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特許7557978レーダ装置、レーダ装置の制御方法、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】レーダ装置、レーダ装置の制御方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20240920BHJP
   H01Q 3/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01S7/02 216
H01Q3/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020115110
(22)【出願日】2020-07-02
(65)【公開番号】P2022012935
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志村 元
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-064500(JP,A)
【文献】特開平08-105955(JP,A)
【文献】特開昭51-009553(JP,A)
【文献】特開昭52-029138(JP,A)
【文献】特開平11-094935(JP,A)
【文献】特開平06-242230(JP,A)
【文献】特開2001-174539(JP,A)
【文献】特表2009-541719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
H01Q 3/00-3/46
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向性を有し、電磁波を放射する送信アンテナと、
指向性を有し、前記電磁波が物体によって反射された反射波を受信する受信アンテナと
記送信アンテナのビーム幅と前記受信アンテナのビーム幅が重複する領域を有する範囲で、前記送信アンテナのビームが最大となる方向に対応する送信ビーム方向と、前記受信アンテナのビームが最大となる方向に対応する受信ビーム方向との角度差が、0よりも大きい所定の角度となるように前記送信アンテナと前記受信アンテナを制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記送信ビーム方向が第1のビーム方向である場合の前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向との角度差が、前記送信ビーム方向が前記第1のビーム方向とは異なる第2のビーム方向である場合の前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向との角度差とは異なるように前記送信アンテナと前記受信アンテナを制御することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
記受信アンテナにより受信された反射波を解析する解析手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向を個別に制御することを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記解析手段による物体検知のために、前記角度差を維持しながら、前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向を回転させることを特徴とする請求項2または3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記解析手段による第1の物体検知を行うために、前記角度差を第1の角度に維持しながら前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向を回転させ、
前記第1の物体検知で物体が検知された場合に、前記解析手段による第2の物体検知を行うために、前記角度差を前記第1の角度よりも大きい第2の角度に維持しながら前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向を回転させる、ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記第1の角度が0であることを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記第1の物体検知で検知された物体が存在する方向に基づいて設定された範囲で前記第2の物体検知が行われるように、前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向の回転を制御することを特徴とする請求項5または6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記物体検知によって検知された物体の形状または大きさを検出するために、前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向を前記検知された