(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】グリース組成物及びこのグリース組成物を用いた摺動部分の潤滑方法
(51)【国際特許分類】
C10M 169/06 20060101AFI20240920BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20240920BHJP
C10M 115/08 20060101ALI20240920BHJP
C10M 133/16 20060101ALI20240920BHJP
C10M 125/26 20060101ALI20240920BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240920BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240920BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240920BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M107/02
C10M115/08
C10M133/16
C10M125/26
C10N50:10
C10N30:06
C10N40:02
C10N40:04
(21)【出願番号】P 2020185508
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳生 貴也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 一泉
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/151332(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0199473(US,A1)
【文献】国際公開第2016/143807(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリαオレフィンを含む基油と、
(B)脂環式アミンとジフェニルメタンジイソシアネートの反応生成物であるウレア系増ちょう剤と、
(C)脂肪族アミドと、
(D)テトラエチレンペンタミンとイソステアリン酸のアミド化合物と、を含み、
前記(C)脂肪族アミドが、ステアリン酸ビスアミドであり、
前記(C)成分の含有量が、組成物全量基準で7質量%以上15質量%以下であり、
前記(D)成分の含有量が、組成物全量基準で0.1質量%以上3質量%以下である、
鋼及び樹脂間の潤滑に用いられるグリース組成物。
【請求項2】
(E)窒化ホウ素をさらに含む、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記(A)成分の含有量が、組成物全量基準で70質量%以上85質量%以下であり、
前記(B)成分の含有量が、組成物全量基準で5質量%以上20質量%以下である、請求項1
又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
摺動部分に請求項1~
3のいずれか1項に記載のグリース組成物を介在させる潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関する。本発明はまた、このグリース組成物を用いた摺動部分の潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリースは、主にすべり軸受、転がり軸受(ベアリング)、又は摺動部に用いられている。使用されるグリースは、その使用条件に合わせて選別される。
グリースの潤滑性の改善のため、基油、増ちょう剤、添加剤の選択が種々提案されている。一方で、摺動部の条件により、摩擦特性は異なる。したがって、材質、温度、及び摺動速度などを考慮して、最適な組成を有するグリースを選択する必要がある。特に、鋼と樹脂は摩擦特性が異なり、両方の材質に接していても、低摩擦を維持できるグリース組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、潤滑油基油、増ちょう剤、アミド化合物、ならびに、α‐ヒドロキシカルボン酸金属塩、及びω‐ヒドロキシカルボン酸金属塩の少なくとも一方を含有し、そのヒドロキシカルボン酸金属塩の合計の含有量がグリース組成物全量基準で0.1質量%以上2質量%以下であるグリース組成物を開示する。特許文献1に開示されたグリース組成物では、鋼及び樹脂間の摩耗量を低減することが可能である。しかしながら、本発明者らは、特許文献1に開示されたグリース組成物では、条件によっては摩擦係数を低く維持できない場合があることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋼及び樹脂間において、低速及び高速の両方の状態において、摩擦係数を低く維持できるグリース組成物に関して鋭意検討した。そして、成分(A)~(D)を組み合わせることで、前記課題を解決できることを見出し、発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、以下の通りである。
