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  • 特許-キャパシタ及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】キャパシタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/028 20060101AFI20240920BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021138916
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2023032653
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-104850(JP,A)
【文献】特開2017-216317(JP,A)
【文献】国際公開第2020/153242(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/221438(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/043183(WO,A1)
【文献】特開2021-054962(JP,A)
【文献】特開2009-235127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
H01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁金属の多孔質体からなる陽極と、前記弁金属の酸化物からなる誘電体層と、前記誘電体層の、前記陽極と反対側に設けられた導電物質製の陰極と、前記誘電体層及び前記陰極の間に形成された少なくとも1層の固体電解質層とを具備するキャパシタであり、
前記固体電解質層が、π共役系導電性高分子、及び、下記式(1)で表される化合物1に由来するモノマー単位を有するアニオン性重合体を含む導電性複合体を含有し、
さらに、前記固体電解質層が、π共役系導電性高分子、及び、前記アニオン性重合体に該当しないポリアニオンを含む導電性複合体を含有する、キャパシタ。
【化1】
[式中、Rは炭素数4~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、nは4~100の整数である。]
【請求項2】
前記アニオン性重合体が、前記化合物1の単独重合体である、請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項3】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1又は2に記載のキャパシタ。
【請求項4】
前記固体電解質層が含窒素化合物をさらに含有する、請求項1~の何れか一項に記載のキャパシタ。
【請求項5】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~の何れか一項に記載のキャパシタ。
【請求項6】
弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する誘電体形成工程と、
前記誘電体層に対向する位置に陰極を配置する陰極形成工程と、
前記誘電体層の表面に少なくとも1層の固体電解質層を形成する積層工程と、を有するキャパシタの製造方法であって、
前記積層工程において、
前記誘電体層の表面に、第一の導電性高分子分散液を塗布して乾燥することにより、前記固体電解質層を形成し、
前記第一の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子、及び、下記式(1)で表される化合物1に由来するモノマー単位を有するアニオン性重合体を含み、
前記第一の導電性高分子分散液を塗布して乾燥した後、さらに、第二の導電性高分子分散液を塗布して乾燥することにより、前記固体電解質層を形成し、
前記第二の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子、及び、前記アニオン性重合体に該当しないポリアニオンを含む導電性複合体を含有する、キャパシタの製造方法。
【化2】
[式中、Rは炭素数4~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、nは4~100の整数である。]
【請求項7】
弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する誘電体形成工程と、
前記誘電体層に対向する位置に陰極を配置する陰極形成工程と、
前記誘電体層の表面に少なくとも1層の固体電解質層を形成する積層工程と、を有し、 前記積層工程において、
前記誘電体層の表面に、π共役系導電性高分子、及び、下記のアニオン性重合体に該当しないポリアニオン含む導電性複合体を含有する第二の導電性高分子分散液を塗布して乾燥した後、さらに、第一の導電性高分子分散液を塗布して乾燥することにより、前記固体電解質層を形成し、
前記第一の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子、及び、下記式(1)で表される化合物1に由来するモノマー単位を有するアニオン性重合体を含む導電性複合体を含有する、キャパシタの製造方法。
【化3】
[式中、Rは炭素数4~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、nは4~100の整数である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含む固体電解質層を備えたキャパシタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
π共役系導電性高分子とポリアニオンを含む導電性複合体を含有する固体電解質層が、誘電体層と陰極との間に配置されたキャパシタが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-100744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のキャパシタの固体電解質層は、導電性複合体の他に更に特定の化学式で表されるスルフィドを含むことにより、等価直列抵抗(ESR)が低減され、耐熱性も向上している。一方、上記スルフィドによらず、等価直列抵抗が低減されたキャパシタが求められることがある。
本発明は、等価直列抵抗が低減したキャパシタ及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1] 弁金属の多孔質体からなる陽極と、前記弁金属の酸化物からなる誘電体層と、前記誘電体層の、前記陽極と反対側に設けられた導電物質製の陰極と、前記誘電体層及び前記陰極の間に形成された少なくとも1層の固体電解質層とを具備し、前記固体電解質層が、π共役系導電性高分子、及び、下記式(1)で表される化合物1に由来するモノマー単位を有するアニオン性重合体を含む導電性複合体を含有する、キャパシタ。
