(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】アルケニルリン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 9/40 20060101AFI20240920BHJP
C07F 9/53 20060101ALI20240920BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C07F9/40 Z
C07F9/53
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021510248
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2020043948
(87)【国際公開番号】W WO2021106982
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2019214698
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157603
【氏名又は名称】丸善石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 勇太
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-026655(JP,A)
【文献】特開2004-043492(JP,A)
【文献】特開2004-075688(JP,A)
【文献】特開2007-063168(JP,A)
【文献】特許第5388856(JP,B2)
【文献】特開2005-232067(JP,A)
【文献】特開2002-179691(JP,A)
【文献】特開2012-229211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/40
C07F 9/53
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(一般式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアリールオキシ基を示す。また、R
1およびR
2は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
で表されるリン化合物と、
下記一般式(2):
【化2】
(一般式(2)中、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアリールオキシ基、または置換もしくは非置換のシリル基を示す。)
で表されるアルキニル化合物とを、遷移金属錯体およびルイス酸の存在下で反応させて、
下記一般式(3):
【化3】
(一般式(3)中、R
1およびR
2は、一般式(1)中のR
1およびR
2と同義であり、R
3およびR
4は、一般式(2)中のR
3およびR
4と同義である。)
で表されるアルケニルリン化合物を製造する方法
であって、
前記遷移金属錯体が、ニッケルとホスフィン類とのゼロ価ニッケル錯体であり、
前記ルイス酸が、塩化亜鉛、臭化亜鉛および塩化鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種である、アルケニルリン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記ホスフィン類が、芳香族置換基を有するホスフィンである、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)および(3)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、炭素数が1~10の、置換もしくは非置換のアルコキシ基または置換もしくは非置換のアリール基である、請求項1
または2に記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(2)および(3)中、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、炭素数が1~10の、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアラルキル基である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応が、20~60℃で行われる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケニルリン化合物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、遷移金属錯体を用いて、ヒドロホスホリル化反応によってアルケニルリン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機リン化合物は、例えば、難燃剤、可塑剤、殺虫剤、医農薬、金属錯体の配位子等の様々な製品に幅広く使用されている化学物質である。近年、有機リン化合物は、機能性材料として金属表面処理剤、及び難燃性樹脂等の構成材料や電子材料分野においても、工業的に特に注目されている。
【0003】
有機リン化合物の中でも、ホスホン酸誘導体は、上記の様々な化学物質の有用な前駆体物質であるため、従来から様々な製造方法が検討されてきた。例えば、触媒を用いて、ホスホン酸のP(O)-H結合のアルキン類への付加反応(以下、ヒドロホスホリル化反応)によって、ホスホン酸誘導体を製造することが行われてきた。例えば、特許文献1では、あらかじめ一部を加水分解したホスホン酸ジエステル化合物を原料として用いたホスホン酸誘導体を製造することが提案されている。また、非特許文献1では、様々なゼロ価ニッケル触媒を用いてホスホン酸誘導体を製造することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. AM. CHEM. SOC. 2004, 126, 5080-5081
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の反応条件では、前処理として加水分解反応を行わなければならず一工程追加が必要であったり、反応温度も低温で実施しなければならない一方で大量の反応熱が生成し、大量に生産するためには温度制御が困難であったりという課題が存在した。また、ヒドロホスホリル化反応に用いる触媒は高価、不安定、発火性、悪臭があり、安全で安価な触媒が望まれていた。一方、非特許文献1では安価なトリフェニルホスフィンを用いたニッケル錯体でヒドロホスホリル化反応が実施されているが、反応性が低く、大量の触媒を使用しても低い収率でしかホスホン酸誘導体を得ることができなかった。さらに、ホスフィン化合物やニッケル化合物は工業的に入手が困難なものが多く、原料の選択の幅が狭いという問題もあった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、工業的原料として入手が容易であって空気中で安定かつ安価な二価のニッケル化合物と、空気中で安定かつ安価な芳香族置換基を有するホスフィンとを用いて、反応系中で触媒を調整し、ヒドロホスホリル化反応を室温~微加熱で効率的に進行できるアルケニルリン化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のリン化合物と、特定のアルキニル化合物とを、遷移金属錯体およびルイス酸の存在下でヒドロホスホリル化反応を行うことで、アルケニルリン化合物を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 下記一般式(1):
【化1】
(一般式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアリールオキシ基を示す。また、R
1およびR
2は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
で表されるリン化合物と、
下記一般式(2):
【化2】
(一般式(2)中、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアリールオキシ基、または置換もしくは非置換のシリル基を示す。)
で表されるアルキニル化合物とを、遷移金属錯体およびルイス酸の存在下で反応させて、
下記一般式(3):
【化3】
(一般式(3)中、R
1およびR
2は、一般式(1)中のR
1およびR
2と同義であり、R
3およびR
4は、一般式(2)中のR
3およびR
4と同義である。)
で表されるアルケニルリン化合物を製造する方法。
[2] 前記遷移金属錯体が、ニッケルの錯体である、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記遷移金属錯体が、ニッケルとホスフィン類とのゼロ価ニッケル錯体である、[2]に記載の製造方法。
[4] 前記ホスフィン類が、芳香族置換基を有するホスフィンである、[3]に記載の製造方法。
[5] 前記ルイス酸が、金属化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記金属化合物が、塩化亜鉛、臭化亜鉛、および塩化鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種である、[5]に記載の製造方法。
[7] 一般式(1)および(3)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、炭素数が1~10の、置換もしくは非置換のアルコキシ基または置換もしくは非置換のアリール基である、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 一般式(2)および(3)中、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、炭素数が1~10の、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアラルキル基である、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 前記反応が、20~60℃で行われる、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定のリン化合物と、特定のアルキニル化合物とを、遷移金属錯体およびルイス酸の存在下で、ヒドロホスホリル化反応を行うことで、アルケニルリン化合物を効率的に製造することができる。特に室温以上の加熱温度条件下において、ヒドロホスホリル化反応を効率良く行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[アルケニルリン化合物の製造方法]
(ヒドロホスホリル化反応)
本発明のアルケニルリン化合物の製造方法は、原料物質であるリン化合物とアルキニル化合物とを、触媒として遷移金属錯体およびルイス酸の存在下で、ヒドロホスホリル化反応によって、アルケニルリン化合物を製造するものである。本発明のアルケニルリン化合物の製造方法によれば、室温以上の加熱温度条件下において、アルケニルリン化合物を効率良く合成することができる。
【0012】
(リン化合物)
ヒドロホスホリル化反応の原料物質としては、下記一般式(1)で表されるリン化合物を用いることができる。
【化4】
(一般式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアリールオキシ基を示す。また、R
1およびR
2は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
【0013】
一般式(1)中、R1およびR2のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、アリールオキシ基の炭素数は、1~10であることが好ましい。なお、上記炭素数に置換基の炭素数は含まれない。例えば、R1およびR2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、フェノキシ基等のアリールオキシ基が挙げられる。これらの中でも、R1およびR2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルコキシ基であることが好ましい。
【0014】
一般式(1)中、R1およびR2が有してもよい置換基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、複素環基、アルキリデン基、シリル基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、およびオキソ基等が挙げられる。また、置換基に含まれる炭素数は好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1~3である。
【0015】
(アルキニル化合物)
ヒドロホスホリル化反応の原料物質としては、下記一般式(2)で表されるアルキニル化合物を用いることができる。
【化5】
(一般式(2)中、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアリールオキシ基、または置換もしくは非置換のシリル基を示す。)
【0016】
一般式(2)中、R3およびR4のアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基の炭素数は、1~10であることが好ましい。なお、上記炭素数に置換基の炭素数は含まれない。例えば、R3およびR4としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基が挙げられる。これらの中でも、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素数が1~10の、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアラルキル基であることが好ましい。
【0017】
一般式(2)中、R3およびR4が有してもよい置換基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、複素環基、アルキリデン基、シリル基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、およびオキソ基等が挙げられる。また、置換基に含まれる炭素数は好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1~3である。
【0018】
ヒドロホスホリル化反応の原料物質の一般式(2)で表されるリン化合物と一般式(3)で表されるアルキニル化合物の物質量比は、好ましくは10:1~0.1:1であり、より好ましくは3:1~0.7:1であり、さらに好ましくは1.1:1~0.9:1である。
【0019】
(遷移金属錯体(触媒))
ヒドロホスホリル化反応に用いる触媒としては、遷移金属錯体を用いることができる。遷移金属錯体としては、ニッケルの錯体が挙げられ、ゼロ価のニッケル錯体が好ましい。
【0020】
上記のニッケル錯体は、ニッケルとホスフィン類とのニッケル錯体が好ましい。ホスフィン類としては、芳香族置換基を有するホスフィンが好ましい。芳香族置換基を有するホスフィンとしては、例えば、トリフェニルホスフィン、1,2-ジフェニルホスフィノエタン、1,3-ジフェニルホスフィノプロパン、1,4-ジフェニルホスフィノブタン、ジフェニルメチルホスフィン、トリ(2-メチルフェニル)ホスフィン、トリ(3-メチルフェニル)ホスフィン、トリ(4-メチルフェニル)ホスフィン等が挙げられる。芳香族置換基を有するホスフィンは、安価であり、また、空気中での取り扱いが容易なため、製造コストを低減し、製造効率を向上させることができる。
【0021】
(ルイス酸)
ヒドロホスホリル化反応に用いるルイス酸としては、金属化合物を用いることができる。金属化合物としては、塩化亜鉛、臭化亜鉛、塩化鉄(II)等が挙げられる。ヒドロホスホリル化反応にルイス酸を添加することで、室温付近で触媒活性が発現し、反応速度を向上させ、原料のリン化合物のアルケニルリン化合物への転化率を向上させることができる。
【0022】
(反応条件)
ヒドロホスホリル化反応における遷移金属錯体(触媒)の使用量は、反応が十分に進行すれば特に限定されないが、原料物質であるリン化合物1molに対して、好ましくは0.01~10molであり、より好ましく~0.1~5.0molであり、さらに好ましくは0.5~2.0molである。
【0023】
ヒドロホスホリル化反応におけるルイス酸の使用量は、反応が十分に進行すれば特に限定されないが、遷移金属錯体1molに対して、好ましくは1~30molであり、より好ましく2~10molであり、さらに好ましくは3~5molである。ルイス酸の使用量が上記範囲であれば、ヒドロホスホリル化反応において触媒の活性温度が上昇し、反応速度が大きく向上するため、原料のリン化合物のアルケニルリン化合物への転化率を向上させることができる。
【0024】
ヒドロホスホリル化反応の反応温度は、特に限定されないが、反応効率や反応速度、副生成物を考慮して、好ましくは10~70℃であり、より好ましくは20~55℃であり、さらに好ましくは30~45℃である。反応温度が上記範囲であれば、ヒドロホスホリル化反応の反応速度を向上させ、原料のリン化合物のアルケニルリン化合物への転化率を向上させることができる。
【0025】
ヒドロホスホリル化反応の反応時間は、特に限定されないが、反応効率や反応速度、副生成物を考慮して、好ましくは5分~48時間であり、より好ましくは30分~24時間であり、さらに好ましくは1~8時間である。反応時間が上記範囲であれば、ヒドロホスホリル化反応を十分に進行させ、原料のリン化合物のアルケニルリン化合物への転化率を向上させることができる。
【0026】
ヒドロホスホリル化反応においては、有機溶媒下および無溶媒下のいずれで行ってもよいが、無溶媒下で行うことが好ましい。無溶媒法を用い、穏やかな加熱を行うことでヒドロホスホリル化反応を進行させることができる。無溶媒であることで、反応終了後の溶媒除去工程を省略し、製造コストを低減することができる。なお、有機溶媒は、特に限定されないが、例えば、アルコール類、エーテル類、炭化水素、ケトン類、エステル類、芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0027】
ヒドロホスホリル化反応は、反応効率や反応速度、副生成物を考慮して、不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等を用いることが好ましい。
【0028】
ヒドロホスホリル化反応によるリン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は、好ましくは40%以上であり、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは60%以上であり、さらにより好ましくは80%以上である。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率が上記数値以上であれば、原料を効率的に利用でき、製造コストを低減し、製造効率を向上させることができる。
【0029】
(アルケニルリン化合物)
本発明においては、ヒドロホスホリル化反応により、下記一般式(3)で表されるアルケニルリン化合物を得ることができる。
【化6】
(一般式(3)中、R
5およびR
6は、一般式(2)中のR
5およびR
6と同義であり、R
7およびR
8は、一般式(2)中のR
7およびR
8と同義である。)
【実施例】
【0030】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
<アルケニルリン化合物の合成>
[実施例1]
ガラス製シュレンクチューブにビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド1.35mmol、亜鉛末1.35mmol、トリフェニルホスフィン2.7mmolをはかりとり容器内を窒素置換した。ここにアセトン1.5mLを加え、40℃で3時間加熱攪拌し、橙色の沈殿物を得た。フラスコ内を減圧し、沈殿物からアセトンを留去した後、リン化合物((MeO)2P(O)H)90mol、塩化亜鉛2.7mmolを加え、アセチレンガス雰囲気下、40℃で4時間攪拌したところ、アルケニル化合物(MeO)2P(O)CH=CH2を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は81%であった。
