IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/861 20060101AFI20240920BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20240920BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240920BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240920BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L29/91 D
H01L29/78 657D
H01L29/78 655A
H01L29/91 B
H01L29/91 J
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021167974
(22)【出願日】2021-10-13
(65)【公開番号】P2023058164
(43)【公開日】2023-04-25
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】月東 綾則
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-021142(JP,A)
【文献】特開2012-009811(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054121(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/861
H01L 29/868
H01L 29/78
H01L 29/739
H01L 21/329
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面および第2主面を有する半導体基体と、
第1電極と、
第2電極と、
を備える半導体装置であって、
前記半導体基体は、
前記半導体基体のうち前記第2主面側に設けられた第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層より前記第1主面側に設けられ前記第1半導体層よりも第1導電型の不純物濃度が低い第1導電型の第2半導体層と、
前記第2半導体層より前記第1主面側に設けられた第2導電型の第3半導体層と、
を備え、
前記第1半導体層は前記第2主面において前記第2電極と電気的に接続されており、
前記第3半導体層は前記第1主面において前記第1電極と電気的に接続されており、
前記半導体基体の厚さ方向に関する前記第3半導体層の不純物濃度分布は複数のピークを有し、
前記第3半導体層の厚みW、
前記第2半導体層の厚みWN-
電気素量q、
半導体材料の比誘電率ε
真空の誘電率ε
定格電圧V
定格電流密度J
前記第2半導体層における第2導電型キャリアのキャリアライフタイムτ、
前記第3半導体層のドーズ量D
および前記半導体装置のオン状態における前記第2半導体層の平均キャリア濃度と、前記半導体装置のリカバリー過程における前記第2半導体層のうち前記第2半導体層と前記第3半導体層との境界部分の空乏層内の電荷濃度と、の関係を表し以下の数式1で与えられるα(τ)は、以下の数式2を満たす、
【数1】
【数2】
半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置であって、
前記第3半導体層の厚みW、
前記第2半導体層の厚みWN-
電気素量q、
前記半導体材料の比誘電率ε
真空の誘電率ε
前記定格電圧V
前記定格電流密度J
前記第2半導体層における第2導電型キャリアのキャリアライフタイムτ、
前記第3半導体層のドーズ量D
および前記α(τ)は、
以下の数式3を満たす、
【数3】
半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置であって、
前記第3半導体層の厚みW、
前記第2半導体層の厚みWN-
電気素量q、
前記半導体材料の比誘電率ε
真空の誘電率ε
前記定格電圧V
前記定格電流密度J
前記第2半導体層における第2導電型キャリアのキャリアライフタイムτ、
前記第3半導体層のドーズ量D
および前記α(τ)は、
以下の数式4を満たす、
【数4】
半導体装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記第3半導体層の厚みW、
前記第2半導体層の厚みWN-
電気素量q、
前記半導体材料の比誘電率ε
真空の誘電率ε
前記定格電圧V
前記定格電流密度J
前記第2半導体層における第2導電型キャリアのキャリアライフタイムτ、
前記第3半導体層のドーズ量D
および前記α(τ)は、
以下の数式5を満たす、
【数5】
半導体装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記第3半導体層の領域であって前記不純物濃度分布の前記複数のピークのうち最も前記第1主面側のピークと最も前記第2主面側のピークとに挟まれた領域における第2導電型の不純物濃度の最低値は、前記第2半導体層の第1導電型の不純物濃度よりも高い、
半導体装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記第3半導体層の前記不純物濃度分布の最大値は1.0×1017cm-3以下である、
半導体装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の半導体装置であって、
前記第3半導体層の前記不純物濃度分布の最大値は2.5×1016cm-3以下である、
半導体装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体装置であって、
前記第3半導体層の領域であって前記不純物濃度分布の前記複数のピークのうち最も前記第1主面側のピークと最も前記第2主面側のピークとに挟まれた領域における第2導電型の不純物濃度の最低値は、前記第3半導体層の前記不純物濃度分布の最大値の1/10以上である、
半導体装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体装置であって、
記第3半導体層の不純物濃度は、記第3半導体層の前記不純物濃度分布の前記複数のピークのうち最も前記第2主面側のピークにおいて最も高い、
