(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】情報処理装置、気流制御システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/79 20180101AFI20240920BHJP
F24F 11/89 20180101ALI20240920BHJP
F24F 11/62 20180101ALI20240920BHJP
F24F 11/64 20180101ALI20240920BHJP
F24F 7/007 20060101ALI20240920BHJP
F24F 120/00 20180101ALN20240920BHJP
【FI】
F24F11/79
F24F11/89
F24F11/62
F24F11/64
F24F7/007 B
F24F120:00
(21)【出願番号】P 2021007153
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】妻鹿 利宏
【審査官】佐藤 正浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-067939(JP,A)
【文献】特開2016-075443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/79
F24F 11/89
F24F 11/62
F24F 11/64
F24F 7/007
F24F 120/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の空間に設けられている複数の排気口の設置位置を特定する情報を含む空間情報を記憶する記憶手段と、
前記空間において発生した音又は前記空間の撮影画像の少なくとも一方を解析することによって、前記空間において口から飛沫を発する行為をした行為者の位置を検出する検出手段と、
前記行為者の位置と前記複数の排気口それぞれとの間にいる人の人数又は当該人の属性情報の少なくとも一方を参照して、前記行為者が発した飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口を決定する決定手段と、
を有することを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記空間情報には、更に前記空間内において気流を発生させる気流発生装置の設置位置を特定する情報が含まれており、
前記飛沫を含む空気を前記決定手段が決定した排気口に向けて流れる気流を発生させるよう前記気流発生装置の動作を制御する気流制御手段を有することを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記決定手段は、
前記複数の排気口それぞれに対して、当該排気口から前記飛沫を含む空気を排気させる気流が発生された場合に、前記行為者の位置と当該排気口との間にいる人に与える悪影響の程度を示す悪影響度を算出し、
算出した悪影響度が最小となる前記排気口を、前記飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口と決定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記行為者の位置との間にいる人の数が多い排気口ほど、前記飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口として選択されにくくなるよう前記悪影響度を算出することを特徴とする請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記属性情報には、年齢を特定する情報が含まれており、
前記決定手段は、前記行為者の位置との間にいる高齢者の数が多い排気口ほど、前記飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口として選択されにくくなるよう前記悪影響度を算出することを特徴とする請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記決定手段は、
画像情報を解析することによって、前記行為者と前記複数の排気口それぞれとの間にいる人毎に、口と鼻を覆っているか否かを判別し、
前記行為者の位置との間にいる口と鼻を覆っていない人の数が多い排気口ほど、前記飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口として選択されにくくなるよう前記悪影響度を算出する、
ことを特徴とする請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項7】