<1>
(A)ポリαオレフィンを含む基油と、
(B)脂環式アミンとジフェニルメタンジイソシアネートの反応生成物であるウレア系増ちょう剤と、
(C)脂肪族アミドと、
(D)テトラエチレンペンタミンとイソステアリン酸のアミド化合物と、
を含み、鋼及び樹脂間の潤滑に用いられるグリース組成物。
<2>
(E)窒化ホウ素
をさらに含む、<1>に記載のグリース組成物。
<3>
前記(D)成分の含有量が、組成物全量基準で0.1質量%以上3質量%以下である、<1>又は<2>に記載のグリース組成物。
<4>
(C)脂肪族アミドが、ステアリン酸ビスアミドである、<1>~<3>のいずれかに記載のグリース組成物。
<5>
前記(A)成分の含有量が、組成物全量基準で70質量%以上85質量%以下であり、
前記(B)成分の含有量が、組成物全量基準で5質量%以上20質量%以下であり、そして
前記(C)成分の含有量が、組成物全量基準で5質量%以上20質量%以下である、<1>~<4>のいずれかに記載のグリース組成物。
<6>
摺動部分に<1>~<5>のいずれかに記載のグリース組成物を介在させる潤滑方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のグリース組成物によれば、鋼及び樹脂間の潤滑条件において、低速及び高速の両方の状態において、摩擦係数を低く維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔成分(A):潤滑油基油〕
本発明のグリース組成物において、潤滑油基油としては、ポリαオレフィンを含む基油を用いることができる。40℃における動粘度30mm2/s以上100mm2/s以下であるポリαオレフィンを用いることが好ましい。
40℃における動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠して測定することができる。
【0009】
ポリαオレフィンとしては、炭素数2~32、好ましくは6~16のα-オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1-オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。なお、「炭素数2~32」とは、炭素原子を2個以上32個以下有することを意味する。
本発明のグリース組成物における、潤滑油基油の含有量は、グリース組成物全量基準で、好ましくは、70質量%以上85質量%以下、より好ましくは75質量%以上85質量%以下である。
【0010】
本発明のグリース組成物においては、潤滑油基油としてポリαオレフィンのみを含むこともでき、その他の潤滑油基油を含むこともできる。具体的には、本発明のグリース組成物において、ポリαオレフィンの含有量は、潤滑油基油基準で、例えば、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であることができる。
【0011】
〔成分(B):ウレア系増ちょう剤〕
ウレア系増ちょう剤としては、脂環式アミンと、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを反応させて得られるウレア系化合物を使用することができる。
脂環式アミンとしては、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0012】
本発明のグリース組成物においては、脂環式アミンと、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを反応させて得られるウレア系化合物のみを含んでもよく、その他のウレア系化合物を含んでもよい。本発明のグリース組成物において、脂環式アミンと、ジフェニルメタンジイソシアネートとを反応させて得られるウレア系増ちょう剤の含有量は、ウレア系増ちょう剤基準で、例えば、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であることができる。
【0013】
脂環式アミンと、ジフェニルメタンジイソシアネートとを反応させて得られるウレア系化合物は、種々の方法と条件下で反応させることができる。増ちょう剤の均一分散性が高いジウレア化合物が得られることから、潤滑油基油中で、脂環式アミンと、ジフェニルメタンジイソシアネートとを反応させることが好ましい。また、反応は、脂環式アミンを溶解した潤滑油基油中に、ジフェニルメタンジイソシアネートを溶解した潤滑油基油を添加して行ってもよく、ジフェニルメタンジイソシアネートを溶解した潤滑油基油中に、脂環式アミンを溶解した潤滑油基油を添加して行ってもよい。これらの反応における温度及び時間は、特に限定されず、通常の反応と同様の温度及び時間が適用可能である。反応温度は、脂環式アミン及びジフェニルメタンジイソシアネートの溶解性及び揮発性の点から、60℃以上170℃以下が好ましい。反応時間は、脂環式アミン及びジフェニルメタンジイソシアネートの反応を完結させるという点と製造時間短縮による効率化の点から、0.5時間以上2.0時間以下が好ましい。
【0014】
