IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャープ福山レーザー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-レーザ素子 図1
  • 特許-レーザ素子 図2
  • 特許-レーザ素子 図3
  • 特許-レーザ素子 図4
  • 特許-レーザ素子 図5
  • 特許-レーザ素子 図6
  • 特許-レーザ素子 図7
  • 特許-レーザ素子 図8
  • 特許-レーザ素子 図9
  • 特許-レーザ素子 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】レーザ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H01S5/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020191712
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080571
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】319006036
【氏名又は名称】シャープ福山レーザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】野口 哲寛
(72)【発明者】
【氏名】谷 善彦
(72)【発明者】
【氏名】中津 弘志
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-088441(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087524(WO,A1)
【文献】特開2010-067763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の一方の主面に順番に積層されたn型半導体層、発光層、p型半導体層電極層、及び誘電体層と、を備え、
前記p型半導体層は、ストライプ状に隆起したリッジであって、前記基板と逆側の主面を含む層に、コンタクト層が設けられたリッジを含み、
前記リッジの外縁を構成する表面のうち前記リッジの長手方向に沿った表面である側面と、前記リッジの主面と、の境界の少なくとも一部には、前記コンタクト層を凹ませた段差が設けられており、
前記電極層は、前記リッジの主面及び前記段差を直接覆っており、
前記誘電体層は、
前記基板の前記一方の主面における前記リッジが存在しない領域と、
前記電極層の一部であって前記段差を覆った部分における、前記電極層の一部が前記段差と接触した側とは逆側の外縁部と、
を覆っている、
ことを特徴とするレーザ素子。
【請求項2】
前記段差の高さは、2nm以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ素子。
【請求項3】
前記段差は、前記境界の前記長手方向における端部を含む部分に設けられている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ素子。
【請求項4】
前記段差は、前記境界の全部に設けられている、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のレーザ素子。
【請求項5】
前記リッジを含む前記p型半導体層において、前記コンタクト層の前記発光層側には、前記発光層よりも屈折率が低いクラッド層が設けられており、
前記段差の凹みは、前記リッジの主面から前記クラッド層に至る、
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のレーザ素子。
【請求項6】
前記電極層は、前記リッジの主面及び前記段差に加えて、前記側面の少なくとも一部を覆っており、
前記誘電体層は、前記電極層の上から前記側面を覆っている
ことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のレーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層が半導体により構成されたレーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
発光層が窒化物系半導体により構成されたレーザ素子が知られており、近年は、このようなレーザ素子の高出力化が進められている。以下において、特に断りなくレーザ素子と記載した場合、そのレーザ素子は、窒化物系半導体により構成されたレーザ素子のことを意味する。
【0003】
例えば、特許文献1の図1及び特許文献2のFIG 1には、レーザ素子の模式的な断面図が示されている。これらの図に示されているように、レーザ素子は、基板上にn型半導体層、発光層、p型半導体層、p側のコンタクト層、及びp側の電極層を、この順番で積層することによって構成されている。このレーザ素子において、p型半導体層は、厚さが均一になるように構成されている。
【0004】
なお、特許文献1の図1及び特許文献2のFIG 1に図示された断面は、レーザ素子を構成する共振器の長手方向に対して平行な断面である。以下において、このような断面を縦断面と称し、縦断面に直行する断面を横断面と称する。
【0005】
また、特許文献1の図8及び特許文献2のFIG 8に示すように、レーザ素子の一例において、p型半導体層には、ストライプ状に隆起したリッジが設けられていてもよい。リッジは、共振器の長手方向に対して平行に設けられたストライプ状の構造を有し、且つ、p型半導体層のリッジ以外の部分よりも厚みが厚く構成されている。リッジは、レーザ素子の横断面において台形形状となるように成形されている。
【0006】
なお、以下においては、リッジの寸法のうち、共振器の長手方向に対して平行な寸法(すなわち、縦断面における寸法)を長さと称し、共振器の長手方向に対して垂直な寸法(すなわち、横断面における寸法)を幅と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第10333278号明細書
