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特許7557956地理情報システム、地理情報抽出方法及び地理情報抽出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】地理情報システム、地理情報抽出方法及び地理情報抽出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G09B 29/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G09B29/00 A
G09B29/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020074669
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021173780
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】597151563
【氏名又は名称】株式会社ゼンリン
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】桐木 佑薫
(72)【発明者】
【氏名】廣尾 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】濱▲崎▼ 一晟
(72)【発明者】
【氏名】新 豊明
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 友貴
【審査官】宇佐田 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-020774(JP,A)
【文献】特開2006-220562(JP,A)
【文献】特開2007-264558(JP,A)
【文献】特開2012-117925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0365019(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 29/00,29/10
G01C 21/26
G06Q 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同時期のデータである、道路ネットワークに関する情報である第1道路ネットワークデータと、前記第1道路ネットワークデータには含まれていない旗竿地に対応する道路を含む道路の情報である第2道路ネットワークデータと、前記道路と建築物との接続関係を含む建築物の情報である建築物データとを記憶する記憶部と、
前記第1道路ネットワークデータと前記第2道路ネットワークデータとを比較することで、旗竿地に含まれる道路の情報を抽出し、前記建築物データを参照して、抽出した道路に面しているとともに所与の要件に対応する建築物の情報を、土地の利用又は開発に関する情報として抽出する比較抽出部と、
前記比較抽出部で抽出された情報を出力する出力部と、
を備える地理情報システム。
【請求項2】
前記比較抽出部は、旗竿地に含まれ、幅員が所定の閾値未満である道路の情報を抽出する、
請求項1に記載の地理情報システム。
【請求項3】
地理情報システムによって実行される地理情報抽出方法であって、
互いに同時期のデータである、道路ネットワークに関する情報である第1道路ネットワークデータと、前記第1道路ネットワークには含まれていない旗竿地に対応する道路を含む道路の情報である第2道路ネットワークデータとを比較する比較ステップと、
前記比較ステップによる比較結果を用いて、旗竿地に含まれる道路の情報を抽出する第1抽出ステップと、
前記第1、第2道路ネットワークデータと同時期のデータである前記道路と建築物との接続関係を含む建築物の情報である建築物データを参照して、前記第1抽出ステップにおいて抽出した道路に面しているとともに所与の要件に対応する建築物の情報を、土地の利用又は開発に関する情報として抽出する第2抽出ステップと、
を含む地理情報抽出方法。
【請求項4】
前記第1抽出ステップにおいて、旗竿地に含まれ、幅員が所定の閾値未満である道路の情報を抽出する、
請求項3に記載の地理情報抽出方法。
【請求項5】
コンピュータに、
互いに同時期のデータである、道路ネットワークに関する情報である第1道路ネットワークデータと、前記第1道路ネットワークには含まれていない旗竿地に対応する道路を含む道路の情報である第2道路ネットワークデータと、を比較する比較ステップ、
