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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ばね成形装置およびばね成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21F 35/00 20060101AFI20240920BHJP
   F16F 1/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B21F35/00 A
F16F1/02 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020145557
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040718
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 啓太
(72)【発明者】
【氏名】貫井 晃太朗
(72)【発明者】
【氏名】白石 透
(72)【発明者】
【氏名】岡部 聡史
(72)【発明者】
【氏名】平井 俊
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩隆
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-238054(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056615(WO,A1)
【文献】特開平2-235535(JP,A)
【文献】実開平2-48229(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21F 35/00
F16F 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数対のフィードローラにより非円形断面を有する鋼線材を供給する線材供給部と、前記鋼線材をコイル形状に成形するコイリング部と、所定巻数コイリングされた前記鋼線材を後方の前記鋼線材と切離する切断部と、前記コイリング部を制御する制御装置とを備え、
前記コイリング部は、前記フィードローラにより供給された前記鋼線材を加工部の適切な位置へ案内する上記非円形断面を有するワイヤガイドと、前記鋼線材を成形の直前の位置まで案内する固定された最終ガイドと、前記最終ガイドを経て供給された前記鋼線材をコイル形状に加工するコイリングツールと、前記コイル形状にピッチを付けるピッチツールとを備え、前記ワイヤガイドは、前記鋼線材を中心軸として前記鋼線材の周方向に回転可能とされ、かつ、前記コイリングツールまたは前記ピッチツールとは別駆動源のモータにより回転させられることを特徴とするばね成形装置。
【請求項2】
前記制御装置は、コイルばねの線間ピッチが密な部分と疎な部分とで前記ワイヤガイドの傾き角を変更することを特徴とする請求項1に記載のばね成形装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記鋼線材をコイル形状に加工中に、前記コイリングツールまたは前記ピッチツールの動きと同期させて前記ワイヤガイドを回転駆動することを特徴とする請求項1または2に記載のばね成形装置。
【請求項4】
成形したコイルばねの諸元を測定する測定手段を備え、前記制御装置は、前記測定手段の測定結果に基づいて前記ワイヤガイドの傾き角を変化させることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のばね成形装置。
【請求項5】
前記鋼線材を熱間成形温度まで昇温させる加熱手段を備えたことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のばね成形装置。
【請求項6】
前記ワイヤガイドは前記鋼線材の搬送経路の2箇所に設けられ、前記ワイヤガイドの間に加熱手段を設けたことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のばね成形装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記2箇所のワイヤガイドを互いに同期させて駆動することを特徴とする請求項6に記載のばね成形装置。
【請求項8】
