(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】制振パネル及び建物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240920BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240920BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20240920BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240920BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20240920BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20240920BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E04H9/02 321E
F16F15/02 E
F16F15/02 S
F16F15/023 Z
F16F15/04 A
F16F15/08 E
F16F7/00 B
F16F7/00 C
F16F7/08
(21)【出願番号】P 2020149310
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】梁 生鈿
(72)【発明者】
【氏名】小山 雅人
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155585(JP,A)
【文献】特開2014-066064(JP,A)
【文献】特開2005-325637(JP,A)
【文献】特開2020-105892(JP,A)
【文献】特開2015-194024(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0257451(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/00-15/36
F16F 7/00
F16F 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の下梁と上梁との間に設置される制振パネルであって、
互いに間隔を空けて配置される縦材と、
前記縦材間に前記縦材の長さ方向に間隔をあけて複数連結される制振デバイスと、を備え、
前記縦材はそれぞれ、前記下梁に対して接合される柱脚部と、前記上梁に対して接合される柱頭部とを有し、
前記下梁と前記柱脚部との接合部、及び、前記上梁と前記柱頭部との接合部が、剛接合とピン接合との組合せとならないように構成されて
おり、
前記制振デバイスとは異なる位置で前記縦材同士を連結し、前記縦材の捩れを抑制可能な捩れ抑制部材が設けられている、制振パネル。
【請求項2】
前記下梁と前記柱脚部との接合部、及び、前記上梁と前記柱頭部との接合部は、制振パネルの面内方向に回転可能に構成されている、請求項1に記載の制振パネル。
【請求項3】
前記下梁及び前記柱脚部、並びに、前記上梁及び前記柱頭部、それぞれは、隙間を形成するためのスペーサ部材及びピン部材のいずれかを介して接合されている、請求項2に記載の制振パネル。
【請求項4】
建物の下梁と上梁との間に設置される制振パネルであって、
互いに間隔を空けて配置される縦材と、
前記縦材間に前記縦材の長さ方向に間隔をあけて複数連結される制振デバイスと、を備え、
前記縦材はそれぞれ、前記下梁に対して接合される柱脚部と、前記上梁に対して接合される柱頭部とを有し、
前記柱脚部は隙間を形成するためのスペーサ部材を介して前記下梁に接合されており、
前記柱頭部はピン部材を介して前記上梁に接合されて
おり、
前記制振デバイスとは異なる位置で前記縦材同士を連結し、前記縦材の捩れを抑制可能な捩れ抑制部材が設けられている、制振パネル。
【請求項5】
前記柱脚部は、前記柱脚部の端面を構成する平板状のベースプレートを有し、
前記スペーサ部材は、前記ベースプレートよりも左右方向の外形寸法が小さい、請求項3又は4に記載の制振パネル。
【請求項6】
前記下梁は基礎梁であり、
前記柱脚部は、前記基礎梁に埋設された1本のアンカーボルトに締結される、請求項
3~5のいずれか1つに記載の制振パネル。
【請求項7】
前記スペーサ部材と前記基礎梁の天面との間に、平板状の補強プレートが配置されている、請求項6に記載の制振パネル。
【請求項8】
前記縦材は前記下梁又は前記上梁に対して、前記縦材の長さ方向にスライド可能となっている、請求項1~7のいずれか1つに記載の制振パネル。
