IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイエスピーの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/12 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C08J9/12 CET
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021073125
(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公開番号】P2022167370
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 祥輝
(72)【発明者】
【氏名】笠原 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】小暮 直親
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/066176(WO,A1)
【文献】特開2017-082147(JP,A)
【文献】特開2019-026756(JP,A)
【文献】特開2006-131719(JP,A)
【文献】特開2021-038313(JP,A)
【文献】特開2022-044963(JP,A)
【文献】特表2020-531633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60;67/20
C09K 3/00;3/20-3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂、難燃剤及び物理発泡剤を混練してなる発泡性樹脂組成物を押出して成形具により板状に成形する工程を含む見掛け密度20~50kg/mのポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法であって、
前記物理発泡剤が、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1224yd)からなる発泡剤(a)と、20~100mol%の水(b1)及び0~80mol%の炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)からなる(ただし、b1とb2との合計が100mol%である)発泡剤(b)とを含有し、
前記発泡剤(a)の添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.6~1.3molであり、
前記発泡剤(a)と前記発泡剤(b)とのmol比(a:b)が50:50~95:5であることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法。
【請求項2】
前記発泡剤(b)が、60~95mol%の水(b1)及び5~40mol%の炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)からなる(ただし、b1とb2との合計が100mol%である)ことを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法。
【請求項3】
前記発泡剤(a)と前記発泡剤(b)とのmol比(a:b)が50:50~85:15であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法。
【請求項4】
前記ポリスチレン系樹脂発泡板の独立気泡率が85%以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法に関し、詳しくは、建築物の壁、床、屋根等の断熱材として好適に使用可能なポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂発泡板(以下、単に「発泡板」ともいう)は、優れた断熱性及び機械的強度を有することから断熱材として広く使用されている。このような板状の発泡板は、一般に押出機中でポリスチレン系樹脂を加熱溶融した後、得られた溶融物に物理発泡剤を圧入、混練して得られる発泡性溶融樹脂混練物を、押出機先端に付設されたフラットダイ等から低圧域に押出して発泡させ、成形具により板状に成形することにより製造されている。
【0003】
前記発泡板の製造に用いられる発泡剤としては、発泡性に優れ、オゾン破壊係数が0で、地球温暖化係数も小さく、断熱性に優れることから、ノルマルブタン、イソブタン等のブタンが用いられている。しかし、これらブタンは極めて燃えやすく、長期間に亘って発泡板内に残存し、JIS A9521:2017の燃焼性試験方法に規定されるような高度な難燃性を満足させることが難しくなるため、ブタンの添加量には上限がある。
【0004】
前記問題を解決するために、これまでに、水、二酸化炭素、エーテル、アルコール等の早期散逸性発泡剤をブタンと組み合わせて使用することにより、低見掛け密度であってもブタンの残存量を低く抑えた発泡板の製造が行われてきた。さらに、近年、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンや1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等のハイドロフルオロオレフィンが、ブタンや早期散逸性発泡剤と合わせて用いられている。これらのハイドロフルオロオレフィンは、ポリスチレン系樹脂に対して溶解性を有するとともに発泡性を有するため、低見掛け密度の発泡板の製造を可能としている。また、ハイドロフルオロオレフィンは、不燃性で、熱伝導率が低く断熱性に優れ、長期に亘って発泡板内に残存することから、長期断熱性を付与することが可能となる。
【0005】
さらに、ハイドロフルオロオレフィンは、オゾン層破壊係数や地球温暖化係数が非常に小さいため、環境に優しい発泡剤である。そして、これまでに前記ハイドロフルオロオレフィンを用いて製造された発泡板として、例えば、特許文献1~3の発泡板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2012-516381号公報
【文献】国際公開WO2017/086176号公報
【文献】国際公開WO2015/093195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1~3においては、ハイドロフルオロオレフィンとして、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)や、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd)等が用いられている。