【文献】特表2018-523311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2のレーザ素子(例えば、図1及びFIG 1参照)では、レーザ素子をより高い電流で駆動するために、共振器の端面(特許文献1,2におけるファセット)の近くに電流保護領域を設けている。電流保護領域においては、p側のコンタクト層が除去されており、p側の電極層がp型半導体層に直接接触している。なお、以下において、リッジの外縁を構成する表面のうち、共振器の長手方向に対して直交する表面をリッジの端面と称し、共振器の長手方向に対して平行な表面をリッジの側面と称する。
【0009】
この構成によれば、共振器の長手方向における端面の近傍に流れる電流を抑制することができるので、当該端面の近傍において生じ得る非発光再結合を抑制することができる。
【0010】
また、レーザ素子に供給する電流を高めることによってレーザ素子の高出力化を図る別の手法としては、リッジの幅を広げることによってリッジの面積を大面積化することが考えられる。しかしながら、この場合、リッジの幅を広げれば広げるほど、リッジの中央部よりもリッジの側面に多くの電流が流れることが分かった。側面には、ダンブリングボンドが発生しやすく、ダンブリングボンドに起因する非発光再結合準位が多く形成される。リッジの側面に流れる電流は、発光に寄与することなく非発光再結合し、熱となって散逸する。この非発光再結合に伴う発熱は、所定の電力で駆動した場合にレーザ素子の出力を低下させるだけでなく、側面の近傍に結晶欠陥を生じさせる。この結晶欠陥は、レーザ素子の信頼性の低下を招く。
【0011】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものである。本発明の一態様の目的は、p型半導体層にリッジが設けられたレーザ素子において、リッジの側面の近傍に流れる電流を抑制することによって、レーザ素子の駆動効率及び信頼性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係るレーザ素子は、基板と、前記基板の一方の主面に順番に積層されたn型半導体層、発光層、p型半導体層、及び電極層と、を備えている。
【0013】
態様1に係るレーザ素子においては、前記p型半導体層は、ストライプ状に隆起したリッジであって、前記基板と逆側の主面を含む層にコンタクト層が設けられたリッジを含み、前記リッジの外縁を構成する表面のうち前記リッジの長手方向に沿った表面である側面と、前記リッジの主面との境界の少なくとも一部には、前記コンタクト層を凹ませた段差が設けられており、前記電極層は、前記リッジの主面及び前記段差を覆っている、構成が採用されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、p型半導体層にリッジが設けられたレーザ素子において、リッジの側面の近傍に流れる電流を抑制することによって、レーザ素子の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ素子の正面図である。
図2図1に示したレーザ素子が備えているp型半導体層の斜視図である。
図3図2に示したp型半導体層に含まれるリッジにおけるMgの濃度分布を示すグラフである。
図4】リッジの主面のうち基板と逆側の主面における電極層/リッジ接合の模式的なバンド図である。
図5】リッジの主面のうち基板と逆側の主面に設けられた段差の表面における電極層/リッジ接合の模式的なバンド図である。
図6図2に示したp型半導体層に含まれるリッジの平面図である。
図7図3に示したリッジの一変形例の平面図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係るレーザ素子の正面図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係るレーザ素子の正面図である。
図10】本発明の第4の実施形態に係るレーザ素子の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1の実施形態〕
<レーザ素子の構成>
本発明の第1の実施形態に係るレーザ素子10について、図1図7を参照して説明する。図1は、レーザ素子10の正面図である。図1は、レーザ素子10の一方の端面であって、レーザ光が出射される端面を示している。図2は、レーザ素子10が備えているp型半導体層15の斜視図である。図3は、p型半導体層15に含まれているリッジ152におけるMgの濃度分布を示すグラフである。図4は、リッジ152の主面のうち基板と逆側の主面P1における電極層16/リッジ152からなる接合の模式的なバンド図である。図5は、主面P1に設けられた段差1523の表面における電極層16/リッジ152からなる接合の模式的なバンド図である。図6は、p型半導体層15に含まれているリッジ152の平面図である。図7は、リッジ152の一変形例の平面図である。
【0017】
図1に示すように、レーザ素子10は、電極層11、基板12、n型半導体層13、発光層14、p型半導体層15、電極層16、及び誘電体層17を備えている。
【0018】
n型半導体層13、発光層14、p型半導体層15、電極層16、及び誘電体層17は、基板12の一方の主面(図1に図示した直交座標系におけるy軸正方向側の主面)に、この順番で積層されている。電極層11は、基板12の他方の主面(図1に図示した直交座標系におけるy軸負方向側の主面)に積層されている。
【0019】
なお、図1においては、電極層11、基板12、n型半導体層13、発光層14、p型半導体層15、電極層16、及び誘電体層17が基板12の上側に位置するように配置されたレーザ素子10を示している。
【0020】
図1においては、基板12の主面に対する法線と平行な方向をy軸方向と定め、y軸方向に対して垂直であり、且つ、レーザ素子10の一方の端面と平行な方向をx軸方向と定め、基板12の主面の面内方向のうち前記一方の端面に垂直な方向をz軸と定めている。図1においては、y軸方向のうち、基板12から発光層14に向かう方向(すなわち、図1における上方向)をy軸正方向と定め、x軸方向のうち図1の左側から右側へ向かう方向をx軸正方向と定め、z軸方向のうち図1の奥から手前に向かう方向をz軸正方向と定めている。