所定の空間内において気流を発生させる複数の気流発生装置の動作を制御する気流発生装置制御手段と、
前記空間内に設けられている複数の排気口及び前記複数の気流発生装置の設置位置を特定する情報を含む空間情報を記憶する記憶手段と、
前記空間において発生する音を集音する集音手段と、
前記空間内を撮影する撮影手段と、
前記集音手段により集音された音又は前記撮影手段による撮影により生成された撮影画像の少なくとも一方を解析することによって、前記空間において口から飛沫を発する行為をした行為者の位置を検出する検出手段と、
前記行為者の位置と前記複数の排気口それぞれとの間にいる人の人数又は当該人の属性情報の少なくとも一方を参照して、前記行為者が発した飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口を決定する決定手段と、
前記飛沫を含む空気を前記決定手段が決定した排気口に向けて流れる気流を発生させるよう前記気流発生装置の動作を制御する気流制御手段と、
を有することを特徴とする気流制御システム。
【請求項8】
所定の空間に設けられている複数の排気口の設置位置を特定する情報を含む空間情報を記憶する記憶手段にアクセス可能なコンピュータを、
前記空間において発生した音又は前記空間の撮影画像の少なくとも一方を解析することによって、前記空間において口から飛沫を発する行為をした行為者の位置を検出する検出手段、
前記行為者の位置と前記複数の排気口それぞれとの間にいる人の人数又は当該人の属性情報の少なくとも一方を参照して、前記行為者が発した飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口を決定する決定手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、気流制御システム及びプログラム、特に空間において人の口から発せられた飛沫を含む空気の排気に関する。
【背景技術】
【0002】
室内などの空間において、新型コロナウィルスやインフルエンザ等の感染症の感染拡大を防ぐのには、例えば、窓を定期的に開けるなどして換気を行うことが有効とされている。ただ、夏期や冬期など冷暖房を利用したい時節において窓開けを頻繁に行うと、空調負荷を増大させてしまうことになり、省エネの観点からすると好ましい対処方法とは言い難い。
【0003】
そこで、従来では、所定の空間内を撮影することによって、また空間内の音声を集音することによって咳又はくしゃみをした人物を検出し、その人物の周囲に局在している飛沫を拡散させて濃度を均一にするように、気流発生装置からの空気の風向や風量を制御する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019-239812号
【文献】特開2018-191174号公報
【文献】特開2012-218466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空気感染を防止するために、口からの飛沫を含む空気を空間の外部に排気するのが好ましい。そのためには、飛沫を含む空気が排気口から排気される気流を発生させるのが好適である。空間に複数の排気口が設けられている場合、通常であれば、咳又はくしゃみをした人物に最も近い排気口から排気するのが効果的かつ効率的であるように考えられる。
【0006】
しかしながら、咳又はくしゃみをした人物と排気口との間にいる人の状況によっては、空気感染の防止の観点からして最も近い排気口から排気することが常に最適であるとは限らない。
【0007】
本発明は、空間内にいる人の状況を考慮して、空間内に設けられている複数の排気口の中から飛沫を含む空気を空間の外部へ排気させる排気口を決定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る情報処理装置は、所定の空間に設けられている複数の排気口の設置位置を特定する情報を含む空間情報を記憶する記憶手段と、前記空間において発生した音又は前記空間の撮影画像の少なくとも一方を解析することによって、前記空間において口から飛沫を発する行為をした行為者の位置を検出する検出手段と、前記行為者の位置と前記複数の排気口それぞれとの間にいる人の人数又は当該人の属性情報の少なくとも一方を参照して、前記行為者が発した飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口を決定する決定手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、前記空間情報には、更に前記空間内において気流を発生させる気流発生装置の設置位置を特定する情報が含まれており、前記飛沫を含む空気を前記決定手段が決定した排気口に向けて流れる気流を発生させるよう前記気流発生装置の動作を制御する気流制御手段を有することを特徴とする。