【0008】
これらハイドロフルオロオレフィンの中で、HFO-1234zeは、HFO-1233zdに比べて熱伝導率を低く維持する効果(低熱伝導率化)が優れるものの、ポリスチレン系樹脂に対する溶解度が低いため、HFO-1234zeの添加量を多くすると低見掛け密度の発泡板が得られなくなることがあった。
【0009】
一方、HFO-1233zdは、HFO-1234zeに比べて発泡性は優れるものの、HFO-1234zeよりも長期間に亘って発泡板の熱伝導率を低く維持させる効果が若干低いため、その配合量や配合割合によっては熱伝導率を低下させる効果への寄与が不十分となることもあった。
【0010】
本発明は、ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂に対し、特定の物理発泡剤を用いることにより、発泡性に優れ、表面平滑性を有し、ガススポット及び収縮が抑制された良好な外観を有し、発泡板の熱伝導率を低く維持することができるポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下に示すポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法が提供される。
[1]ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂、難燃剤及び物理発泡剤を混練してなる発泡性樹脂組成物を押出して成形具により板状に成形する工程を含む見掛け密度20~50kg/mのポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法であって、
前記物理発泡剤が、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1224yd)からなる発泡剤(a)と、20~100mol%の水(b1)及び0~80mol%の炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)からなる(ただし、b1とb2との合計が100mol%である)発泡剤(b)とを含有し、
前記発泡剤(a)の添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.6~1.3molであり、
前記発泡剤(a)と前記発泡剤(b)とのmol比(a:b)が50:50~95:5であることを特徴とする。
[2]前記1の発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法において、前記発泡剤(b)が、60~95mol%の水(b1)及び5~40mol%の炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)からなる(ただし、b1とb2との合計が100mol%である)であることを特徴とする。
[3]前記1又は2の発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法において、前記発泡剤(a)と前記発泡剤(b)とのmol比(a:b)が50:50~85:15であることを特徴とする。
[4]前記1から3の発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法において、前記ポリスチレン系樹脂発泡板の独立気泡率が85%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、発泡性に優れ、表面平滑性を有し、ガススポット及び収縮が抑制された良好な外観を有し、発泡板の熱伝導率を低く維持することができるポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂及び物理発泡剤を混練してなる発泡性樹脂組成物を押出し発泡させて、成形具により板状に成形する工程を含む方法により、ポリスチレン系樹脂発泡板を製造する方法である。
【0014】
具体的には、ポリスチレン系樹脂と必要に応じて添加される他の樹脂からなる基材樹脂と、難燃剤、必要に応じて配合されるその他の添加剤を押出機内で加熱下に溶融、混練し、得られた溶融混練物に特定の発泡剤を圧入し、さらに混練して発泡性樹脂溶融物とし、該発泡性樹脂溶融物を発泡適正温度に調整し、フラットダイを通して高圧の押出機内から低圧域に押出して発泡させ、フラットダイの出口に配置された成形型(例えば、平行あるいは入り口から出口方向に向かって緩やかに拡大するように設置された上下二枚のポリテトラフルオロエチレン樹脂等の板で構成される成形型(ガイダー))や、成形ロール等の賦形装置を通過させることによって板状の発泡板が製造される。
【0015】
<基材樹脂>
(ポリスチレン系樹脂)
本発明の製造方法で用いられるポリスチレン系樹脂としては、例えばポリスチレンや、スチレン単位成分を50mol%以上含むスチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-メチルスチレン共重合体、スチレン-ジメチルスチレン共重合体、スチレン-エチルスチレン共重合体、スチレン-ジエチルスチレン共重合体等から選択される1種又は2種以上を例示することができ、これらの中でもポリスチレンを好適に用いることができる。なお、ポリスチレンには、スチレン単位成分以外に、多官能性単量体や多官能性マクロモノマー等の分岐化剤による単位成分が含まれていてもよい。前記共重合体中のスチレン成分単位の含有量は、好ましくは60mol%以上、より好ましくは80mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上である。
【0016】
本発明の製造方法で用いられるポリスチレン系樹脂の溶融粘度は、発泡性や成形性に優れることから、500~3000Pa・sであることが好ましく、より好ましくは1000~2500Pa・s、さらに好ましくは1500~2300Pa・sである。なお、本明細書において、溶融粘度は、JIS K7199:1999に基づき、温度200℃、せん断速度100sec-1の条件で測定した値である。
【0017】
また、基材樹脂は、発泡板の断熱性を高めるために非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体を含むことが好ましい。この場合、非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、基材樹脂中に5質量%以上50質量%未満となるように配合することが好ましく、より好ましくは10質量%以上40質量%以下、更に好ましくは15質量%以上30質量%以下である。なお、該非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体においては、JIS K7122に基づく樹脂の融解に伴う融解熱量が5J/g未満である。該融解熱量は、JIS K7122(1987)における熱流束示差走査熱量測定法に基づいて、熱流束示差走査熱量測定装置を使用し、加熱速度毎分10℃で280℃まで加熱し、この温度に10分間保った後、冷却速度毎分10℃で23℃まで冷却し、再度加熱速度毎分10℃で280℃まで加熱して得られるDSC曲線に基づいて測定されるものである。