【請求項9】
前記捩れ抑制部材は板状の部材であり、前記縦材の捩れが生じる方向と前記捩れ抑制部材の強軸の方向が揃うように設けられている、請求項
4に記載の制振パネル。
【請求項10】
前記捩れ抑制部材は、屈曲部または湾曲部を有する板状の部材であり、前記縦材間で相対的な軸方向の変位が生じた際に、該変位に応じて前記屈曲部または湾曲部を起点に弾性変形するように構成されている、請求項
9に記載の制振パネル。
【請求項11】
前記縦材の上部と下部にそれぞれ前記捩れ抑制部材が設けられている、請求項
4に記載の制振パネル。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1つに記載の制振パネルを備える建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振パネル、及び当該制振パネルを備えた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地震時の建物の振動を速やかに減衰させるための制振装置が提案されている。例えば、特許文献1には、この種の制振装置が開示されている。特許文献1に記載の制振装置では、鉛直方向に間隔をあけて配置されている制振デバイスとしての連結プレートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、鉛直方向に間隔をあけて配置されている制振デバイスそれぞれの寿命に、地震時の縦材としての柱体の挙動(上下不均等な変形)に起因するばらつきが生じうることで、制振パネル全体としての寿命に影響を与える点には着目されていない。
【0005】
本発明の目的は、地震時の縦材の挙動を事前に設計する(上下不均等な変形を避ける)ことにより、複数の制振デバイスは均等に地震力を負担できることで、寿命のばらつきを減らし、その結果として長寿命化を実現可能な制振パネル及び建物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様としての制振パネルは、建物の下梁と上梁との間に設置される制振パネルであって、
互いに間隔を空けて配置される縦材と、
前記縦材間に前記縦材の長さ方向に間隔をあけて複数連結される制振デバイスと、を備え、
前記縦材はそれぞれ、前記下梁に対して接合される柱脚部と、前記上梁に対して接合される柱頭部とを有し、
前記下梁と前記柱脚部との接合部、及び、前記上梁と前記柱頭部との接合部が、剛接合とピン接合との組合せとならないように構成されている。
【0007】
本発明の1つの実施形態として、前記下梁と前記柱脚部との接合部、及び、前記上梁と前記柱頭部との接合部は、制振パネルの面内方向に回転可能に構成されていることが好ましい。
【0008】
本発明の1つの実施形態として、前記下梁及び前記柱脚部、並びに、前記上梁及び前記柱頭部、それぞれは、隙間を形成するためのスペーサ部材及びピン部材のいずれかを介して接合されていることが好ましい。
【0009】
本発明の第2の態様としての制振パネルは、建物の下梁と上梁との間に設置される制振パネルであって、
互いに間隔を空けて配置される縦材と、
前記縦材間に前記縦材の長さ方向に間隔をあけて複数連結される制振デバイスと、を備え、
前記縦材はそれぞれ、前記下梁に対して接合される柱脚部と、前記上梁に対して接合される柱頭部とを有し、
前記柱脚部は隙間を形成するためのスペーサ部材を介して前記下梁に接合されており、
前記柱頭部はピン部材を介して前記上梁に接合されている。
【0010】
本発明の1つの実施形態として、前記柱脚部は、前記柱脚部の端面を構成する平板状のベースプレートを有し、前記スペーサ部材は、前記ベースプレートよりも左右方向の外形寸法が小さいことが好ましい。
【0011】
本発明の1つの実施形態として、前記下梁は基礎梁であり、前記柱脚部は、前記基礎梁に埋設された1本のアンカーボルトに締結されることが好ましい。
【0012】
本発明の1つの実施形態としての制振パネルでは、前記スペーサ部材と前記基礎梁の天面との間に、平板状の補強プレートが配置されていることが好ましい。
【0013】
本発明の1つの実施形態として、前記縦材は前記下梁又は前記上梁に対して、前記縦材の長さ方向にスライド可能となっていることが好ましい。
【0014】
本発明の1つの実施形態としての制振パネルでは、前記制振デバイスとは異なる位置で前記縦材同士を連結し、前記縦材の捩れを抑制可能な捩れ抑制部材が設けられていることが好ましい。
【0015】
