(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】燃料ガスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10L 3/10 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C10L3/10
(21)【出願番号】P 2020205082
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2020036637
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
(72)【発明者】
【氏名】則岡 慎平
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0022121(US,A1)
【文献】特開2015-025048(JP,A)
【文献】特開2014-009166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 3/00
C07C 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と炭素酸化物とをメタン化触媒の存在下で反応させて、脱水後の体積基準で水素を2%以上10%以下含む燃料ガスを得るメタン化工程と、
前記メタン化工程で得られた前記燃料ガスに酸素を添加したのちに、当該酸素と、前記燃料ガス中の水素とを、水素を選択的に酸化できる選択酸化触媒の存在下で反応させる選択酸化工程と、を有
し、
前記メタン化工程に供給される、炭素酸化物に対する水素の割合は、物質量(モル)基準で計算される{(水素)+(一酸化炭素)}/{(一酸化炭素)+(二酸化炭素)}の値が4.04以上4.08以下を満たす値であり、
前記選択酸化工程に供給されるガスは、前記メタン化工程で得られた前記燃料ガス中の水素に対する酸素のモル比が、0.24以上0.45以下であり、前記選択酸化工程で得られる燃料ガスの二酸化炭素濃度は、脱水後の体積基準で0.5%以下である燃料ガスの製造方法。
【請求項2】
前記選択酸化触媒は、無機酸化物と、パラジウムおよび白金の少なくとも一つと、を含み、
パラジウムおよび白金の前記少なくとも一つは、前記無機酸化物に担持されている請求項
1に記載の燃料ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と炭素酸化物とをメタン化触媒の存在下にメタン化反応させてメタンを主成分とする高発熱量の燃料ガスを製造する方法に関し、より詳細には水素濃度が低減された炭化水素濃度の高い燃料ガスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策の観点から、燃焼利用しても大気中の二酸化炭素濃度を実質的に増加させることがないカーボンニュートラル燃料に注目が集まっている。
【0003】
工業プロセスや火力発電などで発生する排ガスから二酸化炭素を回収し、再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電などによる電力を用いた電気分解により得られた水素と反応させれば、メタンが得られる。この方法によって得られたメタンは、燃焼利用しても追加的な二酸化炭素の発生がないことから、地球温暖化に影響しないカーボンニュートラル燃料と考えることができる。
【0004】
二酸化炭素と水素とを反応してメタンを得るメタン化反応(式1)は公知である。
CO2+4H2 → CH4+2H2O (式1)
【0005】
特許文献1には、COおよびH2を含むガスをメタン化するに際し、上流側にCu-Zn系低温シフト触媒を配し且つ下流側にメタン化触媒を配置したメタン化反応器を使用することを特徴とするCOおよびH2を含むガスのメタン化方法が開示されている。上流側の低温シフト反応器ではCOシフト反応(式2)が進行するので、原料ガスに含まれる一酸化炭素の大部分は水蒸気と反応して二酸化炭素に転換され、下流側のメタン化触媒上では二酸化炭素のメタン化反応が進行しているものと考えられる。
CO+H2O → CO2+H2 (式2)
【0006】
メタン化反応はアンモニア合成用の水素から一酸化炭素および二酸化炭素を除去する目的で古くから使用されており、NiやRuなどを担持した触媒が高活性を示すことが知られている(非特許文献1、2)。
【0007】
炭素酸化物(一酸化炭素および二酸化炭素)を水素と反応させてメタンを得るメタン化反応は、工業的にも確立された技術(たとえば非特許文献3)であるが、都市ガス原料として使用できる品質の燃料ガスを得るにはなお課題がある。
【0008】
都市ガス原料として一般に利用されているのは天然ガスであり、メタンを主成分とし、少量のエタン、プロパン、およびブタンを含有する。天然ガスには、水素および一酸化炭素は通常含まれず、二酸化炭素は天然ガスの精製過程で除去される。特に、液化天然ガスを原料として製造される都市ガスの場合には、水素、一酸化炭素、および二酸化炭素は液化精製の過程でほぼ完全に除去されるので、実質的にほとんど含まれない。
【0009】
