(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】放射性廃液処理システムおよび放射性廃液処理方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20240920BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G21F9/06 551Z
G21F9/12 501C
G21F9/12 501F
G21F9/12 501D
G21F9/12 501B
G21F9/12 501J
(21)【出願番号】P 2021121625
(22)【出願日】2021-07-26
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】堤口 覚
(72)【発明者】
【氏名】可児 祐子
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 淳司
(72)【発明者】
【氏名】菅野 真貴
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-076403(JP,A)
【文献】特開2015-192627(JP,A)
【文献】特開2017-198688(JP,A)
【文献】特開2008-073617(JP,A)
【文献】米国特許第04572797(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/06,9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃液から放射性核種を除去する放射性廃液処理システムであって、
前記放射性廃液に酸化剤を供給して放射性核種を酸化処理する酸化処理部と、
前記酸化処理部により供給した前記酸化剤のうち、未反応の前記酸化剤を除去する酸化剤除去部と、
前記酸化剤除去部により未反応の前記酸化剤が除去された前記放射性廃液から放射性核種を除去する放射性核種除去部と、
前記酸化剤除去部の後段に設けられており、未反応の前記酸化剤が除去された前記放射性廃液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定部と、
前記酸化還元電位測定部により測定された酸化還元電位が所定範囲を満たすように管理する酸化還元電位管理部と、を有
し、
前記酸化還元電位管理部は、前記放射性廃液の通水速度と前記酸化剤除去部の酸化剤除去材の量とから前記酸化剤除去材の交換時期を算定する
ことを特徴とする放射性廃液処理システム。
【請求項2】
請求項
1に記載の放射性廃液処理システムにおいて、
前記酸化還元電位管理部では、酸化還元電位が0.8[V]以下を維持するように前記酸化剤除去部の
前記酸化剤除去材の交換を行う
ことを特徴とする放射性廃液処理システム。
【請求項3】
請求項1に記載の放射性廃液処理システムにおいて、
前記酸化剤は、次亜塩素酸およびその塩の水溶液を含む
ことを特徴とする放射性廃液処理システム。
【請求項4】
請求項
1に記載の放射性廃液処理システムにおいて、
酸化還元電位と残留塩素濃度の対応関係を記憶する記憶部を更に有し、
前記酸化還元電位管理部は、測定された酸化還元電位に対応する残留塩素濃度に基づき前記酸化剤除去部の
前記酸化剤除去材を交換する
ことを特徴とする放射性廃液処理システム。
【請求項5】
請求項
4に記載の放射性廃液処理システムにおいて、
前記酸化剤は、過酸化水素、オゾン、過マンガン酸およびその塩の水溶液、次亜塩素酸およびその塩の水溶液のうちの1つを含む
ことを特徴とする放射性廃液処理システム。
【請求項6】
請求項1に記載の放射性廃液処理システムにおいて、
前記酸化剤除去部は、吸着膜に前記放射性廃液を通水して前記酸化剤を除去するものである
ことを特徴とする放射性廃液処理システム。
【請求項7】
請求項1に記載の放射性廃液処理システムあって、
前記酸化剤除去部の
前記酸化剤除去材は、活性炭である
ことを特徴とする放射性廃液処理システム。
【請求項8】
請求項
7に記載の放射性廃液処理システムにおいて、
前記活性炭は、粒径300[μm]以上の粒状である
ことを特徴とする放射性廃液処理システム。
【請求項9】
請求項1に記載の放射性廃液処理システムにおいて、
前記放射性核種除去部の核種除去材は、イオン交換樹脂、キレート樹脂、ゼオライト、銀が担持されたゼオライト、チタン酸、ケイチタン酸及びフェロシアン化物のうちの一つを含む
