(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】評価方法、評価システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/0635 20230101AFI20240920BHJP
【FI】
G06Q10/0635
(21)【出願番号】P 2021056352
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】平井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】中野 勇輝
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-059664(JP,A)
【文献】特開2017-078987(JP,A)
【文献】特開2018-036939(JP,A)
【文献】特開2020-027523(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130549(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによって実行される評価方法であって、
前記コンピュータによって、プラントで発生する事故事象のイベントツリーが示す最終的な事象である事故シーケンスの各々について、前記事故シーケンスの経済的な被害規模の期待値を算出するステップと、
前記コンピュータによって、前記事故シーケンスに関与する前記プラントが備える機器の故障のFV(Fussell-Vesely)重要度を、前記事故シーケンスごとに算出するステップと、
前記コンピュータによって、前記事故シーケンスごとの前記経済的な被害規模の期待値および前記FV重要度に基づいて、前記機器の故障の経済性への寄与度を算出するステップと、
を有する評価方法。
【請求項2】
前記被害規模の期待値を算出するステップでは、
前記事故シーケンスに至ることにより生じる経済的な被害規模と、その事故シーケンスの発生頻度と、に基づいて前記被害規模の期待値を算出する、
請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記経済性への寄与度を算出するステップでは、
前記事故シーケンスの経済的な被害規模の期待値に前記機器の前記FV重要度を乗じた値を前記事故シーケンスについて集計して、前記機器ごとに前記経済性への寄与度を算出する、
請求項1または請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記コンピュータによって、前記経済性への寄与度が閾値より高い前記機器、又は、前記経済性への寄与度が大きい順に所定個の前記機器、を選択するステップ、
をさらに有する請求項1から請求項3の何れか1項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記被害規模は、前記プラントの停止期間、前記プラントの停止による損失額、前記プラントの修繕費用のうちの少なくとも1つに基づいて算出される値である、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の評価方法。
【請求項6】
前記イベントツリーは、前記プラントへの外乱を起因事象とし、前記事故事象の進展を緩和する複数の緩和策の成功又は失敗の組合せに応じて複数の前記事故シーケンスへ到達するよう構成され、
前記FV重要度を算出するステップでは、前記事故シーケンスを引き起こす全ての事象の発生頻度の合計に対する前記緩和策に用いられる前記機器の故障が関与する事象の発生頻度の割合を算出する、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の評価方法。
【請求項7】
コンピュータを備える評価システムであって、
前記コンピュータによって、プラントで発生する事故事象のイベントツリーが示す最終的な事象である事故シーケンスの各々について、前記事故シーケンスの経済的な被害規模の期待値を算出する手段と、
前記コンピュータによって、前記事故シーケンスに関与する前記プラントが備える機器の故障のFV(Fussell-Vesely)重要度を、前記事故シーケンスごとに算出する手段と、
前記コンピュータによって、前記事故シーケンスごとの前記経済的な被害規模の期待値および前記FV重要度に基づいて、前記機器の故障の経済性への寄与度を算出する手段と、
を有する評価システム。
【請求項8】
コンピュータに、
プラントで発生する事故事象のイベントツリーが示す最終的な事象である事故シーケンスの各々について、前記事故シーケンスの経済的な被害規模の期待値を算出するステップと、
