(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物及びその製造方法並びに建具
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20240920BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20240920BHJP
C08J 5/06 20060101ALI20240920BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20240920BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240920BHJP
E06B 1/26 20060101ALI20240920BHJP
E06B 3/20 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08L27/06
C08J3/20 Z CEV
C08J5/06 CEV
C08K5/098
C08L1/02
E06B1/26
E06B3/20
(21)【出願番号】P 2020094862
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-05-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2017年度、環境省、セルロースナノファイバー(CNF)等の次世代素材活用推進事業「セルロースナノファイバー活用製品の性能評価事業委託業務」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(73)【特許権者】
【識別番号】591023642
【氏名又は名称】中越パルプ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】内田 富士雄
(72)【発明者】
【氏名】橋場 洋美
(72)【発明者】
【氏名】平野 恭介
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-081607(JP,A)
【文献】特開平08-333469(JP,A)
【文献】特開平10-286862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/06
C08J 3/20
C08J 5/06
C08K 5/098
C08L 1/02
E06B 1/26
E06B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属石鹸担持セルロース繊維と、ポリ塩化ビニル樹脂と、を含有
し、
前記金属石鹸担持セルロース繊維中におけるセルロース繊維の含有量が、50~99.4質量%であり、
前記金属石鹸担持セルロース繊維中における金属石鹸の含有量が、0.6~50質量%であり、
前記セルロース繊維は、数平均太さが3nm~200nmのセルロースナノ繊維である、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物。
ただし、前記セルロース繊維の量と前記金属石鹸の量の合計は100質量%である。
【請求項2】
前記金属石鹸担持セルロース繊維及び前記ポリ塩化ビニル樹脂の合計量に対する前記金属石鹸担持セルロース繊維の含有量が、1~55質量%であり、
前記金属石鹸担持セルロース繊維及び前記ポリ塩化ビニル樹脂の合計量に対する前記ポリ塩化ビニル樹脂の含有量が、45~99質量%である、請求項1に記載の建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物。
ただし、前記金属石鹸担持セルロース繊維の量と前記ポリ塩化ビニル樹脂の量の合計は100質量%である。
【請求項3】
前記金属石鹸は、融点が100℃より高く180℃以下である、請求項1又は2に記載の建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物の製造方法であって、
前記セルロース繊維に前記金属石鹸を混合する第1工程と、