物体が存在する方向へ向けた後、前記送信ビーム方向を回転させずに前記受信ビーム方向を回転させる、ことを特徴とする請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記物体検知によって検知された物体の形状または大きさを検出するために、前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向を前記検知された物体が存在する方向へ向けた後、前記受信ビーム方向を回転させずに前記送信ビーム方向を回転させる、ことを特徴とする請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記送信アンテナのビーム幅と前記受信アンテナのビーム幅の重複する領域の大きさが同じになるように、前記送信ビーム方向または前記受信ビーム方向に応じて、前記角度差を変更することを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記送信アンテナの送信ビーム方向とビーム幅の関係、前記受信アンテナの受信ビーム方向とビーム幅の関係を記憶したテーブルをさらに備え、
前記制御手段は、前記テーブルを参照して前記角度差を変更することを特徴とする請求項10に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記角度に基づいて、前記送信アンテナの送信パワーを制御することを特徴とする請求項10に記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記制御手段は、前記角度差が大きいほど、前記送信パワーを大きくすることを特徴とする請求項12に記載のレーダ装置。
【請求項14】
指向性を有し、電磁波を放射する送信アンテナと、
指向性を有し、前記電磁波が物体によって反射された反射波を受信する受信アンテナと、を備えるレーダ装置の制御方法であって、
前記送信アンテナのビーム幅と前記受信アンテナのビーム幅が重複する領域を有する範囲で、前記送信アンテナのビームが最大となる方向に対応する送信ビーム方向と、前記受信アンテナのビームが最大となる方向に対応する受信ビーム方向との角度差が、0よりも大きい所定の角度になるように前記送信アンテナと前記受信アンテナを制御する工程と、
前記角度差を維持しながら、前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向を回転させて、物体検知を行う工程と、を有し、
前記制御する工程において、前記送信ビーム方向が第1のビーム方向である場合の前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向との角度差は、前記送信ビーム方向が前記第1のビーム方向とは異なる第2のビーム方向である場合の前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向との角度差とは異なるように前記送信アンテナと前記受信アンテナが制御されることを特徴とするレーダ装置の制御方法。
【請求項15】
請求項14に記載されたレーダ装置の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置、レーダ装置の制御方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
送信アンテナから電磁波を放射(送信)し、物体で反射された電磁波を受信アンテナで電波を受ける(受信)ことによって、物体を検出する物体検出レーダシステムが知られている。例えば、特許文献1には、送信信号を被写体に向けて送信し、被写体によって反射された反射信号から被写体の画像を取得するイメージング装置が開示されている。また、特許文献2には、送信アンテナと受信アンテナが異なる方向に配列されたアクティブセンサが開示されている。特許文献2のアクティブセンサによれば、送信アンテナを第一の方向に走査し、受信アンテナを第二の方向に走査することで、送信ビームと受信ビームの交点の位置を移動させ、その位置の情報を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-145230号公報
【文献】特開2015-132474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような物体検出レーダシステムでは、対象の物体の大きさ、形状等をより高い精度で検出する場合には、送信アンテナや受信アンテナのビーム幅を狭くする必要があった。そのため、アンテナの構造が複雑化、大型化する場合があった。
【0005】
本発明は、アンテナの構造の複雑化、大型化を抑制しつつ、高精度な物体検知を可能にするレーダ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によるレーダ装置は以下の構成を備える。すなわち、
指向性を有し、電磁波を放射する送信アンテナと、
指向性を有し、前記電磁波が物体によって反射された反射波を受信する受信アンテナと
