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特許7558086電子ビーム加工機、および電子ビーム加工機の調整方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電子ビーム加工機、および電子ビーム加工機の調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/305 20060101AFI20240920BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20240920BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240920BHJP
   H01J 37/30 20060101ALI20240920BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20240920BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01J37/305 A
H01L21/30 541B
H01L21/30 541D
G03F7/20 504
H01J37/30 A
H01J37/147 E
H01J37/244
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021034240
(22)【出願日】2021-03-04
(65)【公開番号】P2022134820
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 旭涛
(72)【発明者】
【氏名】石見 泰造
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭40-022519(JP,B2)
【文献】特開平08-083740(JP,A)
【文献】特開平03-133039(JP,A)
【文献】特開昭57-113549(JP,A)
【文献】特開昭62-024548(JP,A)
【文献】特開平07-335158(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110253130(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
H01L 21/027
G03F 7/20
B23K 15/00-15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生するための三極部と、発生した前記電子ビームを偏向させる偏向手段と、電子ビームを照射対象物に対して集束させる集束手段とを備えた電子銃と、
前記照射対象物と前記電子銃との間に設置され、前記電子ビームが当たることにより検出信号を出力する2個の検出センサが前記電子ビームの中心軸に垂直な面内において離隔して配置された検出部と、
前記検出部の出力を解析して、前記偏向手段により偏向されないときの電子ビームの軸である電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通るように前記電子銃と前記検出部の相対位置を調整する位置調整機構とを備え、
前記電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通っていると判断したときの、前記偏向手段への目標偏向位置指令からの前記電子ビームの偏向の遅れのデータに基づいて、前記偏向手段への指令値を決定する電子ビーム加工機。
【請求項2】
前記電子ビームは、離隔して配置された前記2個の検出センサの間を通過して前記照射対象物に照射されるよう構成された請求項1に記載の電子ビーム加工機。
【請求項3】
前記電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通っていると判断したときの、前記偏向手段への目標偏向位置指令からの前記電子ビームの偏向の遅れのデータは、前記検出部の中心と一方の前記検出センサとの距離に応じた時間であって、前記偏向手段によって前記電子ビームが偏向を開始してから前記検出センサに当たり始めるまでの時間に基づいて求められたものである請求項1または2に記載の電子ビーム加工機。
【請求項4】
前記電子ビームの偏向の遅れのデータは、前記検出部の中心と一方の前記検出センサとの距離が異なる距離において取得された複数のデータである請求項3に記載の電子ビーム加工機。
【請求項5】
前記検出部は、前記2個の検出センサが離隔したときの中央位置を前記検出部の中心として設定する請求項1から4のいずれか1項に記載の電子ビーム加工機。
【請求項6】
前記偏向手段は、主偏向器と副偏向器とを有し、前記主偏向器への目標偏向位置指令からの前記電子ビームの偏向の遅れのデータに基づいて、前記副偏向器への指令値を決定する請求項1から5のいずれか1項に記載の電子ビーム加工機。
【請求項7】
前記偏向手段は、少なくとも主偏向器を有し、前記主偏向器への目標偏向位置指令からの前記電子ビームの偏向の遅れのデータに基づいて、前記主偏向器への指令値を決定する請求項1から5のいずれか1項に記載の電子ビーム加工機。
【請求項8】
前記位置調整機構は、前記検出部に備えられた前記検出センサを移動させることにより、前記検出部の中心の位置を調整するよう構成されている請求項1からのいずれか1項に記載の電子ビーム加工機。
【請求項9】
前記位置調整機構は、前記電子銃を移動させることにより前記電子ビームの中心軸の位置を調整するよう構成されている請求項1からのいずれか1項に記載の電子ビーム加工機。
【請求項10】
電子ビームを発生するための三極部と、発生した前記電子ビームを偏向させる偏向手段と、電子ビームを照射対象物に対して集束させる集束手段とを備えた電子銃と、
