(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240920BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L29/78 657F
H01L29/78 652T
H01L29/78 652F
H01L29/78 652S
(21)【出願番号】P 2021105756
(22)【出願日】2021-06-25
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼野 健一
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/013618(WO,A1)
【文献】特開2017-028236(JP,A)
【文献】特表2004-511084(JP,A)
【文献】特表2021-507531(JP,A)
【文献】特開2017-079324(JP,A)
【文献】特開2011-066121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メイン電流を出力するメインセルと、
前記メイン電流に比例するセンス電流を出力するセンスセルと、
を備え、
前記メイン電流の温度依存特性は前記メインセルの閾値電圧に応じて異なり、
前記センス電流の温度依存特性は前記センスセルの閾値電圧に応じて異なり、
前記メインセルの閾値電圧は前記センスセルの閾値電圧より低く、
0℃以下において、前記メイン電流の温度依存特性の傾きが前記センス電流の温度依存特性の傾きよりも小さ
く、
前記メインセルと前記センスセルとは、
炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板上に設けられる第1導電型のエピタキシャル層と、
前記エピタキシャル層の表層に設けられた第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域の表層に選択的に設けられ、自身と前記エピタキシャル層との間に挟まれた前記ベース領域の領域をチャネル領域と規定する第1導電型の不純物領域と、
ゲート酸化膜を介して前記チャネル領域に対向するゲート電極と、
前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜上に形成されるバリアメタルと、
前記バリアメタルを覆う上面電極とを備え、
前記バリアメタルおよび前記上面電極の厚みの合計が、前記センスセルにおいて前記メインセルより大きい、
炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
-40℃における前記メイン電流が、0℃における前記メイン電流の90%以上100%以下である、
請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記メインセルにおける前記チャネル領域の抵抗は、前記センスセルにおける前記チャネル領域の抵抗より小さい、
請求項
1または請求項2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記メインセル
の単位セルにおける前記チャネル領域のチャネル長に対するチャネル幅の比が、前記センスセル
の単位セルにおける前記チャネル領域のチャネル長に対するチャネル幅の比より大きい、
請求項
3に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記メインセルにおける前記チャネル領域の不純物濃度が前記センスセルにおける前記チャネル領域の不純物濃度より低い、
請求項
3または請求項
4に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記センスセルの前記ゲート酸化膜は前記メインセルの前記ゲート酸化膜より厚い、
請求項
1から請求項
5のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
前記バリアメタルおよび前記上面電極の厚みの合計が、前記センスセルにおいて前記メインセルより大きい、
請求項
1から請求項
6のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項8】
前記バリアメタルはTiまたはTiNであり、
前記上面電極はAlまたはAlSiである、
請求項
1から請求項
7のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項9】
メイン電流を出力するメインセルと、