【0018】
非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体の溶融粘度は、500~3000Pa・sであることが好ましく、より好ましくは1000~2500Pa・s、さらに好ましくは1500~2300Pa・sである。樹脂同士の相溶性の観点から、非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体の溶融粘度は、前記ポリスチレン樹脂の溶融粘度と近いことが好ましい。
【0019】
(その他の重合体)
前記基材樹脂は、本発明の目的、効果が達成される範囲内において、前記ポリスチレン系樹脂及び前記非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体以外の重合体を含むことができる。その他の重合体としては、ポリエチレン系樹脂(エチレン単独重合体及びエチレン単位成分含有量が50mol%以上のエチレン系共重合体の群から選択される1種又は2種以上の混合物)、ポリプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体及びプロピレン単位成分含有量が50mol%以上のプロピレン系共重合体の群から選択される1種又は2種以上の混合物)、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル等の熱可塑性樹脂や、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体水添物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水添物、スチレン-エチレン共重合体等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの他の重合体は、基材樹脂中で50質量%未満となるように、好ましくは30質量%以下となるように、より好ましくは10質量%以下となるように、さらに好ましくは5質量%以下となるように、目的に応じて配合することができる。
【0020】
なお、本発明の製造方法において、ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂とは、基材樹脂の50質量%以上がポリスチレン系樹脂であることをいい、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0021】
<物理発泡剤>
本発明で用いる物理発泡剤は、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1224yd)からなる発泡剤(a)と、水(b1)、又は水(b1)及び炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)からなる発泡剤(b)とを必須の成分とするものである。発泡剤(b)は、水(b1)単独でもよく、水(b1)及び炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)を組み合わせたものでもよい。
【0022】
発泡剤(a)の1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1224yd)は、ハイドロフルオロオレフィンの中では、ポリスチレン系樹脂に対して適度な溶解性と優れた発泡性を有しており、低見掛け密度の発泡板を製造しやすくなる。また、不燃性であるため、発泡板製造時の静電気による着火等の危険性を低減させることができる。さらに、オゾン破壊係数が低く、地球温暖化係数も非常に小さく、環境に与える負担が小さい発泡剤である。しかし、HFO-1224ydは、HFO-1234zeと比べ、発泡板から逸散しやすく、長期間に亘って発泡板の熱伝導率を低く維持することが困難であるという特性を有している。本発明においては、HFO-1224ydに対して炭素数3~5の脂肪族アルコールを特定の割合で添加することにより、発泡板からのHFO-1224ydの散逸を抑制し、炭素数3~5の脂肪族アルコールを添加しない場合と比べ、長期間経過後の発泡板の熱伝導率を低く維持することができる。
【0023】
発泡剤(b)は、水(b1)、又は水(b1)及び炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)からなる発泡剤である。水(b1)は、分子量が小さく、発泡効率が高いことから、押出発泡断熱板の見掛け密度を低くすることを可能とする。また、水は環境負荷の低減を可能とし、発泡板から早期に散逸していくため、得られた発泡板の寸法を早期に安定させることができる。
【0024】
炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)も水(b1)と同様、オゾン層を破壊することがなく、地球を温暖化させることもない上に、発泡板から早期に逸散することから、発泡板の形状を早期に安定化させることができる。また、炭素数1~5の脂肪族アルコールを用いることにより、より低見掛け密度(高発泡倍率)の発泡板を得ることができる。
【0025】
炭素数1~5の脂肪族アルコールとしては、例えば、メチルアルコール(メタノール)、エチルアルコール(エタノール)、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、アリールアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール、n-アミルアルコール,sec-アミルアルコール,イソアミルアルコール、tert-アミルアルコール、ネオペンチルアルコール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール等が挙げられる。これらの中でもエタノールを好適に用いることができる。また、これらを2種以上併用することもできる。
【0026】
発泡剤(b)として、水(b1)、又は水(b1)と炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)を特定の比率で組み合わせて使用することにより、発泡時の樹脂を適度に可塑化させて発泡性を向上させ、見掛け密度が低い発泡板を得ることができる。