前記比較ステップによる比較結果を用いて、旗竿地に含まれる道路の情報を抽出する第1抽出ステップ、
前記第1、第2道路ネットワークデータと同時期のデータである前記道路と建築物との接続関係を含む建築物の情報である建築物データを参照して、前記第1抽出ステップにおいて抽出した道路に面しているとともに所与の要件に対応する建築物の情報を、土地の利用又は開発に関する情報として抽出する第2抽出ステップ、
を実行させる地理情報抽出プログラム。
【請求項6】
前記第1抽出ステップにおいて、旗竿地に含まれ、幅員が所定の閾値未満である道路の情報を抽出する、
請求項5に記載の地理情報抽出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は地理情報システム、地理情報抽出方法及び地理情報抽出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、路線価の対象区間を示す線要素がなす角度と略同一の角度をなし前面道路との境界線に対応する辺を含む多角形を表示し、その多角形に対する図形編集操作を通じて土地を評価する評価属性を設定し、その評価属性に基づき基準の形状を有する土地に対する土地の評価パラメータを取得し、所定の標準価格とその評価パラメータとから土地の価格を算出する土地評価システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3590052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地物に関する情報を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の側面に係る地理情報システムは、
互いに同時期のデータである、道路ネットワークに関する情報である第1道路ネットワークデータと、前記第1道路ネットワークデータには含まれていない旗竿地に対応する道路を含む道路の情報である第2道路ネットワークデータと、前記道路と建築物との接続関係を含む建築物の情報である建築物データとを記憶する記憶部と、
前記第1道路ネットワークデータと前記第2道路ネットワークデータとを比較することで、旗竿地に含まれる道路の情報を抽出し、前記建築物データを参照して、抽出した道路に面しているとともに所与の要件に対応する建築物の情報を、土地の利用又は開発に関する情報として抽出する比較抽出部と、
前記比較抽出部で抽出された情報を出力する出力部と、
を備える。
本開示の第2の側面に係る地理情報抽出方法は、
地理情報システムによって実行される地理情報抽出方法であって、
互いに同時期のデータである、道路ネットワークに関する情報である第1道路ネットワークデータと、前記第1道路ネットワークには含まれていない旗竿地に対応する道路を含む道路の情報である第2道路ネットワークデータとを比較する比較ステップと、
前記比較ステップによる比較結果を用いて、旗竿地に含まれる道路の情報を抽出する第1抽出ステップと、
前記第1、第2道路ネットワークデータと同時期のデータである前記道路と建築物との接続関係を含む建築物の情報である建築物データを参照して、前記第1抽出ステップにおいて抽出した道路に面しているとともに所与の要件に対応する建築物の情報を、土地の利用又は開発に関する情報として抽出する第2抽出ステップと、
を含む。
本開示の第3の側面に係る地理情報抽出プログラムは、
コンピュータに、
互いに同時期のデータである、道路ネットワークに関する情報である第1道路ネットワークデータと、前記第1道路ネットワークには含まれていない旗竿地に対応する道路を含む道路の情報である第2道路ネットワークデータと、を比較する比較ステップ、
前記比較ステップによる比較結果を用いて、旗竿地に含まれる道路の情報を抽出する第1抽出ステップ、
前記第1、第2道路ネットワークデータと同時期のデータである前記道路と建築物との接続関係を含む建築物の情報である建築物データを参照して、前記第1抽出ステップにおいて抽出した道路に面しているとともに所与の要件に対応する建築物の情報を、土地の利用又は開発に関する情報として抽出する第2抽出ステップ、
を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る地理情報システムの適用および機能構成の一例を示す図である。
図2】実施形態に係る地理情報システムのために用いられるコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】実施形態に係る地理情報システムにより得られる処理結果の一例を示す図である。