[2] 前記アニオン性重合体が、前記化合物1の単独重合体である、[1]に記載のキャパシタ。
[3] 前記アニオン性重合体が、スチレンスルホン酸と前記化合物1の共重合体である、[1]に記載のキャパシタ。
[4] 前記固体電解質層が、π共役系導電性高分子、及び、前記アニオン性重合体に該当しないポリアニオンを含む導電性複合体をさらに含有する、[1]~[3]の何れか一項に記載のキャパシタ。
[5] 前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[4]に記載のキャパシタ。
[6] 前記固体電解質層が含窒素化合物をさらに含有する、[1]~[5]の何れか一項に記載のキャパシタ。
[7] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[6]の何れか一項に記載のキャパシタ。
[8] 弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する誘電体形成工程と、前記誘電体層に対向する位置に陰極を配置する陰極形成工程と、前記誘電体層の表面に少なくとも1層の固体電解質層を形成する積層工程と、を有するキャパシタの製造方法であって、前記積層工程において、前記誘電体層の表面に、第一の導電性高分子分散液を塗布して乾燥することにより、前記固体電解質層を形成し、前記第一の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子、及び、下記式(1)で表される化合物1に由来するモノマー単位を有するアニオン性重合体を含む、キャパシタの製造方法。
[9] 前記第一の導電性高分子分散液を塗布して乾燥した後、さらに、第二の導電性高分子分散液を塗布して乾燥することにより、前記固体電解質層を形成し、前記第二の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子、及び、前記アニオン性重合体に該当しないポリアニオンを含む導電性複合体を含有する、[8]に記載のキャパシタの製造方法。
[10] 弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する誘電体形成工程と、前記誘電体層に対向する位置に陰極を配置する陰極形成工程と、前記誘電体層の表面に少なくとも1層の固体電解質層を形成する積層工程と、を有し、前記積層工程において、前記誘電体層の表面に、π共役系導電性高分子、及び、下記のアニオン性重合体に該当しないポリアニオン含む導電性複合体を含有する第二の導電性高分子分散液を塗布して乾燥した後、さらに、第一の導電性高分子分散液を塗布して乾燥することにより、前記固体電解質層を形成し、前記第一の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子、及び、下記式(1)で表される化合物1に由来するモノマー単位を有するアニオン性重合体を含む導電性複合体を含有する、キャパシタの製造方法。
【0006】
【化1】
[式中、Rは炭素数4~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、nは4~100の整数である。]
【発明の効果】
【0007】
本発明のキャパシタは、固体電解質層に特定のアニオン性重合体が含まれることによって、等価直列抵抗が低減している。本発明のキャパシタの製造方法によれば、上記キャパシタを容易に製造することができる。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のキャパシタの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《キャパシタ》
本発明の第一態様はキャパシタである。その実施形態の例について説明する。図1に示すキャパシタ10は、弁金属の多孔質体からなる陽極11と、弁金属の酸化物からなる誘電体層12と、誘電体層12の表面に形成された固体電解質層14と、最も表側に設けられた陰極13とを具備する。陰極13は誘電体層12及び固体電解質層14を間に挟んで、陽極11と反対側に設けられている。
【0012】
陽極11を構成する弁金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモンなどが挙げられる。これらのうち、アルミニウム、タンタル、ニオブが好適である。
陽極11の具体例としては、アルミニウム箔をエッチングして表面積を増加させた後、その表面を酸化処理したものや、タンタル粒子やニオブ粒子の焼結体表面を酸化処理してペレットにしたものが挙げられる。このように処理されたものは表面に凹凸が形成された多孔質体となる。
【0013】
本実施形態における誘電体層12は、陽極11の表面が酸化されて形成された層であり、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液などの電解液中にて、金属体の陽極11の表面を陽極酸化することで形成されたものである。陽極11と同様に誘電体層12にも凹凸が形成されている(図1参照)。
【0014】
本実施形態における陰極13としては、導電性ペーストから形成した導電層やアルミニウム箔など、導電物質製の金属層を使用することができる。
【0015】
本実施形態における固体電解質層14は、誘電体層12の表面に形成されている。固体電解質層14は、誘電体層12の表面の少なくとも一部を覆っており、誘電体層12の表面の全部を覆っていてもよい。
固体電解質層14の厚さは、一定でもよいし、一定でなくてもよく、例えば、1μm以上100μm以下の厚さが挙げられる。
【0016】
図示例では固体電解質層14を1層として描いているが、固体電解質層14は2層以上の積層体であってもよい。各固体電解質層の組成は同一であってもいし、異なっていてもよい。固体電解質層14の製造時に後述する導電性高分子分散液の塗布及び乾燥を複数回繰り返した場合、各回の塗布及び乾燥によって固体電解質層が1層ずつ積層された状態になり得る。ただし、固体電解質層14が単層であるか複数層であるかを厳密に分析することは必ずしも容易ではないので、特に明記しないかぎり、固体電解質層14は単層であっても複数層であってもよく、全体として一塊の固体電解質層14であると考えてよい。
【0017】
[導電性複合体]
固体電解質層14に含有される導電性複合体について説明する。本態様の導電性複合体は、π共役系導電性高分子、及び、後述の式(1)で表される化合物1に由来するモノマー単位を有するアニオン性重合体を含む。
前記アニオン性重合体は、単独重合体(ホモポリマー)であってもよいし、共重合体(コポリマー)であってもよい。
前記単独重合体は、化合物1のみが重合してなるホモポリマーである。
前記共重合体は、化合物1と、重合性官能基及びアニオン基を有するアニオン性化合物(ただし、化合物1を除く。)とのコポリマーである。
【0018】
前記単独重合体の質量平均分子量Mwは、π共役系導電性高分子へのドーピング効果、及び導電性複合体の分散性を向上させる観点から、0.1万~100万が好ましく、0.5万~10万がより好ましく、1万~5万がさらに好ましい。
