(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B41J2/335 101E
(21)【出願番号】P 2020189366
(22)【出願日】2020-11-13
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100133514
【氏名又は名称】寺山 啓進
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 俊夫
【審査官】大関 朋子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-017156(JP,A)
【文献】特開2013-173339(JP,A)
【文献】特開2005-313472(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0074907(US,A1)
【文献】中国実用新案第206796852(CN,U)
【文献】特開平06-132338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の表面に設けられた金を含むパッドと、前記絶縁基板の表面に設けられ、前記パッドの前記絶縁基板とは反対側の表面に接続され、銀を含む接続部とを含む電極と、
前記パッドの前記絶縁基板とは反対側の表面に設けられ、前記接続部とは組成が異なり、銀を含む膜と、
を備え、
前記接続部は前記パッドを縁部から挟み込むように被覆し、
前記パッド全体が厚さ方向から見て前記接続部で被覆されている
、
サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の表面に設けられた金を含むパッドと、前記絶縁基板の表面に設けられ、前記パッドの前記絶縁基板とは反対側の表面に接続され、銀を含む接続部とを含む電極と、
前記パッドの前記絶縁基板とは反対側の表面に設けられ、前記接続部とは組成が異なり、銀を含む膜と、
を備え、
前記接続部は前記パッドを縁部から挟み込むように被覆し、
前記パッドの厚さは0.2μm以上1.2μm以下であり、前記接続部の厚さは0.2μm以上1.2μm以下であり、前記膜の厚さは2μm以上10μm以下である
、
サーマルプリントヘッド。
【請求項3】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の表面に設けられた金を含むパッドと、前記絶縁基板の表面に設けられ、前記パッドの前記絶縁基板とは反対側の表面に接続され、銀を含む接続部とを含む電極と、
前記パッドの前記絶縁基板とは反対側の表面に設けられ、前記接続部とは組成が異なり、銀を含む膜と、
を備え、
前記接続部は前記パッドを縁部から挟み込むように被覆し、
前記電極は、前記絶縁基板の表面に設けられた複数の個別電極と、前記複数の個別電極の各々の間に配置された共通電極とを含み、
前記複数の個別電極の表面と前記共通電極の表面とを跨るように設けられた発熱抵抗体 と、
前記絶縁基板の上に搭載され、前記複数の個別電極と接続された駆動ICと、
をさらに備え、
前記駆動ICは複数のバンプを介して前記電極と接続されており、前記複数のバンプのうちのいずれかのバンプは前記複数の個別電極とそれぞれ接続され、
前記接続部は前記複数のバンプのうち前記複数の個別電極が接続されたバンプとは異なるバンプと接続されている
、
サーマルプリントヘッド。
【請求項4】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の表面に設けられた金を含むパッドと、前記絶縁基板の表面に設けられ、前記パッドの前記絶縁基板とは反対側の表面に接続され、銀を含む接続部とを含む電極と、
前記パッドの前記絶縁基板とは反対側の表面に設けられ、前記接続部とは組成が異なり、銀を含む膜と、
を備え、
前記接続部は前記パッドを縁部から挟み込むように被覆し、
前記膜ははんだを介してコネクタ又はフレキシブル基板と接続される
、
サーマルプリントヘッド。
【請求項5】
前記パッドは、厚さ方向から見て、前記接続部で被覆された被覆部と、前記接続部で被覆されていない非被覆部とを有する、請求項
2乃至4のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
前記膜は白金、パラジウム及びビスマスからなる群より選択される少なくとも一種の元素をさらに含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
前記膜は、銀と白金との合金、銀とパラジウムとの合金、又は酸化ビスマスを含有する銀により形成されている、請求項1~
6のいずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
前記電極は、前記絶縁基板の表面に設けられた複数の個別電極と、前記複数の個別電極の各々の間に配置された共通電極とを含み、
前記複数の個別電極の表面と前記共通電極の表面とを跨るように設けられた発熱抵抗体をさらに備える、請求項
1、2、4のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
前記絶縁基板の上に搭載され、前記複数の個別電極と接続された駆動ICをさらに備える、請求項
8に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項10】
前記駆動ICは複数のバンプを介して前記電極と接続されており、前記複数のバンプのうちのいずれかのバンプは前記複数の個別電極とそれぞれ接続されている、請求項
9に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項11】
前記接続部は前記複数のバンプのうち前記複数の個別電極が接続されたバンプとは異なるバンプと接続されている、請求項
10に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項12】
前記膜は厚さ方向から見て前記パッドよりも面積が小さくなるように設けられている、請求項1~11のいずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項13】
前記絶縁基板は、セラミックス層と、前記セラミックス層の上に設けられたグレーズ層とを含む、請求項1~12いずれか一項に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項14】
