(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】既存工場における鉄骨柱脚の固定方法およびそれが適用された建屋
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20240920BHJP
E04B 1/18 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E04B1/58 511F
E04B1/18 E
E04B1/58 503P
(21)【出願番号】P 2020122006
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】598101619
【氏名又は名称】今井 克彦
(73)【特許権者】
【識別番号】503117841
【氏名又は名称】株式会社森林経済工学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000130374
【氏名又は名称】株式会社コンステック
(74)【代理人】
【識別番号】100084593
【氏名又は名称】吉村 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】今井 克彦
(72)【発明者】
【氏名】宮原 浩維
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-121240(JP,A)
【文献】特開2014-173251(JP,A)
【文献】特開2007-277913(JP,A)
【文献】特開2018-080556(JP,A)
【文献】特開2009-270260(JP,A)
【文献】特開2019-060111(JP,A)
【文献】実開昭60-042846(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0068154(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/18
E04C 3/30
E04C 3/32
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四隅に配置されたアングル材にそれらを囲繞するウィングプレートおよびウィングアングル、サイドプレートおよびサイドアングルがリベットにより固定された鉄骨柱を基礎ローソクの上面に固定するためのベースプレートが設置され、該ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の両側もしくは片側の床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、
前記ローソク積み上げ部の側部と、該側部に隣接して打設された床スラブとの境界部位に、床スラブ上面から該床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜まりを形成させ、
該樹脂溜まりの底部を高粘度エポキシ樹脂でシールした後、樹脂溜まり残余空間に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂を充填し、
前記高粘度エポキシ樹脂シールをすり抜けて、前記低粘度エポキシ樹脂が柱脚部の亀裂や隙間に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂を補充することを特徴とする既存工場における鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項2】
前記樹脂溜まりを形成させることに代えて、モルタル充填空間を形成させ、該空間に高流動無収縮の高強度モルタル(40N/mm
2以上)を充填することを特徴とする請求項1に記載された既存工場における鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項3】
四隅に配置されたアングル材にそれらを囲繞するウィングプレートおよびウィングアングル、サイドプレートおよびサイドアングルがリベットにより固定された鉄骨柱を基礎ローソクの上面に固定するためのベースプレートが設置され、該ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の両側もしくは片側の床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、
前記鉄骨柱の外面と前記ローソク積み上げ部との境界部位の上部位に、前記ウィングプレートまたはサイドプレートの上端縁に臨んで上方に開口した樹脂溜まりを形成させ、
該樹脂溜まりに300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂を充填し、
該低粘度エポキシ樹脂がリベット非打ち部の隙間に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂を補充することを特徴とする既存工場における鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項4】
四隅に配置されたアングル材にそれらを囲繞するウィングプレートおよびウィングアングル、サイドプレートおよびサイドアングルがリベットにより固定された鉄骨柱を基礎ローソクの上面に固定するためのベースプレートが設置され、該ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法において、
前記ローソク積み上げ部の側部と、該側部に隣接して打設された床スラブとの境界部位に、床スラブ上面から該床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜まりを形成させ、
該樹脂溜まりの底部を高粘度エポキシ樹脂でシールした後、樹脂溜まり残余空間に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂を充填し、
前記高粘度エポキシ樹脂シールをすり抜けて、前記低粘度エポキシ樹脂が柱脚部の亀裂や隙間に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂を補充し、
反力を前記ローソク積み上げ部頂部に伝達する鋼棒を設置する穴を前記ローソク積み上げ部頂部近くの側面の2ケ所からそのまま床スラブにまで穿孔し、
床スラブ孔の底部に高粘度エポキシ樹脂を注入後、前記鋼棒を、穴底に当たるまで挿入し、
樹脂硬化後、前記基礎ローソク積み上げ部の外側面に当てがわれた定着板にワッシャーおよびナットをセットし、該ナットを締めて先端に雄ねじの形成された鋼棒を基礎ローソクおよび床スラブに固定することを特徴とする既存工場の鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項5】
四隅に配置されたアングル材にそれらを囲繞するウィングプレートおよびウィングアングル、サイドプレートおよびサイドアングルがリベットにより固定された鉄骨柱を基礎ローソクの上面に固定するためのベースプレートが設置され、該ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法において、
前記鉄骨柱の外面と前記ローソク積み上げ部との境界部位の上部位に、前記ウィングプレートまたはサイドプレートの上端縁に臨んで上方に開口した樹脂溜まりを形成させ、
該樹脂溜まりに300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂を充填し、
該低粘度エポキシ樹脂がリベット非打ち部の隙間に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂を補充し、
反力を前記ローソク積み上げ部頂部に伝達する鋼棒を設置する穴を前記ローソク積み上げ部頂部反力をローソク積み上げ部の頂部に伝達する鋼棒を設置する穴をローソク積み上げ部の頂部近くの側面の2ケ所からそのまま床スラブにまで穿孔し、
床スラブ孔の底部に高粘度エポキシ樹脂を注入後、前記鋼棒を、穴底に当たるまで挿入し、
樹脂硬化後、前記基礎ローソク積み上げ部の外側面に当てがわれた定着板にワッシャーおよびナットをセットし、該ナットを締めて先端に雄ねじの形成された鋼棒を基礎ローソクおよび床スラブに固定することを特徴とする既存工場の鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項6】
四隅に配置されたアングル材にそれらを囲繞するウィングプレートおよびウィングアングル、サイドプレートおよびサイドアングルがリベットにより固定された鉄骨柱を基礎ローソクの上面に固定するためのベースプレートが設置され、該ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物の内側しかない床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、
前記ローソク積み上げ部の内側部と、該内側部に隣接して打設された床スラブとの境界部位に、床スラブ上面から該床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜りを形成させ、
該樹脂溜りの底部をグリース状の高粘度エポキシ樹脂でシールした後、残余空隙に300 ~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂を充満させ、
該低粘度エポキシ樹脂が柱脚部の亀裂や隙間に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂を補充して充満させ、
前記ローソク積み上げ部の頂部に根巻きのためのコンクリートとの一体性を確保および向上させるための目荒らしを施し、
あと施工アンカー用のアンカー穴が基礎ローソクの帯筋域に届くように帯筋内穴を穿設し、
該帯筋内穴にグリース状の高粘度エポキシ樹脂注入後、異形筋を挿入し、前記あと施工アンカーの周りに帯筋および斜め帯筋を配し、型枠を配置して根巻き部にコンクリートあるいはモルタルを打設することを特徴とする既存工場の鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項7】
四隅に配置されたアングル材にそれらを囲繞するウィングプレートおよびウィングアングル、サイドプレートおよびサイドアングルがリベットにより固定された鉄骨柱を基礎ローソクの上面に固定するためのベースプレートが設置され、該ベースプレートは鉄骨柱の建物内の両側の床スラブの床面より高く、コンクリートで被覆されていない場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、
前記ローソクの内外側部と、該内外側部に隣接して打設された床スラブとの境界部位に、床スラブ上面から該床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜まりを形成させ、
該樹脂溜まりの底部をグリース状の高粘度エポキシ樹脂でシールした後、残余空隙に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂を充満させ、
前記高粘度エポキシ樹脂シールをすり抜けて、前記低粘度エポキシ樹脂が柱脚部の亀裂や隙間に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂を補充して充満させ、
斜め引張り筋を挿入する斜め穴をベースプレートの角部から基礎ローソク帯筋域の内側に向けて穿設し、
樹脂注入器により斜め穴の底に樹脂を注入した後、異形筋を該斜め穴に入れて固定し、
軸方向異形筋を挿入する軸方向穴をスラブに穿設し、
カプセル型樹脂アンカーと異形筋を軸方向穴に入れて該異形筋を固定し、
根巻き部に帯筋および斜め帯筋を配し、
根巻き形状の型枠を設置後、コンクリートあるいはモルタルを打設して、基礎ローソク上面および基礎ローソクの床面より高い部位の側部を露出させることなく根巻きをすることを特徴とする既存工場の鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項8】
四隅に配置されたアングル材にそれらを囲繞するウィングプレートおよびウィングアングル、サイドプレートおよびサイドアングルがリベットにより固定された鉄骨柱を基礎ローソクの上面に固定するためのベースプレートが設置され、該ベースプレートは鉄骨柱の建物内の片側しかない床スラブの床面より高く、コンクリートで被覆されていない場合で頂面が建設当初の水平なままの既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、
前記ローソクの内側部と、該内側部に隣接して打設された床スラブとの境界部位に、床スラブ上面から該床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜まりを形成させ、
該樹脂溜まりの底部をグリース状の高粘度エポキシ樹脂でシールした後、残余空隙に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂を充満させ、
前記高粘度エポキシ樹脂シールをすり抜けて、前記低粘度エポキシ樹脂が柱脚部の亀裂や隙間に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂を補充して充満させ、
斜め引張り筋を挿入する斜め穴をベースプレートの角部から斜めに基礎ローソク帯筋域の内側に向けて穿設し、
樹脂注入器により斜め穴の底に樹脂を注入した後、異形筋を該斜め穴に入れて固定し、
基礎ローソクの外側垂直面にあと施工アンカーを打設し、
あと施工アンカー式の帯筋用のアンカー穴を穿設し、該帯筋用アンカー穴に樹脂注入後コ字形差し筋を挿入し
軸方向異形筋を挿入する穴をスラブに開け、カプセル形樹脂アンカーで異形筋をスラブに定着し、
追加RC補強部に主筋を配置し、主筋の周りに帯筋および斜め帯筋を配し、
追加RC補強部および根巻きに当たる部分に型枠を配置してコンクリートあるいはモルタルを打設することを特徴とする既存工場の鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項9】
四隅に配置されたアングル材にそれらを囲繞するウィングプレートおよびウィングアングル、サイドプレートおよびサイドアングルがリベットにより固定された鉄骨柱を基礎ローソクの上面に固定するためのベースプレートが設置され鉄骨柱の建物内のいずれの側にも床スラブがなく、前記ベースプレートは土間あるいは、アスファルト床より高く、コンクリートで被覆されていない場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、
斜め引張り筋を挿入する斜め穴をベースプレートの角部から斜めに基礎ローソク帯筋域の内側に向けて穿設し、
樹脂注入器により斜め穴の底に樹脂を注入した後、カプセル形樹脂アンカーで異形筋を該斜め穴に入れて固定して、基礎ローソクに定着し
基礎ローソクの内外側垂直面にあと施工アンカーを打設し、
あと施工アンカー式の帯筋用のアンカー穴を穿設し、該帯筋用アンカー穴に樹脂注入後コ字形差し筋を挿入し
軸方向異形筋を挿入する穴を基礎ローソクに開け、カプセル形樹脂アンカーで異形筋を基礎ローソクに定着し、
追加RC補強部に主筋を配置し、主筋の周りに帯筋および斜め帯筋を配し、
追加RC補強部および根巻きにあたる部分に型枠を配置してコンクリートあるいはモルタルを打設することを特徴とする既存工場の鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項10】
四隅に配置されたアングル材にそれらを囲繞するウィングプレートおよびウィングアングル、サイドプレートおよびサイドアングルがリベットにより固定された鉄骨柱を基礎ローソクの上面に固定するためのベースプレートが設置され、該ベースプレートを事後的に覆い既設基礎ローソク上の鉄骨柱脚部を補強する根巻きを形成させる既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、
軸方向異形筋を挿入する軸方向穴を床スラブまたは基礎ローソクに穿設し、
カプセル型樹脂アンカーと異形筋を軸方向穴に入れて該異形筋を固定し、
根巻き部における前記異形筋をフープする斜め帯筋を配することを特徴とする既存工場の鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項11】
前記斜め帯筋は、前記根巻き部における異形筋を帯筋と協働してフープすべく配筋されていることを特徴とする請求項10に記載された既存工場の鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項12】
四隅に配置されたアングル材にそれらを囲繞するウィングプレートおよびウィングアングル、サイドプレートおよびサイドアングルがリベットにより固定された鉄骨柱を基礎ローソクの上面に固定するためのベースプレートが設置され、該ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の両側の床スラブの床面より高いか同一高さである場合、もしくは、該ベースプレートを事後的に覆い既設基礎ローソク上の鉄骨柱脚部を補強する根巻きを形成させる既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、
前記ローソク積み上げ部の側部と、該側部に隣接して打設して形成された床スラブとの境界部位に生じた亀裂もしくは経年劣化で生じた隙間をなくすことを特徴とする既存工場の鉄骨柱脚の固定方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか一項の鉄骨柱脚の固定方法によって補強されたことを特徴とする既存工場建屋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既存工場建屋の鉄骨柱脚の固定方法およびそれが適用された建屋に係り、詳しくは、山形鋼をリベット接合した組み立て柱(アングル材を組み合わせた鉄骨柱)を有した既存の建築物・構築物(特に工場建屋等)を耐震補強するにあたって、柱脚部を支えるベースプレートを固定するアンカーボルトに及ぼされる転倒モーメントを低減させるべく構造の一体性の増強、外力の建物基礎への伝達性改善・向上を期すようにした鉄骨柱脚部の補強工事方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場建屋では、
図9(a)に示すような門型架構が桁方向に繰り返して設置されることが多い。桁方向(同図(b)を参照)は、桁面の鉛直ブレース64により水平力を処理している。梁間(スパン)方向(図の紙面に平行方向)は、1970年頃以前の工場建屋においては、柱脚固定のラーメンフレームとして水平力を処理しているのが一般的である。この場合、同図(b)に示すように柱一対当りのユニット幅63を取り出したモデルを用いて構造計算することが一般的である。
【0003】
桁面の水平耐力が不足する場合は、ブレース64(
図9(b)を参照)を増設することで比較的容易に補強できる。しかし、スパン方向の補強は、多くの建屋には天井走行クレーンがあるので補強架構を内部に設置するのが困難である。スパン方向は、最大応力(曲げモーメント)が柱脚部12(
図10(a)も参照)に生じるため、柱脚部のアンカーボルト7Aが降伏耐力に達すると急速に変形が進み構造不安定に至る。基本的に、同一耐力のユニット幅門型ラーメンとしてそれぞれ独立に耐力を検討しているので、ほぼ同時に最大耐力に達する。
【0004】
特に、1970年頃以前まで広く使われていた山形鋼をリベット接合した組み立て柱5の場合は、この形式の固定柱脚が圧倒的に多い。柱脚固定方法については、文献1の日本建築学会の鋼構造計算規準(1950/12~1970/4)には、「固定度を増し、また柱脚部を保護する目的で、この部分を鉄筋コンクリートで包むこともしばしば行われる。この場合、鉄筋コンクリートは単に被覆として取り扱うことが望ましい。」と記述されている程度である。このような状態が1981年策定の新耐震基準直前まで続いた。なお、
図10中の66は基礎ローソク6の主筋(丸鋼鉄筋)、67は主筋66に架けたフープ筋(帯筋)であり、68はグリ石である。
【0005】
しかし、新耐震基準制定で水平震度が大幅に引き上げられたため、このような柱脚固定方法ではスパン方向の水平耐力不足が顕著となった。新耐震基準以前の設計震度は、1924年制定時でC(静的な設計水平震度で、重力加速度に対する水平方向に作用する加速度の割合)=0.1、その後1950年の建築基準法でC=0.2となっている。これらは文献2の新耐震基準(C≧1.0)に比べ著しく小さい値である。したがって、1つのユニット幅門型ラーメンが最大耐力に達するとほぼ同時に他のフレームも最大耐力に達するため、将棋倒しのように全体崩壊に至る。
【0006】
現在一般的に行われている補強法は、将棋倒しを避けるため、
図9(b)に示すように、ブレースを屋根面全面に設置して水平力を両妻面(建屋端)に設置した大型の鉛直ブレース構面71まで伝達する方法がある。屋根面全体を大きな梁と見立てて水平力を両妻面に伝達するには、既存ブレース(実線)72の入っていないところにも全て破線のようなブレース73を追加する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本建築学会の鋼構造計算規準(1950/12~1970/4)
【文献】日本建築学会の新耐震基準(1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スパン方向フレームの補強に関しては、以下に述べるとおりの問題や難点がある。
(1)屋根面全面にブレースを設置する工法は、以下のような工事となる。