【0010】
また、前記決定手段は、前記複数の排気口それぞれに対して、当該排気口から前記飛沫を含む空気を排気させる気流が発生された場合に、前記行為者の位置と当該排気口との間にいる人に与える悪影響の程度を示す悪影響度を算出し、算出した悪影響度が最小となる前記排気口を、前記飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口と決定する、ことを特徴とする。
【0011】
また、前記決定手段は、前記行為者の位置との間にいる人の数が多い排気口ほど、前記飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口として選択されにくくなるよう前記悪影響度を算出することを特徴とする。
【0012】
また、前記属性情報には、年齢を特定する情報が含まれており、前記決定手段は、前記行為者の位置との間にいる高齢者の数が多い排気口ほど、前記飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口として選択されにくくなるよう前記悪影響度を算出することを特徴とする。
【0013】
また、前記決定手段は、画像情報を解析することによって、前記行為者と前記複数の排気口それぞれとの間にいる人毎に、口と鼻を覆っているか否かを判別し、前記行為者の位置との間にいる口と鼻を覆っていない人の数が多い排気口ほど、前記飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口として選択されにくくなるよう前記悪影響度を算出する、ことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る気流制御システムは、所定の空間内において気流を発生させる複数の気流発生装置の動作を制御する気流発生装置制御手段と、前記空間内に設けられている複数の排気口及び前記複数の気流発生装置の設置位置を特定する情報を含む空間情報を記憶する記憶手段と、前記空間において発生する音を集音する集音手段と、前記空間内を撮影する撮影手段と、前記集音手段により集音された音又は前記撮影手段による撮影により生成された撮影画像の少なくとも一方を解析することによって、前記空間において口から飛沫を発する行為をした行為者の位置を検出する検出手段と、前記行為者の位置と前記複数の排気口それぞれとの間にいる人の人数又は当該人の属性情報の少なくとも一方を参照して、前記行為者が発した飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口を決定する決定手段と、前記飛沫を含む空気を前記決定手段が決定した排気口に向けて流れる気流を発生させるよう前記気流発生装置の動作を制御する気流制御手段と、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係るプログラムは、所定の空間に設けられている複数の排気口の設置位置を特定する情報を含む空間情報を記憶する記憶手段にアクセス可能なコンピュータを、前記空間において発生した音又は前記空間の撮影画像の少なくとも一方を解析することによって、前記空間において口から飛沫を発する行為をした行為者の位置を検出する検出手段、前記行為者の位置と前記複数の排気口それぞれとの間にいる人の人数又は当該人の属性情報の少なくとも一方を参照して、前記行為者が発した飛沫を含む空気を前記空間の外部へ排気させる排気口を決定する決定手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、空間内にいる人の状況を考慮して、空間内に設けられている複数の排気口の中から飛沫を含む空気を空間の外部へ排気させる排気口を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施の形態における気流制御システムが適用される部屋全体を示す模式図である。
【
図2】本実施の形態における気流制御システムのブロック構成図である。
【
図3】本実施の形態における情報処理装置のハードウェア構成図である。
【
図4】本実施の形態における気流制御処理を示すフローチャートである。
【
図5】本実施の形態における悪影響度算出処理を示すフローチャートである。
【
図6】本実施の形態における悪影響度の計算方法を表形式にて示す図である。
【
図7】本実施の形態における気流制御システムにおいて、飛沫を含む空気を排気する換気装置を決定する処理を説明するために用いる図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態における気流制御システムが適用される部屋全体を示す模式図である。