前記第1工程を経て前記金属石鹸が担持された前記セルロース繊維を、前記ポリ塩化ビニル樹脂に混合する第2工程と、を有する、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物を加熱成形して得られる成形部材により構成される、建具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物及びその製造方法並びに建具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境保護の観点から、バイオマス材料が注目されている。例えば、バイオマス材料としてのセルロース繊維を含む樹脂組成物の検討が進められており、セルロースナノ繊維とポリオレフィン樹脂からなる樹脂混合物に、分散剤(相溶化剤)としてテルペンフェノール系化合物が添加されたポリオレフィン樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のポリオレフィン樹脂組成物では、樹脂の分散のためにテルペンフェノール系化合物を別途添加する必要があり、合理的な組成であるとは言えない。また、特許文献1のテルペンフェノール系化合物は、ポリ塩化ビニル樹脂に対しては相溶化しにくく衝撃強度が低下するため、建具への適用は困難であるという課題もある。
【0005】
従って、樹脂の分散のためにあらたな添加剤を別途添加する必要が無い合理的な組成を有し、かつ曲げ弾性率が高く衝撃強度の低下が少ない樹脂組成物及びその製造方法並びに建具が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、金属石鹸担持セルロース繊維と、ポリ塩化ビニル樹脂と、を含有する、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物及びその製造方法並びに建具に関する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、樹脂の分散のために添加剤を別途添加する必要が無い合理的な組成を有し、かつ曲げ弾性率が高く衝撃強度の低下が少ない樹脂組成物及びその製造方法並びに建具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係るポリ塩化ビニル樹脂組成物の構成を示す模式図である。
【
図2】本開示のPP基板上にCNFを付着させFE-SEM(走査型電子顕微鏡)で観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
図1は、本開示の一実施形態に係る建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物の構成を示す模式図である。建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1は、金属石鹸担持セルロース繊維2と、ポリ塩化ビニル樹脂3と、を含有する。
図1に示されるように、金属石鹸担持セルロース繊維2は、分散剤(相溶化剤)としての金属石鹸22がセルロース繊維21に担持されて構成される。このように、金属石鹸担持セルロース繊維2がポリ塩化ビニル樹脂3中に均一に分散されることにより、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1が構成されている。
【0011】
ここで、担持とは、付着していることを意味する。即ち、金属石鹸担持セルロース繊維2は、セルロース繊維21に金属石鹸22が付着したものである。この金属石鹸担持セルロース繊維2は、後述するようにセルロース繊維21と金属石鹸22とを混合することにより得られる。
【0012】
セルロース繊維21としては、従来公知のセルロース繊維を用いることができる。セルロース繊維は、環境保護の観点からバイオマス材料としての利用が期待されている材料である。セルロース繊維21には、木材、竹、パルプや綿等の天然繊維と、この天然繊維を再生して作成された再生繊維とが含まれ、農業廃棄物や食品加工副産物等を利用することもできる。セルロース繊維21は、例えばエステル化剤等により化学修飾されたものであってもよい。
【0013】
ポリ塩化ビニル樹脂3及び金属石鹸担持セルロース繊維2の合計量に対する金属石鹸担持セルロース繊維2の含有量は、1~55質量%であることが好ましい。この金属石鹸担持セルロース繊維2の含有量は、上述の特許文献1のセルロース繊維と比べると少ない含有量であるにも関わらず、同等の曲げ弾性率が得られ衝撃強度の低下を抑えられる。ポリ塩化ビニル樹脂3及び金属石鹸担持セルロース繊維2の合計量に対する金属石鹸担持セルロース繊維2の含有量が1質量%未満であると、高い曲げ弾性率が得られにくくなる。また、ポリ塩化ビニル樹脂3及び金属石鹸担持セルロース繊維2の合計量に対する金属石鹸担持セルロース繊維2の含有量が55質量%を超えると、衝撃強度が低くなるうえ、セルロース繊維は高価であるためコストアップに繋がる。ポリ塩化ビニル樹脂3及び金属石鹸担持セルロース繊維2の合計量に対する金属石鹸担持セルロース繊維2のより好ましい含有量は、1~30質量%である。ここで、ポリ塩化ビニル樹脂3の量と金属石鹸担持セルロース繊維の量の合計は100質量%である。
【0014】