【0021】
なお、以下に示す図面は、レーザ素子10の長さ(z軸方向に沿った寸法)、幅(x軸方向に沿った寸法)、及び、厚み(y軸方向に沿った寸法)について、実際の寸法の大小関係を忠実に表したものではない。特に厚みは、長さ及び幅と対比して誇張して示されている。
【0022】
(基板)
基板12は、GaN及びAlGaNに代表される窒化物半導体製の板状部材である(図1参照)。基板12を構成する窒化物半導体としてAlGaNを用いた場合、基板12は、クラッドとして機能する。したがって、前記窒化物半導体としてGaNを用いた場合と比較して、後述する共振器内を伝搬する光が基板12へ漏れることを抑制することができる。
【0023】
前記窒化物半導体としてAlGaNを用いる場合、AlGaNにおけるAl組成比は、7%以下であることが好ましい。基板12の主面となる面方位は、極性面の(0001)面であってもよいし、無極性面の(1-100)面であってもよいし、半極性面の(11-22)面であってもよい。
【0024】
本実施形態においては、基板12として、AlGaN製であり、且つ、主面の面方位が(0001)面である板状部材を採用している。
【0025】
(n側の電極層)
電極層11は、レーザ素子10に電流を供給する一対の電極層のうちn側の電極層である(図1参照)。電極層11は、基板12のy軸負方向側の主面に積層された導体製の薄膜である。電極層11を構成する導体は、限定されるものではなく、金属及び導電性酸化物の中から適宜選択することができる。また、電極層11は、1つの導体により構成された単層膜であってもよいし、異なる種類の導体により各層が構成された多層膜であってもよい。
【0026】
本実施形態においては、電極層11として、金製の薄膜を採用している。
【0027】
(n型半導体層)
n型半導体層13は、基板12のy軸正方向側の主面に積層されたn型の窒化物系半導体製の膜である(図1参照)。n型半導体層13を構成するn型の窒化物系半導体としては、SiをドープしたAlGaN、SiをドープしたGaN、SiをドープしたAlInGaN、及び、SiをドープしたInGaNの少なくとも何れかを用いることができる。Siは、窒化物半導体に対するn型ドーパントとして機能する。
【0028】
n型半導体層13は、上述した窒化物系半導体のうち何れかにより構成された単層膜であってもよいし、上述した窒化物系半導体のうち異なる種類の窒化物系半導体により各層が構成された多層膜であってもよい。
【0029】
n型半導体層13の屈折率は、後述する発光層14の屈折率よりも小さい。したがって、n型半導体層13は、光を発光層14に閉じ込めるクラッドとして機能する。
【0030】
本実施形態においては、n型半導体層13として、SiをドープしたGaN、SiをドープしたAlGaN、及びSiをドープしたGaNの各々により各層が構成された多層膜を採用している。
【0031】
(発光層)
発光層14は、n型半導体層13のy軸正方向側の主面に積層された窒化物系半導体製の多層膜である(図1参照)。発光層14は、n層(nは、2以上の整数)の井戸層と、n-1層の障壁層とを含み、井戸層と障壁層とを交互に積層した構造を有する。なお、図1においては、発光層14における多層構造の図示を省略している。
【0032】
井戸層を構成する窒化物系半導体としては、InGaNを用いることができる。障壁層を構成する窒化物系半導体としては、GaN、InGaN、及びAlGaNの何れかを用いることができる。井戸層及び障壁層の構成(例えば、各層を構成する窒化物系半導体や各層の厚みなど)は、限定されるものではなく、発光層として知られている構成のなかから適宜選択することができる。
【0033】
本実施形態においては、井戸層を構成する窒化物系半導体として、In組成比が15%であるInGaNを採用し、障壁層を構成する窒化物系半導体として、In組成比が0~5%であるInGaNを採用している。
【0034】
(p型半導体層)
p型半導体層15は、発光層14のy軸正方向側の主面に積層されたp型の窒化物系半導体製の多層膜を、図1及び図2に示した形状に微細加工することによって得られる。
【0035】
p型半導体層15を構成するp型の窒化物系半導体としては、MgをドープしたAlGaN、MgをドープしたGaN、MgをドープしたAlInGaN、及び、MgをドープしたInGaNの少なくとも何れかを用いることができる。Mgは、窒化物半導体に対するp型ドーパントとして機能する。
【0036】
p型半導体層15は、均一な厚みを有するプレート151と、プレート151からストライプ状に隆起したリッジ152とを含んでいる。図2に示すように、リッジ152は、z軸方向に対して平行に延伸されている。
【0037】
また、リッジ152は、クラッド層1521と、コンタクト層1522とを含んでいる。クラッド層1521は、プレート151のy軸正方向側の主面に積層されている。コンタクト層1522は、クラッド層1521のy軸正方向側の主面に積層されている。すなわち、コンタクト層1522は、リッジ152の一方の主面(y軸正方向側の主面)である主面P1を含む層に設けられている。
【0038】
本実施形態においては、プレート151及びクラッド層1521を構成する窒化物系半導体として、Mgを含有するAlGa1-xN(0≦x≦0.055)を採用している。
【0039】
プレート151及びクラッド層1521の屈折率は、n型半導体層13の屈折率と同様に、発光層14の屈折率よりも小さい。したがって、プレート151及びクラッド層1521は、光を発光層14に閉じ込めるクラッドとして機能する。プレート151及びクラッド層1521を含むp型半導体層15は、上述したn型半導体層13及び発光層14とともにレーザ素子10の共振器を構成する。
【0040】
プレート151及びクラッド層1521の厚みの和は、特に限定されないが350nm以下であることが好ましい。プレート151及びクラッド層1521の厚みの和を薄くすると、レーザ素子10の動作電圧を下げることができる。したがって、プレート151及びクラッド層1521の厚みの和は、280nm以下であることがより好ましい。