前記照射対象物と前記電子銃との間に設置され、前記電子ビームが当たることにより検出信号を出力する2個の検出センサが前記電子ビームの中心軸に垂直な面内において離隔して配置された検出部と、
前記電子銃と前記検出部の相対位置を調整する位置調整機構とを備えた電子ビーム加工機の調整方法であって、
前記検出部の出力を解析して、前記偏向手段により偏向されないときの電子ビームの軸である前記電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通るように前記位置調整機構により前記電子銃と前記検出部の相対位置を調整する位置調整プロセスと、
前記電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通るようになった後の前記偏向手段への目標偏向位置指令からの前記電子ビームの偏向の遅れのデータに基づいて、前記偏向手段への指令値を決定する偏向遅れ補正プロセスと、
を備えた電子ビーム加工機の調整方法。
【請求項11】
前記電子ビーム加工機が、前記電子ビームが、離隔して配置された前記2個の検出センサの間を通過して前記照射対象物に照射されるよう構成されている請求項10に記載の電子ビーム加工機の調整方法。
【請求項12】
前記電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通っていると判断したときの、前記偏向手段への目標偏向位置指令からの前記電子ビームの偏向の遅れのデータを、前記検出部の中心と一方の前記検出センサとの距離に応じた時間であって、前記偏向手段によって前記電子ビームが偏向を開始してから前記検出センサに当たり始めるまでの時間に基づいて求める請求項10または11に記載の電子ビーム加工機の調整方法。
【請求項13】
前記電子ビームの偏向の遅れのデータを、前記検出部の中心と一方の前記検出センサとの距離を変更して複数取得する請求項12に記載の電子ビーム加工機の調整方法。
【請求項14】
前記位置調整プロセスにおいて、前記検出部に備えられた前記検出センサを移動させることにより、前記電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通るように調整する請求項10または11に記載の電子ビーム加工機の調整方法。
【請求項15】
前記位置調整プロセスにおいて、前記電子銃を移動させることにより、前記電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通るように調整する請求項10または11に記載の電子ビーム加工機の調整方法。
【請求項16】
前記偏向手段が主偏向器と副偏向器とを有しており、
前記偏向遅れ補正プロセスにおいて、前記主偏向器への目標偏向位置指令からの前記電子ビームの偏向の遅れのデータに基づいて、前記副偏向器への指令値を決定する請求項10から15のいずれか1項に記載の電子ビーム加工機の調整方法。
【請求項17】
前記偏向手段が少なくとも主偏向器を有しており、
前記偏向遅れ補正プロセスにおいて、前記主偏向器への目標偏向位置指令からの前記電子ビームの偏向の遅れのデータに基づいて、前記主偏向器への指令値を決定する請求項10から15のいずれか1項に記載の電子ビーム加工機の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電子ビーム加工機、およびその調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを用いた加工機においては、電子ビームを偏向させることにより対象物に対して電子ビームを移動させながら照射して溶接あるいは加熱といった処理を行う。電子ビームを金属多点スポット溶接あるいは加熱等の用途に適用する場合、電子ビームを偏向して位置決めしながら走査することにより対象物に照射する。電子ビームを偏向させる偏向器の駆動部の応答遅れ、あるいは偏向器自身及び周囲金属部品の渦電流の影響、偏向器の鉄心の磁気余効などにより、電子ビームを所定速度で目標の指令位置に位置決めできない、あるいは位置決めできたとしても実際の偏向位置が指令位置より遅れる偏向遅れが発生することがあった。高速かつ高精度の偏向を実現するため、このような電子ビームの偏向遅れを補正することが要求されている。
【0003】
電子ビームの偏向遅れを補正する技術として、例えば、電子ビームを十字の金ワイヤーに当てて実際の偏向位置を測定し、測定位置と偏向指令の差分を求め、その差分を補正値として副偏向器の入力に加算し、主偏向器の応答遅れ、あるいは渦電流による偏向遅れを補正する技術があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-83740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術によれば、電子線描画装置として、三極部から放出される電子ビームが主偏向器により偏向されて試料の主フィールドに位置決めされ、主偏向器よりも高速偏向が可能な副偏向器により細分フィールド内で走査されて試料の描画を行う。電子ビームの偏向遅れを補正するため、電子ビームを十字の金ワイヤー検出器に当てて電子ビームの偏向位置を検出する。検出した偏向位置と主偏向器に加えた位置指令の差分を求め、この差分を補正値として副偏向器の駆動部の入力に加算することで電子ビームの偏向遅れを補正する。
【0006】
特許文献1に開示されている技術によれば、電子ビームの偏向位置の遅れを補正することができるが、三極部内部の陰極の据付誤差または検出器自身の配置誤差等の発生は避けることができない。このため、検出器により検出された信号に誤差が含まれ、電子ビームの偏向位置の遅れの補正精度を低下させる問題があった。特に、電子ビームを主偏向器により中心軸の左右または前後に偏向する場合、電子ビームを左右または前後に偏向して検出した信号が非対称となり、電子ビームの偏向遅れの補正精度を低下させる問題があった。更に、上記に述べた補正方法では、検出器を電子ビームの下に移動して電子ビームの偏向遅れを検出してから検出器を再び移出する作業が必要となり、装置の使用が煩雑になるだけでなく、対象物への描画中に偏向遅れを検出し補正することができない問題があった。