また、金属石鹸担持セルロース繊維2中におけるセルロース繊維21の含有量は、50~99.4質量%であることが好ましい。言い換えれば、金属石鹸担持セルロース繊維2中における金属石鹸22の含有量は、0.6~50質量%であることが好ましい。ここで、セルロース繊維21の量と金属石鹸22の量の合計は100質量%である。
【0015】
金属石鹸担持セルロース繊維2中におけるセルロース繊維21の含有量が50質量%未満であると、せん断がかかりにくく、水分除去が難しくなる。言い換えれば、金属石鹸担持セルロース繊維2中における金属石鹸22の含有量が50質量%を超えると、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1の衝撃強度が低下する。
【0016】
また、金属石鹸担持セルロース繊維2中におけるセルロース繊維21の含有量が99.4質量%を超えると、セルロース同士の凝集が強くなり、次工程での分散が不均一になりやすくなる。言い換えれば、金属石鹸担持セルロース繊維2中における金属石鹸22の含有量が0.6質量%未満であると、ポリ塩化ビニル樹脂3への分散性が低下するうえ、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1の成形加工時に良好な滑り性が得られず加工性の低下が生じるおそれがある。
【0017】
金属石鹸担持セルロース繊維2中におけるセルロース繊維21のより好ましい含有量は、70~95質量%である。言い換えれば、金属石鹸担持セルロース繊維2中における金属石鹸22のより好ましい含有量は、5~30質量%である。
【0018】
セルロース繊維21として、特定の平均繊維径及び平均繊維長を有するセルロースナノ繊維を用いることにより、セルロース繊維の凝集が抑制され、衝撃強度の低下を抑制できる。セルロースナノ繊維は、ガラス繊維等の無機繊維と比べて、低比重でありながら剛性を向上させることができる。参考までに、
図2は、PP基板上にセルロースナノ繊維(CNF)を付着させFE-SEM(走査型電子顕微鏡)で観察した図である。
【0019】
セルロースナノ繊維としては、例えば、木材繊維、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維、葉繊維、海藻類等の天然の植物を含む多糖由来のセルロースナノ繊維が挙げられ、これらのうち一種を単独で又は二種以上を混合して用いることができる。また、バガス、稲わら、茶殻、果汁の搾り粕等の植物の葉、花、茎、根、外皮等に由来する作物残渣から産出されるものであっても良い。多糖としては、α-セルロース含有率が60~99質量%のパルプを用いることが好ましい。α-セルロース含有率がこの範囲内であれば、繊維径及び繊維長さを調整しながら解繊し易く、セルロース結晶の有する強度を効果的に利用できる。また、溶融時の熱安定性が高く、曲げ弾性率及び衝撃強度の低下を抑制できるうえ、着色抑制効果が良好である。
【0020】
より具体的には、セルロース繊維21として、繊維の数平均としての平均太さが3~200nmであるセルロースナノ繊維が好ましく用いられる。繊維の平均太さは、走査型電子顕微鏡を用いた拡大観察により測定可能である。通常のセルロース繊維を用いた場合と比べると、セルロースナノ繊維を用いた場合には、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1を加熱成形して得られる部材の表面の荒れを軽減できるほか、流動性が向上し金型での詰まりも低減され成形性も向上する。
【0021】
セルロースナノ繊維は、多糖を高圧水流にて解繊してなるものがより好ましく用いられる。得られたセルロースナノ繊維は、数平均としての平均太さ3~200nm、数平均としての平均長さ0.1μm以上であって、セロビオースユニット内に水酸基を6個有するものとなっている。上述したように繊維の数平均としての平均太さが3~200nmのレベルまで解繊することで、流動性があり曲げ弾性率及び衝撃強度の低下が少なく、低比重にして高剛性で成形外観に優れた建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物を得ることができる。
【0022】
多糖を高圧水流にて解繊してセルロースナノ繊維とする手法としては、上述の特許文献1に記載されている手法の他、特開2012-36518号公報に記載された破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーにより、原料繊維を溶媒に分散させた分散液を処理するホモジナイズ処理法が挙げられる。また、特開2005-270891号公報に記載された、水に懸濁した天然セルロース繊維をチャンバー内で相対する二つのノズルに導入し、これらのノズルから一点に向かって噴射、衝突させる水中対向衝突法が挙げられる。
【0023】