天然ガス中に含まれるメタン以外の炭化水素(エタン、プロパン、およびブタン)の濃度は、天然ガスの産地や精製方法などによって変動するため、都市ガスを製造する際には、通常はプロパンまたはブタンを添加して熱量を一定の範囲となるように調整したうえで、保安確保のために付臭剤を添加してから都市ガス導管で需要家に送られる。
【0010】
水素、一酸化炭素および二酸化炭素が都市ガスに含まれると以下のような問題を引き起こす可能性がある。
【0011】
まず、一酸化炭素は、毒性が高いため、ガスが漏洩した場合に中毒事故の恐れを生じる。その許容濃度は200ppmとされており、安全上の観点から、燃料ガス中の濃度はこれ以下とするのが望ましく、空気による希釈を考慮しても、1000ppm以下とする必要がある。
【0012】
次に、二酸化炭素は、不燃性であるだけでなく、燃焼を抑える働きがある。従って、燃料ガスに高濃度で混入した場合、燃料ガスの発熱量の低下に伴う導管でのガス輸送の効率を低下させるだけでなく、燃焼機器の効率の低下を引き起こす恐れもある。
【0013】
最後に、水素は、燃料ガスではあるものの、都市ガスの主成分であるメタンと比較すると単位体積当たりの発熱量が約3分の1しかない。従って、メタン主成分の燃料ガスに水素が混入すると、単位体積当たりの発熱量が低下する。さらに水素は、燃焼速度が速いことから、燃焼機器への影響が大きいことも知られている。
【0014】
以上のように、水素、一酸化炭素および二酸化炭素は、都市ガスに混入した場合、ガスの供給および消費の各段階で種々の影響を及ぼすことから、都市ガス導管網に受け入れるガスの品質基準で、水素、一酸化炭素および二酸化炭素の濃度に制約が設けられるのが一般的である。
【0015】
天然ガス自動車向けの燃料充填所が存在する導管網にあっては、水素濃度の上限を体積基準で2%としている例が知られている(非特許文献4)。また、水素濃度を体積基準で4%以下、二酸化炭素濃度を体積基準で0.5%以下、一酸化炭素濃度を体積基準で0.05%以下と規定している例(非特許文献5)、ならびに、メタンおよびエタンの合計濃度を体積基準で93%以上、かつ炭化水素以外の成分の合計濃度を体積基準で4%以下と規定した例(非特許文献6)も知られている。
【0016】
水素、一酸化炭素および二酸化炭素の混入に関しては、都市ガス品質以外の観点でも問題が存在する。都市ガスは、燃焼機器で安定して利用できるように、前述のようにプロパンまたはブタンを添加して、一定の熱量範囲に調整したうえで供給されている。従って、水素や二酸化炭素が高濃度に含まれていると、熱量調整に必要なプロパンおよびブタンなどを多量に混合する必要がある。これは、ガス製造の費用を増大させるほか、熱量調整に用いるプロパンおよびブタンとして化石燃料由来のものを用いる場合には、製造されたガスのカーボンニュートラル性を損なうことになる。
【0017】
二酸化炭素のメタン化反応(式1)は、平衡反応であり、通常の工業的な操作条件では、二酸化炭素と水素とを完全にメタンに転化することはできない。化学量論比(水素:二酸化炭素=4:1)の混合ガスを、常圧(0.1MPa)で反応させた場合の二酸化炭素のメタンへの平衡転化率は、反応温度が300℃の場合において95.0%であり、反応温度が250℃の場合において97.5%であり、反応温度が200℃の場合において98.9%である。
【0018】
このように常圧では、多量に水素を含む燃料ガスしか得られない。メタン化反応は発熱反応であるため、低温になるほど、平衡転化率は向上するが、触媒反応の場合、低温になるほど触媒活性が低下する。このため、反応温度には下限があり、通常のメタン化触媒の場合、実用的な反応速度を得るには250℃以上が必要とされる(非特許文献4、特許文献2および3)。
【0019】
二酸化炭素のメタン化反応(式1)は、物質量(モル数)が減少する反応であるため、圧力が高いほど平衡転化率は高くなる。250℃で比較すると、二酸化炭素のメタンへの平衡転化率(化学量論比である水素:二酸化炭素=4:1で反応させた場合)は、常圧(0.1MPa)の97.5%に対し、0.7MPaでは98.9%、5MPaでは99.5%まで向上する。しかし、水素:二酸化炭素=4:1の混合ガスを250℃、5MPaで反応させた場合でも、その平衡組成(生成した水を除いた脱水後の体積基準の組成)は、メタン97.45%、水素2.04%、二酸化炭素0.51%となることから、水素2%(体積基準)以下の燃料ガスを得るには、5MPaを超える高圧の条件で反応を行う必要がある。
【0020】
メタン化反応によって得られる燃料ガス中の水素濃度を低減する方法はいくつか知られている。例えば、化学量論比よりも水素の少ない条件でメタン化反応を実施し、過剰の二酸化炭素を脱炭酸処理により除くと、水素含有量も二酸化炭素含有量も低減することができる(特許文献4)。この方法は、コークス炉ガスのメタン化において採用された例がある(非特許文献3)。しかし、脱炭酸設備は、一般に設備費用が高く、運転にも多量のエネルギーを消費するので、経済性が損なわれる問題がある。
【0021】
別の方法として、メタン化反応を複数段で行い、途中段階で生成したガスを冷却して、水を凝縮分離する方法も知られている(非特許文献4、特許文献2および3)。生成した水を除くことにより、メタン化反応をさらに生成側に進行させることができ、二酸化炭素のメタンへの転化率を向上できる。しかし、この方法では、熱交換設備が必要になり、設備費用がかさむこと、また生成した水を過度に除去してしまうと、その組成が平衡的に炭素析出の起こる領域に入ることから、水を分離する工程の制御が複雑になるという課題もある。