【0027】
<発泡剤の添加量>
本発明において、物理発泡剤の総添加量は、前記基材樹脂1kgに対して0.8~1.5molであることが好ましい。軽量性に優れ、低見掛け密度の発泡板を得るという観点から、物理発泡剤の総添加量は0.9mol以上であることがより好ましく、1mol以上であることがさらに好ましく、1.1mol以上であることが特に好ましい。また、強度に優れ、建材用の断熱材として好適に使用できる発泡体を得るという観点から、その上限は、1.4molであることがより好ましく、1.35molであることがさらに好ましい。
【0028】
また、物理発泡剤中の発泡剤(a)(HFO-1224yd)の添加量は、基材樹脂1kgに対して0.6~1.3molである。発泡剤(a)の添加量が少なすぎると、得られる発泡板の発泡倍率は低くなり、所望される低見掛け密度の発泡板を得ることができない場合がある。かかる観点から、発泡剤(a)の添加量は基材樹脂1kgに対して0.7mol以上であることが好ましく、0.8mol以上であることがより好ましく、0.9mol以上であることがより好ましい。なお、発泡剤(a)の添加量が多い条件にて製造が困難な場合には、スクリューの直径に対するスクリューの軸方向長さの比が大きいスクリューなどの高混練タイプのスクリュー、スタティックミキサーなどの静的混合装置、二軸スクリュー押出機などの多軸スクリュー押出機等を必要に応じて単独または組み合わせて使用し、高混練型の押出装置とすることにより発泡板を製造しやすくすることができる。また、発泡剤(a)の添加量が多すぎると、ガススポットが多数発生し、得られる発泡板の表面平滑性が低下するおそれがある。かかる観点から、発泡剤(a)の添加量の上限は、基材樹脂1kgに対して1.2molであることが好ましく、1.15molであることがより好ましい。
【0029】
また、本発明においては、発泡剤(a)と発泡剤(b)とのmol比(a:b)が50:50~95:5の範囲である。発泡剤(a)と発泡剤(b)とのmol比が前記範囲であると、発泡剤(b)が発泡板からより抜けやすく、発泡剤(a)のみが残存するため、低熱伝導率の発泡板を得ることができる。また、発泡剤(b)により、ポリスチレン系樹脂からなる基材樹脂に対して適度な可塑性を付与し、低見掛け密度の発泡板が得られやすくなる。なお、発泡剤(b)の添加量が発泡剤(a)より多い場合には収縮が大きくなる場合があり、発泡剤(b)の添加量が少なすぎる場合には、製造安定性に劣るおそれがある。かかる観点から発泡剤(a)と発泡剤(b)とのmol比(a:b)は50:50~85:15であることが好ましい。
【0030】
また、発泡剤(b)における、水(b1)と炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)とのmol比(b1:b2)は20:80~100:0の範囲である。発泡剤(b)として少なくとも水を用いることにより、押出機中にて、発泡性樹脂溶融物をダイを通して高圧の押出機内から低圧域に押出して発泡させる際のダイの圧力を高く維持することができ、押出発泡時の製造安定性に優れるとともに、押出発泡時の表面摩擦が低減され、表面平滑性に優れる発泡板を得ることができる。さらに、水と炭素数1~5の脂肪族アルコールを前記比率で用いることにより、適切な発泡倍率の発泡板とすることができる。かかる観点から、水と炭素数1~5の脂肪族アルコールとのmol比(b1:b2)は60:40~95:5であることが好ましく、より好ましくは65:35~85:15であり、さらに好ましくは70:30~80:20である。前記発泡剤(b)は、65~85mol%の水(b1)と15~35mol%の炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)からなる(ただし、b1とb2との合計が100mol%である)ことがより好ましく、70~80mol%の水(b1)と20~30mol%の炭素数1~5の脂肪族アルコール(b2)からなる(ただし、b1とb2との合計が100mol%である)ことがさらに好ましいともいえる。該mol比(b1:b2)を前記好ましい範囲とすることにより、高い発泡倍率の発泡板とすることができるとともに、発泡板の収縮を効果的に抑制することができる。
【0031】
本発明の製造方法によれば、フルオロオレフィンの1-クロロ-2, 3,3,3-テトラフルオロプロペンと、水、又は水と炭素数1~5の脂肪族アルコールを特定の割合で添加した発泡剤を用いることにより、発泡性に優れ、表面平滑性に優れるとともにガススポット及び収縮が抑制された良好な外観を有し、発泡板の熱伝導率を低く維持することが可能な発泡板とすることができる。
【0032】
<その他の成分>
(難燃剤)
本発明の製造方法により得られる発泡板は、主として建材用の断熱材として使用されるものであり、難燃剤を前記基材樹脂に配合することにより難燃性が付与される。本発明で用いる難燃剤は特に限定されるものではないが、臭素系難燃剤が好ましい。該臭素系難燃剤としては、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体等の臭素化ブタジエン系重合体、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-S-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-F-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-S-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-F-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)に代表される臭素化ビスフェノール化合物、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、モノ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、ジ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、トリス(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレートに代表される臭素化イソシアヌレート等が挙げられる。これら臭素系難燃剤の1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0033】