図1は、ある施設のある部屋1を上方から見たときの平面図である。本実施の形態においては、所定の空間として閉空間を形成する部屋1を例にして説明する。室内の状況に関しては、追って説明するが、説明の便宜上、
図1では、部屋1の天井に設置されている機器や部屋1の床に立っている人等を区別なく図示している。
【0020】
図1に示す部屋1の天井には、換気装置2、空調機3、カメラ4、マイク5の各種機器が設置されている。
【0021】
換気装置2は、室内の空気を室外へ排気させる排気口となる。換気装置2は、動作が制御されることにより駆動又は停止され、駆動時には、強弱等排気の強度が設定可能である。
図1には、4箇所に散在させて配置される換気装置2が示されている。
【0022】
空調機3は、暖気、冷気を送出することで部屋1の空調を行う。空調機3は、動作が制御されることにより駆動又は停止され、駆動時には、風量、風速、風向等が設定可能である。本実施の形態におくる空調機3は、室内において気流を発生させる気流発生装置として機能する。
図1には、部屋1の2箇所に配置される空調機3が示されている。
【0023】
カメラ4は、室内を撮影する撮影手段である。カメラ4は、少なくとも部屋1に人が在室している間は撮影する。カメラ4の設置台数や設置場所は、特に決める必要はないが、1又は複数のカメラ4によって室内全体、すなわち室内にいる人全員を撮影する必要がある。
図1には、4台のカメラ4を部屋1の天井の四隅付近に設置する例が示されている。
【0024】
マイク5は、室内において発生した音を集音する集音手段である。本実施の形態では、在室者の咳、くしゃみ、話し声を集音する目的でマイク5を設置する。咳、くしゃみ、話し声等これらの人の行為は、口から飛沫を発する可能性がある。換言すると、口から飛沫を発する可能性がある人の行為の例として、本実施の形態では、咳、くしゃみ、話し声、特に所定以上の音量の発声を口から飛沫が発せられる可能性のある行為と想定する。マイク5の設置台数や設置場所、また性能は、特に決める必要はないが、1又は複数のマイク5によって室内において飛沫を発する可能性がある音を集音する必要はある。
図1では、マイク5を二重丸で示しており、天井に6箇所設定している例を示している。
【0025】
また、部屋1の出入口となるドア6の近傍には、図示しない入退館管理システムが備えるカードリーダ7が設置されている。部屋1を出入りするとき、人は、携帯しているICカードをカードリーダ7にかざすことによって、ICカードに記録されている個人を識別可能な情報、例えばユーザIDやカードIDを読み取らせる。これにより、部屋1にいる者、すなわち在室者8を特定できる。
図1では、在室者8を丸で示している。
【0026】
なお、前述したように、各種機器2~5は、それぞれの機能、目的が発揮できれば、
図1に例示した位置及び数で設置することに限定する必要はない。
【0027】
図2は、本実施の形態における気流制御システムのブロック構成図である。なお、本実施の形態の説明に用いない構成要素については、図から省略している。
図2には、部屋1と情報処理装置10と空調システム20と入退館管理システム30とが示されている。部屋1には、
図1を用いて説明したように、換気装置2、空調機3、カメラ4及びマイク5が設置されている。
【0028】
空調システム20は、施設に設置されている換気装置2や空調機3等の空調設備の運用管理、動作制御等の空調設備全般の管理を行うためのシステムである。空調システム20は、換気コントローラ21及び空調コントローラ22を有している。換気コントローラ21は、気流制御部17による制御の下、換気装置2の動作を制御する。空調コントローラ22は、気流制御部17による制御の下、空調機3の動作制御を行うことで、人の口から発せられた飛沫を含む空気を、情報処理装置10により決定された換気装置2に向けて流れる気流を発生させる。
【0029】
入退館管理システム30は、部屋1を有する施設において施設及び各部屋の人の入退を管理するためのシステムである。施設の利用者は、前述したようにICカードを携帯しており、ドア6の近傍に設置されているカードリーダ7にICカードをかざすことによって入室及び退室が管理される。個人属性情報送信部31は、人が部屋1に入室したことが検知されると、その人の個人属性情報をシステム内部のデータベースから読み出し、情報処理装置10へ送信する。個人属性情報には、ICカードの携帯者の年齢を特定する情報、例えば年齢や生年月日等が含まれている。
【0030】
空調システム20及び入退館管理システム30は、施設に既存のシステムを利用してもよい。但し、個人属性情報送信部31は、入退館管理システム30において、前述した本実施の形態に特有の機能を実現する。