【0007】
本願は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、作業が簡単で、高速かつ高精度の偏向による位置決めができる電子ビーム加工機を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示される電子ビーム加工機は、電子ビームを発生するための三極部と、発生した前記電子ビームを偏向させる偏向手段と、電子ビームを照射対象物に対して集束させる集束手段とを備えた電子銃と、前記照射対象物と前記電子銃との間に設置され、前記電子ビームが当たることにより検出信号を出力する2個の検出センサが前記電子ビームの中心軸に垂直な面内において離隔して配置された検出部と、前記検出部の出力を解析して、前記偏向手段により偏向されないときの電子ビームの軸である電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通るように前記電子銃と前記検出部の相対位置を調整する位置調整機構とを備え、前記電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通っていると判断したときの、前記偏向手段への目標偏向位置指令からの前記電子ビームの偏向の遅れのデータに基づいて、前記偏向手段への指令値を決定するものである。
【0009】
また、本願に開示される電子ビーム加工機の調整方法は、電子ビームを発生するための三極部と、発生した前記電子ビームを偏向させる偏向手段と、電子ビームを照射対象物に対して集束させる集束手段とを備えた電子銃と、前記照射対象物と前記電子銃との間に設置され、前記電子ビームが当たることにより検出信号を出力する2個の検出センサが前記電子ビームの中心軸に垂直な面内において離隔して配置された検出部と、前記電子銃と前記検出部の相対位置を調整する位置調整機構とを備えた電子ビーム加工機の調整方法であって、前記検出部の出力を解析して、前記偏向手段により偏向されないときの電子ビームの軸である前記電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通るように前記位置調整機構により前記電子銃と前記検出部の相対位置を調整する位置調整プロセスと、前記電子ビームの中心軸が前記検出部の中心を通るようになった後の前記偏向手段への目標偏向位置指令からの前記電子ビームの偏向の遅れのデータに基づいて、前記偏向手段への指令値を決定する偏向遅れ補正プロセスと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本願に開示される電子ビーム加工機によれば、上記のように構成されているため、偏向遅れを精度よく補正することができ、作業が簡単で、高速且つ高精度の偏向による位置決めができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1による電子ビーム加工機の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1による電子ビーム加工機の動作を説明するための、主偏向指令と電子ビームの実際の偏向位置の関係の一例を示す線図である。
図3】実施の形態1による電子ビーム加工機の動作を説明するための、主偏向指令と電子ビームの実際の偏向位置の関係の一例を拡大して示す線図である。
図4】実施の形態1による電子ビーム加工機の電子ビームの中心軸と検出センサの位置関係を説明する図である。
図5】実施の形態1による電子ビーム加工機の電子ビームの偏向応答特性の例を示す線図である。
図6】実施の形態1による電子ビーム加工機の陰極が位置ずれして配置されたときの電子ビームの中心軸と検出センサの位置関係を示す図である。
図7図6の場合の電子ビームの偏向応答特性の例を示す線図である。
図8】実施の形態1による電子ビーム加工機の陰極が斜めに据え付けられたときの電子ビームの中心軸と検出センサの位置関係を示す図である。
図9】実施の形態1による電子ビーム加工機の検出センサが位置ずれして配置されたときの電子ビームの中心軸と検出センサの位置関係を示す図である。
図10】実施の形態1による電子ビーム加工機の動作を説明するフローチャートである。
図11】実施の形態1による電子ビーム加工機の、電子ビームの中心軸と検出センサの中心がずれているときの動作を説明するための第1の図である。
図12】実施の形態1による電子ビーム加工機の、電子ビームの中心軸と検出センサの中心がずれているときの動作を説明するための第2の図である。
図13】実施の形態1による電子ビーム加工機の、電子ビームの中心軸と検出センサの中心がずれているときの動作を説明するための第3の図である。
図14】実施の形態1による電子ビーム加工機の、電子ビームの中心軸と検出センサの中心が一致しているときの動作を説明するための第1の図である。
図15】実施の形態1による電子ビーム加工機の、電子ビームの中心軸と検出センサの中心が一致しているときの動作を説明するための第2の図である。
図16】実施の形態1による電子ビーム加工機の、電子ビームの中心軸と検出センサの中心が一致しているときの動作を説明するための第3の図である。
図17】実施の形態1による電子ビーム加工機の偏向遅れ補正の算出の動作の一例を示す線図である。
図18】実施の形態1による電子ビーム加工機の偏向遅れ補正の実施の動作の一例を説明する線図である。
図19】実施の形態1による電子ビーム加工機の偏向遅れ補正の実施による主偏向器および副偏向器の偏向特性の一例を示す線図である。
図20】実施の形態1による電子ビーム加工機の検出センサの構成例を示す図である。