記送信アンテナのビーム幅と前記受信アンテナのビーム幅が重複する領域を有する範囲で、前記送信アンテナのビームが最大となる方向に対応する送信ビーム方向と、前記受信アンテナのビームが最大となる方向に対応する受信ビーム方向との角度差が、0よりも大きい所定の角度となるように前記送信アンテナと前記受信アンテナを制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記送信ビーム方向が第1のビーム方向である場合の前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向との角度差が、前記送信ビーム方向が前記第1のビーム方向とは異なる第2のビーム方向である場合の前記送信ビーム方向と前記受信ビーム方向との角度差とは異なるように前記送信アンテナと前記受信アンテナを制御する
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アンテナの構造の複雑化、大型化を抑制しつつ、高精度な物体検知が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)は物体検出レーダシステムの構成例を示す図、(b)送信アンテナビームを説明する図、(c)は受信アンテナビームを説明する図。
図2】(a)は物体検出レーダシステムによる物体検知の走査例を示す図、(b)は半値幅を説明する図。
図3】第1実施形態による物体検出レーダシステムの動作を説明する図。
図4】第2実施形態による制御部の処理を示すフローチャート。
図5】第2実施形態による、詳細な物体検知のための動作例を示す図。
図6】指向性アンテナのビーム方向による放射パターンの変化例を示す図。
図7】第3実施形態による物体検出レーダシステムの動作を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
以下の実施形態では、60GHz帯のミリ波を使用した物体検出レーダシステムを例示するが、使用される周波数帯は必ずしもこれに限らない。たとえば、60GHz帯よりもさらに高い周波数帯である、200GHz~500GHz帯を使用してもよい。
【0011】
<第1実施形態>
図1(a)は、第1実施形態に係るレーダ装置を用いた物体検出レーダシステムの構成例を示した図である。物体検出レーダシステム10は、送信アンテナ101、受信アンテナ102、解析部103、制御部104を有する。送信アンテナ101は制御部104の制御下で送信波112を放射する。送信アンテナ101は、図1(b)に示されるように、送信アンテナビーム111として示される指向性(放射パターン)を有しており、制御部104はその送信ビーム方向113を変更することができる。ここで、送信ビーム方向113は、例えば、送信アンテナ101の最大放射強度の方向(主ビーム方向)に対応する。また、ビーム幅Tは、送信アンテナ101における、物体検出に有効な電磁波の放射幅である。
【0012】
受信アンテナ102は、制御部104の制御下で反射波122を受信する。受信アンテナ102は、図1(c)に示されるように、受信アンテナビーム121として示される指向性を有しており、制御部104はその受信ビーム方向123を変更することができる。ここで、受信ビーム方向123とは、受信アンテナの最大放射強度の方向(主ビーム方向)に対応する。また、ビーム幅Rは、受信アンテナ102における、物体検出に有効な電磁波の放射幅である。
【0013】
なお、送信アンテナ101、受信アンテナ102は共用アンテナであり、アンテナとしては同一である。制御部104は、送信時の送信アンテナビーム111(送信ビーム方向113)、受信時の受信アンテナビーム121(受信ビーム方向123)をそれぞれ個別に制御することができる。また、本実施形態では、送信アンテナビーム111の形状と受信アンテナビーム121の形状は同一であり、ビーム幅Tとビーム幅Rも同一である。図1(a)では、送信ビーム方向と受信ビーム方向が一致した状態を示している。以下、物体検出レーダシステムが、物体131の大きさ、形状等を検出する方法について述べる。
【0014】
なお、本実施形態では、送信アンテナ101と受信アンテナ102は、同じ共用アンテナであり、アンテナのビームの方向を制御可能なアレイアンテナを用いた例について説明するがこれに限られるものではない。例えば、送信アンテナ101と受信アンテナ102は、別のアンテナで構成されてもよいし、特定の方向に指向性(ビーム)を有するアレイアンテナ以外の指向性アンテナであってもよい。また、送信アンテナビーム111と受信アンテナビーム121は同一でなくてもよい。
【0015】
物体検出レーダシステム10が対象物を検出する方法について、図1を用いて説明する。送信アンテナ101は、送信アンテナビーム111に示される方向と放射強度で送信波112を送信する。送信波112は電磁波であり、本実施形態では60GHz帯のミリ波である。送信波112の一部は物体131で反射し、反射波122が発生する。受信アンテナ102は、受信アンテナビーム121で示される方向と放射強度で、到来する反射波122を受信することが可能である。図1(a)に示されるように、制御部104は、送信アンテナビーム111と受信アンテナビーム121が同一方向になるように送信アンテナ101と受信アンテナ102を制御する。送信アンテナ101が送信した電磁波の一部を、受信アンテナ102が反射波として受信した場合には、当該方向に対象物が存在する、ということになり、対象物の大きさ、形状等の検出を行うことが可能になる。