前記事故シーケンスに関与する前記プラントが備える機器の故障のFV(Fussell-Vesely)重要度を、前記事故シーケンスごとに算出するステップと、
前記事故シーケンスごとの前記経済的な被害規模の期待値および前記FV重要度に基づいて、前記機器の故障の経済性への寄与度を算出するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価方法、評価システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントなどの安全性が重視される設備のリスク対策では、大事故等の重大リスクを低減するために、重大リスクの発生に対する寄与が高い機器故障等への対策を優先して実施することが多い。しかし、重大リスクへの対策を行っても、経済的な観点から見て効率的な対策とはならない可能性がある。例えば、仮に大事故を防ぐことができたとしても、他のトラブルによってプラントの停止期間が長期化すると、経済的に大きな損失を招いてしまう場合がある。特許文献1には、プラント停止による損失を最小限に抑えることができるようにプラントを運転する方法について記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
効果的で効率の良いリスク対策を実施するためにはリスク対策を経済的な観点から合理的に評価する必要がある。例えば、機器故障がもたらす経済的な影響度を評価することができれば、影響度の大きな機器故障に対して対策を講じることにより合理的なリスク対策をとることができる。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる評価方法、評価システム及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の評価方法は、コンピュータによって実行される評価方法であって、前記コンピュータによって、プラントで発生する事故事象のイベントツリーが示す最終的な事象である事故シーケンスの各々について、前記事故シーケンスの経済的な被害規模の期待値を算出するステップと、前記コンピュータによって、前記事故シーケンスに関与する前記プラントが備える機器の故障のFV重要度を、前記事故シーケンスごとに算出するステップと、前記コンピュータによって、前記事故シーケンスごとの前記経済的な被害規模の期待値および前記FV重要度に基づいて、前記機器の故障の経済性への寄与度を算出するステップと、を有する。
【0007】
本開示の評価システムは、コンピュータを備える評価システムであって、前記コンピュータによって、プラントで発生する事故事象のイベントツリーが示す最終的な事象である事故シーケンスの各々について、前記事故シーケンスの経済的な被害規模の期待値を算出する手段と、前記コンピュータによって、前記事故シーケンスに関与する前記プラントが備える機器の故障のFV重要度を、前記事故シーケンスごとに算出する手段と、前記コンピュータによって、前記事故シーケンスごとの前記経済的な被害規模の期待値および前記FV重要度に基づいて、前記機器の故障の経済性への寄与度を算出する手段と、を備える。
【0008】
本開示のプログラムは、コンピュータに、プラントで発生する事故事象のイベントツリーが示す最終的な事象である事故シーケンスの各々について、前記事故シーケンスの経済的な被害規模の期待値を算出するステップと、前記事故シーケンスに関与する前記プラントが備える機器の故障のFV重要度を、前記事故シーケンスごとに算出するステップと、前記事故シーケンスごとの前記経済的な被害規模の期待値および前記FV重要度に基づいて、前記機器の故障の経済性への寄与度を算出するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
上述の評価方法、評価システム及びプログラムによれば、機器故障の経済的な影響度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る評価システムの一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係るイベントツリーと事故シーケンスについて説明する図である。
【
図3】実施形態に係るフォルトツリーの一例を示す図である。
【
図4】事故シーケンスの規模と計画外停止期間の関係の一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る評価処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態に係る評価システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の評価システムについて、