図4】実施形態に係る地理情報システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図5図4に対応する具体例を示す図である。
図6】実施形態に係る地理情報システムの動作の別の例を示すフローチャートである。
図7図6に対応する具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付図面を参照しながら本開示での実施形態を詳細に説明する。図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0008】
[システムの概要]
本実施形態では、一例として、本開示に係るコンピュータシステムを地理情報システム(GIS)1に適用する。実施形態に係る地理情報システム1は、第1道路ネットワークと第2道路ネットワークとの間の差分によって示される道路沿いの地物(例えば建築物)を抽出し、その地物に関連する情報を出力するコンピュータシステムである。
【0009】
地物とは、地上に存在する任意の有体物または無体物である。地物は自然物でも人工物でもよい。例えば、地物は、山地、農地、住宅地、更地、河川、湖、海、観光地、道路、鉄道、建物、公園、塔、信号機、踏切、横断歩道、歩道橋、浮標などを含み得る。無体物である地物の例として、任意の目的で設定された区域(例えば、撮影禁止区域、一時的な進入禁止区域など)、イベントが開催される区域、集合場所、撮影スポットなどが挙げられる。当然ながら、地物の種類はこれらに限定されない。本実施形態では、地物の例として建築物を示す。
【0010】
世の中には、旗竿地または敷地延長に位置する土地と、狭隘道路沿いに位置する土地と、それらの両方に該当する土地とが存在する。旗竿地とは、行き止まりがある道路または土地をいう。敷地延長とは、道路から奥まった所に位置する土地と道路とを接続する細長い路地状の部分をいう。一般に、「旗竿地」および「敷地延長」は同義語なので、本開示では、この二つの用語が互いに置換可能であるとする。狭隘道路とは道幅が狭い道路をいい、より具体的には、幅員が所与の閾値未満である道路をいう。或る道が狭隘道路に該当するか否かは、法律、条例等の規則に基づいて議論される。例えば、幅員に関するその閾値は、建築基準法などの法律、または自治体の条例によって、2m、3m、4mなどの値であり得る。
【0011】
旗竿地(敷地延長)および狭隘道路はいずれも、開発における所与の要件に基づく制約を受ける可能性がある土地である。一例では、地理情報システム1はそのような要件に対応する地物を抽出する。したがって、地理情報システム1のユーザはその地物に関する情報を得ることができる。旗竿地(敷地延長)の不動産価格は一般的に低廉になりやすく、例えば、通常価格よりも2割~3割低くなることがある。一方、狭隘道路沿いの土地は、建築基準法などの法律の制約により、建て直しが不可能な土地である。地理情報システム1はこのような旗竿地(敷地延長)または狭隘道路を抽出し、これにより、土地の利用または開発に関する情報を不動産業者などのユーザに提供することができる。
【0012】
一例では、地理情報システム1は、要件(例えば、所与の開発要件)に対応する土地を道路ネットワークの差分から特定し、その土地に位置する建築物を抽出する。
【0013】
道路ネットワークとは、道路に関する属性を示す情報をいう。道路に関する属性(道路属性)とは道路の特徴または性質をいい、例えば、地理的位置、幅員、車線数、名称、規制速度、交通規制などを含む。一例では、道路ネットワークの地理的位置はノードおよびリンクにより表される。ノードとは、道路を特徴づける位置をいい、より具体的には、移動体の移動方法(例えば方向、速度など)を変えることができる位置、または該移動方法が変わる位置をいう。リンクとは、道路を示すために設定される仮想的な線のことをいい、隣接するノード間を結ぶ。リンクの形状は直線でも曲線でもよく、あるいは、直線と曲線との組合せでもよい。
【0014】
或る一つの地理的範囲を示す道路ネットワークは、道路ネットワークの利用または生成の目的によって変わり得る。したがって、或る道路ネットワークでは定義されている道路が、別の道路ネットワークでは定義されていない場合があり得る。地理情報システム1は、そのような2種類の道路ネットワークを第1道路ネットワークおよび第2道路ネットワークとして取り扱い、この二つの道路ネットワークの差分を抽出する。この差分は、旗竿地に対応する道路の位置を示すデータの一例である。
【0015】