本発明の1つの実施形態として、前記捩れ抑制部材は板状の部材であり、前記縦材の捩れが生じる方向と前記捩れ抑制部材の強軸の方向が揃うように設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明の1つの実施形態として、前記捩れ抑制部材は、屈曲部または湾曲部を有する板状の部材であり、前記縦材間で相対的な軸方向の変位が生じた際に、該変位に応じて前記屈曲部または湾曲部を起点に弾性変形するように構成されていることが好ましい。
【0017】
本発明の1つの実施形態としての制振パネルでは、前記縦材の上部と下部にそれぞれ前記捩れ抑制部材が設けられていることが好ましい。
【0018】
本発明の第3の態様としての建物は、上記制振パネルを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、地震時の縦材の挙動を事前に設計する(上下不均等な変形を避ける)ことにより、複数の制振デバイスは均等に地震力を負担できることで、寿命のばらつきを減らし、その結果として長寿命化を実現可能な制振パネル及び建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る制振パネルを、上梁及び下梁に設置した状態で示す正面図である。
【
図2】
図1の制振パネルの柱脚部を拡大して示す正面図である。
【
図3】
図2のA-A線における制振パネルの断面図である。
【
図4】
図1の制振パネルの柱頭部を拡大して示す側面図である。
【
図5】
図1のB-B線における制振パネルの断面図である。
【
図6】
図1のC-C線における制振パネルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において共通する構成には同一の符号を付している。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の制振パネル10は、住宅等の建物1に設けられ、例えば地震等により建物1に振動が発生した際に、振動を効果的に減衰させるための装置である。
【0023】
ここで、制振パネル10を備える建物1の一例の全体構成について説明する。建物1は、例えば、鉄骨造の骨組を有する2階建ての住宅とすることができる。このような建物1は、例えば、地盤に支持された鉄筋コンクリート造の布基礎等である基礎構造体と、柱部材や梁部材などの骨組部材で構成された骨組(架構)を有し、基礎構造体に支持された上部構造体と、で構成される。なお、架構を構成する骨組部材は、予め規格化(標準化)された部材とすることができ、予め工場にて製造されたのち建築現場に搬入されて組み立てられる。同様に、制振パネル10についても、少なくとも部分的に予め工場にて製造し、建築現場で組み立てることが可能である。なお、本発明は、鉄骨および木材の梁材と柱材とによって骨組が形成された複数の建物ユニットを連結させたユニット建物にも適用可能である。なお、建物1は2階建てに限られず、1階または3階以上の階層を有していてもよい。また、制振パネル10は、建物1の何れの階層に設けてもよく、所定階のみ、または、全ての階層にそれぞれ設けてもよい。
【0024】
上部構造体は、複数の柱部材及び当該柱部材間に架設された複数の梁部材から構成される骨組と、この骨組の外周部に配置される外壁と、骨組の内部に配置される間仕切壁と、を備える。なお、本発明の制振パネル10は、建物1の内部において空間を区画する間仕切壁にも、また、屋内と屋外とを区画する外壁にも適用することができる。
【0025】
図1に示す制振パネル10は、一例として、1階の下梁としての基礎梁31と、1階の上梁32との間に設置されている。制振パネル10は、その厚さ方向において基礎梁31及び上梁32に重なる位置に配置されている。基礎梁31及び上梁32は互いに平行に、且つ、水平方向に延在している。なお、本例の基礎梁31は、1階の床部を支持する鉄筋コンクリート造の基礎の立ち上がり部であり、基礎梁31にはアンカーボルト35が埋設されている。なお、下梁は本例のような基礎梁31に限定されるものではなく、例えば2階以上の階層の床部を支持する鉄骨梁等であってもよい。上梁32は、例えば2階以上の階層の床部を支持するH形鋼等の鉄骨梁とすることができるが、これに限られるものではない。上梁32の両端はそれぞれ躯体としての柱(図示省略)に接合され、当該柱によって支持されている。
【0026】
制振パネル10は、水平方向に互いに間隔を空けて配置される2本の縦材11と、2本の縦材11間で、縦材11の長さ方向に間隔をあけて複数連結される制振デバイス20と、を備える。なお、制振パネル10は、少なくとも2本の縦材11を備えていればよく、3本以上の縦材11を備えていてもよい。また、制振パネル10が3本以上の縦材11を備える場合には、複数の隣接する2本の縦材11間にそれぞれ1つ以上の制振デバイス20を設けることができる。
【0027】