記ワイヤガイドに設けたリンクアームと、前記モータの出力軸に設けたリンクアームと、それらリンクアームを回転自在に接続する連結杆とを介して、前記ワイヤガイドは前記モータにより回転させられることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のばね成形装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のばね成形装置を用いたばね成形方法であって、断面がオーバルな鋼線材の長径方向の素線軸をコイル軸に対して直交させることを特徴とするばね成形方法。
【請求項10】
請求項5~7のいずれかに記載のばね成形装置を用いたばね成形方法であって、前記鋼線材の冷間成形から開始し、前記加熱手段によって前記鋼線材を漸次昇温させて熱間成形とし、前記鋼線材の昇温に対応して前記ワイヤガイドの角度を変化させることを特徴とするばね成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面非円形の線材を送りながらコイルばねを連続的に成形するばね成形装置およびばね成形方法に係り、特に、断面がオーバルなどの断面非円形鋼線材を成形する際に、回転機構を有するワイヤガイドで鋼線材を捻り、鋼線材の素線軸(長径方向の軸)の角度を適正にしたコイル形状を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばバルブスプリングやクラッチダンパースプリングなどのクラス(線径:2~9mm、ばね指数:3~7)の圧縮コイルばねの成形には、一般に、押し曲げ式のばね成形装置が用いられている。そのようなばね成形装置において、断面がオーバルなどの断面非円形鋼線材を加工する場合、鋼線材加工中の素線軸の角度を調整することを目的として、ワイヤガイドの一部または全体が鋼線材を中心に回転する機構が設けられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。ワイヤガイド角を調整し、断面非円形鋼線材の素線軸角度をばね成形方向とは逆向きに捻ることによりばね形状への成形が可能となる。
【0003】
図6(A)に示すように、素線軸Lは、コイルばねSの全長に亘ってコイル軸方向に対して直交して形成されることが望ましい。素線軸Lの角度がばらつくと、荷重特性や自由長、密着長が異なるコイルばねとなり、所望のばね特性が得られなくなる。
【0004】
図5は従来のワイヤガイドを示す。この図に示すワイヤガイドは、ブラケット1の底面を断面円弧状に形成し、ブラケット1の底面に、断面円弧状の下面を有するホルダ2を傾動可能に配置し、ホルダ2の上面に、2対のワイヤガイド3を取り付けて構成されている。鋼線材方向から見たワイヤガイド3には、一対で図6(C)に示す素線断面と同じオーバル形状をなすガイド溝3aが形成されている。ブラケット2には、ボルト4が取り付けられ、ボルト4の先端がホルダ2の下面に当接することでホルダ2の位置を固定している。このため、コイルばねの成形中は、ワイヤガイドの角度は常に一定の角度で保持される。
【0005】
上記のようなワイヤガイドを通過させた鋼線材をクローズドエンドのコイルばねSに加工する場合、図6(B)に示すように、コイルばねSの巻き始め(密部)で素線軸Lがコイル軸方向に対して直交するようにワイヤガイドの傾きを設定すると、コイルばねSのピッチが付けられた部分(疎部)では素線軸LはコイルばねSが形成される方向に傾く。
【0006】
しかも、コイルばねSの成形中に鋼線材のクセやツール類の摩耗などの影響により、素線軸の角度は経時的あるいは断続的に変化する。素線軸が変化すると、コイルばねSの径やピッチ、および自由帳とともに荷重特性や密着長が変化する。このため、従来では、コイルばねSの成形中にコイルばねSの各諸元を1本ずつ自動的に測定し、測定結果に基づいてコイリングツールやピッチツールを自動調整し、コイルばねSの径、ピッチ、および自由長を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平6-79744号公報
【文献】特開昭60-238054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のようなフィードバック制御では、素線軸の角度は修正されない。このため、コイルばねの荷重特性や密着長の補正はできていなかった。このため、ばねの荷重特性や密着長の修正が必要になった場合には、コイルばねの成形を中断し、素線軸の角度を修正した後、成形を再開する必要があった。
【0009】
以上はコイルばねを冷間成形する場合の課題である。以下にコイルばねを熱間成形する場合の課題を述べる。先ず、同じラインで冷間成形を行った後に熱間成形を行う場合の課題である。熱間成形においては、冷間成形に比べて加工抵抗が少なく、鋼線材のスプリングバックが少ないため、ピッチツールによりコイルばねにピッチを付与する際に、冷間成形の場合よりも素線軸角度の変化量が大きくなる。したがって、ワイヤガイド角を一定にした成形では、コイルばねの密部と疎部の素線軸角度の差が冷間成形よりも大きくなるため、所望のばね特性が得られなくなる。