前記メイン電流に比例するセンス電流を出力するセンスセルと、
を備え、
前記メイン電流の温度依存特性は前記メインセルの閾値電圧に応じて異なり、
前記センス電流の温度依存特性は前記センスセルの閾値電圧に応じて異なり、
前記メインセルの閾値電圧は前記センスセルの閾値電圧より低く、
0℃以下において、前記メイン電流の温度依存特性の傾きが前記センス電流の温度依存特性の傾きよりも小さく、
前記メインセルと前記センスセルとは、
炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板上に設けられる第1導電型のエピタキシャル層と、
前記エピタキシャル層の表層に設けられた第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域の表層に選択的に設けられ、自身と前記エピタキシャル層との間に挟まれた前記ベース領域の領域をチャネル領域と規定する第1導電型の不純物領域と、
ゲート酸化膜を介して前記チャネル領域に対向するゲート電極と、
前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜上に形成されるバリアメタルと、
前記バリアメタルを覆う上面電極とを備え、
前記メインセルおよび前記センスセルにおいて前記上面電極上に設けられた表面電極保護膜をさらに備え、
前記表面電極保護膜の面積が前記センスセルにおいて前記メインセルにおけるより大きい、
炭化珪素半導体装置。
【請求項10】
メイン電流を出力するメインセルと、
前記メイン電流に比例するセンス電流を出力するセンスセルと、
を備え、
前記メイン電流の温度依存特性は前記メインセルの閾値電圧に応じて異なり、
前記センス電流の温度依存特性は前記センスセルの閾値電圧に応じて異なり、
前記メインセルの閾値電圧は前記センスセルの閾値電圧より低く、
0℃以下において、前記メイン電流の温度依存特性の傾きが前記センス電流の温度依存特性の傾きよりも小さく、
前記メインセルと前記センスセルとは、
炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板上に設けられる第1導電型のエピタキシャル層と、
前記エピタキシャル層の表層に設けられた第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域の表層に選択的に設けられ、自身と前記エピタキシャル層との間に挟まれた前記ベース領域の領域をチャネル領域と規定する第1導電型の不純物領域と、
ゲート酸化膜を介して前記チャネル領域に対向するゲート電極と、
前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜上に形成されるバリアメタルと、
前記バリアメタルを覆う上面電極とを備え、
前記センスセルの前記上面電極上にのみ設けられた表面電極保護膜をさらに備える、
炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素(以下、SiCとも称する)半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、メイン電流(主電流とも称する)を出力するメインセルとメイン電流に比例するセンス電流を出力するセンスセルとが同じ半導体基板に設けられた半導体装置が開示されている。特許文献1の半導体装置では、センスセルの閾値電圧をメインセルの閾値電圧よりも高くすることで、メイン電流とセンス電流との比率のアンバランスを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の半導体装置では、閾値電圧と飽和電流の温度依存特性が考慮されていないため、低温でメイン電流が低下するという課題があった。
【0005】
本開示は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、炭化珪素半導体装置において、安定した電流センス動作を実現するとともに、低温でメイン電流が低下することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの炭化珪素半導体装置は、メイン電流を出力するメインセルと、メイン電流に比例するセンス電流を出力するセンスセルと、を備え、メイン電流の温度依存特性はメインセルの閾値電圧に応じて異なり、センス電流の温度依存特性はセンスセルの閾値電圧に応じて異なり、メインセルの閾値電圧はセンスセルの閾値電圧より低く、0℃以下において、メイン電流の温度依存特性の傾きがセンス電流の温度依存特性の傾きよりも小さく、メインセルとセンスセルとは、炭化珪素基板と、炭化珪素基板上に設けられる第1導電型のエピタキシャル層と、エピタキシャル層の表層に設けられた第2導電型のベース領域と、ベース領域の表層に選択的に設けられ、自身とエピタキシャル層との間に挟まれたベース領域の領域をチャネル領域と規定する第1導電型の不純物領域と、ゲート酸化膜を介してチャネル領域に対向するゲート電極と、ゲート電極を覆う層間絶縁膜と、層間絶縁膜上に形成されるバリアメタルと、バリアメタルを覆う上面電極とを備え、バリアメタルおよび上面電極の厚みの合計が、センスセルにおいてメインセルより大きい。