また、これら臭素系難燃剤のほかに、クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、スズ酸亜鉛、シアヌル酸、ペンタブロモトルエン、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛等の無機化合物、トリフェニルホスフェートに代表されるリン酸エステル系、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、次亜リン酸塩等のリン系化合物等を併用することができる。
【0034】
これら難燃剤の中でも、発泡板に高い難燃性を付与できることから、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートの1種又は2種以上を含む難燃剤を使用することが好ましい。また、これらの中でも、高い難燃性が付与でき、かつ押出時にポリスチレン系樹脂を分解させにくく、また、低見掛け密度(高発泡倍率)で、さらに大断面積の場合であっても、安定して発泡板を得ることが容易となることから、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体を含む難燃剤、または、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)とテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)とを併用した難燃剤を使用することがより好ましい。
【0035】
難燃剤の配合量は、発泡板に高度な難燃性を付与できるとともに、押出発泡性の低下及び機械的物性の低下を抑制することもできることから、基材樹脂100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは1~8質量部であり、さらに好ましくは3~7質量部である。この範囲内であれば、難燃剤が発泡性を阻害することなく、JIS A9521:2017の燃焼性試験方法に規定される「試験方法A」記載の押出法ポリスチレンフォーム断熱材を対象とする燃焼性規格のような高度な難燃性が得られる発泡板を得ることができる。
【0036】
(難燃助剤)
また、本発明の方法においては、発泡板の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を前記難燃剤と併用することができる。難燃助剤としては、例えば2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、3,4-ジエチル-3,4-ジフェニルヘキサン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-エチル-1-ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン等のポリアルキル化芳香族化合物等から選択される1種又は2種以上を例示することができる。難燃助剤の配合量は、基材樹脂100質量部に対して概ね0.01~1質量部であり、より好ましくは0.05~0.5質量部である。
【0037】
(輻射抑制剤)
本発明の製造方法においては、断熱性を向上させるために、発泡性樹脂組成物に輻射抑制剤としてグラファイトを配合することができる。グラファイトは赤外線を反射することにより、発泡板の断熱性を向上させることができる。
【0038】
グラファイトとしては、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、人造黒鉛、土状黒鉛等が挙げられ、主成分が鱗片状黒鉛であるものを用いることが好ましい。後述するように、グラファイトは、ポリスチレン系樹脂に高濃度で配合されたマスターバッチとして用いることが好ましい。マスターバッチを製造する際の作業性が良好であるとともに、得られる発泡板の断熱性向上効果が優れていることから、固定炭素分が80%以上のグラファイトが好ましい。発泡板の断熱性を更に高めるために、グラファイトとしては固定炭素分90%以上のものがより好ましく、95%以上のものが更に好ましい。尚、該グラファイトの固定炭素分は、JIS M8511:2014記載の方法で測定した値をいう。
【0039】
グラファイトの配合量は、基材樹脂100質量部に対して0.2~10質量部であることが好ましい。該配合量がこの範囲内であると、断熱性が向上し、所望の低熱伝導率の発泡板を得ることができる。この観点から、該グラファイトの配合量は発泡板の基材樹脂100質量部に対して0.3質量部以上であることがより好ましく、0.4質量部以上であることがさらに好ましい。一方、発泡板の難燃性を維持する観点からは、グラファイトの配合量の上限は、5質量部であることがより好ましく、3質量部であることがさらに好ましく、1質量部であることが特に好ましい。
【0040】
また、本発明の製造方法においては、断熱性をさらに向上させるために、発泡板に前記グラファイト以外の輻射抑制剤を含有させることができる。グラファイト以外の輻射抑制剤としては、例えば、酸化チタン等の金属酸化物、アルミニウム等の金属、セラミック、カーボンブラック、黒鉛、赤外線遮蔽顔料、ハイドロタルサイト等から選択される1種又は2種以上を例示することができる。グラファイト以外の輻射抑制剤の配合量は、基材樹脂100質量部に対して概ね0.5~5質量部であり、より好ましくは1~4質量部である。
【0041】
また、本発明の方法においては、必要に応じて、基材樹脂に公知のその他の添加剤を適宜配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、気泡調整剤、顔料、染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種の添加剤を挙げることができる。
【0042】
(気泡調整剤)
本発明の製造方法においては、基材樹脂に気泡調整剤を配合して、発泡性樹脂組成物を形成することが好ましい。
気泡調整剤としてはタルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、クレー、酸化アルミニウム、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末を用いることができる。なかでも気泡径の調整が容易であるとともに、難燃性を阻害することなく気泡径を小さくし易いタルクが好適であり、特に50%粒径(光透過遠心沈降法)が0.1~20μmの細かいタルクが好ましく、0.5~15μmの細かいタルクが好ましい。気泡調整剤の添加量は、調整剤の種類、目的とする気泡径等によっても異なるが、気泡調整剤としてタルクを使用する場合、基材樹脂100質量部当たり0.1~7質量部が好ましく、0.2~5質量部がより好ましく、0.3~3質量部が更に好ましい。
【0043】
(熱安定剤)