半導体装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置であって、
前記第3半導体層において、前記不純物濃度分布の前記複数のピークのうち最も第1主面側のピークにおける不純物濃度は面内方向の位置によって異なる、
半導体装置。
【請求項11】
請求項10に記載の半導体装置であって、
前記第3半導体層において、前記不純物濃度分布の前記複数のピークのうち最も第1主面側のピークにおける不純物濃度が高い領域と低い領域とが面内方向のある一方向に関して交互に配置されている、
半導体装置。
【請求項12】
半導体装置の製造方法であって、
前記半導体装置は、
第1主面および第2主面を有する半導体基体と、
第1電極と、
第2電極と、
を備え、
前記半導体基体は、
前記半導体基体のうち第2主面側に設けられた第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層より第1主面側に設けられ前記第1半導体層よりも第1導電型の不純物濃度が低い第1導電型の第2半導体層と、
前記第2半導体層より第1主面側に設けられた第2導電型の第3半導体層と、
を備え、
前記第1半導体層は前記第2主面において前記第2電極と電気的に接続されており、
前記第3半導体層は前記第1主面において前記第1電極と電気的に接続されており、
前記半導体基体の厚さ方向に関する前記第3半導体層の不純物濃度分布は複数のピークを有し、
オン状態における前記第2半導体層内の平均キャリア濃度と、リカバリー過程における前記第2半導体層のうち前記第2半導体層と前記第3半導体層との境界部分の空乏層内の電荷濃度と、の関係を求め、
前記関係に基づいて前記第3半導体層の厚さを定める、
半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に、スイッチング損失の低減のための構成を備えた半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-021142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体装置において、大電流かつ大電圧のリカバリー動作中に、半導体層が完全空乏化し半導体装置が破壊されるという問題がある。
【0005】
本開示は上記の問題を解決するためのものであり、大電流かつ大電圧のリカバリー動作中に半導体層が完全空乏化することを抑制でき、大電流かつ大電圧のリカバリー動作中における半導体層の完全空乏化による半導体装置の破壊を抑制できる半導体装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の半導体装置は、第1主面および第2主面を有する半導体基体と、第1電極と、第2電極と、を備える半導体装置であって、半導体基体は、半導体基体のうち第2主面側に設けられた第1導電型の第1半導体層と、第1半導体層より第1主面側に設けられ第1半導体層よりも第1導電型の不純物濃度が低い第1導電型の第2半導体層と、第2半導体層より第1主面側に設けられた第2導電型の第3半導体層と、を備え、第1半導体層は第2主面において第2電極と電気的に接続されており、第3半導体層は第1主面において第1電極と電気的に接続されており、半導体基体の厚さ方向に関する第3半導体層の不純物濃度分布は複数のピークを有し、第3半導体層の厚みW、第2半導体層の厚みWN-、電気素量q、半導体材料の比誘電率ε、真空の誘電率ε、定格電圧V、定格電流密度J、第2半導体層における第2導電型キャリアのキャリアライフタイムτ、第3半導体層のドーズ量D、および半導体装置のオン状態における第2半導体層の平均キャリア濃度と、半導体装置のリカバリー過程における第2半導体層のうち第2半導体層と第3半導体層との境界部分の空乏層内の電荷濃度と、の関係を表しα(τ)=4.15/((ln(2.58τ+1))4.77+225)で与えられるα(τ)は、W >(1.6εε)/qD‐(2qWN‐)/(2.5α(τ)Jτ)を満たす、半導体装置である。
【発明の効果】
【0007】
本開示により、大電流かつ大電圧のリカバリー動作中に半導体層が完全空乏化することを抑制でき、大電流かつ大電圧のリカバリー動作中における半導体層の完全空乏化による半導体装置の破壊を抑制できる半導体装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1の半導体装置を示す図である。
図2】実施の形態2の半導体装置を示す図である。
図3】実施の形態1および比較例の半導体装置の不純物濃度の分布を示す図である。
図4】実施の形態1および比較例の半導体装置の、不純物濃度の最大値と最大リカバリー遮断パワーとの関係を示す図である。
図5】実施の形態1および比較例の半導体装置の、順方向電圧降下とリカバリー損失との関係を示す図である。
図6】実施の形態1および比較例の半導体装置のリーク電流を示す図である。
図7】実施の形態1の半導体装置の製造方法における製造途中の状態を示す図である。
図8】実施の形態1の半導体装置の製造方法における製造途中の状態を示す図である。
図9】実施の形態1の半導体装置の製造方法における製造途中の状態を示す図である。
図10】実施の形態1の半導体装置のリカバリー動作における電流と電圧の時間変化を示す図である。
図11】実施の形態1の半導体装置のリカバリー動作における電流と電圧の時間変化を示す図である。
図12】実施の形態1の半導体装置のリカバリー動作における電流と電圧の時間変化を示す図である。
図13】実施の形態1の半導体装置の、N-型基板1とP型拡散層3の境界のPN接合部6の近傍の電界分布を示す図である。
図14】実施の形態1の半導体装置のオン状態とリカバリー状態とでのキャリア濃度分布を示す図である。
図15】実施の形態1の半導体装置のオン状態とリカバリー状態とでのキャリア濃度分布を示す図である。
図16】実施の形態1の半導体装置のオン状態とリカバリー状態とでのキャリア濃度分布を示す図である。
図17】実施の形態1の半導体装置において経験的に得られる比例係数α(τ)を示す図である。
図18】実施の形態1の半導体装置において、各定格電圧に対し電源電圧Vccの代表的な値を示す図である。
図19】実施の形態1の半導体装置において、各定格電圧に対し定格電流密度の代表的な値とスイッチング直前のオン状態での大電流密度の代表的な値を示す図である。