【0022】
さらに、化学量論比よりも水素の少ない条件でメタン化反応を実施し、過剰の二酸化炭素を脱炭酸処理により除く方法、および、メタン化反応を複数段で行い、途中段階で生成したガスを冷却して水を凝縮分離する方法、のいずれについても、平衡的に一酸化炭素を生成しやすい条件となるため、製造された燃料ガスに含まれる一酸化炭素濃度が高くなるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】特開昭60-235893号公報
【文献】特開2015-124217号公報
【文献】特開2018-135283号公報
【文献】特開2019-26595号公報
【非特許文献】
【0024】
【文献】社団法人化学工学協会編、化学プロセス集成、1970年、p.153
【文献】触媒学会編、触媒便覧、2008年、p.535
【文献】川越、松田、松島および植松、日立評論、68巻10号、1986年、p.73
【文献】E.I.KoytsoumpaおよびS.Karellas、Renewable and Sustainable Energy Reviews、94巻、2018年、p.536
【文献】バイオガス購入要領、大阪瓦斯株式会社、2008年
【文献】バイオガス購入要領、東京瓦斯株式会社、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明が解決しようとする課題は、以上の問題に鑑み、水素と炭素酸化物とをメタン化触媒の存在下にメタン化反応させてメタンを主成分とする燃料ガスを製造するに際して、極端な高圧条件での反応や、高価な脱炭酸設備の設置などを必要とせず、簡単で経済的に有利な方法で水素濃度が低減された燃料ガスを得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明に係る燃料ガスの製造方法の特徴構成は、水素と炭素酸化物とをメタン化触媒の存在下で反応させて、脱水後の体積基準で水素を2%以上10%以下含む燃料ガスを得るメタン化工程と、前記メタン化工程で得られた前記燃料ガスに酸素を添加したのちに、当該酸素と、前記燃料ガス中の水素とを、水素を選択的に酸化できる選択酸化触媒の存在下で反応させる選択酸化工程と、を有し、前記メタン化工程に供給される、炭素酸化物に対する水素の割合は、物質量(モル)基準で計算される{(水素)+(一酸化炭素)}/{(一酸化炭素)+(二酸化炭素)}の値が4.04以上4.08以下を満たす値であり、前記選択酸化工程に供給されるガスは、前記メタン化工程で得られた前記燃料ガス中の水素に対する酸素のモル比が、0.24以上0.45以下であり、前記選択酸化工程で得られる燃料ガスの二酸化炭素濃度は、脱水後の体積基準で0.5%以下である点にある。
【0027】
本特徴構成によれば、極端な高圧条件を避けてメタン化反応を行って得られた比較的高濃度の水素を含むメタン主成分の燃料ガスに含まれる水素が、酸素との反応により水蒸気に変換されるため、水素濃度が低減された燃料ガスを得ることができる。
酸素との反応によって水素を低減することは可能であるが、二酸化炭素を低減することはできない。そこで、本特徴構成においては、メタン化触媒に供給される水素が過剰な条件でメタン化反応を行うことにより、メタン化工程により得られる燃料ガス中の二酸化炭素濃度を十分に低減しておき、続く選択酸化工程において過剰の水素を酸素との反応により処理するようにする。これにより、水素に加えて二酸化炭素の濃度も十分低減された燃料ガスが得られる。
例えば、炭素酸化物として二酸化炭素のみを含む場合、メタン化触媒に供給される二酸化炭素に対する水素のモル比(水素/二酸化炭素)が4.04以上4.08以下程度の水素が過剰な条件でメタン化反応を行うと、メタン化工程により得られる燃料ガス中の二酸化炭素濃度を十分に低減できる。
ここで、炭素酸化物として、二酸化炭素のほかに一酸化炭素も含まれる場合には、一酸化炭素1モルは(式2)に従って、水蒸気1モルと反応して、水素1モルと二酸化炭素1モルを生成する点を考慮して、炭素酸化物に対する水素の量(モル比)を設定する必要がある。
つまり、メタン化工程に供給される、炭素酸化物に対する水素の割合が、物質量(モル)基準で計算される{(水素)+(一酸化炭素)}/{(一酸化炭素)+(二酸化炭素)}の値として、4.04以上4.08以下であるようにして、水素が過剰な条件でメタン化反応を行うことにより、メタン化工程により得られる燃料ガス中の二酸化炭素濃度を十分に低減できる。
【0030】
本発明に係る燃料ガスの製造方法の更なる特徴構成は、前記選択酸化触媒は、無機酸化物と、パラジウムおよび白金の少なくとも一つと、を含み、パラジウムおよび白金の前記少なくとも一つは、前記無機酸化物に担持されている点にある。
【0031】
この構成によると、水素と酸素との反応を十分な速度で行いつつ、水素や二酸化炭素を生成する水蒸気改質反応が抑制されるので、効果的に水素濃度が低減された燃料ガスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の燃料ガス製造方法を示すブロックフロー図である。
【
図2】二酸化炭素のメタン化反応の平衡転化率に対する温度および圧力の影響を示す図である。
【
図3】
図2の平衡転化率80~100%の領域の拡大図である。
【
図4】メタン化反応の反応器の構成の一例である(固定床断熱多段反応器)。
【
図5】固定床断熱多段反応器を用いてメタン化反応を行う場合の、各反応段における二酸化炭素のメタンへの転化率およびガス温度を示す図である。
【
図6】メタン化反応の反応器の構成の一例である(1段目出口ガスを1段目入口に戻すリサイクルラインを有する固定床断熱多段反応器)。
【
図7】メタン化反応の反応器の構造の一例である(熱交換型反応器)。
【
図8】メタン化反応の反応器の構成の一例である(1段目がリサイクルラインを有する固定床断熱反応器、2段目が熱交換型反応器)。
【
図9】二酸化炭素のメタン化反応の平衡組成(脱水後)における水素および二酸化炭素濃度に対する入口の水素/二酸化炭素比の影響を示す図である(反応圧力0.7MPa)。
【
図10】二酸化炭素のメタン化反応の平衡組成(脱水後)における水素および二酸化炭素濃度に対する入口の水素/二酸化炭素比の影響を示す図である(反応圧力5MPa)。
【
図11】本発明の燃料ガス製造方法により得られる燃料ガスの平衡組成(脱水後)における水素および二酸化炭素濃度に対する入口の水素/二酸化炭素比の影響を示す図である(酸素/水素のモル比0.45)。
【
図12】本発明の燃料ガス製造方法により得られる燃料ガスの平衡組成(脱水後)における水素および二酸化炭素濃度に対する入口の水素/二酸化炭素比の影響を示す図である(酸素/水素のモル比0.25)。
【発明を実施するための形態】
【0033】
〔実施形態〕
以下、本発明に係る燃料ガスの製造方法の実施形態について説明する。
図1は、本発明の燃料ガス製造方法を示すブロックフロー図である。本実施形態に係る燃料ガスの製造方法は、メタン化反応工程(メタン化反応器10)と、選択酸化工程(選択酸化反応器20)と、を有する。
【0034】
メタン化反応工程では、水素と炭素酸化物との混合ガス1を、メタン化反応器10に充填されたメタン化触媒に接触させて、メタン化反応を行う。このメタン化反応により、メタンを主成分とし、水素を脱水後の体積基準で2%以上10%以下含有する燃料ガス2が得られる。
【0035】
選択酸化工程では、まず、メタン化反応工程で得られた燃料ガス2に対して、流量調整弁30を介して酸素3を添加する。その後、酸素3の添加された燃料ガス2を、選択酸化反応器20に送入し、酸素3が添加された燃料ガス2を選択酸化反応器20に充填された選択酸化触媒に接触させ、酸素と水素との反応により水蒸気を生成する。この反応により、燃料ガス2に含まれていた水素が消費されるので、水素濃度が低減された燃料ガス4が得られる。
【0036】
〔メタン化反応工程の条件〕
メタン化反応工程において混合ガス1に用いる水素および炭素酸化物は、メタン化触媒の存在下にメタン化反応させるにあたって支障のない純度および性状のものである限り、どのような方法で製造されたものであっても差支えはない。水素は、例えば水を電気分解して得た電解水素であってもよい。炭素酸化物は、一酸化炭素もしくは二酸化炭素、またはそれらの混合物である。二酸化炭素は、燃焼排ガスからアミン吸収法などの公知の二酸化炭素回収方法によって回収されたものであってもよく、有機物をメタン発酵させて得られるバイオガスに含まれる二酸化炭素であってもよい。バイオガスは、通常メタンと二酸化炭素の混合ガスとして得られるが、この混合ガスから二酸化炭素を分離してメタン化反応に用いてもよく、あるいはメタンを分離することなく、メタン化反応に供してもよい。
【0037】
水素および炭素酸化物に硫黄分やハロゲン化合物、シロキサン化合物、重質炭化水素などが含まれる場合、これらがメタン化反応触媒の劣化を引き起こすことがあるので、必要に応じてメタン化反応に供する前にこれらを除去することが好ましい。
【0038】
メタン化反応工程において用いるメタン化触媒としては、NiやRuなどを含有する公知のメタン化触媒を用いることができる。
【0039】
メタン化反応工程に用いるメタン化反応器10の形式は、メタン化反応後の燃料ガス2の水素濃度が脱水後の体積基準で2%以上10%以下となる限り、特に制約はない。ただし、メタン化反応は比較的大きな発熱を伴う平衡反応であり、その平衡転化率は
図2および
図3に示すように、温度および圧力により大きく変化し、低温かつ高圧ほど高くなる。一方で、低温ではメタン化触媒の活性を確保するのが難しくなること、高圧では設備費用が高くなる問題がある。
【0040】
また、メタン化反応が比較的大きな発熱を伴うため、反応の進行に伴い、ガスの温度が上昇し、それに伴って平衡転化率が低下することも無視できない。以上のことから、メタン化反応器10として、化学プロセスで最も一般的に利用される固定床断熱型反応器を用いる場合、1段で所望の転化率を得ることは通常困難であるので、多段に反応器を連結し、反応熱により温度が上昇した出口ガスを冷却したのち、次段反応器に導入するプロセスとするのがよい。
【0041】
図4に、メタン化反応器10を、固定床断熱多段反応器として設けた場合の構成の一例を示した。この反応器構成では、メタン化反応が進行する反応器(11a~15a)と熱交換器(11b~15b)との組が5組設けられている。
図4に示すメタン化反応器10の構成で、化学量論比である水素:二酸化炭素=4:1(モル比)の原料ガスを、各段の入口温度250℃、反応圧力0.7MPaにて反応させる場合、各段の入口および出口における温度および二酸化炭素のメタンへの転化率は
図5に示す通りとなる。4段目(14a)出口で二酸化炭素のメタンへの転化率は94.3%で、この段階ではまだガス中の水素濃度(水分を除去した脱水後の体積基準。以下同様とする。)は18.3%となって、10%以下とはならない。5段目(15a)出口で二酸化炭素のメタンへの転化率が97.7%、ガス中の水素濃度が8.3%まで低下する。従って、単純な断熱の多段反応でメタン化を行う場合、水素を脱水後の体積基準で10%以下とするには、前記の温度および圧力条件では5段の反応とする必要がある。また、メタン化による発熱が大きいことによって1段目の出口温度が約700℃に達するので、触媒の耐久性の観点で問題がある。
【0042】
図6に、メタン化反応器10を、リサイクルラインを有する固定床断熱多段反応器として設けた場合の構成の一例を示した。この反応器構成では、メタン化反応が進行する反応器(11a~13a)と熱交換器(11b~13b)との組が3組設けられており、これらのうち最初の組には、熱交換後の生成物を反応器11aに戻すリサイクルライン11cが設けられている。この反応器構成を用いると、希釈効果により温度上昇が抑えられることから触媒の耐久性が改善される。加えて、反応器出口温度が低下することにより、平衡転化率が高まる効果が生じるため、単純な多段反応器の構成よりも反応器の段数を削減できる場合がある。
【0043】
図7に、メタン化反応器10を、熱交換型反応器として設けた場合の構成の一例を示した。この反応器構成では、触媒層温度を所定の温度に保ちながら反応を行うことができ、これによって、1段の反応器で高い転化率を得ることも可能である。ただし、熱交換型反応器は、構造が複雑で、設備や保守の費用が高くなる場合がある。加えて、反応による発熱と熱交換による除熱のバランスが崩れると、局所的な高温部が発生して、触媒が短時間で劣化する場合もある。
【0044】
図8に、メタン化反応器10を、リサイクルラインを有する固定床断熱反応器と、熱交換型反応器とを組み合わせて構成した一例を示した。この反応器構成では、
図6の例の2段目以降の反応器(12a、13a)と熱交換器(12b、13b)との組を、1つの熱交換型反応器で置き換えてある。この反応器構成では、触媒の耐久性を確保しつつ、反応器の段数を減らして設備費用を抑制することが可能である。
【0045】
〔メタン化反応工程の実施例〕
以下では、メタン化反応器10として
図8に示す反応器の構成を採用し、メタン化触媒を十分な量用いて、所定条件におけるメタン化反応およびCOシフト反応の平衡組成が得られているものとする。
【0046】
入口における、二酸化炭素に対する水素のモル比(水素/二酸化炭素のモル比)を3.8~4.1の範囲とし、2段目の反応温度を250℃としてメタン化反応を行うと、反応圧力が0.7MPaの場合、メタン化反応後のガスに含まれる水素および二酸化炭素の濃度は
図9に示す通りとなる。水素/二酸化炭素のモル比が4.0のとき、水素濃度は4.4%、二酸化炭素濃度は1.1%となる。水素/二酸化炭素のモル比を低下させると水素濃度は減少するが、モル比を3.8まで低下させても、水素濃度は2%以下とはならず、また二酸化炭素濃度は5.6%まで上昇する。すなわち、反応圧力が0.7MPaの場合には、水素濃度および二酸化炭素が十分低減された燃料ガスを得ることができない。
【0047】
反応圧力が5MPaの場合、メタン化反応後のガスに含まれる水素および二酸化炭素は
図10に示す通りになる。水素/二酸化炭素のモル比が4.0のとき、水素濃度は2.04%、二酸化炭素濃度は0.51%となる。この条件によれば、水素濃度2%以下かつ二酸化炭素濃度0.5%以下の品質基準(この基準は、一般的に知られる範囲で最も厳しい。)を概ね満たす燃料ガスが得られうる。しかし、この条件の場合、水素/二酸化炭素のモル比がわずかに低下するだけで、二酸化炭素濃度が上昇し、逆に水素/二酸化炭素のモル比がわずかに上昇すると水素濃度が上昇する。このように、水素/二酸化炭素のモル比のわずかな変動が、得られる燃料ガスの純度に大きく影響する。
【0048】
すなわち、水素と二酸化炭素とのメタン化反応のみでメタンが主成分の燃料ガスを得る場合、前記の水素濃度2%以下かつ二酸化炭素濃度0.5%以下の品質基準を満たす燃料ガスを得るには、使用圧力が5MPaよりも十分高い、高圧の反応設備を必要とする。
【0049】
〔選択酸化反応工程の条件〕
選択酸化反応工程において用いる酸素3は、選択酸化反応に支障ない純度および性状のものである限り、どのような方法で製造されたものであっても差支えない。例えば、メタン化反応に用いる水素を水の電気分解によって得る場合、水素に対するモル比(酸素/水素)が0.5となる量の酸素が必然的に発生するので、その一部を用いることができる。水の電気分解によって得られる酸素は通常高純度であるため、この方法が経済的に有利である。
【0050】
選択酸化反応器20における反応は、以下のように進行する。
H2 + 0.5O2 → H2O (式3)
【0051】
酸素3の添加量が少ない場合、燃料ガス4中の水素濃度の低減が不十分となる。一方、酸素3の添加量が多い場合、燃料ガス4中に酸素が残存することがあるほか、選択酸化触媒上で急激な酸化反応が進行して、触媒の劣化が問題になる場合がある。従って、酸素3の添加量は、メタン化反応工程で得られた燃料ガス2に含まれる水素に対する酸素3のモル比(酸素/水素)を、0.24以上0.45以下とするのが好ましい。
【0052】
選択酸化触媒は、酸素-水素反応(式3)に活性を有するとともに、メタンの酸素による酸化やメタンの水蒸気改質反応などのメタンを消費する反応に対しては、実質的に活性を示さないことが好ましい。メタンの酸化にも高い活性を示す触媒であると、水素濃度を効果的に低減できないばかりでなく、燃料ガスとして得られるメタンの量が減少するため、燃料ガス製造の効率が低下する場合がある。メタンの水蒸気改質反応に対して活性を示す触媒を用いると、酸素との反応で水素が減少しても、メタンの水蒸気改質反応によって新たに水素が生成されるため、燃料ガス中の水素濃度を低減することができない場合がある。このような反応選択性を示す触媒として、無機酸化物担体にパラジウムまたは白金の少なくとも一方が担持された触媒が例示される。
【0053】
メタン化反応工程においては、二酸化炭素のみを炭素酸化物として供給した場合でも、COシフト反応により、得られたメタン主成分ガス中には微量の一酸化炭素が残存する。選択酸化触媒では、水素に加えて、一酸化炭素の酸化(式4)も進行するので、一酸化炭素の低減も可能である。
CO + 0.5O2 → CO2 (式4)
【0054】
選択酸化触媒で、メタン主成分ガス中の水素を選択的に酸化する際の反応温度は、100℃以上400℃以下とすることが好ましい。選択酸化触媒は一般的に100℃以上の条件で良好な活性を示すので、反応温度を100℃以上とすると、酸素3と水素との反応(式3)および一酸化炭素と水素との反応(式4)が進行しやすい。また、反応温度を400℃以下とすると、メタンの水蒸気改質反応を抑制しやすい。反応温度は、150℃以上300℃以下とすることがより好ましい。
【0055】
なお、メタン化反応工程で得られた燃料ガス2には、炭素酸化物として二酸化炭素を用いた場合はメタンの2倍(物質量(モル)基準)、炭素酸化物として一酸化炭素を用いた場合はメタンと同量(物質量(モル)基準)の、水蒸気が含まれる。反応圧力によっては、水蒸気の凝縮が起こる可能性があり、これが触媒の損傷や活性低下などを引き起こすことがあるため、燃料ガス2を選択酸化反応器20に通じる前に、燃料ガス2から凝縮水を分離することが好ましい。
【0056】
選択酸化工程に用いる選択酸化反応器20の形式は特に限定されず、例えば、固定床断熱反応器、リサイクルラインを有する固定床断熱反応器、熱交換型反応器、などでありうる。
【0057】
〔選択酸化工程の実施例〕
以下では、メタン化反応器10として
図8に示す反応器の構成を採用し、当該メタン化反応器10の下流に、固定床断熱反応器として構成された選択酸化反応器20(不図示)を設けた場合を例として説明する。なお、この例において、メタン化反応器10ではメタン化反応およびCOシフト反応が平衡に達し、選択酸化反応器20では、酸素が水素と定量的かつ選択的に反応するものとする。
【0058】
以下の例では、メタン化反応器10における熱交換型反応器12dの反応温度を250℃に設定した。また、選択酸化反応器20は、入口温度を200℃とし、断熱条件で反応が進行するようにした。なお、反応圧力は、メタン化反応器10および選択酸化反応器20の双方において、0.7MPaとした。この場合に得られる燃料ガス4の水素および二酸化炭素の濃度を、メタン化反応器10に供給された混合ガス1の水素/二酸化炭素のモル比に対して示すと、
図11および
図12の通りとなる。
【0059】
図11は、酸素3の添加量を燃料ガス2に含まれる水素に対するモル比で0.45とした場合について、混合ガス1の組成と、燃料ガス4の水素および二酸化炭素の濃度との関係を示している。混合ガス1の水素/二酸化炭素のモル比を4.0とした場合、水素濃度は0.45%、二酸化炭素濃度は1.14%となる。同様の条件においてメタン化反応工程だけを行った場合は、水素濃度は4.4%、二酸化炭素濃度は1.1%である(
図9)から、選択酸化工程によって大幅に水素濃度が低減されていることがわかる。また、水素/二酸化炭素のモル比を4.04とした場合、水素濃度は0.58%、二酸化炭素濃度は0.45%、メタン濃度は98.97%となる。このように、水素および二酸化炭素のいずれの濃度も低くなり、高いメタン純度を達成できることがわかる。
【0060】
選択酸化反応工程では、二酸化炭素は減少させることができない。メタン化反応に供する水素/二酸化炭素のモル比を4.0よりもわずかに高めて、水素がやや過剰な条件でメタン化反応工程を行うと、メタン化反応工程後の燃料ガス2中の二酸化炭素濃度を低減することができる。ここで、水素を過剰に加えたことによって、燃料ガス2中の水素濃度が上昇するが、当該水素は選択酸化反応工程で減少させることができる。従って、上記のようにメタン純度の高い燃料ガスが得られ、メタン化工程のみによっては5MPaという高圧の反応条件でも達成できない水素濃度2%以下、二酸化炭素濃度0.5%以下の品質基準が、本実施形態に係る方法を用いると、0.7MPaという低い圧力での反応で達成できる。メタン化反応工程に供する混合ガス1の水素/二酸化炭素のモル比をさらに高めれば、得られる燃料ガス中の二酸化炭素濃度はさらに低減できる。しかし、添加する酸素3がより多く必要になることに加えて、断熱条件で選択酸化反応を行う場合には、選択酸化反応の出口温度が高くなり、水蒸気改質反応の併発にともなう水素および二酸化炭素濃度の上昇も懸念される。この観点では、メタン化反応に供する水素/二酸化炭素のモル比は4.08を超えないようにするのが好ましい。水素/二酸化炭素のモル比が4.04以上4.08以下の範囲であれば、水素濃度2%以下、二酸化炭素濃度0.5%以下の品質基準を達成しやすい。尚、炭素酸化物として二酸化炭素と一酸化炭素とを含む場合、炭素酸化物に対する水素の割合(モル比)は、物質量基準で計算される{(水素)+(一酸化炭素)}/{(一酸化炭素)+(二酸化炭素)}の値が4.04以上4.08以下を満たす値であれば、上記品質基準を達成し易い。
【0061】
図12は、酸素3の添加量を燃料ガス2に含まれる水素に対するモル比で0.25とした場合について、混合ガス1の組成と、燃料ガス4の水素および二酸化炭素の濃度との関係を示している。
図12の例では、
図11の例に比べて酸素3の添加量が少ないことから、得られる燃料ガス4中の水素濃度が
図11と比較すると高くなるものの、
図9との比較では、燃料ガス4中の水素濃度が低減されていることが理解される。混合ガス1の水素/二酸化炭素のモル比が4.04以上4.08以下の範囲であれば、水素濃度4%以下、二酸化炭素濃度0.5%以下、炭化水素以外の成分4%以下の品質基準をすべて達成しうる。この条件は、0.7MPaにおけるメタン化反応では、メタン化反応に供する混合ガスの水素/二酸化炭素のモル比をどのように設定しても実現することのできないことから、本発明の方法が、高圧の反応設備を用いることなく、高い品質の燃料ガスを製造するうえで有用であることが明らかである。尚、この場合であっても、上記と同様に、炭素酸化物として二酸化炭素と一酸化炭素とを含む場合には、炭素酸化物に対する水素の割合(モル比)は、物質量基準で計算される{(水素)+(一酸化炭素)}/{(一酸化炭素)+(二酸化炭素)}の値が4.04以上4.08以下を満たす値であれば、上記品質基準を達成し易い。
【0062】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る燃料ガスの製造方法のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0063】
上記の実施形態では、メタン化反応工程に用いるメタン化反応器10を、
図8に示すような、リサイクルラインを有する固定床断熱反応器と、熱交換型反応器とを組み合わせた構成とした例について特に説明した。しかし、本発明に係るメタン化反応工程において用いる反応器は、水素を2体積%以上10体積%以下含む燃料ガスが得られる限りにおいて、特に限定されない。かかる反応器としては、固定床断熱多段反応器や、1段式または多段式の熱交換型反応器などが例示される。
【0064】
上記の実施形態では、メタン化反応工程における圧力を0.7MPaとする例について特に説明した。しかし、本発明に係るメタン化反応工程における圧力は、水素を2体積%以上10体積%以下含む燃料ガスが得られる限りにおいて、特に限定されない。ただし、圧力が0.5MPa以上であると、メタン化反応工程において得られる燃料ガス中の水素および二酸化炭素の含有量が低減されることから、最終生成物の燃料ガス中の水素および二酸化炭素の含有量も低減しやすい。また、メタン化反応工程に用いる設備のコストを低減しやすいことから、圧力が3MPa以下であることが好ましく、1MPa以下であることがより好ましい。
【0065】
上記の実施形態では、選択酸化工程に用いる選択酸化反応器20を、固定床断熱反応器として構成した例について特に説明した。しかし本発明に係る選択酸化工程において用いる反応器は、少なくとも式3で表される反応が進行する限りにおいて、特に限定されない。かかる反応器としては、リサイクルラインを有する固定床断熱反応器や、熱交換型反応器などが例示される。
【0066】
上記の実施形態では、選択酸化工程における圧力を0.7MPaとする例について特に説明した。しかし、本発明に係る選択酸化工程における圧力は、少なくとも式3で表される反応が進行する限りにおいて、特に限定されない。ただし、圧力が0.5MPa以上であると、選択酸化触媒を多量に用いることなく、得られる燃料ガス中の水素および二酸化炭素の含有量を低減しやすい。また、選択酸化工程に用いる設備のコストを低減しやすいことから、圧力が3MPa以下であることが好ましく、1MPa以下であることがより好ましい。
【0067】
上記の実施形態では、メタン化反応工程と選択酸化工程との圧力を同一(0.7MPa)とした例について特に説明した。しかし、本発明に係るメタン化反応工程および選択酸化工程において、圧力は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0068】
上記の実施形態では、炭素酸化物として二酸化炭素のみを用いた例について特に説明した。しかし、上記の通り、本発明に係る燃料ガスの製造方法において出発原料とする炭素酸化物は、一酸化炭素もしくは二酸化炭素、またはそれらの混合物である。二酸化炭素のメタン化反応(式1)と同様に、一酸化炭素のメタン化反応(式5)も平衡反応であるため、通常の工業的な操作条件では、一酸化炭素と水素とを完全にメタンに転化することはできない。そのため、選択酸化工程を設けて水素濃度を低減することを含む本発明に係る燃料ガスの製造方法は、出発原料として一酸化炭素を用いる場合にも有効である。
CO+3H2 → CH4+H2O (式5)
【0069】
メタン化原料となる、水素、一酸化炭素および二酸化炭素を含む混合ガスは、例えばバイオマスガス化ガスに必要に応じて水素を添加したもの、固体酸化物形電解セルに水蒸気と二酸化炭素の混合ガスを供給して電気化学的に還元したものなど、多様な方法で得られうる。本発明に係る燃料ガスの製造方法は、これらのガスを原料としてメタン主成分の燃料ガスを得る場合でも、同様に有効である。
【0070】
また、本発明は、従来公知のメタン転化率の向上手段の併用を排除するものではなく、例えば、多段型反応の途中段で、反応ガスを冷却して水蒸気の一部を凝縮、分離する構成としてもよい。この場合でも、本発明の方法を用いると、水蒸気を極端に除去することなく、燃料ガス中の水素および二酸化炭素濃度を低下させることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
アルミナ担体(3mmペレット)にパラジウムを0.5質量%担持した触媒(エヌ・イーケムキャット製AP2005)6mLをSUS製反応管(内径10.7mm)に充填し、電気炉で加熱して、200℃に保った。
メタン32.6%、水蒸気65.2%、水素2.1%及び二酸化炭素0.15%からなる燃料ガス毎分400mL(0℃、101.325kPaの標準状態における体積)に、酸素を添加して、燃料ガス中の水素の対する酸素のモル比が0.24になるように調整した。この酸素を添加した燃料ガスを、圧力0.7MPa(絶対圧)の条件のもとで、前記触媒に通じた。
メタン32.6%、水蒸気65.2%、水素2.1%及び二酸化炭素0.15%の組成は、物質量基準で計算される(水素)/(二酸化炭素)の値が4.05のガスを温度255℃、圧力0.7MPa(絶対圧)でメタン化反応させた場合の平衡組成に対応しており、メタン化工程で得た、脱水後の体積基準で水素を約6%含む燃料ガスを模擬したものである。
反応後の燃料ガスを冷却して水を分離したのち、ガスクロマトグラフを用いて、メタン、水素、一酸化炭素、二酸化炭素及び酸素の濃度を定量した。
反応後の燃料ガスに含まれる各成分の濃度(脱水後の体積基準)は、水素3.2%、二酸化炭素0.44%、酸素0.01%、残部メタンであった。一酸化炭素は検出されなかった。
〔実施例2〕
酸素の添加量を変更して、燃料ガス中の水素に対する酸素のモル比を0.45としたほかは、実施例1と同様の試験を実施した。
反応後の燃料ガスに含まれる各成分の濃度(脱水後の体積基準)は、水素0.55%、二酸化炭素0.46%、酸素0.02%、残部メタンであった。一酸化炭素は検出されなかった。
〔比較例1〕
酸素を添加しなかったほかは、実施例1と同様の試験を実施した。
反応後の燃料ガスに含まれる各成分の濃度(脱水後の体積基準)は、水素6.1%、二酸化炭素0.42%、残部メタンであった。一酸化炭素は検出されなかった。
(実施例1,2および比較例1の評価)
比較例1に示すとおり、水素を含む燃料ガスに酸素を添加しない場合には、Pd/アルミナ触媒に通じても実質的に何の反応も生じない。一方、実施例1に示すとおり、水素を含む燃料ガスに、水素に対する酸素のモル比が0.24になるように酸素を添加したのちPd/アルミナ触媒に通じた場合には、水素は酸素と定量的に反応して、水蒸気となり、これは燃料ガスを冷却して、水を分離することにより除去されるから、燃料ガス中の水素濃度が低減される。実施例1の条件では、水素濃度は3.2%まで低減されているから、水素濃度4%の基準を満たすことができる。実施例2に示すとおり、水素を含む燃料ガスに、水素の対する酸素のモル比が0.45になるように酸素を添加したのちPd/アルミナ触媒に通じた場合には、水素濃度は0.55%まで低減されているから、水素濃度1%の基準であっても満たすことができる。
なお、反応後の燃料ガスに含まれる二酸化炭素濃度は、実施例1,2および比較例1について、それぞれ0.44%、0.46%、0.42%となっている。酸素を添加して、Pd/アルミナ触媒に通じたことにより、二酸化炭素が増加したようにも見えるが、水素が減少したことにより、全体のガス量が減少し、相対的に二酸化炭素の割合が増加したことが二酸化炭素濃度増加の主たる要因である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、たとえば、都市ガスとして供給するための燃料ガスを製造する方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 :混合ガス
2 :燃料ガス
3 :酸素
4 :燃料ガス
10 :メタン化反応器
11a~15a :反応器
11b~15b :熱交換器
11c :リサイクルライン
12d :熱交換型反応器
20 :選択酸化反応器
30 :流量調整弁