熱安定剤は、発泡板を製造する際や発泡板の端材等をリサイクルしてリペレット化する際などに、原料や端材等に配合することにより前記臭素系難燃剤の熱安定性を向上させることができる。該熱安定剤としては、例えば、DIC社製EPICLONシリーズ等のビスフェノール型エポキシ系化合物やノボラック型エポキシ系化合物、(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])等のヒンダードフェノール系化合物、(ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト)等のホスファイト系化合物から選択される1又は2以上の熱安定剤が挙げられる。なお、熱安定剤の配合量は、難燃剤の総量100質量部に対して、0.1~40質量部であることが好ましい。
【0044】
本発明の製造方法において、難燃剤やその他の添加剤の基材樹脂への配合方法としては、所定割合の難燃剤やその他の添加剤を基材樹脂と共に押出機上流に設けられている供給部に供給し、押出機中にて混練する方法を採用することができる。その他、押出機途中に設けられた供給部より溶融樹脂中に難燃剤やその他の添加剤を供給する方法も採用することができる。具体的には、難燃剤、その他の添加剤及び基材樹脂をドライブレンドしたものを押出機に供給して溶融混練する方法、難燃剤、その他の添加剤及び基材樹脂をニーダー等により混練した溶融混練物を押出機に供給する方法、あらかじめ高濃度の難燃剤やその他の添加剤をポリスチレン系樹脂に配合したマスターバッチを作製し、これを押出機に供給して基材樹脂と溶融混練する方法等を採用することができ、特に分散性の観点から難燃剤マスターバッチを作製し、押出機に供給する方法を採用することが好ましい。難燃剤マスターバッチの調整は、基材樹脂としてMFR0.5~30g/10分程度のポリスチレン系樹脂を使用して、マスターバッチ中に難燃剤が10~95質量%含有されるように調整することが好ましく、30~90質量%含有されるように調整することがより好ましく、50~85質量%含有されるように調整することが更に好ましい。
【0045】
本発明の方法においては、以上説明した、基材樹脂、難燃剤等の添加剤及び物理発泡剤を含む溶融した発泡性樹脂組成物を、大気圧下に押出し発泡させて成形具により板状に賦型することにより、ポリスチレン系樹脂発泡板を得ることができる。
【0046】
<発泡板の物性>
次に、本発明の製造方法により得られるポリスチレン系樹脂発泡板について説明する。
(断面積、寸法等)
また、本発明の発泡板は板状である。該発泡板は、その押出方向垂直断面積が100cm以上であることが好ましく、200cm以上であることがより好ましい。その断面積の上限は概ね1500cmである。
本明細書において、押出方向垂直断面積とは、発泡板の押出方向と直交する断面の面積をいう。
【0047】
本発明の発泡板は通常、所望のサイズよりも一回り以上大きなサイズの原板を作製し、原板を切削加工して、幅と長さ、場合によっては厚みを調整することにより製造される。
【0048】
しかし、製造中に原板の幅が大きく変動し、幅が規定よりも狭くなってしまうと、規定のサイズの発泡板を得ることができなくなり、歩留まりが悪くなる。また、発泡板の製造においては、前述したように、見掛け密度が小さく、断面積が大きいほど発泡が難しくなる傾向がある。本発明の製造方法によれば、厚みが厚く、断面積が大きい発泡板を製造する場合であっても、外観が良好な発泡板を安定して製造することができる。発泡状態が良好で表面平滑性に優れる押出発泡板は、厚み方向の表面を切削せずにスキン付きの発泡板として好適に用いることができる。
【0049】
該発泡板は、断熱材として使用される場合、その厚みは20mm以上が好ましく、30mm以上がより好ましく、50mm以上がさらに好ましい。一方、厚みの上限は、150mmが好ましく、130mmがより好ましい。
【0050】
該発泡板の幅は、800mm以上であることが好ましく、より好ましくは900mm以上である。その上限は、概ね1200mmである。
【0051】
(気泡構造:厚み方向平均気泡径)
発泡板の厚み方向の平均気泡径は、好ましくは100~200μmであり、より好ましくは110~190μmであり、さらに好ましくは120~185μmである。平均気泡径が前記範囲内にあることにより、より一層高い断熱性を有するとともに、より優れた機械的強度を有する熱可塑性樹脂発泡板となる。
【0052】
前記厚み方向の平均気泡径の測定方法は次の通りである。厚み方向の平均気泡径は、発泡板の幅方向垂直断面の中央部及び両端部付近の計3箇所において、写真中のセル数が200から500個程度になるように拡大倍率を50倍から200倍程度の範囲で調整した拡大写真を得、各々の写真上において、ナノシステム株式会社製の画像処理ソフトNS2K-prоを用いて個々の気泡の厚み方向の最大径を計測し、それらの値を各々算術平均することにより求めることができる。
【0053】
(気泡構造:気泡変形率)
更に熱可塑性樹脂発泡板においては、気泡変形率が0.7~1.5であることが好ましい。気泡変形率とは、前記測定方法により求められた厚み方向の平均気泡径を、厚み方向の平均気泡径と同様に、気泡の拡大写真について、ナノシステム株式会社製の画像処理ソフトNS2K-prоを用いて個々の気泡の幅方向の最大径を計測し、それらの値を各々算術平均することにより幅方向の平均気泡径を求め、厚み方向の平均気泡径を幅方向の平均気泡径で除すことにより算出される値であり、該気泡変形率が1よりも小さいほど気泡は扁平であり、1よりも大きいほど縦長である。気泡変形率が前記範囲内にあることにより、機械的強度に優れ、かつ、より高い断熱性を有する熱可塑性樹脂発泡板となる。該気泡変形率の下限は、発泡板の圧縮強度及び寸法安定性の観点から、0.8であることがより好ましい。また、該気泡変形率の上限は、断熱性向上効果の観点から、1.0であることがより好ましく、0.9であることがさらに好ましい。
【0054】
(見掛け密度)
該発泡板の見掛け密度は、20~50kg/mであり、好ましくは35~45kg/mである。見掛け密度が前記範囲であると、十分な機械的強度を有するとともに、軽量性に優れ、例えば断熱材として好適に使用することができる。
【0055】
(独立気泡率)
該発泡板の独立気泡率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。独立気泡率がこの範囲内であれば、発泡剤(a)及び発泡剤(b)が気泡中に留まりやすくなり、発泡板の高い断熱性能を長期に亘って維持することができる。また、圧縮強度等の機械的強度にも優れた発泡板とすることができる。
【0056】
