(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】冷凍サイクル、方法およびコントローラ
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20240920BHJP
F24F 11/84 20180101ALI20240920BHJP
F24F 11/86 20180101ALI20240920BHJP
【FI】
F25B1/00 304D
F25B1/00 304L
F24F11/84
F24F11/86
(21)【出願番号】P 2020075410
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2023-03-23
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】ヤーン, リミング
【審査官】庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-068359(JP,A)
【文献】特開平06-281234(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0180630(US,A1)
【文献】特開昭62-112945(JP,A)
【文献】特開2015-117853(JP,A)
【文献】特開2012-255570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F25B 13/00
F24F 11/84
F24F 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室外機、複数の室内機および少なくとも1つの電子膨張弁を使用する冷凍サイクルを制御するためのコントローラを含み、
前記コントローラは、
前記電子膨張弁を駆動するためのパルス数を用いた速度型PID制御を実行する速度型PIDコンポーネントと、
前記電子膨張弁の駆動状態を判断し、前記電子膨張弁の開状態、閉状態、および停止状態の3つの駆動状態を指定するパルス指令を生成する三状態コントローラと、
前記三状態コントローラによって生成された前記パルス指令に応じて前記電子膨張弁を駆動するステートマシンと
を含み、
前記三状態コントローラは、
前記駆動状態を判断する前記パルス数および前記電子膨張弁のストローク時間に関して拡大されたパルス数を格納するストレージを含む、
冷凍サイクル。
【請求項2】
前記駆動状態は、前記電子膨張弁の可能な複数の駆動状態から選択される、請求項1に記載の冷凍サイクル。
【請求項3】
前記三状態コントローラは、前記ストレージに格納された値に応じて、前記電子膨張弁を開くためのパルス指令および前記電子膨張弁を閉じるためのパルス指令を生成する、請求項1に記載の冷凍サイクル。
【請求項4】
室外機、複数の室内機および少なくとも1つの電子膨張弁を使用する冷凍サイクルを制御するためのコントローラを含み、
前記コントローラは、
前記電子膨張弁を駆動するためのパルス数を用いた速度型PID制御を実行する速度型PIDコンポーネントと、
前記電子膨張弁の駆動状態を判断し、前記電子膨張弁の開状態、閉状態、および停止状態の3つの駆動状態を指定するパルス指令を生成する三状態コントローラと、
前記三状態コントローラによって生成された前記パルス指令に応じて前記電子膨張弁を駆動するステートマシンと
を含み、
前記冷凍サイクルは、前記速度型PID制御下での手動操作の要求を受領し、速度型PID制御を継続しながら、手動操作を開始する、冷凍サイクル。
【請求項5】
空気調和システムは、少なくとも空気調和システムの部分を構成し、前記空気調和システムは、VRFまたはPACシステムである、請求項4に記載の冷凍サイクル。
【請求項6】
室外機および複数の室内機を含む冷凍サイクルを制御する方法であって、
前記方法は、
電子膨張弁を駆動するためのパルス数を用いる速度型PIDコンポーネントによって、速度型PID制御を実行することと、
三状態コントローラによって、前記電子膨張弁の駆動状態を判断し、前記電子膨張弁の開状態、閉状態、および停止状態の3つの駆動状態を指定するパルス指令を生成することと、
前記三状態コントローラによって生成された前記パルス指令に応じて、ステートマシンによって前記電子膨張弁を駆動すること
を含み、
前記三状態コントローラは、
前記駆動状態を判断する前記パルス数および前記電子膨張弁のストローク時間に関して拡大されたパルス数を格納するストレージを含む、
方法。
【請求項7】
室外機、複数の室内機および少なくとも1つの電子膨張弁を使用する冷凍サイクルを制御するためのコントローラを含む冷凍サイクルのコントローラであって、
前記コントローラは、
前記電子膨張弁を駆動するためのパルス数を用いた速度型PID制御を実行する速度型PIDコンポーネントと、
前記電子膨張弁の駆動状態を判断し、前記電子膨張弁の開状態、閉状態、および停止状態の3つの駆動状態を指定するパルス指令を生成する三状態コントローラと、