絶縁基板の表面に設けられた金を含むパッドと接するように前記絶縁基板の表面及び前記パッドの前記絶縁基板とは反対側の表面に銀を含む層を形成する工程と、
前記層と接する前記パッドの厚さ方向から見た全表面及び縁部全体を被覆するように少なくとも前記層の一部の表面にレジストを形成する工程と、
前記レジストが表面に形成された銀を含む層をエッチング液でエッチングして前記パッドに接続された銀を含む接続部を形成する工程と、
前記接続部の表面のレジストを除去する工程と、
前記パッドの前記絶縁基板とは反対側の表面に、前記接続部とは組成が異なり、銀を含む膜を形成する工程と、
を含む、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記層は前記パッドの一部を覆うように形成される、請求項14に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記層は前記パッド全体を覆うように形成される、請求項14に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サーマルプリントヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリントヘッドは、絶縁基板上に形成された共通電極及び個別電極の一対の電極間に発熱抵抗体を電気的に接続し、発熱抵抗体に電流を通すことにより発生する熱で感熱記録紙などに印字するサーマルプリンタの主要部品である。従来、サーマルプリントヘッドの共通電極及び個別電極並びにコネクタを接続するパッドを含む電極には、金ペーストが使用されてきた。
【0003】
しかしながら、金ペーストに含まれる金は高価であるため、金ペーストに代えて安価で電気伝導性が高い銀を使用することが提案されている。特許文献1には、絶縁基板上に、銀粒子の表面にパラジウムの被膜が形成され、金属元素成分が銀80~99.5重量%、パラジウム0.5~20重量%である導体粒子を含有する導体ペーストを用いて回路を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、銀の導体ペーストで銀の電極を形成した場合、形成される電極の用途によってはサーマルプリントヘッドの要求特性が十分に満たされない場合もある。一方、特定の箇所に金の電極を形成し、金の電極と接するように銀の電極を形成すると、フォトリソグラフィで銀をエッチングする際に銀の導体パターンが過剰にエッチングされるオーバーエッチングが生じ、電極が目的とするよりも細く形成される場合がある。銀は凝集しやすく、電極にピンホールが生じやすいため、上記のような銀の電極に例えば熱が加わることにより、電極が断線するおそれがある。
【0006】
本開示は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本開示の目的は、金の電極及び銀の電極を用いた場合であっても銀の電極の断線を抑制可能なサーマルプリントヘッド及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係るサーマルプリントヘッドは、絶縁基板と、絶縁基板の表面に設けられた金を含むパッドと、絶縁基板の表面に設けられ、パッドの絶縁基板とは反対側の表面に接続され、銀を含む接続部とを含む電極とを備える。サーマルプリントヘッドは、パッドの絶縁基板とは反対側の表面に設けられ、接続部とは組成が異なり、銀を含む膜を備える。接続部はパッドを縁部から挟み込むように被覆している。
【0008】
本開示の別の態様に係るサーマルプリントヘッドの製造方法は、絶縁基板の表面に設けられた金を含むパッドと接するように絶縁基板の表面及びパッドの絶縁基板とは反対側の表面に銀を含む層を形成する工程を含む。上記方法は、上記層と接するパッドの厚さ方向から見た全表面及び縁部全体を被覆するように少なくとも上記層の一部の表面にレジストを形成する工程を含む。上記方法は、レジストが表面に形成された銀を含む層をエッチング液でエッチングしてパッドに接続された銀を含む接続部を形成する工程を含む。上記方法は、接続部の表面のレジストを除去する工程を含む。上記方法は、パッドの絶縁基板とは反対側の表面に、接続部とは組成が異なり、銀を含む膜を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、金の電極及び銀の電極を用いた場合であっても銀の電極の断線を抑制可能なサーマルプリントヘッド及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す平面図である。
【
図3】
図2の発熱抵抗体の領域を拡大した断面図である。
【
図4】
図1の電極の一部の領域を拡大した平面図である。
【
図7】
図6のVII-VII線に沿う断面図である。
【
図8】別の実施形態に係る金パッドの領域を示す平面図である。
【
図9】金パッドを形成する例について説明する平面図である。
【
図10】金パッドと接するように銀層を形成する例について説明する平面図である。
【
図11】金パッドの厚さ方向から見た全表面及び縁部を被覆するように少なくとも銀層の一部の表面にレジストを形成する例について説明する平面図である。
【
図12】レジストが形成された銀層をエッチング液でエッチングして接続部を形成する例について説明する平面図である。
【
図13】導体パターンの表面に残ったレジストを除去した後の状態の例を示す平面図である。
【
図14】銀層が金パッド全体を覆うように形成される例について説明する平面図である。
【
図15】導体パターンの表面に残ったレジストを除去した後の状態の例を示す平面図である。
【
図16】銀層と接する金パッドが露出するようにレジストを形成する比較例について説明する平面図である。
【
図17】導体パターンの表面に残ったレジストを除去した後の比較例の状態を示す平面図である。
【
図18】第1帯状部の厚さ方向から見た全表面及び縁部を被覆するように少なくとも銀を含む層の一部の表面にレジストを形成する例について説明する平面図である。
【
図19】導体パターンの表面に残ったレジストを除去した後の状態の例を示す平面図である。
【
図20】第2連結部及び第2帯状部並びに銀層と接する第1帯状部の厚さ方向から見た全表面及び縁部を被覆するように少なくとも銀層の一部の表面にレジストを形成する例について説明する平面図である。
【
図21】導体パターンの表面に残ったレジストを除去した後の状態の例を示す平面図である。
【
図22】銀層と接する第1帯状部が露出するようにレジストを形成する比較例について説明する平面図である。
【