(1-1)高所作業なので大掛かりな足場(通常高さ10mを超える)が必要となる。工場は操業を止めることができないので、週末の夕方から足場組み立てと、週明けの朝には操業できるように足場解体とを繰り返す作業となる。有効作業時間が短いのと高所での手作業となるので工事期間が長期化する。結果的に工事費が非常に高くなってしまう。
(1-2)主な作業内容は、ブレース材の高所への運搬、接合用ボルトの穴開け、ブレース材の溶接、既存ブレース材接合部の溶接補強(耐震基準が大幅に引き上げられたため既存ブレース材接合部も補強が必要となる)である。
(1-3)操業中の生産機械等が下方にあるので屋根面で溶接等火気を使用することが多く、厳重な養生が不可欠となる。
(1-4)耐震基準が大幅に引き上げられたため、ユニット幅門型ラーメンが負担できる水平力は、必要耐力に対して大幅に不足する。この不足分を屋根面全体を大きな梁と見立てて不足する水平力を両妻面に伝達するために屋根面全面にブレースを設置する必要がある。ブレース応力は、妻面に行くに従って大きくなるため桁長さが100mを超えるような大型工場になるとブレース断面が非常に大きくなる。両妻面に伝達された水平力は、鉛直ブレースを配した大断面の妻面ブレース架構74(太線)に伝達される。
(2)妻面ブレース架構には、大きな転倒モーメントが作用するので大断面ブレースと大型架構および浮き上がり防止のための大きな基礎が必要となる。
【0009】
ちなみに、コンクリート壁やモルタル壁にひび割れが生じた場合、ひび割れ隙間に樹脂系の接着剤やコーキング剤などを注入したり充填し、その固化を待ってひび割れの拡大を防止することがある。これは、ひび割れを境に分離した壁の一体化を図りその連続性を再現して剥落を抑止しようとする。しかし、構造物が倒壊するほどの大きな力やモーメントが作用するのを軽減しようとする意図のものでない。また、その一体化が構造部材の大幅な力学的改善を期すものでもない。
【0010】
本発明は前述の問題に鑑みなされたもので、その目的とするところは、屋根面全面にブレースを設置する工法とした場合のような長期間の大工事を回避できるだけでなく、特に、妻面ブレース架構における大転倒モーメントに対抗できる大断面ブレースと大型架構および浮き上がり防止のための基礎の増強化拡充化を回避して、既存工場鉄骨構築物の補強が可能とする既存工場における鉄骨柱脚の固定方法およびそれが適用された建屋を提供することである。
【0011】
ちなみに、既存工場鉄骨構築物には
図10(a),(b)に示すように、四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され、そのベースプレート7の上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部6A(これも基礎ローソクの一部である)の上面6bが鉄骨柱の建物内の両側の床スラブ8の床面8aより高いか(
図10(a)および
図11(a)を参照)、同一高さであるか(
図11(b),(c)を参照)、建屋の壁に隣接した鉄骨柱にあっては建物の内側にしか床スラブがない(後記の
図4~5、および7を参照)か、床スラブがなく土間しかない(後記の
図8を参照)といったように種々の形態がある。とはいえ、いずれにも対応することができる鉄骨柱脚の固定法が採られることが望ましい。ちなみに、
図11(c)中の69は差し筋である。
【0012】
なお、ローソク積み上げ部6Aは基礎ローソクの一部であることは上で触れたが、それは基礎ローソク上にベースプレートを配して鉄骨柱を立てた時点で基礎ローソクを上方に延ばすように、ベースプレート並びに柱脚部をコンクリートで覆ったことにより形成されたものをいい、積み上げ部のない既設基礎ローソクの上に鉄筋を配してコンクリートを打設した事後的形成の「根巻き」31(例えば
図5~8を参照)とは異なる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の両側もしくは片側の床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、その特徴とするところは、
図1に示すように
四隅に配置されたアングル材にそれらを囲繞するウィングプレートおよびウィングアングル、サイドプレートおよびサイドアングルがリベット(
図2(c)を参照)により固定された鉄骨柱を基礎ローソクの上面に固定するためのベースプレートが設置され、
ローソク積み上げ部6Aの側部6cと、その側部6cに隣接して打設された床スラブ8との境界部位9に、床スラブ上面8aからその床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜まり10を形成させ、
その樹脂溜まり10の底部を高粘度エポキシ樹脂10a(
図2(a)を参照)でシールした後、樹脂溜まり残余空間に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂11を充填し、
高粘度エポキシ樹脂シール10aをすり抜けて、低粘度エポキシ樹脂11が柱脚部12の亀裂や隙間13(
図2(c)も参照)に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充することである。
【0014】
上記の樹脂溜まりを形成させることに代えて、モルタル充填空間を形成させ、その空間に高流動無収縮の高強度モルタル(40N/mm2以上)を充填することとしてもよい。
【0015】
他の本発明に係るベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の両側もしくは片側の床スラブの床面より高いか同一高さである場合の固定方法にあっては、その特徴とするところは、
図1に示すように、四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4(
図2(c)を参照)により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベース(c)プレート7が設置され、
鉄骨柱5の外面とローソク積み上げ部6Aとの境界部位14の上部位に、ウィングプレート2Aまたはサイドプレート3Aの上端縁に臨んで上方に開口した樹脂溜まり15を形成させ、
その樹脂溜まり15(
図2(b)を参照)に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂11を充填し、
その低粘度エポキシ樹脂11がリベット非打ち部16の隙間13(
図2(c)を参照)に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充することである。
【0016】
異なる発明に係るベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、その特徴とするところは、
図4に示すように、建屋の壁70の直ぐ内側に位置する鉄骨柱5は、四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4(
図4(b)を参照)により固定されており、この鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され、ローソク積み上げ部6Aの側部6cと、その側部6cに隣接して打設された床スラブ8との境界部位9に、床スラブ上面8aからその床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜まり10を形成させ、その樹脂溜まり10の底部を高粘度エポキシ樹脂10a(
図2(a)を参照)でシールした後、樹脂溜まり残余空間に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂11を充填し、高粘度エポキシ樹脂シール10aをすり抜けて、低粘度エポキシ樹脂11が柱脚部12の亀裂や隙間13(
図4(b)を参照)に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充し、反力をローソク積み上げ部6A頂部に伝達する鋼棒(異形筋)17を設置する穴18をローソク積み上げ部6Aの頂部6b近くの側面6g(
図4(b)を参照)の2ケ所からそのまま床スラブ8にまで穿孔し、床スラブ孔18の底部に高粘度エポキシ樹脂を注入後、鋼棒(異形筋)17を、穴底に当たるまで挿入し、樹脂硬化後、基礎ローソク積み上げ部6Aの外側面に当てがわれた定着板19にワッシャー19Aおよびナット19Bをセットし、そのナット19Bを締めて先端に雄ねじの形成された鋼棒(異形筋)17を基礎ローソク6および床スラブ8に固定したことである。
【0017】
次に、ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、その特徴とするところは、
図4に示すように,四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4(
図4(b)を参照)により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され、鉄骨柱5の外面とローソク積み上げ部6Aとの境界部位の上部位に、ウィングプレート2Aまたはサイドプレート3Aの上端縁に臨み上方に開口した樹脂溜まり15を形成させ、その樹脂溜まり15に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂11を充填し、その低粘度エポキシ樹脂11がリベット非打ち部16の隙間13(
図4(b)を参照)に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充し、反力をローソク積み上げ部6Aの頂部に伝達する鋼棒(異形筋)17を設置する穴18をローソク積み上げ部6Aの頂部6b近くの側面6g(
図4(b)を参照)の2ケ所からそのまま床スラブ8にまで穿孔し、床スラブ孔18の底部に高粘度エポキシ樹脂を注入後、鋼棒(異形筋)17を、穴底に当たるまで挿入し、樹脂硬化後、基礎ローソク積み上げ部6Aの外側面に当てがわれた定着板19にワッシャー19Aおよびナット19Bをセットし、そのナット19Bを締めて先端に雄ねじの形成された鋼棒(異形筋)17を基礎ローソク6および床スラブ8に固定したことである。
【0018】
ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物の内側しかない床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、その特徴とするところは、
図5に示すように,四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベットにより固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され、ローソク積み上げ部6Aの内側部と、その内側部に隣接して打設された床スラブ8との境界部位9に、床スラブ上面8aからその床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜り10を形成させ、その樹脂溜り10の底部をグリース状の高粘度エポキシ樹脂10a(