図1~
図6を参照して説明する。
<実施形態>
(システム構成)
図1は、実施形態に係る評価システムの一例を示すブロック図である。
評価システム10は、プラントを構成する機器の異常や故障がプラントの経済性に対して及ぼす影響度、換言すれば、プラントの異常や故障によって生じる経済的な損失に対する機器故障等の影響度を表す評価値(経済性への寄与度Ev)を算出する。プラントのリスク対策を実施するうえで、寄与度Evが大きい機器へ対策を講じることにより、経済的な損失を被るリスクを低減することができる。評価システム10は、データ取得部11と、評価値算出部12と、出力部13と、記憶部14と、を備える。
【0012】
データ取得部11は、経済性への寄与度Evの算出に必要な情報を取得する。例えば、データ取得部11は、イベントツリー、フォルトツリー、事故シーケンスごとの被害規模などの情報を取得する。以下、順に説明する。
【0013】
データ取得部11は、機器故障等の寄与度を評価する対象となるプラントの異常や故障に関する事象の進展を示すイベントツリー(ET)を取得する。ETの一例として、
図2にET100を示す。
図2のET100は、プラントの運転停止を起因事象として、それ以降に生じる事象の進展をモデル化したものである。ET100のヘディングには、起因事象(運転停止)と緩和策1~4が並んでいる。緩和策1~4は、運転停止の事象の進展を緩和する機器や操作を示し、緩和策が成功すれば、事象の進展を回避したり抑制したりすることができ、失敗すると深刻な事象へ進展する。例えば、原子力プラントは運転停止後に原子力燃料の崩壊熱を除去する必要があり、その運用(緩和策1~4)に成功するかどうかによって、その後のプラント停止期間が大きく変動する。
図2のET100は、そのような場合の緩和策1~4の成功・失敗と事象進展の関係を示すイベントツリーである。ET100では、緩和策1~4の分岐点において、成功を水平方向の線で表し、失敗は垂直方向の線で表されている。例えば、緩和策1に成功し、その後、緩和策3に成功すると、プラントの停止期間を10日間に抑えることができる。ところが、緩和策1に失敗し、その後、緩和策2、緩和策4に続けて失敗すると、1年間のプラント停止に追い込まれる。緩和策1~4の成功と失敗の組合せパターンにより、プラントは様々な状態となるが、イベントツリーで表される最終的なプラント状態を事故シーケンスと呼ぶ。
図2のET100の場合、A~Eの5通りの事故シーケンスが存在する。例えば、緩和策1の成功と緩和策3の成功の組合せは事故シーケンスA、緩和策1の成功と緩和策3の失敗の組合せは事故シーケンスB、緩和策1の失敗と緩和策2の成功の組合せは事故シーケンスC、緩和策1の失敗と緩和策2の失敗と緩和策4の成功の組合せは事故シーケンスD、緩和策1の失敗と緩和策2の失敗と緩和策4の失敗の組合せは事故シーケンスEである。また、各分岐点には、対応する緩和策の成功確率と失敗確率が設定される。例えば、緩和策1に成功する確率はX1%、失敗する確率は100-X1%である。この確率は、次に説明するフォルトツリーから計算して設定してもよいし、予め設定されていてもよい。データ取得部11は、
図2のET100にて例示するようなETの構成情報(ヘディングおよびどのように分岐するか)を取得する。
【0014】
データ取得部11は、
図2のET100の起因事象より後のヘディングに示された各事象(緩和策1~4)を頂上事象とするフォルトツリー(FT)の情報を取得する。FTは、頂上事象を引き起こす基事象の組合せの関係を木構造によって表したモデルである。FTの一例として、
図3にFT120およびFT130を示す。FT120は、ET100のヘディング“緩和策2”に関するFTであり、FT130は、“緩和策3”に関するFTである。FT120において“弁1の故障”、“ポンプ4の故障”、“操作Xの失敗”が基事象であり、“緩和策2の失敗”が頂上事象である。FT120は、“弁1の故障”、“ポンプ4の故障”、“操作Xの失敗”の何れかが生じると緩和策2に失敗することを示している。同様に、FT130において“ポンプ4の故障”、“弁2の故障”、“弁3の故障”が基事象であり、“緩和策3の失敗”が頂上事象である。FT130は、“ポンプ4の故障”が生じるか、又は、“弁2の故障”および“弁3の故障”が同時に発生すると緩和策3に失敗することを示している。ここで、弁1~3、ポンプ4は何れも運転停止したプラントが備える機器である。また、FT120等の各基事象には、技術者の知見や解析結果に基づき、その基事象の発生確率が設定されている。各基事象に設定された発生確率とFTの木構造に基づいて、ETの各分岐の成功確率と失敗確率を計算することができる。例えば、FT120の各基事象に設定された発生確率とFT120の木構造に基づいて、ET100の緩和策2における成功確率X2%と失敗確率100-X2%を計算することができる。また、頂上事象を引き起こす基事象の組合せをカットセットと呼ぶ。FT120のカットセットは、(1)弁1の故障、(2)ポンプ4の故障、(3)操作Xの失敗の3つであり、FT130のカットセットは、(1)ポンプ4の故障、(2)弁2の故障と弁3の故障の組合せの2つである。データ取得部11は、