前記三状態コントローラによって生成された前記パルス指令に応じて前記電子膨張弁を駆動するステートマシンと
を含み、
前記三状態コントローラは、
前記駆動状態を判断する前記パルス数および前記電子膨張弁のストローク時間に関して拡大されたパルス数を格納するストレージを含む、
コントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルに関し、詳細には冷凍サイクル、冷凍サイクル制御のための方法およびコントローラに関する。
【背景技術】
【0002】
VRF(ビル用マルチエアコン)は、業務用空調機に使われる。従来のVRFでは、EEV(電子膨張弁)は、冷凍サイクルを循環する冷媒の熱力学的状態を制御するのに用いられる。EEVは、その開度が変化することによって、必要な冷凍能力に達するよう電気的に制御されるが、従来のVRFのほとんどすべては、EEV制御が不充分である。
【0003】
現在のEEV制御方法において、電気パルスでの制御指令は、位置決め、すなわちEEV開度を示すために用いられる。EEVが長時間動作した後、パルス数と実際のEEV開度はずれることがあり、電気パルスは、EEVの位置を適切に制御できなかった。
【0004】
このような現在のシステムにおいては、EEVは、一定期間の動作が経過した後に、ゼロリセット、すなわち閉弁位置にリセットされる。この方法は、冷凍サイクルを妨害し、冷凍サイクル制御を複雑にする。
【0005】
EEV位置を制御するためのいくつかの技術が知られており、米国特許第7,762,094号明細書(特許文献1)は、パルスの数を算出するためにモータの動作速度を考慮するPIDコントローラを開示している。算出されたパルスは、膨張弁開度を制御するためのステッピングモータに提供される。
【0006】
米国特許第9,606,516号明細書(特許文献2)は、偏差に応じた速度型動作指令信号を出力する速度型PID計算ユニットを開示している。指令信号は、バルブの開/閉を制御する。
【0007】
上記の先行技術は、速度を基にしたEEVの制御に基づくものとして開示され、既知であるものの、冷凍サイクルの長時間動作後のEEV位置制御として充分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第7,762,094号明細書
【文献】米国特許第9,606,516号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の先行技術があるにも関わらず、冷凍サイクルの動作改善が継続して要求されており、本発明の目的は、冷凍サイクルの妨害や制御の複雑化をなくし、位置フィードバックを提供することのない、EEVについての新規な制御技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態によれば、室外機、複数の室内機および少なくとも1つのEEVを用いる冷凍サイクルを制御するためのコントローラを含み、
コントローラは、
EEVを駆動するためのパルス数を用いた速度型PID制御を実行する速度型PIDコンポーネントと、
EEVの駆動状態を決定し、駆動状態を指定するパルス指令を生成する三状態コントローラと、
三状態コントローラによって生成された駆動指令に依拠してEEVを駆動するステートマシンと
を含む、
冷凍サイクルが提供される。
【0011】
一実施形態によれば、三状態コントローラは、駆動状態を決定するためのパルス数およびEEVのストローク時間に関して拡大されたパルス数を記憶するストレージを含む。
【0012】
一実施形態によれば、駆動状態は、EEVが開、閉および停止の状態である。
【0013】
一実施形態によれば、三状態コントローラは、ストレージに記憶された値に応じて、EEVを開くためのパルス指令およびEEVを閉じるためのパルス指令を生成する。
【0014】
一実施形態によれば、冷凍サイクルは、速度型PIDの制御下での手動操作のためのリクエストを受け取り、速度型PIDコンポーネントの計算結果を用いた手動操作を許可する。
【0015】
一実施形態によれば、空気調和システムは、VRFまたはPACシステムである。
【0016】
一実施形態によれば、室外機および複数の室内機を含む冷凍サイクルを制御する方法が提供される。この方法は、
EEVを駆動するためのパルス数を用いる速度型PIDコンポーネントによって、速度型PID制御を実行することと、
三状態コントローラによって、EEVの駆動状態を決定し、駆動状態を指定するパルス指令を生成することと、
三状態コントローラによって生成された駆動指令に依拠して、ステートマシンによってEEVを駆動すること
を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態によれば、冷凍サイクルにおける新規な三状態制御が提供され得る。冷凍サイクルにおける三状態制御は、EEVの開位置を検出するための位置センサを省略しながら、長時間運転後のEEVのゼロリセットなどによる空気調和システムに対する余分な妨害を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明による一実施形態としての、冷媒を含む冷凍サイクルを示す。
