(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】評価システム及び評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/59 20060101AFI20240920BHJP
G01N 21/33 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N21/59 Z
G01N21/33
(21)【出願番号】P 2021048385
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】内田 健太郎
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/060456(WO,A1)
【文献】濱渦 康範ら,“リンゴ 'つがる' 果実の抗酸化能と含有ポリフェノール成分の関係”,園芸学会雑誌,1999年,Vol. 68, No. 3,PP.675-682
【文献】渡辺 純ほか,“北海道産タマネギ品種のケルセチン含有量と抗酸化能の差異”,日本食品科学工学会誌,2013年,第60巻, 第10号,PP.563-566
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G01J 3/00- 4/04
G01J 7/00- 9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜又は果実から溶出した、所定波長で吸収を示す複数のポリフェノール成分が含まれる水溶液中における当該ポリフェノール成分の総量を評価するシステムであって、
前記水溶液の前記所定波長における吸光度を測定する測定手段と、
前記測定手段で測定した吸光度を基に、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を算出する算出手段と、
前記算出手段で算出した前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を表示する表示手段と、を備えており、
前記算出手段は、前記水溶液についての前記所定波長の吸光度と、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報との関係を表し、前記野菜又は果実中における前記複数のポリフェノール成分の含有比率に基づいて
合成して得られた合成検量線の一次関数式としての吸光度-総量相関関係を基に、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を算出する評価システム。
【請求項2】
前記水溶液中に前記複数のポリフェノール成分としての第一ポリフェノール成分と第二ポリフェノール成分とが含まれ、
前記吸光度-総量相関関係は、前記野菜又は果実中における前記第一ポリフェノール成分及び前記第二ポリフェノール成分の含有比率に基づいて予め定められる請求項1に記載の評価システム。
【請求項3】
前記吸光度-総量相関関係は、第一ポリフェノール及び第二ポリフェノールのうちいずれか一方のポリフェノール成分のみを含む第一水溶液についての前記所定波長の吸光度と、前記第一水溶液中のポリフェノール成分の量に関する情報との相関関係、及び他方のポリフェノール成分のみを含む第二水溶液についての前記所定波長の吸光度と、前記第二水溶液中のポリフェノール成分の量に関する情報との相関関係を基に予め定められる請求項2に記載の評価システム。
【請求項4】
前記ポリフェノール成分は、ケルセチン誘導体である請求項1~3のいずれか一項に記載の評価システム。
【請求項5】
野菜又は果実から溶出した所定波長で吸収を示す複数のポリフェノール成分が含まれる水溶液中における当該ポリフェノール成分の総量を評価する方法であって、
前記水溶液の前記所定波長における吸光度を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定した吸光度を基に、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出した前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を表示する表示工程と、を行い、
前記算出工程は、前記水溶液についての前記所定波長の吸光度と、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報との関係を表し、前記野菜又は果実中における前記複数のポリフェノール成分の含有比率に基づいて