【0010】
また、熱間成形では、冷間の状態から成形を開始し、徐々に鋼線材を昇温させて熱間成形に至るような製造工程を行うことがある。この場合、冷間時と熱間時とでは鋼線材の加工抵抗が異なるため、素線軸角度が鋼線材の加熱温度に応じて変化する。したがって、熱間成形時に所望の素線軸角度を得るためには、冷間成形時と熱間成形時での素線軸角度の変化を見越してワイヤガイドの角度を調整しておく必要がある。
【0011】
一方、コイルばねの形状によっては、熱間成形時に所望の素線軸角度が得られるワイヤガイド角では、冷間成形時の素線軸の角度や初張力が極端に大きくなってしまうことがある。その際、その度合いによっては冷間成形が不可能となるため、ワイヤガイド角が一定の成形では、その後に行う熱間成形が不可能になってしまうことがある。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、非円形断面の鋼線材をコイルばねに成形するにあたり、ワイヤガイドの角度を常時調整することができ、これにより、コイルばねの線間ピッチの密部と疎部の素線軸の角度差を小さくし、コイルばね成形中の素線軸角度の経時変化によるコイルばね形状・特性の変化を抑えるとともに、冷間成形時と熱間成形時の加工抵抗差による素線軸の角度差に起因する成形不能を回避することができるばね成形装置およびばね成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、複数対のフィードローラにより非円形断面を有する鋼線材を供給する線材供給部と、前記鋼線材をコイル形状に成形するコイリング部と、所定巻数コイリングされた前記鋼線材を後方の前記鋼線材と切離する切断部と、前記コイリング部を制御する制御装置とを備え、前記コイリング部は、前記フィードローラにより供給された前記鋼線材を加工部の適切な位置へ案内するワイヤガイドと、前記ワイヤガイドを経て供給された前記鋼線材をコイル形状に加工するコイリングツールと、前記コイル形状にピッチを付けるピッチツールとを備え、前記ワイヤガイドは、前記鋼線材を中心軸として前記鋼線材の周方向に回転可能とされ、かつ、駆動機構により回転させられること特徴とするばね成形装置である。
【0014】
本発明によれば、ワイヤガイドが制御装置により鋼線材を中心軸として鋼線材の周方向に回転させられるから、ワイヤガイドの角度を常時調整することができる。したがって、コイルばねのピッチが密な部分と疎な部分とでワイヤガイドの角度を変更することによって、コイルばねの線間ピッチの密部と疎部の素線軸の角度差を小さくすることができる。より具体的には、制御装置は、鋼線材をコイル形状に加工中に、コイリングツールまたはピッチツールの動きと同期させてワイヤガイドを回転駆動する。
【0015】
本発明では、成形したコイルばねの諸元を測定する測定手段を備え、制御装置は、測定手段の測定結果に基づいてワイヤガイドの角度を変化させることが望ましい。これにより、コイルばね成形中の素線軸角度の経時変化によるコイルばね形状・特性の変化を抑えることができる。
【0016】
本発明では、冷間成形時と熱間成形時のワイヤガイドの角度を調整することにより、冷間成形時と熱間成形時の加工抵抗差による素線軸角度差に起因する成形不可能を回避することができる。
【0017】
本発明では、鋼線材を熱間成形温度まで昇温させる加熱手段を備えると、コイルばねを熱間成形することができる。その場合には、ワイヤガイドは鋼線材の搬送経路の2箇所に設けられ、ワイヤガイドの間に加熱手段を設けることができる。そして、制御装置は、2箇所のワイヤガイドを互いに同期させて駆動することにより、鋼線材の加熱部位での歪を抑えることができる。
【0018】
イヤガイドに設けたリンクアームと、モータの出力軸に設けたリンクアームと、それらリンクアームを回転自在に接続する連結杆とを介して、前記ワイヤガイドは前記モータにより回転させられるように構成することができる。このような簡易な構成によりワイヤガイドの回転を実現することができる。
【0019】
本発明は、上記構成のばね成形装置を用いたばね成形方法であって、断面がオーバルな鋼線材の長径方向の素線軸をコイル軸に対して直交させることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、加熱手段を有するばね成形装置を用いたばね成形方法であって、鋼線材の冷間成形から開始し、加熱手段によって鋼線材を漸次昇温させて熱間成形とし、鋼線材の昇温に対応してワイヤガイドの角度を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、コイルばねの線間ピッチの密部と疎部の素線軸の角度差を小さくすることができる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態のばね成形装置を示す平面図である。
図2】本発明の実施形態のばね成形装置を示す側面図である。
図3】(A)はワイヤガイドを水平にした状態を示す正面図、(B)は(A)の状態で鋼線材をコイル形状に加工したときの素線軸を示す断面図である。
図4】(A)はワイヤガイドを傾けた状態を示す正面図、(B)は(A)の状態で鋼線材をコイル形状に加工したときの素線軸を示す断面図である。
図5】(A)は従来のワイヤガイドを示す側面図、(B)は(A)の正断面図である。
図6】(A)は素線軸がコイルばねの軸方向と直交している状態を示す断面図、(B)は疎部における素線軸がコイルばねの軸方向に対して傾斜している状態を示す断面図、(C)は鋼線材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.ばね成形装置の構成
図1は本発明の実施形態のばね成形装置100を示す平面図である。図において符号101はばね成形装置100が取り付けられた架台である。架台101には、鋼線材Wを供給する線材供給部170と、鋼線材Wをコイル形状に成形するコイリング部120と、所定巻数コイリングされた鋼線材Wを後方の鋼線材Wと切離する切断部180が配置されている。
【0024】
線材供給部170は連続的に鋼線材Wを供給するための複数のフィードローラ171を備えている。フィードローラ171は上下で対となって鋼線材Wを挟み込んで送り出す。線材供給部170の下流側には、鋼線材Wをコイル形状にコイリングするコイリング部120が配置されている。
【0025】
架台101にはベースプレート102が配置されている。ベースプレート102には支柱103が取り付けられ、支柱103には軸受ホルダ121が取り付けられている。そして、軸受ホルダ121には、第1ワイヤガイド部130の軸130aが軸受122によって回転可能な状態で支持されている。
【0026】
図2において符号131はブラケットである。なお、図2では軸受ホルダ121と第1ワイヤガイド部130の軸130aの記載を省略している。後述する軸受ホルダ123と第2ワイヤガイド部140の軸140aも同様である。ブラケット131は、平面視で矩形状の底板部131aと、底板部131aの両側に固定された側板部131bとからなっている。側板部131bは円の側部を切り欠いた形状をしている。ブラケット131の底板部131aには、2対のワイヤガイド132が軸132aによって回転自在に取り付けられている。鋼線材W方向から見たワイヤガイド132には、図3(A)に示すように、一対で鋼線材Wの断面と同じオーバル形状をなすガイド溝132bが形成されている。
【0027】
ブラケット131の一方の側板部131bには、リンクアーム133が取り付けられている。一方、図1に示すように、架台101には変速機104を有するサーボモータ(モータ)105が配置されている。変速機104の出力軸104aには、リンクアーム106が取り付けられている。リンクアーム106の先端には、連結杆107がピン106aによって回転自在に取り付けられている。
【0028】
連結杆107は、ベースプレート102に形成された長孔102aを通って第1ワイヤガイド部130側へ延在している。そして、連結杆107の先端部は、ピン107aによってリンクアーム133の先端部に回転自在に取り付けられている。以上のような平行四辺形リンク機構により、変速機104の出力軸104aが回転すると、ブラケット131がワイヤガイド132と共に鋼線材Wの例えば重心Oを中心として鋼線材Wの周方向へ回転する。
【0029】
以上の構成からなる第1ワイヤガイド部130の下流側には、第2ワイヤガイド部140が配置されている。架台101には支柱113が取り付けられ、支柱113には軸受ホルダ123が取り付けられている。そして、軸受ホルダ123には、第2ワイヤガイド部140の軸140aが軸受124によって回転可能な状態で支持されている。
【0030】
第2ワイヤガイド部140は、ブラケット141を備えている。ブラケット141は、平面視で矩形状の底板部141aと、底板部141aの両側に固定された側板部141bとからなっている。側板部141bは円の側部を切り欠いた形状をしている。ブラケット141の底板部141aには、2対のワイヤガイド142が軸142aによって回転自在に取り付けられている。鋼線材W方向から見たワイヤガイド142には、一対で鋼線材Wの断面と同じオーバル形状をなすガイド溝142b(図2参照)が形成されている。
【0031】
ブラケット141の一方の側板部141bには、リンクアーム143が取り付けられている。一方、図1に示すように、架台101には変速機204を有するサーボモータ(モータ)205が配置されている。変速機204の出力軸204aには、リンクアーム206が取り付けられている。リンクアーム206の先端には、連結杆207がピン206aによって回転自在に取り付けられている。
【0032】
連結杆207は、ベースプレート102に形成された長孔102aを通って第2ワイヤガイド部140側へ延在している。そして、連結杆207の先端部は、ロッド207aによってリンクアーム143の先端部に回転自在に取り付けられている。以上のような平行四辺形リンク機構により、変速機204の出力軸204aが回転すると、ブラケット141がワイヤガイド152と共に鋼線材Wの例えば重心Oを中心として鋼線材Wの周方向へ回転する。
【0033】
第1ワイヤガイド部130と第2ワイヤガイド部140との間には、加熱機構150が設けられている。図1に示すように、第2ワイヤガイド部140の軸受ホルダ123には、第1ワイヤガイド部130に達するセラミクス製のチューブ152を保持するためのカバー151が取り付けられている。チューブ152の外周側には、高周波加熱コイル153が配置されている。
【0034】
第2ワイヤガイド部140の下流側には、第3ワイヤガイド部160が配置されている(図2参照)。第3ワイヤガイド部160は、鋼線材Wを成形の直前まで案内して支持するもので、ブラケット161に断面円形の孔を有するガイド162を取り付けて構成されている。第3ワイヤガイド部160の下流側には、受け刃181が配置されている。
【0035】
受け刃181の周囲には、ガイド162を経由して供給された鋼線材Wをコイル形状に加工するための一対のコイリングローラ(コイリングツール)163と、ピッチを付けるためのピッチツール164とが配置されている。また、受け刃181の上方には、所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材Wと切り離すための切断刃182が配置されている。
【0036】
鋼線材Wと切離されたコイルばねSの自由長やコイル径といった諸元を測定する測定装置190が切断部180の出口に設けられている。また、測定された諸元は制御装置(図示略)に入力されるとともに、架台101に設置したディスプレイ(図示略)に表示される。
【0037】
2.ばね成形装置の動作
上記構成のばね成形装置100の動作について冷間成形から開始して熱間成形を行う場合について説明する。線材供給部170から送られる鋼線材Wは、その素線軸Lが上下方向(小径の方が上)に向いている。そこで、ワイヤガイド132を図3(A)に示す水平な状態にして鋼線材Wをワイヤガイド132およびワイヤガイド142に通す。そのまま鋼線材Wをコイル形状に成形すると、図3(B)に示すように、素線軸LはコイルばねSの成形方向に傾く。そこで、図4(A)に示すように、ワイヤガイド132,142をコイルばねSの成形方向と反対方向に傾ける。これにより、コイルばねSの素線軸Lはコイル軸に対して直交するようになる。
【0038】
コイルばねSがクローズドエンドの場合には、コイルばねSの両端部の線間ピッチが密で密部となり、それ以外の部分は疎部となるので、密部を成形するときはワイヤガイド132,142の傾き角は疎部を成形するときよりも小さくする。そのようなワイヤガイド132,142の動作は同期させて行われる。そして、連続してコイルばねSを冷間成形しながら高周波加熱コイル153に通電して鋼線材Wを昇温してゆく。
【0039】
コイルばねSの加工中にコイルばねSの自由長や外径、線間ピッチといった諸元が測定装置190によって測定される。鋼線材Wが昇温するにつれて加工抵抗が小さく、スプリングバックが小さくなるため、制御装置は、測定装置190による測定結果に基づいて、コイルばねSの加工中にコイリングローラ163とピッチツール164の位置を調整するとともに、コイリングローラ163またはピッチツール164の動きに同期させてワイヤガイド132,142の傾き角を調整する。
【0040】
鋼線材Wが所定の熱間成形温度に達したら、製品としてのコイルばねSの加工となる。この場合も、コイルばねSの加工中にコイルばねSの諸元が測定装置190によって測定され、制御装置は、測定装置190による測定結果に基づいて、コイルばねSの加工中にコイリングローラ163とピッチツール164の位置を調整するとともに、コイリングローラ163またはピッチツール164の動きに同期させてワイヤガイド132,142の傾き角を調整する。たとえば、成形されたコイルばねSの自由長が設計寸法よりも長い場合には、ピッチツール164の位置を調整して線間ピッチを縮小する。この場合には、素線軸LコイルばねSの成形方向とは逆向き傾くことになるため、ワイヤガイド132,142の傾き角を小さくする。
【0041】
3.ばね成形装置の効果