【
図2】
図2は、本発明による例示的な実施形態の空気調和装置のハードウェア配置を示す。
【
図3】
図3は、本発明による一実施形態のコントローラ116のハードウェア構造を示す。
【
図4A】
図4Aは、本発明による一実施形態におけるストローク時間の一例を示す。
【
図4B】
図4Bは、本発明による一実施形態のPID制御スキームのデータ構成を示す。
【
図5】
図5は、本発明による一実施形態のCPU330に実装された機能ブロックを示す。
【
図6】
図6は、本発明による一実施形態の三状態コントローラ502において実行される処理のフローチャートを示す。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態によって制御される特定のEEVの遷移の時間変化を示す。
【
図8】
図8は、本発明による一実施形態のステートマシン503のI/O構造800を示す。
【
図9】
図9は、本発明による一実施形態のステートマシン503に実装される状態遷移のダイアグラム900を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の特定の実施形態を、添付する図面を参照しつつ説明する。しかしながら、この発明は、多くの異なる形態で実現することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、むしろこれらの実施形態は、この開示が包括的、かつ完結したものとなり、本開示が本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。添付図面において説明される実施形態の詳細な説明で使用される用語は、発明を限定することを意図するものではない。
【0020】
図1は、1つの例示的な実施形態として、冷媒を含む冷凍サイクルを示す。例示的な空気調和システムは、空気調和装置として具体化することができ、より好ましくは、VRF、PAC(パッケージエアコン)などとして具体化することができる。本説明では、説明の便宜上、冷媒サイクルは、室外機(ODU)110ならびに複数の室内機(IDU)120-1、120-2おおよび120-3を含むVRF(ビル用マルチエアコン)空気調和システムに実装されるものとする。
【0021】
3つのIDUが例示的に示されているものの、より多くのIDUが空気調和システムに用いられてもよく、複数のIDUが、特定の室内空間120の容量に応じて、個々の室内空間120に配置されてもよい。
図1に示す実施形態では、複数のIDU120-1,120-2および120-3は、それぞれの室内空間120に配置され、IDU120-1,120-2および120-3のそれぞれは、IDUが配置された室内空間120の空気調和を提供する。
【0022】
IDU120-1,120-2および120-3は、配管140を通じてODU110と接続される。配管140は、IDU120-1,120-2および120-3に冷媒を供給し、必要な空調を提供する。通信線(不図示)は、配管140に沿って配置され、ODU110と、それぞれのIDU120-1,120-2および120-3と接続して、ODU110内のコントローラでIDU120-1,120-2および120-3を制御する。
【0023】
IDU120-1,120-2および120-3は、それぞれ、室内空間120に必要な熱交換容量を提供するための電子膨張弁(EEV)121a~121cを含む。EEV121a~121cは、ODU110に設けられたコントローラによって独立に制御されてもよい。
【0024】
図2は、1つの例示的な実施形態の空気調和システムのハードウェア構造を示す。室外機110は、圧縮機115、熱交換器112およびファンモータ114によって駆動する室外ファン113を含む。圧縮機115は、スクロール型圧縮機によって構成されてもよく、空気調和のための冷媒を圧縮する。熱交換器ユニット120は、IDU120-1,120-2および120-3など、およびこれらから四方弁111を通過して流れる冷媒の熱交換を行う。他の実施形態では、ODU110は、複数の圧縮機を含む、建物の空調に対処するためのチラーシステムであってもよい。
【0025】
室外ファン113は、冷媒温度の他、熱交換器112の温度を制御するために、熱交換器112に対して外気を流している。室外機110は、圧縮機115、インバータ117,118を介してファン113、IDU120-1~120-3などを含む空気調和システムを制御するためのコントローラ116を含んでいる。
【0026】
室外機110は、Pd119-1、Ps119-2、Ts119-3およびTliq119-4などの各種センサをさらに含む。これらのセンサは、空気調和システム内を循環する冷媒のパラメータから空気調和に要する容量を予測するために用いられ、センサPd119-1は、吐出圧力を検出し、センサPs119-2は、吸引圧力を検出し、Ts119-3は、吸引温度を検出し、Tliq119-4は、熱交換器112に隣接する位置での冷媒の温度を検出する。