【0016】
次に、対象物の大きさ、形状等をより高精度に検出するための方法について述べる。図2(a)において、物体131、物体132、物体132は物体検出レーダシステム10で検出される物体である。ここで、制御部104は、送信アンテナビーム111および受信アンテナビーム121をそれぞれ一定の角度θで走査するように、送信アンテナ101および受信アンテナ102を制御する。送信アンテナビーム111および、受信アンテナビーム121は、ビーム幅T、Rを有する。図2(b)に示されるように、アンテナから放射される電磁波の放射強度が最大となる点201から放射強度が3dB低くなる点202の間の角度Xは、半値幅、半値角あるいは3dBビーム幅と呼ばれる(以下、半値幅という)。送信アンテナビーム111および受信アンテナビーム121の半値幅Xが広いと、ビーム幅T、Rも広くなる。その結果、例えば図2(a)に示されるように、物体132と物体133がビーム幅T、Rの範囲に存在するような場合に、それら物体を分離して認識することができなくなる。
【0017】
一般に、そのような誤検出を避け、対象物をより高精度に検出するには、送信アンテナ101および受信アンテナ102の放射特性である半値幅Xを狭くすることで実現できる。すなわち、半値幅を狭くすることにより、送信アンテナから送信される電磁波が対象物に入射する面積(ビーム幅T)が狭くなる。また、対象物から反射される反射波を受信する範囲の面積(ビーム幅R)も狭くなる。それにより、より対象物の検出の分解能を向上させることが可能となるからである。しかし、上記のように送信アンテナや受信アンテナの放射特性である半値幅を狭くする場合、一般的にアンテナの構成が複雑になる。たとえばアレイアンテナであれば、より半値幅の狭い放射特性を得ようとすると、アンテナの個数を増やす必要があるため、対象物検出システムの大型化を招く。
【0018】
そこで、以下では、送信アンテナ101や受信アンテナ102の放射特性である半値角を狭くすることなく、対象物の検出をより高精度に行うことを可能とする方法について説明する。
【0019】
図3に示す物体検出レーダシステム10では、送信アンテナ101による送信アンテナビーム111の送信ビーム方向113と、受信アンテナ102による受信アンテナビーム121の受信ビーム方向123とを、角度δ(δ>0)だけずらしている。上述したように、物体検出は、送信アンテナ101から送信される送信波が物体131に入射し、物体131で反射される反射波を受信アンテナ102が受信することで行われる。図1および図3からわかるように、それが可能となるのは、送信アンテナ101が送信波112を送信可能な範囲(ビーム幅T)と受信アンテナ102が反射波122を受信可能な範囲(ビーム幅R)の重複した範囲Wである。
【0020】
送信アンテナビーム111のビーム幅Tと受信アンテナビーム121のビーム幅Rが重なる領域の延長上の幅(面積)について、図1図3を比較してみる。図1では、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123が一致しており、重複する領域の幅はビーム幅TまたはRと等しい。これに対して、図3では、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123が角度δだけずれているため、送信アンテナ101と受信アンテナ102のビーム幅が重複する領域の幅はWとなり、図1の状態と比べて明らかに狭くなっている。このように、制御部104が送信アンテナ101と受信アンテナ102のビーム方向をずらすように制御することで、物体を検出可能な範囲を狭くすることが可能となる。これにより、物体検出レーダシステム10は、例えば、図2(a)の状態では別の物体であることを認識できなかった物体132および物体133を別の物体であると認識することが可能となる。
【0021】
以上のように、第1実施形態によれば、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123をずらすことにより、送信波と反射波の送受信が可能な領域(物体検出可能範囲)を所定の狭さ(面積)に設定され、物体検知の精度(解像度)が向上する。また、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123の間の角度差を所定値に維持しながら、送信アンテナ101、受信アンテナ102を中心とした周囲を走査することで、より正確に物体の存在を検出することが可能となる。例えば、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123の間の角度を適切に設定することで、図2(a)に示す、物体132と物体133が別々の物体であることを検出できるようになる。
【0022】
<第2実施形態>
