることができる。
【0014】
ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒下で縮合重合反応させて得られる樹脂である。フェノール類として主にフェノール、クレゾール等が用いられる。また、アルデヒド類として、主にホルムアルデヒドが用いられる。本実施形態において、金属または樹脂とゴムとの加硫接着に用いるノボラック型フェノール樹脂は、市販のノボラック型フェノール樹脂をそのまま用いることができる。ノボラック型フェノール樹脂は、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、分散剤、着色剤、滑剤、離型剤等の添加剤及び/又は他の樹脂類等(以下「添加剤等」と称する)を含んだ組成物であってもよい。市販のノボラック型フェノール樹脂に新たに添加物を添加する必要はない。また、精製又は洗浄等の前処理も特に必要としない。本実施形態においては、純粋なノボラック型フェノール樹脂、並びにそれに少量の添加剤等及び/又は不純物等を含むノボラック型フェノール樹脂含有組成物を総称して「ノボラック型フェノール樹脂組成物」と称する。また、ノボラック型フェノール樹脂組成物を単に「樹脂組成物」ということがある。
【0015】
本実施形態に用いるノボラック型フェノール樹脂組成物は、架橋構造を形成することで樹脂を硬化させる硬化剤を含まない。例えば、従来技術においてノボラック型フェノール樹脂組成物を硬化させるための、メチレン基を与えるテトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤を含まない。また、加熱によってそれ自体が硬化するレゾール型フェノール樹脂を硬化剤として含まない。また、酸化反応(脱水素反応)により架橋構造を形成することで樹脂を硬化させるタイプの硬化剤を含まない。なお、本実施形態において「硬化剤を含まない」とは、硬化剤を実質的に含まないという意味である。「実質的に含まない」とは、不純物又は添加剤等として含むことを除外するものではなく、硬化剤としての機能を発揮するほどの量は含まない、という意味である。例えば、硬化剤の含有量は、3重量%以下である。つまり、本実施形態に用いるノボラック型フェノール樹脂組成物は、硬化剤の役割を有する化合物を実質的に含まない。
【0016】
ノボラック型フェノール樹脂組成物を用いてゴムと接着可能な金属の種類は特に限定されない。例えばチタン、ステンレス鋼等の鉄鋼、その他の金属、又は各種合金等でもよい。つまり、従来の硬化剤を含有するノボラック型フェノール樹脂を用いて加硫接着可能な金属であれば、本実施形態においても適用可能である。金属の接着面はある程度の平坦度及び清浄度を有する必要がある。しかし、従来技術での加硫接着のために金属に要求される一般的な条件以上の条件は必要としない。
【0017】
ノボラック型フェノール樹脂組成物を用いてゴムと接着可能な樹脂の種類は特に限定されない。ただし、常温で固体の樹脂であり、かつノボラック型フェノール樹脂組成物を用いてゴムと接着させる工程中の加熱温度において、可塑化も軟化もしない、耐熱性を有する樹脂であることが好ましい。このような耐熱性を有する樹脂であれば、その種類は限定されない。なお、樹脂組成物を塗布する前に、樹脂の表面をプラズマ処理等により改質処理をすることが好ましい。樹脂の接着面はある程度の平坦度及び清浄度を有する必要がある。しかし、従来技術での加硫接着のために樹脂に要求される一般的な条件以上の条件は必要としない。
【0018】
ノボラック型フェノール樹脂組成物を用いて金属または樹脂と接着可能なゴムの種類についても特に限定されない。例えばEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)、シリコーンゴム等の非ジエン系ゴム、SBR(スチレンブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)等のジエン系ゴム、又はその他のゴムでもよい。つまり、従来の硬化剤を含有するノボラック型フェノール樹脂を用いて加硫接着可能なゴム類であれば、本実施形態においても適用可能である。ゴムの接着面はある程度の平坦度及び清浄度を有し、また金属または樹脂の接着面と密着する形状であることが好ましい。しかし、従来技術での加硫接着のためにゴムに要求される一般的な条件以上の条件は必要としない。