【0031】
本実施の形態の気流制御システムは、情報処理装置10と、既存の空調システム20及び入退館管理システム30が連携して、後述する機能を提供する。本実施の形態における気流制御システムに主要部を成す情報処理装置10は、パーソナルコンピュータ(PC)等の従前から存在する汎用的なハードウェア構成で実現できる。
【0032】
図3は、本実施の形態における情報処理装置10を形成するコンピュータのハードウェア構成図である。本実施の形態における情報処理装置10は、
図3に示すようにCPU41、ROM42、RAM43、記憶手段としてのハードディスクドライブ(HDD)44、通信手段として設けられたネットワークインタフェース(IF)45、マウスやキーボード等の入力手段及びディスプレイ等の表示手段を含むユーザインタフェース(UI)46を内部バス47に接続して構成される。
【0033】
図2に戻り、本実施の形態における情報処理装置10は、音情報取得部11、画像情報取得部12、個人属性情報取得部13、追跡部14、人位置検出部15、気流経路決定部16、気流制御部17及び設備情報記憶部19を有している。
【0034】
音情報取得部11は、マイク5により集音された音を含む音情報を取得する。音情報には、集音された音データ、音の集音日時、音を集音したマイク5を識別する識別情報が含まれる。
【0035】
画像情報取得部12は、カメラ4による撮影により生成される画像を含む画像情報を取得する。画像情報には、撮影画像データ、撮影日時、撮影したカメラ4を識別する識別情報が含まれる。
【0036】
個人属性情報取得部13は、部屋1への入室が検知されることに応じて入退館管理システム30から送信されてくる個人属性情報を受信することにより取得する。
【0037】
部屋1への入室者は、通常、ドア6の位置から室内のいずれかの場所に移動することになるが、追跡部14は、画像情報を解析することによって入室者の移動を追跡すると共に、入室者と当該入室者の個人属性情報を紐付ける。なお、入室者は、部屋1から退出するまで在室することになるので、以降の説明では、「入室者」と「在室者」は同義の語として用いる。
【0038】
人位置検出部15は、画像情報を解析することによって室内における各在室者の位置を検出する。また、人位置検出部15は、音情報を解析することによって部屋1において口から飛沫を発する行為、すなわち前述した咳、くしゃみ、あるいは大声を検出し、当該行為をした行為者の位置を検出する。以下の説明では、飛沫を発する行為を単に「咳等」と省略して称することにする。本実施の形態では、在室者のうち咳等をした者を特に「行為者」と称することにすると、人位置検出部15は、検出した在室者の位置と音情報から特定した行為者の位置を照合することによって在室者の中から行為者を特定する。
【0039】
気流経路決定部16は、検出された行為者の位置と複数の換気装置2それぞれとの間にいる在室者の人数又は当該在室者の個人属性情報の少なくとも一方を参照して、行為者が発した飛沫を含む空気を部屋1の外部へ排気させる排気口となる換気装置2を決定する。これにより、気流経路決定部16は、飛沫を含む空気を部屋1の外部に排気させる気流の経路を決定する。気流経路決定部16は、悪影響度算出部161及びマスク検出部162を有している。悪影響度算出部161は、悪影響度を換気装置2毎に算出する。本実施の形態では、前述したように、咳等により口から排出された飛沫を含む空気を、咳等の行為者の位置からいずれかの換気装置2まで気流を発生させて、部屋1の外部に排気させることになるが、「悪影響度」というのは、ある換気装置2から飛沫を含む空気を排気させる気流を発生させた場合に、在室者に与える悪影響、特に行為者と当該換気装置2との間にいる在室者8に与える悪影響の程度を示す指標である。本実施の形態においては、悪影響度が示す値が大きいほど、在室者8に悪影響を与えることになる。マスク検出部162は、画像情報を解析することによって、検出された在室者が口と鼻を覆うマスクをしているか否かを判別する。
【0040】
気流制御部17は、飛沫を含む空気を、気流経路決定部16により決定された換気装置2に向けて流れる気流を発生させるよう空調機3の動作を制御する。また、換気装置2の動作を制御する。
【0041】
設備情報記憶部19には、部屋1に設置されている設備、すなわち各種機器2~5に関する設備情報が記憶される。設備情報には、例えば、各種機器2~5の設置位置を特定する情報、機能、仕様等に関する情報が含まれる。
【0042】
情報処理装置10における各構成要素11~17は、情報処理装置10を形成するコンピュータと、コンピュータに搭載されたCPU41で動作するプログラムとの協調動作により実現される。また、設備情報記憶部19は、情報処理装置10に搭載されたHDD44にて実現される。あるいは、RAM43又は外部にある記憶手段をネットワーク経由で利用してもよい。