図21】実施の形態1による電子ビーム加工機の検出センサの配置の一例を示す図である。
図22】実施の形態2による電子ビーム加工機の構成を示すブロック図である。
図23】実施の形態2による電子ビーム加工機の動作を説明するフローチャートである。
図24】実施の形態3による電子ビーム加工機の電子銃の構成を示す概略構成図である。
図25】実施の形態3による電子ビーム加工機の別の電子銃の構成を示す概略構成図である。
図26】実施の形態4による電子ビーム加工機の電子銃の構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は実施の形態1による電子ビーム加工機の構成を示すブロック図である。実施の形態1による電子ビーム加工機は、主な構成要素として、陰極3を備え電子ビーム2を放出する三極部1と、三極部1と照射対象物8との間に照射対象物8上に焦点7を結ぶように電子ビーム2を集束させるために設けた第1集束手段4と、第1集束手段4と照射対象物8との間に設けた電子ビーム2を偏向する主偏向器5と、第1集束手段4と主偏向器5の間に設け主偏向器5の偏向を補助する副偏向器6を備えている。ここでは、偏向する機器である主偏向器5と副偏向器6をまとめて偏向手段と称することもある。さらに、電子ビーム2の偏向を制御するために、電子ビーム2の位置を検出する検出部10と、検出部10の動作を制御する制御器11とを備えている。制御器11は、主偏向器5の駆動部24と副偏向器6の駆動部23に、それぞれ主偏向器への指令値である主偏向指令27と副偏向指令28を出力する。制御器11は、検出部10の検出信号15と検出信号16を読込み、電子ビーム2の中心軸9が検出センサ14aと14bとの中心12に通るように検出センサ14aと14bの位置を調整する機能、及び検出部10の検出信号15と検出信号16を用いて電子ビーム2の偏向遅れを補正する機能を有する演算装置29を備えている。ここで、偏向手段により偏向されないときの電子ビームの軸を電子ビームの中心軸9と称している。また、電子ビーム2を発生して偏向、集束させる機能を有する部分、すなわち三極部1、第1集束手段4、主偏向器5、副偏向器6で構成される部分を電子銃31と称することにする。
【0013】
電子ビーム2の高速偏向時の偏向遅れを説明する。電子ビーム加工機は、照射対象物8に対するマルチスポット溶接あるいは加熱等の応用の場合、電子ビーム2を高速偏向して照射対象物8のある範囲内で走査する。例えば、照射対象物8に照射する電子ビーム2を100m/sの偏向速度で中心軸9の左右に偏向する。図2に、電子ビーム2の高速偏向の応答特性例を示す。例えば、時間0~10μsの偏向では、目標偏向位置指令である主偏向指令27による照射対象物8上での目標偏向位置は1.0mmであるが、実際の電子ビーム2の偏向位置は実際偏向位置33に示す位置となり、5μs程かかって目標偏向位置1.0mmに到達する。すなわち、5μs程の偏向遅れが発生する。電子ビーム2の偏向速度を更に上げようとすると、溶接あるいは加熱を行えなくなる可能性が出てくる。あるいは、電子ビーム2の偏向遅れが、溶接あるいは加熱の品質に悪影響を与えることがある。高速かつ高精度の偏向を実現するため、上記のような電子ビーム2の偏向遅れを補正することが要求されている。
【0014】
電子ビーム2の偏向遅れの発生原因を説明する。アンプとデジタル-アナログ変換器等により構成されている、電子ビーム2を偏向する主偏向器5の駆動部24に主偏向指令27が入力され、駆動部24から主偏向器5に電流が流れ込み、主偏向器5が磁場を発生する。この磁場により電子ビーム2が所定方向に偏向される。上記の駆動部24のアンプの出力は主偏向指令27より応答が遅く、更に駆動部24の負荷である主偏向器5のインダクタンスにより主偏向器5に流れる電流が所定値に立ち上がるまで時間がかかるため、目標偏向位置指令である主偏向指令27よりも電子ビーム2の実際の偏向位置が遅れる。図3に上記の電子ビーム2の偏向遅れの模様を拡大して示す。主偏向指令27に対し、電子ビーム2の実際偏向位置33が遅れ、時刻t1に主偏向指令27すなわち目標偏向位置指令に対応した偏向位置に到達する。すなわち電子ビーム2の偏向に時間長さt1の遅れが発生する。上記に述べた電子ビーム2の偏向遅れは、主偏向器5の駆動部24の電流遅れに起因するものである。実際には、主偏向器5の磁場により周囲金属部品に発生する渦電流、あるいは主偏向器5の鉄心の磁気余効が電子ビーム2の偏向に影響を与えることがあり、電子ビーム2の実際偏向位置33は更に複雑な挙動を示す。
【0015】
図4は陰極3が所定位置に誤差なく据え付けられ、且つ検出センサ35をも所定位置に誤差なく配置されたとする理想状態を示しており、電子ビーム2の中心軸9が検出部の中心12を通る。この場合、電子ビーム2を偏向しようとする偏向位置d0、例えばd0=0.1mmを主偏向器5の主偏向指令27に換算して電子ビーム2を偏向すると、電子ビーム2が偏向位置d0で検出センサ35に当たり、検出された偏向位置がd0となる。偏向位置d0を繰り返して変えて、例えばd0の変化刻みを0.1mmにして10回繰り返し、各d0位置での電子ビーム2の偏向位置-時間の関係を記録すると、図5に示すような電子ビーム2の偏向応答特性37を取得することができる。偏向応答特性37と主偏向指令27による目標偏向位置との差分38を求め、この差分38を主偏向器5による偏向の遅れの補正量にし、電子ビーム2の偏向を誤差なく補正することができる。
【0016】