図23】導体パターンの表面に残ったレジストを除去した後の比較例の状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るサーマルプリントヘッド及びその製造方法について、図面を参照して説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各構成部品の厚みと平面寸法との関係等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
[サーマルプリントヘッド]
図1~
図4を用いて本実施形態に係るサーマルプリントヘッド1について説明する。
図1は、本実施形態に係るサーマルプリントヘッド1を示す平面図である。
図2は、
図1のII-II線に沿う断面図である。
図3は、
図2の発熱抵抗体40の領域を拡大した断面図である。
図4は、
図1の電極20の一部の領域を拡大した平面図である。図中のx、y及びzは、主走査方向x、副走査方向y及び厚さ方向zを表しており、これらの方向はそれぞれ直行している。
図1~
図4に示すように、サーマルプリントヘッド1は、絶縁基板10、電極20、発熱抵抗体40、保護層45、ヒートシンク50、駆動IC51、封止樹脂52、コネクタ53及び銀を含む膜(銀膜70)を備える。なお、平面図では保護層45を省略して示している。
【0013】
絶縁基板10は、主走査方向xを長手方向とし、副走査方向yを短手方向とする矩形状の絶縁性の基板である。絶縁基板10は、絶縁性を有していればよく、例えばセラミックス層11とグレーズ層12とを含んでいてもよい。これにより、発熱抵抗体40から発せられる熱の蓄熱性と放熱性のバランスに優れたサーマルプリントヘッド1を得ることができる。
【0014】
セラミックス層11は、例えばアルミナを主成分とするセラミックスを含んでいる。なお、主成分とは、セラミックス層11におけるセラミックスの含有量が50質量%以上であることを意味する。セラミックス層11におけるセラミックスの含有量は、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。セラミックス層11の厚さは、例えば0.6mm~1mmである。
【0015】
グレーズ層12はセラミックス層11の上に設けられている。グレーズ層12はセラミックス層11の一方の表面を覆っている。グレーズ層12は、発熱抵抗体40で生じた熱の一部を蓄える。グレーズ層12は、ガラスを主成分として含んでいる。なお、主成分とは、グレーズ層12におけるガラスの含有量が50質量%以上であることを意味する。グレーズ層12におけるガラスの含有量は、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。ガラスとしては、例えばSiO2-BaO-Al2O3-SnO-ZnO系の非晶質ガラスが挙げられる。グレーズ層12の厚さは、例えば100μm~200μmである。
【0016】
電極20は、絶縁基板10の表面に設けられ、発熱抵抗体40に電流を通すための導電経路を構成している。また、電極20は、
図4及び
図5に示すように、複数の個別電極21と、1つの共通電極26と、複数の金を含むパッド(複数の金パッド30)と、複数の接続部32とを含んでいる。個別電極21の厚さは例えば0.2μm以上1.2μm以下であり、共通電極26の厚さは例えば0.2μm以上1.2μm以下である。
【0017】
複数の個別電極21は絶縁基板10の表面に設けられている。複数の個別電極21は、主走査方向xに隙間を空けて並んでいる。複数の個別電極21は、駆動IC51と電気的に接続されており、絶縁基板10の上において各駆動IC51に対応して束となって配置されている。複数の個別電極21の各々は、副走査方向yにおいて駆動IC51から発熱抵抗体40に向かって延びている。複数の個別電極21の各々は、ボンディングパッド22、第1連結部23及び第1帯状部24を有する。
【0018】
複数のボンディングパッド22の各々は、駆動IC51と電気的に接続されている。複数のボンディングパッド22の各々は、副走査方向yに交互にずれて、主走査方向xに沿って並んでいる。第1連結部23は、副走査方向yに沿って延びて、第1帯状部24とボンディングパッド22とを連結している。第1帯状部24は、副走査方向yにおいて、第1連結部23に対してボンディングパッド22とは反対側に配置されている。複数の第1帯状部24の各々は、副走査方向yに沿って矩形状に延びている。複数の第1帯状部24は、櫛の歯のように、主走査方向xに沿って隙間を空けて等間隔に並んでいる。
【0019】
共通電極26は、複数の個別電極21の各々の間に配置される。共通電極26は、第2連結部27と、複数の第2帯状部28とを有する。第2連結部27は、発熱抵抗体40に対して駆動IC51とは反対側に配置されている。第2連結部27は、発熱抵抗体40と平行に、主走査方向xに沿って矩形状に延びている。複数の第2帯状部28の各々は、第2連結部27と接続されており、第2連結部27から発熱抵抗体40に向かって、副走査方向yに沿って矩形状に延びている。複数の第2帯状部28の各々は、複数の個別電極21の各々の間に配置される。複数の第2帯状部28は、櫛の歯のように、主走査方向xに沿って隙間を空けて等間隔に並んでいる。複数の第2帯状部28の各々は、主走査方向xにおいて隣り合う2つの第1帯状部24の間に配置されている。
【0020】
発熱抵抗体40は、複数の個別電極21の表面と共通電極26の表面とを跨るように設けられている。具体的には、発熱抵抗体40は、複数の第1帯状部24及び複数の第2帯状部28に跨るように設けられている。複数の個別電極21及び共通電極26は、厚さ方向zにおいて絶縁基板10と発熱抵抗体40との間に配置されている。発熱抵抗体40の電気抵抗率は、電極20の電気抵抗率よりも大きい。そのため、特定の個別電極21と、個別電極21に隣接する共通電極26との間に、発熱抵抗体40を介して電流が流れてジュール熱が発生することにより、電流が流れた発熱抵抗体40の特定の部分が選択的に発熱する。発熱抵抗体40は、例えば酸化ルテニウム(RuO2)粒子を含有している。発熱抵抗体40は、グレーズ層12及び保護層45に対する密着性を向上させるためにガラスフリットを含有していてもよい。発熱抵抗体40の厚さは、例えば0.05μm以上10μm以下である。
【0021】
保護層45は、
図2及び
図3に示すように、絶縁基板10の表面に接している。保護層45は、電極20の一部及び発熱抵抗体40を覆って異物などから保護している。保護層45は、上述したようなグレーズ層12と同様の材料により形成されていてもよい。
【0022】
ヒートシンク50は、