【0043】
また、本実施の形態で用いるプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD-ROMやUSBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。通信手段や記録媒体から提供されたプログラムはコンピュータにインストールされ、コンピュータのCPU41がプログラムを順次実行することで各種処理が実現される。
【0044】
次に、本実施の形態における動作について説明する。
【0045】
本実施の形態においては、気流制御システムが動作している間、室内の様子をマイク5は常時集音し、カメラ4は常時撮影している。これに伴い、音情報取得部11はマイク5から音情報を収集し、画像情報取得部12はカメラ4から画像情報を収集する。
【0046】
また、入退館管理システム30は、部屋1への入退室を常時監視している。情報処理装置10が動作している間、部屋1への入室が検出された場合、個人属性情報送信部31は、入室者の個人属性情報を所定のデータベースから読み出し、情報処理装置10へ送信する。
【0047】
情報処理装置10において、個人属性情報取得部13が入退館管理システム30から送信されてきた個人属性情報を受信することによって取得すると、追跡部14は、画像情報を解析することによって入室者の位置を検出し、その検出した入室者と、個人属性情報取得部13が取得した個人属性情報を紐づける。その後、追跡部14は、画像情報を解析することによって室内における入室者の位置を追跡することによって入室者の現在位置を検出する。結果として、追跡部14は、入室者、すなわち在室者が室内のどの位置にいるのかを把握できる。また、各在室者の個人属性情報を提供することができる。
【0048】
また、空調システム20は、空調設備の運用や在室者の設定等に従って換気装置2及び空調機3の動作を制御している。咳等が検出されていない時点における空調設備の動作については、特に限定する必要はない。
【0049】
本実施の形態においては、在室者が咳等をすることによって口から発せられた飛沫を含む空気が室内に滞留することになるが、この飛沫を含む空気を部屋1の外部に排気することによって、在室者8への空気感染が発生しにくい室内環境となるように気流制御を行う。飛沫を含む空気を排気する経路としては、拡散防止という観点からすると、一般的には、咳等をした行為者から最も近い位置にある換気装置2から排気するのが最適であるようにも考えられる。しかしながら、咳等をした行為者と最も近い換気装置2との間に在室者が多数存在する場合、最も近い換気装置2までの排気経路の選択が最適であるといえない可能性が生じてくる。
【0050】
そこで、本実施の形態においては、室内における在室者の分布、特に行為者と換気装置2との間にいる在室者8の人数や在室者8の属性等を考慮して、排気口として最適と考えられる換気装置2を選択し、その選択した換気装置2から飛沫を含む空気を部屋1の外部に排気できるよう気流制御を行うようにした。以下、本実施の形態において特徴とする気流制御処理について、
図4に示すフローチャートを用いて説明する。
【0051】
人位置検出部15は、音情報取得部11が収集した音情報を常時取得し、解析することによって、咳等の行為が行われたかどうかを監視している。この咳等の行為の検出自体は、既存技術を利用してもよい。本実施の形態では、説明を簡略化するために音情報を解析することで咳等の行為を検出するようにしたが、画像情報を常時取得し、解析することによって、咳等の行為を検出するようにしてもよい。例えば、在室者8が口を押さえる行動や口を大きく開く動作を検出することによって飛沫を発する行為をしたと推定する。人位置検出部15は、音情報に含まれる音又は画像情報に含まれる撮影画像の少なくとも一方を解析することによって、部屋1において口から飛沫を発する行為を検出する。
【0052】
人位置検出部15は、いずれの在室者8からも咳等の行為を検出しない間(ステップ110でN)、検出する処理を繰り返し実行する。そして、いずれかの在室者から咳等の行為を検出した場合(ステップ110でY)、人位置検出部15は、音情報に含まれる音量等を解析することによって音の発生位置を特定する。つまり、咳等をした行為者の位置を特定する(ステップ120)。本実施の形態では、前述したように、空気感染防止のために咳等により口から排出された飛沫を含む空気をいずれかの換気装置2を排気口として部屋1の外部へ排気するが、そのために、本実施の形態においては、悪影響度を換気装置2毎に算出する(ステップ130)。以下、本実施の形態における悪影響度算出処理について、
図5に示すフローチャートを用いて説明する。