縦材11は、例えば角形鋼管からなる柱状本体部11aを有する。なお、縦材11の柱状本体部11aは角形鋼管に限定されず、H形鋼など、他の柱状部材とすることができる。本例では、2本の縦材11の柱状本体部11aにおける相互に対向する側面(対向面)11bに、溶接等の手段で固定された平板状のデバイス固定部11cが設けられている。2本の縦材11に設けられた2つのデバイス固定部11cに跨って制振デバイス20がボルト及びナット等の締結部材で固定されている。なお、本例では、
図5にも示すように、制振パネル10の表面側及び裏面側の両方から、2つのデバイス固定部11cに対して制振デバイス20を固定することができる。つまり、デバイス固定部11cを2つの制振デバイス20で表裏両側から挟み込むようにして制振デバイス20を固定することができる。なお、
図5は、
図1のB-B線における制振パネル10の断面を示しているが、柱脚部12、基礎梁31、スペーサ部材41、補強プレート42、及び捩れ抑制部材50の記載を省略している。
【0028】
図1に示すように、本例では、2本の縦材11に対して、鉛直方向にそれぞれ間隔を空けて、5箇所に制振デバイス20を配置しているが、これに限られず、鉛直方向に4箇所以下、または、6箇所以上に設けてもよい。また、本例では、鉛直方向の5箇所のそれぞれの箇所において、デバイス固定部11cの表面側及び裏面側にそれぞれ1つずつの制振デバイス20が取り付けられている。つまり、本例では、2本の縦材11間に、合計10個の制振デバイス20が取り付けられている。なお、鉛直方向における5箇所において、それぞれデバイス固定部11cの表面側及び裏面側の何れか一方のみに制振デバイス20を取り付けてもよい。また、制振デバイス20は、その厚さ方向に複数枚を重ねて配置してもよい。また、本例では全て同一形状の制振デバイス20を用いているが、異なる形状の制振デバイス20を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
また、本例の制振デバイス20は、デバイス固定部11cに対して着脱可能に取り付けられている。具体的に、制振デバイス20は、ボルト及びナット、ビス、又はねじ等の締結部材を用いて各縦材11のデバイス固定部11cに対して着脱可能に取り付けることが可能である。これによれば、制振デバイス20が変形、または劣化した際などに容易に交換することができる。なお、制振デバイス20は、縦材11に対して他の方法で取り付けてもよく、例えば溶接等のように着脱不能な状態で固定してもよい。
【0030】
ここで、制振デバイス20は、例えば、鋼材ダンパーとすることができるが、これに限られず、粘弾性ダンパー、摩擦ダンパー、オイルダンパー等であってもよい。鋼材ダンパーとしては、縦材11よりも降伏点が低い低降伏点鋼、極低降伏点鋼、または、低降伏点鋼と極低降伏点鋼の組合せや複合物とすることができるが、これに限られるものではない。また、本例の制振デバイス20としての鋼材ダンパーは、略蝶形に形成されており、作用するせん断力に応じて中央のくびれた部分が変形してエネルギーを吸収し得るように構成されている。なお、鋼材ダンパーは、地震等により2本の縦材11間に軸方向(縦材11の長さ方向)の相対的な変位が生じた際に、エネルギーを吸収して変位を低減させるものであれば、形状、材料等は特に限定されない。
【0031】
縦材11は、柱状本体部11aの下端部に設けられた柱脚部12と、柱状本体部11aの上端部に設けられた柱頭部13とを有する。縦材11の柱脚部12は、下梁としての基礎梁31に対して接合される。また、縦材11の柱頭部13は、上梁32に対して接合される。ここで、下梁としての基礎梁31と柱脚部12との接合部、及び、上梁32と柱頭部13との接合部が、剛接合とピン接合の組合せとならない。このようにすることで、地震時の縦材11の挙動として、上下不均等な変形が生じ難くなるようにすることができる。そのため、複数の制振デバイス20は均等に地震力を負担できることで、寿命のばらつきを減らし、その結果として制振パネル10の長寿命化を実現できる。なお、詳細は後述するが、本実施形態の縦材11の柱脚部12は、下梁としての基礎梁31に対して、制振パネル10の面内方向に回転可能にピン接合されている。また、詳細は後述するが、本実施形態の縦材11の柱頭部13は、上梁32に対して、制振パネル10の面内方向に回転可能にピン接合されると共に、鉛直方向にスライド可能に接合されている。つまり、本実施形態では、下梁としての基礎梁31と柱脚部12との接合部、及び、上梁32と柱頭部13との接合部は、制振パネル10の面内方向に回転可能に構成されている。ここで、「制振パネルの面内方向」とは、下梁(本実施形態では基礎梁31)及び上梁32により特定される面内の任意の方向を意味する。下梁(本実施形態では基礎梁31)及び上梁32により特定される面は、下梁(本実施形態では基礎梁31)及び上梁32の延在方向と平行な鉛直平面である。