図2に示すように、絶縁基板10に取り付けられており、絶縁基板10からの熱を放散させる機能を有する。ヒートシンク50は、例えば、アルミニウムなどのような熱伝導率の高い金属を用いることができる。
【0023】
駆動IC51は絶縁基板10の上に搭載され、複数の個別電極21と接続されている。駆動IC51は、フリップチップボンディングによって、複数のバンプを介して電極20と接続されており、複数のバンプのうちのいずれかのバンプは複数の個別電極21とそれぞれ接続されていてもよい。また、駆動IC51は、フリップチップボンディングによって、複数のバンプを介して複数の接続部32とそれぞれ電気的に接続されていてもよい。なお、駆動IC51は、ワイヤボンディングによって金配線を介して複数の個別電極21の各々及び複数の接続部32の各々に接続されていてもよい。駆動IC51は、対応する個別電極21に選択的に電流を通すことにより、発熱抵抗体40の特定の部分を任意に発熱させる。駆動IC51は、保護のために封止樹脂52で覆われている。
【0024】
コネクタ53は、絶縁基板10に設けられており、外部接続機器からサーマルプリントヘッド1へ電力を供給したり、駆動IC51を制御したりするために用いられる外部接続用部材である。コネクタ53は、金パッド30及び接続部32を介して駆動IC51と電気的に接続される。なお、外部接続用部材として、コネクタ53に代えてフレキシブル基板を用いて外部接続機器からサーマルプリントヘッド1へ電力を供給したり、駆動IC51を制御したりしてもよい。
【0025】
図5に示すように、複数の接続部32は主走査方向xに沿って並んでいる。接続部32は副走査方向yに延びている。接続部32は複数のバンプのうち複数の個別電極21が接続されたバンプとは異なるバンプと接続されている。接続部32の一端は駆動IC51と接続されており、接続部32のもう一端は略矩形状の金パッド30と接続されている。金パッド30の形状は矩形に限定されず、円形又は多角形などであってもよい。
【0026】
図5~
図7に示すように、金パッド30は、絶縁基板10の表面に設けられている。金パッド30の上側には銀膜70及びはんだを介してコネクタ53のような外部接続用部材が接続される。金パッド30は金を含んでいる。金パッド30が金を含んでいることで、はんだ付けの際に金属成分がグレーズ層12に拡散してグレーズ層12が脆弱になることを抑制することができる。その結果、絶縁基板10と外部接続用部材との接続を強固にすることができる。金パッド30は金を50質量%以上含んでいてもよく、60質量%以上含んでいてもよく、70質量%以上含んでいてもよく、80質量%以上含んでいてもよく、90質量%以上含んでいてもよい。金パッド30の厚さは例えば0.2μm以上1.2μm以下である。金パッド30は、厚さ方向zから見て、接続部32で被覆された被覆部33と、接続部32で被覆されていない非被覆部34と有している。すなわち、被覆部33は接続部32が積層されて重なる領域であり、非被覆部34は接続部32が積層されない領域である。
【0027】
接続部32は、絶縁基板10の表面に設けられ、金パッド30の絶縁基板10とは反対側の表面(金パッド30の上面)に接続されている。接続部32は銀を含んでいる。接続部32は銀を50質量%以上含んでいてもよく、60質量%以上含んでいてもよく、70質量%以上含んでいてもよく、80質量%以上含んでいてもよく、90質量%以上含んでいてもよい。接続部32の厚さは例えば0.2μm以上1.2μm以下である。接続部32は銀ペーストを印刷及び焼成して形成することができる。接続部32は金パッド30の上面に設けられることで、接続部32と金パッド30とが電気的に接続される。また、接続部32が絶縁基板10の上面に設けられることで金パッド30を流れる電流を例えば駆動IC51に流すことができる。
【0028】
接続部32は金パッド30を縁部から挟み込むように被覆している。金パッド30の縁部のうち、被覆部33の縁部35全体が接続部32で覆われていてもよい。すなわち、金パッド30の縁部のうち、被覆部33の縁部35は露出しないように接続部32で覆われていてもよい。また、接続部32の縁部の一辺は金パッド30の縁部と交わる2つの交点を有していてもよい。接続部32が金パッド30を縁部から挟み込むように被覆することによって、接続部32の幅が広くなる。接続部32を形成する銀は金よりも熱によって凝集しやすいため、接続部32の表面を被覆する保護層45を形成する際の熱、及び接続部32への通電によるジュール熱などによってピンホールが発生し、接続部32が断線するおそれがある。しかしながら、接続部32の幅が広くなるため、ピンホールが発生しても、断線に至る可能性を低減することができる。
【0029】
電極20は、後述する金の導体パターン110と、銀の導体パターン140とを含んでいる。金の導体パターン110は、例えば、第1帯状部24、第2連結部27、第2帯状部28及び金パッド30を含んでいる。銀の導体パターン140は、例えば、電極20のうちの上記以外の部分を含んでいる。具体的には、銀の導体パターン140は、ボンディングパッド22、第1連結部23及び接続部32を含んでいる。
【0030】
銀膜70は、金パッド30の絶縁基板10とは反対側の表面(金パッド30の上面)に設けられている。銀膜70ははんだ付けされるために用いられ、銀膜70は、例えば、はんだを介してコネクタ53又はフレキシブル基板などと接続される。銀膜70は、コネクタ53をはんだで接続する際に、はんだに金パッド30の金が溶出することを抑制することができる。銀膜70の厚さは例えば2μm以上10μm以下である。銀膜70の厚さが上記の範囲であると、はんだ付けの際に金の溶出を十分に抑制することができる。銀膜70の厚さは3μm~5μmであってもよい。銀膜70は、金の溶出を抑制することができればよく、非被覆部34の表面の少なくとも一部を覆っていればよい。すなわち、銀膜70は、非被覆部34の表面全体を覆ってもよく、表面の一部を覆ってもよい。銀膜70は厚さ方向zから見て金パッド30よりも面積が小さくなるように設けられていてもよい。
【0031】
銀膜70は、接続部32とは組成が異なっている。銀膜70の表面にははんだが接着されるため、銀膜70ははんだ濡れ性の高い材料により形成されていてもよい。銀膜70は、銀を含んでいればよく、銀に加え、例えば白金、パラジウム及びビスマスからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含んでいてもよい。このような銀膜70は、はんだ濡れ性を向上させることができる。銀膜70は、具体的には、銀と白金との合金、銀とパラジウムとの合金、又は酸化ビスマスを含有する銀により形成されていてもよい。銀膜70は保護層45との接着性を向上させるため、ガラスを含んでいてもよい。銀膜70が酸化ビスマスを含んでいる場合には、酸化ビスマスは、銀膜70の表面にガラスが析出するのを抑制する。その結果、銀膜70がはんだ付けの際にはんだに溶け込むため、銀膜70のはんだ濡れ性が向上する。