セルロースナノ繊維は、第1工程の水分散状態における固形分濃度を20%以上とすることにより、後述する分散剤(相溶化剤)としての金属石鹸3との馴染みが改善し、凝集物の生成を抑制できる。固形分濃度が20%未満であると、構造の一部に疎水性を有する金属石鹸3との相溶性が悪化し、セルロースナノ繊維同士で凝集し易くなる。また、水分が多くなるため混練時の樹脂温度の低下により熱エネルギーをロスするうえ、混練時の不均一なせん断力を招く結果、混練過程での均一分散の障害となる。
【0024】
ポリ塩化ビニル樹脂3は、本実施形態に係る建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1の主成分である。即ち、ポリ塩化ビニル樹脂3は、本実施形態に係る建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1を加熱成形して得られる部材の剛性や耐衝撃性等の機械物性、成形加工性、耐溶剤性、耐熱性等の特性を発現するものである。
【0025】
ポリ塩化ビニル樹脂3としては、土木や建築等の生活インフラの材料として従来公知のポリ塩化ビニル樹脂を用いることができる。ポリ塩化ビニル樹脂3としては、-CH2-CHCl-で表される基を有する全ての重合体を指し、塩化ビニルの単独重合体、塩素化ポリ塩化ビニル重合体、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、等も含みうるものである。ポリ塩化ビニル樹脂3の平均重合度は、成形物の機械的強度及び成形性の観点から、400~3000以下であることが好ましく、600~1600であることがより好ましい。
【0026】
ポリ塩化ビニル樹脂3及び金属石鹸担持セルロース繊維2の合計量に対するポリ塩化ビニル樹脂3の含有量は、45~99質量%であることが好ましい。ポリ塩化ビニル樹脂3及び金属石鹸担持セルロース繊維2の合計量に対するポリ塩化ビニル樹脂3の含有量が45質量%未満であると、セルロース繊維21の含有量が多過ぎるため、衝撃強度が低下するうえ、セルロース繊維21は高価であるためコストアップに繋がる。また、ポリ塩化ビニル樹脂3及び金属石鹸担持セルロース繊維2の合計量に対するポリ塩化ビニル樹脂3の含有量が99質量%を超えると、セルロース繊維21の含有量が少な過ぎるため、高い曲げ弾性率が得られにくくなる。ポリ塩化ビニル樹脂3及び金属石鹸担持セルロース繊維2の合計量に対するポリ塩化ビニル樹脂3のより好ましい含有量は、70~99質量%である。ここで、ポリ塩化ビニル樹脂3の量と金属石鹸担持セルロース繊維2の量の合計は100質量%である。
【0027】
金属石鹸22は、長鎖脂肪酸と、金属との塩である。金属石鹸22は、ポリ塩化ビニル樹脂の滑剤として通常用いられている。そのため、本実施形態に係る建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1では、この金属石鹸22を、ポリ塩化ビニル樹脂3の滑剤として利用するとともに、分散剤(相溶化剤)としても用いている。これにより、従来のように樹脂の分散剤として別途、高価な添加剤を添加する必要が無く、合理的な組成となっている。
【0028】
金属石鹸22としては、例えば、長鎖脂肪酸成分としてはステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸、オクチル酸、12ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、等が挙げられ、金属分としてはリチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウムが挙げられる。具体的には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸バリウム、12ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12ヒドロキシステアリン酸バリウム、12ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、ベヘン酸マグネシウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0029】
中でも、金属石鹸22としては、融点が100℃より高く180℃以下である金属石鹸が好ましく用いられる。金属石鹸22の融点が水の沸点100℃よりも高いことにより、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1の製造過程において、水分を除去する際に金属石鹸22が融解するのを抑制できる。また、金属石鹸22の融点が180℃以下であることにより、ポリ塩化ビニル樹脂3の成形温度以下に保てる。
【0030】