地理情報システム1はその差分によって示される道路沿いの建築物を抽出する。建築物とは、土地に定着する工作物をいう。建築物の種類、利用目的、および構造は限定されず、例えば、建築物は戸建て、集合住宅、商業ビルなどでもよい。「差分によって示される道路」とは、第1道路ネットワークおよび第2道路ネットワークの一方に存在するが他方には存在しない道路をいう。「道路沿いの建築物」とは、その道路に接続する建築物をいい、より具体的には、その道路に出入口が接続する建築物をいう。
【0016】
[システムの構成]
図1は地理情報システム1の適用および機能構成の一例を示す図である。一例では、地理情報システム1は通信ネットワークを介してデータベース20と接続する。地理情報システム1は機能モジュールとして算出部11、抽出部12、および出力部13を備える。算出部11は第1道路ネットワークと第2道路ネットワークとの間の差分を算出する機能モジュールである。抽出部12はその差分によって示される道路沿いの建築物を抽出する機能モジュールである。出力部13は抽出された建築物に関する情報を出力する機能モジュールである。
【0017】
地理情報システム1として機能するコンピュータは限定されない。一例では、地理情報システム1は、パーソナルコンピュータによって構成されてもよいし、業務用サーバなどの大型のコンピュータによって構成されてもよい。地理情報システム1はクライアント-サーバシステムにより実現されてもよいし、スタンドアロンのコンピュータにより実現されてもよい。
【0018】
図2は、地理情報システム1のために用いられるコンピュータ110のハードウェア構成の一例を示す図である。例えば、コンピュータ110は制御回路100を有する。一例では、制御回路100は、一つまたは複数のプロセッサ101と、メモリ102と、ストレージ103と、通信ポート104と、入出力ポート105とを有する。プロセッサ101はオペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを実行する。ストレージ103はハードディスク、不揮発性の半導体メモリ、または取り出し可能な媒体(例えば、磁気ディスク、光ディスクなど)の記憶媒体で構成され、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを記憶する。メモリ102は、ストレージ103からロードされたプログラム、またはプロセッサ101による演算結果を一時的に記憶する。一例では、プロセッサ101は、メモリ102と協働してプログラムを実行することで、地理情報システム1の各機能モジュールとして機能する。通信ポート104は、プロセッサ101からの指令に従って、通信ネットワークNWを介して他の装置との間でデータ通信を行う。入出力ポート105は、プロセッサ101からの指令に従って、キーボード、マウス、モニタなどの入出力装置(ユーザインタフェース)との間で電気信号の入出力を実行する。
【0019】
ストレージ103は、コンピュータを地理情報システム1として機能させるためのプログラム120を記憶する。プログラム120は、コンピュータを算出部11、抽出部12、および出力部13として機能させるためのプログラムコードを含む。プログラム120は、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの非一時的な記録媒体に固定的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、プログラム120は、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0020】
地理情報システム1は一つまたは複数のコンピュータにより構成され得る。複数のコンピュータが用いられる場合には、通信ネットワークを介してこれらのコンピュータが互いに接続されることで論理的に一つの地理情報システム1が構成される。
【0021】
データベース20は、地理情報システム1での処理に必要なデータを永続的に記憶する非一時的な記憶媒体または記憶装置である。データベース20は地理情報システム1の一部として構築されてもよいし、地理情報システム1とは別のコンピュータシステムに設けられてもよい。一例では、データベース20は車両用道路ネットワークデータ21、全道路ネットワークデータ22、および建築物データ23を記憶する。
【0022】