【0019】
次に、金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法、つまり金属または樹脂とゴムとを硬化剤を含まないノボラック型フェノール樹脂組成物を用いて接着する方法について説明する。まず金属または樹脂の接着面に、硬化剤を含まないノボラック型フェノール樹脂組成物を所定の厚さで塗布する(塗布工程)。これにより、樹脂組成物の塗布層(樹脂組成物層)が形成される。樹脂組成物を塗布する方法は特に限定されない。しかし、樹脂組成物は薄く塗布することが好ましい。例えば、樹脂組成物をアルコール等の樹脂可溶性溶媒に適切な濃度で溶解させ、その溶解液を金属または樹脂の接着面に塗布し、塗布後に溶媒を除去することで、所望の厚さの樹脂組成物の塗布層を形成することができる。溶解液の塗布方法として、例えば、スプレー法、スピン法、ディップ法、印刷法などを用いることができる。
【0020】
樹脂組成物の塗布層の所定の厚さは、塗布した樹脂組成物の全体が加熱により硬化する厚さ以下であることが好ましい。樹脂組成物の「全体」とは、樹脂組成物の表面から内部までの全域を意味する。その厚さは、1μmから30μm、好ましくは1μmから10μm、より好ましくは1μmから5μm、とすることができる。塗布層の厚さを1μmから30μmとすることにより、必要な接着力を得ることができ、またゴムの位置及び高さの誤差を許容値内に収めることが容易となる。樹脂組成物の塗布層の全体が加熱により硬化する所定の厚さを、加熱硬化限界厚さと称する。加熱硬化限界厚さは、厚くとも30μmである。
【0021】
次に、金属または樹脂の接着面に塗布した樹脂組成物を金属または樹脂ごと加熱炉等で所定の温度以上で所定の時間以上加熱する。これにより、樹脂組成物が硬化する(加熱硬化工程)。所定の温度は、160℃とすることが好ましい。加熱温度を160℃以上とすることにより、硬化が十分進行する。硬化剤を含まない、加熱硬化限界厚さ以下の厚さに塗布された樹脂組成物の全体が加熱により硬化する最低温度を、加熱硬化限界温度と称する。即ち、加熱硬化限界温度は160℃である。樹脂組成物を硬化させるためには、樹脂組成物を少なくとも加熱硬化限界温度で加熱することが好ましく、加熱硬化限界温度よりも高い温度で、かつ樹脂組成物が変質しない温度で加熱することがより好ましい。
【0022】
また、所定の時間は、加熱温度が160℃の場合、30分とすることが好ましい。30分以上加熱することで、硬化が十分進行する。加熱硬化限界温度で加熱した場合に、樹脂組成物の全体が硬化する最低時間を、加熱硬化限界時間と称する。即ち、加熱硬化限界時間は30分である。樹脂組成物を硬化させるためには、樹脂組成物を加熱硬化限界時間加熱することが好ましく、加熱硬化限界時間よりも長い時間で、かつ樹脂組成物が変質しない時間加熱することがより好ましい。なお、加熱温度が加熱硬化限界温度を超える場合、硬化させるための加熱時間は加熱硬化限界時間よりも短くなる。
【0023】
加熱する工程の雰囲気は特に限定されず、例えば空気中とすることができる。雰囲気中の湿度は特に限定されない。
【0024】
硬化剤を含まない樹脂組成物は、加熱硬化前は透明である。しかし、所定の条件による加熱により硬化させた場合、樹脂組成物は茶褐色に着色する。この現象は、樹脂組成物中のノボラック型フェノール樹脂が、酸化反応(脱水素反応)により架橋することで発生するものと考えられる。従って、加熱硬化工程は、透明な樹脂組成物が着色するまで加熱する工程を含んでもよい。
【0025】
従来技術である、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のメチレンアミン系の硬化剤を用いて硬化させたフェノール樹脂は、図1に示すように、結合した2つのフェノール由来の炭素6員環が、別の結合した2つのフェノール由来の炭素6員環と炭素(メチレン基)によって架橋結合され、4つの炭素6員環が環状に結合した構造を有する可能性が高い。