図2(a)を参照)、でシールした後、残余空隙に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂11を充満させ、その低粘度エポキシ樹脂11が柱脚部12の亀裂や隙間13に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充して充満させ、ローソク積み上げ部6Aの頂部6bに根巻き31のためのコンクリート31aとの一体性を確保および向上させるための目荒らしを施し、あと施工アンカー32用のアンカー穴が基礎ローソク6の帯筋域6hに届くように帯筋内穴34を穿設し、その帯筋内穴34にグリース状の高粘度エポキシ樹脂を注入後、異形筋(主筋)35を挿入し、あと施工アンカー32の周りに帯筋26および斜め帯筋27を配し、型枠を配置して根巻き部にコンクリートあるいはモルタルを打設することである。
【0019】
ベースプレートは鉄骨柱の建物内の両側の床スラブの床面より高く、コンクリートで被覆されていない場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、その特徴とするところは、
図6に示すように、四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置されローソク6の内外側部と、その内外側部に隣接して打設された床スラブ8との境界部位9に、床スラブ上面8aからその床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜まり10を形成させ、その樹脂溜まり10の底部をグリース状の高粘度エポキシ樹脂でシールした後、残余空隙に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂11を充満させ、高粘度エポキシ樹脂シール10a(
図2(a)を参照)をすり抜けて、低粘度エポキシ樹脂11が柱脚部12の亀裂や隙間13に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充して充満させ、斜め引張り筋41を挿入する斜め穴42をベースプレートの角部から斜め基礎ローソク6の帯筋域6hの内側に向けて穿設し、樹脂注入器により斜め穴42の底に樹脂を注入した後、異形筋41をその斜め穴42に入れて固定し、軸方向異形筋44を挿入する軸方向穴45をスラブ8に穿設し、カプセル型樹脂アンカーと異形筋44を軸方向穴45に入れてその異形筋44を固定し、根巻き部に帯筋26および斜め帯筋27を配し、根巻き形状の型枠を設置後、コンクリートあるいはモルタルを打設して、基礎ローソク6の上面6aおよび基礎ローソク6の床面8aより高い部位の側部6dを露出させることなく根巻きをしたことである。
【0020】
ベースプレートは鉄骨柱の建物内の片側しかない床スラブの床面より高く、コンクリートで被覆されていない場合で頂面が建設当初の水平なままの既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、その特徴とするところは、
図7に示すように、四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され、ローソク6の内側部と、その内側部に隣接して打設された床スラブ8との境界部位9に、床スラブ上面8aからその床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜まり10を形成させ、
その樹脂溜まり10の底部をグリース状の高粘度エポキシ樹脂でシールした後、残余空隙に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂11を充満させ、高粘度エポキシ樹脂シール10a(
図2(a)を参照)をすり抜けて、低粘度エポキシ樹脂11が柱脚部12の亀裂や隙間13を参照)に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充して充満させ、斜め引張り筋41を挿入する斜め穴42をベースプレートの角部から斜めに基礎ローソク6帯筋域6hに向けて穿設し、樹脂注入器により斜め穴42の底に樹脂を注入した後、異形筋41をその斜め穴42に入れて固定し、
基礎ローソク6の外側垂直面6fにあと施工アンカーを23打設し、あと施工アンカー式の帯筋(コ字形差し筋)25用のアンカー穴24を穿設し、その帯筋用アンカー穴24に樹脂注入後コ字形差し筋25を挿入し軸方向異形筋35Aを挿入する穴34をスラブ8に開け、カプセル形樹脂アンカーで異形筋35Aをスラブに定着し、追加RC補強部6Bに主筋35Bを配置し、主筋35A,35Bの周りに帯筋26および斜め帯筋27を配し、
追加RC補強部6Bおよび根巻き31に当たる部分に型枠を配置してコンクリートあるいはモルタルを打設したことである。
【0021】
ベースプレートは土間あるいは、アスファルト床より高く、コンクリートで被覆されていなく、鉄骨柱の建物内のいずれの側にも床スラブがない(もちろん床面もなく)場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、その特徴とするところは、
図8に示すように、四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4(
図2(c)を参照)により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され 斜め引張り筋41を挿入する斜め穴42をベースプレートの角部から斜めに基礎ローソク6帯筋域6hの内側に向けて穿設し、樹脂注入器により斜め穴42の底に樹脂を注入した後、カプセル形樹脂アンカーで異形筋41をその斜め穴42に入れて固定して、基礎ローソク6に定着し、基礎ローソク6の内外側垂直面6f、6jにあと施工アンカー23を打設し、あと施工アンカー式の帯筋(コ字形差し筋)25用のアンカー穴24を穿設し、その帯筋用アンカー穴24に樹脂注入後コ字形差し筋25を挿入し軸方向異形筋41を挿入する穴42を基礎ローソク6に開け、カプセル形樹脂アンカーで異形筋41を基礎ローソク6に定着し、追加RC補強部29に主筋51を配置し、主筋51の周りに帯筋26および斜め帯筋27を配し、追加RC補強部29および根巻きにあたる部分に型枠を配置してコンクリートあるいはモルタルを打設したことである。
【0022】
ベースプレートを事後的に覆い既設基礎ローソク上の鉄骨柱脚部を補強する根巻きを形成させる既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、その特徴とするところは、
図5、6、7、8に示すように、四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され、軸方向異形筋35、35A.35B、44、51を挿入する軸方向穴を基礎ローソク6、床スラブ8または根巻き31に穿設し、カプセル型樹脂アンカーと異形筋44を軸方向穴に入れてその異形筋44を固定し、根巻き部における異形筋44をフープする斜め帯筋27を配したことである。
【0023】
上記の発明の場合、既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、その特徴とするところは、斜め帯筋27は、根巻き部における異形筋35、35A.35B、44、51を帯筋26と協働してフープすべく配筋されていることが好ましい。
【0024】
ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部8の上面8aが鉄骨柱の建物内の両側の床スラブの床面9より高いか同一高さである場合、もしくは、ベースプレートを事後的に覆い既設基礎ローソク上の鉄骨柱脚部を補強する根巻きを形成させる既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、その特徴とするところは、
図3に示すように鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置されており、
ローソク積み上げ部の側部と、その側部に隣接して打設して形成された床スラブ8ておりとの境界部位に生じた亀裂もしくは経年劣化で生じた隙間をなくしたことである。
【0025】
上記いずれの発明によるも、その鉄骨柱脚の固定方法によっても補強された既存工場建屋とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の両側もしくは片側の床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、ローソク積み上げ部の側部と、該側部に隣接して打設された床スラブとの境界部位に、床スラブ上面から該床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜まりを形成させ、樹脂溜まりの底部を高粘度エポキシ樹脂でシールした後、樹脂溜まり残余空間に低粘度エポキシ樹脂を充填し、高粘度エポキシ樹脂シールをすり抜けて、低粘度エポキシ樹脂が柱脚部の亀裂や隙間に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂を補充するようにしているので、床スラブ上部位に反力を発生させ、鉄骨柱に作用した水平力に基因したベースプレートの位置での曲げモーメントを低減させることにより、柱脚固定度を上げて補強効果を得ることができる。もしくは、樹脂溜まりを形成させることに代えて、モルタル充填空間を形成させ、該空間に高流動無収縮の高強度モルタル(40N/mm2以上)を充填することとしても同様の効果が発揮される。
【0027】
鉄骨柱の外面とローソク積み上げ部との境界部位の上部位に、ウィングプレートまたはサイドプレートの上端縁に臨んで上方に開口した樹脂溜まりを形成させ、前記鉄骨柱の外面と前記ローソク積み上げ部との境界部位の上部位に、前記ウィングプレートまたはサイドプレートの上端縁に臨んで上方に開口した樹脂溜まりを形成させ、その樹脂溜まりに低粘度エポキシ樹脂を充填し、その低粘度エポキシ樹脂がリベット非打ち部の隙間に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂を補充することにしているので、床スラブ上部位に反力を発生させ、鉄骨柱に作用した水平力に基因したベースプレートの位置での曲げモーメントを低減させることにより、柱脚固定度を上げて補強効果を得ることができる。
【0028】
他の発明に係るベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法にあっては, まず「樹脂溜まり10の充填」を行い、ローソク積み上げ部頂部に伝達する鋼棒(異形筋を設置する穴をローソク積み上げ部頂部近くの側面の2ケ所からそのまま床スラブにまで穿孔し、床スラブ孔の底部に高粘度エポキシ樹脂を注入後、鋼棒(異形筋)を、穴底に当たるまで挿入し、樹脂硬化後、基礎ローソク積み上げ部の外側面に当てがわれた定着板にワッシャーおよびナットをセットし、そのナットを締めて先端に雄ねじの形成された鋼棒(異形筋)を基礎ローソクおよび床スラブに固定するようにしたので、反力による外側への引張り応力は、鋼棒により、ローソク積み上げ部頂部へ確実に伝達され、地震力が右向きの場合は、スラブに直接伝達されるようになる。