図20】実施の形態1の半導体装置において、各定格電圧に対しN-型基板1の厚みの代表的な値を示す図である。
図21】比較例の半導体装置を示す図である。
図22】比較例の半導体装置を示す図である。
図23】実施の形態1の半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の記述において、半導体層の導電型であるN型とP型は入れ替えてもよい。
【0010】
<比較例>
図21は比較例の半導体装置10z1を示す。図22は比較例の半導体装置10z2を示す。
【0011】
半導体装置10z1は、半導体基体100、アノード電極4、およびカソード電極5を備える。
【0012】
半導体基体100は、第1主面100aおよび第2主面100bを有する。半導体基体100は、N-型基板1、N型拡散層2、P型拡散層3z1を備える。
【0013】
N型拡散層2は半導体基体100の第2主面100b側に位置する。N-型基板1はN型拡散層2より第1主面100a側に位置する。P型拡散層3はN-型基板1より第1主面100a側に位置する。N-型基板1のN型不純物濃度はN型拡散層2のN型不純物濃度よりも低い。
【0014】
半導体装置10z2は、半導体装置10z1と比べると、P型拡散層3z1の代わりにP型拡散層3z2を備える。また、半導体装置10z2においては、N-型基板1にライフタイムキラー7が設けられている。
【0015】
半導体装置10z1および半導体装置10z2はそれぞれダイオードである。以下の記述では半導体装置10z1を比較例1として、半導体装置10z2を比較例2として参照する場合がある。
【0016】
図21のB-B線におけるP型拡散層3z1およびN-型基板1の不純物濃度が図3に示されている(図3の比較例1)。
【0017】
図22のC-C線におけるP型拡散層3z2およびN-型基板1の不純物濃度が図3に示されている(図3の比較例2)。
【0018】
図3において、横軸は厚み方向の位置を表す。図3において、深さ0μmは第1主面100aに対応する。
【0019】
半導体装置10z1では、スイッチング損失の低減のためにP型拡散層3z1へのドーズ量が減らされ、P型拡散層3z1の不純物濃度が下がっている。しかし、P型拡散層3z1の不純物濃度が2.5E16cm-3以下の場合、順方向に高電圧が印加されかつ大電流が流れていたオン状態からスイッチングが行われた後のリカバリー動作中に、P型拡散層3z1とN-型基板1との境界の空乏層がアノード電極4まで広がり、P型拡散層3z1の内部のリカバリー電流により装置が破壊される。そのため、P型拡散層3z1の不純物濃度を下げることによるスイッチング損失の低減には限界がある。
【0020】
半導体装置10z2では、スイッチング損失の低減のために、N-型基板1にライフタイムキラー7が設けられている。ライフタイムキラー7は、第2主面100b側からの電子線照射によって形成される。電子線は半導体基体100の第2主面100b側表層部のN型拡散層2の領域を通過するため、電子線照射によって半導体装置10z2の特性のばらつきが増加する。
【0021】
スイッチング損失の低減のために、P型拡散層3z1またはP型拡散層3z2の不純物濃度を、面内方向の位置によって変化させ、例えば不純物濃度が相対的に高いP+領域と不純物濃度が相対的に低いP領域とを面内方向に交互に配置するという方法も考えられる。この場合、順方向に大電流が流れていたオン状態からスイッチングが行われた後のリカバリー動作中であって逆方向に高電圧が印加されている場合に、P+領域とP領域の境界部分に電界が集中することでアバランシェ電流が発生し、P+領域とP領域の境界部分が熱により破壊される。
【0022】
<A.実施の形態1>
<A-1.構成>
図1は実施の形態1の半導体装置10を示す図である。
【0023】
半導体装置10は、半導体基体100、アノード電極4、およびカソード電極5を備える。
【0024】
半導体基体100は、第1主面100aおよび第2主面100bを有する。半導体基体100は、N-型基板1(第2半導体層の一例)、N型拡散層2(第1半導体層の一例)、およびP型拡散層3(第3半導体層の一例)を備える。半導体基体100は、第1主面100aの表層部に、一方の導電型からなる半導体層であるP型拡散層3を有する。
【0025】
N-型基板1とP型拡散層3の接合部分をPN接合部6と呼ぶ。
【0026】
P型拡散層3は第1主面100aにおいてアノード電極4と電気的に接続されている。N型拡散層2は第2主面100bにおいてカソード電極5と電気的に接続されている。
【0027】
P型拡散層3はP型拡散層3a、P型拡散層3b、およびP型拡散層3cを備える。
【0028】
N型拡散層2は半導体基体100のうち、第2主面100b側の表層部に位置する。
【0029】
N-型基板1はN型拡散層2より第1主面100a側に位置する。P型拡散層3はN-型基板1より第1主面100a側に位置する。N-型基板1のN型不純物濃度はN型拡散層2のN型不純物濃度よりも低い。
【0030】
N-型基板1は、N型不純物として例えばヒ素またはリン等を有する半導体層である。
【0031】
N型拡散層2、P型拡散層3、およびN-型基板1によりダイオードの構造が形成されている。
【0032】
半導体装置10はダイオードである。半導体装置10は、RC-IGBT(Reverse-Conducting Insulated Gate Bipolar Transistor、逆導通絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)のように、ダイオードをその一部として内蔵するパワー半導体装置であってもよい。
【0033】
N-型基板1のN型不純物濃度は1.0E12cm-3~1.0E14cm-3である。
【0034】
N型拡散層2は、N型不純物として例えばヒ素またはリン等を有する半導体層である。N型拡散層2のN型不純物の濃度は1.0E14cm-3~1.0E21cm-3である。
【0035】
P型拡散層3はp型不純物として例えばボロンまたはアルミ等を有する半導体層である。厚み方向に関するP型拡散層3のP型不純物濃度分布は、複数のピークを持つ。以下では、厚み方向に関するP型拡散層3のP型不純物濃度分布が2つのピークを持つ場合を例にとり説明するが、厚み方向に関するP型拡散層3のP型不純物濃度分布は3つ以上のピークを有していてもよい。
【0036】