脂環式アミンと、ジフェニルメタンジイソシアネートとを反応させて得られるウレア系増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全量に対して、好ましくは、5質量%以上20質量%以下、より好ましくは5質量%以上15質量%以下である。
【0015】
〔成分(C):脂肪族アミド〕
本発明のグリース組成物において使用される脂肪族アミドは、脂肪族炭化水素の少なくとも1つの水素がアミド基(‐NH‐CO‐)で置換された化合物である。本発明のグリース組成物では、脂肪族アミドとして、アミド基を1つ含む化合物(モノアミド)、アミド基を2つ含む化合物(ビスアミド)、又はアミド基を3つ含む化合物(トリアミド)のいずれを用いてもよい。
【0016】
モノアミドとしては、モノアミンの酸アミドでも、モノ酸の酸アミドのいずれでも良い。ビスアミドしては、ジアミンの酸アミドでも、ジ酸の酸アミドのいずれでも良い。
脂肪族アミドは、好ましくは、融点が40℃以上180℃以下、より好ましくは80℃以上180℃以下、更に好ましくは100℃以上170℃以下のものである。脂肪族アミドは、好ましくは、分子量が242以上932以下、より好ましくは298以上876以下のものである。
脂肪族のモノアミド、ビスアミド、及びトリアミドは、下記の一般式(1)、一般式(2)及び(3)、並びに一般式(4)でそれぞれ表される。
【0017】
R1‐CO‐NH‐R2・・・・(1)
R1‐CO‐NH‐A1‐NH‐CO‐R2・・・・(2)
R1‐NH‐CO‐A1‐CO‐NH‐R2・・・・(3)
R1‐M‐A1‐CH(A2‐M‐R3)‐A3‐M‐R2・・・・(4)
【0018】
上記各式において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、炭素数5~25の脂肪族炭化水素基である。また、一般式(1)の場合にはR2が水素の場合も含む。A1、A2、A3は、それぞれ独立して、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基で、Mはアミド基である。
なお、モノアミドの場合、R2が水素又は炭素数10~20の飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基であることが好ましい。
また、ジアミンの酸アミドの場合は、A1が炭素数1~4の飽和鎖状炭化水素基のものが好ましい。
さらに、式(2)及び(3)において、R1、R2、またはA1で表される炭化水素基は、一部の水素が水酸基(‐OH)で置換されていてもよい。
【0019】
上記一般式(1)で表されるモノアミドとしては、具体的には、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド、及びステアリルステアリン酸アミド、オレイルオレイン酸アミド、オレイルステアリン酸アミド、ステアリルオレイン酸アミド等の飽和又は不飽和の長鎖脂肪酸と長鎖アミンによる置換アミド類などが挙げられる。
【0020】
上記一般式(2)で表されるジアミンの酸アミドとしては、具体的には、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
一般式(3)で表されるジ酸のビスアミドとしては、具体的には、N,N’‐ビスステアリルセバシン酸アミド等が挙げられる。
これらビスアミドの中でも、一般式(2)及び一般式(3)のR1とR2がそれぞれ独立して炭素数12~20の飽和鎖状炭化水素基又は不飽和鎖状炭化水素基の脂肪族アミドであることが好ましい。
【0021】
本発明に好適に用いることができる上記一般式(4)で表される脂肪族アミドとしては、N‐アシルアミノ酸ジアミド化合物が挙げられる。この化合物のN‐アシル基は、炭素数1~30の直鎖又は分枝の飽和又は不飽和の脂肪族アシル基又は芳香族アシル基、特にはカプロイル基、カプリロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、ステアロイル基からなるものが好ましく、またアミノ酸としてはアスパラギン酸、グルタミン酸からなるものが好ましく、また、アミド基のアミンは炭素数1~30の直鎖又は分枝の飽和又は不飽和の脂肪族アミン、特にはブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、イソステアリルアミン、ステアリルアミン等が好ましい。特には、具体的な化合物としてN‐ラウロイル‐L‐グルタミン酸‐α,γ‐ジ‐n‐ブチルアミドが好ましい。
【0022】
本発明のグリース組成物において使用される脂肪族アミドは、式(2)で表される脂肪族ビスアミドが好ましい。中でも、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、及びメチレンビスラウリン酸アミドがより好ましい。
脂肪族アミドはそれぞれ単独で用いても、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。脂肪族アミドの含有量は、グリース組成物全量基準で、5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下とすることがより好ましい。脂肪族アミドの含有量が上記上限値以下であることにより、グリースが硬くなりすぎないため、潤滑不良を抑制することができ、上記下限値以上であることにより、低速および高速の両方の状態において、より摩擦係数を下げることができる。