本実施形態に係る建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1は、その物性を損なわない限りにおいてその混合時や成形時に、他の樹脂、添加剤、例えば、熱安定剤、分散剤、相溶化剤、界面活性剤、でんぷん類、多糖類、ゼラチン、ニカワ、天然たんぱく質、タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末、顔料、染料、強化剤、充填剤、耐熱剤、酸化抑制剤、耐候剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、着色剤、香料、レベリング剤、可塑剤、流動性改良剤、導電剤、帯電抑制剤等、紫外線吸収剤、紫外線分散剤、消臭剤等を添加することができる。
【0031】
任意の添加剤の含有割合としては、本実施形態の効果が損なわれない範囲で適宜含有されても良い。
【0032】
本実施形態に係る建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1の製造方法は、セルロース繊維21に金属石鹸22を混合することにより、金属石鹸担持セルロース繊維2を得る第1工程と、金属石鹸担持セルロース繊維2をポリ塩化ビニル樹脂3に混合することにより、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1を得る第2工程と、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1を加熱成形して得られる成形部材により、建具を構成する第3工程と、を有する。
【0033】
第1工程では、セルロース繊維21に金属石鹸22を混合する。具体的には、上述の含有量となるように、セルロース繊維21に対して金属石鹸22を添加して混合する。混合は、例えば、タンブルミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサー等に代表される高速ミキサーで分散混合する。得られた混合物の水分を除去し、粉末化する。粉末化に用いる装置は、単軸押出機、二軸押出機、二軸混錬機、ニーダー、バンバリーミキサー、往復式混錬機、ロール混錬機等を例示することができる。これにより、セルロース繊維21に金属石鹸22が担持される。即ち、金属石鹸22がセルロース繊維21に担持された金属石鹸担持セルロース繊維2が得られる。また、粉末にする条件は特に限定されない。
【0034】
第2工程では、金属石鹸担持セルロース繊維2を、ポリ塩化ビニル樹脂3に混合する。具体的には、上述の含有量となるように、金属石鹸担持セルロース繊維2をポリ塩化ビニル樹脂3中に投入して混合する。混合は、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の汎用混合機で分散混合することができる。これにより、金属石鹸担持セルロース繊維2がポリ塩化ビニル樹脂3中に均一に分散された建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1が得られる。
【0035】
その後、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1を単軸押出機、二軸押出機、各種ニーダー等の汎用混錬機でポリ塩化ビニル樹脂がゲル化する温度、例えば130℃~220℃の温度で溶融混練し、造粒することによりペレットが得られる。
【0036】
第3工程では、ペレット状の建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1を加熱成形して得られる成形部材により、建具を構成する。具体的には、第2工程で得られたペレットを、押出成形機に供給して押出成形することにより、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1の成形部材が得られる。
【0037】
なお、本実施形態に係る建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1の成形方法には特に制限はなく、押出成形、射出成形、圧縮成形、中空成形体等の成形法を適用することができる。本実施形態に係る建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1は、高い曲げ弾性率と高い衝撃強度を有することから、建具として用いられる。具体的に、例えば住宅用アルミサッシの代わりに、本実施形態に係る建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物で構成されるサッシや玄関ドア、室内ドア、フェンス、デッキ、住宅用手すりに適用することが可能である。
【0038】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、金属石鹸担持セルロース繊維2と、ポリ塩化ビニル樹脂3と、を含有する、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1とした。