ことを特徴とする放射性廃液処理システム。
【請求項10】
放射性廃液から放射性核種を除去する放射性廃液処理方法であって、
前記放射性廃液に酸化剤を供給して放射性核種を酸化処理する酸化処理ステップと、
前記酸化処理ステップにより供給した前記酸化剤のうち、未反応の前記酸化剤を除去する酸化剤除去ステップと、
前記酸化剤除去ステップにより、未反応の前記酸化剤が除去された前記放射性廃液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定ステップと、
前記酸化還元電位測定ステップにより測定した酸化還元電位が所定範囲を満たすように管理する酸化還元電位管理ステップと、
前記酸化剤除去ステップにより未反応の前記酸化剤が除去された前記放射性廃液から放射性核種を除去する放射性核種除去ステップと、を有
し、
前記酸化還元電位管理ステップでは、前記放射性廃液の通水速度と前記酸化剤除去ステップで用いる酸化剤除去材の量とから前記酸化剤除去材の交換時期を算定する
ことを特徴とする放射性廃液処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性核種を含む放射性廃液から放射性核種を分離除去するのに好適な放射性廃液処理システムおよび放射性廃液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特許文献1がある。この特許文献1には、放射性廃液、特に塩を含む放射性廃液から放射性核種を分離除去することを目的として、放射性核種を含む放射性廃液から放射性核種を分離除去するにあたり、放射性廃液に酸化剤または還元剤或いはpH調整剤を添加し、その後放射性廃液を吸着材に通水して放射性核種を吸着除去する放射性廃液の処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射性廃液に含まれる放射性核種は、種類により単一の化学形態のものもあるが、複数の化学形態で存在しているものもある。複数の化学形態を取るものは、形態の違いにより電荷が異なる。即ち、その電荷がプラスであったりマイナスであったり、あるいは中性であったりする場合がある。このような場合で吸着処理を行おうとする場合、ある一種の放射性核種を分離除去するためには、吸着材を複数種類用意する必要が生じる。
【0005】
また、放射性廃液に含まれる不純物と放射性核種が化学結合することで、吸着処理では分離できない化合物として存在しているものもある。例えば、放射性廃液中に有機物が不純物として存在していると、放射性核種は有機化合物となり、吸着処理とは異なる放射性核種の分離方法(例えば、膜分離方法など)を適用する必要が生じる。
【0006】
一般に、放射性廃液に含まれる放射性核種の濃度は極微量であるため、事前に化学分析等で放射性核種の化学形態を測定するのは難しい。このため、放射性核種の分離で使用する吸着材の選定も容易ではないし、吸着処理が難しい有機化合物として存在しているか否かを事前に確かめることも容易ではない。
【0007】
そこで、特許文献1では、効率よく放射性核種を吸着処理するため、放射性核種を含む放射性廃液に酸化剤(または還元剤あるいはpH調整剤)を添加し、その後で放射性廃液を吸着材に通水して放射性核種を吸着処理する方法を開示している。
【0008】
この特許文献1に記載の方法によれば、放射性廃液に酸化剤を添加することで放射性廃液中の放射性核種の化学形態を任意に調整できるため、効率よく吸着処理による放射性核種の除去を行うことができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、放射性核種を含む放射性廃液に添加した酸化剤が残存した状態で放射性廃液が後段の容器や配管など金属製の設備に通水されると、設備の腐食が懸念されることが明らかとなり、改善の余地があることが明らかとなった。
【0010】