第1実施形態では、送信波112と反射波122の送受信が可能な幅(面積)が所定の狭さ(面積)になるように送信アンテナ101および受信アンテナ102のビーム方向を制御することで、物体の検出の精度を向上する構成について説明した。すなわち、第1実施形態では、送信アンテナ101と受信アンテナ102のアンテナビーム方向を制御することにより、物体を検出可能な範囲(面積)を変化させることができることを説明した。第2実施形態では、検出可能範囲を変化させる構成を利用して、物体の検出時間を短縮し、かつ対象物の大きさや形状等をより詳細検出する構成について説明する。
【0023】
図4は、第2実施形態の制御部104、解析部103によるアンテナ制御を説明するフローチャートである。制御部104は、例えば1つ以上のプロセッサーとメモリを有し、1つ以上のプロセッサーがメモリに格納されたプログラムを実行することで図4に示される処理を実行する。まず、制御部104は、送信アンテナビーム111と受信アンテナビーム121が重なる領域が広くなるように、すなわち、物体を検出可能な範囲(面積)が広くなるように、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123を制御する。本実施形態では、制御部104は、物体を検出可能な範囲(面積)がもっとも広くなるように、送信アンテナ101の送信ビーム方向113と受信アンテナ102の受信ビーム方向123が同一となるように制御する(S401)。この状態は、図1に示したとおりである。
【0024】
制御部104は、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123を一致させた状態で、例えば図2(a)に示されるように、送信アンテナ101と受信アンテナ102による走査を行う(S402)。制御部104は、物体を検出可能な範囲ができるだけ重ならないように送信アンテナ101および受信アンテナ102のビーム方向を回転させる。例えば、図2(a)において、送信ビーム方向113、受信ビーム方向123をビーム幅T(=R)ずつ回転させる(θ=T)、半値角Xずつ回転させる(θ=X)ことがあげられる。これにより、解析部103は、送信アンテナ101、受信アンテナ102の周囲における物体の有無を短時間で判断することができる。制御部104は、走査が終了するまでの間に(S405でNOの間に)、解析部103が物体を検出した場合にはそのときの検出可能範囲を特定範囲としてメモリ(不図示)に保持する(S403でYES、S404)。
【0025】
特定範囲において物体の存在が検出された場合は、当該特定範囲に物体が1つ存在する場合もあるし複数の物体が存在する場合もありうる。よって、上述した走査が終了した後、上記物体の存在が検出された特定範囲をより詳細に分析する。このため、制御部104は、特定範囲がメモリに保持されている場合に(S406でYES)、S407以降の処理を実行する。特定範囲が保持されていなければ(S406でNO)、物体は検出されていないので、本処理を終了する。
【0026】
まず、制御部104は、第1実施形態(図3)で説明したように、物体の検出可能範囲(面積)が所定の大きさになるように送信アンテナ101および受信アンテナ102のビーム方向を図3に示したようにずらす(S407)。そして、制御部104は、この状態を保ったまま(送信ビーム方向113と受信ビーム方向123の角度をδに保ったまま)、送信アンテナ101と受信アンテナ102を用いて上記の特定範囲を走査する(S408)。特定範囲の走査では、例えば、狭められた検出可能範囲(範囲W)がなるべく重複しないようにビーム方向を回転する。解析部103は、走査により得られた物体の検出結果に基づいて、物体の大きさ、形状を認識する(S409)。なお、S404において、特定範囲として物体を検出した時のビーム方向が保持されるようにしてもよい。この場合、制御部104は、S408において、メモリに保持されているビーム方向と、上記走査のビーム幅(=T)に基づいて特定範囲を決定する。
【0027】
以上の処理によれば、物体検出可能な範囲を狭くした精密な走査が行われるため、特定範囲に複数の物体が存在するかどうかを判断することができる。また、物体検出可能な範囲に応じた精度で、特定範囲に存在する物体の大きさ、形状を特定することができる。また、そのような精密な走査は、S403で物体が検出された特定範囲について行われるので、処理の高速化が達成される。なお、さらに細かい領域内の物体の有無を検出したい場合には、上記物体の存在が検出された領域内において、上記よりさらに物体検出可能領域を狭めて走査をおこなってもよい。すなわち、送信アンテナ101と受信アンテナ102のビーム方向のずらし量を大きくしながら、特定範囲の決定と、決定された特定範囲のより精密な走査を繰り返すようにしてもよい。
【0028】
以上のように、物体が存在すると判定された特定範囲について、送信アンテナ101と受信アンテナ102のビーム方向をずらした状態で走査を行うことで、検出された物体がいくつの物体からなるものであるかをより正確に認識できる。
【0029】
次に、上述のS409において、検出された物体のそれぞれについて、その大きさおよび形状をより精密に特定する方法を説明する。
【0030】