ここで質量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフ法(GPC法)により、プルランを標準物質として測定した質量基準の平均分子量である。
【0019】
前記アニオン性化合物の重合性官能基としては、化合物1のビニル基と共重合可能なものであれば特に制限されず、例えば、ビニル基、ビニリデン基等が挙げられる。
前記アニオン性化合物のアニオン基は、水中で解離してπ共役系導電性高分子にドープ可能であるものが好ましく、例えば、スルホ基、カルボキシ基が挙げられる。
前記アニオン基のカウンターカチオンは、プロトンであってもよいし、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオンであってもよい。ただし、アニオン性重合体がπ共役系導電性高分子にドープし易くなることから、前記アニオン基のカウンターカチオンはプロトンであることが好ましい。
前記アニオン性化合物の具体例としては、後述するポリアニオンのモノマー単位を構成する公知の化合物が挙げられる。
【0020】
前記共重合体において、化合物1に由来するモノマー単位の含有率aと、他のモノマー単位の含有率bとの比率は、前記共重合体の合計のモノマー単位数を100モル%としたとき、含有率a:含有率bはモル%基準で、例えば10:90~90:10が挙げられ、20:80~80:20が好ましく、30:70~70:30がより好ましく、40:60~60:40がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、導電性複合体の粒度が適度に小径化し、本態様のキャパシタの等価直列抵抗が充分に低下する。
【0021】
前記共重合体の質量平均分子量Mwは、π共役系導電性高分子へのドーピング効果、及び導電性複合体の分散性を向上させる観点から、0.5万~200万が好ましく、1万~100万がより好ましく、10万~50万がさらに好ましい。
ここで質量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフ法(GPC法)により、プルランを標準物質として測定した質量基準の平均分子量である。
【0022】
前記共重合体を構成する前記他のモノマー単位としては、例えば、後述するポリアニオンを構成するモノマー単位が挙げられる。
【0023】
前記導電性複合体は、化合物1に由来するモノマー単位を有しないポリアニオンをさらに含んでいてもよい。具体的なポリアニオンの例は後述する。
前記導電性複合体に前記ポリアニオンがさらに含まれることにより、本態様のキャパシタの等価直列抵抗がより低くなる。
【0024】
前記導電性複合体における前記アニオン性重合体の含有量は、前記π共役系導電性高分子100質量部に対して、1質量部以上1000質量部以下が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
前記範囲の下限値以上であると、アニオン性重合体のπ共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなり、導電性複合体の分散性が向上し、導電性複合体の粒度が充分に小径化し、キャパシタの等価直列抵抗がより低くなる。
前記範囲の上限値以下であると、π共役系導電性高分子の含有割合低下による導電性低下を抑制することができる。
【0025】
前記導電性複合体に前記ポリアニオンが含まれる場合、前記ポリアニオンの含有割合は、アニオン性重合体100質量部に対して、1質量部以上1000質量部以下が好ましく、10質量部以上500質量部以下がより好ましく、50質量部以上200質量部以下がさらに好ましい。
前記範囲の下限値以上であると、前記導電層の導電性がより高くなる。
前記範囲の上限値以下であると、導電性複合体の粒度を小径化する効果が充分に得られる。
【0026】
本態様のキャパシタの固体電解質層に含まれる導電性複合体は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
2種類以上の導電性複合体を含有する場合、上述のアニオン性重合体を含む導電性複合体(A)に加えて、上述のアニオン性重合体を含まない導電性複合体(B)を含有してもよい。導電性複合体(B)としては、従来の導電性複合体、すなわちπ共役系導電性高分子と後述のポリアニオンを含む導電性複合体が挙げられる。
【0027】
本態様のキャパシタの等価直列抵抗を低減しつつ、従来のキャパシタと同等以上の静電容量を確保する観点から、本態様のキャパシタの固体電解質層は、上記の導電性複合体(A)と導電性複合体(B)の両方を含有することが好ましい。
【0028】
固体電解質層14の全体に含まれる導電性複合体(A)の含有量Maと導電性複合体(B)の含有量Mbとの質量比(Ma/Mb)は、0.1~2が好ましく、0.2~1がより好ましく、0.3~0.8がさらに好ましい。
上記範囲であると、本態様のキャパシタの静電容量を維持しつつ、等価直列抵抗を低減することが容易になる。
【0029】
導電性複合体(B)に含まれる前記ポリアニオンの含有量は、前記π共役系導電性高分子100質量部に対して、1質量部以上1000質量部以下が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
前記範囲の下限値以上であると、前記ポリアニオンのπ共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなり、導電性複合体の分散性が向上し、キャパシタの等価直列抵抗がより低くなる。
前記範囲の上限値以下であると、π共役系導電性高分子の含有割合低下による導電性低下を抑制することができる。
【0030】
<π共役系導電性高分子>
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0031】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
前記導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0032】
<アニオン性重合体>
前記アニオン性重合体のモノマー材料である下記式(1)で表される化合物1は、スルホン酸基とビニル基とが、ポリオキシエチレン鎖(CHCHO)によって連結された化合物である。
前記アニオン性重合体を構成する化合物1は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0033】
【化2】
[式中、Rは炭素数4~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、nは4~100の整数である。]
【0034】
前記アニオン性重合体は、従来のポリアニオンと同様にπ共役系導電性高分子にドーパントとして結合し得る。ドーパントとして機能する場合にはスルホン酸基がアニオン基としてドープすると考えられる。前記アニオン性重合体がπ共役系導電性高分子にドープすることにより、π共役系導電性高分子の導電性が向上するとともに、後述する粒度の小径化に寄与すると考えられる。