【発明の効果】
【0007】
本開示の炭化珪素半導体装置は、安定した電流センス動作を実現するとともに、低温でメイン電流が低下することを抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1のSiC-MOSFETの上面図である。
【
図2】実施の形態1のSiC-MOSFETの断面図である。
【
図3】実施の形態1のSiC-MOSFETの上面図である。
【
図4】飽和ドレイン電流の温度依存特性を複数の閾値電圧に対して示す図である。
【
図5】飽和ドレイン電流の温度依存特性を複数の閾値電圧に対して示す図である。
【
図6】実施の形態1の変形例のSiC-MOSFETの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<A.実施の形態1>
本明細書では、半導体層の導電型について第1導電型をn型とし、第2導電型をp型として説明する。しかし、以下に説明される構成において導電型を入れ替えても良い。すなわち、第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としてもよい。
【0010】
<A-1.構成>
図1は、実施の形態1の炭化珪素半導体装置であるSiC-MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)101の上面図である。本明細書では、半導体材料としてSiCを用いるMOSFETをSiC-MOSFETと称する。なお、本明細書ではMOSFETについて説明するが、本開示の技術はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など他の半導体装置にも適用可能である。
【0011】
図1に示されるように、SiC-MOSFET101は、メインセル20、センスセル30、終端領域50、およびゲートパッド40を備えて構成される。メインセル20は、半導体素子構造が形成され、半導体素子として動作する領域である。つまり、メインセル20にはMOSFET構造が形成され、MOSFETとして動作する。終端領域50は、メインセル20、センスセル30、およびゲートパッド40を囲むように設けられ、SiC-MOSFET101の耐圧保持を担う。ゲートパッド40は、メインセル20のゲート電極が接続されておりメインセル20に流れる電流を制御する。センスセル30は、メインセル20に流れる電流を検知するための制御セルである。センスセル30は、メインセル20の一部に電気的に接続されており、これによってメインセル20に電流が流れる際に、メインセル20全体に流れる電流の数分の1から数万分の1の電流がセンスセル30に流れる。なお、センスセル30は、複数設けられていてもよいし、1つだけ設けられていてもよい。
【0012】
図2は、
図1のA-A線に沿ったSiC-MOSFET101のメインセル20の断面図である。
図2に示されるように、SiC-MOSFET101は、n型のSiC基板1、n型のエピタキシャル層2、p型のベース領域4、n型のソース領域5、ゲート酸化膜6、ゲート電極7、層間絶縁膜11、バリアメタル12、ソース電極8およびドレイン電極9を備えている。SiC-MOSFET101はプレーナー構造である。SiC基板1の上面にエピタキシャル層2が設けられる。エピタキシャル層2の表層には複数のベース領域4が離間して設けられる。各ベース領域4の表層には不純物領域であるソース領域5が設けられる。2つのベース領域4に挟まれたエピタキシャル層2の表層をJFET領域13と称する。JFET領域13とソース領域5とに挟まれたベース領域4がチャネル領域3となる。
図2において、チャネル領域3の長さ(以下、チャネル長)がLで表されている。
【0013】
チャネル領域3上にはゲート酸化膜6が設けられる。ゲート酸化膜6を介してチャネル領域3と対向する位置にゲート電極7が設けられる。ゲート電極7は層間絶縁膜11に覆われる。ソース領域5上および層間絶縁膜11上にはバリアメタル12が設けられる。バリアメタル12上には上面電極であるソース電極8が設けられる。SiC基板1の下面にはドレイン電極9が設けられる。