【0053】
まず、咳等をした行為者の位置は人位置検出部15により特定され、換気装置2の設置位置は設備情報記憶部19を参照することによって得ることができる。従って、悪影響度算出部161は、行為者と各換気装置2までの距離を算出する。
【0054】
図6は、悪影響度算出部161が悪影響度の計算方法を表形式にて示す図である。
図6には、悪影響度を算出する項目と、当該項目におけるポイントの計算方法が示されている。本実施の形態では、
図6に示すように悪影響度をポイントにて算出する。なお、
図6に示すポイントの計算方法は一例だって、これに限る必要はない。また、
図6では、高齢者に対するポイントの加算量が1人につき2ポイントと、他の項目より大きくなるように設定されているが、これに限る必要はない。
【0055】
ステップ131においては、換気装置2までの距離に応じて悪影響度が算出される。
図6では、距離1mに対して1ポイントが加算される計算例が示されている。つまり、行為者と換気装置2との間の距離が長いほど、ポイント、つまり悪影響度の値は大きくなる。これにより、行為者と換気装置2との間の距離が長いほど悪影響度は大きくなり、当該換気装置2が排気口として選択されにくくなる。
【0056】
ところで、口からの飛沫を含む空気を、最も近い換気装置2から排気するのが好ましいと考えられる。しかしながら、空気感染を極力防止させるためには、必ずしもそうとは言い切れない。
【0057】
図7は、本実施の形態における気流制御システムが適用される部屋全体を示す模式図であり。部屋1のレイアウトや人の位置に関しては、
図1と同じ図である。
図7において、例えば、在室者8aが咳等をした行為者であるとする。この場合、行為者から発せられた飛沫を含む空気の排気経路は、一点鎖線の矢印A,B,C,Dで示される各換気装置2a~2dまでの経路が考えられる。そして、
図7においては、行為者の位置からは、換気装置2bまでが最も近いので、飛沫を含む空気を換気装置2bから排気するのが好ましいとも考えられる。
【0058】
しかしながら、
図7に示す在室者の位置によると、行為者と換気装置2bとの間には、破線8bで囲む他の在室者(以下、「在室者8b」)が存在している。この場合、行為者からの飛沫を含む空気を換気装置2bから排気するようにすると、在室者8bが空気感染してしまう可能性が生じてくる。
【0059】
そこで、本実施の形態においては、行為者と各換気装置2a~2dまでの距離のみならず、後述するように行為者の位置と各換気装置2a~2dとの間にいる在室者の人数や当該在室者の属性情報を参照して、行為者が発した飛沫を含む空気を部屋1の外部へ排気させる換気装置2を決定するようにした。なお、換気装置2a~2dは、相互に区別する必要はない場合は「換気装置2」と総称する。
【0060】
行為者と換気装置2との間の距離を参照することについては、前述したが、本実施の形態における悪影響度算出部161は、更に行為者と各換気装置2a~2dとの間にいる在室者8の人数に応じた悪影響度を算出する(ステップ132)。部屋1の在室者(行為者を含む)の位置と換気装置2の位置は、既知の情報なので、悪影響度算出部161は、行為者と各換気装置2a~2dとの間にいる在室者8の人数を求める。
図7では、行為者から発せられた飛沫を含む空気の排気経路は、一点鎖線の矢印A,B,C,Dで示したが、この矢印に所定の幅を持たせ、その幅が示す範囲内にいる在室者の人数をカウントするようにしてもよい。
図6を参照すると、その1人の在室者8に対して1ポイントを加算することで人数に対する悪影響度を示すポイントが算出できる。行為者と換気装置2との間にいる在室者8の人数が多いほど、悪影響度が示す値は大きくなるので、当該換気装置2は排気口として選択されにくくなる。
【0061】
なお、ここでは、単に行為者と換気装置2との間にいる在室者8の人数を求めるようにした。ただ、飛沫を含む空気は、行為者から換気装置2に向けて流れるので、行為者の方を向いているより換気装置2の方を向いている方が飛沫を吸いにくく、よって悪影響を受けにくいと考えられる。従って、画像情報から顔の向いている方向を検出して、その顔の向きに応じて加算するポイントの値を異ならせるようにしてもよい。
【0062】
ところで、マスクを着用しているかどうかで空気感染のリスクが変わってくると考えられる。そこで、マスク検出部162は、画像情報取得部12が収集した画像情報を解析することによって行為者と各換気装置2a~2dとの間にいる在室者8がマスクを着用しているかどうかを判別する。マスクを着用しているかどうかは、口付近の色と皮膚の色との違いや矩形形状等の物体の検出の有無等で判別してよい。また、マスクをしている部分は熱がこもるので、赤外線カメラを用いて室内を撮影するようにしてもよい。本実施の形態において、マスクの有無に関しては既存技術を利用して検出する。