【0035】
前記アニオン性重合体は、π共役系導電性高分子にドープせずに単に添加剤として導電性高分子分散液に含まれているだけでもよいが、本来的に水に対する分散性に乏しいπ共役系導電性高分子(例えばPEDOT)が水系分散媒に対して分散性を示すためには、前記アニオン性重合体がπ共役系導電性高分子にドープしていることが好ましい。
【0036】
前記式(1)のRで表されるアルキル基は直鎖状であることが好ましい。
前記アルキル基の炭素数は、4~20であり、6~18が好ましく、8~16がより好ましく、10~14がさらに好ましく、10~12が特に好ましい。
上記の好適な範囲の炭素数であると、導電性複合体の粒度をより小さくできる。
【0037】
前記ポリオキシエチレン鎖の重合度nの範囲は、4~100であり、5~80が好ましく、6~50がより好ましく、7~30がさらに好ましく、8~20が特に好ましい。
上記の好適な範囲であると、導電性複合体の粒度をより小さくすることができ、本態様のキャパシタの等価直列抵抗をより低減することができる。
【0038】
化合物1の好適な具体例としては、例えば、CAS番号352661-91-7で登録されているアンモニウムα-[1-(アリルオキシ)ドデカン-2-イル]-ω-(スルホナトオキシ)ポリ(オキシエチレン)のアンモニウムをプロトンに置換したスルホン酸体;CAS番号224646-44-0で登録されているアンモニウムα-[1-(アリルオキシ)テトラデカン-2-イル]-ω-(スルホナトオキシ)ポリ(オキシエチレン)のアンモニウムをプロトンに置換したスルホン酸体などが挙げられる。
これらのアンモニウム塩は、第一工業製薬社製のアクアロンKH-05(n=8~11、R=炭素数10又は12の直鎖状アルキル基)、アクアロンKH-10(n=22~25、R=炭素数10又は12の直鎖状アルキル基)、アクアロンKH-1025(n=68~71、R=炭素数10又は12の直鎖状アルキル基)として入手することができる。
【0039】
アニオン性重合体が、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体を形成するとき、アニオン性重合体においては、一部のアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
アニオン性重合体が有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0040】
<ポリアニオン>
前記導電性複合体(A)及び前記導電性複合体(B)は、化合物1に由来するモノマー単位を有しないポリアニオンを含んでいてもよい。ただし、導電性複合体(A)がポリアニオンを含むと、粒度が大きくなる傾向があるので、粒度を小さくすることを優先するならば、ポリアニオンを含まないことが好ましい。
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上、好ましくは10個以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させることができる。
【0041】
前記ポリアニオンのアニオン基としては、π共役系導電性高分子に対するドーピング効果に優れることから、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。これらは単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーからなる共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記導電性複合体を構成する前記ポリアニオンは1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
前記ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。
ここで質量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフ法を用いて、プルランを標準物質として測定した質量基準の平均分子量である。
【0042】
前記ポリアニオンが、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体(B)を形成した場合、前記ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、後述するように修飾前の状態では、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
前記ポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0043】
[含窒素化合物]
固体電解質層14には、含窒素化合物の1種以上が含有されていてもよい。含窒素化合物が固体電解質層14に含まれることによって、キャパシタの等価直列抵抗をさらに低減することができる。
【0044】
前記含窒素化合物として、以下のアミン化合物、窒素含有芳香族化合物及び4級アンモニウム塩を例示できる。これらから選択される1種以上が固体電解質層14に含まれると、キャパシタの等価直列抵抗をさらに低減できる。
【0045】
アミン化合物はアミノ基を有する化合物であり、アミノ基がポリアニオンのアニオン基と反応することがある。
アミン化合物としては、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれであってもよい。アミン化合物は、炭素数2以上12以下の直鎖、もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、炭素数7以上12以下のアラルキル基、炭素数2以上12以下のアルキレン基、炭素数6以上12以下のアリーレン基、炭素数7以上12以下のアラルキレン基、及び炭素数2以上12以下のオキシアルキレン基から選択される置換基を有していてもよい。
具体的な1級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
具体的な2級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
具体的な3級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
これらアミン化合物のうち、3級アミンが好ましく、トリエチルアミン、トリプロピルアミンがより好ましい。
【0046】
窒素含有芳香族化合物(少なくとも1つの窒素原子が環構造を形成する芳香族化合物)としては、例えば、ピロール、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、N-メチルイミダゾール、N-プロピルイミダゾール、N-ブチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-アセチルイミダゾール、2-アミノベンズイミダゾール、2-アミノ-1-メチルベンズイミダゾール、2-ヒドロキシベンズイミダゾール、2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール、ピリジン等が挙げられる。