【0014】
なお、
図1のB-B線に沿ったセンスセル30の断面構造も、後述する閾値電圧の調整構造以外は
図2に示すメインセル20の断面構造と同様であり、周知の製造方法により作成される。
【0015】
図3は、SiC-MOSFET101におけるエピタキシャル層2、ベース領域4、およびソース領域5の平面的な位置関係を示す図である。
図3において、チャネル領域3の幅(以下、チャネル幅)がWで表され、チャネル長がLで表されている。
【0016】
<A-2.メインセルおよびセンスセルの閾値電圧>
図4は、SiC-MOSFETにおける飽和ドレイン電流Ids(sat)の温度依存特性を示している。
図4の横軸はジャンクション温度Tj[℃]を表し、縦軸は正規化された飽和ドレイン電流Ids(sat)を表している。ドレイン電圧Vdは10Vであり、ゲート電圧Vgは15Vである。ここで、ジャンクション温度Tj=0℃のときの飽和ドレイン電流Ids(sat)がジャンクション温度Tj=150℃のときの飽和ドレイン電流Ids(sat)と同じ値になる場合の、ゲート電圧の閾値電圧VthをAとする。
図4の縦軸において、飽和ドレイン電流Ids(sat)は、閾値電圧Vth=A、Tj=0℃のときの飽和ドレイン電流Ids(sat)が1となるように正規化されている。
【0017】
本開示の技術の考案者は、閾値電圧がVth=A、Vth=A×0.7、Vth=A×1.3と異なる3つのSiC-MOSFETを用意し、ジャンクション温度Tjを変えて飽和ドレイン電流Ids(sat)を計測することにより
図4の結果を得た。
図4の結果から、閾値電圧Vthによって飽和ドレイン電流Ids(sat)の温度依存特性が異なることが新たに見出された。SiCのようなワイドバンドギャップ半導体の場合、Siと比べてドリフト層を薄くすることができるため、総抵抗に占めるチャネル抵抗の比率が大きい。その結果、閾値電圧Vthの変化に対し飽和ドレイン電流Ids(sat)の温度依存特性の変動が大きく、
図4の結果が得られたと考えられる。
【0018】
特許文献1に記載された半導体装置では、センスセルの閾値電圧がメインセルの閾値電圧より高く設定されている。しかし、特許文献1では
図4に示したような飽和ドレイン電流の温度依存特性の閾値電圧による変化が考慮されていない。そのため、メインセルの閾値電圧によっては低温時に飽和ドレイン電流が低下してしまうという問題がある。
【0019】
そこで、本実施の形態のSiC-MOSFET101では、飽和ドレイン電流Ids(sat)の温度依存特性を考慮した上で、メインセル20とセンスセル30とで閾値電圧を変えることにより、安定した電流センス動作を実現するとともに、0℃以下の低温でメイン電流が低下することを抑制する。以下にその詳細を説明する。
【0020】
図4は、閾値電圧が低いほど0℃以下の低温になっても飽和ドレイン電流Ids(sat)が下がりにくい傾向があることを示している。メインセル20の閾値電圧が閾値電圧Aより高い場合、低温でメイン電流が下がってしまう。従って、メインセル20の閾値電圧は閾値電圧Aより低くする方がよい。これにより、0℃以下の低温において、メイン電流の温度依存特性の傾きが略平坦となる。温度依存特性の傾きは、飽和ドレイン電流の変化量をジャンクション温度の変化量で割ることにより得られる。
【0021】
また、センスセル30の閾値電圧はメインセル20の閾値電圧より大きい方がよい。閾値電圧が低いほど0℃以下の低温になっても飽和ドレイン電流が下がりにくいため、センスセル30の閾値電圧がメインセル20の閾値電圧より低いと、過剰な過電流保護が発生して安定した電流センス動作を実現できないからである。また、センスセル30の閾値電圧がメインセル20の閾値電圧と同じ場合、サージ電流などで過剰な過電流保護がかかってしまうことがある。従って、0℃以下の低温での過剰な過電流保護がかからないようにしつつ、メイン電流が低下することを抑制するには、センスセル30の閾値電圧をAとし、メインセル20の閾値電圧をセンスセル30の閾値電圧Aより低く、例えば、A×0.7とすることが望ましい。すなわち、0℃以下の低温において、センス電流の温度依存特性の傾きはメイン電流の温度依存特性の傾きよりも大きくする。
【0022】
メインセル20の閾値電圧Vth=A×0.7とすると、0℃以下の低温でメインセル20の飽和ドレイン電流の温度特性が略平坦となる。ここで略平坦とは、-40℃の際のIds(sat)が0℃の際のIds(sat)の90%以上100%以下であることを意味する。なお、0℃より大きい高温では、閾値電圧VthがAより低い場合と高い場合とで、飽和ドレイン電流の温度依存特性のグラフの傾きが正負反対となりやすい。高温においても、安定した電流センス動作を考えると、温度依存特性のグラフの傾きが正負反対とならないよう、メインセル20の閾値電圧をセンスセル30の閾値電圧Aより低い閾値電圧、例えば、A×0.7とすることが望ましい。