本発明は、腐食の問題を軽減するとともに、放射性核種を含む放射性廃液から放射性核種を効率よく分離除去することが可能な放射性廃液処理システムおよび放射性廃液処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、放射性廃液から放射性核種を除去する放射性廃液処理システムであって、前記放射性廃液に酸化剤を供給して放射性核種を酸化処理する酸化処理部と、前記酸化処理部により供給した前記酸化剤のうち、未反応の前記酸化剤を除去する酸化剤除去部と、前記酸化剤除去部により未反応の前記酸化剤が除去された前記放射性廃液から放射性核種を除去する放射性核種除去部と、前記酸化剤除去部の後段に設けられており、未反応の前記酸化剤が除去された前記放射性廃液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定部と、前記酸化還元電位測定部により測定された酸化還元電位が所定範囲を満たすように管理する酸化還元電位管理部と、を有し、前記酸化還元電位管理部は、前記放射性廃液の通水速度と前記酸化剤除去部の酸化剤除去材の量とから前記酸化剤除去材の交換時期を算定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、腐食の問題を軽減するとともに、放射性核種を含む放射性廃液から放射性核種を効率よく分離除去することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る放射性廃液の処理システムの構成図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る放射性廃液の処理システムの他の形態の構成図である。
【
図3】ステンレス鋼(SUS304)の腐食発生に及ぼす残留塩素濃度の影響を示す図である。
【
図4】酸化剤除去後の処理水の残留塩素濃度と酸化還元電位との関係を示す図である。
【
図5】吸着材の交換目安時期と通水速度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の放射性廃液処理システムおよび放射性廃液処理方法の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0015】
<第1実施形態>
本発明の放射性廃液処理システムおよび放射性廃液処理方法の第1実施形態について
図1乃至
図4を用いて説明する。
【0016】
最初に、放射性廃液処理システムの全体構成について
図1および
図2を用いて説明する。
図1および
図2は、本第1実施形態に係る放射性廃液の処理システムの構成図である。
【0017】
図1に示すように、第1実施形態に係る放射性廃液処理システム100は、酸化処理槽1と、酸化剤除去槽2と、放射性核種除去装置3と、酸化還元電位測定装置4と、酸化剤供給装置10と、を備えている。
【0018】
放射性廃液処理システム100は、放射性核種を含む放射性廃液から放射性核種を分離除去する装置である。放射性廃液処理システム100では、放射性核種を含む放射性廃液が、酸化処理を施され、放射性核種の化学形態が揃えられた後に、放射性核種除去装置に流入する。なお、必要であれば、何れか1箇所以上においてpH調整処理を行うことができる。
【0019】
放射性廃液に含まれる放射性核種としては、例えば、ルテニウム、テクネチウム、ニオブなどの遷移金属、セシウムなどのアルカリ金属、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属、セリウムなどの希土類といった金属元素、アンチモン、テルル、ヨウ素などのハロゲン、炭素、ホウ素といった非金属元素のうちの一つあるいはそれ以上の複数核種からなる。なお、放射性核種は、一種の化学形態で含まれていてもよいし、複数種の化学形態で含まれていてもよい。
【0020】
本実施形態では、放射性廃液中の放射性核種の化学形態を任意に調整する酸化剤として、次亜塩素酸を用いた例を説明する。なお、酸化剤は、次亜塩素酸およびその塩の水溶液を含むものとすることができる。
【0021】
放射性廃液処理システム100を用いた放射性廃液の処理方法では、初めに、放射性核種を含む放射性廃液に酸化剤を供給して酸化処理する。酸化処理では、放射性廃液中の放射性核種の化学形態を任意に調整し、有機化合物が含まれる場合はこれを無機化させる。
【0022】
その後、酸化処理された放射性廃液を酸化剤除去槽2に流入することで酸化剤を除去する。これにより、後段設備で酸化剤による腐食が発生することを抑制することができる。
【0023】
次に、酸化処理した後に酸化剤を除去した放射性廃液を放射性核種除去装置3に流入させる。これにより、放射性核種を分離除去することができる。
【0024】
放射性廃液処理システム100において、放射性核種を含む放射性廃液は、配管101を通じて酸化処理槽1に流入する。
【0025】
酸化処理槽1は、放射性核種を含む放射性廃液を酸化処理するための容器であり、この酸化処理槽1において好適には放射性廃液に酸化剤を供給して放射性核種を酸化処理する酸化処理ステップが実行される。
【0026】