【0041】
また、プレート151の一部であって、プレート151の主面のうち発光層14側の主面(y軸負方向側の主面)を含む層には、ブロック層として機能する層が設けられている。本実施形態においては、このブロック層として機能する層を構成する窒化物系半導体として、Mgを含有したAlGa1-xN(0≦x≦0.35)を採用している。なお、図1及び図2においては、プレート151におけるこの層の図示を省略している。
【0042】
本実施形態においては、コンタクト層1522を構成する窒化物系半導体として、Mgを含有したInAlGa1-x-yN(0≦x<0.015、0≦y<0.1)を採用している。コンタクト層1522は、p型半導体層15と、後述する電極層16との界面において生じ得る接触抵抗を低減する機能を有する。
【0043】
コンタクト層1522の厚みは特に限定されないが、20nm以下であることが望ましい。コンタクト層1522の厚みを薄くすると、レーザ素子10の動作電圧を下げることができる。したがって、コンタクト層1522の厚みは、10nm以下であることがより好ましい。
【0044】
コンタクト層1522は、電極層16との接触抵抗を低減するために、プレート151及びクラッド層1521と比較して、ドーパントであるMgを高濃度で含有する必要がある。具体的には、リッジ152の主面P1において、Mgの濃度は、1×1019cm-3以上であることが好ましく、3×1019cm-3以上であることがより好ましい。主面P1におけるMgの濃度が高ければ高いほど前記接触抵抗を低減することができるので、レーザ素子10の動作電圧を低く抑えることができる。
【0045】
なお、コンタクト層1522に対してMgを高濃度で添加するためには、コンタクト層1522の結晶成長後に、Mgを含む雰囲気においてn型半導体層13、発光層14、及びp型半導体層15が積層された基板12をアニールすればよい。このアニールにより、主面P1からコンタクト層1522の内部にMgが拡散する。この手法では、Mgの拡散を用いているため、コンタクト層1522に添加されたMgの濃度は、主面P1において最も高くなり、コンタクト層1522の内部に向かって主面P1から離れれば離れるほど低くなる。
【0046】
例えば、図3に示す例では、主面P1におけるMgの濃度が3×1019cm-3になるようにMgの仕込み流量を設定し、900℃において10分に亘ってn型半導体層13、発光層14、及びp型半導体層15が積層された基板12をアニールした。このアニールにより得られたコンタクト層1522では、主面P1におけるMgの濃度がほぼ3×1019cm-3であり、主面P1からの距離が2nmである位置におけるMgの濃度が7×1018cm-3であることが分かった。
【0047】
このようなアニールを実施することにより得られた電極層16/リッジ152からなる接合の模式的なバンド図を図4及び図5に示す。図4は、主面P1において電極層16がリッジ152に接触している場合の接合における模式的なバンド図を示す。図5は、段差1523の表面において電極層16がリッジ152に接触している場合の接合における模式的なバンド図を示す。図4及び図5においては、バンド図における左方向及び右方向の各々が、それぞれ、図1に示した座標系におけるy軸正方向及びy軸負方向に対応している。
【0048】
図3に示したグラフにおける主面P1からの距離が0nmである場合から分かるように、主面P1におけるMgの濃度は、1×1019cm-3以上(本実施形態においては、3×1019cm-3)である。そのため、主面P1において電極層16がリッジ152に接触している場合の接合の界面近傍においては、バンド端EとフェルミレベルEとが接近している(図4参照)。その結果、電極層16からコンタクト層1522へのトンネル確率は、十分に高くなる。すなわち、電極層16からコンタクト層1522に向かって電流が流れる。
【0049】
一方、図3に示したグラフにおける主面P1からの距離が2nmである場合から分かるように、段差1523の表面におけるMgの濃度は、1×1019cm-3未満である。そのため、段差1523の表面において電極層16がリッジ152に接触している場合の接合の界面近傍においては、バンド端EとフェルミレベルEとが図4に示した接合の場合よりも離間している(図5参照)。その結果、電極層16からコンタクト層1522へのトンネル確率は、低くなる。すなわち、電極層16からコンタクト層1522に向かって電流は流れない。
【0050】
コンタクト層1522と後述する電極層16との接触抵抗は、電極層16が接触するコンタクト層1522の表面におけるMgの濃度に対して負の相関関係を有する。すなわち、この接触抵抗は、Mgの濃度が高ければ高いほど低下する。レーザ素子10においては、主面P1と側面P2との境界に段差1523を設けることによって、電極層16と接触するコンタクト層1522の表面においてMgの濃度が異なる2つの領域を任意に設けることができる。このことは、前記表面において、電極層16との接触抵抗が異なる2つの領域を任意に設けることができることを意味する。言い替えれば、前記表面において、電流を注入したい領域と、電流を注入したくない領域と、を選択的に設定可能であることを意味する。本実施形態においては、電流を注入したくない領域として、主面P1と側面P2との一対の境界である一対の境界線LBの近傍を選択している。
【0051】
リッジ152において、側面P2にはダンブリングボンドが発生しやすい。その結果、側面P2の近傍には、ダンブリングボンドに起因する非発光再結合準位が多く形成される。レーザ素子に段差1523が設けられていない場合、境界線LBの近傍に注入された電流は、側面P2に沿って流れる。したがって、境界線LBの近傍に注入された電流は、発光に寄与することなく非発光再結合し、熱となって散逸する。この非発光再結合に伴う発熱は、所定の電力で駆動した場合にけるレーザ素子の出力を低下させるだけでなく、側面P2の近傍に結晶欠陥を生じさせる。この結晶欠陥は、レーザ素子の信頼性の低下を招く。
【0052】