【0032】
柱脚部12は、基礎梁31の天面31aの上方に配置されている。柱脚部12は、
図2に示すように、平板状のトッププレート14と、平板状のベースプレート15と、トッププレート14とベースプレート15の間に位置する断面コ字状の支持フレーム16と、を有する。柱脚部12は、トッププレート14、ベースプレート15及び支持フレーム16によって囲まれた柱脚内空間17を有する。柱脚内空間17には、アンカーボルト35の上端部及びナット36等の締結部材が配置される。
【0033】
トッププレート14及びベースプレート15は、例えば縦材11の軸方向から見た平面視形状が矩形の鋼板とすることができる。ここで
図3は、
図2のA-A線における断面図である。なお、
図3では、アンカーボルト35に締結されるナット36等の締結部材を省略している。
図3に示すように、ベースプレート15には、アンカーボルト35等の締結部材を通すための貫通孔15aが設けられている。本例では、ベースプレート15の中心部付近に位置する貫通孔15aが1箇所のみに形成されているが、貫通孔15aの数、位置は適宜変更可能である。
【0034】
支持フレーム16は、ウェブ部16aと、ウェブ部16aの左右両端に連なる一対のフランジ部16b、16cとを有する。支持フレーム16の上端にはトッププレート14が溶接により固定され、下端にはベースプレート15が溶接により固定されている。トッププレート14は、柱状本体部11aの下端にボルト等の締結部材又は溶接等により固定されている。
【0035】
ベースプレート15は、柱脚部12の下側の端面を構成する下面15bを備える。ここで、
図2に示すように、柱脚部12のベースプレート15の下面15bと、基礎梁31の天面31aとの間には、柱脚部12の下方に隙間43を形成するためのスペーサ部材41が配置されている。つまり、本実施形態の基礎梁31及び柱脚部12は、隙間43を形成するためのスペーサ部材41を介して接合されている。柱脚部12は、隙間43によって、基礎梁31に対して制振パネル10の面内方向に回転可能となる。換言すると、縦材11は、柱脚部12の下面(ベースプレート15の下面15b)と基礎梁31の天面31aとの間に隙間43を設けた状態で、基礎梁31にピン接合されている。これにより、縦材11は、左右方向に倒れる(揺動する)ことができるように基礎梁31に接合される。なお、「左右方向」とは、制振パネル10の面内方向に直交するパネル厚み方向で見た平面視での水平方向を意味する。
【0036】
スペーサ部材41は、ベースプレート15よりも左右方向の外形寸法が小さくなっており、これにより、少なくとも隙間43が左右方向に形成される。本例のスペーサ部材41は、平坦な円環状の座金である。
図3に示すように、スペーサ部材41の外縁部の直径d(外径)は、ベースプレート15の幅W(左右方向の長さ)及び奥行D(鉛直方向及び左右方向に垂直な前後方向の長さ)より小さい。スペーサ部材41は、少なくとも、ベースプレート15よりも左右方向の外形寸法が小さく、制振パネル10の面内方向での縦材11の揺動を可能とする隙間43が形成されるものであれば、特にその厚さ、形状は限定されない。
【0037】
本例の柱脚部12は、基礎梁31に埋設された1本のアンカーボルト35に締結されている。すなわち、本例の縦材11の柱脚部12は、基礎梁31に対して1本のみのアンカーボルト35を用いて揺動可能に接合(ピン接合)されている。
【0038】
ここで、例えば柱脚部12と基礎梁31の間にスペーサ部材41を配置せずに、すなわち隙間43が形成されないように縦材11の柱脚部12を基礎梁31に対して1本のアンカーボルト35を用いて接合(例えば半剛接合や剛接合)した場合には、ピン接合されている上梁32及び柱頭部13の固定度に比べて基礎梁31に対する柱脚部12の固定度が大きくなり過ぎる。そのため、例えば大地震時には、柱脚部12の支持フレーム16の左右何れかのフランジ部16bまたは16cに応力が集中して、当該フランジ部16b、16cに座屈変形が生じる虞がある。これに対して、本実施形態の制振パネル10にあっては、柱脚部12と基礎梁31の間にスペーサ部材41を配置して隙間43を形成した状態で柱脚部12及び基礎梁31を接合(ピン接合)したことで、柱脚部12の支持フレーム16に応力が集中し難くなり、フランジ部16b、16cの座屈変形を抑制することができる。なお、本実施形態における上梁32及び柱頭部13の接合の詳細については後述する。
【0039】