本明細書における押出発泡板の独立気泡率は、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型を使用して測定(押出発泡板から25mm×25mm×20mmのサイズに切断された成形表皮を持たないカットサンプルをサンプルカップ内に収容して測定する。ただし、厚みが薄く、厚み方向に20mmのカットサンプルが切り出せない場合には、例えば、25mm×25mm×10mmのサイズのカットサンプルを2枚同時にサンプルカップ内に収容して測定すればよい。)された押出発泡板(カットサンプル)の真の体積Vxを用い、下記(1)式により独立気泡率S(%)を計算し、N=3の平均値で求める。
【0057】
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(V-W/ρ) (1)
Vx:前記方法で測定されたカットサンプルの真の体積(cm)(押出発泡板のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
:測定に使用されたカットサンプルの外寸から計算されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:押出発泡板を構成する樹脂の密度(g/cm
【0058】
(28日後熱伝導率)
本発明の発泡板においては、製造28日後における熱伝導率は0.025W/m・K以下が好ましく、より好ましくは0.023W/m・K以下であり、さらに好ましくは0.022W/m・K以下である。
【0059】
前記熱伝導率は、JIS A1412-2:1999記載の熱流計法(試験体1枚・対称構成方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて測定することができる。
【実施例
【0060】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0061】
実施例及び比較例において、以下に示す装置及び原料を用いた。
【0062】
内径115mmの高混練型の第1押出機と内径180mmの第2押出機を直列に連結し、第1押出機の終端付近に物理発泡剤注入口を設け、間隙1mm×幅440mmの横断面が長方形の樹脂排出口(ダイリップ)を備えたフラットダイを第2押出機の出口に連結した押出装置を用いた。また、第2押出機の樹脂出口には上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板が、略一定の間隔を隔てて水平に設置された成形装置(ガイダー)を付設した。
【0063】
(1)基材樹脂
ポリスチレン系樹脂:DIC(株)製ポリスチレン「HP780AN」、溶融粘度(200℃、100sec-1)1900Pa・s
ポリエステル樹脂:三菱ガス化学(株)製スピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート「ALTESTER3012」、テレフタル酸100質量%、スピログリコール/エチレングリコール=30質量%/70質量%、溶融粘度(200℃、100sec-1)2000Pa・s
前記溶融粘度は、キャピログラフ1D((株)東洋精機製作所製)の流動特性測定機を用いて、温度200℃、せん断速度100sec-1の条件で測定した値である。
【0064】
(2)難燃剤
テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル):第一工業製薬「SR-130」/テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル):第一工業製薬「SR-720」=60質量%/40質量%の混合難燃剤を82質量%含有する難燃剤マスターバッチ(第一工業製薬(株)製GR-134BG)を用い、該マスターバッチを表中の難燃剤量となるように添加した。
【0065】
(3)気泡調整剤
タルク(松村産業(株)製、製品名「ハイフィラー#12」)(4)輻射抑制剤
グラファイト(日本黒鉛工業(株)製「CP-N」(鱗片状黒鉛)、一次粒径(d50)=10μm)
酸化チタン(テイカ(株)製「JR-405」、一次粒径(d50)=0.2μm)
【0066】
(5)物理発泡剤
(a-1)1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1224yd):AGC社製
(a-2)1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd):ハネウェルジャパン社製
(a-3)1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze):ハネウェルジャパン社製
(b-1)水
(b-2)エタノール:山一化学工業社製
(c)二酸化炭素(CO):昭和炭酸社製
【0067】
実施例1~6、比較例1~6
下記表1(実施例1~6)、表2(比較例1~6)に示す種類、量の基材樹脂、難燃剤マスターバッチ、気泡調整剤及び輻射抑制剤を第1押出機に供給し、200℃まで加熱して混練し、第1押出機に設けられた物理発泡剤注入口から、表1、表2に示す種類、量の物理発泡剤を供給し、更に混練して発泡性樹脂溶融物を形成した。次に、得られた発泡性樹脂溶融物を第2押出機に移送して樹脂温度を調整した後、吐出量400kg/hrでガイダー内に押出し、発泡させながらガイダー内を通過させて板状に成形(賦形)して発泡板の厚み30mmの原板を作製し、さらに、切削加工により原板の幅及び長さを調整すると共に、両面の成形スキンを均等に切削して、成形スキンを有しない直方体状のポリスチレン系樹脂発泡板(幅:910mm、長さ:1820mm、厚み:25mm、押出方向に直交する断面の面積:227.5cm)を製造した。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
実施例7、比較例7
下記表3に示す種類、量の基材樹脂、難燃剤マスターバッチ及び気泡調整剤を第1押出機に供給し、200℃まで加熱して混練し、第1押出機に設けられた物理発泡剤注入口から、表3に示す種類、量の物理発泡剤を供給し、更に混練して発泡性樹脂溶融物を形成した。次に、得られた発泡性樹脂溶融物を第2押出機に移送して樹脂温度を調整した後、吐出量400kg/hrでガイダー内に押出し、発泡させながらガイダー内を通過させて板状に成形(賦形)して発泡板の厚み30mmの原板を作製し、さらに、切削加工により原板の幅及び長さを調整すると共に、両面の成形スキンを均等に切削して、成形スキンを有しない直方体状のポリスチレン系樹脂発泡板(幅:910mm、長さ:1820mm、厚み:25mm、押出方向に直交する断面の面積:227.5cm)を製造した。
【0071】
【表3】
【0072】
実施例、比較例で得られた発泡板について、気泡構造(厚み方向平均気泡径、気泡変形率)、見掛け密度、独立気泡率、熱伝導率(28日後)を以下の方法で測定し、燃焼性、表面平滑性、ガススポット、収縮を以下の基準で評価した。その結果を表1、表2に示す。
【0073】
気泡構造(厚み方向平均気泡径)