【0026】
一方、ノボラック型フェノール樹脂が経年劣化することで着色する現象が知られている。この劣化による着色は、図2(A)、(B)に例示するように、酸化反応(脱水素反応)により形成される、フェノール由来の3つの炭素6員環が1つの炭素原子を介して結合された構造に基づくとされている(大勝靖一他、「フェノール樹脂の着色・変色と成形材料の劣化」、高分子材料の劣化・変色メカニズムとその安定化技術、2006、p.254-256、技術情報協会)。本実施形態による加熱による着色も、酸化反応(脱水素反応)により、図2(A)、(B)に例示するように、フェノール由来の3つの炭素6員環が1つの炭素原子を介して結合された構造を形成することによるものである。言い換えれば、ノボラック型フェノール樹脂組成物を加熱硬化させる工程は、酸化反応(脱水素反応)により、ノボラック型フェノール樹脂組成物に含まれるフェノールに由来する3つの炭素6員環を1つの炭素原子を介して結合させる工程である。
【0027】
樹脂組成物が硬化した後、硬化した樹脂組成物上に未加硫のゴムを載置し、加硫接着を行う(接着工程)。加硫接着は、従来技術の条件で行うことができる。例えば、150℃以上、5~10分程度加熱することで加硫接着が行われる。
【0028】
以上の工程により、硬化剤を含まないノボラック型フェノール樹脂組成物を用いて、金属または樹脂とゴムとを加硫接着させることができる。つまり、硬化剤を含まないノボラック型フェノール樹脂組成物で接着した金属または樹脂-ゴム接着体を製造することができる。
【0029】
本実施形態によるノボラック型フェノール樹脂組成物はメチレンアミン系の硬化剤を含まない。そのため、本実施形態による金属または樹脂-ゴム接着方法を用いた金属または樹脂-ゴム接着体は、加熱硬化工程及び接着工程で硬化剤に由来する不純物が発生することがなく、加熱炉内部及び製造した金属または樹脂-ゴム接着体を不純物で汚染するおそれがない。
【0030】
また、本実施形態によるノボラック型フェノール樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂を硬化剤として含まない。レゾール型フェノール樹脂は、それ自体が加熱により架橋構造を形成して硬化するが、ゴムとの接着性が悪く、接着力を低下させるおそれがある。しかし、本実施形態による金属または樹脂-ゴム接着体はレゾール型フェノール樹脂を硬化剤として含まないため、そのようなおそれがない。
【実施例
【0031】
[実施例1]
硬化剤を含まない、市販のノボラック型フェノール樹脂(SP1006N、旭有機材株式会社)を、エタノールに5重量%の濃度で溶解した。この溶解液を、平滑なチタンの表面にスプレーし、ノボラック型フェノール樹脂の厚さが30μm以下となるように塗布した。これをチタンごと160℃に加熱した加熱炉に入れ、30分間加熱した。その結果、ノボラック型フェノール樹脂は硬化し、茶褐色に着色した。
【0032】
従来技術によるメチレンアミン系の硬化剤を用いて硬化させたノボラック型フェノール樹脂の架橋構造と、本実施形態による加熱により硬化させたノボラック型フェノール樹脂の架橋構造とは、フェノール由来の炭素6員環の結合構造が大きく異なっている。この違いは、例えばNMRのような、原子間結合構造を検出可能な分析方法を用いて検出可能である。
【0033】
[実施例2]
ノボラック型フェノール樹脂が加熱硬化する厚さを確認するため、以下の手順で加熱硬化試験を行った。硬化剤を含まない、市販のノボラック型フェノール樹脂(SP1006N、旭有機材株式会社)の5重量%エタノール溶解液の適量を、平滑な表面を有するチタン10に滴下した。乾燥後、図3(A)に示すように、平板状のチタン10の表面に高さが0.38mmの乾固物12が形成された。この乾固物12が形成されたチタン10を160℃に加熱した加熱炉に入れ、30分間加熱した。その後、チタン10をMEK(メチルエチルケトン)液中に浸漬し、超音波処理した。その結果、図3(B)に示すように、乾固物12の円周部14が円形状に溶解せずに残った。レーザ顕微鏡を用いて円周部14の高さを測定したところ、30μmであった。この結果から、160℃、30分の加熱条件により、30μmの厚さのノボラック型フェノール樹脂が硬化することがわかった。