厚み方向に関するP型拡散層3のP型不純物濃度分布の2つのピーク近傍の領域がそれぞれP型拡散層3aおよびP型拡散層3cである。また、当該2つのピークに挟まれた領域、つまりP型拡散層3aとP型拡散層3cとに挟まれた領域がP型拡散層3bである。
【0037】
図1のA-A線における不純物濃度の分布の一例が図3に示されている(図3の実施の形態1)。図3において、深さ0μmは第1主面100aに対応する。図3では、N型の不純物濃度とP型の不純物濃度の差の絶対値がプロットされている。P型拡散層3bではP型不純物の不純物濃度がN型不純物の不純物濃度より高く、N-型基板1ではN型不純物の不純物濃度がP型不純物の不純物濃度より高い。
【0038】
P型拡散層3の不純物濃度分布の最大値は1.0×1017cm-3以下である。
【0039】
P型拡散層3bのP型不純物濃度はN-型基板1のN型不純物濃度Nより高い。これにより、ラッチアップを抑制できる。厚み方向に関するP型拡散層3のP型不純物濃度分布が3つ以上のピークを有している場合も同様である。つまり、P型拡散層3の領域であって厚み方向に関するP型拡散層3の不純物濃度分布の複数のピークのうち最も第1主面100a側のピークと最も第2主面100b側のピークとに挟まれた領域におけるP型の不純物濃度の最低値は、N-型基板1のN型の不純物濃度よりも高い。
【0040】
P型拡散層3bのP型不純物濃度は1.0×1013cm-3以上である。
【0041】
厚み方向に関するP型拡散層3のP型不純物濃度分布の2つのピークのうち第1主面100a側のピークにおいて不純物濃度が最も高い。厚み方向に関するP型拡散層3の不純物濃度分布が3つ以上のピークを有する場合においても、例えば、当該3つ以上のピークのうち最も第1主面100a側のピークにおいて不純物濃度が最も高い。
【0042】
厚み方向に関するP型拡散層3の不純物濃度分布は、2つのピークを有し当該2つのピークのうち第2主面100b側のピークにおいて不純物濃度が最も高い、というものであってもよい。厚み方向に関するP型拡散層3の不純物濃度分布が3つ以上のピークを有する場合においても、例えば、当該3つ以上のピークのうち最も第2主面100b側のピークにおいて不純物濃度が最も高くてよい。
【0043】
<A-2.比較例との比較>
図4から図6は本実施の形態の半導体装置と、比較例の半導体装置との比較を行った結果を示す図である。
【0044】
図4は比較例の半導体装置10z1と実施の形態1の半導体装置10の、P型拡散層3における不純物濃度の最大値と最大リカバリー遮断パワーPrrの関係を示す図である。図4のデータは、150℃におけるものである。最大リカバリー遮断パワーは、半導体装置10z1または半導体装置10に許容される逆方向電流の電力の最大値である。図4に示されるように、比較例1の構成においては、P型拡散層3z1における不純物濃度の最大値が2.5E16cm-3以下になると、Prrが大幅に低下する。一方、本実施の形態の構成においては、P型拡散層における不純物濃度の最大値が2.5E16cm-3以下であっても、Prrが大幅には低下していない。このように、厚み方向に関するP型拡散層3のP型不純物濃度分布が2つのピークを有することで、最大リカバリー遮断パワーPrrの低下を抑制しつつ、P型拡散層3への不純物の注入量を下げることができる。P型拡散層3への不純物の注入量を下げることで、オン状態でのP型拡散層3からN-型基板1へのホールの流入を抑制でき、また、スイッチング損失を抑制できる。
【0045】
図5は、実施の形態1、比較例1、比較例2、および比較例3の半導体装置の、順方向電圧降下Vfとリカバリー損失Erecのトレードオフ関係を示す図である。図5において、比較例3は、比較例1に対しP型拡散層3z1のP型不純物濃度を高くする変更を加えた構成を表す。比較例1の半導体装置10z1においては、最大リカバリー遮断パワーPrrの低下を抑制しようとすると、Erecが低い構成を実現できない。比較例3の半導体装置では、比較例2と比べ、順方向電圧降下Vfが小さくなる一方、リカバリー損失Erecが大きくなっている。本実施の形態の半導体装置10および比較例2の半導体装置10z2では、最大リカバリー遮断パワーPrrの低下を抑制し、かつ、Erecが小さくできている。本実施の形態の半導体装置10では、電子線照射によりライフタイムキラーの形成を行うことなく、比較例2の半導体装置10z2とほぼ同等のErecを実現できている。
【0046】
図6は、比較例の半導体装置と実施の形態1の半導体装置10のリーク電流Irrmを示す図である。図6では、リーク電流Irrmの製品間のばらつきがエラーバーで示されている。電子線照射を行うことによりライフタイムキラー7が形成された半導体装置10z2においては、電子線照射において電子線がN型拡散層2の領域を通過するため、製品間でのリーク電流のばらつきが増大している。そのため、半導体装置10z2では、逆回復安全動作領域(RRSOA、Reverse Recovery Safe Operation Area)の製品間のばらつきが増大する。本実施の形態の半導体装置10では、半導体装置10z2と比べリーク電流のばらつきが抑えられている。そのため、本実施の形態の半導体装置10では、逆回復安全動作領域の製品間のばらつきが抑えられる。
【0047】
<A-3.P型拡散層3の厚みW>
P型拡散層3の厚みWは、高エネルギー(つまり、MeV級の)イオン注入機の制限と、熱拡散における時間および温度の制限と、により、20μm以下であることが望ましい。
【0048】
P型拡散層3の厚みWの下限は、半導体装置10の用途、N-型基板1のキャリアライフタイム、N-型基板1の厚みWN-およびP型拡散層3のドーズ量Dに依存する。半導体装置10の用途は、例えば、オン状態における電流密度Jおよび電源電圧Vccがどのようなものであるか、を意味する。以下では、半導体装置10の破壊を避けるために好ましいP型拡散層3の厚みWの下限について説明する。
【0049】
<A-3-1.半導体装置10が破壊される原因>
半導体装置10がリカバリー動作中に破壊される原因として電流破壊と電圧破壊が挙げられる。電圧破壊には、P型拡散層3の完全空乏化、ダイナミックアバランシェ、および電圧のオーバーシュートの3種類がある。
【0050】