しかし、陰極3の据付に位置誤差の発生が避けられず、例えば図6に示すように陰極3が所定位置(点線)からずれ、電子ビーム2の中心軸9が検出部の元々の中心12を通らず、点12bを通ることがあり得る。この場合、電子ビーム2をd0(=1.0mm)だけ偏向する主偏向指令27により電子ビーム2を偏向すると、電子ビーム2がd0よりも小さいd1だけ偏向された時点で検出センサ35に当たり、検出信号が出力されてしまうため、電子ビーム2の実際の偏向位置-時間の関係を記録すると、図7に示す電子ビーム2の偏向応答特性39を取得してしまう。偏向応答特性39と目標偏向位置27との差分40を求め、この差分40を主偏向器5による偏向の遅れの補正量にし、電子ビーム2の偏向を補正すると補正誤差が生じてしまう。同様に、図8に示すように陰極が斜めに据付けられ、電子ビーム2の中心軸9が検出部の中心ではない点12cを通り、d0とは異なるd2だけ偏向したときに検出信号が検出される場合もある。また、図9に示すように検出センサ35自身がある誤差で配置され、電子ビーム2の中心軸9が検出部の中心ではない点12dを通り、d0とは異なるd3だけ偏向したときに検出信号が検出される場合もある。これらの場合にも、電子ビーム2の偏向位置-時間の関係を誤差なく取得できず、電子ビーム2の偏向遅れの補正に誤差を生じてしまう。
【0017】
次に、本実施の形態の電子ビーム2の偏向遅れの補正の詳細を説明する。本実施の形態の電子ビーム2の偏向遅れの補正プロセスは、図10に示すように位置調整プロセス41と偏向遅れ補正プロセス42からなる。図10の補正プロセスに係る演算は演算装置29で行う。位置調整プロセス41は検出部配置ステップST43から始まる。このステップでは、最初に検出センサ14aと14bとの距離が0mmであるとして、電子ビーム2の中心軸9が検出センサ14aと14bとの中心12を通ることを狙って検出部10を配置する。その後、電子ビーム2を偏向しようとする偏向位置d0、例えばd0=0.1mmとして、図1の演算装置29から制御部20に移動指令19を出力し、検出センサ14aと14bとの距離が0.2mmになるように、制御部20から可動アーム17に移動指令21と22を送り出し、検出センサ14aと14bとの距離を変える。次に、主偏向器による偏向ステップST44と検出信号の取得ステップST45のステップでは、電子ビーム2の三極部1から電子ビームの放出を開始させ、電子ビーム2を偏向しようとする上記の偏向位置d0を主偏向器5の主偏向指令27に換算して、電子ビーム2を偏向させる。偏向した電子ビーム2を検出センサ14aと14bに当て、検出信号15と16を取得する。検出信号15と16をアナログ-デジタル変換器であるADC25とADC26を通して演算装置29に取り込み、検出センサ14aと14bの位置調整の判断を行う(ステップST46)。
【0018】
主偏向器による偏向ステップST44と検出信号の取得ステップST45と検出センサの位置調整の判断ステップST46の動作を、図11から図13を用いて説明する。前述したように、電子ビーム2の中心軸9と検出部の中心すなわち検出センサ14aと14bとの中心12(検出センサ14aと14bが離隔したときの中央位置)がずれる場合がある。図11は、検出センサ14aと14bの配置に位置誤差があった場合、または検出センサ14aと14bの配置に位置誤差がなく、陰極3の据付に位置誤差があった場合のように、電子ビーム2の中心軸9が検出センサ14aと14bとの中心12を通らず、中心ではない点12aを通ってしまう例を示している。図13に主偏向器5に印可する偏向指令51と、それに対する検出信号15と16の例である検出信号52と検出信号53を示し、上記偏向指令51による電子ビーム2の偏向イメージを図12に示す。
【0019】
以下に、図13の偏向指令51による電子ビーム2の偏向を説明する。偏向指令51の振幅が0Vから負方向に電圧が増大すると、電子ビーム2が検出センサ14aに向けて偏向されるとする。逆に、偏向指令51の振幅が0Vから正方向に電圧が増大すると、電子ビーム2が検出センサ14bに向けて偏向されるとする。電子ビーム2の偏向位置dと偏向指令51の振幅のVaは以下の線形関係を持つとする。
d=k1×Va (1)
ここで、k1は常数(例えば、k1=1.5mm/V)である。
【0020】
図13の偏向指令51の振幅が-Oで示す0VからAに増えた時、電子ビーム2が図12のoからaまで偏向されて検出センサ14aに当たり始め、図13に示すように検出信号52が出始める。偏向指令51の振幅がBにまで増えた時、電子ビーム2が図12のbまで偏向されて検出センサ14aに完全に当たる。同様に、偏向指令51が+Oで示す0VからCに増えた時、電子ビーム2が図12のoからcまで偏向されて検出センサ14bに当たり始め、検出信号53が出始める。偏向指令51の振幅がDにまで増えた時、電子ビーム2が図12のdまで偏向されて検出センサ14bに完全に当たる。図13の-OからAまでの時間をΔt1、図13の+OからCまでの時間をΔt2とする。図11に示すように電子ビーム2の中心軸9が、検出センサ14bよりも検出センサ14aに近い場合、Δt1<Δt2となり、電子ビームの中心軸9と検出部の中心、すなわち検出センサ14aと検出センサ14bの中心が一致していないと判断し、ステップST46でYesを出力する。出力がYesの場合、検出センサの位置調整ステップST47に移る。検出センサの位置調整ステップST47では以下のようにして検出センサ14aおよび14bの位置調整を行う。
【0021】
上記の式(1)を用い、検出センサ14aと電子ビーム2の中心軸9との距離d1を式(2)で算出する。
d1=2d0・Δt1/(Δt1+Δt2) (2)
【0022】
電子ビーム2の中心軸9が検出センサ14aと14bとの中心12に通るように調整するため、検出センサ14aをΔd=d0-d1で紙面上の左方向に、検出センサ14bをΔd=d0―d1で、検出センサ14aと同様、紙面上の左方向に移動させる。Δdは下記の式(3)で表される。
Δd=d0・(Δt2-Δt1)/(Δt2+Δt1) (3)
【0023】
このΔdを移動指令19に変換して制御部20に出力し、制御部20から位置調整機構である可動アーム17aおよび可動アーム17bに移動指令21および移動指令22とを送り出し、可動アーム17aおよび可動アーム17bを移動することで検出センサ14aおよび検出センサ14bの位置を調整する。