図5は、第2実施形態による、物体の大きさ、形状を精密に特定する方法について説明する図である。上記の方法で、狭められた領域に物体131が存在することを検出された場合、制御部104は、図5(a)に示すように、物体131が存在する領域の方向にビーム方向が向くように送信アンテナ101と受信アンテナ102を制御する。そして、制御部104は、送信アンテナ101の送信ビーム方向113を固定したまま、受信アンテナ102の受信ビーム方向123を時計回りに所定の角度毎変化させる。図5(b)は、受信ビーム方向123を時計回りに角度δ1だけ回転させた様子が示されている。図5(c)では、図5(b)の状態からさらに受信ビーム方向123を時計回りに角度δ1だけ回転させた様子が示されている。図5(c)では、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123の間の角度がδ2(=δ1×2)となっている。
【0031】
解析部103は、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123の間の角度が変わるたびに反射波122を検出できるかどうか、つまりそれぞれの角度における物体検出可能範囲(面積)において物体131を検出したかどうかを判定する。送信ビーム方向113と受信ビーム方向123の間の角度を大きくしていくと、どこかで物体を検出できなくなる領域が存在するはずであり、解析部103はその情報から、物体131の片側について大きさ、形状を特定することができる。同様に、制御部104は、受信アンテナ102の受信ビーム方向123を反時計回りに所定の角度ずつ変化させる。解析部103は、それぞれの角度において反射波を検出できるかどうか、つまりそれぞれの角度における物体検出可能範囲(面積)において、物体131を検出したかどうかを判定することにより、物体131のもう一方の側の大きさ、形状を特定できる。
【0032】
以上の方法により、物体131の大きさ、形状を、短時間に、より高精度に特定することが可能となる。なお、第2実施形態では送信アンテナ101のビーム方向を固定し、受信アンテナ102のビーム方向を時計回り、反時計回りに回転させたが、送信アンテナと受信アンテナの関係を逆にしてもよい。すなわち、制御部104が、受信アンテナ102の受信ビーム方向123を固定し、送信アンテナ101の送信ビーム方向113を時計回り、反時計回りに回転させるよう制御してもよい。
【0033】
<第3実施形態>
上記実施形態において、送信アンテナ101および受信アンテナ102は共用アンテナであり、特定の方向に強いビーム(指向性)を有する指向性アンテナである。このような指向性アンテナは、図6に示すように、一般にビーム方向によってアンテナの放射パターンが変化する。すなわち、アンテナのビーム方向によって、ビーム幅(半値幅など)が変化する。そのため、送信アンテナ101(受信アンテナ102)の送信ビーム方向113(受信ビーム方向123)が、状態6a、6b、6cに示されるように変化するにしたがって、送信アンテナビーム111(受信アンテナビーム121)のビーム幅が変化する。図6では、状態6aに示される送信アンテナビーム111(受信アンテナビーム121)のビーム方向から回転角度θだけ回転した状態6b、回転角度θ'(θ'>θ)だけ回転した状態6cが示されている。図6の例では、回転角度が大きくなるほどビーム幅も大きくなっている。このような場合、送信アンテナ101の送信ビーム方向113と受信アンテナ102の受信ビーム方向123のずらし量(角度差)を一定にすると、ビーム方向によって物体検出可能な範囲が変化してしまう。例えば、状態6bで状態6cで同じ角度だけ受信ビーム方向をずらすと、状態6cの物体検出可能範囲の方が大きくなってしまう。第3実施形態では、ビーム方向が変化した場合においても、所定の物体検出可能な範囲(面積)を設定できるようにするための、送信アンテナおよび受信アンテナの制御方法について述べる。
【0034】
図7(a)に示すように、幅Wで示されるように物体検出可能な範囲(面積)を得ようとした場合に、送信アンテナ101の送信ビーム方向113と受信アンテナ102の受信ビーム方向123の間の角度はδに設定される。一方、図7(b)に示されるように送信アンテナ101から放射される送信ビーム方向113に設定された場合、幅Wで表される物体検出可能な範囲(面積)を得るためには、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123の間の角度をδ'とする必要がある。このように、ビーム幅が狭い場合とビーム幅が広い場合とでは、同じ物体検出可能な範囲(面積)を得るための、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123の角度差が異なる。すなわち、ビーム幅が狭い場合の角度差δよりも、ビーム幅が広い場合の角度差δ'の方が大きい。
【0035】