厚み方向平均気泡径を次の方法で求めた。得られた発泡板を長さ方向に2等分する位置であり、かつ発泡板の幅方向垂直断面の中央部及び両端部付近の計3箇所において、拡大倍率を100倍に調整した拡大写真を得て、各々の写真上において、ナノシステム株式会社製の画像処理ソフトNS2K-proを用いて個々の気泡の厚み方向の最大径を計測し、それらの値を各々算術平均することにより求めた。
【0074】
気泡構造(気泡変形率)
気泡変形率は、前記厚み方向気泡径の測定方法と同様に、気泡の拡大写真について、ナノシステム株式会社製の画像処理ソフトNS2K-prоを用いて個々の気泡の幅方向の最大径を計測し、それらの値を各々算術平均することにより幅方向平均気泡径を求め、厚み方向平均気泡径を幅方向平均気泡径で除することにより求めた。
【0075】
(見掛け密度)
発泡板の見掛け密度を次の方法で求めた。得られた発泡板を長さ方向に2等分する位置であり、かつ得られた発泡板の幅方向の中央部及び両端部付近から縦50mm×横50mm×厚み20mmの直方体の試料を各々切り出して質量を測定し、該質量を体積で割算することにより夫々の試料の見掛け密度を求め、それらの算術平均値を見掛け密度とした。
【0076】
(独立気泡率)
発泡板の独立気泡率は、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、空気比較式比重計(東芝ベックマン(株)製、空気比較式比重計、型式:930型)を使用して測定される発泡板の真の体積Vxを用いて、下記式(1)から求めた。
【0077】
具体的には、得られた発泡板を長さ方向に2等分する位置であり、かつ発泡板の幅方向の中央部及び幅方向両端部付近の計3箇所からカットサンプルを切り出して、各々のカットサンプルを測定試料とし、各々の測定試料について独立気泡率を測定し、3箇所の独立気泡率の算術平均値を求めた。なお、カットサンプルとして、発泡板から縦25mm×横25mm×厚み20mmの大きさに切断されたものを用いた。
【0078】
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) (1)
ただし、式中のVx、Va、W、ρは以下の通りである。
Vx:前記空気比較式比重計による測定により求められるカットサンプルの真の体積(cm)(発泡板のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
Va:測定に使用されたカットサンプルの外寸法から算出されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全質量(g)
ρ:発泡板を構成する樹脂組成物の密度(g/cm
【0079】
(製造28日後の熱伝導率)
製造直後の発泡板の幅方向の中央部から縦200mm×横200mm×厚み20mmの試験片を切り出し、該試験片を温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に保管し、製造28日後に、JIS A1412-2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて熱伝導率を測定した。
【0080】
(燃焼性)
製造直後の発泡板を気温23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に保管し、製造4週間後に、発泡板から試験片を無作為に5個切り出して(N=5)、JIS A9521:2017の燃焼性試験方法に規定される「試験方法A」に基づいて燃焼性を測定し、下記基準により、発泡板の難燃性を評価した。
評価基準
○:5個全ての試験片において3秒以内で消える。
×:5個の試験片の平均燃焼時間が3秒を超える。(該当なし)
【0081】
(表面平滑性)
原板と押出発泡板の表面平滑性について目視にて以下の基準により評価した。
◎:原板と押出発泡板の表面が極めて良好
○:原板の表面にざらつきが稀に発生、押出発泡板の表面は極めて良好
△:押出発泡板の表面にざらつきが稀に発生
×:押出発泡板の表面にざらつきが多数発生
【0082】
(ガススポット)
ガススポット(押出発泡時に生じた発泡剤の分離による発泡板表面及び発泡板の断面に見られる過度に大きな気泡)を以下の基準により評価した。
◎:原板と押出発泡板にスポット孔が全く見られず
○:原板に概ねスポット孔が見られず、押出発泡板にはスポット孔が全く見られない
△:押出発泡板の一部にスポット孔が見られた
×:押出発泡板にスポット孔が複数見られ、良好な発泡板が得られず
【0083】
(収縮)
収縮は、製造直後の発泡板の厚みと、製造7日経過後の発泡板との厚みを比較して寸法変化を測定し、以下の基準で評価した。なお、製造7日経過後の発泡板は、製造後23℃、相対湿度50%の環境下で7日経過後の発泡板について測定した。なお、前記厚みは、得られた発泡板について、長さ方向と幅方向でそれぞれ2等分する位置である中心部の厚みを測定した。寸法変化は以下の式から算出した。
〔(製造直後の発泡板の厚み)-(製造7日経過後の発泡板の厚み)〕×100
○:厚み寸法変化が1%未満
△:厚み寸法変化が1%以上5%未満
×:厚み寸法変化が5%以上
【0084】
前記の各測定及び評価の結果から、ポリスチレン系樹脂とポリエステル樹脂を併用した基材樹脂を用い、物理発泡剤としてHFO-1224ydと水を併用しなかった比較例2、4は、実施例1~6に比べて熱伝導率が劣っており、見掛け密度も大きいものであった。また、ハイドロフルオロオレフィンとしてHFO-1233zdを用いた比較例5は実施例1~6に比べて熱伝導率が劣っており、HFO-1234zeを用いた比較例6は成形自体が困難であった。
【0085】
また、物理発泡剤としてHFO-1224ydのみを用いた比較例1は、見掛け密度が大きくなるとともにガススポットが多発し、表面平滑性も劣るものであった。さらに、HFO-1224ydに対する水とエタノールの配合比率を本発明の規定外とした比較例3では、実施例1~6に比べて熱伝導率及び収縮が劣っていた。
【0086】
これに対して、ポリスチレン系樹脂とポリエステル樹脂を併用した基材樹脂を用い、物理発泡剤をHFO-1224ydと水又は水とエタノールを本発明で規定する範囲内で添加して製造した実施例1~6の発泡板は、見掛け密度、独立気泡率、熱伝導率の値、また、表面平滑性、ガススポット、収縮の評価全てにおいて良好でバランスのとれたものであった。
【0087】
また、基材樹脂としてポリスチレン系樹脂のみを用いるとともに、物理発泡剤としてHFO-1224yd及び水とエタノールを用いた実施例7は、同様の基材樹脂を用いるとともに、物理発泡剤としてHFO-1224yd及び二酸化炭素を用いた比較例7に比べて、気泡構造、見掛け密度、熱伝導率の値、また、表面平滑性、ガススポットの評価において優れていた。