レーザ素子10においては、コンタクト層1522に段差1523が設けられているため、側面P2の近傍に注入される電流を抑制することができる。したがって、レーザ素子10は、所定の電力で駆動した場合におけるレーザ素子の出力(すなわち駆動効率)を高めることができ、且つ、信頼性を高めることができる。
【0053】
なお、後述する製造方法において説明するように、レーザ素子10が電極層16を覆う金属電極層を備えている場合、金属電極層を形成したあとに更なるアニールを施す。コンタクト層1522に添加されたMgは、このアニールによっても拡散する。したがって、Mgの仕込み流量は、このアニールのことも考慮して決定することが好ましい。
【0054】
リッジ152の主面P1をy軸正方向側から平面視した場合において、リッジ152の外縁を構成する表面のうちリッジ152の長手方向(リッジ152が延伸されている方向)に沿った一対の表面は、リッジ152における一対の側面P2を構成する。なお、本実施形態において、リッジ152の長手方向とは、図2に示した座標系におけるz軸方向である。また、リッジ152の外縁を構成する表面のうち前記長手方向に交わる一対の表面は、共振器の両端の一部を構成する。
【0055】
本実施形態において、主面P1と側面P2との境界の全部に亘って段差1523が設けられている(図6参照)。なお、図2に示す境界線LBは、主面P1と側面P2との境界に存在する稜線を点線にて示している。
【0056】
ただし、段差1523を設ける境界の部分は、図6に示したように、境界の全部に限定されるものではない。図7に示すように、段差1523は、主面P1と側面P2との境界の一部に設けられていてもよい。この場合、段差1523は、境界の前記長手方向における端部(z軸正方向側の端部及びz軸負方向側の端部)を含む部分に設けられていることが好ましい。換言すれば、境界のうち段差1523が設けられない部分は、前記長手方向における中央部であることが好ましい。また、この場合、境界のうち段差1523が設けられている部分の長さ(すなわち、長さL21と長さL22との和)がリッジ152の前記長手方向の長さである長さL1の50%以上であることが好ましい。
【0057】
また、段差1523の高さh(図1参照)は、2nm以上であることが好ましい。図3を参照して説明したように、主面P1におけるMgの濃度がほぼ3×1019cm-3になるようにコンタクト層1522にMgを添加したとする。この場合、主面P1からの距離が2nmである位置におけるMgの濃度は、7×1018cm-3であり1×1019cm-3を下回ることが分かった。
【0058】
後述する電極層16は、Mgの濃度が1×1019cm-3以上であるコンタクト層1522の表面に接触させた場合、良好な接触抵抗が得られる。したがって、電極層16は、コンタクト層1522にロスが少ない状態で電流を注入することができる。
【0059】
一方、電極層16は、Mgの濃度が1×1019cm-3未満である表面に接触させた場合、良好な接触抵抗を得ることができない。したがって、電極層16は、コンタクト層1522に電流を注入する場合に大きなロスを伴うか、又は、コンタクト層1522に電流を注入することができない。
【0060】
以上の知見より、高さhを2nm以上に設定することによって、レーザ素子10は、段差1523が設けられていない主面P1には電極層16から電流を注入しつつ、段差1523の表面に注入され得る電流を抑制することができる。
【0061】
(電極層)
電極層16は、レーザ素子10に電流を供給する一対の電極層のうちp側の電極層である(図1参照)。電極層16は、リッジ152の主面P1及び段差1523の表面に積層された導体製の薄膜である。電極層16を構成する導体は、限定されるものではない。電極層16を構成する導体は、例えば、Pdや、Niや、Moなどに代表される金属、及び、ITOや、IZOや、ZnOに代表される導電性酸化物の中から適宜選択することができる。また、電極層16は、1つの導体により構成された単層膜であってもよいし、異なる種類の導体により各層が構成された多層膜であってもよい。本実施形態においては、電極層16として、ITO製の薄膜を採用している。
【0062】
本実施形態において、電極層16は、リッジ152の主面P1と段差1523の表面を覆っている。なお、上述したように段差1523の表面と電極層16との界面における接触抵抗が高いため、リッジ152と電極層16とは、実質的に、主面P1と電極層16との界面のみを介して導通している。
【0063】
なお、図1では図示を省略しているが、電極層16のy軸正方向側の主面には、配線を接続するための金属電極層が更に設けられていてもよい。
【0064】
(誘電体層)
誘電体層17は、プレート151のy軸正方向側の主面と、リッジ152の側面P2と、電極層16のy軸正方向側の主面のうち外縁部を覆うように、p型半導体層15に積層された誘電体製の薄膜である。誘電体層17が電極層16の外縁部を覆うことによって、コンタクト層1522に対して電流を注入する領域を限定することができる。
【0065】
誘電体層17を構成する誘電体は、限定されるものではなく、例えば、酸化シリコンや、酸化アルミニウムや、酸化チタンや、酸化タンタルや、酸化ジルコニウムなどに代表される酸化物から適宜選択することができる。本実施形態においては、誘電体層17として、酸化シリコン製の薄膜を採用している。
【0066】
(製造方法)
レーザ素子10の製造方法について、以下に説明する。レーザ素子10の製造方法は、第1の成膜工程と、アニール工程と、微細加工工程と、第2の成膜工程と、第3の成膜工程と、を含んでいる。
【0067】
第1の成膜工程は、基板12の一方の主面にn型半導体層13、発光層14、及びp型半導体層15のベタ膜を形成する工程である。n型半導体層13、発光層14、及びp型半導体層15の成膜条件は、特に限定されるものではなく適宜定めることができる。したがって、本実施形態では、第1の成膜工程に関する詳しい説明を省略する。
【0068】
アニール工程は、第1の成膜工程のあとに実施する工程である。アニール工程は、Mgを含む雰囲気においてn型半導体層13、発光層14、及びp型半導体層15が積層された基板12をアニールする工程である。アニール工程において採用するアニール条件は、アニール後にコンタクト層1522の主面P1におけるMgの濃度が1×1019cm-3以上、より好ましくは3×1019cm-3以上になるように定められていればよい。したがって、本実施形態では、アニール工程に関する詳しい説明を省略する。