これら窒素含有芳香族化合物のうち、イミダゾールがより好ましい。
【0047】
具体的な4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩、テトラナフチルアンモニウム塩等が挙げられる。アンモニウムの対となる陰イオンとしてはヒドロキシドイオンが挙げられる。
【0048】
固体電解質層14に含まれる前記含窒素化合物の合計の含有量は、固体電解質層14に含まれる導電性複合体100質量部に対して、例えば、1質量部以上1000質量部以下が好ましく、5質量部以上100質量部以下がより好ましく、10質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、キャパシタの等価直列抵抗がより低下し易くなるので好ましい。
固体電解質層14に含まれる前記含窒素化合物の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0049】
[ポリオール化合物]
固体電解質層14には、前記導電性複合体、及び前記含窒素化合物とは異なる、2つ以上のヒドロキシ基を有する化合物(以下、ポリオール化合物ということがある。)の1種類以上がさらに含まれていてもよい。ポリオール化合物を含有することにより、キャパシタの等価直列抵抗をより一層低減できることがある。
前記ポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンから選択される1種以上が挙げられる。
前記ポリオール化合物は、後述する電解質の溶媒として含まれていてもよい。
【0050】
固体電解質層14に含まれる前記ポリオール化合物の合計の含有量は、固体電解質層14に含まれる導電性複合体100質量部に対して、例えば、100質量部以上10000質量部以下が好ましく、200質量部以上2000質量部以下がより好ましく、300質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、キャパシタの等価直列抵抗がより低下し易くなり、静電容量もより向上し易くなるので好ましい。
固体電解質層14に含まれる前記ポリオール化合物の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0051】
[電解液]
固体電解質層14には、電解液用溶媒中に電解質を溶解させた電解液が含まれてもよい。電解液の電気伝導度は高いほど好ましい。
電解液用溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等のアルコール系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン等の硫黄系溶媒、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン等のアミド系溶媒、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等のニトリル系溶媒、水等が挙げられる。
電解質としては、例えば、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、安息香酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、蟻酸、1,6-デカンジカルボン酸、5,6-デカンジカルボン酸等のデカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸等のオクタンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の有機酸;あるいは、硼酸、硼酸と多価アルコールより得られる硼酸の多価アルコール錯化合物;リン酸、炭酸、ケイ酸等の無機酸などをアニオン成分とし、1級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等)、2級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、ジフェニルアミン等)、3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7等)、テトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等)などをカチオン成分とした電解質;等が挙げられる。
【0052】
《キャパシタの製造方法》
本発明の第二態様はキャパシタの製造方法であり、第一態様のキャパシタを容易に製造することができる。この製造方法は、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する工程(誘電体形成工程)と、前記誘電体層に対向する位置に陰極を配置する工程(陰極形成工程)と、前記誘電体層の表面の少なくとも一部に、少なくとも1層の固体電解質層を形成する工程(積層工程)と、を含むことが好ましい。
【0053】
[誘電体形成工程]
本工程では、弁金属の多孔質体からなる陽極11の表面を酸化して誘電体層12を形成する。誘電体層12を形成する方法は、特に制限されず、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液、ホウ酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液などの化成処理用電解液中にて、陽極11の表面を陽極酸化する方法が挙げられる。
【0054】
[陰極形成工程]
本工程では、誘電体層12に対向する位置に陰極13を配置する。陰極13の配置方法は、特に制限されず、例えば、カーボンペースト、銀ペースト等の導電性ペーストを用いて陰極13を形成する方法、アルミニウム箔等の金属箔を誘電体層12に対向配置させる方法などが挙げられる。
【0055】
[積層工程]
本工程は、誘電体層12の表面の少なくとも一部に、導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させることにより、固体電解質層14を形成する。
【0056】
<第一実施形態>
積層工程の第一実施形態では、前記誘電体層の表面に、第一の導電性高分子分散液を塗布して乾燥することにより、固体電解質層を形成する。
前記第一の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子及び前記アニオン性重合体を含む導電性複合体(A)と、分散媒とを含有する。
【0057】
前記誘電体層の表面に前記塗布及び乾燥を1回行い、1層目の固体電解質層を形成した後、導電性高分子分散液の塗布及び乾燥をさらに1回以上繰り返してもよい。2回目以降の塗布及び乾燥を行うことにより、1層目の固体電解質層の上に2層目以降の固体電解質層を形成することができる。ただし、塗布及び乾燥の性格上、1層目の固体電解質層と2層目以降の固体電解質層の境界が明確にならなくても構わない。