合成して得られた合成検量線の一次関数式としての吸光度-総量相関関係を基に、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を算出する評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のポリフェノール成分の水溶液中における総量を評価するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体に有用な機能性成分が注目を集めている。例えば、水溶性の機能性成分たるポリフェノール類は、血流改善効果を発揮し、生活習慣病や老化の予防に効果があるとされており、このようなポリフェノール類については、種々の加工品にその含有量などが表示されている。
【0003】
従来から、ポリフェノールの測定手法としては、フォーリンチオカルト法が茶飲料などに含まれるポリフェノール量を測定するための公定法として用いられている。また、ポリフェノール類の一つであるタンニンの測定手法としては、フォーリンデニス法がワインや蒸留酒などに含まれるタンニン量を測定するための公定法として用いられている。これらの手法は、野菜や果物中に含まれるポリフェノール類の量を測定する手法として、研究で用いられることも多い。
【0004】
また、特許文献1には、過酸化水素を分解する酵素及び電子メディエーターを含有する酸素電極を有し、かつ反応槽に過酸化水素を分解する酵素及び過酸化水素を含むポリフェノールセンサーが提案されており、このポリフェノールセンサーによれば、酸素電極を用いて電気化学的にポリフェノール類と過酸化水素との混合液における過酸化水素の減少量を確認することで、ポリフェノールを定量化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記フォーリンチオカルト法やフォーリンデニス法は、いずれも液中に含まれるポリフェノール類を試薬によって着色し、吸光度を測定して行う比色分析であり、ポリフェノール類を着色するための試薬が必要不可欠である。
【0007】
また、特許文献1記載のポリフェノールセンサーを用いる手法では、測定対象の水溶液に電極を挿し込むだけで測定が可能となるが、試薬として過酸化水素等を必要とする。
【0008】
ここで、ポリフェノール類の一つであるケルセチンには、複数の配糖体が存在する。例えば、玉ねぎには、ケルセチン3-β-D-グルコシド(Quercetin 3-β-D-glucoside)とケルセチン3,4’-ジグルコシド(Quercetin 3,4’-diglucoside)とが含まれている。現状、玉ねぎから水中に溶出したケルセチンの総量を評価する際には、HPLCや上記のような比色分析を用いてケルセチン3-β-D-グルコシド及びケルセチン3,4’-ジグルコシドのそれぞれの量を別々に評価した上で、ケルセチンの総量を評価しなければならない。つまり、野菜や果実から溶出した類似する複数のポリフェノール成分が水溶液中に含まれている場合、まずは類似する各ポリフェノール成分の量を評価してからでなければ、複数のポリフェノール成分の総量を評価できない。
【0009】
上記のように、比色分析や特許文献1記載の手法では、試薬での着色や試薬の添加などいった前処理が必要となるため、複数のポリフェノール成分それぞれの量を評価するのに煩雑な処理が必要であり、測定に要する時間も長くなり易い。また、HPLCを用いた手法では、高価な機器が必要となり、複数のポリフェノール成分それぞれの量を評価するのに時間も要する。
【0010】
したがって、各ポリフェノール成分の量を評価した上で、複数のポリフェノール成分の総量を評価する手法には、試薬での着色や試薬の添加などといった前処理が必要になるといった問題や、測定に時間を要するといった問題、高価な機器が必要になることによるコストの増大といった問題がある。そのため、各ポリフェノール成分の量を別々に評価することなく、類似する複数のポリフェノール成分の水溶液中における総量を従来よりも簡便に評価できる手法の開発が望まれている。
【0011】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、比較的簡便に複数のポリフェノール成分の水溶液中における総量を評価できる評価システム及び評価方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、複数のポリフェノール成分を含有する水溶液中におけるポリフェノール成分の総量を評価できるシステムについて鋭意研究を重ねた結果、野菜又は果実中における複数のポリフェノール成分の含有比率に基づいて、野菜又は果実から溶出した複数のポリフェノール成分を含有する水溶液についての所定波長の吸光度と当該水溶液中のポリフェノール成分の総量に関する情報との関係を予め定めることで、この関係を基に、ポリフェノール成分の総量に関する情報を算出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係る評価システムの特徴構成は、