酸化処理槽1には、流入側の配管101と、流出側の配管102と、酸化剤供給装置10と、の3種類の配管が接続されている。なお、酸化処理槽1には、放射性廃液を攪拌するために攪拌装置を備えることができる。
【0027】
配管101の上流側には、ポンプ111が、下流側には開閉バルブ112が、配管102に開閉バルブ113が設置されており、ポンプ111および開閉バルブ112,113の開度等をオペレータが酸化還元電位測定装置4の測定結果を受けて調整する、もしくは制御装置20(
図2参照)により調整することで放射性廃液の流量を制御することができる。
【0028】
酸化剤供給装置10は、酸化処理槽1中の放射性廃液に酸化剤を供給する装置である。酸化剤供給装置10は、酸化剤が収容される酸化剤タンク11、この酸化剤タンク11と酸化処理槽1とを接続する酸化剤供給配管12、酸化剤供給配管12を開閉自在な開閉バルブ13等によって構成される。なお、酸化剤供給装置10は、酸化剤タンク11から酸化剤を供給するポンプを備えてもよい。
【0029】
酸化剤タンク11に用意された酸化剤は、開閉バルブ13が開放されると、酸化剤供給配管12を通じて酸化処理槽1に供給される。酸化剤の供給量は、開閉バルブ13の開度等をオペレータが酸化還元電位測定装置4の測定結果を受けて調整する、もしくは制御装置20により調整することで制御することができる。
【0030】
酸化処理槽1で酸化処理された放射性廃液は、開閉バルブ113が設置された配管102を通じて酸化剤除去槽2に流入する。
【0031】
酸化剤除去槽2は、酸化処理された放射性廃液中に残存している、酸化処理槽1により供給した酸化剤のうち、未反応の酸化剤を吸着材によって除去処理するための容器であり、この酸化剤除去槽2において好適には酸化剤を除去する酸化剤除去ステップが実行される。
【0032】
酸化剤除去槽2には酸化剤を除去する吸着材(以後、酸化剤除去材)が充填されており、酸化剤除去材に酸化処理された放射性廃液を吸着膜に通水することで酸化剤を除去処理する。
【0033】
酸化剤除去槽2は、酸化処理槽1よりも後段側、且つ、放射性核種除去装置3よりも前段側に備えられている。また、酸化剤除去槽2には、流入側の配管102と、流出側の配管103が接続されている。配管103には配管101および102同様、開閉バルブ114が設置されており、開閉バルブ114の開度等をオペレータが酸化還元電位測定装置4の測定結果を受けて調整する、もしくは制御装置20により調整することで流量を制御することができる。
【0034】
酸化剤除去槽2に充填される酸化剤除去材としては、活性炭、あるいは亜硫酸カルシウムを含む吸着材等が挙げられる。なお、酸化剤除去材を交換(目安時期などは
図4にて後述)する際には、放射性廃液処理システム100の停止時に、配管102に設置された開閉バルブ113および配管103に設置された開閉バルブ114を閉じ、酸化剤除去槽2に充填されている酸化剤除去材を詰め替える。または、容器ごと、酸化剤除去槽2自体を交換することができる。
【0035】
また、酸化剤が除去されているか確認するため、配管103にサンプリング弁(図示省略)を設置してサンプリングを行い、残留塩素濃度などを測定することができる。
【0036】
酸化処理において供給される次亜塩素酸等の酸化剤は、残存したまま後段の設備に通水されると設備の腐食を起こす可能性がある。このことから、放射性廃液中に残存している酸化剤を除去処理することで、酸化剤による設備腐食を抑制することとする。
【0037】
酸化剤除去槽2で未反応の酸化剤が除去処理された放射性廃液は、開閉バルブ114が設置された配管103を通じて放射性核種除去装置3に流入する。
【0038】
放射性核種除去装置3は、放射性核種を除去する吸着材あるいは分離膜(以後、核種除去材)、が充填されており、核種除去材に放射性廃液を通水することで放射性核種を吸着処理、もしくは分離膜により放射性核種を分離除去することで、酸化剤除去槽2により未反応の酸化剤が除去された放射性廃液から放射性核種を分離除去する。この放射性核種除去装置3において好適には放射性核種除去ステップが実行される。
【0039】
放射性核種除去装置3には、流入側の配管103と、流出側の配管104が接続されている。配管104には配管101等と同様に、開閉バルブ115が設置されており、開閉バルブ115の開度等をオペレータが酸化還元電位測定装置4の測定結果を受けて調整する、もしくは制御装置20により調整することで流量を制御することができる。
【0040】