【0023】
〔成分(D):テトラエチレンペンタミンとイソステアリン酸のアミド化合物〕
本発明のグリース組成物において使用される、テトラエチレンペンタミンとイソステアリン酸のアミド化合物は、以下の式(5)で表される。
式(5)
Rはいずれもイソステアリン酸である。成分(D)は、油性剤として、本発明のグリース組成物に添加される。成分(D)を含有することにより、鋼及び樹脂間の潤滑条件において、低速および高速の両方の状態において摩擦係数を下げることができる。
【0024】
成分(D)の含有量は、グリース組成物全量基準で、0.1質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上2.5質量%以下であることがより好ましい。成分(D)の含有量が上記範囲内にあることにより、低速における摩擦係数をより下げることができる。
【0025】
〔成分(E):窒化ホウ素〕
本発明のグリース組成物は、成分(A)~(D)に加えて、窒化ホウ素を含むことができる。本発明のグリース組成物では、固体潤滑剤として広く用いられている六方晶系の常圧相(h‐BN)の粉末のものを使用することができる。使用用途により適正な粒径のものを適宜選定して使用できるが、粒子直径が1μm以上10μm以下のものが好ましい。
この窒化ホウ素の含有量は、グリース組成物の全量基準で、好ましくは0.2質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。窒化ホウ素の含有量が上記上限値以下であることにより、他の添加剤の効果を阻害することなく、摩擦係数をより下げることができ、上記下限値以上であることにより、グリース組成物の長時間耐久性が向上する。
【0026】
〔その他の添加剤〕
本発明のグリース組成物には、上記成分以外に、必要に応じて、一般にグリースに用いられている、固体潤滑剤、摩耗防止剤又は極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、腐食防止剤などを適宜添加することができる。
【0027】
固体潤滑剤としては、窒化ホウ素以外に、例えば、黒鉛、フッ化黒鉛、メラミンシアヌレート、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、硫化アンチモン、アルカリ(土類)金属ホウ酸塩等が挙げられる。グリース組成物が、窒化ホウ素以外の固体潤滑剤を含有する場合、その含有量は、グリース組成物全量基準で0.1質量%以上20質量%以下であることができる。
【0028】
摩耗防止剤又は極圧剤としては、例えば、ジアリールジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオカルバミン酸亜鉛等の有機亜鉛化合物、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、ジハイドロカルビルポリサルファイド、硫化エステル、チアゾール化合物、チアジアゾール化合物等の硫黄含有化合物;リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、亜リン酸エステル等のリン系極圧剤等が挙げられる。グリース組成物が摩耗防止剤又は極圧剤を含有する場合、その含有量は、グリース組成物全量基準で0.1質量%以上10質量%以下であることができる。
【0029】
酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等のフェノール系化合物、モノブチルフェニルモノオクチルフェニルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、p-アルキルフェニル-α-ナフチルアミン等のアミン系化合物等が挙げられる。グリース組成物が酸化防止剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量基準で0.5質量%以上10質量%以下であることができる。
【0030】
防錆剤としては、例えば、アミン類、中性又は過塩基性の石油系又は合成油系金属スルフォネート、カルボン酸金属塩類、エステル類、リン酸、リン酸塩等が挙げられる。グリース組成物が防錆剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量基準で0.005質量%以上5質量%以下であることができる。
【0031】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、及びイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を使用可能である。グリース組成物が腐食防止剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量基準で、0.01質量%以上10質量%以下であることができる。
【0032】
本発明のグリース組成物は、必須成分としての成分(A)~(D)、さらに必要に応じてその他の添加剤を混合し、撹拌した後、ロールミル等を通すことによって得ることができる。
【0033】
〔鋼及び樹脂間〕
本明細書において「鋼及び樹脂間」とは、本発明のグリース組成物が封入される部分において、当該グリースが接触する部分に、少なくとも鋼及び樹脂が存在することを意味する。したがって、鋼又は樹脂を含む部材が、それぞれ1つより多くてもよい。また、本発明のグリース組成物が、鋼及び樹脂の両方を含む単一の部材に封入されていてもよい。また、鋼及び樹脂以外の材質とも接する実施形態を除外するものではない。
本明細書において「鋼」とは、炭素を0.04~2質量%含む、鉄の合金を意味する。
本明細書において「樹脂」には、天然樹脂及び合成樹脂の両方が含まれる。合成樹脂としては、汎用プラスチック(ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニールなど)、及びエンジニアリングプラスチックが含まれる。耐熱性、機械的強度の観点で、合成樹脂として、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの合成樹脂などが好ましく、ポリアミド樹脂、及びポリオキシメチレン樹脂がより好ましい。
【0034】
〔低速及び高速〕
本発明のグリース組成物を用いる機器としては、自動車・鉄道・航空機などの輸送機械、工作機械などの産業機械、洗濯機・冷蔵庫・掃除機などの家庭電化製品、時計・カメラなどの精密機械が挙げられる。これらの機器の軸受、歯車、摺動面、ベルト、ジョイント、及びカムなどに、本発明のグリース組成物を用いることができる。本発明のグリース組成物を使用することにより、上記機器の軸受等の低速(例えば、0.1m/s以下の速度の回転)及び高速(例えば、0.1m/sを超える速度の回転)における摩擦係数を低く維持することができる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明を実施例及び比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。なお、特に説明のない限り、%は質量%を示す。
【0036】
実施例1~4および比較例1~3
<グリースの配合>
各実施例及び各比較例について表1に示す配合割合で、増ちょう剤、基油および添加剤を配合することによって、試験用グリース組成物を調製した。得られた試験用グリース組成物に対して、次に示す評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0037】
(1)基油
・ポリαオレフィン1:動粘度46mm2/s(40℃)
・ポリαオレフィン2:動粘度400mm2/s(40℃)
表1に示した質量比で基油を混合し、潤滑油基油を調製した。
(2)増ちょう剤
・シクロヘキシルアミン(CHA)とジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを混合し、ウレア系化合物を調製した。
(3)添加剤
表1に記載の通り、添加剤を添加した。表中、添加剤の含有量は、グリース組成物全量基準を意味する。添加剤の詳細は以下の通りである。
・オクチルN(オクチルフェニル)アニリン 三洋化成社製(製品名:Vanlube81)
・エチレン Bis-ステアリルアミド アデカケミカルサプライ社製(製品名:PALMOWAX EBS)
・テトラエチレンペンタミンとイソステアリン酸のアミド化合物 シェブロンオロナイト社製(製品名:OLOA 340D)
・窒化ホウ素 水島合金鉄社製(製品名:HP-P1)
・亜リン酸エステルとリン酸エステルの混合物 日本ルーブリゾール社製(製品名:LUBRIZOL 6178)
【0038】
<評価>
(1)摩擦係数
JIS K 7218に記載の鈴木式摩擦試験機を用いて、低速(0.04m/s)及び高速(1m/s)における摩擦係数を測定した。樹脂にはポリアミドであるPA66をリング状(外径25.6mm、内径20.0mm、高さ15mm)に加工したものを用い、鋼にはS45Cのコロ(φ8mm、長さ5mm)を用いた。3つのコロを放射状に配置し回転しないよう固定した状態でグリースをコロに1g塗布し、3つのコロに均等に接触するよう樹脂リングを押し付け、50Nの荷重を付加した状態で、低速(0.04m/s)又は高速(1m/s)で運転したときの5分後の摩擦係数を測定した。
【0039】
【0040】
実施例1~4のグリース組成物の各々では、摩擦係数が、低速試験時には0.070以下に、そして高速試験時には0.040以下に抑制された。
テトラエチレンペンタミンとイソステアリン酸のアミド化合物ではなく亜リン酸エステルとリン酸エステルの混合物を含む比較例1、及びエチレンBis-ステアリルアミドを含まない比較例2の各々では、低速試験時又は高速試験時の摩擦係数がそれぞれ0.070又は0.040を超える結果となった。
樹脂及び鋼の条件ではなく、鋼及び鋼の条件で計測した比較例3では、低速試験時又は高速試験時の摩擦係数が、いずれも大幅に上昇した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のグリース組成物によれば、鋼及び樹脂間の潤滑条件において、低速及び高速の両方の状態において、摩擦係数を低く維持することができる。