野菜又は果実から溶出した所定波長で吸収を示す複数のポリフェノール成分が含まれる水溶液中における当該ポリフェノール成分の総量を評価するシステムであって、
前記水溶液の前記所定波長における吸光度を測定する測定手段と、
前記測定手段で測定した吸光度を基に、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を算出する算出手段と、
前記算出手段で算出した前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を表示する表示手段と、を備えており、
前記算出手段は、前記水溶液についての前記所定波長の吸光度と、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報との関係を表し、前記野菜又は果実中における前記複数のポリフェノール成分の含有比率に基づいて合成して得られた合成検量線の一次関数式としての吸光度-総量相関関係を基に、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を算出する点にある。
【0014】
また、上記目的を達成するための本発明に係る評価方法の特徴構成は、
野菜又は果実から溶出した所定波長で吸収を示す複数のポリフェノール成分が含まれる水溶液中における当該ポリフェノール成分の総量を評価する方法であって、
前記水溶液の前記所定波長における吸光度を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定した吸光度を基に、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出した前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を表示する表示工程と、を行い、
前記算出工程は、前記水溶液についての前記所定波長の吸光度と、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報との関係を表し、前記野菜又は果実中における前記複数のポリフェノール成分の含有比率に基づいて合成して得られた合成検量線の一次関数式としての吸光度-総量相関関係を基に、前記水溶液中の前記ポリフェノール成分の総量に関する情報を算出する点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、吸光度-総量相関関係を複数のポリフェノール成分の含有比率に基づいて合成した合成検量線の一次関数式としておくことで、同じような波長域で吸収を示す複数のポリフェノール成分が含まれる水溶液に関する所定波長の吸光度を測定し、この測定した吸光度と上記吸光度-総量相関関係とを基に、水溶液中の複数のポリフェノール成分の総量に関する情報を得ることができる。つまり、水溶液中に含まれる複数のポリフェノール成分それぞれの量を別々に評価することなく、比較的簡便に複数のポリフェノール成分の総量を評価できる。
【0016】
また、比較的簡便に複数のポリフェノール成分の総量を評価することができるため、食材の調理・加工の現場にて料理の中に含まれる複数のポリフェノール成分や飲料中に含まれる複数のポリフェノール成分の総量を気軽に評価できる。
【0017】
本発明に係る評価システムの更なる特徴構成は、
前記水溶液中に前記複数のポリフェノール成分としての第一ポリフェノール成分と第二ポリフェノール成分とが含まれ、
前記吸光度-総量相関関係は、前記野菜又は果実中における前記第一ポリフェノール成分及び前記第二ポリフェノール成分の含有比率に基づいて予め定められる点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、野菜又は果実から溶出した第一ポリフェノール成分及び第二ポリフェノール成分が含まれる水溶液中のポリフェノール成分の総量(第一ポリフェノール成分及び第二ポリフェノール成分の総量)に関する情報を得ることができる。
【0019】
本発明に係る評価システムの更なる特徴構成は、
前記吸光度-総量相関関係は、第一ポリフェノール及び第二ポリフェノールのうちいずれか一方のポリフェノール成分のみを含む第一水溶液についての前記所定波長の吸光度と、前記第一水溶液中のポリフェノール成分の量に関する情報との相関関係、及び他方のポリフェノール成分のみを含む第二水溶液についての前記所定波長の吸光度と、前記第二水溶液中のポリフェノール成分の量に関する情報との相関関係を基に予め定められる点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、野菜又は果実から溶出した第一ポリフェノール成分及び第二ポリフェノール成分が含まれる水溶液中のポリフェノール成分の総量(第一ポリフェノール成分及び第二ポリフェノール成分の総量)に関する情報を得ることができる。
【0021】
本発明に係る評価システムの更なる特徴構成は、