【0029】
次に、ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、まず「樹脂溜まり15の充填」を行い、反力をローソク積み上げ部頂部に伝達する鋼棒(異形筋)を設置する穴をローソク積み上げ部頂部近くの側面の2ケ所からそのまま床スラブにまで穿孔し、床スラブ孔の底部に高粘度エポキシ樹脂を注入後、鋼棒(異形筋)を、穴底に当たるまで挿入し、樹脂硬化後、基礎ローソク積み上げ部の外側面に当てがわれた定着板にワッシャーおよびナットをセットし、そのナットを締めて先端に雄ねじの形成された鋼棒(異形筋)を基礎ローソクおよび床スラブに固定するようにしたので、反力による外側への引張り応力は、鋼棒により、ローソク積み上げ部頂部へ確実に伝達され、地震力が右向きの場合は、スラブに直接伝達することができる。
【0030】
ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、ローソク積み上げ部の頂部に根巻きのためのコンクリートとの一体性を確保および向上させるための目荒らしを施し、あと施工アンカー用のアンカー穴が基礎ローソクの帯筋域に届くように帯筋内穴を穿設し、その帯筋内穴にグリース状の高粘度エポキシ樹脂注入後、異形筋(主筋)を挿入し、あと施工アンカーの周りに帯筋および斜め帯筋を配し、型枠を配置して根巻き部にコンクリートあるいはモルタルを打設するようにしたので、反力による外側への引張り応力は、斜め帯筋により根巻きの下部からローソク積み上げ部の頂部へ確実に伝達されるようになる。
【0031】
ベースプレートは鉄骨柱の建物内の両側の床スラブの床面より高く、コンクリートで被覆されていない場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、斜め引張り筋を挿入する斜め穴をベースプレートの角部から基礎ローソク帯筋域の内側に向けて穿設し、樹脂注入器により斜め穴の底に樹脂を注入した後、異形筋をその斜め穴に入れて固定し、軸方向異形筋を挿入する軸方向穴をスラブに穿設し、カプセル型樹脂アンカーと異形筋を軸方向穴に入れてその異形筋を固定し、根巻き部に帯筋および斜め帯筋を配し、根巻き形状の型枠を設置後、コンクリートあるいはモルタルを打設して、基礎ローソク上面および基礎ローソクの床面より高い部位の側部を露出させることなく根巻きするようにしたので、反力による引張り応力は、斜め帯筋により根巻きの下部へ確実に伝達し、合力により右側の主筋(あと施工アンカー)に引張りが生じるが斜め帯筋の角度が小さいためそれほど大きくならないが、このような応力は、斜め引張り筋によって確実に基礎ローソクに伝達することができる。
【0032】
ベースプレートは鉄骨柱の建物内の片側しかない床スラブの床面より高く、コンクリートで被覆されていない場合で頂面が建設当初の水平なままの既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、斜め引張り筋を挿入する斜め穴をベースプレートの角部から斜めに基礎ローソク帯筋域の内側に向けて穿設し、樹脂注入器により斜め穴の底に樹脂を注入した後、異形筋をその斜め穴に入れて固定し、基礎ローソクの外側垂直面にあと施工アンカーを打設し、あと施工アンカー式の帯筋(コ字形差し筋)用のアンカー穴を穿設し、その帯筋用アンカー穴に樹脂注入後コ字形差し筋を挿入し、軸方向異形筋を挿入する穴をスラブに開け、カプセル形樹脂アンカーで異形筋をスラブに定着し、追加RC補強部に主筋を配置し、主筋の周りに帯筋および斜め帯筋を配し、追加RC補強部および根巻きに当たる部分に型枠を配置してコンクリートあるいはモルタルを打設したので、反力による引張り応力は、斜め帯筋により根巻きの下部へ確実に伝達され、合力により右側の主筋(あと施工アンカー)に引張りが生じるが斜め帯筋の角度が小さいためそれほど大きくならないが、このような応力は、斜め引張り筋によって確実に基礎ローソクに伝達されるようになる。
【0033】
ベースプレートは土間あるいは、アスファルト床より高く、コンクリートで被覆されていなく、鉄骨柱の建物内のいずれの側にも床スラブがない(もちろん床面もなく)、場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、その特徴とするところは、
図8に示すように、斜め引張り筋を挿入する斜め穴をベースプレートの角部から斜めに基礎ローソク帯筋域の内側に向けて穿設し、樹脂注入器により斜め穴の底に樹脂を注入した後、カプセル形樹脂アンカーで異形筋をその斜め穴に入れて固定して、基礎ローソクに定着し
基礎ローソクの内外側垂直面にあと施工アンカーを打設し、あと施工アンカー式の帯筋(コ字形差し筋)用のアンカー穴を穿設し、その帯筋用アンカー穴に樹脂注入後コ字形差し筋を挿入し軸方向異形筋を挿入する穴を基礎ローソクに開け、カプセル形樹脂アンカーで異形筋を基礎ローソクに定着し、追加RC補強部に主筋を配置し、主筋の周りに帯筋および斜め帯筋を配し、追加RC補強部および根巻きにあたる部分に型枠を配置してコンクリートあるいはモルタルを打設したので、根巻きの上端部に柱脚固定度上げ、アンカーボルトの引張り応力を著しく下げる反力を確実に発生させ、反力によって生じる斜め帯筋の引張り応力は、〇印部で確実に基礎ローソクの頂部、ベースプレートの横断方向の引っ掛かり抵抗(せん断抵抗)により基礎ローソクに伝達でき、斜め引張り筋は、〇印部における合力の上向き引張り成分(水平力による根巻きの転倒モーメントによる引き抜き応力)を確実に基礎ローソクに伝達できる。換言すれば、根巻き頂部の水平剛性を大きくして反力が大きくなる。このためには、斜め帯筋の断面積を大きくすることにより容易に達成できる。
【0034】
ベースプレートを事後的に覆い既設基礎ローソク上の鉄骨柱脚部を補強する根巻きを形成させる既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、 軸方向異形筋を挿入する軸方向穴を床スラブまたは基礎ローソクに穿設し、カプセル型樹脂アンカーと異形筋を軸方向穴に入れてその異形筋を固定し、根巻き部における異形筋をフープする斜め帯筋を配したので、反力による引張り応力を、斜め帯筋により根巻きの下部へ確実に伝達して、基礎ローソクに伝達されるようになる。
【0035】
上記の発明の場合、既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であっては、その斜め帯筋は、根巻き部における異形筋を帯筋と協働してフープすべく配筋されていることが好ましい。すなわち、根巻き部における異形筋をフープする斜め帯筋を配したので、反力による引張り応力を、斜め帯筋により根巻きの下部へ確実に伝達して、基礎ローソクに伝達されるようになる。
【0036】
ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の両側の床スラブの床面より高いか同一高さである場合、もしくは、そのベースプレートを事後的に覆い既設基礎ローソク上の鉄骨柱脚部を補強する根巻きを形成させる既存工場における鉄骨柱脚の固定方法にあっては、ローソク積み上げ部の側部と、その側部に隣接して打設して形成された床スラブとの境界部位に生じた亀裂もしくは経年劣化で生じた隙間をなくしたので、床スラブ上部位に反力を有効に発生させ、鉄骨柱に作用した水平力に基因したベースプレートの位置での曲げモーメントを低減させることにより、柱脚固定度を上げて補強効果を得ることができるようになる。
【0037】
上記いずれの鉄骨柱脚の固定方法によっても既存工場建屋を補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明に係る既存工場における鉄骨柱脚の固定方法の一つであって、ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の両側の床スラブの床面より高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定構造図。
【
図4】ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブの床面より高い場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定構造図。
【
図5】ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブの床面と同一高さの場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定構造図。
【
図6】ベースプレートは鉄骨柱の建物内の両側の床スラブの床面より高く、コンクリートで被覆されていない場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定構造図。
【
図7】ベースプレートは鉄骨柱の建物内の片側しかない床スラブの床面より高く、コンクリートで被覆されていない場合で頂面が建設当初の水平なままの既存工場における鉄骨柱脚の固定構造図。
【
図8】ベースプレートは土間あるいは、アスファルト床より高く、コンクリートで被覆されていなく(すなわち、基礎ローソク積み上げ部がなく)、鉄骨柱の建物内のいずれの側にも床スラブがない(もちろん床面もなく)既存工場における鉄骨柱脚の固定構造図。
【
図9】(a)は門型架構の工場建屋の概略図、(b)はその桁方向斜視図。
【
図11】従前の他例における鉄骨柱脚の固定構造図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明に係る既存工場の鉄骨柱脚の固定方法およびそれが適用された建屋を、その実施の形態を表した図面に基づき詳細に説明する。それに先立ち、本発明の基本的技術思想を説明する。
工場の柱は、
図1に示すように、一般にベースプレート7の位置でアンカーボルト7Aによって基礎ローソク6に固定されている。柱脚部12では、鉄骨(アングル材)1よりアンカーボルト7Aの耐力がかなり小さいので、アンカーボルト7Aによって柱脚曲げモーメント耐力が決定される。柱脚部12は、設計当時の法定水平力に対して許容応力度設計されているが、法定水平力の引き上げとともに柱脚に作用する曲げモーメントが大きく想定されるようになり柱脚の耐力不足が顕在化した。
【0040】
山形鋼組立による鉄骨柱脚12の例を
図11(a)~(c)に示したが、1950年発刊の日本建築学会「鋼構造計算規準同解説」には、「柱脚の固定度を増し、また柱脚部を保護する目的で、この部分を鉄筋コンクリートで包むことも、しばしば行われる」。この場合、鉄筋コンクリートは単に被覆として取り扱う。」と記されている。露出柱脚以外では、図に示すようにベースプレート7の位置から基礎ローソク6と同断面でそのまま上方へ延長する方法が採られてきた(後述する「積み上げ部6A」に相当する)。慣用的には厚さ30cm以上の被覆が長く使われてきた。