車両用道路ネットワークデータ21は、車両用道路ネットワークに関するデータである。本開示では、車両用道路ネットワークは、カーナビゲーションシステムに特化した、車両が通行可能な道路のみを網羅する道路ネットワークである。一例では、車両用道路ネットワークデータ21の各レコードは道路ID、始点ノードID、終点ノードID、および幅員を含む。道路IDは個々の道路(言い換えると、個々のリンク)を一意に特定する識別子である。始点ノードIDは道路(リンク)の始点に位置するノードを一意に特定する識別子である。終点ノードIDは道路(リンク)の終点に位置するノードを一意に特定する識別子である。幅員は道路の幅である。
【0023】
全道路ネットワークデータ22は、全道路ネットワークに関するデータである。本開示では、全道路ネットワークは、車両および歩行者の双方のためにすべての道路を網羅する道路ネットワークである。一例では、全道路ネットワークデータ22の各レコードは道路ID、始点ノードID、終点ノードID、幅員、および敷地延長フラグを含む。したがって、全道路ネットワークデータ22はデータ項目として敷地延長フラグを含む点で車両用道路ネットワークデータ21と異なる。敷地延長フラグは、道路(リンク)が敷地延長(旗竿地)に該当するか否かを示すフラグ情報であり、二値で示される。例えば、敷地延長フラグは、道路が敷地延長に該当する場合には「1」であり、該当しない場合には「0」である。
【0024】
建築物データ23は個々の建築物に関するデータである。建築物データ23は地物に関するデータの例である。一例では、建築物データの各レコードは建築物ID、名称、建築時期、および到着地点を含む。建築物IDは個々の建築物を一意に特定する識別子である。名称は建築物の正式名称または通称であり、例えば世帯主の名称、屋号、建物名などによって表される。建築時期は建築物が建てられた時期であり、例えば、年月、年月日などによって表される。この建築時期から築年数を算出できるので、建築時期は、築年数を示すデータの一例である。到着地点は、建築物の出入口が接続する道路(リンク)を示し、このデータ項目にはその道路の道路IDが設定される。経路検索において建築物が目的地に設定された場合には、例えば、この到着地点で示される道路(リンク)の位置が目的地の位置として処理される。到着地点は、建築物と道路との接続を示すデータ項目の一例である。
【0025】
個々のデータの構造は限定されず、任意の方針でデータ構造が設計されてよい。車両用道路ネットワークデータ21、全道路ネットワークデータ22、および建築物データ23のそれぞれは他の任意のデータ項目を含んでもよい。例えば、車両用道路ネットワークデータ21および全道路ネットワークデータ22の少なくとも一方が、道路の長さおよび種別の少なくとも一つをデータ項目として含んでもよい。道路の種別は限定されず、例えば、国道、自動車専用道路、歩行者専用道路、未開通道路などの様々な種類を示してよい。あるいは、建築物データ23が、建築物の形状に関するデータ項目を含んでもよい。これらのデータの少なくとも一つが任意の方針で正規化または非正規化されて一または複数のデータテーブル上に記憶されてもよい。
【0026】
個々のデータの個々のデータ項目は静的に設定されてもよいし動的に設定されてもよい。「静的に設定される」とは、値が予め設定され、人手の介入がない限りはその設定が変更されないことをいう。一方、「動的に設定される」とは、値が任意の事象に応じて人手の介入無しに変更され得ることをいう。動的な設定は、所与のデータ項目を制御するプログラムが所定のコンピュータ上で実行されることで実現される。動的な設定は地理情報システム1により実行されてもよいし、別のコンピュータシステムにより実行されてもよい。
【0027】
図3は地理情報システム1により得られる処理結果の一例を示す図である。この例では、地理情報システム1は或る一つの地理的範囲について、車両が通行可能な道路201のみを網羅する車両用道路ネットワーク200と、車両および歩行者の双方のためにすべての道路211を網羅する全道路ネットワーク210とを処理する。算出部11は、車両用道路ネットワーク200と全道路ネットワーク210との差分を算出することで、全道路ネットワーク210には存在するが車両用道路ネットワーク200には存在しない道路220を抽出する。抽出部12はその道路220沿いの建築物230を抽出する。出力部13は抽出された建築物230に関する情報を出力する。図3では地理的範囲の一部を拡大してその建築物230をハッチングにより強調している。道路220は、典型的には敷地延長(旗竿地)である。したがって、建築物230は敷地延長(旗竿地)に位置するといえる。
【0028】
当然ながら、第1道路ネットワークおよび第2道路ネットワークの組合せは、全道路ネットワークおよび車両用道路ネットワークに限定されず、地理情報システム1は任意の道路ネットワークを第1道路ネットワークまたは第2道路ネットワークとして取り扱ってよい。これに関連して、地理情報システム1は旗竿地以外の土地に存在する建築物を抽出してもよい。
【0029】
[システムでの処理手順]
図4を参照しながら、地理情報システム1の動作の一例を説明するとともに本実施形態に係る分析方法を説明する。図4は地理情報システム1の動作の一例を処理フローS1として示すフローチャートである。
【0030】
ステップS11では、算出部11が第1道路ネットワークと第2道路ネットワークとの差分を算出する。算出部11は、ユーザによりまたは自動的に指定された地理的範囲に対応する、車両用道路ネットワークデータ21および全道路ネットワークデータ22をデータベース20から読み出す。算出部11は、車両用道路ネットワークデータ21および全道路ネットワークデータ22の一方を第1道路ネットワークとして読み出し、他方を第2道路ネットワークとして読み出す。算出部11はその2種類のデータを比較して差分を求める。
【0031】
ステップS12では、算出部11が、行き止まりの道路をその差分から抽出し、その道路を敷地延長として特定する。要するに、算出部11は差分から敷地延長を抽出する。敷地延長は、差分から抽出する特徴的な道路である対象道路の一例である。行き止まりの道路とは、一端が他の道路と接続していない道路をいい、「リンク切れの道路」とも称される。例えば、算出部11は一方のノードが他のいずれの道路のノードとも一致しない道路を敷地延長として特定してもよい。このステップS12において、算出部11は特定された道路の敷地延長フラグを設定してもよい。すなわち、算出部11は、全道路ネットワークデータ22において敷地延長フラグが設定されていない道路を敷地延長として特定した場合に、敷地延長を意味する値(例えば「1」)をその敷地延長フラグに設定してもよい。
【0032】
ステップS13では、抽出部12が、特定された道路(すなわち対象道路)に接続する建築物を抽出する。ここで抽出される建築物は、要件(例えば、所与の開発要件)に対応する地物の一例である。具体的には、抽出部12はデータベース20内の建築物データ23を参照して、その対象道路(敷地延長)が到着地点として設定されている建築物を抽出する。複数の敷地延長が特定された場合には、抽出部12はそれぞれの敷地延長について、該敷地延長が到着地点として設定されている建築物を抽出する。抽出部12は、建築物データ23を参照することで、個々の建築物の詳細な情報(例えば、名称、建築時期、築年数など)を得ることができる。
【0033】
ステップS14では、出力部13が、抽出された建築物に関する情報を処理結果として出力する。出力方法は限定されない。例えば、出力部13は処理結果を、モニタ上に表示してもよいし、他のコンピュータまたはコンピュータシステムに向けて送信してもよいし、データベースなどの記憶装置に格納してもよい。処理結果の表現方法も限定されない。例えば、出力部13は処理結果を画像(例えば地図)、テキスト、またはこれらの組合せによって表現してもよい。出力部13は、抽出された建築物に関する任意の種類の情報を処理結果に含めてもよく、例えば、それぞれの建築物の地理的位置および築年数を示す処理結果を出力してもよい。
【0034】
図5は処理フローS1の具体的な例を示す図である。図5は、或る地理的範囲を車両用道路ネットワークデータ21によって表す地図300と、その地理的範囲を全道路ネットワークデータ22によって表す地図310とを示す。地図300は道路401,402を示すのに対して、地図310はその道路401,402に加えて道路403~407をさらに示す。地理情報システム1は車両用道路ネットワークデータ21および全道路ネットワークデータ22の一方を第1道路ネットワークとして処理し、他方を第2道路ネットワークとして処理する。
【0035】
この例では、算出部11が、車両用道路ネットワークと全道路ネットワークとの差分として、道路403~407を算出する(ステップS11)。
【0036】
続いて、算出部11が、道路403~407のうち道路403~406を敷地延長として特定する(ステップS12)。図5に示すように、道路403~406はいずれも一端が他の道路と接続していないので、算出部11はこれらの道路を敷地延長として特定する。これに対して、道路407は両端が他の道路と接続しているので、算出部11は道路407を敷地延長として特定しない。
【0037】
続いて、抽出部12がその道路403~406のいずれかに接続する建築物を抽出する(ステップS13)。図5は17個の建築物(建築物A~Q)を示す。建築物A,Bは道路404に接続する。建築物C,G,H,I,M,Qは道路402に接続する。建築物D,E,F,J,K,Lは道路406に接続する。建築物N,O,Pは道路407に接続する。したがって、抽出部12は建築物A,B,D,E,F,J,K,Lを抽出する。
【0038】
続いて、出力部13が抽出された8個の建築物に関する情報を処理結果として出力する(ステップS14)。例えば出力部13は、図5に示すように地図上でそれらの建築物を強調表示してもよい。ユーザはこのような処理結果を見ることで、旗竿地に位置する建築物の情報を把握することができる。
【0039】
図6を参照しながら、地理情報システム1の動作の別の例を説明するとともに本実施形態に係る分析方法を説明する。図6は地理情報システム1の動作の一例を処理フローS2として示すフローチャートである。
【0040】
ステップS21では、算出部11が第1道路ネットワークと第2道路ネットワークとの差分を算出する。この処理はステップS11と同様である。
【0041】
ステップS22では、算出部11が、幅員が所与の閾値未満である道路をその差分から抽出し、その道路を狭隘道路として特定する。要するに、算出部11は差分から狭隘道路を抽出する。狭隘道路は対象道路の一例である。算出部11は全道路ネットワークデータ22を参照して、差分に対応する個々の道路の幅員を取得し、その幅員をその閾値と比較する。閾値は建築物を抽出する目的などに応じて任意の方針で設定されてよく、例えば、2m、3m、4mなどでもよい。
【0042】
ステップS23では、抽出部12が、特定された道路(すなわち対象道路)に接続する建築物を抽出する。具体的には、抽出部12はデータベース20内の建築物データ23を参照して、その対象道路(狭隘道路)が到着地点として設定されている建築物を抽出する。複数の狭隘道路が特定された場合には、抽出部12はそれぞれの狭隘道路について、該狭隘道路が到着地点として設定されている建築物を抽出する。ステップS13と同様に、抽出部12は個々の建築物の詳細な情報を取得できる。
【0043】
ステップS24では、出力部13が、抽出された建築物に関する情報を処理結果として出力する。この処理はステップS14と同様である。
【0044】
図7は処理フローS2の具体的な例を示す図である。図5と同様に、図7も地図300,310を示す。地理情報システム1は車両用道路ネットワークおよび全道路ネットワークの一方を第1道路ネットワークとして処理し、他方を第2道路ネットワークとして処理する。
【0045】
この例でも、算出部11が、車両用道路ネットワークと全道路ネットワークとの差分として、道路403~407を算出する(ステップS21)。
【0046】
続いて、算出部11が、道路403~407のうち、幅員が所与の閾値未満である道路をその差分から抽出する(ステップS22)。例えば、道路403,404,405,406,407の幅員がそれぞれ2.5m、1.8m、3m、4m、および5mであり、閾値が2mであるとする。この場合、算出部11は道路404のみを抽出する。
【0047】
続いて、抽出部12がその道路404のいずれかに接続する建築物、すなわち建築物A,Bを抽出する(ステップS23)。
【0048】
続いて、出力部13が抽出された2個の建築物に関する情報を処理結果として出力する(ステップS24)。図7では、出力部13はそれらの建築物を強調表示している。ユーザはこのような処理結果を見ることで、狭隘道路に位置する建築物の情報を把握することができる。
【0049】
[効果]
以上説明したように、本開示の一側面に係るコンピュータシステムはプロセッサを備える。プロセッサは、旗竿地に対応する道路の位置を示すデータと、地物に関するデータとに基づいて、要件に対応する地物を抽出する。
【0050】
本開示の一側面に係るプログラムは、旗竿地に対応する道路の位置を示すデータと、地物に関するデータとに基づいて、要件に対応する地物を抽出するステップをコンピュータに実行させる。
【0051】
このような側面においては、旗竿地の位置と地物のデータとを用いることで、要件に対応する地物の情報を提供することが可能になる。
【0052】
他の側面に係るコンピュータシステムでは、プロセッサが、建築物と道路との接続を示すデータを参照して建築物を抽出してもよい。その接続を参照することで、差分によって示される道路沿いの建築物をより精度良く抽出することができる。
【0053】
他の側面に係るコンピュータシステムでは、プロセッサが、一端が他の道路と接続していない道路を、第1道路ネットワークと第2道路ネットワークとの間の差分によって示される道路から対象道路として抽出し、該対象道路沿いの建築物を抽出してもよい。このような道路を抽出することで、いわゆる旗竿地に位置する建築物を抽出することができる。