【0034】
[実施例3]
ノボラック型フェノール樹脂を硬化させるために必要な加熱温度と加熱時間について、以下の手順で試験を行った。硬化剤を含まない、市販のノボラック型フェノール樹脂(SP1006N、旭有機材株式会社)を、エタノールに5重量%の濃度で溶解した。この溶解液を、図4に示すように、複数の開口部22を有する平滑なチタン20の表面の全面にスプレー塗布し、厚さが30μm以下のノボラック型フェノール樹脂層24を形成した。ノボラック型フェノール樹脂層24を形成したチタン20を複数製作し、下記の加熱処理に供した。
【0035】
ノボラック型フェノール樹脂層24を形成したチタン20を、以下の加熱温度に加熱した加熱炉の中に入れ、以下の加熱時間条件で加熱して硬化の有無を試験した。加熱温度は140℃から240℃までとし、加熱時間は30分、60分、120分とした。加熱処理後のノボラック型フェノール樹脂層24を形成したチタン20をエタノール液中に浸漬し、超音波処理を5分間行った。超音波処理の結果、ノボラック型フェノール樹脂層24が溶解してなくなっている場合は、硬化しなかったと判断し、残っている場合は硬化したと判断した。結果を表1に示す。表1で、「〇」は硬化したこと、「×」は硬化しなかったことを示す。また、「-」は試験を行っていないことを示す。
【表1】
表1から、ノボラック型フェノール樹脂層24を硬化させるためには、160℃以上で少なくとも30分の加熱が必要であることがわかった。
【0036】
[実施例4]
以下の手順で、実施例3で形成したノボラック型フェノール樹脂層24の上に未加硫ゴム(EPDM、エチレンプロピレンジエンゴム)30を加硫接着した金属-ゴム接着体50を作成し、ゴムの接着性試験を行った。実施例4で用いたEPDM30は、チタン20に設けられたガスケットを模擬した幅1.4mmのゴムである。
【0037】
図5に示すように、実施例3の加熱条件で30分間加熱硬化させたノボラック型フェノール樹脂層24の上に、EPDM30を載置して、170℃に加熱した加熱炉で7分間加熱した。ノボラック型フェノール樹脂層24を介してチタン20にEPDM30が接着された金属-ゴム接着体50のA-A部断面を図6に示す。冷却後、EPDM30をペンチで剥がした。結果を表2に示す。表2において、「硬化の有無」とは、ノボラック型フェノール樹脂層24が硬化したか否かの評価であり、表1の評価方法と同様である。「接着性」については、「〇」は剥がれがなく、EPDM30が破壊したこと、「△」は一部に僅かの剥がれがあったこと、「×」は全体が剥がれたことを示す。
【表2】
【0038】
表2に示すように、160℃で30分加熱して硬化させたノボラック型フェノール樹脂層24に加硫接着させたEPDM30は、僅かに剥がれが観察されたが、170℃以上の加熱条件で硬化させたノボラック型フェノール樹脂層24に加硫接着させたEPDM30は、剥がれは全く観察されなかった。この結果により、加熱によって硬化させた樹脂層24と加硫接着させたゴム30の接着性は、従来技術の硬化剤によって硬化させた樹脂組成物と加硫接着させたゴムの接着性と同等であることがわかった。
【0039】
以上の実施例から、硬化剤を含まないノボラック型フェノール樹脂組成物を加熱処理することで硬化させた樹脂組成物に、ゴムを加硫接着することができることがわかった。この方法で加硫接着したゴムの接着性は、硬化剤を用いて硬化させた樹脂組成物に加硫接着させたゴムの接着性と同等であった。
【0040】