【0027】
図2の実施形態においては、室外機110は、IDU120-1、120-2と、配管、阻止弁122-1、122-2およびEEV121a-121bを通して接続されていて、室外機110内で昇圧された冷媒がIDU120-1、120-2のそれぞれに循環されて、所望の空気調和を達成する。一実施形態では、コントローラ116は、圧縮機115および室外ファン113などの他、EEV121a~121cやその他の構成要素の動作を制御する。
【0028】
ODU110は、また、他のEEV123も含んでおり、EEV123は、IDU120-1~120-2などから戻った冷媒流量を調整し、圧縮機が吸入する冷媒のエンタルピーを制御する。一実施形態では、コントローラは、IDU120-1~120-3に配置されるEEV121a~121cを制御するか、または、ODU110に配置されるEEV123を制御するか、またはさらに特定の用途に応じてIDU110内のEEV121a~121cを、ODU110内のEEV123と同様に制御することができる。
【0029】
図3は、コントローラ116のハードウェア構造を示す。一実施形態では、コントローラ116は、種々の電子部品が実装されたコントローラボードとして実装され、コントローラボードは、室外機110内の電気モジュールとして配置することができる。コントローラ116は、IDU120-1~120-3などの他、ファンモータ114および圧縮機115と協働する機能的モジュールを含むが、
図3においては、EEV121a~121cの制御に関する主要な構成部分を示す。例示的な目的のため、EEV121a~121cを制御するためのパルスドライバ380は、コントローラ116とは別に図示されているが、パルスドライバ380は、コントローラ116の一構成要素として含まれていてもよい。
【0030】
コントローラ116は、RAM310、ROM320およびCPU330を含む。RAM310は、各種データを格納するための一時的なメモリであり、CPU330の実行空間を提供する。RAM310は、
図3に示されるように、個別的なメモリとして実装することができるが、RAM310に代えて、および/またはRAM310と共に、CPU330に一体化されたレジスタメモリが用いられてもよい。
【0031】
ROM320は、不揮発性メモリであり、空気調和処理を実行するための種々の種類のファームウェアおよびデータを格納する。RAM310のようにROM320は、CPU330とは別体として配置されてもよいが、ROM320は、CPU330の内部モジュールに実装することもできる。CPU330は、マイクロコンピュータ、ASIC(application specified integrated circuit)またはSoCとして実装することができる。CPU330に対し、一実施形態にしたがい、IDU120-1~120-3からのデータが通信ラインを通して入力され、空気調和システムの制御を実行する。
【0032】
IDU120-1~120-3から送付されるデータは、室内温度の他、それぞれのIDUの入力温度および出力温度室内機の入力温度および出力温度などの種々のデータであるが、これらに限定されず、制御の実行に要求される任意のデータをIDU120-1~120-3から送ることができる。CPU330は、入力データに対して種々の処理を適用し、処理の結果を、EEV120-1~120-3を含む各種モジュールに出力して、空気調和システムを制御する。
【0033】
一実施形態では、コントローラ116は、EEV121a~121cのストローク時間に基づいた速度型PIDアルゴリズムを用いてEEV121a~121cの開度を制御する。ストローク時間は、EEVが全開から全閉に移行するまでの時間である。
図4Aは、一実施形態におけるストローク時間の一例を示している。ストローク時間は、あらかじめ特定のEEVのために取得され、ROM320などの適切なストレージにファームウェアの制御データとして格納することができる。
【0034】
図4Bは、テーブル形式で表現される例示的な一実施形態の速度型PID制御スキームのデータ構造を示す。
図4Bにおいて、列「容量要求」は、特定の時間において適切な空気調和を行うために必要な容量であり、列「現在容量」は、室内機によって供給される現時点での容量であり、列「ΔC/Pulse」は、パルス当たりのEEVの開度の変化による容量変化である。列「セットポイント(SP)(パルス)(Set Point (SP) (Pulse))」は、容量要求を実現するために必要なパルス数である。これらのデータは、あらかじめ取得され、適切なストレージに格納されていてもよい。このようなストレージは、コントローラ上にローカライズされたものであってもよいし、ネットワークを介して遠隔的に接続されたストレージであってもよい。
【0035】