【0024】
検出センサ14aと14bの位置を調整した後、再び主偏向器による偏向ステップST44から始まり、上述と同様の操作で、ステップST46まで実施する。電子ビーム2の中心軸9が検出センサ14aと14bとの中心12を通るようになっていない場合、または電子ビーム2の中心軸9が検出センサ14aと14bとの中心12とのズレがある閾値を超えている場合、すなわち電子ビームの中心軸9と検出部の中心とが一致していないと判断した場合、ステップST46においてYesを出力し、再び検出センサの位置調整ステップST47において検出センサ14aおよび検出センサ14bの位置を調整する。
【0025】
位置調整後、図14に示すように、電子ビーム2の中心軸9が検出センサ14aと14bとの中心12を通るようになった場合を説明する。図16に主偏向器5に印可する偏向指令51とそれに対する検出信号54、55、図15に上記の偏向指令51による電子ビーム2の偏向イメージを示す。図16の偏向指令51の振幅が-Oで示す0VからAに増えた時、電子ビーム2が図15のoからaまで偏向されて検出センサ14aに当たり始め、図16に示すように検出信号54が出始める。偏向指令51の振幅がBにまで増えた時、電子ビーム2が図15のbまで偏向されて検出センサ14aに完全に当たる。同様に、偏向指令51が+Oで示す0VからCに増えた時、電子ビーム2が図15のoからcまで偏向されて検出センサ14bに当たり始め、検出信号55が出始める。偏向指令51の振幅がDにまで増えた時、電子ビーム2が図15のdまで偏向されて検出センサ14bに完全に当たる。図14に示すように検出センサ14aと14bとから主偏向器5および副偏向器6により偏向されないときの電子ビーム2の中心軸9までの距離が同一のd0となり、電子ビームの中心軸9が検出センサ14aと検出センサ14bが離隔した時の中心を通るように位置調整されている。このため、電子ビーム2が偏向開始から検出センサ14aと14bとに当たり始める時間が同じ、図16に示す時間間隔Δt1とΔt2がΔt1=Δt2となる。そこで、ステップST46において電子ビームの中心軸と検出部の中心とが一致していると判断し、出力がNoとなり、偏向遅れ補正プロセス42に移る。
【0026】
図17に偏向遅れ補正の算出49に用いる信号の例を示す。演算装置29から位置指令56を出力して検出センサ14aと14bの位置を変えると伴に、主偏向器5に主偏向指令57を加え、検出センサ14aまたは14bで検出した検出信号58を用いて、電子ビーム2の各偏向位置への到達時間間隔Δt1、Δt2、・・・、Δtnを記録することで、主偏向器5の主偏向特性を取得する。以下に、上記の詳細を説明する。
【0027】
・時刻0~t1:上述の検出センサの位置調整プロセスで、検出センサ14aと14bが既に所定位置、例えばd=0.1mmに移動されたとする。主偏向指令57を時刻0の0Vから1Vまで増加させる。前述のように、0~t1の間のある時刻から電子ビーム2が検出センサ14bに当たり、検出信号58が出始める。その出始めた時間までの0からの時間間隔をΔt1と記録する。
【0028】
・時刻t1~t2:時刻t1からt2の間に、位置指令56により可動アーム17を移動することで、検出センサ14bをd=0.2mmに移動させる。必要に応じて、主偏向指令57の振幅を負にして、検出センサ14aを移動して電子ビーム2を検出センサ14aに当てても良い。
【0029】
・時刻t2~t3:時刻t2から主偏向指令57を1Vから2Vまで増やすと、t2~t3の間のある時刻から電子ビーム2が再び検出センサ14bに当たり、検出信号58が再び出始める。時刻t2からの時間間隔をΔt2と記録する。
【0030】
・t3~tn 上記の操作を繰り返し、各時間間隔Δt3、Δt4、・・・、Δtnを記録する。
【0031】
上記の時間間隔Δt1、Δt2、・・・、Δtnを測定してから、t1=Δt1、t2=t1+Δt2、・・・、tn=tn-1+Δtnのように書き直すことで、各偏向位置d=0.1mm、0.2mm、・・・、1.0mm等の偏向位置に対する偏向時間を求め、図18に示すような電子ビーム2の主偏向器5による主偏向特性59、すなわち目標偏向位置指令からの電子ビームの偏向の遅れのデータを取得する。
【0032】
次に、図18に示すように目標偏向位置と主偏向特性59との差を偏向差分60として求め、この偏向差分60を副偏向器6への指令値である副偏向指令28に換算する。換算後の副偏向指令28を副偏向器6に加えると、主偏向器5と副偏向器6とによる偏向を足し合わせることができ、電子ビーム2の偏向遅れを補正することができる。但し、副偏向器6の自身の周波数特性により、偏向差分60から換算された副偏向指令28を副偏向器6に印可した時の副偏向特性は、図19に示す副偏向特性61になることがあり得る。この場合、主偏向特性37と副偏向特性61とを足し合わせると、実際の電子ビーム2の偏向特性が総偏向特性62のようになる。主偏向器5と副偏向器6の自身の周波数特性を調整し、最適な主偏向特性37と副偏向特性61を取得し、総偏向特性62を最適化することができる。
【0033】
次に、図10に示した偏向遅れ補正の実施ステップST50では、実際に照射対象物8に電子ビーム2を照射するとき、例えば図2に示すような偏向作業時に、各時間間隔0~10μs、10~20μs、・・・、40~50μs、・・・毎に、上述した偏向差分60から換算された副偏向指令28を副偏向器6に繰り返して加えることで、電子ビーム2の偏向遅れを高速且つ高精度で補正して電子ビームを照射対象物に照射することができる。なお、偏向する電子ビーム位置が異なれば、同じ1mm偏向する場合の偏向遅れの特性、すなわち主偏向特性が異なる場合がある。この場合は、例えば図2に示す各時間間隔0~10μs、10~20μs、・・・、40~50μs、・・・毎に、電子ビーム2の主偏向器5による偏向の遅れを計測し、各時間間隔に、すなわち電子ビーム位置毎に偏向遅れを補正する副偏向器6の副偏向指令28を求め、各時間間隔に副偏向器6に加えても良い。