【0023】
<A-3.製造工程>
SiC-MOSFET101の製造工程について説明する。
【0024】
まず、4H型のSiCエピタキシャルウエハをn型のSiC基板1として用意する。4H型のSiCエピタキシャルウエハは、結晶軸である〈0001〉軸がウエハの表面に対して4°の傾きを有している。SiC基板1上にn型のエピタキシャル層2を形成する。エピタキシャル層2中で所定の間隔に離間した部位にレジストなどによりマスクを形成し、不純物をイオン注入して、一対のp型のベース領域4を形成する。エピタキシャル層2中でp型となる不純物としては、例えばボロン(B)あるいはアルミニウム(Al)などが挙げられる。
【0025】
さらに各ベース領域4中にレジストなどによりマスクを形成し、不純物をイオン注入してベース領域4の表層にn型のソース領域5を形成する。その後、マスクを除去する。n型不純物としては例えばリン(P)あるいは窒素(N)などが挙げられる。ベース領域4が形成されていないエピタキシャル層2の表層とソース領域5との間のベース領域4がチャネル領域3となる。
【0026】
次に、熱処理装置によってウエハを高温で熱処理することにより、既に注入されているn型およびp型のイオンが電気的に活性化される。
【0027】
その後、ゲート酸化膜6を熱酸化または堆積によって形成する。また、ゲート酸化膜6上にゲート電極7を成膜およびパターニングする。ゲート電極7の両端に一対のベース領域4およびソース領域5が位置し、一対のベース領域4間に露出したエピタキシャル層2がゲート電極7の中央に位置するように、ゲート電極7はパターニングされる。
【0028】
次に、各ソース領域5上のゲート酸化膜6の残余の部分をリソグラフィ技術およびエッチング技術によって除去する。その後、ゲート酸化膜6から露出したソース領域5上にソース電極8を成膜およびパターニングする。
【0029】
その後、SiC基板1の下面にドレイン電極9を形成する。こうして、SiC-MOSFET101のメインセル20およびセンスセル30の構造が得られる。なお、ドレイン電極9を形成する前にSiC基板1の下面を研磨または研削し、薄くしてもよい。
【0030】
<A-4.閾値電圧の調整構造>
上記のようにSiC-MOSFET101では、メインセル20の閾値電圧をセンスセル30の閾値電圧より低くする。例えば、センスセル30の閾値電圧Aに対して、メインセル20の閾値電圧はA×0.7であることが望ましい。以下、メインセル20の閾値電圧をセンスセル30の閾値電圧より低くするための構成について説明する。
【0031】
SiC-MOSFET101の通電時の全抵抗は、SiC基板1の抵抗、エピタキシャル層2の抵抗、JFET領域の抵抗、チャネル領域3の抵抗(以下、チャネル抵抗と称する)の合計である。通電時の全抵抗に対するチャネル抵抗の比率を変えることにより、閾値電圧を変えることができる。
【0032】
チャネル抵抗を変える1つの方法は、チャネル長Lに対するチャネル幅Wの比であるW/Lを変えることである。W/Lが大きくなるとチャネル抵抗が小さくなり、閾値電圧が小さくなる。従って、メインセル20のW/Lがセンスセル30のW/Lより大きくなるように、ベース領域4にn型不純物をイオン注入する際に用いるパターニング用マスクの開口幅をメインセル20とセンスセル30とで変えることにより、メインセル20の閾値電圧をセンスセル30の閾値電圧より小さくすることができる。
【0033】
チャネル抵抗を変える別の方法は、チャネル領域3の不純物濃度を変えることである。チャネル領域3の不純物濃度が低いほどチャネル抵抗が小さくなり、閾値電圧が小さくなる。従って、メインセル20におけるチャネル領域3の不純物濃度がセンスセル30におけるチャネル領域3の不純物濃度より低くなるように、ベース領域4にn型不純物をイオン注入する際のパターニング用マスクの開口幅をメインセル20とセンスセル30とで変えることにより、メインセル20の閾値電圧をセンスセル30の閾値電圧より小さくすることができる。
【0034】
チャネル領域3の不純物濃度は、ベース領域4における不純物イオンの注入量を変えることによって調整してもよい。しかし、この方法によればメインセル20とセンスセル30とでイオン注入を分けて実施する必要があるため、パターニングおよび注入工程などのプロセス工程が増加する。
【0035】