P型拡散層3の完全空乏化は、アノード電極4とカソード電極5の間の電圧Vkaが順方向電圧から逆方向電圧に変わった後、Vkaが電源電圧Vccへ上昇している間に起きる。ここで、Vkaは、逆方向電圧が印加されている場合を正としている。P型拡散層3の完全空乏化を発生しやすくする条件は、P型拡散層3の不純物濃度が低いこと、オン状態における電流密度が大きいこと、およびN-型基板1におけるキャリアライフタイムが長いこと、等である。P型拡散層3の完全空乏化による半導体装置10の破壊のメカニズムは、N-型基板1内のキャリア濃度が高いことにより、N-型基板1とP型拡散層3の境界からP型拡散層3側に広がる空乏層がアノード電極4まで伸び、N-型基板1とP型拡散層3の境界のPN接合部6の電界が臨界電界以下のままアノード層が完全空乏化し、空乏層内でリカバリー電流が激増し、半導体装置10が熱破壊される、というものである。
【0051】
ダイナミックアバランシェは、電圧Vkaが順方向電圧から逆方向電圧に変わった後、Vkaが電源電圧Vccへ上昇している間に起きる。ダイナミックアバランシェを発生しやすくする条件は、P型拡散層3の不純物濃度が高いこと、オン状態における電流密度が大きいこと、およびN-型基板1におけるキャリアライフタイムが長いこと等である。ダイナミックアバランシェによる半導体装置10の破壊のメカニズムは、P型拡散層3およびN-型基板1内のキャリア濃度が高いことにより、Vkaが静耐圧以下の電圧でもN-型基板1とP型拡散層3の境界のPN接合部6の電界が臨界電界を超え、アヴァランシェ・ブレークダウンが発生する、というものである。
【0052】
電圧のオーバーシュート(snap offとも言う)は、電圧Vkaが順方向電圧から逆方向電圧に変わった後、Vkaが電源電圧Vcc以上に上昇している間に起きる。電圧のオーバーシュートを発生しやすくする条件は、オン状態における電流密度が小さいことおよびN-型基板1におけるキャリアライフタイムが短いこと等である。電圧のオーバーシュートによる半導体装置10の破壊のメカニズムは、N-型基板1内のキャリアの濃度が劇的に減少し、瞬間的にアノード電極4とカソード電極5の間に静耐圧以上の電圧が印可されて、N-型基板1とP型拡散層3の境界のPN接合部6の電界が臨界電界を超え、アヴァランシェ・ブレークダウンが発生する、というものである。
【0053】
以下では、電圧破壊のうちP型拡散層3の完全空乏化を抑制するための条件として、P型拡散層3の厚みWの下限を導く。
【0054】
<A-3-2.リカバリー動作中のP型拡散層3の空乏化>
P型拡散層3の不純物濃度はN-型基板1の不純物濃度よりも高く、前者は後者の例えば10~10倍である。そのため、半導体装置10に静的に逆電圧が印加される場合、N-型基板1とP型拡散層3の境界部分の空乏層は主にN-型基板1の中で広がり、P型拡散層3内部の空乏層の広がりは無視できる。
【0055】
一方、リカバリー動作中のN-型基板1とP型拡散層3の境界部分の空乏層の広がり方は、半導体装置10に静的な逆電圧が印加された場合とは異なる。
【0056】
半導体装置10のオン状態では、P型拡散層3およびN型拡散層2からキャリアがN-型基板1に流入し、電導度変調が起きている。半導体装置10のオン状態では、N-型基板1におけるキャリア濃度はN-型基板1の不純物濃度より高く、前者は後者の例えば10~10倍である。半導体装置10のスイッチングの直後、つまり半導体装置10に加えられる電圧が順方向から逆方向に切り替わった直後には、N-型基板1のキャリア濃度は高いままであり、N-型基板1のキャリア濃度とP型拡散層3のキャリア濃度とが比較的近い。そのため、半導体装置10のスイッチング後のリカバリー動作中においては、N-型基板1とP型拡散層3の境界部分の空乏層は、N-型基板1とP型拡散層3の両方に広がる。
【0057】
オン状態における電流が大きいと、リカバリー動作中のN-型基板1のキャリア濃度が高いため、空乏層のP型拡散層3内での広がりが大きくなる。P型拡散層3の不純物濃度が低いと、空乏層のP型拡散層3内での広がりが大きくなる。例えば、半導体装置10のスイッチングを高速化するためにP型拡散層3の不純物濃度をオン状態のN-型基板1内のキャリア濃度と相当するレベルまで下げる場合があるが、このような場合、空乏層はP型拡散層3内で広がりやすい。
【0058】
<A-3-3.リカバリー動作中にP型拡散層3において空乏層が最も広くなるタイミング>
リカバリー動作中、アノード電極4とカソード電極5の間の電圧Vkaが高くなると、空乏層が広くなる。また、リカバリー動作中の逆方向電流が大きいと、N-型基板1における電荷密度が高くなり、P型拡散層3内での空乏層の広がりが大きくなる。よって、リカバリー動作中のうち、電圧Vkaと逆方向電流とがともに最大値に近い時に、空乏層のP型拡散層3内部での広がりが最も大きく、また、その時に、P型拡散層3の空乏化による半導体装置10の破壊が発生しやすくなる。
【0059】
図10図11、および図12は、<A-1.構成>で説明した範囲で構成の異なる半導体装置10について、リカバリー動作中の電圧Vkaと電流Iの時間変化を示す図である。図10図11、および図12において、電流Iは、電流が順方向に流れている場合を正として示されている。
【0060】
図10図11、および図12に示されるように、時間t=1μs付近におけるスイッチング後、Vkaが電源電圧Vccとなる時間tの付近で、電流Iの絶対値も最大値付近になる。よって、近似的にVka = Vccの時のアノード層の空乏層が最も広いと想定する。
【0061】
<A-3-4.P型拡散層3の空乏化の構造的要因分析>
これまでの分析をもとに、P型拡散層3における空乏層が、半導体装置10の構成にどのように依存するかを分析する。<A-3-3.リカバリー動作中にP型拡散層3において空乏層が最も広くなるタイミング>の分析に基づき、リカバリー動作中にPN接合部6に大きさVccの逆電圧が印加されている状態(以下、状態Sと呼ぶ)での、P型拡散層3内の空乏層の幅Wを考える。
【0062】
図13は、状態SでのN-型基板1とP型拡散層3の境界のPN接合部6の近傍の電界分布を示す図である。分析のため、PN接合部6が階段接合(Abrupt PN junction)である、つまりPN接合部6の近傍において電荷分布が階段状に変化する、とモデリングする。ポアソン方程式(Poisson’s equation)より、状態SにおいてPN接合部6に印可される電圧Vcc、P型拡散層3の平均不純物濃度N、状態SにおけるP型拡散層3側の空乏層の幅W、状態SにおけるN-型基板1側の空乏層内の電荷密度N’、状態SにおけるN-型基板1側の空乏層幅WDDに関して、以下の数式1および数式2の関係が成り立つ。
【0063】
【数1】
【0064】
【数2】
【0065】