【0058】
第一実施形態において、2回目以降の塗布及び乾燥に用いる導電性高分子分散液は、導電性複合体(A)を含有する第一の導電性高分子分散液でもよいし、π共役系導電性高分子及び前記アニオン性重合体に該当しないポリアニオンを含む導電性複合体(B)を含有する第二の導電性高分子分散液でもよい。
【0059】
第一実施形態によれば、1回目の塗布及び乾燥において第一の導電性高分子分散液を用いるので、誘電体層の表面近傍における導電性複合体(A)の濃度を高めることができる。
【0060】
<第二実施形態>
積層工程の第二実施形態では、前記誘電体層の表面に、第二の導電性高分子分散液を塗布して乾燥した後、さらに、前記第一の導電性高分子分散液を塗布して乾燥することにより、固体電解質層を形成する。
【0061】
第二実施形態では、連続する上記2回の塗布及び乾燥を行うことにより、誘電体層の表面に導電性複合体(B)を含有する1層目の固体電解質層を形成し、さらにその表面に導電性複合体(A)を含有する2層目の固体電解質層を形成することができる。ただし、塗布及び乾燥の性格上、1層目の固体電解質層と2層目の固体電解質層の境界が明確にならなくても構わない。
【0062】
前記2層目の固体電解質層を形成した後、導電性高分子分散液の塗布及び乾燥をさらに1回以上繰り返してもよい。3回目以降の塗布及び乾燥を行うことにより、2層目の固体電解質層の上に3層目以降の固体電解質層を形成することができる。ただし、塗布及び乾燥の性格上、2層目の固体電解質層と3層目以降の固体電解質層の境界が明確にならなくても構わない。
【0063】
第二実施形態において、3回目以降の塗布及び乾燥に用いる導電性高分子分散液は、導電性複合体(A)を含有する第一の導電性高分子分散液でもよいし、π共役系導電性高分子及び前記アニオン性重合体に該当しないポリアニオンを含む導電性複合体(B)を含有する第二の導電性高分子分散液でもよい。
【0064】
第二実施形態によれば、1回目の塗布及び乾燥において第二の導電性高分子分散液を用いるので、誘電体層の表面近傍における導電性複合体(B)の濃度を高めることができる。
【0065】
第一実施形態及び第二実施形態で用いる上記の第一及び第二の導電性高分子分散液には、前記含窒素化合物、前記ポリオール化合物、後述する添加剤等を含有させてもよい。
以下、導電性高分子分散液について説明する。
【0066】
導電性高分子分散液を構成する分散媒は、前記導電性複合体を分散させ得る液体であれば特に限定されず、例えば、水、有機溶剤、又は、水と有機溶剤との混合液が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。これら有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0067】
添加剤としては、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。ただし、添加剤は、前記導電性複合体、前記含窒素化合物、前記ポリオール化合物及び前記分散媒(溶媒)以外の化合物である。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0068】
導電性高分子分散液の総質量に対する、導電性複合体の含有量は、例えば、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、導電性高分子分散液における導電性複合体の分散性をより高めることができる。
【0069】
導電性高分子分散液が前記含窒素化合物を含有する場合、その含有割合は、含窒素化合物の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上1000質量部以下が好ましく、5質量部以上100質量部以下がより好ましく、10質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、キャパシタの等価直列抵抗がより低下し易くなる。
【0070】
導電性高分子分散液が前記ポリオール化合物を含有する場合、その含有割合は、ポリオール化合物の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の固形分100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下が好ましく、200質量部以上2000質量部以下がより好ましく、300質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
【0071】
導電性高分子分散液が前記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の固形分100質量部に対して、例えば、1質量部以上1000質量部以下の範囲内とすることができる。
【0072】
導電性高分子分散液(25℃)のpHは、誘電体層12や陰極13の腐食を抑制しつつ、アニオン性重合体又はポリアニオンのドープによる導電性向上効果を充分に得る観点から、1以上5以下が好ましく、1.5以上4以下がより好ましく、2以上4以下がさらに好ましい。前記含窒素化合物を添加することによりpHを調整することができる。
【0073】
導電性高分子分散液の塗布方法としては、例えば、浸漬(ディップコーティング)、コンマコーティング、リバースコーティング、リップコーティング、マイクログラビアコーティング等を適用することができる。これらの中でも、誘電体層12と陰極13との間に固体電解質層14を容易に形成できる観点から、浸漬が好ましい。
乾燥方法としては、例えば、室温乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥等が挙げられる。
【0074】
≪アニオン性重合体の製造方法≫
前記アニオン性重合体は、化合物1と分散媒とを含有する反応液中で、化合物1を重合することにより得ることができる。化合物1を重合する方法として、ビニル化合物を重合する公知方法を適用することができる。例えば、後述する酸化剤や触媒を用いたラジカル重合法が挙げられる。
前記反応液中に含まれる化合物1は、スルホン酸基のカウンターカチオンとしてナトリウムイオンやアンモニウムイオンが含まれた塩であってもよい。
【0075】
前記反応液に含まれる前記分散媒は、水系分散媒が好ましく、水がより好ましい。
水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、50質量%以上であり、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0076】
前記分散媒が水を含むことにより、化合物1の重合反応が安定して進行し、アニオン性重合体が分散媒中で安定に分散された状態で得られやすい。