また、閾値電圧はチャネル領域3の表面の不純物濃度にも依存する。炭化珪素半導体の場合、Si半導体と比べてイオンの熱拡散係数の違いからイオン注入後の熱処理でイオンが拡散することはない。従って、ベース領域4およびソース領域5を形成するイオン注入後に、メインセル20およびセンスセル30における基板表面、すなわちエピタキシャル層2、ベース領域4、およびソース領域5の表面をエッチング処理で削ることによって閾値電圧を変えることができる。
【0036】
また、ゲート酸化膜6が薄いほど閾値電圧は低くなる。従って、センスセル30のゲート酸化膜6をメインセル20のゲート酸化膜6より厚くすることによって、メインセル20の閾値電圧をセンスセル30の閾値電圧より低くしてもよい。
【0037】
また、ゲート酸化膜6を形成した後、再酸化と呼ばれるH2O雰囲気での熱処理によりゲート酸化膜6の界面に準位を形成し、閾値電圧を上げてもよい。再酸化プロセスを適用した場合の飽和ドレイン電流Ids(sat)の温度依存特性と閾値電圧Vthとの関係は
図5に示す通りであり、
図4に示した再酸化プロセスを実施しない場合と同一の傾向である。
図5には、閾値電圧がVth=B、Vth=B×0.67と異なる2つのSiC-MOSFETについて、ジャンクション温度Tjを変えて飽和ドレイン電流Ids(sat)を計測した結果が示されている。
【0038】
また、ソース電極8とバリアメタル12からなるメタル膜の厚みをメインセル20とセンスセル30とで変えることにより、各セルにかかる応力を変え、閾値電圧を変えることができる。センスセル30におけるメタル膜をメインセル20におけるメタル膜より厚くすることで、メインセル20の閾値電圧をセンスセル30の閾値電圧より低くすることができる。
【0039】
図2では、バリアメタル12が層間絶縁膜11とソース領域5の上面全体に設けられている。しかし、バリアメタル12は層間絶縁膜11の周囲のみ等、一部だけに設けられてもよい。また、バリアメタル12は複数層の積層構造であってもよい。また、バリアメタル12の材質は、メインセル20とセンスセル30とで異なっていても良い。バリアメタル12は例えば、TiまたはTiNであり、ソース電極8は例えば、AlまたはAlSiである。
【0040】
<A-5.変形例>
図6は、実施の形態1の変形例の炭化珪素半導体装置であるSiC-MOSFET102の上面図である。SiC-MOSFET102は、SiC-MOSFET101の構成において、センスセル30のソース電極8上に表面電極保護膜14を備えたものである。表面電極保護膜14の有無により、セルにかかる応力が変わり、閾値電圧が変化する。
図6に示されるように、センスセル30のソース電極8上にのみ表面電極保護膜14が設けられ、メインセル20のソース電極8上には表面電極保護膜が形成されないことにより、メインセル20の閾値電圧がセンスセル30の閾値電圧より低くなる。
【0041】
なお、メインセル20のソース電極8上に表面電極保護膜14が設けられてもよいが、その場合、センスセル30における表面電極保護膜14の面積をメインセル20における表面電極保護膜14の面積より大きくする。これにより、メインセル20の閾値電圧がセンスセル30の閾値電圧より低くなる。表面電極保護膜14は例えば、ポリイミド(PI)またはガラスコート(GC)である。
【0042】
なお、セルにかかる応力を変えるにあたり、上述したメタル膜の厚みを変える構成と、表面電極保護膜14の配置に関する構成とを組み合わせてもよい。
【0043】
<A-6.効果>
実施の形態1のSiC-MOSFET101は、メイン電流を出力するメインセル20と、メイン電流に比例するセンス電流を出力するセンスセル30と、を備える。メイン電流の温度依存特性はメインセルの閾値電圧に応じて異なり、センス電流の温度依存特性はセンスセルの閾値電圧に応じて異なる。0℃以下において、メイン電流の温度依存特性の傾きが略平坦である。従って、低温でメイン電流が下がることを避けることができる。また、メインセル20の閾値電圧はセンスセル30の閾値電圧より低く、0℃以下においてメイン電流の温度依存特性の傾きはセンス電流の温度依存特性の傾きよりも小さい。従って、0℃以下の低温ではセンス電流を下げ、安定した電流センス動作を実現することができる。
【0044】
なお、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 SiC基板、2 エピタキシャル層、3 チャネル領域、4 ベース領域、5 ソース領域、6 ゲート酸化膜、7 ゲート電極、8 ソース電極、9 ドレイン電極、11 層間絶縁膜、12 バリアメタル、13 JFET領域、14 表面電極保護膜、20 メインセル、30 センスセル、40 ゲートパッド、50 終端領域。