【0069】
微細加工工程は、アニール工程のあとに実施する工程である。微細加工工程は、フォトリソグラフィのプロセスを用いて、ベタ膜であるp型半導体層15にリッジ152を形成するとともに、コンタクト層1522に段差1523を形成する工程である。
【0070】
微細加工工程においては、まず、コンタクト層1522の一方の主面(図1に示した座標系におけるy軸負方向側の主面)に、フォトレジストを用いて、リッジ152の形状に対応したストライプ状のマスクである第1マスクを形成する。本実施形態では、第1マスクの幅として30μmを採用する。
【0071】
次に、第1マスクが設けられたコンタクト層1522の一方の主面を、RIE(Reactive Ion Etching)装置を用いてエッチングする。このエッチングにより、ベタ膜であったp型半導体層15にリッジ152が形成される。本実施形態では、リッジ152の高さとして190nmを採用する。したがって、リッジ152の横断面形状は、上底面である主面P1の幅が30μmであり、高さが190nmである台形形状になる(図1参照)。
【0072】
有機溶媒を用いて第1マスクを除去する。その後、p型半導体層15の表面にフォトレジストを用いて、主面P1の中央に対応する位置に幅28μmのストライプ状のマスクである第2マスクを形成する。
【0073】
次に、第2マスクが設けられたp型半導体層15の表面を、RIE装置を用いて2nm以上エッチングする。このエッチングにより、コンタクト層1522の主面P1に段差1523が形成される。本実施形態では、図2に示すように、側面P2と、主面P1との一対の境界(図2に示した座標系におけるx軸正方向側及びx軸負方向側の境界)の全部に、幅が1μmであり且つ高さhが2nm以上である段差1523を設けている。第2マスクは、有機溶剤を用いて除去される。
【0074】
第2の成膜工程は、微細加工工程のあとに実施する工程である。第2成膜工程は、段差1523を含むリッジ152が設けられたp型半導体層15の表面に、電極層16、誘電体層17、及び金属電極層(図1においては図示を省略)を形成する工程である。
【0075】
第2の成膜工程においては、まず、蒸着装置を用いてp型半導体層15の表面に電極層16のベタ膜を形成する。電極層16を構成する導体としては、Pd、Ni、Moなどの金属、及び、ITO、IZO,ZnOなどの導電性酸化物の何れかを採用することができる。本実施形態においては、電極層16を構成する導体としてITOを採用する。
【0076】
次に、電極層16のベタ膜の表面にフォトレジストを塗布して、主面P1に対応する位置に幅30μmのストライプ状のマスクである第3マスクを形成する。
【0077】
RIE装置を用いて電極層16のベタ膜をエッチングする。このエッチングにより、主面P1上に、主面P1を覆う電極層16が形成される。
【0078】
続いて、CVD装置を用いて、p型半導体層15及び電極層16の表面に誘電体層17のベタ膜を形成する。誘電体層17を構成する誘電体としては、SiOや、Alや、TiOや、Taや、ZrOなどに代表される酸化物から適宜選択することができる。本実施形態においては、誘電体層17を構成する誘電体としてSiOを採用する。
【0079】
次に、誘電体層17のベタ膜の表面にフォトレジストを塗布して、主面P1に対応する位置に幅が主面P1よりも狭い開口を有する第3マスクを形成する。
【0080】
次に、第3マスクが設けられた誘電体層17の表面を、ウェットエッチングを用いてエッチングする。このエッチングにより、ベタ膜であった誘電体層17の主面P1に対応する位置に開口が形成され、電極層16が露出する。その後、有機溶剤を用いて第3マスクを除去する。
【0081】
その後、蒸着装置を用いて、誘電体層17と誘電体層17の開口から露出した電極層16との表面に金属電極層のベタ膜を形成する。金属電極層を構成する金属は、特に限定されないが、本実施形態ではチタンを採用する。
【0082】
金属電極層を形成した後、蒸着装置からレーザ素子10を取り出し、数百℃の温度でレーザ素子10をアニールする。このアニールを行うことでコンタクト層1522と電極層16との界面、及び、電極層16と金属電極層との界面の各々における接触抵抗を低減することができるので、レーザ素子10に電流を注入するときに印加する電圧を低減することができる。
【0083】
第3の成膜工程は、レーザ素子10をアニールした後に実施する工程である。第3の成膜工程は、基板12の他方の主面(図1に示した座標系におけるy軸負方向側の主面)に電極層11を設ける工程である。電極層11の成膜条件は、特に限定されるものではなく適宜定めることができる。したがって、本実施形態では、第3の成膜工程に関する詳しい説明を省略する。以上の工程により、図1に示したレーザ素子10が完成する。
【0084】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係るレーザ素子10Aについて、図8を参照して説明する。図8は、レーザ素子10Aの正面図である。
【0085】
レーザ素子10Aは、図1に示したレーザ素子10をベースにして、電極層16を、電極層16Aに置き換えることによって得られる。したがって、本実施形態においては、電極層16Aについてのみ説明し、それ以外の構成要素についての説明を省略する。また、図8においては、電極層11、基板12、n型半導体層13、及び発光層14の図示を省略している。なお、説明の便宜上、レーザ素子10Aにおいては、p型半導体層15のことをp型半導体層15Aに読み替えるとともに、p型半導体層15の各構成要素の末尾に符号「A」を付している。
【0086】
図8に示すように、電極層16Aは、リッジ152Aの主面P1と、段差1523Aに加えて、リッジ152Aの側面P2の全部を覆うように構成されている。なお、側面P2のうち、電極層16Aが覆う領域は、全部に限定されるものではなく、一部であってもよい。すなわち、電極層16Aにおけるプレート151Aに近い側の端部(図8に図示した座標系におけるy軸負方向側の端部)は、プレート151Aに接していてもよいし、接しておらず側面P2の中途に位置してもよい。