これにより、金属石鹸22を、ポリ塩化ビニル樹脂3の滑剤として利用するとともに、分散剤(相溶化剤)としても用いることができ、従来のように樹脂の分散剤として別途、添加する必要が無く、合理的な組成とすることができる。また、本実施形態によれば、金属石鹸22がセルロース繊維21に担持された金属石鹸担持セルロース繊維2が、ポリ塩化ビニル樹脂3中に均一に分散されることにより、従来よりもセルロース繊維21の含有量が少ないにも関わらず、高い曲げ弾性率と高い衝撃強度が得られる。
【0039】
なお、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良は本開示に含まれる。
【実施例】
【0040】
次に、本開示の実施例について説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例、比較例]
各実施例及び比較例いずれにおいても、セルロース繊維として、平均重合度820、原料のα-セルロース含有率が86質量%である、中越パルプ工業株式会社製のセルロースナノ繊維「nanoforest-S(竹漂白パルプ由来)(商品名)」を用いた。ポリ塩化ビニル樹脂としては、信越化学工業株式会社製の平均重合度1000のポリ塩化ビニル単独重合体「TK-1000(商品名)」を用いた。
【0042】
(セルロース繊維の重合度測定)
セルロース繊維固形分量0.15gを30mlの0.5M銅エチレンジアミン溶液に溶解させ、キャノンフェンスケ動粘度管を用いて、25℃で保温した後に、流下時間を測定することで粘度の測定を行った。このセルロースナノ繊維・銅エチレンジアミン溶液の粘度をη、0.5M銅エチレンジアミン溶液の粘度をη0として、下記のSchulz-Blaschke式から極限粘度[η]を求めて、下記のMark-Houwink-Sakurada式から重合度DPを算出した。なお、n=3で試験を行った平均値を平均重合度とした。
【0043】
比粘度ηsp=η/η0-1
極限粘度[η]=ηsp/{c(1+A×ηsp)}
η0は0.5M銅エチレンジアミン溶液の粘度であり、cはセルロースナノ繊維濃度(g/mL)であり、Aは溶液の種類によって決まる固有値であって0.5M銅エチレンジアミン溶液の場合にはA=0.28である。
【0044】
重合度DP=[η]/Ka
Kとaは高分子と溶媒の種類によって決まる固有値であって、銅エチレンジアミン溶液に溶解したセルロースの場合としてK=0.57、a=1とした。
【0045】
また、各実施例では、分散剤(相溶化剤)である金属石鹸として、日東化成工業株式会社製の12ヒドロキシステアリン酸マグネシウム「MS-6(商品名)」(融点125~135℃)及び、日東化成工業株式会社製のステアリン酸カルシウム「Ca-St(商品名)」(融点145~160℃)、日東化成工業株式会社製のリシノール酸バリウム「BS-5(商品名)」(融点115~125℃)を用いた。一方、比較例3では、分散剤(相溶化剤)として、ヤスハラケミカル株式会社製のテルペンフェノール樹脂「YSポリスターT100(商品名)」を用いた。
【0046】
各実施例及び比較例いずれも、表1に示す割合及び以下の配合剤を配合し、上述の本開示の製造方法・工程に従って、建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物を得た。
【0047】
(配合剤)
配合剤としては、株式会社ADEKAのCa/Zn系複合熱安定剤を、ポリ塩化ビニル単独重合体100質量部に対して3質量部添加した。また、株式会社カネカのアクリル系耐衝撃性改良剤「KANEACE FM-50(商品名)」を、ポリ塩化ビニル単独重合体100質量部に対して10質量部添加した。
【0048】
[評価]
各実施例及び比較例で得られた建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物を添加し、各原材料をロール(180℃)にて混練し、180℃の温度条件でシートへ圧縮成形を行い、各試験片(成形部材)を得た。得られた試験片について、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度及び分散性の評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0049】
<曲げ弾性率>
JIS K 7171-1に準拠して、圧縮成形により作成した厚み4mmの試験片を使用して、23℃、試験速度2mm/minにおける曲げ弾性率を測定した。曲げ弾性率は2400MPa以上である必要があり、好ましくは2800MPa以上、より好ましくは3000MPa以上である。