ここで、qは電気素量、εはP型拡散層3およびN-型基板1の半導体材料の比誘電率、εは真空の誘電率である。NはP型拡散層3の平均不純物濃度である。近似的にモデリングするため、厚み方向の位置によるP型拡散層3のP型不純物濃度の違いは無視し、平均不純物濃度Nを用いている。
【0066】
数式2より、数式1は、
【0067】
【数3】
【0068】
となる。また、数式3より、以下の数式4および数式5を経て、状態SにおけるP型拡散層3側の空乏層の幅Wは数式6のように求まる。
【0069】
【数4】
【0070】
【数5】
【0071】
【数6】
【0072】
P型拡散層3の完全空乏化を避けるためには、P型拡散層3の厚みWが、P型拡散層3側の空乏層の幅Wよりも大きい必要がある。そのため、P型拡散層3の厚みWは、以下の数式7の条件を満たしていることが好ましい。
【0073】
【数7】
【0074】
以下、数式7の条件を、状態SにおけるN-型基板1側の空乏層内の電荷密度N’を含まない形に書き換える。
【0075】
そのために、まず、スイッチング前のオン状態でのN-型基板1内の平均キャリア濃度nAvgと、スイッチング前のオン状態での電流密度J、N-型基板1におけるP型拡散層3と同じ導電型のキャリア(つまり、P型キャリア)のキャリアライフタイムτ、N-型基板1の厚みWN-と、の関係を考える。
【0076】
図14図15、および図16は、半導体装置10のオン状態とリカバリー状態とにおける、N-型基板のキャリア濃度を示す図である。オン状態においては電子濃度とホール濃度はほぼ等しいため、オン状態における電子濃度とホール濃度は図中ではどちらもキャリア濃度として同じ線で示されている。
【0077】
図14はオン状態での電流密度Jが小さい場合(図14の線14a、線14b、線14c)と大きい場合(図14の線14d、線14e、線14f)のデータを示す図である。
【0078】
図15はN-型基板1におけるP型キャリアのキャリアライフタイムが短い場合(図15の線15a、線15b、線15c)と長い場合(図15の線15d、線15e、線15f)とのデータを示す図である。
【0079】
図16はN-型基板1が厚い場合(図16の線16a、線16b、線16c)と薄い場合(図16の線16d、線16e、線16f)とのデータを示す図である。
【0080】
図14図15、および図16において、線14a、線15a、線16a、線14d、線15d、および線16dはオン状態のキャリア濃度を示す。
【0081】
図14図15、および図16において、線14b、線15b、線16b、線14e、線15e、および線16eはリカバリー状態のホール濃度を示す。
【0082】
図14図15、および図16において、線14c、線15c、線16c、線14f、線15f、および線16fはリカバリー状態の電子濃度を示す。
【0083】
図14図15、および図16において、横軸XはN-型基板1の厚み方向の位置である。図14および図15において、X=XはN-型基板1とP型拡散層3の境界、X=XはN-型基板1とN型拡散層2の境界を表す。図16において、X=XはN-型基板1とP型拡散層3の境界、X=XはN-型基板1が厚い場合のN-型基板1とN型拡散層2の境界を示す。
【0084】
図14図15、および図16において、リカバリー状態の各データは、リカバリー過程においてアノード電極4とカソード電極5の間の電圧Vkaがある同じ特定の値となった瞬間のデータである。
【0085】
図14図15、および図16より、以下の(a)、(b)、および(c)の関係がわかる。
【0086】
(a)オン状態での電流密度Jが増加すると、オン状態でのN-型基板1内のキャリア濃度が高くなる。
【0087】
(b)N-型基板1におけるP型キャリアのキャリアライフタイムτが長くなると、オン状態でのN-型基板1内のキャリア濃度が高くなる。
【0088】
(c)N-型基板1の厚みWN-が薄くなると、オン状態でのN-型基板1内のキャリア濃度が高くなる。
【0089】
よって、近似的に、オン状態でのN-型基板1内の平均キャリア濃度nAvgは、オン状態での電流密度J、N-型基板1におけるP型キャリアのキャリアライフタイムτ、およびN-型基板1の厚みWN-を用いて表される。以下の関係式は公知である(例えば、Baliga, B. Jayant, “Fundamentals of Power Semiconductor Devices”, p.212, Springer, 2008を参照)。
【0090】
【数8】
【0091】
次に、状態SにおけるN-型基板1側の空乏層内の電荷密度N’とオン状態でのN-型基板1内の平均キャリア濃度nAvgの関係を求める。状態SにおけるN-型基板1側の空乏層内の電荷密度N’は、数式9のように、4つの成分の和として表される。
【0092】
【数9】
【0093】
ここで、pは状態SにおけるN-型基板1のホール濃度、nは状態SにおけるN-型基板1の電子濃度、NはN-型基板1の不純物濃度である。Rは状態SにおいてN-型基板1でディープレベルに捕捉されている電子とホールからの電荷密度への寄与を表す。Rは、ディープレベルに捕捉されている電子の濃度からディープレベルに捕捉されているホールの濃度を引いたものである。ディープレベルにおける再結合では電子とホールが一対一で再結合するが、その過程においてディープレベルに捕捉されている電子とホールの数は一般に異なるため、ディープレベルに捕捉されている電子とホールとは全体として電荷に寄与する。
【0094】
図14図15、および図16より、p>>Nおよびp>nであることが分かる。よって、数式9は、
【0095】
【数10】
【0096】
となる。
【0097】
図14図15、および図16より、オン状態でのN-型基板1内の平均キャリア濃度nAvgが高くなると、状態SでのN-型基板1側の空乏層内でのキャリア濃度が高くなることが分かる。また、図14図15、および図16よりより、状態SでのN-型基板1側の空乏層内でのキャリアの濃度がオン状態でのN-型基板1内の平均キャリア濃度nAvgに依存することが分かる。
【0098】
N-型基板1内でディープレベルに補足されている電子とホールからの電荷密度への寄与Rは、N-型基板1におけるホールのキャリアライフタイムτに依存する。よって、N’とnAvgの関係は、数式11により近似的に表される。
【0099】
【数11】
【0100】
ここで、α(τ)は経験的に得られる比例係数である。シミュレーション結果に対するフィッティングから、