ここで、空気調和システムが、現在容量C4で、その時点で動作しているものと仮定し、その時の容量要求がC1であるものと仮定する。コントローラ116は、現在容量C4がC1に変更されるべきであると判断する。このとき、コントローラ116は、以下の式(1)よりPID制御に用いられるセットポイント(SP)を計算する。
【0036】
【0037】
ここで、SPの符号は、EEVの開閉状態に対応し、本実施形態の速度型PID制御は、パルスモータまたはステッピングモータが駆動することにより、EEV121a~121cの開および/または閉制御によって、容量要求を満足させる。
図4Bのデータ構造は、例示的にテーブル形式として記載されるが、
図4Bのデータ構造は、テーブル形式でなく、機能的な関係とすることができる。さらに、
図4Bのデータ構造は、いわゆるAIデバイスによって蓄積され、学習されて、PID制御を発展的に進化させることもできる。いずれにせよ、データ構造は、
図4Bに示された実施形態に限定されず、実施形態によるPID制御を許容する任意のデータ構造を実装することができる。
【0038】
一実施形態では、速度型PIDアルゴリズムは、EEVの位置を決定するための位置センサを用いることなく、各EEV121a~121cのストローク時間を用いて実行される。EEVのストローク時間を実施形態による速度型PID制御アルゴリズムと共にPID制御として統合することで、位置センサの必要性をなくし、EEVの開度をゼロにリセットすることによる空気調和システムのシステム停止を抑制でき、これによって空気調和システムのコストおよび動作効率を改善することができる。
【0039】
図5は、CPU330に実装される機能構造を示す。
図5に示される機能モジュールは、コンピュータ実行可能なプログラムによって実現でき、CPU330は、プログラムを読み込み、CPU330内部で一実施形態の制御のための処理を実行する。
【0040】
図5に示される機能部は、速度型PIDコンポーネント501、三状態コントローラ502、ステートマシン503、一実施形態の速度型PID制御のためのデータを格納するために用いられるストレージであるバッファメモリ504、およびモーションインジケータ505を含む。
図5の機能モジュールのそれぞれは、EEVを個別に制御するために、EEV121a~121cのそれぞれに実装することができる。
【0041】
速度型PID制御コンポーネント501は、CV(control value)およびSP(setting point)が入力され、Δuおよびストローク時間を出力する、EEV121a~121cの開度を制御するための従来のPIDアルゴリズムを使用して実装される。速度型PIDコンポーネント501は従来のアルゴリズムを用いているものの、実施形態によれば制御値は、位置ではなく、パルス数である。三状態コントローラ502は、必要なパルス数をΔuの値から計算し、パルス数をバッファメモリ504に格納する。パルス数の計算は、後述する。
【0042】
モーションインジケータ505は、実施形態において提供される自動状態から停止状態の間にある三状態コントローラ502の状態を即時に示す。ここに、自動状態は、EEV121a~121cが速度型PID制御アルゴリズムによって自動的に駆動される動作状態を参照する。これとは別に、停止状態は、EEV121a~121cが停止を継続する状態を参照する。モーションインジケータ505の機能を、EEVの三状態コントローラ502の処理および優先操作に関連して詳述する。
【0043】
一実施形態の三状態コントローラ502の制御に関して、三状態コントローラ502は、バッファメモリ504の値がゼロよりも大きい間、またはバッファメモリ504の値が所定の小さい値Δε、すなわち閾値となるまでの間、EEV121a~121cを開閉するための指令を出力して、EEV121a~121cの位置を移動させる。他方では、三状態コントローラ502は、バッファメモリ504におけるパルス数が所定の小さい値Δε以内である場合には、速度型PIDコンポーネント501の計算によるEEVを駆動するための指令を発しない。停止状態では、EEV121a~121cは、その位置を保持する。
【0044】
このストラテジーは、EEV121a~121cの位置のゼロリセットおよび位置センサの使用を排除しつつ、EEV121a~121cのいわゆる三状態制御を提供できる。ステートマシン503は、EEV121a~121cの位置を制御するための特定の要求に応じて、EEVを開くおよび/または閉じる指令を発する。ステートマシン503は、三状態コントローラ502およびパルスジェネレータから、EEVオープン指令またはEEVクローズ指令に応じて、EEV121a~121cを駆動するための指令を受信する。
【0045】
他の実施形態では、三状態コントローラ502は、手動操作および他の優先操作によって優先され、EEV121a~121cは、手動操作および他の優先操作によって提供されるスキームに沿って制御することができ、これによってEEVの柔軟な制御を提供する。手動操作または他の優先操作のような要求に対処するため、CPU330は、優先操作の要求を受信する優先リクエストモニタ506を含む。
【0046】