図6を参照すると、マスクをしていない在室者は、マスクをしている在室者より感染リスクが高くなるので、悪影響度算出部161は、マスク検出部162が検出したマスクをしていない在室者1人につき0.5ポイントを加算することでマスク無しに対する悪影響度を示すポイントを算出する(ステップ133)。このように、マスクをしていない人数が多いほど、悪影響度が示す値は大きくなるので、当該換気装置2は排気口として選択されにくくなる。
【0063】
なお、上記説明では、マスクの着用の有無としたが、例えばマスク以外の物や手などで口と鼻を覆っても、マスクと同様に飛沫を含む空気の吸引を回避できるので、画像情報を解析することによってそのようなマスク以外の物や人の行動を検出できた場合、マスクの着用と同等に取り扱うようにしてもよい。
【0064】
ところで、高齢者は、相対的に体力の面が劣っているため感染しやすい、あるいは感染した場合に重症化しやすいと考えられる。各在室者8の個人属性情報を追跡部14から取得することで、行為者と各換気装置2a~2dとの間にいる在室者8が高齢者であるかどうかを認識できるので、悪影響度算出部161は、高齢者1人につき2ポイントを加算することで高齢者に対する悪影響度を示すポイントを算出する(ステップ134)。このように、高齢者の人数が多いほど、悪影響度が示す値は大きくなるので、当該換気装置2は排気口として選択されにくくなる。
【0065】
なお、上記説明では、高齢者に限定したが、高齢者に限定せず、例えば、既往履歴等の情報が個人属性情報に含まれていれば、このような個人属性を参照して悪影響度を示すポイントを計算するようにしてもよい。
【0066】
以上のようにして、悪影響度算出部161は、各項目につき悪影響度を算出したが、各ステップ131~134において算出した悪影響度を換気装置2毎に合算することによって各換気装置2a~2dの悪影響度を算出する(ステップ135)。
【0067】
なお、前述した各ステップ131~134は、
図5に示す順番に処理しなくてよい。また、ステップ132~134においては、全ての項目について悪影響度を算出しなくても、少なくとも1つの項目について実行するようにしてもよい。
【0068】
以上のようにして換気装置2毎に悪影響度を算出すると、気流経路決定部16は、各換気装置2の悪影響度を比較し、悪影響度が最小となる換気装置2を、飛沫を含む空気の排気口として決定する(ステップ140)。
【0069】
以上のようにして、排気口とする換気装置2を決定すると、気流経路決定部16は、その換気装置2と行為者の位置を気流制御部17に通知する。気流制御部17は、設備情報記憶部19を参照することで、排気口とする換気装置2の位置を得ることができる。これにより、行為者と排気口との位置、すなわち、発生させるべき気流の方向を特定することができるので、気流制御部17は、行為者から排気口へ気流が発生されるよう空調システム20に気流の制御を指示する(ステップ150)。
【0070】
空調システム20では、行為者から排気口に向けた気流が発生するように空調機3の動作を制御する。また、空気の流れを促進させるように、排気口となる換気装置2を強にするなど運転強度を強くする。
【0071】
本実施の形態によれば、室内にいる在室者8、特に咳等をした行為者と換気装置2との間にいる在室者8の人数や属性を考慮することによって、在室者8への空気感染を防止しつつ、飛沫を含む空気を部屋1の外部へ排気させる排気口を決定することができる。
【0072】
なお、本実施の形態では、省エネの観点から部屋1の窓は、閉め切った状態であることを想定している。特に、省エネの対象となるエネルギーとして電力を想定して説明したが、電力に限らず、ガス等の他のエネルギー資源にも適用可能である。
【0073】
その一方、省エネという点を考慮しなければ、窓を排気口として選択するようにしてもよい。この場合、窓の開度、風等室外における空気の流れの向きや強さなどを考慮するのが好適である。
【符号の説明】
【0074】
1 部屋、2,2a~2d 換気装置、3 空調機、4 カメラ、5 マイク、6 ドア、7 カードリーダ、10 情報処理装置、11 音情報取得部、12 画像情報取得部、13 個人属性情報取得部、14 追跡部、15 人位置検出部、16 気流経路決定部、17 気流制御部、19 設備情報記憶部、20 空調システム、21 換気コントローラ、22 空調コントローラ、30 入退館管理システム、31 個人属性情報送信部、41 CPU、42 ROM、43 RAM、44 ハードディスクドライブ(HDD)、45 ネットワークインタフェース(IF)、46 ユーザインタフェース(UI)、47 内部バス、161 悪影響度算出部、162 マスク検出部。