前記反応液中で重合した化合物1のスルホン酸基に結合したカウンターカチオン、及び反応液に添加した触媒や酸化剤を、化合物1の重合後に反応液から除去することが好ましい。前記カウンターカチオンを除去することは、重合により得られたアニオン性重合体のスルホン酸基に結合するカウンターカチオンを除去して、プロトンに置換することを意味する。
【0077】
前記カウンターカチオン等を前記反応液から除去する方法としては、例えば、イオン交換樹脂に前記反応液を接触させてイオン交換樹脂に吸着させる方法、イオン交換水を添加しつつ前記反応液を限外ろ過処理し、分散媒の置換とともに除去する方法等が挙げられる。このうち、イオン交換樹脂を使用する方法が簡便であるため好ましい。前記イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を併用することが好ましい。
【0078】
≪導電性高分子分散液の製造方法≫
<アニオン性重合体の存在下でのπ共役系導電性高分子の合成>
π共役系導電性高分子を形成するモノマーと、前記式(1)で表される化合物1に由来するモノマー単位を有するアニオン性重合体と、水系分散媒とを含有する反応液中で、前記モノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子及び前記アニオン性重合体を含む導電性複合体と、前記水系分散媒とを含有する導電性高分子分散液を得ることができる。
【0079】
前記反応液におけるπ共役系導電性高分子の合成は、前記反応液に前記アニオン性重合体が含まれること以外は、従来のπ共役系導電性高分子の合成(従来の導電性複合体(B)の合成)と同様にして行うことができる。
【0080】
前記モノマーを化学酸化することによって前記モノマー同士を重合させることができる。化学酸化重合は、公知の触媒及び酸化剤を用いて行うことができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0081】
前記反応液の総質量に対するアニオン性重合体の含有量としては、例えば、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.75質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、目的の導電性高分子分散液において、π共役系導電性高分子とアニオン性重合体の含有比を、前述した好適な範囲に調整することが容易となる。
【0082】
重合反応開始直前の前記反応液の総質量に対する前記モノマーの含有量は、例えば、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
【0083】
前記反応液において、π共役系導電性高分子にアニオン性重合体を結合させ、水分散性に優れた導電性複合体を形成する観点から、重合反応開始直前における前記反応液に含まれるアニオン性重合体の含有割合は、前記モノマー100質量部に対して、50質量部以上5000質量部以下が好ましく、100質量部以上1000質量部以下がより好ましく、150質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
【0084】
前記反応液に添加した触媒及び酸化剤を、前記モノマーの化学酸化重合の後で、導電性高分子分散液から除去することが好ましい。
除去する方法としては、例えば、イオン交換樹脂に導電性高分子分散液を接触させ、触媒及び酸化剤をイオン交換樹脂に吸着させる方法、導電性高分子分散液を限外ろ過することにより分散媒の置換とともに除去する方法等が挙げられる。このうち、イオン交換樹脂を使用する方法が簡便であるため好ましい。前記イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を併用することが好ましい。
【0085】
以上で説明した方法で製造すると、π共役系導電性高分子の化学酸化重合時にアニオン性重合体が存在するので、アニオン性重合体がπ共役系導電性高分子に結合又はドープして、水分散性の粒度が小さい導電性複合体(A)を得ることができる。
【0086】
<ポリアニオンの添加>
重合前の前記反応液にさらに前記ポリアニオン(化合物1に由来するモノマー単位を有しないポリアニオン)を添加した後で、前記モノマーを重合してもよい。アニオン性重合体及び前記ポリアニオンの存在下でπ共役系導電性高分子を重合することにより、アニオン性重合体及び前記ポリアニオンのうち少なくとも一方がπ共役系導電性高分子に結合又はドープした導電性複合体(A)を形成することができる。
【0087】
重合反応開始直前の前記反応液の総質量に対する前記ポリアニオンの含有量は、例えば、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.75質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲とすることにより、π共役系導電性高分子の粒度の増加を抑制することができる。
【0088】
前記反応液において、π共役系導電性高分子に前記ポリアニオンを結合させ、水分散性及び導電性に優れた導電性複合体(A)を形成する観点から、重合反応開始直前における前記反応液に含まれる前記ポリアニオンの含有割合は、前記モノマー100質量部に対して、50質量部以上5000質量部以下が好ましく、100質量部以上1000質量部以下がより好ましく、150質量部以上500質量部以下の範囲がさらに好ましい。
【0089】
以上で得られた導電性高分子分散液に、さらに含窒素化合物、ポリオール化合物、及び添加剤等を任意に添加してもよい。これらの任意成分の添加量は第一態様で説明した好適な範囲となるように調整することが好ましい。
【0090】
導電性高分子分散液に含まれる各材料の分散性を向上させる目的で、塗布前に導電性高分子分散液にせん断力を加えながら分散させる公知の高分散処理を施すことが好ましい。
【0091】
本発明のキャパシタ及びその製造方法は上記の実施形態の例に限定されない。
本発明のキャパシタでは、誘電体層と陰極との間に、セパレータが設けられてもよい。
誘電体層と陰極との間にセパレータが設けられたキャパシタとしては、巻回型キャパシタが挙げられる。
セパレータとしては、例えば、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデンなどからなるシート(不織布を含む)、ガラス繊維の不織布などが挙げられる。
セパレータの密度は、0.1g/cm以上1.0g/cm以下の範囲であることが好ましく、0.2g/cm以上0.8g/cm以下の範囲であることがより好ましい。
セパレータを設ける場合には、セパレータにカーボンペーストあるいは銀ペーストを含浸させて陰極を形成する方法を適用することもできる。
【実施例
【0092】
(製造例1)アニオン性重合体の合成
アクアロンKH-05(第一工業製薬社製、前記式(1)のn=8~11、R=炭素数10又は12の直鎖状アルキル基、アンモニウム塩)10gに、イオン交換水90gと、過硫酸アンモニウム0.1gを加え、80℃で8時間反応した。