【0032】
なお、
図5~
図7の形態では金パッド30の一部が接続部32で被覆され、金パッド30が被覆部33と非被覆部34とを有している例について説明したが、
図8に示すように、金パッド30全体が厚さ方向zから見て接続部32で被覆されていてもよい。すなわち、金パッド30が非被覆部34を有していなくてもよい。したがって、金パッド30の全表面は絶縁基板10と接続部32とで囲われている。
【0033】
以上説明した通り、本実施形態に係るサーマルプリントヘッド1は、絶縁基板10を備えている。サーマルプリントヘッド1は、絶縁基板10の表面に設けられた金を含むパッド(金パッド30)と、絶縁基板10の表面に設けられ、金パッド30の絶縁基板10とは反対側の表面に接続され、銀を含む接続部32とを含む電極20を備えている。サーマルプリントヘッド1は、金パッド30の絶縁基板10とは反対側の表面に設けられ、接続部32とは組成が異なり、銀を含む膜(銀膜70)を備えている。接続部32は金パッド30を縁部から挟み込むように被覆している。
【0034】
本実施形態に係るサーマルプリントヘッド1では、金パッド30と銀を含む接続部32とを備えていることから、金だけで電極20を形成した場合と比較し、高価な金の使用量を低減することができる。また、接続部32は金パッド30を縁部から挟み込むように被覆しているため、接続部32の幅が広くなっている。接続部32を形成する銀は金よりも熱によって凝集しやすい傾向があるが、接続部32の幅が広くなっているため、銀が凝集してピンホールが発生するおそれを低減することができる。したがって、本実施形態に係るサーマルプリントヘッド1によれば、金の電極20である金パッド30及び銀の電極20である接続部32を用いた場合であっても銀の電極20の断線を抑制することができる。
【0035】
[サーマルプリンタ]
本実施形態に係るサーマルプリンタは上述したサーマルプリントヘッド1を備えている。上述の通り、サーマルプリントヘッド1における銀の電極20の断線が抑制されていることから、サーマルプリントヘッド1を備えるサーマルプリンタも断線が抑制される。したがって、信頼性の高いサーマルプリンタを提供することができる。
【0036】
図2に示すように、サーマルプリントヘッド1は、サーマルプリンタのプラテンローラ72と対向するように配置される。サーマルプリントヘッド1の発熱抵抗体40は、プラテンローラ72に保護層45を介して対向している。そして、発熱抵抗体40を覆う保護層45とプラテンローラ72との間には、感熱紙などの記録媒体71が挟み込まれている。サーマルプリンタの作動時は、プラテンローラ72が回転することにより、発熱抵抗体40とプラテンローラ72との間に記録媒体71が一定速度で送られる。発熱抵抗体40の任意の部分を発熱させ、この熱が記録媒体71に伝わることにより、記録媒体71が印字される。
【0037】
[サーマルプリントヘッドの製造方法]
次に、本実施形態のサーマルプリントヘッド1の製造方法について説明する。サーマルプリントヘッド1の製造方法は、絶縁基板10の準備工程と、金を含む導体パターン(金の導体パターン110)形成工程と、銀を含む導体パターン(銀の導体パターン140)形成方法とを含んでいる。
【0038】
(絶縁基板の準備工程)
絶縁基板10の準備工程では、絶縁基板10を準備する。絶縁基板10は、例えば上述したように、セラミックス層11と、セラミックス層11の上に設けられたグレーズ層12とを備えていてもよい。セラミックス層11は上述したものを使用することができる。グレーズ層12は、公知の方法で形成することができ、例えばガラスのペーストをセラミックス層11の表面に印刷及び焼成することにより形成することができる。
【0039】
次に、絶縁基板10の表面に金の導体パターン110と銀の導体パターン140とを形成する。金の導体パターン110及び銀の導体パターン140の形成方法については後述する。
【0040】
金の導体パターン110及び銀の導体パターン140を形成した後、共通電極26の第2連結部27の表面に、共通電極26と電気的に接続される補助電極を形成してもよい。補助電極は大きな面積を有していることから、電流路を拡大し、電圧降下を抑制することができる。したがって、発熱抵抗体40が広範囲に発熱する場合にも、十分な電流を流すことができ、印字品質の低下を抑制することができる。補助電極は、例えば銀粒子を含む導電性ペーストを共通電極26の表面に印刷及び焼成することにより形成することができる。導電性ペーストには、ガラスフリットが含まれていてもよい。
【0041】
金の導体パターン110及び銀の導体パターン140を形成した後、金の導体パターン110の絶縁基板10とは反対側の表面に銀膜70を形成してもよい。銀膜70は例えば銀粒子を含む導電性ペーストを金パッド30の表面に印刷及び焼成することにより形成することができる。導電性ペーストには、ガラスフリットが含まれていてもよい。
【0042】
発熱抵抗体40は、導電性ペーストを、個別電極21及び共通電極26に接するように印刷及び焼成することにより形成する。導電性ペーストは、電気抵抗率が比較的高い酸化ルテニウム粒子とガラスフリットとを含有していてもよい。
【0043】
保護層45は、ガラスのペーストを、絶縁基板10、電極20及び発熱抵抗体40を覆うように厚膜印刷及び焼成することにより形成することができる。
【0044】
駆動IC51は、絶縁基板10の表面に取り付けられる。具体的には、駆動IC51を絶縁基板10の表面にフリップチップボンディングにより搭載し、駆動IC51と個別電極21とを電気的に接続することにより、駆動IC51を絶縁基板10に実装することができる。その後、駆動IC51を覆うように封止樹脂52で封止する。最後に、絶縁基板10にコネクタ53及びヒートシンク50を取り付けることによって、サーマルプリントヘッド1が得られる。
【0045】
次に、金の導体パターン110形成工程と、銀の導体パターン140の形成工程について説明する。
【0046】
(金の導体パターン形成工程)
本実施形態では、金の導体パターン110が金パッド30である例について
図9~
図13を用いて説明する。
図9に示すように、金の導体パターン形成工程では、絶縁基板10の表面に金の導体パターン110を形成する。
【0047】