【0087】
〔第3の実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係るレーザ素子10Bについて、図9を参照して説明する。図9は、レーザ素子10Bの正面図である。
【0088】
レーザ素子10Bは、図1に示したレーザ素子10をベースにして、p型半導体層15及び電極層16の各々を、それぞれ、p型半導体層15B及び電極層16Bに置き換えることによって得られる。したがって、本実施形態においては、p型半導体層15B及び電極層16Bについてのみ説明し、それ以外の構成要素についての説明を省略する。また、図9においては、電極層11、基板12、n型半導体層13、及び発光層14の図示を省略している。
【0089】
図9に示すように、p型半導体層15Bにおいて、コンタクト層1522Bのプレート151B側(図9に図示した座標系におけるy軸負方向側)の層には、発光層14よりも屈折率が低い窒化物系半導体により構成されたクラッド層1521Bが設けられている。この点については、第1の実施形態において説明した通りである。
【0090】
コンタクト層1522Bにおいて、段差1523Bは、主面P1からクラッド層1521Bに至るように構成されている。すなわち、段差1523Bの高さhは、コンタクト層1522Bの厚みを上回り、且つ、リッジ152Bの厚みを下回るように定められている。
【0091】
電極層16Bは、電極層16と同様に、主面P1及び段差1523Bを覆うように設けられている。
【0092】
〔第4の実施形態〕
本発明の第4の実施形態に係るレーザ素子10Cについて、図10を参照して説明する。図10は、レーザ素子10Cの正面図である。
【0093】
レーザ素子10Cは、図1に示したレーザ素子10をベースにして、p型半導体層15及び電極層16の各々を、それぞれ、p型半導体層15C及び電極層16Cに置き換えることによって得られる。したがって、本実施形態においては、p型半導体層15C及び電極層16Cについてのみ説明し、それ以外の構成要素についての説明を省略する。また、図10においては、電極層11、基板12、n型半導体層13、及び発光層14の図示を省略している。
【0094】
図10に示すように、p型半導体層15Cにおいて、コンタクト層1522Cのプレート151C側(図10に図示した座標系におけるy軸負方向側)の層には、発光層14よりも屈折率が低い窒化物系半導体により構成されたクラッド層1521Cが設けられている。この点については、第1の実施形態において説明した通りである。
【0095】
コンタクト層1522Cにおいて、段差1523Cは、主面P1からクラッド層1521Cに至るように構成されている。すなわち、段差1523Cの高さhは、コンタクト層1522Cの厚みを上回り、且つ、リッジ152Cの厚みを下回るように定められている。
【0096】
図10に示すように、電極層16Cは、リッジ152Cの主面P1と、段差1523Cに加えて、リッジ152Cの側面P2の全部を覆うように構成されている。すなわち、電極層16Cは、図8に示した電極層16Aと同様に構成されている。
【0097】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cは、基板12と、基板12の一方の主面に順番に積層されたn型半導体層13、発光層14、p型半導体層15,15A,15B,15C、及び電極層16と、を備えている。
【0098】
レーザ素子10,10A,10B,10Cにおいては、p型半導体層15,15A,15B,15Cは、ストライプ状に隆起したリッジ152,152A,152B,152Cであって、基板12と逆側の主面P1を含む層にコンタクト層1522,1522A,1522B,1522Cが設けられたリッジ152,152A,152B,152Cを含み、側面P2と、主面P1との境界(境界線LB)の少なくとも一部には、コンタクト層1522,1522A,1522B,1522Cを凹ませた段差1523,1523A,1523B,1523Cが設けられており、電極層16は、主面P1及び段差1523,1523A,1523B,1523Cを覆っている、構成が採用されている。
【0099】
なお、側面P2は、リッジ152,152A,152B,152Cの外縁を構成する表面のうち、リッジ152,152A,152B,152Cの長手方向(図1図2図6図10に図示した座標系におけるz軸方向)に沿った表面である。
【0100】
前記コンタクト層は、前記p型半導体層と前記電極層との接触抵抗を低減するために、前記リッジの主面を含む層に設けられている。前記コンタクト層におけるキャリア濃度は、前記リッジの主面において最も高く、前記リッジの主面から遠ざかるにしたがって低くなる。
【0101】
そのため、前記コンタクト層のうち前記段差の表面におけるキャリア濃度は、前記リッジの主面におけるキャリア濃度より低い。換言すれば、前記段差の前記表面と前記電極層との接触抵抗は、前記リッジの主面と前記電極層との接触抵抗よりも高くなる。したがって、電極層からリッジに供給される電流は、前記段差の前記表面と電極層との界面を避け、前記リッジの主面と前記電極層との界面を流れる。なお、前記段差の表面は、前記コンタクト層の一部を例えばエッチングすることによって凹ませた場合に露出する表面である。
【0102】
上記の構成によれば、前記境界の少なくとも一部に前記段差が設けられているため、前記段差が設けられていないレーザ素子と比較して、前記側面に流れる電流を抑制することができる。したがって、態様1に係るレーザ素子は、駆動効率及び信頼性を高めることができる。
【0103】
本発明の態様2に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cにおいては、上述した態様1に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cの構成に加えて、前記段差の高さhは、2nm以上である、構成が採用されている。
【0104】