前記ポリフェノール成分は、ケルセチン誘導体である点にある。
【0022】
本願発明者は、異なる複数のケルセチン誘導体が含まれる水溶液に関して測定した所定波長の吸光度と、上記吸光度-総量相関関係とを基にして、当該水溶液中におけるケルセチン誘導体の総量に関する情報を得られることを実験により確認している。即ち、上記特徴構成によれば、野菜や果実から溶出した異なる複数のケルセチン誘導体が含まれる水溶液中における当該ケルセチン誘導体の総量を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施形態に係る評価システムの概略構成を示す図である。
【
図3】水溶液中のケルセチン濃度の算出値及び測定値をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る評価システム及び評価方法について説明する。尚、本実施形態では、ユーザが水の中で食材(玉ねぎ)を加熱する調理を行っている場合を例にとって説明する。
【0025】
〔評価システム〕
図1は、本実施形態に係る評価システム1の概略構成を示す図である。同図に示すように、評価システム1は、野菜又は果実から溶出した所定波長で吸収を示す複数のポリフェノール成分が含まれる水溶液中における当該ポリフェノール成分の総量を評価するシステムであって、上記水溶液の所定波長における吸光度を測定する測定装置2(測定手段)と、測定装置2で測定した吸光度を基に、上記水溶液中のポリフェノール成分の総量に関する情報を算出する算出部4(算出手段)と、算出部4で算出したポリフェノール成分の総量に関する情報を表示する表示装置6(表示手段)と、を備えている。また、本実施形態の評価システム1は、後述する吸光度-総量相関関係が格納された記憶部5を備えている。本実施形態において、算出部4及び記憶部5は、情報の演算処理機能や情報の入出力機能、情報の記憶機能などを備える1台又は複数台のコンピュータ装置などを用いて実現される制御装置3の一部である。この場合、算出部4の機能や記憶部5の機能が、コンピュータ装置により実現されるプログラムとして、当該コンピュータ装置にインストールされていればよい。
【0026】
野菜又は果実から溶出する所定波長で吸収を示す複数のポリフェノール成分としては、例えば、玉ねぎに含まれるケルセチン誘導体であるケルセチン3-β-D-グルコシド及びケルセチン3,4’-ジグルコシドや、ゴボウ、茄子などに含まれるクロロゲン酸及びカフェオイルキナ酸であるが、本実施形態においては、玉ねぎに含まれるケルセチン誘導体であるケルセチン3-β-D-グルコシド(第一ポリフェノール成分)及びケルセチン3,4’-ジグルコシド(第二ポリフェノール成分)の2つのポリフェノール成分である。
【0027】
測定装置2は分光光度計であり、本実施形態においては、食材を加熱している水(水溶液)を入れた分光光度計用の石英セルCがセットされ、このセットされた石英セルC内の水溶液に所定波長の光を照射し、水溶液の吸光度を測定する。尚、所定波長とは、測定対象の水溶液中に含まれる物質のうち、評価対象のポリフェノール成分のみが吸収を示す光の波長であることが好ましいが、測定対象の水溶液中に微量に含まれる物質が吸収を示す光の波長であってもよい。具体的に、本実施形態の測定装置2は、上記ケルセチンのケルセチン3-β-D-グルコシド及びケルセチン3,4’-ジグルコシドが吸収を示す360nmの光を水溶液に照射して吸光度を測定する。
【0028】
本実施形態において、算出部4は、測定装置2で測定した360nmの吸光度を基に、ポリフェノール成分の総量に関する情報を算出する機能部である。
【0029】
ここで、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下のような新たな知見を得た。即ち、ある野菜又は果実から溶出した複数のポリフェノール成分を含有する水溶液中のポリフェノール成分の総量に関する情報と、当該水溶液について上記複数のポリフェノール成分が吸収を示す波長にて測定した吸光度との関係を、野菜又は果実中における複数のポリフェノール成分の実際の含有比率に基づいて予め定めることで、この予め定めた関係(吸光度-総量相関関係)と、測定対象の水溶液について測定した所定波長での吸光度とを基にして、測定対象の水溶液中のポリフェノール成分の総量に関する情報を得られるという知見を得た。
【0030】
具体的には、以下のようにして吸光度-総量相関関係を得ることができる。まず、第一ポリフェノール成分の標品及び第二ポリフェノール成分の標品を用いて、種々の濃度の第一ポリフェノール水溶液(第一水溶液)及び第二ポリフェノール水溶液(第二水溶液)を調製し、これらの水溶液それぞれについて、第一及び第二ポリフェノール成分が吸収を示す波長での吸光度を予め測定する。そして、測定した吸光度と濃度との関係をプロットして、第一ポリフェノール成分及び第二ポリフェノール成分それぞれの検量線を作成する。尚、この2つの検量線が、第一水溶液又は第二水溶液についての所定波長の吸光度と、第一水溶液又は第二水溶液中のポリフェノール成分の量に関する情報との相関関係に相当する。