本例の制振パネル10には、制振デバイス20とは異なる位置で縦材11同士を連結し、縦材11の捩れを抑制可能な捩れ抑制部材50が設けられている。捩れ抑制部材50は、
図1、6に示すように、2本の縦材11に跨って設けられており、相互に対向する各側面11bに、ボルト及びナット、ビス、又はねじ等の締結部材を用いて固定されている。本例では、2本の縦材11の上部及び下部にそれぞれ捩れ抑制部材50が設けられている。具体的に、上側の捩れ抑制部材50は、デバイス固定部11cよりも上方に位置しており、下側の捩れ抑制部材50は、デバイス固定部11cよりも下方に位置している。なお、
図6は、
図1のC-C線における制振パネル10の断面を示しているが、柱脚部12、基礎梁31、スペーサ部材41、及び補強プレート42等の記載を省略している。
【0040】
本例の捩れ抑制部材50は、屈曲部51を有する板状の部材であり、2本の縦材11間で相対的な軸方向の変位が生じた際に、当該変位に応じて屈曲部51を起点に弾性変形するように構成されている。屈曲部51は、長方形状の捩れ抑制部材50における長手方向の中心部に位置している。また、捩れ抑制部材50の長手方向の両端部には、縦材11の側面11bに固定するための取付部52が設けられている。各取付部52を縦材11の側面11bに当接させた状態で、ボルト等の締結部材を用いて取付部52を側面11bに締結することにより、捩れ抑制部材50を、2本の縦材11間に跨って取り付けることができる。なお、捩れ抑制部材50は、屈曲部51に代えて緩やかな湾曲部を有する構成としてもよい。また、捩れ抑制部材50は、屈曲部51を有していなくてもよい。また、捩れ抑制部材50は、複数の屈曲部51及び/又は湾曲部を有していてもよい。
【0041】
また、板状の捩れ抑制部材50は、縦材11の捩れが生じる方向と捩れ抑制部材50の強軸の方向が揃うように設けられている。具体的に、本実施形態の板状の捩れ抑制部材50は、その強軸の方向としての面内方向が、縦材11の捩れが生じる方向である、縦材11を中心軸とする軸回転方向と揃うように、設けられている。このようにすることで、捩れ抑制部材50を捩れ抑制機能に特化させることで、制振パネル10の設計が複雑化することを抑制できる。
【0042】
より具体的に、捩れ抑制部材50は、表面又は裏面が、上向き又は下向きとなるように2本の縦材11間に取り付けられている。つまり、捩れ抑制部材50は、制振パネル10の奥行方向に延在している。また、上側の捩れ抑制部材50と下側の捩れ抑制部材50とは同一の形状を有し、上下反転した状態で取り付けられている。これにより、上側の捩れ抑制部材50は、屈曲部51が下向きの凸となるように配置され、下側の捩れ抑制部材50は、屈曲部51が上向きの凸となるように配置されている。
【0043】
本例の捩れ抑制部材50は、長方形の平板状の鋼材を、屈曲部51及び取付部52の位置で折り曲げ、また取付部52にボルトを通すための孔をあけることで、形成することができる。捩れ抑制部材50は、予め屈曲又は湾曲した部分を有し、力が加わることで平坦になるように弾性変形可能な、所謂「むくり材」とすることができる。捩れ抑制部材50は、屈曲部51等を持たない平坦な板状であってもよい。
【0044】
ここで、本実施形態のように柱脚部12を基礎梁31に対して1本のみのアンカーボルト35を用いて接合した場合、例えば多数の地震による振動を受けることにより、縦材11に軸回転(アンカーボルト35を中心とする回転)が徐々に生じる虞がある。その場合、2本の縦材11間に連結された制振デバイス20に面外の曲げ変形が生じ、早期に破断し易くなる虞がある。これに対して、本実施形態では、2本の縦材11を連結する捩れ抑制部材50を設けたことで、縦材11の軸回転を抑制することができる。その結果、制振デバイス20に面外曲げ変形が生じて早期に破断することを抑制することができる。
【0045】
なお本例では、スペーサ部材41と基礎梁31の天面31aとの間に平板状の補強プレート42が配置されている。
図2、3に示すように、補強プレート42は、矩形の平板状の鋼材とすることができる。補強プレート42は、スペーサ部材41との接触により基礎梁31の天面31aに破損が生じることを防止するための部材である。補強プレート42は、スペーサ部材41よりも平面視の外形が大きく、少なくともスペーサ部材41の下面全体を、補強プレート42の上面で支持するように配置される。なお、補強プレート42は必須の構成ではなく、基礎梁31の天面31a上に直接、スペーサ部材41を配置してもよい。
【0046】
柱頭部13は、上梁32に対して、制振パネル10の面内方向に回転可能にピン接合されている。また、柱頭部13は、上梁32に対して、鉛直方向にスライド可能に接合されている。これにより、縦材11は、その上端において上梁32に対し水平方向の力が伝達され、鉛直方向の力とモーメントは、ほとんどもしくは全く伝達されない状態で接合される。
【0047】
図4は、柱頭部13を拡大して示す側面図である。柱頭部13は、柱状本体部11aの上端に溶接等の手段で固定された平板状の取付片13aと、取付片13aに溶接等の手段で固定された平板状の柱側接合片13bとを有する。柱側接合片13bは、取付片13aに対して垂直に配置されている。柱側接合片13bには、柱側接合片13bを厚さ方向に貫通する長孔状の貫通孔13cが形成されている。貫通孔13cは、縦方向(鉛直方向)に長く、横方向(水平方向)には挿通するボルトとの間に若干のクリアランスを見込んだ寸法を有する。
【0048】
上梁32の下フランジ32aには、拘束部材33が設けられている。拘束部材33は、平板状の取付片33aと、取付片33aに溶接等の手段で固定された平板状の梁側接合片33bとを有する。取付片33aには、ボルトを挿通する孔が形成されており、上梁32の下フランジ32aに対して、ボルト及びナット等の締結部材を用いて固定される。
【0049】
梁側接合片33bには、円形の貫通孔33cが形成されている。梁側接合片33bは、柱側接合片13bに沿って配置される。拘束部材33は予め上梁32の下フランジ32aにボルト及びナット等の締結部材によって固定され、この拘束部材33に対して柱頭部13が接合されることで、鉛直ローラー接合部が構成されている。拘束部材33の梁側接合片33bは上梁32から垂下して配置され、柱頭部13の柱側接合片13bは、柱状本体部11aの上端から起立した状態で配置される。縦材11を基礎梁31と上梁32の間に設置する際には、梁側接合片33bと柱側接合片13bとが、互いに平行となるように隣接配置された状態で、柱脚部12を基礎梁31に接合した後、柱頭部13を上梁32に接合する。柱頭部13を上梁32に接合する際には、ピン部材としてのボルト37を拘束部材33の貫通孔33c及び柱頭部13の貫通孔13cに挿通してナットを螺合する。つまり、ピン部材としてのボルト37を用いることで、柱頭部13が上梁32に対して、制振パネル10の面内方向に回転可能にピン接合される。また、貫通孔13cを縦方向に長い長孔とすることで、柱頭部13が上梁32に対して、鉛直方向にスライド可能に接合される。このようにして、縦材11を、その上端において上梁32に対して、制振パネル10の面内方向に回転可能、かつ、鉛直方向にスライド可能に接合することができる。これにより、縦材11はその上端において上梁32に対し水平方向の力が伝達され、鉛直方向の力とモーメントは、ほとんど又は全く伝達されない状態で接合される。なお、縦材11の上梁32に対する接合方法は、縦材11の下梁としての基礎梁31に対する接合方法との関係で設定されるため、面内方向に回転可能な構成に限られず、また、鉛直方向にスライド可能な構成にも限られない。但し、本実施形態のように、縦材11を、その上端において上梁32に対して、制振パネル10の面内方向に回転可能、かつ、鉛直方向にスライド可能に接合することで、地震時に制振パネル10から上梁32に鉛直方向の力や曲げモーメントが入らないため、上梁32の設計を含む構造設計が容易になる。また、本例では、柱頭部13の貫通孔13cを長孔とし、梁側接合片33bの貫通孔33cを円形としたが、これに限られず、例えば柱頭部13の貫通孔13cを円形とし、梁側接合片33bの貫通孔33cを長孔としてもよいし、貫通孔13c及び貫通孔33cを共に長孔としてもよい。
【0050】
このように、本実施形態では、縦材11の柱頭部13と上梁32との接合部、及び、縦材11の柱脚部12と基礎梁31との接合部が、制振パネル10の面内方向に回転可能に構成されている。そのため、両接合部が例えば剛接合とピン接合との組み合わせである場合と比較して、上梁32に対する柱頭部13の固定度と、基礎梁31に対する柱脚部12の固定度との差異が小さくなり、地震等により層間変位が生じた際に、縦材11に曲げ変形が生じ難くなる。その結果、複数の制振デバイス20は均等に地震力を負担できることで、寿命のばらつきを減らし、その結果として制振パネル10の長寿命化を実現できる。
【0051】
なお、本実施形態では、柱脚部12と基礎梁31との接合部にスペーサ部材41を用い、柱頭部13と上梁32との接合部にピン部材としてのボルト37を用いているが、逆であってもよい。つまり、柱脚部12と基礎梁31との接合部にピン部材を用い、柱頭部13と上梁32との接合部にスペーサ部材を用いてもよい。更に、両接合部にスペーサ部材を用いてもよく、両接合部にピン部材を用いてもよい。但し、施工性の観点から、本実施形態のように、柱脚部12と基礎梁31との接合部にスペーサ部材41を用い、柱頭部13と上梁32との接合部にボルト37などのピン部材を用いることが好ましい。このようにすることで、制振パネル10の施工がし易くなる。
【0052】
以上の通り、本実施形態の制振パネル10は、建物1の下梁(基礎梁31)と上梁32との間に設置される制振パネル10であって、互いに間隔を空けて配置される縦材11と、縦材11間に縦材11の長手方向に間隔をあけて複数連結される制振デバイス20と、を備える。縦材11はそれぞれ、基礎梁31に対して接合される柱脚部12と、上梁32に対して接合される柱頭部13とを有する。基礎梁31と柱脚部12との接合部、及び、上梁32と柱頭部13との接合部が、剛接合とピン接合との組合せとならないように構成されている。このような構成により、基礎梁31に対する柱脚部12の固定度と、上梁32に対する柱頭部13の固定度の差が小さくなり、縦材11に曲げ変形が生じ難くなる。その結果、複数の制振デバイス20は均等に地震力を負担できることで、寿命のばらつきを減らし、制振パネル10の長寿命化を実現できる。
【0053】
なお、本実施形態の制振パネル10にあっては、スペーサ部材41と基礎梁31の天面31aとの間に、平板状の補強プレート42が配置されている。このような構成により、基礎梁31の天面31aを補強することができる。よって、例えばスペーサ部材41が接触して基礎梁31の天面31aに破損が生じたりすることを確実に抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態の制振パネル10にあっては、柱脚部12は、柱脚部12の下面15bを構成する平坦なベースプレート15を有し、スペーサ部材41は、ベースプレート15よりも左右方向の外形寸法が小さい。このような構成により、縦材11を左右方向に揺動させ易くすることができる。
【0055】
また、本実施形態の制振パネル10にあっては、下梁は基礎梁31で構成されており、柱脚部12は、基礎梁31に埋設された1本のアンカーボルト35に締結される。このような構成により、複数本のアンカーボルト35を用いる場合に比べて、縦材11を揺動させ易くすることができ、また、アンカーボルト35が基礎梁31内部の鉄筋(図示省略)に干渉し難くなる。
【0056】
また、本実施形態の制振パネル10にあっては、制振デバイス20とは異なる位置で一対の縦材11を連結し、一対の縦材11の捩れを抑制可能な捩れ抑制部材50が設けられている。このような構成により、縦材11のアンカーボルト35を中心とする回転を抑制することができる。その結果、制振デバイス20に面外曲げ変形が生じ難くなるため、さらに制振デバイス20の長寿命化を図ることができる。
【0057】
また、本実施形態の制振パネル10にあっては、捩れ抑制部材50が、屈曲部51または湾曲部を有する板状の部材であり、一対の縦材11間で相対的な軸方向の変位が生じた際に、当該変位に応じて屈曲部51または湾曲部を起点に弾性変形するように構成されていることが好ましい。このような構成により、捩れ抑制部材50による縦材11の捩れ抑制効果を得ながらも、一対の縦材11間での面内変形時に、捩れ抑制部材50に破損又は塑性変形が生じ難くなる。
【0058】
また、本実施形態の制振パネル10にあっては、一対の縦材11の上部と下部にそれぞれ捩れ抑制部材50が設けられている。このような構成により、さらに縦材11に捩れが生じ難くなり、制振デバイス20への負荷もさらに軽減されることとなる。
【0059】
本発明は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲で記載された内容を逸脱しない範囲で、様々な構成により実現することが可能である。例えば、本例の制振パネル10は、全体が左右対称となるように形成されているが、これに限られず、左右非対称であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1:建物
10:制振パネル
11:縦材
11a:柱状本体部
11b:側面(対向面)
11c:デバイス固定部
12:柱脚部
13:柱頭部
13a:取付片
13b:柱側接合片
13c:締結孔
14:トッププレート
15:ベースプレート
15a:貫通孔
15b:柱脚部の下面(ベースプレートの下面)
16:支持フレーム
16a:ウェブ部
16b、16c:フランジ部
17:柱脚内空間
20:制振デバイス
21:ボルト
31:基礎梁(下梁)
31a:基礎梁の天面
32:上梁
32a:下フランジ
33:拘束部材
33a:取付片
33b:梁側接合片
35:アンカーボルト
36:ナット
37:ボルト(ピン部材)
41:スペーサ部材
42:補強プレート
43:隙間
50:捩れ抑制部材
51:屈曲部
52:取付部