放射性核種除去装置3に充填される核種除去材としては、例えば、イオン交換樹脂、キレート樹脂、ゼオライト、銀が担持されたゼオライト、チタン酸、ケイチタン酸、フェロシアン化物等のうちの一つを含むもとすることができる。核種除去材は、一種を用いてもよいし、複数種を用いてもよい。
【0041】
なお、核種除去材を交換する際には、放射性廃液処理システム100の停止時に、配管103に設置された開閉バルブ114および配管104に設置された開閉バルブ115を閉じ、放射性核種除去装置3に充填されている核種除去材を詰め替える。または、容器ごと、放射性核種除去装置3自体を交換することができる。
【0042】
また、酸化剤除去槽2よりも後段側、且つ放射性核種除去装置3よりも前段側、すなわち酸化剤除去槽2の流出側であり、放射性核種除去装置3の流入側である配管104に酸化還元電位測定装置4が設置されている。この酸化還元電位測定装置4において好適には酸化還元電位測定ステップが実行される。酸化還元電位測定装置4では、オンラインで酸化還元電位を測定する。
【0043】
放射性核種除去装置3で放射性核種が除去された放射性廃液は、開閉バルブ115が設置された配管104を通じて放射性廃液処理システム100の系外に排出、または容器に貯留されて更なる処理工程に移行する。
【0044】
図1のような放射性廃液処理システム100では、酸化還元電位測定装置4により測定された酸化還元電位が所定範囲を満たすように管理する酸化還元電位管理部は、ポンプ111、開閉バルブ13,112,113,114により構成される。これに対し、
図2のような放射性廃液処理システム100Aでは、酸化還元電位管理部は、ポンプ111、開閉バルブ13,112,113,114、および制御装置20により構成される。
【0045】
このような放射性廃液処理システム100によると、設備の腐食などを発生させずに放射性核種を効率よく分離除去することができる。
【0046】
図3は、ステンレス鋼(SUS304)の腐食発生に及ぼす残留塩素濃度の影響を示す図である。
図3に示すように、残留塩素濃度が2[ppm]以下の場合、配管や容器など設備に用いられるSUS304の腐食は確認されていない。一方、残留塩素濃度が2[ppm]を上回る場合、SUS304の腐食発生が確認された。このことから、残留塩素濃度が2[ppm]以下となるよう、酸化剤除去材を交換して運用することが好ましい。
【0047】
図4は、酸化剤除去後の処理水の残留塩素濃度と酸化還元電位との関係を示す図である。
図4において、縦軸は、酸化剤除去後の処理水の残留塩素濃度を示し、横軸は、酸化剤除去後の処理水の酸化還元電位を示す。酸化剤および酸化剤除去槽(酸化剤除去材)としては、次亜塩素酸濃度(30[ppm])を含むNaCl溶液(Cl濃度3600[ppm])および活性炭(粒径300[μm]、比表面積700[m
2/g])を用い、SV12[h
-1]の条件で行った。
【0048】
図4に示すように、酸化剤除去後の処理水の酸化還元電位が0.8[V]以下の場合、残留塩素濃度は0[ppm]であり、酸化剤を除去できていることがわかる。一方、酸化剤除去材の酸化剤除去能が低下し、酸化還元電位が0.8[V]より高くなった場合、SUS304の腐食発生が確認された2[ppm]を超える残留塩素濃度が確認された。
【0049】
このことから、酸化剤除去槽2の後段においてオンラインで酸化還元電位の測定を行い、酸化剤除去後の処理水の酸化還元電位が0.8[V]以下を維持できるように酸化剤除去材を交換して運用することが好ましい。
【0050】
このために、
図2に示すような放射性廃液処理システム100Aのように、酸化還元電位測定装置4の測定結果の入力を受けてポンプ111の流量制御や開閉バルブ13,112,113,114の開閉制御あるいは開度の制御を行う制御装置20を設けて、酸化還元電位測定装置4により測定された酸化還元電位が所定範囲を満たす、好適には0.8[V]以下を保つように自動で管理することができる。
【0051】
あるいは、オペレータが酸化還元電位測定装置4の測定結果を常に、あるいは所定タイミング毎に確認し、酸化還元電位が0.8[V]を超えるときは酸化剤除去槽2の酸化剤除去材の交換を行い、酸化還元電位が0.8[V]以下を維持するように操業することができる。
【0052】
これにより、間欠的なサンプリングによる残留塩素濃度の測定と比較して、
図4に示した酸化剤除去材の酸化剤除去能の低下を酸化還元電位の上昇で把握できる。すなわち、酸化剤除去材の交換時期を正確にかつ簡易に把握することができ、最小限の酸化剤除去材の使用量(すなわち、廃吸着材量)で設備の腐食などを抑制できる。