【0031】
次に、第一ポリフェノール成分及び第二ポリフェノール成分を含有する野菜又は果実に実際に含まれるこれら2つのポリフェノールの含有比率を得る。尚、含有比率は、野菜又は果実に含まれる2つのポリフェノール成分の量を既知の手法により測定し、測定した値を基に得られる含有比率であってもよいし、ある一の野菜又は果実の複数の品種について、上記と同様に含有比率を算出し、これらを平均したものであってもよい。
【0032】
ついで、上記のようにして作成した第一ポリフェノールの検量線と第二ポリフェノールの検量線とを、上記のように得た含有比率を基に合成する。このようにして得られた合成検量線の一次関数式が吸光度-総量相関関係となる。
【0033】
尚、上記のようにして得られる吸光度-総量相関関係は、合成検量線の一次関数式として記憶部5に予め格納されていてもよいし、合成検量線の作成に必要なデータが記憶部5に格納されており、上記ポリフェノールの総量に関する情報(本実施形態では濃度)を算出する際に、これらのデータを基に適宜合成検量線が作成され使用されるようにしてもよいが、本実施形態においては、吸光度-総量相関関係が予め記憶部5に格納されているものとする。
【0034】
本実施形態では、第一ポリフェノールをケルセチン3-β-D-グルコシド、第二ポリフェノールをケルセチン3,4’-ジグルコシド、所定波長を360nmとし、品種の異なる玉ねぎそれぞれの含有比率の平均を使用して得られた吸光度-総量相関関係を使用する。
【0035】
したがって、本実施形態の算出部4は、測定装置2で測定された360nmの吸光度を取得し、上記吸光度-総量相関関係を基に、水溶液中のケルセチン3-β-D-グルコシド(第一ポリフェノール成分)とケルセチン3,4’-ジグルコシド(第二ポリフェノール成分)とを合わせたケルセチンの濃度を、ポリフェノール成分の総量に関する情報として算出する。
【0036】
記憶部5は、各種情報が格納された機能部である。具体的に、本実施形態においては、上記吸光度-総量相関関係の他、測定装置2で測定された所定波長の吸光度などが格納可能になっている。尚、吸光度-総量相関関係は、上記のように、複数のポリフェノール成分それぞれの量と吸光度との関係及び野菜・果実中における複数のポリフェノール成分の含有比率を基に定められるものであり、ポリフェノール成分の種類やこれらポリフェノール成分を含む食材(つまり含有比率)によって異なるものである。そのため、記憶部5には、ポリフェノール成分の種類やポリフェノール成分の含有比率が異なる場合について予め定められた複数の吸光度-総量相関関係が格納されており、算出部4は、適宜必要な吸光度-総量相関関係を参照するように構成されている。
【0037】
表示装置6は、上記のように、算出部4で算出したポリフェノール成分の総量に関する情報を表示する装置であり、本実施形態において、水溶液中の複数のポリフェノール成分の濃度(水溶液中のケルセチン3-β-D-グルコシド(第一ポリフェノール成分)とケルセチン3,4’-ジグルコシド(第二ポリフェノール成分)とを合わせたケルセチンの濃度)を表示する。
【0038】
次に、以上の構成を備えた評価システム1において、玉ねぎを水中で所定時間加熱した後の水(水溶液)に含まれるケルセチンの総量を評価する方法について説明する。
【0039】
まず、水の中に玉ねぎを投入して加熱を開始する。尚、投入する玉ねぎは、適当な大きさにカットしたものであってもよいし、カットすることなくそのままの状態であってもよい。
【0040】
所定時間加熱後、玉ねぎが投入されている水の一部を石英セルCに入れ、測定装置2により360nmの吸光度を測定する(測定工程)。
【0041】
次に、測定装置2で測定された吸光度が制御装置3の算出部4に送信され、算出部4において、測定された吸光度と吸光度-総量相関関係とから水に含まれるケルセチンの濃度が算出される(算出工程)。
【0042】
しかる後、算出部4で算出されたケルセチンの濃度が表示装置6に送信され、当該表示装置6の画面にケルセチンの濃度が表示される(表示工程)。したがって、水溶液中に含まれるケルセチンの総量を濃度として評価できる。
【0043】
ユーザは、この表示装置6の画面に表示されたケルセチンの濃度を確認することで、現時点で玉ねぎから水へと溶出しているケルセチンの総量がどの程度であるか認識できる。
【0044】
このように、本実施形態に係る評価システム及び評価方法によれば、上記吸光度-総量相関関係を利用することで、水溶液中に所定波長で吸収を示す複数のポリフェノールが含まれている場合であっても、これら複数のポリフェノール成分の量をそれぞれ別々に得ることなく、比較的簡便に、当該水溶液中の複数のポリフェノール成分の総量に関する情報を評価できる。