次に、デュオライトC255LFH(住化ケムテックス社製、陽イオン交換樹脂)10gを添加して16時間攪拌した。得られた溶液を濾過してデュオライトC255LFHを取り除き、アニオン性重合体であるアクアロンKH-05重合体のスルホン酸体(10質量%水溶液)100gを得た。この重合体の質量平均分子量Mwは12000であった。
【0093】
(製造例2)PEDOTとアニオン性重合体を含む導電性複合体(A)の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン0.5gと、製造例1のアクアロンKH-05重合体のスルホン酸体(10質量%水溶液)15gと、イオン交換水84.5gを混合した
反応液を得た。
得られた反応液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、硫酸第二鉄0.03gをイオン交換水4.97gに溶かした触媒溶液と、過硫酸アンモニウム1.1gをイオン交換水8.9gに溶かした酸化剤溶液とをゆっくり添加し、得られた反応液を24時間攪拌して反応させた。
上記反応により、π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びアクアロンKH-05重合体のスルホン酸体を含む導電性複合体と、分散媒である水と、酸化剤及び触媒を含む導電性高分子分散液を得た。
この導電性高分子分散液にデュオライトC255LFH(住化ケムテックス社製、陽イオン交換樹脂)13.2gとデュオライトA368S(住化ケムテックス社製、陰イオン交換樹脂)13.2gを加え、濾過してイオン交換樹脂を除き、前記酸化剤及び前記触媒が除去された導電性高分子分散液を得た。得られた導電性高分子分散液の固形分(不揮発成分)濃度は2.0質量%であり、pHは1.6であった。
【0094】
(製造例3)PSSの合成
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、ポリスチレンスルホン酸含有液を得て、限外ろ過法によりポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0095】
(製造例4)PEDOTとPSSを含む導電性複合体(B)の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン14.2gと、製造例3で得たポリスチレンスルホン酸36.7gとを2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去し、溶液に含まれるポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)を水洗した。この操作を8回繰り返し、2.0質量%のPEDOT-PSS水分散液を得た。
【0096】
(製造例5)キャパシタ用素子の準備
エッチドアルミニウム箔(陽極箔)に陽極リード端子を接続した後、アジピン酸アンモニウム10質量%水溶液中で60Vの電圧を印加し、化成(酸化処理)して、アルミニウム箔の両面に誘電体層を形成して陽極箔を得た。
次に、陽極箔の両面に、陰極リード端子が溶接された対向アルミニウム陰極箔を、セルロース製のセパレータを介して積層し、これを円筒状に巻き取ってキャパシタ用素子を得た。
【0097】
(製造例6)駆動用電解液の調製
γ-ブチロラクトン50質量部、エチレングリコール50質量部、スルホラン10質量
部、及びフタル酸水素テトラメチルアンモニウム25質量部を混合溶解して、駆動用電解液を得た。
【0098】
(調整例1)導電性複合体(A)
製造例2で得たPEDOTとアニオン性重合体からなる導電性複合体を含む導電性高分子分散液を、高圧分散機を用いて分散処理し、導電性複合体の粒度を測定したところ250nmであった。
【0099】
(調整例2)導電性複合体(A)
調整例1で得た導電性高分子分散液100質量部にイミダゾールを0.26質量部(導
電性複合体100質量部に対して13.0質量部)を添加し、室温で撹拌し、pHが3.3に調整された導電性高分子分散液を得た。
【0100】
(調整例3)導電性複合体(B)
製造例4で得た導電性高分子分散液(PEDOT-PSS水分散液)を、高圧分散機を用いて分散処理し、導電性複合体の粒度を測定したところ1110nmであった。この導電性高分子分散液100質量部にイミダゾールを0.32質量部(導電性複合体100質量部に対して16.0質量部)を添加し、室温で撹拌し、pHが2.3に調整された導電性高分子分散液を得た。
【0101】
[粒度の測定方法]
各例で作製した導電性高分子分散液を蒸留水で希釈して導電性複合体濃度0.1質量%に調整したものを試料として、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(ELSZ-2000ZS、大塚電子社製)を用い、動的光散乱法によって、25℃でキュムラント平均粒径を測定した値を粒度とした。
【0102】
[pHの測定]
各例で調製した導電性高分子分散液について、市販のpHメータを用いて常法により、温度25℃でのpHを測定した。
【0103】
(実施例1)
製造例5で得たキャパシタ用素子を調整例1~3の何れかで得た導電性高分子分散液に減圧下で浸漬した後、150℃の熱風乾燥機により15分間乾燥する工程を3回実施して、誘電体層表面上に導電性複合体を含む固体電解質層を形成させた。この際、浸漬させた導電性高分子分散液は表1に示す順で使用した。
次いで、キャパシタ用素子を製造例6で得た駆動用電解液に浸漬した後、アルミニウム製のケースに装填し、封口ゴムで封止して、105℃雰囲気下で35V直流電圧を20分間印加して、キャパシタを得た。
【0104】
(実施例2~5)
実施例1と同様にキャパシタを得た。この際、キャパシタ用素子を浸漬させた導電性高分子分散液は表1に示す順で使用した。
【0105】
(実施例6)
調整例2又は調整例3で得た導電性高分子分散液に減圧下で浸漬した後、150℃の熱風乾燥機により15分間乾燥する工程を5回実施した他は、実施例1と同様にキャパシタを得た。この際、浸漬させた導電性高分子分散液は表1に示す順で使用した。
【0106】
(比較例1)
キャパシタ用素子を浸漬させる導電性高分子を表1に示す順序で使用したこと以外は、実施例1と同様にキャパシタを得た。
【0107】
【表1】
【0108】
<評価>
[静電容量・等価直列抵抗]
実施例1~6及び比較例1のキャパシタについて、LCRメータZM2376((株)エヌエフ回路設計ブロック製)を用いて、120Hzでの静電容量(C)、及び100kHzでの等価直列抵抗(ESR)を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
アニオン性重合体が含まれた導電性複合体を有する各実施例のキャパシタは、比較例のキャパシタと比べて、静電容量が同等以上であり、等価直列抵抗が著しく減少した。この理由の詳細は未解明であるが、実施例の導電性複合体の粒度は比較例よりも格段に小さいので、実施例の固体電解質層は比較例よりも緻密であることが要因の一つであると考えられる。
【符号の説明】
【0111】
10 キャパシタ
11 陽極
12 誘電体層
13 陰極
14 固体電解質層
図1