【0101】
【数12】
【0102】
が得られた。数式12の右辺におけるτは、τをμs単位で表した際の数値である。図17は、シミュレーションにより得られたα(τ)およびフィッティングにより得られた数式12を示す図である。図17においてシミュレーションにより得られたα(τ)は白抜きの三角形により、数式12は実線により示されている。数式12とシミュレーションにより得られたα(τ)のずれは5%以内である。図17では、シミュレーションにより得られたN’およびnAvgも合わせて示されている。
【0103】
数式8および数式12より、数式7は、
【0104】
【数13】
【0105】
【数14】
【0106】
【数15】
【0107】
となる。
【0108】
P型拡散層3の平均不純物濃度N、ドーズ量D、およびP型拡散層3の厚みWは数式16の関係を満たす。
【0109】
【数16】
【0110】
よって、数式16は、数式15を用いて、以下のように変形される。
【0111】
【数17】
【0112】
【数18】
【0113】
【数19】
【0114】
【数20】
【0115】
以上より、リカバリー動作におけるP型拡散層3の完全空乏化を抑制するために、P型拡散層3の厚みWは数式20の関係を満たすことが好ましい。
【0116】
例えば図10、11、および12に示されるように、スイッチング後、Vkaは一時的に電源電圧よりも大きくなる。Vkaが定格電圧を超えないようにするために、半導体装置10を用いる際の電源電圧Vccは定格電圧Vよりも低く設定される。図18は、半導体装置10の定格電圧Vそれぞれに対し、想定される電源電圧Vccの代表的な値を示す図である。例えば、P型拡散層3の厚みWが、数式20の電源電圧Vccに定格電圧Vの0.8倍を代入した条件式を満たしている場合、図18に示される電源電圧Vccを用いた際の半導体装置10のリカバリー動作中におけるP型拡散層3の完全空乏化を抑制できる。P型拡散層3の厚みWが、数式20の電源電圧Vccに定格電圧Vの0.9倍を代入した条件式を満たしている場合、半導体装置10のリカバリー動作中におけるP型拡散層3の完全空乏化をより抑制できる。
【0117】
オン状態における電流密度Jとして例えば定格電流密度Jを用いてもよい。P型拡散層3の完全空乏化はスイッチング直前のオン状態において大電流を流している場合に発生するため、設計上の余裕を確保するため、スイッチング直前のオン状態における電流密度が定格電流密度Jより大きいと想定してもよい。スイッチング直前のオン状態における大電流密度として想定される電流密度Jの代表的な値は例えば定格電流密度Jの2.5倍である。
【0118】
図19は、半導体装置10の定格電圧それぞれに対し、想定される定格電流密度Jの代表的な値とスイッチング直前のオン状態における大電流密度として想定される代表的な値である2.5×定格電流密度Jとを示す図である。
【0119】
スイッチング直前のオン状態における電流密度Jとして、定格電流密度Jの2.5倍の値を想定することで、スイッチング直前のオン状態において大電流が流れていた場合において、P型拡散層3の完全空乏化を抑制できる。スイッチング直前のオン状態における電流密度Jとして、定格電流密度Jの3倍の値を想定することで、P型拡散層3の完全空乏化をより抑制できる。
【0120】
電源電圧Vccとして定格電圧Vの0.8倍、スイッチング直前のオン状態における電流密度Jとして定格電流密度Jの2.5倍を想定した場合、P型拡散層3の厚みWは、
【0121】
【数21】
【0122】
を満たす。これにより、半導体装置10においては、大電流かつ大電圧のリカバリー動作中におけるP型拡散層3の完全空乏化が抑制される。
【0123】
電源電圧Vccとして定格電圧Vの0.9倍、スイッチング直前のオン状態における電流密度Jとして定格電流密度Jの2.5倍を想定した場合、P型拡散層3の厚みWは、
【0124】
【数22】
【0125】
を満たす。
【0126】
電源電圧Vccとして定格電圧Vの0.8倍、スイッチング直前のオン状態における電流密度Jとして定格電流密度Jの3倍を想定した場合、P型拡散層3の厚みWは、
【0127】
【数23】
【0128】
を満たす。
【0129】
電源電圧Vccとして定格電圧Vの0.9倍、スイッチング直前のオン状態における電流密度Jとして定格電流密度Jの3倍を想定した場合、P型拡散層3の厚みWは、
【0130】
【数24】
【0131】
を満たす。
【0132】
大電流かつ大電圧のリカバリー動作中のP型拡散層3の完全空乏化の問題は、低速アプリケーション用(例えば、電力系統用など)の半導体装置よりも、高速アプリケーション用(例えば、電車用など)の半導体装置において起こりやすい。本実施の形態で説明した構成を有する半導体装置10は、高速アプリケーション用であっても、大電流かつ大電圧のリカバリー動作中におけるP型拡散層3の完全空乏化を抑制でき、また、P型拡散層3の当該完全空乏化による半導体装置10の破壊を抑制できる。
【0133】
定格電流密度Jは、半導体装置10の定格電流の値を、半導体装置10の活性領域、つまり電流が流れる領域の平面視での面積で割ることで求められる。半導体装置10がRC-IGBTのようにトランジスタと組み合わされている場合には、ダイオードの順方向の定格電流を、N-型基板1、N型拡散層2およびP型拡散層3を備えるダイオードの活性領域の面積で割ることで、定格電流密度Jが求められる。
【0134】
図20は、半導体装置10の定格電圧それぞれに対し、想定されるN-型基板1の厚みWN-の代表的な値を示す図である。
【0135】
半導体装置10のスイッチング損失を下げるために、P型拡散層3の不純物濃度の最大値は1.0×1017cm-3以下であることが望ましい。よって、P型拡散層3のドーズ量Dは、P型拡散層3の不純物濃度の最大値が1.0×1017cm-3以下となるようなものであることが望ましい。
【0136】
上記の数式21から数式24を導く際には、P型拡散層3における厚み方向のP型不純物濃度は一定であると仮定したため、P型拡散層3の厚み方向に関する不純物濃度分布は、当該仮定から離れすぎないものであることが好ましい。つまり、P型拡散層3bにおけるP型不純物濃度の最低値は、P型拡散層3aの不純物濃度の最大値の1/10以上かつP型拡散層3cの不純物濃度の最大値の1/10以上であることが好ましい。P型拡散層3の厚み方向に関する不純物濃度分布が3つ以上のピークを持つ場合も同様である。つまり、P型拡散層3の領域であってP型拡散層3の厚み方向に関する不純物濃度分布の複数のピークのうち最も第1主面100a側のピークと最も第2主面100b側のピークとに挟まれた領域におけるP型の不純物濃度の最低値は、例えば、P型拡散層3の厚み方向に関する不純物濃度分布の最大値の1/10以上である。