金の導体パターン110は、印刷機で直接印刷してもよく、フォトリソグラフィで形成してもよい。直接印刷する場合、印刷機は、グラビアオフセット印刷機、スクリーン印刷機又はインクジェット印刷機などを使用して金レジネートペーストを印刷し、金の導体パターン110を形成することができる。
【0048】
フォトリソグラフィを用いる場合、金を含む層(金層)の印刷、焼成、フォトレジスト塗布、マスキング、露光、現像、エッチング及びレジスト除去などの工程により金の導体パターン110を形成することができる。
【0049】
金層は、スクリーン印刷機などの印刷機で絶縁基板10の表面に金レジネートペーストを印刷及び焼成することにより形成することができる。印刷及び焼成の工程は、1回のみ実施してもよく、印刷及び焼成の工程を2回以上繰り返してもよい。
【0050】
金層の表面にはフォトレジストが塗布される。フォトレジストは、ポジ型レジストであってもよく、ネガ型レジストであってもよい。塗布したフォトレジストは、必要に応じて加熱などにより溶媒を除去してもよい。フォトレジストの塗布方法は特に限定されず、ロールコーター、スプレーコーター、及びスピンコーターなど公知のコーターを用いて塗布することができる。
【0051】
金層の表面に形成されたレジストは、フォトマスクでマスキングされる。金層の表面に形成されたレジストは、マスキングを通じて紫外線が照射される。紫外線が照射されて変質したレジストは、現像液によって溶解され、パターニングされたレジストが金層の表面に形成される。現像液としては、例えば水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性水溶液を使用することができる。
【0052】
パターニングされたレジストが表面に形成された金層がエッチング液でエッチングされると、金の導体パターン110が形成される。エッチング方法は、例えばシャワー法及びディップ法などの公知の方法を使用することができる。
【0053】
エッチング液は、金をエッチングすることができれば特に限定されないが、ヨウ素系エッチング液、王水系エッチング液、及びシアン系エッチング液などを使用することができる。ヨウ素系エッチング液としては、例えばヨウ素及びヨウ化カリウムの混合液が挙げられる。王水系エッチング液としては、例えば塩酸及び硝酸の混合液が挙げられる。シアン系エッチング液としては、例えばシアン化ナトリウム及び過酸化水素の混合液が挙げられる。これらの中でも、液の扱いが容易であり、エッチング速度も良好なことから、エッチング液はヨウ素系エッチング液が好ましい。
【0054】
金の導体パターン110の表面に残ったレジストは、水酸化ナトリウム水溶液などの剥離液で溶解して除去する。これにより、金の導体パターン110が形成される。
【0055】
(銀の導体パターン形成工程)
次に、銀の導体パターン140を形成する方法について、
図10~
図13を用いて説明する。銀の導体パターン140を形成する工程は、銀を含む層(銀層120)を形成する工程、レジストを形成する工程、エッチングする工程及びレジスト130を除去する工程を含んでいる。
【0056】
図10に示すように、銀層120を形成する工程では、絶縁基板10の表面に設けられた金の導体パターン110と接するように絶縁基板10の表面及び金の導体パターン110の絶縁基板10とは反対側の表面(上面)に銀層120を形成する。本実施形態に係る方法では、
図10に示すように、銀層120は金パッド30の一部を覆うように形成される。
【0057】
銀層120は、銀を含んでおり、スクリーン印刷機などの印刷機で絶縁基板10の表面に銀ペーストを印刷及び焼成することにより形成することができる。この際、銀層120は、金の導体パターン110と接するように形成される。印刷及び焼成の工程は、1回のみ実施してもよく、印刷及び焼成の工程を2回以上繰り返してもよい。
【0058】
図11に示すように、レジスト130を形成する工程では、銀層120と接する金の導体パターン110の厚さ方向zから見た全表面及び縁部全体を被覆するように少なくとも銀層120の一部の表面にレジスト130を形成する。すなわち、銀層120と接する金の導体パターン110が露出しないように、銀層120の一部、絶縁基板10の一部及び金パッド30の表面にレジスト130を形成する。具体的には、金の導体パターン110である金パッド30の露出部全体が覆われるようにレジスト130でマスキングするとともに、銀の導体パターン140である接続部32が形成されるように銀層120をレジスト130でマスキングする。後述するエッチング工程でエッチング液が接触しないように、金の導体パターン110の上面だけでなく、金の導体パターン110の縁部全体もレジスト130でマスキングする。
【0059】
レジスト130の形成に用いられるフォトレジストは、ポジ型レジストであってもよく、ネガ型レジストであってもよい。塗布したフォトレジストは、必要に応じて加熱などにより溶媒を除去してもよい。フォトレジストの塗布方法は特に限定されず、ロールコーター、スプレーコーター、スピンコーターなど公知のコーターを用いて塗布することができる。
【0060】
銀層120の表面にフォトレジストを塗布して形成されたレジスト層は、フォトマスクでマスキングされる。銀層120の表面に形成されたレジスト層は、マスキングを通じて紫外線が照射される。紫外線が照射されて変質したレジスト層は、現像液によって溶解され、パターニングされたレジスト130が銀層120の表面に形成される。現像液としては、例えば水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性水溶液を使用することができる。
【0061】
図12に示すように、銀の導体パターン140を形成する工程では、レジスト130が表面に形成された銀層120をエッチング液でエッチングして金の導体パターン110に接続された銀の導体パターン140を形成する。レジスト130が形成された銀層120は、エッチング液でエッチングされることによって銀の導体パターン140が形成される。エッチングは、例えばシャワー法及びディップ法などの公知の方法を使用することができる。エッチング液は、銀をエッチングすることができれば特に限定されないが、硝酸、塩酸及び酢酸の混酸などを使用することができる。
【0062】