【0050】
<シャルピー衝撃強度>
JIS K 7111に準拠して、圧縮成形により作成した厚み4mmの試験片を使用して、試験条件JIS K 7111-1/1eAにおけるシャルピー衝撃強度を測定した。シャルピー衝撃強度は3kJ/m2以上である必要があり、好ましくは5kJ/m2以上、より好ましくは6kJ/m2以上である。
【0051】
<分散性>
圧縮成形により作成した厚み0.2mm×3cm×3cmの試験片において直径0.05mm以上の凝集物の有無を目視で確認した。試験片に直径0.05mm以上の凝集物が含まれていなければ○、直径0.05mm以上、0.1mm未満の凝集物が含まれていれば△、直径0.1mm以上の凝集物が含まれていれば×と評価した。
【0052】
【0053】
[考察]
以上の結果から、本実施例によれば、樹脂の分散のために添加剤を別途添加する必要が無い合理的な組成を有し、かつ曲げ弾性率が高く衝撃強度の低下が抑えられる建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物1が得られることが確認された。
なお、比較例1は、金属石鹸担持セルロース繊維2の製造過程で凝集物が発生し、評価に至っていない。
【0054】
[評価]
表2に示す割合で各成分を配合し、更に以下の配合剤を添加し、上述の本開示の製造方法に従って、溶融混練して得られたポリ塩化ビニル樹脂組成物の各ペレットを、100℃で12時間乾燥させた後、クラウス・マッファイ株式会社製のコニカル2軸押出機「KMD43K/P型(商品名)」に、シリンダー温度180℃、ダイス温度190℃の条件で押出成形することにより試験片を得た。得られた各試験片を用いて、後述の評価を実施した。その結果を表2に示した。
【0055】
(配合剤)
配合剤としては、株式会社ADEKAのCa/Zn系複合熱安定剤を、ポリ塩化ビニル単独重合体100質量部に対して3質量部添加した。また、株式会社カネカのアクリル系耐衝撃性改良剤「KANEACE FM-50(商品名)」を、ポリ塩化ビニル単独重合体100質量部に対して10質量部添加した。
【0056】
<曲げ弾性率>
JIS K 7171-1に準拠して、押出成形により作成した厚み3mmの試験片を使用して、23℃、試験速度2mm/minにおける曲げ弾性率を測定した。曲げ弾性率は2500MPa以上である必要があり、好ましくは2800MPa以上、より好ましくは3000MPa以上である。
【0057】
<シャルピー衝撃強度>
JIS K 7111に準拠して、押出成形により作成した厚み3mmの試験片を使用して、試験条件JIS K 7111-1/1eAにおけるシャルピー衝撃強度を測定した。シャルピー衝撃強度は3kJ/m2以上である必要があり、好ましくは5kJ/m2以上、より好ましくは6kJ/m2以上である。
【0058】
<ビカット軟化点>
JIS K 7206に準拠して、押出成形により作成した厚み3mmの試験片を使用して、昇温速度50℃/h及び荷重10Nの下で、先端が平らな針が試験片の規定まで侵入する温度を測定した。ビカット軟化点は88℃である必要があり、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上である。
【0059】
<熱線膨張率>
JIS K 7197に準拠して、押出成形により作成した厚み3mmの試験片を使用して、熱機械分析法(TMA)による、昇温速度5℃/min、測定温度20~60℃における平均長さ変化率を測定した。熱線膨張率は6×10-5m/℃以下である必要があり、好ましくは5×10-5m/℃以下、より好ましくは4×10-5m/℃である。
【0060】
<表面硬度>
JIS K 5600に準拠して、押出成形により作成した厚み3mmの試験片を使用して、鉛筆の芯を試料表面に押付けて動かし、試料に引っかき傷を生じせしめた鉛筆の芯の硬さ(6B~HB~6H)を測定した。鉛筆硬度はH以上である必要があり、好ましくは2H以上、より好ましくは3H以上である。
【0061】
<加工作業性>
押出成形により作成した厚み3mmの試験片を使用して、ドリルを用いて4mm径の穴あけ加工を行ない、穴の端から4mm上の亀裂の有無を目視で確認した。亀裂無しが○、亀裂有りが×と評価した。
【0062】
【0063】
[考察]
以上の結果から、本実施例によれば、樹脂の分散のために添加剤を別途添加する必要が無い合理的な組成を有し、かつ曲げ弾性率が高く衝撃強度の低下が抑えられ、また屋外での直射光や反射光による表面温度上昇に対する耐熱性や引っかき傷に対する硬度に優れる建具用塩化ビニル樹脂組成物1が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
1 建具用ポリ塩化ビニル樹脂組成物
2 金属石鹸担持セルロース繊維
3 ポリ塩化ビニル樹脂
21 セルロース繊維
22 金属石鹸