図10の構造では、床スラブ8の床面8aまでの厚みを30cmとし、床面からさらに10cm程度高くしている(寸法は
図10(a)を参照)。ちなみに、66は積み上げ部6Aの基礎ローソク6との一体化を図る主筋としての丸鋼鉄筋である。
【0041】
図11(b),(c)は、基礎ローソク6の頂部6aと床スラブ8の床面8aとが面一(同一面)になっている場合である。ここで「単に被覆として取り扱う」の意味は、アンカーボルト7Aの引張方向に抵抗するように被覆部分6Aに応力を負担させてはならないという意味である。しかし、その後の発明者らの1970年以降の研究で厚さ30cm程度の被覆では、柱脚の固定度を十分増すことができないことが分かっている。
図1に戻って、基礎ローソク6と床スラブ8を一体化することは、設計上も施工上も全く意識されていなかった。したがって、基礎ローソク6と床スラブ8の連続性が担保されていないと考えるのが妥当である。すなわち、硬化後の基礎ローソク6のコンクリートとその後に単に打設しただけで機械的な引っ掛かりのない床スラブのコンクリートとは一体化していない(不連続である)。
【0042】
連続性を損なうものとしては、基礎ローソク6のコンクリート硬化後にグリ石68上に打設される床スラブ8の乾燥収縮によって起こる不可避な基礎ローソク6のコンクリートとの間の隙間13や肌分かれがある(
図1中の9の部分参照)。特に工場の床では、面積が大きいことや一般部は鉄筋により収縮変形が拘束されるため、この部分の隙間13(
図2(c)も参照)が大きくなる傾向が強い。他に、基礎ローソク6とスラブ8の間の介在物(基礎ローソク6のコンクリート打設時の型枠の残材や泥など)が連続性を損なう。
【0043】
言うまでもないが、隙間13や亀裂があるとガタとなり反力が著しく小さくなる。結果的に固定度が小さくなり拘束効果が期待できなくなる。リベット接合の古い柱脚構造が採用された工場では、
図2(c)に示すように経年変化で鉄骨5もローソク積み上げ部6Aのコンクリートの間に隙間13や亀裂(
図2(d)中の太線部参照)が生じていることが多い。また、表面に出なくても内部に隙間が発生している可能性も十分ある。さらに、山形鋼と鋼板を重ねてリベットでカシメ接合した柱脚部では、溶接構造と異なり不可避的に鋼材間に隙間13(
図2(c) 中の円や楕円で囲った部分を参照)が生じる。コンクリート打設時にこの隙間13を埋めるには、隙間が小さすぎる。このような隙間や亀裂は、前述した柱脚補強に有効な反力発生を大きく阻害する。
【0044】
図3に柱脚部の反力がある場合と無い場合の柱の曲げモーメント図を示す。反力が無い場合、柱に水平力Q(耐震基準が上がったため新耐震基準以前に比べ大幅に大きくなっている)が作用するとベースプレート位置で固定するとして、曲げモーメントはM
1(= Q ×H)となり、アンカーボルトの引張りによって決まるベースプレート位置の降伏曲げモーメントMy(b点)を大きく上回る。
【0045】
一方、反力Rがあるとした場合は、柱の最大曲げモーメント(Q×h1)は反力位置となり、ベースプレート位置では、反力によって減少する曲げモーメントはR×hRとなるのでベースプレート位置の曲げモーメントは、(1)式となる。一般には、M2(a点)はベースプレート位置のアンカーボルトの引張りによって決まる降伏曲げモーメントMy(b点)を下回ることが多い。もし降伏曲げモーメントがMy
AとM2を下回る場合は、My
Aを上限(c点)とする釣り合いとなり、スラブ内の曲げモーメント図は破線のようになる。この場合、ベースプレート位置の曲げモーメントは(3)式となる。反力RとRAは、(2)、(4)式となり(5)式が成立するのでRA>Rとなる。
M2 = M1 - R × hR -------------------------(1)
R =( M1 - M2 )/ hR -------------------------(2)
My
A= M1 - RA× hR -------------------------(3)
RA= ( M1 - My
A) /hR -------------------------(4)
M1 - M2 < M1 - My
A -------------------------(5)
スラブ上部に反力を有効に発生させることによる補強効果は、反力が無い場合のM1をM2(a点)あるいは、MyA(c点)までに小さくするものである。ベースプレート位置の曲げモーメントを著しく小さくすることができる(すなわち、曲げモーメント負荷軽減効果)と、結果的に柱脚固定度を上げて大きな補強効果を得ることができる。
【0046】
反力は、スラブ(上面近く)を適切に有効厚さを仮定して鉄骨幅で圧縮した場合の変位と荷重から計算したバネ定数を、有するバネ支持点を用いることにより算定できる。スラブのように平面的に広がりのある材料を部分的に鋼材により圧縮する場合のバネ定数算定は、有限要素法により算定できる。
本発明で提案した力学モデルによる設計法が成り立つためには、確実に反力Rを確保できる工法が前提となる。
【0047】
したがって、次のことが言える。
図1、4~7に示すように、ベースプレート7の上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部6Aの上面6bが鉄骨柱の建物内の両側の床スラブ8の床面8aより高いか同一高さである場合、もしくは、そのベースプレート7を事後的に覆い既設基礎ローソク上の鉄骨柱脚部を補強する根巻きを形成させる既存工場における鉄骨柱脚の固定方法においては、基礎ローソクまたはローソク積み上げ部の側部と、その側部に隣接して打設して形成された床スラブとの境界部位に生じた亀裂もしくは経年劣化で生じた隙間をなくし、床スラブ上部位に反力を有効に発生させ、鉄骨柱に作用した水平力に基因したベースプレートの位置での曲げモーメントを低減させる。これによって、柱脚固定度を上げて大きな補強効果を得ることができるようになる。
【0048】
図1、
図2に示すように、四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4(
図2(c)を参照)により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され、そのベースプレート7の上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部6Aの上面6bが鉄骨柱の建物内の両側もしくは片側の床スラブ8の床面8aより高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法を述べる。以下具体的に図に対応して述べるが、背景技術のところで触れた符号のうち66~68は同一箇所に付してその説明を省く。
【0049】
具体的な対処としては、ローソク積み上げ部6Aの側部6cと、その側部6cに隣接して打設された床スラブ8との境界部位9に、床スラブ上面8aからその床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる(タガネやカッターなどで切り込むなどしてエポキシ樹脂充填用の凹みとしての)樹脂溜まり10を形成する。これは、
図1の9で示す部分を対象とする。
【0050】
その樹脂溜まり10の底部を、グリース状の高粘度エポキシ樹脂10a(例えば、日本デコラックス社製品番BE700、粘度調整用フィラーの添加量を増やすと粘度が大きくなる。)でシールした後、樹脂溜まり残余空間に300~1000mPa・s(センチポアズ、以下同じ。)の低粘度エポキシ樹脂(フィラー無添加で粘度が最小のもの)11を充填し、
高粘度エポキシ樹脂シール10a(
図2(a)を参照)をすり抜けて、低粘度エポキシ樹脂11が柱脚部12の亀裂や隙間13(
図2(c)を参照)に進入して(毛管現象などによる)樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充する。(以下、「樹脂溜まり10の充填」という)。1~2時間で固化してローソク積み上げ部6Aの側部6cと床スラブ8とが強力接着作用により一体化する。
ちなみに、上記樹脂溜まりを形成させることに代えて、モルタル充填空間を形成させ、該空間に高流動無収縮の高強度モルタル(40N/mm
2以上)を充填することもできる。
【0051】
この「樹脂溜まり10の充填」に加えて、もしくは加えずして、以下の「樹脂溜まり15の充填」の処置を施す(「加えず」とは、加えようのない場合、すなわち処置対象がない場合をいう)。
図1に示すように、鉄骨柱5の外面とローソク積み上げ部6Aとの境界部位14の上部位に、ウィングプレート2Aまたはサイドプレート3Aの上端縁に臨んで上方に開口した樹脂溜まり15を形成させ(
図2(d)の太線を参照)、その樹脂溜まり15に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂11を充填し、その低粘度エポキシ樹脂11がリベット非打ち部16の隙間13(
図2(c)を参照)に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充する(以下「樹脂溜まり15の充填」という。)。ただ、「樹脂溜まり10の充填」と異なる点は、柱脚がローソク積み上げ部で囲まれている場合のみ適用される。
補強工事では、一つの柱脚につき、これら二つの「樹脂溜まりの充填」を行える場合もあれば、少なくとも「樹脂溜まり10の充填」だけの場合もある。適用柱脚により選択的に施工すればよい。基礎ローソク6と床スラブ8の少なくとも上表面から厚さの1/2程度を連続(一体化)させるとともにコンクリート間の亀裂やコンクリート間の隙間、鋼材との隙間を無くすことにより床スラブ上面付近に水平方向に反力を発生させ、この反力による水平変位拘束効果を利用した柱脚の補強をすることができる。
【0052】
すなわち、地震や強風の水平力が
図1の柱に矢印のように左から右へ作用する場合には、基礎ローソクと床スラブの一体性が確保されるなら反力が床スラブ天端より少し下がった位置(概ね、ベースプレートから床スラブ上面までの距離の1/6の程度の範囲)に発生する。この反力による水平変位拘束がアンカーボルトによるものと合わせて(合算して)柱脚の固定に寄与し、大きな補強有効を得ることができる。なお、以上の「樹脂溜まり10の充填」や「樹脂溜まり15の充填」の例において、ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の両側の床スラブの床面より高い場合を述べたが、ローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の両側の床スラブの床面と同一高さである場合も、ローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の片側の床スラブの床面より高い場合も、ローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の片側の床スラブの床面と同一高さである場合も、同様の効果が発揮されることは容易に理解できるであろう。