図3に例示するFT120~130のような緩和策1~4についてのFTの構成情報(頂上事象と基事象、それらの関係を示す木構造、各基事象の発生確率など)を取得する。
【0015】
データ取得部11は、事故シーケンスごとの被害規模を示す情報を取得する。被害規模を示す情報とは、例えば、プラントの計画外停止期間の長さ、計画外停止による逸失利益や損害賠償等の金額、設備の修繕費用、あるいはそれらを組み合わせた値である。
図2で説明したように、緩和策1~4が失敗するにつれて、プラントが受ける被害は拡大し、計画外の停止期間が延長され、プラントの早期運転再開は困難になる。事故シーケンスA~Eごとにプラントが受ける被害の規模が異なることから、事故シーケンスA~Eの各々に対し、過去の実績に基づく統計処理や工学的判断に基づいて被害規模を評価する。この評価は、知見を有する技術者が行ってもよいし、所定の評価プログラムに様々な計算条件(例えば、プラントの被害状況を数値化した情報)を与えて、事故シーケンスごとに被害規模の評価値を計算させることによって行ってもよい。一例として、事故シーケンスの被害規模とプラントの計画外停止期間との関係を
図4に示す。
図4に示すように、計画外停止期間が長期化する程、被害規模は増大する。
図2の枠110内に示した10日間、2か月間、1年間などの値は、事故シーケンスごとの被害規模の評価値である。データ取得部11は、事故シーケンスごとの計画外停止期間、計画外停止による損失額、修繕費用などの被害規模の評価値を取得する。
【0016】
評価値算出部12は、機器故障等の経済的な影響度を示す評価値、つまり、経済性への寄与度Evを算出し、寄与度Evが大きい機器故障等を抽出する。評価値算出部12は、次の(1)~(3)の手順で寄与度Evを算出する。
【0017】
(手順1)事故シーケンスごとに以下の式(1)によって被害額(被害規模)の期待値を算出する。
事故シーケンスの被害額期待値(円/年)= 事故シーケンスの発生頻度(/年)×事故シーケンスの被害額(円) ・・・(1)
例えば、
図2の事故シーケンスBの場合、事故シーケンスBの発生確率は、運転停止の発生確率×X1/100×(1-X3/100)によって計算することができる。運転停止の発生確率は、過去の実績などにより計算された値が与えられる。また、事故シーケンスBの被害額には計画外停止期間の2か月をコスト換算した値を用いる。
【0018】
(手順2)事故シーケンスごとに機器のFV(Fussell-Vesely)重要度を以下の式(2)によって算出する。
FV重要度 = (当該機器の異常・故障が関与するシナリオの頻度)/事故シーケンスに含まれる全シナリオの頻度 ・・・(2)
FV重要度は、プラントにおける機器への対策効果の把握などに用いられる指標である。式(2)のFV重要度は、分母の事故シーケンスが発生する確率のうち、各機器の異常・故障が原因となる割合を示し、FV重要度が大きい機器故障等の方が、FV重要度が小さい機器故障等よりも影響が大きい。また、シナリオとは、当該事故シーケンスに到達する様々な機器故障の組み合わせのパターン、つまり、当該事故シーケンスに到達する様々なカットセットを指す。例えば、
図2の事故シーケンスBの場合、式(2)の分母は、緩和策1に成功するときの全てカットセットと緩和策3に失敗するときの全てのカットセットとの組合せを算出し、それら全ての組合せごとの発生確率の合計で計算することができる。一方、式(2)の分子は、例えば、評価対象の機器がポンプ4の場合、ポンプ4の異常・故障が関与するシナリオ(=カットセット)の頻度は、
図3のFT130より、基事象“ポンプ4の故障”の発生確率と等しくなる。これにより、事故シーケンスBにおけるポンプ4のFV重要度が計算できる。評価値算出部12は、このような計算を、事故シーケンスごとに、その事故シーケンスの発生の原因となる全ての機器(当該事故シーケンスに関係する緩和策のFTに登場する全ての機器)について実行する。ポンプ4の例で説明したように、評価値算出部12は、データ取得部11が取得した緩和策1~4のFTに含まれる各基事象の発生確率に基づいて、式(2)のFV重要度を算出する。例えば、事故シーケンスDであれば、評価値算出部12は、緩和策1,2、4のFTに基づいてFV重要度を算出する。
【0019】
(手順3)機器ごとにその機器の故障等がプラントの経済性にもたらす寄与度を以下の式(3)によって算出する。