以下、一実施形態の速度型PID制御を、数式を用いて詳細に説明する。一実施形態では、速度型PIDアルゴリズムは、下記式(2)として速度型PIDコンポーネント401に実装される。
【0047】
【0048】
式(2)は、速度型PIDアルゴリズムで表された入力および出力関数のラプラス変換である。式(2)において、Δuは、EEVのパルス数の操作量であり、Δtは、速度型PIDアルゴリズムが使用される時間幅であり、Kpは、誤差、誤差の時間積分および誤差の差分項に応じた伝達関数である。Kp,KiおよびKdは、あらかじめ決定され、システムの制御データとしてROM320に格納されてもよい。本実施形態は、EEVの位置ではなくパルス数を使用して、室内機120-1~120-3のそれぞれからEEVの位置センサを排除することを可能とすることに留意されたい。
【0049】
速度型PIDアルゴリズムでは、u(k)の値は、過去のu(k-1)の値をフィードバック制御して使用することによって計算されるが、速度型PIDコンポーネント401は、EEVの開および/または閉を制御するためのΔuの値を発行する。Δuの値は、指令、すなわちEEV開および/もしくは閉に変換される。
【0050】
図6は、一実施形態による三状態コントローラ502において実行される処理のフローチャートである。
図6に示す処理は、ステップS600から開始し、モーションインジケータ505が自動状態を示しているか否かの第1の判断を行う。状態が自動状態であれば(Yes)、処理はステップS601に進み、下記式(3)によってEEVを動作するためのパルス数が計算される。以下の説明では、正の値は、EEV開を示し、負の値は、EEV閉を示すものと仮定する。
【0051】
【数3】
上式中、StrokeTimeは、ストローク時間を参照し、Δtは、速度型PID計算のための時間的区間として参照する。バッファメモリ504に蓄積されるパルス数は、このためストローク時間に関連して拡大され、速度型PIDアルゴリズムを実行するための効率的な計算サイクルを確保することができる。
【0052】
ステップS602では、「パルスバッファ(PulseBuffer)」の値をアップデートするために、計算されたパルス数がバッファメモリ504に蓄積される。「パルスバッファ(PulseBuffer)」の値は、ステッピングモータまたはパルスモータを駆動する指令を生成するための拡大されたパルス数に対応する。この計算は、Δtの時間的区間ごとに実行されてもよく、
図6の処理が、速度型PID制御が終了されるまで繰り返されてもよい。説明する実施形態では、適切な整数化処理を、パルスバッファの値に適用して、丸め処理によるエラーを最小化し、また安定した停止状態を確実にすることができる
【0053】
その後、ステップS603では、三状態コントローラ502は、PulseBufferの値がゼロ以上か否かを判断する。PulseBufferの値がゼロよりも大きい場合(Yes)、処理はステップS605に進み、開動作のための動作フラグ(Open=true, Close=false)を設定し、その後、パルスバッファの値がゼロより大きい間、当該指令をステートマシン503に送信する。
【0054】
EEVの動作の振動を抑制しつつ、安定な停止状態の期間を確実とするため、数値ゼロだけでなくΔεのようにパルスバッファに適切な閾値を設定することができる。閾値|Δε|の絶対値を、1より小さくして、小数点以下の値による振動を排除しつつ閾値の導入に伴う位置的な誤差を抑制することができる。なお、パルスバッファの値は、本発明によるStrokeTime/Δtの比の乗算によって拡張され、このような微小閾値の導入が実際の位置精度を低減することも想定される。
【0055】
本実施形態では、PulseBufferの絶対値は、PulseBufferの値ではなく、ステップS603およびステップS604におけるΔεと比較されてもよい。このような閾値が用いられる場合、丸め処理は必ずしも実装されない。しかしながら、双方の実装は、実装の特定の必要性、または、特定の用途に応じて選択することができる。さらに、別の実施形態において|Δε|よりも小さいPulseBufferの値を、速度型PID計算の次のサンプリング期間(t+1)を開始する前に、エラーの蓄積を除くために、ゼロクリアすることができる。
【0056】
ステップS603での判断が否定的な結果を返す場合(No)、処理は、ステップS604に進み、PulseBufferの値がゼロよりも小さい(負の値)か否かを判断する。パルスバッファの値がゼロよりも小さいならば(Yes)、処理は、ステップS606に進み、動作フラグを閉動作(Open=false、 Close=true)に設定し、その後、パルスバッファの値がゼロよりも小さい間、指令をステートマシン503に送信する。
【0057】
ステップS604での判断が否定的な結果を返すならば(No)、処理は、ステップS607に進み、動作フラグ(Open=false、 Close=false)を設定し、ステップS607ではEEVを駆動するための指令をステートマシン503へ送信しない。