【0045】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態では、所定波長で吸収を示す複数のポリフェノール成分としての第一ポリフェノール成分及び第二ポリフェノール成分の2種類が野菜・果実に含まれ、これらが水中に溶出する態様としたが、これに限られるものではない。所定波長で吸収を示す3種類以上のポリフェノール成分が野菜・果実に含まれ、これらが水中に溶出する態様であってもよい。
【0046】
〔2〕上記実施形態では、第一水溶液及び第二水溶液に関する2つの相関関係と、野菜又は果実中における第一ポリフェノール成分と第二ポリフェノール成分との含有比率とを基にして吸光度-総量相関関係が予め定められる態様としたが、これに限られるものではない。野菜又は果実中に所定波長で吸収を示す3種類以上のポリフェノール成分が含まれており、水中にこれらが溶出するような場合には、各ポリフェノール成分の標品を用いて作成した水溶液に関する3以上の相関関係と、3種類以上のポリフェノール成分の含有比率とを基にして吸光度-総量相関関係が予め定められる。
【0047】
〔3〕上記実施形態では、表示装置6にケルセチンの濃度が表示される態様としたが、これに限られるものではない。例えば、加熱している水の量を表示装置6に入力することで、ケルセチンの濃度を基に当該水の中に含まれるケルセチンの総質量が算出され、このケルセチンの総質量が表示装置6に表示される態様であってもよい。
【0048】
上記実施形態(別実施形態を含む)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。尚、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0050】
〔吸光度-総量相関関係の導出〕
まず、Sigma-Aldrich社製のケルセチン3-β-D-グルコシド及びケルセチン3,4’-ジグルコシドを用いて、10、20、30、40及び50μg/mLのケルセチン3-β-D-グルコシド水溶液及びケルセチン3,4’-ジグルコシド水溶液を調製した。次に、これらの水溶液について、波長360nmでの吸光度を測定し、吸光度と濃度との関係をプロットして、ケルセチン3-β-D-グルコシド及びケルセチン3,4’-ジグルコシドの検量線を作成した(
図2参照)。
【0051】
ついで、品種の異なる5種類の玉ねぎ(品種A~品種E)について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によって、これらに含まれるケルセチン3-β-D-グルコシド及びケルセチン3,4’-ジグルコシドの含有比率(質量%)を測定し、これらの平均を玉ねぎ中におけるケルセチン3-β-D-グルコシド及びケルセチン3,4’-ジグルコシドの含有比率とした(表1参照)。
【0052】
【0053】
次に、上記作成したケルセチン3-β-D-グルコシドの検量線とケルセチン3,4’-ジグルコシドの検量線とを上記含有比率を基に合成することで、吸光度-総量相関関係を合成検量線の一次関数式として導出した。
【0054】
〔ケルセチン誘導体の濃度測定〕
品種の異なる2種類の玉ねぎ(品種A及び品種B)について、2cm四方に裁断した試験片を作成し、各品種の試験片約10gを30gの別々の水の中に入れて加熱した。加熱開始から5分経過した時点で煮出し液を回収した。
【0055】
次に、回収した煮出し液を石英セルに入れ、測定装置により360nmの吸光度を測定し、測定した吸光度と上記導出した吸光度-総量相関関係を基に煮出し液中のケルセチン誘導体全体としての濃度を算出した。尚、煮出し液は、品種A及び品種Bそれぞれ10サンプル(サンプルA1~A10及びサンプルB1~B10)ずつ用意し、各サンプルの濃度を算出した。
【0056】
また、比較として、上記サンプルA1~A10及びサンプルB1~B10について、HPLCにより濃度を測定した。
【0057】
図3は、算出値及び測定値をまとめたグラフである。同図から分かるように、算出値は、測定値とよく一致しており、平均誤差は5.26%であった。
【0058】
このことから、上記のように導出した吸光度-総量相関関係を用いることで、野菜又は果実から溶出した所定波長で吸収を示す複数のポリフェノール成分が含まれる水溶液中における当該ポリフェノール成分の総量に関する情報(実施例では濃度)を算出できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の評価システム及び評価方法は、複数のポリフェノール成分の水溶液中における総量の評価に用いられる。
【符号の説明】
【0060】
1 :評価システム
2 :測定装置(測定手段)
4 :算出部(算出手段)
6 :表示装置(表示手段)