図13に示すように、レジスト130を除去する工程では、金の導体パターン110及び銀の導体パターン140の表面のレジスト130を除去する。金の導体パターン110及び銀の導体パターン140の表面に残ったレジスト130は、水酸化ナトリウム水溶液などの剥離液で溶解して除去してもよい。上述のように、金パッド30はレジスト130で被覆されてエッチング液に触れないことから、金の導体パターン110である金パッド30と、銀の導体パターン140である接続部32とでエッチング時に局部電池反応が生じにくい。したがって、金よりもイオン化傾向の小さい銀で形成された接続部32がオーバーエッチングされることを抑制することができる。
【0063】
銀膜70を形成する工程では、金パッド30の絶縁基板10とは反対側の表面(金パッド30の上面)に、接続部32とは組成が異なり、はんだ付けされるための銀膜70を形成する。銀膜70は、銀ペーストを印刷及び焼成することにより形成してもよい。銀ペーストは、例えば銀粒子及び樹脂成分を含んでいてもよい。
【0064】
次に、別の実施形態に係る銀の導体パターン140の形成方法について
図14及び
図15を用いて説明する。
図14は、銀層120が金パッド30全体を覆うように形成される例について説明する平面図である。
図15は、導体パターンの表面に残ったレジスト130を除去した後の状態の例を示す平面図である。本実施形態に係る方法では、
図14に示すように、銀層120は、金パッド30全体を覆うように形成される以外は、上記実施形態と同様である。
【0065】
このように銀層120を形成した場合であっても、銀層120と接する金パッド30の厚さ方向zから見た全表面及び縁部全体を被覆するように銀層120の一部の表面にレジスト130が形成される。このようにマスキングした場合、金パッド30がレジスト130で覆われてエッチング液に触れない。そのため、
図15に示すように、金の導体パターン110である金パッド30と、銀の導体パターン140である接続部32とでエッチング時に局部電池反応が生じにくい。したがって、金よりもイオン化傾向の小さい銀で形成された接続部32がオーバーエッチングされることを抑制することができる。
【0066】
次に、比較例に係る銀の導体パターン140の形成方法について
図16及び
図17を用いて説明する。
図16は、銀層320と接する金の導体パターン310が露出するようにレジスト330を形成する比較例について説明する平面図である。
図17は、金の導体パターン310である金パッド230及び銀の導体パターン340である接続部232の表面に残ったレジスト330を除去した後の比較例の状態を示す平面図である。
【0067】
図16に示すように、銀層320は、絶縁基板210の表面に設けられた金パッド230の一部を覆うように形成される。比較例に係る方法では、接続部232が形成されるように銀層320をレジスト330でマスキングするが、金の導体パターン310である金パッド230の一部がレジスト330でマスキングされていない。このようにマスキングした場合には、金パッド230がエッチング工程においてエッチング液に触れ、金の導体パターン310である金パッド230と銀の導体パターン340である接続部232とで局部電池反応が生じやすい。そのため、
図17に示すように、接続部232がオーバーエッチングされてレジスト330よりも面積の小さい銀の導体パターン340が形成されやすい。
【0068】
次に、金の導体パターン110が個別電極21及び共通電極26である例について
図18及び
図19を用いて説明する。具体的には、金の導体パターン110が第1帯状部24、第2連結部27及び第2帯状部28であり、銀の導体パターン140が第1連結部23である例について説明する。本実施形態に係る方法では、
図18に示すように、絶縁基板10の表面に設けられた第1帯状部24と接するように絶縁基板10及び第1帯状部24の表面に銀層120が形成される。銀層120は、第1帯状部24の第2連結部27とは反対側の一端が接するように形成される。次に、第1帯状部24の厚さ方向zから見た全表面及び縁部全体を被覆するように少なくとも銀層120の一部の表面にレジスト130が形成される。具体的には、銀層120の一部、絶縁基板10の一部及び第1帯状部24の表面にレジスト130が形成される。次に、レジスト130が表面に形成された銀層120をエッチング液でエッチングして第1帯状部24に接続された第1連結部23が形成される。上記のようにマスキングした場合、第1帯状部24がレジスト130で覆われてエッチング液に触れない。そのため、
図19に示すように、金の導体パターン110である第1帯状部24と、銀の導体パターン140である第1連結部23とでエッチング時に局部電池反応が生じにくい。したがって、金よりもイオン化傾向の小さい銀で形成された第1連結部23がオーバーエッチングされることを抑制することができる。なお、金の導体パターン110である第2連結部27及び複数の第2帯状部28は銀層120と接していないため、局部電池反応には関与しない。
【0069】
次に、別の実施形態に係る銀の導体パターン140の形成方法について
図20及び
図21を用いて説明する。
図20は、第2連結部27及び第2帯状部28並びに銀層120と接する第1帯状部24の厚さ方向zから見た全表面及び縁部全体を被覆するように少なくとも銀層120の一部の表面にレジスト130を形成する例について説明する平面図である。
図21は、金の導体パターン110及び銀の導体パターン140の表面に残ったレジスト130を除去した後の状態の例を示す平面図である。
【0070】
図20では、
図18のように第1帯状部24だけでなく、第2連結部27及び第2帯状部28の表面にもレジスト130が形成される。このようにマスキングした場合、第1帯状部24がレジスト130で覆われてエッチング液に触れない。そのため、
図21に示すように、金の導体パターン110の一部である第1帯状部24と、銀の導体パターン140の一部である第1連結部23とでエッチング時に局部電池反応が生じにくい。したがって、金よりもイオン化傾向の小さい銀で形成された第1連結部23がオーバーエッチングされることを抑制することができる。
【0071】
次に、比較例に係る銀の導体パターン340の形成方法について
図22及び
図23を用いて説明する。
図22は、銀層320と接する金の導体パターン310が露出するようにレジスト330を形成する比較例について説明する平面図である。
図23は、金の導体パターン310及び銀の導体パターン340の表面に残ったレジスト330を除去した後の比較例の状態を示す平面図である。
【0072】
図22に示すように、銀層320は、第1帯状部224の一部を覆うように形成される。比較例に係る方法では、銀の導体パターン340である第1連結部223が形成されるように銀層320をレジスト330でマスキングするが、金の導体パターン310である第1帯状部224の一部がレジスト330でマスキングされていない。このようにマスキングした場合、第1帯状部224がエッチング工程においてエッチング液に触れ、金の導体パターン310である第1帯状部224と銀の導体パターン340である第1連結部223とで局部電池反応が生じやすい。そのため、