【0020】
【0021】
つまり、(手順2)で算出した事故シーケンスごと機器ごとのFV重要度に(手順1)で算出したその事故シーケンスの被害額の期待値を掛け合わせて、事故シーケンスごとに評価対象の機器の異常や故障がもたらす被害規模の期待値を算出し、算出した値を全ての事故シーケンスについて合計して、評価対象の機器の異常や故障がもたらすプラントの経済性への寄与度Evを算出する。評価値算出部12は、緩和策1~4のFTに登場する全ての機器について、(手順1)~(手順3)の計算を行い、寄与度Evを算出する。例えば、ポンプ4は、緩和策2のFT120と緩和策3のFT130に登場するので、緩和策2の失敗に関係がある事故シーケンスD,Eと、緩和策3の失敗に関係がある事故シーケンスBのそれぞれについて、(手順2)の計算によりポンプ4のFV重要度が算出される。(手順3)の計算では、事故シーケンスB,D,Eについて算出したポンプ4のFV重要度に、(手順1)で算出した期待値のうち、対応する事故シーケンスの期待値を乗じて、それらを合計し、プラントの運転停止の後に発生し得る事故シーケンスA~Eの全被害額に対するポンプ4の経済性への寄与度Evを算出する。
【0022】
評価値算出部12は、ポンプ4と同様にして、全ての機器について寄与度Evを算出し、この値の大きいものを抽出する。各機器故障の寄与度Evは、例えば「1年間に当該機器故障によって生じ得る計画外停止日数の期待値」であるため、寄与度の高い機器故障に対策を施すことで、経済的な損失を受けるリスクを低減することが可能となる。
【0023】
出力部13は、各種情報を表示装置や電子ファイル等に出力する。例えば、出力部13は、評価値算出部12によって計算された機器ごとの経済性への寄与度Evを表示装置などへ出力する。
記憶部14は、各種情報を記憶する。例えば、記憶部14は、データ取得部11が取得したET,FT、被害規模などの情報を記憶する。
【0024】
(動作)
次に
図5を参照して、評価システム10が経済性への寄与度Evを算出する処理の流れについて説明する。
図5は、実施形態に係る評価処理の一例を示すフローチャートである。
まず、ET,FTを取得する(ステップS11)。ユーザは、評価対象事象のET、ETの起因事象の発生確率、ETのヘディングに含まれている事象(緩和策)やそのFTを評価システム10へ入力する。データ取得部11は、入力されたET,FTなどの情報を記憶部14に記録する。
【0025】
次に事故シーケンスごとに被害規模を設定する(ステップS12)。ユーザは、事故シーケンスごとの被害規模を評価システム10へ入力する。データ取得部11は、入力された被害規模を取得し、各被害規模をETによって示される事故シーケンスと対応付けて記憶部14に記録する。これにより、各事故シーケンスに経済的な影響度が設定され、各事故シーケンスは等価なものではなく、経済的な影響度の大きさに基づいて分類される。
【0026】
次にステップS13~S15によって、各機器の故障がもたらす経済的な寄与度を評価する。まず、事故シーケンスごとに被害規模の期待値を算出する(ステップS13)。評価値算出部12は、上記の(手順1)で説明したように、式(1)によって、事故シーケンスごとに被害規模(被害額など)の期待値を算出する。評価値算出部12は、算出した事故シーケンスごとの被害規模の期待値を記憶部14に記録する。
【0027】
次に事故シーケンスごとに機器のFV重要度を算出する(ステップS14)。評価値算出部12は、上記の(手順2)で説明したように、式(2)によって、事故シーケンスごとに機器のFV重要度を算出する。評価値算出部12は、算出した事故シーケンスごと機器ごとのFV重要度を記憶部14に記録する。
【0028】
次に機器ごとの経済的な寄与度を算出する(ステップS15)。評価値算出部12は、上記の(手順3)で説明したように、式(3)によって、機器ごとの経済性への寄与度Evを算出する。評価値算出部12は、算出した機器ごとの経済性への寄与度Evを記憶部14に記録する。
【0029】
次に寄与度が高い機器を抽出する(ステップS16)。例えば、評価値算出部12は、ステップS15で算出した寄与度Evが所定の閾値よりも大きい機器を抽出する。あるいは、評価値算出部12は、寄与度Evが大きいものから順に所定数の機器を抽出する。評価値算出部12は、抽出した機器とその機器の異常や故障がもたらす経済性への寄与度Evを出力部13に出力する。
【0030】
次に寄与度が高い機器を出力する(ステップS17)。出力部13は、ステップS16で抽出された機器とその機器の経済性への寄与度Evを表示装置などへ出力する。これにより、ユーザは、経済的な被害規模への影響度が大きい機器を把握することができる。例えば、プラントを数十年間にわたって運用するうえで、プラントの計画外停止期間の期待値を下げるためには、どの機器の故障を避けるべきかを把握することができる。