上記構成のばね成形装置100においては、ワイヤガイド132,142の角度を常時調整することができるから、コイルばねの線間ピッチが密な部分と疎な部分とでワイヤガイド132,142の傾き角を変更することによって、コイルばねSの線間ピッチの密部と疎部の素線軸Lの角度差を小さくすることができる。また、冷間成形時と熱間成形時のワイヤガイド132,142の傾き角を調整することにより、冷間成形時と熱間成形時の加工抵抗差による素線軸Lの角度差に起因する成形不能を回避することができる。
【0042】
特に、上記実施形態では、成形したコイルばねSの諸元を測定する測定装置190を備え、制御装置は、測定装置190の測定結果に基づいてワイヤガイド132,142の傾き角を変化させるので、コイルばねS成形中の素線軸Lの角度の経時変化によるコイルばねSの形状・特性の変化を抑えることができる。
【0043】
上記実施形態では、高周波加熱コイル153の両側に配置したワイヤガイド132,142を互いに同期して駆動するから、鋼線材Wが加熱部位で捻られることがなく、加熱部位での歪を抑えることができる。
【0044】
上記実施形態では、第1、第2ワイヤガイド部130,140を平行四辺形リンク機構により回転させているから、例えばプーリとタイミングベルトを用いたような構成と比較して構成が簡易である。
【0045】
4.変更例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のように種々の変更が可能である。
(1)鋼線材Wは断面がオーバルのものに限らず、楕円形や多角形、中空など断面非円形のものは全て含まれる。
(2)第1、第2ワイヤガイド部130,140を平行四辺形リンク機構により回転させているが、第1、第2ワイヤガイド部130,140にプーリを取り付け、プーリにタイミングベルトを巻回してモータにより駆動する構成を採用することができる。また、プーリをピニオンギアに代えてもよい。なお、そのような構成に限定されることなく、コイルばねS成形中に第1、第2ワイヤガイド部130,140を回転させる構成であれば任意である。
(3)第1ワイヤガイド部130を省略することができる。また、ワイヤガイド132,142は1対とすることができる。
(4)ワイヤガイド132,142は、鋼線材Wを抵抗無く搬送するためにローラ形状であることが好ましいが、鋼線材Wをコイリング部までガイドしつつ、素線軸周方向の角度を拘束するガイド溝を有していればよく、その形態はローラに限らず任意である。
(5)加熱機構150を省略することができる。
(6)コイリングローラ163に代えてピン状またはブロック状のコイリングツールを用いることができる。
(7)クローズドエンドのコイルばねWに限らずオープンエンドのコイルばねにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、断面非円形のコイルばねの成形に際してコイルばね成形中の素線軸角度の経時変化によるコイルばね形状・特性の変化を抑えることができるので、自動車、自動二輪車、列車などの輸送機器、建設機械、工作機械、農耕機械などあらゆる技術分野で用いられるコイルばねの産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
100…ばね成形装置、101…架台、102…ベースプレート、102a…長孔、103…支柱、104…変速機、104a…出力軸、105…サーボモータ(モータ)、106…リンクアーム、106a…ピン、107…連結杆、107a…ピン、113…支柱、120…コイリング部、121…軸受ホルダ、122…軸受、123…軸受ホルダ、124…軸受、130…第1ワイヤガイド部、130a…軸、131…ブラケット、131a…底板部、131b…側板部、132…ワイヤガイド、132a…軸、132b…ガイド溝、133…リンクアーム、140…第2ワイヤガイド部、140a…軸、ブラケット141、141a…底板部、141b…側板部、142…ワイヤガイド、142a…軸、142b…ガイド溝、143…リンクアーム、150…加熱機構、151…カバー、152…チューブ、153…高周波加熱コイル、160…第3ワイヤガイド部、161…ブラケット、162…ガイド、163…コイリングローラ(コイリングツール)、164…ピッチツール、170…線材供給部、171…フィードローラ、180…切断部、181…受け刃、182…切断刃、190…測定装置、204…変速機、204a…出力軸、205…サーボモータ(モータ)、206…リンクアーム、206a…ピン、207…連結杆、207a…ロッド、L…素線軸、O…重心、S…コイルばね、W…鋼線材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6