【0058】
動作フラグの値は、容易にモーションインジケータ値に変換することができ、三状態マシン502の状態は、下記式(4)のように、動作フラグによって変換されてもよい。
【0059】
【0060】
式(4)では、“value of Open”は、2進数の1(true)と解釈され、”value of Close“は2進数の0(false)と解釈される。この実施形態では、モーションインジケータ値が1のとき、EEVは開いている、または閉じている途中であり、他方で、モーションインジケータの値が0の場合、EEVは停止中である。動作フラグを、ステートマシン503の状態を指定するために使用し、ステートマシン503の入出力状況を制御することができる。ステートマシンの詳細については後述する。
【0061】
再度
図6を参照すると、ステップS600での判断が否定的な結果を返した場合(No)、処理は、ステップS608に進み、優先リクエストモニタ506をチェックすることによって、手動オープンのための要求といった優先リクエストが存在するか否かを判断する。ここで、優先リクエストが手動オープンなどをアサートしていることを優先リクエストモニタ506が示す場合、処理はステップS605に進み、速度型PID制御の利点を使用しつつ、ステップS605の処理を継続する。優先リクエストのための形式や種類の実態は限定されず、任意のアサート方法が本実施形態において用いられてもよい。
【0062】
ステップS608の判断が否定的な結果を返す場合(No)、処理は、ステップS609に進み、ステップS608と同様の手順を用いて、手動クローズのような優先リクエストが存在しているか否かを判断する。手動クローズのリクエストが存在している場合、処理は、ステップS606に進み、速度型PID制御の利点を使用しながら、ステップS606の処理を継続する。
【0063】
ステップS608からステップS609までの処理は、マニュアル操作などの優先操作を許容し、これは、PID制御下でのメンテナンスやインストール設定としてしばしば要求される。EEV121a~121cの動作状態は、モーションインジケータ505の値によってモニタされるので、以前に実行されたPID計算が効果的に優先操作において使用でき、操作モードの間のスムーズな切替えが達成できる。手動操作が要求されるときはいつでも、処理は、速度型PID制御を継続しながら、容易に手動操作といった優先操作を開始することができる。このフレキシブルな構成が、位置センサ無く空気調和システムの操作を可能とする。
【0064】
図7は、実施形態によって制御される特定のEEVの動作状態の時間変化を示す。バッファメモリ504の値は、新たな時間的区間Δtごとに、速度型PIDアルゴリズムによって計算されるΔu値に応じて更新され、EEVは、PulseBufferの値がゼロよりも大きい間は開かれる。PulseBufferの値がゼロになるか、所定の閾値内である場合には、EEVのモーションコントロールが停止される。PulseBufferの値が依然としてゼロでない値であるか、またはΔu値の蓄積によって所定の閾値の外にある場合には、EEVの動作制御が継続される。
【0065】
時間的区間(t+1)でのΔu値が負の値の場合、PulseBufferの値は、バッファメモリ504内で蓄積されて負となり、コントローラ116は、EEVを閉じるように制御を行い、パルスバッファの値がゼロよりも小さいか、まだパルスバッファの値が時間的区間(t+n)での微小閾値の範囲外にある間、閉動作を継続する。
図7で説明されるように、本実施形態のEEV制御は、EEV位置のゼロリセットを省略しながら、位置センサを用いることなく三状態制御を実現する。
【0066】
図8は、ステートマシン503の入出力(I/O)構造800を示す。ステートマシン503は、停止状態、自動状態および手動状態の少なくとも3つの状態の間を遷移する。三状態コントローラ502の制御に優先するその他の状態が必要な場合には、その状態をステートマシン503に組み込むことができる。
図8に示す実施形態では、自動状態、停止状態および手動状態のような3つ状態が組み込まれたとものと仮定する。
【0067】
ここで、自動状態は、速度型PID制御の下、三状態コントローラ502によってEEVが駆動される状態を意味し、停止状態は、EEVが継続して動作しない状態を意味し、手動状態は、自動状態および停止状態に優先する優先状態である。手動状態は、ハードウェア的なボタンの押下やCPU330への手動操作を要求する指令といった、外部からの命令によって実現され得る。
【0068】
入力ポート「状態(State)」は、三状態コントローラ502の判断結果および優先操作に対する他の要求から提供される自動状態、停止状態および手動状態の間のステートマシンの状態を示す。状態ポートへは、開、閉、および停止していることの状態を示す2桁の2進数の値として、動作フラグを入力することができる。入力ポート「オープンイン(OpenIn)」および「クローズイン(CloseIn)」は、三状態コントローラ502がステップS605またはステップS606において発行する指令を受信するものである。入力ポート「手動オープン(ManualOpen)」および「手動クローズ(ManualClose)」は、手動操作のためのCPU330からの指令を受信するものである。
【0069】
図8で説明する入力ポートは、ステートマシン503への入力の種類と一致し、他の実施形態では、4つの入力ポートが1つのポートに統合されてもよく、ステートマシン503に入力される指令状態に応じて、ステートマシン503が、出力ポート「オープン(Open)」および「クローズ(Close)」から出力する「EEVオープン(EEV_Open)」指令、または「EEVクローズ(EEV_Open)」を切替える。
【0070】
ステートマシン503に入力される指令は、実施形態による自動状態および手動状態の両方の三状態コントローラ502によって生成されてもよい。代わりに、手動状態での指令は、三状態コントローラ502によって生成される指令ではなく、手動操作のためにCPU330によって特別に生成されてもよい。
【0071】
図9は、ステートマシン503に実装される状態遷移のダイアグラム900を示す。ステートマシン503は、停止状態910、自動状態920および手動状態930の間を遷移する。停止状態910では、出力ポート「オープン(Open)」および「クローズ(Close)」は、双方が無効、すなわち双方が偽(false)である。状態が自動状態に遷移する場合、出力ポート「オープン(Open)」および「クローズ(Close)」は、「Open=オープンイン(OpenIn)」または「Close=クローズイン(CloseIn)」に設定される。
【0072】
手動状態930では、出力ポート「オープン(Open)」および「クローズ(Close)」は、「Open=手動オープン(ManualOpen)」または「Close=手動クローズ(ManualClose)」に設定される。手動オープン(ManualOpen)および手動クローズ(ManualClose)の指令は、一実施形態による速度型PIDアルゴリズムを使用する三状態コントローラ502によって、生成されるものである。代わりに、手動オープン(ManualOpen)および手動クローズ(ManualClose)の指令は、特定の用途に応じた適切なコンポーネントによって、特別に生成される。
【0073】
一実施形態では、ステートマシン503は、三状態コントローラ502から受信するパルス周波数を低減するための周波数デマルチプレクサを含むことができる。パルスバッファの値は、ストローク時間と時間期間Δtとの比の乗算なので、EEV121a~121cのパルスドライバ380へのパルス周波数を適切に低減することで、ステッピングモータまたはパルスモータに関連して脱調しないようにすることができる。この目的において、ステートマシン503は、削減した周波数でEEV121a~121cの駆動パルスを出力する。
【0074】
さらに他の実施形態では、上述した周波数デマルチプレクサは、三状態コントローラ502の一モジュールとして実装されてもよく、三状態コントローラ502が生成する指令は、すでに周波数が調整された指令でもよい。さらに代わりの実施形態では、上述した周波数デマルチプレクサは、出力インターフェース360の一機能として実装されるコントローラ116のモジュールとして実装することができる。
【0075】
特定の実施形態を、これまでVRFのIDU120-1~120-3が具備するEEV121a~121cのPID制御について説明した。しかしながら、本PID制御は、ODU110のEEVの制御に適用されてもよい。
【0076】
さらに他の実施形態では、コントローラ116がIDU120-1~120-3のEEV121a~121cのそれぞれを遠隔的に制御するのではなく、IDU120-1~120-3の各々に具備される個別のコントローラが、コントローラ116から命令を受信してローカルEEVを制御してもよい。
【0077】
さらに他の実施形態として、コントローラ116は、リモートサーバに実装されてもよく、リモートサーバは、LANおよび/またはインターネットといったネットワークを通じたクライアントシステムとして、ローカル冷凍サイクルを制御することができる。さらに他の実施形態では、コントローラ116は、ネットワークを通じたローカル空気調和システムによる、空気調和サービスを提供するクラウドシステムとして実装することができる。
【0078】
以上説明したように、本実施形態は、長時間運転後のEEV121a~121cのゼロリセットを回避すると共に、EEV121a~121cの開位置を検出するための位置センサを排除しながら空気調和システムにとって不要な障害を避けることを可能とする、冷凍サイクルの新規な三状態制御を提供できる。
【0079】
本発明の好ましい実施形態を説明してきたが、本発明は、特定の関連する実施形態に限定されるべきではなく、本発明の範囲を逸脱せずに当業者は、種々の修正および代替実施例をなすことができ、真の範囲は、添付の請求の範囲によってのみ決定されるべきである。