【0034】
図13図16に示す三角波の偏向指令51はその一例に過ぎなく、矩形波等の偏向指令を用いることもできる。図17に示す主偏向指令57はその一例に過ぎなく、三角波等の偏向指令を用いることもできる。上述の副偏向指令28をテーブル化して演算装置29のメモリに保存し、電子ビーム2の偏向遅れの補正時に読み出すこともできる。上記の電子ビーム2の偏向遅れの補正は偏向方向によらず、任意の偏向方向にも適用できる。更に、副偏向器6を配置せず、図9の偏向差分60を主偏向器5の偏向指令に換算し、主偏向指令27に加算して主偏向器5への指令値としてもよい。図1に示した主偏向器5と副偏向器6との上下位置を逆に、または主偏向器5を第1集束手段4の内側に配置することもできる。
【0035】
図20に検出センサ14aと14bの詳細構成例を示す。大パワーの電子ビームの場合、例えば150kVの加速電圧により加速された200mAの電子ビーム2は、検出センサ14aと14bに当たる時に大量の熱量が発生する。その熱量を装置の外に排出するのが好ましい。このため、図20に示すように、検出センサ14aと14bを導電層63と絶縁層64と排熱層65とから構成する。絶縁層64は、導電層63を絶縁して電子ビーム2の電子が排熱層65に流れ込むことを阻止する。排熱層65は、電子ビーム2が導電層63に当たり生じる熱量を絶縁層64経由して装置の外に排出する。排熱層65の底面を水流パイプと接触する形で熱を装置の外に排出しても良い。導電層63と絶縁層64と排熱層65との各接触面の接触熱抵抗を低減するため、各接触面にグリス等を塗布しても良い。導電層63には導電性が良く融点が高い材料が適し、具体的には銅Cu、タングステンW、あるいはカーボンCなどを用いることができる。絶縁層64はセラミック、排熱層65は鉄鋼が使用できる。低パワーの電子ビーム、例えば120kVの加速電圧により加速された50mAの電子ビームの場合には、電子ビーム2が検出センサに当たり生じる熱量が少ないため、図20の検出センサの絶縁層64と排熱層65をなくし、導電層63のみで構成される検出センサでも良い。
【0036】
上述した検出センサ14aと14bの配置は一例である。例えば、図21に示すように、2個の検出センサを一組とする複数組の検出センサ141aと141b、142aと142b、143aと143b、144aと144bを電子ビームの中心軸9の周囲に多方向に配置する構成であっても良い。検出部10に配置される検出センサは、電子ビームが偏向されないときの電子ビームの中心軸に垂直な面内において離隔するよう移動する2個の検出センサを一組とする検出センサであればよい。
【0037】
このように、電子ビームの中心軸が検出部の中心を通るように位置調整した後、主偏向器5による電子ビーム2の主偏向特性を取得して、主偏向器5の偏向遅れを副偏向器6により補正することで、電子ビーム2の偏向遅れを高精度で補正することができ、高速かつ高精度な溶接あるいは加熱加工を実現できる。
【0038】
実施の形態2.
図22は実施の形態2による電子ビーム加工機を示す構成図である。この図において、図1と同一の符号は同一または相当部分を示している。実施の形態2による電子ビーム加工機の動作のうち、電子ビーム2の発生及び電子ビーム2の偏向は実施の形態1で説明したのと同一である。
【0039】
この実施の形態2においては、電子ビーム2の中心軸9を検出センサ14aと14bとの中心12に通らせるため、検出センサ14aと14bとを移動させて位置調整する代わりに、電子銃31を移動させることにより位置調整する。このため、演算装置29から制御部70に移動指令71を出力し、制御部70から電子銃31を移動させる位置調整機構72に移動指令73を送り出し、位置調整機構72により電子銃31を移動させる。
【0040】
この実施の形態2による電子ビーム加工機の動作について説明する。本実施の形態の電子ビーム2の偏向遅れの補正は、図23に示すように位置調整プロセス74と偏向遅れ補正プロセス75からなる。位置調整プロセス74のステップST43からST46の動作は実施の形態1で説明した動作と同一である。
【0041】
本実施の形態2では、ステップST46における判断でYesと判断した場合、電子銃の位置調整ステップST76に移る。電子銃の位置調整ステップST76では、式(3)で算出した移動距離Δdを演算装置29から制御部70に出力し、制御部70により位置調整機構72に移動指令73を送り出し、電子銃31の位置を調整する。
【0042】
上記の位置調整プロセス74における電子銃31の位置調整により、電子ビーム2の中心軸9が検出センサ14aと14bとの中心12を通るようになった後、偏向遅れ補正プロセス75に移る。本実施の形態2の偏向遅れ補正の算出ステップST49の動作は、実施の形態1における偏向遅れ補正の算出ステップST49の動作と同じである。ただし、以下のように実施しても良い。
【0043】
図17の検出センサの位置指令56の代わりに、手動で検出センサ14aと14bの位置を変える。この場合の、偏向遅れ補正の算出ステップST49における動作を説明する。手動で検出センサ14aと14bの位置を変えて、図17の主偏向指令57を主偏向器5に加え、検出センサ14aまたは14bで検出した検出信号58を用いて、電子ビーム2の各偏向位置への到達時間間隔Δt1、Δt2、・・・、Δtnを記録し、主偏向器5の主偏向特性を取得する。以下にその詳細を説明する。
【0044】
・時刻0~t1 上記の位置調整プロセス74により、検出センサ14aと14bが既に所定位置、例えばd=0.1mmに移動されたとする。時刻0から、主偏向指令57を0Vから、1Vまで増加させる。0~t1の間のある時刻から電子ビーム2が検出センサ14bに当たり、検出信号58が出始める。その出始めた時間間隔をΔt1と記録する。