【0031】
(効果)
以上、説明したように、本実施形態によれば、事故シーケンスの経済的な被害規模の期待値と、その事故シーケンスが発生することへの各機器の貢献度(FV重要度)から、各機器のプラントの経済性への寄与度Evを算出する。機器ごとの経済的な寄与度が把握できるので、優先的に対策を行うべき機器を特定することができる。また、寄与度の高い機器へ優先的にメンテナンスを行ったり、代替手段を確保したりすることで、プラントの異常等に対する経済的損失を抑制することができる。
【0032】
従来、原子力プラントなどの安全性が重視されているプラントに対しては、重大事故リスク(例:炉心損傷)への寄与が高い機器故障に対して優先的に対策を実施することが多かったが、今後はプラントのコスト競争力向上・高経済化を進めることが重要視されることが予想されている。例えば、
図2のET100は、原子力プラントの運転停止後に炉心損傷を回避するための様々な対策(緩和策)と事故シーケンスの関係を単純化して示したものである。ET100の事故シーケンスに炉心損傷を含めると、例えば、緩和策4の後にさらに緩和策5があり、緩和策4の失敗後、緩和策5に失敗すると炉心損傷に至るといったモデルになる。この場合、従来は、炉心損傷を招く機器故障への対策(例えば、緩和策4や緩和策5の失敗に関与する機器故障)が最優先とされ、事故シーケンスA~Eについては、炉心損傷を回避するシーケンスとして等価に扱われてきた。しかし、上記例のように事故シーケンスA~Eを経済的観点から比較すると、等価に扱えるものではない。本実施形態では、経済的な指標としてプラントの計画外停止期間の長さに基づいて事故シーケンスA~Eの差別化・分類を行い、さらに各機器故障が事故シーケンスA~Eへ寄与する割合をFV重要度で算出する。そして、各機器故障の経済的な影響度を、経済的な指標である計画外停止期間(被害規模)の期待値への寄与度Evで表現する。これにより、最も回避すべき事象(例えば、炉心損傷)の防止に有効な対策(例えば、炉心損傷の発生確率を高める機器故障の防止)という観点ではなく、プラントの運用に対する経済的な指標値の低下を抑止(プラントの計画外停止期間を短縮)するために重点的に対策を施すべき機器を合理的に選定することが可能となる。
【0033】
計画外停止期間の期待値を短縮するという観点で算出された寄与度Evが大きい機器から順に優先して対策を行うと、例えば、
図2のET100であれば、計画外停止期間が最も長い(1年)事故シーケンスEに関与する機器に対する対策が最優先で実施される可能性が高い。その結果、事故シーケンスEに至ることを防ぐことができれば、計画外停止期間を3か月以内に食い止めることができる。同様にして寄与度Evが大きい機器から順に対策することにより、プラントの運転停止後に、計画外停止期間が短い事故シーケンスに至るように運用できる可能性を高めることができ、早期復旧を実現することができる。
【0034】
なお、実施形態では経済的な指標値の低下を抑制する、つまり、被害規模が大きくなるリスクを低下させるという観点で被害規模による重み付け(計画外停止期間の長さで重み付け)を行うこととしたが、被害規模が大きくなるリスクを低下させることよりも被害規模を小さくする可能性を高めるという観点(なるべく事故シーケンスAに導く)で、(手順1)にて、計画外停止期間の長さが短い事故シーケンスにより大きな重み付けをして被害規模の期待値を算出するようにしてもよい。
【0035】
図6は、実施形態に係る評価システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の評価システム10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0036】
なお、評価システム10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0037】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0038】
<付記>
各実施形態に記載の評価方法、評価システム及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0039】
(1)第1の態様に係る評価方法は、プラントで発生する事故事象のイベントツリーが示す最終的な事象である事故シーケンスの各々について、その事故シーケンスの経済的な被害規模の期待値を算出するステップ(S13)と、前記事故シーケンスに関与する前記プラントが備える機器の故障のFV(Fussell-Vesely)重要度を、前記事故シーケンスごとに算出するステップ(S14)と、前記事故シーケンスごとの前記経済的な被害規模の期待値および前記FV重要度に基づいて、前記機器の故障の経済性への寄与度を算出するステップ(S15)と、を有する。