【0137】
<A-4.製造方法>
図23は半導体装置10の製造方法を示すフローチャートである。
【0138】
図7および図8は半導体装置10の製造途中の状態を示す図である。
【0139】
まず、ステップS1において、N-型基板1を準備する。
【0140】
次に、ステップS2において、N-型基板1の第1主面100a側の表層部に1回目のイオン注入を行う(図7を参照)。これにより、N-型基板1に不純物導入領域30が形成される。ステップS2においてN-型基板1に注入されるイオンは例えばボロンである。
【0141】
次に、ステップS3において、N-型基板1の第1主面100a側の表層部に2回目のイオン注入を行う(図8を参照)。これにより、N-型基板1に不純物導入領域31が形成される。ステップS3では、ステップS2のイオン注入でイオンが注入された箇所よりも浅い箇所にイオンを注入する。ステップS3においてN-型基板1に注入されるイオンは例えばボロンである。
【0142】
次に、ステップS4において、熱処理を行い、ステップS2およびステップS3で注入された不純物を活性化させる。これにより、P型拡散層3が形成される(図1を参照)。
【0143】
次に、ステップS5において、アノード電極4を形成する。
【0144】
次に、ステップS6において、イオン注入および熱処理により、N型拡散層2を形成する。
【0145】
次に、ステップS7において、カソード電極5を形成する。
【0146】
以上の工程を経て、図1に示される半導体装置10が得られる。
【0147】
本実施の形態の半導体装置の製造方法では、数式21を満たすようにP型拡散層3の厚みWを定める。ステップS2およびステップS3においては、例えばイオンビームのエネルギーを調整することにより、イオンが注入される深さを調整でき、また、P型拡散層3の厚みを調整できる。
【0148】
ステップS2およびステップS3において注入するイオンの量を調整することにより、P型拡散層3の不純物濃度分布のピークにおける不純物濃度を調整できる。
【0149】
以上説明したように、本実施の形態の半導体装置の製造方法では、オン状態におけるN-型基板1内の平均キャリア濃度nAvgと、リカバリー過程におけるN-型基板1のうちN-型基板1とP型拡散層3との境界部分の空乏層内の電荷濃度と、の関係を求め、当該関係に基づいてP型拡散層3の厚さを定める。
【0150】
<B.実施の形態2>
図2は実施の形態2の半導体装置10bを示す。
【0151】
半導体装置10bにおいては、P型拡散層3aの不純物濃度は面内方向の位置によって異なる。半導体装置10bはその他の点では実施の形態1の半導体装置10と同様である。
【0152】
半導体装置10bにおいては、P型拡散層3aは、P型拡散層3a1とP型拡散層3a2を備える。P型拡散層3a1のP型不純物濃度はP型拡散層3a2のP型不純物濃度よりも高い。また、P型拡散層3a2のP型不純物濃度はP型拡散層3bのP型不純物濃度よりも高い。P型拡散層3a2における不純物濃度の最大値は1.0E17cm-3以下である。
【0153】
P型拡散層3a1とP型拡散層3a2とは、例えば、図2に示されるように面内の一方向に関して交互に配置されている。P型拡散層3a1とP型拡散層3a2とは、例えば、面内の一方向に交互に一定の周期で配置される。P型拡散層3a1とP型拡散層3a2とが当該面内の一方向と交差する方向に延在していてもよいし、当該面内の一方向と交差する方向に関してもP型拡散層3a1とP型拡散層3a2とが交互に位置するようにP型拡散層3a1とP型拡散層3a2とが配置されていてもよい。
【0154】
P型拡散層3の厚み方向の不純物濃度分布が3つ以上のピークを持つ場合も同様である。P型拡散層3の厚み方向の不純物濃度分布の複数のピークのうち、最も第1主面100a側のピークにおけるP型不純物濃度は、面内方向によって異なる。P型拡散層3の厚み方向の不純物濃度分布の複数のピークのうち、最も第1主面100a側のピークにおけるP型不純物濃度は、例えば、面内の一方向に交互に配置される。P型拡散層3の厚み方向の不純物濃度分布の複数のピークのうち、最も第1主面100a側のピークにおけるP型不純物濃度は、例えば、面内の一方向に関して交互に一定の周期で配置される。
【0155】
P型拡散層3aの不純物濃度が面内方向の位置によって異なることで、P型拡散層3aとアノード電極4の抵抗を抑え、かつオン状態でのP型拡散層3からN-型基板1へのホールの流入を抑制することができる。N-型基板1へのホールの流入を抑制することで、リカバリー損失を低減できる。
【0156】
上記の<比較例>で説明したように、比較例の半導体装置10z1のP型拡散層3z1または半導体装置10z2のP型拡散層3z2の不純物濃度を面内方向の位置によって変化させた場合、不純物濃度が低い位置でP型拡散層3z1またはP型拡散層3z2の完全空乏化が起こり半導体装置が破壊される恐れがある。本実施の形態では、P型拡散層3の厚み方向の不純物濃度分布が複数のピークを持ち、当該複数のピークのうち、最も第1主面100a側のピークにおけるP型不純物濃度が面内方向によって異なることで、大電流かつ大電圧のリカバリー動作中におけるP型拡散層3の完全空乏化およびそれによる半導体装置の破壊が抑制される。
【0157】
また、P型拡散層3の厚み方向の不純物濃度分布が複数のピークを持つことで、P型拡散層3aにおける面内方向の不純物濃度の勾配が、P型拡散層3aのうちN-型基板1側部分において緩和され、ダイナミックアバランシェによる半導体装置10bの破壊が抑制される。
【0158】
なお、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0159】
1 型基板、2 N型拡散層、3,3a,3a1,3a2,3b,3c,3z1,3z2 P型拡散層、4 アノード電極、5 カソード電極、6 PN接合部、7 ライフタイムキラー、10,10b,10z1,10z2 半導体装置、30,31 不純物導入領域、100 半導体基体、100a 第1主面、100b 第2主面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23