図23に示すように、第1連結部223がオーバーエッチングされやすい。なお、金の導体パターン310である第2連結部227及び複数の第2帯状部228は銀層320と接していないため、局部電池反応には関与しない。
【0073】
以上説明した通り、本実施形態に係るサーマルプリントヘッド1の製造方法は、以下の工程を含む。すなわち、上記方法は、絶縁基板10の表面に設けられた金を含む導体パターン(金の導体パターン110)と接するように絶縁基板10の表面及び金の導体パターン110の絶縁基板10とは反対側の表面に銀を含む層(銀層120)を形成する工程を含む。上記方法は、銀層120と接する金の導体パターン110の厚さ方向zから見た全表面及び縁部全体を被覆するように少なくとも銀層120の一部の表面にレジスト130を形成する工程を含む。上記方法は、レジスト130が表面に形成された銀層120をエッチング液でエッチングして金の導体パターン110に接続された銀を含む導体パターン(銀の導体パターン140)を形成する工程を含む。上記方法は、銀の導体パターン140の表面のレジスト130を除去する工程を含む。
【0074】
本実施形態に係る方法では、金の導体パターン110と銀の導体パターン140とを形成する。これにより、サーマルプリントヘッド1で必要な導体パターンのうち、銀で代替可能な部分を金から置き換えることが可能なため、金の使用量を低減することができ、サーマルプリントヘッド1のコストを低減することができる。
【0075】
しかしながら、金の導体パターン110と電気的に接続されるように銀の導体パターン140を形成すると、銀をエッチングする際に銀が過剰にエッチングされるオーバーエッチングが生じ、電極20が目的とするよりも細く形成される場合がある。この理由は、金及び銀の異種金属の接触によりこれらの金属の電位に差が生じ、イオン化傾向が大きい銀をアノード、イオン化傾向が小さい金をカソード、エッチング液を電解液とする局部電池反応が生じるためであると推定される。銀のエッチング液として例えば硝酸を使用する場合、アノードでは以下の反応式(1)に示すような反応が生じ、カソードでは以下の反応式(2)で示すような反応が生じる。
【0076】
Ag→Ag++e- (1)
HNO3+3H++3e-→2H2O+NO↑ (2)
【0077】
しかしながら、本実施形態に係るサーマルプリントヘッド1の製造方法では、金の導体パターン110の厚さ方向zから見た全表面及び縁部全体を被覆するように少なくとも銀層120の一部の表面にレジスト130を形成する工程を含む。そのため、銀の導体パターン140の縁部がエッチング液と接触した場合であっても、電解液となるエッチング液が金の導体パターン110に接触していないため、局部電池が形成されない。したがって、銀の導体パターン140の縁部のみがエッチング液に接触している状態となり、局部電池が形成されている場合のような起電力が生じないため、銀が過剰にイオン化して溶出することが抑制される。したがって、本実施形態に係るサーマルプリントヘッド1の製造方法によれば、電極20が目的とするよりも細く形成されることを抑制することができるため、金の電極20及び銀の電極20を用いた場合であっても銀の電極20の断線を抑制することができる。
【0078】
なお、銀の導体パターン140が金の導体パターン110のような異種金属と接触せず、銀の導体パターン140だけがエッチングされる場合には、金の導体パターン110と銀の導体パターン140とを接触させた場合程のオーバーエッチングは生じにくい。その理由は、上記のように異種金属が接触しておらず、異なる金属種でカソード及びアノードが形成されないため、銀の表面全体がアノード及びカソードの役割を果たし、上記反応式(1)及び上記反応式(2)が銀の表面で均一に生じるためと推定される。また、アノードとカソードが同じ金属種であり、アノードとカソードの電位差がほとんどないため、異種金属を接触させた場合のように、銀のイオン化が過剰な速さで進行しにくいためと推定される。そのため、単一の金属種をエッチングする場合には、上記のようなオーバーエッチングは生じにくい。
【0079】
なお、金の導体パターン110は金パッド30であり、銀の導体パターン140は接続部32であってもよい。また、サーマルプリントヘッド1の製造方法は、金パッド30の絶縁基板10とは反対側の表面に、接続部32とは組成の異なり、銀を含む膜(銀膜70)を形成する工程を含んでいてもよい。すなわち、上記方法は、絶縁基板10の表面に設けられた金を含むパッド(金パッド30)と接するように絶縁基板10の表面及び金パッド30の絶縁基板10とは反対側の表面に銀を含む層(銀層120)を形成する工程を含んでいてもよい。上記方法は、銀層120と接する金パッド30の厚さ方向zから見た全表面及び縁部全体を被覆するように少なくとも銀層120の一部の表面にレジスト130を形成する工程を含んでいてもよい。上記方法は、レジスト130が表面に形成された銀層120をエッチング液でエッチングして金パッド30に接続された銀を含む接続部32を形成する工程を含んでいてもよい。上記方法は、接続部32の表面のレジスト130を除去する工程を含んでいてもよい。上記方法は、金パッド30の絶縁基板10とは反対側の表面に、接続部32とは組成が異なり、銀を含む膜(銀膜70)を形成する工程を含んでいてもよい。このような方法によれば、上述したサーマルプリントヘッド1を製造することができる。
【0080】
[その他の実施形態]
上述のように、いくつかの実施形態について記載したが、開示の一部をなす論述及び図面は例示的なものであり、限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替の実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。このように、本実施形態は、ここでは記載していない様々な実施形態等を含む。
【符号の説明】
【0081】
1 サーマルプリントヘッド
10 絶縁基板
11 セラミックス層
12 グレーズ層
20 電極
21 個別電極
26 共通電極
30 金パッド(金を含むパッド)
32 接続部
33 被覆部
35 縁部
40 発熱抵抗体
51 駆動IC
53 コネクタ
70 銀膜(銀を含む膜)
110 金の導体パターン
120 銀層(銀を含む層)
130 レジスト
140 銀の導体パターン