制御部104は、以上のような特性に基づいて、物体検出可能な範囲(面積)を一定に保つために、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123の角度差を、送信ビーム方向113または受信ビーム方向123に基づいて変更する。例えば、制御部104は、「送信アンテナの送信ビーム方向の角度とビーム幅」と「受信アンテナのビーム方向の角度とビーム幅」とが関連付けて記憶されたテーブルを保持する。上述したように、物体検出可能な範囲(面積)は、送信アンテナと受信アンテナのビーム幅が重なり合う領域である。制御部104は、保持しているテーブルから得られるビーム方向とビーム幅に基づいて、所定の物体検出可能な範囲(面積)を得るために必要な、送信アンテナ101および受信アンテナ102のビーム方向の角度を演算する。制御部104は、演算されたビーム方向の角度に基づき送信アンテナ101および受信アンテナ102のビーム方向を制御する。
【0036】
あるいは、「物体検出可能な範囲(面積)」と「送信アンテナのビーム方向の角度とビーム幅」と「受信アンテナのビーム方向の角度とビーム幅」が関連付けて記憶されたテーブルを保持してもよい。この場合、制御部104は、所定の物体検出可能な範囲(面積)を得るための送信アンテナ101と受信アンテナ102のビーム方向の角度をテーブルから直接取得することができる。
【0037】
以上のように、第3実施形態によれば、ビーム方向によらず、安定した物体検出可能な範囲を得ることができる。
【0038】
<第4実施形態>
第1実施形態~第3実施形態において、送信アンテナと受信アンテナのアンテナビームの方向をずらすことによって、物体検出可能な範囲(面積)を狭くすることが可能となり、それによって、より高精度な物体の検出が可能となることを説明した。すなわち、図3に示されるように、送信アンテナビーム111のビーム幅Tと受信アンテナビーム121のビーム幅Rが重なる領域の幅W(面積)が物体検出可能な範囲となる。しかしながら、範囲Wの方向は、送信ビーム方向113および受信ビーム方向123からずれており、範囲Wにおける送信アンテナ101および受信アンテナ102のアンテナ利得は低くなっている。よって、物体131から反射される電磁波のエネルギーが、受信アンテナ102で十分に受け取れない可能性がある。その場合、受信アンテナ102で受信する反射波がノイズに紛れてしまい、物体検出レーダシステム10が正確に物体を検出できなくなってしまう。
【0039】
第4実施形態では、送信アンテナ101と受信アンテナ102のビーム方向をずらすことによって物体検出可能な範囲(面積)を狭くした際に、受信アンテナ102が物体からの反射波をより大きなエネルギーで受信できるようにする。
【0040】
受信アンテナ102が物体からの反射波をより大きなエネルギーで受信できるように、制御部104は、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123をずらした場合に、送信アンテナ101から送信される電磁波のエネルギーを高くする。すなわち、制御部104は、送信ビーム方向113と受信ビーム方向123の間の角度差に応じて、送信アンテナ101から出力される電磁波の送信パワーを変更する。例えば、上記角度差が大きいほど、送信パワーを大きくする。このような制御により、物体で反射される反射波のエネルギーが大きくなり、受信アンテナ102で受信される反射波のエネルギーも大きくなる。結果、物体検出レーダシステム10が物体をより正確に検出できるようになる。
【0041】
例えば、第2実施形態(図4)で説明した制御を実行する場合、重複するビーム幅Wが狭いほど(送信ビーム方向113と受信ビーム方向123の角度差が大きくなるほど)、アンテナ利得が低くなる。したがって、制御部104は、送信アンテナ101の送信パワーを上げるように制御する。
【0042】
例えば、制御部104のメモリは、第3実施形態で説明したテーブルを第1のテーブルとして保持するとともに、「送信ビーム方向と受信ビーム方向の角度差」と「送信アンテナの送信パワー」とを関連付けた第2のテーブルを保持する。制御部104は、第1のテーブルを用いて第3実施形態で説明した方法で送信ビーム方向と受信ビーム方向を決定すると、決定された送信ビーム方向と受信ビーム方向の角度差から第2のテーブルを参照して送信アンテナ101の送信パワーを決定する。
【0043】
以上のように、第4実施形態によれば、送信ビーム方向と受信ビーム方向をずらすことにより生じる利得の低下に起因した検知能力の低下が抑制される。
【0044】
以上説明したように、上記各実施形態によれば、物体検出レーダシステムにおいて、送信アンテナおよび受信アンテナの半値幅を変えることなく、アンテナのビーム方向の制御のみで、物体検知の精度を向上させることができる。すなわち、アンテナの構造の複雑化、大型化を抑制しつつ、高精度な物体検知を実現することが可能になる。
【0045】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0046】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために、以下の請求項を添付する。
【符号の説明】
【0047】
101:送信アンテナ、102:受信アンテナ、103:解析装置、104:制御部、111:送信アンテナビーム、121:受信アンテナビーム、112:送信波、122:反射波、131:物体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7