【0053】
本願において鉄骨柱脚の固定方法が以下の種々があり、その補強工程が異なるのであるが、いずれも共通して言えることは(繰り返して言うことになるが)、既設工場等の建物が老朽化すると柱脚周りにコンクリートの収縮やヒビにより隙間が生じる。これが構造物としての一体性を失う。鉄骨柱脚が基礎ローソクや床スラブとの一体性が損なわれ、柱上部に作用した水平力による基礎の固定部に作用するモーメントはベースプレート部のみで対抗させざるを得ない。これは、原設計(補強工事前の当初の柱脚設計)ではベースプレート部のみの抵抗で計画されているからである。
一体性が確保されていなければベースプレートを固定するアンカーへの全面的集中は避けられない。アンカーボルトへの集中はアンカー抜けをきたして倒壊するか倒壊のリスクを高める。鉄骨柱脚が基礎ローソクや床スラブとの一体性が損なわれていなければ、ベースプレートに作用するモーメントを軽減させる反力を発生させることができるとの着想に基づき、ヒビ割れや隙間を埋めるとともに一体性を達成させようとするのが、本発明の眼目である。
【0054】
上では柱の両側に床スラブがある場合について述べたが、側柱で地震力が建物の外側に向かって作用する場合は最終的に反力が伝達されるスラブが存在しない。また、露出柱脚では、ベースプレートがスラブより上部にあるため柱脚を拘束する反力を直接には、スラブに伝達できないケースがある。
スラブによる反力を利用できない側柱や露出柱脚の場合は、基礎ローソク6頂部に設置した鋼棒を介して得られる反力や基礎ローソク6頂部に設けた根巻きコンクリート中の斜め帯筋の引張り抵抗による反力を利用することができるよう以下に提案する。
【0055】
図4に示すように,ベースプレート7の上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部6Aの上面6bが鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブ8の床面8aより高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法について述べる。
【0056】
前述した「樹脂溜まり10の充填」をまずは行う。すなわち、ローソク積み上げ部6Aの側部6cと、その側部6cに隣接して打設された床スラブ8との境界部位9に、床スラブ上面8aからその床スラブの厚さの少なくとも略1/2の深さとなる樹脂溜まり10を形成させ、その樹脂溜まり10の底部を高粘度エポキシ樹脂10a(
図2(a)を参照)でシールした後、樹脂溜まり残余空間に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂11を充填し、高粘度エポキシ樹脂シール10a(
図2(a)を参照)をすり抜けて、低粘度エポキシ樹脂11が柱脚部12の亀裂や隙間13(
図2(c)を参照)に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充する。
【0057】
反力をローソク積み上げ部6A頂部に伝達する鋼棒(異形筋)17を設置する穴18をローソク積み上げ部6Aの頂部6b近くの側面6g(
図4(b)を参照)の2ケ所からそのまま床スラブ8にまで穿孔し、床スラブ孔18の底部に高粘度エポキシ樹脂を注入後(これは、あと施工アンカー工事と同様の要領で行うのであるが)、鋼棒(異形筋)17を、穴底に当たるまで挿入し、樹脂硬化後、基礎ローソク積み上げ部6Aの外側面に当てがわれた定着板19にワッシャー19Aおよびナット19Bをセットし、そのナット19Bを締めて先端に雄ねじの形成された鋼棒(異形筋)17を基礎ローソク6および床スラブ8に固定する。ちなみに、70は建屋のもともとの壁である。この壁の該当箇所は工事のために部分的に取り除かれ、補強工事後に修復などされる。
【0058】
反力による外側への引張り応力は、鋼棒により、ローソク積み上げ部頂部へ確実に伝達され、地震力が右向きの場合は、スラブに直接伝達される。
【0059】
さらに、再度
図4を参照して、上掲と同様、ベースプレート7の上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部6Aの上面6bが鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブ8の床面8aより高いか同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法について述べる。
【0060】
ここでは、まず「樹脂溜まり15の充填」を行う。すなわち、鉄骨柱5の外面とローソク積み上げ部6Aとの境界部位14(
図1を参照)の上部位に、ウィングプレート2Aまたはサイドプレート3Aの上端縁に臨んで上方に開口した樹脂溜まり15を形成させ、その樹脂溜まり15に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂11を充填し、
その低粘度エポキシ樹脂11がリベット非打ち部16の隙間13(
図2(c)を参照)に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充する。反力をローソク積み上げ部6A頂部に伝達する鋼棒(異形筋17を設置する穴18をローソク積み上げ部6Aの頂部6b近くの側面6g(
図4(b)を参照)の2ケ所からそのまま床スラブ8にまで穿孔し、床スラブ孔18の底部に高粘度エポキシ樹脂を注入後、鋼棒(異形筋)17を、穴底に当たるまで挿入し、樹脂硬化後、基礎ローソク積み上げ部6Aの外側面に当てがわれた定着板19にワッシャー19Aおよびナット19Bをセットし、そのナット19Bを締めて先端に雄ねじの形成された鋼棒(異形筋)17を基礎ローソク6および床スラブ8に固定する。
反力による外側への引張り応力は、鋼棒により、ローソク積み上げ部頂部へ確実に伝達され、地震力が右向きの場合は、スラブに直接伝達される。ちなみに、ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブの床面より高い場合の「樹脂溜まり10の充填」や「樹脂溜まり15の充填」の例を述べたが、ローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物内の内側しかない床スラブの床面と同一高さである場合の「樹脂溜まり10の充填」や「樹脂溜まり15の充填」の例も、同様の効果が発揮されることは言うまでもない。
【0061】
また、必要に応じて、鉄骨柱5の外面とローソク積み上げ部6Aとの境界部位14(
図1を参照)の上部位に、ウィングプレート2Aまたはサイドプレート3Aの上端縁に臨んで上方に開口した樹脂溜まり15(
図2(b)、(d)も参照)をタガネ等で切り込みを入れて形成させる。その樹脂溜まり15に300~1000mPa・sの低粘度エポキシ樹脂11を充填する。その低粘度エポキシ樹脂11がリベット非打ち部16の隙間13(
図2(c)を参照)16に進入して樹脂面が下げ止まった時点で、下がった分だけ低粘度エポキシ樹脂11を補充する。
【0062】
ここで使用する低粘度樹脂は、亀裂幅0.1mm程度にも充填可能なことやコンクリート中の気泡にも充填できることを発明者らの実験で確認している。したがって、亀裂や鉄骨との隙間13はもちろん鋼材間の隙間13(
図2(c)を参照)にも充填可能となる。なお、床スラブ内まで穿孔するときの穿孔深さは、スラブ内での鋼棒定着必要長さと基礎ローソク径の合計以上とする。また、スラブ内の穴に定着必要長さに応じた量のグリース状の高粘度樹脂を穴底にノズル(ビニールパイプ)を使って充填すればよい。
【0063】
ところで、
図1には、四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4(
図2(c)を参照)により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され、このベースプレート7の上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部6Aの上面6bが鉄骨柱の建物内の両側の床スラブ8の床面8aより高いか同一高さである場合(
図1は床面8aより高い)の固定方法の例が示されている。これはローソク積み上げ部6Aの上面6bが建設当初の水平なままであることを前提とする(すなわち、頂部が水平な上面が欠けたりして凸凹していないで維持されている場合に当たる)。なお、既に触れたが、ローソク積み上げ部6Aとは基礎ローソク上にベースプレートを配して鉄骨柱を立てた時点で基礎ローソクを上方に延ばして一体化され、ベースプレート並びに柱脚部をコンクリートで覆ったことにより形成されたものであり、あくまでも基礎ローソクの一部であって、既設基礎ローソクの上に鉄筋を配してコンクリートを打設した事後的に形成した後述する「根巻き」とは異なることを敢えて述べておく。
【0064】
次に、
図5に示すように、ベースプレート7の上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部6Aの上面6bが鉄骨柱の建物の内側しかない床スラブ8の床面8aより高いか(図中の床スラブ8の床面8aが一点鎖線の位置にある場合)同一高さである場合の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、まず、「樹脂溜まり10の充填」および/または「樹脂溜まり15の充填」を行う。
【0065】
この状態で、ローソク積み上げ部6Aの頂部6bに根巻き31のためのコンクリート31aとの一体性を確保および向上させるための目荒らしを施し、あと施工アンカー32用のアンカー穴が基礎ローソク6の帯筋域6hに届くように必要数の帯筋内穴34を穿設し、その帯筋内穴34に高粘度エポキシ樹脂注入後、異形筋(主筋)35を挿入し、あと施工アンカー32の周りに帯筋26および斜め帯筋27を配し、図示しない型枠を配置して根巻き部にコンクリートあるいはモルタルを打設し、反力による外側への引張り応力は、斜め帯筋27により根巻き31の下部からローソク積み上げ部6Aの頂部6bへ確実に伝達されるようにする。なお、図中の矢印47の合力により右側の主筋(あと施工アンカー)に引張りが生じるが斜め帯筋の角度が小さいためそれほど大きくなることはない。なお、ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物の内側しかない床スラブの床面より高い場合を述べたが、ベースプレートの上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部の上面が鉄骨柱の建物の内側しかない床スラブの床面と同一高さである場合も、同様の効果が発揮される。
【0066】