【0040】
従来、プラントのリスクに対する性能指標は過酷事故の発生リスクに対する性能が主流であり、外乱(実施形態におけるプラント運転停止)を早期かつ最小限の被害で抑える性能(復旧性能)を評価する手法は提供されていない。ともすると、早期復旧への対策が手薄になり、過酷事故を防止することができても早期復旧が困難になる傾向があった。これに対し、第1の態様に係る評価方法によれば、事故の発生リスクではなく、計画外停止期間などの被害規模(の期待値)を差別化・定量化し、定量化した値(被害額)への寄与度に着目して、経済的な観点で事故対策を評価する。経済的な寄与度の大きい事故対策を優先して行うことで、被害規模が大きい(早期復旧が困難な)事故シーケンスを回避できる可能性が高まり、外乱発生後の早期復旧を達成することができる。これにより、プラントの経済性を向上することができる。
【0041】
(2)第2の態様に係る評価方法は、(1)の評価方法であって、前記被害規模の期待値を算出するステップでは、前記各事故シーケンスに至ることにより生じる経済的な被害規模と、その事故シーケンスの発生頻度と、に基づいて前記被害規模の期待値を算出する。
これにより、被害規模の期待値を算出することができる。
【0042】
(3)第3の態様に係る評価方法は、(1)~(2)の評価方法であって、前記経済性への寄与度を算出するステップでは、前記事故シーケンスの被害規模の期待値に前記機器故障の前記FV重要度を乗じた値を前記事故シーケンスについて集計して、前記機器ごとに前記経済性への寄与度を算出する。
これにより、機器ごとの経済性への寄与度を算出することができる。
【0043】
(4)第4の態様に係る評価方法は、(1)~(3)の評価方法であって、前記経済性への寄与度が閾値より高い前記機器、又は、前記経済性への寄与度が大きい順に所定個の前記機器、を選択するステップ、をさらに有する。
これにより、メンテナンスや代替手段の確保などの対策を取るべき機器を選択することができる。
【0044】
(5)第5の態様に係る評価方法は、(1)~(4)の評価方法であって、前記被害規模は、前記プラントの停止期間、前記プラントの停止による損失額(逸失利益、賠償額など)、前記プラントの設備修繕費用のうちの少なくとも1つに基づいて算出される値である。
これにより、被害規模を経済性の観点から定量的に評価することができる。
【0045】
(6)第6の態様に係る評価方法は、(1)~(5)の評価方法であって、前記イベントツリーは、プラントへの外乱を起因事象とし、前記事故事象の進展を緩和する複数の緩和策の成功又は失敗の組合せに応じて複数の前記事故シーケンスへ到達するよう構成され、前記FV重要度を算出するステップでは、前記事故シーケンスを引き起こす全ての事象の発生頻度の合計に対する前記緩和策に用いられる前記機器の故障が関与する事象の発生頻度の割合を算出する。
これにより、事象進展の緩和に用いられる機器のFV需要度を算出することができる。
【0046】
(7)第7の態様に係る評価システムは、プラントで発生する事故事象のイベントツリーが示す最終的な事象である事故シーケンスの各々について、その事故シーケンスの経済的な被害規模の期待値を算出する手段(評価値算出部12)と、前記事故シーケンスに関与する前記プラントが備える機器の故障のFV(Fussell-Vesely)重要度を、前記事故シーケンスごとに算出する手段(評価値算出部12)と、前記事故シーケンスごとの前記経済的な被害規模の期待値および前記FV重要度に基づいて、前記機器の故障の経済性への寄与度を算出する手段(評価値算出部12)と、を有する。
【0047】
(8)第8の態様に係るプログラムは、コンピュータに、プラントで発生する事故事象のイベントツリーが示す最終的な事象である事故シーケンスの各々について、その事故シーケンスの経済的な被害規模の期待値を算出するステップと、前記事故シーケンスに関与する前記プラントが備える機器の故障のFV(Fussell-Vesely)重要度を、前記事故シーケンスごとに算出するステップと、前記事故シーケンスごとの前記経済的な被害規模の期待値および前記FV重要度に基づいて、前記機器の故障の経済性への寄与度を算出するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0048】
10・・・評価システム
11・・・データ取得部
12・・・評価値算出部
13・・・出力部
14・・・記憶部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース