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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】試験用音響模擬装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/52 20060101AFI20240920BHJP
   G01S 15/87 20060101ALI20240920BHJP
   G01S 15/46 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01S7/52 U
G01S15/87
G01S15/46
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021183925
(22)【出願日】2021-11-11
(65)【公開番号】P2023071267
(43)【公開日】2023-05-23
【審査請求日】2023-03-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、防衛省、請負事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390011095
【氏名又は名称】ジェイ・アール・シー特機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛装備庁長官
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石前 浩蔵
(72)【発明者】
【氏名】杉本 誠
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英史
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 諒
(72)【発明者】
【氏名】中田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】松下 幸治
(72)【発明者】
【氏名】石田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】黒川 高行
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝嗣
(72)【発明者】
【氏名】上杉 昌之
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】工藤 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】小倉 潤
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-014839(JP,A)
【文献】特開2021-139786(JP,A)
【文献】特開平10-170638(JP,A)
【文献】特開平08-160134(JP,A)
【文献】特表2010-503908(JP,A)
【文献】米国特許第04972379(US,A)
【文献】中国特許出願公開第111181657(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載される試験用音響模擬装置において、
複数の他船舶のそれぞれに搭載されたソーナーから送信され、水中を伝搬する超音波を受信する受波器と、
前記受波器で受信された超音波に対する擬似反射超音波を水中に送信する送波器と、を備え、
複数の前記他船舶のうちの少なくとも1つに搭載された前記ソーナーが、自らが取得した評価データと、人工衛星を介して他の前記他船舶から取得した前記評価データとに基づいて、前記試験用音響模擬装置についての測位をし、
前記評価データは、
前記他船舶に搭載された前記ソーナーで前記擬似反射超音波が受信された時刻、および前記他船舶に搭載された測位受信機によって取得された前記他船舶の位置情報を少なくとも含むデータであり、
前記試験用音響模擬装置は、さらに、
複数の前記他船舶のうちの少なくとも1つに搭載された前記ソーナーで取得された前記試験用音響模擬装置についての測位結果を、前記人工衛星を介して受信する衛星通信装置と、
自らについての測位をする第2の測位受信機と、
複数の前記他船舶のうちの少なくとも1つに搭載された前記ソーナーで取得された前記試験用音響模擬装置についての測位結果と、前記第2の測位受信機による測位結果とを表示する表示装置と、を備えることを特徴とする試験用音響模擬装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試験用音響模擬装置において、
前記衛星通信装置は、
前記人工衛星との間で通信を行い、地上通信回線に接続されたコンピュータに通信接続され、
試験海域に関する試験海域情報を、前記地上通信回線に接続された情報源サーバから、前記コンピュータおよび前記人工衛星を介して取得し、
前記試験用音響模擬装置は、前記試験海域情報を海図上に表示することを特徴とする試験用音響模擬装置。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載の試験用音響模擬装置において、
前記受波器で受信された超音波を解析し、受信超音波プロファイルを含む自船舶評価データを生成する信号処理部を備え、
前記衛星通信装置は、
前記自船舶評価データを、前記人工衛星を介して管理コンピュータまたは前記他船舶に送信することを特徴とする試験用音響模擬装置。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の試験用音響模擬装置において、
前記他船舶に関する情報を受信するAIS受信機を備え、
前記他船舶に関する情報に基づいて、前記受波器で受信される雑音を解析する雑音解析部を備え、
前記雑音に関する情報を表示することを特徴とする試験用音響模擬装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験用音響模擬装置に関し、特に、超音波が伝搬する環境を評価するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水中に超音波を送信し、目標物で反射した超音波を受信することで、その目標物を検出するソーナーが広く用いられている。ソーナーは船舶に搭載され、他の船舶や潜水船を検出する用途で用いられることが多い。
【0003】
ソーナーの性能を評価するためには性能評価装置が用いられる。性能評価装置は、船舶に曳航される移動体に搭載される。ソーナーは、性能評価装置に向けて超音波を送信する。性能評価装置は、ソーナーから送信された超音波を受信したときに、反射波を模した擬似反射超音波を送信する。ソーナーは擬似反射超音波を受信し、目標物を検出する処理と同様の処理を擬似反射超音波に対して実行する。ソーナーの保守点検を行う者は、擬似反射超音波に対して実行された処理の結果に基づいて、ソーナーの性能を評価する。例えば、擬似反射超音波を受信することで、予め定められた位置に性能評価装置が検出された場合には、ソーナーによる目標物検出性能が十分であると判断される。
【0004】
以下の特許文献1には、本発明に関連する装置として超音波水中レスポンダが記載されている。この超音波水中レスポンダは、船舶から送信された超音波を受信し、対応する超音波を送信するものであり、船舶の測位に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平04-29081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、目標物で反射した超音波を複数の船舶で受信することで、目標物の検出確率および位置検出精度を高めたソーナーシステムが用いられている。複数の船舶で受信された超音波に関するデータは、人工衛星を利用した無線通信によって各船舶または特定の船舶に送信される。データを受信した船舶ではデータに対する解析が行われ、目標物の位置等が求められる。このようなソーナーシステムにおいても上述の性能評価装置が用いられる。
【0007】
ソーナーシステムにおいて性能評価装置が用いられる場合、1つの船舶が、性能評価装置を搭載した船舶に向けて超音波を送信する。それに応じて性能評価装置から送信された擬似反射超音波が複数の船舶で受信される。擬似反射超音波に関するデータは、人工衛星を利用した無線通信によって各船舶または特定の船舶に送信され、目標物を検出する性能が評価される。
【0008】
ところで、各船舶で受信される擬似反射超音波の大きさが十分でない等、受信超音波の特性に問題がある場合、ソーナーシステムの性能評価を行うことが困難となる。すなわち、ソーナーシステムの性能そのものに問題があるのか、擬似反射超音波が伝搬する環境等に問題があるのかの判断が保守点検を行う者にとって困難となる。したがって、ソーナーシステムの性能評価に際しては、超音波の伝搬環境を併せて評価することが望まれる。
【0009】
本発明は、水中の超音波の伝搬環境を評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、船舶に搭載される試験用音響模擬装置において、複数の他船舶のそれぞれに搭載されたソーナーから送信され、水中を伝搬する超音波を受信する受波器と、前記受波器で受信された超音波に対する擬似反射超音波を水中に送信する送波器と、を備え、複数の前記他船舶のうちの少なくとも1つに搭載された前記ソーナーが、自らが取得した評価データと、人工衛星を介して他の前記他船舶から取得した前記評価データとに基づいて、前記試験用音響模擬装置についての測位をし、前記評価データは、前記他船舶に搭載された前記ソーナーで前記擬似反射超音波が受信された時刻、および前記他船舶に搭載された測位受信機によって取得された前記他船舶の位置情報を少なくとも含むデータであり、前記試験用音響模擬装置は、さらに、複数の前記他船舶のうちの少なくとも1つに搭載された前記ソーナーで取得された前記試験用音響模擬装置についての測位結果を、前記人工衛星を介して受信する衛星通信装置と、自らについての測位をする第2の測位受信機と、複数の前記他船舶のうちの少なくとも1つに搭載された前記ソーナーで取得された前記試験用音響模擬装置についての測位結果と、前記第2の測位受信機による測位結果とを表示する表示装置と、を備えることを特徴とする。
【0012】
望ましくは、前記衛星通信装置は、前記人工衛星との間で通信を行い、地上通信回線に接続されたコンピュータに通信接続され、試験海域に関する試験海域情報を、前記地上通信回線に接続された情報源サーバから、前記コンピュータおよび前記人工星を介して取得し、前記試験用音響模擬装置は、前記試験海域情報を海図上に表示する。
【0013】
望ましくは、前記受波器で受信された超音波を解析し、受信超音波プロファイルを含む自船舶評価データを生成する信号処理部を備え、前記衛星通信装置は、前記自船舶評価データを、前記人工衛星を介して管理コンピュータまたは前記他船舶に送信する。
【0014】
望ましくは、前記他船舶に関する情報を受信するAIS受信機を備え、前記他船舶に関する情報に基づいて、前記受波器で受信される雑音を解析する雑音解析部を備え、前記雑音に関する情報を表示する。
【0015】
また、本発明の関連技術は、水中を伝搬する超音波を受信し受信信号を出力する受波器と、信号処理部であって、前記受信信号をサンプリングするサンプリング部と、前記サンプリング部から時間経過と共に順次出力されるサンプル値を順次記憶する演算メモリと、前記演算メモリから読み出されたサンプル値群と、基準サンプル値群との相関演算を実行し相関値を求める相関演算部と、を備える信号処理部と、前記相関値が所定条件を満たしたときに、擬似反射超音波を水中に送信する送波器と、を備え、前記信号処理部は、再構成可能集積回路を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】マルチソーナーシステムの構成を示す図である。
図2】性能評価を行うときのマルチソーナーシステムの構成を示す図である。
図3】試験用音響模擬装置の構成を示す図である。
図4】擬似反射機能を実現する構成を示す図である。
図5】信号処理部、演算メモリ、相関演算部および基準信号メモリの具体的な構成を示す図である。
図6】サンプリング部の機能ブロックを示す図である。
図7】擬似反射超音波のサンプル値が生成される過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)マルチソーナーシステムの構成
図1には本発明の基本となる技術に係るマルチソーナーシステムの構成が示されている。マルチソーナーシステムは、複数の船舶10-1~10-4のそれぞれに搭載されたソーナー1~4、および無線通信機15を備えている。無線通信機15は、例えば、人工衛星に搭載されたものであってよい。
【0018】
マルチソーナーシステムによって目標物12を検出する処理について説明する。複数の船舶のうちの1つである船舶10-1に搭載されたソーナー1は、超音波18を送信する。超音波18は潜水船等の目標物12で反射する。反射超音波20は、船舶10-1~10-4のそれぞれに搭載されたソーナー1~4で受信される。各ソーナー1~4は、例えば、超音波が受信された時刻、受信された超音波(受信超音波)の大きさ、受信超音波が到来した方位、受信超音波のS/N比(雑音の大きさに対する受信超音波の大きさの比率)、受信超音波の時間波形等を測定する。
【0019】
各ソーナー1~4はGPS受信機(Global Positioning System)を備えており、搭載先の船舶の位置情報を取得する。各ソーナー1~4は、超音波が受信された時刻(超音波受信時刻)、位置情報および超音波到来方位を含む評価データを生成する。ソーナー2~4は、評価データを無線通信機15に送信する。無線通信機15は、ソーナー2~4のそれぞれから送信された評価データを受信し、各評価データをソーナー1に送信する。
【0020】
ソーナー1は、情報集計装置としての機能を有する。すなわち、ソーナー1は、ソーナー2~4のそれぞれから送信された評価データから、超音波受信時刻、および船舶の位置情報を抽出する。ソーナー1は、自らの超音波受信時刻および位置情報と、各評価データから抽出した超音波受信時刻および位置情報に基づいて目標物12の位置を測定する。
【0021】
なお、ソーナー2~4は、受信超音波の時間波形、大きさ、S/N比等を示す受信超音波プロファイルを評価データに含ませてもよい。この場合、ソーナー1は、ソーナー2~4のそれぞれから送信された評価データから受信超音波プロファイルを抽出し、自船舶についての受信超音波プロファイルと共に自らの表示装置に表示してもよい。この場合、ソーナー1における操作者は、各ソーナー1~4で生成された受信超音波プロファイルを参照することで、ソーナーシステムの性能を評価する。
【0022】
図2には、本発明の実施形態に係るマルチソーナーシステムの構成が示されている。本実施形態に係るマルチソーナーシステムは、図1に示されたシステムにソーナーの性能評価のための、その他の機能を追加したものである。図2には、性能評価が行われる場合の船舶の配置が示されている。この例では、図1において目標物12があった位置の水上に評価用船舶10-5が配置されている。評価用船舶10-5には本発明の実施形態に係る試験用音響模擬装置5が搭載されている。
【0023】
また、マルチソーナーシステムは、人工衛星16、および地上に設置された地上通信回線14を備えている。地上通信回線14は、インターネット等、複数のコンピュータ(サーバ)によって構成される通信回線であってよい。人工衛星16は、試験用音響模擬装置5およびソーナー1~4のそれぞれとの間で無線通信を行うと共に、地上通信回線14に接続された管理コンピュータ17との間で通信を行う。これによって、人工衛星16は、試験用音響模擬装置5およびソーナー1~4を地上通信回線14に接続された管理コンピュータ17に接続する。試験用音響模擬装置5およびソーナー1~4は、人工衛星16を介して地上通信回線14に接続された管理コンピュータ17に接続され、相互に情報を共有する。
【0024】
マルチソーナーシステムの性能評価について説明する。複数の船舶のうちの1つである船舶10-1に搭載されたソーナー1は超音波18を送信する。評価用船舶10-5に搭載された試験用音響模擬装置5は、超音波を受信すると、擬似反射超音波22を送信する。擬似反射超音波22は、船舶10-1~10-4のそれぞれに搭載されたソーナー1~4で受信される。
【0025】
図1を参照して説明したように、ソーナー1~4のそれぞれは、目標物を検出する場合の処理と同様の処理を擬似反射超音波22に対して実行する。これによって、ソーナー1は、評価用船舶10-5の位置を測定する。
【0026】
ソーナー1は、評価用船舶10-5についての測位結果を、人工衛星16および地上通信回線14を介して試験用音響模擬装置5に送信する。評価用船舶10-5に搭乗したソーナー評価者は、ソーナー1で求められた評価用船舶10-5の位置に基づいて、ソーナーシステムの性能を評価する。すなわち、ソーナー1で求められた評価用船舶10-5の位置が、試験用音響模擬装置5に搭載されたGPS受信機で計測された位置に一致した場合あるいは誤差範囲内の位置である場合には、ソーナーシステムによる性能が十分であると評価される。試験用音響模擬装置5によって、マルチソーナーシステムが目標物の位置を求める精度等が評価され得る。
【0027】
同様の処理によって、ソーナー2~4は評価用船舶10-5の位置を測定してよい。この場合、ソーナー2~4は、評価用船舶10-5についての測位結果を、人工衛星16および地上通信回線14を介して試験用音響模擬装置5に送信する。評価用船舶10-5に搭乗したソーナー評価者は、各ソーナーで求められた評価用船舶10-5の位置に基づいて、ソーナーシステムの性能を評価する。
【0028】
ソーナー1~4は、それぞれにおいて受信された超音波についての評価データを、人工衛星16を介して地上通信回線14に接続された管理コンピュータ17に送信する。これによって、試験用音響模擬装置5およびソーナー1~4は、ソーナー1~4で受信された超音波についての評価データを地上通信回線14に接続された管理コンピュータ17を介して共有する。試験用音響模擬装置5およびソーナー1~4は、人工衛星16および地上通信回線14を介して、管理コンピュータ17が記憶する評価データ等の情報を取得してよい。なお、試験用音響模擬装置5およびソーナー1~4は、管理コンピュータ17を介さずに人工衛星16を介して直接通信し、評価データ等の情報を相互に共有してもよい。
【0029】
(2)試験用音響模擬装置の構成
図3には、船舶に搭載される試験用音響模擬装置の構成が示されている。試験用音響模擬装置は、船舶24に搭載される船上装置100と、曳航体26に搭載される曳航部102とを備えている。
【0030】
曳航体26は、船舶24によって曳航される移動体である。曳航体26は、ワイヤ等によって船舶24に結合されており、水上に浮遊しまたは水中に吊り下げられる。
【0031】
船上装置100は、信号処理部28、GPS受信機30、AIS受信機32(Automatic Identification System)、衛星通信装置34、海図表示装置36および水上センサ群40を備えている。
【0032】
海図表示装置36は、海図画像に船舶の位置を表示する装置であり、ECDIS(Electronic Chart Display and Information System)とも称される。海図表示装置36は、海図に限らず、テキストデータ等の一般的な情報を表示してもよい。GPS受信機30は、測位衛星から送信された測位信号を受信し、搭載先の船舶(自船舶)の位置情報を求め海図表示装置36に出力する。AIS受信機32は、他船舶から送信された他船舶情報を随時受信し海図表示装置36に出力する。また、AIS受信機32は自船舶情報を随時送信する。他船舶情報および自船舶情報には、船舶のID、位置情報、航行速度、航行方向、大きさ(排水量)、重量等が含まれる。
【0033】
衛星通信装置34は人工衛星16との間で通信を行い、地上通信回線14に接続された管理コンピュータ17に海図表示装置36を通信接続する。
【0034】
水上センサ群40は、温度センサ、湿度センサ、風向センサ、風速センサ等を含んでよく、船舶24における温度、湿度、風向、風速等を検出してよい。各センサは、検出値を信号処理部28に出力する。
【0035】
曳航部102は、受波器42、送波器44および水中センサ群46を備える。受波器42は試験用音響模擬装置に到来した超音波を受信し、受信信号を信号処理部28に出力する。送波器44は、信号処理部28から出力された送信信号に基づいて擬似反射超音波を送信する。
【0036】
水中センサ群46は圧力センサ等を備え、船舶24下方または周辺の水圧を検出する。水中センサ群46に含まれる各センサは、検出値を信号処理部28に出力する。
【0037】
(3)試験用音響模擬装置の構成および動作
ソーナーシステムの性能評価を行うときにおける試験用音響模擬装置の動作について説明する。受波器42は超音波を受信すると、受信超音波に基づく受信信号を信号処理部28に出力する。信号処理部28は、受波器42から受信信号が出力されたことに応じて送信信号を生成し、送波器44に出力する。送波器44は、送信信号に基づく擬似反射超音波を送信する。
【0038】
また、信号処理部28は、受信信号に対する解析を行って、上述のように定義された評価データ(自船舶評価データ)を生成し、海図表示装置36に出力する。信号処理部28は、水上センサ群40および水中センサ群46から各検出値を取得し、海図表示装置36に出力する。
【0039】
海図表示装置36は、他船舶から発せられ受波器42で受信される雑音の大きさを算出してもよい。一般に、他船舶から自船舶に到来する雑音の大きさは、自船舶の位置、他船舶の位置、他船舶の排水量、および他船舶の航行速度によって求められる。海図表示装置36は、AIS受信機32およびGPS受信機30によって取得された他船舶情報および自らの位置情報に基づいて、自船舶の位置、他船舶の位置、排水量、および他船舶の航行速度を取得し、受波器42で受信される雑音の大きさを算出してよい。このように、海図表示装置36は、他船舶に関する情報に基づいて、受波器42で受信される雑音を解析する雑音解析部38を備えている。
【0040】
衛星通信装置34は、人工衛星16を介して、地上通信回線14に接続された情報源サーバから試験海域の温度、海面温度、海象、風浪等についての試験海域情報を取得し、海図表示装置36に出力する。ここで情報源サーバは、試験海域情報をデータベースとして有するインターネットサーバであってよい。
【0041】
海図表示装置36は、自船解析データを生成する。自船解析データには、水上センサ群40による各検出値、海図表示装置36が求めた他船舶から到来する雑音の大きさ、風浪による雑音の大きさ、自船で受信された超音波に対する評価データ、自船舶の位置情報等が含まれてよい。
【0042】
衛星通信装置34は、図1に示された人工衛星16との間で通信を行い、地上通信回線14に接続された管理コンピュータ17に海図表示装置36を通信接続する。これによって、海図表示装置36は、ソーナー1~4で取得された評価データ、他の船舶におけるソーナーで測定された船舶24の位置情報を、地上通信回線14に接続された管理コンピュータ17から取得する。また、海図表示装置36は、自船解析データを管理コンピュータ17に送信し、ソーナー1~4と共に、管理コンピュータ17において自船解析データを参照可能としてよい。
【0043】
海図表示装置36は、操作者の操作に応じて、信号処理部28、GPS受信機30、AIS受信機32および衛星通信装置34から出力された情報を表示する。例えば、海図上に各船舶の位置、各船舶において取得された評価データ、各船舶において取得された評価データによって求められる船舶24の測位結果等のうち少なくともがいずれか海図表示装置36に表示されてもよい。さらに、地上通信回線14に接続された管理コンピュータ17から取得された試験海域の温度、海面温度、海象、風浪等についての情報が表示されてよい。また、海図表示装置36は、自船解析データ等、自らが生成した情報を表示してもよい。
【0044】
なお、マルチソーナーシステムにおける管理コンピュータは、地上通信回線14に接続されたコンピュータの他、複数の船舶のいずれかに搭載された船舶搭載コンピュータであってもよい。この場合、試験用音響模擬装置における衛星通信装置34は、人工衛星16との間で通信を行い、船舶搭載コンピュータを搭載した船舶の衛星通信装置との間で通信を行う。試験用音響模擬装置における衛星通信装置34は、人工衛星16との間の通信を介して、管理コンピュータとしての船舶搭載コンピュータに海図表示装置36を通信接続する。
【0045】
(4)効果
本実施形態に係る試験用音響模擬装置によれば、他の船舶から送信された評価データに含まれる評価情報が海図表示装置36に表示される。これによって、各船舶で受信される擬似反射超音波の大きさが十分でない等、受信超音波の特性に問題がある場合における判断が保守点検を行う者にとって容易となる。すなわち、ソーナーシステムの性能そのものに問題があるのか、擬似反射超音波が伝搬する環境等に問題があるのかの判断が容易となる。
【0046】
例えば、各船舶が存在する水域の水温分布を海図表示装置36に表示することで、次のような効果が得られる。一般に、水中の超音波の伝搬速度は、水温が高いほど速く、水深が深いほど速い。水面付近では、超音波の伝搬速度を定める要素は、水深よりも水温の方が支配的である。水面付近では、水深が深いほど水温が低くなるため、深いほど伝搬速度が遅くなる。
【0047】
一方、ある程度の水深を超えると水温は一定となるため、超音波の伝搬速度を定める要素は水深が支配的となる。ある程度の水深を超えた領域では、深いほど伝搬速度が速くなる。
【0048】
したがって、超音波の伝搬速度は、水面から深い方向に向かうにつれて遅くなってある程度の水深となったところで極小値となり、さらに深い領域に向かうにつれて速くなる。超音波には、伝搬速度が遅くなる領域に向かって屈折する性質がある。そのため、超音波は、伝搬速度が極小値となる領域付近に形成されるダクト領域を上下に屈折しながら伝搬する。
【0049】
ところが、水温が極端に高い場合には、超音波が鉛直に水底に向かってしまいダクト領域が形成されず、長距離の伝搬が不可能となる場合がある。このようなシャドウゾーンの発生は、ソーナーシステムの動作に影響を及ぼす。
【0050】
本実施形態に係る超音波評価装置によって、各船舶が存在する水域の水温分布を表示することで、シャドウゾーンが発生する可能性がある水域が操作者に示される。
【0051】
また、各船舶で受信された擬似反射超音波のS/N比と、他船舶に到来する雑音の大きさが表示された場合には、表示されたS/N比が、ソーナーシステムの性能を示すのか、他船舶からの雑音の影響を受けたものであるのかの判断が操作者にとって容易となる。
【0052】
(5)応用実施形態
図4には、信号処理部28について、受波器42から受信信号が出力されてから、送波器44に送信信号が出力されるまでの擬似反射機能を示すブロック図が示されている。信号処理部28は、サンプリング部50、演算メモリ52、基準信号メモリ54、相関演算部56、および送信信号生成部58を備えている。信号処理部28はプロセッサを用いて構成されてもよい。この場合、プログラムを実行することで、サンプリング部50、相関演算部56、および送信信号生成部58の各機能が実現される。演算メモリ52および基準信号メモリ54は、プロセッサとは別に設けられたメモリであってよい。
【0053】
信号処理部28を構成するプロセッサには、FPGA(field-programmable gate array)、リアルタイムプロセッサ等、製造後にユーザが回路構成を設定できる再構成可能集積回路が用いられてよい。この場合、LabVIEW(登録商標)等、グラフィック型言語によって回路設計を行うことが可能な開発環境を実現するコンピュータシステムが導入されてよい。これによって、集積回路と入出インターフェースの両方を搭載したハードウェアを採用することが可能となり、基板等を最初から設計しなくてもよく、開発時間が短縮される。また、LabVIEWが導入された場合には、複数の開発環境下での設計手法を技術者が習得する必要がないため、開発期間が短縮される。
【0054】
サンプリング部50は、受波器42から出力された受信信号を所定のサンプリング時間間隔(サンプリング周期)でサンプリングし、1サンプリング周期が経過するごとに1つの受信サンプル値を演算メモリ52に出力する。演算メモリ52には、最大N個の受信サンプル値が記憶される。ただし、Nは記憶個数を示す正の整数である。演算メモリ52が記憶する受信サンプル値の個数がN個に満たないときは、演算メモリ52は、サンプリング部50が時間経過と共に順次出力する受信サンプル値を順次記憶する。演算メモリ52が記憶する受信サンプル値の個数がN個となったときは、演算メモリ52は、最も先に記憶された1つの受信サンプル値を削除した上で、受波器42から新たに出力された1つの受信サンプル値を記憶する。
【0055】
すなわち、演算メモリ52は、第N番目の記憶領域に記憶されていた受信サンプル値を削除して、第N-1番目の記憶領域に記憶されていた受信サンプル値を第N番目の記憶領域に記憶させる。また、演算メモリ52は、第N-2番目の記憶領域に記憶されていた受信サンプル値を第N-1番目の記憶領域に記憶させる。・・・・・演算メモリ52は、第1番目の記憶領域に記憶されていた受信サンプル値を第2番目の記憶領域に記憶させ、新たに受波器42から出力された受信サンプル値を第1番目の記憶領域に記憶させる。
【0056】
相関演算部56は、演算メモリ52からN個の受信サンプル値からなる受信サンプル値群を読み出す。また、相関演算部56は、基準信号メモリ54からN個の基準サンプル値からなる基準サンプル値群を読み出す。基準サンプル値群は、基準信号がサンプリング時間間隔でN個にサンプリングされたものである。
【0057】
相関演算部56は、受信サンプル値群と基準サンプル値群との相関演算を実行して相関値を求め、送信信号生成部58に出力する。送信信号生成部58は、相関値が所定の閾値を超えたときは送信信号を生成し、送信信号を送波器44に出力する。送波器44は、送信信号に基づく擬似反射超音波を水中に送信する。
【0058】
従来の相関演算では、予めメモリに記憶されたサンプル値は、他の別のメモリに移し換えて記憶された上で、当該他の別のメモリにおいて新たなサンプル値が追加され、他の別のメモリから相関演算のためにサンプル値群が読み出されることが一般的であった。そのため、一旦メモリに記憶されたサンプル値群を他のメモリに移し換えて記憶させる処理に長時間を要していた。
【0059】
本実施形態に係る演算メモリ52では、記憶された受信サンプル値の個数がN個となったときは、最も先に記憶された1つの受信サンプル値が削除された上で、サンプリング部50から新たに出力された1つの受信サンプル値が記憶される。これによって、先に記憶されたサンプル値群を別のメモリに記憶し換える必要がなく、相関値を求める処理が迅速となる。したがって、評価用の超音波を受信してから擬似反射超音波を送信するまでの処理が迅速に行われる。
【0060】
図5には、演算メモリ52、相関演算部56、および基準信号メモリ54の具体的な構成が示されている。図3に示されている構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0061】
演算メモリ52は、4つの部分演算メモリ521~524に分割されている。部分演算メモリ521~524は並列に処理を実行する。部分演算メモリ521~524は、別々のプロセッサによって構成されてもよい。演算メモリ52には、4の倍数N=4k個の受信サンプル値が記憶される。部分演算メモリ524には、最も先に記憶された受信サンプル値~第k番目に記憶された受信サンプル値が記憶される。部分演算メモリ523には、第k+1番目~第2k番目に記憶された受信サンプル値が記憶される。部分演算メモリ522には、第2k+1番目~第3k番目に記憶された受信サンプル値が記憶される。部分演算メモリ521には、第3k+1番目~第4k番目に記憶された受信サンプル値が記憶される。
【0062】
基準信号メモリ54は、4つの部分基準メモリ541~544に分割されている。部分基準メモリ544には、最も先の時刻の基準サンプル値~第k番目の時刻の基準サンプル値が記憶される。部分基準メモリ543には、第k+1番目~第2k番目の時刻の基準サンプル値が記憶される。部分基準メモリ542には、第2k+1番目~第3k番目の時刻の基準サンプル値が記憶される。部分基準メモリ541には、第3k+1番目~第4k番目の時刻の基準サンプル値が記憶される。
【0063】
相関演算部56は、4つの部分演算部561~564を備える。部分演算部56iは、部分演算メモリ52iに記憶されている受信サンプル値群(部分サンプル値群)と、部分基準メモリ54iに記憶されている基準サンプル値群(部分基準サンプル値群)との部分相関値Ciを求める。ただし、iは1~4の整数である。相関演算部56は、部分演算部561~564によって求められた部分相関値C1~C4を合成して最終的な相関値を求め、送信信号生成部58に出力する。部分演算部561~564によって求められた部分相関値C1~C4を合成する処理には、部分相関値C1~C4を加算合計する処理、部分相関値C1~C4の相乗平均値を求める処理、部分相関値C1~C4の加算平均値を求める処理等がある。
【0064】
本実施形態では、部分演算メモリ521~524が並列に処理を実行するため、相関値が迅速に求められる。なお、ここでは、演算メモリ52、基準信号メモリ54および相関演算部56のそれぞれが4つに分割された実施形態が示された。演算メモリ52、基準信号メモリ54および相関演算部56は、任意の個数に分割されてよい。
【0065】
このように、本実施形態に係る試験用音響模擬装置は、水中を伝搬する超音波を受信し受信信号を出力する受波器42と、受信信号に対する相関処理によって相関値を求める信号処理部28と、相関値が所定条件を満たしたときに、擬似反射超音波を水中に送信する送波器44と、を備え、信号処理部28は、受信信号をサンプリングするサンプリング部50と、サンプリング部50から時間経過と共に順次出力されるサンプル値を順次記憶する演算メモリ52と、演算メモリ52から読み出されたサンプル値群と、基準サンプル値群との相関演算を実行し相関値を求める相関演算部56と、を備えることを特徴とする。
【0066】
望ましくは、演算メモリ52は、予め定められた記憶個数のサンプル値を記憶し、当該記憶個数のサンプル値が記憶されているときに、新たなサンプル値がサンプリング部50から出力されたときは、最も先に記憶されたサンプル値を削除して、当該新たなサンプル値を記憶する。
【0067】
望ましくは、相関演算部56は、演算メモリ52に記憶されたサンプル値群を分割して得られる複数の部分サンプル値群と、基準サンプル値群を分割して得られる複数の部分基準サンプル値群と、に対応して設けられた複数の部分演算部(561~564)を備え、各部分演算部(561~564)は、自らに対応する部分サンプル値群と、自らに対応する部分基準サンプル値群との相関演算を実行して部分相関値を求め、相関演算部56は、複数の部分演算部(561~564)によって求められた複数の部分相関値を合成して、相関値を求める。
【0068】
望ましくは、信号処理部28は船舶に搭載され、受波器42および送波器44は、船舶に曳航される曳航体26に搭載される。
【0069】
試験用音響模擬装置は、目標物が移動しているときの反射超音波を模した擬似反射超音波を送信する機能を有している。目標物が移動しているときの実際の反射超音波は、ドプラ効果によって、ソーナーが送信する超音波に対して周波数がシフトしている。そこで、試験用音響模擬装置は、自らがあたかも所定の速度で移動しているかのように周波数が変化した擬似反射超音波を送信する。
【0070】
ソーナーの性能評価では、低速で移動する目標物に対する検出性能を評価することがある。低速で移動する目標物を想定した場合、擬似反射超音波の周波数を変化させる幅(擬似的なドプラシフト周波数)が非常に小さくなってしまい、試験用音響模擬装置を構成することが困難となる場合があった。
【0071】
そこで、試験用音響模擬装置は、次のような処理によって擬似反射超音波を生成する。すなわち、試験用音響模擬装置は、受信信号を第1時間間隔でサンプリングし、これによって得られたサンプル値が第1時間間隔で時間軸上に配列された第1サンプル値群を評価データの生成等の受信信号の解析に用いる。試験用音響模擬装置は、これとは別に、受信信号を第1時間間隔とは異なる第2時間間隔でサンプリングし、これによって得られたサンプル値が第1時間間隔で時間軸上に配列された第2サンプル値群を生成する。試験用音響模擬装置は、第2サンプル値群に対して補間処理を施して送信信号を生成し、この送信信号に基づいて擬似反射超音波を送信する。
【0072】
図6には、サンプリング部50の機能ブロックが示されている。サンプリング部50は、第1サンプリング部501および第2サンプリング部502を備えている。第1サンプリング部501は、受波器42から出力された受信信号を所定の第1時間間隔T1でサンプリングし、基本サンプリング周期が経過するごとに1つの受信サンプル値を演算メモリ52、あるいは受信信号の解析を行う構成要素に出力する。
【0073】
第1サンプリング部501から第2サンプリング部502には、時間経過と共に順次、上記の受信サンプル値が出力される。第2サンプリング部502は、第1サンプリング部501から出力された受信サンプル値に基づいて、受信信号を第2時間間隔T2でサンプリングしたリサンプル値を生成する。例えば、第2サンプリング部502は、時系列で連なる受信サンプル値を補間してアナログ信号を生成し、そのアナログ信号を第2時間間隔T2でサンプリングすることで時系列で連なるリサンプル値を生成する。
【0074】
第2時間間隔T2は、擬似反射超音波に擬似的に発生させるドプラシフト周波数fsに応じて第1時間間隔T1を変化させたものである。第2時間間隔T2は、受信超音波の周波数f1、第1時間間隔T1、および指定ドプラシフト周波数fsによって次のように表される。
【0075】
(数1)T2=T1・(1+fs/f1)
【0076】
なお、サンプリング前の受信信号が第1サンプリング部501から第2サンプリング部502に出力されてもよい。この場合、第2サンプリング部502は、受信信号を直接、第2時間間隔T2でサンプリングしたリサンプル値を生成する。第2サンプリング部502は、第2時間間隔T2とは異なる基本サンプリング周期(第1時間間隔T1)が経過するごとに1つのリサンプル値を送信信号生成部58に出力する。送信信号生成部58は、第2サンプリング部502から出力された各リサンプル値を補間して送信信号を生成し、送波器44に出力する。送波器44は、送信信号に基づいて擬似反射超音波を水中に送信する。
【0077】
図7(a)には、第1サンプリング部501から出力される受信サンプル値70が黒丸によって示されている。横軸は時間を示し、縦軸は信号の大きさを示す。実線で示された曲線は、サンプリング前の受信信号72を示す。受信信号72は、第1時間間隔T1でサンプリングされ、時系列で配列された受信サンプル値70が得られる。
【0078】
図7(b)には、第2サンプリング部502によって、第2時間間隔T2で受信信号72をサンプリングして得られるリサンプル値74が黒丸によって示されている。横軸は、受信信号72の開始を0とし、第2時間間隔T2を1単位とする仮想的な時間軸を示し、縦軸は信号の大きさを示す。図7(b)には、指定ドプラシフト周波数fsが、-0.5f1(-0.5/T1)である場合が示されている。この場合、(数1)に従い、第2時間間隔T2は、第1時間間隔T1の半分になる。
【0079】
図7(c)には、第1サンプリング部501から基本サンプリング周期T1で出力される受信サンプル値70が白丸によって示されている。また、第2サンプリング部502から基本サンプリング周期T1で出力されるリサンプル値74が黒丸によって示されている。破線で示された曲線は受信信号72を示し、実線で示された曲線は、リサンプル値74を補間することで得られる送信信号76を示す。このように、第2サンプリング部502からは、受信信号72に対してドプラシフト周波数だけ周波数が変化した送信信号76が出力される。
【0080】
本実施形態では、第1サンプリング部501がサンプル値を出力する周期、および第2サンプリング部502がリサンプル値を出力する周期は等しく、基本サンプリング周期T1である。送信信号のドプラシフト周波数は、第2時間間隔T2を調整することで調整される。第2時間間隔T2を調整する処理は、例えば、時間的に連続なアナログ信号を一旦メモリに記憶させた上で、時系列順に信号をサンプリングするときの仮想時間上の時間間隔を調整することで行われる。したがって、送信信号を生成する際に、リサンプル値を再生するためのサンプリング周期を調整する必要がなく、リサンプル値を再生するためのサンプリング周期は基本サンプリング周期T1でよい。そのため、試験用音響模擬装置が送信する擬似反射超音波の周波数の調整が容易となる。
【0081】
このように、本実施形態に係る試験用音響模擬装置は、水中を伝搬する超音波を受信し受信信号を出力する受波器42と、受波器42で受信された超音波に対する擬似反射超音波を水中に送信する送波器44と、受信信号を第1時間間隔でサンプリングし、サンプル値を第1時間間隔で順次出力する第1サンプリング部501と、受信信号を第1時間間隔とは異なる第2時間間隔でサンプリングし、サンプル値を第1時間間隔で順次出力する第2サンプリング部502と、第2サンプリング部502から順次出力されるサンプル値に対して補間処理を施して、送信信号を生成する送信信号生成部58と、を備え、送波器44は、送信信号に基づいて擬似反射超音波を水中に送信することを特徴とする。
【0082】
望ましくは、第1サンプリング部501、第2サンプリング部502、および送信信号生成部58は、船舶に搭載され、受波器42および送波器44は、船舶に曳航される曳航体26に搭載される。
【符号の説明】
【0083】
10-1~10-4,24 船舶、10-5 評価用船舶、12 目標物、14 地上通信回線、15 無線通信機、16 人工衛星、17 管理コンピュータ、18 超音波、20 反射超音波、22 擬似反射超音波、26 曳航体、28 信号処理部、30 GPS受信機、32 AIS受信機、34 衛星通信装置、36 海図表示装置、38 雑音解析部、40 水上センサ群、42 受波器、44 送波器、46 水中センサ群、50 サンプリング部、501 第1サンプリング部、502 第2サンプリング部、52 演算メモリ、54 基準信号メモリ、56 相関演算部、58 送信信号生成部、521~524 部分演算メモリ、541~544 部分基準メモリ、561~564 部分演算部、70 受信サンプル値、72 受信信号、74 リサンプル値、76 送信信号、100 船上装置、102 曳航部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7