ここまでは柱脚部が鉄筋コンクリートで包まれている場合について記述した。次に、露出柱脚(ベースプレートやアンカーボルトが、床上に出ており、コンクリートで被覆されていない場合)の補強について述べる。露出柱脚の例は、
図6でいえば、図のように床スラブ8の床面8aが図示の位置にあって、符号31の根巻が施される以前の状態である。露出柱脚では、通常基礎ローソク6の頂部は、床面より100mm程度上にある。そこで、露出柱脚で確実に有効な反力発生を可能にする補強法を
図6をはじめとし、図、7、8にも示す。
【0067】
図6に示すように、ベースプレート7は鉄骨柱の建物内の両側の床スラブ8の床面8aより高く、コンクリートで被覆されていない場合(すなわち、基礎ローソク積み上げ部がなく)の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法である。
【0068】
まず、「樹脂溜まり10の充填」を行う。この状態で、斜め引張り筋41を挿入する斜め穴42をベースプレートの角部から斜めに必要数、必要深さを基礎ローソク6の帯筋域6hの内側に向けて穿設し、樹脂注入器により斜め穴42の底に必要量の樹脂を注入した後、異形筋41をその斜め穴42に入れて固定し、軸方向異形筋44を挿入する軸方向穴45をスラブ8に必要数穿設し、カプセル型樹脂アンカーと異形筋44を軸方向穴45に入れてその異形筋44を固定し、根巻き部に帯筋26および斜め帯筋27を配し、根巻き形状の型枠(図示せず)を設置後、コンクリートあるいはモルタルを打設して、基礎ローソク6の上面6aおよび基礎ローソク6の床面8aより高い部位の側部6dを露出させることなく根巻きをする。
【0069】
以上より、反力による引張り応力は、斜め帯筋27により根巻き31の下部へ確実に伝達し、図中の矢印47の分力により右側の主筋(あと施工アンカー)44に引張りが生じるが斜め帯筋27の角度が小さいためそれほど大きくならなく、このような応力は、斜め引張り筋27によって確実に基礎ローソク6に伝達されるようにした既存工場の鉄骨柱脚の固定方法となる。
【0070】
次は、片側しかスラブがない「側柱」の場合の手順を記す。
図7に示すように、四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4(
図2(c)を参照)により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され、そのベースプレート7は鉄骨柱の建物内の片側しかない床スラブ8の床面9より高く、コンクリートで被覆されていない場合(すなわち、基礎ローソク積み上げ部がなく)の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法である。
【0071】
まず、「樹脂溜まり10の充填」を行う。この状態で、斜め引張り筋41を挿入する斜め穴42をベースプレートの角部から斜めに必要数、必要深さを基礎ローソク6の帯筋域6hの内側に向けて穿設し、樹脂注入器により斜め穴42の底に必要量の樹脂を注入した後、異形筋41をその斜め穴42に入れて固定し、基礎ローソク6の外側垂直面6fにあと施工アンカーを23必要数打設し、あと施工アンカー式の帯筋(コ字形差し筋)25用のアンカー穴24を必要数穿設し、この帯筋用アンカー穴24に樹脂注入後コ字形差し筋25を挿入し軸方向異形筋35Aを挿入する穴34をスラブ8に開け、カプセル形樹脂アンカーで異形筋35Aをスラブに定着し、追加RC補強部6Bに主筋35Bを配置し、主筋35A,35Bの周りに帯筋26および斜め帯筋27を配し、追加RC補強部6Bおよび根巻き31に当たる部分に型枠を配置してコンクリートあるいはモルタルを打設する。
【0072】
以上により、反力による引張り応力は、斜め帯筋27により根巻き31の下部へ確実に伝達され、図中の合力47により右側の主筋(あと施工アンカー)35Aに引張りが生じるが斜め帯筋27の角度が小さいためそれほど大きくならなく、このような応力は、斜め引張り筋27によって確実に基礎ローソク6に伝達されるようにした既存工場の鉄骨柱脚の固定方法とすることができる。
【0073】
次に、3)スラブのない露出柱脚の場合に地盤沈下が起こりやすい重量物を扱う場合の工場での補強を述べる。床は、土間8eあるいは、アスファルト床である。この場合は、
図8の外側半分と同じ仕様で右側も工事を行う。
これは、
図8に示すように、四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4(
図2(c)を参照)により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され、鉄骨柱の建物内のいずれの側にも床スラブがなく(もちろん床面もなく)、ベースプレート7は土間あるいは、アスファルト床8dより高く、コンクリートで被覆されていない場合(すなわち、基礎ローソク積み上げ部がなく)の既存工場における鉄骨柱脚の固定方法である。
【0074】
まず、「樹脂溜まり10の充填」も「樹脂溜まり15の充填」も行うことなく(床スラブ等がないゆえ)、直ちに、斜め引張り筋41を挿入する斜め穴42をベースプレートの角部から斜めに必要数、必要深さを基礎ローソク6帯筋域6hの内側に向けて穿設し、
樹脂注入器により斜め穴42の底に必要量の樹脂を注入した後、異形筋41をその斜め穴42に入れて固定し、基礎ローソク6の内外側垂直面6f、6jにあと施工アンカー23を必要数打設し、あと施工アンカー式の帯筋(コ字形差し筋)25用のアンカー穴24を必要数穿設し、その帯筋用アンカー穴24に樹脂注入後コ字形差し筋25を挿入し
軸方向異形筋41を挿入する穴42を基礎ローソク6に必要数開け、カプセル形樹脂アンカーで異形筋41を基礎ローソク6に定着し、追加RC補強部29に主筋51を配置し、主筋51の周りに帯筋26および斜め帯筋27を配し、追加RC補強部29および根巻きにあたる部分に型枠を配置してコンクリートあるいはモルタルを打設する。
【0075】
これにより、根巻き31の上端部31aに柱脚固定度上げ、アンカーボルトの引張り応力を著しく下げる反力を確実に発生させ、反力Rによって生じる斜め帯筋27の引張り応力は、〇印部で確実に基礎ローソク6の頂部6a、ベースプレート7の横断方向の引っ掛かり抵抗(せん断抵抗)により基礎ローソク6に伝達でき、斜め引張り筋27は、〇印部における合力47の上向き引張り成分(水平力による根巻き31の転倒モーメントによる引き抜き応力)を確実に基礎ローソク6に伝達できるようになる。
【0076】
根巻きコンクリート部の補強効果は、以下の通りである。
(a)根巻き上端部に柱脚固定度上げ、アンカーボルトの引張り応力を著しく下げる反力を確実に発生させることができる。
(b)反力によって生じる斜め帯筋の引張り応力は、〇印部で確実に基礎ローソク6の頂部に、ベースプレートの横断方向の引っ掛かり抵抗(せん断抵抗)により基礎に伝達できる。
(c)
図3で反力R大きくことによりアンカーボルトの負荷を減少させること示したが、
図6では、根巻き頂部の水平剛性を大きくして仮想バネのバネ定数を大きくすることに相当する。バネ定数を大きくすると反力Rが大きくなる。このためには、斜め帯筋の断面積を大きくすることにより容易に達成できる。
(d)斜め引張り筋は、〇印部における合力の上向き引張り成分(水平力による根巻きの転倒モーメントによる引き抜き応力)を確実に基礎ローソク6に伝達できる。
【0077】
四隅に配置されたアングル材1にそれらを囲繞するウィングプレート2Aおよびウィングアングル2B、サイドプレート3Aおよびサイドアングル3Bがリベット4(
図2(c)を参照)により固定された鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置され、そのベースプレート7を事後的に覆い既設基礎ローソク上の鉄骨柱脚部を補強する根巻きを形成させる既存工場における鉄骨柱脚の固定方法であって、
軸方向異形筋44を挿入する軸方向穴を基礎ローソク6、床スラブ8もしくは根巻き31に必要数穿設し、カプセル型樹脂アンカーと異形筋を軸方向穴に入れてその異形筋44を固定し、根巻き部における異形筋44をフープする斜め帯筋27を配する。
よって、反力による引張り応力を、斜め帯筋27により根巻き31の下部へ確実に伝達して、基礎ローソク6に伝達されるようにすることができるようになる。
【0078】
斜め帯筋27は、根巻き部における異形筋44を帯筋26と協働してフープすべく配筋されることになるが、このことも付記しておく。というのは、根巻き31における異形筋44をフープする斜め帯筋を配したので、反力による引張り応力を、斜め帯筋により根巻きの下部へ確実に伝達して、基礎ローソクに伝達されるようになるからである。
【0079】
最後に、「樹脂溜まり10の充填」の技術的意味を繰り返し述べる。
図3に戻って、鉄骨柱5を基礎ローソク6の上面6aに固定するためのベースプレート7が設置されており、そのベースプレート7の上方に継ぎ足されたローソク積み上げ部8の上面8aが鉄骨柱の建物内の両側の床スラブ8の床面9より高いか同一高さである場合、もしくは、そのベースプレート7を事後的に覆い既設基礎ローソク上の鉄骨柱脚部を補強する根巻きを形成させる既存工場における鉄骨柱脚の固定方法を採用する場合には、ローソク積み上げ部の側部と、その側部に隣接して打設して形成された床スラブとの境界部位に生じた亀裂もしくは経年劣化で生じた隙間をなくし、床スラブ上部位に反力を有効に発生させ、鉄骨柱に作用した水平力に基因したベースプレートの位置での曲げモーメントを著しく小さくすることにより、柱脚固定度を上げて大きな補強効果を得ることができるようになる。以上いくつもの形態やその態様を記したが、いずれによる固定方法によるも補強された既存工場建屋は、その安全が回復され、耐用性も著しく向上する。ちなみに、新築建屋にも適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1:アングル材、2A:ウィングプレート、2B:ウィングアングル、2A:サイドプレート、2B:サイドアングル、4:リベット、5:鉄骨柱、6:基礎ローソク、6a:上面、6A:ローソク積み上げ部、6B:追加RC補強部、6b:上面、6c:側部、6d:側部,6g:側面、6f:外側垂直面、6h:帯筋域、6j:内側垂直面、7:ベースプレート、8:床スラブ、8a:床面、8e:土間、9:境界部位、10:樹脂溜まり、
10 a:高粘度エポキシ樹脂、11:低粘度エポキシ樹脂、12:柱脚部、13:隙間、 14:境界部位、15:樹脂溜まり、17:鋼棒(異形筋)、18:床スラブ穴、18:床スラブ孔、19:定着板、19A:ワッシャー、19B:ナット、23:あと施工アンカー、24:アンカー穴、25:帯筋(コ字形差し筋)、26:帯筋、27:斜め帯筋、29:追加RC補強部、31:根巻き、31a:コンクリート31a:上端部、32:あと施工アンカー、34:帯筋内穴、35A:軸方向異形筋(主筋(あと施工アンカー))、35B:主筋、37:斜め帯筋 41:斜め引張り筋(異形筋)、42:斜め穴、44:軸方向異形筋(あと施工アンカー)、45:軸方向穴、47:矢印、51:主筋。