上記の構成によれば、前記リッジの主面におけるキャリア濃度を低下させることなく、前記コンタクト層のうち前記段差の前記表面におけるキャリア濃度を低下させることができる。例えば、前記リッジの主面におけるキャリア濃度を1×1019cm-3以上に保ちつつ、前記表面におけるキャリア濃度を1×1019cm-3未満にすることができる。したがって、前記段差の前記表面と前記電極層との接触抵抗に対して、前記リッジの主面と前記電極層との接触抵抗を十分に大きくすることができるので、前記側面に流れる電流を確実に抑制することができる。
【0105】
本発明の態様3に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cにおいては、上述した態様1又は態様2に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cの構成に加えて、段差1523,1523A,1523B,1523Cは、境界(境界線LBの前記長手方向(図2図6図7に図示した座標系におけるz軸方向)における端部を含む部分に設けられている、構成が採用されている。
【0106】
前記段差が設けられていないレーザ素子において、電極層からリッジに供給される電流は、前記境界の前記端部の近傍において高くなりやすく、前記境界の前記長手方向における中央近傍において低くなりやすいことが分かった。上記の構成によれば、前記境界の前記端部を含む部分に段差を設けているため、前記段差を前記境界の中央近傍に設ける場合と比較して、前記側面に流れる電流を効果的に抑制することができる。
【0107】
本発明の態様4に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cにおいては、上述した態様1~態様3の何れか一態様に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cの構成に加えて、段差1523,1523A,1523B,1523Cは、境界(境界線LB)の全部に設けられている、構成が採用されている。
【0108】
上記の構成によれば、前記側面に流れる電流を最も抑制することができる。
【0109】
本発明の態様5に係るレーザ素子10B,10Cにおいては、上述した態様1~態様4の何れか一態様に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cの構成に加えて、リッジ152B,152Cを含む前記p型半導体層15B,15Cにおいて、コンタクト層1522B,1522Cの発光層14側には、発光層14よりも屈折率が低いクラッド層1521B,1521Cが設けられており、段差1523B,1523Cの凹みは、主面P1からクラッド層1521B,1521Cに至る、構成が採用されている。
【0110】
上記の構成によれば、n型半導体層、発光層、及びp型半導体層により構成された共振器内を伝搬するレーザ光をより強く閉じ込めることができるので、レーザ光において生じ得る高次モードを抑制することができる。
【0111】
本発明の態様6に係るレーザ素子10A,10Cにおいては、上述した態様1~態様5の何れか一態様に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cの構成に加えて、電極層16は、主面P1及び段差1523,1523A,1523B,1523Cに加えて、側面P2の少なくとも一部を覆っており、電極層16の上から側面P2を覆う誘電体層17を更に備えている、構成が採用されている。なお、上述した各実施形態において、レーザ素子10A,10Cは、側面P2の全部を覆う電極層16を採用している。
【0112】
前記リッジの前記側面を直接覆うように前記誘電体層を設けた場合、前記誘電体層から生じる水素が前記リッジに浸透することによって、前記リッジを構成するp型半導体を劣化させる場合がある。上記の構成によれば、前記電極層が前記側面の少なくとも一部を覆っていることによって、水素の前記リッジへの浸透を抑制することができる。
【0113】
なお、本発明の一態様に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cにおいては、上述した態様1に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cの構成に加えて、コンタクト層1522,1522A,1522B,1522Cは、p型半導体層15,15A,15B,15Cにおけるコンタクト層1522,1522A,1522B,1522C以外の層(クラッド層1521,1521A,1521B,1521C及びプレート151,151A,151B,151C)と比較して、p型ドーパント(例えばMg)の濃度が高い、構成が採用されている。
【0114】
すなわち、本発明の一態様に係るレーザ素子10,10A,10B,10Cにおいて、p型半導体層15,15A,15B,15Cは、ストライプ状に隆起したリッジ152,152A,152B,152Cを含み、リッジ152,152A,152B,152Cは、基板12と逆側の主面である主面P1を含む層に設けられたコンタクト層1522,1522A,1522B,1522Cであって、p型半導体層15,15A,15B,15Cにおけるコンタクト層1522,1522A,1522B,1522C以外の層と比較して、p型ドーパントが高濃度で添加されたコンタクト層1522,1522A,1522B,1522Cを含む、構成が採用されている。
【0115】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0116】
10、10A、10B、10C レーザ素子
11、16、16A、16B、16C 電極層
12 基板
13 n型半導体層
14 発光層
15、15A、15B、15C p型半導体層
152、152A、152B、152C リッジ
1521、1521A、1521B、1521C クラッド層
1522、1522A、1522B、1522C コンタクト層
1523、1523A1523B、1523C 段差
P1 リッジの主面
P2 リッジの側面
LB 境界線(側面と主面との境界)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10