【0045】
・時刻t1~t2 手動で検出センサ14bをd=0.2mmに移動させる。必要に応じて、検出センサ14aを移動して電子ビーム2を検出センサ14aに当てても良い。
【0046】
手動による検出センサ14aまたは14bの移動に誤差が小さく、電子ビーム2の中心軸9が検出センサ14aと14bとの中心12を通っているかを確認する必要がない場合、t2~t3の操作に移る。電子ビーム2の中心軸9が検出センサ14aと14bとの中心12を通っているかを確認する必要がある場合、位置調整プロセス74に戻し、電子銃31の位置を再び調整してから次のt2~t3の操作に移っても良い。
【0047】
・t3~tn 上記の操作を繰り返し、各時間間隔Δt3、Δt4、・・・、Δtnを記録する。
【0048】
上記の時間間隔Δt1、Δt2、・・・、Δtnを取得してから、t1=Δt1、t2=t1+Δt2、・・・、tn=tn-1+Δtnのように書き直すことで、各偏向位置d=0.1mm、0.2mm、・・・、1.0mm等の偏向位置に対する偏向時間を求め、図18に示すような電子ビーム2の主偏向器5による主偏向特性59を取得する。
【0049】
偏向遅れ補正の実施ステップST50は実施の形態1のステップST50と同一の動作である。副偏向器6を配置せず、図18の偏向差分60を主偏向器5の偏向指令に換算し、主偏向指令27に加算することもできる。
【0050】
このように、電子ビームの中心軸が検出部の中心を通るように電子銃31を位置調整した後、主偏向器5による電子ビーム2の主偏向特性を取得するようにしたので、主偏向特性が誤差なく取得できる。この主偏向特性に基づいて主偏向器5の偏向遅れを副偏向器6により補正することで、電子ビーム2の偏向遅れを高精度で補正することができるため、高速かつ高精度な溶接あるいは加熱加工を実現できる。
【0051】
電子ビーム2の中心軸が検出部の中心を通るようにするために、実施の形態1では検出部の位置を調整するようにし、実施の形態2では電子銃の位置を調整するようにした。さらに、検出部の位置および電子銃の位置、いずれも調整可能にしても良い。すなわち、電子銃と検出部の相対位置が調整できるようになっていればよい。
【0052】
実施の形態3.
図24および図25は、実施の形態3による電子ビーム加工機の主に電子銃31の構成を示す概略構成図である。図24の電子ビーム加工機の集束手段は第1集束手段4と第2集束手段77とが設けられ、第1集束手段4と第2集束手段77との間に、第1集束点78が形成される。電子ビーム2の発生及び電子ビーム2の偏向は実施の形態1で説明した原理と同一である。図25の電子ビーム加工機は、電子ビーム2が第1集束手段4と第2集束手段77との間に第1集束点78を形成せず平行に進む。
【0053】
図24および図25に示す構成の電子銃31を備えた電子ビーム加工機の電子ビーム2の偏向遅れの補正の動作は、実施の形態1あるいは実施の形態2で述べた電子ビーム2の偏向遅れの補正と同一である。上記の主偏向器5と副偏向器6との上下位置を逆に、または主偏向器5を第2集束手段77の内側に配置してもよい。
【0054】
図24および図25に示した構成の電子銃31を備えた電子ビーム加工機においても、電子ビームの中心軸が検出部の中心を通るように位置調整した後、主偏向器5による電子ビーム2の主偏向特性を取得するようにしたので、主偏向特性が誤差なく取得できる。この主偏向特性に基づいて主偏向器5の偏向遅れを副偏向器6により補正することで、電子ビーム2の偏向遅れを高精度で補正することができるため、高速かつ高精度な溶接あるいは加熱加工を実現できる。
【0055】
実施の形態4.
図26は実施の形態4による電子ビーム加工機の主に電子銃31の構成を示す概略構成図である。図26の電子ビーム加工機の集束手段は第1集束手段4と第2集束手段77とが設けられ、第1集束手段4と第2集束手段77との間に、第1集束点78が形成される。電子ビーム2の発生及び電子ビーム2の偏向は実施の形態1で説明した原理と同一である。
【0056】
第1集束手段4と第2集束手段77との間に、主偏向器5と副偏向器6とを配置し、主偏向器5による電子ビーム2の偏向遅れを副偏向器6により補正する。電子ビーム2の偏向遅れの検出補正の動作は、実施の形態1と実施の形態2で述べた電子ビーム2の検出補正と同一である。なお、図25において、電子ビーム2は集束の様子を理解しやすいように、実際のビームよりも横方向に広く描いている。実際の電子ビームのビーム径は検出センサ14a、14bの位置においても十分小さい径となっており、実施の形態1あるいは実施の形態2で説明した方法で電子ビームの中心軸と検出部の位置の調整をすることができる。
【0057】
上記の主偏向器5と副偏向器6との上下位置を逆に、または主偏向器5を第2集束手段77の内側に配置することができる。
【0058】
図26に示した構成の電子銃31を備えた電子ビーム加工機においても、電子ビームの中心軸が検出部の中心を通るように位置調整した後、主偏向器5による電子ビーム2の主偏向特性を取得するようにしたので、主偏向特性が誤差なく取得できる。この主偏向特性に基づいて主偏向器5の偏向遅れを副偏向器6により補正することで、電子ビーム2の偏向遅れを高精度で補正することできるため、高速かつ高精度な溶接あるいは加熱加工を実現できる。
【0059】
本願には、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0060】
1 三極部、2 電子ビーム、3 陰極、4 第1集束手段、5 主偏向器、6 副偏向器、8 照射対象物、9 電子ビームの中心軸、10 検出部、12 検出部の中心、14a、14b 検出センサ、31 電子銃、72 位置調整機構、77 第2集束手段、41、74 位置調整プロセス、42、75 偏向遅れ補正プロセス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図26