本実施形態による金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法では、加熱硬化工程及び/又は接着工程で硬化剤に由来する不純物が放出されない。また、加熱炉内部及び製造した金属または樹脂-ゴム接着体が硬化剤に由来する不純物で汚染されるおそれがない。さらに、従来技術のメチレンアミン系の硬化剤を用いて硬化させたノボラック型フェノール樹脂は、例えば水に浸漬されると、硬化したノボラック型フェノール樹脂に残留するアミンが溶出し、水からアミンが検出される。アミンは腐食性の有害物質であり、アミンが使用環境中に溶出することは望ましくない。それに対し、硬化剤を用いないで加熱硬化させたノボラック型フェノール樹脂組成物は、そのようなことが発生しない。つまり、本実施形態による金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法で得られる金属または樹脂-ゴム接着体は、液体に接してもその液体中にアミン等の不純物が溶出するおそれがない。
【0041】
以上のような利点を有する本実施形態による金属または樹脂-ゴム接着体は、使用環境中に不純物を溶出、混入させないことが要求される部材、例えばHDD(ハードディスクドライブ)等の精密電子機器、医療用機器、燃料電池等の電池類、及び食品加工用機器等の部材に用いることができる。また、耐水性にも優れているため、耐熱水性、耐湿性が要求される機器類全般に用いることができる。
【0042】
なお、本発明は、以下の趣旨を含むものとする。
【0043】
(趣旨1)
金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法は、金属または樹脂の表面に、ノボラック型フェノール樹脂を含有するノボラック型フェノール樹脂組成物を塗布する塗布工程と、前記ノボラック型フェノール樹脂組成物を塗布した前記金属または樹脂を所定の温度以上の温度かつ所定の時間以上の時間で加熱して、前記ノボラック型フェノール樹脂組成物を硬化させる加熱硬化工程と、硬化した前記ノボラック型フェノール樹脂組成物とゴムとを加硫接着する接着工程と、を含み、前記ノボラック型フェノール樹脂組成物は、架橋構造を形成することで樹脂を硬化させる硬化剤を含まないことを趣旨とする。
【0044】
(趣旨2)
前記所定の温度は、前記硬化剤を含まない前記ノボラック型フェノール樹脂組成物が硬化する最低温度であることを趣旨とする。
【0045】
(趣旨3)
前記所定の時間は、前記硬化剤を含まない前記ノボラック型フェノール樹脂組成物を前記所定の温度で加熱した場合に前記硬化剤を含まない前記ノボラック型フェノール樹脂組成物が硬化する最低時間であることを趣旨とする。
【0046】
(趣旨4)
前記所定の温度は160℃であり、前記所定の時間は30分であることを趣旨とする。
【0047】
(趣旨5)
前記加熱硬化工程において、前記ノボラック型フェノール樹脂に含まれるノボラック型フェノール樹脂由来の3つの炭素6員環が1つの炭素を介して結合されることを趣旨とする。
【0048】
(趣旨6)
前記加熱硬化工程において、前記硬化剤を含まない前記ノボラック型フェノール樹脂組成物が着色することを趣旨とする。
【0049】
(趣旨7)
ノボラック型フェノール樹脂組成物は、金属または樹脂の表面に、ノボラック型フェノール樹脂を含有するノボラック型フェノール樹脂組成物を塗布する塗布工程と、前記ノボラック型フェノール樹脂組成物を塗布した前記金属または樹脂を所定の温度以上の温度かつ所定の時間以上の時間で加熱して、前記ノボラック型フェノール樹脂組成物を硬化させる加熱硬化工程と、硬化した前記ノボラック型フェノール樹脂組成物とゴムとを加硫接着する接着工程と、を含む金属または樹脂-ゴム接着体の製造方法に用いる、架橋構造を形成することで樹脂を硬化させる硬化剤を含まないことを趣旨とする。
【0050】
(趣旨8)
前記硬化剤を含まない前記ノボラック型フェノール樹脂組成物が硬化する最低温度で加熱することによって、前記ノボラック型フェノール樹脂に含まれるフェノールに由来する3つの炭素6員環が1つの炭素を介して結合された構造が形成されることを趣旨とする。
【符号の説明】
【0051】
10、20:チタン、12:乾固物、14:円周部、22:開口部、24:ノボラック型フェノール樹脂層、30:EPDM、50:金属-ゴム接着体
図1
図2
図3
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図5
図6