【0032】
[実施例2]
反応時間を6時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、アルケニルリン化合物((MeO)2P(O)CH=CH2)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は95%であった。
【0033】
[実施例3]
ルイス酸として塩化亜鉛5.4mmolを用いた以外は、実施例1と同様にして、アルケニルリン化合物((MeO)2P(O)CH=CH2)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は98%であった。
【0034】
[実施例4]
ルイス酸としてゼロ価ニッケル錯体調整時の副生物として析出する塩化亜鉛1.35mmolのみを用いて、反応時間を18時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、アルケニルリン化合物((MeO)2P(O)CH=CH2)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は54%であった。
【0035】
[実施例5]
反応温度を50℃に変更した以外は、実施例4と同様にして、アルケニルリン化合物((MeO)2P(O)CH=CH2)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は82%であった。
【0036】
[比較例1]
ガラス製シュレンクチューブに1,5-ビス(シクロオクタジエン)ニッケル(0)1.35mmol、トリフェニルホスフィン5.4mmol、アセトン1.5mLを加え40℃で3時間加熱攪拌し、橙色の沈殿物を得た。フラスコ内を減圧し、沈殿物からアセトンを留去した後、リン化合物((MeO)2P(O)H)90molを加え、アセチレンガス雰囲気下、40℃で4時間攪拌したところ、アルケニル化合物(MeO)2P(O)CH=CH2を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は27%であった。
【0037】
[比較例2]
比較例1の反応時間を18時間に変更したところ、リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は27%であった。
【0038】
上記の実施例1~5および比較例1の結果の一覧を表1に示した。
【表1】
【0039】
[実施例6]
ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリドの代わりに塩化ニッケル1.35mmol、トリフェニルホスフィンの使用量を5.4mmolとした以外は、実施例1と同様にして、アルケニルリン化合物((MeO)2P(O)CH=CH2)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は94%であった。
【0040】
[実施例7]
実施例6において、トリフェニルホスフィンの代わりに1,4-ジフェニルホスフィノブタン(dppb)2.70mmolを用いた以外は同様にして、アルケニルリン化合物((MeO)2P(O)CH=CH2)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は64%であった。
【0041】
[実施例8]
実施例6のトリフェニルホスフィンの代わりにジフェニルメチルホスフィン5.40mmolを用いた以外は同様にして、アルケニルリン化合物((MeO)2P(O)CH=CH2)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は40%であった。
【0042】
[実施例9]
ルイス酸として塩化鉄(II)(FeCl2)4.05mmolを用いた以外は、実施例6と同様にして、アルケニルリン化合物((MeO)2P(O)CH=CH2)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は41%であった。
【0043】
[実施例10]
ルイス酸として臭化亜鉛(ZnBr2)4.05mmolを用いた以外は、実施例6と同様にして、アルケニルリン化合物((MeO)2P(O)CH=CH2)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は51%であった。
【0044】
上記の実施例6~10の結果の一覧を表2に示した。
【表2】
【0045】
[実施例11]
リン化合物としてジフェニルホスフィンオキシド(Ph2P(O)H)90mmol、テトラヒドロフラン(THF)54mLを用いた以外は、実施例6と同様にして、アルケニルリン化合物(Ph2P(O)CH=CH2)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は100%であった。
【0046】
[実施例12]
ガラス製シュレンクチューブに塩化ニッケル0.225mmol、亜鉛末0.225mmol、メチルジフェニルホスフィン0.9mmolをはかりとり容器内を窒素置換した。ここにアセトン1.5mLを加え、40℃で3時間加熱攪拌し、橙色の沈殿物を得た。フラスコ内を減圧し、沈殿物からアセトンを留去した後、リン化合物((MeO)2P(O)H)15mol、塩化亜鉛0.45mmol、1-オクチン15mmolを加え40℃で4時間攪拌したところ、アルケニル化合物(MeO)2P(O)C(C6H13)=CH2と(MeO)2P(O)CH=CHC6H13の混合物)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は97%であった。
【0047】
[実施例13]
リン化合物としてジフェニルホスフィンオキシド(Ph2P(O)H)15mmol、ホスフィンとしてトリフェニルホスフィン0.9mmol、溶媒としてTHF6mLを用いた以外は実施例12と同様にして、アルケニル化合物(Ph2P(O)C(C6H13)=CH2とPh2P(O)CH=CHC6H13の混合物)を得た。リン化合物からアルケニル化合物の転化率は100%であった。
【0048】
[比較例3]
ガラス製シュレンクチューブに窒素雰囲気下、ビス(1,5-シクロペンタジエン)ニッケル0.225mmol、トリフェニルホスフィン0.9mmolをはかりとり、THF1mLを加え室温で3時間攪拌し、橙色の沈殿物を得た。この沈殿物をノルマルヘキサン1mLで三回洗浄、減圧乾燥し、触媒を調整した。この触媒全量、リン化合物としてジフェニルホスフィンオキシド(Ph2P(O)H)15mmol、1-オクチン15mmol、THF6mLを加え40℃で4時間攪拌したところ、アルケニル化合物(Ph2P(O)C(C6H13)=CH2とPh2P(O)CH=CHC6H13の混合物)を得た。リン化合物からアルケニルリン化合物への転化率は15%であった。
【0049】
上記の実施例11~13および比較例3の結果の一覧を表3に示した。
【表3】