【0054】
他の側面に係るコンピュータシステムでは、プロセッサが、幅員が所与の閾値未満である道路を、第1道路ネットワークと第2道路ネットワークとの間の差分によって示される道路から対象道路として抽出し、該対象道路沿いの建築物を抽出してもよい。このような道路を抽出することで、狭隘道路沿いの建築物を抽出することができる。
【0055】
他の側面に係るコンピュータシステムでは、プロセッサが、建築物の築年数を示すデータを参照して、抽出された建築物の築年数を特定してもよい。この場合には、特定の位置に存在する建築物の築年数を提供することが可能になる。
【0056】
本開示の一側面に係るコンピュータシステムはプロセッサを備える。プロセッサは、第1道路ネットワークと第2道路ネットワークとの間の差分によって示される道路沿いの建築物を抽出する。
【0057】
2種類の道路ネットワークの差分で示される道路は何らかの特徴を有すると推定される。上記の側面においては、そのような特徴的な道路に沿った建築物、すなわち特定の位置に存在する建築物を抽出することができる。この手法を用いることで、土地の情報そのものが用意されていなくても、道路ネットワークから土地の特徴を推定して、その土地に位置する建築物を抽出することが可能になる。
【0058】
本開示の一側面に係るデータ構造は、道路を特徴づける複数の位置間を結ぶリンクに関する情報と、該情報に対応したリンクが敷地延長に該当するか否かを示すフラグ情報とを有する道路ネットワークデータのデータ構造である。
【0059】
[変形例]
以上、本開示をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0060】
上記実施形態では算出部11が対象道路として敷地延長(旗竿地)または狭隘道路を抽出するが、対象道路の抽出方法はこれに限定されない。例えば、算出部11は、幅員が所与の閾値未満である行き止まりの道路(すなわち、敷地延長および狭隘道路の両方の性質を有する道路)を対象道路として差分から抽出してもよい。あるいは、算出部11は特定の種別の道路を対象道路として差分から抽出してもよい。
【0061】
本開示において、「少なくとも一つのプロセッサが、第1の処理を実行し、第2の処理を実行し、…第nの処理を実行する。」との表現、またはこれに対応する表現は、第1の処理から第nの処理までのn個の処理の実行主体(すなわちプロセッサ)が途中で変わる場合を含む概念を示す。すなわち、この表現は、n個の処理のすべてが同じプロセッサで実行される場合と、n個の処理においてプロセッサが任意の方針で変わる場合との双方を含む概念を示す。
【0062】
コンピュータシステム内で二つの数値の大小関係を比較する際には、「以上」および「よりも大きい」という二つの基準のどちらを用いてもよく、「以下」および「未満」の二つの基準のうちのどちらを用いてもよい。このような基準の選択は、二つの数値の大小関係を比較する処理についての技術的意義を変更するものではない。
【0063】
少なくとも一つのプロセッサにより実行される方法の処理手順は上記実施形態での例に限定されない。例えば、上述したステップ(処理)の一部が省略されてもよいし、別の順序で各ステップが実行されてもよい。また、上述したステップのうちの任意の2以上のステップが組み合わされてもよいし、ステップの一部が修正または削除されてもよい。あるいは、上記の各ステップに加えて他のステップが実行されてもよい。
【0064】
以上の実施形態の全部または一部に記載された態様は、建築物の適切な抽出、処理速度の向上、処理精度の向上、使い勝手の向上、データを利用した機能の向上または適切な機能の提供その他の機能向上または適切な機能の提供、データおよび/またはプログラムの容量の削減、装置および/またはシステムの小型化等の適切なデータ、プログラム、記録媒体、装置および/またはシステムの提供、並びにデータ、プログラム、装置またはシステムの制作・製造コストの削減、制作・製造の容易化、制作・製造時間の短縮等のデータ、プログラム、記録媒体、装置および/またはシステムの制作・製造の適切化のいずれか一つの課題を解決する。
【符号の説明】
【0065】
1…地理情報システム、11…算出部、12…抽出部、13…出力部、20…データベース、21…車両用道路ネットワークデータ、22…全道路ネットワークデータ、23…建築物データ、120…プログラム、200…車両用道路ネットワーク、210…全道路ネットワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7