【0053】
なお、配管103にサンプリング弁(図示省略)を設置してサンプリングを行い、酸化還元電位を測定することができる。
【0054】
また、酸化剤除去槽2を並列に2つ以上設置することにより、酸化剤除去材を交換する際には交換側のラインを停止し、並列に設置した別の酸化剤除去槽2(酸化剤除去材)のラインを用いることで、放射性廃液処理システム100の運用を止めることなく、連続的に酸化剤除去処理を行うことが可能である。
【0055】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0056】
上述した本発明の第1実施形態の放射性廃液処理システム100は、放射性廃液に酸化剤を供給して放射性核種を酸化処理する酸化処理槽1と、酸化処理槽1により供給した酸化剤のうち、未反応の酸化剤を除去する酸化剤除去槽2と、酸化剤除去槽2により未反応の酸化剤が除去された放射性廃液から放射性核種を除去する放射性核種除去装置3と、酸化剤除去槽2の後段に設けられており、未反応の酸化剤が除去された放射性廃液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定装置4と、を有する。
【0057】
これによって、放射性核種を含む放射性廃液から、設備の腐食などを発生させずに放射性核種を効率よく分離除去することができる。
【0058】
また、酸化還元電位測定装置4により測定された酸化還元電位が所定範囲を満たすように管理する制御装置20を更に有するため、より安定して設備の腐食などを発生させずに放射性核種を効率よく分離除去することができる。
【0059】
更に、制御装置20は、酸化還元電位が0.8[V]以下を維持するように酸化剤除去槽2の酸化剤除去材の交換を行うことで、設備の腐食などの発生を極力抑制することができる。
【0060】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態の放射性廃液処理システムおよび放射性廃液処理方法について
図5を用いて説明する。
【0061】
この第2実施形態は、酸化剤は、過酸化水素、オゾン、過マンガン酸およびその塩の水溶液、次亜塩素酸およびその塩の水溶液のうちの1つを含むものとして、
図1に示すような放射性廃液処理システム100において、更に、オペレータが放射性廃液の通水速度と酸化剤除去槽2の酸化剤除去材の量とから酸化剤除去材の交換時期を算定、あるいは
図2に示すような放射性廃液処理システム100Aの制御装置20において、放射性廃液の通水速度と酸化剤除去槽2の酸化剤除去材の量とから酸化剤除去材の交換時期を算定するものである。
【0062】
この場合は、好適には、
図2に示すように、酸化還元電位と残留塩素濃度の対応関係を記憶する記憶部21を更に有するものとし、制御装置20は、測定された酸化還元電位に対応する残留塩素濃度に基づき酸化剤除去槽2の酸化剤除去材を交換するものとすることができる。
【0063】
図5は、吸着材の交換目安時期と通水速度の関係を示す図である。
図5において、縦軸は、酸化剤除去材の交換目安時期として、
図3に示したSUS304の腐食発生が確認された残留塩素濃度2[ppm]を超えないよう酸化剤除去後の処理水の残留塩素濃度が0.1[ppm]以下を達成可能な日数を示し、横軸は、通水速度として、単位時間あたりに液が吸着材層に接触する時間の逆数を示す空間速度(SV)を示す。
【0064】
以下、
図5に示した吸着材の交換目安時期と通水速度の関係を調べるために実施した試験について示す。
【0065】
Cl濃度3600[ppm]のNaCl溶液に、酸化剤としては次亜塩素酸を用い、液中の次亜塩素酸の濃度が30[ppm]となるように添加した。酸化剤除去槽(酸化剤除去材)としては、粒径300[μm]、比表面積700[m2/g]の活性炭を用いた。
【0066】
上記の次亜塩素酸濃度の液を、活性炭にSV12[h-1]、SV30[h-1]、SV60[h-1]となるように通水した。例えば、SV12[h-1]の条件では、活性炭2.5[mL]相当を充填したカラムに対して、通水速度30[mL/h]で通水した。同様に、SV30[h-1]の条件では、活性炭2.5[mL]相当を充填したカラムに対して、通水速度75[mL/h]、SV60[h-1]の条件では、活性炭2.5[mL]相当を充填したカラムに対して、通水速度150[mL/h]で通水した。なお、液温は23[℃]一定となるよう調整した。
【0067】
図5に示したように、通水速度によって酸化剤除去材の交換目安時期は異なり、例えばSV12[h
-1]の場合は通水日数140日で酸化剤除去材を交換して運用することが好ましい。なお、酸化剤除去材の交換目安時期(通水日数)とSVは概ね反比例の関係であるため、SV30[h
-1]の場合は通水日数56日、SV60[h
-1]の場合は通水日数28日等、通水速度と酸化剤除去材の量から所定の酸化剤除去材の交換周期を決定することができる。さらに、比表面積が大きい(もしくは粒径が小さく表面積が大きい)活性炭を用いることにより、上記日数より酸化剤除去材の交換目安時期を延ばすことができる。
【0068】
その他の構成・動作は前述した第1実施形態の放射性廃液処理システムおよび放射性廃液処理方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0069】
本発明の第2実施形態の放射性廃液処理システムおよび放射性廃液処理方法においても、前述した第1実施形態の放射性廃液処理システムおよび放射性廃液処理方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0070】
また、制御装置20は、放射性廃液の通水速度と酸化剤除去槽2の酸化剤除去材の量とから酸化剤除去材の交換時期を算定することにより、より無駄なく酸化剤除去材を使い切ることができるようになる。
【0071】
更に、酸化還元電位と残留塩素濃度の対応関係を記憶する記憶部21を更に有し、制御装置20は、測定された酸化還元電位に対応する残留塩素濃度に基づき酸化剤除去槽2の酸化剤除去材を交換することで、より適切な時期での酸化剤除去材の交換が可能となる。
【0072】
なお、本実施形態では、酸化剤として次亜塩素酸を用いた例を説明したが、例えば、過酸化水素、オゾン、過マンガン酸およびその塩の水溶液、次亜塩素酸の塩の水溶液等の、一種を用いてもよいし、複数種を用いてもよい。
【0073】
また、本実施形態では、酸化剤除去槽2は放射性廃液を酸化剤除去材に接触させる通水方式で酸化剤を除去する形態、および放射性核種除去装置3は放射性廃液に核種除去材に接触させる通水方式で放射性核種を除去する形態としたが、本実施形態はこの方式に限定されるものではない。
【0074】
例えば、放射性廃液を貯留させた容器に酸化剤除去材を間欠的に添加するバッチ方式で酸化剤を除去する方法や、酸化剤除去後の放射性廃液を貯留させた容器に核種除去材を間欠的に添加するバッチ方式で放射性核種を除去する方法のうちいずれか一方以上を用いることができる。
【0075】
<その他>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、或る実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【0076】
例えば、放射性核種の化学形態を変換するため酸化処理槽1を備えている形態を説明したが、放射性廃液の酸化処理を配管101、もしくは酸化剤供給配管12への酸化剤のインライン注入で行う構成とし、酸化処理槽1の設置を省略することができる。
【0077】
また、酸化剤除去槽2に酸化剤除去材を間欠的に添加し、後段の放射性核種除去装置3の膜分離方法で、添加した酸化剤除去材を放射性核種と共に放射性廃液から分離除去することができる。
【0078】
なお、放射性核種除去装置3に関しても、第1実施形態では、核種除去材を用いた吸着処理を例として記載したが、例えば、放射性核種を含む放射性廃液に対して、スケール防止剤によるスケール防止およびスケール防止剤除去を行った後、精密ろ過(МF)膜、ナノろ過(NF)膜、限外ろ過(UF)膜を用いた膜分離方法により放射性核種を分離除去することができる。
【0079】
さらに、放射性廃液には、上記の対象とする放射性核種以外の放射性核種が含まれていてもよい。すなわち、他の放射性核種を分離除去するための核種除去材および分離膜など放射性核種除去装置を更に備えてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…酸化処理槽
2…酸化剤除去槽
3…放射性核種除去装置
4…酸化還元電位測定装置
10…酸化剤供給装置
11…酸化剤タンク
12…酸化剤供給配管
13…開閉バルブ(酸化還元電位管理部)
20…制御装置(酸化還元電位管理部)
21…記憶部
100,100A…放射性廃液処理システム
101,102,103,104…配管
111…ポンプ(酸化還元電位管理部)
112,113,114…開閉バルブ(酸化還元電位管理部)
115…開閉バルブ